特許第6884480号(P6884480)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6884480繊維強化熱可塑性樹脂からなる成形品の成形方法および成形装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6884480
(24)【登録日】2021年5月14日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】繊維強化熱可塑性樹脂からなる成形品の成形方法および成形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/34 20060101AFI20210531BHJP
   B29C 43/52 20060101ALI20210531BHJP
   B29C 43/14 20060101ALI20210531BHJP
   B29C 45/56 20060101ALI20210531BHJP
   B29C 69/00 20060101ALI20210531BHJP
   B29C 70/12 20060101ALI20210531BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20210531BHJP
   B29C 70/54 20060101ALI20210531BHJP
   B29K 101/12 20060101ALN20210531BHJP
   B29K 105/12 20060101ALN20210531BHJP
【FI】
   B29C43/34
   B29C43/52
   B29C43/14
   B29C45/56
   B29C69/00
   B29C70/12
   B29C70/42
   B29C70/54
   B29K101:12
   B29K105:12
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-180833(P2017-180833)
(22)【出願日】2017年9月21日
(65)【公開番号】特開2019-55519(P2019-55519A)
(43)【公開日】2019年4月11日
【審査請求日】2020年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100097696
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(72)【発明者】
【氏名】安江 昭
(72)【発明者】
【氏名】千葉 英貴
(72)【発明者】
【氏名】國弘 大介
(72)【発明者】
【氏名】西田 正三
(72)【発明者】
【氏名】辻 和也
(72)【発明者】
【氏名】藤田 康文
(72)【発明者】
【氏名】藤田 一輝
【審査官】 ▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−131479(JP,A)
【文献】 特開2006−110920(JP,A)
【文献】 特開平10−086188(JP,A)
【文献】 特開平04−259510(JP,A)
【文献】 特開2017−039243(JP,A)
【文献】 特開2016−144942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00 − 43/58
B29C 45/00 − 45/84
B29C 70/00 − 70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化熱可塑性樹脂からなる成形品の成形方法であって、
加熱シリンダを有する可塑化装置により、加熱シリンダ内で熱可塑性樹脂を溶融して強化繊維と混練して第1の温度の繊維強化熱可塑性樹脂を得、
前記可塑化装置から射出された所定量の前記繊維強化熱可塑性樹脂を、前記第1の温度よりも低い第2の温度の成形用金型によって成形して一次成形品を得る成形工程と、
前記成形用金型を型開きして前記一次成形品を取出して冷却用金型にインサートする搬入工程と、
前記冷却用金型により圧縮して前記一次成形品を冷却し、成形品を得る圧縮冷却工程とを含む、繊維強化熱可塑性樹脂からなる成形品の成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載の成形方法において、前記成形工程は前記成形用金型を型開きした状態で前記繊維強化熱可塑性樹脂を射出し、あるいは前記成形用金型を型開きした状態で前記繊維強化熱可塑性樹脂を所定量挿入し、その後圧縮成形により成形する、繊維強化熱可塑性樹脂からなる成形品の成形方法。
【請求項3】
繊維強化熱可塑性樹脂から成形品を成形する成形装置であって、
加熱シリンダを有し、前記加熱シリンダ内で熱可塑性樹脂が溶融されて強化繊維と混練され第1の温度の繊維強化熱可塑性樹脂を得る可塑化装置と、所定量の前記繊維強化熱可塑性樹脂から一次成形品を成形する成形用金型と、搬送装置と、冷却用金型とを備え、
前記可塑化装置から射出された所定量の前記繊維強化熱可塑性樹脂が、前記第1の温度よりも低い第2の温度の前記成形用金型によって前記一次成形品に成形され、
前記一次成形品は前記搬送装置により前記成形用金型から取り出されて前記冷却用金型に搬送され、前記冷却用金型において圧縮・冷却されて成形品が得られるようになっている、繊維強化熱可塑性樹脂から成形品を成形する成形装置。
【請求項4】
請求項3に記載の成形装置において、前記成形用金型は圧縮成形用の金型からなり、型開きした状態で所定量の前記繊維強化熱可塑性樹脂が射出され、あるいは型開きした状態で所定量の前記繊維強化熱可塑性樹脂が挿入され、その後圧縮されるようになっている、繊維強化熱可塑性樹 脂から成形品を成形する成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂に炭素繊維、ガラス繊維等の強化繊維が所定の割合で混合した繊維強化熱可塑性樹脂から成形品を成形する成形方法、および繊維強化熱可塑性樹脂からなる成形品を成形する成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維、ガラス繊維等の強化繊維と樹脂とからなる複合材料からなる成形品は高い強度を備えており、色々な分野に利用されている。例えば、小型船舶の船体、水槽のタンク等に利用されているいわゆるFRPは、強化繊維のシートと熱硬化性樹脂とから成形し、加熱により硬化させている。FRPは比較的大型の成形品を成形できるという優れた利点はあるが、生産性の問題もある。FRPは色々な方法で成形することができ、例えば、熱硬化性樹脂を含浸させた強化繊維のシートすなわちプリプレグを得て、これから成形品を成形するような比較的生産性が高い方法もあるが、一般的に成形に要する時間が長くなり生産コストが高い。これに対して、熱可塑性樹脂を母材とし強化繊維を混合した繊維強化熱可塑性樹脂から成形品を成形する場合、例えば射出成形によって成形したり、プレス成形によって成形することことになるが、短時間で成形することができ製造コストが小さいというメリットがある。
【0003】
押出機により繊維強化熱可塑性樹脂から成形品を成形する方法は、特許文献1をはじめとして色々な文献に記載されており周知である。簡単に説明すると、単軸あるいは二軸押出機により熱可塑性樹脂を溶融する。押出機のシリンダの所定の位置においてシリンダ内に強化繊維を投入して混合し、繊維強化熱可塑性樹脂とする。これをダイスから押し出して所定の大きさの塊状成形物を得、これを金型に搬送する。圧縮成形して成形品が得られる。射出成形機により繊維強化熱可塑性樹脂から成形品を成形する方法も周知であり、強化繊維入りペレットを溶融して繊維強化熱可塑性樹脂を計量する。または熱可塑性樹脂と強化繊維とを別々に供給して射出成形機内で溶融・混合し繊維強化熱可塑性樹脂を得る。これを型締した金型に射出する。あるいは所定量だけ型開した金型に射出し、型締めにより圧縮成形して成形品を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−64607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
押出機や射出成形機において熱可塑性樹脂と強化繊維とを混練して繊維強化熱可塑性樹脂を得て、これを金型により成形すると、比較的短時間で成形品を得ることができ、製造コストが小さいというメリットがある。しかしながら、解決すべき問題も見受けられる。まず、圧縮成形により成形する場合に特に問題がある。圧縮成形において型締力を大きくすると繊維同士が接触して強化繊維が切断されて成形品の強度に影響を及ぼす。繊維強化熱可塑性樹脂を圧縮成形するとき、金型温度を比較的低温にして実施すると樹脂の粘性が大きくなってせん断力が大きくなり、必然的に大きな型締力を作用させなければならず、この問題が発生する。このような強化繊維の切断は、金型を高温にして樹脂の流動性を確保すればある程度は防止できる。つまり圧縮成形における型締力を比較的小さくすることができ、強化繊維の切断を抑制できる。圧縮成形しない場合、すなわち型締めした金型に射出する成形方法においても、樹脂の流動性を確保できるので金型を高温にすることは好ましい。しかしながら、このように金型を高温にすると成形品の冷却に時間がかかり成形サイクルが長くなって製造コストが大きくなるという問題がある。成形サイクルを短くするために高温の状態で成形品を取り出すと、反りが発生する等の問題もある。ところで本発明者は、後で説明するように、繊維強化熱可塑性樹脂から成形品を得るとき、強化繊維を含まない一般的な成形品と同様にして実施すると、十分な強度が得られなくなる現象を発見した。強化繊維を含まない一般的な樹脂を材料として射出成形したり圧縮成形する場合には、比較的高温の状態で金型から成形品を取り出す。成形サイクルを短くして製造コストを小さくするためである。例えばナイロン6から成形品を得る場合には、金型内で140℃程度に冷却したら成形品を取り出すことができる。ところが本発明者は、繊維強化熱可塑性樹脂からなる成形品を同様の温度で金型から取り出すと、成形品において十分な強度が得られないという現象を見いだした。すなわち、繊維強化熱可塑性樹脂から成形品を得ても十分な強度が得られないという問題がある。
【0006】
したがって、本発明は、繊維強化熱可塑性樹脂から圧縮成形により成形品を得るとき、成形サイクルを短くして製造コストを小さくすることができるにも拘わらず、強度の大きい成形品を成形することができる成形方法を提供することを目的としている。また、そのような成形方法を実施することができる繊維強化熱可塑性樹脂からなる成形品を成形する成形装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、熱可塑性樹脂と強化繊維とを混練して繊維強化熱可塑性樹脂を得、該繊維強化熱可塑性樹脂から成形品を得る成形方法を対象とする。本発明の成形方法は、所定量の繊維強化熱可塑性樹脂から成形用金型によって成形して成形品を得る成形工程と、成形用金型を型開きして成形品を取出して冷却用金型にインサートする搬入工程と、冷却用金型を所定の型締力で圧縮して成形品を冷却する圧縮冷却工程とから構成する。
【0008】
すなわち、請求項1に記載の発明は、繊維強化熱可塑性樹脂からなる成形品の成形方法であって、加熱シリンダを有する可塑化装置により、加熱シリンダ内で熱可塑性樹脂を溶融して強化繊維と混練して第1の温度の繊維強化熱可塑性樹脂を得、前記可塑化装置から射出された所定量の前記繊維強化熱可塑性樹脂を、前記第1の温度よりも低い第2の温度の成形用金型によって成形して一次成形品を得る成形工程と、前記成形用金型を型開きして前記一次成形品を取出して冷却用金型にインサートする搬入工程と、前記冷却用金型により圧縮して前記一次成形品を冷却し、成形品を得る圧縮冷却工程とを含む、繊維強化熱可塑性樹脂からなる成形品の成形方法として構成される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の成形方法において、前記成形工程は前記成形用金型を型開きした状態で前記繊維強化熱可塑性樹脂を射出し、あるいは型開きした状態で前記繊維強化熱可塑性樹脂を所定量挿入し、その後圧縮成形により成形することを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂からなる成形品の成形方法として構成される。
請求項3に記載の発明は、繊維強化熱可塑性樹脂から成形品を成形する成形装置であって、加熱シリンダを有し、前記加熱シリンダ内で熱可塑性樹脂が溶融されて強化繊維と混練され第1の温度の繊維強化熱可塑性樹脂を得る可塑化装置と、所定量の前記繊維強化熱可塑性樹脂から一次成形品を成形する成形用金型と、搬送装置と、冷却用金型とを備え、前記可塑化装置から射出された所定量の前記繊維強化熱可塑性樹脂が、前記第1の温度よりも低い第2の温度の前記成形用金型によって前記一次成形品に成形され、前記一次成形品は前記搬送装置により前記成形用金型から取り出されて前記冷却用金型に搬送され、前記冷却用金型において圧縮・冷却されて成形品が得られるようになっている、繊維強化熱可塑性樹脂から成形品を成形する成形装置として構成される。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の成形装置において、前記成形用金型は圧縮成形用の金型からなり、型開きした状態で所定量の前記繊維強化熱可塑性樹脂が射出され、あるいは型開きした状態で所定量の前記繊維強化熱可塑性樹脂が挿入され、その後圧縮されるようになっていることを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂から成形品を成形する成形装置として構成される。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によると、熱可塑性樹脂と強化繊維とを混練して繊維強化熱可塑性樹脂を得、該繊維強化熱可塑性樹脂から成形品を得る成形方法を対象としている。すなわち成形サイクルが短く製造コストが小さい成形方法を対象としている。そして本発明によると、成形方法は、所定量の繊維強化熱可塑性樹脂から成形用金型によって第1の温度の一次成形品を得る成形工程と、成形用金型を型開きして一次成形品を取出して第1の温度より低い第2の温度の冷却用金型にインサートする搬入工程と、冷却用金型を所定の型締力で圧縮して冷却し、成形品を得る圧縮冷却工程とから構成されている。繊維強化熱可塑性樹脂から成形品を成形するとき、比較的高い温度で成形用金型から取り出すと、成形品の強度は得られなくなるという問題があるが、本発明においては取り出した成形品を冷却用金型によって圧縮して冷却するようにしている。これによって、後で本発明者が実施した実験について詳しく説明するように成形品の強度を大きくすることができる。成形品を冷却するだけであれば成形品を成形する成形用金型で実施することも考えられる。しかしながら、このようにすると成形サイクルがかなり長くなって製造コストが大きくなる。本発明の成形方法は冷却用金型を成形用金型と別に設けているので成形サイクルを短くでき製造コストを小さくできる。また、実験でも明らかになるように、冷却用金型における型締力は、成形用金型に要求される型締力に比して小さくてもよく、例えば1/10程度の型締力があればよい。そうすると冷却用金型は比較的小型の型締装置でも型締めすることができ、成形装置全体のコストを小さくできる。さらには本発明の成形方法はエネルギー効率においても有利であると言える。もし成形用金型だけで実施する場合には、成形時に金型を高温にし、冷却時に金型を強制的に冷却する必要がある。すなわちヒートアンドクールを実施する必要がある。そうすると大量のエネルギーが必要になる。しかしながら本発明の成形方法では、成形用金型は比較的高温を維持すると共に冷却用金型は低温に維持すればよく、金型の温度を大きく変化させる必要がないのでエネルギー効率が高い。他の発明によると成形工程は成形用金型を型開きした状態で繊維強化熱可塑性樹脂を射出し、あるいは型開きした状態で繊維強化熱可塑性樹脂を所定量挿入し、その後圧縮成形により成形するように構成されている。圧縮成形においては、圧縮時に強化繊維同士が接触して切断され易いので特に成形用金型の温度を高温に維持することが大切であり、成形用金型と別に冷却用金型を設けて圧縮冷却工程を実施する本発明は、冷却に要する時間を節約できると共にエネルギー効率が高く、製造コストを小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係る成形装置を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態について説明する。本実施の形態に係る成形装置1は、図1に示されているように、熱可塑性樹脂を可塑化すると共に強化繊維を混合して繊維強化熱可塑性樹脂を得る可塑化装置2と、所定量の繊維強化熱可塑性樹脂を圧縮成形して成形品を得る成形用金型4と、成形された成形品を圧縮しながら冷却する冷却用金型5と、成形用金型4から成形品を取り出して冷却用金型5に搬送する搬送装置6とから構成されている。
【0012】
可塑化装置2は、本発明において特徴的な装置ではなく従来周知の射出成形機の射出装置から構成してもよいし押出機から構成してもよい。本実施の形態においては、可塑化装置2は射出成形機の射出装置から構成されている。射出装置は、加熱シリンダ8と、この加熱シリンダ8内で回転方向と軸方向とに駆動されるスクリュ9とからなり、加熱シリンダ8の後方寄りに熱可塑性樹脂が投入されるホッパ11が設けられ、加熱シリンダ8の前方寄りに強化繊維を投入する強化繊維投入口12が設けられている。図1においてスクリュ9はフライトが軸方向に渡って均一な形状で形成されているように示されているが、強化繊維投入口12より上流側でスクリュ溝が浅くなって樹脂が圧縮されるようになっており、強化繊維投入口12近傍においてスクリュ溝が深くなって樹脂圧力が小さくなるようになっている。従って、強化繊維を加熱シリンダ8内に供給するとき、樹脂圧力によって供給が妨げられることがない。強化繊維投入口12に対応して、強化繊維、例えば炭素繊維の供給装置が設けられている。すなわち強化繊維が所定の本数で撚り合わされてロープ状になったもの、すなわちロービングが円筒状に巻かれた強化繊維ロール14と、この強化繊維ロール14から引き出された強化繊維のロービングを所定の長さで切断する切断装置15とが設けられている。切断装置15で切断された強化繊維は、バラバラになって強化繊維投入口12から加熱シリンダ8内に投入されることになる。
【0013】
本実施の形態において成形用金型4は、型開き状態で繊維強化熱可塑性樹脂が射出され、その後圧縮する圧縮成形用の金型であり、第1の型締装置17に設けられている。第1の型締装置17はトグル機構によって型締めされるようになっていてもいいし、型締シリンダによって型締めされるようになっていてもよい。成形用金型4には成形品を成形するキャビティが形成されており、成形用金型4の側方に設けられているスプルから樹脂が射出されるようになっている。このスプルに可塑化装置1のノズル18が当接している。
【0014】
搬送装置6は、成形用金型4において成形された成形品を把持して取出し、これを搬送し、冷却用金型5にインサートできるようになっていればよく、ロボットチャック等から構成することができる。本実施の形態においては、搬送装置6は成形品を把持するハンド20を備えたロボットアームからなる。
【0015】
本実施の形態に係る冷却用金型5は、本発明において特徴的な構成品になっている。冷却用金型5は第2の型締装置22に設けられており、第1の型締装置17の近傍であって搬送装置6に隣接して配置されている。冷却用金型5には成形品を冷却するためのキャビティが形成されており、その形状は実質的に成形用金型4に形成されているキャビティと同じになっている。冷却用金型5は、所定の冷媒で冷却されるようになっており、本実施の形態においては水冷式になっている。第2の型締装置22も型締機構の種類は問わないが、第1の型締装置17に比して大きな型締力は要求されない。従って比較的小型の型締装置から構成することができる。
【0016】
本実施の形態に係る成形装置1によって、繊維強化熱可塑性樹脂から成形品を成形する成形方法を説明する。可塑化装置2すなわち射出装置において加熱シリンダ8を図に示されていないヒータによって加熱し、スクリュ9を回転してホッパ11から熱可塑性樹脂のペレットを投入する。ペレットは加熱シリンダ8内で溶融して前方に送られる。これと並行して強化繊維ロール14から引き出された炭素繊維等の強化繊維のロービングが切断装置15によって切断されて強化繊維投入口12から投入される。そうすると加熱シリンダ8内で樹脂と強化繊維とが混練されて繊維強化熱可塑性樹脂となり、加熱シリンダ8の前方に送られてスクリュ9が後退する。すなわち計量される。第1の型締装置17を駆動して、成形用金型4を開いた状態にする。スクリュ9を軸方向に駆動して射出する。そうすると図1に示されているように繊維強化熱可塑性樹脂が所定量だけ成形法金型4のキャビティに射出される。第1の型締装置17を駆動して圧縮成形する。成形用金型4は比較的高温で維持するようにする。例えば、使用する熱可塑性樹脂がナイロン6であれば金型温度を140℃になるようにする。これによって繊維強化熱可塑性樹脂がキャビティ内で十分な流動性を持つようにし、圧縮成形におけるせん断力によって強化繊維が切断されるのを防止する。また、流動性が十分に高いので第1の型締装置17において圧縮成形における型締力は比較的小さくて済み、成形品の表面性状も良好となる。成形品が固化したら十分に冷却されるまで待たずに成形用金型4を型開きする。成形用金型4は比較的高温で維持されるようになっているので、成形品は比較的高温の状態になっている。搬送装置6によって成形品を取り出して冷却用金型5のキャビティにインサートする。第2の型締装置22を駆動して冷却用金型5を型締めする。すなわち成形品を所定の型締力で圧縮する。成形品が十分に冷却されたら、型開きして成形品を取り出す。
【実施例1】
【0017】
本実施の形態に係る繊維強化熱可塑性樹脂からなる成形品の成形方法によって、高い強度を備えることを確認するため実験を行った。
実験方法:本実施の形態に係る成形装置1において、可塑化装置2と第1の型締装置17とを使用して2個の成形品A、Bを成形した。成形の条件は以下とした。成形品の形状は、300mm×300mm×3mmの平板とした。熱可塑性樹脂としてナイロン6を、強化繊維として炭素繊維を使用した。添加した強化繊維の割合は体積比で30%になるように、すなわち体積比で熱可塑性樹脂70に対して強化繊維が30になるようにした。可塑化装置2によって繊維強化熱可塑性樹脂を得、これを成形用金型4に射出して圧縮成形した。射出時における繊維強化熱可塑性樹脂の温度は260℃とし、成形用金型4の温度は140℃になるように調整した。圧縮成形における型締圧力は22MPaになるようにし、20秒間型締めを実施した。成形用金型4を型開後、成形品Aについては搬送装置6によって冷却用金型5に搬送・インサートし、冷却用金型5を型締めして冷却した。冷却用金型5による型締圧力は1.2MPaになるようにし、300秒間型締めを実施した。つまり成形品Aは、本発明の実施の形態に係る成形方法により成形したことになる。一方、成形品Bについては成形用金型4を型開後、取り出して放置した。つまり成形品Bは、従来の成形方法により成形したことになる。
実験結果:成形品A、Bについて曲げ試験を行って、曲げ弾性率と曲げ強度とを得た。成形品Aは、曲げ弾性率が21.2GPa、曲げ強度が384MPaであった。一方成形品Bは、曲げ弾性率が14.8GPa、曲げ強度が304MPaであった。
考察:繊維強化熱可塑性樹脂から成形品を成形するとき、本実施の形態に係る成形方法を実施すると、従来の成形方法に比して曲げ弾性率で約43%、曲げ強度で約26%も強度が増加することが分かった。強度が増加した正確な理由は分からないが、従来の成形方法で成形すると樹脂中に分散している強化繊維がスプリングバックして強化繊維に対する樹脂の含浸の度合いが減少する一方、本発明の実施の形態に係る成形方法で成形するとスプリングバックが抑制された可能性がある。ただし、スプリングバックの度合いが大きいと成形品の寸法に影響が出るはずであるが、成形品Aと成形品Bの板厚を測定したが、板厚に差は無かった。スプリングバックの度合いが小さくても強度に与える影響が大きい可能性もある。
【0018】
本実施の形態に係る成形装置1は色々な変形が可能である。例えば可塑化装置2は、既に説明したように押出機に置き換えることができる。押出機については単軸スクリュからなる単軸押出機から実施することもできるし、2軸スクリュからなる2軸押出機から実施することもできる。押出機によって実施する場合には、繊維強化熱可塑性樹脂を所定量だけ押し出して切断して塊状成形物とし、これを成形用金型4のキャビティに搬送して圧縮成形することになる。可塑化装置2についてはプランジャ式射出装置を使用する変形も可能である。他の点について変形も可能である。例えば、本実施の形態においては成形品は圧縮成形により成形するように説明した。しかしながら可塑化装置2として射出成形機を使用して、型締めした成形用金型4に射出して成形するようにしてもよい。他にも変形が可能であり、例えば供給する強化繊維についても変形することができる。本実施の形態においては強化繊維を強化繊維投入口12に投入するとき、切断した状態の強化繊維を投入しているが、切断せずに投入してもよい。切断せずに強化繊維を投入するとスクリュ9の回転によるせん断力で加熱シリンダ8内で強化繊維が切断されることになる。本実施の形態に係る成形装置1は、冷却用金型5についても変形が可能である。例えば、本実施の形態においては冷却用金型5は1組のみ設けられているが、2組以上の複数組設けてもよい。冷却用金型5を複数組設けるようにすると、成形用金型4によって成形された成形品を適宜空いている冷却用金型5に搬送して冷却することができ、製造効率を高くすることができる。
【符号の説明】
【0019】
1 成形装置 2 可塑化装置
4 成形用金型 5 冷却用金型
6 搬送装置 8 加熱シリンダ
9 スクリュ 11 ホッパ
12 強化繊維投入口 14 強化繊維ロール
15 切断装置 17 第1の型締装置
18 ノズル 20 ハンド
22 第2の型締装置
図1