(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
集合住宅のような建築物では、遮音性が求められる戸境壁にコンクリート製の躯体壁が設けられる。躯体壁は、室内側の壁面近傍に石膏ボード等の内装ボードを設けて内装壁を形成した二重構造とされることがある(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の内装ボードの取付構造では、躯体壁に近接して天井スラブ下面、床スラブ上面にそれぞれ取り付けられた上ランナー、下ランナーと、上ランナーと下ランナーとに架設されたスタッド(軽量鉄骨(LGS))と、スタッドと躯体壁との間に注入された発泡ウレタンフォームとからボード下地(内装壁の下地)が形成され、ボード下地の室内側面に内装ボードが取り付けられる。この取付構造では、スタッドが断面略C字形状を呈する長尺の軽量鉄骨形材とされ、内装ボードの厚さに応じ、303mm程度や455mm程度のピッチで配置されている。発泡ウレタンフォームは鉛直方向について900mm以内のピッチで躯体壁とスタッドとの間に注入されている。
【0003】
なお、LGS下地には、幅が40mm程度で厚さが40〜45mmの断面寸法のものが一般的に多く用いられている。幅が40mm程度で厚さが20〜25mmの断面寸法のLGS下地なども製品として存在するが、このサイズのLGS下地は高い遮音性能が求められない間仕切り壁に用いられることが多い。
【0004】
この取付構造では、発泡ウレタンフォームがスタッドを躯体壁に固定する接着剤の役割を果たし、発泡ウレタン系接着剤に振動絶縁効果がないことから、室外で発生して躯体壁を透過した音波が内装ボードを振動させ、室内に透過する。そこで本出願人は、室内に透過する騒音を減少させるための内装壁の取付構造を提案している(特許文献2)。この内装壁の取付構造は、躯体壁から離間する位置に配置されて天井スラブ及び床スラブに固定されるLGSからなる壁下地と、壁下地の高さ方向の中間位置に固定され、躯体壁に向けて突出する支持部材と、壁下地の表面に固定される内装ボードとを備え、支持部材が躯体壁に当接又は対向する振動絶縁材を遊端に有する。これにより、騒音が躯体壁から支持部材を介して内装壁に伝わることが防止ないし低減される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の内装ボードの取付構造は、支持部材の遊端に設けられた振動絶縁材が躯体壁に当接又は対向するように支持部材を壁下地に固定する必要があるため、取付作業に手間がかかる。また、支持部材を用いるため部品点数が増加する。
【0007】
これに対し、特許文献1に記載の内装ボードの取付構造は、発泡ウレタンフォームの注入によってスタッド(壁下地材)を躯体壁に固定できるため、取付作業は容易である。一方、この取付構造は、特許文献2で指摘されるように躯体壁を透過した音波振動が発泡ウレタンフォーム、壁下地及び内装ボードへと順に伝わり、室内に伝搬しやすい。音波振動の伝搬を抑制するためには、躯体壁への固定点数を少なくするとよい。遮音性能は壁下地の固定点数が少ないほど高くなる。
【0008】
しかしながら、固定点数が少なくなると、壁下地を構成する長尺部材の撓み量が大きくなる。長尺部材の撓み量を抑制するために長尺部材の断面寸法を大きくすることが考えられるが、そのようにすると躯体壁から内装ボードまでの寸法が大きくなり、室内空間が狭くなる。
【0009】
また従来の内装ボードの取付構造では、特定の周波数において内装ボードが共振することによって遮音性能が低下する。この遮音性能の低下が生じる周波数は、躯体壁と内装ボードとの間の空気層の厚さ、壁下地材の断面寸法、固定点数、内装ボードの厚さといった様々な条件に複雑に関係している。そのため、内装壁の遮音性能と撓み性能とを正確に予測することは難しく、遮音性能と撓み性能とを両立できる内装壁の適正仕様はこれまで示されていなかった。
【0010】
本発明は、このような背景に鑑み、内装壁の取付作業を容易にし、且つ内装壁に遮音性能と撓み性能とを両立させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決するために、本発明のある実施形態は、躯体壁(2)に設けられる内装壁(3)の取付構造であって、前記躯体壁から離間する位置に前記躯体壁に沿って一列に配置され、床スラブ(7)と天井スラブ(9)又は梁とに固定される複数の長尺部材(6)を含む壁下地(4)と、前記壁下地に固定される内装ボード(5)と、前記壁下地を前記躯体壁に固定する発泡接着剤(11)とを備え、前記発泡接着剤が、鉛直方向において前記長尺部材の中間部の1か所のみに設けられている。
【0012】
この構成によれば、発泡接着剤を用いて壁下地を躯体壁に固定でき、別部材を壁下地や躯体壁に固定する必要がないため、内装壁の取付作業が容易である。また、発泡接着剤が鉛直方向において長尺部材の中間部の1か所のみに設けられことで、鉛直方向において2か所以上に発泡接着剤が設けられる場合に比べ、内装壁の遮音性能を向上させることができる。更に、長尺部材の中間部に発泡接着剤が設けられることにより、長尺部材を鉛直方向の中間部で躯体壁に固定しない場合に比べ、内装壁の遮音性能の低下を抑制しつつ、内装壁の撓みを抑制することができる。
【0013】
好ましくは、複数の前記長尺部材(6)が20mm以上且つ25mm以下の厚さを有し、水平方向に283mm以上且つ323mm以下のピッチで配置され、前記発泡接着剤(11)が複数の前記長尺部材のすべてに対して設けられているとよい。
【0014】
この構成によれば、長尺部材の厚さが一般的に用いられるものよりも薄いため、室内空間を拡大することができる。一方、各長尺部材の撓み性能は一般的に用いられるもの(厚さが40〜45mmのもの)よりも低下するが、283mm以上且つ323mm以下のピッチで長尺部材が配置され、すべての長尺部材が発泡接着剤により躯体壁に固定されることにより、内装壁に所要の撓み性能を確保することができる。また、発泡接着剤が、すべての長尺部材に対して設けられても、鉛直方向の中間部の1か所のみに設けられることにより、内装壁の遮音性能の低下を抑制することができる。
【0015】
好ましくは、複数の前記長尺部材(6)が40mm以上且つ45mm以下の厚さを有し、水平方向に283mm以上且つ323mm以下のピッチで配置され、前記発泡接着剤(11)が複数の前記長尺部材に対して1つおきに設けられているとよい。
【0016】
この構成によれば、283mm以上且つ323mm以下のピッチで長尺部材が配置されることにより、内装壁に所要の撓み性能を確保することができる。また、発泡接着剤が複数の長尺部材に対して1つおきに設けられることにより、内装壁の遮音性能の低下を抑制することができる。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本発明のある実施形態は、躯体壁(2)に設けられる内装壁(3)の設計方法であって、前記内装壁を、前記躯体壁から離間する位置に前記躯体壁に沿って一列に配置され、床スラブ(7)と天井スラブ(9)又は梁とに固定される複数の長尺部材(6)を含む壁下地(4)と、前記壁下地に固定される内装ボード(5)と、前記壁下地を前記躯体壁に固定する発泡接着剤(11)とを備える構造とし、前記発泡接着剤を、鉛直方向において前記長尺部材の中間部の1か所のみに設けるものとする。
【0018】
好ましくは、複数の前記長尺部材(6)が20mm以上且つ25mm以下の厚さを有する場合、前記長尺部材の水平方向のピッチを283mm以上且つ323mm以下とし、且つ前記発泡接着剤(11)が複数の前記長尺部材のすべてに対して設けるものとする。
【0019】
好ましくは、複数の前記長尺部材(6)が40mm以上且つ45mm以下の厚さを有する場合、前記長尺部材の水平方向のピッチを283mm以上且つ323mm以下とし、且つ前記発泡接着剤(11)が複数の前記長尺部材に対して1つおきに設けるものとする。
【0020】
好ましくは、前記躯体壁(2)が集合住宅の戸境壁と外壁とを含み、前記戸境壁に対して設ける前記内装壁(3)の前記長尺部材(6)の厚さを20mm以上且つ25mm以下とする。
【0021】
集合住宅の典型例である板状住宅では、戸境壁の延長が外壁の延長よりも長くなることが多い。この構成によれば、戸境壁に対して設ける長尺部材の厚さを20mm以上且つ25mm以下とすることにより、室内空間を拡大することができる。
【発明の効果】
【0022】
このように本発明によれば、内装壁の取付作業を容易にし、且つ内装壁に遮音性能と撓み性能とを両立させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0025】
図1は、実施形態に係る二重構造壁1の概略構成を示す斜視図であり、a図は壁下地4が形成された状態を示し、b図は壁下地4に内装ボード5を取り付けた状態を示している。二重構造壁1は、集合住宅として利用される鉄筋コンクリート(RC)造の建築物の外壁及び戸境壁に適用される。二重構造壁1は、建築物の外壁又は戸境壁をなすRC造の躯体壁2の表面に沿って内装壁3を設けて二重構造とされている。二重構造壁1が建築物の外壁をなす部分においては、内装壁3は躯体壁2の内側のみに設けられる。二重構造壁1が建築物の戸境壁をなす部分においては、内装壁3は躯体壁2の両側に設けられる。内装壁3は、躯体壁2から離間した位置に設けられた壁下地4と、壁下地4に取り付けられた内装ボード5とによりふかし壁として形成される。
【0026】
図1(a)に示すように、集合住宅の戸境壁をなす躯体壁2から、わずかに離間した位置に(すなわち、クリアランスをとって)壁下地4が形成される。壁下地4の躯体壁2に対するクリアランスは、10〜15mm程度であってよい。壁下地4は、長尺部材である軽量鉄骨(LGS)からなり、躯体壁2に沿って一列に且つ鉛直に建て込まれた複数のスタッド6(縦方向部材)を含む。スタッド6の下端は、躯体壁2の横方向(長さ方向)に沿って延在するように床スラブ7の上面に固定される下ランナー8を介して床スラブ7に固定される。スタッド6の上端は、躯体壁2の横方向に沿って延在するように天井スラブ9の下面に固定される上ランナー10を介して天井スラブ9に固定される。スタッド6、下ランナー8及び上ランナー10により壁下地4が構成される。上ランナー10は、天井スラブ9の下面に梁が突出している場合には梁の下面に固定されてもよい。
【0027】
下ランナー8及び上ランナー10は、溝形の断面形状を呈する長尺材であって、互いの溝開口が対向するように配置される。下ランナー8は下面を床スラブ7の上面に当接させた状態で、図示しないピンを床スラブ7に打ち込むことによって床スラブ7に固定される。上ランナー10は上面を天井スラブ9の下面に当接させた状態で、図示しないピンを天井スラブ9に打ち込むことによって天井スラブ9に固定される。スタッド6は、四角形の中空断面形状を呈し、下端及び上端を下ランナー8及び上ランナー10の溝部に挿入され、下ランナー8及び上ランナー10にビス止めされる。
【0028】
スタッド6は、40mm程度の幅(躯体壁2の横方向の寸法)を有する汎用品であってよい。内装壁3が設けられる位置に応じ、スタッド6には適宜な厚さ(躯体壁2の厚さ方向の寸法)を有するものが用いられてよい。スタッド6の厚さは、例えば、20mm、25mm、40mm、45mmであってよい。下ランナー8及び上ランナー10には、スタッド6の厚さに応じた溝幅(溝底にてスタッド6の厚さよりも若干大きく、開口部にてスタッド6の厚さよりも若干小さい幅)を有し、スタッド6を弾発的に挟持し得るものが用いられる。
【0029】
スタッド6の上下方向の中間部は、発泡接着剤11によって躯体壁2に固定される。発泡接着剤11は、発泡性及び接着性を有するものであればよく、例えば発泡ポリスチレン系接着剤や発泡ウレタン系接着剤であってよい。また発泡接着剤11は、発泡硬化するものであればよく、1成分からなる湿気硬化型であっても、2成分以上の混合硬化型であってもよい。発泡接着剤11は、躯体壁2とスタッド6との隙間に注入され、発泡硬化することでスタッド6を躯体壁2に固定する。
【0030】
図1(b)に示すように、内装ボード5が壁下地4の躯体壁2と相反する側の面に固定されることにより、居室の内装壁3が形成される。内装ボード5はスタッド6に対してビス止めされる。内装ボード5はスタッド6だけでなく下ランナー8や上ランナー10にねじ止めされてもよい。内装ボード5は汎用品の石膏ボードであり、一般に、910mm×1820mmの長方形とされている。内装ボード5は縦長の向き(幅が910mmで高さが1820mmとなる向き)で壁下地4に取り付けられる。内装ボード5の厚みは、これらに限定されるものではないが、9.5mm、12.5mm、15mmなどであってよい。
【0031】
居室の内装壁3は、
図1(a)に示すようにスタッド6の鉛直方向の中間部が発泡接着剤11により躯体壁2に固定されることにより、躯体壁2側に撓むことが規制される。
【0032】
図2は二重構造壁1の第1実施例の縦断面図であり、
図3は
図2のIII−III線に沿って示す二重構造壁1の横断面図である。第1実施例は、建築物の戸境壁に適しているが、外壁に適用されてもよい。図示例では、躯体壁2の両側に内装壁3が設けられる戸境壁に第1実施例の二重構造壁1が適用されている。外壁に適用される場合には、躯体壁2の一側のみに内装壁3が設けられる。第1実施例では、壁下地4のスタッド6の断面寸法は、幅40mm、厚さ20mm又は25mmとされている。
【0033】
図2に示すように、下ランナー8及び上ランナー10は、躯体壁2の表面からわずかに離間した位置にて床スラブ7及び天井スラブ9に固定されている。スタッド6は全長にわたって躯体壁2から離間している。
図3に示すように、スタッド6の水平方向のピッチ(中心間距離)は303mmとされている。スタッド6の位置が水平方向に10mm程度ずれ、一部のピッチが283mm〜323mmになっていてもよい。内装ボード5は、上記のように910mmの幅を有しており、両側縁がスタッド6の中心に位置するように配置され、4本のスタッド6に対して複数のビス12によって固定されている。発泡接着剤11は、スタッド6のすべてに対して設けられている。
【0034】
図4は二重構造壁1の第2実施例の縦断面図であり、
図5は
図4のV−V線に沿って示す二重構造壁1の横断面図である。第2実施例は、建築物の外壁に適しているが、戸境壁に適用されてもよい。図示例では、躯体壁2の両側に内装壁3が設けられる戸境壁に第2実施例の二重構造壁1が適用されている。外壁に適用される場合には、躯体壁2の一側のみに内装壁3が設けられる。第2実施例では、壁下地4のスタッド6の断面寸法は、幅40mm、厚さ40mm又は45mmとされている。
【0035】
図4に示すように、下ランナー8及び上ランナー10は、躯体壁2の表面からわずかに離間した位置にて床スラブ7及び天井スラブ9に固定され、スタッド6は全長にわたって躯体壁2から離間している。
図5に示すように、スタッド6の水平方向のピッチは303mmとされている。スタッド6の位置が水平方向に10mm程度ずれ、一部のピッチが283mm〜323mmになっていてもよい。内装ボード5は、上記のように910mmの幅を有しており、両側縁がスタッド6の中心に位置するように配置され、4本のスタッド6に対して複数のビス12によって固定されている。一方、発泡接着剤11は、スタッド6に対して1つおきに設けられている。すなわち、スタッド6の躯体壁2に対する水平方向の固定ピッチは606mmとされている。
【0036】
二重構造壁1がこのような構成とされることにより、発泡接着剤11を用いて壁下地4を(具体的には、スタッド6の鉛直方向の中間部を)躯体壁2に固定することができ、別部材を壁下地4や躯体壁2に固定する必要がないため、内装壁3の取付作業が容易である。
【0037】
また、二重構造壁1の第1実施例及び第2実施例は、このように構成されることにより、高い遮音構造と内装壁3の高い撓み性能(撓みにくい性能)とを両立する。以下、二重構造壁1の性能について説明する。
【0038】
LGSをスタッド6に用いた内装壁3は、壁ふところ内の空気層と内装ボード5との共振により、ある特定の周波数で遮音性能が低下する特性を有している。そのため、空気層寸法、スタッド6の断面寸法及び躯体壁2に対する固定点数、内装ボード5の厚さといった条件の組み合わせによっては、二重構造壁1の遮音性能が著しく低下することがあるという欠点があった。一般に遮音性能は内装壁3の躯体壁2に対する固定点数が少ないほど有利だが、固定点数を減らし過ぎると逆に内装壁3の撓み量が増加する。更にその他の条件とも複雑に関係し合っているため、両性能の予測は困難であり、これまで、遮音性能と撓み性能を両立できる内装壁3の適正仕様は示されていなかった。
【0039】
一般に、スタッド6に用いるLGSには、断面寸法が幅40mm、厚さ40〜45mmの部材が多く用いられる。その場合、スタッド6の躯体壁2に対するクリアランスと内装ボード5の厚さを含む内装壁3の仕上げの総厚は70〜100mm程度を必要とし、その分、居住スペースが狭くなるという欠点があった。厚さが25mm程度の薄型のLGSも市販されており、これを用いれば、居住スペースの確保に有効であるが、これまで、上記の遮音性能の低下及び撓み量の増加の懸念から、これが用いられることは殆どなかった。
【0040】
そこで、本発明者は、内装壁3の仕様条件(スタッド6の断面寸法及び固定点数、クリアランス寸法、内装ボード5の厚さ)と遮音性能及び撓み性能との関係を実験により明らかにし、スタッド6の断面寸法ごとに両性能を低下させない最適仕様を見出した。
【0041】
まず発明者は、戸境壁に適用した二重構造壁1の実物大試験体を作成し、戸境壁によって区画された2つの部屋の空間音圧レベル差を計測する実験を行った(以下、第1の実験とする)。室間音圧レベル差は、その値が大きいほど二重構造壁1の遮音性能が高いことを示す。第1の実験では、厚さ45mmのスタッド6を水平方向の303mmピッチで配置した2つの試験体(第1及び第2の試験体)を用意した。第1の試験体では、スタッド6のすべてに対して発泡接着剤11を設け、躯体壁2に対する内装壁3の水平方向の固定ピッチを303mmとした。第2の試験体では、スタッド6に対して1つおきに発泡接着剤11を設け、躯体壁2に対する内装壁3の水平方向の固定ピッチを606mmとした(
図5に示す構成と同じ)。スタッド6の鉛直方向の固定点数は、両試験体とも1点(
図4に示す構成と同じ)とした。
【0042】
また、両試験体について撓み性能を確認した。撓み性能の確認は、所定の横方向荷重を試験体の内装壁3に加え、内装壁3の撓みを目視で判定した。第1及び第2の試験体はともに、所望の撓み性能を確認することができた。
【0043】
遮音性能の試験では、各試験体について、オクターブバンド中心周波数がそれぞれ125Hz、250Hz、500Hzの3つのオクターブバンドの空間音圧レベル差を計測した。
図6は、第1の実験の結果を示すグラフであり、45mm厚さのスタッド6を用いた内装壁3の水平方向の固定ピッチに応じた遮音性能を示している。グラフには、実験結果に加え、Dr−45、Dr−50、Dr−55の空気音遮断性能の等級曲線も示している。Dr値は、JIS A1419:2000(ISO 717−1:1996)に定められる遮音性能であり、Dr−50は集合住宅の遮音性能基準として一般的な性能である。
【0044】
図6に示すように、固定ピッチが303mmの第1の試験体に比べ、固定ピッチが606mmの第2の試験体は、すべての周波数おいて高い遮音性能を示した。また、固定ピッチが303mmの第1の試験体は、125HzにおいてDr−50の遮音性能を下回ったが、固定ピッチが606mmの第2の試験体は、すべての周波数おいてDr−50の遮音性能を上回った。
【0045】
これらのことから、厚さ45mmのスタッド6を用いる場合、水平方向の固定ピッチが小さくなると遮音性能が低下することから、固定ピッチを606mmにするとよい。
【0046】
また発明者は、戸境壁に適用した二重構造壁1の小試験体を作成し、戸境壁によって区画された2つの部屋にて内装ボード5の振動加速度をそれぞれ計測し、振動加速度レベル低減量を求める実験を行った(以下、第2の実験とする)。振動加速度レベル低減量は、騒音発生源側の部屋の内装ボード5の振動加速度に対する隣室の内装ボード5の振動加速度の低減量であり、その値が大きいほど遮音性能が高いことを示す。第2の実験では、厚さ25mmのスタッド6を水平方向の303mmピッチで配置した3つの試験体(第3〜第5の試験体)を用意した。第3の試験体では、躯体壁2に対する内装壁3の水平方向の固定ピッチを606mmとし、スタッド6の鉛直方向の固定点数を1とした。第4の試験体では、躯体壁2に対する内装壁3の水平方向の固定ピッチを303mmとし、鉛直方向の固定点数を2とした。第5の試験体では、躯体壁2に対する内装壁3の水平方向の固定ピッチを303mmとし、鉛直方向の固定点数を1とした。
【0047】
また、各試験体について撓み性能を確認した。撓み性能の確認は、第1の実験と同様に、所定の横方向荷重を試験体の内装壁3に加え、内装壁3の撓みを目視で判定した。第3の試験体は、水平方向の固定ピッチが大きいことから撓み量が大きく、所望の撓み性能を確認できなかった。第4及び第5の試験体はともに、所望の撓み性能を確認することができた。
【0048】
遮音性能の試験では、各試験体について、オクターブバンド中心周波数がそれぞれ125Hz、250Hz、500Hzの3つのオクターブバンドの振動加速度レベルを計測した。
図7は、第2の実験の結果を示すグラフであり、25mm厚さのスタッド6を用いた内装壁3の水平方向の固定ピッチ及び鉛直方向の固定点数に応じた遮音性能を示している。
【0049】
図7に示すように、固定ピッチが606mm、鉛直方向の固定点数が1の第3の試験体では、撓み性能は低かったが、すべての周波数において良好な遮音性能が得られた。特に500Hzの高音域において高い遮音性能が得られた。固定ピッチが303mm、鉛直方向の固定点数が2の第4の試験体では、500Hzの高音域では高い遮音性能が得られたが、第3の試験体に比べ、すべての周波数において遮音性能が低かった。固定ピッチが303mm、鉛直方向の固定点数が1の第5の試験体では、500Hzの高音域において第3の試験体に比べて遮音性能が低かったが、すべての周波数において良好な遮音性能が得られた。
【0050】
これらのことから、厚さ25mmのスタッド6を用いる場合、水平方向の固定ピッチを606mmにすると撓み性能を確保できないことがわかる。また、水平方向の固定ピッチを606mmにすると撓み性能は確保できるが、鉛直方向の固定点数を2にした場合には、これを1にした場合に比べて遮音性能が低下することがわかる。したがって、厚さ25mmのスタッド6を用いる場合、水平方向の固定ピッチを303mmとし、鉛直方向の固定点数を1にするとよい。
【0051】
このように、発泡接着剤11を鉛直方向においてスタッド6の中間部の1か所のみに設けることにより、鉛直方向において2か所以上に発泡接着剤11を設ける場合に比べ、内装壁3の遮音性能を向上させることができる。また、スタッド6の中間部に発泡接着剤11を設けることにより、スタッド6を鉛直方向の中間部で躯体壁2に固定しない場合に比べ、内装壁3の遮音性能の低下を抑制しつつ、内装壁3の撓みを抑制することができる。
【0052】
したがって、躯体壁2に設けられる内装壁3を設計する場合には、発泡接着剤11により壁下地4を躯体壁2に固定する構造とし、発泡接着剤11を、鉛直方向においてスタッド6の中間部の1か所のみに設けるものとする。これにより、発泡接着剤11を用いて壁下地4を躯体壁2に固定でき、別部材を壁下地4や躯体壁2に固定する必要がないため、内装壁3の取付作業を容易にできる。また、発泡接着剤11が鉛直方向においてスタッド6の中間部の1か所のみに設けられことで、鉛直方向において2か所以上に発泡接着剤11が設けられる場合に比べ、内装壁3の遮音性能を向上させることができる。更に、スタッド6の中間部に発泡接着剤11が設けられることにより、スタッド6を鉛直方向の中間部で躯体壁2に固定しない場合に比べ、内装壁3の遮音性能の低下を抑制しつつ、内装壁3の撓みを抑制することができる。
【0053】
更に発明者は、第1の実験と同様に、戸境壁に適用した二重構造壁1の実物大試験体を作成し、戸境壁によって区画された2つの部屋の空間音圧レベル差を計測する実験を行った(以下、第3の実験とする)。第3の実験では、スタッド6を水平方向の303mmピッチで配置し、スタッド6の鉛直方向の固定点数を1とした3つの試験体(第6〜第8の試験体)を用意した。第6の試験体では、厚さ45mmのスタッド6を用い、水平方向の固定ピッチを303mmとした。第7の試験体では、厚さ25mmのスタッド6を用い、水平方向の固定ピッチを606mmとした。第8の試験体では、厚さ25mmのスタッド6を用い、水平方向の固定ピッチを303mmとした。第6の試験体は上記第2の試験体と同一構成且つ同一サイズ(すなわち、同一)であり、第7の試験体は上記第3の試験体と同一構成のサイズ違い(すなわち、相似)であり、第8の試験体は上記第5の試験体と同一構成のサイズ違い(相似)である。
【0054】
各試験体について確認した撓み性能は、第1及び第2の実験の結果と同様であった。すなわち、第6及び第8の試験体は、第2及び第5の試験体と同じく、所望の撓み性能を確認することができた。また、第7の試験体は、第3の試験体と同じく、所望の撓み性能を確認できなかった。
【0055】
遮音性能の試験は第1の実験と同じ要領で行った。
図8は、第3の実験の結果を示すグラフであり、スタッド6の厚さ及び内装壁3の水平方向の固定ピッチに応じた遮音性能を示している。
図8に示すように、第6〜第8の試験体はすべての周波数のおいて良好な遮音性能を示した。第6の試験体は、125Hzの低音域においてDr−50の遮音性能曲線を若干下回っているが、JIS A 1419−1:2000(ISO 717−1:1996)によれば、「測定結果が等級曲線の値より最大2dBまで下回ることを許容する」とされており、第6の試験体もDr−50の遮音性能を満たすと評価できる。なお、第1の実験では、第6の試験体と同一の第2の試験体は125Hzの低音域においてもDr−50を上回る遮音性能を示しており、このことからも、第6の試験体の遮音性能が良好であることがわかる。
【0056】
以下に、上記実験の結果をまとめた表を示す。
【表1】
【0057】
このように、スタッド6が20mm以上且つ25mm以下の厚さを有し、水平方向に303mmのピッチで配置され、発泡接着剤11が複数のスタッド6のすべてに対して設けられるとよい。スタッド6は一般的に用いられるものよりも薄いため、室内空間を拡大することができる。一方、各スタッド6の撓み性能は一般的に用いられるもの(厚さが40〜45mmのもの)よりも低下するが、303mmのピッチで配置されたスタッド6のすべてが発泡接着剤11により躯体壁2に固定されることにより、内装壁3に所要の撓み性能を確保できる。また、発泡接着剤11が、すべてのスタッド6に対して設けられても、鉛直方向の中間部の1か所のみに設けられることにより、内装壁3の遮音性能の低下を抑制できる。
【0058】
一方、スタッド6が40mm以上且つ45mm以下の厚さを有し、水平方向に303mmのピッチで配置され、発泡接着剤11が複数のスタッド6に対して1つおきに設けられているとよい。303mmのピッチでスタッド6が配置されることにより、内装壁3に所要の撓み性能を確保できる。また、発泡接着剤11が複数のスタッド6に対して1つおきに設けられることにより、内装壁3の遮音性能の低下を抑制できる。
【0059】
したがって、躯体壁2に設けられる内装壁3を設計する際には、スタッド6が20mm以上且つ25mm以下の厚さを有する場合、スタッド6の水平方向のピッチを303mmとし、且つ発泡接着剤11を複数のスタッド6のすべてに対して設けるものとする。また、スタッド6が40mm以上且つ45mm以下の厚さを有する場合、スタッド6の水平方向のピッチを303mmとし、且つ発泡接着剤11を複数のスタッド6に対して1つおきに設けるものとする。
【0060】
集合住宅の典型例である板状住宅では、戸境壁の延長が外壁の延長よりも長くなることが多い。そのため、躯体壁2が集合住宅の戸境壁と外壁とを含む集合住宅の内装壁3を設計する際には、戸境壁に対して設ける内装壁3のスタッド6の厚さを20mm以上且つ25mm以下とするとよい。これにより、戸境壁に接する室内空間を拡大することができる。
【0061】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態では、一例として本発明を、集合住宅の躯体壁2に適用したが、オフィスビルやホテル、学校、医療施設などの建築物の躯体壁2に本発明を適用してもよい。また上記実施形態では、スタッド6が四角形の中空断面形状とされているが、C形溝形状(リップ付き溝形)やH形の断面形状とされてもよい。また上記実施形態では、スタッド6が発泡接着剤11によって直接、躯体壁2に固定されているが、スタッド6の長手方向の中間部に固定用部材或いはスペーサが設けられ、固定用部材又はスペーサと躯体壁2との間に発泡接着剤11が注入されてもよい。この場合、スタッド6は、発泡接着剤11によって固定用部材又はスペーサを介して躯体壁2に固定されるが、内装壁3の取付作業が容易であり、且つ内装壁3が遮音性能と撓み性能とを両立できる点は変わりない。この他、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、角度など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。一方、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしもすべてが必須ではなく、適宜選択することができる。
【解決手段】躯体壁2に設けられる内装壁3の取付構造は、躯体壁2から離間する位置に躯体壁2に沿って一列に配置され、床スラブ7と天井スラブ9又は梁とに固定される複数の長尺部材(スタッド6)を含む壁下地4と、壁下地4に固定される内装ボード5と、壁下地4を躯体壁2に固定する発泡接着剤11とを備える。発泡接着剤11は、鉛直方向において長尺部材(6)の中間部の1か所のみに設けられる。