(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両では、駆動源からの動力が変速機(トランスミッション)のインプット軸に入力され、変速機で変速された動力がアウトプット軸から差動装置(デファレンシャルギヤ)などを介して左右の駆動輪に伝達される。
【0003】
変速機の一例では、
図6に示されるように、変速機の外殻をなすケース101と回転軸102との間にベアリング103が介在されて、回転軸102がケース101に回転可能に保持されている。回転軸102は、ベアリング103の内輪に圧入により固定され、ベアリング103の外輪は、スナップリング104を用いて、ケース101に対して回転軸線方向に固定されている。また、回転軸102とギヤ105の内周との間にベアリング106が介在されて、ギヤ105が回転軸102に相対回転可能に支持されている。ベアリング106の内輪は、回転軸102に圧入により固定され、ギヤ105は、ベアリング106の外輪に圧入により固定されている。
【0004】
ベアリング103がケース101に組み付けられる際には、ベアリング103の外輪に保持されたスナップリング104をベアリング103が配置される開口107内に押し込むために工具が使用される。回転軸102、ギヤ105および2個のベアリング106が組み上がった状態では、ギヤ105が工具のスナップリング104へのアクセスの邪魔になるので、回転軸102にベアリング103が外嵌されて、ベアリング103がケース101の開口107に取り付けられた後、ギヤ105を保持したベアリング106が回転軸102に取り付けられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ケース101に組み付けられた回転軸102にベアリング106を取り付ける作業は、ケース101に組み付けられていない回転軸102にベアリング106を取り付ける作業よりも面倒である。そのため、従来の組付けの手法では、組付けの作業に工数がかかり、製造コストが嵩む。また、回転軸102にベアリング106が圧入により固定される構成では、ベアリング106が回転軸102に取り付けられる際に、圧入荷重がスナップリング104に加わってしまう。
【0007】
本発明の目的は、ベアリングなどの組付け部品を組み付ける作業に要する工数の削減を図ることができる、ケースを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明に係るケースは、円筒状の外周面を有する組付け部品が嵌められる円形の開口を有し、開口の内周面に、組付け部品の外周面に外嵌されているスナップリングを受け入れる受入溝が周方向に延びて形成され、開口の周囲を取り囲む部分に、受入溝を部分的に欠落させ、開口内と開口の下方の空間とを連通させる切欠部が形成され、切欠部に対して下方から上下方向に対向する位置に、内外を連通させる穴が形成されている。
【0009】
この構成によれば、組付け部品が嵌められる開口の内周面には、組付け部品の外周面に外嵌されているスナップリングを受け入れる受入溝が周方向に延びて形成されている。受入溝にスナップリングが受け入れられることにより、組付け部品がケースに対して開口の中心線方向に固定される。
【0010】
ケースには、開口の周囲を取り囲む部分に、切欠部が形成されている。切欠部が形成されることにより、受入溝が部分的に欠落し、開口内と開口の下方の空間とが連通する。ケースにはさらに、切欠部に対して下方から上下方向に対向する位置に、ケースの内外を連通させる穴が形成されている。
【0011】
これにより、組付け部品のケースへの組み付けの際に、工具を穴から切欠部を通してスナップリングにアクセスさせることができる。そのため、組付け部品と他部材とが組み上がった状態であっても、工具を他部材と干渉させずにスナップリングにアクセスさせて、組付け部品をケースに組み付けることができる。そして、組付け部品と他部材とを組み上げた後に組付け部品をケースに組み付ける手法を採用することにより、組付け部品をケースに組み付ける作業に要する工数の削減を図ることができる。
【0012】
また、本発明を他の局面から見ると、本発明を動力伝達機構に係る発明と捉えることができる。すなわち、本発明の他の局面に係る動力伝達機構は、車両の駆動源と駆動輪との間で動力を伝達する動力伝達機構であって、円形の開口が形成されたケースと、開口に対応した径の外周面を有し、開口に嵌められる組付け部品と、開口の内周面に形成された第1受入溝と組付け部品の外周面に形成された第2受入溝とに跨がって設けられ、組付け部品をケースに対して開口の中心線方向に固定するためのスナップリングとを含み、ケースには、開口の周囲を取り囲む部分に、第1受入溝を部分的に欠落させ、開口内と開口の下方の空間とを連通させる切欠部が形成され、切欠部に対して下方から上下方向に対向する位置に、ケースの内外を連通させる穴が形成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ケースに部材を組み付ける作業に要する工数の削減を図ることができ、ひいては、その工数の削減による製造コストの削減を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0016】
<変速機>
図1は、本発明の一実施形態に係るケース14が採用された変速機1の一部を示す断面図である。なお、
図1では、断面を表すハッチングの付与が省略されている。
【0017】
変速機1は、たとえば、駆動源からの動力が入力されるインプット軸11とデファレンシャルギヤに動力を出力するアウトプット軸(図示せず)との間で動力を2つの経路に分岐して伝達可能な動力分割式の変速機である。一方の動力伝達経路では、ベルト式の無段変速機構(図示せず)を経由して動力が伝達され、他方の動力伝達経路では、その無段変速機構を経由せずに動力が伝達される。ベルト式の無段変速機構は、プライマリプーリとセカンダリプーリとにベルトが巻き掛けられた構成を有している。
図1には、変速機1のインプット軸11の周囲の部分が示されている。
【0018】
インプット軸11は、中空軸であり、その中心軸線方向に延びる略円筒状の軸本体12を有している。軸本体12の駆動源側と反対側の端部は、ベアリング13を介して、変速機1の外殻をなすケース14に保持されている。
【0019】
なお、軸本体12に対する駆動源側は、
図1における右側であり、その反対側は、
図1における左側である。以下、軸本体12に対する駆動源側を「右側」といい、その反対側を「左側」という。
【0020】
軸本体12の左側の端部には、その外側に、ベアリング13の内輪15が嵌められている。内輪15に対して軸本体12が圧入されることにより、軸本体12と内輪15とが固定されている。ケース14には、ベアリング13の外輪16の外径に対応した直径を有する円形の開口17が形成されており、外輪16は、その開口17に嵌められている。外輪16の外周面には、周方向に延びる第1受入溝18が形成されている。これに対応して、開口17の内周面には、周方向に延びる第2受入溝19が形成されている。そして、スナップリング21が第1受入溝18と第2受入溝19との両方に跨がって嵌合することにより、ベアリング13の外輪16がケース14に対してインプット軸11の中心軸線の方向(以下、単に「中心軸線方向」という。)に固定されている。
【0021】
軸本体12には、インプット軸ギヤ22がその左側に連設されている。インプット軸ギヤ22は、軸本体12の左端から開口17の左側をインプット軸11の径方向(以下、単に「径方向」という。)の外側に延びるウェブ部23と、ウェブ部23の外周端が接続される略円筒状のリム部24とを一体に有している。リム部24の外周面には、多数のギヤ歯が形成されている。
【0022】
インプット軸ギヤ22には、無段変速機構のプライマリ軸25に相対回転不能に支持されたプライマリ軸ギヤ26が噛合している。インプット軸11に入力される動力は、インプット軸ギヤ22からプライマリ軸ギヤ26に伝達されて、プライマリ軸ギヤ26と一体にプライマリ軸25を回転させる。
【0023】
ベアリング13の右側には、ドライブギヤ31が設けられている。ドライブギヤ31は、ベアリング32を介して、インプット軸11の軸本体12に相対回転可能に支持されている。ベアリング32の内輪33は、軸本体12の外側に嵌められて、圧入により軸本体12に固定されている。
【0024】
ドライブギヤ31は、ベアリング32の外輪34の外側に嵌められる略円筒状のボス35と、ボス35から径方向の外側に延びる略円環板状のウェブ36と、ウェブ36の外周端が接続される略円筒状のリム37とを一体に有している。ボス35は、スナップリング38により、ベアリング32の外輪34に対して中心軸線方向に固定されている。リム37の外周面には、多数のギヤ歯が形成されている。
【0025】
ドライブギヤ31のさらに右側には、インプット軸11の軸本体12とドライブギヤ31とを連結および分離するために係合および解放されるクラッチ41が設けられている。クラッチ41は、クラッチドラム42、クラッチハブ43、クラッチピストン44およびキャンセラ45を備えている。
【0026】
クラッチドラム42には、インプット軸11の軸本体12の外側に嵌められる略円筒状の外嵌部51と、外嵌部51の右端から径方向の外側に延び、先端部(外周端部)が左側に屈曲して延びる本体部52とが一体に形成されている。外嵌部51は、インプット軸11の軸本体12とのスプライン嵌合により、軸本体12と一体に回転するように設けられている。また、軸本体12には、ロックナット53が外嵌部51の右側に螺着されており、外嵌部51は、ロックナット53が締め付けられることにより、軸本体12に対して中心軸線方向に固定されている。本体部52の先端部には、複数のクラッチプレート54が中心軸線方向に間隔を空けて並べて保持されている。
【0027】
クラッチハブ43は、ドライブギヤ31と一体に形成され、ドライブギヤ31のウェブ36から複数のクラッチプレート54に回転径方向の内側から対向する位置まで延びる略円筒状をなしている。クラッチハブ43には、複数のクラッチディスク55が中心軸線方向に間隔を空けて保持されている。クラッチプレート54とクラッチディスク55とは、中心軸線方向に交互に並ぶように配置されている。
【0028】
クラッチピストン44は、クラッチドラム42とクラッチハブ43との間に、中心軸線方向に移動可能に設けられている。クラッチピストン44の外周端は、クラッチドラム42の本体部52に液密的に当接し、内周端は、クラッチドラム42の外嵌部51に液密的に当接している。これにより、インプット軸11の軸本体12の周囲において、クラッチドラム42とクラッチピストン44との間に、クラッチピストン44に作用する油圧が供給されるピストン室56が形成されている。
【0029】
キャンセラ45は、クラッチハブ43とクラッチピストン44との間に設けられている。キャンセラ45の内周端は、クラッチドラム42の外嵌部51に固定されている。キャンセラ45の外周端は、クラッチピストン44に液密的に当接している。これにより、クラッチピストン44とキャンセラ45との間に、キャンセラ室57が形成されている。キャンセラ室57には、リターンスプリング58が設けられており、クラッチピストン44とキャンセラ45とは、リターンスプリング58の付勢力により、互いに離間する方向に弾性的に付勢されている。
【0030】
クラッチピストン44は、ピストン室56に供給される油圧により、クラッチプレート54側に移動し、クラッチプレート54を押圧する。この押圧により、クラッチプレート54とクラッチディスク55とが圧接し、クラッチ41が係合する。クラッチ41の係合状態から油圧が開放されると、クラッチピストン44とキャンセラ45との間に介在されているリターンスプリング58の付勢力により、クラッチピストン44がクラッチプレート54から離間する。その結果、クラッチディスク55とクラッチプレート54との圧接が解除され、クラッチ41が解放される。
【0031】
クラッチ41の係合により、インプット軸11の軸本体12とドライブギヤ31とが連結されて、インプット軸11に入力される動力がクラッチ41を介してドライブギヤ31に伝達される。ドライブギヤ31には、ドリブンギヤ(図示せず)が噛合しており、ドライブギヤ31からドリブンギヤに動力が伝達されることにより、無段変速機構を経由しない動力伝達経路を動力が伝達される。
【0032】
<ケース>
図2は、ケース14を駆動源側から見た側面図である。
図3は、ケース14の開口17の近傍の斜視図である。
図4は、
図2に示される切断面線A−Aにおけるケース14の断面図である。
図5は、ケース14を開口17の中心を通る水平面で切断したときの断面図である。
【0033】
ケース14は、
図2に示されるように、外殻をなす外壁部61と、外壁部61の内側の空間を中心軸線方向に2分割するように形成された隔壁部62とを有している。
【0034】
インプット軸11の軸本体12(
図1参照)が挿通される開口17は、隔壁部62に形成されている。開口17の周囲には、
図3および
図4に示されるように、隔壁部62から駆動源側に延出する延出部63が隔壁部62と一体に形成されている。スナップリング21(
図1参照)が受け入れられる第2受入溝19は、開口17の内周面の一部を構成する延出部63の内周面64に形成されている。
【0035】
延出部63には、その下端部を切り欠いた切欠部65が形成されている。この切欠部65が形成されることにより、第2受入溝19が部分的に欠落している。また、切欠部65が形成されることにより、延出部63に取り囲まれる部分と延出部63の外側の部分とが切欠部65を介して連通している。
【0036】
また、ケース14は、隔壁部62に対して駆動源側に、ケース14の下側に取り付けられるオイルパン(図示せず)の内側とケース14内とを隔てる底壁部66を有している。この底壁部66には、
図4および
図5に示されるように、切欠部65に対して下方から上下方向に対向する位置に、ケース14内とオイルパン内とを連通させるオイルドレーン穴67が貫通して形成されている。オイルドレーン穴67は、中心軸線方向よりも中心軸線方向と直交する方向に長く延びる形状に形成されている。また、オイルドレーン穴67は、
図5に示されるように、第2受入溝19を含む平面がオイルドレーン穴67と交差するように形成されている。
【0037】
<作用効果>
以上のように、ベアリング13が嵌められる開口17の内周面には、ベアリング13の外周面に外嵌されているスナップリング21を受け入れる第2受入溝19が周方向に延びて形成されている。第2受入溝19にスナップリング21が受け入れられることにより、ベアリング13がケース14に対して開口17の中心軸線方向に固定される。
【0038】
ケース14には、開口17の周囲を取り囲む延出部63に、切欠部65が形成されている。切欠部65が形成されることにより、第2受入溝19が部分的に欠落し、延出部63に取り囲まれる開口17内と延出部63の下方の空間とが連通する。ケース14にはさらに、切欠部65に対して下方から上下方向に対向する位置に、ケース14の内外を連通させるオイルドレーン穴67が形成されている。
【0039】
これにより、ベアリング13のケース14への組み付けの際に、組付け作業者は、工具をオイルドレーン穴67から切欠部65を通してスナップリング21にアクセスさせることができる。そのため、組付け作業者は、インプット軸11の軸本体12にベアリング13を組み付け、軸本体12にベアリング32を介してドライブギヤ31を支持させ、さらにクラッチ41を軸本体12に組み付けることにより、それらを組み上げた後、その組み上げたアッセンブリをケース14に組み付けることができる。この組付けの手法により、ベアリング13などの組付け部品をケース14に組み付ける作業に要する工数の削減を図ることができる。
【0040】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明が、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0041】
たとえば、前述の実施形態では、変速機1として、動力分割式(トルクスプリット式)の変速機を取り上げたが、動力分割式の変速機に限らず、無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)や有段式の自動変速機(AT:Automatic Transmission)など、種々の形式の変速機を変速機1に採用することができる。
【0042】
また、本発明は、変速機1以外の動力伝達機構のケースにも適用することができる。
【0043】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。