(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記屈曲操作部が前記固定位置にあるとき、前記係合突起は、前記固定位置から前記操作位置に前記屈曲操作部を移動させるときに前記係合突起が前記係合溝から離脱する位置から前記屈曲操作部の回転半径よりも長く前記係合溝内に進入した状態となっている請求項2に記載の医療機器。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る医療機器の例としてのカテーテルを図面に基づいて説明する。尚、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は適宜に省略する。また、以下の説明においては医療機器としてカテーテルを例に説明を行うが、本発明はこれに限らず内視鏡等の他の医療機器も含むものである。
【0020】
はじめに、本実施形態のカテーテル1の概要を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るカテーテル1の全体側面図である。
図2は、屈曲操作部92を一方向に操作した状態を示すカテーテルの全体側面図である。
図3は、屈曲操作部92を他方向に操作した状態を示すカテーテルの全体側面図である。
図4は、
図1のA−A線断面図である。
図5は、カテーテル1の遠位部DEの縦断面図である。
図6は、屈曲操作部92が固定位置にある操作部90の平面図である。
図7は、屈曲操作部92が固定位置にあるときの操作線60の状態を説明する平面図である。
図8は、屈曲操作部92が操作位置にあるときの操作部90の平面図である。
図9は、屈曲操作部92が操作位置にあるときに屈曲操作部92を回転した状態を示す平面図である。
図10は、屈曲操作部92が操作位置にあるときの操作線60の状態を説明する平面図である。
なお、
図1〜
図3に示すカテーテル1について、紙面左側(管状本体10の端部が位置する側)を遠位側、紙面右側(操作部90が位置する側)を近位側と呼称する。
【0021】
カテーテル1は、長尺で可撓性の管状本体10と、管状本体10に挿通され、先端部が管状本体10の遠位部DEに接続された複数の操作線60と、管状本体10の基端部に設けられた操作部本体94と、操作部本体94に回転可能かつ固定位置と操作位置との間を摺動可能に設けられ、操作線60の基端部が固定され回転操作により複数の操作線60に個別に牽引力を付与して管状本体10の遠位部DEを屈曲させる屈曲操作部92と、を備えている。
操作部本体94と屈曲操作部92との一方には係合突起97が設けられているとともに、他方には係合突起97と係合可能な係合溝924が設けられている。
屈曲操作部92は操作部本体94に対して係合溝924の延展方向に沿い移動可能である。
屈曲操作部92が固定位置にあるときは、操作線60は弛緩状態となるとともに、係合突起97と係合溝924とが係合し屈曲操作部92の回転操作が規制される。
屈曲操作部92が操作位置にあるときは、操作線60が弛緩状態よりも緊張した状態となるとともに、係合突起97と係合溝924との係合が解除され屈曲操作部92の回転操作が可能となる。
【0022】
カテーテル1の屈曲操作部92に設けられている係合溝924の中を係合突起97が移動可能に形成されていることで、操作部本体94に対する屈曲操作部92の係合溝924に沿った摺動が可能となっている。
【0023】
そして屈曲操作部92が固定位置から操作位置へと摺動する際には、係合突起97が係合溝924から脱離した状態となるまで摺動することから、屈曲操作部92の摺動可能距離を屈曲操作部92のサイズによらず長く確保することができる。屈曲操作部92の摺動距離可能が長いほど、固定位置にあるときの操作線60の弛緩の程度を大きくしても操作位置に移動した際に十分な緊張を行うことができるため、固定状態における弛緩の程度を従来のカテーテルよりも大きく確保することができる。
【0024】
そのため従来よりもカテーテル1の長さが長くなり、製造工程中に高温環境下に置かれて操作線60と管状本体10との熱膨張に従来よりも大きな差が生じたとしても、操作線60に張力が加わることを防止することができる。これにより歩留まりの低下や操作線や管状本体の損傷を効果的に防止することができる。
【0025】
本実施形態においては、係合溝924は屈曲操作部92の回転半径よりも長く形成されている。
【0026】
すなわち操作部本体94に対する屈曲操作部92の摺動可能距離を屈曲操作部92の回転半径よりも長く確保することが可能となり、固定状態における弛緩の程度を従来のカテーテルよりも大きく確保することができる。これにより熱膨張に起因したカテーテル1の損傷を防止することが可能となる。
【0027】
以下、
図1から
図5を参照して本実施形態を詳細に説明する。本実施形態のカテーテル1は、管状本体10を血管内に挿通させて用いられる血管内カテーテルである。
【0028】
管状本体10はシースとも呼ばれ、内部に主管腔(メインルーメン)20が通孔形成された中空管状かつ長尺の部材である。
【0029】
管状本体10は積層構造を有している。主管腔20を中心に、内径側から順に内層(メインチューブ)24及び外層50が積層されて管状本体10は構成されている。外層50の表面には親水層(不図示)が形成されている。内層24及び外層50は可撓性の樹脂材料により形成されていて、それぞれ円管状で略均一の厚みを有している。
【0030】
内層24は管状本体10の最内層であり、その内壁面により主管腔20を画定する。主管腔20の断面形状は特に限定されないが、本実施形態では円形である。横断面が円形の主管腔20の場合、その直径は、管状本体10の長手方向に亘って均一でもよく、または長手方向の位置により相違していてもよい。
【0031】
内層24の材料は、例えば、フッ素系の熱可塑性ポリマー樹脂を挙げることができる。このフッ素系の熱可塑性ポリマー材料としては、具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)及びペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)を挙げることができる。内層24をこのようなフッ素系ポリマー材料で構成することにより、主管腔20を通じて薬液等を供給する際のデリバリー性が良好となる。また、主管腔20にガイドワイヤーなどを挿通する際の摺動抵抗が低減される。
【0032】
ワイヤ補強層30は、管状本体10のうち操作線60よりも内径側に設けられて内層24を保護する保護層である。操作線60の内径側にワイヤ補強層30が存在することで、操作線60が外層50から内層24へと貫通し主管腔20に露出することを防止することができる。
【0033】
ワイヤ補強層30は補強ワイヤ32を巻回して形成されている。補強ワイヤ32の材料には、タングステン(W)、ステンレス鋼(SUS)、ニッケルチタン系合金、鋼、チタン、銅、チタン合金または銅合金などの金属材料のほか、内層24および外層50よりも剪断強度が高いポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)またはポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂材料を用いることができる。本実施形態では、補強ワイヤ32としてステンレス鋼の細線が用いられている。
【0034】
ワイヤ補強層30は、メッシュ層である。第1マーカー14、第2マーカー16及び第3マーカー18の下層が機械的な変形が生じ難いメッシュ層として形成されたワイヤ補強層30であることにより、第1マーカー14、第2マーカー16及び第3マーカー18をかしめて固定することが可能となる。
【0035】
ワイヤ補強層30を構成する補強ワイヤ32の条数は特に限定されないが、本実施形態においては16条の補強ワイヤ32により形成されているワイヤ補強層30が図示されている。
【0036】
管状本体10の遠位部DEには、第1マーカー14と、この第1マーカー14よりも近位側に位置する第2マーカー16が設けられている。第1マーカー14及び第2マーカー16は、白金など、X線等の放射線が不透過の金属材料を含むリング状の部材である。第1マーカー14および第2マーカー16の2つのマーカーの位置を指標とすることにより、放射線(X線)観察下において体腔(血管)内における管状本体10の先端の位置を視認することができる。これにより、カテーテル1の屈曲操作を行うのに最適なタイミングを容易に判断することができる。
【0037】
また、第2マーカー16よりも更に近位側には、第3マーカー18が設けられている。第3マーカー18もまたカテーテル1の操作の際の示標となるものである。本実施形態においては第3マーカー18の遠位側の側面は管状本体10の先端から30mmの位置を示している。
【0038】
例えばカテーテル1が被験者の体内へのデタッチャブルコイルの導入のために用いられる場合には、作業者は第3マーカー18を目安としてカテーテル1の主管腔20内にあるデタッチャブルコイルの切断位置を把握することができる。なお、デタッチャブルコイルとは被験者の動脈瘤や血栓を塞栓するために被験者の体内に留置されるコイルのことをいう。こうしたデタッチャブルコイルは主管腔20内で通電されることにより所定の切断位置で切断することが可能となっている。
【0039】
第1マーカー14、第2マーカー16及び第3マーカー18は本実施形態においては何れも同一の材料を含む同一形状を有する部材である。
【0040】
このように、第1マーカー14、第2マーカー16及び第3マーカー18を同一の部材とすることで共通の金型を用いて作成することができ、それぞれ別の形状を有する部材として作成する場合と比較して製造に要するコストを低減することができる。
【0041】
上述したワイヤ補強層30は第1マーカー14、第2マーカー16及び第3マーカー18の下層に形成されているとともに、第1マーカー14と第2マーカー16の間の領域には形成されておらず、当該領域はワイヤ補強層30の非形成領域となっている。
【0042】
ワイヤ補強層30の非形成領域とワイヤ補強層30が形成されている領域とでは曲げ剛性に不連続性が生じており、ワイヤ補強層30の非形成領域の方が曲げ剛性が小さくなっている。このため、操作線60を牽引操作した場合に、ワイヤ補強層30の非形成領域において管状本体10を急峻に屈曲させることができる。
【0043】
また、第1マーカー14、第2マーカー16及び第3マーカー18はかしめることにより固定されるが、仮にワイヤ補強層30が無い場合には内層24に直接かしめて固定されることになる。しかし内層24は柔軟な材質であるため変形しやすく、内層24に直接第1マーカー14、第2マーカー16及び第3マーカー18をかしめて固定することは困難であり、固定を行ったとしても内層24の変形により容易に脱離してしまう。
【0044】
一方、本実施形態では第1マーカー14、第2マーカー16及び第3マーカー18の下層に内層24よりも機械的な変形が生じ難いメッシュ層であるワイヤ補強層30が設けられていることにより、第1マーカー14、第2マーカー16及び第3マーカー18をかしめて固定することが可能となり、固定後の脱離も防止することができる。
【0045】
サブチューブ40は副管腔42を画定する中空管状の部材である。サブチューブ40は外層50の内部に埋設されている。サブチューブ40は、たとえば熱可塑性ポリマー材料により構成することができる。その熱可塑性ポリマー材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、または四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)などの低摩擦樹脂材料が挙げられる。サブチューブ40は、外層50よりも曲げ剛性率および引張弾性率が高い材料で構成されている。
【0046】
サブチューブ40の外表面には金属ナトリウム処理またはプラズマ処理などのエッチング処理が施されている。これによりサブチューブ40と外層との密着性を向上している。
【0047】
図4及び
図5に示すように、ワイヤ補強層30の周囲に180度対向して2本のサブチューブ40が配置され、これらの2本のサブチューブ40には操作線60がそれぞれ挿通されている。2本のサブチューブ40は、管状本体10の軸心方向に対して平行である。
【0048】
2本のサブチューブ40は主管腔20を取り囲むように、同一の円周上に配置されている。本実施形態に代えて、3本または4本のサブチューブ40を主管腔20の周囲に等間隔で配置してもよい。この場合、総てのサブチューブ40に操作線60を配置してもよく、または一部のサブチューブ40に操作線60を配置してもよい。
【0049】
操作線60は、サブチューブ40に対して摺動可能に遊挿されている。操作線60の先端部は管状本体10の遠位部DEに固定されている。操作線60を基端側に牽引することで、管状本体10の軸心に対して偏心した位置に引張力が付与されるため管状本体10は屈曲する。本実施形態の操作線60は極めて細く可撓性が高いため、操作線60を遠位側に押し込んでも、管状本体10の遠位部DEには実質的に押込力は付与されない。
【0050】
操作線60は、単一の線材により構成されていてもよいが、複数本の細線を互いに撚りあわせることにより構成された撚り線であってもよい。
【0051】
操作線60としては、低炭素鋼(ピアノ線)、ステンレス鋼(SUS)、耐腐食性被覆した鋼鉄線、チタンもしくはチタン合金、またはタングステンなどの金属線を用いることができる。このほか、操作線60としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリ(パラフェニレンベンゾビスオキサゾール)(PBO)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリイミド(PI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、またはボロン繊維などの高分子ファイバーを用いることができる。
【0052】
操作線60の先端部は第1マーカー14の外周部分に固定されている。操作線60を第1マーカー14に固定する態様は特に限定されず、ハンダ接合、熱融着、接着剤による接着、操作線60と第1マーカー14との機械的掛止などを挙げることができるが、本実施形態においては操作線60はハンダ接合を用いて第1マーカー14の外周部分に固定されている。
【0053】
保持ワイヤ70は、サブチューブ40、第1マーカー14、第2マーカー16、第3マーカー18及びワイヤ補強層30を共巻きしている。保持ワイヤ70は、サブチューブ40の周囲にコイル巻回またはメッシュ状に編組して形成されている。
【0054】
本実施形態の保持ワイヤ70はコイルであり、より具体的には複数本の素線が多条に巻回されたコイル(多条コイル)である。
【0055】
保持ワイヤ70は、主管腔20の周囲に対向配置された一対のサブチューブ40の外側を取り囲んで螺旋状に巻回されている。本実施形態の保持ワイヤ70の巻回形状は、サブチューブ40の並び方向を長径方向とする略楕円形または略菱形である。
図3〜
図5では、巻回形状が略菱形をなす保持ワイヤ70を破線で図示してある。保持ワイヤ70は、サブチューブ40の周面、具体的には主管腔20の軸心とは反対側にあたる外側表面に接している。ここで、略菱形とは、第一の対角線が第二の対角線よりも長く、かつ当該第一の対角線と当該第二の対角線とが略直交していることを意味している。ここでいう略菱形は、菱形のほか、凧形(カイト形)や、偏平六角形や偏平八角形などの偏平多角形を含む。また、略楕円形は、楕円形や長円形のほか、卵形などの偏心円形を含む。
【0056】
保持ワイヤ70は、ワイヤ補強層30の形成領域においては、長径方向に直交する短径方向の両側または片側でワイヤ補強層30の外表面に接している。
【0057】
サブチューブ40の内側表面は、第1マーカー14、第2マーカー16及び第3マーカー18の外表面に接している(
図2参照)。そして、保持ワイヤ70は、一対のサブチューブ40の外側表面に接して螺旋状に巻回されている。管状本体10の長手方向にみて、保持ワイヤ70は、サブチューブ40の略全長に亘って巻回されている。
【0058】
これにより、保持ワイヤ70は、サブチューブ40と第1マーカー14、第2マーカー16及び第3マーカー18と、第1マーカー14、第2マーカー16及び第3マーカー18の下層にあるワイヤ補強層30とを互いに緩みなく密着させて共巻きしている。このため、外層50の成形工程を経てもサブチューブ40が第1マーカー14、第2マーカー16及び第3マーカー18やワイヤ補強層30に対して高い精度で平行な状態を保つことができ、サブチューブ40の位置ずれを防止することができる。そしてこのサブチューブ40の位置ずれの防止は、保持ワイヤ70が多条コイルであることにより締め付ける力が増すため、更に効果的に行うことができる。
【0059】
保持ワイヤ70の材料としては、補強ワイヤ32として使用可能な上記の金属材料または樹脂材料のいずれかを用いることができる。本実施形態では、保持ワイヤ70は補強ワイヤ32と異種の材料を含む。保持ワイヤ70の延性は、補強ワイヤ32の延性よりも高いことが好ましい。具体的には、鈍し材であるオーステナイト系の軟質ステンレス鋼(W1またはW2)や、銅または銅合金を保持ワイヤ70に用いる一方、補強ワイヤ32にはタングステンやステンレスバネ鋼を用いることができる。
【0060】
保持ワイヤ70に延性の高い材料を用いることで、サブチューブ40の周囲に保持ワイヤ70をコイル巻回またはメッシュ状に編組(本実施形態ではコイル巻回)した際に、保持ワイヤ70が巻き緩むことなく塑性的に伸長変形してサブチューブ40を固定する。
【0061】
ワイヤ補強層30の近位端は、管状本体10の近位端、すなわち操作部90の内部に位置している。
【0062】
内層24の遠位端は、管状本体10の遠位端まで到達していてもよく、または遠位端よりも基端側で終端していてもよい。内層24が終端する位置としては、第1マーカー14の配設領域の内部でもよい。
【0063】
外層50は、管状本体10の主要な肉厚を構成する円管状の部分である。外層50の内部には、内径側から順にワイヤ補強層30と、第1マーカー14、第2マーカー16及び第3マーカー18と、サブチューブ40と、保持ワイヤ70が設けられている。ワイヤ補強層30と、第1マーカー14、第2マーカー16及び第3マーカー18と、保持ワイヤ70とは、管状本体10と同軸に配置されている。
【0064】
外層50の材料としては熱可塑性ポリマー材料を用いることができる。この熱可塑性ポリマー材料としては、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ポリアミドエラストマー(PAE)、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)などのナイロンエラストマー、ポリウレタン(PU)、エチレン−酢酸ビニル樹脂(EVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)またはポリプロピレン(PP)を挙げることができる。
【0065】
外層50には無機フィラーを混合してもよい。無機フィラーとしては、硫酸バリウムや次炭酸ビスマスなどの造影剤を例示することができる。外層50に造影剤を混合することで、体腔内における管状本体10のX線造影性を向上することができる。
【0066】
図6から
図10を参照して、本実施形態のカテーテル1を更に詳細に説明する。
【0067】
カテーテル1は、管状本体10の基端部に設けられた操作部90を有している。操作部90は、操作線60(
図1参照)とともに、管状本体10の遠位部DEの屈曲操作を行うための操作機構を構成している。
【0068】
本実施形態の操作部90は、使用者が手で把持する操作部本体94と、この操作部本体94に対して回転可能かつ摺動可能に設けられた屈曲操作部92と、を有している。管状本体10の基端部は、操作部本体94の内部に導入されている。
【0069】
操作部90は、管状本体10の主管腔20と連通して設けられたハブ96を備えている。ハブ96にはシリンジ(図示せず)が装着される。ハブ96は操作部本体94の後端部に設けられており、ハブ96の後方からシリンジが装着される。シリンジによってハブ96内に薬液等を注入することにより、主管腔20を介して薬液等を被験者の体腔内へ供給することができる。薬液等としては、造影剤、液体抗ガン剤、生理食塩水、瞬間接着剤として用いられるNBCA(n−butyl−2−cianoacrylate)等の薬液の他、デタッチャブルコイルやビーズ(塞栓球状物質)等の医療用デバイスを挙げることができる。
【0070】
操作線60およびサブチューブ40は、操作部本体94の前端部の内部において管状本体10から分岐している。2本のサブチューブ40からそれぞれ引き出された操作線60の基端部は、屈曲操作部92に対して、直接的または間接的に連結されている。
【0071】
屈曲操作部92は円盤状のダイヤルであり、周面には波形の縦目ローレットである凹凸係合部921が形成されている。屈曲操作部92の上面には屈曲操作部92の回転軸を挟んで並行に形成された2本の係合溝924が形成されている。
【0072】
係合溝924は屈曲操作部92の回転半径よりも長く形成されている。係合溝924の幅は操作部本体94に形成されている係合突起97が進入可能な幅となっている。
【0073】
また、本実施形態において係合溝924は屈曲操作部92の円形の外周に対する弦の両端部を結ぶように形成されている。係合溝924がこのように形成されていることで、係合溝924の長さを屈曲操作部92の上面において最大限に長く確保することができる。
【0074】
ただし本発明においては係合溝924が屈曲操作部92の弦の両端部を結ぶ長さに形成された態様に限らず、少なくとも係合溝924の一端部が弦の一端部を通りさえすれば、係合溝924が弦の中途で途切れる態様であってもよい。
【0075】
また、本実施形態においては係合溝924の幅が係合溝924の全長に亘り均一に形成されている。しかし、本発明はこの態様に限らず、例えば遠位側から近位側にかけて幅が漸次広がる態様であってもよい。
【0076】
更に、本発明においては屈曲操作部92の形状は円盤状に限らず、平面視が楕円状や多角形状の屈曲操作部92であってもよい。ただし、このように平面視が円形以外の屈曲操作部92の場合には、係合溝924の長さである屈曲操作部92の回転半径よりも長いとは短径をいうものとする。
【0077】
屈曲操作部92は操作部本体94に対し、遠位側(固定位置)と近位側(操作位置)との間を摺動可能となっている。
【0078】
屈曲操作部92が
図6及び
図7に示す固定位置にあるときは、屈曲操作部92に形成されている係合溝924内に操作部本体94の係合突起97が係合した状態となる。そのため屈曲操作部92の回転が係合突起97により規制された状態となる。この状態において、2本の操作線60は
図7に示すように弛緩状態となっている。
【0079】
一方、屈曲操作部92が
図8及び
図10に示す操作位置にあるときには、係合溝924から係合突起97が脱離した状態となる。そのため係合突起97による規制が解除され、屈曲操作部92は
図9に示すように回転が可能な状態となる。この状態において2本の操作線60は、屈曲操作部92の固定位置から操作位置への摺動に伴い牽引されるため、
図10に示すように弛緩状態よりも緊張した状態となっている。
【0080】
そして操作位置にある屈曲操作部92を何れかの方向に回転操作することにより、2本の操作線60の一方を基端側に牽引して張力を与え、他方を緩めることができる。これにより、牽引された操作線60が管状本体10の遠位部DEを屈曲させる。
【0081】
具体的には、
図2に示すように、屈曲操作部92を一方向(時計回り)に回転させると、一方の操作線60が基端側に牽引される。すると、管状本体10の遠位部DEには、当該一方の操作線60を介して引張力が与えられる。これにより、管状本体10の軸心を基準として、当該一方の操作線60が挿通されているサブチューブ40の側に向かって、管状本体10の遠位部DEは屈曲する。
【0082】
また、
図3に示すように、屈曲操作部92をその回転軸周りにおいて他方向(反時計回り)に回転させる操作を行うと、他方の操作線60が基端側に牽引される。すると、管状本体10の遠位部DEには、当該他方の操作線60を介して引張力が与えられる。これにより、管状本体10の軸心を基準として、当該他方の操作線60が挿通されているサブチューブ40の側に向かって、管状本体10の遠位部DEは屈曲する。
【0083】
このように、操作部90の屈曲操作部92に対する操作によって、2本の操作線60を選択的に牽引することにより、管状本体10の遠位部DEを、互いに同一平面に含まれる第一または第二の方向に選択的に屈曲させることができる。
【0084】
上述したように、屈曲操作部92は操作部本体94に対して摺動可能に取り付けられている。そして屈曲操作部92が固定位置にあるときには係合溝924と係合突起97が係合することにより屈曲操作部92は回転動作ができない状態となり、操作線60は弛緩した状態となる。一方、屈曲操作部92が操作位置にあるときには係合溝924と係合突起97との係合が解除され、屈曲操作部92は回転可能な状態になるとともに、操作線60は緊張した状態となる。
【0085】
本実施形態においては、係合溝924は屈曲操作部92に設けられている。そして係合突起97は操作部本体94に設けられている。
【0086】
係合溝924が屈曲操作部92に設けられていることにより、動作部位である屈曲操作部92を軽量化し操作をし易くすることができる。
【0087】
更に、本発明においては屈曲操作部92に係合突起97を設けるとともに、操作部本体94に係合溝924を設けてもよい。ただし、動作部位である屈曲操作部92に係合溝924を設け、固定される側の操作部本体94に係合突起97を設けることで、屈曲操作部92を操作位置で回転操作するときに屈曲操作部92が周辺部材と干渉することが避けられる。
【0088】
係合突起97及び係合溝924はそれぞれ複数設けられ、複数の係合溝924は互いに平行に設けられている。
【0089】
係合突起97及び係合溝924がそれぞれ複数設けられていることにより、これらによる屈曲操作部92の動作規制力を高めることができる。また、複数の係合溝924が互いに平行に設けられていることにより、これらにそれぞれ係合突起97が係合した状態においても係合溝924の延展方向に屈曲操作部92を摺動することができる。
【0090】
屈曲操作部92が固定位置にあるとき、係合突起97は、固定位置から操作位置に屈曲操作部92を移動させるときに係合突起97が係合溝924から離脱する位置(脱離位置)から屈曲操作部92の回転半径よりも長く係合溝924内に進入した状態となっている。
【0091】
屈曲操作部92が固定位置にあるときの係合突起97の位置を係合突起97の当初位置とする。当初位置から離脱位置までの距離は屈曲操作部92の回転半径よりも長くなっている。そのため固定状態における弛緩の程度を大きく確保することができ、熱膨張に起因したカテーテル1の損傷を防止することが可能となる。
【0092】
また、屈曲操作部92を回転させる際のトルクをN(N・m)、回転軸から力の作用点までの距離をr(m)、屈曲操作部92に加わる力をF(N)とすると、N=rFの関係が成り立つ。屈曲操作部92を所定の角度回転させるトルクは一定であるため、回転軸からの距離が遠いほど少ない力で同一のトルクを発生させることが可能となることが分かる。
【0093】
一方、屈曲操作部92の回転を抑止するために要する力はその抑止力を作用させる点におけるトルクと同じ力であるため、回転軸からの距離が遠いほど少ない抑止力で屈曲操作部92の回転を抑止することができる。これはすなわち回転軸からの距離が遠い位置ほど屈曲操作部92の回転を抑止しやすいということである。
【0094】
そして本実施形態におけるカテーテル1では、係合突起97の当初位置、すなわち屈曲操作部92の回転を抑止する状態にあるときの係合突起97の位置は、円の中心線であって係合溝924に直交するものよりも近位側にあり、回転中心から離れた位置となっている。そのため係合突起97による屈曲操作部92の回転抑止力を強いものとすることができ、屈曲操作部92が固定位置にあるときにその回転抑止を効果的に行うことができる。
【0095】
操作部本体94には、屈曲操作部92に接する位置に凹部95が形成されている。凹部95には、屈曲操作部92に向かって進退自在に摺動するスライダ98が設けられている。スライダ98の下方(
図1の紙面奥側)であって屈曲操作部92に向く先端部には突起(図示せず)が形成されている。
【0096】
突起は、屈曲操作部92の周面の凹凸係合部(縦目ローレット)921の開口幅よりも小さい。そのためスライダ98を屈曲操作部92に向けて摺動させると、突起が屈曲操作部92の周面に掛止されて屈曲操作部92の回転を規制する。これにより、管状本体10の遠位部DEが屈曲した状態で屈曲操作部92の回転を規制することができ、カテーテル1の屈曲状態を維持することができる。
【0097】
また、操作部90自体を管状本体10の軸回りに回転させることで、管状本体10の遠位部DEを所定の角度でトルク回転させることができる。したがって、屈曲操作部92の操作と操作部90の全体の軸回転とを組み合わせて行うことにより、カテーテル1の遠位部DEの向きを自在に制御することが可能となる。また、屈曲操作部92の回転角度を大小に調整することにより操作線60の牽引長さが所定の長さに調整され、カテーテル1の遠位部DEの屈曲角度を制御することができる。このため、種々の角度で分岐する血管等の体腔に対してカテーテル1を押し込んで進入させることが可能である。
【0098】
本発明の医療機器の構成要素は、個々に独立した存在である必要はない。複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
【0099】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)長尺で可撓性の管状本体と、前記管状本体に挿通され、先端部が前記管状本体の遠位部に接続された複数の操作線と、前記管状本体の基端部に設けられた操作部本体と、前記操作部本体に回転可能かつ固定位置と操作位置との間を摺動可能に設けられ、前記操作線の基端部が固定され回転操作により複数の前記操作線に個別に牽引力を付与して前記管状本体の遠位部を屈曲させる屈曲操作部と、を備え、前記操作部本体と前記屈曲操作部との一方には係合突起が設けられているとともに、他方には前記係合突起と係合可能な係合溝が設けられていて、前記屈曲操作部は前記操作部本体に対して前記係合溝の延展方向に沿い移動可能であり、前記屈曲操作部が前記固定位置にあるときは、前記操作線は弛緩状態となるとともに、前記係合突起と前記係合溝とが係合し前記屈曲操作部の回転操作が規制され、前記屈曲操作部が前記操作位置にあるときは、前記操作線が前記弛緩状態よりも緊張した状態となるとともに、前記係合突起と前記係合溝との係合が解除され前記屈曲操作部の回転操作が可能となることを特徴とする医療機器。
(2)前記係合溝は前記屈曲操作部の回転半径よりも長く形成されている(1)に記載の医療機器。
(3)前記屈曲操作部が前記固定位置にあるとき、前記係合突起は、前記固定位置から前記操作位置に前記屈曲操作部を移動させるときに前記係合突起が前記係合溝から離脱する位置から前記屈曲操作部の回転半径よりも長く前記係合溝内に進入した状態となっている(2)に記載の医療機器。
(4)前記係合溝は前記屈曲操作部に設けられている(1)乃至(3)の何れか1項に記載の医療機器。
(5)前記係合突起及び前記係合溝はそれぞれ複数設けられ、複数の前記係合溝は互いに平行に設けられている(1)乃至(4)の何れか1項に記載の医療機器。