特許第6884495号(P6884495)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6884495イオン源強化のSi含有量及び結晶寸法が勾配変化するAlCrSiNコーティング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6884495
(24)【登録日】2021年5月14日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】イオン源強化のSi含有量及び結晶寸法が勾配変化するAlCrSiNコーティング
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20210531BHJP
   C23C 14/32 20060101ALI20210531BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20210531BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20210531BHJP
   C23C 14/02 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
   C23C14/06 A
   C23C14/32 Z
   B32B9/00 A
   C23C14/24 F
   C23C14/02 Z
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-523696(P2020-523696)
(86)(22)【出願日】2018年12月24日
(65)【公表番号】特表2020-537048(P2020-537048A)
(43)【公表日】2020年12月17日
(86)【国際出願番号】CN2018122991
(87)【国際公開番号】WO2019128904
(87)【国際公開日】20190704
【審査請求日】2020年4月17日
(31)【優先権主張番号】201711479893.2
(32)【優先日】2017年12月29日
(33)【優先権主張国】CN
(31)【優先権主張番号】201711483447.9
(32)【優先日】2017年12月29日
(33)【優先権主張国】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520137305
【氏名又は名称】安徽工業大学
【氏名又は名称原語表記】ANHUI UNIVERSITY OF TECHNOLOGY
(73)【特許権者】
【識別番号】520137316
【氏名又は名称】安徽多晶塗層科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】ANHUI DUOJINGTUCENG TECHNOLOGY CO.,LTD.
(73)【特許権者】
【識別番号】520137327
【氏名又は名称】安徽華菱汽車有限公司
【氏名又は名称原語表記】ANHUI HUALING AUTOMOBILE CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】張 世宏
(72)【発明者】
【氏名】蔡 飛
(72)【発明者】
【氏名】王 啓民
(72)【発明者】
【氏名】張 林
(72)【発明者】
【氏名】王 標
(72)【発明者】
【氏名】王 露
(72)【発明者】
【氏名】高 営
(72)【発明者】
【氏名】方 ▲うぇい▼
(72)【発明者】
【氏名】梁 加剛
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第108118301(CN,A)
【文献】 特開2012−097304(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102400099(CN,A)
【文献】 Applied Surface Science,2015年,vol.351,p.803-810
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
B32B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si含有量及び結晶寸法が勾配変化するAlCrSiNコーティングであって、
前記コーティングが表面から基材まで順にAlCrSiN作業層、中間層、AlCrNプライマ層であり、AlCrNプライマ層からAlCrSiN作業層まで、前記中間層内において、Si含有量が1wt.%から徐々に5wt.%に増加し、前記中間層の組織構造が粗大柱状結晶から微細等軸結晶に変化することを含み、組織構造が順に粗大柱状結晶、微細柱状結晶、微細等軸結晶であり、結晶寸法が60nmから徐々に20nmに減少し、
前記AlCrSiNコーティングは常温下で摩擦係数が0.36〜0.40であることを特徴とするSi含有量及び結晶寸法が勾配変化するAlCrSiNコーティング。
【請求項2】
前記AlCrSiNコーティングの顕微硬度が3800HKより大きいことを特徴とする請求項1に記載のSi含有量及び結晶寸法が勾配変化するAlCrSiNコーティング。
【請求項3】
請求項1に記載のコーティングを切削工具に使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はAlCrSiN複合勾配多層コーティングカッターの改質方法に関し、特にイオン源強化のSi含有量及び結晶寸法が勾配変化するAlCrSiNコーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
科学技術の発展に伴い、機械加工業界におけるカッターへの要求が高まり、高効率・複合・環境に優しい製造理念が広く知られており、硬質コーティングが切削カッターに広く使用されている。同時に、被加工ワーク及び環境に優しい問題は切削加工に対して、より速い切削速度、より高いワーク表面品質及び切削中に切削液を少量使用しひいては切削液を使用しないという要求を提出する。コーティングカッターの出現は更にカッターの高速切削性能を改良し、高強度と優れた靱性を有するベースを高耐摩耗性の硬質薄膜表層と結合して、カッター切削性能の改良及び加工技術の発展に重要な促進作用を果たす。加工精度と加工効率を向上させ、カッターの耐用年数を延ばし、加工ワークの表面品質を確保し、生産コストを削減する。
【0003】
硬質コーティングが切削カッターに広く使用されている。統計によれば、85%を超える硬質合金カッターの表面がコーティング処理され、且つこのような比率が将来数年内に次々と増加する。カッターコーティング材料は第1世代の簡単な二次元コーティング(TiN、TiC)、第2世代の三次元又は四次元固溶コーティング(TiAlN、TiCN、TiAlCN等)、第3世代の多層又は超格子構造コーティング(TiN/TiC/TiN多層、TiN/TiAlN/TiN多層、TiN/AlN超格子等)から第4世代のナノ複合構造コーティング(TiSiN、TiAlSiN等)までの発展を経た。第4世代のナノ複合構造コーティングはnc−TiN又はnc−AlTiNが薄いアモルファスベースa−Siに嵌め込まれる複合構造コーティングであり、このようなコーティングは超高硬度(>40GPa)、高靱性、優れた高温安定性及び赤熱硬さ(>1000℃)及び高い酸化安定性を有し、加工しにくい材料を高速で加工する際にカッターコーティングの高硬度、高靱性、高耐摩耗性及び高温性能への要求に適応する。
【0004】
切削過程において、コーティングカッターは力と熱負荷が交互に変化する。従って、カッターコーティングはより高い硬度及び酸化安定性を有するだけでなく、コーティングの切削過程での剥離を防止するよう、更に十分な靱性及び結合強度を有する必要がある。研究によれば、その結合強度を向上させるよう、ベースとコーティングとの間に過渡層を追加することによりベースとコーティングとの間の硬度及び熱膨張率差を減少させてもよい。なお、コーティング及びベースの結合強度及び性能を改良するよう、更にベースに対して表面改質処理例えば活性化、高エネルギーイオンエッチング洗浄、ショットブラスト処理等を行ってもよい。高速度鋼基材の表面に対して超音波ナノ改質(UNSM、ultrasonic nanocrystalline surface modification)を行うことにより、AlCrNコーティングの摩擦性能を著しく向上させることができる。例えば、コーティング表面にAr衝撃を与え、表面活性を向上させ、コーティングカッターの高速切削性能を改良する。更に、例えば、イオン源補助陰極アークイオンプレーティング技術を用いて(Ti:N)−DLCナノ多層複合コーティングを製造する。Arエッチング技術を用いることにより、コーティングと基質との付着力を増加させるよう、ベース表面の汚物を効果的に洗浄して、ベース表面を粗大化して微視的凹凸を形成することができる。
【0005】
従来のカッターコーティング前処理は主に高いベース負バイアス条件下(−800V〜−1200V)で金属Ti又はCrイオンを利用してベースを直接エッチングし、又はアルゴンガスを入れて、Arと金属イオンを利用してベースを洗浄する。このような洗浄は、金属イオンがカッターベースの表面に金属液滴を形成しやすく、又はより大きな洗浄負バイアス(−800V〜−1200V)を必要とするため、電源への要求を高めるという欠点を有する。
【0006】
マルチアークイオンプレーティング技術は現段階で、カッターコーティングを製造する主な技術であり、イオン化率が高く、量産に適するという利点を有し、負バイアス加速によって堆積膜層の結合力が高く、組織が緻密で、堆積速度が速く、現在、硬質耐摩耗性コーティング及び高温保護コーティングに対するカッターの切削に広く使用されている。従来の報道では主に被切削材料に直接接触する作業層を調整・設計することによりカッターコーティングの切削性能を改良するが、ベースに対して高エネルギーイオン源エッチング前処理を行って、Si含有量、組織構造及び結晶寸法が勾配変化する中間層を利用してAlCrSiN勾配カッターコーティングを改良する方法がまだ報道されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は従来技術の欠点を解決し、イオン源エッチング洗浄技術を用いて勾配変化する中間層を追加することによりカッターコーティングの耐用年数を延ばすイオン源強化のSi含有量及び結晶寸法が勾配変化するAlCrSiNコーティングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の技術案により実現される。つまり、本発明のイオン源強化のSi含有量及び結晶寸法が勾配変化するAlCrSiNコーティングであって、前記コーティングは表面から基材まで順にAlCrSiN作業層、中間層、AlCrNプライマ層であり、AlCrNプライマ層からAlCrSiN作業層まで、中間層内のSi含有量が徐々に増加し、前記中間層の組織構造が粗大柱状結晶から微細ナノ結晶及びアモルファスに変化し、組織構造が順に粗大柱状結晶、微細柱状結晶、微細等軸結晶であり、結晶寸法が徐々に小さくなる。
【0009】
本発明の好ましい形態として、前記Si含有量が1wt.%から徐々に5wt.%に増加し、前記結晶寸法が60nmから徐々に20nmに減少する。
【0010】
前記AlCrSiNコーティングにおけるCrをTiで全部又は部分的に代替してAlTiSiNコーティング又はAlCrTiSiNコーティングを製造する。
【0011】
基材に対して、事前に、
マルチアークイオンプレーティングの真空炉を2.0×10−4Paに真空排気し、次にArガスを入れて圧力を4.0Paに調節して450℃に加熱し、洗浄Tiターゲットを起動し、次に陽極ターゲットを起動して、洗浄Tiターゲットとともに正負極を構成することで電子が運動するように牽引し、電子がArガスと衝突してArを発生させ、負バイアスを−200Vに制御し、Arが基材の表面にイオン衝撃を与えるように引きつけ、衝撃時間を45分とするというエッチング洗浄を行う。
【0012】
本発明の好ましい形態として、前記AlCrSiNコーティングは常温下で摩擦係数が0.36〜0.40である。
【0013】
本発明の好ましい形態として、前記AlCrSiNコーティングの顕微硬度が3800HKより大きい。
【0014】
イオン源強化のSi含有量及び結晶寸法が勾配変化するAlCrSiNコーティングの製造方法であって、
真空炉をバックグラウンド真空1×10−4〜2×10−4Paに真空排気し、480℃に温度上昇するステップ(1)と、
Arガスを入れて、炉内真空度を4.0Paに制御し、ベースの負バイアスを−200Vに低下し、Tiターゲットを起動し、ターゲット電流を80Aに制御し、ベースの負バイアスが−200Vである条件下で高エネルギーイオン衝撃の基材の表面に対するエッチング洗浄を完了し、洗浄時間を45分とするステップ(2)と、
Tiターゲットを停止し、Nガスを入れて、基材の負バイアスを−60Vに制御し、炉内真空度を3.5Paに調節し、真空度を3.5Paに維持する定圧方式でNガスを入れて、2組のAlCrターゲットを利用して2組のAlCrターゲットの電流を120Aに調節し、時間を77分とするステップ(3)と、
2組のAlCrターゲットが設定パラメータで継続作業し、AlCrSiターゲットのターゲット電流を120Aに調節し、基材の負バイアスが依然として−60Vである条件下で、時間を58分とするステップ(4)と、
1組のAlCrターゲットを停止し、残りのAlCrターゲットとAlCrSiターゲットとが設定パラメータで継続作業し、時間を88分とするステップ(5)と、
AlCrターゲットを停止し、AlCrSiターゲットが設定パラメータで継続作業し、時間を120分とするステップ(6)と、を含む。
【0015】
本発明の好ましい形態として、前記Arガスの純度が99.999%である。
【0016】
本発明の好ましい形態として、前記Nガスの純度が99.999%である。
【0017】
本発明の好ましい形態として、前記AlCrターゲットにおけるAlとCrとの原子数比が70:30である。
【0018】
本発明の好ましい形態として、前記AlCrSiターゲットにおけるAl:Cr:Siの原子数比が60:30:10である。
【0019】
本発明における製造されたコーティングを切削工具に応用する。
【0020】
通常のベースの洗浄はArイオンと金属Cr又はTiイオンとを洗浄することであり、バイアスが高くとも−800V〜−1200Vに達するが、本発明の利点は、負バイアスが低く、−200Vであり、TiターゲットがArイオンを励起発生させることしか用いられず、洗浄に参加しないということにある。
【0021】
一般的なAlCrSiNコーティングはカッターベースの格子パラメータとの差が大きいため、より大きな内部応力及びより大きな熱膨張率の相違があり、本発明は統一されたマルチアークイオンプレーティング技術を用いてAlCrSiN勾配多層コーティングを製造し、徐々に中間層内のSi含有量を増加させ、Si含有量のコーティングに対する主な作用は結晶及び組織構造を細分化することであり、含有量が高ければ高いほど、結晶寸法が小さくなり、組織が細くなる。従って、Si含有量が増加し、細分化作用が強化され、結晶寸法が小さくなり、組織構造が細分化され、順に組織構造を粗大柱状結晶から微細等軸結晶に変化させ、順に結晶寸法を60nmから20nmに減少させ、コーティングの内部応力及び熱膨張率の相違を効果的に減少させ、コーティングが切削中に衝撃を相殺する機能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
従来技術に比べて、本発明は以下の利点を有する。つまり、本発明は低い負バイアス条件下で、高エネルギーArイオンのみを用いてベースをエッチング洗浄し、異なる洗浄電流を調整することによりコーティングカッターの切削性能を向上させ、表面の付着物を除去し、それによりコーティング表面の欠陥及び粗度を低下させ、コーティングの結合強度及び切削寿命を向上させる。本発明における製造されたコーティングは、良い工程再現性を有し、工業生産を実現しやすく、成分と構造がゆっくりと変化し、摩擦係数が低く、内部応力が低く、靱性が高く、高温安定性が高く、熱膨張率の相違が小さいという利点を有し、堆積されたコーティングカッターは高速条件における高硬度鋼材料の切削加工に適し、本発明における製造されたカッターを用い、切削試験によれば、高速度鋼ベースにおいてコーティングカッターの切削寿命が2倍以上向上され、その機械的耐摩耗性と耐高温酸化性がいずれも大幅に向上され、高速加工のカッター材料に対する要求を満足することができ、市場での将来性や使用価値がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は本発明のイオン洗浄原理を示す図である。
図2図2は異なる洗浄電流条件におけるArエッチング後のベースの表面形態及び対応する三次元形態を示す図である。
図3図3はベースを異なる洗浄電流条件下でArエッチングした後に堆積されたAlCrSiNコーティングのロックウェル圧痕形態を示す図である。
図4図4はベースを異なる洗浄電流条件下でArエッチングした後に堆積されたAlCrSiNコーティングの切削寿命の曲線を示す図である。
図5図5は多層勾配構造AlCrSiN複合カッターコーティングの構造模式図である。
図6図6は中間層のSi元素の含有量がコーティングの厚さにつれて変化する分布図である。
図7図7は中間層の透過写真である。
図8図8はAlCrSiN複合カッターコーティングの多層のうちの各層の透過写真及び回折模様図である。
図9図9は中間層強化のAlCrSiN複合コーティングを実施しない圧痕写真及び中間層強化のAlCrSiN複合コーティングを実施した圧痕写真である。
図10図10は中間層強化のAlCrSiN複合コーティングを実施しない高速度鋼カッターの切削寿命曲線及び中間層強化のAlCrSiN複合コーティングを実施した高速度鋼カッターの切削寿命曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施例を詳しく説明し、本実施例は本発明の技術案を基に実施され、詳細な実施形態及び具体的な操作過程を説明したが、本発明の保護範囲は下記実施例に制限されるものではない。
【0025】
実施例1
図1に示すように、本実施例の真空炉の火室1内に1枚の高エネルギーイオン洗浄のための柱状Tiターゲット2及びコーティング堆積のための6枚のターゲット3が配置される。炉内が高真空度に達すると、柱状Tiターゲット2を起動し、大量のTiイオンをイオン化すると同時に、アルゴンガスを入れて、Arを励起させてベースをエッチング洗浄する。図中、4はワークである。
【0026】
前処理後の高速度鋼カッターを均一に火室内の回転棚に固定し、回転棚の回転速度を3rpmに制御し、バックグラウンド真空1×10−4〜2×10−4Paに真空排気すると同時に、ヒーターを起動し、480℃に温度上昇し、
炉内真空度が2.0×10−4Paに達すると、99.999%純度のArガスを入れて450℃に加熱する。円筒状Tiターゲットを牽引アークターゲットとして起動し、洗浄時の電流を40Aに制御し、大量の電子を励起発生させる。円形補助陽極ターゲットを起動し、Tiターゲットとともに正負極を構成することで電子が運動するように牽引する。電子が炉内のArガスと衝突して高密度のArを発生させる。基材の負バイアスを−200Vとし、Arが基材の表面にイオン衝撃を与えるように引きつける。衝撃時間は45分とする。
【0027】
円筒状Tiアークターゲットを停止し、Nフローバルブを開き、基材の負バイアスを−60Vに制御し、火室内の真空度を3.5Pa程度に調節し、入れたNが定圧方式で入り、2組のAlCrターゲット電流を130Aに調節し、時間を252分とし、
AlCrターゲットを停止し、AlCrSiターゲット材電流を130Aに調節し、基材の負バイアスが依然として−60Vである条件下で、時間を122分とし、AlCrSiターゲットを停止し、バイアス電源を切って、Nフローバルブを閉じて、コーティング工程を完了し、カッターが25℃に炉中冷却してから取り出される。
【0028】
イオンエッチング洗浄後の基材及び製造後のコーティングを検出する。
【0029】
実施例2
本実施例の高エネルギーArイオンエッチング過程においてTiカラムアーク洗浄電流を70Aに制御し、イオンエッチング洗浄後の基材及び製造後のコーティングを検出する。
【0030】
他の実施方法は実施例1と同様である。
【0031】
実施例3
本実施例の高エネルギーArイオンエッチング過程においてTiカラムアーク洗浄電流を100Aに制御し、イオンエッチング洗浄後の基材及び製造後のコーティングを検出する。
【0032】
他の実施方法は実施例1と同様である。本実施例における製造されたAlCrSiNコーティングはAlCrSiN−1と記され、前記コーティングは、表面から基材まで順に、AlCrSiN作業層及びAlCrNプライマ層であり、
上記各実施例のコーティングの詳細な洗浄及び堆積工程パラメータは表1に示される。
【0033】
表1 AlCrSiNコーティングの詳細な洗浄及び堆積工程パラメータ
【0034】
各実施例のサンプルの製造を完了した後、関連の検出を行い、AlCrSiNコーティングの検出結果は表2に示される。
【0035】
表2 AlCrSiNコーティングの検出結果
【0036】
実施例1、実施例2及び実施例3における3種類の洗浄後の基材及びコーティングを比較し、テストを行った結果は以下のとおりである。
【0037】
図2は異なる洗浄電流条件におけるArエッチング処理後のベースの表面SEM及び三次元形態を示す図である。図2(a)及び図2(d)によれば、洗浄電流が40Aである場合、Arエッチング処理を経て、ベースの表面に依然として付着物がある。洗浄電流が70Aに増加する場合、ベース表面の付着物が減少する。更に洗浄電流を100Aに増加させると、ベースの表面に付着物がほとんどなくなって、ベースの表面にエッチング痕跡がある。以上によれば、洗浄電流を増加させることにより、ベースの表面を効果的にエッチング洗浄することができる。本発明は段差計を利用してエッチング洗浄後のベースの表面粗度を検出し、二乗平均平方根高さ(Sq、Rootmeansquareheight)及び算術平均高さ(Ra、Arithmeticalmeandeviation)で基材の表面粗度を特徴づける。図2(d)〜図2(f)は異なる洗浄電流条件におけるイオンエッチング処理後のベースの表面三次元形態を示す図である。洗浄電流がそれぞれ40A、70A及び100Aである場合、コーティングの表面粗度Sqがそれぞれ1112nm、759nm及び536nmであり、Ra値がそれぞれ705nm、525nm及び396nmである。以上によれば、洗浄電流を増加させることにより、Arエッチング強度が増加し、ベースの表面粗度が著しく低下される。
【0038】
図3はベースを異なる洗浄電流条件下でArエッチングした後のAlCrSiNコーティングのロックウェル圧痕形態を示す図である。図3(a)によれば、洗浄電流が40Aである場合、圧痕周囲のコーティングクラックが放射線状を呈して一部が剥離される。洗浄電流が70Aに増加する場合、クラック数及びコーティング剥離度がいずれも大幅に減少され、図3(b)に示される。そして、洗浄電流が100Aに増加する場合、コーティングがほとんど剥離されない。結合強度基準によれば、洗浄電流がそれぞれ40A、70A及び100Aである場合、AlCrSiNコーティング及びベースの結合強度レベルがそれぞれHF3、HF2及びHF1である。
【0039】
図4は切削速度が50m/分である場合のコーティングカッターの切削寿命の曲線を示す図である。逃げ面1/2箇所が鈍磨基準(0.2mm)に達すれば、異なる洗浄電流条件下でAr洗浄工程のカッターの耐用年数に与えた影響が大きい。洗浄電流が40Aである場合、切削長を11mとする。洗浄電流が70Aに増加すると、カッターの切削長が18mに増加する。そして、洗浄電流が100Aに増加する場合、カッターの切削長が23mに更に増加し、その切削寿命が40A洗浄電流の場合より約倍以上向上し、その主な要因は、コーティングとベースとの結合強度が高いためである。結果によれば、低い負バイアス条件であって、イオンエッチング洗浄工程の電流が100Aである場合、表面粗度が最も小さく、結合強度が最も高く、コーティングカッターの切削寿命が最も長い。従って、堆積コーティング前に、高エネルギーArを用いてカッターベースをエッチング洗浄することにより、その切削寿命を著しく向上させることができる。
【0040】
実施例4
本実施例のAlCrSiN複合カッターコーティングの製造方法は、具体的に、以下のとおりである。
【0041】
前処理後の高速度鋼カッターを火室内の回転棚に均一に固定し、回転棚の回転速度を3rpmに制御し、バックグラウンド真空1×10−4〜2×10−4Paに真空排気すると同時に、ヒーターを起動し、480℃に温度上昇し、
炉内真空度が2.0×10−4Paに達すると、99.999%純度のArガスを入れて450℃に加熱する。円筒状Tiターゲットを牽引アークターゲットとして起動し、洗浄時の電流を100Aに制御し、大量の電子を励起発生させる。円形補助陽極ターゲットを起動し、Tiターゲットとともに正負極を構成することで電子が運動するように牽引する。電子が炉内のArガスと衝突して高密度のArを発生させる。基材の負バイアスを−200Vとし、Arが基材の表面にイオン衝撃を与えるように引きつけ、衝撃時間を45分とする。
【0042】
円筒状Tiターゲットを停止し、Nフローバルブを開き、基材の負バイアスを−60Vに制御し、火室内の真空度を3.5Pa程度に調節し、入れたNが定圧方式で入り、2組のAlCrターゲット電流を130Aに調節し、時間を77分とする。
【0043】
2組のAlCrターゲットが設定パラメータで継続して作業し、AlCrSiターゲット材電流を130Aに調節し、基材の負バイアスが依然として−60Vである条件下で、時間を58分とし、
1組のAlCrターゲットを停止し、残りのAlCrターゲットとAlCrSiターゲットとが設定パラメータで継続作業し、時間を88分とし、
AlCrターゲットを停止し、AlCrSiターゲットが設定パラメータで継続作業し、時間を120分とし、AlCrSiターゲットを停止し、バイアス電源を切って、Nフローバルブを閉じて、コーティング工程を完了し、カッターが25℃に炉中冷却してから取り出される。
【0044】
図5に示すように、本実施例における製造された、Si含有量が勾配変化する中間層を有するAlCrSiNコーティングはAlCrSiN−2と記され、前記コーティングは表面から基材まで順にAlCrSiN作業層、中間層、AlCrNプライマ層であり、AlCrNプライマ層からAlCrSiN作業層まで、中間層のSi含有量は1wt.%から5wt.%に順に増加し、図6に示されるとおりであり、多層コーティングの組織構造が順に粗大柱状結晶、微細柱状結晶、微細等軸結晶であり、結晶寸法が60nm、40nm、20nmに変化し、図7に示される。
【0045】
図7は該工程パラメータにおける製造されたSi含有量が勾配変化する中間層の透過写真であり、該中間層は第1過渡層、第2過渡層及び第3過渡層を含み、対応する組織構造が順に粗大柱状結晶、微細柱状結晶、微細等軸結晶である。
【0046】
図8はAlCrSiN複合カッターコーティングの多層のうちの各層の透過写真及び回折模様図であり、図8(a)〜図8(h)はそれぞれAlCrSiN複合カッターコーティングの全体断面図、AlCrN粘接層形態及び回折模様図、粘接層及び第1過渡層の界面形態、第2過渡層の形態及び回折模様図、第2過渡層及び作業層の界面形態、作業層形態及び回折模様図、作業層の高解像度形態、作業層の高解像度図の逆フーリエ変換後の形態を示す図である。コーティングの総厚さは5.0μm程度である。多層コーティングの組織構造は順に粗大柱状結晶、微細柱状結晶、微細等軸結晶であり、結晶寸法が60nm、40nm、20nmに変化する。
【0047】
コーティングの表面顕微硬度は3813.4HKであり、ボールディスク摩擦摩耗試験における摩擦係数は0.36〜0.4である。コーティングを高速度鋼縦型エンドミル上に堆積して切削試験比較を行い、切削条件は湿式切削(水系切削液、液水比1:30)、切削材料20CrMo(焼きならし状態、HB200)、切削速度94.2m/分、送給600mm/分、軸方向及び径方向の切削深さ2mmであり、このような劣悪な環境においてコーティングカッターの耐用年数が2倍以上延ばされる。
【0048】
実施例3及び実施例4の2種類のコーティングを比較し、テストを行った結果は以下のとおりである。
【0049】
図9は2つの工程におけるコーティングのロックウェル圧痕形態を示す図である。図9(a)はAlCrSiN−1であり、図9(b)はAlCrSiN−2であり、図9(a)によれば、圧痕周囲のコーティングクラックが放射線状を呈して一部が剥離される。図9(b)によれば、Si含有量が勾配変化する中間層を利用して強化した後、コーティングがほとんど剥離されない。結合強度基準によれば、コーティングとベースとの結合強度レベルがそれぞれHF3及びHF1である。
【0050】
図10は上記2つの工程における高速度鋼ベース縦型エンドミルの同じ切削条件における切削寿命の曲線を示す図であり、逃げ面の摩耗量を規定した条件下で、複合コーティングはSi含有量が勾配変化する中間層を用いる場合、コーティングの切削寿命が長くなる。
【0051】
実施例5
本実施例のAlCrSiN複合カッターコーティングにおけるCrをTiで全体的に代替してAlTiSiNコーティングを製造する製造方法は、具体的に、以下のとおりである。
【0052】
前処理後の高速度鋼カッターを火室内の回転棚に均一に固定し、回転棚の回転速度を3rpmに制御し、バックグラウンド真空1×10−4〜2×10−4Paに真空排気すると同時に、ヒーターを起動し、480℃に温度上昇し、
炉内真空度が2.0×10−4Paに達すると、99.999%純度のArガスを入れて450℃に加熱する。円筒状Tiターゲットを牽引アークターゲットとして起動し、洗浄時の電流を100Aに制御し、大量の電子を励起発生させる。円形補助陽極ターゲットを起動し、Tiターゲットとともに正負極を構成することで電子が運動するように牽引する。電子が炉内のArガスと衝突して高密度のArを発生させる。基材の負バイアスを−200Vとし、Arが基材の表面にイオン衝撃を与えるように引きつけ、衝撃時間を45分とする。
【0053】
円筒状Tiターゲットを停止し、Nフローバルブを開き、基材の負バイアスを−60Vに制御し、火室内の真空度を3.5Pa程度に調節し、入れたNが定圧方式で入り、2組のAlTiターゲット材(Al:Ti=67:33)電流を120Aに調節し、時間を75分とし、
2組のAlTiターゲットが設定パラメータで継続作業し、AlTiSiターゲット(Al:Ti:Si=60:30:10)電流を120Aに調節し、基材の負バイアスが依然として−60Vである条件下で、時間を55分とし、
1組のAlTiターゲットを停止し、残りのAlTiターゲットとAlTiSiターゲットとが設定パラメータで継続作業し、時間を85分とし、
【0054】
AlTiターゲットを停止し、AlTiSiターゲットが設定パラメータで継続作業し、時間を120分とし、AlTiSiターゲットを停止し、バイアス電源を切って、Nフローバルブを閉じて、コーティング工程を完了し、カッターが25℃に炉中冷却してから取り出される。
【0055】
実施例6
本実施例のAlCrSiN複合カッターコーティングにおけるCrをTiで部分的に代替してAlCrTiSiNコーティングを製造する製造方法は、具体的に、以下のとおりである。
【0056】
前処理後の高速度鋼カッターを火室内の回転棚に均一に固定し、回転棚の回転速度を3rpmに制御し、バックグラウンド真空1×10−4〜2×10−4Paに真空排気すると同時に、ヒーターを起動し、480℃に温度上昇し、
炉内真空度が2.0×10−4Paに達すると、99.999%純度のArガスを入れて450℃に加熱する。円筒状Tiターゲットを牽引アークターゲットとして起動し、洗浄時の電流を100Aに制御し、大量の電子を励起発生させる。円形補助陽極ターゲットを起動し、Tiターゲットとともに正負極を構成することで電子が運動するように牽引する。電子が炉内のArガスと衝突して高密度のArを発生させる。基材の負バイアスを−200Vとし、Arが基材の表面にイオン衝撃を与えるように引きつけ、衝撃時間を45分とする。
【0057】
円筒状Tiターゲットを停止し、Nフローバルブを開き、基材の負バイアスを−60Vに制御し、火室内の真空度を3.5Pa程度に調節し、入れたNが定圧方式で入り、2組のAlCrターゲット材(Al:Cr=70:30)電流を130Aに調節し、時間を75分とし、
2組のAlCrターゲットが設定パラメータで継続作業し、AlTiSiターゲット(Al:Ti:Si=60:30:10)電流を120Aに調節し、基材の負バイアスが依然として−60Vである条件下で、時間を55分とし、
1組のAlCrターゲットを停止し、残りのAlTiターゲットとAlTiSiターゲットとが設定パラメータで継続作業し、時間を200分とし、
AlTiターゲット材、AlTiSiターゲットを停止し、バイアス電源を切って、Nフローバルブを閉じて、コーティング工程を完了し、カッターが25℃に炉中冷却してから取り出される。
【0058】
以上の説明は本発明の好適な実施例であって、本発明を制限するためのものではなく、本発明の趣旨及び原則内に行ったいかなる修正、等価置換及び改良等は、いずれも本発明の保護範囲内に含まれるべきである。
図1
図2
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図10