特許第6884880号(P6884880)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6884880
(24)【登録日】2021年5月14日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】冶金シリコンの分類方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/02 20060101AFI20210531BHJP
   C01B 33/107 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
   C01B33/02 Z
   C01B33/107 Z
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-555111(P2019-555111)
(86)(22)【出願日】2018年2月8日
(65)【公表番号】特表2020-521701(P2020-521701A)
(43)【公表日】2020年7月27日
(86)【国際出願番号】EP2018053210
(87)【国際公開番号】WO2019154502
(87)【国際公開日】20190815
【審査請求日】2019年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リンベック,カール−ハインツ
(72)【発明者】
【氏名】ペーツォルト,ウーベ
(72)【発明者】
【氏名】トラウンスプルガー,ゲルハルト
【審査官】 佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−137870(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0319391(US,A1)
【文献】 特開2011−184255(JP,A)
【文献】 特開2014−237629(JP,A)
【文献】 特表2003−518014(JP,A)
【文献】 特開2011−121852(JP,A)
【文献】 特開2013−256431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 − 33/193
C07F 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素及び/又は炭素含有化合物の不純物を含有する冶金シリコンを分類する方法であって、
a)700℃までの温度で酸素と反応する遊離炭素の割合を決定するステップ、
b)クロロシランを生成する方法に、前記遊離炭素の割合が≦150ppmwである冶金シリコンを割り当てるステップ、及び/又は
メチルクロロシランを生成する方法に、前記遊離炭素の割合が>150ppmwである冶金シリコンを割り当てるステップ
を含む、方法。
【請求項2】
遊離炭素の割合が≦80ppmwである冶金シリコンが、クロロシランを生成する方法に割り当てられ、及び/又は遊離炭素の割合が>80ppmwである冶金シリコンが、メチルクロロシランを生成する方法に割り当てられることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
代替的に又は追加的に、遊離炭素の割合の決定が、360℃〜400℃、480℃〜550℃及び610℃〜670℃の温度範囲の少なくとも1つについて温度分別方式で行われ、360℃〜400℃の温度範囲で決定される遊離炭素の割合が、イソペンタンの量と相関し、480℃〜550℃の温度範囲で決定される遊離炭素の割合が、メチルトリクロロシランの量と相関し、610℃〜650℃の温度範囲で決定される遊離炭素の割合が、メチルジクロロシランの量と相関し、冶金シリコンが、相関関係に従ってその品質に関して評価されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
冶金シリコンが、相関関係に従ってクロロシランを生成するための異なる方法に割り当てられることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
冶金シリコンが、1〜1000μmの粒径を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
a)700℃までの温度で酸素と反応する冶金シリコンの遊離炭素の割合を決定するステップ、
b)前記遊離炭素の割合が≦150ppmwである冶金シリコンを提供するステップ、
c)ステップb)からの冶金シリコンを含有する粒子状接触塊と、塩化水素含有反応ガスとを反応させるステップ、
を含む、クロロシランを生成する方法。
【請求項7】
冶金シリコンが、最大2500ppmwの総炭素含有量を有することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
冶金シリコンが、400〜2500ppmwの総炭素含有量を有することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
クロロシランを生成する方法が、塩化水素化及び/又は低温変換であることを特徴とする、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
クロロシランが、一般式HSiCl4−n並びに/又はHCl6−mSi(式中、n=1〜4及びm=0〜4)で表されることを特徴とする、請求項6〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
クロロシランが、トリクロロシラン、ジクロロシラン、モノクロロシラン、SiCl、HSiCl及びそれらの混合物を含む群から選択されることを特徴とする、請求項6〜10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素及び/又は炭素含有化合物の不純物を含有する冶金シリコンを分類する方法、及びクロロシランを生成するための総炭素含有量が最大2500ppmwの冶金シリコンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
冶金シリコン(Simg、「冶金グレード」シリコン)又は粗製シリコンは、約2000℃の温度のアーク炉で炭素を用いて二酸化ケイ素を還元することにより、工業規模で生成される。Simgの純度は、典型的には約98〜99%である。
【0003】
Simgは、ミュラー・ロショー法によってメチルクロロシランを生成するための出発原料である。メチルクロロシランは、特にシリコンの生成に使用される。
【0004】
また、太陽光発電の出発原料としても使用される。このため、Simgを精製し、ソーラーシリコン(Sisg「ソーラーグレード」シリコン)に変換する必要があり、これは一般に0.01%未満の不純物を含む。これを達成するために、例えば流動床反応器内で300℃〜700℃で気体の塩化水素と反応させて、クロロシラン、特にトリクロロシラン(TCS、HSiCl)を得る。これに続いて、クロロシランをさらに精製する蒸留ステップが続く。このようにして得られたクロロシランは、その後多結晶シリコン(poly−Si)を生成するための出発原料として機能する。
【0005】
Poly−Siはシーメンス法によってロッドの形態で生成され得、元素状シリコンは、反応器内の加熱されたフィラメントロッド上に気相から堆積させる。
【0006】
用いられるプロセスガスは、通常、TCSと水素との混合物である。代替として、Poly−Siは、顆粒の形態で生成されてもよい。ここで、シリコン粒子は流動床反応器内のガス流によって流動化及び加熱される。シリコン含有反応ガス、例えばTCSを添加すると、元素状シリコンが高温の粒子表面に堆積することにより、粒子の直径が大きくなる。
【0007】
次に、Poly−Siは、多結晶Sisgの生成、例えばインゴット鋳造方法による出発原料である。次いで、太陽電池をSisgから製造することができる。
【0008】
上記のSimgのクロロシラン、例えばTCSへの変換は、次の反応式に基づいた2つの方法によって実行され得る(WO2010/028878A1及びWO2016/198264A1を参照):
(1)Si+3HCl−>SiHCl+H+副産物
(2)Si+3SiCl+2H−>4SiHCl+副産物
形成され得る副産物としては、さらなるハロシラン、例えばモノクロロシラン(HSiCl)、ジクロロシラン(HSiCl)、四塩化ケイ素(STC、SiCl)並びにジ及びオリゴシランが挙げられる。
【0009】
炭化水素、有機クロロシラン及び金属塩化物などの不純物も副産物の構成要素であり得る。したがって、高純度のTCSを形成するには、蒸留が続く。
【0010】
反応(1)による塩化水素化では、クロロシランは、Simgから300℃〜700℃の流動床反応器に塩化水素(HCl)を添加することで生成され得、反応は発熱的に進行する。これにより、一般にTCS及びSTCが主要生成物として得られる。
【0011】
反応(2)による低温変換(LTC)は、触媒(例えばCu)の存在下で実行される。LTCは、400℃〜700℃の温度でSimgの存在下の流動床反応器内で行われ得る。
【0012】
poly−Siの生成における炭素又は炭素含有不純物は、poly−Si自体及びその子孫生成物の品質の低下(電気特性への悪影響)をもたらすことが既知である。例えば、炭素含有不純物は、poly−Siから生成されたシリコン単結晶の結晶格子に欠陥を生じることがあり、酸素析出物の形成を促進することがある。
【0013】
したがって、poly−Si生成工程全体にわたって炭素含有量を可能な限り低く保つことが重要である。
【0014】
炭素含有不純物は、例えばシーメンス又は流動床反応器の炭素含有成分から工程に導入されてもよい。不純物として炭素又は炭素含有化合物を含有する可能性のある生成工程で使用される反応物は、さらなる炭素源を表す。
【0015】
炭素含有不純物の主な原因は、クロロシランの生成に使用される反応物Simg、水素及び塩化水素(HCl)である。例えば、反応ガスはメタン、エタン、一酸化炭素及び二酸化炭素(CO)を含有し得る。これらの化合物は、特に回収された水素及び/又はHClに由来し得る。
【0016】
一般的に粒子状形態であり、純度が98%〜99%のSimgは、炭素に加えて次の元素を含有し得る:Fe、Ca、Al、Ti、Cu、Mn、Cr、V、Ni、Co、W、Mo、As、Sb、Bi、S、Se、Te、Zr、Ge、Sn、Pb、Zn、Cd、Sr、Ba、Y、Mg、B、P、O及びCl。これらの元素の多く、例えば、Cu、Al、Feは、塩化水素化及びLTCで触媒活性を示すため、恐らくそれらの存在は望まれる。
【0017】
Simgは、典型的には、1〜2500ppmwの量の炭素を含む。一般に、炭素含有量は、300ppmwを超える。この炭素は、炭化ケイ素(SiC)(無機炭素)として結合形態で存在し得る。前記炭素はまた、有機化合物(例えば、作動油)の形態で、及びその同素体の形態で元素的にSimgの表面に存在してもよい。炭素は、特にSimgの生成工程中(例えば、電極及び還元剤を介して)、粉砕工程(研削/破砕プラントによる)及び分類工程(ふるい分け/ふるいプラントにより導入される。
【0018】
Simg中に存在する炭素の大部分は、一般にSiCの形態であり、塩化水素化及びLTCで不活性な挙動を示すように見える(Hesse K.,Paetzold U.:Survey over the TCS process,Silicon for the Chemical Industry VIII 2006,157−166)。上記の方法では、炭素のごく一部が反応してメチルクロロシランを得る。有機不純物は、塩化水素化及びLTCの条件下で反応して、短鎖炭化水素及びクロロ炭化水素を得られ得る。これらの副産物のいくつかは、保持されるクロロシラン、特にTCSと類似の沸点を有するため、蒸留によって分離するのは困難である可能性がある(Kohno H.,Kuroko T.,Itoh H.,Quality requirements for silicon metal in polysilicon production,Silicon for the Chemical Industry II,1994,165−170)。
【0019】
特に、メチルジクロロシラン(MDCS)及びC5留分の炭化水素(イソペンタン、ペント−1−エン、ペント−2−エン)は、蒸留によって多大なコストでのみ分離することができる。分離工程は、典型的には、複数の蒸留塔で構成されるシステムで行われる。これは、高い資本コスト及び高いエネルギー消費の両方をもたらす。副産物が濃縮された結果のクロロシラン流の廃棄は、さらなる問題を表す。
【0020】
固相への吸着に基づいてMDCSを除去する方法は、JP2004149351A2から既知である。さらに、EP 2 957 543 A1は、蒸留により分離が困難なMDCSの、分離がより容易なメチルトリクロロシラン(MTCS)への変換に基づく方法を開示している。しかしながら、これらのアプローチには、さらに追加の高価な工程段階が含まれているため、エネルギー消費及び資本コストの実質的な削減のみをもたらす。
【0021】
Rong et al.は、Simg上又はSimg内の異なる炭素種を区別することを目的とする方法を説明している(Rong et al.,Analytical method to measure different forms of carbon in silicon,Silicon for the Chemical and Solar Industry XI,2012,145−156)。炭素種を決定するために、SimgのO反応性総炭素含有量をLECO C−200自動燃焼装置で分析する。また、LECO RC−612自動燃焼装置で決定されるのは、定義上、950℃及び600℃の温度でOと反応する炭素の割合である遊離炭素の含有量である。Simgから進行するTCS合成(塩化水素化)は、炭素含有副産物の形成をもたらす可能性があると考えられている。しかしながら、Simgを汚染する炭素種の大部分は、塩化水素化の反応条件下では不活性であり、したがって副産物の形成につながる。分析的に捕捉された不純物と副産物の形成との関係は確立されていない。また、選択された温度範囲が問題であり、その結果、遊離炭素が過大評価される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】国際公開第2010/028878号
【特許文献2】国際公開第2016/198264号
【特許文献3】特開2004−149351公報
【特許文献4】欧州特許出願公開第2 957 543号明細書
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Hesse K.,Paetzold U.:Survey over the TCS process,Silicon for the Chemical Industry VIII 2006,157−166
【非特許文献2】Kohno H.,Kuroko T.,Itoh H.,Quality requirements for silicon metal in polysilicon production,Silicon for the Chemical Industry II,1994,165−170
【非特許文献3】Rong et al.,Analytical method to measure different forms of carbon in silicon,Silicon for the Chemical and Solar Industry XI,2012,145−156
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、その目的のために、クロロシラン生成における望ましくない副産物の割合を低減することにより、クロロシランを精製するためのコスト及びエネルギー要件を低減することを有する。
【課題を解決するための手段】
【0025】
この問題は、次のステップを含む炭素及び/又は炭素含有化合物の不純物を含有するSimgを分類する方法によって解決される:
a)700℃までの温度でOと反応する遊離炭素の割合を決定するステップ、並びに
b)クロロシランを生成する方法に、遊離炭素の割合が150ppmw以下であるSimgを割り当てるステップ、及び/若しくは提供するステップ、並びに/又はメチルクロロシランを生成する方法に遊離炭素の割合が150ppmwを超えるSimgを割り当てるステップ及び/若しくは提供するステップ。
【0026】
遊離炭素の割合が≦80ppmw、好ましくは≦30ppmw、特に好ましくは≦10ppmwであるSimgが、クロロシランを生成する方法に割り当てられ、及び/又は遊離炭素の割合が>80ppmw、好ましくは>30ppmw、特に好ましくは>10ppmwであるSimgがメチルクロロシランを生成する方法に割り当てられる場合が好ましい。
【0027】
本発明の文脈において、「遊離炭素」は、好ましくはLECO RC−612自動燃焼装置を使用して、700℃までの温度でOと反応する、分類されるSimgの炭素の割合を意味すると理解されるべきである(DIN 19539も参照)。遊離炭素は、典型的には、有機炭素である(例えば、油、脂肪)。
【0028】
対照的に、「表面炭素」は、Simgの表面上に存在する総炭素を意味すると理解されるべきである。これは、遊離炭素だけでなく、主に無機炭素、例えばSiCである700℃以上でOと反応する炭素も含む。
【0029】
また、「総炭素」という用語には、遊離炭素及び表面炭素だけでなく、Simgの内部に存在する炭素(バルク炭素)も含まれる。
【0030】
特に100℃〜700℃の温度範囲でOと反応する遊離炭素の割合が、クロロシラン生成の反応条件下(特にLTC及び塩化水素化による)で不活性な挙動を示さず、むしろ副産物の形成をもたらすことが見出された。これらは、困難な場合にのみ、目的のクロロシラン、特にTCSから分離することができる。対照的に、700℃以上でOと反応する無機炭素は、クロロシラン生成のための方法で不活性な挙動を示す。さらに、遊離炭素の割合が、クロロシランを生成する方法で形成される炭素含有副産物の量に比例するため遊離炭素含有量を使用して、Simgの定性的な等級付けが行われ得ることが見出された。例えば、遊離炭素の割合が10ppmw以下であるSimgは、クロロシラン生成において少量の副産物のみが予想されるため、品質グレード1を取得する(表4を参照)。
【0031】
代替的に又は追加的に、ステップa)による700℃での遊離炭素の割合の静的決定が360℃〜400℃、480℃〜550℃及び610℃〜670℃の温度範囲の少なくとも1つについて温度分別方式でも行われ得る。それぞれの温度範囲で決定された遊離炭素の割合は、クロロシランを生成する方法で形成されるそれぞれの温度範囲を特徴とする少なくとも1つの副産物の量と相関している。次いで、Simgは、この相関関係に従ってその品質に関して評価され得る。温度範囲の遊離炭素の同意を示すために、100℃〜700℃の温度勾配を通過し(温度ランプ、動的決定)、温度に対して決定された遊離炭素の量をプロットすることが好ましい(サーモグラム)。
【0032】
3つの温度範囲のそれぞれで決定された遊離炭素量から、それぞれの場合にクロロシラン生成中に形成された少なくとも1つの副産物の量を推定することが可能であることが認識された。各温度範囲には、対応する温度範囲で決定された遊離炭素の割合が高くなるほど濃度が増加する少なくとも1つの副産物を割り当てられ得る。相関は、特に比較/参照データに基づいて実行され得る。
【0033】
360℃〜400℃の温度範囲で決定された遊離炭素の割合がイソペンタンの量と相関する場合、480℃〜550℃の温度範囲で決定された割合は、MTCSの量と相関し、610℃〜650℃の温度範囲で決定された割合は、MDCSの量と相関することが好ましい。
【0034】
これらの3つの副産物は、クロロシランの生成で発生する典型的な化合物であり、そのそれぞれが所望の生成物、特にTCSと類似の沸点を有し、したがって、多大なコストでのみ分離することができる。
【0035】
次いで、Simgは、任意に相関に従ってクロロシランを生成するための異なる方法に割り当てられてもよい。この割り当ては、特に、例えばLTC及び塩化水素化が実行される好ましい反応温度に基づいてもよい。例えば、MDCSの高い割合(610℃〜650℃の温度範囲で高い遊離炭素の割合に相当する)が、分類されたSimgで予想される場合、一般に低温で進行する塩化水素化にSimgを供給することが好ましくなり得る。
【0036】
したがって、処理されるSimgを仮にクロロシラン生成に供給するかどうかの選択に加えて、クロロシラン生成の異なる方法を区別することも可能である。予想される副産物の量を推定することも可能であり、それによりクロロシランの精製を最適化することが可能になる。
【0037】
クロロシランを生成する方法が塩化水素化又はLTCである場合が好ましい。
【0038】
塩化水素化は、好ましくは280℃〜400℃、特に好ましくは320℃〜380℃、特に340℃〜360℃の温度範囲で進行する。LTCは、好ましくは350℃〜850℃、特に好ましくは400℃〜750℃、特に500℃〜700℃の温度範囲で進行する。
【0039】
生成されたクロロシランは、特に一般式HSiCl4−n及び/又はHCl6−mSi(式中、n=1〜4及びm=0〜4)のクロロシランである。クロロシランが、TCS、ジクロロシラン、モノクロロシラン、SiCl、HSiCl及びそれらの混合物を含む群から選択される場合が好ましい。TCSが関係する場合が特に好ましい。
【0040】
メチルクロロシランを生成する方法は、典型的には250℃〜350℃の温度及び0.1〜0.5MPaの圧力で進行するミュラー・ロショー合成であることが好ましい。生成されたメチルクロロシランが、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルクロロシラン、MDCS、MTCS及びそれらの混合物を含む群から選択される場合が好ましい。ジメチルジクロロシランが特に関係する。
【0041】
本発明による方法のためのSimgが1〜1000μm、好ましくは50〜500μm、特に好ましくは100〜200μmの粒径を有する場合が好ましい。
【0042】
Simgサンプルの遊離炭素の割合の決定:
遊離炭素の割合の決定からの結果により、クロロシラン、特にTCSの合成に特に有利なSimg出発原料を特定することにより、選択することが可能になる。本発明による方法の特定の利点は、炭素含有副産物の形成を回避し、それに付随して、クロロシラン生成の下流に配列された蒸留方法への負荷が減少することである。特に有利には、本方法は、副産物の形成が増加するいかなる危険も伴わずに、クロロシラン生成のために、無機炭素(>700℃の温度でOと反応する)で重度に汚染されたSimgでさえ選択することを可能にする。したがって、例えば、本発明による方法が、遊離炭素含有量がわずか150ppmw以下であると決定した場合、総炭素含有量が過度に高いため、これまでクロロシラン生成から除外されていたSimgバッチは、それでもクロロシラン生成に使用され得る(表4を参照)。加えて、動作監視における総炭素含有量の決定が省かれ得、すなわち、LECO C−200などの第2の分析機器が廃止され得る。また、抽出に続いてこれまで慣習的に行われてきたNMR及びIR分光法によるSimg表面からの炭素含有化合物の高価な分析を省くことも可能である。
【0043】
遊離炭素含有量を決定するためには、LECO RC−612炭素分析装置を使用することが好ましい。LECO RC−612では、総炭素を決定することはシステム上不可能であり、代わりに表面炭素のみを決定することができる。LECO RC−612では、原則として純粋なSimgサンプル(添加剤なし)が加熱され、Simg粒子の表面に配置された炭素のみがO流で燃焼し、形成されたCOがIR測定セルによって定量的に捕捉される。
【0044】
表面炭素の含有量(又は遊離炭素の含有量)の決定中、選択した測定温度で反応する表面炭素汚染は、O流で完全に酸化されてCOになる。Oは、キャリアガス及び燃焼ガスの両方として機能する。このようにして得られた測定ガス中のCO濃度は、分析機器に統合されたIRフロースルーセルによって標準的な方式で決定される。結果は、サンプルの質量に基づいて、表面炭素(又は遊離炭素)の質量分率として計算される。
【0045】
分析機器は、典型的には、O予備精製用のユニットが追加で取り付けられている。このユニットは、O内の任意の微量の炭化水素を600℃の酸化銅で触媒的に酸化し、Simgサンプルと接触する前にCOを得て、好適な吸収媒体(例えばマグネシウム過塩素酸塩及び水酸化ナトリウム)によって、得られたCO及び存在するあらゆる水をOから完全に除去する。この予備精製により、純度が>99.5%である技術的なOの使用が可能になる(O品質2.5)。品質5.0(>99.999%)のより純粋なOを使用した試験では、一般により良い結果は得られない。
【0046】
予備精製後、Oは水平加熱石英管に導かれる。石英管は、大気に開放されたシステムを形成する。空気の侵入は、予備精製されたOの第1の永久パージ流によって防止される。予備精製されたOの第2の流れは、第1の流れとは反対方向に導かれ、石英製のサンプルボートに配列されたSimgサンプル上の測定位置を通過する。測定位置で優先されるのは、Simgサンプルの表面炭素が決定される選択された測定温度である。
【0047】
石英管を出た後、Simgサンプルの酸化生成物が濃縮された測定ガスは、850℃の燃焼後チャンバーに導かれ、その後酸化銅触媒上で750℃でCOに完全に酸化される。測定ガス中のCO含有量は、長さ17.78mm(0.7インチ;高セル)及び152.4mm(6インチ;低セル)の2つのフロースルーセルでの約2349cm−1のIR分光法によって標準的な方式で決定される。測定ガスが煙突を介して分析機器から出る前に、Oの予備精製でも使用される吸収媒体によってCO及び水が取り除かれる。2つのIRセルの較正は、高セルの炭酸カルシウム標準及び低セルの水性マンニトール標準を使用して行われる。セルの較正は、測定条件下で行われる。
【0048】
検出の分析限界は、SPCシステム(統計方法制御)を介したブランク値法に従って、1日の測定からのブランク値測定の測定結果から計算される。偏差があると、規定された限界を遵守するための手段が導入され得るように、ユーザーは警告を受ける。
【0049】
測定エラーを回避するために、測定手順は、純度クラス7(10 000;ISO 14644−1に準拠)の層流ボックスで実行することが好ましい。層流ボックスは、純度クラス8(100 000;ISO 14644−1に準拠)のクリーンルームにさらに配列されてもよい。
【0050】
LECO RC−612炭素分析装置は、一定の測定温度(統計的測定法)及び100℃〜1100℃の範囲の60〜120K*min−1の定義済み温度ランプ(動的測定法)の両方で表面炭素を測定できる。特に統計的測定は、総表面炭素の定量的決定を達成しようとする。特に動的測定では、Simgの表面上の異なる炭素種を定性的に識別しようとする。2つの測定方法の測定条件を表1にまとめる。
【0051】
【表1】
【0052】
例えば、炭化水素又はポリマーなどの炭素化合物の分解挙動は、一般に酸化剤の存在及び濃度(例えばOによる酸化分解)、熱の作用(熱分解)、光の作用(例えばUV光による光劣化)、化学組成(構造、架橋度、飽和度、結晶化度、配合)、並びにフィラー、重合触媒、安定剤、抑制剤及び難燃性添加剤の混合物などの要因に依存する。動的測定法では、炭素化合物の温度依存性の熱酸化分解が、Simg表面上の炭素種を識別するための原理として利用される。異なる炭素種は、特徴的なサーモグラムになる。サーモグラムで炭素種を区別するための基準は、初期温度(熱酸化分解の開始)並びに曲線形状(最大値の勾配、位置及び数)である。物質又は物質クラスによる炭素種の識別は、典型的には、参照サーモグラムとの比較によって行われる。
【0053】
さらなる態様において、本発明は、塩化水素含有反応ガスとSimgを含有する粒子状接触塊との反応により、流動床反応器内でクロロシラン、特にTCSを生成する方法であって、Simgが記述の分類方法を事前に通過する、方法を提供する。
【0054】
本発明は、塩化水素含有反応ガスと、総炭素含有量が最大2500ppmw、好ましくは最大1500ppmw、特に好ましくは最大750ppmwであるSimgを含有する粒子状接触塊との反応により、流動床反応器内でクロロシラン、特にTCSを生成する方法であって、遊離炭素の割合が150ppmw以下である、方法をさらに提供する。本方法のためのSimgが400〜2500ppmwの総炭素含有量を有する場合が好ましい。
【0055】
そのような高い総炭素含有量を有するSimgのバッチは、これまで典型的にクロロシラン生成に供給されていなかった。しかしながら、本発明による選択方法により、そのようなバッチをクロロシラン生成に使用することが可能になる。これにより、Simgの価格は純度が高くなるに伴い上昇するため、特にコストの削減が可能になる。
【0056】
本方法は、好ましくは塩化水素化又はLTCである。
【0057】
記載された方法は、多結晶シリコンを生成するための統合システムに組み込まれることが好ましい。統合システムは、好ましくは次の方法を含む:
−本発明の方法によるSimgの分類及びクロロシラン生成の割り当て、
−塩化水素又はLTCによるクロロシラン、特にTCSの生成、
−半導体品質のTCSクロロシランを得るための生成されたクロロシランの精製、
−好ましくはシーメンス方法又はグラニュレート方法による多結晶シリコンの堆積。
【0058】
本発明は、クロロシラン、特にTCSを生成するための、総炭素含有量が最大2500ppmw、好ましくは最大1500ppmw、特に好ましくは最大750ppmwのSimgの使用であって、遊離炭素の割合が150ppmw以下である、使用をさらに提供する。
【0059】
クロロシラン生成のための、総炭素含有量が400〜2500ppmwのSimgを用いることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】参照サーモグラムを例として示し、各曲線は、Simg既知の有機高分子純物質(種1〜5−有機)又はカーボネート、炭化物及び炭素の同素形態などの典型的な無機炭素種で汚染されたサンプルに対応する(種6−無機)。
図2】100℃〜1000℃の測定範囲での、Simgの10個の異なるバッチからの10個のサンプル(サンプル1〜5、7、9、10〜12)のサーモグラムを示す。
図3】得られたサーモグラムを示す。
図4】最大1000℃〜最大700℃のSimgのサンプル(サンプル13)の動的測定の比較表示を示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0061】
図1は、そのような参照サーモグラムを例として示し、各曲線は、Simg既知の有機高分子純物質(種1〜5−有機)又はカーボネート、炭化物及び炭素の同素形態などの典型的な無機炭素種で汚染されたサンプルに対応する(種6−無機)。有機炭素種の熱酸化分解は、約250℃〜750℃の温度範囲で起こるが、無機炭素化合物の熱酸化分解の初期温度は、約650℃である。IRセルで測定されたCO吸収はCO濃度に正比例し、1の値に正規化された(すなわち、最高の測定値はそれぞれの場合に1に正規化される)。
【0062】
図2は、100℃〜1000℃の測定範囲での、Simgの10個の異なるバッチからの10個のサンプル(サンプル1〜5、7、9、10〜12)のサーモグラムを示す。サーモグラムは、単峰性(例えば、サンプル4)及び多峰性(例えば、サンプル9、10)の両方の曲線形状を示す。単峰性の曲線形状から、特定のサンプルが主にたった1つの炭素含有物質又は非常に類似した酸化特性を有する異なる物質(例えば、同一の物質クラス)で汚染されていることが推測可能である。しかしながら、サンプルは主に多峰性サーモグラムを示しており、そのことから、これらのサンプルが、それらの酸化特性が異なる複数の炭素含有物質で汚染されていると推定され得る。サーモグラムの積分面積は、炭素の含有量に正比例する。したがって、ピークの下の積分面積は、特定の炭素含有物質又は物質クラスの割合に正比例する。
【0063】
有機炭素種の熱酸化分解の温度範囲には、それぞれの場合に測定される遊離炭素の量がクロロシラン生成における少なくとも1つの副産物と相関する3つの特徴的な温度範囲があることが見出された:
温度範囲1:360℃〜400℃
温度範囲2:480℃〜550℃
温度範囲3:610℃〜650℃
サンプルのサーモグラムでは、無機炭素種は、>680℃(温度範囲4:680℃〜1000℃)の温度を超える類似のグループ化を示す。
【0064】
温度範囲1〜3に対応する炭素含有不純物をクロロシランを生成する方法における特定の副産物の形成に割り当てることができるかどうかを決定するために、調査したSimgバッチを反応させて、塩化水素化及びLTCでTCSを生成した。試験反応器を出るガスは、完全に凝縮され、ガスクロマトグラフィーにより定量的及び定性的に分析した。イソペンタン、MDCS及びMTCSなどの炭素化合物(副産物)が異なる濃度で検出された。驚くべきことに、データの分析により、形成された副産物(タイプ及び濃度)と温度範囲1〜3に現れるシグナルとの相関関係が明らかになった。
【0065】
1.TCS生成後の凝縮液中のイソペンタンの含有量は、温度範囲1で測定された炭素含有不純物(シグナルの下の領域)の割合に正比例する。
【0066】
2.TCS生成後の凝縮液中のMTCSの含有量は、温度範囲2で測定された炭素含有不純物(シグナルの下の領域)の割合に正比例する。
【0067】
3.TCS生成後の凝縮液中のMDCSの含有量は、温度範囲3で測定された炭素含有不純物(シグナルの下の領域)の割合に正比例する。
【0068】
4.温度>680℃(温度範囲4)での動的表面炭素測定で得られたシグナルは、TCS生成中の副産物の形成に関してまったく相関を示さない。これらの炭素種は、塩化水素化及びLTCの一般的な反応条件では不活性である。
【0069】
これは、Simgサンプル4、6、8及び12の例として示されている。
【0070】
Simgサンプル4、6、8及び12を上記の測定手順に供して、表面炭素(温度100〜1000℃)及び遊離炭素(温度100〜700℃)を決定した。図3は、得られたサーモグラムを示す。CO吸収は絶対値(IR測定セルからの実際の測定値)として報告される。
【0071】
サンプル4、6、8及び12に関連付けられたSimgバッチは、塩化水素化で変換され、生成物凝縮物中のイソペンタン、MDCS及びMTCSの量を決定した。塩化水素化は、4つのバッチのそれぞれについて流動床反応器内で実施した(US4092446、図12を参照)。流動床が形成されるまで、Simgの床を窒素でパージする。流動床の高さと反応器の直径との商の値は、約5である。流動床の温度を約340℃に調整し、冷却によりほぼ一定に保つ。次いで、流動床の高さが試験期間中一定のままであり、3:1(HCl:Simg)の反応物の一定のモル比が確立されるように、続いて塩化水素及びSimgを添加/計量する。反応器内の圧力は、典型的には1bar(10Pa、正圧)である。48時間の運転時間後、液体サンプル(凝縮液)を回収する。生成ガス流の凝縮可能な割合を−40℃のコールドトラップを介して凝縮し、得られた液体をガスクロマトグラフィーによって分析し、炭素含有副産物の量を決定する。検出は、熱伝導率検出器を介して行う。48時間後に回収された2つのサンプルの分析結果を、それぞれの場合で使用して、平均値を形成する。LTCにおける炭素含有副産物の分析も同様に行う。
【0072】
クロロシランを生成するためのその品質に関する4つのバッチ(サンプル4、6、8、12)の評価は、様々なSimgバッチを用いた多数の試験の結果及び高純度TCSを生成するための対応する生成混合物の蒸留精製に対するそれらの使用により発生するコストの見積もりに基づいて行った。
【0073】
得られた結果を表2及び3にまとめる。
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
68ppmw(サンプル12)の表面炭素含有量(c(表面C))は、実際には炭素含有副産物の形成に関して平均的な特性のみが提示される。しかしながら、図3のサーモグラムによれば、サンプル12の表面炭素は約700℃を超える無機範囲に起因するため、対応するSimgは、それでもTCS生成での炭素含有副産物の形成が非常に少ないというだけの結果になる。これにより、TCS合成(塩化水素化及びLTC)の反応条件下では、無機炭素化合物は破壊的な副産物に変換されず、不活性と見なさ得ることが確認される。
【0077】
サンプル8は、サーモグラム(図3)で、MTCS及びMDCSの形成と相関する温度範囲2及び3の強いシグナルを示す。したがって、表面炭素は主に遊離炭素である。その表面炭素量が62ppmwであるサンプル8は、依然としてTCS合成の許容範囲内である(品質グレード3)。
【0078】
サンプル4は、イソペンタンの形成と相関する温度範囲1で非常に強いシグナルを示し、これは、TCS生成の最後のGC分析で確認される(c(イソペンタン)=57 743ppbw)。全体で423ppmwの表面炭素量が得られる。これは主に遊離炭素であるため、サンプル4を採取したSimgバッチは、全体的な結果が不十分になる(品質グレード5)。したがって、そのようなバッチは、メチルクロロシランの生成に割り当てられる。図3のサンプル4では、副軸(右側)が決定的であることに留意すべきである。サンプル4及び8は、700℃を超える非常に低いシグナルしか示さないため、この範囲の炭素含有量は無視できる。したがって、表4(測定範囲100℃〜700℃)による評価が可能である。
【0079】
サンプル6は、7ppmwという非常に低い表面炭素含有量を示す。100℃〜700℃の範囲では、サンプル6のサーモグラムはサンプル12のサーモグラムと類似である。非常に少量のイソペンタン、MTCS及びMDCSのみが予想され、これはTCS生成終了時のGC分析で確認される。
【0080】
最終的に遊離炭素の含有量(最大700℃のOとの反応)のみが、クロロシランの生成における望ましくない副産物の形成という点でSimgの品質に対して決定的であるため、したがって、その有用性のために、通常の動作では700℃(静的)又は100℃〜700℃の温度範囲(動的)でのみ測定を行うことも可能である。これらの温度で決定された遊離炭素は、品質グレード(表4を参照)への分類を実行するために使用され得、品質グレード5及び6のSimgバッチは、一般にメチルクロロシランを生成する方法に割り当てられる。
【0081】
【表4】
【0082】
異なる副産物のおおよその量比に関する評価が行われる場合は、動的測定が推奨される。最大1000℃〜最大700℃のSimgのサンプル(サンプル13)の動的測定の比較表示を図4に示す。
図1
図2
図3
図4