特許第6884531号(P6884531)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6884531
(24)【登録日】2021年5月14日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/96 20060101AFI20210531BHJP
   H01M 8/023 20160101ALI20210531BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20210531BHJP
   H01M 8/1004 20160101ALI20210531BHJP
   H01M 8/1018 20160101ALI20210531BHJP
【FI】
   H01M4/96 M
   H01M8/023
   H01M8/10 101
   H01M8/1004
   H01M8/1018
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-170006(P2016-170006)
(22)【出願日】2016年8月31日
(65)【公開番号】特開2018-37302(P2018-37302A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】小俣 卓也
(72)【発明者】
【氏名】広田 翔平
(72)【発明者】
【氏名】桑原 唯
(72)【発明者】
【氏名】坂本 友和
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−087651(JP,A)
【文献】 特開2016−012537(JP,A)
【文献】 特開2007−242378(JP,A)
【文献】 特開2008−027811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/88−4/96
H01M 8/02
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン交換型の電解質膜、前記電解質膜の一方面に形成されるアノード、および、前記電解質膜の他方面に形成されるカソードを有する膜電極接合体と、
前記膜電極接合体の他方側に配置されるカソード側セパレータと、
前記カソードと前記カソード側セパレータとの間に配置される空気拡散シートであって、基材と、前記基材の一方面に形成され、複数の孔を有し、前記カソードと接触する多孔質層とを有する空気拡散シートと
を備え、
前記多孔質層の前記複数の孔の径の分布を測定したときに、最大値と最小値との差が、33.6μm以上であることを特徴とする、燃料電池。
【請求項2】
前記多孔質層は、
第1の粒子径分布を有する第1カーボン粒子と、
前記第1の粒子径分布とは異なる第2の粒子径分布を有する第2カーボン粒子と、
前記第1カーボン粒子および前記第2カーボン粒子を前記基材に結着させるためのバインダーとを含有することを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両などに搭載される燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両などに搭載される燃料電池として、水素ガスなどの気体燃料や、メタノール、ジメチルエーテル、ヒドラジンなどの液体燃料を使用する燃料電池が知られている。
【0003】
このような燃料電池として、例えば、電解質層と、電解質層を挟んで対向配置される燃料側電極および酸素側電極とを備える燃料電池が知られている。燃料側電極には燃料側流路を介して燃料が供給され、また、酸素側電極には酸素側流路を介して酸素が供給される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−225471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるような燃料電池では、酸素還元反応において、過酸化水素が副生する酸素還元反応が生じる場合がある。この場合、副生した過酸化水素により、燃料電池の部材が劣化するおそれがある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、燃料電池の発電性能を維持しながら、過酸化水素の副生を抑制できる燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、電解質膜、前記電解質膜の一方面に形成されるアノード、および、前記電解質膜の他方面に形成されるカソードを有する膜電極接合体と、前記膜電極接合体の他方側に配置されるカソード側セパレータと、複数の孔を有し、前記カソードと前記カソード側セパレータとの間に配置される多孔質層とを備え、前記複数の孔の径の分布を測定したときに、最大値と最小値との差が、33.6μm以上である、燃料電池を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の燃料電池によれば、多孔質層の孔の径の分布において最大値と最小値との差が33.6μm以上となるように、多孔質層の孔の径が調節されている。
【0009】
そのため、相対的に大きな径を有する孔と、相対的に小さな径を有する孔とを多孔質層に分布させることができ、カソードへの酸素の供給量を維持しながら、過酸化水素の副生を抑制できる。
【0010】
その結果、燃料電池の発電性能を維持しながら、過酸化水素の副生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の燃料電池の一実施形態を示す概略構成図である。
図2図2は、図1に示す燃料電池の分解斜視図である。
図3図3は、実施例1の多孔質層の孔径分布を示す度数分布図である。
図4図4は、実施例2の多孔質層の孔径分布を示す度数分布図である。
図5図5は、比較例の多孔質層の孔径分布を示す度数分布図である。
図6図6は、各実施例および比較例の過酸化水素生成速度を比較するための棒グラフである。
図7図7は、各実施例および比較例の最大出力密度を比較するための棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.燃料電池
図1に示すように、燃料電池1は、燃料成分と水とを含む液体燃料が直接供給される直接液体燃料形燃料電池であり、アニオン交換型燃料電池として構成されている。なお、燃料電池1は、通常、複数の燃料電池セルSが積層されたスタック構造として構成されているが、図1においては、図解しやすいように1つの燃料電池セルSのみを示している。
【0013】
燃料成分としては、例えば、分子中に水素原子を含有する含水素液体燃料が挙げられ、具体的には、メタノールなどのアルコール類、ジメチルエーテルなどのアルキル基を有するエーテル類、ヒドラジン類などが挙げられ、好ましくは、アルコール類およびヒドラジン類が挙げられ、さらに好ましくは、ヒドラジン類が挙げられる。
【0014】
また、液体燃料には、例えば、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物が、適宜の割合で添加される。
【0015】
燃料電池セルSは、図1および図2に示すように、膜電極接合体2、燃料拡散シート3、空気拡散シート4、アノード側セパレータ5、および、カソード側セパレータ6を有している。
【0016】
膜電極接合体2は、電解質膜7、アノード8、および、カソード9を備えている。
【0017】
電解質膜7は、アニオン交換型の固体高分子電解質膜から形成されている。
【0018】
アノード8は、電解質膜7の厚み方向一方側の表面に、薄層として積層されている。アノード8は、例えば、燃料酸化触媒を担持した触媒担体を含有している。なお、アノード8は、触媒担体を用いずに、燃料酸化触媒から、直接形成することもできる。
【0019】
燃料酸化触媒としては、特に制限されず、例えば、白金族元素(ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt))、鉄族元素(鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni))などの周期表第8〜10(VIII)族元素や、例えば、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)などの周期表第11(IB)族元素などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、ニッケル、コバルト、白金が挙げられ、より好ましくは、ニッケルが挙げられる。また、これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0020】
アノード8に用いられる触媒担体としては、例えば、カーボン粒子などが挙げられる。
【0021】
アノード8において、燃料酸化触媒の担持量は、例えば、0.05mg/cm以上、好ましくは、0.1mg/cm以上であり、例えば、10mg/cm以下、好ましくは、5mg/cm以下である。
【0022】
カソード9は、電解質膜7に対してアノード8の反対側、すなわち、電解質膜7の厚み方向他方側の表面に、薄層として積層されている。カソード9は、酸素還元触媒を含有する。
【0023】
酸素還元触媒としては、例えば、導電性高分子とカーボンとからなる複合体(以下、この複合体を「カーボンコンポジット」という。)に、遷移金属が担持されている材料が挙げられる。
【0024】
遷移金属としては、例えば、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、ランタン(La)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)などが挙げられる。これらの遷移金属は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0025】
導電性高分子としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリビニルカルバゾール、ポリトリフェニルアミン、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリキノキサリン、ポリフェニルキノキサリン、ポリイソチアナフテン、ポリピリジンジイル、ポリチエニレン、ポリパラフェニレン、ポリフルラン、ポリアセン、ポリフラン、ポリアズレン、ポリインドール、ポリジアミノアントラキノンなどが挙げられる。これらの導電性高分子は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0026】
また、酸素還元触媒としては、例えば、遷移金属に配位子が配位した遷移金属錯体の焼成体が挙げられる。
【0027】
遷移金属としては、例えば、上記したカーボンコンポジットに用いられる遷移金属と同じ遷移金属が挙げられる。遷移金属としては、好ましくは、鉄が挙げられる。すなわち、酸素還元触媒としては、好ましくは、鉄に配位子が配位したFe錯体の焼成体が挙げられる。
【0028】
遷移金属に配位する配位子としては、例えば、フェナントロリン(例えば、1,10−フェナントロリン)、サルコミン、ナイカルバジン、ピロール、ポルフィリン、テトラメトキシフェニルポルフィリン、ジベンゾテトラアザアヌレン、フタロシアニン、コリン、クロリン、または、これらの誘導体が挙げられる。配位子としては、好ましくは、フェナントロリン、サルコミン、ナイカルバジン、または、これらの誘導体が挙げられ、より好ましくは、フェナントロリン、ナイカルバジンが挙げられる。
【0029】
なお、カソード9は、酸素還元触媒の他に、例えば、オイルファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラックなどのカーボンブラック、例えば、黒鉛、炭素繊維などのカーボン粒子を含有することもできる。
【0030】
カソード9において、酸素還元触媒の担持量は、例えば、0.05mg/cm以上、好ましくは、0.1mg/cm以上であり、例えば、10mg/cm以下、好ましくは、5mg/cm以下である。
【0031】
燃料拡散シート3は、アノード8の厚み方向一方面に接触するように、膜電極接合体2の厚み方向一方側に積層されている。燃料拡散シート3は、複数の孔を有している。複数の孔は、燃料拡散シート3の全面にわたって分布している。これにより、燃料拡散シート3は、液体燃料の通過を許容する。
【0032】
燃料拡散シート3の材料としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、炭素繊維不織布などが挙げられ、好ましくは、カーボンクロスが挙げられる。また、燃料拡散シート3は、必要によりフッ素処理されていてもよい。
【0033】
燃料拡散シート3の孔の径は、例えば、3μm以上、好ましくは、20μm以上であり、例えば、250μm以下、好ましくは、60μm以下である。
【0034】
空気拡散シート4は、膜電極接合体2の厚み方向他方側に積層されている。空気拡散シート4は、空気の通過を許容する。詳しくは、空気拡散シート4は、基材10と、多孔質層11とを備えている。
【0035】
基材10としては、例えば、上記した燃料拡散シート3と同じシートが用いられる。基材10は、上記した燃料拡散シート3と同様に、基材10の全面にわたって分布する複数の孔を有している。
【0036】
基材10の孔の径は、上記した燃料拡散シート3の孔の径と同じであり、例えば、5μm以上、好ましくは、20μm以上であり、例えば、250μm以下、好ましくは、80μm以下である。
【0037】
多孔質層11は、基材10の厚み方向一方面に形成されている。多孔質層11は、カソード9の厚み方向他方面に接触する。多孔質層11は、複数の孔を有している。複数の孔は、多孔質層11の全面にわたって分布している。これにより、多孔質層11は、空気の通過を許容する。
【0038】
多孔質層11の孔の径は、例えば、0.1μm以上、好ましくは、0.3μm以上であり、例えば、150μm以下、好ましくは、80μm以下である。
【0039】
また、多孔質層11の孔径分布において、最大値と最小値との差は、例えば、33.6μm以上、好ましくは、34.5μm以上であり、より好ましくは、50μm以上であり、例えば、150μm以下、好ましくは、100μm以下である。なお、多孔質層11の孔径分布は、パームポロメトリー法により測定される。
【0040】
多孔質層11の孔径分布は、後述するカーボン粒子の粒子径分布を調節することにより、調節できる。例えば、多孔質層11の孔径分布は、後述するように、第1の粒子径分布を有する第1カーボン粒子と、第1の粒子径分布とは異なる第2の粒子径分布を有する第2カーボン粒子とを用いて多孔質層11を作製することにより、調節できる。
【0041】
最大値と最小値との差が上記下限値以上であると、カソード9への酸素の供給量の低下を抑制しながら、過酸化水素の発生量を低減することができる。また、最大値と最小値との差が上記上限値以下であると、カソード9への酸素の供給量が低下することを抑制しながら、アノード8からカソード9へクロスリーク(電解質膜7を透過し、カソード9へ漏出すること)する液体燃料を円滑に排出できる。
【0042】
また、多孔質層11は、カーボン粒子と、カーボン粒子を基材10に結着させるためのバインダーとを含有する。詳しくは、多孔質層11は、カーボン粒子と、バインダーとからなる。
【0043】
カーボン粒子としては、例えば、オイルファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラックなどのカーボンブラック、例えば、黒鉛、炭素繊維などが挙げられる。
【0044】
多孔質層11中のカーボン粒子の量(目付量)は、例えば、3g/m以上、好ましくは、5g/m以上であり、例えば、15g/m未満、好ましくは、10g/m以下である。
【0045】
多孔質層11中のカーボン粒子の量が上記下限値以上であると、燃料電池の発電性能(具体的には、最大出力密度)を確保できる。多孔質層11中のカーボン粒子の量が上記上限値以下であると、過酸化水素の発生量を低減することができる。
【0046】
多孔質層11中のカーボン粒子の含有割合は、例えば、20質量%以上、好ましくは、40質量%以上であり、例えば、80質量%以下、好ましくは、60質量%以下である。
【0047】
なお、多孔質層11は、好ましくは、カーボン粒子として、第1の粒子径分布を有する第1カーボン粒子と、第1の粒子径分布とは異なる第2の粒子径分布を有する第2カーボン粒子とを含有する。第1の粒子径分布から計算される第1カーボン粒子の平均粒子径(50%メジアン径)は、第2の粒子径分布から計算される第2カーボン粒子の平均粒子径(50%メジアン径)よりも小さい。なお、カーボン粒子の粒子径分布は、遠心沈降法や、光透過法により測定される。
【0048】
また、第1カーボン粒子の平均粒子径は、例えば、0.02μm以上、好ましくは、0.05μm以上であり、例えば、0.1μm以下、好ましくは、0.08μm以下である。
【0049】
また、第2カーボン粒子の平均粒子径は、例えば、0.3μm以上、好ましくは、0.4μm以上であり、例えば、0.8μm以下、好ましくは、0.6μm以下である。
【0050】
また、第1カーボン粒子と第2カーボン粒子との割合は、質量比で、例えば、50:50〜90:10、好ましくは、70:30〜90:10である。
【0051】
第1カーボン粒子と第2カーボン粒子との割合が上記範囲内であると、カソード9への酸素の供給量が低下することを抑制しながら、アノード8からカソード9へクロスリーク(電解質膜7を透過し、カソード9へ漏出すること)する液体燃料を円滑に排出できる。
【0052】
第1カーボン粒子と第2カーボン粒子との総量中における第1カーボン粒子の割合は、例えば、10質量%以上、好ましくは、15質量%以上であり、例えば、75質量%以下、好ましくは、65質量%以下である。
【0053】
また、第1カーボン粒子と第2カーボン粒子との総量中における第2カーボン粒子の割合は、例えば、2質量%以上、好ましくは、4質量%以上であり、例えば、40質量%以下、好ましくは、25質量%以下である。
【0054】
バインダーとしては、撥水性を有する樹脂が好ましい。撥水性を有する樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレンなどのフッ素樹脂が挙げられる。
【0055】
多孔質層11中のバインダーの含有量は、多孔質層11中のカーボン粒子の含有量よりも多い。これにより、液体燃料がアノード8からカソード9へクロスリークした場合に、液体燃料が多孔質層11に浸みこむことを抑制できる。
【0056】
具体的には、カーボン粒子とバインダーとの割合は、質量比で、例えば、20:80〜70:30、好ましくは、40:60〜60:40である。
【0057】
カーボン粒子とバインダーとの割合が上記範囲内であると、燃料電池の発電性能を確保できるとともに、過酸化水素の発生量を低減することができる。
【0058】
また、多孔質層11中のバインダーの含有割合は、例えば、20質量%以上、好ましくは、40質量%以上であり、例えば、80質量%以下、好ましくは、60質量%以下である。
【0059】
多孔質層11を形成するには、まず、カーボン粒子とバインダーとを溶媒に分散手段で分散させて、スラリーを調製する。
【0060】
溶媒としては、後述する乾燥条件で揮発する溶媒であれば特に限定されず、例えば、水、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール、例えば、パーフルオロベンゼン、ジクロロペンタフルオロプロパンなどのフッ素系溶媒などが挙げられる。
【0061】
分散手段としては、特に限定されず、例えば、ボールミル、ビーズミル、超音波分散機、ホモジナイザーなどの公知の分散機が挙げられる。
【0062】
次いで、得られたスラリーを、基材10の厚み方向一方面に塗布し、塗膜を形成する。
【0063】
スラリーの塗布方法としては、特に限定されず、例えば、スプレーコート法、ドクターブレード法、スクリーン印刷、ディップコート法、ロールコート法などの公知のコーティング方法を採用することができる。スラリーの塗布手段としても、特に限定されず、バーコーターやアプリケーターなどの公知の機器を用いることができる。
【0064】
次いで、スラリーの塗膜を乾燥する。
【0065】
塗膜を乾燥するには、例えば、塗膜を加熱したり、塗膜に対して送風することなく、一定の温度(具体的には、25℃)、一定の相対湿度(具体的には、20%)に調節された室内で乾燥(自然乾燥)する。なお、必要により、塗膜をバインダーの軟化点未満の温度で加熱してもよい。
【0066】
このような乾燥条件で塗膜を乾燥することにより、基材10の表面に、孔を有する皮膜を形成することができる。
【0067】
次いで、皮膜および基材10を熱処理する。
【0068】
熱処理するときの加熱温度は、バインダーの軟化点を超過する温度であり、例えば、200℃以上、好ましくは、300℃以上であり、例えば、450℃以下、好ましくは、400℃以下である。
【0069】
熱処理するときの加熱時間は、例えば、0.1時間以上、好ましくは、0.5時間以上であり、例えば、5時間以下、好ましくは、2時間以下である。
【0070】
このような熱処理の条件で皮膜を加熱することにより、バインダーを軟化させて、カーボン粒子を基材10の表面にバインダーで結着させることができる。
【0071】
これにより、基材10の厚み方向一方面に多孔質層11を形成することができる。
【0072】
アノード側セパレータ5は、燃料拡散シート3の厚み方向一方面に接触するように、膜電極接合体2の厚み方向一方側に対向配置されている。アノード側セパレータ5は、ガス不透過性の導電性材料から形成されている。アノード側セパレータ5は、燃料流路12を有している。
【0073】
燃料流路12は、アノード側セパレータ5の厚み方向他方面に形成されている。燃料流路12は、アノード側セパレータ5の厚み方向他方面から厚み方向一方へ凹む凹溝であり、幅方向に折り返されながら、上下方向に延びる葛折り形状に形成されている。燃料流路12は、燃料拡散シート3に向かい合っている。
【0074】
カソード側セパレータ6は、空気拡散シート4の基材10の厚み方向他方面に接触するように、膜電極接合体2の厚み方向他方側に対向配置されている。すなわち、カソード側セパレータ6とカソード9との間には、多孔質層11が介在されている。カソード側セパレータ6は、ガス不透過性の導電性材料から形成されている。カソード側セパレータ6は、空気流路13を有している。
【0075】
空気流路13は、カソード側セパレータ6の厚み方向一方面に形成されている。空気流路13は、カソード側セパレータ6の厚み方向一方面から厚み方向他方へ凹む凹溝であり、幅方向に折り返されながら、上下方向に延びる葛折り形状に形成されている。空気流路13は、空気拡散シート4の基材10に向かい合っている。
【0076】
なお、複数の燃料電池セルSが積層されたスタック構造として構成される場合には、アノード側セパレータ5の厚み方向一方面には、隣りの膜電極接合体2のカソード9に向かい合う空気流路13が形成される。また、カソード側セパレータ6の厚み方向他方面には、隣りの膜電極接合体2のアノード8に向かい合う燃料流路12が形成される。
【0077】
2.発電
次いで、燃料電池1における発電について説明する。
【0078】
図1に示すように、燃料電池1の燃料流路12に液体燃料が供給されると、燃料流路12に供給された液体燃料は、燃料拡散シート3と接触しながら燃料流路12内を下側から上側へ流れる。このとき、燃料流路12内を流れる液体燃料は、燃料拡散シート3の孔を通過して、アノード8に供給される。
【0079】
なお、アノード8に供給された液体燃料の一部は、電解質膜7を透過し、カソード9に漏出する(クロスリーク)。これにより、液体燃料に含まれる水がカソード9に供給される。
【0080】
また、外部からの空気は、燃料電池1の空気流路13に供給される。
【0081】
空気流路13に供給された空気は、空気流路13内を上側から下側へ流れる。このとき、空気流路13内を流れる空気は、空気拡散シート4の基材10の孔、および、多孔質層11の孔を通過して、カソード9に供給される。
【0082】
これにより、燃料電池1では、燃料成分がヒドラジンである場合には、下記反応式(1)〜(3)で表される電気化学反応が生じ、発電が行なわれる。
(1)N+4OH→N+4HO+4e (アノード8での反応)
(2)O+2HO+4e→4OH (カソード9での反応)
(3)N+O→N+2HO (燃料電池1全体での反応)
また、燃料成分がメタノールである場合には、下記反応式(4)〜(6)で表される電気化学反応が生じ、発電が行なわれる。
(4)CHOH+6OH→CO+5HO+6e (アノード8での反応)
(5)O+2HO+4e→4OH (カソード9での反応)
(6)CHOH+3/2O→CO+2HO (燃料電池1全体での反応)
これらの反応により、燃料成分(NまたはCHOH)が消費されるとともに、水(HO)およびガス(NまたはCO)が生成され、起電力(e)が発生する。
【0083】
3.作用効果
この燃料電池1によれば、クロスリークした液体燃料が多孔質層11に浸みこんだ場合、多孔質層11中のカーボン粒子の表面で、下記(7)に示すように、過酸化水素の発生を伴う酸素還元反応が起こる場合がある。
(7)O+HO+2e→HO+OH
なお、上記(7)に示す副反応は、炭素によって、選択的に促進される傾向にある。また、上記(7)に示す副反応は、液体燃料に水酸化カリウムなどのアルカリ性の電解質が含まれていると、さらに促進される傾向にある。
【0084】
しかし、本発明の燃料電池1は、多孔質層11の孔の径の分布において最大値と最小値との差が33.6μm以上となるように、多孔質層11の孔の径が調節されている。
【0085】
そのため、相対的に大きな径を有する孔と、相対的に小さな径を有する孔とを多孔質層11に分布させることができ、カソード9への酸素の供給量を維持しながら、過酸化水素の副生を抑制できる。
【0086】
その結果、燃料電池1の発電性能を維持しながら、過酸化水素の副生を抑制できる。
【実施例】
【0087】
次に、本発明を、実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は、下記の実施例によって限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に言及がない限り、質量基準である。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0088】
1.空気拡散シートの作製
(1)実施例1
(1−1)多孔質層の形成
第1カーボン粒子(粒子径分布:0.02μm〜0.03μm)、第2カーボン粒子(粒子径分布:0.3μm〜0.6μm)、および、バインダー(ポリテトラフルオロエチレン)に、溶媒を配合し、分散することで、スラリーを調製した。
【0089】
得られたスラリーを、空気拡散シート4の一方の表面に、塗布した。
【0090】
その後、塗膜を自然乾燥した後、熱処理した。
【0091】
これにより、基材の表面に多孔質層を形成した。
【0092】
カーボン粒子とバインダーとの質量比、第1カーボン粒子と第2カーボン粒子との質量比、および、多孔質層中のカーボン粒子の量(目付量)を表1に示す。
【0093】
また、得られた多孔質層の孔の径の分布(パームポロメトリー法により測定した。)を図3に示す。
【0094】
(2)実施例2
第1カーボン粒子と第2カーボン粒子との質量比を表1に示すように調節した以外は、実施例1と同様にして、燃料電池セルを作製した。得られた多孔質層の孔の径の分布(パームポロメトリー法により測定した。)を図4に示す。
【0095】
(3)比較例
カーボン粒子とバインダーとの質量比、および、多孔質層中のカーボン粒子の量(目付量)を表1に示すように調節した以外は、実施例1と同様にして、燃料電池セルを作製した。得られた多孔質層の孔の径の分布(パームポロメトリー法により測定した。)を図5に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
2.性能評価
(1)過酸化水素生成速度の測定
過酸化水素生成速度について、3極式セル評価システムを使用して測定した。測定には作用極として多孔質層を塗布した空気拡散シート、対極としてPt線、参照極として水銀-酸化水銀電極Hg/HgOを使用した。セル温度を60℃とし、電解液として空気飽和した1mol/L水酸化カリウム300mLを1.2cc/minの速度で循環させた。作用極の電位を参照極に対して−0.3Vに保持し、多孔質層のカーボン粒子における酸素還元電流を測定した。過酸化水素濃度は電解液を採取し、過酸化水素濃度試験紙(菱江化学社製)を用いて測定した。得られた過酸化水素濃度を、電極面積および発電時間で除することで、過酸化水素生成速度を算出した。
【0098】
測定結果を図6に示す。各実施例の空気拡散シートは、比較例の空気拡散シートに比べて、過酸化水素の生成速度が低減されていることが分かる。詳しくは、実施例1の空気拡散シートは、比較例の空気拡散シートに比べて、過酸化水素の生成速度を、57%低減することができており、実施例2の空気拡散シートは、比較例の空気拡散シートに比べて、過酸化水素の生成速度を、32%低減することができている。
【0099】
(2)発電性能評価
(2−1)燃料電池の組み立て
アノード、電解質層およびカソードを順に備える膜電極接合体のアノードにカーボンシート(燃料拡散シート)を積層するとともに、各実施例または比較例の空気拡散シートを積層した。
【0100】
なお、アノードは、燃料酸化触媒(Ni担持カーボン触媒(Cataler社製))1gと、2質量%アニオン交換樹脂溶液25gと、溶媒7.33gとからなるインクをスプレー法により塗布し、室温で乾燥することで形成した。アノードの触媒担持量は、3.2mg/cmである。
【0101】
カソードは、酸素還元触媒(Feナイカルバジン系触媒(NPC−2000、Pajarito社製))0.6gと、カーボン粒子(ケッチェンブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製))0.4gと、2質量%アニオン交換樹脂溶液25gと、溶媒7.33gとからなるインクをスプレー法により塗布し、室温で乾燥することで形成した。カソードの触媒担持量は、1.25mg/cmである。
【0102】
それらを、アノード側セパレータとカソード側セパレータとで挟むことにより、燃料電池を作製した。
【0103】
(2−2)評価方法
燃料電池に対して、アノードに1mol/dm水加ヒドラジンおよび1mol/L水酸化カリウムからなる燃料を、1.2cc/minの速度で、カソードに50℃の飽和加湿空気を0.1L/minの速度で供給した。このとき運転温度は60℃とした。燃料電池の発電出力は、電子負荷装置(Scribner社製)により測定した。
【0104】
最大出力密度を図7に示す。比較例よりは若干劣るが、各実施例の燃料電池は、実用上、十分な最大出力密度(100mW/cm以上)を実現することができている。詳しくは、実施例1の燃料電池は、108mW/cmの最大出力密度を実現することができており、実施例2の燃料電池は、137mW/cmの最大出力密度を実現できている。
【符号の説明】
【0105】
1 燃料電池
2 膜電極接合体
7 電解質膜、
8 アノード
9 カソード
6 カソード側セパレータ
11 多孔質層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7