(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の一態様に係るサポート治具は、所定の作業面に当接可能な複数のローラを含む台車と、台車に取り付けられた取っ手と、台車に取り付けられ、作業面から遠ざかる方向および作業面に近づく方向に移動可能な可動部を含むスライド機構と、スライド機構の可動部に取り付けられ、作業に用いられる加工工具を傾動自在に支持するための支持部と、を備える。
【0012】
このサポート治具によれば、スライド機構の可動部に取り付けられた支持部によって、加工工具は、傾動自在に支持される。作業者は、一方の手で取っ手を持ち、台車を作業面に対して押し当てることができる。作業者は、他方の手で加工工具を持つことができる。その状態で、作業面上において台車を走行させながら、加工工具の先端を作業部位に向けることができる。加工工具は傾動自在であり、また、スライド機構によって、作業面に対する加工工具の距離を調整できる。よって、加工部位に対し、加工工具の先端を所望の角度や距離にセットすることができる。加工工具は、作業者の他方の手によって支持されるのみならず、支持部およびスライド機構を介して、台車によっても支持されている。よって、作業面に対して上記の角度や距離を適正に保つための力(他方の手の力)が少なくて済み、負担が軽減されている。また、作業面に沿って走行するサポート治具を基準として加工工具の角度や距離を維持すればよいので、角度や距離の変動を小さくできる。また、作業面の向きによっては(上向きの作業でない場合には)、作業者は、一方の手および台車を介して、作業面に多少もたれかかることもできる。よって、姿勢の維持が容易である。また作業者は、一方の手で台車を押し、他方の手で加工工具を持つことによって、作業速度と狙い位置とをコントロールすることに集中し易い。よって、作業者に求められる集中力の観点でも、負担が軽減されている。サポート治具を用いた作業では、作業速度、狙い位置、角度、距離のすべてを連続して適正に保つことが容易になり、適正な作業が可能となる。たとえば、上記の作業が溶接である場合には、溶接不良を低減することができ、溶接品質の低下を抑制することができる。
【0013】
いくつかの態様において、サポート治具は、加工工具を保持する保持部を更に備え、支持部は、保持部に固定された軸部材と、軸部材を支持する球型軸受とを含み、球型軸受によって、加工工具を全方向に傾動自在に支持する。この場合、加工工具をフリーに動かすことができ、作業上有利である。たとえば、上記の作業が溶接である場合には、ウィービングはもちろんのこと、回転ウィービング等の自由な動きが実現できる。また、球型軸受によって、加工工具の可動範囲を所定の範囲(角度範囲)に制限することができる。
【0014】
いくつかの態様において、サポート治具は、支持部と加工工具との間に配置され、第1の厚みを有する第1の部分と第1の厚みとは異なる第2の厚みを有する第2の部分とを含むことにより、加工工具の可動範囲を調整する調整プレートを更に備える。この場合、母材に適した可動範囲を設定できる。
【0015】
いくつかの態様において、サポート治具は、支持部と加工工具との間に配置された弾性体を更に備える。この場合、加工工具のふらつきを防止できる。また、加工工具の傾きが大きくなるほど、加工工具は弾性体から大きな弾性力を受けることになるので、加工工具を自然に中立位置に近づける又は戻すことができる。
【0016】
いくつかの態様において、加工工具は溶接トーチである。この場合、上記した利点が溶接において得られる。溶接士の負担を軽減しつつ、溶接品質の低下を抑制することができる。
【0017】
いくつかの態様において、加工工具は切削用または研削用のリュータである。この場合、サポート治具によって、上記した利点が切削または研削において得られる。作業者の負担を軽減しつつ、適正な切削作業または研削作業が可能になる。
【0018】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。以下の説明において、前後または左右の語を用いる場合、サポート治具1の台車2の走行方向を基準とする。
【0019】
図1および
図2を参照して、本実施形態のサポート治具1の基本的な構成およびサポート治具1の適用例について説明する。サポート治具1は、溶接作業に適用され得る。サポート治具1には、溶接トーチ(加工工具)100が取り付けられる。溶接トーチ100は、公知の半自動トーチである。溶接士Wは、溶接トーチ100を用いて溶接を行う際、たとえば左手(一方の手)でサポート治具1を持ちつつ、右手(他方の手)で溶接トーチ100のグリップ102を持つ(
図9参照)。溶接士Wは、母材Mにサポート治具1を押しつけながらサポート治具1を走行させて、溶接を行う。サポート治具1は、半自動溶接用の治具である。サポート治具1を用いた溶接では、被溶接部材である母材Mの向き、すなわち溶接作業面である母材Mの表面Sの向きは問われない。また、母材Mの表面Sの形状も問われない。母材Mの表面Sは、平面であってもよいし、曲面であってもよい。サポート治具1が適用され得る母材Mは、鉄であってもよく、アルミニウム等の他の金属であってもよい。母材Mには、開先Gが形成されている。開先Gが延びる方向は、溶接方向に相当する。
【0020】
サポート治具1と、サポート治具1に取り付けられた溶接トーチ100とによって、溶接装置Aが構成される。溶接装置Aは、溶接システムの一部をなす。溶接システムは、たとえばアーク溶接を行うために用いられる。溶接システムの全体構成の図示は省略されているが、溶接システムは、たとえば、溶接電源と、溶接電源に電気的に接続されたワイヤ送給機とを備える。ワイヤ送給機には、溶接電源から電力および制御信号が送られる。ワイヤ送給機には、シールドガスを形成するためのガス源が接続されている。溶接電源には、溶接システム全体を制御するためのリモコンが接続されている。溶接装置A(
図1、
図2参照)の溶接トーチ100に、ワイヤ送給機からワイヤが送給される。溶接システムは、溶接トーチ100の先端101aから突出するワイヤの先端と母材Mとの間にアークを発生させて、そのアークの熱で溶接を行う。
【0021】
サポート治具1は、母材Mの表面S上を走行可能な台車2と、台車2に取り付けられた取っ手4と、台車2に取り付けられ、溶接トーチ100と表面Sとの距離を変更可能なスライド機構6とを備える。台車2は、台車2の隅部に取り付けられた4つのローラ3を含む。ローラ3は、たとえば耐熱シリコーン製であり、滑りにくく、スムーズな走行を可能とする。しかも、ローラ3は、溶接中の高熱に耐え得る。4つのローラ3は、同一平面上に配置されており、母材Mの表面Sに当接可能である。走行方向の前方(
図1の上側)の一対のローラ3は、1つの回転軸線を中心に回転する。走行方向の後方(
図1の下側)の一対のローラ3は、1つの回転軸線を中心に回転する。前方のローラ3の回転軸線と、後方のローラ3の回転軸線とは、平行である。ローラ3は、走行方向に向けて、台車2を円滑に移動させる。
【0022】
サポート治具1の台車2は、自走式ではなく、ローラ3の駆動源を有していない。すなわち、台車2は、溶接士Wによって押されることによってのみ、走行する(すなわち、進行する)。したがって、基本的に、溶接士Wが母材Mの溶接方向にサポート治具1を押している限りは、台車2は溶接方向(すなわち開先G)に沿って走行する。一方、溶接士Wが溶接方向とは異なる方向にサポート治具1を押した場合には、台車2は溶接方向からずれた方向に走行することになる。
【0023】
台車2は、たとえばアルミニウム製であり、軽量化および低コスト化に寄与している。台車2は、アングル材等が用いられた断面L字状のベースプレート2bと、ベースプレート2bの左側の第1端および右側の第2端に接合された2枚のサイドプレート2aとを含む。ベースプレート2bは、左右方向、すなわち上記したローラ3の回転軸線と平行な方向に延びている。ベースプレート2bの底板は、ローラ3の下端よりも高い位置にあり、表面Sに略平行に対面する。ベースプレート2bの左右に取り付けられた一対のサイドプレート2aは、同じ大きさおよび形状を有しており、三角形状をなしている。三角形の底辺に相当するサイドプレート2aの底部の前端および後端に、ローラ3が設けられている。
【0024】
ベースプレート2bの第1端付近または第2端付近には、取っ手4が設けられている。取っ手4は、前後方向に長く延びており、ベースプレート2bから後方に突出している。取っ手4は、溶接士Wが、溶接装置Aの全体をハンドリングするためのものである。溶接士Wが右手で溶接トーチ100を持つ場合には(
図9参照)、取っ手4は、溶接士Wが左手で取っ手4を握りやすいように第1端に設けられる。溶接士Wが左手で溶接トーチ100を持つ場合には、取っ手4は、溶接士Wが右手で取っ手4を握りやすいように第2端に設けられる。1つの取っ手4が、第1端と第2端の間で付け替え可能になっていてもよい。
【0025】
取っ手4は、基端部を中心に90度回転可能になっていてもよい。取っ手4が90度回転した状態で固定された構成では、取っ手4は、ベースプレート2bの第1端から左方に、またはベースプレート2bの第2端から右方に突出する。このような構成は、溶接士Wの体の向きを基準として横方向に台車2を走行させるような溶接に適する。たとえば、そのような構成は、下向き溶接に適する。
【0026】
取っ手4は、溶接士Wが握ることができる程度の球状(ボール状)であってもよい。球状の取っ手4が台車2に固定されている形態では、溶接士Wは、どのような方向からでも取っ手4を把持しやすく、表面Sの向き、位置、および溶接方向に制限がない。また、球状の取っ手4は握り易い。よって、汎用性の高いサポート治具1が実現される。
【0027】
図3および
図4を参照して、サポート治具1を詳細に説明する。スライド機構6は、ベースプレート2bに固定されて上下方向(すなわちベースプレート2bに垂直な方向)に延びる円筒状の支柱11と、支柱11に対して上下方向にスライド可能な可動部13とを含む。上下方向に延在する支柱11の基端部(下端部)は、ベースプレート2bに対してねじ等により固定されている。可動部13は、支柱11に沿って、ベースプレート2bから遠ざかる方向、すなわち母材Mの表面Sから遠ざかる方向に移動可能である。可動部13は、支柱11に沿って、ベースプレート2bに近づく方向、すなわち母材Mの表面Sに近づく方向に移動可能である。
【0028】
より詳しくは、支柱11の後ろ側の側面には、ラック部12が形成されている。可動部13は、支柱11が貫通するスライダ13aを含んでおり、このスライダ13aに、スライドノブ14が取り付けられている。スライドノブ14には軸が固定されており、その軸がスライダ13a内に収容されている。軸は支柱11の後ろ側に配置され、軸に形成されたピニオンギアが支柱11のラック部12に噛み合っている。スライドノブ14を回すことにより、支柱11に対して可動部13が上下動する。これにより、各パスに適正な高さに溶接トーチ100を調整することができる。可動部13の位置(高さ)が決まった後に、スライドストッパ15によって可動部13をロックすることができる。
【0029】
可動部13は、上端に位置する支持板13cと、支持板13cおよびスライダ13aを連結する連結板13bとを含んでいる。連結板13bと支持板13cとは板材を曲げることで形成されて一体をなしている。上下方向に延在する連結板13bの下部が、ブロック状のスライダ13aにねじ等により固定されている。
【0030】
サポート治具1は、可動部13に取り付けられた支持部10を備えている。
図4に示されるように、支持部10は、連結ブロック(保持部)30を介して、溶接トーチ100を支持し得るように構成されている。連結ブロック30は、2つの分割された小ブロックからなり、これらの小ブロックが2本のねじで連結された構造を有する。連結ブロック30は、溶接トーチ100の中央部を保持している。より詳しくは、連結ブロック30は、グリップ102とノズル101との間であって、グリップ102に近い部分を保持している。これにより、少ない操作量で先端101aを動かす(振る)ことが可能になっている。ウィービングを容易に行うことができる。
【0031】
連結ブロック30の下部(ベースプレート2b側)には、ボルト(軸部材)17が挿通されている。支持部10は、ボルト17と、ボルト17を支持する球型軸受16と、ナット18とを含む。ボルト17は、球型軸受16を貫通し、球型軸受16から下方に突出する。ボルト17の先端(下端)にナット18が螺合することにより、ボルト17は、連結ブロック30に対して固定されている。球型軸受16と連結ブロック30との間には、ワッシャ19が設けられてもよい。
【0032】
この構成により、球型軸受16は、溶接トーチ100を全方向に傾動自在に支持している。ここで言う「全方向に傾動」とは、球型軸受16の内部の支点を通る無数の軸線に関して、溶接トーチ100が傾動可能であることを意味する。球型軸受16は、斜めに延在する軸部を含んでいる。この軸部は、可動部13の支持板13cに固定されている。球型軸受16が可動部13に連結されることにより、支持部10は、可動部13に固定されている。
【0033】
球型軸受16は、溶接トーチ100を傾動自在に支持するとともに、溶接トーチ100の可動範囲が所定の角度範囲に収まるよう、溶接トーチ100の移動を規制している。たとえば、
図8の(a)に示されるように、先端101a(ワイヤ先端)の狙い位置は、円形の可動範囲R1となる。たとえば、球型軸受16は、前後左右の方向に±10°の範囲で、溶接トーチ100をフリーに動かすことを可能にする。また、たとえば、球型軸受16に溶接トーチ100を当てる(より厳密には連結ブロック30を当てる)ことにより、球型軸受16によって規制された可動範囲の限界ラインに沿うように、先端101aを移動させることができる。
【0034】
図5の(a)および
図5の(b)は、トーチ角の範囲とトーチ高さとの関係を示す図である。トーチ角a1およびトーチ角a2は、前進/後退角の可動範囲を示している。
図5の(a)に示されるように、小さいトーチ角a1の場合には、トーチ高さd1は小さい。比較的大きいトーチ角a2とすると、トーチ高さd2は大きくなる。たとえば、トーチ角a1が5°である場合、トーチ高さd1は8.5mmであり、トーチ角a2が10°である場合、トーチ高さd2は13.5mmとなる。したがって、可動範囲を5°とした場合、トーチ高さの変動は5mm程度である。このように、トーチ角の範囲を規制することにより、トーチ高さの変動を抑えることができる。たとえば、トーチ高さの変動を2〜3mmに抑えることもできる。
【0035】
本実施形態のサポート治具1によれば、スライド機構6の可動部13に取り付けられた支持部10によって、溶接トーチ100は、傾動自在に支持される。
図9に示されるように、溶接士Wは、左手で取っ手4を持ち、台車2を母材Mの表面Sに対して押し当てることができる。溶接士Wは、右手で溶接トーチ100を持つことができる。その状態で、表面S上において台車2を走行させながら、溶接トーチ100の先端101aを作業部位に向けることができる。溶接トーチ100は傾動自在であり、また、スライド機構6によって、表面Sに対する溶接トーチ100の距離を調整できる。よって、加工部位に対し、溶接トーチ100の先端101aを所望の角度や距離にセットすることができる。溶接トーチ100は、溶接士Wの右手によって支持されるのみならず、支持部10およびスライド機構6を介して、台車2によっても支持されている。よって、表面Sに対して上記の角度や距離を適正に保つための力(右手の力)が少なくて済み、溶接士Wの負担が軽減されている。また、表面Sに沿って走行するサポート治具1を基準として溶接トーチ100の角度や距離を維持すればよいので、角度や距離の変動を小さくできる。たとえば、
図6の(a)に示されるように、曲面である表面Sを下から上に向けて溶接する際、サポート治具1によれば、トーチ角の変動は小さい。
図6の(b)に示されるように、従来、サポート治具1が無い状態では、溶接士Wは気が付かつかない間にトーチ角が大きく変動してしまい、シールド不良や融合不良が発生することがあった。溶接装置Aによれば、サポート治具1との協働によって溶接トーチ100の操作性が向上しており、シールド不良や融合不良は生じにくくなっている。
【0036】
また、サポート治具1によれば、表面Sの向きによっては(上向きの作業でない場合には)、溶接士Wは、左手および台車2を介して、表面Sに多少もたれかかる(体重の一部を表面Sにかける)こともできる。よって、姿勢の維持が容易である。従来、サポート治具1が無い状態では、溶接トーチ100のみを持った溶接士Wは姿勢の維持に苦労していたが、サポート治具1によれば、そのような苦労は軽減されている。
【0037】
また、溶接士Wは、サポート治具1と溶接トーチ100を母材Mに押さえつけた状態で施工できるため、難しい溶接姿勢やトーチケーブルの抵抗が加わっても、先端101aのふらつきが小さく、正確な狙いコントロールができる。言い換えれば、溶接士Wは、左手で台車2を押し右手で溶接トーチ100を持つことによって、溶接速度と狙い位置とをコントロールすることに集中し易い。すなわち、左手で台車2の速度を調整し、右手で狙い位置を調整することができる。これにより、狙い位置のずれによる融合不良、シールド不良の欠陥発生を防止できる。また、ウィービングを楽に行うことができる。このように、作業者に求められる集中力の観点でも、負担が軽減されている。
【0038】
なお、サポート治具1では、上記したように台車2が必ずしも溶接方向に走行することを必要としない。溶接トーチ100が傾動自在であることにより、台車2が溶接方向からずれた場合であっても、溶接士Wによって、狙い位置が適正にコントロールされ得る。サポート治具1は、熟練を要さずに、適正な溶接を可能とする治具ではない。サポート治具1は、溶接技術を習得した溶接士Wによって使用されることで、その機能を発揮し得る。上記したように、サポート治具1が意図するメリットは、溶接士Wの負担を軽減しつつ、溶接品質を確保できるという点である。
【0039】
以上述べたように、サポート治具1を用いた作業では、溶接速度、狙い位置、角度、距離のすべてを連続して適正に保つことが容易になり、適正な作業が可能となる。本実施形態のように溶接トーチ100を用いる場合には、溶接不良を低減することができ、溶接品質の低下を抑制することができる。
【0040】
特に、サポート治具1は、溶接が難しい部位、すなわち曲面を有する部位を溶接する際に有利な効果を発揮する。曲面を溶接する際、溶接中に随時姿勢が変化する。この時、溶接士は狙い位置と速度をコントロールして溶接不良(融合不良)を防止しようと働くため、トーチ角やチップ(先端101a)と母材M間の距離が適正範囲から逸脱する傾向がある(
図6(b)参照)。そのような場合でも、
図6(a)を参照して説明したように、トーチ角の変動は小さく、またチップと母材M間の距離も一定に保たれる。
【0041】
特に、アルミ溶接の場合には、トーチ角やチップと母材M間の距離が適正範囲から逸脱すると、ブローホールが生じ、溶接不良となるケースが多発してしまう。サポート治具1によれば、このような事態が回避され得る。
【0042】
サポート治具1によれば、走行レールは不要である。走行レールを設けるためには、溶接部位に応じたレールを用意する必要があり、またレールの設置に多大な時間と労力を要する。サポート治具1では、簡易な構成になっており、格段に低コスト化が図られている。サポート治具1では、段取りがほとんど要らず、溶接作業をすぐに行うことができ、トータルの作業効率が高い。また、サポート治具1の総重量はたとえば1kg以下と軽量であり、溶接士Wに対する負担も少ない。溶接士Wによる溶接作業をサポートするのに適した簡易サポート治具が実現されている。
【0043】
溶接装置Aを保持するためには、通常は両手が用いられるが、たとえば作業前や作業を中断している際に、片手を離しても問題はない。溶接トーチ100と支持部10とは連結されているため、溶接トーチ100またはサポート治具1の一方から手を離しても、溶接装置Aの全体は保持される。たとえば、取っ手4のみを左手で握った状態で、溶接トーチ100を持つ右手を離しても、溶接トーチ100は脱落せず、問題はない。また、溶接トーチ100のみを右手で握った状態で取っ手4を持つ左手を離しても、サポート治具1は脱落せず、問題はない。フリーになった手によって、マスクm(
図9参照)の窓部等を開閉することもできる。
【0044】
また、球型軸受16を備える態様によれば、溶接トーチ100をフリーに動かすことができ、作業上有利である。たとえば、ウィービングはもちろんのこと、回転ウィービング等の自由な動きが実現できる。また、球型軸受16によって、溶接トーチ100の可動範囲を所定の範囲(角度範囲)に制限することができる(
図8(a)参照)。これにより、母材Mに対するトーチ角度が制限されるため、適正なトーチ角を保つことが可能となる。さらには、施工管理者は、溶接士Wに最適なトーチの可動範囲を調整することで、品質を管理することができる。
【0045】
続いて、本開示の変形形態について説明する。
図7に示されるように、サポート治具1は、支持部10と溶接トーチ100との間に配置された調整プレート19Aを備えてもよい。調整プレート19Aは、たとえば、連結ブロック30と球型軸受16との間に挟まれるようにして配置される。調整プレート19Aは、第1の厚みを有する第1の部分と、第1の厚みとは異なる第2の厚みを有する第2の部分とを含み得る。たとえば、
図7に示される例では、調整プレート19Aは、外周側ほど厚みが大きくなっている上側の部分と、上側の部分よりも小さく、かつ一定の厚みを有する下側の部分とを含んでいる。調整プレート19Aは、溶接トーチ100の可動範囲を調整し得る。この場合、母材Mに適した可動範囲を設定できる。調整プレート19Aにおける厚みの変化は、連続的になっている。言い換えれば、調整プレート19Aには、傾斜面が形成され得る。これにより、溶接トーチ100のスムーズな傾動が可能である。
【0046】
たとえば、
図8(b)に示されるように、先端101a(ワイヤ先端)の狙い位置は、半円形の可動範囲R2となり得る。たとえば、母材Mがアルミニウムである場合、前傾角で溶接する必要があり、後退角となることは好ましくない。このような可動範囲R2を実現する調整プレート19Aによれば、可動範囲を調整および制限できるため、後退角になることを防止できる。
【0047】
また、たとえば、調整プレート19Aの厚み(形状)を調整することにより、
図8(c)に示されるように、先端101a(ワイヤ先端)の狙い位置を、上下は円弧状に広がっているが左右は所定の幅に制限された可動範囲R3とすることもできる。このような可動範囲R3を実現する調整プレート19Aによれば、たとえば意図的にウィービング幅を大きくするといった作業を禁止することができる。すなわち、オシレート幅の管理によって、入熱管理が可能になる。ウィービング幅が大きくなると、過大な入熱となり、靱性が低下するなどの品質低下を招き得る。よって、可動範囲R3に制限することにより、過大な入熱に起因する品質低下を防止し得る。
【0048】
また、いくつかの態様において、サポート治具1は、支持部10と溶接トーチ100との間に配置された弾性体を更に備えてもよい。より詳細には、支持部10と溶接トーチ100との間に弾性体が介在されてもよい。たとえば、
図4に示されるワッシャ19として、弾性体からなる軟質ワッシャが取り付けられ得る。軟質ワッシャの材質としては、ウレタン、ゴム、シリコーン等が挙げられる。この場合、溶接トーチ100の移動に抵抗が付与され、溶接トーチ100のふらつきを防止できる。また、溶接トーチ100の傾きが大きくなるほど、加工工具は弾性体から大きな弾性力を受けることになるので、加工工具を自然に基準角度(中立位置)に近づけたり、基準角度(中立位置)に戻したりすることができる。このことは、基準角度(中立位置)を見つけやすくするといった利点にもつながる。
【0049】
サポート治具1は、溶接トーチ100に限られず、切削用または研削用のリュータ(加工工具)200に適用されてもよい(
図10参照)。リュータ200を用いて溶接部位の切削または研削を行う場合、リュータ200の先端を溶接部位に当てる必要があり、溶接の際と同様の動きが求められる。サポート治具1にリュータ200を取り付けた切削装置Xでは、上記した溶接装置Aによる利点と同様の利点が得られる。したがって、作業者の負担を軽減しつつ、適正な切削作業または研削作業が可能になる。難しい部位や難しい姿勢が強いられる場合でも、サポート治具1を備えた切削装置Xによって、品質の低下を抑制することができる。
【0050】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限られない。たとえば、連結ブロック30は省略可能である。支持部10は、溶接トーチ100を直接に支持してもよい。溶接トーチ100に一体化された軸部材が球型軸受16によって支持されてもよい。
【0051】
球型軸受16を設けることなく、たとえば、ゴム製の支持部を採用してもよい。たとえば、ウレタン製の棒によって可動部13と溶接トーチ100とを連結してもよい。
【0052】
支持部は、溶接トーチ100を全方向に傾動自在とする場合に限られない。支持部は、溶接方向に直交する方向(左右方向)にのみ傾動を許容するよう、溶接トーチ100を支持してもよい。すなわち、溶接トーチ100は、1本の軸線を中心に傾動可能であってもよい。そのようなサポート治具1によっても、少なくとも、溶接トーチ100によるウィービング(またはリュータ200の先端を左右に振る切削)は可能であり、作業者の負担を軽減しつつ適正な作業を可能とするという作用・効果は奏される。