(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の円形刃の切刃稜は、前記第1の円形刃の切刃稜線を包含する第1平面よりも前記第1の円形刃が回転移動するときの回転中心側の第1内側傾斜面と、前記第1平面に対して前記回転中心と反対側の第1外側傾斜面とにより形成され、
前記第2の円形刃の切刃稜は、前記第2の円形刃の切刃稜線を包含する第2平面よりも前記第1の円形刃が回転移動するときの回転中心側の第2内側傾斜面と、前記第2平面に対して前記回転中心と反対側の第2外側傾斜面とにより形成され、
前記第1内側傾斜面の前記第1平面とのなす角をθi1、
前記第1外側傾斜面の前記第1平面とのなす角をθo1、
前記第2内側傾斜面の前記第2平面とのなす角をθi2、
前記第2外側傾斜面の前記第2平面とのなす角をθo2、
θi1−θo1=Δθ1、
θi2−θo2=Δθ2、と定義したときに、
前記第1の円形刃及び前記第2の円形刃は、
Δθ2>0、かつ
Δθ1<Δθ2
の関係を満たし、
前記第1カッターホイール及び前記第2カッターホイールは、前記第1平面の前記主表面となす角度が前記第2平面の前記主表面となす角度と同一となるように、前記第1の円形刃と前記第2の円形刃を前記主表面に接触させる、請求項1〜3のいずれか一項に記載のスクライビング装置。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態に係る
スクライビング装置、ガラス素板、ガラス素板の製造方法、およびガラス基板の製造方法について詳細に説明する。なお、本実施形態で用いるガラス基板は、磁気ディスク用ガラス基板に限定されず、種々の円環状のガラス基板に適用できる。また、本実施形態で一例として適用する磁気ディスク用ガラス基板のサイズは特に制限されるものではないが、例えば、公称2.5インチサイズ(外径の直径約65mm、円孔の直径約20mm)以上の磁気ディスク用ガラス基板の製造に好適である。なお、公称3.5インチサイズ(外径の直径約95mm、円孔の直径約25mm)以上になると、取代量低減効果がより大きくなるため、より好ましい。また、板厚に関しても特に制限されるものではないが、例えば0.4〜2.0mmの磁気ディスク用ガラス基板の製造に好適である。
【0028】
(磁気ディスク用ガラス基板)
まず、磁気ディスク用ガラス基板について説明する。磁気ディスク用ガラス基板は、円板形状である。なお、磁気ディスク用ガラス基板は、外周と同心の円形の中心孔がくり抜かれている。磁気ディスク用ガラス基板の両面の円環状領域に磁性層(記録領域)が形成されることで、磁気ディスクが形成される。
【0029】
(磁気ディスク用ガラス素板)
磁気ディスク用ガラス素板は、後述する研磨処理が行われる前の円環状のガラス素板である。円環状とは、略円形の外形形状を有すること、及び略円形の内孔を有することを意味する。ここで、「略円形」は、真円形状および楕円形状を含み、その外周形状は単一の曲率半径の円弧のみからなるものであってもよいし、異なる曲率半径の円弧や曲線からなるものであってもよい。
【0030】
本実施形態においては、後述するように、板状のガラス素板の一方の主表面(スクライブ面)に、円形の外形形成用の外側切筋および円形の内孔形成用の内側切筋を形成する(スクライビング)。その後、これらの切筋を他方の主表面まで成長させて板状のガラス素板を割断することで、円環状のガラス素板を形成する(割断処理)。
【0031】
板状のガラス素板は、例えば、フロート法やオーバーフローダウンドロー法により形成された板ガラスを所定の大きさに切断することで形成することができる。また、溶融ガラス塊をプレス成形することにより円板状のガラス素板を形成してもよい。
【0032】
ガラス素板の材料として、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラスなどを用いることができる。特に、化学強化を施すことができ、また主表面の平面度及び基板の強度において優れた磁気ディスク用ガラス基板を作製することができるという点で、アルミノシリケートガラスを好適に用いることができる。
【0033】
ここで、板状のガラス素板から円環状のガラス素板を切り出すスクライビング処理と割断処理について説明する。
スクライビング処理は、超鋼合金製あるいはダイヤモンド粒子を含むカッター(スクライバ)によりガラス素板の一方の主表面(スクライブ面)に円形の切断線を設ける処理である。本実施形態においては、円孔の輪郭線となる円形の切断線(内側切筋)と、ガラス素板の外側輪郭線となる円形の切断線(外側切筋)とを同時に形成する。このとき、外側切筋と、内側切筋とが同心円となるように形成する。
【0034】
割断処理は、スクライビング処理により形成された円形の切断線を、ガラス素板の厚さ方向(深さ方向)に伸展させ、円形の切断線の外部又は内部を分離する方法である。例えば、ガラス素板の少なくとも一部を加熱又は冷却することで、熱膨張の差異によって切断線を伸展させることができる。その後、ガラス素板の円形の切断線よりも外側部分又は内側部分を分離する際は、例えば、円形の切断線よりも外側部分又は内側部分を主表面と垂直な方向に押圧してもよい。ガラス素板の外側切筋よりも外側の部分と内側切筋よりも内側の部分とがそれぞれ分離して除去されることで、円環状のガラス素板が得られる。
【0035】
図1は板状のガラス素板10Aから円環状のガラス素板を切り出すスクライビング装置1の一例を示す立面図である。
図1に示すように、スクライビング装置1は、テーブル2と、外側カッターホイール3(第1の円形刃)と、内側カッターホイール4(第2の円形刃)と、等を備える。
【0036】
テーブル2は、板状のガラス素板10Aを支持する支持台である。テーブル2は、板状のガラス素板10Aを外側カッターホイール3および内側カッターホイールと相対的に、板状のガラス素板10Aの主表面と垂直な回転中心A1周りに回転させる。ここで、テーブル2および板状のガラス素板10Aを静止した状態で外側カッターホイール3および内側カッターホイール4を回転中心A1周りに回転させてもよいし、外側カッターホイール3および内側カッターホイール4を静止した状態でテーブル2および板状のガラス素板10Aを回転中心A1周りに回転させてもよい。なお、ガラス素板10Aを吸着する図示しない吸着部をテーブル2に設けてもよい。この場合、テーブル2の中央部には、テーブル2の上面に載置される板状のガラス素板10Aを吸着する吸着部が設けられる。また、テーブル2の上面には、吸着部が設けられた中央部を囲むように環状の凹部が設けられており、環状の凹部に囲まれた部分に中央支持部が設けられるとともに、環状の凹部を囲む外周部分に外周支持部が設けられている。この中央支持部および外周支持部は環状の凹部に対して上方に突出するように設けられており、中央支持部および外周支持部によって板状のガラス素板10Aが支持される。吸着部は中央支持部および外周支持部によって支持された板状のガラス素板10Aを吸着することによりテーブル2上に固定するように構成される。
【0037】
テーブル2の上部に載置されたガラス素板10Aの上側の面は、外側切筋11および内側切筋12が形成される第1の主表面(スクライブ面)であり、テーブル2と接触するガラス素板10Aの下側の面が第2の主表面(非スクライブ面)である。なお、ガラス素板10Aをテーブル2に載置する代わりに、ガラス素板10Aを外周部において挟むようにしてガラス素板10Aを支持してもよい。
【0038】
外側カッターホイール3および内側カッターホイール4は、超鋼合金製あるいはダイヤモンド粒子からなる円板状のカッター(円形刃)である。
このようなスクライビング装置1における第1の実施形態及び第2の実施形態について細かく説明する。
【0039】
(第1の実施形態)
第1の実施形態は、以下の事情を考慮して外側カッターホイール3および内側カッターホイール4が構成されている。すなわち、板状のガラス素板10Aに
図1に示すように、切筋を形成するとき、外側切筋11を形成する外側カッターホイール3のほうが、内側切筋12を形成する内側カッターホイール4よりも走行距離が長い。外側カッターホイール3および内側カッターホイール4を同一の角速度で板状のガラス素板10Aに対して回転させると、外側カッターホイール3のほうが内側カッターホイール4よりも走行速度が速くなり、外側切筋11の単位長さ当たりの外側カッターホイール3との接触時間は内側切筋12の単位長さ当たりの内側カッターホイール4との接触時間よりも短くなる。この場合、外側カッターホイール3および内側カッターホイール4に板状のガラス素板10Aの主表面に対して同時に同じ力を掛けると、外側カッターホイール3の板状のガラス素板10Aへの食い込み易さが内側カッターホイール4よりも悪化して外側カッターホイール3の方が滑りやすくなると推察される。そのため、ガラス素板10Aの内部に延びる外側切筋11の向き(角度)が、回転中心A1周りに1周する間においてバラツキ易くなると推察される。
【0040】
また、ガラス素板10Aに対する回転半径が大きい外側カッターホイール3のほうが、内側カッターホイール4よりもガラス素板10Aに対する回転半径方向への力の向きの変化が生じやすく、外側切筋11の半径方向の向きのばらつきが大きくなると推定される。そこで、本発明者は、外側カッターホイール3のガラス素板10Aへの食い込みやすさをよくすることで、外側切筋11と内側切筋12との同心度を高めることができると考えた。
【0041】
図2は、第1の実施形態における外側カッターホイール3の形態の一例を詳細に示す図であり、
図1のII部の拡大図である。
図3は
図2のIII−III矢視断面図であり、
図4は
図2のIV矢視図である。
図2〜
図4に示すように、外側カッターホイール3の外周部には、環状に切刃稜31が設けられている。切刃稜31には、複数の切り欠き32(第1切り欠き)が周方向に所定の間隔(第1の間隔C1)を空けて設けられている。
【0042】
外側カッターホイール3は、板状のガラス素板10Aの上側の主表面(第1の主表面)に切刃稜31を押圧した状態で、回転中心A1周りに板状のガラス素板10Aに対して相対的に回転移動する。このとき、外側カッターホイール3は、回転中心A1周りの回転半径方向と平行な回転軸A2周りに回転する。外側カッターホイール3が回転中心A1周りに板状のガラス素板10Aに対して相対的に回転移動しながら、回転軸A2周りに回転することで、板状のガラス素板10Aの上側の主表面の切刃稜31と当接した部分に外側切筋11が形成される。この時の回転中心A1から切刃稜31までの距離が外側カッターホイール3の回転中心A1周りの回転半径(第1の回転半径R1)であり、第1の回転半径R1によって板状のガラス素板10Aから切り出される円環状のガラス素板の外形の半径が定まる。
【0043】
図5は、第1の実施形態における内側カッターホイール4の一例の詳細を示す図であり、
図1のV部の拡大図である。
図6は
図5のVI−VI矢視断面図であり、
図7は
図5のVII矢視図である。
図5〜
図7に示すように、内側カッターホイール4の外周部には、環状に切刃稜41が設けられている。切刃稜41には、複数の切り欠き42(第2切り欠き)が周方向に所定の間隔(第2の間隔C2)を空けて設けられている。
【0044】
内側カッターホイール4は、板状のガラス素板10Aの上側の主表面に切刃稜41を押圧した状態で、回転中心A1周りに板状のガラス素板10Aに対して相対的に回転移動する。このとき、内側カッターホイール4は、回転中心A1周りの回転半径方向と平行な回転軸A3周りに回転する。内側カッターホイール4が回転中心A1周りに板状のガラス素板10Aに対して相対的に回転移動しながら、回転軸A3周りに回転することで、板状のガラス素板10Aの上側の主表面の切刃稜41と当接した部分に内側切筋12が形成される。この時の回転中心A1から切刃稜41までの距離が内側カッターホイール4の回転中心A1周りの回転半径(第2の回転半径R2)であり、第2の回転半径R2によって板状のガラス素板10Aから切り出される円環状のガラス素板の内孔の半径が定まる。
【0045】
次に、第1の実施形態における、板状のガラス素板10Aから円環状のガラス素板を切り出す方法について説明する。
まず、テーブル2の上部に載置された板状のガラス素板10Aの上側主表面に対して、外側カッターホイール3および内側カッターホイール4を押圧する。次に、外側カッターホイール3および内側カッターホイール4を回転中心A1周りに板状のガラス素板10Aに対して相対的に回転移動する。このとき、外側カッターホイール3および内側カッターホイール4に対して、下向きの力を作用させた状態で、外側カッターホイール3および内側カッターホイール4を同じ角速度で回転中心A1周りに1回転させる。この間の外側カッターホイール3への荷重は、内側カッターホイール4への荷重の50〜100%とすることが好ましい。以上により、板状のガラス素板10Aの上側主表面に外側切筋11および内側切筋12が形成される。
【0046】
なお、
図1においては、外側カッターホイール3が回転中心A1に対して内側カッターホイール4と同じ側に配置されている。すなわち、外側カッターホイール3と内側カッターホイール4とを、回転中心A1に対して同位相の位置に配置されている。しかし、本実施形態はこれに限らず、外側カッターホイール3と内側カッターホイール4とを回転中心A1に対して反対側に配置してもよい。すなわち、外側カッターホイール3と内側カッターホイール4とを位相が180°ずれた位置に配置してもよい。
【0047】
次に、板状のガラス素板10Aの外側切筋11よりも外側の部分を加熱する。すると、熱膨張の差異によって、外側切筋11が進展し、板状のガラス素板10Aの第1の主表面とは反対側の主表面(第2の主表面)まで到達する割断面が形成される。
次に、板状のガラス素板10Aの内側切筋12よりも外側の部分を加熱する。すると、熱膨張の差異によって、内側切筋12が進展し、板状のガラス素板10Aの第1の主表面とは反対側の主表面(第2の主表面)まで到達する割断面が形成される。
その後、板状のガラス素板10Aの外側切筋11よりも外側の部分、および、内側切筋12よりも内側の部分を除去することで、円環状のガラス素板が得られる。
【0048】
ここで、第1の実施形態では、第1の間隔C1が、第2の間隔C2よりも小さくなるように第1切り欠き32および第2切り欠き42が形成されている。C1<C2であることで、板状のガラス素板10Aの上側の主表面への外側カッターホイール3の接触面積が、内側カッターホイール4の接触面積よりも小さくなる。このため、外側カッターホイール3および内側カッターホイール4に同じ大きさの力を下方にかけたときに、板状のガラス素板10Aの上側の主表面への外側カッターホイール3の圧力が、内側カッターホイール4の圧力よりも大きくなり、板状のガラス素板10Aの上側の主表面からガラス素板10Aの内部へ外側カッターホイール3が深く食い込み(又は食いつき)やすくなる。これにより、外側カッターホイール3の切刃稜31がガラス素板10Aの主表面上を円弧を描くように主表面に対して相対的に旋回移動する時の滑りを抑え、外側切筋11の半径方向への外側カッターホイール3の移動が抑制される。このため、外側切筋11の角度のばらつきを小さくすることができる。その結果、外側切筋11の回転中心A1からの距離のばらつきを小さくすることができ、外側切筋11と内側切筋12との同心度を高めることができる。C2−C1は、例えば5〜75μmである。
ここで、第1の間隔C1は、5〜40μmであることが好ましい。第1の間隔C1が5μm未満だと、外側カッターホイール3の刃がかけやすくなる恐れがある。また40μmを超えると、外周切筋11の形成時において外側カッターホイール3の食い込みを十分確保できなくなる恐れがある。第2の間隔C2は、10〜80μmであることが好ましい。第2の間隔C2が10μm未満だと、内側カッターホイール4の刃がかけやすくなる恐れがある。また80μmを超えると、内周切筋12の形成時において内側カッターホイール4の食い込みを十分確保できなくなる恐れがある。第1の間隔C1と第2の間隔C2との差は、外周切筋11の形成時において外側カッターホイール3の食い込みを十分確保するために、少なくとも5μm以上であることが好ましく、10μm以上であるとより好ましい。また、当該差についての上限は特にはないが、外側カッターホイール3の先端の耐久性の観点から75μm以下であることが好ましい。
【0049】
ここで、第1切り欠き32の周方向の長さL1は、第2切り欠き42の周方向の長さL2よりも長いことが好ましい。L1>L2であることで、板状のガラス素板10Aの上側の主表面からガラス素板10Aの内部に外側カッターホイール3が食い込みやすくなる。第1切り欠き32の周方向の長さL1は、例えば5〜60μmである。第2切り欠き42の周方向の長さL2は、例えば2〜30μmである。第1切り欠き32と第2切り欠き42の周方向の長さの差は、特に設けなくてもよいが、10μm以上であると好ましく、15μm以上であるとより好ましい。また、当該差についての上限は特にはないが、特に外周側の切筋11を安定して形成する観点から、50μm以下であることが好ましい。
【0050】
第1切り欠き32の最大深さD1は、第2切り欠き42の最大深さD2よりも深いことが好ましい。D1>D2であることで、板状のガラス素板10Aの上側の主表面からガラス素板10Aの内部に外側カッターホイール3が深く食い込みやすくなる。
第2切り欠き42の最大深さD2は、例えば1〜15μmであることが好ましい。1μm未満の場合、切筋12の形成時の内側カッターホイール4の食い込みが十分得られない恐れがある。また15μmを超えると、内側カッターホイール4の刃がかけやすくなる恐れがある。第1切り欠き32と第2切り欠き42との最大深さの差D1−D2は、特に設けなくてもよいが、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましい。また、当該差についての上限は特にはないが、外側カッターホイール3の耐久性の観点から10μm以下であることが好ましい。
【0051】
切り欠き32の周方向の長さL1が、第1の間隔C1よりも長くなるように切り欠き32が形成されていることが好ましい。L1>C1とすることで、板状のガラス素板10Aの上側の主表面への外側カッターホイール3の接触面積が小さくなるため、外側カッターホイール3に力を下方にかけたときに、板状のガラス素板10Aの上側の主表面への外側カッターホイール3の圧力が大きくなり、板状のガラス素板10Aの上側の主表面からガラス素板10Aの内部に外側カッターホイール3が深く食い込みやすくなる。L1−C1は、例えば10〜40μmである。
【0052】
また、切り欠き42の周方向の長さL2が、第2の間隔C2よりも短くなるように切り欠き42が形成されていることが好ましい。L2<C2とすることで、板状のガラス素板10Aの上側の主表面への内側カッターホイール4の接触面積が大きくなるため、内側カッターホイール4に力を下方にかけたときに、板状のガラス素板10Aの上側の主表面への内側カッターホイール4の圧力が小さくなり、板状のガラス素板10Aの上側の主表面からガラス素板10Aの内部に内側カッターホイール4が食い込みにくくなる。このため、相対的に板状のガラス素板10Aの上側の主表面からガラス素板10Aの内部に外側カッターホイール3が深く食い込みやすくなる。C2−L2は、例えば5〜30μmである。
【0053】
図8は以上のようにして得られた円環状のガラス素板10Bを示す斜視図である。
図8に示すように、円環状のガラス素板10Bは、外周端面13と、内周端面14と、第1主表面15と、第2主表面16と、を有する。
【0054】
外周端面13は板状のガラス素板10Aの外側切筋11が進展して第2の主表面まで到達した割断面である。
内周端面14は板状のガラス素板10Aの内側切筋12が進展して第2の主表面まで到達した割断面である。
【0055】
第1主表面15は、板状のガラス素板10Aの外側切筋11および内側切筋12が形成されていた第1の主表面の一部である(スクライブ面)。第2主表面16は、円環状のガラス素板10Bの第1主表面15と反対側の主表面であり(非スクライブ面)、板状のガラス素板10Aのテーブル2と当接していた第2の主表面の一部である。
【0056】
第1主表面15の外周15Aは外側切筋11によって形成されたものである。一方、第2主表面16の外周16Aは外側切筋11から進展した割断面が、板状のガラス素板10Aの第2の主表面に到達することによって形成されたものである。
【0057】
第1主表面15の内周15Bは内側切筋12によって形成されたものである。一方、第2主表面16の内周16Bは内側切筋12から進展した割断面が、板状のガラス素板10Aの第2の主表面に到達することによって形成されたものである。
【0058】
第1の実施形態では、上述の外側カッターホイール3及び内側カッターホイール4を用いることにより、特に外側切筋11がガラス素板10Aの内部へ延びる向き(角度)のばらつきを小さくすることができ、その結果、外側切筋11の回転中心A1からの距離のばらつきを小さくすることができ、外側切筋11と内側切筋12との同心度を高めることができる。こうして形成される円環状のガラス素板10Bの外周と内周との同心度は、15μm以下であることが好ましい。ここで、同心度とは、外周円の中心と内周円の中心間の距離で表される。同心度は、例えば先端が板厚よりも幅があるオノ刃形状のプローブを用いて、真円度・円筒形状測定機等を用いて測定することができる。
また、上記の外側カッターホイール3を用いて外側切筋11を形成するとともに、内側カッターホイール4を用いて内側切筋12を形成することで、第1主表面15の外周15Aと内周15Bとの同心度を小さくすることができる。ここで、同心度は、外周15Aと内周15Bのそれぞれの中心間の距離で表される。
【0059】
なお、スクライブ面である第1主表面15の外周15Aの真円度は、非スクライブ面である第2主表面16の外周16Aの真円度よりも小さい。外周15Aの形状の真円度と外周16Aの形状の真円度との差は、後工程において端部加工の取代を減らす観点から、100μm以下であることが好ましい。
【0060】
ここで、真円度とは、円形形態の幾何学的に正しい円(幾何学的円)からの狂いの大きさをいう。真円度は、円形形態を二つの同心の幾何学的円で挟んだとき、同心二円の間隔が最小となる場合の二円の半径の差で表す(JIS B0621)。上記の外周15Aと外周16Aの真円度をそれぞれ真円度・円筒形状測定機等を用いて測定する場合、一方の主表面と端面との境界部分のプロファイルが精度よく取得できるように測定条件を最適化する必要がある。例えば先端が球形状のプローブを用いる場合は、プローブ先端の径を十分小さくすればよく、また、先端が板厚よりも幅があるオノ刃形状のプローブを用いる場合はプローブを当てる角度を調節すればよい。
【0061】
こうして割断処理で得られた円環状のガラス素板10Bから磁気ディスク用ガラス基板を製造する工程において、外周端面13、内周端面14に対して総型砥石を用いた端面研削による面取加工処理が行われる。上述したように、外側切筋11と内側切筋12との同心度を高めることができるので、外側切筋11及び内側切筋12から形成される円環状のガラス素板10Bの外周端面13および内周端面14に対する面取加工処理や端面研磨処理などの後工程における取り代を小さくすることができ、円環状のガラス素板の加工効率を高めることができ、さらには円環状のガラス基板、例えば磁気ディスク用ガラス基板の生産効率を高めることができる。
【0062】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、以下の事情を考慮して外側カッターホイール3および内側カッターホイール4が構成されている。すなわち、カッターホイール(外側カッターホイール3および内側カッターホイール4)をガラス素板10Aの第1の主表面に向けて押圧することにより形成される切筋は、カッターホイールの切刃稜を含む平面内において切刃稜から遠ざかる方向に伸展するように形成される。このため、カッターホイールが主表面に沿って板状のガラス素板10Aと相対的に回転する場合、切筋はカッターの円軌道に接する所定の長さの線分状に形成される。カッターが円軌道に沿って移動すると、この線分状の切筋が円軌道に沿って連続することで、円形の切筋が形成される。しかし、切断抵抗が大きいガラスでは、ガラス素板10Aの内部に延びる切筋は、第1の主表面と垂直な方向よりも半径方向内側に向かって傾く傾向が大きくなる。
特に、外側切筋11と内側切筋12を同時に形成する場合、曲率半径の違いやカッターの走行速度の違いなどが複雑に影響し合った結果、内側切筋12は、外側切筋11よりも第1の主表面と垂直な方向よりも半径方向内側に向かって傾いて形成されやすいと推察される。
これに対し、カッターホイールの切刃稜を形成する2つの傾斜面のうち、円軌道の中心方向の傾斜面を円軌道の外側の傾斜面よりも第1の主表面と近くなるように配置した状態で切筋を形成すると、形成される切筋は、円軌道の外側に向かって形成されると推察される。そこで、本発明者は、内側切筋12を形成する内側カッターホイール4を、その切刃稜41よりも内側切筋12の中心側の傾斜面(第2内側傾斜面44)が、切刃稜41よりも内側切筋12の外側の傾斜面(第2外側傾斜面45)よりも板状のガラス素板10Aの主表面と近くなるように配置した状態で内側切筋12を形成すると、ガラス素板10Aの内部に延びる内側切筋12が半径方向内側に向かって傾いて形成されることを低減できると推察した。これにより、内側切筋12の割断面と外側切筋11の割断面とを主表面に対してほぼ同じ方向に成長させることができると推察した。
【0063】
図9は、第2の実施形態における外側カッターホイール3の一例の詳細を示す図である。
図9に示すように、外側カッターホイール3の切刃稜31は、第1内側傾斜面34と、第1外側傾斜面35とによって形成されている。
第1内側傾斜面34は、外側カッターホイール3を周回する切刃稜31を包含する第1平面P1よりも回転中心A1側にあり、第1外側傾斜面35は、第1平面P1に対して回転中心A1と反対側にある。第1内側傾斜面34および第1外側傾斜面35のいずれも、切刃稜31から遠ざかるに連れて回転軸A2に近づくような、円錐台の側面の形状をしている。
【0064】
内側カッターホイール4は、超鋼合金製あるいはダイヤモンド粒子を含む円板状のカッター(円形刃)であり、外周部に環状に切刃稜41が設けられている。
【0065】
内側カッターホイール4は、板状のガラス素板10Aの第1の主表面に切刃稜41を押圧した状態で、回転中心A1から所定の半径(第2の回転半径R2、R2<R1)の円軌道(第2の円軌道)に沿って板状のガラス素板10Aに対して相対的に回転移動する。このとき、内側カッターホイール4は、第2の回転半径R2の方向と平行な回転軸A3回りに回転する。内側カッターホイール4が第2の円軌道に沿って板状のガラス素板10Aに対して相対的に回転移動しながら、回転軸A3回りに回転することで、板状のガラス素板10Aの第1の主表面の切刃稜41と当接した部分に内側切筋12が形成される。内側切筋12の半径はR2となり、第2の回転半径R2によって板状のガラス素板10Aから切り出される円環状のガラス素板の内周端面の半径が定まる。
【0066】
図10は、
図1に示す内側カッターホイール4の、第2の実施形態における形態の一例を示す拡大図である。
図10に示すように、内側カッターホイール4の切刃稜41は、第2内側傾斜面44と、第2外側傾斜面45とにより形成されている。
第2内側傾斜面44は、内側カッターホイール4を周回する切刃稜41を包含する第2平面P2よりも回転中心A1側にあり、第2外側傾斜面45は、第2平面P2に対して回転中心A1と反対側にある。第2内側傾斜面44および第2外側傾斜面45のいずれも、切刃稜41から遠ざかるに連れて回転軸A3に近づくような、円錐台の側面の形状をしている。
【0067】
一般に、外側切筋11の軌跡よりも半径が小さい軌跡を有する内側切筋12は、板状のガラス素板10Aの主表面から内部に向かうにつれて半径方向内側に向かって傾くように形成される傾向がある。この原因は、以下のように考えられる。
【0068】
カッターが円軌道に沿って移動するときには、切刃稜を含む平面の向きが円軌道の中心方向に変化し続けることとなるため、切刃稜の主表面に食い込んだ部分において円軌道の中心側の傾斜面からガラス素板の主表面に対して円軌道の中心方向への力が作用する。この力は円軌道の半径が小さいほど大きくなる。
【0069】
このため、第2の円軌道に沿って移動する内側カッターホイール4の第2内側傾斜面44から板状のガラス素板10Aの第1の主表面に対して作用する力の回転中心A1方向の分力は、第2の円軌道よりも曲率が小さい(曲率半径が大きい)第1の円軌道に沿って移動する外側カッターホイール3の第1内側傾斜面34から板状のガラス素板10Aの第1の主表面に対して作用する力の回転中心A1方向の分力よりも大きくなる。
したがって、内側切筋12では、外側切筋11よりも第2の円軌道の回転中心A1側に向かって傾いて形成されやすい傾向がある。すなわち、
図9に示すように、外側切筋11と外側切筋11から第1の主表面の中心に向かう直線とのなす角をθ
11とし、
図10に示すように、内側切筋12と内側切筋12から第1の主表面の中心に向かう直線とのなす角をθ
12とすると、θ
12がθ
11よりも小さくなりやすい傾向がある。
【0070】
これに対し、第2の実施形態においては、第1内側傾斜面34の第1平面P1となす角をθi1、第1外側傾斜面35の第1平面P1となす角をθo1、第2内側傾斜面44の第2平面P2とのなす角をθi2、第2外側傾斜面45の第2平面P2とのなす角をθo2とし、θi1−θo1=Δθ1、θi2−θo2=Δθ2と定義するとき、Δθ1<Δθ2の関係を満たす外側カッターホイール3(第1の円形刃)および内側カッターホイール4(第2の円形刃)を、第1平面P1の第1の主表面となす角度θ
P1が第2平面P2の第1の主表面となす角度θ
P2と同一となるように、第1の主表面に接触させる。これにより、ガラス素板10Aの内部に延びる内側切筋12を、外側切筋11がガラス素板10Aの内部に延びる向きよりも、中心からガラス素板10Aの外周側へ向けさせやすくできるため、内側切筋12の割断面が、板状のガラス素板10Aの主表面から内部に向かうにつれて半径方向内側に向かって傾くように形成される傾向を低減することができる。なお、θi1、θo1、θi2、θo2は、それぞれ40〜80°の範囲内であることが好ましい。40°未満の場合、カッターホイールの寿命(処理可能回数)が短くなる恐れがあり、80°より大きい場合、切筋がうまく形成できない恐れがある。Δθ2−Δθ1は、例えば5°以上30°以下である。
【0071】
ここで、θi2>θo2とすることが好ましい。θi2>θo2となるように内側カッターホイール4を配置した状態で内側カッターホイール4を第2の円軌道に沿って移動させる場合、第2内側傾斜面44から板状のガラス素板10Aの第1の主表面に対して作用する力の回転中心A1方向の分力が、第2外側傾斜面45から板状のガラス素板10Aの第1の主表面に対して作用する力の外側方向の分力のほうが大きくなる。このため、θi2>θo2とすることで、内側切筋12の割断面が第2の円軌道の外側に向かって傾いて形成されやすい傾向を作ることができる。これによって、第2の円軌道の半径が小さいことに起因する内側切筋12の割断面が半径方向内側に向かって傾いて形成される傾向を低減することができる。なお、θi2とθo2の差は30°以下であることが好ましい。30°より大きいと、内側切筋12の割断面が半径方向外側に傾きすぎ、却って後工程の取代が増える恐れがある。θi2−θo2は、例えば5°以上30°以下である。
【0072】
一方、内側切筋12よりも半径が大きい外側切筋11では、板状のガラス素板10Aの主表面から半径方向内側に向かって傾いて形成される傾向が内側切筋12よりも小さい。このため、θi1<θi2とすることで、板状のガラス素板10Aの主表面に対する外側切筋11および内側切筋12のガラス素板10Aの内部へ延びる角度をほぼ同一とすることができる。これにより、外側切筋11および内側切筋12を成長させて板状のガラス素板10Aを割断したときに、得られる円環状のガラス素板の外周端面となる外側切筋11の割断面と内周端面となる内側切筋12の割断面とを主表面に対してほぼ同一の角度で形成することができる。ここで、「ほぼ同一の角度」とは、角度の差が10°未満であることをいう。したがって、円環状のガラス素板10Bの外周端面13および内周端面14を研削して円環状のガラス基板を得るための機械加工の取り代を小さくすることができ、加工効率を高めることができる。また、θi1<θi2とすることで、内側切筋12を形成するときの切断抵抗を減らすことができ、内側切筋12の周辺のチッピング不良を減らすことができる。また、θi2−θi1は、例えば5°以上30°以下である。
【0073】
第1内側傾斜面34と第1外側傾斜面35とのなす角(θi1+θo1)は、第2内側傾斜面44と第2外側傾斜面45とのなす角(θi2+θo2)よりも小さいことが好ましい。(θi1+θo1)<(θi2+θo2)とすることで、内側切筋12を形成するときの切断抵抗を減らすことができ、内側切筋12の周辺のチッピング不良を減らすことができる。なお、(θi1+θo1)及び(θi2+θo2)の角度は、それぞれ100〜140°の範囲内で調節することが好ましい。上記角度が100°未満の場合、カッターホイールの寿命(処理可能回数)が短くなる恐れがあり、140°より大きい場合、切筋がうまく形成できない恐れがある。(θi2+θo2)−(θi1+θo1)は、例えば5°以上+30°以下である。
【0074】
なお、第1内側傾斜面34と主表面とのなす角と、第1外側傾斜面35と主表面とのなす角を等しくするのが好ましい。すなわち、第1内側傾斜面34の第1平面P1となす角をθi1、第1外側傾斜面35の第1平面P1となす角をθo1とするとき、θi1=θo1とするのが好ましい。こうすることで、外側切筋11をガラス表面に対して略垂直に形成することができるので、後工程の例えば面取工程において、外周側の取代を削減することができる。
【0075】
上述したように、切筋の軌跡である円軌道の半径が小さいほど、切筋の割断面が半径方向内側に向かって傾いて形成される傾向がある。このため、第2の実施形態を内孔の半径が小さい磁気ディスク用ガラス基板や、その他の円環状ガラス素板の製造に適用することが好ましい。具体的には、第2の円軌道の半径を20mm以下とする場合に第2の実施形態を適用することが好ましい。本件発明者の検討によると、円軌道の半径が20mm以下の場合に、切筋の割断面が半径方向内側に向かって傾いて形成される傾向が顕著になる。
【0076】
線膨張係数が小さい板状のガラス素板の第1の主表面に対してカッターを円軌道に沿って回転移動させる場合、円軌道が小さいほど半径方向内側に傾く傾向が大きくなる。
【0077】
このため、線膨張係数が小さいガラスからなる板状のガラス素板を加工する場合に、第2の実施形態を適用することが好ましい。具体的には、線膨張係数が65×10
−7/℃以下の板状のガラス素板の形状加工処理に適用することが好ましい。特に、線膨張係数が50×10
−7/℃以下のガラス素板の形状加工処理に適用することがより好ましい。線膨張係数が50×10
−7/℃以下の板状のガラス素板10Aの形状加工処理に適用すると、ガラス素板10Bの内側切筋12よりも内側の部分を容易に抜く(取り除く)ことができる。なおここで線膨張係数とは、50〜350℃での平均熱膨張係数である。
【0078】
次に、板状のガラス素板10Aから円環状のガラス素板を切り出す方法について説明する。
まず、テーブル2の上部に載置された板状のガラス素板10Aの上側主表面に対して、外側カッターホイール3および内側カッターホイール4を押圧する。このとき、第1平面P1の上側主表面とのなす角度θ
P1が第2平面P2の上側主表面となす角度θ
P2と実質的に同一となるように、外側カッターホイール3および内側カッターホイール4を上側主表面に接触させる。ここで、「実質的に同一」の角度とは、角度の差が3°以内であることをいう。
【0079】
このとき、外側カッターホイール3により形成される外側切筋11を上側主表面(第1の主表面)と垂直とするために、第1平面P1が上側主表面と垂直となるように外側カッターホイール3を上側主表面に接触させることが好ましい。また、内側カッターホイール4により形成される内側切筋12を上側主表面と垂直とするために、第2平面P2が上側主表面と垂直となるように内側カッターホイール4を上側主表面に接触させることが好ましい。ここで、「上側主表面と垂直」とは、上側主表面の法線とのなす角が5°以下であることをいう。このようにカッターホイールを主表面に対して垂直に押し当てることで、カッターホイールからガラスへの荷重が効率的に伝わりやすくなり、切筋の周囲にチッピング等が発生しにくくなるとともに、カッターホイールの刃先が折れるのを防止することができる。
【0080】
次に、外側カッターホイール3および内側カッターホイール4を回転中心A1回りに板状のガラス素板10Aに対して相対的に回転移動する。このとき、外側カッターホイール3および内側カッターホイール4に対して、下向きに略同じ大きさの力を作用させた状態で、外側カッターホイール3および内側カッターホイール4を同じ角速度で回転中心A1回りに1回転させる。以上により、板状のガラス素板10Aの上側主表面に外側切筋11および内側切筋12が形成される。
【0081】
なお、
図1においては、外側カッターホイール3と内側カッターホイール4とを回転中心A1に対して同じ側に配置している。しかし、本実施形態はこれに限らず、外側カッターホイール3を回転中心A1に対して内側カッターホイール4と反対側に配置してもよい。
【0082】
次に、板状のガラス素板10Aの外側切筋11よりも外側の部分を加熱する。すると、熱膨張の差異によって、外側切筋11が進展し、板状のガラス素板10Aの第1の主表面とは反対側の主表面(第2の主表面)まで到達する割断面が形成される。
次に、板状のガラス素板10Aの内側切筋12よりも外側の部分を加熱する。すると、熱膨張の差異によって、内側切筋12が進展し、板状のガラス素板10Aの第1の主表面とは反対側の主表面(第2の主表面)まで到達する割断面が形成される。
その後、板状のガラス素板10Aの外側切筋11よりも外側の部分、および、内側切筋12よりも内側の部分を除去することで、
図8に示すような円環状のガラス素板10Bが得られる。なお、内側切筋12よりも内側の部分を除去する場合は、下方に抜くと、主表面に接触してキズをつけることがなく好ましい。
【0083】
図11は、円環状のガラス素板10Bの断面の一例を示す図である。
図11に示すように、円環状のガラス素板10Bは、外周端面13と、内周端面14と、第1主表面15と、第2主表面16と、を有する。
【0084】
外周端面13は板状のガラス素板10Aの外側切筋11が進展して第2の主表面16まで到達した割断面である。
内周端面14は板状のガラス素板10Aの内側切筋12が進展して第2の主表面16まで到達した割断面である。
【0085】
第1主表面15は、板状のガラス素板10Aの外側切筋11および内側切筋12が形成されていた第1の主表面の一部である。第2主表面16は、円環状のガラス素板10Bの第1主表面15と反対側の主表面であり、板状のガラス素板10Aのテーブル2と当接していた第2の主表面の一部である。
【0086】
第1主表面15の外周15Aは外側切筋11によって形成されたものである。
一方、第2主表面16の外周16Aは外側切筋11から進展した割断面が、板状のガラス素板10Aの第2の主表面16に到達することによって形成されたものである。
【0087】
第1主表面15の内周15Bは内側切筋12によって形成されたものである。
一方、第2主表面の内周16Bは内側切筋12から進展した割断面が、板状のガラス素板10Aの第2の主表面に到達することによって形成されたものである。
【0088】
第2の実施形態では、内側切筋12の割断面がガラス素板10Aの中心側に向かって傾いて形成される傾向を低減することで、外側切筋11および内側切筋12を成長させて板状のガラス素板を割断したときに、外側切筋11の割断面である外周端面13と第1主表面15とのなす角θ
13と、内側切筋12の割断面である内周端面14と第1主表面15とのなす角θ
14とをほぼ同一の角度で形成することができる。したがって、円環状のガラス素板10Bの外周端面13および内周端面14を研削して円環状のガラス基板を得るための機械加工の取り代を小さくすることができ、加工効率を高めることができる。この結果、ガラス基板の生産効率を高めることができる。
ここで、θ
13は、
図11に示すガラス素板10Bの中心線を含む断面において、外周15Aから主表面15の中心方向へ向かう直線と、外周端面13の延長線とのなす角である。また、θ
14は、ガラス素板10Bの中心線を含む断面において、内周15Bから第1主表面15の中心方向へ向かう直線と、内周端面14の延長線とのなす角である。なお、「ほぼ同一の角度」とは、θ
13とθ
14との角度の差が10°未満であることをいう。
【0089】
なお、
図11においては、外周端面13および内周端面14のいずれも、第1主表面15から第2主表面に向かって径方向外側へ向かうように傾斜している状態を示しているが、θ
13とθ
14とがほぼ同一の角度であれば、外周端面13および内周端面14のいずれも第1主表面15と垂直であってもよいし、外周端面13および内周端面14のいずれも第1主表面15から第2主表面16に向かって径方向内側へ向かうように傾斜していてもよい。ただし、外周端面13および内周端面14のいずれも第1主表面15と垂直である場合、その後に続く面取工程において最も少ない取代量で工程を完了することが可能となるため、より好ましい。
【0090】
第2の実施形態によって作製される円環状のガラス素板10Bは、内周端面14と外周端面13はそれぞれ割断面を含み、断面視において、内周端面14と外周端面13それぞれの主表面に対する角度の差が10°以下であるガラス素板である。10°以下の角度の差を有するので、円環状のガラス素板10Bの面取加工処理における加工効率を高くすることができ、円環状のガラス基板の生産効率が高くなる。なお、割断面は、倍率10倍程度の顕微鏡等を用いて目視で観察したときに表面になめらかな凹凸が観察されることで特定することが可能である。
この円環状のガラス素板10Bから磁気ディスク用ガラス基板を製造する工程において、外周端面13、内周端面14に対して面取処理、およびブラシ研磨により鏡面仕上げをする端面研磨処理が行われる。
【0091】
(ガラス基板の製造方法)
次に、第1の実施形態及び第2の実施形態で得られる円環状のガラス素板から磁気ディスク用ガラス基板を製造する方法について説明する。まず、円環状のガラス素板に対して総型砥石を用いた端面研削による面取加工を行う(面取加工処理)。これにより、面取面を有するリング形状(円環状)のガラス基板が生成される。次に、主表面研削処理を行い(研削処理)、平坦となったガラス基板に対して端面研磨を行う(端面研磨処理)。次に、ガラス基板の主表面に第1研磨を行う(第1研磨処理)。次に、第1研磨されたガラス基板に対して第2研磨を行う(第2研磨処理)。なお、必要に応じてガラス基板に対する化学強化処理を行ってもよい。以上の処理を経て、磁気ディスク用ガラス基板が得られる。
【0092】
上記のガラス基板の製造方法の第1の実施形態によれば、円環状のガラス素板10Bを形成する際に、外側切筋11の真円度を向上させており、内側切筋12と外側切筋11との同心度を高めている。このため、外周端面13および内周端面14に対する面取処理における取り代を小さくすることができ、ガラス基板の生産効率を高めることができる。
【0093】
また、第2の実施形態によれば、Δθ2>0、かつΔθ1<Δθ2の関係を満たす外側カッターホイール3および内側カッターホイール4を、第1平面P1の主表面となす角度が第2平面P2の主表面となす角度と同一となるように、板状のガラス素板(例えば、線膨張係数が65×10
−7/℃以下のガラス材料のガラス素板)10Aの主表面に接触させることで、得られる円環状のガラス素板10Bの外側切筋11の割断面における面取処理の取代と内側切筋12の割断面における面取処理の取代の差が小さくなり、面取処理時の取代量のバランスがよくなる。このため、面取処理後の端部において研削キズやチッピングを少なくできるので、外周端面13および内周端面14に対する研磨により鏡面仕上げをする端面研磨処理における取り代を小さくすることができ、ガラス基板の生産性を高めることができる。
さらに、Δθ2>0、かつΔθ1<Δθ2の関係を満たす外側カッターホイール3および内側カッターホイール4を用いることで、外側カッターホイール3および内側カッターホイール4の寿命を同等にすることができ、外側カッターホイール3および内側カッターホイール4の交換のタイミングを揃えやすくなり、ガラス基板の生産効率が高まる。
【0094】
本実施形態のうち第1の実施形態における外側カッターホイール3および内側カッターホイール4を、第2の実施形態の内容、すなわち、Δθ2>0、かつΔθ1<Δθ2の関係を満たすようにし、さらに、第1平面P1の主表面となす角度が第2平面P2の主表面となす角度と同一となるように外側カッターホイール3および内側カッターホイール4を配置して、円環状のガラス素板10Bを切り出すスクライビング処理と割断処理を実施することも好ましい。なお、外周切筋11及び内周切筋12が第1
主表面1
5に対して垂直で形成され
る場合、後工程において取代を最も減らすことができるので特に好ましい。
【0095】
〔実験例1〕
外側カッターホイール3および内側カッターホイール4を用いて、厚さ1mmの板状のガラス素板10Aに外側切筋11および内側切筋12を形成し、割断することにより、外径が約66mm、内径が約19mmの円環状のガラス素板10Bを作製した。外側カッターホイール3の切刃稜31に設けられた切り欠きの周方向の間隔C1、周方向の長さL1、深さD1および内側カッターホイール4の切刃稜41に設けられた切り欠きの周方向の間隔C2、周方向の長さL2、深さD2の大小関係は、表1〜表3に示すとおりである。
【0096】
〔同心度の計測〕
得られた円環状のガラス素板の外周端面および内周端面の形状を、真円度・円筒形状測定機で計測し、外周端面13と内周端面14との同心度及び真円度を評価した。同心度が15μm以下であれば、総型砥石による面取加工時の取り代を従来より小さくすることができるので、ガラス基板の生産効率が向上し製造コストを下げることが可能となり好ましい。
結果を表1〜表3に示す。
【0098】
表1に示すように、外側カッターホイール3の切刃稜31に設けられた切り欠きの周方向の間隔C1のみを変更したところ、C1<C2である実施例1〜3では、C1=C2である比較例1、C1>C2である比較例2よりも同心度を小さくすることができた。
【0100】
表2に示すように、外側カッターホイール3の切刃稜31に設けられた切り欠きの周方向の長さL1のみを変更したところ、L1≧L2である実施例2、5、6では、L1<L2である実施例4よりも同心度を小さくすることができた。また、L1>L2である実施例5、6では、L1=L2である実施例2よりも同心度を小さくすることができた。
【0102】
表3に示すように、外側カッターホイール3の切刃稜31に設けられた切り欠きの深さD1のみを変更したところ、D1≧D2である実施例2、8、9では、D1<D2である実施例7よりも同心度を小さくすることができた。また、D1>D2である実施例8、9では、D1=D2である実施例2よりも同心度を小さくすることができた。
【0103】
下記表4は、第1主表面15の外周15Aの真円度と第2主表面16の外周16Aの真円度の差を示す。実施例1〜3及び実施例6の真円度の差は、100μm以下であった。これに対して、比較例1の真円度の差は、100μmを越えた。また、実施例4,5,7〜9のいずれも真円度の差も、100μm以下であった。
【0105】
〔実験例2〕
板状のガラス素板10Aの素材として、線膨張係数が90〜100(×10
−7/℃)の板状のガラス素板(参考例)、線膨張係数が55〜65(×10
−7/℃)の板状のガラス素板(比較例1,3−5、実施例1−3,7−16)、線膨張係数が35〜45(×10
−7/℃)の厚さ1mmの板状のガラス素板(比較例2、実施例4−6)を用いた。この板状のガラス素板10Aに外側カッターホイール3および内側カッターホイール4を用いて外側切筋11および内側切筋12を形成し、割断することにより、外径が約66mm、内径が約19mmの円環状のガラス素板10Bを作成した。このとき、外側カッターホイール3の切刃稜31を含む第1平面、および、内側カッターホイール4の切刃稜41を含む第2平面が、いずれも板状のガラス素板10Aの主表面と垂直かつ回転半径方向と垂直となるように、外側カッターホイール3および内側カッターホイール4を板状のガラス素板10Aの主表面に当接させた。
【0106】
なお、線膨張係数が90〜100(×10
−7/℃)のガラスは下記組成のガラスA、線膨張係数が55〜65(×10
−7/℃)のガラスは下記のガラスB、線膨張係数が35〜45(×10
−7/℃)は下記のガラスC、の範囲内からそれぞれ適宜調整して準備した。
(ガラスA)
SiO
2 :63〜70mol%、Al
2O
3: 4〜11mol%、Li
2O : 5〜11mol%、Na
2O : 6〜14mol%、K
2O : 0〜2mol%、TiO
2 : 0〜5mol%、ZrO
2 : 0〜2.5mol%、RO : 2〜15mol%(ただし、RO=MgO+CaO+SrO+BaO)、MgO : 0〜6mol%、CaO : 1〜9mol%、SrO : 0〜3mol%、BaO : 0〜2mol%、その他: 0〜3mol%、(SiO
2−Al2O
3):56.5mol%以上、のアルミノシリケートガラス。
【0107】
(ガラスB)
酸化物基準の質量%表示で、SiO
2 40〜61、Al
2O
315〜23.5、MgO 2〜20、CaO 0.1〜40を含有し、[SiO
2]+0.43×[Al
2O
3]+0.59×[CaO]−74.6≦0、かつ、[SiO
2]+0.21×[MgO]+1.16×[CaO]−83.0≦0である無アルカリのアルミノシリケートガラス。
【0108】
(ガラスC)
ヤング率が87GPa以上であり、歪点が680℃以上であり、50〜350℃での平均熱膨張係数が30×10
-7〜47×10
−7/℃であって、酸化物基準の質量%表示で、SiO
2 55〜69、Al
2O
3 17〜27、B
2O
3 0〜3、MgO 0〜20、CaO 2〜20、SrO 0〜2、BaO 0〜2、SnO
2 0.01〜1、を含有し、SiO
2+Al
2O
3+MgO+CaOが95以上であり、MgO+CaO+SrO+BaOが12〜23であり、[SiO
2]×6.7+[Al
2O
3]+[B
2O
3]×4.4−458≦0を満たす無アルカリのアルミノシリケートガラス。
【0109】
使用した外側カッターホイール3および内側カッターホイール4のθo1、θi1、θo2、θi2、Δθ1、Δθ2は、表5〜7に示すとおりである。
【0110】
〔歩留りの評価〕
参考例、比較例1−5、実施例1−16のそれぞれにつき、1000枚の板状のガラス素板の加工を行った。外側カッターホイール3および内側カッターホイール4を用いて板状のガラス素板10Aの主表面に外側切筋11および内側切筋12を形成し、割断処理した。その後、端面研削用の総型砥石を用いて、割断処理後の円環状のガラス素板10Bの外周端面13及び内周端面14を研削することによりそれぞれ半径換算で200μm分(直径換算で400μm分)を除去し、外周端面13及び内周端面14にそれぞれ面取面と側壁面とを形成した。端面研削処理後の円環状のガラス基板10Bの端面(面取面及び側壁面)の全体を目視と顕微鏡で確認し、チッピング(欠け)や、未研削部分が見つかったものを不良品とし、良品の割合を歩留り率(%)として算出した。なお、歩留りが80%以上であれば実用上問題ないレベルである。
結果を表5〜7に示す。
【0112】
線膨張係数が90〜100(×10
−7/℃)では、同一の角度の外側カッターホイールおよび内側カッターホイールを用いた参考例では、歩留りが90%で問題はなかった。しかし、線膨張係数が55〜65(×10
−7/℃)の比較例1では歩留りが20%に低下した。さらに、線膨張係数が35〜45(×10
−7/℃)の比較例2では、ガラス素板の内側切筋よりも内側の領域を抜くことができず、円環状のガラス素板を作成することができなかった。このため、歩留りを0%とした。
【0113】
比較例1と実施例1〜3、比較例2と実施例4〜6を対比すると、Δθ2>0かつΔθ1<Δθ2とすることで、歩留りが85%以上に改善することがわかる。
【0115】
実施例10〜12と実施例1〜3とを対比すると、(Δθ2−Δθ1)の値は同じだが、歩留りに差が出た。実施例1〜3は「θi1+θo1<θi2+θo2」の関係となっているため、切断抵抗の観点で有利となり歩留りが高いと推察される。
【0117】
実施例2の条件を元にしてθo1とθi1を変化させた。ここでも、Δθ2>0かつΔθ1<Δθ2とすることで、歩留りが85%以上に改善することがわかる。
【0118】
以上、本発明の
スクライビング装置、ガラス素板、ガラス素板の製造方法、およびガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。