(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6884985
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の発進加速時制御システム、ハイブリッド車両及びハイブリッド車両の発進加速時制御方法
(51)【国際特許分類】
B60W 10/08 20060101AFI20210531BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20210531BHJP
B60K 6/54 20071001ALI20210531BHJP
B60K 6/485 20071001ALI20210531BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20210531BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20210531BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20210531BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20210531BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60W10/06 900
B60K6/54ZHV
B60K6/485
F02D29/06 G
F02D29/02 F
B60L50/16
B60L50/60
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-21167(P2016-21167)
(22)【出願日】2016年2月5日
(65)【公開番号】特開2017-137033(P2017-137033A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2019年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100163061
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】早崎 将司
【審査官】
山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−023731(JP,A)
【文献】
特開2010−132254(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/131341(WO,A1)
【文献】
特開2003−052102(JP,A)
【文献】
特開2000−356153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B60W 10/00−20/50
B60K 6/20− 6/547
B60L 1/00− 3/12
7/00−13/00
15/00−58/40
F02D 29/00−29/06
43/00−45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両走行用の動力源であるエンジン及びモータージェネレーターと、制御装置と、を有するハイブリッドシステムを備えたハイブリッド車両の発進加速時制御システムにおいて、
前記制御装置が、
前記ハイブリッド車両の発進加速時に、前記モータージェネレーターから基本トルクを出力させ、車速、エンジン回転数、前記エンジンに接続するトランスミッションのギヤ段、及びアクセル開度に基づいて前記エンジンの燃料噴射量の増減値を推定算出するとともに、
前記モータージェネレーターにインバーターを介して接続されるバッテリーの充電量が予め設定された設定閾値以上である場合には、前記ハイブリッド車両に発生するサージ挙動トルクとは逆位相のトルクで、前記サージ挙動トルクを抑制するためのトルクであるサージ挙動抑制トルクを前記推定算出した燃料噴射量の増減値を基に推定算出して、この推定算出したサージ挙動抑制トルクを前記モータージェネレーターのアシストと発電とを切り替えることにより発生させて、前記基本トルクを前記サージ挙動抑制トルク分増減させる制御を行い、
前記バッテリーの充電量が前記設定閾値未満である場合には、前記推定算出した燃料噴射量の増減値分、前記エンジンの燃料噴射量を増減させることで前記サージ挙動抑制トルクを発生させる制御を行うように構成されるハイブリッド車両の発進加速時制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両の発進加速時制御システムとサスペンションおよびダンパーを備えたハイブリッド車両。
【請求項3】
前記サージ挙動トルクは、前記ハイブリッド車両の挙動に伴う前記サスペンションおよびダンパーの振動で発生するトルクであることを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
車両走行用の動力源であるエンジン及びモータージェネレーターを有するハイブリッドシステムを備えたハイブリッド車両の発進加速時制御方法において、
前記ハイブリッド車両の発進加速時に、前記モータージェネレーターから基本トルクを出力させ、車速、エンジン回転数、前記エンジンに接続するトランスミッションのギヤ段、及びアクセル開度に基づいて前記エンジンの燃料噴射量の増減値を推定算出するとともに、
前記モータージェネレーターにインバーターを介して接続されるバッテリーの充電量が予め設定された設定閾値以上である場合には、前記ハイブリッド車両に発生するサージ挙動トルクとは逆位相のトルクで、前記サージ挙動トルクを抑制するためのトルクであるサージ挙動抑制トルクを前記推定算出した燃料噴射量の増減値を基に推定算出して、この推定算出したサージ挙動抑制トルクを前記モータージェネレーターのアシストと発電とを切り替えることにより発生させて、前記基本トルクを前記サージ挙動抑制トルク分増減させる制御を行い、
前記バッテリーの充電量が前記設定閾値未満である場合には、前記推定算出した燃料噴射量の増減値分、前記エンジンの燃料噴射量を増減させることで前記サージ挙動抑制トルクを発生させる制御を行うことを特徴とするハイブリッド車両の発進加速時制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両走行用の動力源であるエンジン及びモータージェネレーターと、制御装置と、を有するハイブリッドシステムを備えたハイブリッド車両の発進加速時制御システム、ハイブリッド車両及びハイブリッド車両の発進加速時制御方法に関し、更に詳しくは、車両発進加速時に生じるサスペンションやダンパー系による振動を抑制できるハイブリッド車両の発進加速時制御システム、ハイブリッド車両及びハイブリッド車両の発進加速時制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費向上及び環境対策などの観点から、車両の運転状態に応じて複合的に制御されるエンジン及びモータージェネレーターを有するハイブリッドシステムを備えたハイブリッド車両(以下「HEV」という。)が注目されている。このHEVにおいては、車両の加速時や発進時には、モータージェネレーターによる駆動力のアシストが行われる一方で、慣性走行時や始動時にはモータージェネレーターによる回生発電が行われる(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
このHEVにおいても、エンジンのみを車両の走行用の動力源とする車両と同様に、車両の発進加速時に、車両に備わるサスペンションやダンパー(ショックアブソーバー)が車両の挙動に伴って振動する現象であるサージ挙動が発生する。このサージ挙動は、車両の運転者に不快感を与えるものであるので、従来は、エンジンの燃料噴射量を増減させて、サージ挙動トルクを抑制するために必要なトルクであり、サージ挙動トルクとは逆位相となるサージ挙動抑制トルクを発生させることで、サージ挙動を抑制していた。
【0004】
しかしながら、サージ挙動を抑制するためにエンジンの燃料噴射量を増減させると、燃料噴射量の急な変化により、ターボチャージャシステムのブースト圧力やEGRシステムのEGRガスの流量等も変化してしまうため、排気ガス内のNOx量やPM量が増加する等、排気ガス性能が悪化したり、燃費が悪化したりする等の懸念があった。
【0005】
また、車両の発進加速時における制御ではないが、内燃機関と、この内燃機関の回転数を制御するための第1モーター及び車両の慣性エネルギーを回生して発電する第2モーターの2つのモーターを備えたハイブリッド車両で、2つのモーターの少なくともいずれか一方のモーターによって車両のばね上振動を抑制する制振制御の実行中であり、かつ、車両の慣性エネルギーによる第2モーターで発電した電力の一部を第1モーターに供給して第1モーターにより内燃機関を強制的に回転させている回生状態時に、ばね上振動を抑制する制振トルクの制限値を小さくして、制振トルクの変動量を相対的に小さくするハイブリッド車の回生制御装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、上記のハイブリッド車の回生制御装置では、内燃機関と2つのモーターを備えたハイブリッド車の構成を基にした制御であるので、制御内容が複雑化して、制御の応答性が悪化するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−238105号公報
【特許文献2】特開2010−89619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ハイブリッド車両の発進加速時に、排気ガス性能及び燃費の悪化を防止しつつ、ハイブリッド車両に発生するサージ挙動を迅速かつ確実に抑制することができるハイブリッド車両の発進加速時制御システム、ハイブリッド車両及びハイブリッド車両の発進加速時制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成する本発明のハイブリッド車両の発進加速時制御システムは、車両走行用の動力源であるエンジン及びモータージェネレーターと、制御装置と、を有するハイブリッドシステムを備えたハイブリッド車両の発進加速時制御システムにおいて、前記制御装置が、前記ハイブリッド車両の発進加速時に、
前記モータージェネレーターから基本トルクを出力させ、
車速、エンジン回転数、前記エンジンに接続するトランスミッションのギヤ段、及びアクセル開度に基づいて前記エンジンの燃料噴射量の増減値を推定算出するとともに、前記モータージェネレーターにインバーターを介して接続されるバッテリーの充電量が予め設定された設定閾値以上である場合には、前記ハイブリッド車両に発生するサージ挙動トルクとは逆位相のトルクで、前記サージ挙動トルクを抑制するためのトルクであるサージ挙動抑制トルクを前記推定算出した燃料噴射量の増減値を基に推定算出して、この推定算出したサージ挙動抑制トルクを前記モータージェネレーターのアシストと発電とを切り替えることにより発生させて、前記基本トルクを前記サージ挙動抑制トルク分増減させる制御を行い、前記バッテリーの充電量が前記設定閾値未満である場合には、前記推定算出した燃料噴射量の増減値分、前記エンジンの燃料噴射量を増減させることで前記サージ挙動抑制トルクを発生させる制御を行うように構成される。
【0010】
ここで、サージ挙動トルクとは、車両の発進加速時に、車両に備わるサスペンションやダンパー(ショックアブソーバー)が車両の挙動に伴って振動する現象であるサージ挙動で発生するトルク(単位:N・m)である。
【0011】
また、車両の発進加速時とは、車両の発進時及び加速時のことである。より詳細には、車両の発進時は、車両の車速の出始めの状態の時であり、また、車両の加速時は、車両の車速が上昇する状態の時である。
【0013】
また、上記の目的を達成する本発明のハイブリッド車両は、上記のハイブリッド車両の発進加速時制御システム
とサスペンションおよびダンパーを備えて構成される。
【0014】
また、上記の目的を達成する本発明のハイブリッド車両の発進加速時制御方法は、車両走行用の動力源であるエンジン及びモータージェネレーターを有するハイブリッドシステムを備えたハイブリッド車両の発進加速時制御方法において、前記ハイブリッド車両の発進加速時に、
前記モータージェネレーターから基本トルクを出力させ、
車速、エンジン回転数、前記エンジンに接続するトランスミッションのギヤ段、及びアクセル開度に基づいて前記エンジンの燃料噴射量の増減値を推定算出するとともに、前記モータージェネレーターにインバーターを介して接続されるバッテリーの充電量が予め設定された設定閾値以上である場合には、前記ハイブリッド車両に発生するサージ挙動トルクとは逆位相のトルクで、前記サージ挙動トルクを抑制するためのトルクであるサージ挙動抑制トルクを前記推定算出した燃料噴射量の増減値を基に推定算出して、この推定算出したサージ挙動抑制トルクを前記モータージェネレーターのアシストと発電とを切り替えることにより発生させて、前記基本トルクを前記サージ挙動抑制トルク分増減させる制御を行い、前記バッテリーの充電量が前記設定閾値未満である場合には、前記推定算出した燃料噴射量の増減値分、前記エンジンの燃料噴射量を増減させることで前記サージ挙動抑制トルクを発生させる制御を行うことを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のハイブリッド車両の発進加速時制御システム、ハイブリッド車両及びハイブリッド車両の発進加速時制御方法によれば、ハイブリッド車両の発進加速時に、ハイブリッド車両に発生するサージ挙動トルクを抑制するためのサージ挙動抑制トルクを、従来技術のようにエンジンの燃料噴射量を増減させてエンジンの出力トルクで発生させるのではなく、モータージェネレーターのトルクの増減(アシストと発電の切替)により発生させるようにするので、エンジンの燃料噴射量の増減に伴う排気ガス性能の悪化や燃費の悪化等の問題が発生することなく、排気ガス性能及び燃費性能の悪化を防止することができる。
【0017】
また、サージ挙動トルクを、モータージェネレーターのトルクの増減により抑制する制御であるので、制御の応答性が良く、ハイブリッド車両に発生するサージ挙動を迅速に抑制することができる。
【0018】
また、ハイブリッド車両の発進加速時に、ハイブリッド車両に発生するサージ挙動トルクを、モータージェネレーター用のバッテリーの充電量に基づいて、エンジンの燃料噴射量の増減、または、モータージェネレーターのトルクの増減のいずれか一方により行うようにすると、ハイブリッド車両に発生するサージ挙動を確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態からなるハイブリッド車両の発進加速時制御システムを備えたハイブリッド車両の構成図である。
【
図2】本発明の実施形態からなるハイブリッド車両の発進加速時制御方法の制御フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態からなるハイブリッド車両の発進加速時制御システムを備えたハイブリッド車両を示す。
【0021】
このハイブリッド車両(以下「HEV」という。)は、普通乗用車のみならず、バスやトラックなどを含む車両であり、車両の運転状態に応じて複合的に制御されるエンジン10及びモータージェネレーター31を有するハイブリッドシステム30を備えている。
【0022】
エンジン10においては、エンジン本体11に形成された複数(この例では4個)の気筒12内における燃料の燃焼により発生した熱エネルギーにより、クランクシャフト13が回転駆動される。このエンジン10には、ディーゼルエンジンやガソリンエンジンが用いられる。クランクシャフト13の回転動力は、クランクシャフト13の一端部に接続するクラッチ14(例えば、湿式多板クラッチなど)を通じてトランスミッション20に伝達される。
【0023】
トランスミッション20で変速された回転動力は、一対の駆動輪(図示せず)にそれぞれ駆動力として伝達される。
【0024】
ハイブリッドシステム30は、モータージェネレーター31と、そのモータージェネレーター31に順に電気的に接続するインバーター35、高電圧バッテリー32、DC/DCコンバーター33及び低電圧バッテリー34とを有している。
【0025】
高電圧バッテリー32としては、リチウムイオンバッテリーやニッケル水素バッテリーなどが好ましく例示される。また、低電圧バッテリー34には鉛バッテリーが用いられる。
【0026】
モータージェネレーター31は、回転軸37に取り付けられた第1プーリー15とエンジン本体11の出力軸であるクランクシャフト13の他端部に取り付けられた第2プーリー16との間に掛け回された無端状のベルト状部材17を介して、エンジン10との間で動力を伝達する。なお、2つのプーリー15、16及びベルト状部材17の代わりに、ギヤボックスなどを用いて動力を伝達することもできる。また、モータージェネレーター31に接続するエンジン本体11の出力軸は、クランクシャフト13に限るものではなく、例えばエンジン本体11とトランスミッション20の間の伝達軸であっても良い。
【0027】
このモータージェネレーター31は、クランキングを行う機能を有する。
【0028】
これらのエンジン10及びハイブリッドシステム30は、制御装置80により制御される。具体的には、HEVの発進時や加速時には、ハイブリッドシステム30は高電圧バッテリー32から電力を供給されたモータージェネレーター31により駆動力の少なくとも一部をアシストする一方で、慣性走行時や減速時においては、モータージェネレーター31による回生発電を行い、余剰の運動エネルギーを電力に変換して高電圧バッテリー32を充電する。
【0029】
本発明のハイブリッド車両の発進加速時制御システムは、車両走行用の動力源であるエンジン10及びモータージェネレーター31と、制御装置80と、を有するハイブリッドシステム30を備えたシステムである。
【0030】
そして、制御装置80が、ハイブリッド車両の発進加速時に、ハイブリッド車両に発生するサージ挙動トルクとは逆位相のトルクで、サージ挙動トルクを抑制するためのトルクであるサージ挙動抑制トルクΔTを、車速、エンジン回転数、エンジン10に接続するトランスミッション20のギヤ段、及びアクセル開度に基づいて推定算出する。
【0031】
より詳細には、車速、エンジン回転数、トランスミッションのギヤ段、及びアクセル開度の4パラメーターを基にして、サージ挙動を抑制するためのエンジン10の燃料噴射量の増減値を設定した制御式または制御マップを実験等により予め作成して、制御装置80に記憶させておく。この制御式または制御マップは、従来技術のエンジンの出力トルクでサージ挙動を抑制する場合においても同様に作成されたものである。そして、ハイブリッド車両の発進加速時に、上記の4パラメーターの検出値を基に、制御装置80に記憶させた上記の制御式または制御マップにより、エンジン10の燃料噴射量の増減値ΔFを推定算出する。従来技術では、この推定算出したエンジン10の燃料噴射量の増減値ΔF分、エンジン10の燃料噴射量を増減させることで、ハイブリッド車両のサージ挙動を抑制していた。
【0032】
それに対し、本発明では、この推定算出したエンジン10の燃料噴射量の増減値ΔFを基に、サージ挙動を抑制するためにモータージェネレーター31により発生させるべきトルクであるサージ挙動抑制トルクΔTを推定算出する。そして、この推定算出されたサージ挙動抑制トルクΔTをモータージェネレーター31により発生させる制御を行う。この制御は、2〜3秒ほど行われる。より詳細には、ハイブリッド車両の発進加速時に、
モータージェネレーター31により発生させる発進加速用のトルクとして設定される基本トルクTに対して、サージ挙動トルクとサージ挙動抑制トルクΔTが逆位相となるように、このサージ挙動抑制トルクΔT分のトルクを増減させる(T+ΔT、または、T−ΔT)制御を行う。
【0033】
なお、サージ挙動トルクとは、車両の発進加速時に、車両に備わるサスペンション(図示しない)やダンパー(ショックアブソーバー)(図示しない)が、車両の挙動に伴って、これらの弾性体が静止状態から車両走行状態に移行して、弾性体の状態が安定するまでの間、振動する現象である。この移行期間に発生する振動で発生するトルクがサージ挙動トルク(単位:N・m)である。
【0034】
また、車両の発進加速時とは、車両の発進時及び加速時のことである。より詳細には、車両の発進時は、車両の車速の出始めの状態の時であり、また、車両の加速時は、車両の車速が上昇する状態の時である。
【0035】
また、車速は、ハイブリッド車両に設けた車速センサー(図示しない)等により検出する。エンジン回転数は、エンジン10に設けたエンジン回転数センサー(図示しない)等により検出する。トランスミッション20のギヤ段は、トランスミッションコントローラ(図示しない)によって判定され、通信により制御装置80が受信するギヤ段を用いる。アクセル開度は、ハイブリッド車両の運転席に設けたアクセル開度センサー(図示しない)等により検出する。
【0036】
また、サージ挙動抑制トルクΔTの推定算出については、例えば、車速、エンジン回転数、トランスミッションのギヤ段、及びアクセル開度の4パラメーターを基にしてサージ挙動抑制トルクΔTを設定した制御式または制御マップを実験等により予め作成して、制御装置80に記憶させておく。そして、ハイブリッド車両の発進加速時に、上記の4パラメーターの検出値を基に、制御装置80に記憶させた上記の制御式または制御マップにより、サージ挙動抑制トルクΔTを推定算出する。
【0037】
また、上記のハイブリッド車両の発進加速時制御システムにおいて、制御装置80が、ハイブリッド車両の発進加速時に、モータージェネレーター31にインバーター35を介して接続される高電圧バッテリー32の充電量Sが実験等により予め設定された設定閾値S1以上である場合には、この推定算出したサージ挙動抑制トルクΔTをモータージェネレーター31により発生させる制御(モータージェネレーター31のトルクをサージ挙動抑制トルクΔT分増減させる制御)を行い、高電圧バッテリー32の充電量Sが設定閾値S1未満である場合には、この推定算出したサージ挙動抑制トルクΔTをエンジン10により発生させる制御(エンジン10の燃料噴射量を増減値ΔF分増減させる制御)を行うように構成してもよい。
【0038】
次に、上記のハイブリッド車両の発進加速時制御システムを基にした、本発明のハイブリッド車両の発進加速時制御方法について、
図2の制御フローを参照しながら説明する。
図2の制御フローは、車両の発進加速時に、上級の制御フローから呼ばれて実施され、実施後に上級の制御フローに戻る制御フローとして示している。
【0039】
図2の制御フローについて説明する。
図2の制御フローがスタートすると、ステップS10にて、車速、エンジン回転数、トランスミッション20のギヤ段、及びアクセル開度の4パラメーターを基にして、サージ挙動を抑制するためのエンジン10の燃料噴射量の増減値ΔFを推定算出する。ステップS10の制御を実施後、ステップS20に進む。
【0040】
ステップS20にて、高電圧バッテリー32の充電量Sが予め設定された設定閾値S1以上であるか否かを算出する。充電量Sが設定閾値S1以上である場合(YES)は、ステップS30に進み、ステップS30にて、ステップS10で推定算出したエンジン10の燃料噴射量の増減値ΔFを基に、サージ挙動抑制トルクΔTを推定算出する。そして、ステップS30の制御を実施後、ステップS40に進み、ステップS40にて、ステップS30で推定算出したサージ挙動抑制トルクΔTをモータージェネレーター31により発生させる制御を行って、ハイブリッド車両のサージ挙動を抑制する。ステップS40の制御を実施後、リターンに進み、本制御フローを終了して、上級の制御フローに戻る。
【0041】
一方、ステップS20にて、高電圧バッテリー32の充電量Sが設定閾値S1未満である場合(NO)は、ステップS50に進み、ステップS50にて、ステップS10で推定算出したエンジン10の燃料噴射量の増減値ΔF分、エンジン10の燃料噴射量を増減させる制御を行って、ハイブリッド車両のサージ挙動を抑制する。ステップS50の制御を実施後、リターンに進み、本制御フローを終了して、上級の制御フローに戻る。
【0042】
以上のように、上記のハイブリッド車両の発進加速時制御システムを基にした、本発明のハイブリッド車両の発進加速時制御方法は、車両走行用の動力源であるエンジン10及びモータージェネレーター31を有するハイブリッドシステム30を備えたハイブリッド車両の発進加速時制御方法において、ハイブリッド車両の発進加速時に、ハイブリッド車両に発生するサージ挙動トルクとは逆位相のトルクで、サージ挙動トルクを抑制するためのトルクであるサージ挙動抑制トルクΔTを、車速、エンジン回転数、エンジン10に接続するトランスミッション20のギヤ段、及びアクセル開度に基づいて推定算出するとともに、この推定算出したサージ挙動抑制トルクΔTをモータージェネレーター31により発生させる制御を行うことを特徴とする方法である。
【0043】
また、上記のハイブリッド車両の発進加速時制御方法において、ハイブリッド車両の発進加速時に、モータージェネレーター31にインバーター35を介して接続されるバッテリー32の充電量Sが予め設定された設定閾値S1以上である場合には、この推定算出したサージ挙動抑制トルクΔTをモータージェネレーター31により発生させる制御を行い、バッテリー32の充電量Sが設定閾値S1未満である場合には、この推定算出したサージ挙動抑制トルクΔTをエンジン10により発生させる制御を行うことを特徴とする方法である。
【0044】
本発明のハイブリッド車両の発進加速時制御システム、ハイブリッド車両及びハイブリッド車両の発進加速時制御方法によれば、ハイブリッド車両の発進加速時に、ハイブリッド車両に発生するサージ挙動トルクを抑制するためのサージ挙動抑制トルクΔTを、エンジン10の燃料噴射量を増減させることにより発生させるのではなく、モータージェネレーター31のトルクの増減(アシストと発電の切替)により発生させるようにするので、エンジン10の燃料噴射量の増減に伴う排気ガス性能の悪化や燃費の悪化等の問題が発生することなく、排気ガス性能及び燃費性能の悪化を防止することができる。
【0045】
また、サージ挙動トルクを、モータージェネレーター31のトルクの増減により抑制する制御であるので、制御の応答性が良く、ハイブリッド車両に発生するサージ挙動を迅速に抑制することができる。
【0046】
また、ハイブリッド車両の発進加速時に、ハイブリッド車両に発生するサージ挙動トルクを、モータージェネレーター31用のバッテリー32の充電量Sに基づいて、エンジン10の燃料噴射量の増減、または、モータージェネレーター31のトルクの増減のいずれか一方により行うようにすると、バッテリー32の充電量Sに拠らず、ハイブリッド車両に発生するサージ挙動を確実に抑制することができる。
【符号の説明】
【0047】
10 エンジン
11 エンジン本体
30 ハイブリッドシステム
31 モータージェネレーター
32 高電圧バッテリー(バッテリー)
35 インバーター
80 制御装置
ΔT サージ挙動抑制トルク
S バッテリーの充電量
S1 バッテリーの充電量の設定閾値