特許第6884733号(P6884733)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6884733
(24)【登録日】2021年5月14日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】遠隔操作式小型油圧ショベル
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/16 20060101AFI20210531BHJP
【FI】
   E02F9/16 B
   E02F9/16 K
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-124736(P2018-124736)
(22)【出願日】2018年6月29日
(65)【公開番号】特開2020-2701(P2020-2701A)
(43)【公開日】2020年1月9日
【審査請求日】2020年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 一晶
【審査官】 松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−255241(JP,A)
【文献】 実開平06−082160(JP,U)
【文献】 特開平10−270926(JP,A)
【文献】 特開2015−140156(JP,A)
【文献】 特開昭63−280500(JP,A)
【文献】 特開2015−205629(JP,A)
【文献】 特開平06−092486(JP,A)
【文献】 特開2009−183604(JP,A)
【文献】 特開2000−096609(JP,A)
【文献】 特開平11−050491(JP,A)
【文献】 特開2006−168612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行体、前記走行体の上部に旋回可能に設けられた旋回フレーム、前記旋回フレームの前部に取り付けられた作業機、前記旋回フレームの後部に設けられた油圧ポンプ、前記油圧ポンプを駆動する原動機、前記旋回フレームの後部に設けられ前記油圧ポンプ及び前記原動機を収容した機械室、前記油圧ポンプから対応する油圧アクチュエータへの圧油の流れを制御する複数のコントロールバルブ、前記コントロールバルブを駆動する作動油を制御する複数の電磁弁、及び無線操作装置からの信号に応じて前記電磁弁を制御するコントローラを内蔵したコントローラボックスを備えた遠隔操作式小型油圧ショベルにおいて、
前記機械室の上部に設けたスライドレールを備え、
前記コントローラボックスが、前記スライドレールを介して前記機械室の上部に水平方向にスライド可能に設けられており、前記機械室の上部からスライド移動することにより前記機械室の上部に設けたメンテナンス開口が開放されるように構成されていることを特徴とする遠隔操作式小型油圧ショベル。
【請求項2】
請求項1に記載の遠隔操作式小型油圧ショベルにおいて、前記スライドレールが前記コントローラボックスの側部に取り付けられていることを特徴とする遠隔操作式小型油圧ショベル。
【請求項3】
請求項1に記載の遠隔操作式小型油圧ショベルにおいて、前記コントローラボックスが前後にスライドすることを特徴とする遠隔操作式小型油圧ショベル。
【請求項4】
請求項1に記載の遠隔操作式小型油圧ショベルにおいて、前記機械室のメンテナンス開口を覆った位置と露出させた位置とでそれぞれ前記コントローラボックスを固定する固定機構が設けられていることを特徴とする遠隔操作式小型油圧ショベル。
【請求項5】
請求項1に記載の遠隔操作式小型油圧ショベルにおいて、前記コントローラボックスに引手が設けられていることを特徴とする遠隔操作式小型油圧ショベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は既存の油圧ショベルをベースにして構成した遠隔操作式小型油圧ショベルに関し、特に既存の油圧ショベルの構成を活かして簡易に構成でき原動機等のメンテナンス性に優れた遠隔操作式小型油圧ショベルに係る。
【背景技術】
【0002】
例えば瓦礫や土石、流木等が散乱した災害復旧現場では、作業場所までの移動経路に様々な障害物がある。このような様々な障害物のある現場では汎用性の高い小型の油圧ショベルが有用である。中でも旋回体の後端の旋回半径が走行体の車幅程度の寸法に抑えられた後方小旋回型の油圧ショベル(特許文献1等参照)に対する要望が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−221591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
災害復旧現場等では二次災害の発生を抑制する必要があり、またオペレータの立ち入りが制限される領域があるため、遠隔操作が可能な油圧ショベルが必要となる。しかし、設計段階から遠隔操作仕様機として製造された小型油圧ショベルは流通数が少なく高価であり、災害復旧の場面で迅速に調達することは必ずしも容易ではない。
【0005】
そこで、オペレータが搭乗して操作する一般的な小型油圧ショベルをベースにして遠隔操作仕様機を製造することが考えられる。その際、災害復旧現場への迅速投入の観点から既存の油圧ショベルの構成を活かして極力簡易な工程で遠隔操作仕様機に改修することが重要である。また、迅速な災害復旧に貢献するためには稼働率も重要であり、高い稼働率を維持するために原動機等のメンテナンスの作業効率にも考慮する必要がある。
【0006】
本発明の目的は、既存の油圧ショベルの構成を活かして簡易に構成でき、原動機等のメンテナンス性に優れた遠隔操作式小型油圧ショベルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、走行体、前記走行体の上部に旋回可能に設けられた旋回フレーム、前記旋回フレームの前部に取り付けられた作業機、前記旋回フレームの後部に設けられた油圧ポンプ、前記油圧ポンプを駆動する原動機、前記旋回フレームの後部に設けられ前記油圧ポンプ及び前記原動機を収容した機械室、前記油圧ポンプから対応する油圧アクチュエータへの圧油の流れを制御する複数のコントロールバルブ、前記コントロールバルブを駆動する作動油を制御する複数の電磁弁、及び無線操作装置からの信号に応じて前記電磁弁を制御するコントローラを内蔵したコントローラボックスを備えた遠隔操作式小型油圧ショベルにおいて、前記機械室の上部に設けたスライドレールを備え、前記コントローラボックスが、前記スライドレールを介して前記機械室の上部に水平方向にスライド可能に設けられており、前記機械室の上部からスライド移動することにより前記機械室の上部に設けたメンテナンス開口が開放されるように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
走行体、旋回フレーム、作業機、油圧ポンプ、原動機、機械室、コントロールバルブ等、オペレータの搭乗操作とは関係のない機器についてはベースマシンのものを用いることができる。本発明に係る油圧ショベルにおいては、コントロール弁を制御する電磁弁とこれを制御するコントローラを新たに設けている。特にコントローラボックスについては機械室の上部にスライド可能に配置したことで、コントローラボックスをスライド移動させて機械室の上面のメンテナンス開口を開放することができる。本発明によれば、原動機等のメンテナンス性に優れた遠隔操作式小型油圧ショベルを既存の油圧ショベルの構成を活かして簡易に構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る遠隔操作式小型油圧ショベルの側面図
図2図1の油圧ショベルを後方から見た背面図
図3図1の油圧ショベルの旋回体の全体構成を左前から見た斜視図
図4図3の旋回体のフロアパネルを取り外した状態を表す平面図
図5図3の旋回体のフロアパネルを取り外した状態を左前から見た斜視図
図6図3の旋回体のフロアパネル、フロントパネル及びサイドパネルを取り外した状態を左前から見た斜視図
図7図1の油圧ショベルにカメラ装置を搭載した状態を表す図
図8図3の旋回体のコントローラボックスをスライドさせた状態を表す平面図(メンテナンス開口が閉じた状態)
図9図3の旋回体のコントローラボックスをスライドさせた状態を表す平面図(メンテナンス開口が開いた状態)
図10図9に示した旋回体を左後から見た斜視図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
−遠隔操作式小型油圧ショベル−
図1は本発明の一実施形態に係る遠隔操作式小型油圧ショベルの側面図、図2は後方から見た背面図である。本願明細書では図1の左右を前後とする。図1及び図2に示した遠隔操作式小型油圧ショベルは、オペレータが搭乗して操縦するいわゆる後方超小旋回機をベースマシンとして遠隔操作仕様機に改修した機体である。後述する「−走行体」「−旋回体−」「−作業機−」の欄で説明する要素は、フロアパネル25を除いて全てベースマシンのものを流用しており、配置についてもベースマシンにおける配置と同じである。なお、後方小旋回機とは、狭隘な現場での作業を想定して後端旋回直径が走行体の全幅と同程度以下(クローラ全幅の120%以下)となるように設計された油圧ショベルである。本願明細書における以下の記載においては遠隔操作式小型油圧ショベルを油圧ショベルと略称し、特に断り書きなく「油圧ショベル」と記載した場合には本実施形態に係る遠隔操作式小型油圧ショベルを指すこととする。油圧ショベルは、走行体10、旋回体20及び作業機40を備えている。
【0012】
−走行体−
走行体10は、左右の走行装置11及びセンタフレーム12(図2)を備えている。左右の走行装置11はクローラ式であり、サイドフレーム11a、従動輪11b、駆動輪11c、走行モータ(不図示)、減速機11e、履帯11fをそれぞれ備えている。左右のサイドフレーム11aは走行方向(図1中に左右方向)に延び、長手方向の一方側(図1では左側)に従動輪11bを、他方側(同図では右側)に駆動輪11cを支持している。走行モータは左右のサイドフレーム11aの長手方向の他方側に支持されており、減速機11eを介して出力軸が駆動輪11cに連結されている。履帯11fは左右の走行装置11のそれぞれにおいて従動輪11bと駆動輪11cとの間に掛け回されている。走行モータが駆動されると減速機11eを介して駆動輪11cに回転動力が伝達され、駆動輪11cと従動輪11bとの間で履帯11fが循環駆動する。
【0013】
センタフレーム12は左右の走行装置11(サイドフレーム11a)を連結すると共に、上部に旋回体20を支持する。このセンタフレーム12は左右のサイドフレーム11aと共に走行体10のフレーム、つまりトラックフレームを構成する。センタフレーム12には排土装置13が設けられている。排土装置13はセンタフレーム12の走行方向の一方側(図1では左側)に連結されている。この排土装置13はブレード昇降シリンダ(不図示)及びブレード13bを備えており、ブレード昇降シリンダの伸縮動作に伴ってリンク機構を介してブレード13bが昇降するようになっている。なお、詳しい説明は省略するがセンタフレーム12は左右の幅が可変な構造としてあり、図2に二点鎖線で示したように左右の走行装置11の間隔は油圧シリンダ(不図示)を伸長することで拡大できるようになっている。本実施形態の冒頭に記載した走行体の全幅は、左右の走行装置11の間隔が最も広い状態の全幅である。油圧ショベルは左右の走行装置11の間隔を狭めた状態で間隔の狭い障害物の間を通り抜けることができる一方で、左右の走行装置11の間隔を拡げて作業時等の機体安定性を向上させることができる。
【0014】
−旋回体−
旋回体20は、旋回フレーム21(図6)、カウンタウェイト22、シートベース23、運転席24、フロアパネル25等を備えている。旋回フレーム21は旋回体20の基礎支持構造体であり、旋回輪26を介して走行体10の上部に旋回可能に設けられている。旋回フレーム21上における後側のエリアにはシートベース23が配置されている。このシートベース23は油圧ショベルのベースマシンにおいて運転席を支持していた部材であると同時に機械室(エンジンカバー)を兼ねている。シートベース23の外周は外装カバー28で覆われている。カウンタウェイト22は作業機40とのバランスをとるための錘であり、旋回フレーム21の後縁部に設けられている。カウンタウェイト22の後縁部の旋回半径が油圧ショベルの後方旋回径となるが、本実施形態の油圧ショベルは小型機種であり、後方旋回径が走行体10の車幅の半分程度に抑えられている。
【0015】
シートベース23の内部空間は前後に仕切られており、油圧ポンプ(不図示)、パイロットポンプ(同)、これらポンプを駆動するエンジン29(図1中の破線参照)等の機器が後側の空間に収容されている。本実施形態では油圧ポンプやパイロットポンプを駆動する原動機としてエンジン29(内燃機関)を用いた場合を例示したが、エンジン29の代わりに電動機が採用され得る。本例の油圧ショベルでは取り除かれているが、ベースマシンではエンジン29の上方に運転席がレイアウトされていた。一方、シートベース23内の前側の空間には、リレーやヒューズ等の電気機器が収容されている。シートベース23の前面には電子機器を収容した前側の空間を開閉する開閉蓋23aが設けられている(図3図6)。
【0016】
旋回フレーム21の前部における左右方向の他方側(本例では右側)には作動油タンク及び燃料タンク(いずれも不図示)が搭載されており、これらがタンクカバー27で覆われている。作動油タンクに貯留された作動油が油圧ポンプやパイロットポンプから吐出され、油圧アクチュエータ(ブームシリンダ45等)やコントロールバルブユニット36(後述)が駆動される。また、旋回フレーム21の前部(シートベース23の前側のスペース)には作業機40を取り付けるためのブラケット31が設けられている。ブラケット31は旋回フレーム21の前部において前後に延びて前端が旋回フレーム21から前方に突出しており、旋回フレーム21の前部のスペースを左右に仕切っている(図6)。ブラケット31には鉛直な軸を介してスイングポスト37が連結される。スイングポスト37がスイングシリンダ35(図4)により左右に回動駆動される。
【0017】
フロアパネル25はシートベース23の前側に位置している。このフロアパネル25の下側にはコントロールバルブユニット36(図1中の破線)が配置されている。コントロールバルブユニット36は、油圧ポンプから対応する油圧アクチュエータ(ブームシリンダ45等)への圧油の流れを制御する複数のコントロールバルブからなる。このコントロールバルブユニット36は旋回フレーム21の上面に支持具を介して支持されており、シートベース23の前側で上記ブラケット31の左右方向の一方側(本例では左側)に全部が位置している。
【0018】
−作業機−
作業機40は土砂の掘削等の作業をするために旋回体20の前部に設けた多関節型のフロント作業機(本実施形態ではスイングポスト式)であり、作業腕41及びアタッチメントである作業具44を含んで構成されている。作業腕41は、ブーム42、アーム43、ブームシリンダ45、アームシリンダ46及び作業具シリンダ47を備えている。ブーム42は旋回体20のブラケット31(厳密にはスイングポスト37を構成する一部材)に回動可能に連結され、アーム43はブーム42の先端に、作業具44はアーム43の先端に、それぞれ回動可能に連結されている。ブーム42、アーム43及び作業具44はいずれも左右に水平に延びる回転軸を支点にして回動する。図1では作業腕41に作業具44としてバケットを装着した例を表しているが、装着されるアタッチメントの種類はこれに限られない。ブームシリンダ45は旋回体20(スイングポスト37)及びブーム42に、アームシリンダ46はブーム42及びアーム43に、それぞれ両端が連結されている。作業具シリンダ47は、基端がアーム43に連結される一方、先端がリンク48を介してアーム43の先端部及び作業具44に連結されている。ブームシリンダ45、アームシリンダ46及び作業具シリンダ47はいずれも油圧アクチュエータであり、油圧ポンプから吐出される圧油で駆動され、伸縮動作により作業機40を駆動する。
【0019】
−換装品−
ベースマシンでは、減圧弁付きの操作装置(操作レバーやペダル)がシートベース23の前側のスペース(フロアパネル25の領域)に配置され、シートベース23の上部に運転席やキャノピ等が設置されていた。本実施形態の油圧ショベルではこれら操作装置や運転席、キャノピ等、オペレータの搭乗を想定した機器類が取り除かれ、無線による遠隔操作用の機器が代わりに設置されている。具体的には電磁弁ユニット51〜53や受信機付きのコントローラボックス61等である。電磁弁ユニット51〜53は複数の電磁弁54(図4)からなる。コントローラボックス61は、離れた場所でオペレータが操作する無線操作装置(不図示)からの信号に応じて電磁弁54を制御するコントローラを内蔵している。ベースマシンは、例えば操作レバーにより減圧弁を操作することでパイロットポンプの吐出圧力を元圧とする油圧信号が生成され、これによりコントロールバルブが駆動されて作業機40等が動作する構成であった。それに対し、本例の油圧ショベルは、離れた場所でオペレータが操作する無線操作装置からの操作信号に応じてコントローラで生成された電気信号により電磁弁54が適宜駆動され、対応するコントロールバルブが駆動される構成に改造されている。
【0020】
・電磁弁
図3は旋回体20の全体構成を左前から見た斜視図である。図4はフロアパネル25を取り外した状態の旋回体20の平面図、図5は左前から見た斜視図である。図6はフロアパネル25、フロントパネル24a及びサイドパネル24bを取り外した状態の旋回体20を左前から見た斜視図である。これらの図に示したように、旋回フレーム21上におけるシートベース23の前側の領域には、コントロールバルブユニット36や電磁弁ユニット51〜53を収容したバルブボックス30が設けられている。バルブボックス30は、ポストP1〜P3やクロスメンバC1,C2等のフレーム(図6)、上記フロアパネル25(図3)、フロントパネル24a(同)及びサイドパネル24b(同)を備えている。
【0021】
ポストP1〜P3及びクロスメンバC1,C2はチャンネル材等の鋼材で形成されており、ボルト等で互いに固定され、旋回フレーム21に対してもボルト等で固定されている。ポストP1〜P3は旋回フレーム21から上方に延びる。ポストP1は旋回フレーム21の左右方向の一方側(本例では左側)の縁部でかつ前側の縁部(コーナー部)上に位置している。ポストP2は旋回フレーム21の前縁でブラケット31を挟んでポストP1の反対側に位置しタンクカバー27に近接している。ポストP3は旋回フレーム21の左右方向の一方側の縁部においてポストP1の後側でシートベース23の前側に位置している。クロスメンバC1は平面視で左右方向に延びる長辺の一端(本例では左端)から後方に短辺を延ばしたL字型に形成されており、ポストP2,P1,P3の上端に渡されて旋回フレーム21の縁部に沿って配置されている。クロスメンバC1の高さ位置はブラケット31の上端より高く、シートベース23の上面よりは低い。クロスメンバC2は直線状に形成されており、旋回フレーム21の前縁に沿って配置されてポストP1,P2の中腹を連結している。このクロスメンバC2は、上段のクロスメンバC1の左右方向に延びる部分(旋回フレーム21の前縁に沿う部分)と共にブラケット31を左右に跨いで延在している。
【0022】
クロスメンバC1の上面には前述したフロアパネル25が開閉蓋としてボルト等で取り付けられており、フロアパネル25を着脱することでバルブボックス30の上面が開閉できるようになっている。またポストP1,P2の間(つまりバルブボックス30の前面)はフロントパネル24aで、ポストP1,P3の間(つまりバルブボックス30の側面)はサイドパネル24bでカバーされている。またバルブボックス30の後側はシートベース23で、バルブボックス30の右側は作動油タンク等でカバーされている。フロントパネル24a及びサイドパネル24bはフレームに対してボルト等で取り付けられていて着脱可能であり、これらを着脱することでバルブボックス30の前面及び側面がそれぞれ開閉できるようになっている。
【0023】
電磁弁ユニット51〜53は、それぞれ一列に並べて配置した複数の電磁弁54を含んで構成されている。電磁弁ユニット51,52を構成する各電磁弁54は、ブームシリンダ45、アームシリンダ46、作業具シリンダ47、走行モータ、及び旋回モータに対応するコントロールバルブを駆動するものである。電磁弁ユニット53を構成する各電磁弁54は、作業具44として油圧アタッチメント(油圧アクチュエータを備えたアタッチメント)を設けた場合に、油圧アタッチメントに備わった油圧アクチュエータに対応するコントロールバルブを駆動するものである。油圧アタッチメントの使用が想定されない場合には電磁弁ユニット53は省略可能である。
【0024】
電磁弁ユニット51,52はクロスメンバC1の長辺部分(左右方向に延びる部分)に左右に並べて取り付けられており、旋回フレーム21から間隔を空けて(浮かせて)複数のコントロールバルブ(コントロールバルブユニット36)の上方に配置してある。これら電磁弁ユニット51,52を構成する電磁弁54は、クロスメンバC1の長辺部分に沿って(つまり平面視で旋回フレーム21の前縁に沿って)ブラケット31を跨いで左右に一列に並んで配置されている。旋回フレーム21の前縁に沿って配置されているため、電磁弁ユニット51,52に属する電磁弁54とシートベース23の前面との間には広い間隔(スペース)が確保されている。メンテナンスの際にはフロアパネル25を取り外すことで、この電磁弁ユニット51,52とシートベース23との間のスペースを介してコントロールバルブユニット36に上方からアクセスできるようになっている(図4)。また、フロアパネル25を取り外すことでシートベース23の前面の開閉蓋23aが露出し(図6)、開閉蓋23aを取り外してシートベース23の前部に収容した電子機器にもアクセスできる(図5)。また、バルブボックス30は旋回フレーム21の前部で作動油タンクに隣接するスペースの幅一杯にブラケット31を跨って設けられており、面積を確保して高さを抑えることで比較的扁平に(前後及び左右の寸法よりも上下の寸法が小さく)構成されている。電磁弁54を設置したことでフロアパネル25の位置はベースマシンのものより高くなってはいるが、バルブボックス30を扁平な形状としたことで作動油タンク(タンクカバー27)の上面よりも低く抑えられている。
【0025】
電磁弁ユニット53はクロスメンバC1の短辺部分(長辺部分の一端から後方に延びる部分)に設けられており、旋回フレーム21から間隔を空けて(浮かせて)コントロールバルブユニット36の上方に配置してある。クロスメンバC1の短辺部分に取り付いていることから、電磁弁ユニット53は平面視で旋回フレーム21の左右方向の一方側の縁部(本例では左縁)に沿って配置されており、電磁弁ユニット51〜53を構成する電磁弁54がL字型に配列されている。旋回フレーム21の左右方向の一方側の縁部に電磁弁ユニット53を配置することで、前述したコントロールバルブユニット36へのアクセススペースに対する電磁弁ユニット53の干渉を抑えている(図4)。
【0026】
・コントローラボックス
上記コントローラボックス61は、シートベース23の上部に配置されている。コントローラボックス61に収容された受信機付きのコントローラ(コンピュータ)は電磁弁ユニット51〜53の各電磁弁54と結線されている。コントローラは、オペレータが操作する無線操作装置(不図示)からの操作信号を受信し、対応する電磁弁54に指令することで走行体10、旋回体20、作業機40の動作を制御する。また、コントローラボックス61の左右方向の他方側(本例では右側)にはキースイッチやモニタ等を備えたコンソール33等が設置されている。またコントローラボックス61の上面には四隅に台座62が設けられており、図7に示したようにカメラ装置Xが搭載されることが想定されている。カメラ装置Xは無線を介して撮影した画像及び映像の信号を出力する。この信号を受信することでオペレータは離れた場所でカメラ装置Xによる油圧ショベルの周囲の状況をモニタ画面でリアルタイムに確認することができる。
【0027】
図8及び図9はコントローラボックス61をスライドさせた状態の旋回体20の平面図であり、図8はメンテナンス開口65を閉じた状態、図9はメンテナンス開口65を開けた状態を表している。図10図9に示した旋回体を左後から見た斜視図である。本実施形態においては、シートベース23の上部にスライドレール63が設けられている。コントローラボックス61は、このスライドレール63を介してシートベース23の上部に水平方向にスライド可能に設けられている。スライドレール63はコントローラボックス61やカメラ装置Xの重量に耐え得るように十分な耐荷重を持つものが選択されている。スライドレール63は、アウターレールに対してインナーレールが長手方向に出入りして伸縮し、アウターレールとインナーレールの間にボール又はローラを介在させてスライド時の摩擦抵抗を抑えた構造である。コントローラボックス61及びシートベース23のいずれか一方にアウターレールを、他方にインナーレールを取り付けることで、シートベース23に対してコントローラボックス61がスライド可能に支持される。本実施形態においては扁平な(前後及び左右の寸法よりも上下の寸法が小さい)直方体状のコントローラボックス61の左右両側の側面にスライドレール63のインナーレールが複数のブラケット(不図示)を介して固定されている。スライドレール63のアウターレールは複数のブラケット(不図示)を介してシートベース23の上面に固定されている。つまりスライドレール63は前後に延びる姿勢で取り付けられており、左右のスライドレール63によってコントローラボックス61が前後にスライドする構成である。コントローラボックス61の前面には引手64(取っ手)が設けられており、コントローラボックス61をスライドさせる際に利用できる。
【0028】
このとき、シートベース23の上面にはメンテナンス開口65(図9)が設けられている。メンテナンス開口65の四辺はシートベース23の上面の四辺に沿っており、メンテナンス開口65によりシートベース23の上面が広く開口するようになっている(図9)。このメンテナンス開口65は通常はカバー66(図8)で塞がれており、更にカバー66の上方にコントローラボックス61が位置している。シートベース23の上部からコントローラボックス61をスライド移動させることによりシートベース23の上面が露出し、カバー66を取り外すことでメンテナンス開口65が開放できる構成である。
【0029】
また、本実施形態ではコントローラボックス61を固定する固定機構が備わっている。固定機構はスライドレール63に対応する位置(本例ではコントローラボックス61の左右両側)に設けられており、複数組(片側3組ずつ)の台座67及び貫通孔68を含んで構成されている。台座67及び貫通孔68はスライドレール63に沿って間隔を空けて配置されている。本実施形態の場合、シートベース23の上面における左右両側の縁部において、前端、後端及びその中間の位置に台座67が配置されている。貫通孔68はコントローラボックス61の左右の側面に設けた水平プレート部に台座67に対応して設けられている。コントローラボックス61がシートベース23の上方に位置した(スライドレール63が収縮した)状態では、6組全ての台座67及び貫通孔68の位置が一致し、6箇所全てにおいて貫通孔68を介してボルトBを台座67に締め込むことができる。またコントローラボックス61がシートベース23の上方からスライド移動した(スライドレール63が伸長した)状態でも、前側の台座67と後側の貫通孔68の位置が一致し、この2箇所において貫通孔68を介してボルトBを台座67に締め込むことができる。固定機構はこのようにメンテナンス開口65を覆った位置(スライドレール63を収縮させた状態)とメンテナンス開口65を露出させた位置(スライドレール63を収縮させた状態)とでそれぞれコントローラボックス61が固定できるように構成されている。
【0030】
−効果−
(1)本実施形態の油圧ショベルにおいては、オペレータの搭乗操作用の機器を除き、走行体10や作業機40は元より、エンジン29やポンプ、コントロールバルブユニット36を含むベースマシンの大部分の部品を活かして構成されている。追加部品としては、複数の電磁弁54やコントローラボックス61の他、コントロールバルブユニット36と共に電磁弁54を収容するバルブボックス30を設けている。特にコントローラボックス61についてはシートベース23の上部にスライド可能に配置したことで、コントローラボックス61をスライド移動させて機械室の上面のメンテナンス開口65を開放することができる。これによりエンジン29等の機械室内の機器のメンテナンスを容易化することができる。
【0031】
以上のように、本実施形態の油圧ショベルは、既存の油圧ショベル(ベースマシン)の構成を活かして簡易に構成でき、災害復旧現場へ迅速に投入することができる。またエンジン29等のメンテナンス性が良いのでメンテナンス時間の短縮により高い稼働率が確保でき、迅速な災害復旧への貢献も期待できる。
【0032】
なお、コントローラボックス61は重量物であり、図7に示したようにカメラ装置Xが更に取り付けられる場合もある。例えばメンテナンス開口65を露出させる限りにおいてはヒンジを介してコントローラボックス61を上方に傾斜させる構造にすることも考えられるが、コントローラボックス61の重量を考慮すると実用的とは言えない。また傾斜させる構成ではシートベース23の上部に戻す際に勢い余って過度な衝撃が加わり得る。搭載され得るカメラ装置Xも含めてコントローラボックス61が精密機器であることを考慮すると好ましくない。それに対し本実施形態はコントローラボックス61が水平方向にスライドする構成であるため、コントローラボックス61を移動させるのに強い力を要さず、コントローラボックス61を移動させる際の衝撃も抑制できる。
【0033】
(2)本実施形態ではスライドレール63がコントローラボックス61の側部に取り付けられている。この場合、コントローラボックス61の下側にスライドレール63を配置した場合に比べてコントローラボックス61の配置を低くすることができ、低重心で安定性の高い油圧ショベルを提供できる。但し、本質的な上記効果(1)を得る限りにおいてはコントローラボックス61の下側にスライドレール63を配置した構成であっても良い。
【0034】
(3)メンテナンス開口65を覆った位置と露出させた位置とでそれぞれコントローラボックス61を固定する固定機構を採用しているので、遠隔操作時は当然のこと、メンテナンス時においてもコントローラボックス61がスライドすることを防止できる。メンテナンス開口65の開放時にコントローラボックス61が移動するようなことがないので、作業者はメンテナンス作業に集中できる。なお、コントローラボックス61を固定する限りにおいてはクランプを用いた構造等も考えられるが、本実施形態のように複数のボルトBを用いた構造とすることによりコントローラボックス61の固定構造の信頼性を高めることができる。
【0035】
(4)コントローラボックス61に引手64を設けたことにより、コントローラボックス61を円滑にスライドさせられる。
【0036】
(5)本実施形態においては、コントロールバルブユニット36もベースマシンにおいて機械室であるシートベース23の前側に配置されていたものが活用されている。既存のコントロールバルブユニット36が配置されているスペースにバルブボックス30を設置し、コントロールバルブユニット36と共に電磁弁54を追加した形である。その際、複数の電磁弁54はバルブボックス30の内部でコントロールバルブユニット36の上方に立体的に配置され、かつ旋回フレーム21の前縁に沿ってブラケット31を跨いで左右方向に並べた。このようにコントロールバルブユニット36とは異なる態様でブラケット31を跨いで左右に長い列状に電磁弁54を並べることで、コントロールバルブユニット36の上方においてシートベース23と電磁弁54の間の間隔を確保できる。この間隔が確保されていることにより、フロアパネル25を取り外してバルブボックス30の上部を開放すると、コントロールバルブユニット36やシートベース23の前面に上方から臨むことができる。これによりコントロールバルブのメンテナンスが容易に行え、またシートベース23の前面の開閉蓋23aを開けて電気機器にも容易にアクセスできる。
【0037】
また、ブラケット31を跨いで電磁弁54を配置することでバルブボックス30を幅広にして(面積を確保して)扁平にすることができる。そのため旋回フレーム21から採ったバルブボックス30の高さを抑えることができ、本実施形態では特にタンクカバー27よりも低くしてある。従って、図7のようにカメラ装置Xを搭載した場合に、バルブボックス30の高さが低い分だけ機体のより近くの地面の状況をカメラ装置Xで映し出せる。これにより高い視認性が確保できるので離れた場所でも円滑に遠隔操作が行え、災害復旧現場で実用に供することができる。更には、コントロールバルブユニット36や電子機器のメンテナンス性も良好である。
【0038】
(6)フロアパネル25はコントローラボックス61よりも当然に低いが、上記のようにバルブボックス30の高さ、つまりフロアパネル25の高さが抑えられるので、フロアパネル25とコントローラボックス61との高低差を稼ぐことができる。そのためエンジン29等のメンテナンスの際には、フロアパネル25の上でコントローラボックス61を押し引きし易い。バルブボックス30の扁平化は、機械室内の機器のメンテナンスの容易化にも相乗して貢献し得る。
【0039】
(7)各電磁弁54は上段のクロスメンバC1で支持することにより旋回フレーム21から離して配置してあり、旋回フレーム21と各電磁弁54との間には縦方向にもスペースがある。従って、フロントパネル24aを取り外してバルブボックス30の前面を開放することで、電磁弁ユニット51,52の電磁弁54に対するアクセスの自由度が向上しメンテナンスをより容易化できる。同様にサイドパネル24bを取り外してバルブボックス30の側面を開放することで、電磁弁ユニット53の電磁弁54に対するアクセスの自由度が向上する。
【0040】
(8)バルブボックス30の前縁部分には上記のアクセススペースを確保するために電磁弁54を横一列に並べているので、必須の電磁弁54のみで列の長さがバルブボックス30の幅一杯になってしまう。そこで、本例では電磁弁54をL字型のクロスメンバC1に取り付けてL字型に配置し、クロスメンバC1における後方に延びる短辺部分(バルブボックス30の左縁)にオプショナルな電磁弁54を配置した。これによりアクセススペースの主要部分に干渉することなく電磁弁ユニット53を搭載することができ、油圧ショベルの作業の幅を広げることができる。但し、油圧アタッチメントの使用が想定されない場合は、電磁弁ユニット53を省略することで必要な電磁弁54は全て横一列に並べられるので、L字型に配置する必要はない。
【符号の説明】
【0041】
10…走行体、21…旋回フレーム、23…シートベース(機械室)、29…エンジン(原動機)、36…コントロールバルブユニット(複数のコントロールバルブ)、40…作業機、54…電磁弁、61…コントローラボックス、63…スライドレール、64…引手、65…メンテナンス開口、67…台座(固定機構)、68…貫通孔(固定機構)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10