(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885058
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】半導体膜の膜質評価方法、成膜装置、及び膜付き基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/54 20060101AFI20210531BHJP
C23C 16/52 20060101ALI20210531BHJP
C03C 17/245 20060101ALN20210531BHJP
H01L 21/363 20060101ALN20210531BHJP
H01B 5/14 20060101ALN20210531BHJP
H01B 1/02 20060101ALN20210531BHJP
H01B 13/00 20060101ALN20210531BHJP
【FI】
C23C14/54 E
C23C16/52
!C03C17/245 A
!H01L21/363
!H01B5/14 Z
!H01B1/02 Z
!H01B13/00 503Z
【請求項の数】12
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-252384(P2016-252384)
(22)【出願日】2016年12月27日
(65)【公開番号】特開2018-104765(P2018-104765A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 隆義
【審査官】
▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−239742(JP,A)
【文献】
特開2010−001518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C23C 16/00−16/56
C03C 17/245
H01B 1/02
H01B 5/14
H01B 13/00
H01L 21/363
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に形成された半導体膜の膜質評価方法であって、
前記半導体膜の放射率又は当該放射率に基づく放射率パラメータを測定し、測定された前記放射率又は前記放射率パラメータに基づいて前記半導体膜の比抵抗を評価することを特徴とする半導体膜の膜質評価方法。
【請求項2】
前記半導体膜を加熱した状態として、前記放射率又は前記放射率パラメータを測定することを特徴とする請求項1に記載の半導体膜の膜質評価方法。
【請求項3】
前記半導体膜は、酸化インジウムスズ膜、フッ素ドープ酸化スズ膜、酸化亜鉛膜、アンチモンドープ酸化スズ膜から選ばれる少なくとも一種の金属酸化物膜であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体膜の膜質評価方法。
【請求項4】
前記基材は、厚み300μm以下のガラスフィルムである請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の半導体膜の膜質評価方法。
【請求項5】
基材が供給され、前記基材の表面に半導体膜を積層する膜積層部と、
前記半導体膜の放射率又は当該放射率に基づく放射率パラメータを測定する測定部と、
前記測定部により測定された前記放射率の値又は前記放射率パラメータの値から前記半導体膜の比抵抗を算出するための、前記半導体膜の比抵抗と前記半導体膜の放射率又は前記放射率パラメータとの検量線とを備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項6】
前記半導体膜が積層された基材が供給され、前記半導体膜を加熱する加熱部を備え、
前記測定部は、前記加熱部により加熱された前記半導体膜の放射率又は当該放射率に基づく放射率パラメータを測定することを特徴とする請求項5に記載の成膜装置。
【請求項7】
測定された前記放射率又は前記放射率パラメータに基づいて、前記膜積層部における成膜条件、及び前記加熱部における加熱条件の少なくとも一方を調整する制御部を備えることを特徴とする請求項6に記載の成膜装置。
【請求項8】
長尺状の基材を前記膜積層部に供給する巻き出しロールと、
前記半導体膜が形成された前記基材を回収する巻き取りロールとを備え
ることを特徴とする請求項5〜請求項7のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記基材は、厚み300μm以下のガラスフィルムである請求項5〜請求項8のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項10】
基材の表面に半導体膜を形成する成膜工程と、
前記半導体膜の放射率又は当該放射率に基づく放射率パラメータを測定する測定工程とを有し、
測定された前記放射率又は前記放射率パラメータに基づいて前記半導体膜の比抵抗を評価して、前記成膜工程における前記半導体膜の形成に関係するパラメータを調整することを特徴とする膜付き基材の製造方法。
【請求項11】
前記成膜工程は、前記基材の表面に前記半導体膜を積層する積層段階と、前記半導体膜を加熱して結晶化させる加熱段階とを有し、
前記測定工程において、前記加熱段階における前記放射率又は前記放射率パラメータを測定することを特徴とする請求項10に記載の膜付き基材の製造方法。
【請求項12】
前記基材は、厚み300μm以下のガラスフィルムである請求項10又は請求項11に記載の膜付き基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体膜の膜質評価方法、成膜装置、及び膜付き基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、可撓性を有する薄肉のガラス基材であるガラスフィルムの上に成膜したいという要望がある。例えば、特許文献1には、基板ロールから供給されるガラスシートを、300℃以上に加熱されたキャンを用いて加熱し、キャン上において、加熱されたガラスシートの表面の上に、スパッタリング法により酸化インジウムスズ膜を形成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−119322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、酸化インジウムスズ膜等の半導体膜を基材の表面に成膜する際には、品質確保や成膜条件の調整等の観点から、成膜された半導体膜の膜質としての比抵抗を測定する必要がある。しかし、半導体膜の比抵抗を測定するためには、半導体に針状の電極を接触させて測定する方法が一般的であり、この方法では、針状の電極を半導体膜に接触させるため、半導体膜を損傷させることがある。本発明者は、鋭意研究の結果、半導体膜の膜質と半導体膜の放射率との間に相関関係があることを発見し、半導体膜の放射率を測定することで、半導体膜を損傷させることなく、半導体膜の膜質を評価できることを見出した。
【0005】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、新規な手法で半導体膜を損傷させることなく半導体膜の膜質を評価することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための膜質評価方法は、基材の表面に形成された半導体膜の膜質評価方法であって、前記半導体膜の放射率又は当該放射率に基づく放射率パラメータを測定し、測定された前記放射率又は前記放射率パラメータに基づいて前記半導体膜の膜質を評価することを特徴とする。
【0007】
上記半導体膜の膜質評価方法において、前記半導体膜を加熱した状態として、前記放射率又は前記放射率パラメータを測定することが好ましい。
上記半導体膜の膜質評価方法において、前記半導体膜は、酸化インジウムスズ膜、フッ素ドープ酸化スズ膜、酸化亜鉛膜、アンチモンドープ酸化スズ膜から選ばれる少なくとも一種の金属酸化物膜であることが好ましい。
【0008】
上記の目的を達成するための成膜装置は、基材が供給され、前記基材の表面に半導体膜を積層する膜積層部と、前記半導体膜の放射率又は当該放射率に基づく放射率パラメータを測定する測定部とを備えることを特徴とする。
【0009】
上記成膜装置において、前記半導体膜が積層された基材が供給され、前記半導体膜を加熱する加熱部を備え、前記測定部は、前記加熱部により加熱された前記半導体膜の放射率又は当該放射率に基づく放射率パラメータを測定することが好ましい。
【0010】
上記成膜装置において、測定された前記放射率又は前記放射率パラメータに基づいて、前記膜積層部における成膜条件、及び前記加熱部における加熱条件の少なくとも一方を調整する制御部を備えることが好ましい。
【0011】
上記成膜装置において、長尺状の前記基材を前記膜積層部に供給する巻き出しロールと、前記半導体膜が形成された前記基材を回収する巻き取りロールとを備えることが好ましい。
【0012】
上記の目的を達成するための膜付き基材の製造方法は、基材の表面に半導体膜を形成する成膜工程と、前記半導体膜の放射率又は当該放射率に基づく放射率パラメータを測定する測定工程とを有し、測定された前記放射率又は前記放射率パラメータに基づいて、前記成膜工程における前記半導体膜の形成に関係するパラメータを調整することを特徴とする。
【0013】
上記膜付き基材の製造方法において、前記成膜工程は、前記基材の表面に前記半導体膜を積層する積層段階と、前記半導体膜を加熱して結晶化させる加熱段階とを有し、前記測定工程において、前記加熱段階における前記放射率又は前記放射率パラメータを測定することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基材の表面に成膜された半導体膜の膜質を非接触で効率よく評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】半導体膜の放射率と膜付きガラスフィルムの比抵抗との相関関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を膜付きガラスフィルムに対する半導体膜の膜質評価方法に具体化した一実施形態を説明する。
図1に示すように、膜付き基材としての膜付きガラスフィルム10は、基材としてのガラスフィルム11と、ガラスフィルム11の片側の表面に形成された半導体膜12とを有している。
【0017】
ガラスフィルム11を構成するガラスの種類は特に限定されるものではない。ガラスの種類としては、例えば、珪酸塩系ガラス、硼酸塩系ガラス、無アルカリガラス、リン酸塩系ガラスが挙げられる。また、ガラスフィルム11は、結晶化ガラスからなる結晶化ガラスフィルムであってもよい。
【0018】
ガラスフィルム11の厚みは特に限定されるものではないが、例えば、300μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることが更に好ましい。また、ガラスフィルム11の厚みの下限値は、例えば、5μmである。半導体膜12としては、例えば、酸化インジウムスズ膜、フッ素ドープ酸化スズ膜、酸化亜鉛膜、アンチモンドープ酸化スズ膜等の金属酸化物膜が挙げられる。
【0019】
半導体膜12の厚みは特に限定されるものではないが、例えば、1μm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましい。半導体膜12の厚みの下限値は、例えば、5nmである。
【0020】
ところで、膜付きガラスフィルム10の半導体膜12の膜質として、主に、比抵抗が挙げられる。半導体膜12のキャリア密度が低いほど、膜付きガラスフィルム10の比抵抗は高くなり、半導体膜12のキャリア密度が高いほど、膜付きガラスフィルム10の比抵抗は低くなることが知られている。
【0021】
ここで、
図2のグラフに示すように、膜付きガラスフィルム10の比抵抗は、半導体膜12の放射率との間に相関関係を有している。
図2のグラフの縦軸は、膜付きガラスフィルム10の比抵抗であり、横軸は、半導体膜12の放射率である。上記放射率は、膜付きガラスフィルム10における半導体膜12の放射量を、膜付きガラスフィルム10の表面温度における黒体放射量で除した値である。
【0022】
図2のグラフは、無アルカリガラスの片面に、酸化インジウムスズ膜からなる半導体膜を常温で積層した後に、加熱により半導体膜を結晶化させてなる膜付きガラスフィルム10について、加熱温度、加熱時間、加熱時の雰囲気ガス成分を異ならせて形成した半導体膜の比抵抗と放射率をプロットしたものである。同グラフに示されるように、比抵抗と放射率との間には、放射率が増加するにしたがって、比抵抗の増加率が大きくなるような相関関係がある。したがって、この相関関係を用いて膜付きガラスフィルム10について測定した放射率から、膜付きガラスフィルム10の比抵抗を推定することができる。
【0023】
次に、本発明の半導体膜12の膜質の評価方法について具体的に説明する。
膜付きガラスフィルム10における半導体膜12の放射率の測定には、測定対象から放射される赤外線の量に応じた出力信号を出力する赤外線センサを備える放射率測定装置が用いられる。放射率測定装置としては、例えば、放射温度計、サーモグラフィーが挙げられる。
【0024】
放射率測定装置により測定する半導体膜12の放射率は、赤外域全体の放射率であってもよいし、赤外域内の特定領域(特定波長)の放射率であってもよい。なお、膜付きガラスフィルム10を構成するガラスフィルム11の種類や半導体膜12の種類に応じて、半導体膜12の膜質の差異により放射率が大きく変化する赤外域内の特定領域を適宜、選択し、当該特定領域における放射率を測定することが好ましい。例えば、酸化インジウムスズ膜からなる半導体膜の場合には、波長8〜14μmの放射率を測定することが好ましい。
【0025】
上記のとおり、半導体膜12の放射率は、半導体膜12の赤外域の放射量の測定値と、膜付きガラスフィルム10の表面温度における黒体放射量とより算出される。ここで、黒体放射量を得るためには、半導体膜12の基材であるガラスフィルム11の温度を求める必要がある。このガラスフィルム11の温度としては、例えば、上記放射率測定装置にて半導体膜12を成膜していないガラスフィルム11の放射量を測定し、この放射量と既知のガラスの放射率より算出される温度を用いることができる。また、ガラスフィルム11の温度と相関のある加熱部の温度を熱電対等で測定し、この加熱部の温度をガラスフィルム11の温度として用いてもよい。上記の方法で得られたガラスフィルム11の温度より黒体放射量が計算され、半導体膜12の放射量を黒体放射量で除することで、半導体膜12の放射率が得られる。
【0026】
放射率を得るための放射量を測定する際には、半導体膜12を加熱することが好ましい。例えば、半導体膜12を250℃以上に加熱することが好ましい。半導体膜12の温度を高めた場合には、半導体膜12からの放射量が増加することによって、放射量の小さな変化を検出することが可能となる。その結果、膜質の評価の精度が高くなる。また、半導体膜12の加熱温度には、半導体膜12の種類に応じた好ましい温度が存在する。なお、半導体膜12を加熱する加熱方法は特に限定されるものではないが、放射量の測定精度の観点から、赤外線を利用した加熱方法以外の加熱方法を用いることが好ましい。
【0027】
次いで、予め作成しておいた、
図2のような比抵抗と放射率との検量線を用いて、放射率測定装置により測定された放射率の値から半導体膜の比抵抗を算出する。つまり、半導体膜12の放射率と比抵抗との相関関係を利用することにより、半導体膜12の放射率に基づいて、比抵抗を非接触で間接的に求めることができる。なお、半導体膜の膜質の評価には、放射率そのものの値に代えて、放射率に基づいて算出される放射率パラメータを用いてもよい。放射率パラメータとしては、例えば、放射温度計により測定される温度、サーモビューアの画像(色調)が挙げられる。
【0028】
次に、本発明に基づいた半導体膜の膜質の評価方法を利用した成膜装置について説明する。
図3に示すように、成膜装置20は、基材である長尺状のガラスフィルム11を供給する巻き出しロール21と、半導体膜が成膜された膜付きガラスフィルム10を回収する巻き取りロール22とを備えている。巻き出しロール21と巻き取りロール22との間におけるガラスフィルム11の移動経路上には、ガラスフィルム11に半導体材料12aからなる半導体膜を常温で積層する膜積層部23が設けられている。
【0029】
膜積層部23は、成膜方法に応じて適宜構成することができる。膜積層部23としては、例えば、スパッタリング法により半導体膜を積層する膜積層部、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により半導体膜を積層する膜積層部が挙げられる。
【0030】
上記ガラスフィルム11の移動経路上における膜積層部23の下流側には、半導体膜が積層されたガラスフィルム11を加熱して半導体膜を結晶化させる加熱部24が設けられている。加熱部24により加熱されて、半導体膜が結晶化することにより、半導体膜が積層されたガラスフィルム11は、膜付きガラスフィルム10となる。
【0031】
加熱部24は、回転可能に構成されたガラスやセラミック等からなる筒状部24aと、筒状部24a内に配置されて、筒状部24aにおけるガラスフィルム11に接する部分を加熱するヒーター24bとを有する。ガラスフィルム11における半導体膜が形成されていない側の表面に接触することによりガラスフィルム11を加熱する。また、加熱部24は、ガスの導入によって、筒状部24aにより加熱されたガラスフィルム11の周囲の雰囲気ガス成分を調整する雰囲気調整部24cを有している。
【0032】
成膜装置20は、膜積層部23及び加熱部24を制御する制御部25を備えている。制御部25は、膜積層部23における半導体膜の形成に関係するパラメータである成膜条件を調整する。成膜条件としては、例えば、半導体材料12aの積層量、積層速度、基材温度、雰囲気ガス成分が挙げられる。また、制御部25は、加熱部24における半導体膜の形成に関係するパラメータである加熱条件を調整する。加熱条件としては、例えば、ヒーター24bの加熱温度、加熱時間、雰囲気ガス成分が挙げられる。
【0033】
成膜装置20における加熱部24の近傍には、ガラスフィルム11に積層された半導体膜の放射率を測定する測定部26(放射率測定装置)が設けられている。測定部26は、ガラスフィルム11を挟んだ加熱部24の反対側の位置であって、ガラスフィルム11に積層された半導体膜における加熱部24に加熱されている部分の放射量を測定可能な位置に配置されている。測定部26において、測定された放射量から放射率が演算され、演算された放射率は、制御部25に入力される。また、上記ガラスフィルム11の移動経路上における加熱部24の下流側には、方向転換用のローラー27が設けられている。
【0034】
次に、成膜装置20を用いて膜付きガラスフィルム10を製造する方法について説明する。成膜装置20は、ロール・ツー・ロール方式でガラスフィルム11に半導体膜を形成する。
【0035】
まず、巻き出しロール21から膜積層部23にガラスフィルム11が供給される。そして、膜積層部23において、制御部25により調整された成膜条件にてガラスフィルム11の表面に半導体材料12aからなる半導体膜が積層される(成膜工程における積層段階)。
【0036】
半導体膜が積層されたガラスフィルム11は加熱部24に供給される。そして、加熱部24において、制御部25により調整された加熱条件にて半導体膜が結晶化に適した温度まで加熱される(成膜工程における加熱段階)。例えば、酸化インジウムスズ膜からなる半導体膜の場合には、半導体膜を250℃以上に加熱することが好ましい。加熱により半導体膜が結晶化されることにより、半導体膜が積層されたガラスフィルム11は、膜付きガラスフィルム10となる。加熱部24を経た膜付きガラスフィルム10は、ローラー27を通過して、巻き取りロール22により巻き取られる。
【0037】
また、加熱部24において半導体膜を加熱する際に、加熱された状態の半導体膜の放射量が測定部26により測定されるとともに、測定された放射量、及び基材であるガラスフィルム11の温度より放射率が演算される(測定工程)。そして、放射率に応じた出力信号が制御部25に送信されて、制御部25は、測定された放射率に基づいて膜積層部23及び加熱部24をフィードバック制御する。
【0038】
すなわち、制御部25において、測定された放射率が半導体膜の目標範囲内の放射率であるか否かが判断される。測定された放射率が半導体膜の目標範囲内である場合には、制御部25は、膜積層部23における成膜条件及び加熱部24における加熱条件が維持されるように膜積層部23及び加熱部24を制御する。一方、測定された放射率が半導体膜の目標範囲内でない場合には、制御部25は、測定された放射率が目標範囲内になるように、膜積層部23における成膜条件及び加熱部24における加熱条件の少なくとも一方を調整するように膜積層部23及び加熱部24を制御する。なお、測定部26を、放射率に基づいて算出される放射率パラメータを測定する構成とし、測定された放射率パラメータに基づいて上記のフィードバック制御を行ってもよい。
【0039】
次に、本実施形態の効果について記載する。
(1)半導体膜の膜質評価方法は、膜付きガラスフィルム10における半導体膜12の放射率又は放射率パラメータを測定し、測定された放射率又は放射率パラメータに基づいて半導体膜の膜質を評価する。
【0040】
図2のグラフに示すように、半導体膜12の放射率は、膜付きガラスフィルム10の比抵抗との間に相関関係を有している。したがって、半導体膜12の放射率又は放射率パラメータを測定することにより、膜付きガラスフィルム10の比抵抗(比抵抗に基づく膜質)を推測することが可能である。
【0041】
(2)本実施形態の膜質評価方法によれば、非接触で半導体膜12の膜質を評価することができる。したがって、膜付きガラスフィルム10を製造する際の製造ライン上で半導体膜12を損傷させることなく、膜質を評価することができる。
【0042】
なお、従来の比抵抗の測定に基づく評価方法や光の透過率等の光学特性に基づく評価方法も、製造ライン上で半導体膜12の膜質を評価することが可能ではあるが、この場合には、特定の測定点のみの評価となるために、長尺品等の大面積の膜付きガラスフィルム10には適さないという欠点がある。一方、半導体膜12の放射率又は放射率パラメータの測定は、比抵抗や光の透過率の測定と比較して、広範囲の領域を測定対象とすることが容易である。したがって、本実施形態の膜質評価方法は、測定対象が長尺品等の大面積の膜付きガラスフィルム10である場合に特に適している。
【0043】
(3)本実施形態の膜質評価方法によれば、ガラスフィルム11の表面に半導体膜12を積層する積層段階と、半導体膜12を加熱して結晶化させる加熱段階とを有する成膜工程において、加熱段階と平行して半導体膜12の膜質を評価することができる。つまり、加熱段階において、結晶化により刻々と変化していく半導体膜12の膜質を把握することができる。したがって、半導体膜12の膜質に基づいて成膜工程をフィードバック制御する場合において、フィードバック制御が反映されるまでのタイムラグが短くなる。また、結晶化により刻々と変化していく半導体膜12の膜質を把握することができることから、目的の膜質を得るために適した加熱条件等の条件出しを容易に行うことができる。
【0044】
(4)半導体膜を加熱した状態として、放射率又は放射率パラメータを測定する。
上記構成によれば、放射率又は放射率パラメータの測定精度が向上する。
(5)成膜装置20は、ガラスフィルム11が供給され、ガラスフィルム11に半導体膜を積層する膜積層部23と、半導体膜の放射率又は放射率パラメータを測定する測定部26とを備える。
【0045】
上記構成によれば、測定部26により測定された半導体膜の放射率又は放射率パラメータに基づいて、半導体膜の膜質を評価することにより、得られた膜付きガラスフィルム10が目的の膜質であるか否かを容易に判定することができる。したがって、目的の膜質の半導体膜を安定して形成することができる。
【0046】
(6)成膜装置20は、半導体膜が積層されたガラスフィルム11が供給され、半導体膜を加熱する加熱部24を備え、測定部26は、加熱部24により加熱された半導体膜の放射率又は当該放射率に基づく放射率パラメータを測定する。
【0047】
上記構成によれば、放射率又は放射率パラメータの測定精度が向上する。
(7)成膜装置20は、測定された放射率又は放射率パラメータに基づいて、膜積層部23における成膜条件、及び加熱部24における加熱条件の少なくとも一方を調整する制御部25を備える。
【0048】
上記構成によれば、形成される半導体膜の膜質を容易に制御することができる。したがって、目的の膜質の半導体膜を更に安定して形成することができる。
(8)成膜装置20は、長尺状のガラスフィルム11を膜積層部23に供給する巻き出しロール21と、加熱部24を通過して半導体膜が形成されたガラスフィルム11(膜付きガラスフィルム10)を回収する巻き取りロール22とを備える。
【0049】
上記構成によれば、長尺状のガラスフィルム11に対して、目的の膜質の半導体膜を安定して形成することができる。
(9)膜付きガラスフィルムの製造方法は、ガラスフィルム11の表面に半導体膜を形成する成膜工程と、半導体膜の放射率又は放射率パラメータを測定する測定工程とを有する。測定された放射率又は放射率パラメータに基づいて、成膜工程における半導体膜の形成に関係するパラメータを調整する。
【0050】
上記構成によれば、形成される半導体膜の膜質を容易に制御することができる。
(10)成膜工程は、ガラスフィルム11の表面に半導体膜を積層する積層段階と、半導体膜を加熱して結晶化させる加熱段階とを有する。測定工程において、加熱段階における放射率又は放射率パラメータを測定する。
【0051】
上記構成によれば、放射率又は放射率パラメータの測定精度が向上する。また、成膜工程をフィードバック制御する場合において、フィードバック制御が反映されるまでのタイムラグが短くなる。
【0052】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・本実施形態の半導体膜の膜質評価方法は、樹脂フィルム等のガラス以外の基材の表面に半導体膜が形成された物品に適用してもよい。成膜装置20は、樹脂フィルム等のガラス以外の基材の表面に半導体膜を形成する成膜装置であってもよい。
【0053】
・本実施形態の半導体膜の膜質評価方法は、半導体膜の形成途中(例えば、半導体膜を加熱して結晶化させる加熱段階)の物品に対して行ってもよいし、半導体膜を形成した後の物品に対して行ってもよい。
【0054】
・本実施形態の半導体膜の膜質評価方法を、半導体膜を有する物品の比抵抗測定方法としてもよい。
・成膜装置20について、制御部25を省略してもよい。この場合には、測定された放射率又は放射率パラメータに基づいて、膜積層部23における成膜条件、及び加熱部24における加熱条件を調整する操作を作業者が行うことが好ましい。
【0055】
・成膜装置20について、ロール・ツー・ロール方式に代えて、膜積層部23及び加熱部24に間欠的にガラスフィルム11を供給する方式の装置としてもよい。
【符号の説明】
【0056】
10…膜付きガラスフィルム、11…ガラスフィルム、12…半導体膜、12a…半導体材料、20…成膜装置、21…巻き出しロール、22…巻き取りロール、23…膜積層部、24…加熱部、24a…筒状部、24b…ヒーター、24c…雰囲気調整部、25…制御部、26…測定部、27…ローラー。