(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第三の折り返し機構は、下降動作により前記前立て布を上から押さえる前立て布押さえと、当該前立て布押さえに搭載されて前記前立て布に送風する送風機構とを有することを特徴とする請求項2記載のミシン。
前記第一の折り返し機構は、前記メス機構による切れ目形成位置を横切って往復移動を行う前立て折り板と、当該前立て折り板の移動の駆動源となるアクチュエーターと、前記前立て折り板を前記往復移動可能に支持する支持機構とを備え、
前記前立て折り板は、往路の移動により前記前立て布を前記第一の縫い目に沿って折り返し、復路の移動により前記第二の縫い目に沿って折り返された前記前立て布を上から押さえ、
前記支持機構は、前記前立て折り板の前記往路の移動を前記復路の移動よりも低位置で移動させるカム機構を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のミシン。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第一の実施形態]
以下、図面を参照して、本発明に係るミシンの第一の実施の形態について詳細に説明する。本実施形態では、前側の身頃生地Kに対する前立て布Nの縫着に適したミシンを説明する。
【0017】
[縫製工程]
まず、身頃生地Kに前立て布Nを縫着する際の縫製工程について
図1(A)〜
図1(I)に基づいて説明する。
まず、前側の身頃生地Kを用意し(
図1(A))、身頃生地Kの襟元に前立て布Nを重ねて配置する(
図1(B))。
次に、前立て布Nの上端部から下端部近傍までの範囲に第一と第二の縫い目n1,n2を形成する(
図1(C))。なお、
図1(C)では第一と第二の縫い目n1,n2の下端部が近接しているように図示しているが、実際には第一縫い目n1と第二の縫い目n2とは、平行であって互いに幾分隙間をもって形成される。また、第一の縫い目n1を下側に向かって形成した後に上方に折り返して第二の縫い目n2を形成しても良い。
次に、前立て布Nの左端部を第一の縫い目n1に沿って折り返し(
図1(D))、折り返された前立て布Nに対して第一の縫い目n1と第二の縫い目n2の間を通るように第一の折り返し縫い目n11を形成する(
図1(E))。
さらに、前立て布Nの左端部を第一の折り返し縫い目n11に沿って折り返すと共に前立て布Nの右端部を第二の縫い目n2に沿って折り返す(
図1(F))。そして、第二の縫い目n2と第一の折り返し縫い目n11との間を通るように第二の折り返し縫い目n12を形成する(
図1(G))。
次に、前立て布Nの右端部を第二の折り返し縫い目n12に沿って折り返し(
図1(H))、身頃生地K及び前立て布Nに対して、第一の折り返し縫い目n11と第二の折り返し縫い目n12との間となる位置に切れ目cを形成する。この切れ目cは、前立て布Nの上端部から下端部近傍までの範囲に形成される(
図1(I))。
そして、前立て布Nにおける切れ目cの両側のそれぞれの部分を身頃生地Kの裏側に折り返し、前立て布Nにおける切れ目cの両側のそれぞれの部分を矩形に折り畳み、当該矩形に折り畳まれた前立て布Nのそれぞれの部分を切れ目cの両側に沿って身頃生地Kに縫い付けることにより、身頃生地Kに前立てが形成される。
なお、以下に説明するミシン10は、上述した
図1(A)〜
図1(I)までの各工程を実行する。
【0018】
[ミシンの概略構成]
ミシン10は、
図2に示すように、身頃生地K及び前立て布Nを保持する布押さえ20と、縫製時に身頃生地Kが置かれるテーブル11と、テーブル11の上面に沿って身頃生地Kを任意に移動させる布移動機構30と、布押さえ20に保持された身頃生地K及び前立て布Nに対して縫い針による針落ちを行う図示しない針上下動機構と、布押さえ20に保持された身頃生地Kと前立て布Nとに一定の方向に沿って切れ目を形成するメス機構40と、前立て布Nを折り返す第一〜第三の折り返し機構50,60,65と、布移動機構30側に支持され、縫製時及び切断時に前立て布Nを押さえる保持機構80と、上記各構成の動作制御を行う制御装置90と、上記各部を支持するミシンフレーム100とを備えている。
なお、上記ミシン10は、釜機構、糸調子装置、天秤等も備えているが、これらは周知のものと同一の構成なので説明は省略する。
【0019】
[ミシンフレーム]
図2に示すように、ミシンフレーム100は、下側に位置するベッド部101と、ベッド部101の一端部から鉛直上方に立ち上げられた立胴部102と、立胴部102から水平方向に延出されたアーム部103とを備えている。
以下の説明において、アーム部103の長手方向に沿った方向をY軸方向、縫い針が上下動を行う方向をZ軸方向とし、Y軸方向及びZ軸方向に直交する方向をX軸方向とする。また、Z軸方向は鉛直上下方向に平行であり、Y軸方向及びX軸方向はいずれも水平な方向である。
また、必要に応じて、アーム部103の先端の面部104側を前側、その反対側を後側、視線を後方に向けた状態で左手側を左側、右手側を右側として説明する。
【0020】
[テーブル]
テーブル11は、長方形の平板であって、その上面が水平となるようにベッド部101の上に取り付けられている。また、テーブル11は針上下動機構が支持する縫い針の下方に配置され、その上面に身頃生地K等の縫製対象物が置かれて縫製が行われる。従って、テーブル11の針落ち位置には、縫い針が進入する針落ち穴が形成されている。
また、テーブル11の一端部にはトグルクランプ14が設けられている。
【0021】
[針上下動機構]
針上下動機構は、ミシンフレーム100の内部に格納されたミシンモーター15(
図10参照)と、当該ミシンモーター15を駆動源として回転する上軸と、当該上軸から得られるトルクを上下の往復運動に変換するクランク機構と、縫い針を下端部に保持してクランク機構により上下の往復運動を行う針棒とを備えている。
なお、これらの構成からなる針上下動機構は、従来から周知なのでその詳細な説明は省略する。
【0022】
[布押さえ]
布押さえ20は、
図3に示すように、ほぼ同じサイズの長方形状の下板21及び上板22を備えている。そして、上板22はその一端部が下板21の一端部に対してヒンジ222,222を介して回動可能に連結されており、上板22と下板21との間に身頃生地Kを挟んで保持することができる。また、上板22の他端部には下板21に対して起伏回動させるための取手223が装備されている。
また、下板21の一端部の上面には、後述するクランプ機構35が布押さえ20を着脱可能に保持するためのボス状の二つの突起212,212が固定装備されている。
【0023】
布押さえ20は、上板22を閉じた状態で下板21及び上板22の長手方向がY軸方向に平行となるように布移動機構30に支持される。
そして、下板21及び上板22の短手方向の中央部には、長手方向に沿った長穴221(下板21の長穴は図示略)が板面を貫通した状態でそれぞれ形成されている。そして、下板21の長穴と上板22の長穴221は長さと幅が一致しており、上板22に下板21を重ねた状態において互いの位置が一致している。前立て布Nの縫着の際には、これらの長穴221の内側で縫い目及び切れ目の形成が行われる。
【0024】
上板22の上面の長穴221の周囲には、略長方形状の凹部224が形成され、当該凹部224の内側は上板22の板厚が薄くなっている。この凹部224の内側には、後述する第一の折り返し機構50の前立て折り板51が長穴221と平行に配置されている。縫製時には、前立て折り板51は前立て布Nの下側でX軸方向に沿って移動動作が行われるが、凹部224の内側に配置されているので、前立て布Nに引っかかりを生じることなく移動動作を行うことができる。
【0025】
[第一の折り返し機構]
第一の折り返し機構50は、
図3に示すように、前立て布Nの切れ目形成位置(長穴221)を横切るようにX軸方向に沿って往復移動を行う前立て折り板51と、前立て折り板51を往復移動可能に支持する支持機構52と、往復移動の開始位置にある前立て折り板51に対して、メス機構40による切れ目形成位置(長穴221)を挟んで配置された補助押さえ板53と、前立て折り板51を往復移動の開始位置に復帰させるコイルバネ54と、コイルバネ54に抗して前立て折り板51を移動させるアクチュエーターとしてのエアシリンダー55(
図8参照)とを備えている。
なお、第一の折り返し機構50のエアシリンダー55以外の構成は全て布押さえ20の上板22に支持されており、エアシリンダー55のみが後述する布移動機構30の支持枠体32に支持されている。
【0026】
前立て折り板51は、Y軸方向に沿った長尺の平板であって、長穴221の近傍の左側の位置を往復移動の開始位置としている。
前立て折り板51は、Y軸方向について長穴221と同程度の長さを有しており、前立て布Nをほぼ全長に渡って折り返すことができる。
【0027】
補助押さえ板53は、Y軸方向に沿った長尺の平板であって、長穴221の近傍の右側の位置を初期位置としている。
補助押さえ板53は、Y軸方向について長穴221と同程度の長さを有しており、前立て布Nをほぼ全長に渡って押さえることができる。
この補助押さえ板53は、後述する支持機構52の第二の可動体523によりY軸回りに傾動可能に支持されており、第二の可動体523の傾動軸の中心よりも左側に偏心した位置に前立て布Nの押さえ面を有している。そして、この補助押さえ板53には、第二の可動体523の傾動軸の中心よりも左側に偏心した位置に二つのマグネット531が装備されている。
上板22は、磁性体、例えばスチールから形成されており、補助押さえ板53は、二つのマグネット531の吸引力により上板22側に傾動し、上板22上の前立て布Nに対する保持圧を付与することができるようになっている。
【0028】
支持機構52は、前立て折り板51を固定保持する保持枠521と、保持枠521をY軸回りに傾動可能に支持する第一の可動体522と、補助押さえ板53をY軸回りに傾動可能に支持する第二の可動体523と、第一の可動体522と第二の可動体523とをX軸方向に沿って移動可能にガイドするスライドレール524と、前立て折り板51の往復移動方向に応じて当該前立て折り板51の高さを調整するカム機構56と、補助押さえ板53を前立て折り板51に連動して往復移動させる連動機構57とを備えている。
【0029】
保持枠521は、第一の可動体522によりY軸回りに傾動可能に支持されており、第一の可動体522の傾動軸の中心よりも左側に偏心した位置で前立て折り板51を保持している。従って、第一の可動体522に対して保持枠521が傾動することにより、前立て折り板51は上板22の上面に対して上下に接離移動させることができる。
【0030】
図4は支持機構52の周辺の拡大斜視図である。図示のように、第一の可動体522は、その左端部において、板状の立板部522aを備えており、当該立板部522aには、第1の可動体522に左方への張力を付与するコイルバネ54の一端部が連結されている。
また、立板部522aの上端部には、上方に向かって開口した半円状の切り欠き522bが形成されている。かかる切り欠き522bには、右方に向かって突出動作が行われるエアシリンダー55のプランジャーが上から嵌合して連結可能となっている。
【0031】
図5(A)は前立て折り板51が往復移動の開始位置から右方に移動している途中の状態における第一の折り返し機構50の斜視図、
図5(B)はその左側面図であり、
図6(A)は前立て折り板51が往復移動の開始位置に向かって左方に移動している途中の状態における第一の折り返し機構50の斜視図、
図6(B)はその左側面図である。
【0032】
カム機構56は、
図4〜
図6に示すように、保持枠521に装備されたカムの従節として機能するボス561と、ボス561が摺接するカム面を備えるカム板562と、カム板562を所定方向に付勢するバネ563とを備えている。
ボス561は、保持枠521の前面において前方に延出された丸棒状の突起であり、保持枠521の傾動の中心軸に対して左方に設けられている。前述した前立て折り板51も保持枠521の傾動の中心軸に対して左方に固定支持されているので、ボス561がカム板562から上方又は下方に押圧されると、前立て折り板51も連動して同様に上方又は下方に押圧される。
【0033】
カム板562は、上板22上において、一端部が支持ブラケット564によりY軸回りに回動可能に支持されており、当該支持端部から右方に延出されている。
このカム板562は、上面と下面とがボス561に摺接するカム面となるカム部562aを備えており、当該カム部562aは、X軸方向に沿って延在している。このカム部562aは、前立て折り板51が往復移動の開始位置にある場合のボス561の位置よりも右方に位置している。
【0034】
そして、カム板562は、突起部562bを有し、当該突起部562bにはバネ563の一端部が連結され、カム板562及びカム部562aの右端部が下方に向かう方向の張力が付与されている。
これにより、カム部562aの上面及び下面は、左端部から右端部に向かって低くなる傾斜状態に維持されている。
【0035】
かかる傾斜状態にあるカム部562aの左端部はボス561よりも高くなっており、カム部562aよりも左側の往復移動の開始位置からボス561が右方に向かって移動を行うと、カム部562aの下面側に摺接する。このため、前立て折り板51は、ボス561及びカム板562を介して、バネ563から下方の押圧力を受けながら右方に移動を行う。
【0036】
また、カム部562aの右端部はボス561よりも低くなっており、カム部562aよりも右側から往復移動の開始位置に向かってボス561が左方に移動を行うと、カム部562aの上面側に摺接する。このため、前立て折り板51は、ボス561及びカム板562を介して、左上がりに傾斜したカム部562aの上面に倣って上方に持ち上げられながら左方に移動を行う。
【0037】
連動機構57は、
図3及び
図4に示すように、第一の可動体522から右方に延出された連結桿571と、第二の可動体523に設けられた第一及び第二の当接部572,573と、第二の可動体523の可動範囲を規制する左ストッパー574及び右ストッパー575とを備えている。
連結桿571は、左右方向に沿った長尺板状であって、左端部が第一の可動体522に固定支持されている。また、連結桿571の右端部には、下方に屈曲した板状の係止部571aを備えている。
【0038】
第一及び第二の当接部572,573は、いずれも、第二の可動体523の上部に立設された平板であり、第一の当接部572は第二の可動体523の右端部に配置され、第二の当接部573は左端部に配置されている。そして、第一の当接部572と第二の当接部573とは、X軸方向に沿った同一線上に配置されている。
また、前述した連結桿571の係止部571aは、第一の当接部572と第二の当接部573の間となるように配置されている。
【0039】
従って、第一の可動体522が往復移動の開始位置から右方に移動を開始すると、連結桿571の係止部571aが第一の当接部572に到達するまでは第一の可動体522のみが右方に移動を行い、係止部571aが第一の当接部572に到達すると、連結桿571に押されて第二の可動体523も第一の可動体522と共に右方に移動を行う。
【0040】
また、第一の可動体522が往復移動の開始位置に向かって左方に移動を開始すると、連結桿571の係止部571aが第一の当接部572から離れて第二の当接部573に到達するまでは第一の可動体522のみが左方に移動を行い、係止部571aが第二の当接部573に到達すると、連結桿571に押されて第二の可動体523も第一の可動体522と共に左方に移動を行う。
【0041】
左ストッパー574は、第二の可動体523の左方に配置され、第二の可動体523が左ストッパー574に当接することでそれ以上の左方移動を制止する。つまり、左ストッパー574は、第二の可動体523の可動範囲の左端位置を規定している。
かかる左ストッパー574により第二の可動体523の左方移動が制止されると、連動機構57により連動している第一の可動体522の左方移動も制止される。つまり、左ストッパー574は、第一の可動体522の可動範囲の左端位置も規定しているといえる。
そして、この左ストッパー574により規定された可動範囲の左端位置に第一の可動体522が位置する場合に、前立て折り板51が「往復移動の開始位置」となるように設定されている。
また、この左ストッパー574により規定された可動範囲の左端位置に第二の可動体523が位置する場合に、補助押さえ板53が長穴221の右側近傍となる「初期位置」となるように設定されている。
【0042】
右ストッパー575は、第二の可動体523の右方に配置され、第二の可動体523が右ストッパー575に当接することでそれ以上の右方移動を制止する。つまり、右ストッパー575は、第二の可動体523の可動範囲の右端位置を規定している。
かかる右ストッパー575により第二の可動体523の右方移動が制止されると、連動機構57により連動している第一の可動体522の右方移動も制止される。つまり、右ストッパー575は、第一の可動体522の可動範囲の右端位置も規定しているといえる。
【0043】
エアシリンダー55は、後述する布移動機構30の支持枠体32の腕部321により、第一の可動体522の左方において、プランジャーの突出方向を右側に向けた状態で支持されている(
図8参照)。
エアシリンダー55のプランジャーには、二つのフランジが並んで形成されており、第一の可動体522の立板部522aに形成された半円状の切り欠き522bにプランジャーを連結する際に利用される。即ち、プランジャーを半円状の切り欠き522bに嵌合させて連結した時に、立板部522aを二つのフランジで挟むことで、プランジャーの進退移動方向の動作を第一の可動体522に伝達することができる。
このように、第一の可動体522の立板部522aとエアシリンダー55のプランジャーとは、極めて容易に連結し且つ取り外すことができる構造となっている。
【0044】
なお、エアシリンダー55は、布押さえ20に支持されていないが、これは、布押さえ20が後述する布移動機構30の土台31から着脱自在に保持されていることに起因する。即ち、布押さえ20側にエアシリンダー55が支持されていると、布押さえ20を土台31に対して着脱する際に、高圧の空気を供給するエアーホースのエアシリンダー55に対する付け外しが必要となり、布押さえ20の着脱作業が繁雑となるためである。一方、エアシリンダー55を布移動機構30側が支持する構造とする場合には、エアシリンダー55のプランジャーと第一の可動体522とを着脱可能とする必要があるが、上述のように、これらの着脱は容易に行うことができる構造となっている。
【0045】
[布移動機構]
布移動機構30は、
図2に示すように、布押さえ20を支持する土台31と、後述する各種の構成を支持する支持枠体32と、土台31を水平面に沿って移動させる駆動源としてのX軸モーター33及びY軸モーター34(
図10参照)とを備えている。
【0046】
土台31は、ベッド部101の内部に格納されたX軸方向に案内するリニアガイド(図示略)とY軸方向に案内するリニアガイド(図示略)とにより水平面上の任意の位置に移動可能に支持されている。また、土台31は、X軸モーター33及びY軸モーター34を駆動源として、その回転力をX軸方向及びY軸方向に沿った往復移動力に変換する伝達機構(図示略)により移動動作が付与される。この伝達機構としては、ベルト機構、ボールネジ機構或いはラックピニオン歯車機構等、周知の伝達機構を利用できる。
【0047】
また、土台31は、布押さえ20を着脱自在に保持するクランプ機構35が固定装備されている。このクランプ機構35は、
図7に示すように、前述した布押さえ20の二つのボス状の突起212,212が嵌合する凹部352,352が形成された受け板351と、凹部352,352に嵌合した布押さえ20の突起212,212が抜けないように保持する爪が形成されたクランプ部材353,353と、これらクランプ部材353,353による突起212,212の保持状態と解放状態とを切り換えるエアシリンダー354,354とを備えている。
【0048】
クランプ機構35は、受け板351の二つの凹部352,352内に布押さえ20の突起212,212が嵌合すると、エアシリンダー354,354の駆動によりクランプ部材353,353が保持を行う方向に回動する。これにより、各突起212,212は、凹部352、352とクランプ部材353,353とに挟持され、土台31に対して布押さえ20が固定される。
また、布押さえ20を分離させる際には、エアシリンダー354,354によりクランプ部材353,353と保持する場合と逆側に回動させる。これにより、突起212,212を凹部352、352の内側に保持するものがなくなり、土台31から布押さえ20を分離させることができる。
【0049】
支持枠体32は、
図8に示すように、前述した第一の折り返し機構50のエアシリンダー55と第二の折り返し機構60と保持機構80とを支持している。
この支持枠体32は、土台31の前端部に固定装備され、クランプ機構35に保持された布押さえ20の上方に位置する。
この支持枠体32は、X軸方向の両端部からY軸方向に沿って前方に延出された二本の腕部321,322を備えている。
そして、この支持枠体32は、一方(左側)の腕部321の前端部において、第一の折り返し機構50のエアシリンダー55を支持している。
また、他方(右側)の腕部322において、後述する第二の折り返し機構60を支持している。
さらに、二つの腕部321,322の間において、保持機構80を支持している。
【0050】
[保持機構]
保持機構80は、
図8に示すように、クランプ機構35に装着された布押さえ20の長穴221の左右両側近傍において、前立て布Nを上方から押圧保持する二つの前立て押さえ板81,81と、それぞれの前立て押さえ板81,81を個別に支持する支持部材82,82と、支持部材82,82を介して前立て押さえ板81,81を個別に昇降させるエアシリンダー83,83とを備えている。
【0051】
二つの前立て押さえ板81,81は、長尺であって、長穴221と同程度の長さを有し、長穴221と平行に配設されている。
そして、長穴221の左右両側近傍において、前立て布Nを上方から押圧保持するので、縫製時に縫い針の上下動につられて前立て布Nが上下に振動することを抑制し、良好な縫製を可能とする。
なお、押さえ板81,81は、専ら、針上下動機構により針落ちが行われる場合とメス機構40により切れ目を形成する場合にのみ前立て布Nを保持し、それ以外の場合には、前立て布Nの折り返し作業の妨げとならないように、上方に退避するようエアシリンダー83,83は制御される。
【0052】
支持部材82,82は、いわゆるベルクランクであり、エアシリンダー83,83により回動動作が付与される。
そして、支持部材82,82は回動動作を行うことより、前立て押さえ板81,81を昇降させる。
【0053】
[第二の折り返し機構]
第二の折り返し機構60は、
図8に示すように、第一の折り返し機構50により右側に折り返された前立て布Nの端部をさらに左側に折り返す送風機構である。
この第二の折り返し機構60は、送風機構としての二つのエアー噴出ノズル61,61と各エアー噴出ノズル61,61を支持する支持体62,62とを備えている。各エアー噴出ノズル61,61は、いずれも円筒状であって、Y軸方向に沿った状態で布押さえ20の長穴221の右側に配置されている。そして、各エアー噴出ノズル61,61は、その長手方向に沿って複数のエアー吹き出し口(図示略)が設けられ、前立て布NのY軸方向における全幅に渡って左側に向かってエアーの吹き付けを行い、第一の折り返し機構50により右側に折り返された前立て布Nの端部をさらに左側に折り返すことができる。
【0054】
なお、この第二の折り返し機構60も、仮に、布押さえ20側に支持されていると、布押さえ20の土台31に対する着脱の際に、高圧の空気を供給するエアーホースの各エアー噴出ノズル61,61に対する付け外しが必要となり、布押さえ20の着脱作業が繁雑となる。
従って、第二の折り返し機構60も支持枠体32に設けることにより、布押さえ20の着脱作業の容易化を図っている。
【0055】
[第三の折り返し機構]
第三の折り返し機構65は、
図2及び
図9に示すように、布押さえ20の長穴221の左側で上から前立て布Nを押さえる前立て布押さえとしての押さえ枠66と(
図17参照)、押さえ枠66の内側に格納された送風機構としてのエアー噴出ノズル67,67と、押さえ枠66を昇降させるエアシリンダー68と、エアシリンダー68を支持する支持ブラケット69と、を備え、支持ブラケット69は、ミシンフレーム100の面部104にネジ止めされている。
【0056】
エアシリンダー68は、支持ブラケット69により、面部104の右端部において、プランジャーを下方に向けた状態で支持されている。
プランジャーの下端部には押さえ枠66が装備されており、エアシリンダー68の突出圧力によって前立て布Nの押さえ圧を得ている。
【0057】
押さえ枠66は、Y軸方向に沿った矩形の枠体であり、左側面と右側面とが広く開口している。そして、この押さえ枠66の底面部によって前立て布Nを押さえることができる。
また、押さえ枠66の内側には、二つのエアー噴出ノズル67,67が格納されている。これらのエアー噴出ノズル67,67はいずれも円筒状であって、Y軸方向に沿った状態で押さえ枠66の内側に配置されている。そして、各エアー噴出ノズル67,67は、その長手方向に沿って複数のエアー吹き出し口(図示略)が設けられ、これらはいずれも右側に向かって吹き出しを行う(
図17参照)。
【0058】
この第三の折り返し機構65は、上記構成により、前立て布Nの右端部を押さえ枠66で押さえつつ、エアー噴出ノズル67,67のエアーにより前立て布Nの右端部を右側へ折り返すことができる。
【0059】
[メス機構]
メス機構40は、
図2に示すように、下端部に刃を有する図示しないメスと、当該メスを上下に往復させる駆動機構とを備えている。
メスは縫い針の左方に隣接して配置され、下降時に前立て布N及び身頃生地Kに切れ目cを形成する。
駆動機構は、メス駆動モーター41(
図10参照)と当該メス駆動モーター41のトルクを上下の往復運動に変換するクランク機構等の変換機構とから構成される。また、メスの駆動機構の駆動源はエアシリンダーでも良い。
そして、前立て布N及び身頃生地Kに切れ目を形成する際には、布押さえ20の長穴221がメスの下方に移動し、さらに、布押さえ20をY軸方向に沿って移動させながらメスを上下動させることにより、Y軸方向に沿った切れ目cが前立て布N及び身頃生地Kに形成される。
【0060】
[ミシンの制御系:制御装置]
図10はミシン10の制御系を示したブロック図である。ミシン10の制御装置90は、縫製における動作制御を行うためのプログラムが格納されたROM(Read Only Memory)92と、演算処理の作業領域地となるRAM(Random Access Memory)93と、縫製データなど各種データを記憶する記憶手段としての書き換え可能な不揮発性のデータメモリ94と、ROM92内のプログラムを実行するCPU91(Central Processing Unit)とを備えている。
【0061】
また、CPU91は、図示しないインターフェイスを介してミシンモーター駆動回路15a、X軸モーター駆動回路33a、Y軸モーター駆動回路34a、メス駆動モーター駆動回路41aと接続され、これらを介してミシンモーター15、X軸モーター33、Y軸モーター34、メス駆動モーター41の駆動を制御する。
さらに、CPU91は、図示しないインターフェイスを介して、第一の折り返し機構50のエアシリンダー55、第二の折り返し機構60のエアー噴出ノズル61、第三の折り返し機構65のエアシリンダー68、第三の折り返し機構65のエアー噴出ノズル67、クランプ機構35のエアシリンダー354、保持機構80のエアシリンダー83のそれぞれを作動させる電磁弁55a,61a,68a,67a,354a,83aを制御するための駆動回路55b,61b,68b,67b,354b,83bと接続されている。
なお、ミシン10は、第二の折り返し機構60のエアー噴出ノズル61、第三の折り返し機構65のエアー噴出ノズル67、クランプ機構35のエアシリンダー354、保持機構80のエアシリンダー83、それらの電磁弁61a,67a,354a,83a及びそれらの駆動回路61b,354b,83bは、いずれも二つずつ備えているが、
図10では一つのみ図示している。
【0062】
データメモリ94には、後述する縫い目n1,n2、折り返し縫い目n11,n12及び切れ目cを形成するために布押さえ20を移動させる為のX軸モーター33及びY軸モーター34の布送り量を定めた布送りデータ、ミシンモーター15及びメス駆動モーター41の回転数等が記録されており、CPU91は、縫製の際には、一針ごとにデータの設定内容を読み取り、ミシンの各構成の動作制御を実行する。
また、制御装置90には、縫製動作を進めるためのペダルスイッチ95が併設されている。
【0063】
[前立て縫製動作]
上記ミシン10による前立て縫製動作について
図11〜
図18の動作説明図と
図19のフローチャートとに基づいて説明する。
なお、
図11〜
図18の動作説明図では、保持機構80及び支持枠体32の図示を省略している。
【0064】
まず、縫製開始前のセッティング作業として、ミシン10から分離された状態の布押さえ20の上板22を開いて、身頃生地Kを下板21の上面の所定位置に配置する。そして、上板22を閉じて、身頃生地Kを挟持する。
さらに、上板22上の前立て折り板51と補助押さえ板53とは、コイルバネにより、それぞれ往復移動の開始位置と初期位置とに維持されているので、補助押さえ板53をマグネット531に抗して持ち上げ、縫い目の形成予定位置が長穴221の位置に合うように前立て布Nを配置し、補助押さえ板53を下ろす。この時、前立て折り板51が前立て布Nの下側に隠れるように前立て布Nを配置する。
そして、布押さえ20の二つの突起212,212をクランプ機構35の受け板351の凹部352,352に嵌めて、第一の折り返し機構50のエアシリンダー55を第一の可動体522に連結する。
当初、第一の折り返し機構50のエアシリンダー55はプランジャーを後退させた状態にあり、支持機構52の第一の可動体522に形成された半円状の切り欠き522bにプランジャーを連結する。
【0065】
そして、ペダルスイッチ95を押下すると、CPU91は、電磁弁354a,354aを通じてエアシリンダー354,354を作動させ、クランプ部材353,353による突起212,212の保持を実行する(ステップS1)。
次いで、ペダルスイッチ95を押下すると、CPU91は、電磁弁83a,83aを通じてエアシリンダー83,83を作動させ、前立て押さえ板81,81を下降させて長穴221の左右両側で前立て布Nの保持を行う(ステップS3)。
【0066】
そして、ペダルスイッチ95を押下すると、CPU91は、布押さえ20に保持された前立て布Nの後端部であってX軸方向の中央部付近の縫い開始位置が縫い針の下方となるように、X軸モーター33,Y軸モーター34を制御して布押さえ20を移動させる(ステップS5、
図11)。
次いで、CPU91は、ミシンモーター15の駆動を開始すると共に、X軸モーター33,Y軸モーター34を制御して第一の縫い目n1と第二の縫い目n2とを形成する(ステップS7、
図12、[第一の縫い制御])。
【0067】
次に、CPU91は、エアシリンダー83,83により、前立て押さえ板81,81を上昇させて前立て布Nを解放する(ステップS9)。
さらに、CPU91は、電磁弁55aを通じてエアシリンダー55を作動させ、往復移動の開始位置にある前立て折り板51を、コイルバネ54に抗して長穴221を横切る方向(右方)に移動させる。これにより、前立て布Nの左端部が第一の縫い目n1を折り目として右側に折り返される。前立て折り板51は、連動機構57により、補助押さえ板53も右側に移動させ、右ストッパー575により、それぞれの可動範囲の右端部において停止する。前立て折り板51と補助押さえ板53は、いずれも前立て布Nから右方に離れた位置で停止する(ステップS11、
図13、[第一の折り返し制御])。
なお、前立て折り板51は、この右方への移動の際に、保持枠521のボス561がカム機構56のカム板562のカム部562aの下面に摺接し、下方に押し下げられた状態で移動が行われる(
図5(A)及び
図5(B)参照)。これにより、前立て布Nを第一の縫い目n1に沿ってしっかりと折り畳むことができる。
【0068】
次に、CPU91は、エアシリンダー83,83により、再び、前立て押さえ板81,81を下降させて前立て布Nを保持する(ステップS13)。
そして、CPU91は、ミシンモーター15、X軸モーター33及びY軸モーター34を制御して第一の折り返し縫い目n11を第一の縫い目n1とメス機構40の切れ目の形成位置(形成予定位置)との間に形成する(ステップS15、
図14、[第二の縫い制御])。
【0069】
次に、CPU91は、エアシリンダー83,83により、前立て押さえ板81,81を上昇させて前立て布Nを解放する(ステップS17)。
さらに、CPU91は、電磁弁61aを制御して第二の折り返し機構60のエアー噴出ノズル61,61から左方へのエアーの噴出を行い、前立て布Nの左端部を第一の折り返し縫い目n11を折り目として左側に折り返すと共に、前立て布Nの右端部を第二の縫い目n2を折り目として左側に折り返す(ステップS19)。
【0070】
さらに、CPU91は、エアシリンダー55のプランジャーを後退させて、折り返し位置にある前立て折り板51を往復移動の開始位置に復帰させる(ステップS21、
図15、[第二の折り返し制御])。また、前立て折り板51は、連動機構57により、補助押さえ板53も左側に移動させ、左ストッパー574により、それぞれの可動範囲の左端部、即ち、往復移動の開始位置と初期位置において停止する。
なお、前立て折り板51は、この左方への移動の際に、保持枠521のボス561がカム機構56のカム板562のカム部562aの上面に摺接し、上方に押し上げられた状態で移動が行われる(
図6(A)及び
図6(B)参照)。これにより、複数回の折り返しにより積層されて厚くなった前立て布Nに対して引っ掛かりを生じることなく適度な押さえ圧で前立て布Nを押さえることができる。
【0071】
次に、CPU91は、エアシリンダー83,83により、再び、前立て押さえ板81,81を下降させて前立て布Nを保持する(ステップS23)。
そして、CPU91は、ミシンモーター15、X軸モーター33及びY軸モーター34を制御して第二の折り返し縫い目n12をメス機構40の切れ目の形成位置(形成予定位置)と第二の縫い目n2の間に形成する(ステップS25、
図16、[第三の縫い制御])。
【0072】
次に、CPU91は、エアシリンダー83,83により、前立て押さえ板81,81を上昇させて前立て布Nを解放する(ステップS27)。
さらに、CPU91は、電磁弁55aを通じてエアシリンダー55を作動させ、往復移動の開始位置にある前立て折り板51及び補助押さえ板53を再び可動範囲の右端部まで移動させる。これにより、前立て折り板51と補助押さえ板53は、いずれも前立て布Nから右方に離れた位置で停止する(ステップS29)。
【0073】
次に、CPU91は、エアシリンダー68により、第三の折り返し機構65の押さえ枠66を下降させて前立て布Nを上から押さえる。この時、布押さえ20は布移動機構30により、左側に折り返された前立て布Nの左端部と左側に折り返された前立て布Nの右端部との間となる位置が押さえ枠66の下降位置となるように移動制御され、押さえ枠66の下降により前立て布Nの左端部のみを押さえることができる。
さらに、CPU91は、電磁弁67aを制御して第三の折り返し機構65のエアー噴出ノズル67,67から右方へのエアーの噴出を行い、前立て布Nの右端部を第二の折り返し縫い目n12を折り目として右側に折り返す(ステップS31、
図17、[第三の折り返し制御])
【0074】
次に、CPU91は、エアシリンダー83,83により、再び、前立て押さえ板81,81を下降させて前立て布Nを保持する(ステップS33)。
そして、CPU91は、X軸モーター33及びY軸モーター34を制御して、布押さえ20をメス機構40の下方に移動させる。
さらに、メス駆動モーター41の駆動を開始すると共に、布押さえ20をY軸方向に沿って送り、第一の折り返し縫い目n11と第二の折り返し縫い目n12との間に切れ目cを形成する(ステップS35、
図18,[切れ目形成制御])。
【0075】
その後、CPU91は、エアシリンダー83,83により、前立て押さえ板81,81を上昇させて前立て布Nを解放し(ステップS37)、エアシリンダー354,354によりクランプ部材353,353による突起212,212の保持状態を解放して、前立ての縫製動作を終了する(ステップS39)。
【0076】
[技術的効果]
上記ミシン10は、前立て布Nを第一の縫い目n1に沿って折り返す第一の折り返し機構50と、前立て布Nを第二の縫い目n2に沿って折り返す第二の折り返し機構60とを備えているので、それぞれの折り目の近傍にトップステッチ(第一及び第二の折り返し縫い目n11,n12)を形成するような前立ての縫製が可能となり、前立ての多彩な縫製に対応することが可能となる。
また、従来は別工程又は手作業で行われていたトップステッチの形成をミシン10が行うことができるので、縫製作業を迅速且つ効率的に行うことが可能となる。
【0077】
また、ミシン10の制御装置90は、布移動機構30及び針上下動機構を制御して、第一の縫い目n1と第二の縫い目n2とを形成する第一の縫い制御と、第一の折り返し機構50を制御して、前立て布Nを第一の縫い目n1に沿って折り返す第一の折り返し制御と、布移動機構30と針上下動機構を制御して、第一の折り返し機構50により折り返された前立て布Nの第一の縫い目n1とメス機構40による切れ目cの形成位置(形成予定位置)との間に第一の折り返し縫い目n11を形成する第二の縫い制御と、第二の折り返し機構60を制御して、前立て布Nを第二の縫い目n2に沿って折り返す第二の折り返し制御と、布移動機構30と針上下動機構を制御して、第二の折り返し機構60により折り返された前立て布Nの第二の縫い目n2とメス機構による切れ目の形成位置(形成予定位置)との間に第二の折り返し縫い目n12を形成する第三の縫い制御とを順番に実行する。
これにより、複雑な前立て布の縫製を簡易な構成により効率的に行うことが可能となる。
【0078】
また、ミシン10は、前立て布Nを第二の折り返し縫い目n12に沿って折り返す第三の折り返し機構65を備え、制御装置90は、第三の折り返し機構65を制御して、前立て布Nを第二の折り返し縫い目n12に沿って折り返す第三の折り返し制御と、メス機構40を制御して、身頃生地K及び前立て布Nの切れ目の形成位置(形成予定位置)に切れ目を形成する切れ目形成制御とを順番に実行するので、第二の折り返し縫い目n12の形成後、メス機構40により切れ目cを形成する際に、前立て布Nが切断作業の妨げとならないようによけることができ、手作業を不要としてより効率的な縫製を行うことが可能となる。
【0079】
また、ミシン10の第一の折り返し機構50は、メス機構40による切れ目形成位置を横切って往復移動を行う前立て折り板51と、当該前立て折り板51の往復移動の少なくとも片側移動の駆動源となるアクチュエーターとしてのエアシリンダー55と、前立て折り板51を往復移動可能に支持する支持機構52とを備え、前立て折り板51は、エアシリンダー55のプランジャーが右方に突出する方向の移動(往路の移動)により前立て布Nを第一の縫い目n1に沿って折り返し、エアシリンダー55のプランジャーが左方に後退する方向の移動(復路の移動)により第二の縫い目n2に沿って折り返された前立て布Nを上から押さえ、支持機構52は、前立て折り板51の往路の移動を復路の移動よりも低位置で移動させるカム機構56を有している。
これにより、前立て布Nの縫製が進むにつれて折り返し等で積層されて厚みが変動する場合でも前立て折り板51を適度な高さで適度な押圧力で前立て布Nを押さえることが可能となり、良好な縫製を行うことが可能となる。
【0080】
また、ミシン10の第一の折り返し機構50は、往復移動の開始位置にある前立て折り板51に対して、メス機構40による切れ目形成位置(形成予定位置)を挟んで配置された補助押さえ板53を備え、支持機構52は、メス機構40による切れ目形成位置(形成予定位置)を横切らない範囲で、補助押さえ板53を前立て折り板51に連動して往復移動させる連動機構57を備えている。
これにより、一つのエアシリンダー55(アクチュエーター)により、前立て折り板51と補助押さえ板53とを切れ目形成位置(形成予定位置)の両側に個別に配置した状態と、前立て折り板51及び補助押さえ板53の両方を切れ目形成位置(形成予定位置)の片側に退避させた状態とに切り替えることが可能となり、部品点数の低減によるミシンの製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0081】
また、ミシン10の第二の折り返し機構60は、前立て布Nに送風する送風機構としてのエアー噴出ノズル61を有している。
このため、簡易な構成により前立て布Nの折り返し作業を実現することができ、また、前立て布Nから離れた位置から折り返すことができるので、第二の折り返し機構60の配置の自由度が高く、ミシン10の設計の容易化を実現することが可能となる。
さらに、エアー噴出ノズル61は機構的な動作を不要とするので、メンテナンス作業の低減や動作の信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0082】
また、同様に、第三の折り返し機構65は、下降動作により前立て布Nを上から押さえる押さえ枠66と、当該押さえ枠66に搭載されて前立て布Nに送風する送風機構としてのエアー噴出ノズル67とを有しているので、第二の折り返し機構60と同一の効果を有すると共に、押さえ枠66による前立て布Nの押さえ作業を可能とする。
また、第三の折り返し機構65の全体構成を上方に退避させることができるので、第三の折り返し機構65の配置の自由度をさらに高めることが可能となる。
【0083】
また、ミシン10は、布押さえ20を土台31に対して着脱可能としたので、布押さえ20に対する身頃生地Kや前立て布Nの取り付け作業を縫い針の周囲の狭い領域内で行う必要がなくなり、作業性の向上を図ることが可能となる。
また、縫い針の周囲の機構によって傷つけることを回避し、身頃生地Kや前立て布Nを保護することが可能となる。
【0084】
また、第一の折り返し機構50の折り返し動作を行うエアシリンダー55は、布押さえ20ではなく、支持枠体32を介して土台31が支持しているので、布押さえ20の着脱に伴うエアシリンダー55とエアーホースとの着脱作業を不要とし、作業性の向上を図ることが可能となる。
また、同様に、第二の折り返し機構60は、布押さえ20ではなく、支持枠体32を介して土台31が支持するので、布押さえ20の着脱に伴う第二の折り返し機構60のエアー噴出ノズル61とエアーホースとの着脱作業を不要とし、作業性の向上を図ることが可能となる。
また、第三の折り返し機構65も、ミシンフレーム100の面部104に装備されているので、エアシリンダー68及びエアー噴出ノズル67とエアーホースとの着脱作業を不要とし、作業性の向上を図ることが可能となる。
【0085】
[第二の実施形態]
図20及び
図21により第二の実施形態であるミシン10Bについて説明する。このミシン10Bについて、前述したミシン10と同一の構成については説明を省略し、ミシン10と異なる点について重点的に説明する。
【0086】
図20に示すように、このミシン10Bは、段押さえ機構110を備えている。この段押さえ機構110は、制御装置90によって制御される。段押さえ機構110は、ミシン10Bのアーム部103の先端に設けられたメス機構40に、ブラケット111を介して支持されている。段押さえ機構110は、ブラケット111に固定された支持板112を有しており、この支持板112には、エアシリンダー113が固定されている。エアシリンダー113は、ロッド114を備えており、エアーの供給によって、ロッド114を進退させる。ロッド114は、その先端にステー115が固定されている。また、支持板112には、ガイドブロック116が固定されており、このガイドブロック116は、エアシリンダー113のロッド114に沿って摺動可能なガイドロッド117を備えている。
ガイドロッド117は、その先端がステー115に固定されている。これにより、ステー115は、ロッド114の軸線で回転することなく支持される。ステー115には、支持ブロック118がねじ止め固定されており、この支持ブロック118には、段押さえ部材121が着脱可能に設けられている。
【0087】
図21に示すように、段押さえ部材121は、支持ブロック118に固定される固定ブロック部122と、この固定ブロック部122の下端に支持された押さえ部123とを備えている。押さえ部123は、ガイド板部124と、押さえ板部125とを備えており、これらのガイド板部124と押さえ板部125とが隣接した状態に配置されている。ガイド板部124は、その底面が、押さえ板部125の底面よりも僅かに下方に配置されている。押さえ板部125は、バネなどの付勢部材(図示略)によって下方に付勢されている。
この段押さえ部材121は、前立て布Nの折り返し段部dをガイドしながら前立て布Nを押えるものである。ガイド板部124は、折り返された前立て布Nから外れた折り返し段部dの隣接位置で折り返し段部dに沿って配置される。また、押さえ板部125は、折り返された前立て布N上の折り返し段部dの隣接位置に配置され、前立て布Nを上方から押し付ける。ガイド板部124と押さえ板部125との間には、隙間Gが設けられており、この隙間Gに、縫い針12及びこの縫い針12を囲うように設けられた筒状の布押さえ12aが配置される(
図20参照)。
【0088】
段押さえ機構110は、エアシリンダー113によってロッド114が進退されることで、段押さえ部材121が、針上下動機構の縫い針12による前立て布Nへの縫製位置の近傍である段押さえ位置と、この段押さえ位置から外れた退避位置との間を移動する。
【0089】
そして、この段押さえ機構110のエアシリンダー113によってロッド114が伸ばされ、段押さえ部材121が段押さえ位置に配置されると、前立て布Nの折り返し段部dがガイド板部124によってガイドされるとともに、前立て布Nの折り返し部分が押さえ板部125によって押さえられる。この状態で針上下動機構の縫い針12によって前立て布Nに対して縫製が行われると、縫製時における前立て布Nの浮き上がりが抑制されるとともに、折り返し段部dと縫い目との間の幅であるコバ幅Wが所定の寸法に維持される。
【0090】
なお、この段押さえ機構110は、アーム部103に対して、上下方向、左右方向及びアーム部103の延在方向である前後方向へ位置調整可能とされており、この段押さえ機構110の位置調整を行うことで、コバ幅Wの変更や前立て布Nの厚み等に対応できるようになっている。
また、段押さえ機構110は、段押さえ部材121を着脱して変更することで、コバ幅Wの変更や前立て布Nの厚み等に対応できるようになっている。
【0091】
次に、制御装置90のCPU91による段押さえ機構110の制御について説明する。
CPU91は、第一の縫い目n1と第二の縫い目n2とを形成する第一の縫い制御(
図19におけるステップS7)を実行し、さらに、前立て布Nの左端部を、第一の縫い目n1を折り目として右側に折り返す第一の折り返し制御(
図19におけるステップS9,S11)を実行した後、段押さえ機構110を用いた第二の縫い制御(
図19におけるステップS13,S15)を実行する。
【0092】
この第二の縫い制御において、CPU91は、まず、エアシリンダー83,83により、前立て押さえ板81,81を下降させて前立て布Nを保持する(
図19におけるステップS13)。
【0093】
次に、CPU91は、段押さえ機構110のエアシリンダー113のロッド114を伸ばし、退避位置の段押さえ部材121を段押さえ位置に配置させる。すると、第一の折り返し制御で折り返された前立て布Nの折り返し段部dがガイド板部124によってガイドされるとともに、前立て布Nの折り返し部分が押さえ板部125によって押さえられる。
【0094】
そして、CPU91は、ミシンモーター15、X軸モーター33及びY軸モーター34を制御し、段押さえ部材121の隙間G内で、針上下動機構の縫い針12によって前立て布Nに対して、第一の折り返し縫い目n11を第一と第二の縫い目n1,n2の間、具体的には、第一の縫い目n1とメス機構40によって形成する切れ目cの形成位置との間に形成する(
図19におけるステップS15)。
【0095】
このとき、段押さえ部材121の押さえ板部125で前立て布Nの浮き上がりが抑制されるとともに、段押さえ部材121のガイド板部124で折り返し段部dと第一の折り返し縫い目n11との間の幅であるコバ幅Wが所定の寸法に維持される。
【0096】
このように、第二の実施形態に係るミシン10Bによれば、折り返した前立て布Nの折り返し段部dの近傍を折り返し段部dに沿って縫製する際に、段押さえ機構110によって前立て布Nの折り返し段部dを、針上下動機構の縫い針12による縫製箇所近傍で押えてガイドすることができる。これにより、前立て布Nに対して第一の折り返し縫い目n11を形成する際に、折り返し段部dから第一の折り返し縫い目n11までの幅であるコバ幅Wを所定の寸法に安定的に維持させることができる。これにより、前立て縫製の仕上がりを良好にできる。
【0097】
[その他]
なお、ミシン10又はミシン10Bにおいて、縫製の各工程の順番は適宜変更可能である。
例えば、切れ目cの形成は縫い目n1,n2の形成前に行っても良い。また、切れ目cの形成は、縫い目n1,n2の形成後であって、縫い目n1に沿って前立て布Nを折り返す前に行っても良い。
【0098】
また、ミシン10の第一の折り返し機構50のアクチュエーターとしてのエアシリンダー55は、プランジャーの突出を空圧の供給により行い単動式のものを使用しているが、後退をコイルバネ54の張力で行っているが、プランジャーの突出も後退も空圧で行う複動式のものを使用しても良い。