(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
負極集電体の少なくとも片面に負極合材層が塗布されてなるリチウムイオン二次電池用の負極であって、前記負極合材層は、負極活物質と、導電助材と、バインダと、軟化点が70℃以上150℃以下のポリマー粒子と、前記ポリマー粒子の軟化点より高い最大体積膨張温度を有する熱膨張性マイクロカプセルと、を含む負極。
前記導電助材が、平均粒径5μm以下且つその1次粒子径が0.5μm以下である炭素粒子であり、前記バインダの平均粒径が0.1〜0.3μmであり、そして、前記ポリマー粒子の平均粒径が0.1〜5μmである請求項1又は請求項2に記載の負極。
前記負極合材層中において、前記導電助材の含有量が0.1〜3質量%であり、前記バインダと前記ポリマー粒子との合計含有量が0.5〜4質量%である請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の負極。
前記熱膨張性マイクロカプセルが、熱可塑性樹脂からなる外殻中に、100℃以下の沸点を有する炭化水素からなる揮発性膨張剤を封入してなる請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の負極。
前記バインダが、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、またはポリアクリルアミドである請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の負極。
前記セパレータが熱可塑性樹脂からなり、該熱可塑性樹脂の軟化点が前記ポリマー粒子の軟化点より高く、且つ前記熱膨張性マイクロカプセルの体積膨張開始温度より低い請求項9に記載のリチウムイオン二次電池。
内部短絡による発熱に伴って、負極の抵抗が増大するリチウムイオン二次電池であって、前記負極は、負極活物質と、導電助材と、バインダと、軟化点が70℃以上150℃以下のポリマー粒子と、前記ポリマー粒子の軟化点より高い体積膨張開始温度を有する熱膨張性マイクロカプセルと、を含む負極合材層を備え、該負極合材層は、前記発熱によりその温度が前記ポリマー粒子の軟化点を超えて上昇したとき前記負極の抵抗が連続的又は段階的に増大するために必要な量の前記ポリマー粒子と前記熱膨張性マイクロカプセルとをそれぞれ含む、リチウムイオン二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。本発明は負極集電体の少なくとも片面に負極合材層が塗布された負極と、正極と、セパレータと、リチウムイオンと、を備える各種のリチウムイオン二次電池に広く適用され得る。この種の電池において、上記負極合材層は、負極活物質と、導電助材と、バインダと、軟化点が70℃以上150℃以下のポリマー粒子と、上記ポリマー粒子の軟化点より高い最大体積膨張温度を有する熱膨張性マイクロカプセルと、を含む。本実施形態に係る負極に上記ポリマー粒子と熱膨張性マイクロカプセルとを添加することにより、電池の急激な温度上昇時に負極合材層の抵抗を上昇させて該電池の過熱を抑制する効果が発揮される。以下、主として、負極、およびこの負極を備えるリチウムイオン二次電池を例として本発明をより詳しく説明するが、本発明の適用対象をかかる電極または電池に限定する意図ではない。
【0012】
[リチウムイオン二次電池の全体構成]
最初に、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の全体構成について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を示す概略断面図である。なお、このようなリチウムイオン二次電池は、積層型リチウムイオン二次電池と呼ばれる。
なお、
図1には積層型セルの構成を示すが、本発明のリチウムイオン二次電池は、正極・負極・セパレータを重ねて層状に巻いた捲回型であってもよい。
【0013】
図1に示すように、本実施形態のリチウムイオン二次電池1は、正極リード21及び負極リード22が取り付けられた電池素子10がラミネートフィルムで形成された外装体30の内部に封入された構成を有している。そして、本実施形態においては、正極リード21及び負極リード22が、外装体30の内部から外部に向かって、反対方向に導出されている。なお、図示しないが、正極リード及び負極リードが、外装体の内部から外部に向かって、同一方向に導出されていてもよい。また、このような正極リード及び負極リードは、例えば超音波溶接や抵抗溶接などにより後述する正極集電体及び負極集電体に取り付けることができる。
【0014】
図1に示すように、電池素子10は、正極集電体11Aの両方の主面上に正極合材層11Bが形成された正極11と、セパレータ13と、負極集電体12Aの両方の主面上に負極合材層12Bが形成された負極12とを複数積層した構成を有している。このとき、一の正極11の正極集電体11Aの片方の主面上に形成された正極合材層11Bと該一の正極11に隣接する負極12の負極集電体12Aの片方の主面上に形成された負極合材層12Bとがセパレータ13を介して向き合う。このようにして、正極、セパレータ、負極の順に複数積層されている。
【0015】
これに電解質(LiPF
6)を含有する電解液を注液することより、隣接する正極合材層11B、セパレータ13及び負極合材層12Bは、1つの単電池層14を構成する。従って、本実施形態のリチウムイオン二次電池1は、単電池層14が複数積層されることにより、電気的に並列接続された構成を有するものとなる。なお、正極及び負極は、各集電体の片面上に各活物質層が形成されているものであってもよい。
【0016】
[リチウムイオン二次電池用負極]
図2は、本発明の一実施形態に係る電極として、負極12の構造を示す断面模式図である。
図2に示す負極12は、負極集電体12Aの片面に負極合材層12Bが設けられた構成を有する。ここで、負極合材層12Bは、負極活物質31、導電助材32、バインダ33、ポリマー粒子34及び熱膨張性マイクロカプセル35を含む。負極合材層12B内でのこれらの物質は、電池内に注入された電解質(LiPF
6)を含有する電解液と接触している。
【0017】
図2に示すように、本実施形態における負極合材層12Bは、負極集電体12Aの表面に所定の厚みで膜状に形成されている。負極集電体12Aは、各種のものを使用することができるが、通常は金属や合金が用いられる。具体的には、正極用の導電基材としては、アルミニウムやニッケル、SUS等が挙げられ、負極用の導電基材としては、銅やニッケル、SUS等が挙げられる。その中でも導電性の高さとコストのバランスからアルミニウム、銅が好ましい。なお、アルミニウムは、アルミニウム及びアルミニウム合金を意味し、銅は純銅および銅合金を意味する。本実施形態において、アルミニウム箔は二次電池正極側、二次電池負極側、銅箔は二次電池負極側に用いることができる。アルミニウム箔としては、特に限定されないが、純アルミ系であるA1085材や、A3003材など種々のものが使用できる。また、銅箔としても同様であり、特に限定されないが、圧延銅箔や電解銅箔が好んで用いられる。
【0018】
本実施形態の負極合材層の厚みは、例えば5μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上である。また200μm以下とすることが好ましく、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは75μm以下である。負極合材層の厚みが上記範囲であると、高い充放電レートでの充放電に対し、十分なリチウムの吸蔵・放出の機能が得られやすい。以下、負極合材層12Bを構成する負極活物質31、導電助材32、バインダ33、ポリマー粒子34及び熱膨張性マイクロカプセル35について順に説明する。
【0019】
(負極活物質)
負極活物質としては、金属リチウム、リチウム含有合金、リチウムとの合金化が可能な金属もしくは合金、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な酸化物、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な遷移金属窒素化物、および、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な炭素材料からなる群から選ばれた少なくとも1種(単独で用いてもよいし、これらの2種以上を含む混合物を用いてもよい)を用いることができる。これらの中でもリチウムイオンをドープ・脱ドープすることが可能な炭素材料が好ましい。このような炭素材料としては、カーボンブラック、活性炭、黒鉛材料(人造黒鉛、天然黒鉛)、非晶質炭素材料、等が挙げられる。前記炭素材料の形態は、繊維状、球状、ポテト状、フレーク状いずれの形態であってもよい。また、その粒径も特に限定されないが、通常5〜50μm、好ましくは20〜30μm程度である。
【0020】
前記非晶質炭素材料として具体的には、ハードカーボン、コークス、1500℃以下に焼成したメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチカーボンファイバー(MCF)などが例示される。
【0021】
前記黒鉛材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。人造黒鉛としては、黒鉛化MCMB、黒鉛化MCFなどが用いられる。また、黒鉛材料としては、ホウ素を含有するものなども用いることができる。また、黒鉛材料としては、金、白金、銀、銅、スズなどの金属で被覆したもの、非晶質炭素で被覆したもの、非晶質炭素と黒鉛を混合したものも使用することができる。
これらの炭素材料は、1種類で使用してもよく、2種類以上混合して使用してもよい。
【0022】
(導電助材)
負極合材層は、導電助材を含むことが好ましい。本発明で用いる導電助材としては、公知の導電助材を使用することができる。公知の導電助材としては、導電性を有する炭素材料であれば特に限定されるものではないが、グラファイト、カーボンブラック、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー)、フラーレン等を単独で、もしくは2種類以上を併せて使用することができる。市販のカーボンブラックとしては、例えば、トーカブラック(登録商標)#4300、#4400、#4500、#5500等(東海カーボン社製、ファーネスブラック)、プリンテックス(登録商標)L等(デグサ社製、ファーネスブラック)、Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA等、Conductex SC ULTRA、Conductex 975ULTRA等、PUER BLACK100、115、205等(コロンビヤン社製、ファーネスブラック)、#2350、#2400B、#2600B、#30050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B等(三菱化学社製、ファーネスブラック)、MONARCH1400、1300、900、Vulcan(登録商標)XC−72R、BlackPearls2000、LITX−50、LITX−200等(キャボット社製、ファーネスブラック)、Ensaco(登録商標)250G、Ensaco(登録商標)260G、Ensaco(登録商標)350G、SuperP−Li(TIMCAL社製)、ケッチェンブラック(登録商標)EC−300J、EC−600JD(アクゾ社製)、デンカブラック(登録商標)、デンカブラック(登録商標)HS−100、FX−35(電気化学工業社製、アセチレンブラック)等、グラファイトとしては例えば人造黒鉛や燐片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛などの天然黒鉛が挙げられるが、これらに限定されるものではない。負極合材層中に含まれる導電助材の平均粒径は、負極合材層に含まれる各粒子間に分散し導電助材として機能するためには5μm以下であることが好ましく、より好ましくは1〜4μmである。また、その1次粒子径が0.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.4μmである。負極合材層中に含まれる導電助材の含有量は、スラリーのハンドリング性を扱い易く、さらに、負極の容量密度を高くするため好ましくは0.1質量%以上であり、例えば0.1〜3質量%程度とすることが好ましい。
【0023】
(バインダ)
上記バインダとして、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンゴム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロースから選ばれる1種もしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、上記バインダとしてスチレンブタジエンゴムのエマルジョンなどの水分散性バインダや、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性バインダを適宜混合したものを用いることが望ましい。
【0024】
上記バインダは、負極合材層の物性(電解液浸透性・剥離強度)と電池性能との両立を図るため、負極合材層に対し0.1〜4質量%を使用することが望ましい。0.1質量%未満であると、活物質の接着力が弱くなり、これにより充放電過程で活物質の脱離が起こる恐れがある。4質量%を超えると、活物質の量が低減するので、電池容量の面で望ましくない。
【0025】
(ポリマー粒子)
本発明における軟化点が70℃以上、150℃以下のポリマー粒子としては、例えば、軟化点が70℃以上、150℃以下の熱可塑性樹脂である粒子であれば特に制限されない。このようなポリマー粒子としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリビニルクロライド、ポリビニリデンクロライド、ポリビニルフルオライド、ポリビニリデンフルオライド、ポリアミド、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、熱可塑性エラストマー、ポリエチレンオキサイド、ポリアセタール、熱可塑性変性セルロース、ポリスルホン及びポリメチル(メタ)アクリレートの粒子が挙げられる。これらの中でも、前記ポリマー粒子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン粒子が好ましい。ポリマー粒子は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。なお、本発明において(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。ここでいう軟化点とは、上記熱可塑性樹脂のJIS規格K7206に基づいて測定されるビカット軟化温度などにより表すことができる。上記、ポリマー粒子の平均粒径は特に制限されないが、合材層を均一に集電体上に塗布できること及び電池特性をより向上できる観点から、0.1〜5μmであることが好ましく、0.2〜4.5μmであることがより好ましく、0.5〜4μmであることが更に好ましい。ポリマー粒子の軟化点については、リチウムイオン二次電池の取り扱い性と安全性向上の観点から、軟化点が90℃以上、140℃以下のポリマー粒子がより好ましく、110℃以上、135℃以下のポリマー粒子がさらに好ましい。
【0026】
具体的には、三井化学株式会社製のケミパール(登録商標)シリーズ(ポリオレフィン水性ディスパージョン)が好ましく、W400、W410、W700、W4005、W401、W500、WF640、W900、W950及びWH201などの低分子量ポリエチレンを微粒状水性ディスパージョン化したものを用いることができる。
【0027】
軟化点が、70℃以上、150℃以下のポリマー粒子を負極活物質層に使用する場合の含有量は、負極活物質層の総量中、0.1〜8質量%が好ましく、0.5〜5質量%がより好ましく、1〜3質量%が更に好ましい。また、このポリマー粒子の平均粒径は、例えば、軟化点が70℃以上、150℃以下のポリマー粒子を含む負極活物質層を、厚さが約70μmになるように形成した負極合材層について、その中央部の縦10μm×横10μmの範囲の透過型電子顕微鏡写真の画像内における全てのポリマー粒子の長辺長さの値を算術平均化した数値とすることができる。
さらに、負極合材層中におけるポリマー粒子の含有量は、電池の発熱により負極合材層の温度がポリマー粒子の軟化点を超えて上昇したとき、後述する熱膨張性マイクロカプセルの体積膨張が開始される温度まで、負極の抵抗を連続的又は段階的に増大させるのに必要な量を含むことが好ましい。
【0028】
(熱膨張性マイクロカプセル)
熱膨張性マイクロカプセル(しばしば「マイクロスフェア」とも称される)は、熱可塑性樹脂からなる外殻中に、揮発性膨張剤を封入し、あるいは内包させてなるものである。このような熱膨張性マイクロカプセルは、水系分散媒体中で、少なくとも揮発性膨張剤と、外殻を構成する重合体を与える重合性単量体とを含有する重合性混合物を懸濁重合する方法により製造されている。例えば、特公昭42−26524号公報、特開昭62−286534号公報、特開平4−292643号公報、特開平11−209504号公報等に熱膨張性熱可塑性マイクロスフェアを製造する方法が開示されており、本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造にも適用できる。
【0029】
外殻を構成する熱可塑性樹脂は、後述する電解液に対し、耐久性を示す必要があり、より具体的には電解液との接触下において、電池の動作温度(一般に室温〜80℃程度までが予定される)までは外殻構造を安定に維持し、且つ、後記する揮発性膨張剤を内包する状態で電池の異常発熱による熱暴走が開始される直前の所定温度、すなわち70℃〜180℃、好ましくは80℃〜160℃、より好ましくは100℃〜140℃、において急激に軟化発泡して大きな体積膨張を起こすことが望まれる。本実施形態では、マイクロカプセルに内包される揮発性膨張剤がガス化し、体積膨張を始める温度を「体積膨張開始温度」と称する。また、マイクロカプセルに内包される揮発性膨張剤がガス化し、体積膨張し最大に膨張する温度のことを「最大体積膨張温度」と称する。本実施形態におけるマイクロカプセルの最大体積膨張温度は、70℃〜180℃であることが好ましく、体積膨張開始温度は、その最大体積膨張温度よりも20〜30℃程度低い。そのため、熱可塑性樹脂自体としては、弾性率の低下開始温度が40℃〜160℃、特に140℃〜150℃、であることが好ましい。本実施形態では、熱膨張性マイクロカプセルの最大体積膨張温度が、上記ポリマー粒子の軟化点より高くなるように、揮発性膨張剤の沸点を選択する。また、熱膨張性マイクロカプセルの体積膨張開始温度が、上記ポリマー粒子の軟化点より高くなるように、揮発性膨張剤の沸点を選択することが好ましい。このように熱膨張性マイクロカプセルの最大体積膨張温度及び体積膨張開始温度を設定することで、電池の発熱により負極合材層の温度が上記ポリマー粒子の軟化点を超えて上昇したとき、負極の抵抗を効率的に増大させることができる。
【0030】
すなわち、マイクロカプセルの外殻を構成する熱可塑性樹脂は、耐電解液に優れ、熱可塑性で且つガスバリヤー性に優れる重合体であることが好ましい。この観点から塩化ビニリデンを含む(共)重合体、及び(メタ)アクリロニトリルを含む(共)重合体により外殻を構成することが好ましい。
【0031】
中でも電解液耐性を考慮すると(メタ)アクリロニトリルを主成分(51質量%以上)とする(共)重合体により外殻を構成することが好ましい。好ましい外殻構成重合体の一具体例としては、(a)アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる群より選ばれる少なくとも一種の単量体51質量%以上、及び(b)塩化ビニリデン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン、及び酢酸ビニルからなる群より選ばれる少なくとも一種の単量体49質量%以下を含有する単量体混合物から得られる共重合体が挙げられる。より好ましくは、前記単量体混合物が、(a)アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる群より選ばれる少なくとも一種の単量体51〜98質量%、(b1)塩化ビニリデン1〜48質量%、及び(b2)アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種の単量体1〜48質量%を含有するものである。(メタ)アクリロニトリルの共重合割合が51質量%未満では、耐溶剤性や耐熱性が低下しすぎて好ましくない。
【0032】
得られるマイクロカプセルの発泡特性及び耐熱性を改良するため、前記の如き重合性単量体と共に架橋性単量体を併用することができる。架橋性単量体としては、通常、2以上の炭素−炭素二重結合を有する化合物が用いられる。より具体的には、架橋性単量体として、例えば、ジビニルベンゼン、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール、メタクリル酸アリル、イソシアン酸トリアリル、トリアクリルホルマール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、ジメタクリル酸1,3−ブチルグリコール、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。架橋性単量体の使用割合は、重合性単量体中の通常0.1〜5質量%であるが、良好な電解液に対する耐久性ならびに電解液との接触下において所定温度において確実にマイクロカプセルの発泡を起させるために、0.5質量%、特に1.0質量%を超え、5質量%以下、特に4質量%以下、の架橋性単量体を用いることが好ましい。
【0033】
外殻中に封入される揮発性膨張剤としては、マイクロカプセルの発泡を起す所定温度、より直接的にはマイクロカプセルの外殻を構成する熱可塑性樹脂の軟化点以下の温度でガス化する揮発性の有機化合物、例えば100℃以下の沸点を有するプロパン、プロピレン、n−ブタン、イソブタン、ブテン、イソブテン、イソペンタン、ネオペンタン、n−ペンタン、n−ヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、石油エーテルなどの低分子量炭化水素が好ましく用いられる。また電池内部での安全性を考慮して、塩化メチル、メチレンクロライド、フロロトリクロロメタン、ジフロロジクロロメタン、クロロトリフロロメタン等のハロゲン化炭化水素やクロロフロロカーボン類等の不燃性または難燃性の化合物が挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上組合せて使用することができる。
【0034】
熱膨張性マイクロカプセルの平均粒径(メディアン径)はこの分野で一般に使用されている方法により制御できる。例えば懸濁重合において、分散安定剤の選択、すなわちその種類(コロイダルシリカ、水酸化マグネシウムなどの無機微粒子等)や量、補助安定剤(例えば、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸の縮合生成物、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、各種乳化剤、食塩等)との組合せ、乳化分散手段の選択と乳化条件(撹拌条件等)により制御できる。平均粒径は通常1〜40μm、好ましくは3〜30μm、特に好ましくは5〜25μmである。特に粒径分布がシャープであれば、発泡開始温度がシャープになり、本発明でより好適に用いることが出来る。なお揮発性膨張剤および重合性単量体の選択、架橋性単量体の種類、量及び揮発性膨張剤/重合性単量体重量比等の制御により、発泡倍率が2〜100倍、好ましくは3〜60倍の範囲内での所望値に調整されたマイクロカプセルが得られる。
【0035】
上記熱膨張性マイクロカプセルは、上記所定温度において、その発泡により、負極活物質間を効果的に離間させるために必要な最少量、例えば負極合材層に対し0.1〜4質量%を添加することが望ましい。0.1質量%未満であると、マイクロカプセルの膨張による負極合材内での導電バス切断効果が少なく、5%以上であると活物質の接着力が弱くなり、これにより充放電過程で活物質の脱離が起こる恐れがある。4質量%を超えると、活物質の量が低減するので、電池容量の面で望ましくない。
【0036】
本発明に使用可能な熱膨張性マイクロカプセルとしては、松本油脂製薬社製「マツモトマイクロスフェアー(登録商標)」シリーズ、アクゾノーベル社製「EXPANCEL(登録商標)」シリーズや積水化学工業社製「ADVANCELL(登録商標)」シリーズなどが挙げられる。
【0037】
(その他の成分)
本実施形態に係る負極合材層には、上記各成分に加えて、その他の適当な成分が含まれていてもよい。例えば、負極合材層が合剤スラリーから形成される場合、負極合材層には、その合剤スラリー由来の各種配合成分が含まれることがある。そのような合剤スラリー由来の各種配合成分の例として、増粘剤、並びに、界面活性剤、分散剤、濡れ剤、消泡剤などその他の添加剤が挙げられる。
【0038】
(負極合材層の形成方法)
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極が備える負極合材層は、上述した負極活物質、導電助材、バインダ、ポリマー粒子及び熱膨張性マイクロカプセルを含む負極合材スラリーを集電体の表面に塗布して、乾燥することによって製造することができる。合材スラリーに含まれる溶媒は有機溶媒でも水分散液でもよいが、ポリマー粒子や熱膨張性マイクロカプセルの安定性を考慮すると水を使用することが好ましい。必要に応じて、例えば、集電体への塗工性向上のために、水と相溶する液状媒体を使用しても良い。水と相溶する液状媒体としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類等が挙げられ、水と相溶する範囲で使用しても良い。
【0039】
集電体へ合剤スラリーを塗布・乾燥する上で、塗布・乾燥方法は特に限定されない。例えば、スロット・ダイコーティング、スライドコーティング、カーテンコーティング、又はグラビアコーティングなどの方法が挙げられる。乾燥方法としては、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線などの乾燥法が挙げられる。乾燥時間や乾燥温度については、特に限定されないが、乾燥時間は通常1分〜30分であり、乾燥温度は通常40℃〜80℃である。
負極合材層の製造方法においては、集電体上に上記合剤スラリーを塗布乾燥後、金型プレスやロールプレスなどを用い、加圧処理により活物質層の空隙率を低くする工程を有することが好ましい。
【0040】
(正極活物質)
正極活物質は、リチウムの吸蔵放出が可能な材料であれば特に限定されず、リチウムイオン二次電池に通常用いられる正極活物質でありうる。具体的には、リチウム(Li)とニッケル(Ni)とを構成金属元素とする酸化物のほか、リチウム及びニッケル以外に他の少なくとも一種の金属元素(すなわち、LiとNi以外の遷移金属元素及び/又は典型金属元素)を、原子数換算でニッケルと同程度またはニッケルよりも少ない割合で構成金属元素として含む酸化物をも包含する意味である。上記LiおよびNi以外の金属元素は、例えば、Co,Mn,Al,Cr,Fe,V,Mg,Ca,Na,Ti,Zr,Nb,Mo,W,Cu,Zn,Ga,In,Sn,LaおよびCeからなる群から選択される一種または二種以上の金属元素であり得る。これらの正極活物質は、単独で用いても複数を混合して用いてもよい。
【0041】
好ましい実施形態において、上記正極活物質は、例えば、一般式(1):Li
tNi
1−x−yCo
xAl
yO
2(但し、式中において、0.95≦t≦1.15、0≦x≦0.3、0.1≦y≦0.2、x+y<0.5を満たす。)で表されるリチウムニッケルコバルトアルミニウム系酸化物(NCA)が挙げられる。NCAの具体例としては、LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2があげられる。
【0042】
他の好ましい実施形態において、上記正極活物質は、例えば、一般式(2):LiNi
aCo
bMn
cO
2(ただし式中、0<a<1、0<b<1、0<c<1であり、a+b+c=1を満たす)で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物(NCM)が挙げられる。NCMは体積当たりのエネルギー密度が高く、熱安定性にも優れている。
電極合材層中の正極活物質の含有量は、通常10質量%以上、好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、特に好ましくは70質量%以上である。また、通常99.9質量%以下、好ましくは99質量%以下である。
【0043】
なお、正極活物質層に用いてもよいバインダとしては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、フッ素樹脂及びゴム粒子が挙げられる。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等が挙げられる。ゴム粒子としては、スチレン−ブタジエンゴム粒子、アクリロニトリルゴム粒子等が挙げられる。これらの中でも、正極活物質層の耐酸化性を向上させること等を考慮すると、フッ素を含むバインダが好ましい。バインダは1種を単独で使用でき、必要に応じて2種以上を組み合わせて使用できる。
【0044】
[電解液]
電解液としては、例えば、通常リチウムイオン二次電池で用いられるものであることが好ましく、具体的には、有機溶媒に支持塩(リチウム塩)が溶解した形態を有する。リチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)、過塩素酸リチウム(LiClO
4)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF
6)、六フッ化タンタル酸リチウム(LiTaF
6)、四塩化アルミニウム酸リチウム(LiAlCl
4)、リチウムデカクロロデカホウ素酸(Li
2B
10Cl
10)等の無機酸陰イオン塩、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF
3SO
3)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Li(CF
3SO
2)
2N)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(Li(C
2F
5SO
2)
2N)等の有機酸陰イオン塩の中から選ばれる、少なくとも1種類のリチウム塩等を挙げることができる。その中でも、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)が好ましい。
【0045】
また、有機溶媒としては、例えば、環状カーボネート類、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、含フッ素鎖状カーボネート類、脂肪族カルボン酸エステル類、含フッ素脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ラクトン類、含フッ素γ−ラクトン類、環状エーテル類、含フッ素環状エーテル類、鎖状エーテル類及び含フッ素鎖状エーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機溶媒を用いることができる。
【0046】
環状カーボネート類としては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)を挙げることができる。また、含フッ素環状カーボネート類としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を挙げることができる。更に、鎖状カーボネート類としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ジプロピルカーボネート(DPC)を挙げることができる。また、脂肪族カルボン酸エステル類としては、例えば、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチルを挙げることができる。更に、γ−ラクトン類としては、例えば、γ−ブチロラクトンを挙げることができる。また、環状エーテル類としては、例えば、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンを挙げることができる。更に、鎖状エーテル類としては、例えば、1,2−エトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンを挙げることができる。その他としては、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類を挙げることができる。これらは、1種を単独で、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
[セパレータ]
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる微多孔膜や多孔質の平板、更には不織布を挙げることができる。好適例として、一種または二種以上のポリオレフィン樹脂を主体に構成された単層または多層構造の多孔性樹脂シートが挙げられる。セパレータの厚みは、例えば15μm〜30μmとすることができる。好ましい一態様では、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂からなる多孔性樹脂層を備えた、シャットダウン機能を有するセパレータである。この態様によれば、セパレータの温度が熱可塑性樹脂の軟化点に達すると樹脂が融解して細孔が目詰まりすることにより電流を遮断することができる。
【0048】
(作用効果)
本実施形態における負極合材層12Bは、圧壊や過充電などにより電池温度が急激に上昇したときに、上記バインダと、軟化点が70℃以上150℃以下のポリマー粒子と、前記ポリマー粒子の軟化点より高い最大体積膨張温度を有する熱膨張性マイクロカプセルが電池の内部抵抗(負極合材層の抵抗)を増大させ、それによって短絡電流が著しく減少し、電池の発熱が抑制されると考えられる。その詳細なメカニズムは必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。
図2を参照しながら説明すると、まず、通常作動時の負極合材層は、負極活物質31の間に、界面抵抗(接触抵抗)を低減するため、導電助材32を含有している。バインダ33とポリマー粒子(例えば、ケミパール等)は、導電助材に優先的に吸着し、負極活物質間を結着して導電パスを形成している。ところが、負極合材層12Bの温度が90〜120℃に達すると、ポリマー粒子33が最初に融解し導電パスを部分的に切断する。続いて、電池の温度が120〜135℃になると、セパレーター(PE)が溶融し、リチウムイオンの通過を遮断する。さらに、負極合材層の温度が130〜150℃にまで上昇すると、マイクロカプセルが熱膨張(直径が約3〜5倍に熱膨張)し、負極活物質間を押し広げる(負極合材層間が広がる)と考えられる。これらの作用が連続的に起こることで、電池の内部抵抗(電極抵抗)が増大し、短絡電流が著しく減少し、電池全体の発熱が抑制されるという効果を奏するのである。
図4は、本発明の好ましい実施形態によるリチウムイオン二次電池において、負極造材層にポリマー粒子(ケミパール)又はマイクロカプセルをそれぞれ単独で添加した場合、並びにシャットダウン機能を有するセパレータを単独で用いた場合の加熱抵抗試験結果をプロットしたものである。約115℃からポリマー粒子の溶融によって負極合材層の抵抗が上昇し、125℃付近からはセパレータの溶融による抵抗が増加し、そして140℃付近からはマイクロカプセルの膨張による抵抗増加が見られる。
図4の実験条件では、負極合材層へのケミパールの添加量を1質量%とすることで、これら各種材料に起因する抵抗増加が連続的又は段階的に起こりうることが理解される。したがって、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、内部短絡等による発熱に伴って、負極の抵抗が効果的に増大し、これによって電池の発熱を抑制し熱暴走を阻止しうると考えられる。
【実施例】
【0049】
[実施例1]
−負極作製−
1.スラリー調製
スラリー調製は5Lのプラネタリーディスパを用いた。
天然黒鉛960gと、Super−P(導電性カーボン、BET比表面積62m
2/g)10g、マイクロカプセル(松本油脂製薬株式会社製FS−100SD、膨張開始温度125〜135℃、最大膨張温度150〜160℃)5g、を5分間混合した後、1%CMC(CMCを純水で溶解させた)を450g加え更に30分間混合した。次いで、1%−CMC水溶液300gを加えて30分間混練した後、更に、1%−CMC250gを加えて30分間混練した。その後、バインダとなるSBR(40%乳化液)25gおよびポリマー粒子(三井化学株式会社製、ケミパール(登録商標)W4005、軟化点110℃、40%乳化液)12.5gを加えて30分間混合した後、真空脱泡30分間を行った。こうして固形分濃度45%のスラリーを調製した。このようにして作製した負極の組成は、質量比で、天然黒鉛:Super−P:SBR:CMC:ケミパール:マイクロカプセル=960:10:10:10:5:5である。
【0050】
2.塗工・乾燥
スラリー塗工にはダイコーターを用いた。乾燥後の塗布重量が11.0mg/cm
2になるように、上記スラリーを銅箔(厚み10μm)の片面に塗布し乾燥した。次いで、反対面(未塗工面)に、同様に塗布重量が11.0mg/cm
2になるように、上記スラリーを銅箔に塗布し乾燥した。こうして得た両面塗工(22.0mg/cm
2)した負極ロールを、真空乾燥オーブンで120℃、12時間乾燥し、電極を得た。
【0051】
3.プレス
小型プレス機を用いた。上下ロールのギャップ(隙間)を調整し、上記負極をプレス密度が1.45±0.05g/cm
3になるように圧縮した。
4.スリット
電極塗布面積(表面:58mm×372mm、裏面:58mm×431mm)とタブ溶接余白が得られるように電極をスリットし、負極A−1を得た。
【0052】
−正極作製−
1.スラリー調製
スラリー調製は5Lのプラネタリーディスパを用いた。NCM523(Umicore社製、組成式 LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2)920gと、Super−P(TIMCAL社製導電性カーボン)20g、KS−6(TIMREX社製鱗片状黒鉛)20gを10分間混合した後、N−メチルピロリドン(NMP)を100g加え更に20分間混合した。
【0053】
次いで、8%−バインダ溶液150gを加えて、30分間混練した後、更に8%−バインダ溶液150gを加えて30分間混練した。その後、8%−バインダ溶液200gを加えて30分間混練した。次いで、NMPに溶解した溶液を80g加えて30分間混練した。その後、粘度調整のためNMP27gを加えて30分間混合した後、真空脱泡30分間を行った。こうして固形分濃度60%のスラリーを調製した。
【0054】
2.塗工・乾燥
スラリー塗工にはダイコーターを用いた。乾燥後の塗布重量が19.0mg/cm
2になるように、上記スラリーをアルミ箔(厚み20μm、幅200mm)の片面に塗布し乾燥した。次いで、反対面(未塗工面)に、同様に塗布重量が19.0mg/cm
2になるように、上記スラリーをアルミ箔に塗布し乾燥した。
こうして得た両面塗工(38.0mg/cm
2)した正極ロールを、真空乾燥オーブンで130℃、12時間乾燥した。
【0055】
3.プレス
35トンプレス機を用いた。上下ロールのギャップ(隙間)を調整し、上記正極をプレス密度が2.9±0.05g/cm
3になるように圧縮した。
4.スリット
電極塗布面積(表面:56mm×334mm、裏:56mm×408mm)とタブ溶接余白が得られるように電極をスリットし正極C−1を得た。
【0056】
−電池作製−
積層型電池(設計容量5Ah)
正極C−1の余白部分にアルミニウム製タブを超音波接合機で接合した。負極A−1の余白部分にニッケル製タブを超音波接合機で接合した。
【0057】
1.積層
セパレータには、空隙率45%、厚み25μmのポリエチレン製多孔質膜(183mm×100mm)を用いた(S−2)。
負極A−1とセパレーター(S−1)と正極C−1とセパレーター(S−1)と負極A−1の順に、正極5層と負極6層になるよう交互に積層した。次いで、ラミネートシートで挟み込み、3辺を加熱シールした。
【0058】
2.電解液注液
電解液注液前に、上記を真空乾燥機にて、70℃×12h減圧乾燥した。電解液(1mol−LiPF
6、EC/DEC=3/7(vol.比)、添加剤VC 1.0質量%)19.6±0.3gを注液した後、真空引きしながら加熱シールした。
3.活性化処理
電解液注液後の電池を24h保持した。次いで、0.05Cで4h定電流充電(0.05C−CC)した後12h休止した。その後、0.1Cで4.2Vまで定電流定電圧充電(0.1C−CCCV)し、30分間休止した後、2.8Vまで0.1Cで定電流放電(0.1C−CC)した。更に、充放電サイクル(0.1C−CCCVで4.2Vの充電と、0.1C−CCで2.8Vの放電)を5回繰り返した後、4.2V(SOC100%)の満充電にした状態で、25℃、5日間保存した。こうして電池D−1を得た。
【0059】
[加熱抵抗の測定方法]
実施例1に準じて作製した試験用負極を試作し、以下の方法により加熱抵抗試験を行った。
【0060】
[試料作成]
実施例1で作製した試験用負極A−1(片面塗工、電極面30mm×30mm)の余白部分にニッケル製タブを超音波接合機で接合した(AK2)。実施例1で作製した試験用正極C−1(片面塗工、電極面28mm×28mm)の余白部分にアルミニウム製タブを超音波接合機で接合した(CK2)。
AK2の塗布面とCK2の塗布面の間にPP製セパレーター(30mm×30mm)を挟み込んだ。これを5cm×5cmのラミネートシートで挟み込み、3辺を加熱シールした。電解液注液前に、上記を真空乾燥機にて、70℃×12h減圧乾燥した。電解液(1mol−LiPF
6、EC/DEC=3/7(vol.比))300μLを注液した後、真空引きしながら加熱シールした(K2)。
【0061】
[加熱抵抗測定]
【0062】
作製した試料セル(K2)を、拘束面圧0.2kgf/cm
2〜3.0kgf/cm
2にてヒートブロックで挟み込み、測定条件は、例えば、室温から約200℃まで、5℃/分で昇温した。このとき各周波数(例えば、1kHz、10kHz、100kHz)での交流抵抗値(Ω)を得た。その結果の一例を
図3〜5に示す。
【0063】
図3には、実施例1に準じ、負極合材層にケミパール(登録商標)0.5質量%を含有するもの、同様にマイクロカプセルFS−100SDを0.5質量%含有するものと、PE製セパレータをそれぞれ単独で備えた試料セルの加熱抵抗測定結果を比較し示した。同様に、
図4には、実施例1に準じ、負極合材層にケミパール(登録商標)1.0質量%を含有するもの、同様にマイクロカプセルFS−100SDを0.5質量%含有するものと、PE製セパレータをそれぞれ単独で備えた試料セルの加熱抵抗測定結果を比較し示した。
図5には、実施例1の負極合材層にケミパール(登録商標)0.5質量%とマイクロカプセルFS−100SD0.5質量%とを同時に含有した試料セルの加熱抵抗測定結果を示した。
図3〜5に示した結果から、セパレータの材料として用いたPEの軟化温度及びケミパール(登録商標)の軟化点及びマイクロカプセルの膨張開始温度又は最大膨張温度に応じて試料セルの抵抗が増大することが分かった。
【0064】
2018年3月30日に出願された日本国特許出願2018−068815の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。