【実施例】
【0034】
(実施例1 抗微生物剤の製造)
以下の成分を有する溶液Aおよび溶液Bをまず用意し、両者を混和した。
【0035】
(溶液A)
塩化第二鉄・六水和物(FeCl
3・6H
2O) 0.96g
硫酸亜鉛(無水)(ZnSO
4) 0.25g
硫酸ニッケル・七水和物(NiSO
3/7H
2O) 0.18g
上記を精製水200mlに溶解し、溶液Aとした。
【0036】
(溶液B)
L−システイン 1g
L−アスコルビン酸 0.1g
ソルビン酸カリウム 0.05g
ラウリル硫酸ナトリウム 0.1g
3N塩酸 1ml
上記を精製水800mlに溶解し、溶液Bとした。
【0037】
溶液Bに溶液Aを注入して混和、攪拌して、必要に応じてpH3.0±0.1に調整した。これを抗微生物剤とし、以下の実施例における試験のために使用した。なお、本実施例で製造した抗微生物剤は、1年半経過した後も微生物の不活化能の低下はほとんどなく、安定していた。
【0038】
(実施例2 コロナウイルスの不活化試験)
実施例2の試験は、一般財団法人 日本繊維製品品質技術センターにおいて行った。
(使用材料)
・試験ウイルス:Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2(SARS−CoV−2)、NIID分離株;JPN/TY/WK−521(国立感染症研究所より分与)
・宿主細胞:VeroE6/TMPRSS2 JCRB1819
・ウシ胎児血清:Fetal Bovine Serum(FBS)(シグマアルドリッチ)
・ネガティブコントロール:PBS
・試験サンプル:実施例1において製造した抗微生物剤(液剤(MIONミネラルイオン除菌剤))
・薬剤不活化剤;SCDLPを2%FBS含DMEM(Dulbecco’s modified Eagle’s medium)で10倍希釈した溶液
(試験条件)
ウイルス懸濁液:試験サンプル=1:9
作用温度 25℃
作用時間 15秒および5分(PBSのみ混合直後も測定)
感染価測定法:プラーク測定法
(1)ウイルス懸濁液の調製
宿主細胞にウイルスを感染させ、EMEM(Minimum Essential Medium Eagle)を加えて37℃で所定時間培養後、4℃、1,000×gで15分間遠心分離した上清を試験ウイルス懸濁液とした。
【0039】
(2)宿主細胞検証試験
(2−1)まず、細胞毒性を確認した。試験サンプル0.9mlにEMEM0.1mlを加え、十分に攪拌して試験液とした。薬剤不活化剤0.9mlに試験液0.1mlを添加し、十分に攪拌した。2%FBS含DMEMを用いて10倍希釈系列を作製し、プラーク測定法にて各希釈系列の細胞毒性の有無を確認した。この結果、実施例1において製造した抗微生物剤には細胞毒性がないことが確認された。
【0040】
(2−2)次いで、試験ウイルスへの細胞の感受性を確認した。試験サンプル0.9mlにEMEM0.1mlを加え、十分に攪拌してこれを試験液とした。薬剤不活化剤4.5mlに試験液0.5mlを添加し、十分に攪拌した。2%FBE含DMEMを用いて10倍希釈系列を作製した。EMEMを用いて4〜6×10
4PFU/mlに調製したウイルス懸濁液を各希釈系列の1/100量添加して、室温で10分間静置した。プラーク測定法にて各希釈系列1mL当たりのウイルス感染価を測定した。この結果、試験ウイルスに対する細胞の感受性が確認された。また、試験液を薬剤不活化剤で10倍希釈することにより、検体の影響を受けずにウイルス感染価測定ができることを確認した。
【0041】
【表1】
【0042】
(3)コロナウイルスの不活化試験
試験サンプル0.9mlに試験ウイルス懸濁液0.1mlを加え、十分に攪拌し、25℃で15秒および5分間静置した。これを試験液とした。その後、宿主細胞検証試験で不活化が確認された条件で試験液を不活化した。これを反応停止液とした。この反応停止液を10
0として、2%FBS含DMEMで10倍希釈系列を作製し、反応停止液0.1ml当たりのウイルス感染価をプラーク測定法にて測定し、試験液1ml当たりのウイルス感染価を算出した。試験は三連で行った。結果を以下の表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
表2の結果から明らかなように、実施例1で製造した本発明の抗微生物剤は、SARS−CoV−2の不活化能を有することが分かった。
【0045】
(実施例3 各種ウイルスの不活化試験)
実施例3の試験は一般財団法人北里環境科学センターにおいて行った。
【0046】
本実施例における試験ウイルスと、感染価測定用に用いた細胞との組み合わせは以下のとおりである。
・A型インフルエンザウイルス(A/PR/8/34,ATCC VR−1469)
感染価測定用細胞:イヌ腎臓由来細胞株(MDCK;Madin Darby−Canine Kidney)
・ネコカリシウイルス(F−9,ATCC VR−782)
感染価測定用細胞:ネコ腎臓由来細胞株(CRFK;Crandell−Rees Feline Kidney)
・ヒトアデノウイルス5型(Adenoid75,ATCC VR−5)
感染価測定用細胞:ヒト肺癌由来細胞株(A549)
・ヒトエンテロウイルス71型(H,ATCC VR−1432)
感染価測定用細胞:サル腎臓由来細胞(Vero)
(1)試験ウイルス液の調製
・A型インフルエンザウイルス
ウイルスを孵化鶏卵に接種し、35.5℃で2日間培養後、漿尿液を回収し、限外濾過膜で濃縮した後、ショ糖密度勾配遠心法(遠心条件;108,000×g、4℃、3時間)によりウイルス液を精製し、保存ウイルス液とした。試験には、保存ウイルス液をPBSで10倍に希釈して用いた。
・ネコカリシウイルス
ウイルスをCRFK細胞に感染させ、細胞培養面積の約90%以上が細胞変性効果(CPE)を示したとき、−30℃の冷凍庫に凍結保存した。その後、凍結融解操作を行い、2,380×gで10分間遠心した上清を採取し、限外濾過膜で濃縮したウイルス液をショ糖クッション法(遠心条件;108,000×g、4℃、3時間)でさらに濃縮したウイルス液を保存ウイルス液とした。試験には、保存ウイルス液をPBSで10倍に希釈して用いた。
・ヒトアデノウイルス5型
ウイルスをA549細胞に感染させ、細胞培養面積の約90%以上がCPEを示したとき、−30℃の冷凍庫に凍結保存した。その後、凍結融解操作を行い、2,380×gで10分間遠心した上清を採取し、限外濾過膜で濃縮したウイルス液を保存ウイルス液とした。試験には、保存ウイルス液をPBSで10倍に希釈して用いた。
・エンテロウイルス71型
ウイルスをVero細胞に感染させ、細胞培養面積の約90%以上がCPEを示したとき、−30℃の冷凍庫に凍結保存した。その後、凍結融解操作を行い、2,380×gで10分間遠心した上清を採取し、限外濾過膜で濃縮したウイルス液を保存ウイルス液とした。試験には、保存ウイルス液を原液で用いた。
【0047】
(2)ウイルス不活化試験
実施例1で製造した抗微生物剤(殺菌剤)を5ml容量の試験官に0.9ml分取したのち、試験ウイルス液0.1mlを加えて混合し、室温で所定時間作用させた。殺菌剤の作用停止は、作用液から0.1mlを採取し、実施例2と同様の反応停止液9.9mlに添加して殺菌剤を希釈する方法を採用した。これをウイルス感染価測定用試料の原液とした。なお、作用時間0(初期)およびネガティブコントロールにはPBSを用いた。
【0048】
(3)TCID
50法によるウイルス感染価測定
ウイルス感染価測定用の細胞をあらかじめ96ウェルプレートに播種してCO
2インキュベータで4日間培養した。次いで、ウイルス感染価測定用試料の原液をPBSで10倍段階希釈した。培養液を除いた各ウェルに、感染価測定用試料の原液またはPBSで10倍段階希釈した試料25μlを接種し、37℃で1時間、ウイルスを細胞に感染させた。1時間後、接種したウイルス液を除去し、ウイルス培養用の培地を1ウェル当たり0.1ml加え、37℃のCO
2インキュベータで培養した。各ウイルスの培養期間は、以下のとおりであった。
・A型インフルエンザウイルス;4日間
・ネコカリシウイルス;4日間
・ヒトアデノウイルス5型;6日間(3日目に培地交換を実施)
・エンテロウイルス71型;6日間
培養後、ウイルスの増殖により生じたCPEを顕微鏡で観察し、Reed−Muench法によりウイルス感染価(TCID
50/mL)を求めた。
【0049】
なお、ネガティブコントロールの初期感染価と殺菌剤作用後の感染価から、下記式を用いて感染価対数減少値(LRV;log reduction value)を算出した。
LRV(感染価対数減少値)=log
10(対象の初期感染価÷殺菌剤作用後の感染価)
以下に各ウイルスに対する試験結果を示す。
【0050】
【表3】
【0051】
本発明の殺菌剤(実施例1で製造した抗微生物剤)により、インフルエンザウイルスが15秒間で検出限界未満にまで不活化されていることに注目すべきである。本発明の抗微生物剤は、金属イオンの配合が最適化されていることにより、ウイルスの迅速な不活化が達成されている。
【0052】
【表4】
【0053】
ネコカリシウイルスはノロウイルスの代用として用いることができる。本発明の抗微生物剤はノロウイルスに対しても不活化することができると考えられる。
【0054】
【表5】
【0055】
【表6】
【0056】
表6から明らかなとおり、殺菌剤(本発明の抗微生物剤)はヒトエンテロウイルス71型に対しては効果を有さなかった。本発明の抗微生物剤は広範なウイルスに効力を有するものの、すべてのウイルスに効果を有するわけではないが、実施例2および3において確認された特定のウイルスに対しては少なくとも効力を有するものである。
【0057】
(実施例4 各種細菌の不活化試験)
実施例4の試験は一般財団法人北里環境科学センターにおいて行った。実施例4において用いた細菌の種類は以下のとおりである。
・Escherichia coli NBRC3972(大腸菌)
・Escherichia coli(O157:H7) RIMD0509939(腸管出血性大腸菌 O157)
・Pseudomonas aeruginosa NBRC13275(緑膿菌)
・Salmonella enterica subsp. enterica NBRC3313(サルモネラ)
・Staphylococcus aureus NBRC12732(黄色ブドウ球菌)
・Staphylococcus aureus (MRSA) IID1677(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
・Vibrio parahaemolyticus NBRC12711(腸炎ビブリオ)
・Campylobacter jejuni subsp. jejuni JCM2013(カンピロバクター)
・Candida albicans NBRC1594(カンジダ)
(1)試験菌液の調製
・大腸菌、O157、緑膿菌、サルモネラ、黄色ぶどう球菌、MRSA
凍結保存された菌株をTSA(トリプトンソイ寒天培地)に接種して、36±2℃で、24時間培養した。さらに同培地に接種して、36±2℃で、18時間培養後、発育した集落をかき取り、滅菌イオン交換水に懸濁して約10
7CFU/mLに調製し、これを試験菌液とした。
・腸炎ビブリオ
凍結保存された菌株を2.5%塩化ナトリウム加TSAに接種して、36±2℃で、24時間培養した。さらに同培地に接種して、36±2℃で、18時間培養後、発育した集落をかき取り、3%塩化ナトリウム溶液に懸濁して約10
7CFU/mLに調製し、これを試験菌液とした。
・カンピロバクター
凍結保存された菌株を5%ウマ血清加BA(ブルセラ寒天培地)に接種し、36±2℃で3日間微好気培養した。発育した集落を5%ウマ血清加BB(ブルセラブロス)に接種して36±2℃で2日間微好気条件下で静置培養した。培養後、リン酸緩衝液で約10
7CFU/mLに調製し、これを試験菌液とした。
・カンジダ
凍結保存された菌株をPDA(ポテトデキストロース寒天培地)に接種し、26±2℃で2日間培養した。発育した集落を滅菌イオン交換水に懸濁して約10
7CFU/mLに調製し、これを試験菌液とした。
【0058】
(2)殺菌効力試験
試験品(実施例1で製造した本発明の抗微生物剤)10mLに試験菌液0.1mLを加え、試験管ミキサーで混合して0(初期)、5分間、菌種によっては30分間、25±2℃で作用させた。所定時間作用後、試験品1mLを不活性化剤9mLに添加して、試験菌に対する殺菌作用を停止させ、これを菌数測定用試料液とした。作用時間0(初期)およびネガティブコントロールは、試験品の代わりに滅菌生理食塩液を、腸炎ビブリオには3%塩化ナトリウム溶液を用いた。なお、不活性化剤としては、実施例2と同様にSCDLPを用いたが、腸炎ビブリオについては2.5%塩化ナトリウム加SCDLPを用いた。
【0059】
(3)菌数測定
・大腸菌、O157、緑膿菌、サルモネラ、黄色ぶどう球菌、MRSA
菌数測定用試料液を原液として、生理食塩液で10倍段階希釈列を作製し、試料原液および希釈液の各1mLをシャーレに移し、TSA約20mLと混合後、固化させて36±2℃で43時間培養した。培養後の発育集落を数えて、試験品1mLあたりの試験菌数を求めた(定量下限値:10CFU)。
・腸炎ビブリオ
菌数測定用試料液を原液として、3%塩化ナトリウム溶液で10倍段階希釈列を作製し、試料原液および希釈液の各1mLをシャーレに移し、2.5%塩化ナトリウム加TSA約20mLと混合後、固化させて36±2℃で48時間培養した。培養後の発育集落を数えて、試験品1mLあたりの試験菌数を求めた(定量下限値:10CFU)。
・カンピロバクター
菌数測定用試料液を原液として、リン酸緩衝液で10倍段階希釈列を作製し、試料原液および希釈液の各0.1mLを5%ウマ血清加BAに塗抹し、36±2℃で3日間微好気条件で培養した。培養後の発育集落を数えて、試験品1mLあたりの試験菌数を求めた(定量下限値:100CFU)。
・カンジダ
菌数測定用試料液を原液として、生理食塩液で10倍段階希釈列を作製し、試料原液および希釈液の各1mLをシャーレに移し、PDA約20mLと混合後、固化させて26±2℃で4日間培養した。培養後の発育集落を数えて、試験品1mLあたりの試験菌数を求めた(定量下限値:10CFU)。
【0060】
(4)菌数対数減少値の算出
対照の初期菌数と試験品作用後の試験菌数から、下記式を用いて菌数対数減少値(=LRV;log reduction value)を算出した。
LRV(菌数対数減少値)=log
10(対照の初期菌数÷試験品作用後の菌数)
(5)結果
試験品に5分間および30分間作用後の菌数は、全菌種において定量下限値未満(<10または<100CFU/mL)、LRVは3.3〜4.8となった。ネガティブコントロールとした生理食塩液または3%塩化ナトリウム溶液の30分間作用後までの菌数は、初期値(2.3〜6.7×10
5CFU/mL)から変動は無かった。したがって、本発明の抗微生物剤は、試験した9種の細菌に対して不活化能を有した。具体的な結果を以下に示す。
【0061】
【表7】
【0062】
【表8】
【0063】
【表9】
【0064】
【表10】
【0065】
【表11】
【0066】
【表12】
【0067】
【表13】
【0068】
【表14】
【0069】
【表15】
【0070】
なお、O157およびMRSAを用いて、上記の除菌剤の3倍希釈および5倍希釈も併せて試験したところ、上記除菌剤と比較して希釈とともに抗微生物能が低下した(データ示さず)。
【0071】
(実施例5 比較試験データ)
銀イオンを金属イオンとして使用した抗微生物剤と、実施例1で作製した抗微生物剤と、それを3倍希釈した抗微生物剤とで、抗微生物能を比較した。
【0072】
銀イオンを金属イオンとして使用した抗微生物剤(1000mL)の組成は以下のとおりであった。
AgNO
3:0.005g(3ppm)
ZnSO
4:0.29g
L−システイン:0.2g(200ppm)
L−アスコルビン酸:0.1g
ラウリル硫酸ナトリウム:0.1g
ソルビン酸カリウム:0.05g
希塩酸で pH3.0 に調整。
【0073】
Escherichia coli(O157:H7)RIMD 0509939(腸管出血性大腸菌O157)およびStaphylococcus aureus(MRSA) IID 1677(メチシリン耐性黄色ぶどう球菌)を細菌として用い、実施例4と同様に抗微生物活性を求めた。
【0074】
【表16】
【0075】
【表17】
【0076】
表16および17の結果から、本発明の抗微生物剤の金属イオンの配合は銀イオンタイプよりも優れていること、および本発明の抗微生物剤の抗微生物活性は濃度依存的であることが明らかになった。