特許第6884772号(P6884772)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6884772
(24)【登録日】2021年5月14日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】医療器具を備えたシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/88 20060101AFI20210531BHJP
【FI】
   A61B17/88
【請求項の数】23
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-516523(P2018-516523)
(86)(22)【出願日】2016年9月27日
(65)【公表番号】特表2018-529457(P2018-529457A)
(43)【公表日】2018年10月11日
(86)【国際出願番号】CH2016000126
(87)【国際公開番号】WO2017054099
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2019年9月19日
(31)【優先権主張番号】01423/15
(32)【優先日】2015年9月30日
(33)【優先権主張国】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】511206559
【氏名又は名称】スパインウェルディング・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SPINEWELDING AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミューラー,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ロメオ,ドメニコ
(72)【発明者】
【氏名】ベルンハルト,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】バイス,マリオ
【審査官】 菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−540514(JP,A)
【文献】 特表2011−519596(JP,A)
【文献】 特表2011−512969(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0123467(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/88
A61B 17/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性材料および振動エネルギーを用いて、熱可塑性材料の生体内液化および液化した熱可塑性材料の排出によって、硬質組織にまたは硬質組織の置換材料にアンカを形成するもしくはヒトまたは動物患者の手術部位の硬質組織を増強するためのシステムであって、
振動エネルギーを生成するためのエネルギー源(1.1)に接続しているまたは接続可能な伝動要素(1)と、ハウジングとを備え、前記ハウジングは、遠位端と、近位端と、前記遠位端と前記近位端との間に延在する長手軸と、前記遠位端に設けられた開口(2.1)とを含み、前記伝動要素(1)は、前記長手軸の方向に沿って移動可能に前記ハウジング(2)に配置され、前記開口(2.1)は、前記伝動要素(1)の遠位部が前記開口(2.1)から突出可能になるように前記伝動要素(1)に対して配置され、
前記ハウジング(2)の前記近位端および前記遠位端の一方に向かって前記伝動要素(1)を駆動するように構成された駆動装置を備え、前記駆動装置は、前記伝動要素に圧縮力(CF)を加えるように動作可能であり、
前記伝動要素(1)とカウンタ要素(5、7)との間に配置され、圧縮力(CF)によって圧縮可能な熱可塑性要素(4、6)とを備え、
前記システムは、前記駆動装置が前記伝動要素(1)を介して前記熱可塑性要素(4、6)に圧縮力(CF)を加えることによって前記熱可塑性要素(4、6)の前記生体内液化および前記排出を行うこととは別に、前記熱可塑性要素(4、6)に対して前記伝動要素(1)の衝撃のない初期位置決めおよび予備プレスを行うように構成された装置をさらに備え、
前記システムは
前記駆動装置が前記伝動要素(1)を介して前記熱可塑性要素(4、6)に加える力である駆動力を制限することが可能な制動要素
前記駆動装置が前記伝動要素(1)を介して前記熱可塑性要素(4、6)に加える力である駆動力とは別の駆動力を前記伝動要素に加えるように構成された補助駆動装置(50)また
前記駆動装置が前記伝動要素(1)を介して前記熱可塑性要素(4、6)に加える初期的に緩やかな駆動を徐々に増加させるように制御されることが可能な前記駆動装
備えることによって、衝撃のない初期位置決めおよび予備プレスを備えることを特徴とする、システム。
【請求項2】
衝撃のない初期位置決めおよび予備プレスを行うための前記装置は、前記圧縮力をより小さい位置決め力に規制するまたは前記駆動装置を非作動構成に保持すると共に前記位置決め力を加えるように構成された前記補助駆動装置により構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記駆動装置は、前記ハウジング(2)および前記伝動要素(1)に作用するように構成され、予負荷状態にロック可能な駆動バネ(3)である、請求項1または2のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項4】
前記熱可塑性要素は、ピン(4)であり、
前記カウンタ要素は、穴あきスリーブ(5)であり、
前記ピン(4)および前記スリーブ(5)は、前記スリーブ(5)の近位側から前記ピン(4)を前記スリーブ(5)内に導入可能にするように、互いに対して配置され、または、前記熱可塑性要素は、チューブ(6)であり、前記カウンタ要素は、カラー(7)であり、前記チューブ(6)および前記カラー(7)は、前記伝動要素(1)の遠位部が前記カラー(7)および前記チューブ(6)を通過可能にするように、前記伝動要素(1)に対して配置される、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項5】
衝撃のない初期位置決めおよび予備プレスを行うための前記装置は、カム(31)およびフォロア(32)を備え、
前記カム(31)および前記フォロア(32)の一方は、前記伝動要素(1)上に配置され、他方は、前記ハウジング(2)に対する前記伝動要素の軸方向移動を制御可能にするように、前記伝動要素(1)および前記ハウジング(2)に対して移動可能に配置される、請求項3または4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項6】
前記フォロア(32)は、前記伝動要素(1)に対して固定して配置され、
前記カム(31)は、前記ハウジング(2)によって回転可能に支持されるように構成されたリング(33)内に配置される、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記カム(31)は、前記フォロア(32)を初期位置にロックすることによって、前記伝動要素(1)をロックするためのロック部(31.3)をさらに含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記ロック部(31.3)は、皿状である、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記ハウジング(2)および前記リング(33)の少なくとも一方は、前記フォロア(31)が前記カムの終端に到達したときに、前記ハウジング(2)に対して前記リング(33)をロックするように構成される、請求項6〜8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
衝撃のない初期位置決めおよび予備プレスを行うための前記装置は、前記駆動バネ(3)の一部を予負荷状態に保持するための補助ロック(40)を含む、請求項3または4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
前記補助駆動装置(50)は、ラックピニオン駆動装置またはケーブル駆動装置である、請求項2〜4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項12】
前記補助駆動装置(50)は、前記ハウジング(2)の少なくとも一部の外側で動作する、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記駆動装置は、前記初期的に緩やかな駆動を徐々に増加させるように制御可能であり、前記駆動装置は、電気駆動装置である、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のシステムに適した器具であって、
前記伝動要素(1)、前記ハウジング(2)、前記駆動装置を備え、さらに前記制動要素、補助駆動装置、または初期的に緩やかな駆動を徐々に増加させるように制御可能である前記駆動装置を備える、器具。
【請求項15】
前記補助駆動装置は、前記圧縮力がより小さな位置決め力となるよう制限するために、または前記駆動装置が非作動構成で保持される間に前記位置決め力を及ぼすように設計される、請求項14に記載の器具。
【請求項16】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のシステムを用いて、ヒトではない動物患者の手術部位の硬質組織もしくは硬質組織の置換材料にアンカを形成するまたはヒトではない動物患者の手術部位の硬質組織を増強するための方法であって、
ハウジング(2)、伝動要素(1)、駆動装置、熱可塑性要素(4、6)およびカウンタ要素(5、7)の組立てを行う工程を含み、前記伝動要素(1)は、初期位置にあり、前記熱可塑性要素(4、6)は、前記伝動要素(1)と前記カウンタ要素(5、7)との間に圧縮可能に配置され、
前記硬質組織または前記置換材料に対して前記システムの位置決めを行う工程と、
圧縮力(CF)よりも小さい位置決め力(PF)を前記伝動要素(1)に加えることによって、前記熱可塑性要素(4、6)に対して前記伝動要素(1)の位置決めおよび予備プレスを行う工程と、
前記圧縮力(CF)を前記伝動要素(1)に加えることによって、前記伝動要素(1)と前記カウンタ要素(5、7)との間に配置された前記熱可塑性要素(4、6)の圧縮を行う工程と、
エネルギー源(1.1)を作動させる工程と、
前記熱可塑性要素(4、6)を構成する熱可塑性材料の少なくとも一部を液化し、液化した材料を排出し、前記硬質組織または前記硬質組織の置換物質に接触または浸透するのに十分な時間で、前記圧縮力(CF)の適用および前記エネルギー源(1.1)の作動を保持する工程と、
前記手術部位から、少なくとも前記ハウジング(2)、前記駆動装置および前記伝動要素(1)の一部を取り外す工程とを含む、方法。
【請求項17】
前記位置決めおよび予備プレス工程の後の前記圧縮を行う工程は、自動的にまたは能動的に開始される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記駆動装置は、前記伝動要素(1)に前記圧縮力(CF)を加えるように構成された駆動バネ(3)であり、
前記システムの各要素の組立工程は、前記駆動バネ(3)に予負荷を加え、前記駆動バネ(3)を予負荷状態にロックすることを含む、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記位置決めおよび予備プレス工程は、前記駆動バネ(3)を前記予負荷状態から解放し、前記圧縮力(CF)を前記位置決め力(PF)に規制することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記位置決めおよび予備プレス工程は、前記駆動バネ(3)を前記予負荷状態にロックすると共に、前記位置決め力(PF)を前記伝動要素(1)に加えることを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記システムの各要素の組立工程は、前記システムの位置決め工程の前に行われ、またはその一部が前記システムの位置決め工程の前に行われ、他部が前記システムの位置決め工程の間に行われる、請求項16〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記位置決めおよび予備プレス工程は、前記システムの各要素の組立工程の後であって、前記システムの位置決め工程の前または後に行われる、請求項16〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記エネルギ源を作動させる工程は、前記位置決めおよび前記予備プレス工程の後であって、前記圧縮を行う工程の前または後に行われる、請求項16〜22のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、医療技術の分野に属する。本発明は、医療器具(medical apparatus)および医療装置(medical device)を含むシステムに関し、さらには、医療器具およびシステムを適用可能な手術方法に関する。具体的に、本発明のシステムおよび方法は、熱可塑性材料および振動エネルギーを用いて、硬質組織または硬質組織の置換材料にアンカを形成するもしくはヒトまたは動物患者の手術部位の硬質組織を増強する。熱可塑性材料は、最初に固体であるが、生体内で液化され、液化状態で排出され、硬質組織または置換材料に接触または浸透することによって、例えば骨組織の小柱網に浸透することによって、硬質組織または置換材料と共に、一種の複合材料を形成する。システムは、複数の組立要素を含み、2つの部分、すなわち、手術完了時に手術部位から取り外される器具と患者の体内に留置される装置とを有する。実施形態および用途に応じて、一部のシステム要素は、器具および装置のいずれかに属してもよく、すなわち、体内に留置されてもよく、取り外されてもよい。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
国際公報WO2011/054123は、上述した本発明のシステムおよび方法と同様の目的を果たす、医療器具および医療装置を含むシステムおよび外科方法を開示している。この国際公報は、硬質組織に固定される装置を開示している。この装置は、軸方向開口および径方向穴を有するスリーブ(穴あきスリーブと略す)と、熱可塑性材料から形成されるピン(熱可塑性ピンと略す)とを含む。スリーブおよびピンは、スリーブの近位側からピンをスリーブの軸方向開口に導入し、スリーブの閉じたまたは部分的に閉じた遠位側によってスリーブ内に保持することができるように、互いに対して配置される。この装置を硬質組織に固定するために使用される器具は、ハウジング内に配置されたエネルギー源と伝動要素との結合体を含み、この結合体は、ハウジング内で一定的な軸方向移動を可能にし、伝動要素がハウジングから突出可能になるように、ハウジング内に配置される。この器具は、伝動要素とエネルギー源との結合体をハウジングの遠位開口に向かって付勢するための駆動装置をさらに備える。伝動要素および穴あきスリーブは、伝動要素の遠位部をスリーブ内に導入することができ、ピンをスリーブ内に入れたときにピンの近位端に接触するように、互いに対して配置される。
【0003】
開示された器具のエネルギー源は、振動エネルギー、具体的に超音波振動エネルギーを生成するための生成器である。この生成器は、例えば圧電素子を含み、ハウジングに接続するケーブルを介して供給された交流電圧によって作動される。伝動要素は、エネルギー源に直接に結合されまたは昇圧器を介してエネルギー源に結合されたソノトロードである。超音波振動エネルギー源と伝動要素との結合体は、ハウジングから音響的に隔離される。
【0004】
開示されたシステムの駆動装置は、(例えば、エネルギー源を介して)伝動要素とハウジングとの間に配置され、伝動要素に軸方向の力を加える駆動バネである。駆動装置は、その力(圧縮力)を用いて、ピンを圧縮することによって、スリーブの穴を通って液化したピン材料を硬質組織に排出し、液化したピン材料の排出によるピンの短縮を補償するために伝動要素を前進させる。液化プロセスの前に、伝動要素は、初期位置にロックされ、駆動バネは、予負荷状態に保持される。
【0005】
上述した公報に開示された器具および装置を含むシステムは、以下のように使用される。スリーブを骨組織の開口内に配置してから、ピンをスリーブに導入する。伝動要素は、初期位置に位置し、駆動バネは、予負荷状態に保持される。ハウジングは、スリーブに固定されまたはスリーブに対して固定される。これによって、伝動要素は、スリーブに進入し、ピンに接触することができる。エネルギー源を作動し、駆動バネを(予負荷状態から解放することによって)作動する。エネルギー源の作動によって、伝動要素を介してエネルギーをピンに伝達すると共に、駆動バネの作動によって、ピンに向かって伝動要素を駆動し、ピンを伝動要素とスリーブとの間に圧縮する。エネルギーが振動エネルギーである場合、スリーブ内でピンを振動させることによって、ピンとスリーブとの間に摩擦を生じさせ、ピン材料を加熱および液化する。駆動バネから加えた圧縮力は、スリーブの穴から液化した材料を押し出し、スリーブが配置されている骨組織の開口の壁の小柱網に浸透させる。エネルギー源を停止し後、排出されたピン材料は、再び固化し、例えば小柱網と共に一種の複合体を形成し、スリーブと骨組織との間にポジティブフィット連結を形成する。
【0006】
類似の器具および装置を含むシステムは、国際公報WO2009/010234に記載されている。
【0007】
US7335205、US6921264、WO2008/034277、WO2009/010247、WO2009/055952、WO2009/132472、WO2010/045751およびWO2010/127462は、エネルギー、特に超音波振動エネルギーおよび熱可塑性材料の生体内液化を用いて、硬質組織または硬質組織の置換材料にアンカを形成するまたは硬質組織を増強するための方法を開示している。これらの方法は、本発明の方法の基礎を構成する。
【0008】
WO2011/054123およびWO2009/010234に開示され、上記で簡潔に説明したシステム、すなわち、熱可塑性材料からピンを形成し、このピンを穴あきスリーブ内に配置し、スリーブと伝動要素との間で圧縮するように構成されたシステムに加えて、WO2008/034277、WO2009/055952およびWO2010/127462は、熱可塑性材料から、伝動要素の遠位部を囲むチューブを形成し、このチューブを伝動要素の遠位部とカウンタ要素との間で圧縮するように構成されたシステムをさらに開示している。
【0009】
従来技術に係るシステムの2つの例示的な実施形態は、図1aおよび1b並びに図2aおよび2bに示されている。
【0010】
上記に引用した全ての出願の開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
発明の概要
本発明の目的は、上記で簡潔に説明しており、熱可塑性材料に適用される振動エネルギー、特に超音波振動エネルギーおよび熱可塑性材料の生体内液化によって、硬質組織または硬質組織の置換材料にアンカを形成するまたは硬質組織を増強するための既知の器具および装置を含む医療システムおよび手術方法を改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記で簡潔に説明した従来技術のシステムおよび方法を使用する経験によって、熱可塑性材料を含む要素(熱可塑性要素と略す)の衝撃的な圧縮を防止するための措置を取れば、熱可塑性材料の液化に伴う困難を低減または排除することができ、結果として得られたアンカまたは増強の品質を改善することができることが分かった。その理由の1つとして、熱可塑性要素の衝撃的な圧縮、特に小さい直径を有するピンまたはチューブの形にした熱可塑性要素に与える衝撃的な圧縮を防止することによって、液化プロセスに悪影響を与える可能性のあるピンまたはチューブの変形(deformation)または湾曲(buckling)を防止することができることである。
【0013】
本発明によれば、熱可塑性材料に与える衝撃的な圧縮の防止は、液化プロセスに先立つ予備工程を実施することによって達成される。この予備工程において、伝動要素は、制御された方法で、特に衝撃のない状態で、熱可塑性要素に対して位置決められ、予備プレスされる。予備工程の間に、伝動要素は、圧縮力よりも小さい位置決め力によって駆動され、システムを組立てる際に、熱可塑性要素と、熱可塑性要素を圧縮するシステム要素との間に存在する可能性のある隙間を閉じることによって、熱可塑性要素を予備プレスする。その後の予備工程に続き、全ての圧縮力は、自動的にまたはシステムの操作員の操作によって適用される。
【0014】
本発明の方法は、以下の工程を含み、具体的に、
システム要素の組立てを行う工程を含み、伝動要素は、初期位置にあり、熱可塑性要素(ピンまたはチューブ)は、伝動要素とカウンタ要素(スリーブまたはカラー)との間に配置されており、
硬質組織または硬質組織の置換材料に対してシステムの位置決めを行う工程と、
圧縮力よりも小さい位置決め力を加えることによって、熱可塑性要素に対して伝動要素の位置決めおよび予備プレスを行う工程(システム予備工程)と、
圧縮力を適用することによって、伝動要素とカウンタ要素との間に配置された熱可塑性要素の圧縮を行う工程と、
エネルギー源を作動させる工程と、
熱可塑性材料の少なくとも一部を液化し、液化した材料を排出し、硬質組織または硬質組織の置換物質に接触または浸透するのに十分な時間で、圧縮力の適用およびエネルギー源の作動を保持する工程(液化工程)とを含む。
【0015】
硬質組織に対してシステムの位置決めを行う工程は、圧縮力の適用およびエネルギー源の作動の両方を行う前に完了すべきである。システムの応用、特に組織内に固定される装置に応じて、システムの位置決めを行う工程は、全体工程(システムの位置決め)または部分工程(例えば、器具の位置決め工程および装置の位置決め工程)として、システムの組立ての間に、システムの組立ての後に、またはシステムの準備(伝動要素の位置決めおよび予備プレス工程)の後に、実行されてもよい。また、駆動装置が完全に作動されている場合、すなわち、熱可塑性要素が完全に圧縮されているがエネルギー源がまだ作動されていない場合でも、組織に対してシステムの位置決めを行うことも可能である。本発明の方法の一般的な工程の順序は、図13に示されている。
【0016】
好ましい実施形態において、穴あきスリーブは、硬質組織に対してシステムの位置決めを行う工程の一部として硬質組織に捩じ込まれるカニューレ状ネジである。システムの位置決めを行う工程の更なる部分として、ピンを位置決められたネジの内部に導入し、ハウジングをネジの近位端に固定する。その後、ピンに対して伝動要素の位置決めおよび予備プレスを行う予備工程を実行する。振動エネルギー源は、好ましくは、圧縮力の適用と同時に作動されるが、代替的には、予備工程を行う前にまたは圧縮力を適用している間に作動されてもよい。
【0017】
従来技術のシステムに関して上記で簡潔に説明しており、以下の本発明のシステムおよび方法においても同様に、伝動要素は、エネルギー源に接続しているまたは接続可能な近位端と、熱可塑性要素に対して配置された遠位端とを有する。システム要素を互いに対して配置すると、全てのシステム要素は、伝動要素に対した配置に対応する遠位端および近位端を有し、近位端と遠位端との間に延在する長手軸を有する。システムに配置された要素の長手軸は、互いに実質的に平行であるまたは重なる。
【0018】
従来技術のシステムに関して上記で説明しており、本発明のシステムにおいても同様に、熱可塑性要素は、ピンまたはチューブである。ピンを備えた場合、システムは、カウンタ要素として、ピンを圧縮するようにピンの遠位端に向かって押し付けられる穴あきスリーブを含む。チューブを備えた場合、システムは、カウンタ要素として、チューブを圧縮するようにチューブの近位端に向かって押し付けられる近位カラーを含む。
【0019】
本発明のシステムは、器具および装置によって構成される。装置は、アンカまたは増強を形成し、硬質組織に留置されるが、器具は、取り外される。ピン/スリーブシステムのスリーブは、留置されてもよく取り外されてもよいため、用途に応じて、器具または装置の一部であってもよい。チューブ/カラーシステムの伝動要素は、取り外されてもよく(器具に含まれてもよく)、または少なくとも伝動要素の遠位部は、組織内に留置されてもよい(装置に含まれてもよい)。同様のことは、カラーにも適用する。具体的に、カラーは、ハウジングの一体化部分であってもよく(器具に含まれてもよく)、チューブの一体化部分であって、組織内に留置されてもよい(装置に含まれてもよい)。
【0020】
ハウジング、(エネルギ源に固定して接続され得る)伝動要素、熱可塑性要素(ピンまたはチューブ)、およびカウンタ要素(スリーブまたはカラー)は、システムに配置されると、駆動装置と共に負荷フレーム(load frame)を形成する。本発明によれば、この負荷フレームは、位置決めおよび予備プレスの予備工程において実質的に閉じられ(および少しの負荷が加えられ)、圧縮工程において全ての負荷が加えられる。
【0021】
従来技術の装置およびシステムと同様に、本発明のシステムおよび方法において、熱可塑性材料は、例えば、ポリラクチド系熱可塑性ポリマー、コポリマーまたはポリマー混合物である。熱可塑性ポリマーは、ポリマーの補強または他の目的のために、充填剤を含有することができる。熱可塑性材料は、形成されるアンカまたは増強を考慮して、特にアンカまたは補強が負う負荷を考慮して、および液化に使用されるエネルギーを考慮して、選択される。
【0022】
本発明のシステムは、伝動要素を駆動するための駆動バネを含むことができる。しかしながら、他の種類の駆動装置、例えば、油圧駆動装置、空気駆動装置または電気駆動装置も適用可能である。
【0023】
熱可塑性要素に対して伝動要素の位置決めおよび予備プレスを行う予備工程、およびその後の熱可塑性要素を圧縮する工程は、以下の方法で行うことができる。
【0024】
1)位置決めおよび予備プレス工程を行うときに、駆動装置を作動させ、制動要素を用いて、熱可塑性要素に作用する駆動力を規制し、圧縮工程を行うときに、駆動力の規制を解除する。
【0025】
2)位置決めおよび予備プレス工程を行うときに、補助駆動装置からの駆動力を伝動要素に加え、圧縮工程を行うときに、駆動装置を作動させる。
【0026】
3)位置決めおよび予備プレス工程を行うときに、駆動装置を作動させ、駆動装置を制御して最初は緩やかな駆動力を徐々に増加させ、圧縮工程を行うときに、駆動装置を作動しない。
【0027】
添付の図面に関連して、本発明をさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1a】熱可塑性ピンおよび穴あきスリーブを備え、本発明のシステムおよび方法の基礎を構成する従来技術の組立て済みシステムが液化プロセス前の様子を非常に概略的に示す図である。
図1b】熱可塑性ピンおよび穴あきスリーブを備え、本発明のシステムおよび方法の基礎を構成する従来技術の組立て済みシステムが液化プロセス中の様子を非常に概略的に示す図である。
図2a】熱可塑性チューブおよびカラーを備え、本発明のシステムおよび方法の基礎を構成する従来技術の組立て済みシステムが液化プロセス前の様子を非常に概略的に示す図である。
図2b】熱可塑性ピンおよび穴あきスリーブを備え、本発明のシステムおよび方法の基礎を構成する従来技術の組立て済みシステムが液化プロセス中の様子を非常に概略的に示す図である。
図3】最初に圧縮力を規制する本発明のシステムおよび方法の例示的な実施形態を非常に概略的に示す図である。
図4】カムおよびフォロアを備え、最初に圧縮力を規制するように構成された本発明の例示的なシステムおよびその一部をさらに詳細に示す図である。
図5】カムおよびフォロアを備え、最初に圧縮力を規制するように構成された本発明の例示的なシステムおよびその一部をさらに詳細に示す図である。
図6】カムおよびフォロアを備え、最初に圧縮力を規制するように構成された本発明の例示的なシステムおよびその一部をさらに詳細に示す図である。
図7】カムおよびフォロアを備え、最初に圧縮力を規制するように構成された本発明の例示的なシステムおよびその一部をさらに詳細に示す図である。
図8】最初に圧縮力を規制する本発明のシステムおよび方法の更なる例示的な実施形態を非常に概略的に示す図である。
図9】補助駆動装置を用いて伝動要素の初期位置を変更する本発明のシステムおよび方法の別の実施形態を非常に概略的に示す図である。
図10図9に示す原理に従ったシステムの例示的な実施形態を示す図である。
図11図9に示す原理に従ったシステムの例示的な実施形態を示す図である。
図12】ハウジングの軸方向の初期長さを変更した本発明のシステムおよび方法の更なる実施形態を非常に概略的に示す図である。
図13】本発明の方法を示す一般的な流れ図である。
図14図5〜7に示すシステムの取り扱いを示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
好ましい実施形態の説明
添付の図面に示された全てのシステムは、エネルギー源を含み、エネルギー源には、伝動要素が固定されている。エネルギー源と伝動要素との結合体は、ハウジング内に配置される。このような構成は、器具が手持ち式であり、エネルギー源が超音波振動エネルギー生成器である場合に特に適切である。しかしながら、図面に関連して説明される全ての特徴は、ハウジングの外側に配置され、ハウジングの壁を通る可撓性コネクタを介して伝動要素に接続されるエネルギー源を含むシステムにも適用可能である。
【0030】
添付の図面に示された全てのシステムは、伝動要素を駆動し且つ熱可塑性要素を圧縮するための駆動バネを含む。しかしながら、既に上述したように、本発明のシステムは、代替の駆動装置を含んでもよい。この場合、代替の駆動装置に応じて、駆動力を規制するための要素または補助力を加えるための要素を変更する必要がある。
【0031】
全ての図面において、同様の参照番号は、同様の要素または同様の機能を果たす要素を指す。
【0032】
図1aおよび1bは、エネルギー、特に振動エネルギー(例えば、超音波振動エネルギー)を適用することによって、生体内で液化する熱可塑性材料を用いて、硬質組織にまたは硬質組織の置換材料にアンカを形成するもしくはヒトまたは動物患者の手術部位の硬質組織を増強するための従来技術に係るシステムおよび方法を示す。図1aに示すシステムは、既に組立てられ、液化プロセスのために用意されており、図1bに示すシステムは、液化プロセス中のものである。
【0033】
このシステムは、非常に概略的に図示されており、更なる詳細を求める場合、最初に引用した刊行物、具体的にWO2011/054123を参照する。このシステムは、エネルギ源1.1に固定された伝動要素1と、ハウジング2と、駆動バネ3とを含み、これらの要素は、医療器具を構成し、アンカまたは増強を形成した後に手術部位から取り外される。このシステムは、熱可塑性材料を含むピン4(熱可塑性要素)と、穴あきスリーブ5(カウンタ要素)とをさらに含む。少なくともピン4は、アンカまたは増強を形成した後に手術部位に留置される装置を構成し、スリーブ5は、(手術部位に留置される)装置または(手術部位から取り外される)器具に含まれてもよい。
【0034】
図1aに示すように、組立て済みシステムにおいて、伝動要素1は、ハウジング2に対して伝動要素1の一定的な軸方向移動を可能にすることによって、伝動要素1がハウジングの遠位開口2.1から多少突出するように、ハウジング2内に配置される。図示の実施形態では圧縮バネである駆動バネ3は、(図示の実施形態ではエネルギー源1.1を介して)ハウジング2の近位端と伝動要素1との間に作用するように配置され、伝動要素1をハウジング2の遠位端に向かって付勢するように構成される。液化プロセスのために準備された組立て済みシステムにおいて、解放可能なロック10を用いて、駆動バネ3に予負荷を加え、伝動要素1を初期位置(例えば、最も近位位置)に保持することができる。解放可能なロック10は、作動されると、伝動要素1を初期位置にロックし、駆動バネ3を予負荷状態にロックすることができ、停止されると、伝動要素1を解放し、駆動バネ3を作動させることができる。ロック10は、両矢印として非常に概略的に図示され、図1aに示す構成において、ロック位置(左位置)にある。
【0035】
図1bに示されている液化プロセスにおいて、圧縮バネ3を作動させることによって、すなわち、ロック10を解放位置(右位置)に移動することによって、ピン4は、伝動要素1とスリーブ5の内部との間で圧縮され、エネルギーは、伝動要素1を介してピン4に加えられる。駆動バネ3によって加えられた圧縮力CFは、ピンを圧縮状態に保持し、スリーブ5の穴を通って、液化したピン材料をスリーブ5の外面に排出する(排出されたピン材料4.1)。液化プロセスの間に、ピン4は短くなり、伝動要素1の遠位端は、圧縮力CFによってスリーブの奥にさらに移動される。
【0036】
伝動要素1の初期位置、ピン4の軸方向の長さおよびスリーブ5の開口の深さに応じて、伝動要素1の遠位面とピン4の遠位面との間にギャップ20が存在する可能性があり、またはシステムの向きおよびスリーブ5内のピン4の嵌合状態に応じて、スリーブ5の開口の遠位端とピン4の遠位面との間にギャップ20が存在する可能性がある。ピン4を圧縮し且つエネルギーをピン4に伝達するために、このギャップ20を閉じる必要がある。従来技術によれば、このギャップ20は、駆動バネ3を作動させた直後に解放し、ピンに衝撃的な圧縮を与えることによって閉じられる。当然ながら、液化プロセスのために、システム要素およびそれらの相対位置を変更することによって、組立て済みシステムにおいてギャップ20を無くすようにシステムを準備することが可能である。しかしながら、同一の器具を用いて、異なる長さを有するピン4および/または異なる深さの開口を有するスリーブ5と共に使用する場合、ギャップ20を無くすことが殆どできない。
【0037】
図1aおよび1bに示すシステムの更なる実施形態は、駆動バネ3(圧縮バネ)の代わりに、伝動要素1(またはエネルギー源1.1)とハウジング2の遠位端との間に配置された引張バネを含むことができる。この場合、引張バネは、作動されると、ハウジングの遠位端に向かって伝動要素1を引っ張る。
【0038】
図2aおよび図2bは、図1aおよび図1bに示されたシステムおよび方法と同様の目的を果たす従来技術のシステムおよび方法を示す。図2aに示すシステムは、既に組立てられ、液化プロセスのために用意されており、図2bに示すシステムは、液化プロセス中のものである。
【0039】
このシステムは、非常に概略的に図示されており、更なる詳細を求める場合、最初に引用した刊行物、具体的にWO2008/034277、WO2009/055952およびWO2010/127462を参照する。このシステムは、エネルギ源1.1に固定され得る伝動要素1と、ハウジング2と、駆動バネ3とを含み、これらの要素は、医療器具を構成し、アンカまたは増強を形成した後に手術部位から取り外される。このシステムは、熱可塑性材料(熱可塑性要素)を含むチューブ6と、カラー7(カウンタ要素)とをさらに含む。少なくともチューブ6は、手術部位に留置される装置を構成し、カラー7および場合によって伝動要素1の遠位部1.2は、(手術部位に留置される)装置または(手術部位から取り外される)器具に含まれてもよい。
【0040】
図2aに示すように、組立て済みシステムにおいて、伝動要素1およびエネルギ源1.1は、ハウジング2に対して伝動要素1の一定的な軸方向移動を可能にすることによって、伝動要素1がハウジングの遠位開口2.1から多少突出するように、ハウジング2内に配置される。駆動バネ3は、(図示の実施形態ではエネルギー源1.1を介して)ハウジング2の近位端と伝動要素1との間に作用するように配置された圧縮バネであり、伝動要素1をハウジング2の位端に向かって付勢するように構成される。伝動要素1の遠位部1.2は、カラー7およびチューブ6を通って延在し、カラー7は、ハウジング2の遠位開口2.1とチューブ6の近位端との間に配置される。カラー7は、別個の要素であってもよく、ハウジング2に固定されてもよくまたはハウジング2の一体化部分であってもよく、もしくはチューブ7の一体化部分であってもよい。
【0041】
液化プロセスのために準備された組立て済みシステムにおいて、解放可能なロック10を用いて、伝動要素1を初期位置(例えば、最も遠位位置)にロックすることによって、駆動バネ3に予負荷を加えることができる。ロック10は、両矢印として非常に概略的に図示され、図2aに示す構成において、ロック位置(左位置)にある。
【0042】
図2bに示されている液化プロセスにおいて、圧縮バネ3を作動させることによって、すなわち、ロック10を解放位置(右位置)に移動することによって、チューブ6は、伝動要素1の遠位端とカラー7との間に圧縮され、エネルギーは、伝動要素1を介してチューブ6に加えられる。駆動バネ3によって加えられた圧縮力CFは、チューブ6を圧縮状態に保持し、液化したチューブ材料をチューブ6から径方向に離れるように排出する(排出されたチューブ材料6.1)。液化プロセスの間に、チューブ6は短くなり、伝動要素1の遠位端は、圧縮力CFによってハウジング2に向かってさらに移動される。
【0043】
伝動要素1の初期位置、伝動要素1およびチューブ6の軸方向の長さに応じて、組立て済みシステムにおいて、チューブ6の近位面とカラー7の遠位面との間にまたはカウンタ要素7の近位面とハウジング2との間にギャップ20が存在する可能性があり、またはシステムの向きおよびチューブと伝動要素1上面との嵌合状態に応じて、チューブ6の遠位端と伝動要素1の遠位端との間にギャップ20が存在する可能性がある。チューブ6を圧縮し且つエネルギーをチューブ6に伝達するために、このギャップ20を閉じる必要がある。従来技術によれば、このギャップ20は、駆動バネ3を作動させた直後に解放し、チューブ6に衝撃的な圧縮を与えることによって、閉じられる。図1aおよび図1bに示すシステムに関して上述したように、当然ながら、液化プロセスのために、システム要素を変更することによって、組立て済みシステムにおいてギャップ20を無くすことが可能である。しかしながら、同一の器具を用いて、異なる長さを有するチューブ6と共に使用する場合、ギャップ20を無くすことが殆どできない。
【0044】
図2aおよび2bに示すシステムの更なる実施形態は、駆動バネ3(圧縮バネ)の代わりに、伝動要素1(またはエネルギー源1.1)とハウジング2の近位端との間に配置された引張バネを含むことができる。この場合、引張バネは、作動されると、ハウジングの近位端に向かって伝動要素1を付勢する。
【0045】
以下の図3〜12は、図1aおよび1bに示す従来技術のシステム、すなわち、ピン(熱可塑性要素)と、穴あきスリーブ(カウンタ要素)と、圧縮バネの形にした駆動装置とを含むシステムを基礎にした本発明のシステムおよび方法を示している。しかしながら、図3〜12に関連して説明される全ての特徴は、図2aおよび2bに示す従来技術のシステムに基づくシステムにも適用可能であるが、圧縮力およびより小さい位置決め力の向きを反対方向に、すなわち、システムの遠位側から近位側に合わせるように、以下に説明される特徴を変更する必要がある。
【0046】
図3は、本発明のシステムおよび方法の例示的な実施形態を示している。図示されたシステムは、液化工程のために準備されている。すなわち、システム要素は、既に組立られており、準備工程は、既に行われている。具体的に、伝動要素1は、配置され且つピン4に対して予備プレスされる。この実施形態において、ピン4に与える衝撃のない圧縮は、駆動バネ3を作動させる(ロック10を解除する)と同時に、駆動バネ3からピン4に加えられる力を規制することによって達成される。力の規制は、例えば、駆動力の一部をハウジングに結合するように構成された規制要素(図示せず)によって達成される。この規制要素は、反対方向の制動力BFを用いて、圧縮力CFを規制する。したがって、位置決め力(PF)は、CFとBFとの間の差である。後続の圧縮工程において、制動力は、生成されない。すなわち、規制要素を作動しない。
【0047】
駆動力を規制するための上記規制要素は、ロック10の機能を果たすように設計されてもよいため、特に駆動バネ3を含むシステムにも適用可能である。規制要素30は、システムの操作員によって起動および/作動されてもよく、少なくとも部分的に自動で動作してもよい。
【0048】
図4〜7は、図3のシステムに適用可能な規制要素30の例示的な実施形態を示している。規制要素は、カム31とフォロア32とを備え、フォロア32(またはカム31)は、伝動要素1(またはエネルギー源1.1)に固定され、カム31(またはフォロア32)は、ハウジング2によって支持され、ハウジングの軸周りに回転可能である。位置決めおよび予備プレス工程の間に、カム31とフォロア32は、互いに対して移動される。これによって、準備工程において、伝動要素1は、駆動バネ3によって駆動され、ハウジングに支持されているカム31による制動力が駆動力を相殺するまで、軸方向に移動する。
【0049】
図4および5は、図3に示すシステムに適用可能な器具を構成する超音波ハンドピース(hand piece)を示している。図4は、ハンドピースの立体図であり、図5は、ハンドピースの部分断面図である。フォロア32は、エネルギー源に固定して配置され、例えば、ハウジングに設けられた軸方向に延在する溝を通ってリング33に突出する。螺旋状カム31は、フォロア32を案内するように、リング33の遠位側に設けられる。リングは、ハウジングによって支持および案内され、ハウジングに対してハウジングの軸周りに回転可能である。位置決めおよびプレプレス(システム準備)工程において、リング33は、例えば、器具の操作員によって回転され、これによって、フォロア32は、駆動バネ3による駆動およびカム31による制動によって、伝動要素1(場合によってエネルギー源)と共に、軸方向に沿って制御された態様で移動する。伝動要素1の遠位端がピンの近位面に接触すると、フォロアの遠位方向の更なる移動が阻止される。これによって、リング33の更なる回転は、フォロア32からカム31を遠位に移動させ、全ての圧縮力は、ピンに適用される。このことは、準備工程が完了し、全ての駆動力が圧縮力として熱可塑性要素に作用することを意味する。
【0050】
図6は、内面に螺旋状カム31(カム開放始端31.1、カム閉鎖末端31.2)を設けたリング33を示す拡大図である。カム31は、例えば一回りで、リングの軸方向長さの大部分を占める。図6に示すカム31は、伝動要素を初期位置にロックし且つ駆動バネを予負荷状態にロックするためのロックとして機能するように構成されている。この機能を達成するために、カム31は、始端31.1の外側に設けられ、リング33の径方向平面に実質的に延在するまたは好ましくは径方向平面に平行な浅い受皿(dish)を構成するロック領域31.3を含む。フォロア32がロック領域31.3に位置するときに、ロックは、ロック位置にある。ロックを解放するために、すなわち、駆動バネを作動させるために、受皿31.3から出るようにフォロアを移動しながら、リング33を回転させる。この場合、駆動力を相殺する更なる作動力を必要とする。
【0051】
好ましくは、リング33および/またはハウジングは、フォロアがカム閉鎖末端31.2に対して位置するときに、ハウジングに対してリング33を回転末端位置にロックするための別のロックをさらに含む。図6に示すリング33は、この機能を達成するために、例えば、ハウジング(図示せず)の壁に設けられた対応する突起/凹部と協働する弾性的に変形可能な突起34を有する。ハウジングに対してリング33をロックするために、リングを回転させることによって、リングの弾性的に変形可能な突起が、弾性変形してハウジング上の突起を通過し、リラックスしてハウジングの凹部に入る。これによって、ハウジングに対してリング33をロックするだけでなく、準備工程の終了および全ての圧縮力が伝動要素に作用していること、すなわち、システムがアンカ形成プロセスのために準備されていることを示す触覚信号を操作者に与える。
【0052】
リングを回転末端位置にロックするための代替的な構成は、例えば、ハウジングに配置され、リング上に設けられた突起/凹部と協働するバネ付勢ボールである。リングの最後の部分を回転させるときに、バネ付勢ボールは、リング上の突起によってリングの開口に押し込まれ、リングの更なる回転によって、リラックスして開口に入る。これによって、ハウジングに対してリングをロックする。
【0053】
図7は、図6に示すリング33のカム31の展開図であり、カム31によって案内されるフォロア32の動きを示している。カム31は、カム始端31.1とカム末端31.2とを有し、カム始端とカム末端とは、定常の傾斜角を成す。皿状のロック部31.3が、カム始端31.1の外側に設けられている。図7は、フォロアの5つの位置、すなわち、初期ロック位置32.1と、初期非ロック位置32.2と、幅Gを有する隙間を閉じたとき、すなわち、伝動要素が熱可塑性要素に付勢されたときの位置32.3と、リングを完全に回転させたとき、すなわち、全ての駆動力が伝動要素および熱可塑性要素に作用し、リングがハウジングにロックされたときの準備完了位置32.4と、材料の液化および排出(液化工程)によって熱可塑性要素の短縮によって、フォロアが到達し得る終端位置32.5とを示している。熱可塑性要素の短縮は、カムの末端領域によって制限されてもよく、制限されなくてもよい。
【0054】
図6および7に示すカム/フォロアシステムは、以下のように動作する。(i)駆動バネに予負荷を加え、リングを反時計方向に回転させ、フォロアを例えば位置32.5からロック位置32.1に移動させることによって、伝動要素を初期位置にロックする。(ii)リングを時計回りに回転させることによって駆動バネを作動し、フォロアをロック受皿から位置32.2に移動させ、時計回りに沿ってリングを位置32.3までさらに回転させることによって可能な隙間を閉じながら、熱可塑性要素に対して伝動要素を位置決め、予備プレスする。(iii)リングを時計回りにさらに回転させ、フォロアを位置32.4に移動させることによって、カムの制動効果を無効にし、ハウジングに対してリングをロックする。上述した工程のうち、工程(i)は、システムの組立に属し、工程(ii)および(iii)は、システムの準備に属する。図6および7のカム/フォロアシステムの動作は、図14のフローチャートによってさらに示される。
【0055】
リング33におけるカム31の配置に応じて、上述したリングは、反対方向に回転させられてもよい。すなわち、リングを時計回りに回転させ、フォロア32を位置32.1に移動させてもよく、リングを反時計回りに回転させ、フォロアを位置32.1から位置32.4に移動させてもよい。
【0056】
リング33を回転させるときに操作者が受け取った(初期位置にロックするための回転抵およびリングをハウジングに対してロックするための回転抵抗の増加を示す)触覚信号に加えてまたはその代わり、例えば、同様のフォロア位置およびリング構成を示す視覚信号を与えることも有利である。具体的には、窓を有するリング33と、リング33が回転するハウジングとを形成し、ハウジングに停止マークおよび開始マールを設け、フォロアが位置32.1に位置しているときに、停止マークが窓に表示され、フォロアが位置32.4に位置し、リングがロックされているときに、開始マークが窓に表示される。この場合、開始マークは、位置決めおよび予備プレスの準備工程の実行、すなわち、ギャップが閉じられ、全ての圧縮力が熱可塑性要素に作用し、液化プロセスを開始できることを示す。当然ながら、協働する2つのマークおよび窓の代わりに、液化プロセスのためにシステムが準備されていることを示すための代替的な視覚マークまたは音響制御手段を設けることも可能である。システムが準備されているときに、エネルギー源を自動的に作動させるように、電気制御手段を設けてもよい。
【0057】
図8は、図1aおよび1bに示す従来技術のシステムに基づいたシステムの駆動力を最初に規制するように設計された規制要素の更なる実施形態を非常に概略的に示す。この規制要素は、補助ロック40によって構成される。補助ロック40は、ロック10を解放することによって駆動バネ3の一部が作動されている間に、駆動バネ3の主要部を予負荷状態に保つことができる。ロック10と同様に、補助ロック40は、単に両矢印(左位置=ロック位置、右位置=解放位置)で示される。組立られ、予負荷を加えたシステムにおいて、ロック10および補助ロック40の両方は、ロック位置にある。ピン4に対して伝動要素1を位置決め、予備プレス工程において、ロック10は、解放位置に移動させられ、圧縮工程において、補助ロック40も解除位置に移動させられる。
【0058】
図9は、本発明のシステムおよび方法の更なる例示的な実施形態の原理を示す。このシステムは、図1aおよび1bに示す従来技術のシステムに基づいているが、適切に変更されているため、図2aおよび2bに示す従来技術のシステムに適用することも可能である。位置決めおよび予備プレスを行う工程において、伝動要素1に作用する補助駆動装置50を作動させることによって、ピン4に対して伝動要素1の位置決めおよび予備プレスを達成することができ、駆動バネを解除される予負荷状態にロックし、保持することができる。位置決めおよび予備プレス工程の間に駆動バネ3をロックした場合、上述したように、ハウジング2の遠位開口2.1に対する伝動要素1およびロック10の初期位置が、可能なギャップを補償するように変更されていることを意味する。位置決めおよび予備プレス工程のために駆動バネ3を解放する場合、補助駆動装置は、制動要素として、すなわち、図9に関連して説明した規制要素として機能する。補助駆動装置50は、システムの操作員によって操作されてもよく、または少なくとも部分的に自動化されてもよい。位置決めおよび予備プレスの工程は、駆動バネ3の同時解放を伴ってまたは伴わずに、補助駆動装置50を作動させることによって開始され、後続の圧縮工程は、補助駆動装置50を停止することによって、場合によって駆動バネ3を解放することによって、開始される。
【0059】
図10および11は、補助駆動装置50の例示的な実施形態を示す。図10によれば、補助駆動装置50は、ロック可能なラックピニオン駆動装置(ラック51、ピニオン52)であり、装置を取り扱う人によって操作される。ラック51は、(場合によってエネルギー源を介して)伝動要素1に連結され、場合によってハウジング内のロック10(図示せず)に連結され、外部ピニオン52と協働するようにハウジング2の近位端から突出する。図11に示す補助駆動装置50は、ケーブル駆動装置である。ケーブル53は、(場合によってエネルギー源を介して)伝動要素1に動作可能に接続され、場合によってハウジング内のロック10(図示せず)およびハウジング2の外側の駆動リングに動作可能に接続される。ハウジング2に対する駆動リングの位置、その結果、伝動要素1および(場合によって)ロック10の初期位置は、例えば、ハウジング2および駆動リング54上の協働ネジ山およびハウジング2に対する駆動リング54の回転によって、変更することができる。
【0060】
図12は、本発明のシステムの更なる例示的な実施形態の原理を非常に概略的に示している。このシステムにおいて、ハウジングの遠位開口2.1に対する伝動要素1およびロック10の初期位置は、ハウジング2の遠位部の軸方向の長さを調整することによって、変更することができる。この変更は、例えば、ハウジング遠位部2.2とハウジング近位部2.3との間のネジ接続部60を設け、伝動要素1および駆動バネをハウジング近位部2.3にロックしながら、2つのハウジング部2.2および2.3を互いに回転させることによって達成される。
【0061】
上述したように、図13および14は、流れ図である。図13は、本発明の方法の一般的な実施形態を示し、図14は、図6および7に示すカム/フォロアシステムの動作を示す。
図1a
図1b
図2a
図2b
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14