【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明の技術的手段は以下のとおりである。
レーザースクライビング法により、方向性ケイ素鋼の片面または両面にスクライビングで平行な線状スクライブ溝が形成されてあり、該線状スクライブ溝が鋼板の圧延方向と垂直となるかまたはある角度をなし、線状スクライブ溝の縁部の突起の最大高さが5μm以下であり、隣接する線状スクライブ溝の間にあるスクライビングのない領域でのスパッタリング物の最大高さが5μm以下であり、かつ線状スクライブ溝の近傍領域でのスパッタリング物の占める面積の割合が5%以下である耐応力除去焼鈍のレーザースクライビングされた方向性ケイ素鋼。
好ましくは、前記線状スクライブ溝の間にあるスクライビングのない領域でのスパッタリング物の高さが2μm以下であり、かつ線状スクライブ溝の近傍領域でのスパッタリング物の占める面積の割合が2.5%以下である。
好ましくは、前記線状スクライブ溝の底部の中心線の線粗さRaが2.1μm以下である。
好ましくは、前記線状スクライブ溝の底部の中心線の線粗さRaが0.52μm以下である。
好ましくは、前記線状スクライブ溝の形状は、略三角形、台形、半円形または楕円形である。
好ましくは、前記線状スクライブ溝の鋼板の圧延方向となす角度は、0〜30°である。
好ましくは、前記線状スクライブ溝の幅が5〜300μmであり、スクライブ溝の深さが5〜60μmであり、隣接する線状スクライブ溝間の間隔が1〜10mmである。
【0022】
本発明は、製錬、連続鋳造、熱間圧延、1回または中間焼鈍を含む2回の冷間圧延、脱炭焼鈍、高温焼鈍、熱延伸平坦化焼鈍及び絶縁コーティングの塗布による方向性ケイ素鋼の最終製品の形成を含む方向性ケイ素鋼の製造方法であって、
さらに、前記レーザースクライビングが脱炭焼鈍の前に、または熱延伸平坦化焼鈍の前または後に実施されるレーザースクライビング工程を含み、前記レーザースクライビングが、
1)方向性ケイ素鋼の表面に保護膜を形成すること、
2)方向性ケイ素鋼の表面に、一連の、鋼板の圧延方向と垂直となるかまたはある角度をなす線状スクライブ溝を形成するようにレーザースクライビングすること、
3)方向性ケイ素鋼の表面をブラッシングし、保護膜を除去し、および乾燥すること、
を含む、耐応力除去焼鈍のレーザースクライビングされた方向性ケイ素鋼の製造方法。
好ましくは、前記保護膜の成膜物質は、金属酸化物粉末、および0.3%〜5.5重量%の水である。
好ましくは、前記保護膜の厚さが、1.0μm〜13.0μmの範囲にある。
好ましくは、前記金属酸化物粉末は、非水溶性で、単一粉末または複数種の粉末の組み合わせであり、粉末中の粒子径が500μm以上の粒子の占める割合が体積比で10%以下である。
好ましくは、前記金属酸化物粉末は、アルカリ土類金属酸化物、Al
2O
3、ZnOまたはZrOの1種または複数種の組み合わせである。
好ましくは、前記レーザースクライビング工程に用いられるレーザー光ソースは、CO
2レーザー発振器、固体レーザー発振器、光ファイバレーザー発振器の1種または複数種の組み合わせであり、レーザーが連続式またはパルス式である。
好ましくは、前記レーザースクライビング工程におけるレーザーのパワー密度Iは、1.0×10
6W/cm
2以上であり、平均エネルギー密度e
0は0.8J/mm
2〜8.0J/mm
2の範囲にあり、且つ平均エネルギー密度と保護膜の膜厚の比率aは0.6〜7.0の範囲にある。
【0023】
また、本発明は、製錬、連続鋳造、熱間圧延、1回または中間焼鈍を含む2回の冷間圧延、脱炭焼鈍、鋼板の表面へのMgO焼鈍分離剤の塗布、高温焼鈍、熱延伸平坦化焼鈍及び絶縁コーティングの塗布による方向性ケイ素鋼の最終製品の形成を含む方向性ケイ素鋼の製造方法であって、前記脱炭焼鈍後に、一連の、鋼板の圧延方向と垂直となるかまたはある角度をなす線状スクライブ溝を形成するようにレーザースクライビングが実施される、耐応力除去焼鈍のレーザースクライビングされた方向性ケイ素鋼の製造方法。
【0024】
本発明は、ケイ素鋼シートの異なる表面の状態下でのレーザースクライブ中における熱拡散、および熱熔融とスパッタリング物とがスクライブ溝の近傍に付着堆積することを防止するための方法について詳細に研究し、独創的に、方向性ケイ素鋼の表面に保護膜を塗布し、レーザースクライブの後にブラッシングで耐熱スクライビングされた方向性ケイ素鋼を製造する方法を提案し、1回のレーザー走査により安定し制御可能なスクライブ溝を形成することができ、磁区細分化により鉄損を低下させ、かつ占積率の著しい劣化を起こさず、その鉄損低減効果が応力除去焼鈍を経た後に消失しない。本発明者らは、高速撮像用顕微鏡で観察した結果、スクライブ溝縁部の突起がレーザースクライブ中における伝熱により一部の金属が溶融堆積することによるものであり、スクライブ溝の近傍のスパッタリング物が、蒸発気化された金属またはプラズマがパージ条件下で迅速に冷却され、ケイ素鋼シートの表面に凝結して形成されるものであることを見出した。本発明者らは、保護膜を印加した後にレーザースクライビングする方法により、スクライブ溝の縁部の突起を制御する解決的手段を見つけた。
図2は、スクライブ溝の縁部の突起の占積率への影響規律および本発明の範囲を説明する。縁部突起の高さが5μmを超える場合、占積率が95%以下に低下し、変圧器鉄心の製造プロセス要求を満たすことができないため、スクライブ溝の縁部の突起の高さを5μm以内に制御する必要がある。
【0025】
図3は、本発明で要求する隣接するスクライブ溝の間にあるスパッタリング物の高さ、占める面積の割合と占積率の範囲を説明する。隣接するスクライブ溝の間に形成されたスパッタリング物の高さが5μm以下であり、かつ単位面積当たりスパッタリング物の占める割合が5.0%以下である場合、方向性ケイ素鋼シートの占積率を95%以上に維持することができる。特に、スパッタリング物の高さが2μm以下であり、単位面積当たりスパッタリング物の占める割合が2.5%以下である場合、ケイ素鋼シートの占積率が96%以上に維持されることから、本発明の好ましい範囲である。
【0026】
なお、変圧器の稼働中にシート間のスパッタリング物又は突起による潜在的な導通又は振動騒音の増大のリスクを防止するために、本発明の前記縁部の突起の高さおよびスパッタリング物の高さはいずれも最大高さを意味し、平均高さではない。
【0027】
また、スクライブ溝の底部の中心線の粗さRaは、最終製品のケイ素鋼シートの磁気特性の均一性に重要な影響を与える。スクライブ溝の底部の中心線の線粗さRaが大きいほど、シート間の磁気特性の変動も大きくなる。このような現象を引き起こす原因は、スクライブ溝の底部の不均一に起因して異なる位置の透磁効率に差があることである。スクライブ溝の浅い部位は透磁率が高く、深い部分は漏れ磁束が多く存在することにより透磁率が低く、かつ透磁率が不均一で、材料の内部エネルギー場の分布が乱れ、スクライブ溝の近傍に多くの非180°サブドメインが発生し、鉄損が逆に改善されない。
図4は、ケイ素鋼シート間の鉄損P17/50の標準偏差がRaの増加に伴って増大する法則を説明する。Raが2.1μmを超えると、ケイ素鋼シート間のP17/50標準偏差が迅速に大きくなり、0.034W/kgを超え、変圧器性能の不確定性を大幅に増加させるため、スクライブ溝の底部の中心線粗さを2.1μm以内に制御する必要がある。特に、Raが0.52μm未満であると、P17/50の変動が0.013W/kg未満となり、均一性が良好であり、本発明の好ましい範囲である。
【0028】
上記スクライブ溝の縁部の突起、スパッタリング物およびスクライブ溝の底部の凹凸は、いずれもレーザー蒸発アブレーション材料でスクライブ溝を形成する時、不可避的な熱熔融または拡散現象による必然的な現象である。本発明者らは、レーザーエネルギーと保護膜の厚さ、含水率および粒子度パラメータを調整することにより、完全に消失するまで、スクライブ溝の縁部の突起およびスパッタリング物の効果的な制御を実現し、スクライブ溝が均一であり、鉄損が著しく低下する。
【0029】
本発明において、レーザースクライビングの前に保護膜を導入する方法は、レーザースクライブ中に発生する熱拡散を十分に低減させることができ、かつ、不可避的なスパッタリング物に対して、被膜表面のみに凝着するため、後続のブラッシングにおいて被膜の除去に伴って一緒に除去されるため、表面のスパッタリング物の形成が最大範囲で低減される。その保護膜が印加され且つスクライビングした後の効果は
図7に示すとおりであり、後続のブラッシングを経た後の最終的に得られた方向性ケイ素鋼シートのスクライブ溝は
図8に示すとおりである。スクライブ溝の平坦度が高く、近傍に熱拡散によるスラグやスパッタリング物などがなく、巻鉄心変圧器の製造に用いることができる。
【0030】
スクライブ溝工程における熱拡散を効果的に低減するために、保護膜材料は、レーザースクライブ中のアブレーション効率を十分に向上させるように優れた熱伝導率性質を有し、かつレーザーに良好な吸収作用を有する必要がある。本発明者らは、詳細な研究により保護膜が十分に作用する関連パラメータ(保護膜の主成分、水分含有量、保護膜を形成する粒子状物質の大きさの分布を含む)を決定した。
【0031】
本発明者らの検討により、保護膜中の水分がスクライブ溝の縁部の突起物に対して直接的な影響を与えることが明らかになった。これは、レーザーアブレーション中に保護膜中の水分が気化して熱を奪うことができ、熱伝導に指向性チャネルを提供し、溝をスクライブする際に熱量の基体のスクライブ溝縁部への拡散を減少ひいては除去させ、縁部の熱溶融層を減少させるため、均一で制御可能なスクライブ形状を形成することができるからである。しかし、過剰な水分の存在はアブレーション中に基板の高温酸化をもたらし、磁気特性を劣化させ、かつロールコーティングまたはスプレーコーティング作業時に膜の厚さを制御することが困難になる。本発明者らは、繰り返し試験を重ねた結果、水分が0.3重量%以上であると、熱量が保護膜を介して外部へ拡散し、制御可能なスクライブ溝を形成することに有利であり、水分が5.5重量%以下であると、レーザースクライビングによる高温酸化を効果的に制御することができることを確定した。なお、本発明に係る保護膜中の水分は、自由水又は結晶水状態で存在してもよく、水分がそのうちの一種の形態で存在する場合、重量%は当該水分の重量の占めるパーセントである。保護膜中に自由水が結晶水とともに存在する場合、重量%は2種の水分の重量%の合計を指す。
【0032】
本発明において、スクライビングの前に使用される保護膜は、非水溶性の金属酸化物粉末がロールコーティングやスプレーコーティングされることにより形成されている。ただし、粒子径≧500μm以上の数の占める割合は10%を超えてはならない。これは、異なる大きさの粒子がレーザーに対して異なる散乱効果を有することにより、レーザースクライブのアブレーション効率に直接的に影響を及ぼすからである。直径が500μm以上の粒子数の占める割合が10%を超える場合、保護膜のレーザーへの散乱効果が顕著であり、レーザーアブレーション効率が低く、熱溶融現象による溝縁部の突起が発生する。従って、本発明の要する保護膜物質の粒子度範囲は、直径が500μm以上の粒子数の占める割合が10%を超えてはならないことである。
【0033】
本発明において、レーザースクライビングの前に使用される保護膜は、金属酸化物粉末を水に分散して高速撹拌してスラリーを形成し、ロールコーティングやスプレーコーティングにより鋼帯表面に塗布し、200℃以上の温度環境で乾燥することにより形成される。本発明者らは、繰り返し試験により、非水溶性の金属酸化物が水中で高速撹拌した後に分散性が高く、ケイ素鋼表面に効果的に付着することができ、一定の自由水又は結晶水を担持し、レーザースクライビングの際に熱が外部に拡散することに役立つことにより、良好な形状を有するスクライビングによるスクライブ溝が形成されることを確定した。特に、非水溶性金属酸化物は、アルカリ土類金属酸化物およびAl
2O
3、ZnO、ZrOであることが好ましい。
【0034】
また、本発明で用いるレーザーパワー密度Iは、1.0×10
6W/cm
2よりも高いことが必要である。ここで、レーザーパワー密度Iの定義式は以下のとおりである。
【数1】
ここで、Pはレーザー出力パワーであり、Sは96%以上のビームエネルギーを含むスポット面積である。
【0035】
図5は、本発明におけるレーザーパワー密度Iとスクライビング後の鉄損改善率および占積率の法則を説明する。パワー密度Iが1.0×10
6W/cm
2になると、鉄損改善率および占積率がいずれも活発に変化する。これは、パワー密度Iが1.0×10
6W/cm
2未満であると、レーザースクライブする時の表面のレーザーに対する吸収率が低く、レーザーエネルギーの大部分が反射され、表面の受熱領域が気化温度未満になり、スクライブ溝の形成が熔融を主とし、スクライビング縁部に熔融物が形成され、最終的に縁部の突起が形成されるからである。この時、縁部の突起は、保護膜と基材が再溶融し凝結して形成されるものであり、後続のブラッシングでは除去することができない。パワー密度Iが1.0×10
6W/cm
2以上になる場合、レーザーアブレーションが気化を主とし、光吸収率が大幅に向上し、スクライブ溝の効率が著しく向上する。気化物質は、パージガスと集塵システムの共同作用でスクライビング領域から持ち出され、少量の残留物はスクライブ溝の近傍に落ち、後続のブラッシング中で保護膜とともに除去され、最終的に溝型の制御可能なスクライブ溝が得られる。従って、本発明で要求するレーザーパワー密度の範囲は、1.0×10
6W/cm
2以上である。
【0036】
本発明者らは、さらに入射レーザーエネルギーと最終製品の磁性特性の関連性について詳細に研究した結果、両者が密接に関連することを見出した。レーザーエネルギー密度e
0で単位面積当たりで受けられるレーザーの総エネルギーを示し、その定義式は以下のとおりである。
【数2】
ここで、Dyはスポットの走査方向に沿った長さを示し、Vsはレーザー走査速度である。
【0037】
レーザーエネルギー密度が小さすぎて、0.8J/mm
2未満であると、レーザーアブレーションで剥離される材料が少なく、磁区細分化の効果を奏するには不十分である。一方、レーザーエネルギー密度が高すぎて、8.0J/mm
2を超えると、過剰なレーザーエネルギーを持ちこみ、一方、形成されるスクライブ溝の深さが大きすぎて磁気感を低下させ、もう一方、スクライブ溝の制御性を悪化させ、底部が凹凸となり、かつ縁部に溶融によって形成された突起が発生しやすい。
【0038】
さらに、本発明者らは、繰り返し試験、検討により、方向性ケイ素鋼の磁気特性を最適化するように、レーザーエネルギー密度と表面被膜とをマッチングさせる技術案を創案した。具体的には、両者の比を制御することにより、スクライブ溝効果を最適化する目的を達成する。
図6は、0.23mm方向性ケイ素鋼を例とし、本発明の範囲の有益な効果を説明する。レーザーエネルギー密度および表面被膜の厚さの比aが0.6未満である場合、P17/50が顕著に改善されない。a値が7.0を超える場合、P17/50改善率は小さくなるが、磁束密度B8は急速に劣化する。これはスクライブ溝の漏れ磁束と熱伝導範囲の拡大の共同作用による結果である。
【0039】
しかも、スクライビングによるスクライブ溝の存在が磁区を細分化し、鉄損を低下させるが、スクライブ溝の箇所の透磁率が低く、B8に対して一定のマイナスの影響を与える。本発明者らは、スクライブ溝の寸法とケイ素鋼シート鉄損と磁束密度との関係について詳細に研究した結果、ケイ素鋼板の鉄損を低下させ、同時にB8が著しく低下しないことを確保するために、スクライブ溝の寸法および間隔は所定の条件を満たす必要があることを見出した。スクライブ溝の幅が20μm未満である場合、スクライビングの実現難度が大きく、それに、スクライブ溝の両側の自由磁極間の結合エネルギーが増大し、漏れ磁束によるシステムエネルギー変化を補償し、磁区を効果的に細分化することができない。スクライブ溝の圧延方向寸法が300μmを超える場合、スクライブ溝の間隔が大きすぎて、磁束密度が著しく低下する。基体上にスクライビングにより形成されたスクライブ溝の深さが5μm未満である場合、磁区細分化の効果が小さく、ケイ素鋼シートの損失が低減されない。スクライブ溝の深さが50μmより大きい場合、大量の自由磁極により露出された磁束が多すぎ、鉄損の低下は多くないが、磁束密度の低下が顕著である。
【0040】
また、スクライビングの間隔及びスクライビング線と鋼板の横方向の夾角も鉄損特性および磁束密度特性に顕著に影響を及ぼす。隣接するスクライブ溝が小さすぎ、1mm未満であると、スクライブ溝が密集しすぎ、磁束密度の低下が明らかである。隣接するスクライブ溝間隔が大きすぎ、10mmを超えると、有効な範囲で磁区細分化を形成することができず、鉄損が改善されない。スクライブ溝線と鋼板の圧延方向の夾角が30°より大きいと、磁区細分化の効果が弱まり、鉄損の改善率が低い。従って、ケイ素鋼シートの磁区細分化により鉄損を低減させて磁束密度を著しく低下させない溝のスクライブに好適な条件としては、スクライブ溝の幅が5−300μmの範囲にあり、スクライブ溝の深さが5−60μmの範囲にあり、隣接するスクライブ溝の間隔が1−10mmの範囲にある。
【0041】
本発明において、保護膜により耐熱レーザースクライビングを実現する方法は、一回の走査で成型し、形成されたスクライブ溝の鋼板の横断面方向において呈す略三角形、台形、半円形、楕円形のうちの一種又はその変形、およびスクライビング線が鋼板圧延方向に沿って平行に配置することはいずれも本発明の保護範囲に属し、形成されたスクライブ溝の寸法は本発明の前記保護範囲に等しい。