(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6884727
(24)【登録日】2021年5月14日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】マイクロ流体チップ、細胞を濃縮する装置及びマイクロ流体チップ内で細胞を濃縮する方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20210531BHJP
C12M 1/26 20060101ALI20210531BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M1/26
G01N37/00 101
【請求項の数】16
【外国語出願】
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-91081(P2018-91081)
(22)【出願日】2018年5月10日
(65)【公開番号】特開2018-186814(P2018-186814A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2018年6月13日
(31)【優先権主張番号】62/504,129
(32)【優先日】2017年5月10日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518163987
【氏名又は名称】上準微流體股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】MiCareo Taiwan Co., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100187078
【弁理士】
【氏名又は名称】甲原 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】游 輝民
(72)【発明者】
【氏名】鍾 文峰
(72)【発明者】
【氏名】陳 瑞麟
【審査官】
坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2003−532400(JP,A)
【文献】
特開2015−051008(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0207940(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0316555(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0029257(US,A1)
【文献】
特表2016−527494(JP,A)
【文献】
特表2010−525325(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0273179(US,A1)
【文献】
特表2006−517029(JP,A)
【文献】
特表2003−529076(JP,A)
【文献】
特表2005−521425(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12M 1/26
G01N 37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の細胞濃縮システム及び第2の細胞濃縮システムを備えるマイクロ流体チップであって、前記第1の細胞濃縮システムのチャネルレイアウトと前記第2の細胞濃縮システムのチャネルレイアウトとは前記マイクロ流体チップに垂直の反射面に対して対称であり、且つ前記第1の細胞濃縮システム及び前記第2の細胞濃縮システムの各々は、
第1の流体チャネル、
第2の流体チャネル、
前記第1の流体チャネルと前記第2の流体チャネルとの間に位置する試料チャネル、
排出チャネル、
入口チャネル、
前記入口チャネルが達する濾過室、及び
前記濾過室内に配置され且つ前記濾過室を第1の分室及び第2の分室に分割するフィルタ壁を備え、
前記第1の流体チャネル、前記第2の流体チャネル及び前記試料チャネルは合流室の第1の辺で合流し、前記排出チャネル及び前記入口チャネルは前記合流室の第2の辺から分岐し、前記第1の辺及び前記第2の辺は対向辺であり、前記入口チャネルは前記濾過室と前記合流室との間の流体連通を形成し、
前記第1の細胞濃縮システムの前記試料チャネルは第1の内壁及び第1の外壁を有し、前記第2の細胞濃縮システムの前記試料チャネルは第2の内壁及び第2の外壁を有し、前記第1の外壁及び前記第2の外壁は両方とも前記反射面から遠くに位置し、前記第1の外壁と前記第2の外壁との間の距離は約10μmから約1cmの範囲内であり、且つ
前記フィルタ壁は、
複数のスリットの各々が前記フィルタ壁を横断して前記第1の分室と前記第2の分室との間の流体連通を形成する複数の貫通スリット、及び
前記フィルタ壁の前記第1の分室に面する側において、前記第1の分室と前記貫通スリットとの間に配置され、ブロックエッジ部と該ブロックエッジ部からへこんだ凹部とを画定するルーフ状構造部、を備え、
前記凹部の高さは前記フィルタ壁の高さより小さく、前記凹部の幅は前記フィルタ壁の幅より小さく、前記貫通スリットの各々は前記凹部において開いて、前記ブロックエッジ部は前記第1の分室内の選別された標的細胞をブロックし、前記ブロックエッジ部にもたれる選別された標的細胞が前記貫通スリットを閉じない又は塞がないように構成される、マイクロ流体チップ。
【請求項2】
前記第1の外壁と前記第2の外壁との間の距離は約700μmから約1200μmの範囲内である、請求項1に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項3】
試薬入口及び試薬チャネルを更に備え、前記試薬チャネルは第1の岐路及び第2の岐路に分岐し、前記第1の岐路は前記第1の細胞濃縮システムの前記濾過室と連通し、前記第2の岐路は前記第2の細胞濃縮システムの前記濾過室と連通している、請求項1に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項4】
前記試薬チャネルの前記第1の岐路及び前記第2の岐路の各々は、内部に複数のフィルタスリットが配置された汚染防止部を備える、請求項3に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項5】
前記試薬チャネルは更に、前記第1の岐路及び前記第2の岐路に分岐する前に気泡トラップ室を備える、請求項3に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項6】
前記第1の細胞濃縮システム及び前記第2の細胞濃縮システムの各々は更に、前記マイクロ流体チップの外面を貫通し前記排出チャネルと流体連通する排出出口孔を備える、請求項1に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項7】
前記第1の細胞濃縮システム及び前記第2の細胞濃縮システムの各々は更に、前記第2の分室から出る出口チャネルを備える、請求項6に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項8】
前記第1の細胞濃縮システム及び前記第2の細胞濃縮システムの各々は更に、前記マイクロ流体チップの外面を貫通し前記出口チャネルと連通する出口孔を備える、請求項7に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項9】
前記第1の細胞濃縮システム及び前記第2の細胞濃縮システムの各々は更に、
前記マイクロ流体チップの外面を貫通し前記試料チャネルと連通する試料入口孔、
前記マイクロ流体チップの外面を貫通し前記第1の流体チャネルと連通する第1のバッファ入口孔、
前記マイクロ流体チップの外面を貫通し前記第2の流体チャネルと連通する第2のバッファ入口孔、及び
前記マイクロ流体チップの外面を貫通し前記第2のバッファ入口孔と前記合流室との間の前記第2の流体チャネルと流体連通するバッファスイッチ孔、
を備える、請求項1に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項10】
第1の細胞濃縮システム及び第2の細胞濃縮システムを備えるマイクロ流体チップであって、前記第1の細胞濃縮システム及び前記第2の細胞濃縮システムの各々は、
第1の流体チャネル、
第2の流体チャネル、
前記第1の流体チャネルと前記第2の流体チャネルとの間に位置する試料チャネル、
排出チャネル、
入口チャネル、
前記入口チャネルが達する濾過室、及び
前記濾過室内に配置され且つ前記濾過室を第1の分室及び第2の分室に分割するフィルタ壁を備え、
前記第1の流体チャネル、前記第2の流体チャネル及び前記試料チャネルは合流室の第1の辺で合流し、前記排出チャネル及び前記入口チャネルは前記合流室の第2の辺から分岐し、前記第1の辺及び前記第2の辺は対向辺であり、前記入口チャネルは前記濾過室と前記合流室との間の流体連通を形成し、且つ
前記フィルタ壁は、複数のスリットの各々が前記フィルタ壁を横断して前記第1の分室と前記第2の分室との間の流体連通を形成する複数の貫通スリット、及び前記フィルタ壁の前記第1の分室に面する側において、前記第1の分室と前記貫通スリットとの間に配置され、ブロックエッジ部と該ブロックエッジ部からへこんだ凹部とを画定するルーフ状構造部、を備え、
前記凹部の高さは前記フィルタ壁の高さより小さく、前記凹部の幅は前記フィルタ壁の幅より小さく、前記貫通スリットの各々は前記凹部において開いて、前記ブロックエッジ部は前記第1の分室内の選別された標的細胞をブロックし、前記ブロックエッジ部にもたれる選別された標的細胞が前記貫通スリットを閉じない又は塞がないように構成される、マイクロ流体チップと、
前記第1の細胞濃縮システムの前記第2の流体チャネル及び前記第2の細胞濃縮システムの前記第2の流体チャネルにそれぞれ接続された2つのスイッチと、
視野を有し、前記第1の細胞濃縮システム及び前記第2の細胞濃縮システムの前記試料チャネル内の標的細胞を検出するように構成された細胞検出器と、
前記細胞検出器の検出結果に応答して前記2つのスイッチを独立に制御するよう構成されたプロセッサであって、前記第1の細胞濃縮システム及び前記第2の細胞濃縮システムの1つの前記試料チャネル内の前記標的細胞の検出時に、前記第1の細胞濃縮システム及び前記第2の細胞濃縮システムの前記1つに接続された対応スイッチを活性化する、プロセッサと、
を備える、細胞濃縮装置。
【請求項11】
前記第1の細胞濃縮システム及び前記第2の細胞濃縮システムの各々の前記第1の流体チャネルと流体連通する第1のバッファサプライと、
前記第1の細胞濃縮システム及び前記第2の細胞濃縮システムの各々の前記第2の流体チャネルと流体連通する第2のバッファサプライとを更に備え、
前記2つのスイッチの1つが前記第2のバッファサプライと前記第1の細胞濃縮システムの前記第2の流体チャネルとの間に接続され、前記2つのスイッチの他の1つが前記第2のバッファサプライと前記第2の細胞濃縮システムの前記第2の流体チャネルとの間に接続され、
前記プロセッサは更に、前記第1の細胞濃縮システム及び前記第2の細胞濃縮システムの各々の前記第2の流体チャネルにバッファフローを形成するために前記第2のバッファサプライを制御し、前記バッファフローが前記試料チャネルからの試料流体を前記合流室において前記排出チャネルに入るように方向づけるように構成され、且つ
前記プロセッサは、前記標的細胞の検出時に、前記バッファフローを調整するために前記対応スイッチを活性化し、前記調整されたバッファフローが前記試料チャネルからの前記試料流体を前記合流室において前記入口チャネルに入るように方向づけるように構成されている、
請求項10に記載の細胞濃縮装置。
【請求項12】
前記マイクロ流体チップは更に、試薬入口及び試薬チャネルを備え、前記試薬チャネルは前記第1の細胞濃縮システムの前記濾過室及び前記第2の細胞濃縮システムの前記濾過室とそれぞれ流体連通する2つの岐路に分岐する、請求項10記載の細胞濃縮装置。
【請求項13】
第1の細胞濃縮システム及び第2の細胞濃縮システムを備え、前記第1の細胞濃縮システム及び前記第2の細胞濃縮システムの各々は、
第1の流体チャネル、
第2の流体チャネル、
前記第1の流体チャネルと前記第2の流体チャネルとの間に位置する試料チャネル、
排出チャネル、
入口チャネル、
前記入口チャネルが達する濾過室、及び
前記濾過室内に配置され且つ前記濾過室を第1の分室及び第2の分室に分割するフィルタ壁を備え、
前記第1の流体チャネル、前記第2の流体チャネル及び前記試料チャネルは合流室の第1の辺で合流し、前記排出チャネル及び前記入口チャネルは前記合流室の第2の辺から分岐し、前記第1の辺及び前記第2の辺は対向辺であり、前記入口チャネルは前記濾過室と前記合流室との間の流体連通を形成し、且つ、前記フィルタ壁は、複数のスリットの各々が前記フィルタ壁を横断して前記第1の分室と前記第2の分室との間の流体連通を形成する複数の貫通スリット、及び前記フィルタ壁の前記第1の分室に面する側において、前記第1の分室と前記貫通スリットとの間に配置され、ブロックエッジ部と該ブロックエッジ部からへこんだ凹部とを画定するルーフ状構造部、を備え、
前記凹部の高さは前記フィルタ壁の高さより小さく、前記凹部の幅は前記フィルタ壁の幅より小さく、前記貫通スリットの各々は前記凹部において開いて、前記ブロックエッジ部は前記第1の分室内の選別された標的細胞をブロックし、前記ブロックエッジ部にもたれる選別された標的細胞が前記貫通スリットを閉じない又は塞がないように構成される、マイクロ流体チップにおいて細胞を濃縮する方法であって、
前記方法は、
前記第1の細胞濃縮システムの前記第1の流体チャネルに第1のバッファ流体を、前記第1の細胞濃縮システムの前記第2の流体チャネルに第2のバッファ流体を供給するステップと、
前記第1の細胞濃縮システムの前記試料チャネルに第1の試料流体を注入するステップと、
前記第1の細胞濃縮システムの前記第2の流体チャネルにおける前記第2のバッファ流体を制御して、前記第1の試料流体が前記第1の細胞濃縮システムの前記排出チャネル及び前記入口チャネルの1つに入るように方向づけるステップと、
を備える、方法。
【請求項14】
前記第2の細胞濃縮システムの前記第1の流体チャネルに第1のバッファ流体を、前記第2の細胞濃縮システムの前記第2の流体チャネルに第2のバッファ流体を供給するステップと、
前記第2の細胞濃縮システムの前記試料チャネルに第2の試料流体を注入するステップと、
前記第2の細胞濃縮システムの前記第2の流体チャネルにおける前記第2のバッファ流体を制御して、前記第2の細胞濃縮システムの前記試料チャネルからの前記第2の試料流体が前記第2の細胞濃縮システムの前記排出チャネル及び前記入口チャネルの1つに入るように方向づけるステップとを備え、
前記第2の細胞濃縮システムの前記第2の流体チャネルにおける前記第2のバッファ流体の制御は、前記第1の細胞濃縮システムの前記第2の流体チャネルにおける前記第2のバッファ流体の制御から独立している、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第2の細胞濃縮システムの前記第2の流体チャネルにおける前記第2のバッファ流体は、前記第2の細胞濃縮システムの前記試料チャネル内の標的細胞の検出時に、前記第2の細胞濃縮システムの前記試料チャネルからの前記第2の試料流体が前記第2の細胞濃縮システムの前記入口チャネルに入るように方向づけるように制御される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の細胞濃縮システムの前記第2の流体チャネルにおける前記第2のバッファ流体は、前記第1の細胞濃縮システムの前記試料チャネル内の標的細胞の検出時に、前記第1の細胞濃縮システムの前記試料チャネルからの前記第1の試料流体が前記第1の細胞濃縮システムの前記入口チャネルに入るように方向づけるように制御される、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体試料内の標的を濃縮する技術に関し、特に、マイクロ流体チップ、細胞を濃縮する装置及びマイクロ流体チップ内で細胞を濃縮する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体チップは、流体試料及び/又は必要な試薬をチップ内で流すことができる1つ以上の流路を有し、流体試料をマイクロチップの流路内で試験することができるチップ状デバイスである。マイクロ流体チップは様々な分野、特にバイオ関連、例えば生物医学、生物化学、又はその関連分野で使用されている。通常、血液試料は様々な細胞を含み、希少細胞を分別する必要性が急速に拡大している。希少標的細胞集団として、血液からの循環腫瘍細胞(CTC)、造血幹細胞(HSC)及び循環胎児細胞(CFC)がある。しかしながら、市販の細胞分別器は希少細胞集団の分別に関していくつかの制限、例えば概して選択性が低い、試料損失が大きい、及び高い動作圧力が更なる分析のための機能又は実行可能性の消失をもたらすという制限を有する。これらの必要性に対処するために、研究者達は希少細胞分別用のプラットフォームとしてマイクロ流体装置に注目している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は2つの流体試料を流動し得るマイクロ流体チップを目的とする。
【0004】
本発明は2つの流体試料を同時に濃縮し得る細胞濃縮装置も目的とする。
【0005】
本発明は更に、2つの流体試料を同時に濃縮し得るマイクロチップ内で細胞を濃縮する方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態によれば、マイクロ流体チップは、第1の細胞濃縮システム及び第2の細胞濃縮システムを含む。第1の細胞濃縮システムのチャネルレイアウトと第2の細胞濃縮システムのチャネルレイアウトとは、マイクロ流体チップに垂直の反射面に対して対称である。第1の細胞濃縮システム及び第2の細胞濃縮システムの各々は、第1の流体チャネル、第2の流体チャネル、第1の流体チャネルと第2の流体チャネルとの間に位置する試料チャネル、排水チャネル、入口チャネル、及び入口チャネルにより達する濾過室を含む。第1の流体チャネル、第2の流体チャネル及び試料チャネルは合流室の第1の辺で合流し、排出チャネル及び入口チャネルは合流室の第2の辺から分岐し、第1の辺と第2の辺は対向辺である。入口チャネルは、濾過室と合流室との間の流体連通を形成する。第1の細胞濃縮システムの試料チャネルは第1の内壁及び第1の外壁を有し、第2の細胞濃縮システムの試料チャネルは第2の内壁及び第2の外壁を有し、第1の外壁及び第2の外壁は両方とも反射面から遠くに位置し、第1の外壁と第2の外壁との間の距離は約10μmから約1cmの範囲内である。
【0007】
一実施形態によれば、第1の外壁と第2の外壁との間の距離は約700μmから約1200μmの範囲内である。
【0008】
一実施形態によれば、マイクロ流体チップは、試薬入口及び試薬チャネルを更に含む。試薬チャネルは第1の岐路及び第2の岐路に分岐し、第1の岐路は第1の細胞濃縮システムの濾過室と連通し、第2の岐路は第2の細胞濃縮システムの濾過室と連通する。
【0009】
一実施形態によれば、試薬チャネルの第1の岐路及び第2の岐路の各々は、内部に複数のフィルタスリットが配置された汚染防止部を含む。
【0010】
一実施形態によれば、試薬チャネルは更に、第1の岐路及び第2の岐路に分岐する前に気泡トラップ室を含む。
【0011】
一実施形態によれば、第1の細胞濃縮システム及び第2の細胞濃縮システムの各々は更に、マイクロ流体チップの外面を貫通し排出チャネルと流体連通する排出出口孔を含む。
【0012】
一実施形態によれば、第1の細胞濃縮システム及び第2の細胞濃縮システムの各々は更に、濾過室内に配置され、濾過室を第1の分室及び第2の分室に分割するフィルタ壁を含む。フィルタ壁は複数の貫通スリットとルーフ状構造部とを含む。複数の貫通スリットの各々はフィルタ壁を横断して第1の分室と第2の分室との間の流体連通を形成する。ルーフ状構造部は、フィルタ壁の第1の分室に面する側に配置され、ブロックエッジ部と該ブロックエッジ部からへこんだ凹部を画定する。
【0013】
一実施形態によれば、第1の細胞濃縮システム及び第2の細胞濃縮システムの各々は更に、第2の分室から出る出口チャネルを含む。
【0014】
一実施形態によれば、第1の細胞濃縮システム及び第2の細胞濃縮システムの各々は更に、マイクロ流体チップの外面を貫通し出口チャネルと連通する出口孔を含む。
【0015】
第1の細胞濃縮システム及び第2の細胞濃縮システムの各々は更に、試料入口孔、第1のバッファ入口孔、第2のバッファ入口孔、及びバッファスイッチ孔を含む。試料入口孔は、マイクロ流体チップの外面を貫通し試料チャネルと連通する。第1のバッファ入口孔は、マイクロ流体チップの外面を貫通し第1の流体チャネルと連通する。第2のバッファ入口孔は、マイクロ流体チップの外面を貫通し第2の流体チャネルと連通する。バッファスイッチ孔は、マイクロ流体チップの外面を貫通し第2のバッファ入口孔と合流室との間の第2の流体チャネルと流体連通する。
【0016】
一実施形態によれば、細胞濃縮装置は、第1の細胞濃縮システム及び第2の細胞濃縮システムを含むマイクロ流体チップと、2つのスイッチと、細胞検出器と、プロセッサとを含む。第1の細胞濃縮システム及び第2の細胞濃縮システムの各々は、第1の流体チャネル、第2の流体チャネル、第1の流体チャネルと第2の流体チャネルとの間に位置する試料チャネル、排出チャネル、入口チャネル、及び入口チャネルが達する濾過室を含む。第1の流体チャネル、第2の流体チャネル及び試料チャネルは合流室の第1の辺で合流し、排出チャネル及び入口チャネルは前記合流室の第2の辺から分岐し、第1の辺及び第2の辺は対向辺である。入口チャネルは濾過室と合流室との間の流体連通を形成する。2つのスイッチは、第1の細胞濃縮システムの第2の流体チャネル及び第2の細胞濃縮システムの第2の流体チャネルにそれぞれ接続される。細胞検出器は視野を有する。細胞検出器は、第1の細胞濃縮システム及び第2の細胞濃縮システムの試料チャネル内の標的細胞を検出するように構成される。プロセッサは、細胞検出器の検出結果に応答して2つのスイッチを独立に制御するよう構成され、第1の細胞濃縮システム及び第2の細胞濃縮システムの1つの試料チャネル内の標的細胞の検出時に、第1の細胞濃縮システム及び第2の細胞濃縮システムの1つに接続された対応するイッチを活性化する。
【0017】
一実施形態によれば、第1の細胞濃縮システム及び第2の細胞濃縮システムの各々の第1の流体チャネルと流体連通する第1のバッファサプライと、第1の細胞濃縮システム及び第2の細胞濃縮システムの各々の第2の流体チャネルと流体連通する第2のバッファサプライとを更に含む。2つのスイッチはそれぞれ第2のバッファサプライと第1の細胞濃縮システム及び第2の細胞濃縮システムの各々の第2の流体チャネルとの間に接続される。プロセッサは更に、第1の細胞濃縮システム及び第2の細胞濃縮システムの各々の第2の流体チャネルにバッファフローを形成するように第2のバッファサプライを制御し、バッファフローが試料チャネルからの試料流体を合流室において排出チャネルに入るように方向づけるように構成される。プロセッサは、標的細胞の検出時に、対応するスイッチを活性化してバッファフローを調整し、調整されたバッファフローが試料チャネルからの試料流体を合流室において入口チャネルに入るように方向づけるよう構成される。
【0018】
一実施形態によれば、第1の細胞濃縮システム及び第2の細胞濃縮システムを備える上述したマイクロ流体チップを用いて細胞を濃縮する方法は以下のステップを含む。第1の細胞濃縮システム及び第2の細胞濃縮システムの各々は、第1の流体チャネル、第2の流体チャネル、第1の流体チャネルと第2の流体チャネルとの間に位置する試料チャネル、排出チャネル、入口チャネル、及び入口チャネルが達する濾過室を含む。第1の流体チャネル、第2の流体チャネル及び試料チャネルは合流室の第1の辺で合流し、排出チャネル及び入口チャネルは合流室の第2の辺から分岐し、第1の辺及び前記第2の辺は対向辺である。入口チャネルは濾過室と合流室との間の流体連通を形成する。第1のバッファ流体を第1の細胞濃縮システムの第1の流体チャネルに、第2のバッファ流体を第1の細胞濃縮システムの第2の流体チャネルに供給する。標的試料を含む第1の試料流体を第1の細胞濃縮システムの試料チャネルに注入する。第1の細胞濃縮システムの第2の流体チャネル内の第2のバッファ流体は、第1の細胞濃縮システムの試料チャネル内の標的細胞の検出時に、第1の細胞濃縮システムの試料チャネルからの第1の試料流体が第1の細胞濃縮システムの入口チャネルに入るように方向づけるように制御される。それ以外の場合、第1の細胞濃縮システムの第2の流体チャネル内の第2のバッファ流体は、第1の試料流体が第1の細胞濃縮システムの排出チャネルに入るように方向づけるように制御される。
【0019】
本発明によれば、第2の細胞濃縮システムは第1の細胞濃縮システムと同様のレイアウトを有する。従って、第2の細胞濃縮システムは、第1の細胞濃縮システムと同じ濃縮プロセスに従う。一実施形態によれば、第2の細胞濃縮システム内の第2の流体チャネルにおける第2のバッファフローの制御は、第1の細胞濃縮システム内の第2の流体チャネルにおける第2のバッファフローの制御と独立している。
【発明の効果】
【0020】
以上より、いくつかの実施形態によるマイクロ流体チップは2つの細胞濃縮システムを含むため、2つの試料を同時に分析するために使用でき、細胞濃縮効率を向上する。
【0021】
以上の説明をより分かりやすくするために、いくつかの実施形態を図面とともに以下で詳細に説明する。
【0022】
添付図面は本発明の更なる理解を与えるために含まれ、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部をなす。図面は本発明の代表的な実施形態を示し、詳細な説明とともに本発明の原理を説明するために役立つものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】一実施形態によるマイクロ流体チップの一部分の斜視図を概略的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態によるマイクロ流体チップの上面図を概略的に示す図である。
【
図3】
図2のマイクロ流体チップの領域Aの拡大図を概略的に示す図である。
【
図4】
図4A〜
図4Bは、1つの細胞濃縮システムの拡大部分を概略的に示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態による細胞濃縮装置を概略的に示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態によるマイクロ流体チップの細胞濃縮システム内の濾過室を概略的に示す図である。
【
図7】
図6に示すフィルタ壁の拡大部分Bを概略的に示す図である。
【
図8】フィルタ壁の一部分の拡大斜視図を概略的に示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態によるフィルタ構造を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、一実施形態によるマイクロ流体チップの一部分の斜視図を概略的に示す。
図1を参照するに、マイクロ流体チップMFCは、基板SUB及びチャネル形成層CFLを含むことができる。チャネル形成層CFLは、チャネル形成層CFLを基板SUBに強く接着し得るプラズマ接着プロセス又は他のプロセスによって、基板SUBに接着することができる。チャネル形成層CFLは特定のパターンを有し、チャネル形成層CFLのそれらのパターンは所望の設計に基づいて1つ以上のチャネルCH及び1つ以上の孔HLを画定する。孔HLを画定するパターンは凹形パターンとすることができ、チャネル形成層CFLはチャネルCHに流体の移動を可能にする密封空間を形成するために基板SUBに接着される。孔HLを画定するパターンはチャネル形成層CFLの厚さ全体を貫通し、孔HLの一端はチャネル形成層CFLが基板SUBに接着された後で露出し得る。換言すれば、孔HLはマイクロ流体チップMFCの外面を貫通する構造である。詳しく言うと、1つの孔HLは1つの対応するチャネルCHに隣接させて所望のレイアウトを構成することができ、このレイアウトにおいて孔HLは隣接チャネルと外部装置又は環境との間の流体連通を形成するために使用される。チャネル形成層CFLは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等の成形用弾性材料で形成することができ、リソグラフィ複製又は他の代替プロセスによって所要のチャネルCH及び孔HLを画定するパターンにモールド成形することができる。基板SUBはチャネル形成層CFLを支持するのに十分な剛性を有する透明基板とすることができる。基板SUBの材料は十分な剛性及び透明度を有するガラス又は他の材料とし得る。しかしながら、本発明はこれに限定されず、マイクロ流体チップは他の方法で形成してもよい。例えば、いくつかの実施形態では、チャネル形成層CFLは基板SUBと一体に形成してもよい。即ち、チャネル形成層CFLを基板SUBと同じ材料で形成し、チャネル形成層CFLと基板SUBとの間を無接合にしてもよい。いくつかの実施形態では、チャネルCHの幅WCHは50μm〜500μmの範囲にすることができ、チャネルHCの高さHCHは40μm〜50μmの範囲にすることができる。更に、チャネルCHのレイアウトは設計要求に基づいて配列することができる。
【0025】
図2は本発明の一実施形態によるマイクロ流体チップの上面図を概略的に示す。
図2を参照するに、マイクロ流体チップ10は、第1の細胞濃縮システム100A及び第2の細胞濃縮システム100Bを含む。マイクロ流体チップ10は
図1に示すものに類似する断面構造を有するが、これに限定されない。第1の細胞濃縮システム100A及び第2の細胞濃縮システム100Bはそれぞれ異なる試料流体を搬送するために使用することができ、即ち、第1の細胞濃縮システム100A内を移動する試料流体は第2の細胞濃縮システム100B内を移動する試料流体と混合されない。従って、マイクロ流体チップ10は2つの試料流体を同時に流すために使用することができる。
【0026】
第1の細胞濃縮システム100Aは、第1の流体チャネル110A、第2の流体チャネル120A、第1の流体チャネル110A及び第2の流体チャネル120Aの間に位置する試料チャネル130A、排出チャネル140A、入口チャネル150A、及び入口チャネル150が達する濾過室160Aを含む。第1の流体チャネル110A、第2の流体チャネル120A及び試料チャネル130Aは合流室170Aに合流し、排出チャネル140A及び入口チャネル150Aが合流室170Aから分岐する。入口チャネル150Aは濾過室160Aと合流室170Aとの間の流体連通を形成する。
【0027】
第1の細胞濃縮システム100Aにおいて、第1の流体チャネル110Aはその末端に第1のバッファ入口孔112Aを有することができ、第1のバッファ入口孔112Aはマイクロ流体チップ10の外面を貫通し第1の流体チャネル110Aと連通する孔である。具体的に言うと、第1のバッファ入口孔112Aは第1の流体チャネル110Aとバッファ流体サプライ等の外部デバイスとの間の流体連通を形成するために使用することができる。加えて、第1の流体チャネル110Aは更に、第1のバッファ入口孔112Aと合流室170Aにつながる第1の流体チャネル110の結合部との間に位置するフィルタ部114Aを含むことができ、それによって、第1のバッファ入口孔112Aから第1の流体チャネル110Aに注入されるバッファ流体を合流室170Aに入る前にフィルタ処理し、バッファ流体内のダスト又は汚染物質が合流室170Aに流入しないようにすることができる。
【0028】
第2の流体チャネル120Aはその末端に第2のバッファ入口孔122Aを有することができ、第2のバッファ入口孔122Aはマイクロ流体チップ10の外面を貫通し第2の流体チャネル120Aと連通する孔である。具体的に言うと、第2のバッファ入口孔122Aは第2の流体チャネル120Aとバッファ流体サプライ等の外部デバイスとの間の流体連通を形成するために使用することができる。加えて、第2の流体チャネル120Aは更に、第2のバッファ入口孔122Aと合流室170Aにつながる第2の流体チャネル120の結合部との間に位置するフィルタ部124Aを含むことができ、それによって、第2のバッファ入口孔122Aから第2の流体チャネル120Aに注入されるバッファ流体を合流室170Aに入る前にフィルタ処理し、バッファ流体内のダスト又は汚染物質が合流室170Aに入るのを防ぐことができる。
【0029】
マイクロ流体チップ10において、第1の細胞濃縮システム100A内にバッファスイッチ孔180Aを更に含めることができる。バッファスイッチ孔180Aはマイクロ流体チップ10の外面を貫通し第2の流体チャネル120Aと連通する孔である。バッファスイッチ孔180Aは第2のバッファ入口孔122Aと合流室170Aにつながる第2の流体チャネル120Aの結合部との間に配置することができる。
【0030】
試料チャネル130Aはその末端に試料入口孔132Aを有し、試料入口孔132Aはマイクロ流体チップ10の外面を貫通し試料チャネル130Aと連通する孔である。試料入口孔132Aは、試料チャネル130Aと試料流体搬送するシリンジ等の外部装置との間の流体連通を形成するために使用することができる。本発明の一実施形態では、試料流体は全血試料である。加えて、試料入口孔132Aは更に、試料入口孔132Aと合流室170Aにつながる試料チャネル130Aの結合部との間に位置するフィルタ部134Aを含むことができ、それによって、試料入口孔132Aから試料チャネル130Aに注入される試料流体を合流室170Aに入る前にフィルタ処理し、試料流体内の血栓、ダスト又は汚染物質が合流室170Aに入るのを防ぐことができる。
【0031】
第1の細胞濃縮システム100Aにおいて、試料チャネル130A、第1の流体チャネル110A及び第2の流体チャネル120Aは同一平面上にあり、第1の流体チャネル110Aと第2の流体チャネル120Aとは試料チャネル130Aの両側に配置され、合流室170Aにつながる試料チャネル130Aの結合部が合流室170Aにつながる第1の流体チャネルの結合部と合流室170Aにつながる第2の流体チャネル120Aの結合部との間に位置するようにしてよい。
【0032】
排出チャネル140Aはその末端に排出出口孔142Aを有し、排出出口孔142Aはマイクロ流体チップ10の外面を貫通し排出チャネル140Aと連通する孔である。排出出口孔142Aは、排出チャネル140Aと外部装置又は環境との間の流体連通を形成するために使用し、それによって合流室170A内の流体をマイクロ流体チップ10から排出チャネル140Aを通してその終端の排出出口孔142から排出することができる。
【0033】
入口チャネル150Aと排出チャネル140Aとは両方とも合流室170Aの下流側に位置する。具体的には、合流室170Aにつながる入口チャネル150Aの結合部は合流室170Aにつながる第1の流体チャネル110Aの結合部に対応して位置させることができ、合流室170Aにつながる排出チャネル140Aの結合部は合流室170Aにつながる第2の流体チャネル120Aの結合部に対応して位置させることができる。例えば、合流室170Aにつながる第1の流体チャネル110Aの結合部が合流室170Aにつながる第2の流体チャネル120Aの結合部より反射面RPに近いとき、合流室170Aにつながる入口チャネル150Aの結合部は合流室170Aにつながる排出チャネル140Aの結合部より反射面RPに近くすることができる。代わりに、合流室170Aにつながる第1の流体チャネル110Aの結合部が合流室170Aにつながる第2の流体チャネル120Aの結合部より反射面RPから遠いとき、合流室170Aにつながる入口チャネル150Aの結合部は合流室170Aにつながる排出チャネル140Aの結合部より反射面RPから遠くすることができる。
【0034】
第1の細胞濃縮システム100Aは更に、濾過室160Aから出る出口チャネル190Aを含む。出口チャネル190Aはその末端に出口孔192Aを有し、出口孔192Aはマイクロ流体チップ10の外面を貫通し出口チャネル190Aと連通する孔である。末端に出口孔192Aを有する出口チャネル190Aは、濾過室160Aと外部装置又は環境との間の流体連通を形成し、それによって濾過室160A内の流体をマイクロ流体チップ10から排出することができる。
【0035】
本実施形態では、試料チャネル130Aからの試料流体及び第1の流体チャネル110A及び第2の流体チャネル120Aからのバッファ流体を入口孔132A,112A及び122Aを通してマイクロ流体チップ10に注入し、マイクロ流体チップ10から出口孔142A及び192Aを通して排出することができる。マイクロ流体チップ10による細胞濃縮処理中に合流室170Aを通過する流体の流れ方向を考察するとき、合流室170Aの第1の側及び合流室170Aの第2の側はそれぞれ上流側及び下流側とし、互いに対向するものとし得る。
【0036】
第2の細胞濃縮システム100Bは、第1の流体チャネル110B、第2の流体チャネル120B、第1の流体チャネル110B及び第2の流体チャネル120Bの間に位置する試料チャネル130B、排出チャネル140B、入口チャネル150B、及び入口チャネル150Bが達する濾過室160Bを含む。第1の流体チャネル110B、第2の流体チャネル120B及び試料チャネル130Bは合流室170Bに合流し、排出チャネル140B及び入口チャネル150Bが合流室170Bから分岐する。入口チャネル150Bは濾過室160Bと合流室170Bとの間の流体連通を形成する。
【0037】
第2の細胞濃縮システム100Bのコンポーネントは第1の細胞濃縮システム100Aのコンポーネントと同じであり、従って両システムにおいて、同じコンポーネントは同じ参照番号で示されている。詳しく言うと、第2の細胞濃縮システム100Bは更に、第1の流体チャネル110Bの末端の第1のバッファ入口孔112B、第1の流体チャネル110B内のフィルタ部114B、第2の流体チャネル120Bの末端の第2のバッファ入口孔122B、第2の流体チャネル120B内のフィルタ部124B、第2の流体チャネル120Bと流体連通するバッファスイッチ孔180B、試料チャネル130Bの末端の試料入口孔132B、試料チャネル130B内のフィルタ部134B、排出チャネル140Bの末端の排出出口孔142B、濾過室160Bから出る出口チャネル190B、及び出口チャネル190Bの末端の出口孔192Bを含むことができる。
【0038】
本実施形態において、マイクロ流体チップ10は両側対称構成を有する。例えば、第1の細胞濃縮システム100Aのレイアウトと、第2の細胞濃縮システム100Bのレイアウトとは、マイクロ流体チップ10に垂直の反射面RPに対して対称である。従って、第1の流体チャネル110B、第2の流体チャネル120B、試料チャネル130B、排出チャネル140B、入口チャネル150B、濾過室160B、合流室170B、バッファスイッチ孔180B及び出口チャネル190Bの配置関係は、第1の流体チャネル110A、第2の流体チャネル120A、試料チャネル130A、排出チャネル140A、入口チャネル150A、濾過室160A、合流室170A、バッファスイッチ孔180A及び出口チャネル190Aの配置関係と鏡面対称である。いくつかの代替実施形態では、第1の細胞濃縮システム100Aのチャネルレイアウトと第2の細胞濃縮システム100Bのチャネルレイアウトとは、反射面RPに対して部分的に対称にしてよい。
【0039】
本実施形態では、マイクロ流体チップ10は更に、第1の細胞濃縮システム100Aと第2の細胞濃縮システム100Bとにより共用される試薬システム200を含むことができる。試薬システム200は、例えば、試薬入口210、試薬チャネル220及び気泡トラップ室230を含む。試薬チャネル220は第1の岐路222及び第2の岐路224に分岐する。第1の岐路222は第1の細胞濃縮システム100Aの濾過室160Aと流体連通し、第2の岐路224は第2の細胞濃縮システム100Bの濾過室160Bと流体連通している。気泡トラップ室230は試薬チャネル220と試薬入口210との間に位置する。いくつかの実施形態では、気泡トラップ室230は省略し、試薬チャネル220を中間構造なしに試薬入口210に接続してよい。更に、試薬チャネル220の第1の岐路222及び第2の岐路224はそれぞれ汚染防止部220A及び汚染防止部220Bを含み得る。汚染防止部220A及び220Bはその中に配置された複数のフィルタスリットを含み得るため、汚染防止部220A又は220Bで粒子をトラップすることができる。濾過室160A及び濾過室160Bは両方とも試薬チャネル220と流体連通しているため、濾過室160A及び/又は濾過室160B内に収集された粒子又は細胞は試薬チャネル220へ進み、第1の細胞濃縮システム100Aと第2の細胞濃縮システム100Bとの間で汚染を生じ得る。しかしながら、濾過室160A又は160Bに収集された粒子又は細胞は汚染防止部220A又は220B内でトラップされるので、第1の細胞濃縮システム100Aと第2の細胞濃縮システム100Bとの間の汚染は防止される。言い換えれば、第1の細胞濃縮システム100Aと第2の細胞濃縮システム100Bとは1つの試薬システム200を共有するが、第1の細胞濃縮システム100Aと第2の細胞濃縮システム100Bとの間の汚染が起こる可能性は低い。
【0040】
図3は、
図2のマイクロ流体チップの領域Aの拡大図を示す。
図3に示すように、第1の細胞濃縮システム100Aの試料チャネル130Aは第1の内壁136A及び第1の外壁138Aを有する。第2の細胞濃縮システム100Bの試料チャネル130Bは第1の内壁136B及び第1の外壁138Bを有する。第1の外壁138A及び第2の外壁138Bは両方とも反射面RPから遠くに位置する。それぞれの合流室170A/170Bに近接する領域において、本実施形態における試料チャネル130A/130Bのいわゆる外壁138A/138Bは、いわゆる内壁136A/136Bよりも反射面RPから遠くに位置する壁を表す。更に、合流室170A/170Bに近接する領域において、第1の外壁138Aと第2の外壁138Bの間の距離Dは約10μmから約1cmの範囲内である。この距離Dはマイクロ流体チップ10内で流体試料を検出する細胞検出器の視野サイズに基づいて決定することができることは当業者の知るところである。好ましい例では、距離Dは約700μmから1200μmの範囲内とし得る。いくつかの代替実施形態では、試料チャネル130A及び試料チャネル130Bは種々の検出器を用いてモニターし得るため、距離Dは検出器の視野サイズではなく他の考慮事項に基づいて決定してよい。
【0041】
図4A及び
図4Bは、マイクロ流体チップ10の細胞濃縮システムの1つにおける部分拡大図及び細胞濃縮処理プロセスを概略的に示す。細胞濃縮システム100は、標的細胞を濃縮するために使用され、特にマイクロ流体チップ内で標的細胞を選別し濃縮するために使用される。細胞濃縮処理中に、第1のバッファ流体BF1が第1の流体チャネル110に供給され、第2のバッファ流体BF2が第2の流体チャネル120に供給される。本実施形態では、第1のバッファ流体BF1及び第2のバッファ流体BF2は同じ組成を有するものとし得るが、これに限定されない。試料流体SPは、第1のバッファ流体BF1及び第2のバッファ流体BF2が連続的に供給され得るとき、試料チャネル130に注入される。従って、試料流体SP、第1のバッファ流体BF1及び第2のバッファ流体BF2のすべてが細胞濃縮システム100の合流室170に流入する。合流室170内では、試料流体SPは第1のバッファ流体BF1と第2のバッファ流体BF2の間に介在する。第1のバッファ流体F1及び第2のバッファ流体BF2の流量を制御することによって、試料流体SPを排出チャネル140及び入口チャネル150の1つに入るように方向づけることができる。従って、細胞濃縮システム100は2つの動作モードを実行し得る。
【0042】
試料流体SPは細胞(
図4Aに示す非標的細胞TNC及び
図4Bに示す標的細胞TG)を含む血液試料であってよい。
図4Aに示す1つの動作モードでは、第1のバッファ流体BF1の流量を第2のバッファ流体BF2の流量に等しいかそれより大きくして、合流室170内の試料流体SPを排出チャネル140に入るように向けることができる。
図4Bに示す別のモードでは、第1のバッファ流体BF1及び第2のバッファ流体BF2の流量の少なくとも一方を、第1のバッファ流体BF1の流量が第2のバッファ流体NF2の流量より小さくなるように調整して、合流室170内の試料流体SPを入口チャネル150に入るように向けることができる。
図2のマイクロ流体チップ10の第1及び第2の細胞濃縮システム100A及び100Bの各々においてこの操作を用いることによって、排出チャネル140に入る試料流体SPはチップから排出することができ、入口チャネル150に入る試料流体SPは更に濾過室に搬送してそこで濃縮することができる。細胞濃縮処理中に、標的検出ステップを実行することができ、標的細胞検出ステップは試料流体SP内の非標的細胞TNCと標的細胞TGと選別することができる。
図4Aのモードは試料流体内に標的細胞TGが検出されないときに実行され、
図4Bのモードは標的細胞TGが検出されるときに実行されるため、チップ内において非標的細胞TNCは排出チャネル140から排出され、標的細胞TGは入口チャネル150に入り、選別されて濃縮され得る。従って、試料流体SPはチップ内に収集される前に選別することができる。
【0043】
一例では、試料チャネル130内を移動する試料流体SPの流量は65μl/minとし得る。いくつかの代替実施形態では、試料チャネル130内を移動する試料流体SPの流量は、試料流体SPが試料チャネル130への注入後から合流室170まで移動する時間が1ms未満になるように制御することができる。
図4Aのモードにおいて、好ましい実施形態によれば、第1の流体チャネル110を移動する第1のバッファ流体BF1の流量は約150μl/minとし、第2の流体チャネル120を移動する第2のバッファ流体BF2の流量は約135μl/minとして、試料流体SPを合流室170から排出チャネル140に入るように向けることができる。
図4Bのモードにおいて、好ましい実施形態によれば、第1の流体チャネル110を移動する第1のバッファ流体BF1の流量は約99μl/minとし、第2の流体チャネル120を移動する第2のバッファ流体BF2の流量は約600μl/minとして、試料流体SPを合流室170から入口チャネル150に入るように向けることができる。しかしながら、本発明は上記の流量値に限定されない。一般的に、各チャネルを移動する流体の流量は設計要求に基づいて変更することができ、例えば、各チャネルを移動する流体の流量は10μl/min〜1,000μl/minの範囲内とすることができる。
【0044】
更に、
図4A及び
図4Bに示す細胞濃縮処理は、マイクロ流体チップ10の第1及び第2の細胞濃縮システム100A及び100Bにおいて独立に実行することができる。即ち、第1の細胞濃縮システム100Aの試料チャネルに注入される試料流体と第2の細胞濃縮システム100Bの試料チャネルに注入される試料流体とは異なる。それゆえ、異なるモードが第1の細胞濃縮システム100A及び第2の細胞濃縮システム100Bにおいて同時に実行され得る。
【0045】
図5は本発明の一実施形態による細胞濃縮装置を概略的に示す。マイクロ流体チップ10は
図2に示すチャネルレイアウトを有し、いくつかの参照番号は本実施形態の装置の説明を明瞭にするために
図5では省略されている。従って、マイクロ流体チップ10の詳細構造は
図2の関連説明を参照されたい。
図5に示す装置1000は、マイクロ流体チップ10と、2つのスイッチSW1及びSW2と、第1のバッファサプライBS1、第2のバッファサプライBS2、及び接続チューブ、例えばCT1,CT2,CT3,及びCT4、を含む。スイッチSW1は第1の細胞濃縮システム100Aの第2の流体チャネル120Aに接続され、スイッチSW2は第2の細胞濃縮システム100Bの第2の流体チャネル120Bに接続される。具体的には、スイッチSW1はバッファスイッチ孔180Aに挿入されて第2の流体チャネル120Aに接続される接続チューブCT1に取り付けられ、スイッチSW2はバッファスイッチ孔180Bに挿入されて第2の流体チャネル120Bに接続される接続チューブCT2に取り付けられる。いくつかの実施形態では、スイッチSW1及びスイッチSW2の各々は、「オン」又は「活性」状態のとき接続チューブCT1又はCT2の流体通過を許可し、「オフ」又は「非活性」状態のとき接続チューブCT1又はCT2の流体通過を禁止する弁とすることができる。
【0046】
第1のバッファサプライBS1は、異なる接続チューブを介して第1の細胞濃縮システム100Aの第1の流体チャネル110A及び第2の細胞濃縮システム100Bの第1の流体チャネル110Bと流体連通状態にすることができる。装置1000を明瞭に示すために、第2の細胞濃縮システム100Bに接続するいくつかの接続チューブは省略されているが、第2の細胞濃縮システム100Bの第1の流体チャネル110Bの入口孔と第1のバッファサプライBS1との間に少なくとも1つの接続チューブが存在することが示されている。第1のバッファサプライBS1は第1のバッファ流体を第1の流体チャネル110A及び第1の流体チャネル110Bに独立に供給することができるため、第1の流体チャネル110A内を移動する第1のバッファ流体と第1の流体チャネル110B内を移動する第1のバッファ流体とは独立に制御することができる。いくつかの代替実施形態では、第1の流体チャネル110A内を移動する第1のバッファ流体と第1の流体チャネル110B内を移動する第1のバッファ流体とは異なるバッファサプライにより供給してもよい。
【0047】
第2のバッファサプライBS2は、第1の細胞濃縮システム100Aの第2の流体チャネル120A及び第2の細胞濃縮システム100Bの第2の流体チャネル120Bに第2のバッファ流体を供給するためにマイクロ流体チップ10に接続される。装置1000を明瞭に示すために、第2の細胞濃縮システム100Bに接続する接続チューブCT2は部分的に示されている。具体的には、第2のバッファサプライBS2は、接続チューブCT3及び第2のバッファ入口122孔Aを通して、並びに接続チューブCT1及びバッファスイッチ孔180Aを通して、第2の流体チャネル120Aと流体連通している。同様に、第2のバッファサプライBS2は、接続チューブCT4及び第2のバッファ入口孔122Bを通して、並びに接続チューブCT2及びバッファスイッチ孔180Bを通して、第2の流体チャネル120Bと流体連通している。いくつかの代替実施形態では、接続チューブCT1,CT2,CT3及びCT4の各々は4つの異なるバッファサプライにより供給してもよい。
【0048】
本実施形態では、装置1000は更に細胞検出器DCを含むことができる。細胞検出器DCは、第1の細胞濃縮システム100Aの試料チャネル130A及び第2の細胞濃縮システム100Bの試料チャネル130Bをモニターするために視野VFを有するレンズを含むことができる。いくつかの実施形態では、視野VFは、試料チャネル130A及び試料チャネル130Bの両方を同時に視野VF内で見るのに十分な大きさとすることができる。しかしながら、いくつかの代替実施形態では、細胞検出器DCはマイクロ流体チップ10の位置を移動させることによって試料チャネル130A及び試料チャネル130Bを視野VFの下で独立にモニターできるようにしてもよい。
【0049】
装置1000は、スイッチSW1及びSW2、第1及び第2のバッファサプライBS1及びBS2を制御するように構成されたプロセッサPRを含むことができる。詳しく言うと、
図4Aのモードにおいて、プロセッサPRは、第2の流体チャネル120A又は120Bにバッファフローを形成するために第2のバッファサプライBS2を制御し、そのバッファフローが合流室170A又は170Bにおいて試料チャネル130A又は130Bからの試料流体を排出チャネル140A又は140Bに入るように方向づけるよう構成することができる。
図4Bのモードにおいて、プロセッサPRは、第2の流体チャネル120A又は120Bのバッファ流体フローを調整するために第1のバッファサプライBS1及び第2のバッファサプライBS2を制御するとともにスイッチSW1又はSW2も制御し、第2の流体チャネル120A又は120Bの調整されたバッファフローが合流室170A又は170Bにおいて試料チャネル130A又は130Bからの試料流体を入口チャネル150A又は150Bに入るように方向づけるように構成することができる。
【0050】
具体的には、装置1000は更に光源LSを含むことができる。細胞濃縮処理中に、マイクロ流体チップ10は試料チャネル130A又は130Bの一部分が細胞検出器DCの視野VF内に位置し得るように細胞検出器DCの下に設置される。光源LSは細胞検出器DCの視野VF内のマイクロ流体チップ10の部分の上に光ビームLBを照射するように構成される。即ち、試料チャネル130A又は130Bの一部分及び光ビームLBの少なくとも一部分を視野VF内で同時に観察することができる。光ビームLBは標的細胞と非標的細胞とを区別し得る線状ビームとすることができる。例えば、試料流体は試料チャネル130A又は130Bに注入する前に試薬と混合して蛍光免疫測定を実行することができる。同じチャネル130A/130B内を移動する試料流体内の蛍光染色標的細胞は光ビームLBにより供給される特定の波長の光又はエネルギーを吸収し、異なる波長の光又はエネルギーを放出し得るため、ユーザは標的細胞が試料流体中に存在するかどうかを決定することができる。
【0051】
細胞濃縮処理中に、第1のバッファサプライBS1が第1のバッファ流体BF1を第1の細胞濃縮システム100A及び第2の細胞濃縮システム100Bに一定の流量で連続的に供給し、第2のバッファサプライBS2も第2のバッファ流体BF2を接続チューブCT3又はCT4を通して第1の細胞濃縮システム100A及び第2の細胞濃縮システム100Bに一定の流量で連続的に供給する。
図4Aのモード下、即ち標的細胞が検出器により検出されない場合、スイッチSW1及びSW2は「オフ」又は「不活性状態」であるため、接続チューブCT1及びCT2にバッファ流体は供給されない。それゆえ、BF1の流量はBF2の流量に等しいかそれより大きくなり、試料チャネル130A又は130Bに注入された試料流体は合流室170A又は170Bから排出チャネル140A又は140Bに入り、更に排出出口孔142A(
図2に示されている)からマイクロ流体チップ10外に排出される。
【0052】
図4Bのモード下、即ち試料チャネル130Aの試料流体中の標的細胞が検出されるとき、プロセッサはスイッチSW1及びSW2を「オン」又は「活性」状態に制御するため、バッファサプライBS2はバッファ流体をCT1及びCT2を通して供給して第2のバッファ流体BF2を増加する。それゆえ、第1のバッファ流体BF1の流量は第2のバッファ流体BF2の流量より小さくなり、第2の流体チャネル120を流れるバッファ流体の調整されたフローは合流室170内の試料流体を入口チャネル150Aに入るように向けることができる。
【0053】
1つの好ましい実施形態では、スイッチSW1の活性化は、例えば1ms〜200msの範囲内の期間に亘って維持することができる。どのように適切な期間を異なる試料に応じて決定するかは当業者に理解されよう。
【0054】
第1の細胞濃縮システム100A及び第2の細胞濃縮システム100Bは独立に動作するため、異なる試料流体を独立に選別することができ、第1の細胞濃縮システム100A及び第2の細胞濃縮システム100Bにおいて試料流体中の標的細胞を別々に収集し濃縮して、高い効率の細胞濃縮処理を提供することができる。
【0055】
装置1000において、同定用試薬が更に試薬システム200に注入されるようにすることで、同定用試薬を濾過室160A及び160Bに供給することができる。同定用試薬は更に、濾過室160A及び160B内で収集された細胞を同定することにより、濾過室160A及び160B内で収集されたゴースト標的細胞と真の標的細胞とを区別することができる。本実施形態では、2つの試料流体はそれぞれ第1の細胞濃縮システム100A及び第2の細胞濃縮システム100B内を流れることができ、1つの試薬システム200は第1の細胞濃縮システム100Aと第2の細胞濃縮システム100Bとにより共用されるが、汚染防止部220A及び220B(
図2に示されている)の構成によって第1の細胞濃縮システム100Aと第2の細胞濃縮システム100Bとの間の汚染が起こる可能性は低い。
【0056】
図6は、本発明の一実施形態によるマイクロ流体チップの細胞濃縮システムの濾過室を概略的に示す。
図6を参照すると、本実施形態の濾過室160は入口チャネル150と出口チャネル190との間に接続することができ、
図2に示すマイクロ流体チップ10の濾過室160A又は160Bの代表的な例とし得る。濾過室160は、濾過室160内に配置されたフィルタ壁162を含み、フィルタ壁162は濾過室160を第1の分室164A及び第2の分室164Bに分割する。フィルタ壁162は濾過室160内を蛇行させてよい。試料流体SPは入口チャネル150から濾過室160に入り、フィルタ壁162は試料流体SP中の選別された標的細胞TGをブロックして選別された標的細胞TGを第1の分室164A内に収集する。試料流体SPの液体の流れLFはフィルタ壁162を通過して第2の分室164Bに入る。最後に、試料流体SPの液体の流れLFは濾過室160から出口チャネル190へと出ていき、更に出口チャネル190の末端の出口孔からマイクロ流体チップ外に排出される。
【0057】
図7は
図6に示すフィルタ壁の拡大部分Bを概略的に示す。
図6及び
図7を参照すると、フィルタ壁162は複数の貫通スリット162Aを含む。複数の貫通スリット162Aの各々はフィルタ壁62を横断して第1の分室164Aと第2の分室164Bとの間の流体連通を形成する。いくつかの実施形態では、貫通スリット162Aの各々の幅W162Aは5μmとし、2つの隣接するスリット162A間の距離D162Aは10μmとしてよく、フィルタ壁162はその壁に配列された100〜100,000の貫通スリット162Aを有してよい。更に、フィルタ壁162の全長は設計要件に基づいて決定してよい。
【0058】
図8はフィルタ壁の一部分の拡大斜視図を概略的に示す。
図6、
図7及び
図8を参照すると、第1の分室164Aと第2の分室164Bとに分割するフィルタ壁162は更に、フィルタ壁162の第1の分室164Aに面する側に配置されたルーフ状構造部162Bを含んでよい。ルーフ状構造部162Bは
図7に示すように貫通スリット162Aと第1の分室164Aとの間に配置してよい。ルーフ状構造部162Bはブロックエッジ部BEとブロックエッジ部BEからへこんだ凹部RCとを画定する。いくつかの実施形態では、凹部RCの高さHRCはフィルタ壁162の高さH162より小さく、凹部RCの幅WRCはフィルタ壁162の幅W162より小さい。例えば、凹部RCの高さHRC及び凹部RCの幅WRCは細胞濃縮処理の要件及び設計に基づいて決定してよい。例えば、細胞濃縮処理のための試料流体が全血試料であり、濃縮すべき標的細胞が赤血球である場合には、凹部RCの高さHRCは5μm、凹部RCの幅WRCは10μmとしてよい。
【0059】
ブロックエッジ部BEは第1の分室164A内の選別された標的細胞TGをブロックし得る。貫通スリット162Aの各々は凹部RCにおいて開いているため、ブロックエッジ部BEにもたれる選別された標的細胞TGが貫通スリット162Aを閉じる又は塞ぐことはできない。従って、選別された標的細胞TGはフィルタ壁162にもたれるが、第1の分室164Aと第2の分室164Bとの間の流体連通は貫通スリット162Aを通してスムースで容易なままとなる。加えて、選別された標的細胞TGは第1の分室164Aから第2の分室164Bへ流れる流体のフローストレスにより変形されることなくその形状を維持することができる。
【0060】
図9は本発明の一実施形態によるフィルタ構造を概略的に示す。
図9を参照すると、フィルタ構造300は、
図2のマイクロ流体チップ10内のフィルタ部114A,114B,124A,124B,134A及び134B、並びに汚染防止部220A及び220Bの代表的な構造とし得る。フィルタ構造300は第1の部分300A及び第2の部分300Bを有する。第1の部分300A及び第2の部分300Bの各々は複数のフィルタスリット302、複数のフィルタスリット304及び複数のフィルタスリット306を含む。フィルタ構造300に流入する流体FLは最初に第1の部分300Aのフィルタスリット302により2つのサブフローに分割され、第1の部分300Aのフィルタスリット302内を流れる各サブフローは更に第1の部分300Aのフィルタスリット304のフィルタスリット304により2つのサブフローに分割され、第1の部分300Aのフィルタスリット304を流れる各サブフローは更に第1の部分300Aのフィルタスリット306により2つのサブフローに分割され得る。第1の部分300Aのフィルタスリット306内を流れるサブフローは第2の部分300Bのフィルタスリット306、フィルタスリット304及びフィルタスリット302を順に通過する。従って、流体FL中の粒子又は大きな汚染物質はフィルタ構造300をほとんど通過し得ない。いくつかの実施形態では、各二次フィルタスリット304の幅は0.075mmとし、各フィルタスリット306の幅は0.05mmとしてよい。加えて、第1の部分300Aのフィルタスリット306を通過した粒子が第2の部分300Bのフィルタスリット306によりブロックされ得るように、第2の部分300Bのフィルタスリット306は第1の部分300Aのフィルタスリット306と整列しない位置にしてよい。
【0061】
以上の説明を考慮すると、本発明の実施形態に係るマイクロ流体チップは、マイクロ流体チップの細胞濃縮処理を、2つの試料を同時に流して実行できるようにシステマティックに配置された2つの独立の細胞濃縮システムを有し、細胞濃縮効率を向上し得る。いくつかの実施形態によれば、マイクロ流体チップ内の細胞は収集前に選別されるため、本発明の装置及び/又は方法を用いる細胞濃縮は標的細胞の高い濃縮率を有し得る。いくつかの実施形態では、細胞濃縮システム内の濾過室のフィルタ壁は選別された細胞を貫通スリットより前でブロックするルーフ状構造部を有し得るため、フィルタ壁により分割された2つの分室間の流体連通はスムースで容易なままとなり、これは選別された細胞の形状を維持するためにも役立つ。
【0062】
本発明の範囲又は精神から逸脱することなく様々な修正及び変更を本発明の構造に成し得ることは当業者に明らかである。以上を考慮すると、本発明はこれらの修正及び変更をそれらが後記の請求項及びそれらの均等物の範囲に含まれるならばカバーすることを意図している。
【0063】
本発明によるマイクロ流体チップ及び細胞濃縮装置並びに方法はバイオ関連分野、例えば生物医学、生物化学又は関連分野などに適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
10,MFC:マイクロ流体チップ
100:細胞濃縮システム
100A:第1の細胞濃縮システム
100B:第2の細胞濃縮システム
110,110A,110B:第1の流体チャネル
112A,112B:第1のバッファ入口孔
114A,114B,124A,124B:フィルタ部
120,120A,120B:第2の流体チャネル
122A,122B:第2のバッファ入口孔
130,130A,130B:試料チャネル
132A,132B:試料入口孔
134A,134B:フィルタ部
136A:第1の内壁
136B:第2の内壁
138A:第1の外壁
138B:第2の外壁
140,140A,140B:排出チャネル
142A,142B:排出出口孔
150,150A,150B:入口チャネル
160,160A,160B:濾過室
162:フィルタ壁
162A:貫通スリット
162B:ルーフ状構造部
164A:第1の分室
164B:第2の分室
170,170A,170B:合流室
180A,180B:バッファスイッチ孔
190,190A,190B:出口チャネル
192A,192B:出口孔
200:試薬システム
210:試薬入口
220:試薬チャネル
220A,220B:汚染防止部
222:第1の分岐
224:第2の分岐
230:気泡トラップ室
300:フィルタ構造
300A:第1の部分
300B:第2の部分
302,304,306:フィルタスリット
1000:装置
A:領域
B:拡大部分
BE:ブロックエッジ部
BF1:第1のバッファ流体
BF2:第2のバッファ流体
BS1:第1のバッファサプライ
BS2:第2のバッファサプライ
CH:チャネル
CFL:チャネル形成層
CT1,CT2,CT3,CT4:接続チューブ
D,D162A:距離
DC:細胞検出器
FL:流体
H162,HCH,HRC:高さ
HL:孔
LB:光ビーム
LF:液体フロー
LS:光源
PR:プロセッサ
RC:凹部
RP:反射面
SP:試料流体
SUB:基板
SW1,SW2:スイッチ
TG:標的細胞
TNC:非標的細胞
VF:視野
W162,W162A,WCH,WRC:幅