(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の太陽電池モジュールを含め、透明樹脂からなる表面保護材を備えた太陽電池モジュールは、ガラスからなる表面保護材を備えた従来の太陽電池モジュールに比べて、表面保護材と封止材との接着性、高温環境下での耐久性、冷熱サイクルに対する耐久性等の諸特性に劣っており、表面保護材が封止材から剥離しやすいという問題がある。そのため、例えば車両用等の厳しい環境下で使用される用途においては、透明樹脂からなる表面保護材を備えた太陽電池モジュールの実用化には至っていないのが現状である。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、封止材からの表面保護材の剥離を長期間に亘って抑制することができる太陽電池モジュール用プライマー及びこのプライマーを使用して作製された太陽電池モジュールを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一
参考態様は、アクリロイル基及びメタクリロイル基のうち少なくとも一方を備えた重合性エステル40〜95質量部と、
アクリル樹脂またはメタクリル樹脂に対する接着性を向上可能な官能基と、アルコキシシリル基とを備えた接着促進剤5〜60質量部と、
上記重合性エステルの重合反応を開始させる重合開始剤と、を含んでおり、
上記重合性エステルと上記接着促進剤との合計を100質量部とした場合に、上記重合開始剤の含有量が0.1〜10質量部である、
太陽電池モジュール用プライマーにある。
【0008】
本発明の
一態様は、受光面を備えた太陽電池セルと、
エチレン酢酸ビニル共重合体またはポリオレフィンを含むとともにシランカップリング剤を含む透明樹脂からなり、上記太陽電池セルの周囲を被覆する封止材と、
太陽電池モジュール用プライマーの硬化物からなり、上記封止材における、上記太陽電池セルの受光面側に積層された接着材と、
透明樹脂からなり、上記接着材上に積層された表面保護材と、を有し、
上記接着材と上記表面保護材との間に、両者が混在している混合層が形成されており、
前記太陽電池モジュール用プライマーは、
アクリロイル基及びメタクリロイル基のうち少なくとも一方を備えた重合性エステル40〜95質量部と、
アクリロイル基及びメタクリロイル基のうち少なくとも一方の官能基と、アルコキシシリル基とを備えた接着促進剤5〜60質量部と、
上記重合性エステルの重合反応を開始させる重合開始剤と、を含んでおり、
上記重合性エステルと上記接着促進剤との合計を100質量部とした場合に、上記重合開始剤の含有量が0.5〜10質量部である、太陽電池モジュールにある。
【発明の効果】
【0009】
上記太陽電池モジュール用プライマー(以下、「プライマー」と省略する。)は、上記特定の官能基を備えた重合性エステルと、上記特定の官能基を備えた接着促進剤と、重合開始剤とを上記特定の比率で含んでいる。上記プライマーを用いて太陽電池モジュールを作製する方法としては、例えば、以下の方法を採用することができる。まず、太陽電池セルが封入された封止材と、透明樹脂からなる表面保護材とを準備する。次いで、表面保護材及び封止材の少なくとも一方にプライマーを塗布した後、プライマーを介して両者を積層して積層体を作製する。そして、この積層体を加熱することにより、表面保護材と封止材とが接着材及び混合層を介して接着される。これにより、上記太陽電池モジュールを得ることができる。
【0010】
プライマー中の重合性エステルは、上記の接着作業中に重合開始剤によって重合し、(メタ)アクリルポリマーとなる。上記接着材は、この(メタ)アクリルポリマーを含むことにより、上記の接着作業中に表面保護材と自然に混ざり合い、混合層を形成することができる。そして、表面保護材と接着材との間に混合層が形成されることにより、表面保護材と接着材との接着性を向上させることができる。
【0011】
また、プライマー中の接着促進剤は、アルコキシシリル基と、アクリル樹脂またはメタクリル樹脂に対する接着性を向上可能な官能基とを有している。接着促進剤中のアルコキシシリル基は、上記の接着作業中に封止材に含まれるシランカップリング剤と反応し、化学結合を形成することができる。また、接着促進剤中の上記官能基は、重合性エステルに由来する(メタ)アクリルポリマーとの接着性を向上させることができる。これらの結果、接着材と封止材との接着性を向上させることができる。
【0012】
従って、太陽電池モジュールにおける表面保護材と封止材との間に上記プライマーの硬化物からなる接着材及び混合層を介在させることにより、これらを介して表面保護材と封止材とを強固に接着することができる。また、表面保護材と封止材との間に接着材及び混合層を介在させることにより、高温環境下での耐久性、冷熱サイクルに対する耐久性を向上させることができる。これらの結果、封止材からの表面保護材の剥離を長期間に亘って抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記プライマーに含まれる成分について説明する。
【0015】
・重合性エステル 40〜95質量部
上記プライマー中には、アクリロイル基及びメタクリロイル基のうち少なくとも一方を備えた重合性エステルが40〜95質量部含まれている。重合性エステルの含有量を上記特定の範囲とすることにより、太陽電池モジュールにおける、封止材からの表面保護材の剥離を長期間に亘って抑制することができる。封止材からの表面保護材の剥離強度をより向上させる観点からは、重合性エステルの含有量を40〜80質量部とすることが好ましく、40〜60質量部とすることがより好ましい。
【0016】
重合性エステルの含有量が40質量部未満の場合には、表面保護材と封止材との接着作業において、表面保護材と接着材との間に混合層が形成されにくくなり、表面保護材と接着材との接着性の低下を招くおそれがある。
【0017】
一方、重合性エステルの含有量が95質量部を超える場合には、接着促進剤の含有量が相対的に少なくなるおそれがある。そのため、太陽電池モジュールにおける、接着材と封止材との接着性の低下を招くおそれがある。
【0018】
重合性エステルとしては、公知のアクリル酸エステルやメタクリル酸エステル等の、重合開始剤によって重合し、(メタ)アクリルポリマーを形成可能な化合物を使用することができる。
【0019】
より具体的には、重合性エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、1−メチルエチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−メチルプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のモノエステル;1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキシド変性ジ(メタ)アクリレート等のジエステル;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキシド変性トリ(メタ)アクリレート等の、アクリロイル基を3つ以上備えたエステル等を使用することができる。
【0020】
これらの重合性エステルは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、重合性エステルは、上述した化合物のモノマーであってもよいし、予め複数個のモノマーを重合させたオリゴマーであってもよい。
【0021】
・接着促進剤 5〜60質量部
上記プライマー中には、接着促進剤が5〜60質量部含まれている。接着促進剤の含有量を上記特定の範囲とすることにより、太陽電池モジュールにおける、封止材からの表面保護材の剥離を長期間に亘って抑制することができる。封止材からの表面保護材の剥離強度をより向上させる観点からは、接着促進剤の含有量を20〜60質量部とすることが好ましく、40〜60質量部とすることがより好ましい。
【0022】
接着促進剤の含有量が5質量部未満の場合には、プライマー中に含まれるアルコキシシリル基の量が不足するおそれがある。そのため、表面保護材と封止材との接着作業において、接着促進剤と封止材中のシランカップリング剤との間に化学結合を形成することが難しくなり、接着材と封止材との接着性の低下を招くおそれがある。
【0023】
一方、接着促進剤の含有量が60質量部を超える場合には、重合性エステルの含有量が相対的に少なくなるおそれがある。そのため、太陽電池モジュールにおける、表面保護材と接着材との接着性の低下を招くおそれがある。
【0024】
接着促進剤は、アクリル樹脂またはメタクリル樹脂に対する接着性を向上可能な官能基と、アルコキシシリル基とを有している
。封止材からの表面保護材の剥離をより長期間に亘って抑制する観点か
ら、接着抑制剤は、上記の官能基として、アクリロイル基及びメタクリロイル基のうち少なくとも一方を有
している。
【0025】
より具体的には、接着促進剤としては、例えば、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリロイル基及びアルコキシシリル基を備えた化合物を使用することができる。これらの接着促進剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
・重合開始剤
上記プライマー中には、重合性エステルと接着促進剤との合計100質量部に対して
0.5〜10質量部の重合開始剤が含まれている。重合開始剤は、表面保護材と封止材との接着作業中にアニオン、カチオン及びラジカル等の活性種を発生させることができる。そして、これらの活性種によって重合性エステルにおけるアクリロイル基やメタクリロイル基の重合反応を開始させることができる。
【0027】
重合開始剤の含有量を上記特定の範囲とすることにより、上記の接着作業において(メタ)アクリルポリマーを形成し、ひいては表面保護材と接着材との間に両者が混在している混合層を形成することができる。その結果、封止材からの表面保護材の剥離を長期間に亘って抑制することができる。
【0028】
重合開始剤の含有量が0.1質量部未満の場合には、上記の接着作業において重合性エステルを重合させることが難しい。そのため、表面保護材と接着材との間に混合層を形成することが難しくなり、封止材からの表面保護材の剥離を長期間に亘って抑制することができる。封止材からの表面保護材の剥離をより長期間に亘って抑制する観点からは、重合開始剤の含有量を0.5質量部以上とすることが好ましく、1質量部以上とすることがより好ましい。
【0029】
一方、重合開始剤の含有量が過度に多い場合には、プライマーの保管中に意図しない重合反応が開始されやすくなる等、プライマーの安定性の低下を招くおそれがある。また、この場合には、接着材中に未反応の重合開始剤が残存しやすくなる。接着材中に残存する未反応の重合開始剤の量が過度に多くなると、接着材の劣化が促進されるおそれがある。更に、この場合には、材料コストの増大を招くおそれもある。これらの問題を回避しつつ、封止材からの表面保護材の剥離を長期間に亘って抑制する観点から、重合開始剤の含有量は、10質量部以下とする。同様の観点から、重合開始剤の含有量は、7質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。
【0030】
重合開始剤としては、例えば、特定の波長の光を照射することによって活性種を発生させる光重合開始剤や、熱を加えることによって活性種を発生させる熱重合開始剤等の、公知の重合開始剤を使用することができる。プライマー中には、1種類の重合開始剤が含まれていてもよいし、2種類以上の重合開始剤が含まれていてもよい。
【0031】
光重合開始剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−〔4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル〕−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、オリゴ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−〔4−(1−メチルビニル)フェニル〕プロパノン}および2−ヒドロキシ−1−{4−〔4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)ベンジル〕フェニル}−2−メチルプロパン−1−オン等のアセトフェノン系化合物;ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノンおよび4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルスルファイド等のベンゾフェノン系化合物;メチルベンゾイルフォルメート、オキシフェニル酢酸の2−(2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ)エチルエステルおよびオキシフェニル酢酸の2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステル等のα−ケトエステル系化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等のフォスフィンオキサイド系化合物;ベンゾイン、ベンゾイインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルおよびベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン化合物;チタノセン系化合物;1−〔4−(4−ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル〕−2−メチル−2−(4−メチルフェニルスルフィニル)プロパン−1−オン等のアセトフェノン/ベンゾフェノンハイブリッド系光開始剤;2−(O−ベンゾイルオキシム)−1−〔4−(フェニルチオ)〕−1,2−オクタンジオン等のオキシムエステル系光重合開始剤;並びにカンファーキノン等を使用することができる。
【0032】
熱重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物およびアゾ系化合物等の、熱によって活性種としてのラジカルを発生させる、熱ラジカル重合開始剤を使用することができる。
【0033】
有機過酸化物としては、例えば、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス〔4,4−ジ(t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)〕プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ−t−ブチルパーオキシソフタレート、α、α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイドおよびt−ブチルハイドロパーオキサイド等を使用することができる。
【0034】
アゾ系化合物としては、例えば、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾジ−t−オクタンおよびアゾジ−t−ブタン等を使用することができる。
【0035】
・その他の添加剤
上記プライマー中には、必須成分としての重合性エステル、接着促進剤及び重合開始剤の他に、表面保護材との接着性及び封止材との接着性を損なわない範囲で、プライマー用として公知の添加剤が含まれていてもよい。例えば、上記プライマー中には、添加剤として、紫外線吸収剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤等の、プライマーの劣化を抑制するための添加剤が含まれていてもよい。これらの添加剤を使用することにより、プライマーの硬化物の劣化を抑制し、封止材からの表面保護材の剥離をより長期間に亘って抑制することができる。
【0036】
また、上記プライマー中には、添加剤として、レベリング剤、脱泡剤等の表面調整剤が含まれていてもよい。これらの添加剤を使用することにより、封止材や表面保護材の表面上にプライマーを塗布した際に、プライマーの厚みを均一にすることができる。その結果、封止材からの表面保護材の剥離強度のムラを低減することができる。
【0037】
上記プライマーを用いて太陽電池モジュールを作製するに当たっては、透明樹脂からなる表面保護材または太陽電池セルが封入された封止材のいずれか一方の表面に塗布した後、プライマーを介して両者を積層して積層体を作製する。そして、この積層体を加熱して表面保護材と封止材とを接着することにより、上記太陽電池モジュールを得ることができる。
【0038】
このようにして得られた太陽電池モジュールは、
受光面を備えた太陽電池セルと、
シランカップリング剤を含む透明樹脂からなり、太陽電池セルの周囲を被覆する封止材と、
上記プライマーの硬化物からなり、封止材における、太陽電池セルの受光面側に積層された接着材と、
透明樹脂からなり、接着材上に積層された表面保護材と、を有している。
また、接着材は、重合性エステルに由来するポリマーを含んでおり、表面保護材と接着材との間に、両者が混合した混合層が形成されている。
【0039】
太陽電池セルとしては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン等のシリコン系半導体を備えた太陽電池セル、銅インジウムセレナイド、ガリウムひ素等の化合物系半導体を備えた太陽電池セル、有機物半導体を備えた太陽電池セル等の公知の太陽電池セルを使用することができる。
【0040】
封止材は、シランカップリング剤を含む透明樹脂から構成されている。封止材の厚みは、例えば、0.5〜3mmとすることができる。封止材中の透明樹脂としては、例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)
またはポリオレフィ
ンを使用することができる。また、封止材中のシランカップリング剤としては、公知のシランカップリング剤の中から、透明樹脂の材質に応じて選択した化合物を使用することができる。
【0041】
表面保護材は、透明樹脂から構成されている。表面保護材の厚みは、例えば、3〜5mmとすることができる。
【0042】
表面保護材の透明樹脂としては、例えば、溶解パラメータ(SP値)が9〜22である透明樹脂を使用することができる。上記特定の範囲のSP値を備えた透明樹脂は、接着材中の(メタ)アクリルポリマーとの相溶性に優れているため、表面保護材と接着材との間に両者が混在している混合層を容易に形成することができる。その結果、封止材からの表面保護材の剥離をより長期間に亘って抑制することができる。
【0043】
表面保護材中の透明樹脂としては、より具体的には、ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリプロピレン(PP)等の透明樹脂を使用することができる。これらの中でも、耐衝撃性に優れたポリカーボネートを表面保護材中の透明樹脂として使用することが好ましい。
【0044】
表面保護材は、太陽電池モジュールの積層方向における、光が入射する側の面及び接着材側の面の少なくとも一方に、水蒸気の透過を抑制するバリア層を有していてもよい。この場合には、太陽電池モジュールの受光面から内部への水分の浸透を抑制し、太陽電池モジュールの耐候性をより向上させることができる。
【0045】
バリア層としては、例えば、Si(シリコン)、Al(アルミニウム)、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)、K(カリウム)、Sn(錫)、Na(ナトリウム)、B(ホウ素)、Ti(チタン)、Pb(鉛)、Zr(ジルコニウム)、Y(イットリウム)等の酸化物を主成分とする酸化物皮膜、SiO
x(酸化ケイ素)、SiN(窒化ケイ素)等のセラミックス皮膜、ダイヤモンドライクカーボン等の炭素皮膜等を使用することができる。これらの皮膜は、表面保護材上に直接形成されていてもよいし、別途準備した樹脂フィルム上にこれらの皮膜を形成し、このフィルムを表面保護材に積層してもよい。
【0046】
また、太陽電池モジュールの耐候性や傷に対する耐久性を更に高めるために、表面保護材上に、更にハードコート材が積層されていてもよい。ハードコート材としては、耐候性や傷に対する耐久性を更に高める目的で用いられる公知のコーティング剤を使用することができる。
【0047】
表面保護材と封止材との間には、上記プライマーの硬化物からなる接着材が介在している。接着材の厚みは、例えば1〜5μmとすることができる。
【0048】
また、表面保護材と接着材との間には、接着材と表面保護材とが混在している混合層が形成されている。混合層は、より具体的には、表面保護材及び接着材のいずれか一方が他方の中に分散した海島構造や、いずれか一方が網目状に連なり、他方がその空隙に充填されたジャイロイド構造等のミクロ相分離構造を有している。
【0049】
混合層の厚みは、0.5μm以上であることが好ましい。この場合には、表面保護材と接着材との接着性をより向上させることができる。その結果、封止材からの表面保護材の剥離をより長期間に亘って抑制することができる。なお、混合層の厚みに特に上限はないが、上記プライマーを用いる場合には、通常、混合層の厚みは5μm以下となる。
【0050】
太陽電池モジュールは、更に、封止材の裏側面、即ち積層方向における受光面とは反対側の面を保護する裏面保護材を有していてもよい。裏面保護材の厚みは、例えば、1〜3mmとすることができる。裏面保護材としては、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリプロピレン(PP)等の樹脂や、裏面保護材として公知の材料を使用することができる。
【0051】
裏面保護材は、封止材に直接積層されていてもよいし、上記プライマーの硬化物からなる裏面接着材を介して封止材に積層されていてもよい。後者の場合においては、裏面保護材と裏面接着材との間に両者が混在している混合層が形成されていることが好ましい。この場合には、上述した表面保護材と同様の理由により、封止材と裏面接着材との接着性及び裏面接着材と裏面保護材との接着性を向上させることができる。その結果、封止材からの裏面保護材の剥離を長期間に亘って抑制することができる。
【0052】
また、裏面保護材の片面または両面に、上述したバリア層が設けられていてもよい。この場合には、太陽電池モジュールの裏面から内部への水分の浸透を抑制し、太陽電池モジュールの耐候性をより向上させることができる。
【実施例】
【0053】
(実施例)
上記プライマー及び太陽電池モジュールの実施例を、
図1を用いて説明する。
図1に示すように、本例の太陽電池モジュール1は、太陽電池セル2と、シランカップリング剤を含む透明樹脂からなり、太陽電池セル2の周囲を被覆する封止材3と、プライマーの硬化物からなり、封止材3における、太陽電池セル2の受光面側に積層された接着材4と、透明樹脂からなり、接着材4上に積層された表面保護材6とを有している。接着材4と表面保護材6との間には、両者が混在している混合層5が形成されている。なお、接着材4と混合層5との境界41、及び、混合層5と表面保護材6との境界51は明瞭に現れない場合があるため、
図1においては、これらの境界41、51を破線で表現した。以下、太陽電池モジュール1の構成をより詳細に説明する。
【0054】
本例の太陽電池モジュール1は、
図1に示すように、裏面保護材7、封止材3、接着材4及び表面保護材6が順次積層された4層構造を有している。太陽電池セル2は、封止材3の内部に封入されている。封止材3は、透明樹脂としてのポリオレフィンと、シランカップリング剤とを含んでいる。表面保護材6は、透明樹脂としてのポリカーボネートから構成されている。
【0055】
接着材4は、重合性エステル40〜95質量部と、接着促進剤5〜60質量部と、重合開始剤とを含むプライマーの硬化物から構成されている。プライマー中の重合性エステルは、アクリロイル基及びメタクリロイル基のうち少なくとも一方を有している。接着促進剤は、アクリル樹脂またはメタクリル樹脂に対する接着性を向上可能な官能基と、アルコキシシリル基とを有している。重合開始剤は、重合性エステルの重合反応を開始させることができるように構成されている。また、重合開始剤の含有量は、重合性エステルと接着促進剤との合計を100質量部とした場合に、0.1〜10質量部である。
【0056】
本例の太陽電池モジュール1は、例えば、以下の方法により作製することができる。まず、太陽電池セル2が封入された封止材3と、表面保護材6と、裏面保護材7を準備する。次いで、表面保護材6及び封止材3の少なくとも一方にプライマーを塗布する。そして、プライマーが表面保護材6と封止材3との間に配置されるようにして、裏面保護材7、封止材3及び表面保護材6をこの順に積層し、積層体を作製する。この積層体を積層方向に圧縮しながら加熱することにより、裏面保護材7と封止材3とが接着される。
【0057】
また、上記加熱によって、プライマー中の重合性エステルの重合反応が開始される。これにより、封止材3と表面保護材6との間に(メタ)アクリルポリマーを含む接着材4が形成される。このとき、接着材4の一部が表面保護材6と自然に混ざり合い、接着材4と表面保護材6との間に混合層5が形成される。また、プライマー中の接着促進剤におけるアルコキシシリル基が封止材3に含まれるシランカップリング剤と反応し、化学結合を形成する。
【0058】
このように、積層体を積層方向に圧縮しながら加熱することにより、表面保護材6と封止材3との間に接着材4と混合層5とが形成され、これらを介して表面保護材6と封止材3とが接着される。以上の結果、
図1に示す太陽電池モジュール1を得ることができる。
【0059】
本例のプライマーを使用して作製された太陽電池モジュール1は、表面保護材6と封止材3との間にプライマーの硬化物からなる接着材4と混合層5とが介在しているため、表面保護材6と封止材3と強固に接着することができる。また、表面保護材6と封止材3との間に接着材4及び混合層5を介在させることにより、高温環境下での耐久性、冷熱サイクルに対する耐久性を向上させることができる.その結果、封止材3からの表面保護材6の剥離を長期間に亘って抑制することができる。
【0060】
(実験例)
本例では、プライマーの組成や封止材の材質を種々変更して太陽電池モジュールを模擬した試験体(表1及び表2、試験体1〜9)を作製し、せん断接着強さ、180度剥離接着強さ、耐熱性及び冷熱サイクルに対する耐久性の評価を行った。なお、表1及び表2中の重合開始剤の含有量は、重合性エステルと接着促進剤との合計を100質量部とした場合の含有量である。また、試験体1〜9のうち、試験体8及び9は、プライマーを使用せずに作製された従来の太陽電池モジュールを模擬した例である。本例において使用した材料は、以下の通りである。
【0061】
・重合性エステル M−315(東亞合成株式会社製)
・接着促進剤 XIAMETER(登録商標) OFS−6030 SILANE(東レ・ダウコーニング株式会社製)
・重合開始剤 Irgacure(登録商標)819(BASF社製)
【0062】
・せん断接着強さの評価
ポリカーボネートからなる表面保護材及び裏面保護材と、表1及び表2に示す透明樹脂とシランカップリング剤とを含む4枚の封止材とを準備した。なお、表面保護材は、一辺165mmの正方形状を呈し、2.7mmの厚みを有している。裏面保護材は、一辺165mmの正方形状を呈し、1.5mmの厚みを有している。封止材は、一辺155mmの正方形状を呈し、550μmの厚みを有している。
【0063】
表面保護材及び裏面保護材の片面に表1及び表2に示す組成のプライマーを塗布した後、裏面保護材のプライマー上に4枚の封止材を積層した。次いで、プライマーが塗布された面が封止材側となるようにして封止材上に表面保護材を積層し、積層体を作製した。この積層体を積層方向に圧縮しながら加熱し、積層体に含まれる各部材を互いに接着した。
【0064】
上記接着後の積層体から長さ75mm、幅10mmの小片を切り出した。
図2に示すように、長手方向における小片の中央部に、表面保護材6から封止材3と裏面保護材7側の接着材4との境界までに亘る切り欠き61と、裏面保護材7から封止材3と表面保護材6側の接着材4との境界までに亘る切り欠き71とを設け、これら2か所の切り欠き61、71の間に長さ5mmの接着部100を形成した。
【0065】
以上により得られた試験片10(
図2参照)を用い、JIS K6850:1999の規定に準じた方法より、引張りせん断接着強さの測定を行った。各試験体のせん断接着強さ(MPa)は表1に示した通りであった。
【0066】
・180度剥離接着強さの評価
表面保護材におけるプライマーが塗布された面の一辺に離型シートを貼り付け、裏面保護材と封止材との間にバックシートを介在させた以外は、せん断接着強さ測定用試験片の作製と同様の方法により積層体を作製した。この積層体を積層方向に圧縮しながら加熱し、バックシート、4枚の封止材及び表面保護材を互いに接着した。
【0067】
接着後の積層体から裏面保護材を取り外すとともに、表面保護材から離型シートを剥離し、封止材の一辺に、表面保護材から離隔している剥離しろを形成した。その後、積層体から長さ130mm、幅10mmの小片を切り出し、180度剥離接着強さの評価に用いる試験片を得た。
【0068】
得られた試験片を用い、JIS Z0237:2009の規定に準じた方法により、表面保護材から4枚の封止材及びバックシートを引き剥がして180度剥離試験を実施した。封止材の引き剥がし速度は50mm/分とした。各試験体の180度剥離接着強さ(N/10mm)は表1に示した通りであった。
【0069】
・耐熱性の評価
ポリカーボネートからなる表面保護材及び裏面保護材と、表1及び表2に示す透明樹脂とシランカップリング剤とを含む4枚の封止材と、インターコネクタを介して互いに接続された3枚の太陽電池セルストリングスとを準備した。なお、表面保護材は、長さ500mm、幅165mmの長方形状を呈し、2.7mmの厚みを有している。裏面保護材は、長さ500mm、幅165mmの長方形状を呈し、1.5mmの厚みを有している。封止材は、長さ490mm、幅155mmの長方形状を呈し、550μmの厚みを有している。
【0070】
表面保護材及び裏面保護材の片面上に表1及び表2に示す組成のプライマーを塗布した後、裏面保護材のプライマー上に、2枚の封止材、太陽電池セルストリングス及び2枚の封止材をこの順に積層した。次いで、プライマーが塗布された面が封止材側となるようにして封止材上に表面保護材を積層し、積層体を作製した。この積層体を積層方向に圧縮しながら加熱し、積層体に含まれる各部材を互いに接着した。以上により、耐熱性の評価に用いる試験片を得た。
【0071】
炉内温度120℃のオーブンを用いて得られた試験片を240時間加熱した後、オーブンから試験片を取り出した。そして、表面保護材と封止材との接着状態を目視観察した。封止材の全面が表面保護材に接着されていた場合には、表1及び表2の「耐熱性」の欄に記号「A」を、封止材の少なくとも一部が表面保護材から剥離していた場合には、同欄に記号「B」を記載した。
【0072】
耐熱性の評価においては、記号「A」の場合を耐熱性に優れているため合格と判断し、記号「B」の場合を耐熱性に劣るため不合格と判断した。
【0073】
・冷熱サイクルに対する耐久性の評価
耐熱性の評価と同様に試験片を作製した。冷熱サイクル試験機を用い、試験片を−30℃の環境に1時間保持した後、110℃の環境に1時間保持するサイクルを100サイクル繰り返して冷熱サイクル試験を行った。試験完了後、冷熱サイクル試験機から取り出した試験片の表面保護材と封止材との接着状態を目視観察した。封止材の全面が表面保護材に接着されていた場合には、表1及び表2の「耐熱性」の欄に記号「A」を、封止材の少なくとも一部が表面保護材から剥離していた場合には、同欄に記号「B」を記載した。
【0074】
冷熱サイクルに対する耐久性の評価においては、記号「A」の場合を耐熱性に優れているため合格と判断し、記号「B」の場合を耐熱性に劣るため不合格と判断した。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
表1及び表2に示したように、試験体1〜6に用いたプライマーは、重合性エステル、接着促進剤及び重合開始剤の含有量が上記特定の範囲内である。そのため、接着促進剤を含まないプライマーを使用した試験体7や、プライマー自体を使用しなかった試験体8〜9に比べて180度剥離接着強さが高くなった。また、試験体1〜6は、耐熱性及び冷熱サイクルに対する耐久性のいずれにも優れていた。
【0078】
これらの結果から、重合性エステル、接着促進剤及び重合開始剤の含有量が上記特定の範囲内であるプライマーを用いることにより、封止材と表面保護材との接着性を高め、封止材からの表面保護材の剥離を長期間に亘って抑制可能であることが理解できる。
【0079】
なお、本発明に係るプライマー及び太陽電池モジュールは、上述した実施例及び比較例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。