【実施例】
【0179】
以下の実施例は、本発明の方法および組成物を、どのようにして作製および使用するのかについて、当業者に向けて記載するように提示されるものであり、本発明者らが、自身の発明と考えるものの範囲を限定することを意図するものではない。そうでないことが指し示されない限りにおいて、温度は、摂氏で表示し、圧力は、大気圧または大気圧近傍の圧力である。
【0180】
(実施例1)
非ヒトC9ORF72遺伝子座における破壊の作出
本実施例は、齧歯動物のC9orf72遺伝子座における標的破壊について例示する。特に、本実施例は、マウスC9orf72プロモーターとの作動可能な連結下に置かれたlacZレポーター構築物を使用する、マウスC9orf72遺伝子座の全コード配列の欠失について具体的に記載する。内因性マウスC9orf72遺伝子座における破壊を作り出すための、C9orf72−lacZターゲティングベクターは、既に記載されている通りに作製した(例えば、米国特許第6,586,251号;Valenzuelaら、2003年、Nature、Biotech.、21巻(6号):652〜659頁;ならびにAdams, N.C.およびN.W. Gale、Mammalian and Avian Transgeneis-New Approaches、Lois, S.P.a.C.編、Springer Verlag、Berlin Heidelberg、2006年を参照されたい)。結果として得られる改変C9orf72遺伝子座を、
図1A(下ボックス)に描示する。
【0181】
略述すると、マウスRP23 BACライブラリー(Adams, D.J.ら、2005年、Genomics、86巻:753〜758頁)に由来する細菌人工染色体(BAC)クローンを使用して、ターゲティングベクターを作出し、F1ハイブリッド(129S6SvEvTac/C57BL6NTac)胚性幹(ES)細胞へと導入するのに続いて、G418を含有する選択培地中で培養した。薬物耐性コロニーを、電気穿孔の10日後に採取し、既に記載されている(Valenzuelaら、上掲;Frendewey, D.ら、2010年、Methods Enzymol.、476巻:295〜307頁)通りに、適当なターゲティングのためにスクリーニングした。標的としたES細胞を、密集していない8細胞期のSwiss Webster胚へと注入して、健常な、完全にES細胞由来のF0世代のマウスであって、C9orf72の欠失についてヘテロ接合性のマウスを作製する、VELOCIMOUSE(登録商標)方法(DeChiara, T.M.ら、2010年、Methods Enzymol.、476巻:285〜294頁;Dechiara, T.M.、2009年、Methods Mol. Biol.、530巻:311〜324頁;Poueymirouら、2007年、Nat. Biotechnol.、25巻:91〜99頁)を使用した。F0世代のヘテロ接合性雄を、C57Bl6/NTac雌と交配させて、F1ヘテロ接合体を作出し、これを異系交配させて、表現型解析のための、F2世代のC9orf72
−/−マウス、C9orf72
+/−マウス、および野生型マウスを作製した。凍結させたF1ヘテロ接合性精子と、C57Bl6/NTacドナー雌に由来する卵母細胞とを使用するin vitro受精(fertliziation)(IVF)を介して、N2F2世代のマウスの第2のコホートを作出した。次いで、N2F1のヘテロ接合性子孫を異系交配させて、表現型解析のための、N2F2のC9orf72
−/−マウス、C9orf72
+/−マウス、および野生型マウスを作出した。
【0182】
F2マウスおよびN2F2マウスについての表現型研究は、6週齢のときに開始された。マウスを、出生から6週齢まで、研究のために20〜23℃および40〜60%の湿度、1日当たり12時間の光下で、ケージ1つ当たり2〜5匹ずつ飼育する期間に、多様な発達診査項目(発育不全(runting)、呼吸、顔面および四肢の異常、皮膚の色、姿勢、立ち直り(righting)、ならびに開眼)について観察した。マウスを、cob床敷(The Andersons Lab Bedding)と、エンリッチメントのための綿製ネストレット(cotton nestlet)(Ancare)とを伴う95.6×309.1×133.4mmのケージ(Thoren)内で飼育した。飼育中、マウスを、毎日2回、健康状態についてモニタリングし、通常飼料(LabDiet)および水を自由に摂取できるようにした。全ての動物手順は、The Guide for the Care and Use of Laboratory Animals of the National Institutes of Healthにおける推奨に緊密に準拠して実行した。プロトコールは、The Regeneron Pharmaceuticals Institutional Animal Care and Use Committee(IACUC)により承認され、苦痛を最小化するためのあらゆる努力がなされた。
【0183】
TAQMAN(登録商標)発現解析:腋窩リンパ節組織、上腕リンパ節組織、および頸部リンパ節組織、性腺脂肪パッド組織、前頭葉組織、横隔膜組織、脊髄組織、脾臓組織、および胸腺組織を、解剖直後にRNALater安定化試薬(QIAgen)に入れ、−20℃で保管した。組織は、TRIZOL(登録商標)試薬中でホモジナイズし、クロロホルムで相分離させた。製造元の仕様に従い、miRNeasy Mini Kit(QIAgen)を使用して、全RNAを含有する水性相を精製した。ゲノムDNAは、MAGMAX(商標)TURBO(商標)DNase BufferおよびTURBO(商標)DNase(Ambion)を使用して除去した。SUPERSCRIPT(登録商標)VILO(商標)Master Mix(SuperScript(登録商標)III RT、RNaseOUT(商標)、組換えリボヌクレアーゼ阻害剤、独自のヘルパータンパク質、ランダムプライマー、MgCl
2、dNTP;Life TechnologiesによるInvitrogen)を使用して、mRNAを、cDNAへと逆転写した。cDNAは、ABI 7900HT Sequence Detection System(Applied Biosystems)を使用して、TAQMAN(登録商標)Gene Expression Master Mix(Applied Biosystems)により増幅した。ベータ−アクチンを、内部対照遺伝子として使用して、cDNA入力の差違を正規化した。野生型マウスに由来する胸腺を、基準試料として使用して、試料(遺伝子型1つ当たり組織1つ当たりの雌のn=5)間のmRNAの倍数差を計算した。例示的な結果を、
図1Bに明示する。
【0184】
lacZ発現プロファイリング:マウスに、ケタミン/キシラジン(120/5mg/kg)のIP注射を介して深く麻酔をかけ、0.2%グルタルアルデヒド、4%パラホルムアルデヒド溶液を使用する心臓灌流により固定した。脳組織、胸郭組織、リンパ節組織、唾液腺組織、胸腺組織、心臓組織、肺組織、肝臓組織、脾臓組織、胃組織、腎臓組織、腸組織、尿生殖路組織、筋肉組織、および後肢組織を解剖し、PBS中ですすぎ、0.2%グルタルアルデヒド、4%パラホルムアルデヒド溶液中で、30分間にわたり後固定した。組織を洗浄し、X−gal(1mg/mL)染色液中、37℃で、1〜24時間にわたりインキュベートした。染色後、組織を洗浄し、4%パラホルムアルデヒド中で後固定し、50%、70%、および100%のグリセロール系列により透明化した。NIS−Elements D Imaging Software(Nikon)を使用するNikon SMZ1500実体顕微鏡およびNikon DS−Ri1ディジタルカメラにより、写真を撮影した。
【0185】
発現プロファイリングは、胎芽12.5日目(E12.5)、6週、および28週に記録した。β−ガラクトシダーゼ(lacZ)の、E12.5胚(表4)、ならびに6週齢および28週齢のC9orf72
−/−マウス(表5)における相対発現プロファイルの代表的データを、下記(−=発現なし;+=低度の発現;++=中程度の発現;+++=高度の発現;wt=野生型C57BL/6N;nd=決定なし)に提示する。
【0186】
図1Bに示される通り、野生型(WT)の性腺脂肪パッド、前頭葉、および脊髄では、高レベルのC9orf72発現が検出され、胸腺、脾臓、およびリンパ節では、低レベルであった。予測される通り、C9orf72
+/−(Het)マウスの発現レベルは、野生型(WT)の発現レベルのおよそ半分であり、C9orf72
−/−(KO)マウスのC9orf72発現は、検出不能であった。被験遺伝子型のうち、近傍の遺伝子座である、Mob3b、Ak045932、およびIfnkの転写レベルには、差違が観察されなかったことから、lacZ単独の挿入(すなわち、コード配列の除去)は、C9orf72の発現に影響を及ぼしたことが指し示された。
【0187】
6週齢および28週齢のC9orf72
−/−(KO)動物におけるlacZ染色が、脳および脊髄のほか、脾臓、精巣、および腎臓(表4および5)のいくつかの領域内の酵素活性を明らかにしたことは、
図1Bに示されたデータと符合するが、これは、他の報告(Suzuki, N.ら、2013年、Nat. Neurosci.、16巻(12号):1725〜8頁;Koppers, M.ら、2015年、Am. Neurol.、78巻(3号):425〜38頁)とも符合する。さらに、他の組織内の、それほど顕著でない染色も観察された。単一lacZ置換対立遺伝子について予測される通り、C9orf72
+/−組織内では、レポーター活性の強度および範囲は、より限定されていた。
【0188】
まとめると、本実施例は、ネズミのC9orf72が、神経系および免疫系の多様な組織内で発現することを裏付ける。さらに、本実施例は、少なくとも一部の組織において、発現は、動物の年齢と共に増加し、以下の実施例(下記を参照されたい)で記載される、神経学的表現型および免疫学的表現型と直接相関することを裏付ける。
【表4】
【表5】
【0189】
(実施例2)
C9orf72遺伝子座における破壊を有する非ヒト動物についての行動解析
本実施例は、とりわけ、本明細書で記載される非ヒト動物(例えば、齧歯動物)が、実施例1で記載した、齧歯動物(例えば、マウス)C9orf72遺伝子座における破壊から生じるALS様症状、例えば、体重の減少および有意な運動異常などを発症することを裏付ける。
【0190】
上記で記載したC9orf72内の破壊を有するマウスについての表現型研究は、8、18、37週(雌)および57〜60週(雄)において実施した。体重は、隔週ベースで測定し、身体組成は、μCTスキャン(Dynamic60)により解析した。標準的な24走査を使用して、脊椎の頸部領域塊を視覚化した。全ての動物手順は、The Regeneron Pharmaceuticals Institutional Animal Care and Use Committeeにより承認されたプロトコールを遵守して行った。
【0191】
全体的な運動機能についての評定は、盲検化された主観的スコア付けアッセイを使用して実施した。運動機能障害についての解析は、ロータロッド、オープンフィールド自発運動、およびキャットウォーク試験を使用して行った。運動機能障害スコアは、ALS Therapy Development Institute(ALSTDI;Gill A.ら、2009年、PLoS One、4巻:e6489頁)により開発されたシステムを使用して測定した(was measure)。キャットウォーク試験では、被験体が、照明されたガラス製のプラットフォームを横切って歩行する間、ビデオカメラが、下方から記録する。歩幅パターン、個々の足を振り出す速度、姿勢の持続時間、および圧力など、歩行と関連するパラメータを、各動物について報告する。この試験を使用して、マウスの表現型を解析し、新規の化学的実体を、運動能に対するそれらの効果について評価する。CatWalk XTとは、ラットおよびマウスにおける足取りおよび歩行について定量的に評定するためのシステムである。CatWalk XTは、中枢神経、末梢神経、筋肉、または骨格の異常についての、ほぼ任意の種類の実験モデルにおける、齧歯動物の自発運動能力について評価するのに使用されている。
【0192】
CatWalkによる歩行解析:動物を、それらの前方がオープンエンドになっている、Noldus CatWalk XT 10の走路の始点に置く。マウスは自発的に、走路の末端へと走って、逃避しようと試みる。カメラは、記録し、システムのソフトウェアは、フットプリントを測定する。フットプリントを、足位置の異常について解析する。
【0193】
オープンフィールド試験:マウスを、Kinder Scientificオープンフィールドシステムに置き、60分間にわたり評価する。装置は、赤外ビームおよびコンピュータソフトウェアを使用して、細かな動き、X+Y徘徊(ambulation)、移動距離、立ち上がりイベント数、立ち上がりに費やされる時間、および不動状態時間を計算する。
【0194】
ロータロッド:ロータロッド(rotorod)試験(IITC Life Science、Woodland Hills、CA)は、マウスが、回転梁から落下するまでの待ち時間を測定する。ロータロッドは、1rpmで開始し、180秒間にわたり、15rpmまで加速する実験レジメに設定する。次いで、漸増レジメに従い、落下するまでの動物の待ち時間を記録する。動物が、落下せずに梁上に乗っている時間の3つの最も長い持続時間の平均および最大を使用して、落下するまでの待ち時間について評価する。180秒間より長く梁上に乗っていられる動物を、無症候であるとみなす。
【0195】
上位運動ニューロン機能障害は、痙性(すなわち、硬直)、反射の増加、振戦、動作緩慢、およびバビンスキー徴候として現れる。下位運動ニューロン機能障害は、筋力低下、衰弱、クラスピング、足の屈曲および引きずり、ならびに線維束攣縮として現れる。延髄機能障害は、嚥下困難、発語不明瞭、および舌の線維束攣縮として現れる。表6は、試験中の動物の、運動機能障害、振戦、および硬直と関連するスコア付け法を明示する。例示的な結果を、
図2A〜2Hに明示する。
【0196】
図2A〜2Hに示される通り、C9orf72
−/−マウスは、例えば、体重の減少、運動の不活発化、および歩行機能障害などのALS様表現型を示した。特に、C9orf72
−/−マウスにおける、野生型対照マウスと比較した体重の減少は、約30週齢に始まった(
図2B)。さらに、C9orf72
−/−マウスについては、約40週齢に始まり、ロータロッドを例外として、全ての種類の試験(
図2C〜2H)において、有意な運動機能障害(例えば、後肢の有意な脆弱および正中線の外側への虚脱のほか、軽度の振戦および(nad)後肢筋肉の硬直、p<0.0001)が観察されたことから、上位運動ニューロン病変および下位運動ニューロン病変の発症が指し示された。野生型動物またはヘテロ接合性(C9orf72
+/−)動物では、同様な欠損は、観察されなかった。
【0197】
C9orf72
−/−マウスについてのロータロッドおよびCatWalkによる歩行解析により、自発運動行動の有意な低下と、立ち上がりイベントの減少とが裏付けられたことから、後肢機能障害が指し示される。CatWalkによる歩行解析は、損なわれた肢間協調の低下および歩幅長の低減の徴候のほか、動作緩慢および後肢の引きずりも明らかにした。これらのデータは、野生型と比較した、有意な歩行異常を指し示した。 ロータロッド上の最長時間に関して、野生型マウスと、C9orf72
−/−マウスとの差違は観察されなかった。36週齢という早期に、C9orf72
−/−マウスは、有意かつ進行性の運動障害を示した。
【0198】
別の実験では、野生型マウスおよびC9orf72
−/−マウス(n=5、60週齢)に由来する脊髄の腰部を、組織病理学的解析のために回収した。脊髄における運動ニューロンの総数の差違は、観察されなかった(
図2I)。しかし、C9orf72
−/−運動ニューロンの平均細胞体面積は、野生型と比較して、有意に大きかった(p<0.0001)。特に、C9orf72
−/−マウスの運動ニューロンは、野生型と比較して、有意に大きな平均細胞体面積を証拠とする肥大性特徴を示した(
図2I)。したがって、これらのデータは、40週齢に始まる、下位運動ニューロン病変の発症可能性を指し示した。
【0199】
同様な実験で、運動異常を、野生型(C9orf72
+/+、n=14;雌11匹、雄3匹)およびC9orf72
−/−(n=17;雌12匹、雄5匹)において、32週齢以降60週齢まで、所与の週齢における生存動物のパーセントとして評定した。マウスは、毎週秤量し、全体的な運動機能についての評定は、盲検化された主観的スコア付けアッセイ(上記で記載した)を使用して実施した。2群のマウスに対して、それらの運動機能障害、振戦、およびそれらの後肢筋肉の硬直を調べる臨床神経学的検査を、毎週または隔月に実施した。運動機能障害について、本発明者らは、0(症状なし)〜4(マウスは、横臥位に置かれてから30秒以内に、自身で立ち直ることができない)の、盲検化神経学的スコア付けスケール(上記で記載した)に従った。振戦および硬直について、本発明者らは、0(症状なし)〜3(重度)のスケールを伴うスコア付けシステムを創出した。全てのデータは、平均±SEMとして報告した。代表的結果を、
図2Jに明示する。
【0200】
自発運動行動については、上記で記載した自動式Open Fieldシステム (Kinder Scientific)、ロータロッド試験(Rota Rod、IITC Life Science、Woodland Hills、CA)、および歩行解析(CatWalk XT 10、Noldus)を使用して、60分間にわたり、隔週で評価した。全てのデータは、平均±SEMとして報告した。代表的結果を、
図2Kに明示する。
【0201】
上記で記載したスコア付けスケールを使用して、本発明者らは、およそ40週齢において、C9orf72
−/−マウスが、有意な衰弱、およびそれらの後脚の正中線の外側への虚脱のほか、軽度の振戦および後肢筋肉の硬直(P<0.0001)を示し始めることを観察し、このことから、上位運動ニューロン病変および下位運動ニューロン病変の発症が示唆された。さらに、全ての野生型マウスは、60週齢を過ぎても生存したが、C9orf72
−/−マウスで、60週齢において生存したマウスは、約53%(17匹中9匹;雌5匹、雄4匹)だけであった(
図2J、上左)。およそ36週齢以降、C9orf72
−/−マウスは、野生型マウスのコホートとは対照的に、体重の増加が止まった。
【0202】
オープンフィールドアッセイから、本発明者らは、C9orf72
−/−マウスが、自発運動行動の、それらの野生型対応物と比較した有意な低下(P=0.0008)を示すことを観察した。これらのマウスはまた、立ち上がり行動の有意な減少(P=0.0009)も示したことから、それらの後肢の機能障害が指し示された。研究中のいかなる時間においても、マウスが回転梁上に乗っている最大時間には、野生型マウスと、C9orf72
−/−マウスとの間で、有意な変化は観察されなかった。CatWalkによる歩行解析から、本発明者らは、C9orf72
−/−マウスが、有意に損なわれた肢間協調の低下(P=0.0005)および歩幅長(P=0.0013)のほか、動作緩慢および後肢の引きずりも有することを観察した。これらのデータは、C9orf72
−/−マウスにおける、野生型と比較して有意な歩行異常を指し示した。したがって、本実施例は、およそ36週齢以降、C9orf72
−/−マウスが、野生型と比較して、有意かつ進行性の運動障害を示すことを裏付ける。
【0203】
別の実験では、握力試験を使用して、ヘテロ接合性(C9orf72
+/−)マウスおよびホモ接合性(C9orf72
−/−)マウスについて検査した。略述すると、握力は、神経筋機能を、前肢の最大筋力として測定するものであり、マウスが、センサーへと接続されたグリッドに加える把持により評定される。前肢の強度だけを測定する、3回にわたる試行を、連続して実行した。得られた全ての握力値は、マウスの体重に対して正規化した。握力試験は、20週齢(運動症状の発症の前)における、13匹の野生型マウス、7匹のC9orf72
+/−マウス、および18匹のC9orf72
−/−マウス、ならびに60週齢における、12匹の野生型マウス、4匹のC9orf72
+/−マウス、および13匹のC9orf72
−/−マウスに対して実施した。代表的データを、
図2Lに明示する。
【0204】
図2Lに示される通り、ヘテロ接合性(C9orf72
+/−)マウスは、60週において、いかなる有意な運動機能障害も、振戦も、硬直も示さなかった。さらに、ヘテロ接合性(C9orf72
+/−)マウスは、60週において、野生型と比較した、いかなる握力の変化も示さなかった。
【0205】
まとめると、本実施例は、上記で記載した非ヒト動物であって、レポーター遺伝子(例えば、lacZ)の挿入から生じる内因性C9orf72遺伝子座の、全コード配列の欠失(すなわち、エクソン2〜10)を含むゲノムを有する非ヒト動物が、測定可能な神経変性表現型を示し、したがって、筋萎縮性側索硬化症(ALS)および/または前頭側頭型認知症(FTD)についての有用なモデルをもたらすことを裏付ける。このような動物モデルは、ALSおよび/またはFTDを処置するための治療剤候補を開発およびスクリーニングするための、有用なin vivo系を提供する。
【表6】
【0206】
(実施例3)
C9orf72遺伝子座における破壊を有する非ヒト動物についての免疫表現型解析
本実施例は、実施例1に従い作製された非ヒト動物が、一部の実施形態では、多様な免疫細胞集団の浸潤から生じる、脾腫およびリンパ節症によって特徴付けられる、免疫学的表現型を示すことを裏付ける。さらに、本実施例は、このような非ヒト動物が、腎臓における免疫細胞集団の浸潤によって特徴付けられる糸球体腎炎を発症することを具体的に裏付ける。いかなる特定の理論にも束縛されることを望まずに述べると、本発明者らは、C9ORF72遺伝子座の産物が、免疫機能において、極めて重要な役割を果たし、本明細書で記載される非ヒト動物における、C9ORF72ポリペプチドの喪失が、ALS疾患および/またはFTD疾患の顕著な機構ではないことを提起する。多様な組織を、解析のために、C9orf72
−/−マウスおよび野生型マウス(雌については、8、18、および37週齢であり、雄については、9〜10、18、および57〜60週齢の、遺伝子型1つ当たりn=4〜6匹の動物)から採取した。
【0207】
細胞の調製およびフローサイトメトリー解析:最大血液容量を、CO
2による安楽死の直後における心臓穿刺により、EDTAでコーティングされた試験管へと回収し、FACS調製物のために、およそ200μLを、ヘパリンでコーティングされた試験管へと移した。脾臓、骨髄、および頸部リンパ節を採取し、2%のウシ胎仔血清(Stem Cell Technologies)と、2mMのEDTA(Ambion)とを含む、ダルベッコ1倍濃度PBS中の単一細胞懸濁物へと解離させ、当技術分野で公知の方法を使用して濾過した。赤血球(RBC)溶解緩衝液(eBioscience)またはACK Lysing Buffer(Life Technologies)を使用して、RBC溶解を、血液、脾臓、および骨髄に対して実施した。Cellometer Auto T4 Cell Viability Counter(Nexcelom Bioscience)を使用して、リンパ節細胞、脾臓細胞、および骨髄細胞をカウントし、脾臓については、ウェル1つ当たりの細胞およそ1000万個、ならびにリンパ節および骨髄については、ウェル1つ当たりの細胞100万個または最大容量を蒔いた。血液は、ウェル1つ当たりの最大容量(およそ250μL)を蒔いた。細胞を、室温で、LIVE/DEAD Fixable Aqua stain(Life Technologies)により処理し、スピンダウンし、氷上のブロッキング溶液(FACS緩衝液中に1:100の、精製抗マウスCD16/CD32 mAb;BD Pharmingen)中で、15分間にわたり再懸濁させた。細胞は、氷上で30分間にわたり、コンジュゲート抗体で染色し、洗浄し、固定し(BD Cytofix/cytopermキット)、再度洗浄した。細胞は最終的に、FACS緩衝液(2%のウシ胎仔血清(Stem Cell Technologies)と、2mMのEDTA(Ambion)とを含む、ダルベッコ1倍濃度PBS)中に再懸濁させ、BD FACSCanto Flow Cytometer IIまたはLSRFortessa Flow Cytometer(BD Biosciences)上で解析した。Foxp3染色(eBioscience)は、製造元の仕様に従い、実施した。
【0208】
形質細胞染色パネル:CD11b(M1/70;Biolegend)、CD11c(N418;Biolegend)、CD3(145−2C11;Biolegend)、B220(RA3−6B2;Biolegend)、CD19(1D3;BD Pharmingen)、CD138(281−2;BD Pharmingen)、およびCD45(30−F11;BD Pharmingen)である。骨髄性細胞染色パネル:F4/80(BM8;Biolegend)、CD115(AFS98;eBioscience)、Ly6G(RB6−8C5;eBioscience)、CD11b(M1/70;eBioscience)、CD45(30−F11;BD Biosciences)、およびLy6C(AL−21;BD Biosciences)である。CD8、CD25、CD62L、CD69、CD127、PD1(RPMI−30)、NKp46に対する抗体は、BioLegend(San Diego、CA)から得た。Foxp3抗体は、eBioscience(San Diego、CA)から得た。CD49b抗体は、BD Biosciences(San Jose、CA)から得た。データは、FlowJo Software(Tree Star)を使用して解析した。30〜35週齢の雌(野生型:n=4;C9orf72
−/−:n=4)の脾臓、頸部リンパ節、骨髄、および腎臓について、perent陽性細胞数および総細胞数の計数を、Nexelcom Bioscience Cellometer Auto 2000 Cell Viability Counter上で、AO/PI Viability色素(アクリジンオレンジおよびヨウ化プロピジウム)により実施した。細胞カウントを使用して、表面染色により観察される細胞集団の絶対数を決定し、これに従いグラフ化した。
【0209】
組織学:組織を、4%パラホルムアルデヒド(PFA、Electron Microscopy Sciences)へと採取するか、または50mLの食塩液、pH6.5の酢酸緩衝液中4%のPFA 50mL、および最後にpH9.5のホウ酸緩衝液中4%のPFA溶液50mLによる経心臓灌流の後で回収した。脊髄を、それらが流れ落ちるまで、ホウ酸緩衝液中15%のスクロース溶液に続く、ホウ酸緩衝液中30%のスクロース溶液へと回収した。他の全ての組織は、4%のPFA中で後固定し、24または48時間後に、70%のエタノールへと移した。パラフィン包埋、切片化、ならびにヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色は、商用の組織学検査所(Histoserv,Inc.;Germantown、MD)が実施した。IgM、IgG、補体因子C3、CD45R、CD3、CD138、およびF4/80についての免疫組織化学検査は、商用の検査所(Histotox Labs;Boulder、CO)が遂行した。運動ニューロン細胞カウントおよび細胞体面積は、Image Jを使用して定量した。運動ニューロンカウントは、n=5匹のマウス、動物1匹当たりスライド3枚の平均を表し、細胞体面積は、n=5匹のマウス、スライド1枚当たりの10個の運動ニューロン、動物1匹当たりのスライド3枚の平均を表す。補体因子C3のIHCは、Haloを使用して定量した。
【0210】
血液学アッセイ:血液試料を、イソフルラン麻酔下の眼窩後方採血を介してまたはRegeneron IACUCプロトコールに従う、CO
2の吸入による安楽死の後における心臓穿刺により回収した。鑑別を伴う全血算(CBC)は、Hemavet 950(Drew Scientific Group)を使用して、20μLの全血液に対して実施し、臨床化学検査は、ADVIA 1800 Chemistry System(Siemans Medical Solutions USA)を使用して、血清試料に対して実施した。ELISAは、以下:Mouse IgG Rheumatoid Factor ELISA KitおよびMouse IgM Rheumatoid Factor ELISA Kit(株式会社シバヤギ)、Mouse Anti−dsDNA Total Ig ELISAキット、Mouse Anti−Nuclear Antibodies(ANA)Total Ig ELISAキット、Mouse Anti−Sm(Smith Antigen)Total Ig ELISAキット、Mouse Anti−Cardiolipin Total Ig ELISAキット(Alpha Diagnostic Intl.)、ならびにIgGおよびIgMマウスELISAキット(Abcam)を、製造元の仕様に従い使用して、血漿試料に対して実施した。試料は、450nmとするSpectramax M5 Microplate Reader(Molecular Devices)上で読み取った。試料は、二連で解析し、平均値について平均した。IFN−γ、IL−1β、IL−2、IL−4、IL−6、IL−10、全IL−12、IL−17、MCP−1、およびTNF−αは、製造元の仕様に従い、Multi−Spot(登録商標)10プレックス電気化学発光検出アッセイ(Meso Scale Discovery)を使用して、血漿試料で測定し、620nmとするMeso Sector S 600プレートリーダー(Meso Scale Discovery)上で読み取った。試料は、二連で解析し、平均値について平均した。
【0211】
RNAの単離、配列決定、および解析:脾臓および頸部リンパ節を、解剖直後にRNALater安定化試薬(Qiagen)に入れ、−20℃で保管した。全RNAは、製造元の仕様に従い、MagMAX(商標)Nucleic Acid Isolation Kit(Ambion)を使用して単離した。RNAは、UV分光光度計を使用して定量し、RNAの完全性は、Qiaxcel(Qiagen)により評価した。PolyA mRNAは、Dynabeads mRNAキット(Invitrogen)を使用して、全RNAから精製し、鎖特異的RNA−Seqライブラリーは、ScriptSeq RNA−seq Library Preparationキット(Illumina)により調製した。RNA−Seqライブラリーは、Hiseq 2000 NGSシークエンサー(Illumina)を使用して、33bpの長さへと配列決定した。遺伝子発現レベルは、Regeneron Pharmaceuticals,Inc.により開発されたRNA−Seqソフトウェアである、Nimbus2を使用して、生のシーケンシングリードから得た。
【0212】
検尿方法;尿試料は、スポット回収を介して得、尿中アルブミン濃度は、Albuwell M indirect competitive ELISAキット(Exocell、Philadelphia、PA)により決定した。尿中クレアチニン濃度については、Creatinine Companionキット(Exocell)を使用してアッセイした。アッセイは、製造元の指示に従い実施し、得られたデータを使用して、尿中アルブミン対クレアチニン比(ACR)を計算した。
【0213】
統計学的解析:統計学的解析およびグラフ解析は、GraphPad Prismソフトウェア(version 3.0)を使用して実施した。データは、対応のないスチューデントのt検定および一元配置分散分析(ANOVA)を使用して解析した。結果は、p値<0.05(誤差バーは、s.e.m.を示す)のときに、統計学的に有意であると考えた。例示的な結果を、
図3A〜3ALに明示する。
【0214】
図3A〜3Dに示される通り、C9orf72
−/−マウスは、野生型マウスおよびC9orf72
+/−マウスと比較して、有意な脾臓の腫大を発症した。さらに、頸部リンパ節も、年齢と共に、徐々に大きくなった(
図3A〜3D)。したがって、8週齢という早期に、C9orf72
−/−マウスは、脾臓および頸部リンパ節の腫大を示す。このような腫大は、全てのC9orf72
−/−マウスの頸部領域内で触知可能であったが、野生型マウスまたはC9orf72
+/−マウスでは触知可能でなかった。さらに調査すると、このような塊は、雌C9orf72
−/−マウスでは、12週齢までに触知可能であり、雄および雌両方のC9orf72
−/−マウスでも、18週齢までに触知可能であった。解剖すると、塊は、頸部リンパ節に由来することがわかり、腫大は、8週齢という早期に観察された(
図3A)。全解剖はまた、老齢のC9orf72
−/−マウス(>35週齢)において、全身にわたるさらなるリンパ節腫大、最も顕著には、腸間膜リンパ節腫大も明らかにした。C9orf72
−/−マウスでは、8週齢までに、パイエル板もまた、とりわけ腫大しており、脾腫が明らかであった(
図3D、下左)。17匹のC9orf72
−/−マウス中、60週齢を過ぎて生存したのが、9匹だけであったのに対し、定期的な神経機能試験にかけられた全ての野生型マウスは、実験期間の終了時まで生存した。全てのC9orf72
−/−マウスでは、約18〜24週齢において、脾腫および頸部リンパ節の過形成が、十分に確立され、C9orf72
−/−についての体重曲線は、野生型マウスおよびC9orf72
+/−マウスと比較して、平坦化し始めた(例えば、
図2B)。
【0215】
全血液についての、鑑別を伴うCBCデータが示すように、C9orf72
−/−マウスは、循環好中球、循環好酸球、および循環単球の、野生型と比較して有意な増加を呈する一方で、循環リンパ球の有意な減少を示す(
図3E)。C9orf72
−/−マウス(例えば、34〜38週齢)からのCBCデータはまた、循環白血球鑑別が、野生型マウスと比較して変更されることも裏付けた。本発明者らは、C9orf72
−/−マウスにおける、野生型マウスと比較した、単球および好中球の有意な増加、ならびにリンパ球の有意な減少が、8週齢という早期に検出可能であることを観察した。
【0216】
H&E染色は、C9orf72
−/−マウスの脾臓および頸部リンパ節における、複数の形状を伴う細胞の混合集団を明らかにした(
図3F、3G)。具体的には、4倍の拡大能で調べた頸部リンパ節は、可変で明瞭な細胞輪郭によって特徴付けられ、中程度〜豊富な好酸球性特徴を伴う、豊富な大型の球形細胞を示した(
図3F)。膨張した細胞集団内では、時折、泡沫状の細胞質が観察された。60倍の拡大能で調べたところ、頸部リンパ節内の細胞は、好中球(黄矢印)および他の成熟リンパ球と混合された、形質細胞様の形状(青矢印)を示した(
図3G)。モット細胞(間欠的;赤矢印;凝縮した免疫グロブリンを含む異常な形質細胞)と同様、マクロファージ(緑矢印)と符合すると考えられる細胞もまた存在したが、これらの全ては、C9orf72
−/−マウスの頸部リンパ節における慢性炎症を指し示した(
図3G)。
【0217】
C9orf72
−/−マウスにおいて観察される、脾臓およびリンパ節の腫大は、ALS−FTD患者においてこれまで報告されていない、新生物性疾患または免疫調節不全性疾患のプロセスを指し示した。C9orf72
−/−リンパ系組織についての組織病理学的解析(すなわち、8〜60週齢のマウスに由来するリンパ節切片および脾臓切片の、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)による染色)は、リンパ節腫大の基礎細胞構成が保存されていることを確認した。さらに、IHC染色は、皮質内のB細胞(CD45R
+)の存在、ならびに濾胞間および副皮質帯内のT細胞(CD3
+)の存在も確認した。しかし、大半が可変で明瞭な輪郭と、好酸球性で泡沫状の細胞質で取り囲まれた単一の球形核とを伴う、大型の球形細胞からなる細胞集団による、皮質および髄質の節状構造の膨張も存在した。同様な細胞浸潤物はまた、脾臓内にも存在し、主に赤脾髄内に位置したが、これは、C9orf72
−/−マウスにおける脾臓構造を膨張させ、結果として、脾臓重量を増加させた。また、形質細胞の形状と符合する核周囲ハローを含有する、豊富な形質細胞様細胞が、時折のモット細胞と共に存在することも記述された。野生型マウスおよびC9orf72
+/−(ヘテロ接合性)マウスでは、同様な混合浸潤物が観察されなかった。
【0218】
大型の球形細胞集団は、CD45R、CD3、またはCD138では一貫して染色されず、マクロファージ系統のマーカーである、F4/80について強く陽性であった。IHCシグナルは、細胞膜上では優勢であったが、高度に空胞化した細胞質のために、細胞質内では希薄であった。これに対し、WTおよびヘテロ接合性対照におけるF4/80染色は、マクロファージについて予測される、細胞質および膜性の染色パターンの特徴を示し、C9orf72
−/−マウスにおいて観察されるF4/80シグナルよりはるかに強力な、全体的なF4/80シグナルを有した(下記、例えば、
図3Pを参照されたい)。
【0219】
8〜60週齢のマウスに由来するさらなる臓器についてのH&E解析およびIHC解析は、ある特定のC9orf72
−/−マウスにおける、散在的な胸腺髄質の過形成、ならびに限局性骨髄線維症および/または骨髄性過形成を明らかにした。より一般的な観察は、ヌルマウスの肝臓および腎臓において見出される樹状細胞の顕著な集団の存在であった。これらの細長い角張った細胞は、F4/80
+であり、サイズが大きく、数も多いが、形状的には、典型的な樹状細胞(DC)に似ていた。これらの細胞は、関連する肝疾患の証拠はなかったが、8週という早期におけるC9orf72
−/−肝臓内で、野生型と比較して際立った。本発明者らはまた、8週における、C9orf72
−/−腎臓内のF4/80
+細胞の増加も観察したが、これは、年齢と共により顕著となった。DCは、外髄質内に主に局在化したが、ここで、DCは、緻密斑および隣接する細管の近傍において、糸球体の周囲の、リンパ球と関連する顕著なカフと共に、凝集物を形成した。本発明者らは、マウスの老化に応じた、腎臓内の混合白血球の浸潤物の増加であって、35〜60週齢までに十分に確立される、様々的な程度の免疫介在性糸球体疾患を随伴する増加を記述した。いかなる被験動物においても、脳組織内または脊髄組織内の炎症の証拠は観察されなかった。したがって、脾臓およびリンパ節は、C9orf72
−/−マウスにおける免疫病変の主要な部位であり、腎臓における続発性の進行性糸球体疾患の指標となった。
【0220】
図3Hに示される通り、雄C9orf72
−/−マウスは、野生型と比較して、頸部リンパ節内のCD11b
−CD11c
−CD3
−B220
+CD19
+B細胞の数の増加を示す一方で、脾臓内、骨髄中、および血液中のこれらの同じB細胞の同等な百分率または百分率の低下を示す。形質細胞へと移行しているB細胞(B220
mid/lowCD19
mid/low)および成熟形質細胞(B220
low/−CD19
low/−CD45
+CD138
mid/+)は、年齢と共に、C9orf72
−/−雄マウスの脾臓内、頸部リンパ節内、および骨髄中で、野生型と比較して増加すると考えられた(
図3I)。
【0221】
雌C9orf72
−/−マウスでは、B細胞(CD45
+CD19
+)の百分率は、被験臓器(例えば、頸部リンパ節)に応じて、野生型と比較して、変化しないかまたは低減された。雌C9orf72
−/−マウスは、脾臓内、リンパ節内、および骨髄中の、形質細胞/形質芽細胞へと移行しているB細胞(CD45
+CD19
intB220
intCD138
+)および成熟形質細胞(CD45
+CD19
−B220
−CD138
+)の百分率の、野生型と比較した増加を示す(
図3J)。本発明者らは、C9orf72
−/−マウスと、対照マウスとの間で、血液中のこれらの細胞型の、いかなる一貫した差違も観察しなかった。まとめると、これらのデータは、C9orf72
−/−マウスにおける、適応的免疫応答の進展を裏付けた。
【0222】
図3Kおよび3Lに示される通り、雄および雌のC9orf72
−/−マウスの脾臓内では、これらが老齢になるにつれて、好中球(CD11b
+Ly6G
+Ly6C
+)の百分率の増加が観察された。増加はまた、9〜18週の間の雄C9orf72
−/−マウスおよび全ての被験時点における雌C9orf72
−/−マウスの頸部リンパ節内でも観察された。顆粒球集団もまた、骨髄および血液中で、大半の時点で様々な有意性で増加した。C9orf72
−/−マウスでは、脾臓、頸部リンパ節、骨髄、および血液について、炎症性単球(CD11b
+、CD115
+、Ly6G
low/−、Ly6C
high)が、試験の少なくとも1つの時点において、野生型と比較して、有意に増加した(
図3Kおよび3L、中央列)。C9orf72
−/−マウスの脾臓内、骨髄中、および血液中ではまた、時間経過にわたる、常在単球(CD11b
+CD115
+Ly6G
low/−Ly6C
mid/−)の、同様な増加も観察されたが、頸部リンパ節内では、減少が示された(それぞれ、
図3Kおよび3L、下列)。
図3Mに示される通り、C9orf72
−/−マウスの脾臓内、頸部リンパ節内、腎臓内、および骨髄中では、F4/80
+マクロファージ集団の、野生型と比較した増加が観察された。
【0223】
野生型マウスおよびC9orf72
−/−マウスの、脾臓および頸部リンパ節ではまた、CD45R、CD3、およびCD138の発現の文脈における組織病理学的解析も実施した(
図3N、3O)。切片を、4倍および60倍の拡大能で調べた。脾臓内では、C9orf72
−/−マウスは、正常な濾胞性形状の喪失を示した(
図3N)。白脾髄領域は、腫大し、不明瞭な輪郭を伴う、異形成性であった。豊富なライトピンクの細胞質を伴う細胞(形質細胞様細胞)の蓄積が観察された。CD138染色は、野生型マウスと顕著には異ならず、白脾髄の中央部において増殖している細胞の一部は、CD45R、CD3、またはCD138で染色されなかった。野生型マウスの脾臓は、白脾髄領域が、縁のB細胞(a rim of B cells)(抗CD45R IHC)で囲まれた中央のT細胞(抗CD3 IHC)から構成される、本質的に正常な形状を示し、形質細胞についてのCD138染色は、最小限であった(
図3N、左)。
【0224】
頸部リンパ節において、C9orf72
−/−マウスは、単一の核と、豊富な好酸球性細胞質とを有する、球形細胞の大型の凝集物の間に散在する、島状のリンパ系組織を示した(
図3O)。これらの細胞は正常構造を置きかえたが、比較的正常なB細胞領域およびT細胞領域は残存した(CD3およびCD45Rの染色切片の中央部において明らかである)。異常細胞は、CD3、CD138(
図3Oの下右画像内の矢印)、およびCD45Rで間欠的に染色されたが、一般には、3つのマーカー全てについて陰性であった。野生型マウスは、正常なリンパ節形状を示した(
図3O、右)。CD45R免疫染色(B細胞)は、T細胞(CD3)帯を取り囲む周縁部内で見出され、CD138が髄質内の細胞を染色することはまれであった。
【0225】
野生型マウスおよびC9orf72
−/−マウスの、脾臓および頸部リンパ節ではまた、F4/80発現の文脈における組織病理学的解析も実施した(
図3P)。切片を、4倍および60倍の拡大能で調べた。データは、C9orf72
−/−マウスにおける陽性F4/80染色(マクロファージ)であって、H&E染色で観察された、大型の泡沫状の細胞浸潤物(上記で記載した)と相関する陽性F4/80染色を裏付けた。C9orf72
−/−マウスにおける脾臓の赤脾髄内ではまた、細胞外のF4/80染色も観察した。F4/80
+細胞数は、C9orf72
−/−マウスにおいて、8〜58週で年齢と共に増加し、C9orf72
−/−リンパ節で、野生型リンパ節と比較して増加した。
【0226】
総CD45
+(一般的な白血球抗原)細胞カウントは、C9orf72
−/−マウスに由来する全ての被験組織で増加し、これは、観察された免疫浸潤と符合した。しかし、アッセイされた総細胞集団と比較した、CD45
+の百分率は、野生型と比較して変化しないかまたは低減された(
図3S)。特異的な抗体パネルを利用して、白血球サブセット内のホメオスタシスが変更されたのかどうかを決定した。C9orf72
−/−マウスのリンパ節、脾臓、および骨髄では、好中球(CD45
+CD11b
+Ly6G
+Ly6C
intCD115
−)百分率と、総単球(CD45
+CD11b
+CD115
+)百分率とは、野生型と比較して様々に増加した(
図3Kおよび3L)。脾臓、リンパ節、腎臓、および血液では加えて、F4/80
+マクロファージ(CD45
+CD11b
+F4/80
+Ly6G
−)の増加も観察された(
図3M)。興味深いことに、C9orf72
−/−マウスに由来する組織内では、多くの細胞が、F4/80で陽性に染色されたが、全体的なシグナルは、野生型マウスにおいて観察されるシグナル未満の強度であり、これは、F4/80 IHCプロファイルがより広範囲であるが、それほど濃縮されていないことを示している(
図3P)。Ly6G染色およびLy6C染色は、C9orf72
−/−マウスの脾臓、リンパ節、腎臓、および血液の、炎症性単球(CD45
+CD11b
+CD115
+Ly6G
−Ly6C
hi)の百分率の増加を明らかにした。
【0227】
ヌルマウスの大半は、腎病変を発症していたが、依然として生存可能であったので、特定の目的の時点である、30〜35週齢の雌について、さらなるFACS解析を行った。
図3Qに示される通り、全組織について実施された総細胞カウントは、C9orf72
−/−マウスにおける多様なコンパートメントについてのフローサイトメトリーにより、絶対細胞カウントの有意な増加を裏付けた。このような増加の実体(identity)は、骨髄系樹状細胞、NK細胞、およびT細胞についての多様なマーカーを利用するフローサイトメトリーを使用して決定した(
図3R〜3AC)。C9orf72
−/−マウスでは、骨髄系樹状細胞(CD45
+CD11b
+CD11c
+MHCII
+)が、パーセントおよび総細胞カウントで、野生型と比較して増加したのに対し、NK細胞(NKp46
+CD49b
+)画分は減少した(
図3R)。CD45
+(白血球共通抗原;全ての白血球を染色する)細胞のパーセントは、野生型マウスの組織と、C9orf72
−/−マウスの組織との間で同等であるが、総細胞カウントは、有意に増加し、これから、有意な免疫細胞の浸潤が指し示される(
図3S)。T細胞特異的マーカーである、CD4
+(ヘルパーT細胞集団)およびCD8
+(細胞傷害性T細胞集団)による染色は、T細胞集団の百分率の低下を裏付けた(
図3T〜3AC)。IHC、分子プロファイリング、およびCBCの結果により示される通り、観察された、リンパ球集団の減少は、骨髄系細胞の比率の増加を反映しうる。
【0228】
上記で示した通り、C9orf72
−/−マウスでは、CD45
+CD8
+細胞およびCD45
+CD4
+細胞の百分率が、野生型マウスと比較して、全体的に低減されたが、これは、骨髄系細胞の比率の増加の帰結であって、遺伝子シグネチャーデータと符合する帰結である可能性があった。これに対し、C9orf72
−/−マウスでは、これらのT細胞集団の総細胞カウントは増加した。これは、リンパ系組織の、全体としての拡大と、観察された、明白な免疫浸潤とを反映した。さらなる表面活性化マーカーの発現に基づき、CD8
+T細胞集団およびCD4
+T細胞集団をさらに細分化した(
図3V〜3AC)。CD8
+T細胞については、C9orf72
−/−マウスでは、それぞれ、早期活性化マーカーおよびエフェクターメモリーT細胞マーカーである、CD69およびCD44の百分率の、野生型と比較した有意な増加が観察された(
図3Vおよび3X)。さらに、C9orf72
−/−マウスでは、活性化細胞上で上方調節され、免疫系の下方調節において重要な役割を果たす共阻害性受容体である、PD−1を発現するT細胞の百分率の、野生型と比較した増加が観察された(
図3Z)。頸部リンパ節は、CD44およびPD−1の発現の増加を示したが、CD69の発現は減少した(
図3V〜3AA)。C9orf72
−/−マウスでは、CD4
+T細胞について、脾臓、リンパ節、腎臓、および血液における、CD44およびPD1の百分率の、野生型と比較して有意な増加が観察されたが、骨髄での値は、野生型と同等であった(
図3U、3W、3AA)。脾臓、頸部リンパ節、および腎臓では、CD69の発現パーセントは、様々な有意性で増加した(
図3Y)。C9orf72
−/−マウスでは、活性化T細胞の増加と同時に、脾臓内およびリンパ節内のCD4
+FoxP3
+調節性T細胞の百分率の、野生型と比較した増加が観察された(
図3AB)。また、脾臓コンパートメントも、ナイーブメモリーT細胞上またはセントラルメモリーT細胞上で発現し、T細胞が活性化したら下方調節されるCD62LおよびCD127の発現の低減を示した(
図3AC)。また、細胞カウントの測定も、様々な有意性で、C9orf72
−/−マウスにおける有意な増加を示した。
【0229】
サイトカインパネルからのデータ(
図3AD、3AE、および3AF)は、8〜58週齢のC9orf72
−/−マウスの血清中のサイトカインの上昇を裏付けた。特に、18週齢において、雄C9orf72
−/−マウスの血清中のIL−17、IL−10、TNF−α、およびIL−12(全)のレベルは、野生型と比較して有意に上昇した(
図3AD)。これらの同じサイトカインについて、C9orf72
−/−マウスでは、レベルの、C9orf72
+/−マウスと比較した有意な上昇が観察された。これらのデータは、これらのマウスにおける、マクロファージの全身性活性化を指し示した。解析された全ての雄マウス(8〜58週齢)において、C9orf72
−/−マウスは、IFN−γ、IL−10、IL−12(全)、IL−17、およびTNF−αの循環レベルの、野生型マウスと比較した有意な増加を示す。8〜38週齢の雌C9orf72
−/−マウスでは、IL−10、IL−12(全)、IL−17、TNF−α、およびMCP−1の循環レベルの、野生型マウスと比較して有意な増加のほか、IFN−γの増加傾向も観察された。C9orf72
−/−マウスでは、IL−12(全)は、野生型マウスと比較しておよそ6倍増加した。また、IL−10、IL−17a、およびTNF−αも、より小さな程度ではあるが、上昇した。IL−1β、IL−2またはIL−4のレベルの変化は観察されず、一部のC9orf72
−/−マウスでは、IL−6の、野生型と比較した増加があったが、この差違は、有意性には到達しなかった。ケモカインであるMCP−1のレベルは、雌C9orf72
−/−マウスでは有意に増加したが、雄C9orf72
−/−マウスではそうでなく(
図3AEおよび3AF)、IFN−γは、雄では有意に増加したが、雌では、一部がわずかな増加を示した(
図3AEおよび3AF)。したがって、C9orf72
−/−マウスでは、8週という早期において、炎症促進性サイトカインレベルの、野生型マウスと比較した全体的な増加が、様々な有意性で観察される。
【0230】
図3AG〜3AKに示される通り、老化C9orf72
−/−マウスは、重症度が増大した糸球体腎炎を発症する。この結果は、肝臓および腎臓における、H&E染色およびF4/80 IHCにより確認された(
図3AK)。例えば、8週齢のC9orf72
−/−肝臓におけるIHCによるF4/80染色の増加が、マクロファージの浸潤の増加を裏付ける一方で、38週齢の雌マウスの腎臓で、大型のF4/80
+マクロファージ細胞浸潤が観察された(
図3AK)。血清化学検査による血中尿素窒素の増加が、C9orf72
−/−マウスにおける腎疾患と相関する一方で、血清グロブリン含量の増加は、炎症性状態を指し示した。マウスにおける正常血中尿素窒素が、8〜33mg/dLの範囲であるのに対し、グロブリンレベルは、通常1〜4g/dLの範囲である(例えば、Zaias, J.ら、2009年、J. Am. Assoc. Lab. Animal Sci.、48巻(4号):387〜390頁を参照されたい)。
【0231】
腎臓についてのさらなる解析は、樹状細胞の特徴を有する、大型のF4/80
+単核細胞であって、35〜41週齢のC9orf72
−/−マウスの糸球体の周囲に方向づけられた(oriented)多数が存在するF4/80
+単核細胞を明らかにした(
図3AK)。H&E染色により、35〜60週齢のC9orf72
−/−マウスの腎臓内の、軽度〜中程度の糸球体腎炎を観察した(
図3AK)。影響がより重度な動物では、糸球体は、腫脹し、細胞過形成性であり、メサンギウムの増殖および白血球の浸潤を示した。免疫介在性疾患の発現は、多様であり、一部の糸球体では、毛細血管壁の肥厚と、壁側上皮の増殖とが観察される一方で、他の糸球体は、無細胞性の好酸球性硝子様物質を伴うメサンギウムの拡大であって、糸球体硬化症および様々な程度の糸球体周囲線維症と符合する拡大を示した。興味深いことに、これらの領域は、Congo redを染色しても、アミロイド沈着について陽性とならなかった。尿細管の変化は、尿細管皮質および尿細管髄質の拡張と、変性/再生を伴う、硝子様タンパク質性円柱および尿細管性好塩基球増加の存在とを含んだ。野生型マウスでは、このような変化は観察されなかった。血中尿素窒素の上昇(例えば、
図3AG)と、血清アルブミンの低下とを明らかにする血清化学パネルは、糸球体濾過の機能障害であって、野生型マウスと比較した、C9orf72
−/−マウスにおける、腎臓の組織学所見と相関する機能障害と符合した。
【0232】
ヌルマウスにおいて観察される腎疾患の重症度をさらに測定するために、H&E染色された腎臓切片を、免疫介在性糸球体腎症と関連する腎臓疾患の類型である、膜増殖性糸球体腎炎、間質性単核球性炎症、硝子円柱形成、糸球体硬化症、および好塩基性尿細管について、盲検法によりスコア付けした。
図9Aに示される通り、組織病理学的スコア付けの結果についての重み付けグラフは、ヌルマウスにおいて観察される、最も有意な腎臓の変化が、膜増殖性糸球体腎炎と関連することを裏付ける。個々の組織病理学スコアを表示し(
図9B)て、全てのヌルマウスが、影響がより重度な動物における、さらなる疾患類型の証拠を時折伴う、最小限〜重度の膜増殖性糸球体腎炎を提示することを示す。スコアは、0=なし、1=最小限、2=軽度、3=中等度、および4=重度である。14週(
図9C、上)および24週(
図9C、下)の時点において、同じコホートのマウスからアッセイされた、尿中ACRの測定値は、C9orf72−/−マウスにおける、年齢に伴う、アルブミン尿症の発症を指し示す。ヘテロ接合性マウスが、WTと同等な値を提示したことは、観察された表現型の非存在と符合する。
【0233】
C9orf72
−/−マウスはまた、ELISAにより、総IgGおよびIgM自己抗体のレベルの、野生型マウスと比較した増加も示したが、これは、自己免疫疾患を指し示し(
図3AI)、血清化学検査により観察される、血清グロブリンレベルの増加(
図3AG、上パネル)に対応する。加えて、C9orf72
−/−マウスについての血清ELISAは、循環二本鎖DNA(dsDNA)抗体、抗核抗体(ANA)、抗スミス(抗Sm)抗体、および抗カルジオリピン抗体のレベルの、野生型マウスと比較した有意な上昇も指し示した。ANAとは、細胞核の内容物に結合する自己抗体である。抗dsDNA抗体とは、二本鎖DNAに特異的に結合する、ANA抗体の種類であり、抗カルジオリピン抗体は、ミトコンドリア膜のリン脂質成分を指向する。
【0234】
さらに、C9orf72
−/−マウスは、8週齢という早期において、循環リウマチ因子(RF)抗体の有意な増加を示した(
図3AH)。血清グロブリンおよび自己抗体含量の増加は、多様な疾患状態、例えば、骨髄障害、自己免疫疾患、慢性炎症性状態(複数可)、肝疾患、腎疾患、感染症などのうちのいずれか1つを指し示しうる。例を1つだけ示せば、全身性エリテマトーデス(SLE)は、多くの細胞膜抗原および細胞内抗原に対する、高力価の自己抗体によって特徴付けられる。例えば、低分子核リボヌクレオタンパク質(snRNP)のコアユニットを指向する抗Sm抗体は、SLEについての特異的マーカーである。
【0235】
ループス患者における自己抗体力価の増加は、循環濾胞性ヘルパーT(Tfh)細胞の頻度の増加と正に相関する(Xu, H.ら、Cell Immunol、295巻、46〜51頁(2015年))。脾臓、頸部LN、腸間膜LN、および血液におけるこの特異的細胞集団(CD4+CXCR5+CD44+ICOS+PD−1+Bcl−6+)についての、FACS解析による精査は、C9orf72
−/−組織内のTfh細胞集団の、対照と比較した有意な増加を明らかにした(
図10)。Tfh細胞の上昇はまた、C9orf72
−/−BMでも観察されたが、これは、有意性に到達しなかった(
図10)。まとめると、これらの観察は、C9orf72発現の非存在下では、ヒトSLEと同様な免疫応答が生じるという概念を裏打ちする。
【0236】
形質細胞、および移行しているB細胞/形質芽細胞の拡大は、多発性骨髄腫および形質細胞腫などの特異的新生物のほか、自己免疫状態とも関連しうる。C9orf72
−/−マウスの脾臓およびリンパ節は、腫大し、とりわけ、免疫浸潤物が明白であったが、浸潤細胞は、B細胞マーカー(CD45R)について陰性であり、かつ、F4/80
+であり、泡沫状マクロファージの特徴を有した。これらの細胞の集団は、大きかったが、これらの組織の局所的領域であって、それらの系統について適切であると考えられる領域を占有し、これらの組織の基礎構造を完全に破壊しなかった。加えて、有糸分裂指数は小さく、まれな有糸分裂だけが観察された。したがって、新生物の可能性は小さいと考えられた。しかし、これらの組織内では、糸球体腎炎の証拠である形質細胞、および時折のモット細胞の集団が存在し、これは、C9orf72
−/−マウスにおける自己免疫を指し示した。上記で示した通り、C9orf72
−/−マウスでは、IgG型抗RF力価およびIgM型抗RF力価の両方が、野生型マウスおよびC9orf72
+/−(ヘテロ接合性)マウスと比較して有意に上昇した(
図3AH)。さらに、C9orf72
−/−マウスでは、8週齢以降、IgGおよびIgMの総血清レベルが有意に上昇した(
図3AGおよび3AI)が、これは、C9orf72
−/−マウスにおけるグロブリンの上昇を示す血清化学パネルと符合した。
【0237】
糸球体基底膜に対する自己抗体、または糸球体の毛細管内の可溶性免疫複合体の沈着に続く、補体の結合および炎症は、腎臓疾患(免疫介在性糸球体腎炎)を引き起こすことが報告されている。総免疫グロブリンレベルおよび自己抗体レベルの、観察される増加が、糸球体腎炎に寄与するのかどうかを決定するために、IHCを、8〜63週齢のC9orf72
−/−マウスおよび野生型マウスからの腎臓切片に対して、総IgGおよびIgMについて実施した(
図3AL)。本明細書で記載される通り、C9orf72
−/−マウスは、血清レベルおよび組織学レベルのいずれにおいても、糸球体腎炎の明確な証拠を示す。特に、C9orf72
−/−マウスからの腎臓は、全ての被験時点における、IgG免疫染色の、野生型マウスと比較した増加を示した。さらに、8週において、C9orf72
−/−腎臓は、血管系、ならびに髄質および皮質の尿細管上皮において、びまん性の、極めて強いIHCシグナルを示した。糸球体腎炎の病変の発症と相関して、糸球体のIgGおよびIgM染色の顕著な増加が、38週までに観察された。また、IgGおよびIgMの両方についての染色も、ボウマン嚢の壁側層と、高頻度で関連した。IgGについての染色が、尿腔および/または腎臓の近位尿細管内で時折観察されたことから、糸球体濾過機能の障害(すなわち、再吸収能を超える漏出)が指し示された。重度の疾患を有する動物における尿細管上皮細胞では、極めて強いIgG染色が存在したことは、豊富なIgGの再吸収と符合した。同様であるが、それほど強くない染色が、IgMについて、それほど頻繁でなく観察された。硬化性糸球体における染色は、野生型と比較して少ないが、これは、これらの構造単位(すなわち、血管ループが、マトリックスまたはメサンギウム細胞で置きかえられている)への血流機能障害と符合した。しかし、明瞭な血管ループを保持する糸球体は、野生型と比較して、IgGを増加させる傾向があった。血管膜と関連する、微細な顆粒状沈着物ならびに/またはIgGおよびIgMの線状の染色が、高倍率下、高頻度で観察されたが、これは、免疫複合体の沈着を示唆する。
【0238】
補体因子C3の沈着は一般に、腎臓における基底膜上の免疫グロブリン沈着物と関連する。補体因子C3についてのIHCは、C9orf72
−/−マウスの糸球体係蹄(glomerular tuft)内の染色の、野生型と比較した増加を明らかにした(
図3AL)。顆粒状および線状の染色は、糸球体嚢の臓側板の膜上で最も顕著であり、毛細血管ループおよび蛸足細胞を顕著に描写していた。
【0239】
脾臓および頸部リンパ節(8〜10週および35週の野生型マウスおよびC9orf72
−/−マウス)における分子的プロファイリングからの遺伝子シグネチャーデータは、マクロファージ、単球、および顆粒球の細胞集団の浸潤を指し示した。存在する骨髄系細胞の比率の増加を反映しうる、T細胞およびB細胞の枯渇もまた観察された。グローバル階層分析は、脳試料を、遺伝子型ではなく、主に、性別(gender)および年齢で分離したことから、この組織におけるプロファイリングの差違が、試料の基礎的生物学および遺伝子型に起因することが指し示された。脳組織内では、C9orf72の発現だけが、年齢および性別(gender)の両方全体にわたって、一貫して異なった。これに対し、脾臓およびリンパ節に由来する試料は、遺伝子型に基づいてクラスタリングし、年齢および性(sex)は、二次的なものに過ぎないことから、これらの臓器におけるトランスクリプトーム差違は、C9orf72発現の変化の結果であったことが指し示された。さらに、免疫機能と関連する100を超える遺伝子座は、早期および後期の時点の、雄および雌の両方について、C9orf72
−/−マウスにおける、野生型と比較して有意な発現の差違を示した。C9orf72
−/−マウスにおける脾臓およびリンパ節の遺伝子シグネチャーは、リンパ球フットプリントの同時的な減少を伴う、骨髄系の浸潤を指し示したが、これは、骨髄系細胞の上昇と、リンパ球の減少との間のバランスのために、株の間で同等な総白血球数を示すCBCデータ(上記を参照されたい)と符合した。バイオセットの比較では、最も強力なプロファイリングのマッチは、多様な炎症性状態およびヒト感染性疾患のマウスモデルである、免疫応答シグネチャーに対するマッチであった。本実施例において示される通り、免疫表現型解析データは、C9orf72遺伝子座内に破壊を有するマウス(C9orf72
−/−)が、8週齢という早期において、脾腫およびリンパ節症を発症することを裏付けた。特に、CBCデータは、C9orf72
−/−マウスにおける、循環単球、循環好中球、および循環好酸球の増加のほか、8週で始まる、血中リンパ球の減少も示した。雄(58週齢)および雌(37週齢)のC9orf72
−/−マウスではまた、頸部リンパ節も、老化と共に、徐々に大きくなる。本実施例はまた、C9orf72
−/−マウスが、年齢が進むにつれて、糸球体腎炎(すなわち、F4/80
+マクロファージの、腎臓内の浸潤)および自己免疫疾患(すなわち、IgM自己抗体レベルおよびIgG自己抗体レベルの有意な上昇)を発症することも具体的に裏付ける。したがって、本実施例は、実施例1で記載した、C9orf72遺伝子座における破壊を有する齧歯動物が、約8週齢という早期の末梢および循環において、検出可能な異常を示すことについて具体的に記載した。特に、C9orf72の除去は、慢性の全身性免疫応答であって、いくつかのコンパートメント内の、炎症性サイトカインの上昇と、骨髄系の拡大とを結果としてもたらす免疫応答をもたらす。
【0240】
(実施例4)
C9orf72遺伝子座における破壊を有する非ヒト動物への、神経毒素の投与
この実験は、本明細書で記載される非ヒト動物への多様な毒素の投与が、観察されるALS様表現型の側面を増悪しうることを裏付ける。特に、本実施例は、C9orf72
−/−マウスへの多様な毒素の投与が、ALS様運動表現型を軽微に増悪させ、運動ニューロンに対する酸化ストレスを増加させるが、これらのマウスの不活発化および歩行異常の増大に影響を及ぼさないことを具体的に裏付ける。本実施例はまた、C9orf72
−/−マウスの運動ニューロンが、有意なミトコンドリア機能不全を発症することも裏付ける。
【0241】
略述すると、マウス胚性幹細胞を、8日間で、培養し、運動ニューロンへと分化させる。1日目に、あらかじめ凍結させたマウス胚性幹細胞を解凍し、5mLの胚性幹細胞培地(ES培地:15%のFBS、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、1%のグルタミン、1%の非必須アミノ酸、1%のヌクレオシド、0.1%のβ−メルカプトエタノール、1%のピルビン酸ナトリウム、および10000単位/mLのLIFを伴うDMEM)を含む15mLのファルコンチューブへと添加する。次いで、チューブを、800rpmで5分間にわたり遠心分離する。上清を吸引し、細胞を、10mLのES培地中に懸濁させる。次いで、細胞を、0.1%のゼラチン10mLでコーティングされたT75フラスコに蒔き、37℃で30分間にわたりインキュベートして、フラスコの底部への付着を容易とする。次いで、細胞を、一晩にわたりインキュベートする。翌日、生存のために、培地を、新鮮培地と交換する。
【0242】
翌日、培地を、フラスコから吸引する。フラスコを、10mLのPBSで洗浄し、次いで、5mLのトリプシンを添加して、細胞を、フラスコの底部から剥離させる。細胞を、37℃で5分間にわたりインキュベートする。剥離は、フラスコを、顕微鏡下で点検することにより確認する。トリプシン反応を停止させるために、分化培地(10mLのDFNK培地:44%のAdvanced DMEM/F12、44%のNeurobasal、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、1%のグルタミン、0.1%のβ−メルカプトエタノール、10%のノックアウト血清代替物)を、フラスコへと添加する。溶液を、フラスコから、ファルコンチューブへと回収し、800rpmで5分間にわたり遠心分離する。上清を吸引し、細胞を、12mLのDFNK培地中に懸濁させる。次いで、細胞を、細胞培養ディッシュ内に蒔き、37℃で一晩にわたり、インキュベーターに入れる。翌日、細胞を伴う溶液を、ファルコンチューブへと移し、500rpmで2分間にわたり遠心分離する。上清を吸引し、細胞を、12mLのDFNK培地中に懸濁させる。次いで、細胞を、新たな細胞培養ディッシュ内に蒔き、一晩にわたり、インキュベーターに入れる。次の日、培地をディッシュから回収し、ファルコンチューブへと移す。次いで、チューブを、500rpmで2分間にわたり遠心分離し、次いで、上清を吸引する。細胞を、運動ニューロンの分化のために、最終濃度1μMのレチノイン酸と、最終濃度0.25μMのSmoothenedアンタゴニストを含む36mLのDFNK培地中に懸濁させる。培地を、ディッシュ1枚当たり12mLずつ、3ディッシュにわたり分割する。
【0243】
3日後、形成される胚様体(EB)を解離させる。まず、EBを回収し、ファルコンチューブへと移す。次いで、細胞を、500rpmで2分間にわたり遠心分離し、上清を吸引する。次いで、細胞を、4mLのPBS−グルコースで洗浄する。次に、化学的解離のために、4mLのトリプシンを、細胞へと添加し、5分間にわたりインキュベートする。次いで、1mLのウマ血清を添加して、トリプシン反応を停止させる。EBを、5分間にわたり静置し、上清を吸引する。2mLのPBS−グルコース−DNアーゼを添加し、細胞を、10回にわたり、機械的に解離させる。細胞を、5分間にわたり静置し、解離した細胞を、別個のチューブへと移す。2mLのPBS−グルコース−DNアーゼを、解離していない細胞へと添加し、機械的解離を反復する。細胞を、5分間にわたり静置し、次いで、解離した細胞を、別個のチューブへと移す。解離した細胞を、800rpmで5分間にわたり遠心分離し、次いで、上清を吸引する。解離した細胞を、5mLの胚性幹細胞運動ニューロン培地(ESMN培地:Neurobasal、2%のB27、2%のウマ血清、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、0.25%のグルタミン、0.01%のβ−メルカプトエタノール、10ng/mLのBDNF、10ng/mLのCNTF、10ng/mLのGDNF)中に懸濁させる。細胞を、800rpmで5分間にわたり遠心分離する。上清を吸引し、細胞を、ESMN培地中に懸濁させる。次いで、Countess自動式細胞カウンター(Life Technologies)を使用して、細胞をカウントし、50万個〜100万個の細胞を、各6ウェルプレート内のウェル1つ当たり2mLのESMN培地と共に蒔く。細胞を、ESMN(対照)中、または0.1〜100μM濃度のBMAAを含むESMN中で維持する。細胞カウントは、0.4%のトリパンブルーを使用し、20μm超の平均細胞直径設定(運動ニューロン)を使用して数えた。例示的な結果を、
図4に明示する。
【0244】
別の実験では、野生型マウスに、1週目に始まる6週間にわたる毎週の、BMAA(500mg/kg)またはPBS(対照)のi.p.注射を施した(
図5A、上)。体重測定は、最大6週間にわたる各週、14週目、および18週目に記録した。ロータロッド、オープンフィールド自発運動、およびキャットウォーク試験(上記で記載した)を介する、運動機能障害についての解析は、実験の開始時(0週目;10週齢)、最大6週間にわたる隔週、14週目、および18週目に記録した。例示的な結果を、
図5A〜5Dに明示する。
【0245】
野生型マウスについて、データは、BMAAが、AMPA/カイナイト(kainite)受容体媒介経路を介して、培養された野生型運動ニューロンを、用量依存的に死滅させることを裏付けた。さらに、BMAAの毎週の注射(i.p.)は、野生型マウスにおいて、ALS様表現型を誘導しなかった(
図5A〜5D)。同様な結果は、100mg/kgのBMAAを使用する場合にも観察された。
【0246】
別の実験では、老齢(すなわち、32週齢)の野生型マウスおよびC9orf72
−/−マウスに、6週間にわたる毎週の、BMAA(500mg/kg)またはPBS(対照)のi.p.注射を施した。体重測定値は、0日目(すなわち、32週)に始まる、最大38週間にわたり各週記録した。また、ロータロッド、オープンフィールド自発運動、およびキャットウォーク試験(上記で記載した)を介する、運動機能障害についての解析も、実験の開始時(0週目;10週齢)、および最大38週間にわたる隔週に記録した。表6は、試験中の動物の、運動機能障害、振戦、および硬直と関連するスコア付け法を明示する。例示的な結果を、
図6A〜6Eに明示する。データは、C9orfF72
−/− マウスへのBMAAの投与が、ALS様運動表現型を軽微に増悪させるが、これらのマウスの不活発化および歩行異常の増加に影響を及ぼさないことを裏付けた。
【0247】
別の実験では、C9orfF72
−/−マウスに由来する運動ニューロンを、上記で記載した(
図7もまた参照されたい)通りに培養し、センス鎖リピートを含有するRNAを選択的に標的とし、全体的なC9orf72発現に影響を及ぼさずに、センス配向性のRNA凝集体を低減するアンチセンスオリゴヌクレオチドで処理した。処理に続いて、100mMのBMAAを添加した。培養された運動ニューロンの生存および酸化ストレスは、1日目および7日目に測定した。略述すると、蒔いた胚性幹細胞由来の運動ニューロン(上記で記載した)の酸化ストレスは、Life Technologies製のCellROX Oxidative Stress Green試薬を、5μMの最終濃度で使用し、37℃で30分間にわたりインキュベートして、細胞における活性酸素種(ROS)レベルを測定することにより評定した。インキュベーション後、細胞を、PBSで3回にわたり洗浄し、標準的なマイクロプレート蛍光光度法を使用して、蛍光を測定した。例示的な結果を、
図7に明示する。データは、C9orfF72
−/−運動ニューロンの、BMAAへの曝露が、酸化ストレスの増加を引き起こすことを裏付けた。
【0248】
別の実験では、ミトコンドリア機能を、野生型マウスおよびC9orf72
−/−マウスにおいて決定した。略述すると、DNAzol試薬(Invitrogen)を使用するDNA単離により、胚性幹細胞由来の運動ニューロン(上記で記載した)の、ミトコンドリアDNA対核DNA比を測定した。DNAの純度および量は、製造元の仕様に従い、Nanodrop 2000分光光度計(Thermo Scientific)およびNovaQUANTマウスミトコンドリア対核比キット(Novagen)を使用して評定した。Seahorse Bioscience XFe96 Analyzerを活用して、胚性幹細胞由来の運動ニューロンのミトコンドリア呼吸を評定した。XFe96 Extracellular Flux Analyzerを使用して、12の測定値について、野生型マウスの最初の測定値に対する酸素消費速度パーセントを記録した。最初の3つの測定値の平均は、基底呼吸を表し、オリゴマイシン(1μM)を添加した後における、次の3つの測定値は、プロトン漏出を表し、基底呼吸とプロトン漏出との差違は、ATP産生を表し、FCCP(1μM)を添加した後における、次の3つの測定値は、最大呼吸を表し、最大呼吸と基底呼吸との差違は、予備呼吸能を表し、ロテノン/アンチマイシンA(0.5μM)を添加した後における、最後の3つの測定値は、非ミトコンドリア呼吸を表した。全てのデータは、少なくとも3つの独立の実験から回収したものであり、平均±SEMとして報告する。スチューデントのt検定は、野生型マウスの値を、C9orf72
−/−マウスの値と比較する統計学的解析のために実施したものであり、
*をP≦0.05とし、
**をP≦0.01とし、
***をP≦0.001とした。例示的な結果を、
図8に明示する。
【0249】
かつての報告は、ATPの枯渇が、病理学的な細胞肥大をもたらすNa
+の細胞内蓄積を結果としてもたらすことを裏付けている(Liang D.ら、2007年、Neurosurg. Focus、22巻(5号):E2頁)。
図8に示される通り、野生型マウスおよびC9orf72
−/−マウスの幹細胞から分化させた運動ニューロンを使用したところ(上記で記載した;また、Wichterle H.ら、2002年、Cell、110巻(3号):385〜97頁も参照されたい)、C9orf72
−/−マウスは、ATPの欠損および/または細胞膜の損傷に起因する、Na−K ATPアーゼポンプの不全を示した。これに対し、野生型ニューロンまたはC9orf72
−/−ニューロンにおいて、生存および酸化ストレスの差違は観察されなかった(
図8、上)。興味深いことに、C9orf72
−/−マウスに由来する運動ニューロン(
図8、上右)では、野生型運動ニューロンと比較した、ミトコンドリアDNAの、核DNAに対して量が多いこと(
図8、上右)のほか、ミトコンドリア呼吸速度の有意な減少(
図8、下左)も観察された(P<0.0001)。さらに、C9orf72
−/−運動ニューロンにおいて、基底呼吸、ATP産生、最大呼吸、プロトン漏出、および予備呼吸能の全てが、野生型と比較して有意に低度であった(
図8、下右)。したがって、C9orf72
−/−マウスからの運動ニューロンは、細胞の損傷および肥大をもたらす可能性がある、ミトコンドリアの有意な機能不全を示す。
【0250】
本実施例は、C9orf72
−/−マウスが、ALS様運動障害を示すことを具体的に裏付ける。さらに、本実施例は、BMAAが、AMPA/カイニン酸媒介グルタミン酸興奮毒性経路内の運動ニューロンを死滅させる一方で、BMAAへの曝露が、in vivoにおける疾患を誘発するのに十分なわけではないことも強調する。なおさらに、BMAAへの曝露は、C9orf72
−/−マウスにおけるALS疾患表現型を、軽微に増悪するに過ぎない。したがって、本明細書で提示されるデータは、少なくとも一部の実施形態では、C9orf72
−/−マウスにおけるC9orf72タンパク質の喪失が、ALS−FTD疾患の顕著な機構ではないことを示唆する。
【0251】
まとめると、本開示は、実施例1に従い作製されたC9orf72
−/−マウスが、C9orf72遺伝子座の完全な除去を示すことを具体的に裏付ける。さらに、本明細書で記載される通り、C9orf72
−/−マウスは、例えば、有意な運動障害と、免疫系およびミトコンドリア機能の破壊とによって特徴付けられるいくつかの識別可能な表現型を、発生を通して生じさせる。例えば、C9orf72
−/−マウスは、血清自己抗体濃度の有意な増加と、多様な免疫細胞の、脾臓、リンパ節、骨髄、腎臓、および血液への浸潤とによって特徴付けられる自己免疫表現型を生じさせる。興味深いことに、本明細書で記載される免疫表現型解析データは、C9orf72遺伝子産物が、免疫系のホメオスタシスおよびニューロンの健康において、極めて重要な役割を果たすことを例示する。特に、C9orf72
−/−マウスにおける脾腫およびリンパ節症は、8週齢という早期から60週齢を通じて進行する、形質細胞、単球、顆粒球、および最も顕著にはF4/80
+マクロファージを含む、いくつかの細胞集団の浸潤の結果である。サイトカインパネルおよび分子プロファイリングデータは、C9orf72
−/−マウスにおける、Th1/マクロファージ活性化経路の増進を強く示唆する。したがって、本開示は、C9orf72の文脈では、ハプロ不全が、ALS−FTD病変の主要な原因である可能性は低いことを具体的に裏付け、グローバルなC9orf72の除去を伴う非ヒト動物についての包括的な表現型解析において、C9orf72の、免疫機能およびホメオスタシスにおける新規の役割を提示する。
【0252】
均等物
こうして、本発明の少なくとも1つの実施形態の、いくつかの態様について記載してきたが、当業者には多様な変更、改変、および改善にたやすく想到されることを、当業者であれば十分に理解されたい。このような変更、改変、および改善は、本開示の一部であることを意図し、本発明の精神および範囲内にあることを意図するものである。したがって、上掲の記載および図面は、例だけを目的とするものであり、本発明は、以下の特許請求の範囲により詳細に記載される。
【0253】
特許請求の範囲における、「第1の」、「第2の」、「第3の」など、序数用語の使用であって、特許請求の範囲の要素を改変する使用は、それ自体、1つの特許請求の範囲の要素の、別の要素に対する、いかなる優先性、先行性、もしくは順序を含意するものでも、方法の行為を実施する時間的な順序を含意するものでもなく、ある特定の名称を有する、1つの特許請求の範囲の要素を、同じ名称を有する(序数用語の使用を除き)別の要素から識別して、特許請求の範囲の要素を識別する標識としてだけ使用するものである。
【0254】
本明細書および本特許請求の範囲における冠詞である「ある(a)」および「ある(an)」は、反対のことが明確に指し示されない限りにおいて、複数形の指示対象を含むと理解されたい。反対のことが指し示されるか、またはそうでないことが文脈から明らかでない限りにおいて、群の1または複数のメンバーの間の「または」を含む、特許請求の範囲または記載は、群のメンバーのうちの1つ、1つを超えるメンバー、または全てが、所与の生成物またはプロセスにおいて存在するか、これにおいて利用されるか、または他の形でこれに当てはまれば満たされると考えられる。本発明は、群のうちの正確に1つのメンバーが、所与の生成物またはプロセスにおいて存在するか、これにおいて利用されるか、または他の形でこれに当てはまる実施形態を含む。本発明はまた、1つを超えるまたは全ての群のメンバーが、所与の生成物またはプロセスにおいて存在するか、これにおいて利用されるか、または他の形でこれに当てはまる実施形態も含む。さらに、そうでないことが指し示されない限りにおいて、または禁忌もしくは矛盾の生じることが当業者に明らかとならない限りにおいて、本発明は、1または複数の限定、要素、条項、記載用語などを、列挙された請求項のうちの1または複数から、同じ基本請求項(または、妥当な場合、他の任意の請求項)に従属する別の請求項へと導入する場合の、全ての変化、組合せ、および順列を包含することも理解されたい。要素を、一覧(例えば、マーカッシュ群または類似のフォーマットによる)として提示する場合、要素の各亜群もまた開示され、任意の要素(複数可)を群から除外しうることも理解されたい。一般に、本発明または本発明の態様が、特定の要素、特色などを含むと称する場合、本発明のある特定の実施形態または本発明の態様は、このような要素、特色などからなるか、またはこれらから本質的になることを理解されたい。簡便さを目的とすると、本明細書では、これらの実施形態が、あらゆる場合において、言葉通りに、具体的に明示されているわけではない。また、本発明の任意の実施形態または態様は、具体的な除外が、本明細書で列挙されるのかどうかにかかわらず、特許請求の範囲から明示的に除外されうることも理解されたい。
【0255】
当業者は、本明細書で記載されるアッセイまたは他のプロセスにおいて得られる値に帰せられる、典型的な標準偏差または標準誤差を十分に理解する。
【0256】
本発明の背景について記載し、その実施に関するさらなる詳細を提供するために、本明細書で参照される、刊行物、ウェブサイト、および他の参照素材は、参照により本明細書に組み込まれる。