(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6884510
(24)【登録日】2021年5月14日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】ターボ冷凍機並びにターボ冷凍機の制御装置
(51)【国際特許分類】
F16C 32/04 20060101AFI20210531BHJP
F04D 29/058 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
F16C32/04 A
F04D29/058
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-62203(P2016-62203)
(22)【出願日】2016年3月25日
(65)【公開番号】特開2017-172769(P2017-172769A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2018年12月28日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、環境省委託「CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業(業務用空調用途のライフサイクルコストを低減出来る低損失・高効率ターボ冷凍機の開発)」に係る、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】時政 泰憲
(72)【発明者】
【氏名】廣田 和生
(72)【発明者】
【氏名】梅原 隆一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 泰士
【審査官】
西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−257352(JP,A)
【文献】
特開昭58−127588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 32/04
F04D 29/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空形状をなすケーシングと、
前記ケーシング内に収容される回転軸と、
前記回転軸を前記ケーシングに回転自在に支持する磁気軸受と、
前記回転軸を駆動回転するモータと、
前記ケーシング内で前記回転軸に設けられる羽根車と、
前記磁気軸受による前記回転軸の支持位置を径方向に沿って調整する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記ケーシングに対する前記回転軸の径方向位置に基づいて前記磁気軸受による前記回転軸の支持位置を径方向に沿って調整する第1制御部と、
予め設定された前記羽根車が起因となる運転状態に応じた前記回転軸の振動に基づいて前記磁気軸受による前記回転軸の支持位置を径方向に沿って調整する第2制御部と、
を備え、
事前に解析予測または実験計測により求められた前記羽根車の回転数に対する調整量と、事前に解析予測または実験計測により求められた前記羽根車の回転負荷に対する調整量とをマップとして記憶する記憶部と、
前記羽根車の回転数を検出する回転数検出器と、
前記羽根車の回転負荷を検出する負荷検出器と、
を設け、
前記第2制御部は、前記回転数検出器が検出した回転数に対する調整量と、前記負荷検出器が検出した回転負荷に対する調整量とをそれぞれ前記記憶部に記憶されたマップを用いて設定し、前記回転数に対する調整量と前記回転負荷に対する調整量を加算して前記回転軸における径方向位置の調整量を設定する、
ことを特徴とするターボ冷凍機。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第1制御部が設定した第1調整量と、前記第2制御部が設定した第2調整量とを加算して前記回転軸における径方向位置の調整量を設定することを特徴とする請求項1に記載のターボ冷凍機。
【請求項3】
前記制御装置は、第1調整量に第1重み付け係数を乗算した第1補正調整量と、第2調整量に第2重み付け係数を乗算した第2補正調整量とを加算して前記回転軸における径方向位置の調整量を設定するとき、前記回転軸の回転速度が一定となる定常運転時は、前記第2重み付け係数を前記第1重み付け係数より大きく設定することを特徴とする請求項2に記載のターボ冷凍機。
【請求項4】
前記制御装置は、第1調整量に第1重み付け係数を乗算した第1補正調整量と、第2調整量に第2重み付け係数を乗算した第2補正調整量とを加算して前記回転軸における径方向位置の調整量を設定するとき、前記回転軸の回転速度が変動する過渡運転時は、前記第1重み付け係数を前記第2重み付け係数より大きく設定することを特徴とする請求項2に記載のターボ冷凍機。
【請求項5】
中空形状をなすケーシングと、
前記ケーシング内に収容される回転軸と、
前記回転軸を前記ケーシングに回転自在に支持する磁気軸受と、
前記回転軸を駆動回転するモータと、
前記ケーシング内で前記回転軸に設けられる羽根車と、
前記磁気軸受による前記回転軸の支持位置を径方向に沿って調整する制御装置と、
を備えるターボ冷凍機において、
前記ケーシングに対する前記回転軸の径方向位置に基づいて前記磁気軸受による前記回転軸の支持位置を径方向に沿って調整すると共に、予め設定された前記羽根車が起因となる運転状態に応じた前記回転軸の振動に基づいて前記磁気軸受による前記回転軸の支持位置を径方向に沿って調整するものであり、
事前に解析予測または実験計測により求められた前記羽根車の回転数に対する調整量と、事前に解析予測または実験計測により求められた前記羽根車の回転負荷に対する調整量とをマップとして記憶し、
前記羽根車の回転数を検出し、
前記羽根車の回転負荷を検出し、
検出した回転数に対する調整量と検出した回転負荷に対する調整量とをそれぞれ前記マップを用いて設定し、前記回転数に対する調整量と前記回転負荷に対する調整量を加算して前記回転軸における径方向位置の調整量を設定する、
ことを特徴とするターボ冷凍機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽根車が設けられる回転軸を磁気軸受により支持する回転機械
としてのターボ冷凍機、この
ターボ冷凍機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ターボ冷凍機は、電気電子関連工場のようなクリーンルームを有する大型の工場空調や、地域冷暖房などの用途に幅広く使用されている大容量の熱源機器である。ターボ冷凍機は、ターボ圧縮機、凝縮器、蒸発器などの構成機器がユニット化して構成されている。このうち、ターボ圧縮機は、回転駆動部を構成する電動機と、この電動機により回転駆動する回転軸(回転軸)及び複数のインペラを有する圧縮部を備えている。このターボ圧縮機にて、回転軸は、軸受部により回転自在に辞されているが、軸受部として磁気軸受を適用しているものがある。
【0003】
このような技術として、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−094259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回転軸が磁気軸受により支持されたターボ圧縮機では、磁気軸受に磁力を作用させ、回転軸を吸引させることで浮上させ、回転軸の中心が機器の中心に位置するように、磁気軸受へ流す電流量を調整して回転軸の位置を調整する。従来、磁気軸受による回転軸の位置調整制御は、フィードバック制御が適用されている。即ち、検出器が回転軸の位置を検出し、この回転軸の検出位置に基づいて磁気軸受へ流す電流量を調整し、回転軸の位置を調整している。ところが、このようなフィードバック制御では、検出器が回転軸の位置を検出してから、磁気軸受に流す電流量を調整するまでに時間遅れが発生する。すると、回転軸の位置を迅速に、且つ、適正に修正することができず、回転軸の位置調整か繰り返し行われることとなり、磁気軸受を作動するための電力消費量が大きくなってしまう。
【0006】
本発明は上述した課題を解決するものであり、磁気軸受による回転軸の支持位置を高精度に調整可能とする回転機械並びに回転機械の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するための本発明の回転機械は、中空形状をなすケーシングと、前記ケーシング内に収容される回転軸と、前記回転軸を前記ケーシングに回転自在に支持する磁気軸受と、前記回転軸を駆動回転するモータと、前記ケーシング内で前記回転軸に設けられる羽根車と、前記磁気軸受による前記回転軸の支持位置を径方向に沿って調整する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記ケーシングに対する前記回転軸の径方向位置に基づいて前記磁気軸受による前記回転軸の支持位置を径方向に沿って調整する第1制御部と、予め設定された前記羽根車が起因となる運転状態に応じた前記回転軸の振動に基づいて前記磁気軸受による前記回転軸の支持位置を径方向に沿って調整する第2制御部と、を備えることを特徴とするものである。
【0008】
従って、第1制御部は、ケーシングに対する回転軸の径方向位置に基づいて磁気軸受による回転軸の支持位置を径方向に沿って調整し、第2制御部は、羽根車が起因となる運転状態に応じた回転軸の振動に基づいて磁気軸受による回転軸の支持位置を径方向に沿って調整する。即ち、第1制御部は、現在の回転軸の径方向位置に基づいて磁気軸受を用いてフィードバック制御により回転軸の支持位置を調整し、第2制御部は、回転機械の運転状態に応じた回転軸の振動に基づいて磁気軸受を用いてフィードフォワード制御により回転軸の支持位置を調整する。そのため、磁気軸受による回転軸の支持位置を高精度に調整することができる。
【0009】
本発明の回転機械では、前記羽根車が起因となる運転状態に応じた前記回転軸の振動を解析予測または実験計測により求めておき、前記第2制御部は、解析予測または実験計測により求めた運転状態に応じた前記回転軸の振動から前記回転軸における径方向の調整量を算出し、この調整量により前記磁気軸受による前記回転軸の支持位置を調整することを特徴としている。
【0010】
従って、第2制御部は、解析予測または実験計測により求めた羽根車が起因となる運転状態に応じた回転軸の振動に応じて回転軸における径方向の調整量を算出し、この調整量により磁気軸受を用いて回転軸の支持位置を調整することで、運転状態に応じた回転軸の振動を事前に抑制することができる。
【0011】
本発明の回転機械では、前記第2制御部は、前記回転軸の回転数と負荷に基づいて前記回転軸における径方向の調整量を算出することを特徴としている。
【0012】
従って、第2制御部は、回転軸の回転数と負荷に基づいて回転軸における径方向の調整量を算出することで、回転軸の回転数や負荷が変動しても、回転軸の振動を事前に抑制することができる。
【0013】
本発明の回転機械では、前記制御装置は、前記第1制御部が設定した第1調整量と、前記第2制御部が設定した第2調整量とを加算して前記回転軸における径方向位置の調整量を設定することを特徴としている。
【0014】
従って、制御装置は、第1調整量と第2調整量とを加算した回転軸における径方向位置の調整量を設定し、磁気軸受により回転軸の支持位置を調整するため、回転軸の支持位置を高精度に調整することができる。
【0015】
本発明の回転機械では、前記制御装置は、第1調整量に第1重み付け係数を乗算した第1補正調整量と、第2調整量に第2重み付け係数を乗算した第2補正調整量とを加算して前記回転軸における径方向位置の調整量を設定するとき、前記回転軸の回転速度が一定となる定常運転時は、前記第2重み付け係数を前記第1重み付け係数より大きく設定することを特徴としている。
【0016】
従って、回転軸の回転速度が一定となる定常運転時は、第2調整量に第2重み付け係数を乗算した第2補正調整量を優先的に適用することで、羽根車が起因となる運転状態に応じた回転軸の振動を効果的に抑制することができる。
【0017】
本発明の回転機械では、前記制御装置は、第1調整量に第1重み付け係数を乗算した第1補正調整量と、第2調整量に第2重み付け係数を乗算した第2補正調整量とを加算して前記回転軸における径方向位置の調整量を設定するとき、前記回転軸の回転速度が変動する過渡運転時は、前記第1重み付け係数を前記第2重み付け係数より大きく設定することを特徴としている。
【0018】
従って、回転軸の回転速度が変動する過渡運転時は、第1調整量に第1重み付け係数を乗算した第1補正調整量を優先的に適用することで、そのときに発生する回転軸の振動を効果的に抑制することができる。
【0019】
また、本発明の回転機械の制御装置は、中空形状をなすケーシングと、前記ケーシング内に収容される回転軸と、前記回転軸を前記ケーシングに回転自在に支持する磁気軸受と、前記回転軸を駆動回転するモータと、前記ケーシング内で前記回転軸に設けられる羽根車と、前記磁気軸受による前記回転軸の支持位置を径方向に沿って調整する制御装置と、を備える回転機械において、前記ケーシングに対する前記回転軸の径方向位置に基づいて前記磁気軸受による前記回転軸の支持位置を径方向に沿って調整すると共に、予め設定された前記羽根車が起因となる運転状態に応じた前記回転軸の振動に基づいて前記磁気軸受による前記回転軸の支持位置を径方向に沿って調整する、ことを特徴とするものである。
【0020】
従って、現在の回転軸の径方向位置に基づいて磁気軸受を用いてフィードバック制御により回転軸の支持位置を調整し、回転機械の運転状態に応じた回転軸の振動に基づいて磁気軸受を用いてフィードフォワード制御により回転軸の支持位置を調整する。そのため、磁気軸受による回転軸の支持位置を高精度に調整することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の回転機械並びに回転機械の制御装置及び方法によれば、回転軸の径方向位置に基づいて磁気軸受による回転軸の支持位置を径方向に沿って調整すると共に、予め設定された羽根車が起因となる運転状態に応じた回転軸の振動に基づいて磁気軸受による回転軸の支持位置を径方向に沿って調整するので、磁気軸受による回転軸の支持位置を高精度に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本実施形態のターボ圧縮機を表す概略構成図である。
【
図2】
図2は、ターボ圧縮機の制御方法を表す概略図である。
【
図3】
図3は、ターボ回転数に対する制御量を表すグラフである。
【
図4】
図4は、回転負荷に対する制御量を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る回転機械並びに回転機械の制御装置及び方法の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0024】
図1は、本実施形態のターボ圧縮機を表す概略構成図である。
【0025】
本実施形態において、
図1に示すように、回転機械としてのターボ圧縮機10は、ターボ冷凍機、ターボヒートポンプ等(以下、総称してターボ冷凍機という。)に適用されるものであり、凝縮器、絞り装置、蒸発器と共に公知の冷凍サイクルを構成し、低圧の冷媒ガスを高圧の冷媒ガスに圧縮することによって冷凍サイクル内を循環させる機能を担うものである。
【0026】
ターボ圧縮機10は、ケーシング11と、回転軸12と、磁気軸受13,14と、モータ15と、羽根車16,17と、制御装置18とを備えている。
【0027】
ケーシング11は、水平方向に長い中空形状をなし、隔壁21により2つの収容室22,23が区画されている。回転軸12は、ケーシング11の内部の中心に配置され、隔壁21を貫通することで、各収容室22,23に位置している。磁気軸受13,14は、複数(本実施形態では、2個)のラジアル磁気軸受13と、複数(本実施形態では、2個)のスラスト磁気軸受14とにより構成されている。ラジアル磁気軸受13は、回転軸12における径方向の変位を受け止めて回転自在に支持し、スラスト磁気軸受14は、回転軸12における軸方向の変位を受け止めて回転自在に支持する。
【0028】
各ラジアル磁気軸受13は、ケーシング11の収容室22内で、収容室22の長手方向における一端部側と他端部側に配置され、回転軸12の軸方向における一端部と他端部を回転自在に支持している。各ラジアル磁気軸受13は、回転軸12の外周部に固定される鋼製の回転体13aと、ケーシング11に固定される複数の電磁石13bとから構成されている。回転体13aは、リング形状をなし、各電磁石13bは、回転体13aの外周面に所定隙間をもって対向すると共に、周方向に均等間隔を空けて配置されている。この場合、回転軸12が鋼製であれば、回転体13aはなくてもよい。
【0029】
このラジアル磁気軸受13は、各電磁石13bのコイルに供給される電流により磁気吸引力を発生し、その内側に位置する回転体13a(回転軸12)を所定の位置に位置させることで、回転軸12に作用するラジアル荷重を受け止めることができる。そして、各電磁石13bのコイルにそれぞれ供給される電流量を調整し、回転体13aに対する磁気吸引力を制御することで、回転軸12の径方向における支持位置を任意の位置に制御できるものである。
【0030】
各スラスト軸受14は、ケーシング11の収容室22内で、収容室22の長手方向における一端部側に配置され、回転軸12の軸方向における一端部に固定された鋼製のスラストディスク24を回転自在に支持している。各スラスト軸受14は、ケーシング11に固定されてスラストディスク24の一方の平面部を支持する複数の電磁石14aと、ケーシング11に固定されてスラストディスク24の他一方の平面部を支持する複数の電磁石14bとから構成されている。各電磁石14a,14bは、スラストディスク24の外周部に所定隙間をもって対向すると共に、周方向に均等間隔を空けて配置されている。
【0031】
このスラスト磁気軸受14は、各電磁石14a,14bのコイルに供給される電流により磁気吸引力を発生し、その間に位置するスラストディスク24を所定の位置に位置させることで、回転軸12に作用するスラスト荷重を受け止めることができる。そして、各電磁石14a,14bのコイルにそれぞれ供給される電流量を調整し、スラストディスク24に対する磁気吸引力を制御することで、回転軸12の軸方向における支持位置を任意の位置に制御できるものである。
【0032】
モータ15は、回転軸12に固定される回転軸15aと、ケーシング11に固定されるステータ15bとから構成されている。羽根車16,17は、回転軸12の他端部に固定されて収容室23内に配置されている。羽根車16は、1段羽根車であって、低段側圧縮部を構成し、羽根車17は、2段羽根車であって、高段側圧縮部を構成する。ケーシング11は、長手方向の端部に吸入口25が設けられ、この吸入口25に入口ベーン26が設けられ、径方向の外周部に吐出口(図示略)が設けられている。そのため、吸入口25から入口ベーン26を介して吸込んだ低圧冷媒ガスは、低段側圧縮部の羽根車16により圧縮され、その吐出ガスが高段側圧縮部の羽根車17により吸込まれ、高圧冷媒ガスとなって吐出口から外部に排出される。
【0033】
各ラジアル磁気軸受13は、制御装置18により制御され、回転軸12の支持位置を径方向に沿って調整することができる。制御装置18は、フィードバック制御を実行するFB制御部(第1制御部)31と、フィードフォワード制御を実行するFF制御部(第2制御部)32とを備えている。
【0034】
ターボ圧縮機10は、ケーシング11に対する回転軸12の径方向位置を検出する検出器33が設けられている。FB制御部31は、この検出器33が検出したケーシング11に対する回転軸12の径方向位置に基づいてラジアル磁気軸受13による回転軸12の支持位置を径方向に沿って調整するものである。即ち、検出器33は、ケーシング11の中心に対する回転軸12の中心の径方向位置(径方向ずれ)を検出してFB制御部31に送る。FB制御部31は、回転軸12の中心がケーシング11の中心に位置するように、つまり、ケーシング11の中心と回転軸12の中心との径方向ずれがなくなるように径方向における第1調整量を設定する。ここで、第1調整量とは、回転軸12の振動を打ち消すような波形である。すると、制御装置18は、第1調整量に基づいてラジアル磁気軸受13における各電磁石13bにそれぞれ供給する電流量を調整する。
【0035】
一方、FF制御部32は、予め設定された羽根車16,17が起因となるターボ圧縮機10の運転状態に応じた回転軸12の振動に基づいてラジアル磁気軸受13による回転軸12の支持位置を径方向に沿って調整するものである。即ち、ターボ圧縮機10は、羽根車16,17、吸入口25及び入口ベーン26、吐出口などの形状に応じて回転軸12に作用する振動が決定する。この回転軸12に作用する振動は、例えば、羽根車16,17の固有振動数によって決まる。そのため、羽根車16,17に起因するラジアル磁気軸受13に作用する励振力について、事前に、解析予測または実験計測により求めておく。この場合、羽根車16,17に起因するラジアル磁気軸受13に作用する励振力は、羽根車16,17の運転状態(例えば、回転数や回転負荷など)に応じた相違することから、羽根車16,17の全ての運転領域で解析予測または実験計測を実施する。
【0036】
即ち、FF制御部32は、事前に、解析予測や実験計測により求めた運転状態に応じた回転軸12の径方向ずれを把握しており、回転軸12の中心がケーシング11の中心に位置するように、つまり、ケーシング11の中心と回転軸12の中心との径方向ずれがなくなるように径方向における第2調整量を設定する。ここで、第2調整量とは、回転軸12の振動を打ち消すような波形である。すると、制御装置18は、第2調整量に基づいてラジアル磁気軸受13における各電磁石13bにそれぞれ供給する電流量を調整する。
【0037】
ここで、取り扱う羽根車16,17の振動数としては、回転数成分、回転数×羽根枚数などが考えられる。そして、本実施形態では、事前の解析予測や実験計測により、
図3に示すように、羽根車16,17(回転軸12)の回転数に対するラジアル磁気軸受13の制御量(第2調整量)をマップ1として容易しておく。また、本実施形態では、事前の解析予測や実験計測により、
図4に示すように、羽根車16,17(回転軸12)の回転負荷(ターボ圧縮機10の出力)に対するラジアル磁気軸受13の制御量(第2調整量)をマップ2として用意しておく。
【0038】
そして、
図1に示すように、FF制御部32は、上述したマップ1,2を記憶部34に記憶させておく。そして、ターボ圧縮機10の運転時、FF制御部32は、回転数検出器35が検出した羽根車16,17(回転軸12)の回転数に基づいてマップ1を用いて第2調整量を設定する。また、FF制御部32は、負荷検出器36が検出した羽根車16,17(回転軸12)の回転負荷(ターボ圧縮機10の出力)に基づいてマップ2を用いて第2調整量を設定する。FF制御部32は、羽根車16,17(回転軸12)の回転数に基づいた第2調整量と、羽根車16,17(回転軸12)の回転負荷(ターボ圧縮機10の出力)に基づいた第2調整量を加算して第2調整量を設定する。
【0039】
この場合、事前の解析予測や実験計測により、羽根車16,17(回転軸12)の回転数と、羽根車16,17(回転軸12)の回転負荷(ターボ圧縮機10の出力)と、ラジアル磁気軸受13の制御量(第2調整量)との3次元マップを求めておくとよい。
【0040】
そして、制御装置18は、FB制御部31が設定した第1調整量と、FF制御部32が設定した第2調整量とを加算して回転軸12における径方向位置の調整量を設定する。
【0041】
このとき、制御装置18は、第1調整量と第2調整量に対して1重み付けをしてもよい。例えば、第1調整量に第1重み付け係数を乗算した第1補正調整量と、第2調整量に第2重み付け係数を乗算した第2補正調整量とを加算して回転軸12の調整量を設定するとき、回転軸12の回転速度が一定となる定常運転時は、第2重み付け係数を第1重み付け係数より大きく設定する。例えば、第2重み付け係数を0.7、第1重み付け係数を0.3に設定する。また、回転軸12の回転速度が変動する過渡運転時は、第1重み付け係数を第2重み付け係数より大きく設定する。例えば、第2重み付け係数を0.3、第1重み付け係数を0.7に設定する。
【0042】
ここで、制御装置18により磁気軸受の制御方法について説明する。
【0043】
図1及び
図2に示すように、ターボ圧縮機10の運転時、検出器33は、ケーシング11の中心に対する回転軸12の中心の径方向位置を検出してFB制御部31に送る。FB制御部31は、回転軸12における基準径方向位置と現在の径方向位置との回転軸変位41を算出し、この回転軸変位41を打ち消すような径方向における第1調整量(変位制御力波形)42を設定する。
【0044】
一方、FF制御部32は、記憶部34に事前の解析予測や実験計測により求めた回転数に対する制御量(第2調整量)のマップ1と、回転負荷に対する制御量(第2調整量)のマップ2が記憶されている。そして、FF制御部32は、現在のターボ圧縮機10の運転として、回転数検出器35が検出した回転数と、負荷検出器36が検出した回転負荷が入力される。そのため、FF制御部32は、この回転数43と回転負荷44とからマップ1,2を用いて作用流体力45を求め、この作用流体力45を打ち消すような径方向における第2調整量(変位制御力波形)46を設定する。
【0045】
制御装置18は、FB制御部31が設定した第1調整量(変位制御力波形)と、FF制御部32が設定した第2調整量(変位制御力波形)とを加算(合成)し、回転軸12における径方向位置の調整量(制御量)47を生成する。そして、制御装置18は、この制御量47に基づいてラジアル磁気軸受13における各電磁石13bにそれぞれ供給する電流量を調整する。すると、回転軸12は、基準径方向位置に調整される。なお、回転軸12は、外力などを受けて変位することから、FB制御部31は、検出器33が検出した回転軸変位48を算出し、この回転軸変位48を打ち消すような第1調整量(変位制御力波形)42を常時設定している。
【0046】
このように本実施形態のターボ圧縮機にあっては、ケーシング11と、ケーシング11内に収容される回転軸12と、回転軸12をケーシング11に回転自在に支持するラジアル磁気軸受13と、回転軸12を駆動回転するモータ15と、ケーシング11内で回転軸12に設けられる羽根車16,17と、ラジアル磁気軸受13による回転軸12の支持位置を径方向に沿って調整する制御装置18とを備え、制御装置18は、ケーシング11に対する回転軸12の径方向位置に基づいてラジアル磁気軸受13による回転軸12の支持位置を径方向に沿って調整するFB制御部31と、予め設定された羽根車16,17が起因となる運転状態に応じた回転軸12の振動に基づいてラジアル磁気軸受13による回転軸12の支持位置を径方向に沿って調整するFF制御部32とを備えている。
【0047】
従って、FB制御部31は、現在の回転軸12の径方向位置に基づいてラジアル磁気軸受13を用いてフィードバック制御により回転軸12の支持位置を調整し、FF制御部32は、ターボ圧縮機10の運転状態に応じた回転軸12の振動に基づいて磁気軸受31を用いてフィードフォワード制御により回転軸12の支持位置を調整する。そのため、ラジアル磁気軸受13による回転軸12の支持位置を高精度に調整することができる。
【0048】
本実施形態のターボ圧縮機では、羽根車16,17が起因となるターボ圧縮機10の運転状態に応じた回転軸12の振動を解析予測または実験計測により求めておき、FF制御部32は、解析予測または実験計測により求めた回転軸12の振動から回転軸12における径方向の調整量を算出し、この調整量によりラジアル磁気軸受13による回転軸12の支持位置を調整する。従って、運転状態に応じた回転軸12の振動を事前に抑制することができる。
【0049】
本実施形態のターボ圧縮機では、FF制御部32は、回転軸12の回転数と負荷に基づいて回転軸12における径方向の調整量を算出する。従って、回転軸12の回転数や負荷が変動しても、回転軸12の振動を事前に抑制することができる。
【0050】
本実施形態のターボ圧縮機では、制御装置18は、FB制御部31が設定した第1調整量と、FF制御部32が設定した第2調整量とを加算して回転軸12における径方向位置の調整量を設定する。従って、ラジアル磁気軸受13により回転軸12の支持位置を調整するため、回転軸12の支持位置を高精度に調整することができる。
【0051】
本実施形態のターボ圧縮機では、制御装置18は、第1調整量に第1重み付け係数を乗算した第1補正調整量と、第2調整量に第2重み付け係数を乗算した第2補正調整量とを加算して回転軸12における径方向位置の調整量を設定するとき、回転軸12の回転速度が一定となる定常運転時は、第2重み付け係数を第1重み付け係数より大きく設定する。従って、回転軸12の回転速度が一定となる定常運転時は、第2補正調整量を優先的に適用することで、羽根車16,17が起因となる運転状態に応じた回転軸12の振動を効果的に抑制することができる。
【0052】
本実施形態のターボ圧縮機では、制御装置18は、第1調整量に第1重み付け係数を乗算した第1補正調整量と、第2調整量に第2重み付け係数を乗算した第2補正調整量とを加算して回転軸12における径方向位置の調整量を設定するとき、回転軸12の回転速度が変動する過渡運転時は、第1重み付け係数を第2重み付け係数より大きく設定する。従って、回転軸12の回転速度が変動する過渡運転時は、第1補正調整量を優先的に適用することで、そのときに発生する回転軸12の振動を効果的に抑制することができる。
【0053】
また、本実施形態のターボ圧縮機の制御装置にあっては、ケーシング11に対する回転軸12の径方向位置に基づいてラジアル磁気軸受13による回転軸12の支持位置を径方向に沿って調整すると共に、予め設定された羽根車16,17が起因となる運転状態に応じた回転軸12の振動に基づいてラジアル磁気軸受13による回転軸12の支持位置を径方向に沿って調整するようにしている。そのため、ラジアル磁気軸受13による回転軸12の支持位置を高精度に調整することができる。
【符号の説明】
【0054】
10 ターボ圧縮機
11 ケーシング
12 回転軸
13 ラジアル磁気軸受
13a 回転体
13b 電磁石
14 スラスト磁気軸受
14a,14b 電磁石
15 モータ
16,17 羽根車
18 制御装置
21 隔壁
22,23 収容室
24 スラストディスク
25 吸入口
26 入口ベーン
31 FB制御部(第1制御部)
32 FF制御部(第2制御部)
33 検出器
34 記憶部
35 回転数検出器
36 負荷検出器