(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1属性の板状構造体の変形に起因して振動を生じる第1の共振系と、前記第2属性の板状構造体の変形に起因して振動を生じる第2の共振系と、において、前記第1の共振系のバネ定数が前記第2の共振系のバネ定数と異なるように設定されている
ことを特徴とする請求項3乃至5のいずれか一項に記載の発電回路。
前記基本構造部は、前記第1属性の板状構造体の先端部に接続された重錘体と、前記第2属性の板状構造体の先端部に接続された重錘体と、を有しており、これら2種類の重錘体の共振周波数付近のスペクトルピーク波形が相互に一部重複している
ことを特徴とする請求項5または6に記載の発電回路。
前記圧電素子は、前記第1属性の板状構造体の上面に形成された下部電極層と、この下部電極層の上面に形成され、応力に基づいて電荷を発生させる圧電材料層と、この圧電材料層の上面に形成された上部電極層と、を有し、前記下部電極層および前記上部電極層にそれぞれ所定極性の電荷を供給する
ことを特徴とする請求項8に記載の発電回路。
前記第1属性の板状構造体には、その上面の中心にY軸と平行な方向に伸びる中心軸線を定義したときに、根端部側の前記中心軸線の両脇と先端部側の前記中心軸線の両脇とにそれぞれ配置された個別上部電極層が設けられている
ことを特徴とする請求項10に記載の発電回路。
前記固定部材に対して固定されたXYZ三次元直交座標系を定義したときに、前記変位部材がX軸、Y軸およびZ軸のうち少なくとも2軸の方向に変位可能となるように、前記変位部材と前記固定部材とが前記弾性変形体によって接続されている
ことを特徴とする請求項12に記載の発電回路。
前記固定部材に対して固定されたXYZ三次元直交座標系を定義したときに、前記変位部材がX軸、Y軸およびZ軸の全ての方向に変位可能となるように、前記変位部材と前記固定部材とが前記弾性変形体によって接続されている
ことを特徴とする請求項12に記載の発電回路。
前記板状構造体は、XY平面に平行な上面及び下面を有する矩形の第1板状構造体と、Z軸方向から見て前記第1板状構造体を取り囲む矩形の枠状の第2板状構造体と、を有し、
前記第1板状構造体は、その4つの内側角部の各々に第2変位支持点が設けられ、
前記第2板状構造体は、その4つの角部の各々に第2固定支持点が設けられ、
前記各第2変位支持点と前記各第2固定支持点とは、1対1に対応し、対応する第2変位支持点と第2固定支持点とがそれぞれ個別の第2弾性変形体によって接続されている
ことを特徴とする請求項18に記載の発電回路。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上のような事情に鑑みて創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、キャパシターの放電や二次電池の破損を招くことが無い発電回路を提供することである。このような発電回路を採用することにより、安全で最適な発電システムを構築することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による発電回路は、二次電池を充電するためのものであって、
発電素子と、
前記発電素子に接続され、前記発電素子の発電により生じる電流を整流する整流部と、
前記整流部に接続され、前記発電素子の発電により生じる電圧を昇圧させる電圧制御部と、
前記電圧制御部と前記二次電池との間に配置され、前記電圧制御部と前記二次電池との接続を選択的に遮断する遮断部と、を備え、
前記整流部、前記電圧制御部、及び、前記遮断部は、前記二次電池または外部の電源から提供される電力によって駆動され、
前記整流部は、整流を行うための閾値電圧が0.8V以下であり、
前記遮断部は、前記電圧制御部によって昇圧された電圧が前記二次電池を充電するために必要な電圧を下回っている場合に、前記電圧制御部と前記二次電池との接続を遮断する。
【0013】
本発明によれば、昇圧された電圧の値に基づいて、電圧制御部と二次電池との接続が選択的に遮断されるようになっている。このため、キャパシターの放電や二次電池の破損を招くことが無い発電回路を提供することができる。したがって、本発明による発電回路を採用することにより、安全で最適な発電システムを構築することができる。
【0014】
前記発電素子と前記二次電池とを接続するバイパス回路を更に備え、
前記バイパス回路は、
前記発電素子の発電により生じる電流を整流する整流素子と、
前記整流素子に接続され、前記整流素子と前記二次電池とを選択的に遮断する第2遮断部と、を有し、
前記二次電池の蓄電量が所定の値未満であるとき、前記第2遮断部は前記発電素子と前記二次電池との接続を遮断し、
前記二次電池の蓄電量が前記所定の値以上であるとき、前記第2遮断部は、前記発電素子と前記二次電池との接続を維持するようになっていて良い。
【0015】
二次電池の蓄電量が所定の値未満であるときとは、例えば、二次電池の蓄電量が整流部、電圧制御部、及び、遮断部を駆動させることが可能な値に達していないときである。したがって、この例においては、二次電池の蓄電量が所定の値以上であるときとは、二次電池の蓄電量が整流部、電圧制御部、及び、遮断部を駆動させることが可能な値に達しているときを意味する。
【0016】
この場合、二次電池の蓄電量が整流部、電圧制御部、及び、遮断部を駆動させることが可能な値に達していないときにも、発電素子を振動させることによって、バイパス回路を介して二次電池を充電することができる。このようなバイパス回路を用いた二次電池の充電によって蓄電量が前記所定の値に達すれば、当該二次電池は、外部電源による電力の供給を受けることなく、整流部、電圧制御部、及び、遮断部を駆動させることができる。
【0017】
前記発電素子は、振動エネルギーを電気エネルギーに変換する素子であって良い。この場合、発電回路は、当該発電回路が採用されたスマートフォン等を持ち運ぶ際に生じる振動や、周囲の音(エアコンの運転によって生じる音等)によって引き起こされる振動等を、効果的に電気エネルギーに変換することができる。
【0018】
以上のような振動によって発電を行う発電素子としては次のようなものが採用可能である。すなわち、前記発電素子は、
可撓性を有する第1属性の板状構造体と、可撓性を有する第2属性の板状構造体と、前記第1属性の板状構造体と前記第2属性の板状構造体とを相互に接続する異属間接続体と、前記第1属性の板状構造体を支持する台座と、を有する基本構造部と、
前記基本構造部の変形に基づいて電荷を発生させる電荷発生素子と、を備え、
XYZ三次元座標系を定義したときに、前記第1属性の板状構造体および前記第2属性の板状構造体は、その板面がXY平面に平行な面になるように配置され、
前記第1属性の板状構造体は、根端部が前記台座に直接もしくは間接的に接続されており、先端部が前記異属間接続体に直接もしくは間接的に接続されており、前記根端部から前記先端部へ向かう方向がY軸正方向となるように、Y軸に平行な方向に伸びており、
前記第2属性の板状構造体は、根端部が前記異属間接続体に直接もしくは間接的に接続されており、当該根端部から前記先端部へ向かう方向がY軸負方向となるように、Y軸に平行な方向に伸びている。
【0019】
この場合、発電素子は、Y軸正方向に伸びる第1属性の板状構造体と、Y軸負方向に伸びる第2属性の板状構造体とが、異属間接続体を介して接続された構造を有するため、同一軸に沿って共振周波数の異なる複数の共振系が混在する構造を実現することができる。すなわち、発電素子の共振周波数を複数設定することができるため、発電素子が使用される環境において頻繁に生じることが想定される周波数が複数ある場合であっても、それら複数の周波数を効率的に利用した発電を行うように、発電素子を調整することができる。
【0020】
このような発電素子において、前記第2属性の板状構造体は、互いに平行になるように並列配置された複数の板状構造体を有していて良い。この場合、発電素子の小型化、薄型化を実現することができる。
【0021】
前記基本構造部は、前記第1及び第2属性の板状構造体の所定箇所、及び、前記異属間接続体の所定箇所、のうちの少なくとも1カ所に接続された重錘体を有していて良い。
【0022】
この場合、重錘体を適宜に配置することによって、当該重錘体を含む基本構造部の共振周波数を所望に調整することができ、発電回路が使用される環境において頻繁に発生する振動のエネルギーを、効率的に電気エネルギーに変換することができる。
【0023】
前記第1属性の板状構造体の変形に起因して振動を生じる第1の共振系と、前記第2属性の板状構造体の変形に起因して振動を生じる第2の共振系と、において、前記第1の共振系のバネ定数が前記第2の共振系のバネ定数と異なるように設定されていて良い。この場合、発電素子の共振系の共振周波数を高い自由度で調整することができる。
【0024】
前記基本構造部は、前記第1属性の板状構造体の先端部に接続された重錘体と、前記第2属性の板状構造体の先端部に接続された重錘体と、を有しており、これら2種類の重錘体の共振周波数付近のスペクトルピーク波形が相互に一部重複していて良い。
【0025】
この場合、従来例に比べて、効率的な発電が可能な周波数帯域を拡大することができるため、一定の周波数帯域の振動が与えられる環境において最適な発電回路を提供することができる。
【0026】
前記電荷発生素子は、前記第1及び第2属性の板状構造体の変形を生じる部分に形成された圧電素子を有していて良い。
【0027】
前記圧電素子は、前記第1属性の板状構造体の上面に形成された下部電極層と、この下部電極層の上面に形成され、応力に基づいて電荷を発生させる圧電材料層と、この圧電材料層の上面に形成された上部電極層と、を有し、前記下部電極層および前記上部電極層にそれぞれ所定極性の電荷を供給するようになっていて良い。この場合、第1及び第2属性の板状構造体の変形に伴って当該板状構造体に生じる応力を利用した発電を行うことができる。
【0028】
前記第1属性の板状構造体には、その上面に共通下部電極層が設けられ、
前記共通下部電極層には、その上面に共通圧電材料層が設けられ、
前記共通圧電材料層は、その上面の異なる箇所にそれぞれ電気的に独立した複数の個別上部電極層が設けられ、
前記第1属性の板状構造体が特定の変形を生じた時点において、各個別上部電極層には、それぞれ前記共通圧電材料層から同一極性の電荷が供給されるようになっていて良い。
【0029】
特には、前記第1属性の板状構造体には、その上面の中心にY軸と平行な方向に伸びる中心軸線を定義したときに、根端部側の前記中心軸線の両脇と先端部側の前記中心軸線の両脇とにそれぞれ配置された個別上部電極層が設けられている。
【0030】
この場合、基本構造部に与えられた振動のX,Y,Zの各軸方向の振動成分の全てを、効果的に発電エネルギーに変換することができる。
【0031】
あるいは、振動によって発電を行う発電素子として、次のようなものも採用可能である。すなわち、変位部材と、固定部材と、弾性変形体と、を有し、
前記変位部材は、前記弾性変形体を介して前記固定部材に接続されており、
前記変位部材および前記固定部材のうち、一方の表面にはエレクトレット材料層が形成され、他方の表面には前記エレクトレット材料層に対向する対向電極層が形成され、
前記エレクトレット材料層および前記対向電極層は、所定の基準平面に平行になるように配置され、
前記発電素子に振動エネルギーが与えられたときに、前記弾性変形体が変形することにより、前記エレクトレット材料層と前記対向電極層との間の層間距離が変動するように、前記変位部材が前記固定部材に対して変位するようになっている。
【0032】
このような発電素子は、前記固定部材に対して固定されたXYZ三次元直交座標系を定義したときに、前記変位部材がX軸、Y軸およびZ軸のうち少なくとも2軸の方向に変位可能となるように、前記変位部材と前記固定部材とが前記弾性変形体によって接続されていて良い。この場合、基本構造部に対して与えられる振動のX,Y,Zの2軸方向の成分を利用して発電を行うことが可能な発電素子を提供することができる。
【0033】
あるいは、このような発電素子は、前記固定部材に対して固定されたXYZ三次元直交座標系を定義したときに、前記変位部材がX軸、Y軸およびZ軸の全ての方向に変位可能となるように、前記変位部材と前記固定部材とが前記弾性変形体によって接続されていて良い。
【0034】
この場合、基本構造部に対して与えられる振動のX,Y,Zの3軸方向の全ての成分を利用して発電を行うことが可能な発電素子を提供することができる。
【0035】
前記変位部材は、XY平面に平行な上面および下面を有する板状構造体を含み、
前記固定部材は、前記板状構造体を取り囲むように配置された枠状構造体を含んでいて良い。
【0036】
この場合、発電素子の小型化、薄型化を実現することができる。
【0037】
変位を生じていない状態における前記変位部材の中心位置に原点が配置されるように前記XYZ三次元直交座標系を定義したときに、
前記板状構造体は、X軸の正領域と直交する第1の変位外面と、X軸の負領域と直交する第2の変位外面と、を有し、
前記枠状構造体は、X軸の正領域と直交し前記第1の変位外面に対向する第1の固定内面と、X軸の負領域と直交し前記第2の変位外面に対向する第2の固定内面と、を有していて良い。
【0038】
特には、前記第1の変位外面には、X軸正方向に突出した第1の変位凸部が設けられ、
前記第2の変位外面には、X軸負方向に突出した第2の変位凸部が設けられており、
前記第1の固定内面の、前記第1の変位凸部に対向する位置には、X軸負方向に突出した第1の固定凸部が設けられ、
前記第2の固定内面の、前記第2の変位凸部に対向する位置には、X軸正方向に突出した第2の固定凸部が設けられ、
前記第1の変位凸部の頂面と前記第1の固定凸部の頂面とは互いに対向しており、これら対向面のうち、一方には第1のエレクトレット材料層が形成されており、他方には第1の対向電極層が形成されており、
前記第2の変位凸部の頂面と前記第2の固定凸部の頂面とは互いに対向しており、これら対向面のうち、一方には第2のエレクトレット材料層が形成されており、他方には第2の対向電極層が形成されていて良い。
【0039】
この場合、エレクトレット材料層と対向電極層との対向部位を複数個設けることができるため、発電を効率的に行うことができる。
【0040】
前記板状構造体は、矩形状をなし、その4つの角部の各々に変位支持点が設けられ、
前記枠状構造体は、前記板状構造体を取り囲む矩形状をなし、その4つの内側角部の各々に固定支持点が設けられ、
前記各変位支持点と前記各固定支持点とは、1対1に対応し、対応する変位支持点と固定支持点とがそれぞれ個別の弾性変形体によって接続されていて良い。
【0041】
この場合、薄型でありながらX,Y,Zの3軸方向の振動に対応することが可能な発電素子を提供することができる。
【0042】
前記板状構造体の上面もしくは下面、またはその両面に、重錘体が接合されていて良い。この場合、重錘体を含む板状構造体の質量を調整することが容易である。このため、発電回路が使用される環境において頻繁に発生する振動の周波数と、重錐体を含む板状構造体の共振周波数と、が一致するように当該重錘体の質量を調整することにより、振動エネルギーを効率的に電気エネルギーに変換することができる。
【0043】
前記板状構造体は、XY平面に平行な上面及び下面を有する矩形の第1板状構造体と、Z軸方向から見て前記第1板状構造体を取り囲む矩形の枠状の第2板状構造体と、を有し、
前記第1板状構造体は、その4つの内側角部の各々に第2変位支持点が設けられ、
前記第2板状構造体は、その4つの角部の各々に第2固定支持点が設けられ、
前記各第2変位支持点と前記各第2固定支持点とは、1対1に対応し、対応する第2変位支持点と第2固定支持点とがそれぞれ個別の第2弾性変形体によって接続されていて良い。
【0044】
この場合、板状構造体が2つの共振周波数を有するように構成されるため、発電回路が使用される環境において2つの帯域の振動が頻繁に発生する場合にも、効率的な発電を行うことができる。
【0045】
この場合、前記第1板状構造体及び前記第2板状構造体の少なくとも一方の上面もしくは下面、またはその両面に、重錘体が接合されていて良い。この場合、2つの共振周波数を所望に調整することが容易である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下に、添付の図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0048】
<<< §1. 第1の実施の形態による発電回路 >>>
図3は、本発明の第1の実施の形態による発電回路10を示すブロック図である。
【0049】
発電回路10は、スマートフォン等の電子機器に搭載される二次電池Bを充電するためのものであって、発電素子11と、発電素子11に接続され、発電素子11の発電により生じる電流を整流する整流部12と、整流部12に接続され、発電素子11の発電により生じる電圧を昇圧させる電圧制御部13と、電圧制御部13と二次電池Bとの間に配置されており、電圧制御部13と二次電池Bとの接続を選択的に遮断する遮断部14と、を備えている。
図3に示すように、整流部12、電圧制御部13、及び、遮断部14は、配線16a、16b及び16cによって、それぞれ二次電池Bに接続され、当該二次電池Bから提供される電力によって駆動するようになっている。更に、二次電池Bは、外部電源Eに選択的に接続可能である。このことにより、二次電池Bが外部電源Eによって充電され得ると共に、整流部12、電圧制御部13、及び、遮断部14が電源Eから提供される電力によっても駆動するようになっている。
【0050】
発電素子11は、様々なタイプの素子が採用され得るが、ここでは、振動エネルギーを電気エネルギーに変換する振動発電素子が採用されている。これは、スマートフォン等の携行型の電子機器においては、携行時に振動が生じることから、この振動を発電に利用することができれば効率的である、という考えに基づいている。発電素子11の具体的な構成については後に詳述する。
【0051】
整流部12は、能動素子(OPアンプ等)を利用した回路構成を有している。これにより、整流を行うための閾値電圧が実質的に0Vとなっている。もちろん、閾値電圧は、0Vでなくても良いが、発電された電気エネルギーを有効に活用するという観点から、好ましい閾値電圧は、0.8V以下であり、より好ましくは0.3V以下であり、更に好ましくは0.1V以下である。
【0052】
遮断部14は、電圧制御部13と二次電池Bとの接続を選択的に遮断する機能を有している。この遮断部14の存在によって、電流が二次電池Bから電圧制御部13に向かって流れることが防止されるようになっている。
図3に示すように、遮断部14は、電圧制御部13による昇圧後の電圧が二次電池Bを充電するために必要な電圧に達しているか否かを判定する電圧判定部14aと、この電圧判定部14aの判定結果に基づいて、電圧制御部13と二次電池Bとの接続を選択的に遮断する遮断制御部14bと、を有している。具体的には、電圧判定部14aは、二次電池Bを充電するために必要な電圧値を記憶しており、この電圧値と電圧制御部13による昇圧後の電圧値とを比較するようになっている。遮断制御部14bは、電圧判定部14aによる判定結果が、昇圧後の電圧が二次電池Bを充電するために必要な電圧に達しているというものであれば、電圧制御部13と二次電池Bとを接続し、その一方で、電圧判定部14aによる判定結果が、昇圧後の電圧が二次電池Bを充電するために必要な電圧に達していないというものであれば、電圧制御部13と二次電池Bとの接続を遮断するようになっている。
【0053】
次に、本実施の形態による発電回路10の作用について説明する。
【0054】
まず、発電回路10が充電対象の二次電池Bに接続される。初期状態において、発電回路10の遮断部14は、電圧制御部13と二次電池Bとの接続を遮断していない(接続状態を維持している)ものとする。
【0055】
発電素子11が振動発電素子である場合、当該発電素子11に振動が与えられると、当該振動の振動エネルギーが電気エネルギーに変換されることにより、発電が行われる。振動発電素子による発電は、交流発電である。発電原理の詳細については、後述の発電素子を説明する節において詳述する。発電素子11によって発電された電気エネルギー(電力)により、整流部12に対して、交流電流と交流電圧とが供給される。
【0056】
発電素子11の発電により生じた交流電流は、整流部12によって直流電流に整流される。これは、二次電池Bを充電するためには直流電流が必要だからである。本実施の形態の整流部12は、前述したように、能動素子の作用によって、整流を行うための閾値電圧が実質的に0Vに設定されているため、発電素子11の発電によって生じた電圧の大きさによらずに整流が行われる。
【0057】
次に、発電によって生じた電気エネルギーは、電圧制御部13によって、電圧が昇圧させられる。
【0058】
その後、遮断部14の電圧判定部14aは、電圧制御部13による昇圧後の電圧が二次電池Bを充電するために必要な電圧に達しているか否かを判定する。この判定の結果が、昇圧後の電圧が二次電池Bを充電するために必要な電圧に達していないというものであれば、電圧判定部14aは、遮断制御部14bに対して、この判定結果に対応する第1信号を発信する。遮断制御部14bは、この第1信号を受信することにより、電圧制御部13と二次電池Bとの接続を遮断(切断)する。これにより、二次電池Bから電圧制御部13に向かって電流が逆流することが回避される。一方、電圧判定部14aによる判定の結果が、昇圧後の電圧が二次電池Bを充電するために必要な電圧に達しているというものであれば、電圧判定部14aは、遮断制御部14bに対して、この判定結果に対応する第2信号を発信する。遮断制御部14bは、この第2信号を受信することにより、電圧制御部13と二次電池Bとの接続状態を維持する。これにより、発電素子11から二次電池Bに向かって電気エネルギーが提供されるため、二次電池Bが破損することなく適正に充電される。
【0059】
以上のような本実施の形態による発電回路10によれば、昇圧された電圧の値に基づいて、電圧制御部13と二次電池Bとの接続が選択的に遮断されるようになっている。このため、二次電池Bの破損を招くことが無い発電回路10を提供することができる。したがって、本発明による発電回路10を採用することにより、安全で最適な発電システムを構築することができる。
【0060】
<<< §2. 第2の実施の形態による発電回路 >>>
次に、
図4を参照して、本発明の第2の実施の形態による発電回路20を説明する。
【0061】
図4に示すように、発電回路20は、第1の実施の形態による発電回路10(
図3参照)と略同様の構成を有しているが、発電素子11と二次電池Bとを接続するバイパス回路21有している点で、先の発電回路10とは異なっている。バイパス回路21は、発電素子11の発電により生じる交流電流を直流電流に整流する整流素子22と、整流素子22に接続され、整流素子22と二次電池Bとを選択的に遮断する第2遮断部23(23a及び23b)と、を有している。整流素子22は、整流部12と同様に、発電素子11の発電により生じる交流電流を、二次電池Bの充電が可能な直流電流に変換(整流)する機能を有している。
【0062】
図4に示すように、第2遮断部23は、二次電池Bの蓄電量を検知し、当該蓄電量が所定の値に達しているか否かを判定する蓄電量判定部23aと、この蓄電量判定部23aの判定結果に基づいて、発電素子11と二次電池Bとの接続を選択的に遮断する遮断制御部23bと、を有している。ここでは、所定の値とは、二次電池Bが整流部12、電圧制御部13、及び、遮断部14を駆動させることが可能な蓄電量の値を意味している。具体的には、蓄電量判定部23aは、整流部12、電圧制御部13、及び、遮断部14を駆動させるために必要な蓄電量を記憶しており、この蓄電量と二次電池Bの実際の蓄電量とを比較するようになっている。遮断制御部23bは、蓄電量判定部23aによる判定結果が、二次電池Bの蓄電量が整流部12、電圧制御部13、及び、遮断部14を駆動させるために必要な蓄電量に達しているというものであれば、バイパス回路21を切断するようになっている。遮断制御部23bは、蓄電量判定部23aから信号の入力が無い場合には、常時バイパス回路21を接続するようになっている。従って、二次電池Bの蓄電量が整流部12、電圧制御部13、及び、遮断部14を駆動させるために必要な蓄電量に達しているという判定結果が蓄電量判定部23aから得られていないときには、常時バイパス回路21が接続されることになる。なお、遮断制御部23bは、電力源がなくてもノーマル・オンとなっている任意の素子を採用することができる。例えば、ノーマル・クローズのリレーでも良い。
【0063】
次に、以上のような発電回路20の作用について説明する。
【0064】
この発電回路20の発電素子11、整流部12、電圧制御部13及び遮断部14の作用については、第1の実施の形態による発電回路10の作用と同じである。したがって、ここでは、発電回路10と共通する構成部分の作用についての説明は省略し、本実施の形態において新たに導入されたバイパス回路21の作用についてのみ詳細に説明する。このバイパス回路21は、初期状態において、発電素子11と二次電池Bとの接続が維持されているものとする。
【0065】
蓄電量判定部23aは、二次電池Bの蓄電量が整流部12、電圧制御部13、及び、遮断部14を駆動させるために必要な蓄電量に達しているか否かを判定する。この判定に当たっては、二次電池Bの実際の蓄電量と蓄電量判定部23aに記憶された蓄電量とが比較される。この判定結果(比較結果)が、二次電池Bの蓄電量が整流部12、電圧制御部13、及び、遮断部14を駆動させるために必要な蓄電量に達しているというものであれば、蓄電量判定部23aは、遮断制御部23bに対して信号を発信する。遮断制御部23bは、この信号を受信すると、バイパス回路21の接続を遮断する。
【0066】
二次電池Bからシステム(スマートフォン等の電子機器)に対して電力が供給されるにつれて、当該二次電池Bの蓄電量は減少する。そして、蓄電量判定部23aによる判定結果が、二次電池Bの蓄電量が整流部12、電圧制御部13、及び、遮断部14を駆動させるために必要な蓄電量に達していないというものになれば、蓄電量判定部23aは、遮断制御部23bに対して発信していた前記信号を停止する。これにより、遮断制御部23bは、遮断されていたバイパス回路21を再び接続する(初期状態に復帰する)。前述したように、第2遮断部23としてノーマル・クローズのリレーを採用することができる。このリレーは、電源が無くても遮断制御部23bの接続状態を維持することができるので、本実施例に適するデバイスの1つである。バイパス回路21によって発電素子11と二次電池Bとが接続されている状態では、整流部12、電圧制御部13、及び、遮断部14が駆動していない。このため、この状態では、発電素子の発電による電気エネルギーを二次電池Bに効率的に充電することができない。
【0067】
ところで、
図4から明らかなように、バイパス回路21は、発電素子11の発電による電気エネルギーを二次電池Bに直接的に供給するための回路である。換言すると、発電素子11、整流部12、電圧制御部13、及び、遮断部14をこの順序で経由して二次電池Bへと至るルート(
図4において太枠で囲まれたルート)とは異なり、バイパス回路21には電圧制御部13に相当する構成要素が存在していない。このため、発電素子11の発電による電気エネルギーを、バイパス回路21を経由して二次電池Bに供給するためには、一定以上の電圧を伴った発電を行う必要がある。このような回路構成に鑑み、二次電池Bの蓄電量が整流部12、電圧制御部13、及び、遮断部14を駆動させるために必要な蓄電量に達していないときには、発電素子11によって、二次電池Bの充電を行うことが可能な程度の発電を行うことにより、二次電池Bが適正に充電され、ひいては、再び、当該二次電池Bが整流部12、電圧制御部13、及び、遮断部14を駆動させることができるようになる。
【0068】
したがって、二次電池Bの蓄電量が整流部12、電圧制御部13、及び、遮断部14を駆動させるために必要な蓄電量に達していないときには、例えば発電回路20が搭載された電子機器を振るなどして、発電素子11に対して比較的大きな振動を与えればよい。このとき、発電素子11は、二次電池Bの充電を行うことが可能な程度の電圧を伴う電気エネルギーを発電する。発電により生じた電気エネルギーは、整流素子22によって、交流電流から直流電流に整流された後に、二次電池Bに供給される。二次電池Bは、当該電気エネルギーの供給により、適正に充電される。
【0069】
そして、二次電池Bの蓄電量が整流部12、電圧制御部13、及び、遮断部14を駆動させることが可能な蓄電量に達すると、再び、蓄電量判定部23aが遮断制御部23bに対して信号を発信する。これにより、遮断制御部23bは、当該信号に基づいて、発電素子11と二次電池Bとの接続を遮断(切断)する。これにより、発電回路20が初期状態に復帰される。このときの発電回路20は、第1の実施の形態による発電回路10と実質的に同じ回路構成となる。
【0070】
以上のような本実施の形態の発電回路20によれば、二次電池Bが整流部12、電圧制御部13、及び、遮断部14を駆動させることが可能な程度に充電されていない場合であっても、発電素子11を振動させることによって二次電池Bに充電を行うことができる。このようなバイパス回路21を用いた二次電池Bの充電によって、当該二次電池Bは、再び、整流部12、電圧制御部13、及び、遮断部14を駆動させることができるようになる。バイパス回路21を経由した発電経路よりも、整流部12、電圧制御部13、遮断部14を経由した発電経路の方が効率的な発電を行うことができるため、再び効率的な二次電池Bの充電を行うことができる。
【0071】
<<< §3. 発電素子の具体例1 >>>
< 3−1. 構成>
次に、上述した発電回路10、20に採用可能な発電素子11の一例について説明する。
図5は、そのような発電素子11を示す斜視図(一部はブロック図)である。また、
図6(a)は、
図5に示す発電素子11の基本構造部の上面図であり、
図6(b) は、その側面図である。
図7は、
図6(a)に示す基本構造部をYZ平面で切断した側断面図であり、
図8は、
図6(a)に示す基本構造部を切断線8−8に沿って切断した側断面図である。
【0072】
図5乃至
図8に示すように、この発電素子11は、主基板110、重錘体群210、台座310及び電荷発生素子400を備えている。発電素子11は、電荷発生素子400を介して発電回路10、20に接続されるようになっている。ここでは、主基板110、重錘体群210、台座310によって構成される物理的な構成部分を基本構造部と呼ぶことにする。
図5では、この基本構造部が斜視図として示されており、電荷発生素子400、および、発電素子11を除く発電回路10、20がブロック図として示されている。発電素子11は、基本構造部と電荷発生素子400とで構成されている。この発電素子11の特徴は、斜視図として示す基本構造部の固有の構造にある。以下、この固有の構造についての説明を行う。
【0073】
まず、
図5乃至
図8に示すようなXYZ三次元直交座標系を定義し、Y軸を基準軸と呼ぶことにする。この発電素子11では、板状構造体である主基板110による片持ち梁によって重錘体群210を支持する構造が採用されており、振動エネルギーを電気エネルギーに変換することにより発電が行われるようになっている。
【0074】
主基板110は、平面形状がE字状をした板状の構造体であり、図示のとおり、中央板状構造体111、異属間接続体112、負側板状構造体113、正側板状構造体114の4つの部分によって構成される。異属間接続体112は、後述するように、異なる属性をもつ板状構造体を相互に接続する役割を果たす。負側板状構造体113は、X座標値が負の領域に配置された構成要素であり、正側板状構造体114は、X座標値が正の領域に配置された構成要素である。なお、ここでは便宜上、主基板110を上記4つの部分に分けて説明するが、主基板110は、あくまでも一体となった1枚のE字状基板であり、上記4つの部分は、この1枚のE字状基板において、特定の役割を担う部分ということになる。
【0075】
主基板110は可撓性をもった部材を構成できる材質であれば、どのような材料を用いて構成してもかまわないが、実用上は、シリコンや金属によって構成するのが好ましい。
【0076】
一方、重錘体群210は、図示のとおり、3組の重錘体211,212,213によって構成され、それぞれ主基板110の下面の所定箇所に接続されている。具体的には、重錘体211は、異属間接続体112の下面に接続されており、重錘体212は、負側板状構造体113の先端部(図の左側端部)の下面に接続されており、重錘体213は、正側板状構造体114の先端部(図の左側端部)の下面に接続されている。これら各重錘体211,212,213は、振動を生じさせるのに十分な質量を有する材料であれば、どのような材料を用いて構成してもかまわないが、十分な質量を確保する上では、SUS(鉄),銅,タングステンなどの金属、あるいは、シリコン、セラミックもしくはガラス等を用いるのが好ましい。
【0077】
特に
図6(a)及び
図6(b)に示すように、本実施の形態では、重錘体211は、Z軸方向から見て、負側板状構造体113及び正側板状構造体114の各根端部において、Y軸方向の厚みが他の領域よりも小さくなっている。
【0078】
そして、台座310は、中央板状構造体111の根端部(図の左側端部)を支持固定する構成要素である。実際には、この台座310は発電素子11の装置筐体に固定され、振動源からの振動エネルギーを中央板状構造体111に伝達する役割を果たす。
図5には、直方体のブロック状をした台座310が描かれているが、台座310は、中央板状構造体111を支持固定することができるものであれば、どのような形状のものでも、どのような材料を用いて構成したものでもかまわない。
【0079】
本願では、各板状構造体111〜113の両端部分のうち、台座310への接続経路上において、台座310に近い方を根端部と呼び、台座310から遠い方を先端部と呼ぶことにする。たとえば、中央板状構造体111の場合、図の左の方が右よりも台座310に近いため、左端側が根端部、右端側が先端部ということになる。これに対して、負側板状構造体113および正側板状構造体114の場合は、空間的な位置関係に着目すると、図の左の方が右よりも台座310に近い。しかしながら、台座310への接続経路を考えると、端点T3は、T3−T2−T1−Oという経路で台座310に接続されており、端点T5は、T5−T4−T1−Oという経路で台座310に接続されている。したがって、当該接続経路上においては、図の右の方が左よりも台座310に近いため、右端側が根端部、左端側が先端部ということになる。
【0080】
異属間接続体112およびその下面に接続された重錘体211は、Y軸に沿って伸びる中央板状構造体111によって、台座310に対して片持ち梁構造で支持されている。中央板状構造体111は、可撓性を有しているため、外力が作用すると撓みを生じ、原点Oに対して端点T1は変位する。したがって、台座310に対して振動エネルギーが加えられると、中央板状構造体111は周期的な撓みを生じ、重錘体211は振動する。後述するように、このような振動は、第1の共振系Iの振動になる。
【0081】
一方、重錘体212は、Y軸に平行な方向に伸びる負側板状構造体113によって、異属間接続体112に対して片持ち梁構造で支持されている。負側板状構造体113のうち、少なくとも重錘体212が接続されていない部分は可撓性を有しているため、外力が作用すると撓みを生じ、端点T2に対して端点T3は変位する(この例の場合、重錘体212が接続されている部分には、有意な撓みは生じない)。したがって、異属間接続体112に対して振動エネルギーが加えられると、負側板状構造体113は周期的な撓みを生じ、重錘体212は振動する。後述するように、このような振動は、第2の共振系IIの振動になる。
【0082】
同様に、重錘体213は、Y軸に平行な方向に伸びる正側板状構造体114によって、異属間接続体112に対して片持ち梁構造で支持されている。正側板状構造体114のうち、少なくとも重錘体213が接続されていない部分は可撓性を有しているため、外力が作用すると撓みを生じ、端点T4に対して端点T5は変位する(この例の場合、重錘体213が接続されている部分には、有意な撓みは生じない)。したがって、異属間接続体112に対して振動エネルギーが加えられると、正側板状構造体114は周期的な撓みを生じ、重錘体213は振動する。この振動は、やはり第2の共振系IIの振動になる。
【0083】
このように、第1の共振系Iの基点となる原点Oは台座310に固定されているため、第1の共振系Iの振動端T1は、原点Oを基準にして振動することになる。これに対して、第2の共振系IIの基点となる端点T2,T4は、端点T1の振動に応じて振動することになり、第2の共振系IIの振動端T3,T5は、振動中の端点T2,T4を基準にして振動することになる。別言すれば、この基本構造部は、第1の共振系Iと第2の共振系IIとを入れ子状にした複雑な合成振動系を構成していることになる。後述するように、このような複雑な合成振動系を構成することにより、発電可能な周波数帯域を広げることが可能となる。
【0084】
また、
図6(b)乃至
図8に示すように、各重錘体211,212,213の底面の位置は、台座310の底面の位置よりも若干上方に設定されている。これは、台座310の底面を装置筐体に固定したときに、装置筐体と各重錘体211,212,213の底面との間に若干の空間が維持されるようにするための配慮である。各重錘体211,212,213は、この空間を利用して装置筐体内で振動することになる。
【0085】
図5にブロック図として描かれている電荷発生素子400は、これら板状構造体111,113,114の変形に基づいて電荷を発生させる構成要素(たとえば、圧電素子)である。この電荷発生素子400の構成や動作については、後述の3−4.で説明する。
【0086】
< 3−2. 複数の共振系をもつ基本構造部の特徴>
3−1.では、発電素子11の基本構造部に、複数の共振系が含まれており、全体として、複雑な合成振動系が構成されることを簡単に説明した。ここでは、これら複数の共振系の具体的な振動態様の特徴とその共振周波数について、より詳しい説明を行うことにする。
【0087】
図6(a)に示す基本構造部において、重錘体211は、中央板状構造体111による片持ち梁構造で台座310に対して支持されており、台座310から重錘体211に至る経路は、原点Oから端点T1に至る経路になる。これに対して、重錘体212は、中央板状構造体111,異属間接続体112,負側板状構造体113による片持ち梁構造で台座310に対して支持されており、台座310から重錘体212に至る経路は、O−T1−T2−T3を辿る経路になる。同様に、重錘体213は、中央板状構造体111,異属間接続体112,正側板状構造体114による片持ち梁構造で台座310に対して支持されており、台座310から重錘体213に至る経路は、O−T1−T4−T5を辿る経路になる。
【0088】
このように、3組の重錘体211,212,213は、いずれも片持ち梁構造で台座310に対して支持されているが、片持ち梁構造の経路が異なるため、それぞれ別個の共振系が構成されることになる。
図9は、この基本構造部に含まれている2通りの共振系を示す概念図である。
【0089】
図9(a)は、第1属性をもつ中央板状構造体111の変形に起因して振動を生じる第1の共振系Iを示す。この図では、中央板状構造体111の根端部に位置する原点Oを固定した状態において、先端部に位置する端点T1が変位する様子が示されている。ここでは、この共振系を、1本の線からなる可撓性をもった板状構造体111と、端点T1に位置する質点mと、によって構成される単純なモデルとして考える。図の実線は、静止状態の系を示し、破線は振動状態の系を示す。振動状態では、板状構造体111が破線で示すように変形し、端点T1は、静止状態の位置T1(0)から、上方位置T1(+)まで変位したり、下方位置T1(−)まで変位したりする動作を繰り返す。
【0090】
図6(a)に示すように、端点T1には、異属間接続体112、負側板状構造体113、正側板状構造体114、重錘体211,212,213の合計荷重が加わることになり、中央板状構造体111は、これらの荷重を支持する役割を果たしている。したがって、
図9(a)のモデルにおける質点mは、構成要素211,212,213,112,113,114の全体の質量をもつ点ということになる。
【0091】
図9(b)は、第2属性をもつ負側板状構造体113の変形に起因して振動を生じる第2の共振系IIを示す(正側板状構造体114の変形に起因して振動を生じる共振系も同じである)。この図では、負側板状構造体113の根端部に位置する端点T2を固定した状態において、先端部に位置する端点T3が変位する様子が示されている。ここでも、この共振系を、1本の線からなる可撓性をもった板状構造体113と、端点T3に位置する質点mと、によって構成される単純なモデルとして考える。やはり実線は、静止状態の系を示し、破線は振動状態の系を示す。振動状態では、板状構造体113が破線で示すように変形し、端点T3は、静止状態の位置T3(0)から、上方位置T3(+)まで変位したり、下方位置T3(−)まで変位したりする動作を繰り返す。
【0092】
図6(a)に示すように、端点T3には、重錘体212の荷重が加わることになり、負側板状構造体113は、当該荷重を支持する役割を果たす。したがって、
図9(b)のモデルにおける質点mは、重錘体212の質量をもつ点ということになる。この
図9(b)に示す共振系IIの場合、その共振周波数fr2の値は、板状構造体113のバネ定数と質点mの質量(重錘体212の質量)によって定まるので、これらの値を調整することにより、共振周波数fr2の値を調整することが可能である。
【0093】
もっとも、
図6に示す基本構造部の場合、
図9(b)のモデルにおいて固定点として示されている端点T2は、
図9(a)のモデルにおいて変位点として示されている端点T1に接続されている。このため、実際には、端点T2は固定点ではなく、端点T1とともに振動する点になり、第2の共振系IIは、それ全体が第1の共振系Iによって振動させられる系になる。したがって、
図6に示す基本構造部は、第1の共振系Iと第2の共振系IIとを入れ子状にした複雑な合成振動系を構成している。
【0094】
図9(c)は、このような合成振動系を単純なモデルとして示す図であり、
図9(a)に示す第1の共振系Iの端点T1の位置に、
図9(b)に示す第2の共振系IIを接ぎ木した形態をとる。実際には、第2の共振系IIとしては、負側板状構造体113についての系と正側板状構造体114についての系との2組が組み込まれることになる。したがって、この合成振動系には、中央板状構造体111についての共振系I、負側板状構造体113について共振系II、正側板状構造体114について共振系IIが含まれている。ここで、2組の共振系IIは、その全体が、端点T1に接続された「共振系Iの重り」として機能するため、共振系Iは、2組の共振系IIをそっくり含んだ系ということになる。
【0095】
図9(c)は、端点T1が上方位置T1(+)に変位し、端点T3が所定位置T3(b)に変位した状態を示している。ここで、位置T3(b)は、
図9(b)に示す端点T3の位置に応じて定まる。上述したとおり、共振系Iの共振周波数fr1は、板状構造体111のバネ定数とその質点mの質量(端点T1に加わる荷重)によって定まり、共振系IIの共振周波数fr2は、板状構造体113もしくは114のバネ定数とその質点mの質量(端点T3もしくはT5に加わる荷重)によって定まる。したがって、これらの値を調整することにより、共振周波数fr1,fr2の値を調整することができる。ただ、共振系IIは、全体が共振系Iの重りとして機能するため、共振系IIに対して施した調整は、共振系Iに対しても影響を与えることになる。
【0096】
なお、
図9に実線もしくは破線で示す各板状構造体の変形態様は、各共振系が1次共振モードで共振している状態を示すものであるが、実際には、より高次の共振モードで振動する場合もある。
【0097】
図10は、一般的な板状構造体の共振モードのいくつかの例を示す模式図であり、水平線を基準位置としたときの板状構造体の変形態様が示されている。図の曲線が板状構造体を示しており、左端(根端部)が固定され、右端(先端部)が自由端となっている。図には、各変形状態において、板状構造体の上面に作用する応力の方向を矢印で示した。具体的には、白い矢印は上面に「長手方向に伸びる応力」が作用することを示し、黒い矢印は上面に「長手方向に縮む応力」が作用することを示している。
【0098】
図10(a)は1次共振モードの変形態様を示しており、全体的に上方に凸となるなだらかな曲線が描かれている。このような変形状態では、板状構造体の上面にはその長手方向に伸びる応力が作用する(白い矢印参照)。なお、板状構造体の下面には、逆に、長手方向に縮む応力が作用するが、ここでは、上面の伸縮のみに着目する。
【0099】
一方、
図10(b)は2次共振モードの変形態様を示しており、根端部近傍では下方に凸となるなだらかな曲線になるが、その先は、上方に凸となるなだらかな曲線になる。その結果、板状構造体の根端部上面には長手方向に縮む応力が作用し(黒い矢印参照)、その先の上面には長手方向に伸びる応力が作用する(白い矢印参照)。同様に、
図10(c) は3次共振モードの変形態様を示しており、曲線はより複雑な形状をなし、部分的に縮む応力(黒い矢印参照)や、伸びる応力(白い矢印参照)が作用する。図示は省略するが、4次以上の共振モードでは、板状構造体の変形態様は更に複雑になる。
【0100】
この
図10に示す各共振モードは、片持ち梁型の単純な共振系における板状構造体についてのものであり、周波数特性のグラフ上には、共振モードの次数に応じた共振周波数のピークが現れ、一般に、共振モードの次数が高くなるほど、ピーク位置はより周波数の高い方にシフトする。
【0101】
もちろん、この単純な共振系における共振モードを、
図9(c)に示すような合成振動系にそのまま当てはめることはできないが、いずれにしても、
図5に示す各板状構造体111,113,114の変形態様は、外部環境から与えられる振動の周波数に応じて様々に変化し、各部に加わる応力の方向も変化することになる。実際には、
図5に示す各板状構造体111,113,114は、いずれも複数の共振モードで振動し、共振周波数のピークが複数箇所に現れることになるが、各板状構造体の表面に生じる応力は、
図10(a)に示す1次共振モードによる変形態様において最も大きくなり、この1次共振モードによる振動が発電に最も寄与する。したがって、以下、各板状構造体が1次共振モードにより振動するものとして、本発明の作用効果の説明を行う。
【0102】
< 3−3. 共振周波数の調整 >
上述したとおり、個々の共振系には、それぞれ固有の共振周波数frが存在し、各共振周波数frは、板状構造体のバネ定数と重りの質量によって定まる。したがって、各板状構造体のバネ定数と重りの質量を調整すれば、個々の共振系の共振周波数frを周波数軸上の所望の方向にシフトさせることができ、発電可能な周波数帯域を広げることができる。
【0103】
図11は、片持ち梁の自由端に重錘体を取り付けた単純な共振系において、重錘体の共振周波数frを調整するための具体的な方法をまとめた表である。この表に示されている具体的な調整方法は、板状構造体の形状や材質を変える方法(板状構造体のバネ定数を変える方法)と、重錘体の質量を変える方法とに大別される。
【0104】
前者としては、板状構造体について、厚みt(Z軸方向の寸法)を変える方法、幅w(X軸方向の寸法)を変える方法、長さL(Y軸方向の寸法)を変える方法、材質(ヤング率E)を変える方法が挙げられている。まず、板状構造体の厚みtを薄くすれば、共振周波数frは低くなり、厚みtを厚くすれば、共振周波数frは高くなる。同様に、板状構造体の幅wを狭くすれば、共振周波数frは低くなり、幅wを広くすれば、共振周波数frは高くなる。そして、板状構造体の長さL(共振系の長さ)を長くすれば、共振周波数frは低くなり、長さLを短くすれば、共振周波数frは高くなる。最後に、板状構造体の材質を柔らかくすれば(ヤング率Eを小さくすれば)共振周波数frは低くなり、材質を硬くすれば(ヤング率Eを大きくすれば)共振周波数frは高くなる。
【0105】
一方、後者は、重錘体の質量mを変える方法であり、具体的には、サイズを変える方法と材質(比重)を変える方法とがある。いずれの場合も、質量mを大きくすると(重くすると)共振周波数frは低くなり、質量mを小さくすると(軽くすると)共振周波数frは高くなる。
【0106】
この
図11の表に示す調整方法は、前述したような単純な共振系を前提としたものであるが、その基本原理は、複数の重錘体を有する
図5に示す基本構造部にも適用することができる。
【0107】
板状構造体の形状や材質を変える前者の方法では、変更対象として、厚みt、幅w、長さL、材質(ヤング率E)という4つのパラメータが存在するが、もちろん、これら4つのパラメータを組み合わせて変更するようにしてもかまわない。この4つのパラメータを変えることは、共振系のバネ定数を変えることに他ならない。もちろん、共振周波数をシフトさせる方法には、重錘体の質量mを変える方法もあるので、板状構造体の形状や材質を変える前者の方法と、重錘体の質量mを変える後者の方法と、を組み合わせて利用することもできる。
【0108】
続いて、
図5に示す発電素子11の全体の発電量に関する周波数特性について説明する。
図12は、
図5に示す発電素子11の基本構造部について、コンピュータシミュレーションを行った結果として得られた各共振系の振動点となる端点T1,T3の振動の周波数特性を示すグラフである。グラフの横軸は、この発電素子11に外部から与える振動(この例では、Z軸方向の振動)の周波数fを示し、グラフの縦軸は、当該外部振動に基づいて励振する端点T1もしくは端点T3の振幅Aを示している。
【0109】
具体的には、
図12(a)は、第1の共振系Iの振動点となる端点T1についての振幅Aを示す周波数特性であり、周波数値fr1の位置に大きなピーク波形P11が現れており、周波数値fr2の位置に小さなピーク波形P12が現れている。一方、
図12(b)は、第2の共振系IIの振動点となる端点T3についての振幅Aを示す周波数特性であり、周波数値fr2の位置に大きなピーク波形P22が現れており、周波数値fr1の位置に小さなピーク波形P21が現れている。
【0110】
ここで、周波数値fr1は、第1の共振系Iに固有の1次共振モードでの共振周波数であり、周波数値fr2は、第2の共振系IIに固有の1次共振モードでの共振周波数である。
図5の基本構造部において、各板状構造体111,113,114は、厚みtは同一であるが、幅wおよび長さLは若干相違する。具体的には、
図6(a)に示すとおり、第1の共振系Iを構成する板状構造体111は、第2の共振系IIを構成する板状構造体113,114に比べて、幅wは狭く、長さLは長い。したがって、
図11の表を参照すると、第1の共振系Iを構成する板状構造体111の方が、第2の共振系IIを構成する板状構造体113,114よりもバネ定数kが小さくなり、板状構造体のバネ定数の比較に関する限り、第1の共振系Iの共振周波数fr1の方が、第2の共振系IIの共振周波数fr2よりも低くなる。
【0111】
一方、第1の共振系Iの重りの質量mは、
図9(a)に示すとおり、構成要素211,212,213,112,113,114の全体の質量になる。これに対して、第2の共振系IIの重りの質量mは、
図9(b)に示すとおり、重錘体212の質量になる。したがって、第1の共振系Iの重りの方が、第2の共振系IIの重りよりも重くなるので、
図11の表を参照すると、重りの重さに関しても、やはり第1の共振系Iの共振周波数fr1の方が、第2の共振系IIの共振周波数fr2よりも低くなる。
【0112】
結局、
図5の基本構造部の場合、共振周波数fr1の方が、共振周波数fr2よりも低くなる。
図12(a)及び
図12(b)に示すグラフは、このような理論的な解析結果に合致する周波数特性を示している。
【0113】
したがって、
図5に示す台座310に対して外部から振動を与え、この外部振動の周波数fを低い方から徐々に上げてゆくと、次のような現象が見られることになる。まず、与える外部振動の周波数fが共振周波数fr1に達したときに、
図12(a)のピーク波形P11に示すとおり、端点T1の振幅Aが急激に増大する。これは、端点T1の振動に関与する第1の共振系Iがその固有の共振周波数fr1に達したためである。このとき、第2の共振系IIについては、まだ固有の共振周波数fr2に達していないため、本来であれば、端点T3の振幅Aは極めて小さくなるはずである。
【0114】
しかしながら、実際には、第1の共振系Iと第2の共振系IIとは、
図9(c)に示すような入れ子状をなしており、両者は物理的にも接続されているため、振動に関して相互に影響を及ぼすことになる。すなわち、外部振動の周波数fが共振周波数fr1に達し、端点T1の振幅Aがピーク波形P11に示すように急増すると、その影響を受け、端点T3の振幅Aも増加する。
図12(b)に示す小さなピーク波形P21は、このような影響を受けて発生したピーク波形である。要するに、端点T1の共振周波数fr1に相当する周波数をもった外部振動が与えられると、端点T1の振幅が急増するだけでなく、その影響で、端点T3の振幅も増加する現象が生じる。
【0115】
続いて、外部振動の周波数fが共振周波数fr2に達した場合を考えると、
図12(b)のピーク波形P22に示すとおり、端点T3の振幅Aが急激に増大する。これは、端点T3の振動に関与する第2の共振系IIがその固有の共振周波数fr2に達したためである。このとき、その影響を受け、端点T1の振幅Aも増加する。
図12(a)に示す小さなピーク波形P12は、このような影響を受けて発生したピーク波形である。要するに、端点T3の共振周波数fr2に相当する周波数をもった外部振動が与えられると、端点T3の振幅が急増するだけでなく、その影響で、端点T1の振幅も増加する現象が生じる。
【0116】
なお、
図12(b)は、端点T3(負側板状構造体113の先端点)の振動の周波数特性を示すものであるが、端点T5(正側板状構造体114の先端点)の振動の周波数特性も全く同じものになる。
【0117】
結局、
図5に示す発電素子11の台座310に対して、共振周波数fr1をもつ外部振動が加えられたときには、重錘体211には
図12(a)のピーク波形P11に示すような振幅Aをもった振動が生じ、重錘体212,213には
図12(b)のピーク波形P21に示すような振幅Aをもった振動が生じることになる。また、共振周波数fr2をもつ外部振動が加えられたときには、重錘体211には
図12(a)のピーク波形P12に示すような振幅Aをもった振動が生じ、重錘体212,213には
図12(b)のピーク波形P22に示すような振幅Aをもった振動が生じることになる。
【0118】
そこで、中央板状構造体111,負側板状構造体113,正側板状構造体114の変形に基づいて電荷発生素子400が発生させた電荷を発電回路10,20によって整流して取り出すようにすれば、発電素子11全体としての発電量の周波数特性は、
図13のグラフに示すようになる。すなわち、第1の共振系Iの共振周波数fr1の位置に発電量の第1ピーク波形P1(半値幅h1)が得られ、第2の共振系IIの共振周波数fr2の位置に発電量の第2ピーク波形P2(半値幅h2)が得られる。なお、
図13では、便宜上、2つのピーク波形P1,P2の高さや幅を同一に描いているが、実際には、個々のピーク波形P1,P2の高さや幅は、
図5に示す基本構造部の各部の寸法や材質などの条件によって定まることになる。
【0119】
この
図13の縦軸に示す発電量は、あくまでも発電素子11全体としての総発電量であるから、
図13に示す第1ピーク波形P1には、第1の共振系Iを構成する中央板状構造体111の変形に基づく発電量だけでなく、第2の共振系IIを構成する負側板状構造体113および正側板状構造体114の変形に基づく発電量も含まれている。第2ピーク波形P2も同様に、各板状構造体111,113,114の変形に基づく総発電量を示すものである。
【0120】
片持ち梁型の単純な板状構造体を採用した発電素子の場合、ピーク波形は1つしか存在しない。このため、当該ピーク波形に対応する周波数をもった外部振動が与えられたときにのみ効率的な発電が行われることになり、発電可能な周波数帯域は、その半値幅程度の狭いものにならざるを得ない。これに対して、
図5に示す本発明に係る発電素子11の場合、
図13のグラフに示すとおり、共振周波数fr1,fr2の位置にそれぞれピーク波形P1,P2が得られるため、これら共振周波数fr1,fr2近傍の周波数をもった外部振動が与えられたときに効率的な発電が可能になり、発電可能な周波数帯域を、図示の周波数帯域R1程度にまで広げることが可能になる。
【0121】
もちろん、図示の周波数帯域R1は、周波数fr1〜fr2の範囲をすべてカバーする連続した帯域ではなく、いわば「歯抜け状態」の帯域である。したがって、fr1〜fr2の範囲の周波数をもった外部振動のすべてについて効率的な発電が行われるわけではないが、周波数特性が単一のピークのみを有する発電素子の発電特性に比べれば、発電可能な周波数帯域を広げる効果が得られることになる。
【0122】
前述したとおり、
図5に示す発電素子11の基本構造部では、第1属性をもつ板状構造体111と第2属性をもつ板状構造体113,114とが、異属間接続体112によって接続されており、しかも第1属性をもつ板状構造体111と第2属性をもつ板状構造体113,114とは、根端部から先端部へ向かう方向が逆転した関係になっている。このため、すべての板状構造体は、同じ基準軸Yに沿った方向に伸びているが、異属間接続体112において折り返す構造になっているため、基本構造部全体を、比較的コンパクトな空間に収容することができ、発電素子全体として小型化を図ることができる。
【0123】
しかも、上記構造により、同じ基準軸Yに沿った方向に伸びる複数の板状構造体によって、入れ子状になった合成振動系を形成することができるので、
図13の周波数特性に示すように、比較的大きな発電量のピークP1,P2を複数箇所に設けることができるようになり、発電可能な周波数帯域を広げる効果が得られることになる。これが、本発明の重要な作用効果である。
【0124】
その上、発電素子11を設計する際には、複数の共振系についてのバネ定数や重りの質量を変更することにより、発電量のピークP1,P2の位置をシフトさせることが可能である。
【0125】
発電素子11の実利用環境において外部から与えられるであろう振動が、図示する周波数帯域R1内の周波数成分を含んだ振動であろうと想定される場合には、
図13に示す周波数特性は、非常に好ましいと言える。特に、実利用環境における外部振動の主たる周波数成分が、fr1,fr2であるような場合は、
図13に示す周波数特性は、正に理想的な特性になる。
【0126】
しかしながら、想定される外部振動の周波数成分が、より広い範囲に分布している場合は、ピーク波形P1の共振周波数fr1(第1の共振系Iの共振周波数)をより低くなるように左側にシフトさせ、ピーク波形P2の共振周波数fr2(第2の共振系IIの共振周波数)をより高くなるように右側にシフトさせる調整を行うのが好ましい。
図14(a)は、このような調整を行った結果を示すグラフである。ピーク波形P1の共振周波数fr1はfr1(−)に調整され、ピーク波形P1は左側にシフトしてピーク波形P1′となっている。また、ピーク波形P2の共振周波数fr2はfr2(+)に調整され、ピーク波形P2は右側にシフトしてピーク波形P2′となっている。
【0127】
その結果、
図14(a)のグラフの場合、全体の周波数帯域がR2に広がっている。もちろん、この周波数帯域R2は、周波数fr1(−)〜fr2(+)の範囲をすべてカバーする連続した帯域ではなく、「歯抜け状態」の帯域であるが、周波数fr1(−)〜fr2(+)の範囲の周波数成分を含む外部振動が与えられた場合には、好ましい周波数特性を示すことになる。特に、主たる周波数成分が、fr1(−),fr2(+)であるような場合は、
図14(a)に示す周波数特性は理想的な特性になる。
【0128】
逆に、想定される外部振動の周波数成分が、より狭い範囲に分布している場合は、
図13に示す周波数特性において、ピーク波形P1の共振周波数fr1をより高くなるように右側にシフトさせ、ピーク波形P2の共振周波数fr2をより低くなるように左側にシフトさせる調整を行うのが好ましい。
図14(b)は、このような調整を行った結果を示すグラフである。ピーク波形P1の共振周波数fr1はfr1(+)に調整され、ピーク波形P1は右側にシフトする。また、ピーク波形P2の共振周波数fr2はfr2(−)に調整され、ピーク波形P2は左側にシフトする。その結果、2つのピーク波形は融合し、半値幅h1,h2よりも広い半値幅hhをもった融合ピーク波形PPが形成されている。
【0129】
この
図14(b)のグラフの場合、全体の周波数帯域はR3になり、
図13のグラフの周波数帯域R1よりは狭くなっているが、融合ピーク波形PPが形成されているため、周波数帯域R3は、周波数fr1(+)〜fr2(−)の範囲をすべてカバーする連続した帯域になる。したがって、周波数fr1(+)〜fr2(−)の近傍の周波数成分を含む外部振動が与えられた場合には、
図14(b)に示す周波数特性は理想的な特性になる。
【0130】
実用上は、実利用環境で発生する外部振動の周波数成分を考慮して、適切な周波数特性をもつ発電素子を設計するのが好ましい。そのためには、第1の共振系Iおよび第2の共振系IIの共振周波数fr1,fr2をそれぞれ所望の方向にシフトする調整が必要になる。もちろん、想定される外部振動の周波数成分が全体的に高い場合や、全体的に低い場合は、周波数帯域自体を周波数軸fに沿って左右に移動させるような調整も必要になる。
【0131】
各共振系の共振周波数frを調整するには、
図11の表に示したとおり、板状構造体を調整する方法(バネ定数を調整する方法)と、重錘体の質量を調整する方法がある。バネ定数を調整する方法を採る場合は、第1属性の板状構造体の変形に起因して振動を生じる第1の共振系Iと、第2属性の板状構造体の変形に起因して振動を生じる第2の共振系IIと、について、第1の共振系Iのバネ定数k1と第2の共振系IIのバネ定数k2とが異なるように設定すればよい。このような設定を行えば、少なくとも2組の共振周波数fr1,fr2を異なる値に設定することができ、単一の共振周波数をもつ共振系に比べて、発電可能な周波数帯域を広げる効果が得られる。
【0132】
ここで、第1の共振系Iのバネ定数k1は、
図9(a)に示すように、点O(台座)を固定した状態において、端点T1(異属間接続体112)に対して所定の作用方向(たとえば、図示の例はZ軸方向)に力Fを加えたときに、端点T1の当該作用方向に生じる変位をd1として、k1=F/d1なる式で与えられる値k1として定義することができる。
【0133】
同様に、第2の共振系IIのバネ定数k2は、
図9(b)に示すように、端点T2(異属間接続体112)を固定した状態において、端点T3もしくはT5(第2属性の板状構造体113もしくは114の振動端)に対して上記作用方向に力Fを加えたときに、端点T3もしくはT5の当該作用方向に生じる変位をd2として、k2=F/d2なる式で与えられる値k2として定義することができる。
【0134】
実際には、バネ定数は、変位の方向に応じて異なるため、個々の方向ごとに別個のバネ定数が定義される。たとえば、
図9(a)及び
図9(b)に示す例のように、力FをZ軸方向に加えたときに生じる変位d1,d2に基づいて算出されるバネ定数は、Z軸方向に関するバネ定数ということになる。したがって、実用上は、実利用環境で発生すると想定される外部振動の代表的な振動方向に関するバネ定数を考慮して設計を行うようにすればよい。
【0135】
バネ定数に影響を与えるパラメータは、
図11の表に示すように、板状構造体の厚み、幅、長さ、材質という4つのパラメータである。したがって、2組の共振周波数fr1,fr2を異なる値に設定して、発電可能な周波数帯域を広げる効果を得るには、基本構造部に含まれる複数の板状構造体のうち、少なくとも2組に関して、厚み、幅、長さ、材質の4つのパラメータのうちの1つのパラメータもしくは複数のパラメータを異ならせることにより、第1の共振系のバネ定数と第2の共振系のバネ定数とが異なるように設定すればよい。
【0136】
もちろん、重錘体の質量を変えることにより、共振周波数を調整することもできる。また、重錘体の位置を変えることにより(これは、板状構造体の長さを変えることと等価である)、共振周波数を調整することもできる。
【0137】
< 3−4. 電荷発生素子 >
次に、電荷発生素子400についての説明を行う。前述したとおり、台座310に外部振動が加わると、各板状構造体111,113,114が撓んで変形することにより、各重錘体211,212,213が振動する。電荷発生素子400は、各板状構造体111,113,114の変形に基づいて電荷を発生させる構成要素である。
図5に示す基本構造部においては、層状の圧電素子が各板状構造体111,113,114の表面に形成されている。圧電素子は、下部電極層、圧電材料層、上部電極層の3層構造によって構成されている。
【0138】
図15(a)は、
図3に示す基本構造部に、電荷発生素子400として圧電素子を形成することにより得られる発電素子11の上面図であり、
図15(b)はこれをYZ平面で切断した側断面図である(発電回路10,20の図示は省略)。別言すれば、
図6(a),
図6(b)に示す基本構造部に圧電素子400を付加した状態が、
図15(a),
図15(b)に示されている。
【0139】
図15(b)に示すとおり、圧電素子400は、各板状構造体111,113,114の上面に形成された下部電極層410と、この下部電極層410の上面に形成され、応力に基づいて電荷を発生させる圧電材料層420と、この圧電材料層420の上面に形成された上部電極層430と、による3層構造を有し、下部電極層410および上部電極層430にそれぞれ所定極性の電荷を供給する機能を有している。
【0140】
なお、圧電素子400による発電は、実際には、各板状構造体111,113,114の変形を生じる部分(重錘体が接合されていない部分)において行われるため、理論的には、この変形が生じる部分にのみ圧電素子400を形成しておけば十分である。ただ、ここに示す実施例の場合、製造プロセスを簡略化するため、下部電極層410および圧電材料層420については、E字状をした主基板110(中央板状構造体111,異属間接続体112,負側板状構造体113,正側板状構造体114)の上面全面に形成し、上部電極層430のみ、それぞれ所定箇所に局在化して配置されるように形成している。
【0141】
図15(a)の上面図にハッチングを施して示す矩形図形E11〜E34は、局在化して配置された個々の個別上部電極層を示している(上面図のハッチングは、これら個別上部電極層E11〜E34の形状パターンを明瞭に示すためのものであり、断面を示すものではない。)。
【0142】
図示されるように、本実施の形態では、各板状変形体の上面に配置された各4つの個別上部電極層のうち、Y軸正側に配置されている各2つの個別上部電極層のY軸正側の端縁部の位置が異なっている。具体的には、中央板状構造体111の上面に配置されている当該2つの個別上部電極層のY軸正側の端縁部よりも、負側板状構造体113及び正側板状構造体114の上面に配置されている当該2つの個別上部電極層のY軸正側の端縁部の方が、よりY軸正方向の側(
図15(a)における右側)に位置している。これは、Z軸方向から見たときに、異属間接続体112の下面に接続された重錘体211のY軸負側の端縁部の位置が、中央板状構造体111の先端部近傍と、負側板状構造体113及び正側板状構造体114の各根端部近傍とで、異なっていることによる。
【0143】
圧電材料層420は、層方向に伸縮する応力の作用により、厚み方向に分極を生じる性質を有している。具体的には、圧電材料層420は、たとえば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)やKNN(ニオブ酸カリウムナトリウム)などの圧電薄膜によって構成することができる。あるいは、バルク型圧電素子を用いるようにしてもかまわない。各電極層410,430は、導電性材料であれば、どのような材料で構成してもかまわないが、実用上は、たとえば、金、白金、アルミニウム、銅などの金属層によって構成すればよい。
【0144】
なお、電荷発生素子400として上述したような圧電素子を用いる場合は、主基板110としてシリコン基板を用いるのが最適である。これは、一般に、現在の製造プロセスによって、金属基板の上面に圧電素子を形成した場合と、シリコン基板の上面に圧電素子を形成した場合とを比較すると、前者の圧電定数に比べて後者の圧電定数の方が3倍程度大きな値になり、後者の方の発電効率が圧倒的に高くなるためである。これは、シリコン基板の上面に圧電素子を形成すると、圧電素子の結晶の配向が揃うためと考えられる。
【0145】
台座310に外部振動が与えられると、主基板110の撓みにより圧電材料層420の各部に応力が加わる。その結果、圧電材料層420の厚み方向に分極が生じ、上部電極層430および下部電極層410に電荷が発生する。別言すれば、圧電素子400は、外部振動に基づいて、下部電極層410および上部電極層430にそれぞれ所定極性の電荷を供給する機能を果たす。図には示されていないが、各電極層と発電回路10,20との間には配線が施されており、圧電素子400が発生させた電荷は発電回路10,20に提供されるようになっている。
【0146】
もちろん、板状構造体111,113,114に形成する個別上部電極層の形状および配置は、必ずしも
図15(a)の上面図に示す例に限定されるわけではない。
【0147】
図16は、台座100に左端が固定された一般的な板状構造体200についての、個別上部電極層の好ましい配置を示す上面図である。図示のとおり、板状構造体200の右端には重錘体300が接続されており、この重錘体300は、板状構造体200を用いた片持ち梁構造によって台座100に対して支持されていることになる。なお、図示は省略するが、実際には、板状構造体200の上面全面には下部電極層が形成され、その上面全面には圧電材料層が形成され、図示された4枚の個別上部電極層E1〜E4は、この圧電材料層の上面に形成されている。図のハッチングは、個別上部電極層E1〜E4の形状パターンを明瞭に示すためのものであり、断面を示すものではない。
【0148】
この
図16に示す配置例の特徴は、板状構造体200の上面の中心に、Y軸に平行な方向に伸びる中心軸を定義したときに、根端部側の中心軸の両脇と先端部側の中心軸の両脇とに、それぞれ個別上部電極層E1〜E4が配置されている点である。具体的には、図示の例の場合、Y軸を中心軸として、根端部側(図の左側)の中心軸の両脇には、個別上部電極層E1,E2が配置されており、先端部側(図の右側)の中心軸の両脇には、個別上部電極層E3,E4が配置されている。
【0149】
一般に、1つの板状構造体200について、このような4組の個別上部電極層E1〜E4を配置すると、板状構造体200が特定の変形を生じた時点において、各個別上部電極層E1〜E4には、それぞれ圧電材料層から同一極性の電荷が供給される。
【0150】
たとえば、台座100を固定した状態において、重錘体300がZ軸方向(
図16の紙面に垂直な方向)に1次共振モード(
図10(a) 参照)で振動したとすると、ある瞬間において、電極E1,E2が配置されている根端部側の上面の領域には圧縮方向応力か、伸張方向応力かのいずれかが作用し、電極E3,E4が配置されている先端部側の上面の領域にはこれと逆の応力が作用する。一方、重錘体300がY軸方向に1次共振モードで振動したとすると、ある瞬間において、板状構造体200の上面の全領域には、圧縮方向応力か、伸張方向応力かのいずれかが作用する。また、重錘体300がX軸方向に1次共振モードで振動したとすると、ある瞬間において、電極E1,E4が配置されている上面の領域には圧縮方向応力か、伸張方向応力かのいずれかが作用し、電極E2,E3が配置されている上面の領域にはこれと逆の応力が作用する。
【0151】
したがって、少なくとも1次共振モードでの振動を想定した場合、重錘体300がどの方向に振動しようとも、各個別上部電極層E1〜E4には、ある時点において、それぞれ同一極性の電荷が供給される。たとえば、ある時点において、個別上部電極層E1に供給される電荷の極性は、正もしくは負のいずれか一方のみであり、同一時点で個別上部電極層E1内のある部分には正電荷、別なある部分には負電荷が供給されるようなことはない。個別上部電極層E2〜E4についても同様である。
【0152】
図16に示す例において、板状構造体200に発生する応力は、台座100や重錘体300との接続箇所の直前部分に最も集中する傾向があるので、上部電極層E1,E2の左端は台座100との境界位置まで伸ばすのが好ましく、上部電極層E3,E4の右端は重錘体300との境界位置まで伸ばすのが好ましい。
図15(a)に示す各個別上部電極層も、このような境界位置まで端部を伸ばす構成を採用している。
【0153】
図16に示す4組の上部電極層E1〜E4には、いずれも、ある時点では必ず同一極性の電荷が供給されることになるが、各上部電極層から取り出される電荷の極性は、時々刻々と変化する。これは、板状構造体200が振動すると、圧電材料層の各部に加わる応力の向き(圧縮方向応力か、伸張方向応力か)が変化し、それに応じて、発生電荷の極性が変化するためである。このような変化にも拘わらず、発電回路10、20の整流部12によって発電により生じた電流が適宜整流されるため、4組の各個別上部電極層E1〜E4あるいは12組の各個別上部電極層E11〜E34に発生した電荷を取り出して二次電池Bの充電のために有効に利用されることになる。
【0154】
<<< §4. 発電素子の具体例2 >>>
< 4−1. エレクトレット発電素子の発電原理>
上述した発電回路10、20に採用可能な発電素子11の次なる例として、エレクトレット発電素子11eをとりあげる。
【0155】
はじめに、
図17を参照して、エレクトレット発電素子11eの発電原理について説明する。
図17は、エレクトレット発電素子の発電原理を説明するための図であり、
図17(a)は、エレクトレット発電素子11eの初期状態を示す図であり、
図17(b)は、
図17(a)のエレクトレット発電素子11eにおいて、変位部材40がX軸方向に沿って固定部材50から離間するように相対移動した状態を示す図であり、
図17(c)は、
図17(a)のエレクトレット発電素子11eにおいて、変位部材40がX軸方向に沿って固定部材50に近接するように相対移動した状態を示す図である。
【0156】
図17(a)に示すように、エレクトレット発電素子11eは、変位部材40と、変位部材40に対して所定の間隔を空けて配置された固定部材50と、変位部材40及び固定部材50をX軸方向(
図17における左右方向)に沿って相対移動可能に接続する弾性変形体60と、を備えている。
【0157】
以下、各構成要素について具体的に説明する。
図17に示すように、変位部材40は、可動基板層43と、可動基板層43上に形成されたエレクトレット電極層41と、エレクトレット電極層41上に形成されたエレクトレット材料層42と、を有している。図示されるように、可動基板層43、エレクトレット電極層41及びエレクトレット材料層42は、X軸正方向に向かって(
図17における左から右に向かって)この順序で積層されている。また、固定部材50は、固定基板層52と、固定基板層52上に形成された対向電極層51と、を有している。固定基板層52及び対向電極層51は、X軸負方向に向かってこの順序で積層されている。そして、固定基板層52のX軸正側の面が取付面(取付壁)55に固定されている。
【0158】
ここでは、
図17に示すように、変位部材40及び固定部材50を構成する各層は、それぞれ均一の厚さ(X軸方向の寸法)を有しており、X軸に垂直な平面と平行に広がっている。換言すれば、エレクトレット材料層42および対向電極層51は、X軸に垂直な基準平面Sと平行になるように配置されている。更に、明確には図示されていないが、変位部材40及び固定部材50を構成する各層は、X軸方向から見て、同一の形状であり、且つ、エレクトレット電極層41及びエレクトレット材料層42を基準平面Sに投影した正射影投影像と、対向電極層51を基準平面Sに投影した正射影投影像とが、ぴったりと一致している。また、
図17(a)に示すように、初期状態において、変位部材40のエレクトレット材料層42と固定部材50の対向電極層51との離間距離がd1に設定されている。更に、これら2層は、基準面Sから互いに等距離で配置されている。
【0159】
図17に示すように、弾性変形体60は、変位部材40の可動基板層43と固定部材50の固定基板層52とを接続している。この弾性変形体60は、変位部材40が固定部材50に対してX軸方向に相対移動(近接及び離間)することを許容するが、X軸方向とは異なる方向への相対移動は許容しないような態様で、弾性変形するようになっている。
【0160】
エレクトレット材料層42は、正電荷が蓄積されたエレクトレット材料から構成されている。正電荷は、
図17において、丸で囲まれた「+」の記号で示されている。この正電荷の存在によって、対向電極層51には、静電誘導により負電荷(電子)が発生することになる。負電荷は、
図17において、丸で囲まれた「−」の記号で示されている。エレクトレット材料としては、公知の高分子電荷保持材料(ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等)、無機電荷保持材料(シリコン酸化物、シリコン窒化物等)を用いることが可能である。一方、対向電極層51は、例えば、金またはアルミニウム等の導体から構成されている。
【0161】
次に、エレクトレット発電素子11eの作用について説明する。
【0162】
本実施の形態によるエレクトレット発電素子11eとの対比のため、まず、従来のエレクトレット発電素子の発電原理を簡単に説明する。従来のエレクトレット発電素子は、エレクトレット材料層42及び対向電極層51が、X軸に垂直な方向、すなわち各層の広がり方向に相対移動することによって、発電が行われていた。つまり、エレクトレット材料層42及び対向電極層51がX軸に垂直な方向に相対移動すると、エレクトレット材料層42を基準平面Sに投影した正射影投影像と対向電極層51を基準平面Sに投影した正射影投影像と、が重なる領域の面積が変化(増大ないし減少)する。ここで、エレクトレット材料層42及び対向電極層51によって1組のコンデンサが構成されているとみなすと、この相対移動によって、当該コンデンサの静電容量値が変動することになる。従来のエレクトレット発電素子においては、この変化に基づいて当該コンデンサの静電容量値が変動することを利用して、発電を行っていた。
【0163】
これに対し、
図17に示すエレクトレット発電素子11eは、振動が与えられることで変位部材40が固定部材50に対してX軸方向に相対移動することによって、発電が行われる。
【0164】
より詳しくは、エレクトレット発電素子11eにX軸方向の振動成分を含む振動が与えられると、弾性変形体60の存在によって、X軸方向において、固定部材50に対する変位部材40の相対位置が変化する。換言すれば、弾性変形体60は、振動エネルギーが与えられることによって、固定部材50に対して変位部材40がX軸方向に相対移動することを許容するように、弾性変形する。これにより、
図17(b)及び
図17(c)に示すように、変位部材40のエレクトレット材料層42と固定部材50の対向電極層51との離間距離が変動する。このような離間距離の変動によって、次のようにして発電が行われる。
【0165】
すなわち、一例として、
図17(b)に示すように、変位部材40が固定部材50に対してX軸負方向(
図17における左方向)に相対移動し、変位部材40のエレクトレット材料層42と固定部材50の対向電極層51との離間距離がd1(
図17(a)参照)からd2(>d1)に増大した場合を想定する。このとき、対向電極層51に誘導される負電荷は、初期状態と比較して減少する(
図17(b)においては、丸で囲まれた「+」の記号が
図17(a)よりも1つ少なく描かれている)。次に、変位部材40が固定部材50に対してX軸正方向(
図17における右方向)に相対移動し、変位部材40のエレクトレット材料層42と固定部材50の対向電極層51との離間距離がd1(
図17(a)参照)からd3(<d1)に減少した場合を想定する。このとき、対向電極層51に誘導される負電荷は、初期状態と比較して増加する(
図17(c)においては、丸で囲まれた「+」の記号が
図17(a)よりも1つ多く描かれている)。
【0166】
上記の現象、すなわち、エレクトレット材料層42と対向電極層51との間の離間距離が変化することにより対向電極層51に誘導される電荷量が変化するという現象は、本件発明者によって初めて得られた知見である。このような現象は、エレクトレット材料層42と対向電極層51から構成されるコンデンサの静電容量が変化することによって発現すると推察される。すなわち、エレクトレット材料層42と対向電極層51との間の離間距離がd1からd2(>d1)に増大すると静電容量が減少するため、対向電極層51に蓄積される負電荷が減少し、反対に、離間距離がd1からd3(<d1)に減少すると静電容量が増加するため、対向電極層51に蓄積される電子が増加する、という特性に起因して、対向電極層51に誘導される電荷量が変化するものと推察される。
【0167】
ところで、従来のエレクトレット発電素子では、エレクトレット材料層42と対向電極層51とが基準平面Sと平行な方向に相対移動することによって、対向電極層51に誘導される電荷量が変化することは、知られていた。しかしながら、本件発明者の知見によれば、エレクトレット材料層42と対向電極層51とが基準平面Sの法線方向に相対移動することによっても、対向電極層51に誘導される電荷量が変化することが明らかになった。したがって、エレクトレット発電素子11eにおいては、エレクトレット材料層42と対向電極層51とが基準平面Sの法線方向に相対移動することに起因する電荷量の変化を利用することによって、従来のエレクトレット発電素子と同様に発電が行われるのである。
【0168】
< 4−2. エレクトレット発電素子による3軸発電の実施例>
4−1.では、エレクトレット発電素子11eによって、1軸方向(X軸方向)の振動による振動エネルギーを電気エネルギーに変換するための発電原理について説明した。このような発電を、前述した、エレクトレット発電素子による従来の発電、すなわち基準平面Sと平行な方向の振動成分を利用した発電と組み合わせることにより、XYZ三次元直交座標系におけるすべての軸方向に沿った振動成分を利用して効率的な発電を行うことが可能なエレクトレット発電素子111eを構成することができる。このようなエレクトレット発電素子11eの一例を、
図18を参照して以下に説明する。
【0169】
図18は、XYZ三次元直交座標系における3軸方向の振動によって発電が可能なエレクトレット発電素子111eの概略上面図である。エレクトレット発電素子111eは、本発明による発電回路10、20の発電素子11として利用することができる。
【0170】
エレクトレット発電素子111eは、
図18に示すように、XYZ三次元直交座標系に対して固定された枠状構造体80と、枠状構造体80に対して変位可能な板状構造体70と、板状構造体70及び枠状構造体80を接続する4つの弾性変形体91〜94と、を備えている。
【0171】
板状構造体70は、Z軸方向から見て、矩形の形状であり、当該矩形を構成する4辺に対応する各側面には、少なくとも1つの凸部が形成されている(
図18(a)参照)。更に、板状構造体70は、その中心位置に原点Oが配置されるようにXYZ三次元直交座標系を定義したときに、XY平面に平行な上面70eおよび下面70fを有している(
図18(b)参照)。
【0172】
枠状構造体80は、Z軸方向から見て、板状構造体70を取り囲むように配置されている。ここでは、Z軸方向から見て、板状構造体70の矩形の形状を構成する4辺に対応する4つの側面のうち、正のX軸と交わる側面を第1変位外面70aとし、負のX軸と交わる側面を第2変位外面70bとする。
【0173】
図18(a)に示すように、第1変位外面70aには、X軸正方向に突出した第1変位凸部71が設けられ、第2変位外面70bには、X軸負方向に突出した第2変位凸部72が設けられている。
図18(a)に示す例では、各変位凸部71、72は、それぞれ3つずつ設けられているが、これには限られず、任意の数の変位凸部が設けられていて良い。
【0174】
枠状構造体80は、Z軸方向から見て矩形の枠状の部材であり、当該矩形を構成する4片に対応する各内側面には、少なくとも1つの凸部が形成されている(
図18(a)参照)。ここでは、正のX軸と交わる内側面を第1固定内面80aとし、負のX軸と交わる内側面を第2固定内面80bとする。すなわち、第1固定内面80aは、X座標が正である領域において板状構造体70の第1変位外面70aに対向しており、第2固定内面80bは、X座標が負である領域において板状構造体70の第2変位外面70bに対向している。
【0175】
第1固定内面80aのうち、第1変位凸部71に対向する位置には、X軸負方向に突出した第1固定凸部81が設けられており、第2固定内面80bのうち、第2変位凸部72に対向する位置には、X軸正方向に突出した第2固定凸部82が設けられている。
図18(a)に示す例では、固定凸部81、82はそれぞれ3つずつ設けられているが、これに限定されるものではなく、各変位凸部71、72と同数の第1及び第2固定凸部が設けられれば良い。
【0176】
第1変位凸部71の頂面(X軸正側の面)及び第1固定凸部81の頂面(X軸負側の面)は、共にYZ平面と平行である。これらの頂面のうち、一方の頂面には、エレクトレット電極層(不図示)を介して第1エレクトレット材料層75が形成されており、他方の頂面には、第1対向電極層85が形成されている。本実施形態では、
図18に示すように、第1変位凸部71の頂面に第1エレクトレット材料層75が形成され、第1固定凸部81の頂面を含む第1固定内面80aの表面に第1対向電極層85が形成されている。第1対向電極層85は、枠状構造体80上に形成された配線を介して第1パッドP1に電気的に接続されている。
【0177】
同様に、第2変位凸部72の頂面(X軸負側の面)及び第2固定凸部82の頂面(X軸正側の面)は、共にYZ平面と平行である。これらの頂面のうち、一方の頂面には、エレクトレット電極層(不図示)を介して第2エレクトレット材料層76が形成されており、他方の頂面には、第2対向電極層86が形成されている。本実施形態では、
図18に示すように、第2変位凸部72の頂面に第2エレクトレット材料層76が形成され、第2固定凸部82の頂面を含む第2固定内面80bの表面に第2対向電極層86が形成されている。第2対向電極層86は、枠状構造体80上に形成された配線を介して第2パッドP2に電気的に接続されている。もちろん、エレクトレット材料層75は、第1及び第2変位外面70a、70bの全面にわたって形成されてもよい(
図18(a)のハッチングは、パッドP1、P2、エレクトレット材料層42、対向電極層51、52を明瞭に示すためのものであり、断面を示すものではない。)。
【0178】
図18に示す例では、第1変位凸部71の頂面に形成された第1エレクトレット材料層75と、第1対向電極層85のうち第1固定凸部81の頂面に形成された部分とは、X軸方向から見て互いに同一の形状を有している。更に、第1エレクトレット材料層75をYZ平面に投影した正射影投影像と、第1対向電極層85のうち第1固定凸部81の頂面に形成された部分をYZ平面に投影した正射影投影像とは、ぴったりと一致している。同様に、第2変位凸部72の頂面に形成された第2エレクトレット材料層76と、第2対向電極層86のうち第2固定凸部82の頂面に形成された部分とは、X軸方向から見て互いに同一の形状を有している。更に、第2エレクトレット材料層76をYZ平面に投影した正射影投影像と、第2対向電極層86のうち第2固定凸部82の頂面に形成された部分をYZ平面に投影した正射影投影像とは、ぴったりと一致している。
【0179】
第1及び第2エレクトレット材料層75、76と第1及び第2変位外面70a、70bとの間に配置されたエレクトレット電極層(不図示)は、後述される弾性変形体91〜94上に形成された配線を介して、発電回路10、20に接続されるようになっている。
【0180】
図18に示すエレクトレット発電素子111eでは、板状構造体70がX軸、Y軸およびZ軸の全ての方向に変位可能となるように、板状構造体70と枠状構造体80とが4本の弾性変形体91〜94によって接続されている。具体的には、
図18(a)に示すように、弾性変形体91〜94は、それぞれの一端が枠状構造体80の内側角部に規定された固定支持点b1,b2,b3,b4に固定され、それぞれの他端が板状構造体70の角部に規定された変位支持点a1,a2,a3,a4に固定されている。換言すれば、板状構造体70の4つの角部に各1つずつ設けられた合計4つの変位支持点a1,a2,a3,a4と枠状構造体80の4つの内側角部に各1つずつ設けられた合計4つの固定支持点b1,b2,b3,b4とは、1対1に対応しており、対応する変位支持点と固定支持点とがそれぞれ個別の弾性変形体91,92,93,94によって接続されている。各弾性変形体91〜94は、
図18(b)に示すように、板状構造体70の厚みおよび枠状構造体80の厚みよりも小さな厚みを有する細長い線状の構造体によって構成されている。
【0181】
図18に示すエレクトレット発電素子111eは、単一の質量としての板状構造体70が弾性変形体91〜94を介して枠状構造体80に支持された構成であることから、板状構造体70の振動は、単一の共振周波数frを有している。この共振周波数frは、板状構造体70の質量と、弾性変形体91〜94のバネ定数とによって決定される。もちろん、板状構造体70は、X,Y,Zの各軸方向へ移動することから、バネ定数は、着目する振動方向に応じた合成バネ定数として定義されることになる。
【0182】
また、図示されていないが、板状構造体70には重錘体が取り付けられている。この重錐体は、板状構造体70の共振周波数を調整するために必要に応じて設けられて良い。
【0183】
次に、エレクトレット発電素子111eの作用について説明する。
【0184】
図18に示すエレクトレット発電素子111eは、振動が与えられると、X、Y、Zの各軸方向の振動成分に応じて変位部材40が固定部材50に対して各軸方向に相対移動することによって、発電が行われる。より詳しくは、エレクトレット発電素子111eに振動が与えられると、その振動の各軸方向の成分に応じて弾性変形体91〜94が弾性変形し、枠状構造体80に対する板状構造体70の各軸方向における相対位置が変化する。換言すれば、弾性変形体91〜94は、与えられた振動によって板状構造体70が枠状構造体80に対して各軸方向に相対移動(振動)することを許容するように、弾性変形する。このことによって、第1及び第2対向電極層85、86から電荷が取り出され、発電が行われるのである。
【0185】
具体的には、次のようにして発電が行われる。すなわち、例えば、与えられた振動に起因してX軸正方向(
図18(a)における右方向)の力+Fxが板状構造体70に作用すると、弾性変形体91〜94がそれぞれ弾性変形することによって、当該板状構造体70はX軸正方向に移動する。ここでは、簡単のため、枠状構造体80がXYZ三次元直交座標系に対して固定されていて、振動によってXYZ三次元直交座標系に対して移動する構成要素は板状構造体70のみであるものとして説明を行う。板状構造体70がX軸正方向に移動することにより、第1変位凸部71の頂面に設けられた第1エレクトレット材料層75と第1固定凸部81の頂面に設けられた第1対向電極層85との離間距離が減少し、その一方で、第2変位凸部72の頂面に設けられた第2エレクトレット材料層76と第2固定凸部82の頂面に設けられた第2対向電極層86との離間距離が増大する。この結果、第1対向電極層85に誘導される負電荷は増加し、第2対向電極層に誘導される負電荷は減少する。このような負電荷の挙動は、上記4−1.において説明した通りである。これにより、第1パッドP1から第1対向電極層85に負電荷が吸収され、第2パッドP2から外部に負電荷が取り出される。
【0186】
その後、弾性変形体91〜94の弾性力によって、板状構造体70はX軸負方向(
図18(a)における左方向)へ移動し始める。この移動によって、第1変位凸部71の頂面に設けられた第1エレクトレット材料層75と第1固定凸部81の頂面に設けられた第1対向電極層85との離間距離が増大し、その一方で、第2変位凸部72の頂面に設けられた第2エレクトレット材料層76と第2固定凸部82の頂面に設けられた第2対向電極層86との離間距離が減少する。この結果、第1対向電極層85に誘導される負電荷は減少し、第2対向電極層86に誘導される負電荷は増大する。これにより、第2パッドP2から第2対向電極層86に負電荷が吸収され、第1パッドP1から外部に負電荷が取り出される。以後、これらの一連の往復移動(振動)による発電が繰り返される。
【0187】
なお、X軸負方向の力−Fxが板状構造体70に作用した場合には、当該板状構造体70に生じる振動が、X軸正方向の力+Fx作用した場合に生じる振動とは位相が180°だけずれることになるが、実質的には、X軸正方向の力+Fxが作用した場合と同様の発電が行われる。
【0188】
次に、Y軸正方向(
図18(a)における上方向)の力+Fyが板状構造体70に作用した場合の発電原理について説明する。この場合、弾性変形体91〜94がそれぞれ弾性変形することによって、当該板状構造体70はY軸正方向に移動する。この移動により、従来のエレクトレット発電素子と同様に、発電が行われる。すなわち、板状構造体70の移動に伴って、第1エレクトレット材料層75をYZ平面に投影した正射影投影像と、第1対向電極層85のうち第1固定凸部81の頂面に形成された部分をYZ平面に投影した正射影投影像と、の重なり合う領域の面積が減少する。このことは、第2エレクトレット材料層76をYZ平面に投影した正射影投影像と、第2対向電極層86のうち第2固定凸部82の頂面に形成された部分をYZ平面に投影した正射影投影像と、の関係についても当てはまる。これらのことにより、第1及び第2対向電極層85、86に蓄積される負電荷が減少し、すなわち第1及び第2パッドP1、P2から外部に負電荷が取り出される。
【0189】
その後、弾性変形体91〜94の弾性力によって、板状構造体70はY軸負方向(
図18(a)における下方向)へ移動し始める。この移動によって、第1エレクトレット材料層75をYZ平面に投影した正射影投影像と、第1対向電極層85のうち第1固定凸部81の頂面に形成された部分をYZ平面に投影した正射影投影像と、の重なり合う領域の面積、及び、第2エレクトレット材料層76をYZ平面に投影した正射影投影像と、第2対向電極層86のうち第2固定凸部82の頂面に形成された部分をYZ平面に投影した正射影投影像と、の重なり合う領域の面積、が共に増大する。この増大は、板状構造体70が初期位置に復帰するまで継続する。これにより、第1及び第2対向電極層85、86に蓄積される負電荷が増大するため、第1及び第2パッドP1、P2から負電荷が第1及び第2対向電極層85、86に吸収される。
【0190】
そして、板状構造体70がその初期位置を超えてY軸負方向へ更に移動すると、第1エレクトレット材料層75をYZ平面に投影した正射影投影像と、第1対向電極層85のうち第1固定凸部81の頂面に形成された部分をYZ平面に投影した正射影投影像と、の重なり合う領域の面積、及び、第2エレクトレット材料層76をYZ平面に投影した正射影投影像と、第2対向電極層86のうち第2固定凸部82の頂面に形成された部分をYZ平面に投影した正射影投影像と、の重なり合う領域の面積、が共に減少に転じる。これらのことにより、第1及び第2対向電極層85、86に蓄積される負電荷が減少するため、第1及び第2パッドP1、P2から外部に取り出される。
【0191】
その後、弾性変形体91〜94の弾性力によって、板状構造体70は、再びY軸正方向へ移動し始める。この移動によって、第1エレクトレット材料層75をYZ平面に投影した正射影投影像と、第1対向電極層85のうち第1固定凸部81の頂面に形成された部分をYZ平面に投影した正射影投影像と、の重なり合う領域の面積、及び、第2エレクトレット材料層76をYZ平面に投影した正射影投影像と、第2対向電極層86のうち第2固定凸部82の頂面に形成された部分をYZ平面に投影した正射影投影像と、の重なり合う領域の面積、が共に増大する。これらのことにより、第1及び第2対向電極層85、86に蓄積される負電荷が増大するため、第1及び第2パッドP1、P2から負電荷が第1及び第2対向電極層85、86に吸収される。
【0192】
以後、これらの一連の往復移動(振動)による発電が繰り返される。なお、Y軸負方向の力−Fyが板状構造体70に作用した場合には、当該板状構造体70に生じる振動が、Y軸正方向の力+Fyが作用した場合に生じる振動とは位相が180°だけずれるのみであり、実質的には、Y軸正方向の力+Fyが作用した場合と同様の発電が行われる。
【0193】
次に、Z軸正方向(
図18(a)における手前方向)の力+Fzが板状構造体70に作用した場合の発電原理について説明する。ここでも、前述したY軸正方向の力+Fyが作用した場合と略同様の原理による発電が行われる。まず、弾性変形体91〜94がそれぞれ弾性変形することによって、当該板状構造体70はZ軸正方向に移動する。板状構造体70の移動に伴って、第1エレクトレット材料層75をYZ平面に投影した正射影投影像と、第1対向電極層85のうち第1固定凸部81の頂面に形成された部分をYZ平面に投影した正射影投影像と、の重なり合う領域の面積が減少する。このことは、第2エレクトレット材料層76をYZ平面に投影した正射影投影像と、第2対向電極層86のうち第2固定凸部82の頂面に形成された部分をYZ平面に投影した正射影投影像と、の関係についても当てはまる。これらのことにより、第1及び第2対向電極層85、86に蓄積される負電荷が減少し、すなわち第1及び第2パッドP1、P2から負電荷が外部に取り出される。
【0194】
そして、弾性変形体91〜94の弾性力によって、板状構造体70はZ軸負方向(
図18(a)における奥行き方向)へ移動し始める。この移動によって、第1エレクトレット材料層75をYZ平面に投影した正射影投影像と、第1対向電極層85のうち第1固定凸部81の頂面に形成された部分をYZ平面に投影した正射影投影像と、の重なり合う領域の面積、及び、第2エレクトレット材料層76をYZ平面に投影した正射影投影像と、第2対向電極層86のうち第2固定凸部82の頂面に形成された部分をYZ平面に投影した正射影投影像と、の重なり合う領域の面積、が共に増大する。この増大は、板状構造体70が初期位置に復帰するまで継続する。これらのことにより、第1及び第2対向電極層85、86に蓄積される負電荷が増大するため、第1及び第2パッドP1、P2から負電荷が第1及び第2対向電極層85、86に吸収される。
【0195】
その後、板状構造体70が更にZ軸負方向に移動すると、再び、第1エレクトレット材料層75をYZ平面に投影した正射影投影像と、第1対向電極層85のうち第1固定凸部81の頂面に形成された部分をYZ平面に投影した正射影投影像と、の重なり合う領域の面積、及び、第2エレクトレット材料層76をYZ平面に投影した正射影投影像と、第2対向電極層86のうち第2固定凸部82の頂面に形成された部分をYZ平面に投影した正射影投影像と、の重なり合う領域の面積、が共に減少に転じる。これらのことにより、第1及び第2対向電極層85、86に蓄積される負電荷が減少するため、第1及び第2パッドP1、P2から負電荷が外部に取り出される。
【0196】
その後、弾性変形体91〜94の弾性力によって、板状構造体70は、再びZ軸正方向へ移動し始める。この移動によって、第1エレクトレット材料層75をYZ平面に投影した正射影投影像と、第1対向電極層85のうち第1固定凸部81の頂面に形成された部分をYZ平面に投影した正射影投影像と、の重なり合う領域の面積、及び、第2エレクトレット材料層76をYZ平面に投影した正射影投影像と、第2対向電極層86のうち第2固定凸部82の頂面に形成された部分をYZ平面に投影した正射影投影像と、の重なり合う領域の面積、が共に増大する。これらのことにより、第1及び第2対向電極層85、86に蓄積される負電荷が増大するため、第1及び第2パッドP1、P2から負電荷が第1及び第2対向電極層85、86に吸収される。
【0197】
以後、これらの一連の往復移動(振動)による発電が繰り返される。もちろん、エレクトレット発電素子111eが実際に利用される環境下では、X、Y、Zの各軸方向の振動が混在し、更に、振幅及び振動方向が時間の経過に伴って様々に変化するものと想定される。このため、エレクトレット発電素子111eにおいては、上述した各軸方向の振動モデルが組み合わさって、発電が行われることになる。
【0198】
また、前述したように、エレクトレット発電素子111eは、単一の共振周波数frを有していることから、次のような振動特性を呈する。すなわち、与えられる振動の周波数が、これら共振周波数frに達すると、板状構造体70の振幅が急激に増大する。このとき、第1及び第2対向電極層85、86に対する第1及び第2エレクトレット材料層75、76の相対移動量が増大し、これに伴って、発電量も増大する。このため、共振周波数frを、エレクトレット発電素子211eが使用される環境において頻繁に発生することが想定される振動の周波数に応じて決定することにより、効率的な発電が行われる。
【0199】
< 4−3. エレクトレット発電素子による3軸発電の変形例>
次に、
図19を参照して、エレクトレット発電素子211eによる3軸発電の変形例について説明する。
図19は、3軸発電が可能なエレクトレット発電素子211eに関し、
図18とは異なる例を示す概略上面図である。
【0200】
図19に示すように、エレクトレット発電素子211eは、板状構造体270の構成において
図18に示すエレクトレット発電素子111eと異なっている。具体的には、板状構造体270は、XY平面に平行な上面及び下面を有する矩形の第1板状構造体271と、Z軸方向から見て第1板状構造体271を取り囲む矩形の枠状の第2板状構造体272と、第1板状構造体271及び第2板状構造体272を接続する弾性変形体291〜294と、を有している。具体的には、
図19に示すように、第1板状構造体271は、その4頂点に対応する4箇所に各1つの変位支持点c1,c2,c3,c4が設けられている。更に、第2板状構造体272は、その4頂点近傍の4箇所に各1つの固定支持点d1,d2,d3,d4が設けられている。各変位支持点c1,c2,c3,c4と各固定支持点d1,d2,d3,d4とは、1対1に対応し、対応する変位支持点c1,c2,c3,c4と固定支持点d1,d2,d3,d4とが、それぞれ個別の弾性変形体291〜294によって接続されている。更に、図示されていないが、第1板状構造体271と第2板状構造体272に別体の重錘体を取り付けても良い。ここでは、第1板状構造体271及び第2板状構造体272が、その自重によって重錘体の機能を兼ねている。
【0201】
以上のような構成により、板状構造体270を構成する第1板状構造体271及び第2板状構造体272をひとまとまりの重錘体と見なすことにより、当該ひとまとまりの重錘体の振動を、第1の共振系Iの振動として捉えることができる。一方、第2板状構造体272の振動は、第1の共振系Iとは異なる第2の共振系IIの振動として捉えることができる。
【0202】
もっとも、第2板状構造体272を支持している第1板状構造体271は、XYZ三次元直交座標系に対して変位(振動)する部材であるため、第2の共振系IIは、それ全体が第1の共振系Iによって振動させられる系になる。従って、
図19に示すエレクトレット発電素子211eは、第1の共振系Iと第2の共振系IIとを入れ子状にした複雑な合成振動系を構成している。この結果、上記3−2.において詳述したように、このような合成振動系は、共振周波数のピークを2つ(fr1及びfr2(>fr1))有することになる。したがって、この合成振動系の周波数特性のグラフを図示すると、例えば
図13に示すような概形となる。但し、
図13の縦軸の「発電量」は「振幅」に読み替えるものとする。
【0203】
もちろん、上記3−3.において詳述したように、第1板状構造体271及び/または第2板状構造体272に取り付けられている重錘体の質量を調整することにより、あるいは、第1板状構造体271及び第2板状構造体272を接続する弾性変形体291〜294のバネ定数、並びに/または、第1板状構造体271及び枠状構造体80を接続する弾性変形体91〜94のバネ定数、を調整することにより、周波数帯域(
図13におけるR1)を所望に調整することができる。その他の構成は、
図18に示すエレクトレット発電素子111eと同様であるため、対応する構成要素には
図19において同様の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0204】
次に、エレクトレット発電素子211eの作用について説明する。
【0205】
図19に示すエレクトレット発電素子211eは、
図18に示すエレクトレット発電素子111eと同様に、X、Y、Zの各軸方向の振動に起因して変位部材40(板状構造体270)が固定部材50(枠状構造体80)に対して各軸方向に相対移動することによって、発電が行われる。その発電原理は、上述した
図18に示すエレクトレット発電素子111eの発電原理と同様であるため、ここではその詳細な説明は省略する。
【0206】
一方で、
図19に示すエレクトレット発電素子211eは、共振周波数のピークを2つ(fr1及びfr2(>fr1))有していることから、次のような振動特性を示す。すなわち、エレクトレット発電素子211eに対して、ある振動が与えられると、板状構造体270が、枠状構造体80に対して振動(相対移動)することから、当該振動の振幅及び周波数に応じた発電が行われる。そして、与えられる振動の周波数が、これら2つの共振周波数fr1、fr2のいずれかに達すると、板状構造体270(第1板状構造体271及び第2板状構造体272)の振幅が急激に増大する。すなわち、第1及び第2対向電極層85、86に対する第1及び第2エレクトレット材料層75、76の相対移動量が増大し、これに伴って、発電量も増大する。振動の周波数と発電量との関係は、概略的には
図13と同様である。
【0207】
エレクトレット発電素子211eに対して与えられる振動の周波数と、得られる発電量と、の関係が
図14(a)に示すようなグラフで表される場合には、すなわち、共振周波数fr1のピーク波形の裾野と共振周波数fr2のピーク波形の裾野とが重なり合っていない場合には、エレクトレット発電素子211eに対して与えられる振動の周波数が共振周波数fr1、fr2の近傍である場合においてのみ、効率的な発電が行われる。なお、「近傍」とは、大まかには、共振周波数fr1、fr2のピーク波形の半値幅(
図14(a)におけるh1、h2)の範囲内を意味する。
【0208】
一方、エレクトレット発電素子211eに対して与えられる振動の周波数と、得られる発電量と、の関係が
図14(b)に示すようなグラフで表される場合には、すなわち、共振周波数fr1のピーク波形の裾野と共振周波数fr2のピーク波形の裾野とが重なり合っていて、半値幅h1,h2よりも広い半値幅hhをもった融合ピーク波形PPが形成されている場合には、エレクトレット発電素子211eに対して与えられる振動の周波数がおよそ当該半値幅hhの範囲内であれば、その全域に亘って効率的な発電が行われる。
【0209】
もちろん、2つの共振周波数fr1、fr2は、上記3−3.で説明したように、エレクトレット発電素子211eが使用される環境において頻繁に発生することが想定される振動の周波数に応じて適宜決定されて良い。