特許第6884497号(P6884497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6884497モータロータおよびそれを用いたモータ並びに電動圧縮機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6884497
(24)【登録日】2021年5月14日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】モータロータおよびそれを用いたモータ並びに電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/18 20060101AFI20210531BHJP
【FI】
   H02K1/18 B
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-230858(P2014-230858)
(22)【出願日】2014年11月13日
(65)【公開番号】特開2016-96635(P2016-96635A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2017年9月25日
【審判番号】不服2019-5309(P2019-5309/J1)
【審判請求日】2019年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】余語 一朗
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 和英
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 明紀
【合議体】
【審判長】 小川 恭司
【審判官】 堀川 一郎
【審判官】 鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平2−46142(JP,A)
【文献】 特開2014−162336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の電磁鋼板が積層された円筒形状の回転子鉄心と、
前記回転子鉄心の両端部に積層される端板およびバランスウェイトと、
前記回転子鉄心、前記端板およびバランスウェイトに貫通され、それらを一体に締結する複数本の金属製のヘッド付きカシメピンと、を備え、
前記端板は、非磁性材であって、前記カシメピンよりも硬度が低い金属であり、
前記バランスウェイトは、前記カシメピンよりも硬度が低い金属であり、
前記カシメピンは、一端側にヘッドが設けられ、他端側にカシメ部が設けられており、
前記カシメピンの前記ヘッドと前記バランスウェイトの座面との間に、前記カシメピンの材料よりも硬い材料からなるワッシャもしくはスペーサが介在され、
前記ワッシャもしくはスペーサの径は、前記カシメピンのヘッド径よりも大きくされており、
前記カシメピンの前記カシメ部と前記端板または前記バランスウェイトとの間には前記ワッシャもしくはスペーサが介在されずに、前記カシメ部のカシメ片が前記端板または前記バランスウェイトに対して食い込まれているモータロータ。
【請求項2】
前記バランスウェイトの座面に、前記ワッシャもしくはスペーサを介在させる座ぐりが設けられていることを特徴とする請求項1に記載のモータロータ。
【請求項3】
前記カシメピンが鉄系材、前記バランスウェイトが黄銅材、前記ワッシャもしくはスペーサがステンレス材とされていることを特徴とする請求項1または2に記載のモータロータ。
【請求項4】
モータロータと、モータステータとからなり、前記モータロータが請求項1ないしのいずれかに記載のモータロータとされていることを特徴とするモータ。
【請求項5】
圧縮機構と、駆動軸を介して前記圧縮機構を駆動するモータとを備え、そのモータが請求項に記載のモータとされていることを特徴とする電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数枚の電磁鋼板を円筒形状に積層し、それをカシメピンにより一体に締結したモータロータおよびそれを用いたモータ並びに電動圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動圧縮機に用いられているモータのロータ(回転子)は、複数枚の電磁鋼板を円筒形状に積層して回転子鉄心を構成し、その内部に磁石を埋め込むとともに、その両端部に端板を積層し、更にその両端面にバランスウェイトを積層し、それらを一方向から挿入した複数本のヘッド付きカシメピン(リベットとも云う。)あるいはボルト・ナットにより一体に締結した構成とされている(例えば、特許文献1−3参照)。
【0003】
このようなモータロータにおいて、一般にカシメピンとして鉄系材、端板として磁束の漏洩を防止すべく、黄銅材、亜鉛材、ステンレス材等が使用され、更にバランスウェイトとして、高比重金属である黄銅材、鉄材、ステンレス材等が使用されている。また、バランスウェイトを含む複数枚の電磁鋼板および端板の一体締結には、特許文献3に示すように、ボルト・ナットを用いているものもあるが、特許文献1,2に示すように、カシメピンによって端板および/またはバランスウェイトを同時に一体締結するのが経済的とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−124821号公報
【特許文献2】特開2000−116080号公報
【特許文献3】特開2007−198335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記構成のモータロータにあっては、カシメピンとして主に鉄系材が用いられ、バランスウェイトおよび端板として機能上から黄銅材が使用されることが多いが、モータロータに過大な荷重がかかるような加振条件下での過負荷運転を想定し、本件発明者らが加振試験(X,Y,Z軸方向の加振試験)を行ったところ、カシメピンのヘッド側に積層配設されているバランスウェイトの座面が、カシメピンヘッドとの接触によるヘタリによって陥没し、締結強度が低下してガタツキが発生し、破損に至る虞があることが判明した。
【0006】
このような技術課題は、モータにかかる負荷がより大きくなるとともに、モータがより高回転化されることに伴って、ますます顕著になる傾向にあり、かかる構成のモータロータを適用したモータあるいはそのモータを適用した電動圧縮機等において、その対応策が望まれている。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、カシメピンによる一体締結構造を変更することなく、モータロータの過大な加振力に対する耐力を高め、簡易に締結強度の低下を防止できるモータロータおよびそれを用いたモータ並びに電動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するために、本発明のモータロータおよびそれを用いたモータ並びに電動圧縮機は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかるモータロータは、複数枚の電磁鋼板が積層された円筒形状の回転子鉄心と、前記回転子鉄心の両端部に積層される端板およびバランスウェイトと、前記回転子鉄心、前記端板およびバランスウェイトに貫通され、それらを一体に締結する複数本の金属製のヘッド付きカシメピンと、を備え、前記端板は、非磁性材であって、前記カシメピンよりも硬度が低い金属であり、前記バランスウェイトは、前記カシメピンよりも硬度が低い金属であり、前記カシメピンは、一端側にヘッドが設けられ、他端側にカシメ部が設けられており、前記カシメピンの前記ヘッドと前記バランスウェイトの座面との間に、前記カシメピンの材料よりも硬い材料からなるワッシャもしくはスペーサが介在され、前記ワッシャもしくはスペーサの径は、前記カシメピンのヘッド径よりも大きくされており、前記カシメピンの前記カシメ部と前記端板または前記バランスウェイトとの間には前記ワッシャもしくはスペーサが介在されずに、前記カシメ部のカシメ片が前記端板または前記バランスウェイトに対して食い込まれていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、複数枚の電磁鋼板が積層された回転子鉄心の両端部に端板およびバランスウェイトが積層され、それらが複数本のヘッド付きカシメピンにより加締められて一体に締結されているモータロータにあって、カシメピンのヘッドとバランスウェイトの座面との間に、カシメピンの材料よりも硬い材料からなるワッシャもしくはスペーサが介在されているため、モータロータに過大な荷重がかかるような加振条件下においても、カシメピンのヘッド側に積層配設されているバランスウェイトの座面が、カシメピンよりも硬い材料とされているワッシャもしくはスペーサを介してカシメピンヘッドと接触されることから、カシメピンヘッドとの接触によりヘタって陥没することがなく、締結強度を維持することができる一方、カシメピンのカシメ部側に積層配設されている端板またはバランスウェイトに対しては、カシメピンのカシメ片を食い込ませるように強固に加締めることができる。従って、カシメピンによるバランスウェイトの締結強度を高め、過大な加振力に対する耐力を向上することにより、バランスウェイトの締結強度が低下し、ガタツキが発生して破損に至るリスクを低減でき、モータを高品質化して、その信頼性を確保することができる。
また、本発明によれば、ワッシャもしくはスペーサの径がカシメピンのヘッド径よりも大きくされているため、バランスウェイトの座面と接するワッシャもしくはスペーサの径をカシメピンのヘッド径よりも大きくすることにより、バランスウェイトの座面にかかる面圧を確実に低減し、該座面のヘタリによる陥没を防止することができる。従って、バランスウェイトの締結強度を高め、過大な加振力に対する耐力を確実に向上することができる。
【0010】
さらに、本発明のモータロータは、上記のモータロータにおいて、前記バランスウェイトの座面に、前記ワッシャもしくはスペーサを介在させる座ぐりが設けられていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、バランスウェイトの座面に、ワッシャもしくはスペーサを介在させる座ぐりが設けられているため、カシメピンヘッドとバランスウェイトの座面との間に座ぐりを介してワッシャもしくはスペーサを介在させることができる。これによって、ワッシャもしくはスペーサのすわりを安定化させることができ、バランスウェイトの締結強度をより強固にすることができる。
【0014】
さらに、本発明のモータロータは、上述のいずれかのモータロータにおいて、前記カシメピンが鉄系材、前記バランスウェイトが黄銅材、前記ワッシャもしくはスペーサがステンレス材とされていることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、カシメピンが鉄系材、バランスウェイトが黄銅材、ワッシャもしくはスペーサがステンレス材とされているため、バランスウェイトとして、カシメピンよりも硬度が低く、ステンレス材等よりも安価な黄銅材を用いたままで、安価なワッシャもしくはスペーサを介在させることによって、バランスウェイトの締結強度を確保することができる。従って、コストアップを抑制しながら、バランスウェイトの締結強度を高め、過大な加振力に対する耐力を向上することができる。
【0016】
さらに、本発明にかかるモータは、モータロータと、モータスータとからなり、前記モータロータが上述のいずれかのモータロータとされていることを特徴とする。
【0017】
本発明のモータによれば、モータロータが、上述のいずれかのモータロータとされているため、モータロータの両端部に積層され、カシメピンを介して一体に締結される端板およびバランスウェイトの締結強度を向上することができる。従って、モータロータに過大な荷重がかかるような加振条件下においても、その加振力に対する耐力を高めることによって、端板およびバランスウェイトの締結強度が低下し、ガタツキが発生して破損に至るリスクを低減でき、モータを高品質化して、その信頼性を確保することができる。
【0018】
さらに、本発明にかかる電動圧縮機は、圧縮機構と、駆動軸を介して前記圧縮機構を駆動するモータとを備え、そのモータが上述のモータとされていることを特徴とする。
【0019】
本発明の電動圧縮機によれば、駆動軸を介して圧縮機構を駆動するモータが、上述のモータとされているため、圧縮機構を駆動するモータのロータに過大な荷重がかかるような加振条件下においても、その加振力に対する耐力を高めることにより、端板およびバランスウェイトの締結強度が低下し、ガタツキが発生して破損に至るリスクを低減することができる。従って、電動圧縮機の過負荷運転時の耐振性能を一段と向上し、その信頼性を高めることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のモータロータによると、モータロータに過大な荷重がかかる加振条件下においても、カシメピンのヘッド側に積層配設されているバランスウェイトの座面が、カシメピンよりも硬い材料とされているワッシャもしくはスペーサを介してカシメピンヘッドと接触されることから、カシメピンヘッドとの接触によりヘタって陥没することがなく、締結強度を維持することができる一方、カシメピンのカシメ部側に積層配設されている端板またはバランスウェイトに対しては、カシメピンのカシメ片を食い込ませるように強固に加締めることができるため、カシメピンによるバランスウェイトの締結強度を高め、過大な加振力に対する耐力を向上することにより、バランスウェイトの締結強度が低下し、ガタツキが発生して破損に至るリスクを低減でき、モータを高品質化して、その信頼性を確保することができる。
【0021】
本発明のモータによると、モータロータの両端部に積層され、カシメピンを介して一体に締結される端板およびバランスウェイトの締結強度を向上することができるため、モータロータに過大な荷重がかかるような加振条件下においても、その加振力に対する耐力を高めることにより、端板およびバランスウェイトの締結強度が低下し、ガタツキが発生して破損に至るリスクを低減でき、モータを高品質化して、その信頼性を確保することができる。
【0022】
本発明の電動圧縮機によると、圧縮機構を駆動するモータのロータに過大な荷重がかかるような加振条件下においても、その加振力に対する耐力を高めることにより、端板およびバランスウェイトの締結強度が低下し、ガタツキが発生して破損に至るリスクを低減することができるため、電動圧縮機の過負荷運転時の耐振性能を一段と向上し、その信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態に係る電動圧縮機の縦断面図である。
図2】上記電動圧縮機におけるモータロータの縦断面図である。
図3】上記モータロータのA部の拡大断面相当図である。
図4】本発明の第2実施形態に係るモータロータの図2におけるA部の拡大断面相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図1ないし図3を用いて説明する。
図1には、本発明の第1実施形態に係る電動圧縮機の縦断面図が示され、図2には、そのモータロータの縦断面図、図3には、そのA部の拡大断面相当図が示されている。
ここでの電動圧縮機1は、電動圧縮機1のハウジング2にモータ17を駆動するインバータ25が一体に組み込まれているインバータ一体型電動圧縮機1とされているが、本発明は、インバータ25を備えていない、あるいはインバータ25が別置きとされている電動圧縮機1にも同様に適用できることはもちろんである。
【0025】
インバータ一体型とされた電動圧縮機1は、円筒状のハウジング2を備え、その一端部は圧縮機側エンドハウジング3により密閉され、他端部はモータ側エンドハウジング4によって密閉されている。円筒状のハウジング2の一端部側には、一対の固定スクロール5および旋回スクロール6からなる公知のスクロール圧縮機構(圧縮機構)7が組み込まれており、この圧縮機構7により圧縮された高圧冷媒ガスは、吐出ポート8および吐出弁9を介して吐出チャンバー10内に吐出され、そこから冷凍サイクルへと吐出されるようになっている。
【0026】
また、スクロール圧縮機構7を構成する固定スクロール5は、圧縮機側エンドハウジング3にボルト11で固定され、旋回スクロール6は、スラスト軸受12にオルダムリンク13等の自転阻止手段を介して旋回可能に支持されている。この固定スクロール5および旋回スクロール6を公知の如く噛み合わせることにより圧縮室14を形成し、その圧縮室14を旋回スクロール6の公転旋回駆動によって外周側から中心側へと容積を減少させながら移動させることにより、圧縮動作を行わせる構成とされている。
【0027】
円筒状のハウジング2の他端部側には、モータステータ(固定子)15と、モータロータ(回転子)16とからなるモータ17が組み込まれており、そのモータ17のモータロータ16に駆動軸18が一体に結合されている。駆動軸18は、ハウジング2内の中央部付近に設置された軸受20と、モータ側エンドハウジング4の内面に設けられた軸受21とにより回転自在に支持され、その一端に設けられたクランクピン19が、ドライブブッシュ22および旋回軸受23を介して旋回スクロール6と連結されることによって、旋回スクロール6、すなわちスクロール圧縮機構7が駆動可能とされている。
【0028】
一方、モータ側エンドハウジング4の外面側には、インバータ収容部24が一体成形されており、その内部にモータ17を駆動するインバータ25が収容設置されている。このインバータ25は、外部のバッテリ等から給電される直流電力を所要周波数の三相交流電力に変換し、モータ側エンドハウジング4を貫通するハーメチック端子(図示省略)を介してモータ17に印加することにより、モータ17を駆動するものである。
【0029】
インバータ25は、例えば、電力用半導体スイッチング素子であるIGBT等の複数個のパワートランジスタで構成されるスイッチング回路が実装されたパワー基板と、外部から入力される制御信号に基づいて、スイッチング回路、その他を制御するCPU等の低電圧で動作する素子で構成される制御通信回路が実装された制御基板と、ノイズ除去用のフィルタ回路を構成する平滑コンデンサおよびコイル等の電装部品とから構成されるものであり、それ自体は公知のもの故、ここでの詳細説明は省略する。
【0030】
このインバータ25を介して駆動されるモータ17は、上記の如くモータステータ(固定子)15と、モータロータ(回転子)16とから構成されるが、モータステータ(固定子)15は、環状に打抜き成形された電磁鋼板を所要枚数積層して構成される固定子鉄心26を備え、その内周側に設けられたティース部にコイル巻線(図示省略)を絶縁ボビン27を介して集中巻きした構成とされている。
【0031】
一方、モータステータ15の内周に、所定のモータギャップを介して回転自在に設けられるモータロータ(回転子)16は、図2に示されるように、打抜き成形された薄い電磁鋼板を所要枚数積層して構成される円筒状の回転子鉄心28を有しており、その中心部に駆動軸18を嵌合する貫通孔29が軸方向に穿設されている。回転子鉄心28には、その外周部位に沿って貫通孔29を取り囲むように、モータ極数に対応した数の磁石埋め込み用孔が設けられ、それぞれの磁石埋め込み用孔に図示省略した永久磁石(以下、単に磁石とも云う。)が組み込まれた構成とされている。
【0032】
また、複数枚の電磁鋼板を積層した回転子鉄心28の両端面には、磁石の抜けを防止するとともに、磁束の漏洩を防止するための端板30,31が積層されており、更にその端板30,31の外面側には、回転系のバランスをとるためのバランスウェイト32,33が積層配設されている。これらの回転子鉄心28、端板30,31およびバランスウェイト32,33は、複数本(例えば、4本)のヘッド付きカシメピン(リベットとも云われている。)34を介して一体に締結されている。
【0033】
ヘッド付きカシメピン34は、一端側にヘッド35が設けられ、他端側にカシメ部36が設けられているものであり、バランスウェイト32,33側から回転子鉄心28、端板30,31およびバランスウェイト32,33に設けられている貫通穴(図示省略)に挿入し、そのカシメ部36をカシメ工具で他端側の端板31,30またはバランスウェイト33,32に対して加締めることにより、回転子鉄心28、端板30,31およびバランスウェイト32,33を一体に締結するものである。
【0034】
更に、本実施形態においては、上記の如く、回転子鉄心28、端板30,31およびバランスウェイト32,33を、ヘッド付きカシメピン34を介して一体に締結したモータロータ(回転子)16が、過負荷運転等によりモータロータ16に過大な荷重がかかるような加振条件下で繰り返し運転された場合においても、カシメピン34によるバランスウェイト32,33の締結強度が低下し、ガタツキが発生して破損に至るようなことがないように、以下のような構成を採用している。
【0035】
上記の如く、バランスウェイト32,33に対する締結強度が低下するのは、加振試験の結果、カシメピン34のヘッド35側に配設されているバランスウェイト32,33の座面が、カシメピン34のヘッド35との接触によるヘタリによって陥没し、締結強度が低下してガタツキが発生することによるものであることが判明した。その原因は、バランスウェイト32,33として高比重金属である黄銅材が用いられており、該黄銅材が主に鉄系材が用いられているカシメピン34に対して、材質的に硬度が低いことによるものと考えられる。
【0036】
そこで、本実施形態においては、バランスウェイト32,33を回転子鉄心28に対して一体に締結するカシメピン34のヘッド35とバランスウェイト32,33の座面との間に、一般に鉄系材が用いられることが多いカシメピン34よりも硬い、例えばステンレス材からなるワッシャ37を介在させ、バランスウェイト32,33を一体に締結した構成とすることにより、カシメピン34のヘッド35側において、過大荷重が負荷されたとしても、バランスウェイト32,33の座面がヘタリにより陥没しないようにしている。
【0037】
つまり、一般に、カシメピン34としては、例えば冷間圧造用炭素鋼(JIS・G・3507−2)等の鉄系材、端板30,31としては、磁束の漏洩を防止すべく、アルミ材等の非磁性材が使用され、更にバランスウェイト32,33としては、高比重金属である黄銅材、ステンレス材等が使用されている中において、本実施形態においては、カシメピン34を鉄系材とするとともに、カシメピン34のヘッド35と接触するバランスウェイト32,33の材料として、高比重金属であり、かつステンレス材等に比べて安価な黄銅材を用いたまま、カシメピン34よりも硬度が高いステンレス材製のワッシャ37を介在させた構成とすることにより、上記条件を満たすようにしている。
【0038】
また、上記のように、カシメピン34のヘッド35とバランスウェイト32,33の座面との間に、ワッシャ37を介在させた構成を採用するに当り、ワッシャ37の径Φ1をカシメピン34のヘッド径Φ2よりも大きく(Φ1>Φ2)とするとともに、バランスウェイト32,33の座面に座ぐり38を設けることによって、ワッシャ37のすわりを安定化させている。但し、座ぐり38は、不可欠なものではなく、省いてもよい。
【0039】
以上に説明の構成により、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
上記電動圧縮機1において、外部電源から供給された直流電力をインバータ25により所要周波数の三相交流電力に変換し、その三相交流電力をモータ17に印加することによって、モータ17が回転駆動され、スクロール圧縮機構7が駆動される。モータ17およびスクロール圧縮機構7の駆動により、冷凍サイクル側から低圧冷媒ガスがハウジング2内に吸い込まれ、その低圧冷媒ガスがハウジング2の内面側に沿って、スクロール圧縮機構7側へと流通され、スクロール圧縮機構7に吸入されることにより高温高圧のガスに圧縮される。この高圧ガスは吐出チャンバー10を経て外部へと吐出される。
【0040】
この間、モータ17には、インバータ25を介して負荷に見合った周波数の電力が印加され、高負荷運転時には、モータロータ16に対しても過大な荷重がかかり、大きな加振力が作用することになる。然るに、本実施形態においては、複数枚の電磁鋼板を積層した回転子鉄心28、端板30,31およびバランスウェイト32,33を複数本のヘッド付きカシメピン34により一体に締結しているモータロータ16にあって、カシメピン34のヘッド35とバランスウェイト32,33の座面との間にカシメピン34の材料よりも硬い材料からなるワッシャ37を介在させた構成としている。
【0041】
このため、モータロータ16に過大な荷重がかかるような加振条件下でも、カシメピン34のヘッド35側のバランスウェイト32,33の座面が、カシメピン34よりも硬い材料とされたワッシャ37を介してカシメピンヘッド35と接触されることから、その座面がカシメピンヘッド35との接触によりヘタって陥没することがなく、締結強度を維持することができる一方、カシメピン34のカシメ部36側を、端板30,31またはバランスウェイト32,33に対して、カシメ片を食い込ませるように強固にカシメ止めできることから、カシメピン34による締結強度を向上することができる。
【0042】
従って、カシメピン34によるバランスウェイト32,33の締結強度を高め、過大な加振力に対する耐力を向上することにより、バランスウェイト32,33の締結強度が低下し、ガタツキが発生して破損に至るリスクを低減することができ、モータ17の品質を高めて、その信頼性を確保することができる。
【0043】
また、バランスウェイト32,33の座面とカシメピンヘッド35との間に、ワッシャ37を介在させるに当り、バランスウェイト32,33の座面に、座ぐり38を設けているため、カシメピンヘッド35とバランスウェイト32,33の座面との間に座ぐり38を介してワッシャ37を介在させることができる。これによって、ワッシャ37のすわりを安定化させることができ、バランスウェイト32,33の締結強度をより強固にすることができる。
【0044】
更に、ワッシャ37の径Φ1をカシメピン34のヘッド径Φ2よりも大きくし、バランスウェイト32,33の座面と接するワッシャ37の径Φ1がカシメピン34のヘッド径Φ2よりも大きくなるようにしているため、バランスウェイト32,33の座面にかかる面圧を確実に低減し、該座面のヘタリによる陥没を防止することができる。従って、バランスウェイト32,33の締結強度を高め、過大な加振力に対する耐力を確実に向上することができる。
【0045】
また、本実施形態においては、カシメピン34が鉄系材、バランスウェイト32,33が黄銅材、ワッシャ37がステンレス材とされているため、バランスウェイト32,33として、カシメピン34よりも硬度が低く、ステンレス材等よりも安価な黄銅材を用いたままで、安価なワッシャ37を介在させることによって、バランスウェイト32,33の締結強度を確保することができる。従って、コストアップを抑えつつ、バランスウェイト32,33の締結強度を高め、過大な加振力に対する耐力を向上することができる。
【0046】
また、本実施形態に係るモータ17は、そのモータロータ16が、上記構成のモータロータ16とされているため、モータロータ16の両端部に積層され、カシメピン34により一体に締結されるバランスウェイト32,33の締結強度を向上することができる。従って、モータロータ16に過大な荷重がかかるような加振条件下においても、その加振力に対する耐力を高めることにより、バランスウェイト32,33の締結強度が低下し、ガタツキが発生して破損に至るリスクを低減でき、モータ17を高品質化して、その信頼性を確保することができる。
【0047】
同様に、本実施形態に係る電動圧縮機1は、駆動軸18を介して圧縮機構7を駆動するモータ17が、上記構成のモータ17とされているため、圧縮機構7を駆動するモータ17のモータロータ16に過大な荷重がかかるような加振条件下においても、その加振力に対する耐力を高めることにより、バランスウェイト32,33の締結強度が低下し、ガタツキが発生して破損に至るリスクを低減することができる。従って、電動圧縮機1の過負荷運転時の耐振性能を一段と向上し、その信頼性を高めることができる。
【0048】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について、図4を用いて説明する。
本実施形態は、上記した第1実施形態に対して、ワッシャ37に代え、スペーサ39を介在させている点が異なる。その他の点については、第1実施形態と同様であるので説明は省略する。
本実施形態は、図4に示されるように、カシメピン34のヘッド35とバランスウェイト32,33の座面との間に、鉄系材であるカシメピン34よりも硬い、例えばステンレス材からなる鍔39A付きのスペーサ39を介在させ、バランスウェイト32,33を一体に締結した構成とすることにより、カシメピン34のヘッド35側において、過大荷重が負荷されたとしても、バランスウェイト32,33の座面がヘタリにより陥没しないようにしたものである。
【0049】
また、カシメピン34のヘッド35とバランスウェイト32,33の座面との間にスペーサ39を介在させるに当っては、第1実施形態と同様、バランスウェイト32,33の座面に座ぐり38を設けるとともに、スペーサ39の鍔39Aの径Φ3をカシメピンヘッド35の径Φ2よりも大きく(Φ3>Φ2)した構成としてい。
このような構成を採用することによって、上記した第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0050】
なお、本発明は、上記実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。例えば、上記実施形態においては、カシメピン34およびバランスウェイト32,33の具体的材料を例示したが、その材料のみに限定されるこのではなく、請求項1により特定した硬度に関する要件を満たすものであれば、零時した以外の材料を用いてもよい。
【0051】
また、バランスウェイト32,33の形状や大きさ等は、各々の機能を満たすものであれば、特に制限されるものではなく、その形状や大きさによってカシメピン34のカシメ部36側が加締められる相手側がバランスウェイト32,33になるか、端板30,31になるかが決まることとなる。更に、圧縮機構については、スクロール圧縮機構7に限定されるものではなく、如何なる圧縮機構であってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 電動圧縮機
7 スクロール圧縮機構(圧縮機構)
15 モータステータ(固定子)
16 モータロータ(回転子)
17 モータ
18 駆動軸
28 回転子鉄心
30,31 端板
32,33 バランスウェイト
34 カシメピン(リベット)
35 ヘッド
36 カシメ部
37 ワッシャ
38 座ぐり
39 スペーサ
39A 鍔
Φ1 ワッシャの径
Φ2 カシメピンヘッドの径
Φ3 スペーサの鍔径
図1
図2
図3
図4