(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記マイクロレンズの表面、及び、前記透明基板の前記マイクロレンズ群が配設されていない側の表面に、反射防止層を備える、請求項1〜13の何れか1項に記載の拡散板。
前記マイクロレンズの表面に設けられる前記反射防止層は、前記マイクロレンズ群の表面に形成された、光の波長以下の大きさの凹凸からなる反射防止構造である、請求項14に記載の拡散板。
前記ドライエッチングする工程では、マイクロレンズ群を構成する各マイクロレンズの曲率半径が、前記透明基板とレジストのエッチング選択比の逆数と、レジスト上に現像された曲率半径と、の積で決まる、請求項19に記載の拡散板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0036】
[第1の実施形態]
(拡散板について)
以下では、
図1〜
図7Bを参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る拡散板1について詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る拡散板を模式的に示した説明図である。
図2は、本実施形態に係る拡散板を構成する単位セルの一部を模式的に示した説明図である。
図3A〜
図4Bは、本実施形態に係る単位セルにおける隣り合うマイクロレンズ間の境界の状態の一例を示した説明図である。
図5は、本実施形態に係る拡散板を模式的に示した説明図である。
図6〜
図7Bは、本実施形態に係る拡散板における単位セルの配置について説明するための説明図である。
【0037】
本実施形態に係る拡散板1は、基板上に複数のマイクロレンズからなるマイクロレンズ群が配置された、マイクロレンズアレイ型の拡散板である。かかる拡散板1は、
図1に模式的に示したように、複数の単位セル3から構成されている。また、単位セル3間では、
図1右側の図に模式的に示したように、単位セル3内に設けられた複数のマイクロレンズのレイアウトパターン(配置パターン)が単位セルの配列方向(換言すれば、アレイ配列方向)に連続となっている。
【0038】
ここで、
図1では、拡散板1を構成する単位セル3の形状が矩形である場合を例に挙げて図示を行っているが、単位セル3の形状は、
図1に示したものに限定されるものではなく、例えば、正三角形状や正六角形状などのように、平面を隙間なく埋めることが可能な形状であれば良い。
【0039】
本実施形態に係る拡散板1を構成する単位セル3の個数は、特に限定するものではないが、拡散板1は、少なくとも2個以上の単位セル3から構成されることが好ましい。
【0040】
図2は、本実施形態に係る単位セル3の一部の構造を模式的に示した説明図である。
図2に模式的に示したように、本実施形態に係る単位セル3は、透明基板10と、透明基板10の表面に形成されたマイクロレンズ群20と、を有している。
【0041】
<透明基板10について>
透明基板10は、本実施形態に係る拡散板1に入射する光の波長帯域において、透明とみなすことが可能な材質からなる基板である。かかる基板は、耐光性の高い無機材料を用いて形成されることが好ましい。耐光性の高い無機材料の例として、例えば、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、白板ガラス等といった公知の光学ガラスを挙げることができるが、アルカリ成分含有量が20質量%以下のケイ素を主成分とするガラスを用いることが好ましい。このような無機材料を用いることで、特に入射光として高出力のレーザ光を用いる場合であっても、材料の変質による拡散板の拡散特性の劣化を無くすことが可能となる。
図2では、透明基板10が矩形である場合を例に挙げて図示を行っているが、透明基板10の形状は矩形に限定されるものではなく、例えば拡散板1が実装される表示装置、投影装置、照明装置等の形状に応じて、任意の形状を有していても良い。
【0042】
<マイクロレンズ群20について>
透明基板10の表面には、複数のマイクロレンズ21からなるマイクロレンズ群20が形成されている。拡散板では、光を拡散させることが本来の使用方法であるため、単位セル3を構成するマイクロレンズ21としては、
図2下段に模式的に示したように、出射面が全て凹レンズからなることが好ましい。拡散板の出射面が凸レンズからなる場合、焦点位置に集光部が生じることから、設置上の制約や安全性に問題が生じるからである。また、本実施形態に係るマイクロレンズ群20では、各マイクロレンズ21は、曲率半径や頂点間ピッチが同一ではなく、一定の範囲でばらつきを有しているために、焦点距離もまた一定の分布を有している。凹レンズの場合、焦点位置は仮想点となるが、焦点位置では光強度密度が大きくなるため、各マイクロレンズ21の焦点位置は、拡散板1を構成する透明基板10に隣接した領域にあることが好ましい。各マイクロレンズ21の焦点位置が透明基板10から離れた場所にある場合には、焦点位置に各種部品を配置することができないなど、光学系上の制約が生じる場合があるためである。
【0043】
また、本実施形態に係るマイクロレンズ群20では、単位セル3を構成する各マイクロレンズ21は、以下に示す3つの条件を満足するように配設されている。
【0044】
(1)単位セル3の4辺の境界は、アレイ配列でパターンに不連続が生じないこと。
(2)各マイクロレンズ21の頂点の平面位置及び高さ位置(換言すれば、凹レンズの深さの最も低い位置)と、マイクロレンズ21間の稜線とは、回折が十分抑圧されるように不規則化されていること。
(3)非拡散透過光を抑圧するため、隣接するマイクロレンズ21間に非レンズ領域が存在しないこと。
【0045】
ここで、上記(2)で言及されている「不規則」とは、拡散板1におけるマイクロレンズ群20の任意の領域において、マイクロレンズ21の配置に関する規則性が実質的に存在しないことを意味する。従って、任意の領域での微小領域においてマイクロレンズ21の配置にある種の規則性が存在したとしても、任意の領域全体としてマイクロレンズ21の配置に規則性が存在しないものは、「不規則」に含まれるものとする。
【0046】
上記の3つの条件を満たすように配置された、本実施形態に係るマイクロレンズ群20において、互いに隣り合うマイクロレンズ21間の稜線は、全て互いに平行ではなく、かつ、透明基板10に対して平行ではないようになっている。マイクロレンズ21間で互いに平行な稜線が存在する場合、回折光成分が増加してしまうからである。
【0047】
ここで、「稜線」とは、複数のマイクロレンズ21が隣接している隣接レンズ境界部にあって、マイクロレンズ21の曲率半径が急激に変化している線状の領域を指すものとする。このような稜線の幅は、通常光の波長程度以下であるが、この稜線の幅は、エッチングなどのプロセス条件で回折光が適切な大きさとなるよう制御される。また、「平行ではない」とは、平行か否かを判断する2つの線の少なくとも一方が、曲線である場合を含むものとする。
【0048】
具体的には、隣接するマイクロレンズ21によって囲まれるマイクロレンズの領域は、
図3A及び
図3Bに示したように、マイクロレンズの光軸方向から見ると多角形となっており、多角形の各辺は、マイクロレンズ断面からみると曲線となっている。
【0049】
また、上記の3つの条件を満たすマイクロレンズ21からなる単位セル3の少なくとも一つの辺の長さは、単位セル3に含まれるマイクロレンズ21の平均ピッチ(例えば、各マイクロレンズ21の頂点位置間距離の平均値)の整数倍となっていることが好ましい。換言すれば、本実施形態に係る拡散板1における単位セル3の周期は、単位セル3の少なくとも一辺の長さがマイクロレンズ21の平均ピッチの整数倍となる周期であることが好ましい。
【0050】
このように、マイクロレンズ群20における隣接する各マイクロレンズ21は、上記のような条件を満たすように決められており、完全にランダムなものではない。
【0051】
なお、隣接するマイクロレンズ21間の稜線については、回折光成分を低減するために更なる工夫を行うことが可能である。例えば、
図3Aに模式的に示したように、稜線の一部を単純な直線や曲線ではなく凸凹形状としたり、
図4A及び
図4Bに示したように、稜線上の一部に半レンズ部などの異形状を配置したりすることも可能である。ここで、本実施形態において半レンズ部とは、稜線の幅が10μm以上となるような、マイクロレンズ21の曲率半径の変化が比較的緩やかな領域をいう。また、かかる半レンズ部には、鞍型のように、直交する方向で曲率の符号が異なるものも含まれる。マイクロレンズ21間の稜線を以上のような形態とすることで、互いに隣り合うマイクロレンズ21間の境界部分を平坦ではないようにして、稜線部分で発生する回折波面の位相を乱し、特定の方向への回折光成分が生じないようにすることが可能となる。
【0052】
また、単位セル3を構成するマイクロレンズ21の数は、3×3=9個以上であることが好ましい。これは、単位セル3と等しい径を持つ入射光が入射した場合に、マイクロレンズ21の平均ピッチが入射光径の1/3以下程度であれば、入射光位置のズレに対して拡散特性が変化しないことから導かれるものである。マイクロレンズ21の平均ピッチと入射光径との関係については、以下で改めて詳述する。
【0053】
<反射防止層について>
本実施形態に係る拡散板1には、その表面及び裏面(換言すれば、マイクロレンズ21の表面、及び、透明基板10のマイクロレンズ群20が配設されていない側の表面)に対して、
図5に模式的に示したように、透過率の増加や反射迷光などの防止を目的として、反射防止層30を形成してもよい。
【0054】
かかる反射防止層30は、例えば、SiO
2、Al
2O
3、MgF
2、CeO
2、TiO
2、Ta
2O
5、Nb
2O
5、Y
2O
3、Tb
2O
3、ZnS、ZrO
2等といった、一般的な誘電体を用いて、蒸着やスパッタ等といった公知の方法により形成することが可能である。ここで、反射防止層30を、例えばTa
2O
5、Nb
2O
5、SiO
2など耐光性の高い材料を用いて形成することで、入射光が高出力レーザ等といった高い光密度を有する光であっても、かかる光によって劣化することなく、十分な効果を奏することが可能となる。この際に、反射防止層30を、例えばTa
2O
5、Nb
2O
5、SiO
2などの耐光性の高い材料が相互に積層された多層構造体とすることで、より一層の耐光性を実現することが可能となる。このような反射防止層30の膜厚については、特に限定されるものではなく、拡散板1の用途や、入射する光の光密度等に応じて、適宜設定すればよい。
【0055】
なお、拡散板1に対して反射防止層30を形成する際には、拡散板1の表面にマイクロレンズ21の凹凸が存在するため、反射防止層30の膜厚がマイクロレンズ21の中央部と周縁部とで異なってしまう可能性があるため、この点を考慮して、反射防止層30を形成することが好ましい。また、マイクロレンズ21の中心部と周縁部とでは、入射光の入射角は異なっているため、設計で想定する角度範囲を通常よりも広く取るなどの工夫を行うことがより好ましい。
【0056】
また、マイクロレンズ21の表面に設けられる反射防止層30は、マイクロレンズ群20の表面(マイクロレンズ21の表面でもある。)に形成された、光の波長以下の大きさの微細な凹凸(いわゆるモスアイ構造)からなる反射防止構造であってもよい。特に拡散角10度を超える拡散特性を実現する場合、マイクロレンズ21の表面の傾斜が大きくなるため、反射率の入射角度依存性が小さいモスアイ構造は、上記のような多層構造体と比べて利点がある。迷光及び反射の低減という観点からは、上記反射防止構造は、マイクロレンズ21の表面内において非等方的に設けられた、微細凹凸のピッチが300nm以下の構造であることが好ましい。
【0057】
<単位セル3の配置について>
従来知られているように、周期的な繰り返し構造に対して光が入射すると、回折光が発生する。回折角度θは、繰り返し構造のピッチ(繰り返し周期)をpとし、回折次数(整数)をmとし、入射する光の波長をλとすると、以下の式101で与えられる。
【0059】
本実施形態で着目するようなマイクロレンズアレイ型の拡散板の場合、出射光は、レンズ素子(マイクロレンズ21)による拡散効果と、マイクロレンズ21の周期配列による回折光成分の二つが重畳したものとなる。回折光成分は、角度に対して離散的な分布であり、回折光成分のピーク強度は、回折次数mに反比例して小さくなる。これら離散的な回折成分は、レンズアレイによって広がる拡散光の強度レベルよりも小さくなると、拡散光中に埋没してそれと識別できなくなることから、周期的な配置にランダムな不規則成分を加えて回折ピークを小さくすることで、回折による悪影響を抑制することが行われる。
【0060】
また、回折光成分のピーク強度は、入射光径などの入射条件によっても左右される。例えば、マイクロレンズ21の大きさと同じ程度のサイズを持つ入射光径の光がマイクロレンズ21に入射した場合、マイクロレンズ群20が規則的な配置であったとしても、光が入射したマイクロレンズ21に隣接するマイクロレンズ21には光がわずかしか入射しないため、回折光はほとんど発生しない。他方、マイクロレンズ21の大きさと同程度の入射光径を有する入射光がマイクロレンズ21に入射した場合には、入射光軸とマイクロレンズ21の光軸との関係によって、出射特性が変わるという現象が生じやすくなる。
【0061】
不規則な配置をもつマイクロレンズアレイの出射光分布を、市販の電磁界シミュレータによってシミュレートした例を、
図6に示した。かかるシミュレーションでは、マイクロレンズアレイにおけるマイクロレンズ21のピッチp(マイクロレンズの直径でもある。)を82μmとし、矩形状のマイクロレンズアレイの大きさを、738μm×710μm(対角線の長さ:約1024μm)とした。その上で、かかるマイクロレンズアレイに入射する光の入射光径を、200μm、300μm、650μmと変化させた場合に、回折光を含む出射光分布が検出器であるスクリーンにどのように投影されるかを検証した。
図6(a)〜(c)において、図中の輝点は、マイクロレンズアレイによる回折光を示している。
【0062】
図6(a)に示したように、マイクロレンズ21の直径(82μm)と入射光径とのサイズ差が比較的小さい場合には、拡散光中の回折光輝点が大きくなってしまうため、
図6(b)及び
図6(c)から明らかなように、マイクロレンズ21の直径を小さくする(又は、入射光径を大きくする)ことが好ましいことがわかる。具体的には、マイクロレンズアレイのピッチは概ね入射光径の1/3以下とすることで、上記のような輝点による影響を実用上問題ないレベルまで低減することが可能となる。
【0063】
一方、実際にマイクロレンズアレイを製造するに際して、転写用のフォトマスクや金型を作製することを考える。この場合、一般的には、マイクロレンズ21の形状の形成を、レーザや電子ビームによる直接描画で行うことが多いが、作製するデータ量を低減するために、比較的小さな面積からなる単位セル3を上下左右に繰り返しアレイ配列化して所望のサイズまで拡大する、いわゆるステップアンドリピート的な手法がとられることも多い。このようなアレイ構造を持つものに光が入射すると、単位セル3内と単位セル3間の2重の繰り返し構造からなる2種類の回折光成分が発生することになる。各々の回折角について、単位セル3内の回折角は、レンズ配置のピッチによって決まり、単位セル3間の回折角は、単位セル3のサイズ(大きさ)によって決まる。
【0064】
単位セルアレイによる回折角(単位セル3間の回折角)を考える。例えば、単位セルのピッチを700μmとし、入射する光の波長を450nmとしたとき、上記(式101)により、1次回折光(m=1の場合の回折光)の角度(半角)は、0.03度となる。従って、拡散板の拡散角(半角)が3度程度の場合であっても、(3/0.03)
2=10
4個の回折光が拡散光中に発生することなる。回折光の強度は、回折次数mが高次となるに従って、急速に低下していく(例えば、回折次数mのときピーク強度は(2/π)
mとなる)ため、実際には数十個程度の回折ピークが、拡散光中に現れることになる。以下では、このような単位セルアレイに起因した回折光を、サブ回折光と称することとする。
【0065】
一方、先に述べたようなレンズアレイによる回折光の各々の輝点(換言すれば、単位セル3内での回折による回折光の各々の輝点)は、上記のような単位セルアレイによるサブ回折ピークによって、更に離散的に分離する。従って、拡散光中での輝点の明瞭度は、かかるサブ回折光ピークによって低減されることになる。
図6(a)から
図6(c)へと条件が推移するに従って拡散光中の回折光輝点が小さくなっていくのは、上記のような、単位セル3内の回折による回折光(以下では、メイン回折光とも称する。)が、サブ回折光によって分離される現象によるものである。
【0066】
ここで、単位セルによる回折角は非常に小さいものであるため、本実施形態に係る拡散板1の実使用上、サブ回折成分の輝点が問題となることはない。従って、単位セル3によるサブ回折光を適切に発生させることによって、
図6(a)〜(c)を参照しながら説明したように、メイン回折光のピーク強度を低減することが可能となる。
【0067】
サブ回折光の強度は、単位セル3と入射光の大きさとの関係によって決まる。概ね単位セル3が入射光より大きい場合には、単位セル3の周期構造に起因するサブ回折光は発生しない。ここで、
図7Aに示したような入射光強度の半値全幅を考え、かかる半値全幅が最小になる方向の径を、
図7Bに示したような「入射光径」と定義するとともに、単位セル3を長方形又は正方形等の矩形状とし、単位セル3の対角線の長さを「単位セルサイズ」と定義する。この際、
図7Bに示したように、単位セルサイズが入射光径よりも小さければ、単位セル3間の回折に起因するサブ回折光が発生して、レンズアレイに起因する(換言すれば、単位セル3内の回折に起因する)メイン回折光のピーク強度を低減することが可能となる。
【0068】
ここで、拡散板1に入射する光がレーザ光であったとしても、
図7Bに示したような入射光径は、最大でも3mm程度であると考えられる。従って、
図7Bに示したような単位セルサイズが3mm以下であれば、どのようなレーザ光源に対しても本実施形態に係る拡散板1を使用することが可能となる。
【0069】
以上説明したように、本実施形態に係るマイクロレンズアレイ型の拡散板1は、2個以上の単位セル3で構成されており、各単位セル3は、複数のマイクロレンズ21からなるマイクロレンズ群20を有している。また、各単位セル3に含まれるマイクロレンズ21は、アレイ配列に対して連続であり、各マイクロレンズ21の稜線は互いに平行ではなく、かつ、透明基板10に対しても平行ではないことを特徴とする。これにより、本実施形態に係る拡散板1は、拡散光中における回折光成分を抑制することが可能となり、優れた拡散特性を示すこととなる。
【0070】
以上、
図1〜
図7Bを参照しながら、本実施形態に係る拡散板1について、詳細に説明した。
【0071】
(拡散板の製造方法について)
以下では、
図8〜
図10を参照しながら、本実施形態に係る拡散板1の製造方法の一例について、簡単に説明する。
図8は、同実施形態に係る拡散板の製造方法の流れの一例を示した流れ図である。
図9及び
図10は、本実施形態に係る拡散板の製造方法について説明するための説明図である。
【0072】
本実施形態に係る拡散板1は、以下で説明するように、例えば、フォトレジスト等の有機材料からなるパターンをドライエッチングによって基板に転写することで製造することが可能である。
【0073】
かかる製造方法では、まず、所定の透明基板10に対してレジストを塗布することが実施される(ステップS101)。ここで、以下で説明するような製造方法では、エッチングガスとして、一般的には、CF
4、SF
6、CHF
3等といったフッ素系エッチングガスが用いられるため、透明基板10としては、上記のようなフッ素系エッチングガスと反応して不揮発性物質となるAl
2O
3やアルカリ金属等のアルカリ成分を含有しない(又は、アルカリ成分の含有量が20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である)石英ガラスやテンパックスガラス等を用いることが好ましい。例えば、Al
2O
3を27%含有し、アルカリ金属を全く含有しないガラス基板(例えば、コーニング社の製品名:イーグルXG等)を上記のようなフッ素系エッチングガスを用いてドライエッチングすると、表面にエッチングされないAl
2O
3の微小突起が発生して、透過率が低下してしまうという問題が発生してしまう。
【0074】
続いて、レジストの塗布された透明基板10に対して、グレースケールマスクを用いて、ステッパ露光を実施する(ステップS103)。
【0075】
この際、
図9に模式的に示したように、1mm以下程度の単位セル3を更に上下左右繰り返しアレイ化したものを1〜20mm程度の基本セルとし、かかる基本セルをステップアンドリピート露光での繰り返し単位とすることも可能である。この場合、ステッピングでの位置精度によっては、基本セル間で最大で数μm幅程度のパターンの繋ぎ目が生じるが、
図9に模式的に示したように、単位セル間隔で露光ショットを移動してパターンを重ねながら露光を行うことで、このパターンの繋ぎ目を生じなくすることが可能となる。この際、1回の露光による露光量を所望の露光量の半分とした場合、4回の露光で所望の露光量を実現することが可能となる。また、隣接する基本セルの端をわずかに(例えば幅500nm以下)重ね合わせるようにステップアンドリピート露光することでも、繋ぎ目をなくすことが可能となる。この場合、複数回の露光は不要となる。
【0076】
続いて、ステッパ露光の終了したレジストパターンを現像する(ステップS105)。これにより、透明基板10上に塗布されたレジストに対して、所望のマイクロレンズパターンが形成される。
【0077】
続いて、現像が終了した透明基板10に対して、上記のようなフッ素系エッチングガスを利用して、ドライエッチングを実施する(ステップS107)。これにより、レジストに形成されたマイクロレンズパターンが、透明基板10に転写されることとなる。
【0078】
その後、マイクロレンズパターンの形成された透明基板10の表面及び裏面に対して、上記のような誘電体を用いて蒸着又はスパッタによりARコートを行い、反射防止層30を形成する(ステップS109)。また、マイクロレンズの表面に対して、反射防止層30として、公知のモスアイ構造の製造方法により、光の波長以下の大きさの凹凸からなる反射防止構造を形成してもよい。
【0079】
このように、本実施形態に係る拡散板1は、ガラス基板等の透明基板10上にレンズ曲面をもつレジストパターンをグレースケール露光によって形成した後、かかるレジストパターンをドライエッチングして透明基板10上にレンズ形状を転写することにより、作製される。ここで、透明基板10に転写されるレンズ状のレジストパターン形状は、グレースケール露光の条件だけではなく、ドライエッチングの条件も加味して決定される。
【0080】
ここで、ドライエッチングにおけるレジストのエッチング速度と透明基板10(例えばガラス等)のエッチング速度との比(=透明基板のエッチング速度/レジストのエッチング速度)を、「エッチング選択比」と称することとする。この際、ドライエッチング工程における各エッチングガスの流量比率を調節することで、上記のようなエッチング選択比を変化させることが可能である。これにより、転写するレンズ形状(例えば、マイクロレンズ21の曲率半径)の微調整を行うことが可能である。
【0081】
具体的には、エッチングガスとしてCF
4、Ar、O
2を用いる場合、流量比(=「CF
4ガスの流量/Arガスの流量」)を0.25〜4の範囲で変化させると、上記のようなエッチング選択比は、1.0〜1.7まで変化する。更に、この状態でO
2ガスを3%〜10%添加すると、上記のようなエッチング選択比を、0.7〜1.0まで低減することができる。このように、エッチングガスの条件によって、上記のようなエッチング選択比を0.7〜1.7まで変化させることが可能である。かかる現象は、グレースケール露光で得られたフォトレジストからなるマイクロレンズの曲率半径を、エッチングによって70〜170%の範囲で調整可能であることを意味している。
【0082】
グレースケール露光によって作成されるレジストパターンの形状は、最終的な拡散板の完成体である透明基板10のレンズパターンと、上記エッチングによる形状変形と、を加味して決められる。具体的には、エッチング選択比をηと表わし、各マイクロレンズ21の深さ(サグ量でもある。)をSと表わすとすると、透明基板10に実際に形成されるマイクロレンズ21の深さは、近似的にη×Sとなる。また、レジストパターンの曲率半径をRとすると、エッチング後の曲率半径は、R÷ηとなる。
【0083】
図10は、エッチング選択比を0.6及び1.7とした場合に、形成されたレジストパターンの形状を実際に測定した結果を示したものである。かかる測定は、実際にマイクロレンズアレイの略中央部分の形状(
図10上段におけるA−A切断線近傍の形状)を、レーザ共焦点顕微鏡により測定したものである。
図10から明らかなように、レジスト設計値と、転写された完成体形状とは、必ずしも一致しない。
【0084】
そこで、本実施形態に係る拡散板を製造するに際しては、
図11に示すような設計方法が採用される。
【0085】
(拡散板の設計方法について)
以下では、
図11を参照しながら、本実施形態に係る拡散板1の設計方法の一例について、簡単に説明する。
図11は、本実施形態に係る拡散板の設計方法の流れの一例を示した流れ図である。
【0086】
本実施形態に係る拡散板の設計方法では、まず、透明基板10の屈折率n、実現したい拡散角の大きさθ、マイクロレンズ21のピッチp等といった、基本設計条件が設定される(ステップS201)。その後、以下の式103に基づいて、曲率半径R(n,θ,p)が算出される(ステップS203)。
【0088】
続いて、本実施形態に係る拡散板の設計方法では、曲率半径変化幅ΔR、ピッチ変化幅Δp、レンズ頂点高さ変化幅Δh等といった、変化許容幅が設定される(ステップS205)。その上で、公知のレンズ配置の算出アルゴリズムを利用して、単位セルのレイアウト化が実施される(ステップS207)。
【0089】
単位セルのレイアウト化が終了すると、レイアウト化された単位セルが、レイアウト基準に適合するか否かが判定される(ステップS209)。このようなレイアウト基準は、先だって説明したような、(1)〜(3)の条件となる。
【0090】
レイアウト化された単位セルが、上記(1)〜(3)の全てを満足していない場合、ステップS207に戻って、基本設定条件を変化許容幅の範囲内で変化させながら、再度単位セルのレイアウト化が実施される。一方、レイアウト化された単位セルが、上記(1)〜(3)の全てを満足した場合、単位セルの仮レイアウトが完成することとなる(ステップS211)。
【0091】
続いて、本実施形態に係る拡散板の設計方法では、上記のようなエッチング選択比ηが設定される(ステップS211)。その後、設定されたエッチング選択比ηに基づいて、仮レイアウトのサグデータ(すなわち、高さS)が、η×Sで表わされる値へと修正される(ステップS215)。これにより、単位セルの最終レイアウトが完成することとなる(ステップS213)。
【0092】
以上、
図11を参照しながら、本実施形態に係る拡散板1の設計方法の一例について、簡単に説明した。
【0093】
以上説明したような製造方法を用いることで、ドライエッチングプロセスという、より簡便な製造プロセスを利用して、本実施形態に係る拡散板1を、より生産性良く製造することが可能となる。
【0094】
(拡散板の製造方法の具体例)
以上説明したような、本実施形態に係る拡散板の製造方法の具体例を、以下に簡単に記載する。なお、以下に示す具体例は、本発明に係る拡散板の製造方法の一具体例にすぎず、本発明に係る拡散板の製造方法が下記の具体例に限定されるものではない。
【0095】
まず、例えばテンパックスガラス基板を透明基板10として利用し、かかるガラス基板上に、ポジレジストを塗布する。この際、作製するマイクロレンズ21のサグ深さよりも大きくなるように、レジストの膜厚は、11μmとする。
【0096】
次に、グレースケールマスクと露光装置(ステッパー)とを用いて、ステップアンドリピート露光を実施する。この際、使用するグレースケールマスクのレイアウトは、横737.6μm×縦709.6μmの四角形状の単位セル3を、上下左右にアレイ配列したもの(すなわち、基本セル)から構成されているものとする。単位セル3は、縦横繰り返しで不連続パターンとならないように、例えばマイクロレンズの横方向の並びは平均ピッチ82μmとし、9個(セル内の合計では100個以上)のレンズが並ぶよう設計する。
【0097】
ここで、単位セル3内の各マイクロレンズの配置条件については、頂点の面内位置が六角形の頂点から半径42μm以内となり、高さ位置の変化幅が2μm以下となり、かつ、隣接レンズ間の境界が平行とならず、かつ、基板とも平行とならないこと、とする。曲率半径については、拡散角θ=3度とすると、上記式103によりエッチング後でR=752μmとなる。この際、エッチング選択比0.90による変化を加味して、レジストパターンの曲率は、R’=752×0.90=677μmとし、変化幅は67μmとすることができる。
【0098】
上記のような条件を満たす配置を、公知のレンズ配置の算出アルゴリズムによって探索決定したものを、単位セル3とする。
【0099】
更に、以上のような単位セル3を横方向に16個×縦方向に17個アレイ配列したものを基本セルとした上で、かかる基本セルを露光単位位として、ステップアンドリピート露光を行う。
【0100】
次に、現像後得られたレジスト形状をマスクとして、CF
4とArとの混合ガスをエッチングガスとして用いて、ドライエッチングを行う。エッチング速度は、一例として、ガラス:0.5μm/min、レジスト:0.45μm/minであり、レジストパターンのサグよりも深くエッチングを行うことで、レジストのマイクロレンズ形状が、ガラス基板へ転写されることとなる。
【0101】
エッチングによるレンズ形成後、蒸着又はスパッタにより、ガラス基板の両面に対して、例えばNb
2O
5/SiO
2多層膜からなる反射防止層30を形成する。
【0102】
このような製造方法を実施することで、本実施形態に係る拡散板を実際に製造することが可能となる。
【0103】
(拡散板の適用例)
次に、本実施形態に係る拡散板1の適用例について、簡単に説明する。
【0104】
以上説明したような本実施形態に係る拡散板1は、その機能を実現するために光を拡散させる必要がある装置に対して、適宜実装することが可能である。機能を実現するために光を拡散させる必要がある装置としては、例えば、各種のディスプレイ等の表示装置や、プロジェクタ等の投影装置を挙げることができる。
【0105】
また、本実施形態に係る拡散板1は、液晶表示装置のバックライトに対して適用することも可能であり、光整形の用途にも用いることが可能である。更に、本実施形態に係る拡散板1は、各種の照明装置に対しても適用することが可能となる。
【0106】
なお、機能を実現するために光を拡散させる必要がある装置は、上記の例に限定されるものではなく、光の拡散を利用する装置であればその他の公知の装置に対しても、本実施形態に係る拡散板1を適用することが可能である。
【0107】
[第2の実施形態]
レーザ光のような可干渉性の大きな光に対して用いられる拡散板としては、拡散全角が1度〜30度程度までのような、様々な拡散全角の拡散板が使用される。例えば、入射レーザ光を蛍光体面で均一に広げるという用途では、拡散全角が10度未満である拡散板が用いられ、青色光を利用して蛍光体フィルムと同様の拡散特性を得るための用途や、スペックルを低減するための用途では、拡散全角が10度〜30度程度の拡散板が用いられる。拡散全角が10度〜30度となるような比較的大きな拡散全角を有する拡散板を、マイクロレンズ型の拡散板で実現しようとする場合には、拡散光強度が減衰する角度領域において、拡散光の減衰が急峻ではなくなってしまうという問題があった。
【0108】
従って、上記のような用途にも適用可能な拡散板を、マイクロレンズ型の拡散板で実現する場合には、第1の実施形態で説明したような回折成分の抑制に加えて、拡散光強度が減衰する角度領域においても拡散光の減衰が急峻となるような、より優れた拡散特性を実現することが重要となる。
【0109】
そこで、以下で詳述する第2の実施形態に係る拡散板では、第1の実施形態に係る拡散板で着目した、単位セルを構成する各マイクロレンズに関する上記(1)〜(3)の条件の他に更なる条件を加味することによって、回折成分の抑制に加えて、拡散光強度が減衰する角度領域においても拡散光の減衰が急峻となるような、より優れた拡散特性を実現する。
【0110】
(拡散板について)
本発明の第2の実施形態に係る拡散板1は、第1の実施形態に係る拡散板1と同様に、基板上に複数のマイクロレンズからなるマイクロレンズ群が配置された、マイクロレンズアレイ型の拡散板である。かかる拡散板1は、
図1に示した第1の実施形態に係る拡散板1と同じく、複数の単位セル3から構成されている。また、単位セル3間では、単位セル3内に設けられた複数のマイクロレンズのレイアウトパターン(配置パターン)が単位セルの配列方向(換言すれば、アレイ配列方向)に連続となっている。
【0111】
以下では、
図12〜
図16を参照しながら、第1の実施形態に係る拡散板1との相違点を中心に説明を行うものとし、第1の実施形態に係る拡散板1と同様の構成を有するものについては、詳細な説明は省略する。
図12は、本実施形態に係る拡散板を構成する単位セルの一部を模式的に示した説明図である。
図13Aは、本実施形態に係るマイクロレンズ群における頂点間距離のばらつきを説明するための説明図であり、
図13Bは、本実施形態に係るマイクロレンズ群における曲率半径のばらつきを説明するための説明図である。
図14は、本実施形態に係る拡散板における減衰幅を説明するための説明図であり、
図15A及び
図15Bは、頂点間距離及び曲率半径のばらつきと減衰率との関係を示したグラフ図である。
図16は、拡散板における拡散全角と減衰率との関係を説明するための説明図である。
【0112】
本実施形態に係る拡散板1が備える単位セル3は、
図2に示した第1の実施形態に係る単位セル3と同様に、透明基板10と、透明基板10の表面に形成されたマイクロレンズ群20と、を有している。
【0113】
<透明基板10について>
ここで、本実施形態に係る単位セル3の透明基板10は、第1の実施形態に係る単位セル3の透明基板10と同様の構成を有し、同様の効果を奏するものであるため、以下では詳細な説明は省略する。
【0114】
<マイクロレンズ群20について>
透明基板10の表面には、第1の実施形態と同様に、複数のマイクロレンズ21からなるマイクロレンズ群20が形成されている。拡散板は、光を拡散させることが本来の使用方法であるため、単位セル3を構成するマイクロレンズ21としては、出射面が全て凹レンズからなることが好ましい。また、本実施形態に係るマイクロレンズ群20においても、各マイクロレンズ21は、曲率半径や頂点間ピッチが同一ではなく、一定の範囲でばらつきを有しているために、焦点距離もまた一定の分布を有している。凹レンズの場合、焦点位置は仮想点となるが、焦点位置では光強度密度が大きくなるため、各マイクロレンズ21の焦点位置は、拡散板1を構成する透明基板10に隣接した領域にあることが好ましい。
【0115】
また、本実施形態に係るマイクロレンズ群20では、単位セル3を構成する各マイクロレンズ21は、第1の実施形態と同様に、以下に示す(1)〜(3)の3つの条件を満足するように配設されている。
【0116】
(1)単位セル3の4辺の境界は、アレイ配列でパターンに不連続が生じないこと。
(2)各マイクロレンズ21の頂点の平面位置及び高さ位置(換言すれば、凹レンズの深さの最も低い位置)と、マイクロレンズ21間の稜線とは、回折が十分抑圧されるように不規則化されていること。
(3)非拡散透過光を抑圧するため、隣接するマイクロレンズ21間に非レンズ領域が存在しないこと。
【0117】
上記3つの条件を満たすように配置された、本実施形態に係るマイクロレンズ群20においても、互いに隣り合うマイクロレンズ21間の稜線は、全て互いに平行ではなく、かつ、透明基板10に対して平行ではないようになっている。
【0118】
以下では、マイクロレンズ21の繰り返し構造のピッチ(すなわち、
図12における互いに隣り合うマイクロレンズ21間の頂点間距離)の平均値(平均ピッチ)をpとし、マイクロレンズ21の形状を表す曲線(すなわち、
図12における断面プロファイルに該当する曲線)の曲率半径の平均値(平均曲率半径)をRと表わすこととする。この場合に、マイクロレンズ型の拡散板の拡散全角(半値全幅)θは、マイクロレンズ21の屈折率nと、平均ピッチ(平均頂点間距離)pと、平均曲率半径Rと、を用いて、以下の式201のように表わすことができる。この際、平均頂点間距離p及び平均曲率半径Rは、所望の拡散全角θとなるように、下記式201に基づき決定される。
【0120】
マイクロレンズ群20が均一で規則的な配列を有する場合、アレイを構成する全てのマイクロレンズ21からの拡散光は一致し、中央部が平坦で急峻な減衰特性を有する拡散特性が得られる。しかしながら、このままではアレイ構造の周期性により回折光が多数発生するため、拡散板としては好ましくない。従って、第1の実施形態と同様に、レンズ形状及びレンズ配置に適度な不規則性を導入することで、回折成分を抑制することが行われる。その結果、
図13A及び
図13Bに模式的に示したように、頂点間距離と曲率半径の値には、ばらつきが生じることとなる。
【0121】
いま、
図13Aに示したように、不規則性を導入した結果生じる頂点間距離の最大値をp
maxとし、頂点間距離の最小値をp
minとした場合に、本実施形態では、以下の式203で与えられるσ
pを、頂点間距離の平均値からのばらつき度合いとして利用する。同様に、
図13Bに示したように、不規則性を導入した結果生じる曲率半径の最大値をR
maxとし、曲率半径の最小値をR
minとした場合に、本実施形態では、以下の式205で与えられるσ
Rを、曲率半径の平均値からのばらつき度合いとして利用する。
【0123】
本実施形態では、拡散特性(特に、減衰特性)における急峻性を、以下の式207で表わされる減衰率αによって表すこととする。ここで、以下の式207におけるθは拡散全角であり、
図14に模式的に示したように、拡散角分布曲線の半値全幅に対応する。また、
図14に模式的に示したように、拡散角分布曲線において、強度が最大値の90%となる角度から強度が最大値の10%となる角度までの角度領域を減衰域と称することとし、かかる減衰域の広さ(すなわち、角度幅)の円周方向の平均値を、以下の式207における減衰幅δとする。例えば、
図14に示した例では、角度の値が正となる領域と、角度の値が負となる領域とで、2箇所の減衰域が存在するが、以下の式207に用いられる減衰幅δは、これら2箇所の減衰域の広さ(角度幅)の平均値となる。
【0124】
また、導入されるマイクロレンズの配置の不規則性に関して、上記式203及び式205で与えられるばらつき度合いσ
p及びσ
Rを利用して、頂点間距離の変化幅dpと、曲率半径の変化幅dRとを、以下の式209及び式211のように表わすこととする。
【0126】
この場合に、減衰幅δは、上記式201、式209及び式211を用いて、以下の式213のように表わすことができる。ここで、(p/R)の値が十分に小さいという近似を行うと、以下の式213は、式215のように表わすことができる。従って、上記式207で規定される減衰率αは、下記式215を用いて、以下の式217のように表わすことができる。
【0128】
頂点間距離のばらつき度合いσ
pを0.4(40%)、0.6(60%)、0.8(80%)のそれぞれに固定したうえで、曲率半径のばらつき度合いσ
Rを0.02(2%)から0.3(30%)まで変化させた場合に、上記式217により与えられる減衰率αがどのように変化するかを計算し、得られた結果を、
図15Aに示した。また、平均頂点間距離p=90μm、平均曲率半径R=300μm、屈折率n=1.47(すなわち、拡散全角θ≒8度)の拡散板を想定し、頂点間距離のばらつき度合いσ
pを0.4(40%)から0.8(80%)まで変化させるとともに、曲率半径のばらつき度合いσ
Rを0.02(2%)から0.3(30%)まで変化させた場合について、市販の光線追跡シミュレータを用いて拡散角分布曲線を算出した。その後、得られた拡散角分布曲線から減衰率αを算出した結果を、
図15Bに示した。
図15A及び
図15Bを比較すると明らかなように、上記式217に示した近似式を用いた減衰率αの算出結果は、光線追跡シミュレーション結果とほぼ一致しており、上記式217に示した近似式は妥当なものであると言える。
【0129】
本実施形態に係る拡散板1は、例えばレーザ光のような可干渉性の大きな光線を、蛍光体面に均一に広げるといった用途に好適に利用することが可能である。かかる用途において、上記のような減衰率αは、蛍光体での光の変換効率を左右することから、通常1以下、より好ましくは0.9以下、となることが求められる。
【0130】
ここで、上記式217を用いて算出した
図15Aの結果を見ると、頂点間距離のばらつき度合いσ
p=0.6(60%)であり、かつ、曲率半径のばらつき度合いσ
R=0.2(20%)であるときに、減衰率α=0.83となることがわかる。かかる結果は、単位セル3を構成する互いに隣り合うマイクロレンズ21の頂点間距離が、平均値の±60%の範囲内でばらつきを有し(換言すれば、頂点間距離のばらつき度合いσ
pが、0<σ
p≦0.6の関係を満足し)、かつ、単位セル3を構成するそれぞれのマイクロレンズ21の曲率半径が、平均値の±20%の範囲内でばらつきを有する(換言すれば、曲率半径のばらつき度合いσ
Rが、0<σ
R≦0.2の関係を満足する)ことで、拡散特性の減衰率αを0.9以下とすることができることを示唆している。
【0131】
従って、本実施形態に係るマイクロレンズ群20では、以下の(4)及び(5)の条件を更に満足することが好ましく、以下の(4)〜(6)の条件を更に満足することがより好ましい。
【0132】
(4)単位セル3を構成する互いに隣り合うマイクロレンズ21の頂点間距離が、平均値の±60%の範囲内に含まれること。
(5)マイクロレンズ21の曲率半径が、平均値の±20%の範囲内に含まれること。
(6)頂点間距離の平均値からのばらつき度合いをσ
pとし、曲率半径の平均値からのばらつき度合いをσ
Rとしたときに、上記式217の関係が成立すること。
【0133】
ここで、減衰率αが一定であっても、拡散全角θが大きくなると、減衰域の広さδは、拡散全角θに比例して大きくなる。蛍光体の変換効率は、減衰率αよりも減衰域の広さδに左右され、
図16に模式的に示したように、減衰域の広さδが広くなるほど無駄となる光エネルギーも多くなる。従って、より大きな拡散全角θを有する拡散板を実現する場合には、求められる減衰率αはより小さくなる。そのため、本実施形態に係る拡散板1による変換効率改善の効果は、拡散全角θ=10度以上(換言すれば、F値=5.5以下)である場合に、より大きなものとなる。
【0134】
なお、マイクロレンズ21の平均頂点間距離及び平均曲率半径は、先だって言及したように、求められる拡散全角θ(例えば、θ=1〜30度)に応じて、上記式201により決定される。平均頂点間距離と平均曲率半径との比率が同じ場合には、拡散全角θは同じ値となるが、平均頂点間距離は、入射光径や作製上のサグ等によって制約を受け、平均曲率半径は、作製上のサグの他、作製方法から決まる深さ方向の分解能等によって制約を受ける。そのため、これらの実用上の制約を考慮すると、平均頂点間距離pは、13〜90μmの範囲内であることが好ましく、平均曲率半径Rは、20〜2000μmの範囲内であることが好ましい。
【0135】
以上説明したように、本実施形態に係る拡散板1では、減衰特性の最適化という新たな観点に対し、減衰特性が、マイクロレンズ配置の分布と曲率半径の分布という二つのパラメータに関係があることに着目し、これら二つのパラメータの範囲を規定している。これにより、本実施形態に係る拡散板では、回折成分の低減を図りつつ、減衰特性を最適化することが可能となる。
【0136】
<反射防止層について>
本実施形態に係る拡散板1には、その表面及び裏面(換言すれば、マイクロレンズ21の表面、及び、透明基板10のマイクロレンズ群20が配設されていない側の表面)に対して、透過率の増加や反射迷光などの防止を目的として、反射防止層30を形成してもよい。かかる反射防止層30として、第1の実施形態に係る拡散板1における反射防止層30と同様のものを設けることが可能であるため、以下では詳細な説明は省略する。
【0137】
以上、
図12〜
図16を参照しながら、本実施形態に係る拡散板について、詳細に説明した。
【0138】
(拡散板の設計方法について)
本実施形態に係る拡散板において、マイクロレンズ21を配置する手順については、特に限定されるものではなく、例えば、初期的に六角形の各頂点に対応する位置に各マイクロレンズ21の頂点を配置した後、上記(1)〜(5)の条件、より好ましくは上記(1)〜(6)の条件を満たす範囲で、頂点位置をずらすようにしてもよい。また、第1の実施形態で説明した方法と同様にして、初期位置を設けずに、上記(1)〜(5)の条件、より好ましくは上記(1)〜(6)の条件を満たす位置関係を、各種コンピュータを用いて逐次的に求めてもよい。
【0139】
ここで、本実施形態に係る拡散板を設計する際には、作製プロセス上の制約を考慮することが重要である。例えば、グレーマスク露光を行う場合、ステッパの焦点深度(=λ/NA
2)により、露光可能なレジスト深さが規定される。例えば、i線(λ=365nm)を用いた場合、ステッパのNAは、0.4〜0.6であり、露光可能なレジスト深さは、約15μmとなる。そのため、サグ深さは、15μm以下とすることが好ましい。
【0140】
初期配置を設ける方法によりマイクロレンズの配置を決定する場合、マイクロレンズの頂点間距離の統計量(例えば、平均値や範囲等)を容易に制御することが可能となる。一方、初期配置を設けずに逐次的にマイクロレンズの配置を決定する場合には、より効率的に回折成分を低減することが可能となる。
【0141】
(拡散板の製造方法について)
本実施形態に係る拡散板1は、第1の実施形態に係る拡散板1の製造方法と同様にして製造することが可能である。
【0142】
なお、拡散角が大きい(換言すれば、F値が大きい)拡散板を製造する場合には、本実施形態に係る効果をより大きく得ることが可能となる。F値を使用用途に応じて調整する場合、本実施形態に係るアレイ配置により、平面形状が同じであってもサグ深さを変化させることにより、F値を精密に制御することができる。すなわち、後述する製造方法によりプロセス時間を変化させることで、所望のF値の実現が可能であり、また、生産性も高い。入射光を非常に拡大する目的では、F値が5.5以下であることが望ましいが、それ以上のF値であっても(例えば、レーザアレイ光源の光強度均一化の目的等では、8〜60程度のF値であっても)、同様のパターンでプロセス時間を短くすることにより、製造することが可能である。
【0143】
(拡散板の適用例)
次に、本実施形態に係る拡散板1の適用例について、簡単に説明する。
【0144】
以上説明したような本実施形態に係る拡散板1は、その機能を実現するために光を拡散させる必要がある装置に対して、適宜実装することが可能である。機能を実現するために光を拡散させる必要がある装置としては、例えば、各種のディスプレイ等の表示装置や、プロジェクタ等の投影装置を挙げることができる。
【0145】
また、本実施形態に係る拡散板1は、液晶表示装置のバックライトに対して適用することも可能であり、光整形の用途にも用いることが可能である。更に、本実施形態に係る拡散板1は、各種の照明装置に対しても適用することが可能となる。
【0146】
なお、機能を実現するために光を拡散させる必要がある装置は、上記の例に限定されるものではなく、光の拡散を利用する装置であればその他の公知の装置に対しても、本実施形態に係る拡散板1を適用することが可能である。
【実施例】
【0147】
続いて、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る拡散板について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも本発明に係る拡散板の一例にすぎず、本発明に係る拡散板が下記の例に限定されるものではない。
【0148】
以下では、本発明の第1の実施形態に係る拡散板の妥当性を検証するために、単位セルサイズとレンズアレイのピッチを固定した状態で入射光径を変えた場合の出射光強度分布の計算を行った。以下の検証では、単位セル3の形状は、横738μm×縦710μm、単位セルサイズ=1024μmとし、かかる単位セル3を3×3のアレイ状に配置したものを検証モデルとした。
【0149】
上記のような検証モデルに対し、強度半値全幅が(a)650μm、(b)1000μm、(c)1500μm、(d)2000μmである4種類の円形入射光が入射する場合について、市販の光線追跡シミュレータを用いて計算を行った。計算では、実際の評価条件に近づけるように、検出器の空間分解能を制限するスペイシャルフィルタを配置した。このため、
図6の結果に見られる回折による輝点は、以下に示す計算結果では、ある程度は平均化されており、
図6に示した結果と、以下で示す結果とは、やや異なるものとなっている。
【0150】
得られた結果を、
図17(a)〜(d)に示した。
図17(a)に示したように、入射光径が650μmである場合にのみ、他の入射光径(
図17(b)、(c)、(d))の場合には見られないような、拡散角(中心角度±1度)の範囲での急激な強度変化が生じていることがわかる。これは、入射光径650μmでは、単位セルサイズ内にほとんどの入射光成分が存在するために、単位セル3によるサブ回折が十分に生じず、メイン回折光がサブ回折光によって分離されることなく出射しているためと考えられる。一方、
図17(c)及び
図17(d)では、単位セルサイズが入射光径以下となることで、先だって説明したようなサブ回折光が発生し、
図17(a)で顕著に観測されたような急激な強度変化が緩和されていることがわかる。
【0151】
かかる結果から、単位セルサイズを入射光径以下とすることでサブ回折光を発生させて、拡散出射光内に急激な強度変化が生じない拡散板を提供可能であることが明らかとなった。
【0152】
以下では、本発明の第2の実施形態に係る拡散板の妥当性を検証するために、市販の光線追跡シミュレータを用いて検証を行った。
【0153】
計算に用いたマイクロレンズアレイ型の拡散板のモデルは、形状と配置に一定のばらつきをもった凹レンズを、ガラス基板(屈折率n=1.47)の表面に多数配置したものである。かかるシミュレーションでは、波長λ=450nmであり、入射光径φ=0.6mmの入射光を、上記のような拡散板に入射させ、200mm先のスクリーン投影された光拡散パターンを、角度分布に換算した。
【0154】
図18に、シミュレーションを行った拡散板モデルの条件を表として示すとともに、得られた拡散光分布を、
図19A及び
図19Bに示した。
図19Aは、曲率半径のばらつき度合いσ
Rが±10%である場合のシミュレーション結果であり、
図19Bは、曲率半径のばらつき度合いσ
Rが±20%である場合のシミュレーション結果である。また、
図18に示した表には、
図19A及び
図19Bに示した結果から算出した減衰率αをあわせて示している。
【0155】
図19A内での比較、及び、
図19B内での比較から明らかなように、頂点間距離のばらつき範囲が大きくなると、減衰率αも大きくなることがわかる。また、条件Aと条件Dとの比較、条件Bと条件Eとの比較、及び、条件Cと条件Fとの比較から、頂点間距離のばらつき範囲がほぼ同一である場合、曲率半径のばらつき範囲が大きいほど、減衰率αも大きくなることがわかる。
【0156】
ここで、光線追跡シミュレーションによって得られた、
図18に示したばらつき量と減衰率との関係を、
図15Aに示したグラフ中にプロットすると、グラフ中の曲線とほぼ一致することが明らかとなった。かかる結果からも、上記式217に基づく、頂点間距離のばらつき度合いと、曲率半径のばらつき度合いと、減衰率と、の関係は、妥当なものであることがわかる。
【0157】
上記実施例では、曲率300μm近傍(概ね、拡散角2度〜4度の範囲)における結果を記載したが、より広い拡散角の場合であっても、本発明の第2の実施形態に則した設計又はプロセス条件とすることにより、減衰特性を一定に保ったままで拡散角を広げることが可能となる。例えば、頂点間距離については、82μm±42μm(ばらつき範囲:±50%)とし、曲率半径については、その平均を370μm〜760μm、ばらつき範囲を±10%としたうえで、エッチング時の選択比を0.8〜1.4の範囲で適切に変化させた。かかる設計及びプロセス条件により得られる拡散板の拡散特性を、
図20に示した。
図20から明らかなように、上記のような拡散板は、拡散角2度〜9度の拡散特性を示すことがわかる。
【0158】
更に、拡散角がより大きい場合のマイクロレンズアレイ構成について、検証を行った。かかる検証では、
図21に示したような、3種類の条件を検討した。得られた拡散全角、減衰幅及び減衰率の値を、
図21にあわせて示した。また、得られた拡散板の拡散特性を、
図22に示した。
図21及び
図22から明らかなように、プロセス上のサグの制約を満足する設計として、頂点間距離を15μm±10μm(ばらつき範囲:±0.67)とし、曲率半径を22μm±2.2μm(ばらつき幅:±0.l0)とすることで、減衰率を0.65とすることができている。かかる場合のマイクロレンズの配置状態を、
図23に示した。
【0159】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。