特許第6884496号(P6884496)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6884496レベチラセタムを有効成分とする注射用製剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6884496
(24)【登録日】2021年5月14日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】レベチラセタムを有効成分とする注射用製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4015 20060101AFI20210531BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20210531BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20210531BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
   A61K31/4015
   A61K9/08
   A61K47/02
   A61K47/12
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2021-35941(P2021-35941)
(22)【出願日】2021年3月8日
【審査請求日】2021年3月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500307269
【氏名又は名称】ユーシービージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100145791
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 志麻子
(74)【代理人】
【識別番号】100141195
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 恵美子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】平子 龍
【審査官】 井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/008391(WO,A1)
【文献】 特開2017−155023(JP,A)
【文献】 特開2020−158542(JP,A)
【文献】 医薬品添付文書 イーケプラ点滴静注500mg,2020年10月
【文献】 輸液製剤の特徴から見た輸液ライン管理のあり方〜輸液ライン管理における医薬品に関連した諸問題とその対策〜,静脈経腸栄養,2014年,Vol.29 No.2,第31(717)頁〜第38(724)頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レベチラセタムを含む注射用滅菌濾過製剤であり、
塩化ナトリウム及び酢酸ナトリウムを含有し、
滅菌濾過が、全成分の溶解後に行う、ポアサイズが0.2μmのフィルターによる滅菌濾過であり、
滅菌濾過後の溶液のpHが5.53〜5.66であり、
前記注射用製剤中のレベチラセタムの量が、配合量の99.7〜100.4%である、注射用滅菌濾過製剤。
【請求項2】
前記注射用製剤中のレベチラセタムの濃度が、10%(w/v)である、請求項に記載の注射用滅菌濾過製剤。
【請求項3】
(a)レベチラセタム、塩化ナトリウム及び酢酸ナトリウムを配合する工程と、
(b)工程(a)で得られた溶液をポアサイズが0.2μmのフィルターで滅菌濾過する工程とを含む、注射用滅菌濾過製剤の製造方法であって、
工程(b)の滅菌濾過を経て得られた充填前溶液中のレベチラセタムの量が、工程(a)におけるレベチラセタムの配合量の99.7〜100.4%であり、かつ前記溶液のpHが5.53〜5.66であることを特徴とする、注射用滅菌濾過製剤の製造方法。
【請求項4】
工程(b)の滅菌濾過を経て得られた充填前溶液を容器に充填し、加熱滅菌する工程をさらに含む、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレベチラセタムを有効成分とする注射用製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
レベチラセタム((2S)-2-(2-Oxopyrrolidine-1-yl)butyramide)は、2−オキソ−1−ピロリジン骨格を有し、その構造に不斉炭素を1個有するS−エナンチオマーである。本邦において、レベチラセタムは、抗てんかん薬(イーケプラ(登録商標)点滴静注500mg等)として販売されており、てんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)の治療等に用いられている。レベチラセタムは、各種受容体及び主要なイオンチャネルとは結合しないが、神経終末のシナプス小胞タンパク質2A(SV2A)との結合、N型Ca2+チャネル阻害、細胞内のCa2+遊離抑制、GABA及びグリシン作動性電流に対するアロステリック阻害の抑制、神経細胞間の過剰な同期化の抑制などが確認されている。SV2Aに対する結合親和性と各種てんかん動物モデルにおける発作抑制作用との間には相関が認められることから、レベチラセタムとSV2Aの結合が、発作抑制作用に寄与しているものと考えられている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
レベチラスタムの製造方法については、2-アミノブチルアミドを製造し、これを光学活性な酒石酸を用いてジアステレオマーとして分離し、酒石酸を除去し、光学活性なエチル(S)-4-{[1-アミノカルボニル]プロピル}アミノブチレート塩酸塩となし、これを中和し、ラクタム化してレベチラセタムに変換する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
また、レベチラセタムは、試薬としてもシグマ・アルドリッチ社より販売もされている。
また、近年においては、レベチラセタムの誘導体において、ピロリドン骨格に、エチル−2−ブロモブチラーを縮合させ、アンモニア分解を行い、相当するラセミ体を得、これを光学分割カラムクロマトグラフィーで光学活性体に分割する技術も開発されている(例えば、特許文献2を参照)。レベチラセタムは、この技術を応用して得ることもできる。
【0004】
現在上市されているレベチラセタムの剤形は、経口投与剤形と注射剤形の2種であるが、てんかん発作時に素早く発作を止める必要があることから、効果発現の素早い注射剤形はてんかん発作治療において、重要な位置づけにある。レベチラセタム注射剤形は、pHを5.0〜6.0に調整されている(https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1139010F1024_1_22/を参照)が、これは、2−オキソ−1−ピロリジン骨格の化合物の水性溶液がこの範囲内において安定に存在するためである(例えば、特許文献2を参照)。
しかしながら、この注射剤形の製品の生産においては、容器に充填前の溶液が製品規格値内であっても、容器に充填し、加熱滅菌した後、出荷判定を行った際に不溶性微細粒子の発生により、ロットアウトしてしまい、廃棄せざるを得ない場合があった。このような不溶性微細粒子は、注射薬においては血管閉塞などの原因ともなりかねないため、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査においても厳しく管理されており、この基準をクリア出来ない製品は廃棄せざるを得ない。このため、当該基準をクリアし、供給の安定性を確保する手段が求められていた。不溶性微粒子の発生原因については、詳細は不明であるが、原体の規格値に現れない極微量の不純物の塩などによるものではないかと推測される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kristen A Stout et.al., ACS Chem Neurosci., 2019;10(9):3927-3938
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−252461号公報
【特許文献2】WO2007/031263パンフレット
【特許文献3】特表2011−513360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような背景下、容器充填、加熱滅菌後に生じた不溶性微粒子によるロットアウトを防ぎ、製品の廃棄量を減らす方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような状況に鑑みて、本発明者らは、容器充填、加熱滅菌後に生じた不溶性微粒子によるロットアウトを防ぐ方策を求めて、鋭意研究、努力を重ねた結果、容器に充填する前の液剤のpHを5.66〜5.53に、かつ、レベチラセタムの量が、配合量の99.7〜100.4%となるように調整すると、ロットアウトが確実に防止し得ることを見いだし、発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下に示すとおりである。
<1>
レベチラセタム、塩化ナトリウム及び酢酸ナトリウムを含む注射用製剤であって、
pHが5.53〜5.66であり、
前記注射用製剤中のレベチラセタムの量が、配合量の99.7〜100.4%である、注射用製剤。
<2>
滅菌濾過製剤である、<1>に記載の注射用製剤。
<3>
前記レベチラセタムの配合量が、10%(w/v)である、<1>または<2>に記載の注射用製剤。
<4>
(a)レベチラセタム、塩化ナトリウム及び酢酸ナトリウムを配合する工程と、
(b)工程(a)で得られた溶液を滅菌濾過する工程とを含む、注射用製剤の製造方法であって、
工程(b)の滅菌濾過を経て得られた充填前溶液中のレベチラセタムの量が、工程(a)におけるレベチラセタムの配合量の99.7〜100.4%であり、かつ前記溶液のpHが5.53〜5.66であることを特徴とする、注射用製剤の製造方法。
<5>
(c)工程(b)の滅菌濾過を経て得られた充填前溶液を容器に充填し、加熱滅菌する工程をさらに含む、<4>に記載の製造方法。
【0009】
本願明細書において、レベチラセタムの「配合量」とは、製剤の原料配合時におけるレベチラセタムの重量である。また、「定量値」とは、製剤を容器に充填する前の溶液(充填前溶液)におけるレベチラセタムの重量であり、液体クロマトグラフィーにより測定した、レベチラセタムのピーク面積と、レベチラセタムの標準物質のピーク面積の比より算出した重量を意味する。なお、この定量値は、容器に充填した後の製剤についての値と同じである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レベチラセタム注射用製剤において、容器充填、加熱滅菌後に生じた不溶性微粒子によるロットアウトを事前に防ぎ、製品の廃棄量を確実に減らすことができる。このため、レベチラセタム注射用製剤の製造における経済性を格段に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、容器充填および加熱滅菌後に生じる不溶性微粒子の少ない製剤の提供および当該製剤の製造方法の提供に関する。
本発明に係る注射用製剤は、レベチラセタム、塩化ナトリウム及び酢酸ナトリウムを含有する。本発明に係る注射用製剤は、レベチラセタムと、塩化ナトリウムと、酢酸ナトリウムを配合し、酢酸によりpHを調整し、滅菌濾過することにより製造することができる。さらに、滅菌濾過したレベチラセタムの注射剤用溶液を、容器に充填し、密閉した後、加熱滅菌してもよい。酢酸の添加により調整されるpHの範囲は、5.3〜5.7である。これは、最終製品において、レベチラセタムが安定なpH域5〜6を実現するための、安全域を見込んだ範囲である。酢酸は、氷酢酸を用いてもよい。
【0012】
本発明に係る注射用製剤に含まれる塩化ナトリウムの含有量は、好ましくは0.85〜0.95%(w/v)であり、より好ましくは0.90%(w/v)(±0.01%)である。また、本発明に係る注射用製剤に含まれる酢酸ナトリウムの含有量は、好ましくは0.16〜0.17%(w/v)であり、より好ましくは0.164%(w/v)(±0.002%)である。
【0013】
前記注射剤用の溶液は、次に示す工程によって製造される。
【0014】
<レベチラセタムの注射剤用溶液の作製工程>
工程(a):配合工程
原料となるレベチラセタム原薬、塩化ナトリウム及び酢酸ナトリウムに対し、注射用の精製水を加え、攪拌、溶解する。レベチラセタム原薬、塩化ナトリウム及び酢酸ナトリウムの量は、それぞれ、最終製品濃度が、10%(w/v)、0.85〜0.95%(w/v)、0.16〜0.17%(w/v)になるように調整する。pHの前調整用に、配合時に少量の酢酸を加えてもよい。配合されるレベチラセタム原薬は、表1に示す規格値のものが好ましく用いられる。溶解後、pHを測定し、pHが5.3〜5.7(最終製品濃度)の範囲に入るように調整しながら、酢酸を加える。酢酸添加後、最終重量が所定量になるように、精製水をさらに加える。上記最終濃度は、本発明に係る注射用製剤における濃度を意味する。
工程(a)はコンベンショナルな条件で行うことができる。
【0015】
【表1】
【0016】
工程(b):滅菌濾過工程
前記工程(a)で得られた溶液を滅菌濾過する。滅菌濾過は1回または2回以上実施することができるが、2回以上が好ましい。2回の滅菌濾過を実施する場合、例えば、第一次滅菌濾過の濾液から、次の第二次滅菌濾過の為の容器は無菌管理し、第一次滅菌濾過以後、容器に充填、密封までの工程は無菌状態で行うことができる。滅菌濾過は、ポアサイズが0.2μm〜0.4μm、好ましくは0.2μmのテフロンフィルターを用いて、加圧濾過にて行う。
<充填前溶液の測定>
前記滅菌濾過を経て得られた濾液(充填前溶液)について、容器へ充填する前に、pH測定と、液体クロマトグラフィーによるレベチラセタム量の測定を行い、工程管理を行う。
液体クロマトグラフィーで測定した場合のレベチラセタムの量(定量値)は当該溶液のピーク面積とレベチラセタム標準品500mgを精秤したものを5mlの精製水に溶かしたもののピーク面積との比より算出する。液体クロマトグラフィーの測定条件を以下に示す。
【0017】
レベチラセタムの定量法:液体クロマトグラフィー
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:205nm)
カラム:内径4.6mm、長さ25cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用シリカゲルを充てんする。
カラム温度:室温
移動相:アセトニトリル/薄めた2mol/L硫酸溶液(1→100)混液(24:1)
流 量:1mL/分
面積測定範囲:レベチラセタムの保持時間の約3倍の範囲
質量への換算は標準品とのピーク面積比より求める。
【0018】
<品質調整>
pHが5.53〜5.66、より好ましくは5.55〜5.65であり、かつ液体クロマトグラフィーで測定した場合のレベチラセタムの量の、配合量に対する比(以下「定量値比」)の99.7〜100.4%、より好ましくは99.7〜100.3%である場合は、次の容器充填、密閉、加熱滅菌工程にまわし、最終製品とする。
前記pHおよび定量値比の少なくともいずれかが、前記範囲を外れたロットは、他のロットと合一し、前記工程(b)と同様に滅菌濾過し、前記pHおよび定量値比が前記範囲に含まれることを確認する。すなわち、ロットあわせを行い、滅菌濾過した当該ロットのpHが5.53〜5.66、より好ましくは5.55〜5.65であり、レベチラセタムの液体クロマトグラフィーによる定量値が、配合量の99.7〜100.4%、より好ましくは99.7〜100.3%であることが確認された場合は、最終の充填、密閉、加熱滅菌工程にまわし、最終製品とする。
本明細書において、加熱滅菌は110℃〜125℃で、圧力1〜2気圧で1〜3時間行うことが好ましい。
【0019】
以下、実施例をあげて、本発明について更に詳細に説明を行う。
【実施例1】
【0020】
以下の表2に示すレベチラセタムの注剤用原液の配合処方に従って、秤量装置のついた300Lタンクに処方成分を仕込み、攪拌可溶化し、攪拌下pHをモニターしながら、酢酸を加え、pHが、5.3〜5.7の間に入るように調整した。これに更に精製水を重量が209.3Kgになるまで加え、充分に攪拌し、レベチラセタムの注射剤用原液を得た。なお、レベチラセタムは前記表1に示した規格に適合したものをUCBソシエテ・アノニム社より購入し、用いた。レベチラセタムは、シグマ・アルドリッチ社より購入することも可能である。
【0021】
【表2】
【0022】
この様に調製したレベチラセタムの注剤用原液は、予め清浄化した状態に保ったラインを通じて、無菌室内の無菌状態に保持した濾過装置に送り込み、0.20μmのポアサイズのテフロンフィルターを用いて滅菌濾過を行い、無菌室内の300Lのタンクに移送した。このタンク内より、再び無菌配管を通じて濾過装置に送り込み、更にもう一回濾過滅菌を行い、300Lタンクに移送した。タンクに移送した溶液を以て注射用溶液とした。レベチラセタムの注射用溶液の一部をサンプリングし、pH値とレベチラセタムの量(定量値)を求めた。液体クロマトグラフィーによるレベチラセタムの定量法は前述のとおりである。残りの注射用溶液は10mlのバイアル瓶に5mlずつ分注し、キャッピングし、密閉した後、120℃、2気圧で1時間最終滅菌を行った。
【0023】
上記工程で37ロットの生産を行った。生産品(バイアル瓶)は、生産後48時間に抜き取りを行い、第15改正日本薬局方(PMDA;https://www.pmda.go.jp/files/000163176.pdf)が定める不溶性微粒子試験法の第1法(光遮蔽粒子計測法)に従って、第1法により測定される25μm以上の不溶性微粒子数と、10μm以上の不溶性微粒子数を計測した。結果を表3に示す。
経験上、25μm以上の不溶性微粒子の数が150以下でかつ10μm以上の不溶性微粒子の数が50以下でない場合、注射剤の安全性を損なう可能性が高いことがわかっている。しかるところ、37ロット中、ロットNo.5、No.6及びNo.9がこの基準からはずれ、ロットアウトした。これらのロットを除外する条件はpHが5.53〜5.66であり、レベチラセタムの定量値が、配合量の99.7〜100.4%であることがわかる(表3)。この条件を満たさなくても、上記不溶性微粒子の基準を満足することはあるが、ロットアウトを確実に防ぐためには、上記条件を充足する必要がある。ちなみに、ロットNo.11、No.21、No.34、No.36はいずれも上記条件を満足する。また、上記定量値比の範囲を99.7〜100.3%にするとより確実にロットアウトを防ぐことができる。
【0024】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明はレベチラセタムの注射製剤に適用できる。
【要約】
【課題】容器充填および加熱滅菌後に生じる不溶性微粒子の少ない製剤の提供および前記製剤の製造方法の提供。
【解決手段】レベチラセタム、塩化ナトリウム及び酢酸ナトリウムを含む注射用製剤であって、pHが5.53〜5.66であり、前記注射用製剤中のレベチラセタムの量が、配合量の99.7〜100.4%である、注射用製剤。
【選択図】なし