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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6884783
(24)【登録日】2021年5月14日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】リポソームの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4745 20060101AFI20210531BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20210531BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20210531BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20210531BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20210531BHJP
   A61K 31/706 20060101ALI20210531BHJP
   A61K 31/5517 20060101ALI20210531BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20210531BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20210531BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20210531BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20210531BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20210531BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20210531BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20210531BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
   A61K31/4745
   A61K9/127
   A61K47/24
   A61K45/00
   A61K31/337
   A61K31/706
   A61K31/5517
   A61K47/18
   A61K47/26
   A61K47/02
   A61K47/22
   A61K47/10
   A61K47/12
   A61K47/04
   A61P35/00
【請求項の数】15
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-529305(P2018-529305)
(86)(22)【出願日】2016年12月7日
(65)【公表番号】特表2018-536679(P2018-536679A)
(43)【公表日】2018年12月13日
(86)【国際出願番号】CN2016108840
(87)【国際公開番号】WO2017097196
(87)【国際公開日】20170615
【審査請求日】2019年12月5日
(31)【優先権主張番号】201510897554.0
(32)【優先日】2015年12月8日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】516089784
【氏名又は名称】チア タイ ティエンチン ファーマシューティカル グループ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Chia Tai Tianqing Pharmaceutical Group Co.,Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 喜全
(72)【発明者】
【氏名】董 平
(72)【発明者】
【氏名】張 煥青
(72)【発明者】
【氏名】程 ▲ヤン▼菊
(72)【発明者】
【氏名】周 浩
(72)【発明者】
【氏名】蒋 波
(72)【発明者】
【氏名】劉 飛
【審査官】 渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−517594(JP,A)
【文献】 特表2008−518951(JP,A)
【文献】 特表2014−532733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 9/00
A61K 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポソームの製造方法であって、
(1)被封入物質及びリン脂質を有機溶剤に溶解して有機相を得た後、前記有機相と水相とを混合してリポソーム供給液を得る工程と、
(2)工程(1)で得られたリポソーム供給液をポリカーボネート膜により押し出す工程と、
(3)凍結乾燥する工程とを含む、製造方法であり、
前記リン脂質は、卵黄ホスファチジルコリンと水素添加大豆ホスファチジルコリンとの組み合わせであり、卵黄ホスファチジルコリンと水素添加大豆ホスファチジルコリンとの重量比は3:1であり、
前記被封入物質が式Iで表されるメシチカンである、製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法であって、
凍結乾燥保護剤を、前記工程(1)における前記水相に加え、又は前記工程(3)において凍結乾燥する前に加える、製造方法。
【請求項3】
リポソームの製造方法であって、
(1)被封入物質及びリン脂質を有機溶剤に溶解して有機相を得た後、前記有機相と水相とを混合してリポソーム供給液を得る工程と、
(2)工程(1)で得られたリポソーム供給液をポリカーボネート膜により押し出す工程と、
(3)注射用水を加え、ろ過滅菌し、分けて包装し、且つ凍結乾燥する工程とを含み、
その中で、凍結乾燥保護剤を、前記工程(1)における水相に加え、又は前記工程(3)においてろ過滅菌する前に加える、製造方法であり、
前記リン脂質は、卵黄ホスファチジルコリンと水素添加大豆ホスファチジルコリンとの組み合わせであり、卵黄ホスファチジルコリンと水素添加大豆ホスファチジルコリンとの重量比は3:1であり、
前記被封入物質が式Iで表されるメシチカンである、製造方法
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記工程(1)における前記有機溶剤は、無水エタノール、95%のエタノール、メタノール、プロパノール、t−ブタノール、n−ブタノール、アセトン、メチルピロリドン、酢酸エチル、イソプロピルエーテル、及びエチルエーテルからなる群より選ばれる1種以上であり、
好ましくは、前記有機溶剤は、無水エタノール、95%のエタノール、及びt−ブタノールからなる群より選ばれる、製造方法。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記工程(1)において前記被封入物質と前記リン脂質との重量比は、1:1〜500であり、好ましくは1:1〜100であり、より好ましくは1:15〜50であり、さらに好ましくは1:20である、製造方法。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記工程(1)において前記被封入物質と前記有機溶剤との重量比は、1:1〜100であり、好ましくは1:9〜50であり、より好ましくは1:30である、製造方法。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記水相は、水を主要成分として含んでおり、又は基本的に水から構成されており、例えば、脱イオン水、蒸留水、精製水、注射用水等であり、好ましくは、注射用水である、製造方法。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記水相は、金属イオンキレート剤をさらに含んでおり、前記金属イオンキレート剤は、エデト酸二ナトリウム、エデト酸カルシウムナトリウム、1,2−ジアミノシクロヘキサン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、N−(2−ヒドロキシエチル)−エチレンジアミン三酢酸三ナトリウム、及びN−ジ(2−ヒドロキシエチル)グリシンからなる群より選ばれる、製造方法。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記工程(1)において前記有機相と前記水相とを混合する際の温度は25〜80℃であり、好ましくは55〜65℃である、製造方法。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法であって、前記ポリカーボネート膜の孔径は0.1μm又は0.2μmである、製造方法。
【請求項11】
請求項1〜1のいずれか1項に記載の製造方法であって、前記工程(2)において前記リポソーム供給液の温度は25〜80℃に制御し、好ましくは55〜65℃に制御する、製造方法。
【請求項12】
請求項2〜1のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記凍結乾燥保護剤は、マンニトール、グルコース、ガラクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、及びトレハロースからなる群より選ばれる1種以上であり、
好ましくは、前記凍結乾燥保護剤は、スクロース、トレハロース、及びマンニトールからなる群より選ばれる1種以上であり、
より好ましくは、前記凍結乾燥保護剤は、スクロース、又はスクロースとマンニトールとの組み合わせから選ばれ、
さらに好ましくは、前記凍結乾燥保護剤は、スクロース、又はスクロースとマンニトールとの組み合わせから選ばれ、その中で、スクロースとマンニトールとの重量比は2:1である、製造方法。
【請求項13】
請求項1〜1のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記工程(1)において前記有機相は、抗酸化剤をさらに含んでおり、前記抗酸化剤は、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ビタミンC、パルミチン酸アスコルビル、t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、酢酸トコフェロール、システイン、メチオニンからなる群より選ばれる1種以上である、製造方法。
【請求項14】
請求項1〜1のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記工程(3)において凍結乾燥する前にpH調整剤を加えることができ、前記pH調整剤は、塩酸、硫酸、酢酸、リン酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、及びクエン酸ナトリウムからなる群より選ばれる、製造方法。
【請求項15】
請求項1〜1のいずれか1項に記載の製造方法で製造されたリポソームであって、
水又は水性溶剤を添加した後、前記リポソームを再構成し、再構成されたリポソームの粒径は50〜400nmであり、好ましくは100〜250nmであり、さらに好ましくは前記リポソームが、99%より高い封入率を有し、かつリポソームの粒径の分散係数が0.18以下であることを特徴とする、リポソーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照) 本願は2015年12月8日に中華人民共和国国家知的財産局に出願された出願番号が201510897554.0である中国特許出願に基づく優先権及び利益を主張する。
【0002】
本発明は、新規なリポソーム製造方法及び該方法により製造されたリポソームに関する。
【背景技術】
【0003】
難水溶性又は水不溶性薬物の溶解度を向上させるために、このような薬物の製剤開発に、乳剤、ミセル及びリポソーム等の製剤技術は用いられる。しかしながら、乳剤及びミセル製剤には、いくつかの欠点を持っている。例えば、乳剤は熱力学的不安定性のシステムであり、貯蔵の期間おいて集積、融合、凝集、酸化、劣化分解(デグラデーション)、加水分解等の現象が起こしやすくなり、乳剤の質量及び薬物の効果を影響することになる。また、通常、ミセル製剤は、界面活性剤を用いてミセルを形成することにより薬物を可溶化させる。しかしながら、界面活性剤は、臨床に用いられる場合、有毒な副作用を生じ、過敏反応を引き起こして薬の安全性を影響しまう。リポソームは、薬物の生体内分布を変化させ、薬物の毒性を低減し、アレルギー反応や免疫反応を減軽し、薬物の放出を遅延させることができるが、従来の方法で得られたリポソーム製剤は、一般的に液体状態で熱力学不安定系に属し、安定性の低い問題が存在し、且つ封入率が低く、薬物が比較的に漏れしやすく、貯蔵の過程において細菌繁殖や沈降凝集が発生し、且つ粒径の制御が困難で粒径分布が広いである。凍結乾燥後、液体リポソームへ再構成させた場合でも、再構成されることは困難であり、再構成されたリポソームの粒径は非常に大きく、粒径分布は非常に広くなっている。
【0004】
中国特許(専利)(特許番号:ZL201110355747.5)には、下記式Iで表される化合物(美西替康(Moexitecan:メシチカン))ともいう)が開示された。
【化1】
美西替康(Moexitecan:メシチカン)は、水及び水性媒体において不溶又は殆ど不溶であり、水難溶性薬物に属する。前記特許には、当該薬物を乳濁液、微細乳濁液やミセル製剤として調製すればよいことが記載された。しかしながら、発明人らは、当該薬物を乳濁液、微細乳濁液やミセル製剤として調製した後、安定性が非常に悪く、ミセル製剤の毒性がすごく大きくなることを見出した。したがって、水難溶性又は水不溶性薬物に適している新規な製剤及びその製造方法の開発は、差し迫った課題になっている。
【発明の概要】
【0005】
一態様によれば、本発明は、ポソームの製造方法であって、
(1)被封入物質及びリン脂質を有機溶剤に溶解して有機相を得た後、前記有機相と水相とを混合してリポソーム供給液を得る工程と、
(2)工程(1)で得られたリポソーム供給液をポリカーボネート膜により押し出す工程と、
(3)凍結乾燥する工程とを含む、製造方法を提供する。
また、他の一態様によれば、本発明は、リポソームの他の製造方法であって、
(1)被封入物質及びリン脂質を有機溶剤に溶解して有機相を得た後、前記有機相と水相とを混合してリポソーム供給液を得る工程と、
(2)工程(1)で得られたリポソーム供給液をポリカーボネート膜により押し出す工程と、
(3)注射用水を加え、ろ過滅菌し、分けて包装し、且つ凍結乾燥する工程とを含み、
その中で、凍結乾燥保護剤を、工程(1)における水相に加え、又は工程(3)においてろ過滅菌する前に加える、製造方法をさらに提供する。
【0006】
また、別の態様によれば、本発明は、上記製造方法で得られたリポソームであって、
水又は水性溶剤を添加した後、前記リポソームを再構成し、再構成されたリポソームの粒径は50〜400nmであることを特徴とする、リポソームを提供する。
【0007】
〔発明の詳細な説明〕
以下、それぞれ開示された実施形態を全体的に理解するために、具体的な詳細を含んで説明したが、当業者は、これらの詳細の一部又は複数の部分を用いずに他の方法、部品、材料などを用いても、これらの実施形態を実現することができると理解すべきである。
【0008】
本明細書及び添付の特許請求の範囲の全てにわたって、特に断らない限り、「含む/含有する(comprise)」のような用語、及びその英語の変形(例えば「comprises」や「comprising」など)は、いずれも開放(オープンエンド)式の、包含式の意味、すなわち「…を含むがこれらに限定されない」として解釈されるべきである。
【0009】
本明細書にわたって記載された「一実施形態」又は「実施形態」、或いは「別の実施形態では」又は「いくつかの実施形態では」とは、少なくとも1つの実施形態に、当該実施形態に記載の関連する具体的な参照要素、構造、又は特徴を含むことを意味する。したがって、明細書の全体にわたって異なる位置に記載の「一実施形態では」、「実施形態では」、「他の実施形態では」又は「いくつかの実施形態では」という語句は、必ずしも同じ実施形態を指すことではない。また、具体的な要素、構造又は特徴は、任意の適切な方式で1つ以上の実施形態の中に組み合せられる。
【0010】
本発明の明細書及び添付の特許請求の範囲に用いられた単数形の冠詞「一」(「1つ(の)」、「1個(の)」)(英語の「a」、「an」、及び「the」などに相当する)は、特に断らない限り、複数の対象(オブジェクト)が含まれていると理解すべきである。したがって、例えば、前記「触媒」が含まれる反応には、1種の触媒、又は2種以上の触媒が含まれている。また、用語「又は(若しくは/或いは)」などは、特に断らない限り、通常「及び/又は」の意味を含んで用いられる。
【0011】
一態様によれば、本発明は、リポソームの製造方法であって、
(1)被封入物質及びリン脂質を有機溶剤に溶解して有機相を得た後、前記有機相と水相とを混合してリポソーム供給液を得る工程と、
(2)工程(1)で得られたリポソーム供給液をポリカーボネート膜により押し出す工程と、
(3)凍結乾燥する工程とを含む、製造方法を提供する。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態では、凍結乾燥保護剤を、工程(1)における水相に加えてもよく、又は工程(3)における凍結乾燥する前に加えてもよい。
本発明のいくつかの実施形態では、工程(3)において凍結乾燥する前に、注射用水を加え、且つ分けて包装する。
本発明のいくつかの実施形態では、工程(3)において凍結乾燥する前に、注射用水を加え、ろ過滅菌し、その後分けて包装する。
【0013】
また、他の一態様によれば、本発明は、リポソームの他の製造方法であって、
(1)被封入物質及びリン脂質を有機溶剤に溶解して有機相を得た後、前記有機相と水相とを混合してリポソーム供給液を得る工程と、
(2)工程(1)で得られたリポソーム供給液をポリカーボネート膜により押し出す工程と、
(3)注射用水を加え、ろ過滅菌し、分けて包装し、且つ凍結乾燥する工程とを含み、
その中で、凍結乾燥保護剤を、工程(1)における水相に加え、又は工程(3)においてろ過滅菌する前に加える、製造方法をさらに提供する。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態では、前記被封入物質は、薬物であってもよく、他の物質であってもよい。好ましくは、前記被封入物質は、薬物である。より好ましくは、前記被封入物質は、美西替康、ドセタキセル、パクリタキセル、アドリアマイシン、アンホテリシンB、タクロリムス、イリノテカン、アルプロスタジル、リスペリドン、シルデナフィル、リドカイン、フェンタニル、ブピバカイン、デキサメタゾン、トレプロスチニル、アフリバーセプト、フェブキソスタット、ナベルビン(vinorelbine)、セフピラミドナトリウム、イホスファミド、アムルビシン、フシダートナトリウム、セフメタゾールナトリウム、還元型グルタチオン、エダラボン、ガチフロキサシン、塩酸フルオキセチン、アルベンダゾール、ミトキサントロン、アルプラゾラム、バンコマイシン、セファクロル、セフィキシム、塩酸アンブロキソール、及びアトルバスタチンからなる群より選ばれる。さらに好ましくは、前記被封入物質は、美西替康、ドセタキセル、パクリタキセル、タクロリムス、及びアルプラゾラムからなる群から選択される。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態では、前記リン脂質は、卵黄ホスファチジルコリン、水素添加卵黄ホスファチジルコリン、大豆ホスファチジルコリン、水素添加大豆ホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジデカノイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン(ジパルミトイルホスファチジルコリン)、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ペグ化ホスファチジルエタノールアミン(phosphatidyl ethanolamine pegol)、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルコリン(レシチン)、リン酸ジセチル、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジエルコイルホスファチジルコリン、1−ミリストイル−2−パルミトイルホスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−ステアロイルホスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−ミリストイルホスファチジルコリン、1−ステアロイル−2−ミリストイルホスファチジルコリン、1−ステアロイル−2−パルミトイルホスファチジルコリン、1−ミリストイル−2−オレオイルホスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルコリン、1−ステアロイル−2−オレオイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジエルコイルホスファチジルエタノールアミン、及び1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルエタノールアミンからなる群より選ばれる1種以上である。好ましくは、前記リン脂質は、卵黄ホスファチジルコリン、水素添加卵黄ホスファチジルコリン、大豆ホスファチジルコリン、及び水素添加大豆ホスファチジルコリンからなる群より選ばれる1種以上であり、より好ましくは、前記リン脂質は、卵黄ホスファチジルコリンと水素添加大豆ホスファチジルコリンとの組み合わせから選ばれ、さらに好ましくは、前記リン脂質は、卵黄ホスファチジルコリンと水素添加大豆ホスファチジルコリンとの組み合わせのうちの卵黄ホスファチジルコリンと水素添加大豆ホスファチジルコリンとの重量比が3:1である組み合わせから選ばれる。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態では、前記有機溶剤は、無水エタノール、95%のエタノール、メタノール、プロパノール、トリクロロメタン、ジクロロメタン、t−ブタノール、n−ブタノール、アセトン、メチルピロリドン、酢酸エチル、イソプロピルエーテル、及びエチルエーテルからなる群より選ばれる1種以上である。好ましくは、前記有機溶剤は、無水エタノール、95%のエタノール、及びt−ブタノールからなる群より選ばれる。より好ましくは、前記有機溶剤は無水エタノールである。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態では、被封入物質とリン脂質との重量比は1:1〜1:500である。好ましくは、被封入物質とリン脂質との重量比は1:1〜1:100である。より好ましくは、被封入物質とリン脂質との重量比は1:15〜1:50である。さらに好ましくは、被封入物質とリン脂質との重量比は1:20である。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態では、被封入物質と有機溶剤との重量比は1:1〜1:100である。好ましくは、被封入物質と有機溶剤との重量比は1:9〜1:50である。より好ましくは、被封入物質と有機溶剤との重量比は1:30である。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態では、前記水相は、水を主要成分として含んでおり、又は基本的に水から構成されており、例えば、脱イオン水、蒸留水、精製水、注射用水等であり、好ましくは、注射用水である。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態では、前記有機相と水相とを混合する際の温度は25〜80℃である。好ましくは、有機相と水相とを混合する際の温度は、55〜65℃である。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態では、有機相と水相とは、窒素ガスの保護下で混合することができる。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態では、前記ポリカーボネート(Polycarbonate)膜の孔径は、0.015、0.03、0.05、0.08、0.1、0.2、0.4、0.6、0.8、1.0、2.0、3.0、5.0、8.0、10.0、及び12.0μmからなる群より選ばれるものであり、好ましくは、0.1μm又は0.2μmである。必要に応じて、ポリカーボネート膜の下に1層のポリエステル(Polyester)膜をさらに加えてもよい。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態では、前記押し出すことは、大粒径のリポソームが前記膜を通過した後に小粒径のリポソームになることができる限り、任意の形態で押し出してもよく、当該工程では、供給液の温度を25〜80℃、好ましくは55〜65℃に制御する必要がある。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態では、前記凍結乾燥保護剤は、マンニトール、グルコース、ガラクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、及びトレハロースからなる群より選ばれる1種以上である。好ましくは、前記凍結乾燥保護剤は、スクロース、トレハロース、及びマンニトールからなる群より選ばれる1種以上である。より好ましくは、前記凍結乾燥保護剤は、スクロース、及びスクロースとマンニトールとの組み合わせからなる群より選ばれる。さらに好ましくは、前記凍結乾燥保護剤は、スクロース、及びスクロースとマンニトールとの重量比が2:1である組み合わせからなる群より選ばれる。
【0025】
必要に応じて、本発明のいくつかの実施形態では、工程(1)における前記有機相に抗酸化剤を加えてもよい。前記抗酸化剤は、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ビタミンC(アスコルビン酸)、パルミチン酸アスコルビル、t−ブチルp−ヒドロキシアニソール(BHA)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、酢酸トコフェロール、システイン、及びメチオニンからなる群より選ばれる1種以上である。好ましくは、前記抗酸化剤は、ピロ亜硫酸ナトリウム、t−ブチルp−ヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン、及び酢酸トコフェロールからなる群より選ばれる。より好ましくは、前記抗酸化剤は、ジブチルヒドロキシトルエン、及びピロ亜硫酸ナトリウムからなる群より選ばれる。
【0026】
必要に応じて、本発明のいくつかの実施形態では、工程(1)における前記水相に金属イオンキレート剤をさらに含んでもよい。前記金属イオンキレート剤は、エデト酸二ナトリウム、エデト酸カルシウムナトリウム、1,2−ジアミノシクロヘキサン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、N−(2−ヒドロキシエチル)−エチレンジアミン三酢酸三ナトリウム、及びN−ジ(2−ヒドロキシエチル)グリシンからなる群より選ばれる。好ましくは、前記金属イオンキレート剤は、エデト酸二ナトリウム、及びエデト酸カルシウムナトリウムからなる群より選ばれる。
【0027】
必要に応じて、本発明のいくつかの実施形態では、工程(3)において凍結乾燥する前に、又は工程(3)において凍結乾燥保護剤を加えた後に、pH調整剤をさらに加えてもよい。前記pH調整剤は、塩酸、硫酸、酢酸、リン酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、及びクエン酸ナトリウムからなる群より選ばれる。好ましくは、前記pH調整剤は、塩酸及び水酸化ナトリウムからなる群より選ばれる。本発明のいくつかの実施形態では、pHの調整範囲は2〜10、好ましくは4〜7である。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態では、本発明の製造方法で得られたリポソームは、それに水又は水性溶剤を加えた後に、迅速に再構成することができ、再構成されたリポソームの粒径は50〜400nm、好ましくは100〜250nmである。本発明のいくつかの実施形態では、粒径分散係数(distribution coefficient)は0.5以下、好ましくは0.23以下である。
【0029】
本発明の製造方法は、次のような利点、すなわち(1)製造プロセスが簡単であり、単に溶解、保温、混合、押出及び凍結乾燥等の工程のみを必要とし、工業的な大規模生産に特に適していることと、(2)凍結乾燥前のリポソーム供給液を0.22μmで過濾して除菌した後、無菌的に充填し、凍結乾燥し、工業的な生産に容易に実現でき、且つ製品が無菌であると確保されることと、(3)凍結乾燥されたリポソームが安定性にすぐれ、その粒径、含有量、関連物質、封入率等の重要な品質指標が0月目の場合に比べると、有意な変化がないことと、(4)凍結乾燥された製品に溶剤が殆ど残っていないこととのうちの1つ以上を持っている。
【0030】
当該技術分野における従来の方法により製造されたリポソームに比べて、本発明の製造方法で得られたリポソームは、次のような利点、すなわち(1)封入率が高く(>99%)、貯蔵の過程において薬物が漏れなく、且つ封入率が低下しないことと、(2)本発明に係るリポソームは、ポリカーボネート膜により複数回押し出した後、粒径分布が狭くなり、分散係数が0.18以下であり、リポソームの粒径や粒径分布を良好に制御することと、(3)一般的な製剤(例えば、ミセル製剤や乳剤等)に比べて、本発明に係るリポソームは、薬物製剤の毒性が低下し、生体内の特定の器官及び組織に集中して分布しており、標的性があり、薬物製剤の薬効が向上することが動物実験で裏付けられることと、(4)本発明に係るリポソームは固体であり、液体形態のリポソームに比べて安定性が有意に増加し、よりよい再現性があり、容易に再構成され、さらに容易に貯蔵及び運搬することとのうちの1つ以上を持っている。
【0031】
本発明に係るリポソームは、通常のリポソーム、長期滞留型リポソーム(long−circulating liposome)、感熱性リポソーム、免疫リポソーム、又は特殊効果を有する他のリポソームであってもよい。
【0032】
本発明に係るリポソームは、任意の適当な経路により患者や被験者に投与することができ、例えば、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮下投与、関節内投与、髄腔内投与、側脳室内投与、鼻スプレー、肺吸入、経口投与、及び当業者に公知の他の適切な投与経路が挙げられる。本発明に係るリポソームを利用して治療可能な組織病変は、膀胱、肝臓、肺、腎臓、骨格、軟組織、筋肉、乳房等の組織の病変が挙げられるが、これらに限らない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】美西替康リポソーム30mg/kgをラットに静脈内投与した後、生体内における美西替康の組織分布図である。
図2】美西替康リポソーム30mg/kgをラットに静脈内投与した後、生体内における活性代謝物SN38の組織分布図である。
図3】蛍光マーカーIR623、及びIR623で標識された美西替康リポソームの、マウス体内における分布図である。
図4】蛍光マーカーIR623、及びIR623で標識された美西替康リポソームの、マウス腫瘍部位及び各臓器における分布図である。
【実施例】
【0034】
以下の実施例により、本発明の具体的な製造方法を例示的に説明したが、本発明の保護範囲は、これに限定されるものではなく、当業者は、本発明に開示された技術範囲内に本発明の技術案及びその発明思想を基づく同等の置換又は変更は、本発明の保護範囲内に入るべきである。
【0035】
実施例1
【表1】
製造プロセス:処方量の美西替康、卵黄ホスファチジルコリン及び水素添加大豆ホスファチジルコリンを処方量の無水エタノールに溶解させ、60℃で加熱溶解させて有機相とし、調製量の70%の注射用水を取って60℃まで加熱して水相をとし、水相を剪断しながら、有機相を水相に加えてリポソーム供給液を得、得られたリポソーム供給液を0.1μmのポリカーボネート膜により3回押し出し、処方量のスクロースを加え、さらに注射用水を加えて得られた混合物が1000gになるまで希釈し、中性ホウケイ酸ガラス管製の注射剤瓶(ペニシリンボトル)に分けて入れた後、凍結乾燥させて仕上げる。限外ろ過法により測定された封入率>99%。
【0036】
実施例2
【表2】
製造プロセス:処方量の美西替康、卵黄ホスファチジルコリン及び水素添加大豆ホスファチジルコリンを処方量の無水エタノールに溶解させ、60℃で加熱溶解させて有機相とし、調製量の70%の注射用水を取って60℃まで加熱して水相をとし、水相を剪断しながら、有機相を水相に加えてリポソーム供給液を得、得られたリポソーム供給液を0.2μmのポリカーボネート膜により3回押し出し、処方量のスクロースを加え、さらに注射用水を加えて得られた混合物が15kgになるまで希釈し、中性ホウケイ酸ガラス管製の注射剤瓶(ペニシリンボトル)に分けて入れた後、凍結乾燥させて仕上げる。限外ろ過法により測定された封入率>99%。
【0037】
実施例3
【表3】
製造プロセス:処方量の美西替康、卵黄ホスファチジルコリン及び水素添加大豆ホスファチジルコリンを処方量の無水エタノールに溶解させ、60℃で加熱溶解させて有機相とし、処方量のスクロース及び調製量の70%の注射用水を取って60℃で加熱溶解させて水相とし、水相を剪断又は撹拌しながら、有機相を水相に加えてリポソーム供給液を得、得られたリポソーム供給液を0.4μmのポリカーボネート膜により3回押し出し、さらに注射用水を加えて得られた混合物が1000gになるまで希釈し、中性ホウケイ酸ガラス管製の注射剤瓶(ペニシリンボトル)に分けて入れた後、凍結乾燥させて仕上げる。限外ろ過法により測定された封入率>99%。
【0038】
実施例4
【表4】
製造プロセス:処方量の美西替康、卵黄ホスファチジルコリン及び水素添加大豆ホスファチジルコリンを処方量の無水エタノールに溶解させ、60℃で加熱溶解させて有機相とし、調製量の70%の注射用水を取って60℃まで加熱して水相をとし、水相を剪断又は撹拌しながら、有機相を水相に加えてリポソーム供給液を得、得られたリポソーム供給液を0.2μmのポリカーボネート膜により3回押し出し、処方量のスクロース及びマンニトールを加え、さらに注射用水を加えて得られた混合物が1000gになるまで希釈し、中性ホウケイ酸ガラス管製の注射剤瓶(ペニシリンボトル)に分けて入れた後、凍結乾燥させて仕上げる。限外ろ過法により測定された封入率>99%。
【0039】
実施例5
【表5】
製造プロセス:処方量のBHT及び美西替康を処方量の無水エタノールに溶解させ、60℃で加熱溶解して清澄化させた後、処方量の卵黄ホスファチジルコリン及び水素添加大豆ホスファチジルコリンを加え、60℃で加熱溶解させて清澄化させて有機相とし、調製量の70%の注射用水を取って60℃まで加熱して水相をとし、水相を剪断又は撹拌しながら、有機相を水相に加えてリポソーム供給液を得、得られたリポソーム供給液を0.2μmのポリカーボネート膜により押し出し、一定粒径サイズ及び一定粒径分布を有するリポソーム供給液を得ることができ、処方量のスクロースを加え、さらに注射用水を加えて得られた混合物が1000gになるまで希釈し、中性ホウケイ酸ガラス管製の注射剤瓶(ペニシリンボトル)に分けて入れた後、凍結乾燥させて仕上げる。限外ろ過法により測定された封入率>99%。
【0040】
実施例6
【表6】
製造プロセス:処方量の美西替康を処方量の無水エタノールに溶解させ、60℃で加熱溶解して清澄化させた後、処方量の卵黄ホスファチジルコリン及び水素添加大豆ホスファチジルコリンを加え、60℃で加熱溶解させて清澄化させて有機相とし、処方量のエデト酸二ナトリウム及び調製量の70%の注射用水を取って60℃で加熱溶解させて水相とし、水相を剪断又は撹拌しながら、有機相を水相に加えてリポソーム供給液を得、得られたリポソーム供給液を0.1μmのポリカーボネート膜により押し出し、一定粒径サイズ及び一定粒径分布を有するリポソーム供給液を得ることができ、処方量のスクロースを加え、さらに注射用水を加えて得られた混合物が1000gになるまで希釈し、中性ホウケイ酸ガラス管製の注射剤瓶(ペニシリンボトル)に分けて入れた後、凍結乾燥させて仕上げる。限外ろ過法により測定された封入率>99%。
【0041】
実施例7
【表7】
製造プロセス:処方量の美西替康を処方量の無水エタノールに溶解させ、60℃で加熱溶解して清澄化させた後、処方量の卵黄ホスファチジルコリン及び水素添加大豆ホスファチジルコリンを加え、60℃で加熱溶解させて清澄化させて有機相とし、調製量の70%の注射用水を取って60℃で保温した後水相とし、水相を剪断又は撹拌しながら、有機相を水相に加えてリポソーム供給液を得、得られたリポソーム供給液を0.2μmのポリカーボネート膜により押し出し、一定粒径サイズ及び一定粒径分布を有するリポソーム供給液を得ることができ、処方量のスクロースを加え、且つ塩酸又は水酸化ナトリウムを加えてpH5に調整し、さらに注射用水を加えて得られた混合物が1000gになるまで希釈し、中性ホウケイ酸ガラス管製の注射剤瓶(ペニシリンボトル)に分けて入れた後、凍結乾燥させて仕上げる。限外ろ過法により測定された封入率>99%。
【0042】
実施例8
【表8】
製造プロセス:処方量の美西替康を処方量の無水エタノールに溶解させ、60℃で加熱溶解して清澄化させた後、処方量の卵黄ホスファチジルコリン及び水素添加大豆ホスファチジルコリンを加え、60℃で加熱溶解させて清澄化させて有機相とし、処方量のスクロース及び調製量の70%の注射用水を取り、60℃で加熱溶解して水相とし、水相を剪断又は撹拌しながら、有機相を水相に加えてリポソーム供給液を得、得られたリポソーム供給液を0.1μmのポリカーボネート膜により押し出し、一定粒径サイズ及び一定粒径分布を有するリポソーム供給液を得ることができ、さらに注射用水を加えて得られた混合物が1000gになるまで希釈し、中性ホウケイ酸ガラス管製の注射剤瓶(ペニシリンボトル)に分けて入れた後、凍結乾燥させて仕上げる。限外ろ過法により測定された封入率>99%。
【0043】
実施例9
【表9】
製造プロセス:処方量の美西替康を処方量の無水エタノールに溶解させ、60℃で加熱溶解して清澄化させた後、処方量の卵黄ホスファチジルコリン及び水素添加卵黄ホスファチジルコリンを加え、60℃で加熱溶解させて清澄化させて有機相とし、調製量の70%の注射用水を取って60℃で保温した後水相とし、水相を剪断又は撹拌しながら、有機相を水相に加えてリポソーム供給液を得、得られたリポソーム供給液を0.1μmのポリカーボネート膜により押し出し、一定粒径サイズ及び一定粒径分布を有するリポソーム供給液を得ることができ、処方量のスクロースを加え、さらに注射用水を加えて得られた混合物が1000gになるまで希釈し、中性ホウケイ酸ガラス管製の注射剤瓶(ペニシリンボトル)に分けて入れた後、凍結乾燥させて仕上げる。限外ろ過法により測定された封入率>99%。
【0044】
実施例10
【表10】
製造プロセス:具体的実施工程は、実施例2と同じである。限外ろ過法により測定された封入率>99%。
【0045】
実施例11
【表11】
製造プロセス:具体的実施工程は、実施例2と同じである。限外ろ過法により測定された封入率>99%。
【0046】
実施例12
【表12】
製造プロセス:具体的実施工程は、実施例2と同じである。限外ろ過法により測定された封入率>99%。
【0047】
実施例13
【表13】
製造プロセス:具体的実施工程は、実施例2と同じである。限外ろ過法により測定された封入率>99%。
【0048】
実施例14
【表14】
注:処方における美西替康の代わりにパクリタキセルを用いる以外、実施例2〜13における各処方及びプロセスでも該実施例に適用されている。
【0049】
製造プロセス:処方量のパクリタキセル、卵黄ホスファチジルコリン及び水素添加大豆ホスファチジルコリンを処方量の無水エタノールに溶解させ、60℃で加熱溶解させて有機相とし、調製量の70%の注射用水を取って60℃まで加熱して水相をとし、水相を剪断しながら、有機相を水相に加えてリポソーム供給液を得、得られたリポソーム供給液を0.1μmのポリカーボネート膜により3回押し出し、処方量のスクロースを加え、さらに注射用水を加えて得られた混合物が1000gになるまで希釈し、中性ホウケイ酸ガラス管製の注射剤瓶(ペニシリンボトル)に分けて入れた後、凍結乾燥させて仕上げる。限外ろ過法により測定された封入率>99%。
【0050】
実施例15
【表15】
注:処方における美西替康の代わりにドセタキセルを用いる以外、実施例2〜13における各処方及びプロセスでも該実施例に適用されている。
【0051】
製造プロセス:処方量のドセタキセル、卵黄ホスファチジルコリン及び水素添加大豆ホスファチジルコリンを処方量の無水エタノールに溶解させ、60℃で加熱溶解させて有機相とし、調製量の70%の注射用水を取って60℃まで加熱して水相をとし、水相を剪断しながら、有機相を水相に加えてリポソーム供給液を得、得られたリポソーム供給液を0.1μmのポリカーボネート膜により3回押し出し、処方量のスクロースを加え、さらに注射用水を加えて得られた混合物が1000gになるまで希釈し、中性ホウケイ酸ガラス管製の注射剤瓶(ペニシリンボトル)に分けて入れた後、凍結乾燥させて仕上げる。限外ろ過法により測定された封入率>99%。
【0052】
実施例16
【表16】
注:処方における美西替康の代わりにタクロリムスを用いる以外、実施例2〜13における各処方及びプロセスでも該実施例に適用されている。
【0053】
製造プロセス:処方量のタクロリムス、卵黄ホスファチジルコリン及び水素添加大豆ホスファチジルコリンを処方量の無水エタノールに溶解させ、60℃で加熱溶解させて有機相とし、調製量の70%の注射用水を取って60℃まで加熱して水相をとし、水相を剪断しながら、有機相を水相に加えてリポソーム供給液を得、得られたリポソーム供給液を0.1μmのポリカーボネート膜により3回押し出し、処方量のスクロースを加え、さらに注射用水を加えて得られた混合物が1000gになるまで希釈し、中性ホウケイ酸ガラス管製の注射剤瓶(ペニシリンボトル)に分けて入れた後、凍結乾燥させて仕上げる。限外ろ過法により測定された封入率>99%。
【0054】
実施例17
【表17】
注:処方における美西替康の代わりにアルプラゾラムを用いる以外、実施例2〜13における各処方及びプロセスでも該実施例に適用されている。
【0055】
処方量のアルプラゾラム、卵黄ホスファチジルコリン及び水素添加大豆ホスファチジルコリンを処方量の無水エタノールに溶解させ、60℃で加熱溶解させて有機相とし、調製量の70%の注射用水を取って60℃まで加熱して水相をとし、水相を剪断しながら、有機相を水相に加えてリポソーム供給液を得、得られたリポソーム供給液を0.1μmのポリカーボネート膜により3回押し出し、処方量のスクロースを加え、さらに注射用水を加えて得られた混合物が1000gになるまで希釈し、中性ホウケイ酸ガラス管製の注射剤瓶(ペニシリンボトル)に分けて入れた後、凍結乾燥させて仕上げる。限外ろ過法により測定された封入率>99%。
【0056】
比較例1:薄膜分散法
【表18】
製造プロセス:処方量の美西替康、卵黄ホスファチジルコリン及び水素添加大豆ホスファチジルコリンを処方量の無水エタノールに溶解させ、60℃で加熱溶解させて有機相とし、有機相を取って梨型フラスコ内に入れてロータリーエバポレーターに置き、60℃で減圧回転蒸発によりエタノールを除去し、有機相を1層の薄膜に形成させ、調製量の70%の注射用水を取って60℃まで加熱して水相をとし、回転蒸発で形成された薄膜を有するフラスコ内に水相を加え、水化させた後、リポソーム供給液を形成し、得られたリポソーム供給液を0.2μmのポリカーボネート膜により押し出し、処方量のスクロースを加え、さらに注射用水を加えて得られた混合物が100gになるまで希釈し、中性ホウケイ酸ガラス管製の注射剤瓶(ペニシリンボトル)に分けて入れた後、凍結乾燥させて仕上げる。
【0057】
結果:水化をスムーズに行うことができず、均一なリポソーム供給液を形成するのが困難であり、且つ得られたリポソーム供給液をポリカーボネート膜により押し出すことができず、且つ、静置後、沈降して層化するため、薄膜分散法は美西替康のリポソームの製造に適用されていない。
【0058】
比較例2:マイクロ流動化法
【表19】
製造プロセス:処方量の美西替康、卵黄ホスファチジルコリン及び水素添加大豆ホスファチジルコリンを処方量の無水エタノールに溶解させ、60℃で加熱溶解させて有機相とし、調製量の70%の注射用水を取って60℃まで加熱して水相をとし、水相を剪断しながら、有機相を水相に加えてリポソーム供給液を得、得られたリポソーム供給液をマイクロ流動化処理し、その後処方量のスクロースを加え、さらに注射用水を加えて得られた混合物が1000gになるまで希釈し、中性ホウケイ酸ガラス管製の注射剤瓶(ペニシリンボトル)に分けて入れた後、凍結乾燥させて仕上げる。
【0059】
結果:得られたリポソームサンプルの再構成が困難であり、再構成された粒径が非常に大きく、粒径分布が非常に広い。
【0060】
比較例3:ミセル製剤1
【表20】
製造プロセス:処方量の美西替康、ポリオキシエチレンヒマシ油、グリセロール及び無水エタノールを取り、45℃で水浴において加熱溶解して清澄化させた後、ろ過滅菌し、分けて包装して仕上げる。
【0061】
比較例4:乳剤
【表21】
製造プロセス:(i)処方量の美西替康、ビタミンE及び無水エタノールを取って加熱溶解して清澄化させ、(ii)処方量のF68及び処方量の水を取って溶解して清澄化させ、(iii)前記(ii)で得られた溶液の半分を取って剪断しながら、それに前記(i)で得られた溶液を加え、十分に剪断した後、それに前記(ii)で得られた溶液の他の半分を加え、剪断して均一に混合させ、(iv)前期(iii)で得られた溶液を10回高圧均質化処理し、分けて包装して仕上げる。
【0062】
比較例5:ミセル製剤2
【表22】
製造プロセス:処方量の美西替康及びt−ブタノールを取り、加熱溶解して清澄化させた後、ろ過滅菌し、分けて包装して凍結乾燥した後、美西替康粉末が得られる。
【表23】
製造プロセス:処方量のELP、グリセロール及び無水エタノールを取り、均一に混合した後、ろ過滅菌し、分けて包装して専用溶媒を得る。
【0063】
使用法:100倍量の専用溶媒を用いて美西替康粉末を溶解させた後注射液を得、そして希釈して投与することができる。
【0064】
比較例6:高圧均質化法
【表24】
【0065】
比較例7:
【表25】
製造プロセス:処方量の美西替康、卵黄ホスファチジルコリン及び水素添加大豆ホスファチジルコリンを処方量の無水エタノールに溶解させ、60℃で加熱溶解させて有機相とし、調製量の70%の注射用水を取って60℃まで加熱して水相をとし、水相を剪断しながら、有機相を水相に加えてリポソーム供給液を得、得られたリポソーム供給液を0.1μmのポリカーボネート膜により3回押し出し、処方量のスクロースを加え、さらに注射用水を加えて得られた混合物が1000gになるまで希釈し、中性ホウケイ酸ガラス管製の注射剤瓶(ペニシリンボトル)に分けて入れて仕上げる。結果:得られたサンプルは、40℃で15日間放置された後、性状が著しく変化し、すなわち白色乳濁液から黄色乳濁液に変更した。
【0066】
実施例18:安定性試験
実施例1〜7、比較例3、4、5及び7における処方と製造プロセスに従って、美西替康含有医薬組成物10バッチを製造した。各バッチのサンプルは、40℃で15日間保存され、各サンプルにおける性状及び関連物質を検出して0日目で検出された結果に比べたところ、次の通りである。
【表26】
【0067】
実施例19:長期安定性試験
実施例1〜7の処方及び製造プロセスにしたがって美西替康含有医薬組成物7バッチを製造し、各バッチの医薬組成物を、それぞれ6℃及び25℃に置かれる条件下で保存した。サンプルは、6℃で保存された場合、それぞれ、3ヶ月目、6ヶ月目、9ヶ月目、12ヶ月目にサンプリングして関連物質を検出し、25℃で保存された場合、それぞれ1ヶ月目、2ヶ月目、3ヶ月目、6ヶ月目にサンプリングして関連物質を検出し、且つ0日目での検出結果に比べたところ、次の通りである。
【表27】
【表28】
【0068】
実施例20:粒径検出
実施例1〜9及び比較例2の処方と製造プロセスにしたがって美西替康含有医薬組成物10バッチを製造し、各バッチの医薬組成物をそれぞれ1本(瓶)を取って水を加えて再構成させた後サンプリングし、且つナノ粒子径測定装置により粒径を検出し、結果は次の通りである。
【表29】
【0069】
実施例21:毒性試験
実施例2の処方と製造プロセスにしたがって美西替康含有医薬組成物1バッチを製造し、比較例5の処方と製造プロセスにしたがって美西替康含有ミセル製剤1バッチを製造した。得られた2バッチの薬物製剤を用い、それぞれ同じ用量でマウス及びラットの体に対して、マウスへの急性毒性試験、ラットへの急性毒性試験、及びラットへの4週間投与後の毒性試験を行った。2種の薬物製剤の毒性試験結果を比較した結果は、次の通りである。
【表30】
【0070】
実施例22:薬効試験
実施例2の処方と製造プロセスにしたがって美西替康含有医薬組成物1バッチを製造し、比較例5の処方と製造プロセスにしたがって美西替康含有ミセル製剤1バッチを製造した。得られた2バッチの薬物を、NCI−H292肺癌ヌードマウスの体に対して薬効試験、すなわち異種移植腫瘍増殖に対する阻害効果の試験を行った。2種の薬物製剤の薬効試験結果は、次の通りである。
【表31】
【0071】
実施例23:長期毒性試験
実施例2の処方と製造プロセスにしたがって美西替康含有医薬組成物1バッチを製造し、比較例5の処方と製造プロセスにしたがって美西替康含有ミセル製剤1バッチを製造した。得られた2バッチの薬物を用い、ラットの体に対して長期毒性試験を行った。ラットの投与量は、それぞれ60、30及び10mg/kgである。2種の薬物製剤の試験結果を比較した結果は、次の通りである。
【表32】
【0072】
実施例24:組織分布
実施例2の処方と製造プロセスにしたがって美西替康含有医薬組成物1バッチを製造した。SDラット18匹を取って、3群に分け、各群は6匹で雌3匹、雄3匹である。各群のラットには、尾静脈注射により30mg/kgの美西替康の医薬組成物を投与した後、それぞれ、投与後15分間、2時間及び6時間の時間点に麻酔して血液サンプル及び組織を収集し、血液サンプル及び組織をそれぞれ処理して血漿及び組織ホモジェネートのサンプルを得、LC−MS/MS法を構築して血漿及び組織ホモジェネートにおける美西替康及びその活性代謝物SN−38(化学名:20(s)−7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン)を測定し、結果を図1及び図2に示した。図1では、美西替康が主に直腸、肝臓、肺、血漿、結腸、腎臓、卵巣及び心臓等の器官に分布されていることを示し、図2では、SN−38が主に結腸、直腸、肝臓、肺、血漿、卵巣、空腸、回腸、十二指腸及び腎臓等の器官に分布されていることを示した。直腸における美西替康及びSN−38の濃度はいずれも非常に高く、且つ、結腸における美西替康の濃度は、血漿における濃度よりも低かったが、美西替康の活性代謝物SN−38の濃度は最も高かったであり、このように、本発明にかかる医薬組成物が特定の器官や組織に集中して分布していることが明らかにされる。美西替康及びSN−38は、いずれも脳及び睾丸における濃度が最も低かった。
【0073】
実施例25:生体内標的指向性の検討
実施例1の処方(約0.8%(w/w、処方におけるリン脂質の合計量を100%として計算)の、蛍光プローブIR623と結合されたDSPE(それを有機相に加えて溶解させ)をさらに加える必要となり)、及び製造プロセスにより、蛍光プローブ(IR623)含有美西替康の医薬組成物(粒径:約100nm)1バッチを製造した。実施例3の処方(約0.8%(w/w、処方におけるリン脂質の合計量を100%として計算)の、蛍光プローブIR623と結合されたDSPE(それを有機相に加えて溶解させ)をさらに加える必要となり)、及び製造プロセスにより、蛍光プローブ(IR623)含有美西替康の医薬組成物(粒径:約400nm)1バッチを製造した。2バッチの医薬組成物を用い、それぞれHT29腸癌の担癌ヌードマウスの体において近赤外生体イメージング技術により生体内標的指向性を検討し、そして蛍光プローブIR623の生体内標的指向性と比較した結果を、図3及び図4に示した。
【0074】
結果によれば、遊離の蛍光プローブを尾静脈注射により生体内に投与した後、0.5時間のときに腹部に顕著な蛍光信号が認められた。時間の経過に伴って、蛍光信号が次第に低減しており、生体外へ代謝されている(結果を図3に示した)。粒径100nmの蛍光プローブを有する美西替康リポソームを注射したマウスは、0.5時間のときに蛍光信号が体の全体にわたって分布しており、蛍光信号が4時間から腫瘍部位へ集中し始め、8時間のときに腫瘍部位の蛍光信号の強度が最も強く、8時間後に腫瘍部位の蛍光信号が低減し始め、48時間のときに腫瘍部位にも蛍光信号がまだ残っている(結果を図3に示した)。粒径400nmの蛍光プローブを有する美西替康リポソームを注射したマウスは、0.5時間のときに腹部に顕著な蛍光信号を有し、4時間のときに腹部の蛍光信号が強くなり、その後、蛍光信号がずっと腹部に集中している(結果を図3に示す)。
【0075】
薬物を注射してから48時間後、担癌マウスを解剖し、その生体内における各臓器(腫瘍、肝臓、脾臓、腎臓及び腸)を取って生体イメージング装置に入れて各臓器の蛍光分布状況を観察した。図4に示すように、遊離の蛍光プローブを注射したマウスの器官における蛍光が非常に弱くて殆ど完全に代謝されたことは認められた。粒径100nmの蛍光プローブ含有美西替康リポソームを注射したマウスの器官において、他の器官に比べて、腫瘍に比較的強い蛍光を有する。粒径400nmの蛍光プローブ含有美西替康リポソームを注射したマウスの器官において、肝臓における蛍光は最も強かった。
【0076】
これにより、粒径100nmの蛍光プローブ含有美西替康リポソームは、受動的な腫瘍標的指向性を持っているが、粒径400nmの蛍光プローブ含有美西替康リポソームは、主に肝臓に蓄積されていることを推断することができる。蛍光プローブは、主に腸管や腎臓により代謝されて生体外へ排出される。
図1
図2
図3
図4