【実施例1】
【0028】
本発明の実施の形態に係る変速機1は、フロントエンジン・リヤドライブ(FR)式 の車両に搭載されるFR車用の手動変速機として構成されており、
図1に示すように、 入力軸2と、入力軸2に平行に配置されたカウンタ軸4と、入力軸2に同軸状に配置さ れた出力軸6と、入力軸2とカウンタ軸4とを接続するリダクションギヤ機構RGMと 、入力軸2またはカウンタ軸4と出力軸6とを接続する変速ギヤ機構TMと、チェンジ レバー96と変速ギヤ機構TMとを接続する変速操作機構50と、これらを収容すると 共に潤滑油を貯留可能に構成された変速機ケース8と、変速機ケース8の内圧を大気開 放するためのブリーザ機構20と、を備えている。
【0029】
なお、本実施の形態では、説明の便宜上、変速機1の長手方向(
図1の上下方向)に おける入力軸2が配置された側(
図1の下側)を「前側」ないし「前方」として規定し 、出力軸6のうち入力軸2内に挿入された端部とは反対側の端部が配置された側(
図1 の上側)を「後側」ないし「後方」として規定する。また、変速機1が車載された状態 における上側(
図1の左側)を「上側」ないし「上方」として規定し、変速機1が車載 された状態における下側(
図1の右側)を「下側」ないし「下方」として規定する。
【0030】
入力軸2は、クラッチ(図示せず)を介してエンジン(図示せず)の動力が入力され るシャフトであり、
図1に示すように、変速機ケース8のうち後述するケース本体10 にボールベアリングB1を介して回転可能に支持されている。入力軸2の後端部分(出 力軸6が挿入される側の端部)には、
図1に示すように、リダクションドライブギヤR Gが一体形成されている。
【0031】
カウンタ軸4は、
図1に示すように、前端部がケース本体10にローラベアリングR B1を介して回転可能に支持さていると共に、後端部が変速機ケース8のうち後述する エクステンションケース12に締結されたアダプタープレート14にローラベアリング RB2を介して回転可能に支持されている。
【0032】
また、カウンタ軸4の前端部には、
図1に示すように、リダクションドライブギヤR Gと噛み合うリダクションドリブンギヤRG’が一体形成されている。リダクションド リブンギヤRG’のギヤ径は、リダクションドライブギヤRGのギヤ径よりも大きく形 成されている。これにより、入力軸2の回転数が減速されてカウンタ軸4に伝達される 。リダクションドリブンギヤRG’とリダクションドライブギヤRGとによって、リダ クションギヤ機構RGMが構成される。
【0033】
出力軸6は、動力を出力するためのシャフトであり、
図1に示すように、前端部が入 力軸2の内部に挿入されて、パイロットベアリングPBを介して入力軸2に回転可能に 支持されると共に、中間部がアダプタープレート14にボールベアリングB2を介して 回転可能に支持されている。
【0034】
変速ギヤ機構TMは、
図1に示すように、カウンタ軸4に設けられた複数の駆動ギヤ G1,G2,G3,G5,G6と、当該駆動ギヤG1,G2,G3,G5,G6と噛み 合うと共に出力軸6に設けられた複数の被駆動ギヤG1’,G2’,G3’,G5’, G6’と、駆動ギヤG1,G2,G3,G5,G6または被駆動ギヤG1’,G2’, G3’,G5’,G6’のうち、カウンタ軸4または出力軸6と相対回転可能に設けら れたギヤ(遊転ギヤ)をカウンタ軸4または出力軸6に選択的に固定する複数のシンク ロ機構S1,S2,S3と、から構成されている。
【0035】
駆動ギヤG1,G2,G3,G5,G6は、
図1に示すように、カウンタ軸4上にお いて前側(リダクションドリブンギヤRG’側であって
図1の下側)から、3速駆動ギ ヤG3、6速駆動ギヤG6、5速駆動ギヤG5、2速駆動ギヤG2および1速駆動ギヤ G1の順に配置されている。なお、3速駆動ギヤG3、2速駆動ギヤG2および1速駆 動ギヤG1は、カウンタ軸4にスプライン嵌合によって固定あるいは一体形成された固 定ギヤとして構成されており、5速駆動ギヤG5および6速駆動ギヤG6は、カウンタ 軸4に対して相対回転可能に配置された遊転ギヤとして構成されている。
【0036】
被駆動ギヤG1’,G2’,G3’,G5’,G6’は、出力軸6上において前(リダクションドライブギヤRG側であって
図1の下側)から、3速被駆動ギヤG3’、6速被駆動ギヤG6’、5速被駆動ギヤG5’,2速被駆動ギヤG2’および1速被駆動ギヤG1’の順に配置されている。なお、3速被駆動ギヤG3’,2速被駆動ギヤG2’および1速被駆動ギヤG1’は、出力軸6に対して相対回転可能に配置された遊転ギヤとして構成されており、5速被駆動ギヤG5’および6速被駆動ギヤG6’は、出力軸6に一体形成された固定ギヤとして構成されている。
【0037】
シンクロ機構S1,S2,S3は、詳細な説明は省略するが、カウンタ軸4や出力軸6にスプライン嵌合などによって固定されたシンクロハブ(図示せず)と、後述するシフトフォーク52a,52b,52cが係合されると共にシンクロハブに対して一体回転可能かつ軸方向(
図1の上下方向)に移動可能なように構成されカップリングスリーブ(図示せず)と、シンクロナイザリング(図示せず)と、クラッチギヤ(図示せず)と、から構成されている。
【0038】
シンクロ機構S1は、出力軸6上の1速被駆動ギヤG1’と2速被駆動ギヤG2’との間に配置されており、シンクロ機構S2は、出力軸6上のリダクションドライブギヤRGと3速駆動ギヤG3との間に配置されており、シンクロ機構S3は、カウンタ軸4上の5速駆動ギヤG5と6速駆動ギヤG6との間に配置されている。
【0039】
シンクロ機構S1によって1速被駆動ギヤG1’あるいは2速被駆動ギヤG2’が出力軸6に固定されることにより、入力軸2からリダクションギヤ機構RGMを介してカウンタ軸4に伝達された動力が1速あるいは2速に相当するトルクに変換されて出力軸6に伝達される。同様に、シンクロ機構S2によって3速被駆動ギヤG3’が出力軸6に固定されることにより、入力軸2からリダクションギヤ機構RGMを介してカウンタ軸4に伝達された動力が3速に相当するトルクに変換されて出力軸6に伝達され、シンクロ機構S3によって5速駆動ギヤG5あるいは6速駆動ギヤG6がカウンタ軸4に固定されることにより、入力軸2からリダクションギヤ機構RGMを介してカウンタ軸4に伝達された動力が5速あるいは6速に相当するトルクに変換されて出力軸6に伝達される。なお、シンクロ機構S2は、リダクションドライブギヤRG(入力軸2)を出力軸6に固定、即ち、入力軸2と出力軸6とを直結することにより、エンジンからの動力がそのまま出力軸6に伝達される(4速に相当)。
【0040】
変速操作機構50は、
図2に示すように、シフトフォーク52a,52b,52c,52dが固定されたフォークロッド54a,54b,54c,54dと、フォークロッド54a,54b,54c,54dのいずれかに選択的に係合可能なように当該フォークロッド54a,54b,54c,54dに平行配置されたコントロールロッド56と、当該コントロールロッド56に係合されたシフトレバー部材62と、コントロールロッド56に係合されたセレクトレバー部材64と、から構成されている。本実施の形態では、説明の便宜上、
図2の上側を「前側」ないし「前方」として規定し、
図2の下側を「後側」ないし「後方」として規定する。
【0041】
シフトフォーク52a,52b,52cは、それぞれシンクロ機構S1,S2,S3(
図1参照)のカップリングスリーブ(図示せず)に係合されている。
【0042】
コントロールロッド56には、
図2に示すように、当該コントロールロッド56と一体回転可能なようにコントロールレバー56aが固定されており、変速機ケース8(
図1参照)に軸方向移動可能かつ回転可能に支持されている。コントロールレバー56aは、コントロールロッド56が回転されることによりフォークロッド54a,54b,54c,54dに設けられたフォークブラケット(図示せず)のいずれかと選択的に係合可能なように構成されている。
【0043】
シフトレバー部材62は、
図2に示すように、長尺状に形成されたレバー部62aと、当該レバー部62aの一端に固定されたロッド部62bと、当該ロッド部62bに一体回転可能に固定されたアーム部62cと、を備えている。また、セレクトレバー部材64は、長尺状に形成されたレバー部64aと、当該レバー部64aの一端に固定されたロッド部64bと、当該ロッド部64bに一体回転可能に固定されたアーム部64cと、を備えている。
【0044】
シフトレバー部材62およびセレクトレバー部材64は、
図3に示すように、カバー部材16に揺動(回転)可能に支持される。当該カバー部材16を変速機ケース8のうち後述するエクステンションケース12に締結することによって、シフトレバー部材62およびセレクトレバー部材64がアーム部62c,64cを介してコントロールロッド56に係合される。
【0045】
なお、レバー部62a,64aの他端には、
図1に示すように、シフトケーブル92およびセレクトケーブル94がそれぞれ接続されており、当該シフトケーブル92およびセレクトケーブル94を介してシフトレバー部材62およびセレクトレバー部材64がチェンジレバー96に接続されている。これにより、チェンジレバー96をセレクト方向(
図1の紙面に垂直な方向)に揺動操作(「セレクト操作」ともいう。)することによって、セレクトレバー部材64が揺動(アーム部64cが揺動)され、当該セレクトレバー部材64の揺動(アーム部64cの揺動)に伴って、コントロールロッド56が回転される。この結果、コントロールレバー56aがフォークロッド54a,54b,54c,54dのいずれかに係合されて、いずれかのシフトフォーク52a,52b,52c,52dが選択される。
【0046】
当該状態で、チェンジレバー96をシフト方向(
図1の上下方向)に揺動操作(「シフト操作」ともいう。)することによって、シフトレバー部材62が揺動(アーム部62cが揺動)され、当該シフトレバー部材62の揺動(アーム部62cの揺動)に伴って、コントロールロッド56が軸線方向に移動される。この結果、選択されたシフトフォーク52a,52b,52c,52dが対応するシンクロ機構S1,S2,S3のカップリングスリーブ(図示せず)を軸線方向に移動して所望のギヤ(1速被駆動ギヤG1’、2速被駆動ギヤG2’、3速被駆動ギヤG3’、リダクションドライブギヤRG(4速駆動ギヤに相当)、5速駆動ギヤG5、6速駆動ギヤG6)が出力軸6やカウンタ軸4に固定されて所望のギヤ比が確立される。
【0047】
変速機ケース8は、
図1および
図3に示すように、ケース本体10と、ケース本体10に図示しないボルトなどで締結されるエクステンションケース12と、から構成されている。ケース本体10は、
図1に示すように、長手方向(
図1の上下方向)の中間部に隔壁10aを有し、当該隔壁10aを挟んで長手方向(
図1の上下方向)の両側が両端において開口された凹部10b,10cとして形成された略鼓形に構成されている。ケース本体10は、本発明における「第1ケース」に対応し、エクステンションケース12は、本発明における「第2ケース」に対応する実施構成の一例である。
【0048】
ケース本体10の一方の凹部10bは、
図1に示すように、入力軸2に設置される図示しないクラッチを収容するためのクラッチ収容空間を構成する。一方、ケース本体10の他方の凹部10cは、後述するエクステンションケース12の一方の凹部12bと共に入力軸2やカウンタ軸4、出力軸6、変速ギヤ機構TM、変速操作機構50の一部(フォークロッド54a,54b,54c,54dや、シフトフォーク52a,52b,52c,52d、コントロールロッド56など)を収容するための変速機構収容空間を構成する。当該変速機収容空間内には、上述した入力軸2やカウンタ軸4、出力軸6、変速ギヤ機構TM、リダクションギヤ機構RGM、ボールベアリングB1,B2、ローラベアリングRB1,RB2、パイロットベアリングPB、ニードルベアリングNB、変速操作機構50などの変速機1の構成要素を潤滑するための潤滑油が貯留される。
【0049】
また、ケース本体10には、
図7に示すように、ブリーザ機構20を構成するブリーザ排出通路22およびブリーザ接続通路24aが形成されている。ブリーザ排出通路22は、一端がブリーザ接続通路24aに連通接続されていると共に、他端が排出口22aを介して外部に連通(開口)されている。
【0050】
当該ブリーザ排出通路22には、ブリーザパイプ80が圧入によって取り付けられる。なお、ブリーザパイプ80は、
図6に示すように、大気への開口を有する先端部が変速機1の前側、即ち、クラッチ収容空間側(
図6の上側)を向くようにケース本体10に取り付けられる。
【0051】
ブリーザ接続通路24aは、
図4に示すように、ケース本体10を長手方向に沿う方向の一方側(エクステンションケース12が接続される側、
図1の上側)から見た場合に、ケース本体10の右上隅部に対応する位置に設けられている。ブリーザ接続通路24aは、
図4および
図8に示すように、ケース本体10のエクステンションケース12(
図3参照)が締結されるフランジ11側が開口され、当該フランジ11側から前方(クラッチ収容空間側)に向かって延在する有底孔として構成されており、鋳抜きによって成型されている。当該ブリーザ接続通路24aの先端部(クラッチ収容空間側の端部、
図6の上側の端部)にブリーザ排出通路22が連通接続されている。なお、ブリーザ排出通路22は、ブリーザ接続通路24aに対して垂直に接続されている。
【0052】
エクステンションケース12は、
図1に示すように、長手方向(
図1の上下方向)の中間部に隔壁12aを有し、当該隔壁12aを挟んで長手方向(
図1の上下方向)の両側が両端において開口された凹部12b,12cとして形成された略鼓形に構成されている。
【0053】
エクステンションケース12の一方の凹部12bは、
図1に示すように、ケース本体10の凹部10cと共に入力軸2やカウンタ軸4、出力軸6、変速ギヤ機構TM、変速操作機構50の一部(フォークロッド54a,54b,54c,54dや、シフトフォーク52a,52b,52c,52d、コントロールロッド56など)を収容するための変速機構収容空間を構成する。また、エクステンションケース12の外周面には、
図3に示すように、内側に向かって凹み状に形成された凹部42が形成されている。当該凹部42と変速機構収容空間とは、
図6に示すように、隔壁12aによって仕切られている。換言すれば、凹部42は、隔壁12aによって変速機構収容空間から隔離されているとも言える。隔壁12aは、本発明における「仕切壁」に対応する実施構成の一例である。
【0054】
なお、凹部42は、隔壁12aに形成された連通開口12a’によって変速機構収容空間に連通されている(
図5および
図6参照)。当該凹部42には、
図3に示すように、コントロールロッド56の後端部(
図2の下側の端部)が突出されており、当該コントロールロッド56の後端部が収容される。連通開口12a’は、本発明における「連通部」に対応する実施構成の一例である。
【0055】
凹部42の開口端縁部には、
図3に示すように、締結面42aが形成されおり、当該締結面42aにシフトレバー部材62およびセレクトレバー部材64が取り付けられた状態のカバー部材16が締結される。これにより、シフトレバー部材62およびセレクトレバー部材64のうちロッド部62b,64bおよびアーム部62c,64cが凹部42内に収容される。即ち、凹部42とカバー部材16とによって、変速操作機構50(
図2参照)の一部、具体的には、コントロールロッド56の後端部(
図3参照)、ロッド部62b,64bおよびアーム部62c,64cが収容される操作機構収容空間が構成される。コントロールロッド56、ロッド部62b,64bおよびアーム部62c,64cは、本発明における「変速操作機構を構成する構成部品」に対応する実施構成の一例である。
【0056】
また、エクステンションケース12には、
図6に示すように、ブリーザ機構20を構成するブリーザ導入通路32およびブリーザ接続通路34aが形成されている。ブリーザ導入通路32は、一端が導入口32aを介して凹部42の上壁(凹部42を構成する上側の壁)に開口されており、当該導入口32aから上方に向かって延在して、他端がブリーザ接続通路34aに連通接続されている。即ち、ブリーザ導入通路32は、連通開口12a’が向く方向(
図5の紙面に垂直な方向)に対して直交する方向に延在するように構成されている(
図5参照)。
【0057】
ブリーザ接続通路34aは、
図5に示すように、エクステンションケース12を長手方向に沿う方向の一方側(ケース本体10が接続される側であって、
図1の下側)から見た場合に、エクステンションケース12の左上隅部に対応する位置に設けられている。ブリーザ接続通路34aは、
図5および
図9に示すように、エクステンションケース12のケース本体10(
図3参照)が締結されるフランジ13側が開口され、当該フランジ13側から後方(ケース本体10が接続される側とは反対側)へ向かって延在する孔として構成されており、鋳抜きによって成型されている。換言すれば、ブリーザ接続通路34aは、一端がブリーザ導入通路32に連通接続され、他端がフランジ13に開口された貫通孔として構成されているとも言える。なお、ブリーザ接続通路34aは、ブリーザ導入通路32に対して垂直に接続されている。
【0058】
当該位置にブリーザ接続通路34aが設けられていることにより、ケース本体10にエクステンションケース12が締結されると、ブリーザ接続通路24aとブリーザ接続通路34aとが連通接続される。即ち、ケース本体10にエクステンションケース12が締結されると、凹部42(操作機構収容空間)がブリーザ導入通路32、ブリーザ接続通路34a,24a、ブリーザ排出通路22およびブリーザパイプ80を介して大気に連通される。なお、ブリーザ導入通路32の導入口32aとブリーザ排出通路22の排出口22aとは、隔壁12aの連通開口12a’に関して互いに反対側となる位置に配置され、かつ、ブリーザ導入通路32からブリーザ接続通路34a,24aを経てブリーザ排出通路22までの通路がクランク状に構成されている。
【0059】
次に、こうして構成された変速機1の動作、特に、変速機1の作動に伴って上昇する変速機ケース8内部の圧力がブリーザ機構20によって大気圧状態に維持される際の動作について説明する。
【0060】
本発明の実施の形態に係る変速機1を搭載した車両が走行を開始すると、内燃機関(図示せず)などの原動機からの動力がクラッチ(図しせず)を介して入力軸2に入力される。入力軸2に入力された動力は、リダクションギヤ機構RGMを介してカウンタ軸4に伝達される。そして、カウンタ軸4に伝達された動力は、変速ギヤ機構TMを介して出力軸6に伝達され、当該出力軸6から車軸(図示せず)に接続された駆動軸(例えば、プロペラシャフトなど)に出力される。
【0061】
このとき、リダクションギヤ機構RGMを構成するリダクションドライブギヤRGやリダクションドリブンギヤRG’、あるいは、変速ギヤ機構TMを構成する駆動ギヤG1,G2,G3,G5,G6や被駆動ギヤG1’,G2’,G3’,G5’,G6’、シンクロ機構S1,S2,S3の回転に伴って、変速機ケース8の変速機構収容空間内に貯留された潤滑油が撹拌されるため、潤滑油の温度が上昇する。当該高温となった潤滑油により変速機構収容空間内の空気が加熱されて膨張し、当該変速機構収容空間内の圧力が上昇する。
【0062】
しかしながら、変速機構収容空間は、エクステンションケース12の隔壁12aに形成された連通開口12a’を介して操作機構収容空間(凹部42)に連通されており、かつ、当該操作機構収容空間(凹部42)が、ブリーザ導入通路32、ブリーザ接続通路34a,24a、ブリーザ排出通路22およびブリーザパイプ80を介して大気に連通されているため、変速機構収容空間内の圧力は大気圧状態に良好に維持される。
【0063】
ここで、操作機構収容空間(凹部42)と変速機構収容空間とは隔壁12aによって仕切られているため、撹拌された潤滑油がブリーザ導入通路32の導入口32aに直接的に流入することを抑制し得る。これにより、ブリージング(エア抜き)に際して潤滑油が変速機ケース8の外部に持ち出されることを抑制できる。
【0064】
また、ブリーザ導入通路32からブリーザ接続通路34a,24aを経てブリーザ排出通路22までのブリーザ通路はクランク状に構成されているため、ブリージング(エア抜き)の際にオイルミストを含む空気から油分を良好に分離することができる。これにより、潤滑油の変速機ケース8外部への持ち出しをより抑制することができる。
【0065】
なお、本発明の実施の形態に係る変速機1を搭載した車両が、変速機構収容空間内の潤滑油の油面を傾斜させるような走行、例えば、急発進や急加速走行、連続登坂走行などをした場合には、変速機構収容空間内から連通開口12a’を介して操作機構収容空間内に潤滑油が移動(流入)することが考えられるが、本実施の形態では、ブリージング(エア抜き)の際の空気の流れ方向が、当該潤滑油の移動方向(変速機1の前側から後側へ向かう方向)とは逆方向(変速機1の後側から前側に向かう方向)となるようにブリーザ導入通路32の導入口32aおよびブリーザ排出通路22の排出口22aが配置されているため、操作機構収容空間内に流入した潤滑油がブリーザ排出通路22側に向かうことを良好に抑制できる。
【0066】
即ち、操作機構収容空間内に流入する潤滑油には、変速機1の前側から後側へ向かう方向の力が作用しているため、操作機構収容空間内に流入した潤滑油が、ブリーザ導入通路32が開口された操作機構収容空間よりも前側に配置されたブリーザ排出通路22側に向かい難い構造となっている。なお、ブリーザ導入通路32の導入口32aとブリーザ排出通路22の排出口22aとが、隔壁12aの連通開口12a’に関して互いに反対側となる位置に配置されて導入口32aから排出口22aまでの距離が長く確保されているため、潤滑油の変速機ケース8外部への持ち出しをより一層抑制し得る。また、ブリーザ導入通路32が、連通開口12a’が向く方向に対して直交する方向に延在するように構成されているため、操作機構収容空間内に流入した潤滑油がブリーザ導入通路32に流入し難い。
【0067】
しかも、ブリーザ導入通路32が操作機構収容空間(凹部42)の上壁(操作機構収容空間(凹部42)を構成する上側の壁)に開口され、かつ、ブリーザ接続通路24a,34aがケース本体10およびエクステンションケース12の上部に設けられているため、操作機構収容空間内に流入した潤滑油がブリーザ導入通路32に流入し難い。これにより、潤滑油の変速機ケース8外部への持ち出しをより一層抑制し得る。
【実施例2】
【0068】
次に、第2実施例のブリーザ機構120を搭載する変速機100について説明する。第2実施例の変速機100は、第1実施例の変速機1に対してブリーザ機構20をブリーザ機構120に置き換えたものである。より具体的には、ケース本体10およびエクステンションケース12に亘ってブリーザ機構20を設ける構成に替えてエクステンションケース112のみにブリーザ機構120を設ける構成としている。重複する説明を回避するため、第2実施例の変速機100の構成のうち第1実施例の変速機1の構成に相当する構成については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0069】
第2実施例の変速機ケース108のケース本体110は、ブリーザ機構120を構成する通路が設けられていない点を除いて、基本的には第1実施例の変速機1の変速機ケース8のケース本体10と同一の構成を有している。即ち、ケース本体110は、
図10に示すように、長手方向(
図10の上下方向)の中間部に隔壁110aを有し、当該隔壁110aを挟んで長手方向(
図10の上下方向)の両側が両端において開口された凹部110b,110cとして形成された略鼓形に構成されている。ケース本体110は、本発明における「第1ケース」に対応する実施構成の一例である。
【0070】
一方の凹部110bは、
図10に示すように、入力軸2に設置される図示しないクラッチを収容するためのクラッチ収容空間を構成し、他方の凹部110cは、後述するエクステンションケース112の一方の拡径凹部112bと共に変速機構収容空間を構成する。当該変速機収容空間内には潤滑油が貯留される。
【0071】
一方、第2実施例の変速機ケース108のエクステンションケース112は、
図10に示すように、長手方向(
図10の上下方向)の両側が開口された筒状体として構成されている。エクステンションケース112の内部には、他方(後方、
図10の上側)の開口側から一方(前方、
図10の下側)の開口側に向かって内径が漸次拡径された拡径凹部112bが設けられている。当該拡径凹部112bは、上述したケース本体110の凹部110cと共に変速機構収容空間を構成する。エクステンションケース112は、本発明における「第2ケース」に対応する実施構成の一例である。
【0072】
また、エクステンションケース112の外周面には、
図11および
図12に示すように、内側に向かって凹み状に形成された凹部142が形成されている。当該凹部142と変速機構収容空間とは、
図14に示すように、隔壁112aによって仕切られている。換言すれば、凹部142は、隔壁112aによって変速機構収容空間から隔離されているとも言える。なお、隔壁112aには、コントロールロッド56を挿通するための挿通孔112a’が形成されており、当該挿通孔112a’によって凹部142と変速機構収容空とが連通されている。コントロールロッド56は、当該挿通孔112a’に挿通されてその後端部が凹部142内に収容されている。隔壁112aは、本発明における「仕切壁」に対応し、挿通孔112a’は、本発明における「連通部」に対応する実施構成の一例である。
【0073】
凹部142の開口端縁部には、
図11および
図12に示すように、締結面142aが形成されおり、当該締結面142aにシフトレバー部材62(
図3参照)およびセレクトレバー部材64(
図3参照)が取り付けられた状態のカバー部材16(
図3参照)が締結される。これにより、シフトレバー部材62(
図2参照)およびセレクトレバー部材64(
図2参照)のうちロッド部62b,64b(
図2参照)およびアーム部62c,64c(
図2参照)が凹部142内に収容される。即ち、凹部142とカバー部材16(
図3参照)とによって、変速操作機構50(
図2参照)の一部、具体的には、コントロールロッド56の後端部(
図14参照)、ロッド部62b,64b(
図3参照)およびアーム部62c,64c(
図3参照)が収容される操作機構収容空間が構成される。
【0074】
また、エクステンションケース112には、
図14および
図15に示すように、ブリーザ機構120を構成するブリーザ導入通路132およびブリーザ接続通路134が形成されていると共に、
図16に示すように、ブリーザ排出通路122が形成されている。ブリーザ導入通路132は、一端が導入口132aを介して凹部142の底壁142b(凹部142の底面を構成する壁)に開口されており、当該導入口132aからエクステンションケース112の長手方向(
図12の左右方向)および上下方向(
図12の上下方向)の両方向に直交する方向に向かって延在して、他端がブリーザ接続通路134に連通接続されている。即ち、ブリーザ導入通路132は、挿通孔112a’が向く方向(
図14の左右方向)に対して直交する方向に延在するように構成されている(
図14参照)。なお、導入口132aは、
図12に示すように、凹部142の底壁142bのうち当該凹部142の前側(
図12の右側)であって上方(
図12の上側)の隅部に対応する位置に設けられている。
【0075】
ブリーザ接続通路134は、
図13に示すように、エクステンションケース112を長手方向に沿う方向の一方側(ケース本体110が接続される側であって、
図10の下側)から見た場合に、エクステンションケース112の右上隅部に対応する位置に設けられている。ブリーザ接続通路134は、
図13および
図14に示すように、エクステンションケース112のケース本体110(
図10参照)が締結されるフランジ113側が開口され、当該フランジ113側から後方(ケース本体110が接続される側とは反対側)へ向かって延在する孔として構成されており、鋳抜きによって成型されている。換言すれば、ブリーザ接続通路134は、一端がブリーザ導入通路132に連通接続され、他端がフランジ113に開口された貫通孔として構成されているとも言える。当該ブリーザ接続通路134のフランジ113側の開口は、
図14に示すようにアダプタープレート114によって塞がれる。なお、ブリーザ接続通路134は、ブリーザ導入通路132に対して垂直に接続されている。
【0076】
ブリーザ排出通路122は、一端がブリーザ接続通路134の先端部(フランジ113側の端部、
図14の右側の端部)に連通されると共に、他端が排出口122aを介して外部に連通されるように構成されている(
図16参照)。即ち、ブリーザ排出通路122は、ブリーザ接続通路134に対して垂直に接続されている。当該ブリーザ排出通路122には、
図16に示すように、ブリーザパイプ80が圧入によって取り付けられる。なお、ブリーザパイプ80は、
図10に示すように、大気への開口を有する先端部が変速機100の前側、即ち、クラッチ収容空間側(
図10の下側)を向くように取り付けられる。
【0077】
このように、ブリーザ機構120によって、凹部142(操作機構収容空間)がブリーザ導入通路132、ブリーザ接続通路134、ブリーザ排出通路122およびブリーザパイプ80を介して大気に連通される。なお、ブリーザ導入通路132の導入口132aとブリーザ排出通路122の排出口122aとは、隔壁112aの挿通孔112a’に関して互いに反対側となる位置に配置され、かつ、ブリーザ導入通路132からブリーザ接続通路134を経てブリーザ排出通路122までの通路がクランク状に構成されている。
【0078】
こうして構成された第2実施例の変速機100においても第1実施例の変速機1と同様の作用効果を奏する。即ち、リダクションギヤ機構RGMを構成するリダクションドライブギヤRGやリダクションドリブンギヤRG’、あるいは、変速ギヤ機構TMを構成する駆動ギヤG1,G2,G3,G5,G6や被駆動ギヤG1’,G2’,G3’,G5’,G6’、シンクロ機構S1,S2,S3の回転に伴って、撹拌されて高温となった潤滑油により上昇した変速機構収容空間内の圧力が、エクステンションケース112の隔壁112aに形成された挿通孔112a’を介して操作機構収容空間(凹部142)に連通されており、かつ、当該操作機構収容空間(凹部142)が、ブリーザ導入通路132、ブリーザ接続通路134、ブリーザ排出通路122およびブリーザパイプ80を介して大気に開放されるため、当該変速機構収容空間内の圧力を大気圧状態に良好に維持することができる。
【0079】
また、操作機構収容空間(凹部142)と変速機構収容空間とは隔壁112aによって仕切られているため、撹拌された潤滑油がブリーザ導入通路132の導入口132aに直接的に流入することを抑制し得る。これにより、ブリージング(エア抜き)に際して潤滑油が変速機ケース108の外部に持ち出されることを抑制できる。
【0080】
また、ブリーザ導入通路132からブリーザ接続通路134を経てブリーザ排出通路122までのブリーザ通路はクランク状に構成されているため、ブリージング(エア抜き)の際にオイルミストを含む空気から油分を良好に分離することができる。これにより、潤滑油の変速機ケース108外部への持ち出しをより抑制することができる。
【0081】
なお、第2実施例の変速機100を搭載した車両が、変速機構収容空間内の潤滑油の油面を傾斜させるような走行、例えば、急発進や急加速走行、連続登坂走行などをした場合には、変速機構収容空間内から挿通孔112a’を介して操作機構収容空間内に潤滑油が移動(流入)することが考えられるが、本実施の形態では、ブリージング(エア抜き)の際の空気の流れ方向が、当該潤滑油の移動方向(変速機100の前側から後側へ向かう方向)とは逆方向(変速機100の後側から前側に向かう方向)となるようにブリーザ導入通路132の導入口132aおよびブリーザ排出通路122の排出口122aが配置されているため、操作機構収容空間内に流入した潤滑油がブリーザ排出通路122側に向かうことを良好に抑制できる。
【0082】
即ち、操作機構収容空間内に流入する潤滑油には、変速機100の前側から後側へ向かう方向の力が作用しているため、操作機構収容空間内に流入した潤滑油が、ブリーザ導入通路132が開口された操作機構収容空間よりも前側に配置されたブリーザ排出通路122側に向かい難い構造となっている。なお、ブリーザ導入通路132の導入口132aとブリーザ排出通路122の排出口122aとが、隔壁112aの挿通孔112a’に関して互いに反対側となる位置に配置されて導入口132aから排出口122aまでの距離が長く確保されているため、潤滑油の変速機ケース108外部への持ち出しをより一層抑制し得る。また、ブリーザ導入通路132が、挿通孔112a’が向く方向に対して直交する方向に延在するように構成されているため、操作機構収容空間内に流入した潤滑油がブリーザ導入通路132に流入し難い。
【0083】
しかも、ブリーザ導入通路132が操作機構収容空間(凹部142)の底壁142bの上方に開口され、かつ、ブリーザ接続通路134がエクステンションケース112の上部に設けられているため、操作機構収容空間内に流入した潤滑油がブリーザ導入通路132に流入し難い。これにより、潤滑油の変速機ケース108外部への持ち出しをより一層抑制し得る。
【0084】
本実施の形態では、ブリーザ導入通路32,132からブリーザ接続通路34a,24a,134を経てブリーザ排出通路22,122までの通路をクランク状に構成したが、これに限らない。例えば、導入口32a,132aと排出口22a,122aとを一本の通路で直接的に連結する構成としてもよい。この場合、当該一本の通路は、本発明における「ブリーザ導入通路」および「接続通路」および「ブリーザ排出通路」に対応する実施構成の一例である。
【0085】
本実施形態では、ブリーザ導入通路32,132が連通開口12a’および挿通孔112a’が向く方向に対して直交する方向に延在する構成としたが、これに限らない。例えば、ブリーザ導入通路32,132が連通開口12a’および挿通孔112a’が向く方向に対して鋭角を構成する方向に延在する構成としても良い。当該構成によれば、操作機構収容空間内に流入した潤滑油がブリーザ導入通路32,132により一層流入し難いものとなる。
【0086】
本実施形態では、導入口32a,132aと排出口22a,122aとを連通開口12a’および挿通孔112a’に関して互いに反対側となる位置関係に設置する構成としたが、これに限らない。例えば、導入口32a,132aと排出口22a,122aとを連通開口12a’および挿通孔112a’に関して互いに同じ側となる位置関係に設置する構成としても良い。
【0087】
本実施形態は、本発明を実施するための形態の一例を示すものである。したがって、本発明は、本実施形態の構成に限定されるものではない。