特許第6884447号(P6884447)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6884447コロナウイルス(例えば、SARS−CoV−2)を含む広範な微生物に有用な抗微生物剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6884447
(24)【登録日】2021年5月14日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】コロナウイルス(例えば、SARS−CoV−2)を含む広範な微生物に有用な抗微生物剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/16 20060101AFI20210531BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20210531BHJP
   A01N 37/44 20060101ALI20210531BHJP
   A01N 43/08 20060101ALI20210531BHJP
   A01N 25/30 20060101ALI20210531BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20210531BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20210531BHJP
   A61K 31/375 20060101ALI20210531BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20210531BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20210531BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20210531BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20210531BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20210531BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20210531BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20210531BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
   A01N59/16 Z
   A01P1/00
   A01N37/44
   A01N43/08 H
   A01N25/30
   A01N25/02
   A61K31/198
   A61K31/375
   A61P31/14
   A61P31/16
   A61P31/12
   A61P31/04
   A61P31/10
   A61K47/20
   A61K47/12
   A61P31/00
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2020-185966(P2020-185966)
(22)【出願日】2020年11月6日
【審査請求日】2020年11月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596173506
【氏名又は名称】一般財団法人新医療財団
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】真木 修一
(72)【発明者】
【氏名】利森 幸子
【審査官】 高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/133616(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/037296(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0243263(US,A1)
【文献】 特開2000−226398(JP,A)
【文献】 日大医誌,2020年 2月 1日,79(1),47-49
【文献】 日本防菌防黴学会誌,2020年 9月10日,Vol.48, No.9,477-480
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 59/16
A01N 25/02
A01N 25/30
A01N 37/44
A01N 43/08
A01P 1/00
A61K 31/198
A61K 31/375
A61K 47/12
A61K 47/20
A61P 31/00
A61P 31/04
A61P 31/10
A61P 31/12
A61P 31/14
A61P 31/16
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンと、L−システインと、L−アスコルビン酸と、界面活性剤とを含む、微生物に対する抗微生物剤であって、前記微生物がコロナウイルスを含む、抗微生物剤であって、前記金属イオンは、
約180〜約250ppmの(III)価の鉄イオン、
約60〜約120ppmの亜鉛イオン、
約30〜約45ppmのニッケルイオン
を含み、約1.5:1〜約3:1の(III)価の鉄イオンと前記亜鉛イオンとのppm比を有する、抗微生物剤。
【請求項2】
前記コロナウイルスが、HCoV−HKU1、HCoV−OC43、SARS−CoV、MERS−CoV、およびSARS−CoV−2からなる群から選択される、請求項1に記載の抗微生物剤。
【請求項3】
前記コロナウイルスが、SARS−CoV−2を含む、請求項2に記載の抗微生物剤。
【請求項4】
前記微生物が、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、ノロウイルス、大腸菌、緑膿菌、サルモネラ、黄色ブドウ球菌、腸炎ビブリオ、カンピロバクターおよびカンジダをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗微生物剤。
【請求項5】
約100〜約2000ppmのL−システイン、約10〜約200ppmのL−アスコルビン酸、約10〜約200ppmのラウリル硫酸ナトリウム、および約20〜約100ppmのソルビン酸またはソルビン酸塩を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗微生物剤。
【請求項6】
約2.5〜約4.0のpHを有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗微生物剤。
【請求項7】
前記金属イオンは、約3:1〜約6:1の(III)価の鉄イオンとニッケルイオンとのppm比を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の抗微生物剤。
【請求項8】
以下の成分を含む微生物に対する抗微生物剤であって、前記微生物がコロナウイルスを含む、抗微生物剤:
・(III)価の鉄イオン:約198ppm
・亜鉛イオン:約101ppm
・ニッケルイオン:約38ppm
L−システイン:約1000ppm
L−アスコルビン酸:約100ppm
・ソルビン酸カリウム:約50ppm
・ラウリル硫酸ナトリウム:約100ppm。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロナウイルス(例えば、SARS−CoV−2)を含む広範な微生物に有用な抗微生物剤に関する。
【背景技術】
【0002】
2019年末から2020年の現在に至るまで、世界はSARS−CoV−2によるパンデミックの危機にさらされており、終息の目途はたっていない。
【0003】
特許文献1は、広範なウイルスおよび細菌に有用な消毒液を開示しているが、コロナウイルスについては言及がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5327218号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、コロナウイルス(例えば、SARS−CoV−2)を含む広範な微生物に有用な新規抗微生物剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、コロナウイルス(例えば、SARS−CoV−2)を含む広範な微生物に有用な新規配合の抗微生物剤を見出し、本発明を完成した。驚くべきことに、本発明は、コロナウイルス(例えば、SARS−CoV−2)のみならず、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、大腸菌、黄色ブドウ球菌など広範な微生物の不活化に有効な新規抗微生物剤を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、コロナウイルス(例えば、SARS−CoV−2)のみならず、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、大腸菌、黄色ブドウ球菌など広範な微生物の不活化に有効な新規抗微生物剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0009】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0010】
本明細書において、「微生物」とは、その個体の構造単位を肉眼で認識できない大きさの生物をいう。集合的には肉眼で観察することができるコロニー・プラークを作るものであっても、その個体が顕微鏡的大きさであるものは、微生物に含める。微生物としては、細菌、古細菌、真菌、藻類、単細胞動物、ウイルス、粘菌等が挙げられる。
【0011】
本明細書において、「抗微生物剤」とは微生物を不活化する任意の物質をいう。ある物質の非存在下にて一定期間経過した後の微生物の数および/または感染価(例えば、プラーク測定法またはTCID50によって測定した感染価)を、ある物質の存在下にて一定期間経過した後の当該微生物の数および/または感染価と比較した場合に、当該物質の存在下にて一定期間経過した微生物の数および/または感染価が、当該物質の存在下にて一定期間経過した微生物の数および/または感染価よりも少ない場合、当該微生物は「不活化」されており、当該物質は当該微生物の不活化能を有する。
【0012】
本明細書において、「コロナウイルス」とは、コロナウイルス科に属する任意のウイルスをいう。
【0013】
本明細書において、「約」とは、後に続く数値の±10%をいう。
【0014】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0015】
(成分)
本発明の抗微生物剤は、金属イオンと、L−システインと、L−アスコルビン酸と、界面活性剤とを含むものであることを特徴とする。金属イオンとしては、亜鉛イオン(Zn2+)、銅イオン(Cu2+)、コバルトイオン(Co2+)、ニッケルイオン(Ni2+)、三価の鉄イオン(Fe3+)、二価の鉄イオン(Fe2+)および銀イオン(Ag)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
好ましい実施形態において、本発明の抗微生物剤は、三価の鉄イオン(Fe3+)または二価の鉄イオン(Fe2+)を含み、より好ましい実施形態においては三価の鉄イオン(Fe3+)を含み、特に好ましい実施形態においては三価の鉄イオン(Fe3+)、亜鉛イオン(Zn2+)、およびニッケルイオン(Ni2+)を含み得る。
【0017】
本発明の抗微生物剤は、以下の濃度で各金属イオンまたはその組み合わせを含み得る:
・(III)価の鉄イオン:約50〜約300ppm、好ましくは約180〜約250ppm
・亜鉛イオン:約20〜約150ppm、好ましくは約60〜120ppm
・ニッケルイオン:約25〜約75ppm、好ましくは約30〜約45ppm
・銅イオン:約15〜約60ppm
・コバルトイオン:約180〜約300ppm
・(II)価の鉄イオン:約110〜約400ppm
・銀イオン:約1〜約3ppm
好ましい実施形態において、本発明の抗微生物剤は、約1:1〜約4:1の(III)価の鉄イオンと前記亜鉛イオンとのppm比を有し、より好ましくは約1.5:1〜約3:1の(III)価の鉄イオンと前記亜鉛イオンとのppm比を有する。(III)価の鉄イオンは微生物の不活化に有効な成分ではあるが、使用時の匂いや着色、金属イオンの配合による析出の問題があり得る。本発明者らは、金属イオンの配合を鋭意研究した結果、鉄イオンによるそのような問題を可能な限り低減しつつ、それでいて優れた微生物の不活化能を有する抗微生物剤の配合を見出し、本発明を完成した。
【0018】
好ましい実施形態において、本発明の抗微生物剤は、約2:1〜約8:1の(III)価の鉄イオンとニッケルイオンとのppm比を有し、より好ましくは約3:1〜約6:1の(III)価の鉄イオンとニッケルイオンとのppm比を有する。このような含有量および/または鉄イオンとの量比のニッケルイオンにおいて、十分に微生物を不活化し得る。
【0019】
金属イオンは、例えば、水に溶解してイオンとなる各種化合物を液に添加することで供給され得る。例えばFe3+イオンについては塩化第二鉄、硝酸第二鉄・六水和物、硝酸第二鉄・九水和物、硝酸第二鉄・n水和物、リン酸第二鉄・n水和物、クエン酸第二鉄・n水和物等、Fe2+イオンについては塩化鉄・四水和物、グルコン酸鉄、クエン酸鉄、蓚酸鉄等、Zn2+についてはクエン酸亜鉛・二水和物、グルコン酸亜鉛等、Cu2+については塩化銅・二水和物、塩化二アンモニウム銅・二水和物、硝酸銅・三水和物等、Co2+についてはグルコン酸コバルト三水和物、水酸化コバルト、クエン酸コバルト等、Ni2+については硝酸ニッケル等、Agについては硫酸銀、リン酸銀等が挙げられる。
【0020】
代表的な実施形態において、本発明の抗微生物剤は、L−システインを含む。L−システインは含硫アミノ酸の一種で皮膚の代謝に不可欠な成分でコラーゲンの生成を助け、L−アスコルビン酸と協働してメラニンの発生を抑制する。皮膚、爪、髪の主要構成成分で体内に広く分布している。理論に拘束されることを意図しないが、L−システインは、分子構造中にSH基(硫黄と水素の結合したチオール基)と抗菌性の金属イオンとが結合、活性を増幅して強い殺菌性を発現、DNA阻害、酵素の失活、代謝機能の阻害、蛋白の変性またフリーラジカルの発生により菌体破壊を促進せしめる。L−システインはまた、強い抗酸化作用と還元作用で構成成分の安定性に寄与し、生体親和性が高く病原体に強く付着してひいては浸透性を助長しうる役割を担う。その至適濃度は含有する金属イオンの種類とその濃度により若干異なるが、イオン濃度の数倍程度が好ましい。例えば、本発明の抗微生物剤におけるL−システインの含有量は、約100〜約2000ppmであり得、好ましくは約500〜約1500ppmであり得る。
【0021】
代表的な実施形態において、本発明の抗微生物剤は、L−アスコルビン酸を含む。L−アスコルビン酸(ビタミンC)は生体に必須であり生体組織に馴染みよく少量を添加する事で細胞組織への親和性が増大する。理論に拘束されることを意図しないが、L−アスコルビン酸は強い抗酸化作用で金属イオンと食品保存剤の安定化と活性の維持、持続に寄与、同時に細菌等の有機物に接触すると金属イオンの抗菌作用を増幅し微生物に強い障害をもたらす。本発明の抗微生物剤におけるL−アスコルビン酸の含有量は、約10〜約200ppmであり得、好ましくは約50〜約150ppmであり得る。
【0022】
代表的な実施形態において、本発明の抗微生物剤は、界面活性剤を含む。この界面活性剤は、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、または両性界面活性剤であり得る。陰イオン系界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩(ABS系)、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS系)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(AES系)、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロイルサルコシンナトリウム、高級アルコール硫酸エステル塩(AS)などが挙げられる。陽イオン系界面活性剤としては、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼントニウムなどが挙げられる。両性界面活性剤としては、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、塩酸アルキルポリアミノエチルグリシンなどが挙げられる。これらの界面活性剤は、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましい実施形態においては、本発明の抗微生物剤は、ラウリル硫酸ナトリウムを含み得る。本発明の抗微生物剤は、界面活性剤を約10〜約200ppm、好ましくは約50〜約150ppm含み得る。
【0023】
1つの実施形態において、本発明の抗微生物剤は、食品保存剤を含む。この食品保存剤としては、ソルビン酸、ソルビン酸塩、安息香酸、安息香酸塩、およびパラオキシ安息香酸エステルが挙げられるが、これらに限定されない。代表的な実施形態においては、本発明の抗微生物剤は、ソルビン酸またはソルビン酸塩を含む。本発明の抗微生物剤における食品保存剤の濃度は、約20〜約100ppmであり得る。
【0024】
1つの実施形態において、本発明の抗微生物剤は、各成分をより高濃度に含む原液から調製されてもよい。本明細書に記載の抗微生物剤となるように(例えば、水により)希釈されることが企図される原液、および原液から用時調製された希釈液も本発明の範囲内であると企図される。
【0025】
本発明の抗微生物剤は、好ましくは、効力の維持と安定性、および微生物内部への浸透をサポートするために、pHが約2.5〜約4.0、より好ましくは約3であり得る。pHの調整は、公知のpH調整剤を使用して行うことができる。1つの実施形態において、微生物の不活化の後に、本発明の抗微生物剤は中和されてもよい。
【0026】
(ウイルス)
本発明の抗微生物が不活化できるウイルスとしては、特に限られるものではないが、例えば動物(例えば、ヒト)に対して感染するウイルス(DNAウイルスまたはRNAウイルスを含む。)が挙げられ、ヒトに罹患して風邪様症候群を示すウイルスであるアデノウイルス科のウイルス、ヘルペスウイルス科のウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス、EBウイルス)、インフルエンザウイルス(例えば、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス)、肝炎ウイルス(C型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス)、HIV等の免疫不全ウイルス、HCoV−HKU1、HCoV−OC43、SARS−CoV、MERS−CoVおよびSARS−CoV−2等のコロナウイルスが含まれる。
【0027】
本発明の抗微生物剤は、コロナウイルスを不活化することができる。コロナウイルスはエンベロープ(envelope)に包まれたRNAウイルスとして存在する。その直径は約80〜120nmで,遺伝物質は全RNAウイルスの中で最大である。
【0028】
ヒトに感染するコロナウイルスとしては、風邪の原因ウイルスとしてヒトコロナウイルス229E、OC43、NL63、HKU−1の4種類、そして、重篤な肺炎を引き起こす2002年に発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルスと2012年に発生した中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルス、および2019年に発生したいわゆる新型コロナウイルス(2019−nCoV、SARS−CoV−2)の3種類が知られている。SARS−CoV−2は、SARSコロナウイルスと同じベータコロナウイルス属に分類され、新型コロナウイルスの遺伝子はSARSコロナウイルスの遺伝子と相同性が高く(約80%程度)、さらに、SARSコロナウイルスと類似する受容体(ACE1またはACE2)を使ってヒトの細胞に吸着・侵入することが最近の研究で報告されている。ACE1またはACE2のサブタイプの違いによって感染性の違いに顕れることも報告されている。SARS−CoV−2は、臨床症状は、頭痛、高熱、倦怠感、咳などのインフルエンザ様症状から、重症例では呼吸困難を主訴とする肺炎に進行するとされている。SARS−CoV−2は非常に感染力が強く、全世界で現時点で4000万人以上が感染し、100万人以上の死者を出している。本発明は、SARS−CoV−2を不活化できる点で顕著な効果を奏するものである。
【0029】
(細菌)
本発明の抗微生物剤は、コロナウイルスなどのウイルスのみならず、細菌(特に、病原性細菌)の不活化にも有効であり得る。本発明の抗微生物剤は、サルモネラ菌(Salmonella spp.)、赤痢菌(Shigella spp.)、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)、コレラ菌(Vibrio choreae)、大腸菌O−157(Escherichia coli O−157)、カンピロバクター(Campylobacter jejuni)、偽膜性大腸炎菌(Clostridium difficile)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、エルシニア腸炎菌(Yersinia enterocolitica)、ピロリ菌(Helicobacter pylori)、アメーバ赤痢菌(Entemoeba histolytica)、セレウス菌(Bacillusu cereus)、ブドウ球菌(Staphilococcus spp.)、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、クラミデア肺炎菌(Chlamidia pneumoniae)、レジオネラ肺炎菌(Legionella pneumoniae)、ブランハメラ菌(Branhamella catarrhalis)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)、A型溶連菌(Storeptcoccus pyogenes)、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、オーム病菌(Chramidia psittaci)、緑膿菌(Pseudomonas aerginosa)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin resistant Staphylococcus aureus,MRSA)、大腸菌(Escherichia coli)、肺炎捍菌(Klebsiella pneumoniae)、エンテロバクター(Enterobacter spp.)、プロテウス(Proteus spp.)、アシネトバクター(Acinetobacter spp.)、腸球菌(Enterococcus faecalis)、ブドウ球菌(Staphylococcus saprophyticus)、B型溶連菌(Storeptcoccus agalactiae)などに有効であり得る。
【0030】
(使用方法)
本発明の抗微生物剤は、処理対象物に接触させることで処理対象物上に存在している微生物を不活化することができる。前記処理対象物としては、環境、器具、人体、動物体、植物体、有機物等が挙げられる。環境としては、寝室、居間、洗面所、トイレ、浴室等の家庭環境、自動車、電車、航空機、船等の輸送機械内の環境、手術室、病室、休憩室、ネコ、ウサギ、イヌ、ニワトリ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ等の家畜を飼育する環境、魚介類の養殖場等が挙げられる。環境には、上記の環境に存在している家具類、道具類、器具類、遊具類、装置類等も含まれる。器具としては、例えば、金属製器具、非金属製器具、これらを複合した器具が挙げられる。人体や動物体としては、日常的に外界と接している皮膚、手指、粘膜をはじめ、創傷部位、疾患・病変部等が挙げられる。前記植物体としては、野菜、果物、観賞用植物等が挙げられる。前記有機物としては、人や動物の血液、体液、喀痰、膿、排泄物等が挙げられる。
【0031】
本発明の抗微生物剤の接触方法としては、噴霧、塗布等、公知の手段であればよい。空気中への噴霧を行った場合には、空気の殺菌も行うことができる。本発明の抗微生物剤は代表的には溶液の形態で提供され、そのまま溶液として使用(例えば、処理対象物への塗布や、処理対象物の溶液への浸漬)されてもよいし、布などの担体に添加した後に担体を処理対象物と接触させてもよいし、噴霧などされて使用されてもよい。本発明の抗微生物剤は、目的の微生物が十分に死滅するだけの時間(例えば、約5秒、約10秒、約15秒、約30秒、約45秒、約1分、約2分、約5分、約10分、約15分、約30分、約60分)にわたって処理対象物と接触させることができる。
【0032】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0033】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0034】
(実施例1 抗微生物剤の製造)
以下の成分を有する溶液Aおよび溶液Bをまず用意し、両者を混和した。
【0035】
(溶液A)
塩化第二鉄・六水和物(FeCl・6HO) 0.96g
硫酸亜鉛(無水)(ZnSO) 0.25g
硫酸ニッケル・七水和物(NiSO/7HO) 0.18g
上記を精製水200mlに溶解し、溶液Aとした。
【0036】
(溶液B)
L−システイン 1g
L−アスコルビン酸 0.1g
ソルビン酸カリウム 0.05g
ラウリル硫酸ナトリウム 0.1g
3N塩酸 1ml
上記を精製水800mlに溶解し、溶液Bとした。
【0037】
溶液Bに溶液Aを注入して混和、攪拌して、必要に応じてpH3.0±0.1に調整した。これを抗微生物剤とし、以下の実施例における試験のために使用した。なお、本実施例で製造した抗微生物剤は、1年半経過した後も微生物の不活化能の低下はほとんどなく、安定していた。
【0038】
(実施例2 コロナウイルスの不活化試験)
実施例2の試験は、一般財団法人 日本繊維製品品質技術センターにおいて行った。
(使用材料)
・試験ウイルス:Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2(SARS−CoV−2)、NIID分離株;JPN/TY/WK−521(国立感染症研究所より分与)
・宿主細胞:VeroE6/TMPRSS2 JCRB1819
・ウシ胎児血清:Fetal Bovine Serum(FBS)(シグマアルドリッチ)
・ネガティブコントロール:PBS
・試験サンプル:実施例1において製造した抗微生物剤(液剤(MIONミネラルイオン除菌剤))
・薬剤不活化剤;SCDLPを2%FBS含DMEM(Dulbecco’s modified Eagle’s medium)で10倍希釈した溶液
(試験条件)
ウイルス懸濁液:試験サンプル=1:9
作用温度 25℃
作用時間 15秒および5分(PBSのみ混合直後も測定)
感染価測定法:プラーク測定法
(1)ウイルス懸濁液の調製
宿主細胞にウイルスを感染させ、EMEM(Minimum Essential Medium Eagle)を加えて37℃で所定時間培養後、4℃、1,000×gで15分間遠心分離した上清を試験ウイルス懸濁液とした。
【0039】
(2)宿主細胞検証試験
(2−1)まず、細胞毒性を確認した。試験サンプル0.9mlにEMEM0.1mlを加え、十分に攪拌して試験液とした。薬剤不活化剤0.9mlに試験液0.1mlを添加し、十分に攪拌した。2%FBS含DMEMを用いて10倍希釈系列を作製し、プラーク測定法にて各希釈系列の細胞毒性の有無を確認した。この結果、実施例1において製造した抗微生物剤には細胞毒性がないことが確認された。
【0040】
(2−2)次いで、試験ウイルスへの細胞の感受性を確認した。試験サンプル0.9mlにEMEM0.1mlを加え、十分に攪拌してこれを試験液とした。薬剤不活化剤4.5mlに試験液0.5mlを添加し、十分に攪拌した。2%FBE含DMEMを用いて10倍希釈系列を作製した。EMEMを用いて4〜6×10PFU/mlに調製したウイルス懸濁液を各希釈系列の1/100量添加して、室温で10分間静置した。プラーク測定法にて各希釈系列1mL当たりのウイルス感染価を測定した。この結果、試験ウイルスに対する細胞の感受性が確認された。また、試験液を薬剤不活化剤で10倍希釈することにより、検体の影響を受けずにウイルス感染価測定ができることを確認した。
【0041】
【表1】
【0042】
(3)コロナウイルスの不活化試験
試験サンプル0.9mlに試験ウイルス懸濁液0.1mlを加え、十分に攪拌し、25℃で15秒および5分間静置した。これを試験液とした。その後、宿主細胞検証試験で不活化が確認された条件で試験液を不活化した。これを反応停止液とした。この反応停止液を10として、2%FBS含DMEMで10倍希釈系列を作製し、反応停止液0.1ml当たりのウイルス感染価をプラーク測定法にて測定し、試験液1ml当たりのウイルス感染価を算出した。試験は三連で行った。結果を以下の表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
表2の結果から明らかなように、実施例1で製造した本発明の抗微生物剤は、SARS−CoV−2の不活化能を有することが分かった。
【0045】
(実施例3 各種ウイルスの不活化試験)
実施例3の試験は一般財団法人北里環境科学センターにおいて行った。
【0046】
本実施例における試験ウイルスと、感染価測定用に用いた細胞との組み合わせは以下のとおりである。
・A型インフルエンザウイルス(A/PR/8/34,ATCC VR−1469)
感染価測定用細胞:イヌ腎臓由来細胞株(MDCK;Madin Darby−Canine Kidney)
・ネコカリシウイルス(F−9,ATCC VR−782)
感染価測定用細胞:ネコ腎臓由来細胞株(CRFK;Crandell−Rees Feline Kidney)
・ヒトアデノウイルス5型(Adenoid75,ATCC VR−5)
感染価測定用細胞:ヒト肺癌由来細胞株(A549)
・ヒトエンテロウイルス71型(H,ATCC VR−1432)
感染価測定用細胞:サル腎臓由来細胞(Vero)
(1)試験ウイルス液の調製
・A型インフルエンザウイルス
ウイルスを孵化鶏卵に接種し、35.5℃で2日間培養後、漿尿液を回収し、限外濾過膜で濃縮した後、ショ糖密度勾配遠心法(遠心条件;108,000×g、4℃、3時間)によりウイルス液を精製し、保存ウイルス液とした。試験には、保存ウイルス液をPBSで10倍に希釈して用いた。
・ネコカリシウイルス
ウイルスをCRFK細胞に感染させ、細胞培養面積の約90%以上が細胞変性効果(CPE)を示したとき、−30℃の冷凍庫に凍結保存した。その後、凍結融解操作を行い、2,380×gで10分間遠心した上清を採取し、限外濾過膜で濃縮したウイルス液をショ糖クッション法(遠心条件;108,000×g、4℃、3時間)でさらに濃縮したウイルス液を保存ウイルス液とした。試験には、保存ウイルス液をPBSで10倍に希釈して用いた。
・ヒトアデノウイルス5型
ウイルスをA549細胞に感染させ、細胞培養面積の約90%以上がCPEを示したとき、−30℃の冷凍庫に凍結保存した。その後、凍結融解操作を行い、2,380×gで10分間遠心した上清を採取し、限外濾過膜で濃縮したウイルス液を保存ウイルス液とした。試験には、保存ウイルス液をPBSで10倍に希釈して用いた。
・エンテロウイルス71型
ウイルスをVero細胞に感染させ、細胞培養面積の約90%以上がCPEを示したとき、−30℃の冷凍庫に凍結保存した。その後、凍結融解操作を行い、2,380×gで10分間遠心した上清を採取し、限外濾過膜で濃縮したウイルス液を保存ウイルス液とした。試験には、保存ウイルス液を原液で用いた。
【0047】
(2)ウイルス不活化試験
実施例1で製造した抗微生物剤(殺菌剤)を5ml容量の試験官に0.9ml分取したのち、試験ウイルス液0.1mlを加えて混合し、室温で所定時間作用させた。殺菌剤の作用停止は、作用液から0.1mlを採取し、実施例2と同様の反応停止液9.9mlに添加して殺菌剤を希釈する方法を採用した。これをウイルス感染価測定用試料の原液とした。なお、作用時間0(初期)およびネガティブコントロールにはPBSを用いた。
【0048】
(3)TCID50法によるウイルス感染価測定
ウイルス感染価測定用の細胞をあらかじめ96ウェルプレートに播種してCOインキュベータで4日間培養した。次いで、ウイルス感染価測定用試料の原液をPBSで10倍段階希釈した。培養液を除いた各ウェルに、感染価測定用試料の原液またはPBSで10倍段階希釈した試料25μlを接種し、37℃で1時間、ウイルスを細胞に感染させた。1時間後、接種したウイルス液を除去し、ウイルス培養用の培地を1ウェル当たり0.1ml加え、37℃のCOインキュベータで培養した。各ウイルスの培養期間は、以下のとおりであった。
・A型インフルエンザウイルス;4日間
・ネコカリシウイルス;4日間
・ヒトアデノウイルス5型;6日間(3日目に培地交換を実施)
・エンテロウイルス71型;6日間
培養後、ウイルスの増殖により生じたCPEを顕微鏡で観察し、Reed−Muench法によりウイルス感染価(TCID50/mL)を求めた。
【0049】
なお、ネガティブコントロールの初期感染価と殺菌剤作用後の感染価から、下記式を用いて感染価対数減少値(LRV;log reduction value)を算出した。
LRV(感染価対数減少値)=log10(対象の初期感染価÷殺菌剤作用後の感染価)
以下に各ウイルスに対する試験結果を示す。
【0050】
【表3】
【0051】
本発明の殺菌剤(実施例1で製造した抗微生物剤)により、インフルエンザウイルスが15秒間で検出限界未満にまで不活化されていることに注目すべきである。本発明の抗微生物剤は、金属イオンの配合が最適化されていることにより、ウイルスの迅速な不活化が達成されている。
【0052】
【表4】
【0053】
ネコカリシウイルスはノロウイルスの代用として用いることができる。本発明の抗微生物剤はノロウイルスに対しても不活化することができると考えられる。
【0054】
【表5】
【0055】
【表6】
【0056】
表6から明らかなとおり、殺菌剤(本発明の抗微生物剤)はヒトエンテロウイルス71型に対しては効果を有さなかった。本発明の抗微生物剤は広範なウイルスに効力を有するものの、すべてのウイルスに効果を有するわけではないが、実施例2および3において確認された特定のウイルスに対しては少なくとも効力を有するものである。
【0057】
(実施例4 各種細菌の不活化試験)
実施例4の試験は一般財団法人北里環境科学センターにおいて行った。実施例4において用いた細菌の種類は以下のとおりである。
・Escherichia coli NBRC3972(大腸菌)
・Escherichia coli(O157:H7) RIMD0509939(腸管出血性大腸菌 O157)
・Pseudomonas aeruginosa NBRC13275(緑膿菌)
・Salmonella enterica subsp. enterica NBRC3313(サルモネラ)
・Staphylococcus aureus NBRC12732(黄色ブドウ球菌)
・Staphylococcus aureus (MRSA) IID1677(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
・Vibrio parahaemolyticus NBRC12711(腸炎ビブリオ)
・Campylobacter jejuni subsp. jejuni JCM2013(カンピロバクター)
・Candida albicans NBRC1594(カンジダ)
(1)試験菌液の調製
・大腸菌、O157、緑膿菌、サルモネラ、黄色ぶどう球菌、MRSA
凍結保存された菌株をTSA(トリプトンソイ寒天培地)に接種して、36±2℃で、24時間培養した。さらに同培地に接種して、36±2℃で、18時間培養後、発育した集落をかき取り、滅菌イオン交換水に懸濁して約10CFU/mLに調製し、これを試験菌液とした。
・腸炎ビブリオ
凍結保存された菌株を2.5%塩化ナトリウム加TSAに接種して、36±2℃で、24時間培養した。さらに同培地に接種して、36±2℃で、18時間培養後、発育した集落をかき取り、3%塩化ナトリウム溶液に懸濁して約10CFU/mLに調製し、これを試験菌液とした。
・カンピロバクター
凍結保存された菌株を5%ウマ血清加BA(ブルセラ寒天培地)に接種し、36±2℃で3日間微好気培養した。発育した集落を5%ウマ血清加BB(ブルセラブロス)に接種して36±2℃で2日間微好気条件下で静置培養した。培養後、リン酸緩衝液で約10CFU/mLに調製し、これを試験菌液とした。
・カンジダ
凍結保存された菌株をPDA(ポテトデキストロース寒天培地)に接種し、26±2℃で2日間培養した。発育した集落を滅菌イオン交換水に懸濁して約10CFU/mLに調製し、これを試験菌液とした。
【0058】
(2)殺菌効力試験
試験品(実施例1で製造した本発明の抗微生物剤)10mLに試験菌液0.1mLを加え、試験管ミキサーで混合して0(初期)、5分間、菌種によっては30分間、25±2℃で作用させた。所定時間作用後、試験品1mLを不活性化剤9mLに添加して、試験菌に対する殺菌作用を停止させ、これを菌数測定用試料液とした。作用時間0(初期)およびネガティブコントロールは、試験品の代わりに滅菌生理食塩液を、腸炎ビブリオには3%塩化ナトリウム溶液を用いた。なお、不活性化剤としては、実施例2と同様にSCDLPを用いたが、腸炎ビブリオについては2.5%塩化ナトリウム加SCDLPを用いた。
【0059】
(3)菌数測定
・大腸菌、O157、緑膿菌、サルモネラ、黄色ぶどう球菌、MRSA
菌数測定用試料液を原液として、生理食塩液で10倍段階希釈列を作製し、試料原液および希釈液の各1mLをシャーレに移し、TSA約20mLと混合後、固化させて36±2℃で43時間培養した。培養後の発育集落を数えて、試験品1mLあたりの試験菌数を求めた(定量下限値:10CFU)。
・腸炎ビブリオ
菌数測定用試料液を原液として、3%塩化ナトリウム溶液で10倍段階希釈列を作製し、試料原液および希釈液の各1mLをシャーレに移し、2.5%塩化ナトリウム加TSA約20mLと混合後、固化させて36±2℃で48時間培養した。培養後の発育集落を数えて、試験品1mLあたりの試験菌数を求めた(定量下限値:10CFU)。
・カンピロバクター
菌数測定用試料液を原液として、リン酸緩衝液で10倍段階希釈列を作製し、試料原液および希釈液の各0.1mLを5%ウマ血清加BAに塗抹し、36±2℃で3日間微好気条件で培養した。培養後の発育集落を数えて、試験品1mLあたりの試験菌数を求めた(定量下限値:100CFU)。
・カンジダ
菌数測定用試料液を原液として、生理食塩液で10倍段階希釈列を作製し、試料原液および希釈液の各1mLをシャーレに移し、PDA約20mLと混合後、固化させて26±2℃で4日間培養した。培養後の発育集落を数えて、試験品1mLあたりの試験菌数を求めた(定量下限値:10CFU)。
【0060】
(4)菌数対数減少値の算出
対照の初期菌数と試験品作用後の試験菌数から、下記式を用いて菌数対数減少値(=LRV;log reduction value)を算出した。
LRV(菌数対数減少値)=log10(対照の初期菌数÷試験品作用後の菌数)
(5)結果
試験品に5分間および30分間作用後の菌数は、全菌種において定量下限値未満(<10または<100CFU/mL)、LRVは3.3〜4.8となった。ネガティブコントロールとした生理食塩液または3%塩化ナトリウム溶液の30分間作用後までの菌数は、初期値(2.3〜6.7×10CFU/mL)から変動は無かった。したがって、本発明の抗微生物剤は、試験した9種の細菌に対して不活化能を有した。具体的な結果を以下に示す。
【0061】
【表7】
【0062】
【表8】
【0063】
【表9】
【0064】
【表10】
【0065】
【表11】
【0066】
【表12】
【0067】
【表13】
【0068】
【表14】
【0069】
【表15】
【0070】
なお、O157およびMRSAを用いて、上記の除菌剤の3倍希釈および5倍希釈も併せて試験したところ、上記除菌剤と比較して希釈とともに抗微生物能が低下した(データ示さず)。
【0071】
(実施例5 比較試験データ)
銀イオンを金属イオンとして使用した抗微生物剤と、実施例1で作製した抗微生物剤と、それを3倍希釈した抗微生物剤とで、抗微生物能を比較した。
【0072】
銀イオンを金属イオンとして使用した抗微生物剤(1000mL)の組成は以下のとおりであった。
AgNO:0.005g(3ppm)
ZnSO:0.29g
L−システイン:0.2g(200ppm)
L−アスコルビン酸:0.1g
ラウリル硫酸ナトリウム:0.1g
ソルビン酸カリウム:0.05g
希塩酸で pH3.0 に調整。
【0073】
Escherichia coli(O157:H7)RIMD 0509939(腸管出血性大腸菌O157)およびStaphylococcus aureus(MRSA) IID 1677(メチシリン耐性黄色ぶどう球菌)を細菌として用い、実施例4と同様に抗微生物活性を求めた。
【0074】
【表16】
【0075】
【表17】
【0076】
表16および17の結果から、本発明の抗微生物剤の金属イオンの配合は銀イオンタイプよりも優れていること、および本発明の抗微生物剤の抗微生物活性は濃度依存的であることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、SARS−CoV−2を含むコロナウイルスや、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、大腸菌、黄色ブドウ球菌など広範な微生物の不活化に有効な新規抗微生物剤として利用され得る。
【要約】
【課題】コロナウイルス(例えば、SARS−CoV−2)を含む広範な微生物に有用な新規抗微生物剤を提供すること。
【解決手段】金属イオンと、L−システインと、L−アスコルビン酸と、界面活性剤とを含む、微生物に対する抗微生物剤であって、前記微生物がコロナウイルスを含む、抗微生物剤が提供される。コロナウイルスは、SARS−CoV−2であり得る。本発明の抗微生物剤は、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、ノロウイルス、大腸菌、緑膿菌、サルモネラ、黄色ブドウ球菌、腸炎ビブリオ、カンピロバクターおよびカンジダにも効力を有し得る。
【選択図】なし