特許第6885068号(P6885068)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885068
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】封止用樹脂組成物および半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/04 20060101AFI20210531BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20210531BHJP
   C08K 5/3472 20060101ALI20210531BHJP
   C08L 61/04 20060101ALI20210531BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20210531BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
   C08L79/04 Z
   C08K3/013
   C08K5/3472
   C08L61/04
   H01L23/30 R
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-5295(P2017-5295)
(22)【出願日】2017年1月16日
(65)【公開番号】特開2018-115233(P2018-115233A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 佑衣
【審査官】 幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−025120(JP,A)
【文献】 特開2015−101669(JP,A)
【文献】 特開2015−101667(JP,A)
【文献】 特開2015−101655(JP,A)
【文献】 特開2015−025121(JP,A)
【文献】 特開平07−268076(JP,A)
【文献】 特開平06−322118(JP,A)
【文献】 特開平05−112630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/00
C08K 5/3472
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式(1)で表されるマレイミド樹脂と、
(B)熱硬化性樹脂と、
(C)無機充填材と、
(D)複素環化合物と、
を含む、封止用樹脂組成物であって、
前記(A)一般式(1)で表されるマレイミド樹脂の含有量は、当該封止用樹脂組成物全体(ただし(C)無機充填材を除く)に対して30質量%以上65質量%以下であり、
前記(D)複素環化合物が、トリアゾール系化合物を含み、
前記(B)熱硬化性樹脂が、ベンゾオキサジン樹脂を含まない、封止用樹脂組成物。
【化1】

(式(1)において、Xは炭素数1〜18の2価の有機基、式「−SO−」で表される基、「−CO−」で表される基、酸素原子または単結合である。また、Rは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜6の置換基もしくは無置換の炭化水素基である。)
【請求項2】
請求項1に記載の封止用樹脂組成物であって、
前記(B)熱硬化性樹脂の軟化点が、前記(A)マレイミド樹脂の軟化点より低い温度である封止用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の封止用樹脂組成物であって、
前記(B)熱硬化性樹脂が、
(B−1)マレイミド樹脂(ただし、(A)マレイミド樹脂に該当するものを除く。)
よび(B−3)フェノール樹脂からなる群から選ばれる一種である封止用樹脂組成物。
【請求項4】
(A)一般式(1)で表されるマレイミド樹脂と、
(B)熱硬化性樹脂と、
(C)無機充填材と、
(D)複素環化合物と、
を含む、封止用樹脂組成物であって、
前記封止用樹脂組成物を200℃120秒の条件で硬化させ、さらに250℃4時間後硬化させた硬化物における50℃から70℃の範囲において算出した平均線膨張係数α1に対する、310℃から340℃の範囲において算出した平均線膨張係数α2の比(α2/α1)が、1.0以上7.0以下であり、
前記(D)複素環化合物が、トリアゾール系化合物を含み、
前記(B)熱硬化性樹脂が、ベンゾオキサジン樹脂を含まない、封止用樹脂組成物。
【化1】

(式(1)において、Xは炭素数1〜18の2価の有機基、式「−SO−」で表される基、「−CO−」で表される基、酸素原子または単結合である。また、Rは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜6の置換基もしくは無置換の炭化水素基である。)
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の封止用樹脂組成物であって、
前記(D)複素環化合物の含有量が、封止用樹脂組成物全体に対して、0.01質量%以上1質量%以下である封止用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の封止用樹脂組成物であって、
前記封止用樹脂組成物を200℃120秒の条件で硬化させ、さらに、250℃4時間硬化させた硬化物のガラス転移温度が250℃以上350℃以下である封止用樹脂組成物。
【請求項7】
半導体素子と、
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の封止用樹脂組成物の硬化物と、
を備える半導体装置。
【請求項8】
請求項7記載の半導体装置であって、
前記半導体素子がSiC、GaN、Ga、またはダイヤモンドを用いたものである半導体装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止用樹脂組成物および半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子を封止するために用いられる樹脂組成物について、様々な検討がなされている。このような技術としては、例えば特許文献1、特許文献2に記載のものが挙げられる。
【0003】
特許文献1には、エポキシ樹脂を含有する封止材用樹脂組成物に関する技術が開示されている。具体的には、エポキシ樹脂、酸無水物、アミン化合物及びフェノール化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種、有機基含有シルセスキオキサン、シリカ及び複合金属水酸化物を含有してなり、かつ、該エポキシ樹脂、酸無水物、アミン化合物及びフェノール化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種は融点が100℃以上である封止材用樹脂組成物が記載されている。
【0004】
一方、特許文献2には、ウェハの反りを十分に抑制することができ、成形性に優れた半導体封止用樹脂組成物として、特定構造を有するビスマレイミド化合物、アリル化合物、及び重合開始剤を含有する半導体封止用樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−028928号公報
【特許文献2】特開2014−001289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
封止用樹脂組成物は、上述のように、半導体素子を封止する封止材を形成するために用いられる。このような封止材について、通常のシリコンデバイスにおいては、例えば175℃程度の温度環境下での使用に耐え得ることが重要である。しかしながら、SiC、GaN、Ga、またはダイヤモンドのようなワイドバンドギャップ材料を使用したパワー半導体素子を備える半導体装置においては、さらに高温の環境下における温度サイクル信頼性および長時間使用に対する耐久性に優れた封止材を実現することが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、
(A)一般式(1)で表されるマレイミド樹脂と、
(B)熱硬化性樹脂と、
(C)無機充填材と、
(D)複素環化合物と、
を含む、封止用樹脂組成物であって、
前記(A)一般式(1)で表されるマレイミド樹脂の含有量は、当該封止用樹脂組成物全体(ただし成分(C)無機充填材を除く)に対して30質量%以上65質量%以下であり、
前記(D)複素環化合物が、トリアゾール系化合物を含み、前記(B)熱硬化性樹脂が、ベンゾオキサジン樹脂を含まない、封止用樹脂組成物が提供される。

【0008】
【化1】
【0009】
(式(1)において、Xは炭素数1〜18の2価の有機基、式「−SO−」で表される基、「−CO−」で表される基、酸素原子または単結合である。また、Rは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜6の置換基もしくは無置換の炭化水素基である。)また本発明によれば、半導体素子と、上記の封止用樹脂組成物の硬化物と、を備える半導体装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、温度サイクル信頼性に優れた封止用樹脂組成物およびそれを用いた半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る半導体装置の一例を示す断面図である。
図2】本実施形態に係る半導体装置の一例を示す断面図である。
図3】本実施形態に係る車載用電子制御ユニットの一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0013】
まず、本実施形態に係る封止用樹脂組成物について説明する。
【0014】
本実施形態の封止用樹脂組成物は、
(A)一般式(1)で表されるマレイミド樹脂と、
(B)熱硬化性樹脂と、
(C)無機充填材と、
を含むものであって、(A)一般式(1)で表されるマレイミド樹脂の含有量は、当該封止用樹脂組成物全体(成分(C)無機充填材を除く)に対して30質量%以上65質量%以下とすることができる。
【0015】
【化1】
【0016】
(式(1)において、Xは炭素数1〜18の2価の有機基、式「−SO−」で表される基、「−CO−」で表される基、酸素原子または単結合である。また、Rは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜6の置換基もしくは無置換の炭化水素基である。)本発明者は、耐熱性が高く、架橋点間距離の長い、一般式(1)で表されるマレイミド樹脂、熱硬化性樹脂および無機充填材を含む、封止用樹脂組成物において、特定のマレイミド樹脂と、熱硬化性樹脂の架橋と無機充填材の複合化により、封止樹脂組成物の最適な架橋構造を得られることに着眼した。
このような着眼点に基づいて検討した結果、一般式(1)で表されるマレイミド樹脂の配
合量を最適化することで、封止樹脂組成物の最適な架橋構造に制御できるため、封止樹脂組成物の硬化物の温度サイクル信頼性と高温長期保管特性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
詳細なメカニズムは定かでないが、一般式(1)で表されるマレイミド樹脂の配合量を最適化することで、熱硬化性樹脂との架橋構造が最適化し、上記のように温度サイクル信頼性と高温長期保管特性を向上できると考えられる。
【0017】
本実施形態によれば、上記封止用樹脂組成物を用いることにより、温度サイクル信頼性や高温長期保管特性に優れた封止材やこれを用いた半導体装置を実現することができる。
【0018】

また、封止用樹脂組成物を用いることにより、温度サイクル信頼性や高温長期保管特性に優れた構造体を実現することができる。このような構造体としては、封止用樹脂組成物の硬化物を備えるものであり、例えば、パワー半導体などの半導体素子が封止用樹脂組成物の硬化物で封止された電子装置、ウェハの回路面を封止用樹脂組成物の硬化物で封止されたウェハレベルパッケージ、疑似ウェハに用いられる封止用樹脂組成物の硬化物などが挙げられる。また、上記構造体としては、一般的な電子装置に限らず、車載用電子制御ユニット(ECU)やこれに用いられる配線基板が挙げられる。上記配線基板は、金属配線を封止用樹脂組成物の硬化物により封止された構造を有する。また、上記車載用電子制御ユニットは、上記配線基板と、配線基板上に搭載された複数の電子素子と、が封止用樹脂組成物の硬化物で封止された構造を有する。
【0019】
また、本実施形態の封止用樹脂組成物の硬化物は、高いガラス転移温度を有することができるため、車両などの高温環境での使用に好適に用いることもできる。このため、封止用樹脂組成物は、ローターの固定部材として用いることもできる。
【0020】
また、本実施形態の封止用樹脂組成物は、例えば、顆粒状、タブレット状またはシート状等の所定の形状を有していてもよい。これにより、トランスファー成形、射出成形、および圧縮成形等の公知の成形方法を用いて半導体素子を封止成形することが容易となる。本実施形態において、顆粒状とは、封止用樹脂組成物の粉末同士を固めた凝集体であり、タブレット状とは、封止用樹脂組成物を高圧で打錠成形することによって所定形状を有するように造形された造形体であり、シート状とは、例えば、枚葉状または巻き取り可能なロール状を有する封止用樹脂組成物からなる樹脂膜であることを意味する。顆粒状、タブレット状またはシートの封止用樹脂組成物は、半硬化状態(Bステージ状態)であってもよい。室温(例えば25℃)で固形状態とすることができる。これにより、顆粒状やタブレット状などの形状を付与しやすい特性である賦形性に優れた封止用樹脂組成物を実現することができる。
【0021】
以下、本実施形態における封止用樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
((A)一般式(1)で表されるマレイミド樹脂)
本実施形態の封止用樹脂組成物は、一般式(1)で表されるマレイミド樹脂を含む。
これにより、ガラス転移温度を高め、架橋構造を最適化でき、封止材としての温度サイクル信頼性と高温長期保管特性をより効果的に向上させることができる。
【0022】
【化1】
【0023】
(式(1)において、Xは炭素数1〜18の2価の有機基、式「−SO−」で表される基、「−CO−」で表される基、酸素原子または単結合である。また、Rは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜6の置換基もしくは無置換の炭化水素基である。)本実施形態において、封止用樹脂組成物中における(A)マレイミド樹脂の含有量は、例えば封止用樹脂組成物全体(ただし成分(C)無機充填材を除く)に対して30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。(A)マレイミド樹脂の含有量を上記下限値以上とすることにより、封止材としての耐熱性を効果的に向上させ、さらに、その柔軟な骨格により内部応力を低減することができる。
【0024】
また、(A)マレイミド樹脂の含有量は、例えば封止用樹脂組成物全体(ただし(C)無機充填材を除く)に対して65質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、55質量%以下であることがさらに好ましい。(A)マレイミド樹脂の含有量を上記上限値以下とすることにより、封止用樹脂組成物作製時のハンドリング性、および封止用樹脂組成物としての靭性を向上させることができる。
【0025】
また、本実施形態において、封止用樹脂組成物全体(ただし(C)無機充填材を除く)とは、封止用樹脂組成物全体の含有量から(C)無機充填材の含有量を除いた含有量を指す。
((B)熱硬化性樹脂)
本実施形態の封止用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を含む。
このような熱硬化性樹脂としては、例えば、マレイミド樹脂(ただし、(A)マレイミド樹脂に該当するものを除く)、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂(エポキシ化合物)、ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂等、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、シアネート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、およびベンゾシクロブテン樹脂等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
この中でも、(A)マレイミド樹脂と反応可能な、マレイミド樹脂(ただし、(A)マレイミド樹脂に該当するものを除く)、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂等が好ましい。
【0026】
熱硬化性樹脂の軟化点は、(A)マレイミド樹脂の軟化点より低い温度であることが好ましい。軟化点は、140℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることがさらに好ましい。(B)熱硬化性樹脂の軟化点を上記上限値以下とすることにより、封止用樹脂組成物作製時のハンドリング性が向上する。
【0027】
上記の中でも、本実施形態において、封止用樹脂組成物として、(B−1)マレイミド樹脂(ただし(A)マレイミド樹脂に該当するものを除く)、(B−2)ベンゾオキサジン化合物、(B−3)フェノール樹脂を含有させることが好ましい。これにより、樹脂組成物としての流動性と硬化性をバランスよく向上させることができる。
(B−1)マレイミド樹脂(ただし(A)マレイミド樹脂に該当するものを除く)
(B−1)マレイミド樹脂は、例えば下記式(2)に示す化合物を用いることができる。これにより、ガラス転移温度を高めることができる。
【0028】
【化2】
【0029】
(式(2)において、Rは炭素数1〜30の2価の有機基であり、酸素原子および窒素原子のうちの一種以上を含んでいてもよい。)
上記式(2)において、封止材の高温保管特性を向上させる観点からは、Rが芳香環を含む有機基であることが好ましい。
【0030】
本実施形態において適用することができる上記式(2)に示す化合物としては、たとえば、下記に示す化合物が挙げられる。
【0031】
【化3】
【0032】
また、(B−1)マレイミド樹脂は、例えば下記式(4)に示す化合物を用いることができる。このようなマレイミド樹脂は結晶性が低く非常に低融点であるため、高いガラス転移温度を維持しつつ封止用樹脂組成物作製時のハンドリング性をより高めることができる。
【0033】
【化4】
【0034】
(式(4)において、nは10以下の整数であり、好ましくは5以下の整数である。Rは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4の置換もしくは無置換の炭化水素基である。)
(B−2)ベンゾオキサジン樹脂
ベンゾオキサジン樹脂としては、ベンゾオキサジン環を2つ以上有する化合物が挙げられる。
【0035】
例えば下記式(5)に示す化合物、および下記式(7)に示す化合物のうちの少なくとも一方を含むことができ、下記式(5)に示す化合物を少なくとも含むことがより好ましい。これにより、封止材の耐熱性を低下させずに、機械特性をより効果的に向上させることができる。
【0036】
【化5】
【0037】
(式(5)において、Rは炭素数1〜30の2価の有機基であり、酸素原子および窒素原子のうちの一種以上を含んでいてもよい。)
封止材の高温保管特性を向上させる観点からは、Rが芳香環を含む有機基であることがより好ましい。本実施形態においては、上記式(5)に示す化合物として、例えば以下のようなものを用いることができる。
【0038】
【化6】
【0039】
【化7】
【0040】
(式(7)において、Rは炭素数1〜30の2価の有機基であり、酸素原子、窒素原子、および硫黄原子のうちの一種以上を含んでいてもよい。Rは、それぞれ独立して炭素数1〜12の芳香族炭化水素基である。)
(B−3)フェノール樹脂
フェノール樹脂は、特に限定されないが、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールノボラック等のノボラック型樹脂;ポリビニルフェノール;トリスメタンフェノール型樹脂等の多官能型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物;レゾール型フェノール樹脂等から選択される一種または二種以上を含むことができる。ガラス転移温度や吸水性の観点から、トリスメタンフェノール型樹脂やビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂を使用することが好ましい。
【0041】
本実施形態において、封止用樹脂組成物の有機成分中における(B)熱硬化性樹脂の含有量(ただし(A)マレイミド樹脂に該当するものを除く)の下限値は、例えば封止用樹脂組成物全体(ただし成分(C)無機充填材を除く)に対して30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。(B)熱硬化性樹脂の含有量を上記下限値以上とすることにより、封止用樹脂組成物作製時のハンドリング性を向上させることができる。
【0042】
また、上記(B)熱硬化性樹脂の含有量(ただし(A)マレイミド樹脂に該当するものを除く)の上限値は、例えば封止用樹脂組成物全体(ただし成分(C)無機充填材を除く)に対して70質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましい。(B)熱硬化性樹脂の含有量を上記上限値以下とすることにより、内部応力の低減と高い耐熱性を両立した樹脂組成物が得られる。
(C)無機充填材
本実施形態の封止用樹脂組成物は、(C)無機充填材を含む。これにより、封止用樹脂組成物から得られる封止材の剛性を一段と向上させることができる。
【0043】
上記(C)無機充填材としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、シリカ、炭酸カルシウム、炭化ホウ素、クレー、マイカ、タルク、ワラストナイト、ガラスビーズ、ミルドカーボン、グラファイト等から選択される1種以上が用いられる。
【0044】
この中でも、シリカを用いることが好ましく、溶融球状シリカ、溶融破砕シリカ、および結晶シリカから選択される一種または二種以上を含むことができる。これらの中でも、封止用樹脂組成物の充填性や、封止材の高温長期保管特性等を向上させる観点からは、溶融球状シリカを含むことがより好ましい。
【0045】
上記シリカは、例えばSiOの含有量が99.8質量%以上であることが好ましい。このような純度の高いシリカを使用することによって、金属不純物等のイオン性不純物量を低減させつつ、良好な耐熱性や機械特性を有する封止材を実現することが容易となる。封止材の高温長期保管特性をより効果的に向上させる観点からは、シリカにおけるSiOの含有量が99.9質量%以上であることが好ましい。
【0046】
本実施形態において、封止用樹脂組成物中における(C)無機充填材の含有量は、例えば封止用樹脂組成物全体に対して、60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。(C)無機充填材の含有量を上記下限値以上とすることにより、封止材としての剛性を効果的に向上させることができる。
【0047】
また、(C)無機充填材の含有量は、例えば封止用樹脂組成物全体に対して、95質量%以下であることが好ましく、93質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましい。(C)無機充填材の含有量を上記上限値以下とすることにより、装置等の信頼性について一段と向上を図ることができる。
(D)複素環化合物
本実施形態の封止用樹脂組成物は、例えば(D)複素環化合物を含むことができる。複素環化合物は、封止用樹脂組成物と装置における封止材以外の他の部材との密着性を向上させる機能を有するものである。
【0048】
本実施形態において、複素環化合物としては、例えば、単環である、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環及びトリアゾール環等の5員環、ピリジン環、ピリミジン環及びトリアジン環等の6員環が挙げられる。また、複環としては、例えば、インドール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、キノリン環、ビピリジル環及びフェナントロリン環が挙げられる。また、これらの複素環には、ベンゼン環、ナフタレン環等の芳香族性を有する炭素のみから構成される同素環が縮合されていてもよい。これらの複素環化合物は官能基の有無によらないが、塩基性の官能基が複素環に直接結合した化合物が好ましい。これらは一種または二種以上を組み合せて用いることができる。
また、複素環化合物の含有量は、例えば封止用樹脂組成物全体に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.03質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることが特に好ましい。複素環化合物の含有量を上記下限値以上とすることにより、樹脂組成物と他の部材との密着性を効果的に向上させることができる。
また、複素環化合物の含有量は、例えば封止用樹脂組成物全体に対して1質量%以下であることが好ましく、0.9質量%以下であることがより好ましく、0.8質量%以下であることが特に好ましい。複素環化合物の含有量を上記上限値以下とすることにより、封止用樹脂組成物作製時のハンドリング性を向上させることができる。
【0049】
なお、複素環化合物としてイミダゾールおよびトリアゾール系化合物を用いた場合、(A)マレイミド樹脂との重合反応を促進する機能をも併せ持つため、密着助剤に硬化触媒としての機能を発揮させることができる。
(硬化促進剤)
本実施形態の封止用樹脂組成物は、さらに、硬化促進剤を含むことができる。硬化促進剤は、(A)マレイミド樹脂または(B)熱硬化性樹脂の硬化を促進させるものであればよい。
【0050】
本実施形態において、硬化促進剤は、例えば有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;2−フェニルイミダゾール、2−メチルイミダゾール等のイミダゾール類;1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、ベンジルジメチルアミン等が例示されるアミジンや3級アミン、前記アミジンやアミンの4級塩等の窒素原子含有化合物から選択される1種類または2種類以上を含むことができる。
【0051】
本実施形態において、封止用樹脂組成物中における硬化促進剤の含有量は、例えば封止用樹脂組成物全体に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.03質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることが特に好ましい。硬化促進剤の含有量を上記下限値以上とすることにより、樹脂組成物の硬化性を効果的に向上させることができる。
【0052】
また、硬化促進剤の含有量は、例えば封止用樹脂組成物全体に対して5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。硬化促進剤の含有量を上記上限値以下とすることにより、封止用樹脂組成物の流動性を向上させることができる。
(シランカップリング剤)
本実施形態の封止用樹脂組成物は、さらに、シランカップリング剤を含むことができる。
これにより、封止用樹脂組成物の密着性のさらなる向上を図ることができる。
【0053】
シランカップリング剤は、例えばシランカップリング剤により表面処理が施された(C)無機充填材を多成分と混合することにより封止用樹脂組成物中に含ませることができる。一方で、(C)無機充填材に対して上記表面処理を行わず、各成分とともにシランカップリング剤をミキサー等へ投入し、これを混合することによってシランカップリング剤を封止用樹脂組成物中に含ませてもよい。
【0054】
シランカップリング剤としては、例えばエポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン、メタクリルシラン等の各種シラン系化合物を用いることができる。
【0055】
これらを例示すると、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−[ビス(β−ヒドロキシエチル)]アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−
アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(β−アミノエチル)アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N−(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N−(ジメトキシメチルシリルイソプロピル)エチレンジアミン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチルーブチリデン)プロピルアミンの加水分解物等のシラン系カップリング剤が挙げられる。
【0056】
これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらのカップリング剤の中では、フェニルアミノプロピルトリメトキシシランのようなアミノシランを含有することが好ましい。
【0057】
本実施形態において、封止用樹脂組成物中におけるシランカップリング剤の含有量は、例えば封止用樹脂組成物全体に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.03質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることが特に好ましい。シランカップリング剤の含有量を上記下限値以上とすることにより、樹脂組成物の流動性と密着性を効果的に向上させることができる。
【0058】
また、シランカップリング剤の含有量は、例えば封止用樹脂組成物全体に対して5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。シランカップリング剤の含有量を上記上限値以下とすることにより、封止用樹脂組成物の硬化性を向上させることができる。
(他の成分)
本実施形態の封止用樹脂組成物には、さらに必要に応じて、ハイドロタルサイト類および多価金属酸性塩等の無機イオン交換体に例示されるイオン捕捉剤;シリコーンゴム等の低応力材;カルナバワックス等の天然ワックス、合成ワックス、ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸及びその金属塩類もしくはパラフィン等の離型剤;カーボンブラック、ベンガラ等の着色剤;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、ホスファゼン等の難燃剤;酸化防止剤等の各種添加剤を適宜配合してもよい。これらの配合量は任意である。
本実施形態において、封止用樹脂組成物中における(C)無機充填材を除いた配合量の割合は、例えば封止用樹脂組成物全体に対して、5質量%以上であることが好ましく、7質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。封止用樹脂組成物中における(C)無機充填材を除いた配合量の割合を上記下限値以上とすることにより、装置等の信頼性について一段と向上を図ることができる。
また、封止用樹脂組成物中における(C)無機充填材を除いた配合量の割合は、例えば封止用樹脂組成物全体に対して、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。封止用樹脂組成物中における(C)無機充填材を除いた配合量の割合を上記上限値以下とすることにより、封止材としての剛性を効果的に向上させることができる。
【0059】
本実施形態の封止用樹脂組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば上述の各成分を、公知の手段で混合し、さらにロール、ニーダーまたは押出機等の混練機で溶融混練し、冷却した後に粉砕した顆粒状のものや、粉砕後にタブレット状に打錠成型したもの、また必要に応じて、上記粉砕したものを篩分したり、遠心製粉法、ホットカット法などで適宜分散度や流動性等を調整した造顆方法により製造した顆粒状のもの等を封止用樹脂組成物として用いることができる。
【0060】
本実施形態の封止用樹脂組成物は、(A)一般式(1)で表されるマレイミド樹脂と、(B)熱硬化性樹脂と、(C)無機充填材と、(D)複素環化合物と、を含む、封止用樹脂組成物であって、 前記封止用樹脂組成物を200℃120秒の条件で硬化させ、さらに250℃4時間後硬化させた硬化物における50℃から70℃の範囲において算出した平均線膨張係数α1に対する、310℃から340℃の範囲において算出した平均線膨張係数α2の比(α2/α1)が、1.0以上7.0以下であり、前記(D)複素環化合物が、トリアゾール系化合物を含み、前記(B)熱硬化性樹脂が、ベンゾオキサジン樹脂を含まない、封止用樹脂組成物である。
【化1】

(式(1)において、Xは炭素数1〜18の2価の有機基、式「−SO−」で表される基、「−CO−」で表される基、酸素原子または単結合である。また、Rは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜6の置換基もしくは無置換の炭化水素基である。)
【0061】
以下、本実施形態の封止用樹脂組成物の硬化物の特性について説明する。
本実施形態の封止用樹脂組成物は、(A)一般式(1)で表されるマレイミド樹脂と、(B)熱硬化性樹脂と、(C)無機充填材と、を含む、封止用樹脂組成物であって、 前記封止用樹脂組成物を200℃120秒の条件で硬化させ、さらに250℃4時間後硬化させた硬化物における50℃から70℃の範囲において算出した平均線膨張係数α1に対する、310℃から340℃の範囲において算出した平均線膨張係数α2の比(α2/α1)が、1.0以上7.0以下である封止用樹脂組成物である。
【0062】
【化1】
【0063】
(式(1)において、Xは炭素数1〜18の2価の有機基、式「−SO−」で表される基、「−CO−」で表される基、酸素原子または単結合である。また、Rは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜6の置換基もしくは無置換の炭化水素基である。)
本実施形態の封止用樹脂組成物を200℃、120秒の条件で硬化させた後、250℃、4時間の条件で後硬化させた硬化物のガラス転移温度の下限値は、例えば、180℃以上であり、好ましくは200℃以上であり、より好ましくは250℃以上である。これにより、耐熱性を向上させ、温度サイクル信頼性を一段と向上させることができる。また、上記封止用樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度の上限値は、特に限定されないが、例えば350℃以下である。上記ガラス転移温度の測定方法としては、例えば、熱機械分析装置(セイコーインスツル社製、TMA100)を用いることができる。
【0064】
本実施形態の封止用樹脂組成物を200℃、120秒の条件で硬化させた後、250℃、4時間の条件で後硬化させた硬化物の、310℃から330℃の温度範囲における平均線膨張係数(α2)の上限値は、例えば、100[10−6/℃]以下であり、好ましくは95[10−6/℃]以下であり、より好ましくは90[10−6/℃]以下である。これにより、熱履歴時における線膨張係数を低くすることができ、例えば、半導体パッケージの反りを抑制することができる。また、上記平均線膨張係数(α2)の下限値は、特に限定されないが、例えば、30[10−6/℃]以上としてもよい。
【0065】
本実施形態の封止用樹脂組成物を200℃、120秒の条件で硬化させた後、250℃、4時間の条件で後硬化させた硬化物の、50℃から70℃の温度範囲における平均線膨張係数(α1)に対する、310℃から330℃の温度範囲における平均線膨張係数(α2)の線膨張係数比の上限値が、例えば、7以下であり、好ましくは6.8以下であり、より好ましくは6.6以下である。これにより、常温時と熱履歴時における線膨張係数の変動を小さくすることができるので、ヒートサイクル特性を向上させることができる。また、上記線膨張係数比の下限値は、特に限定されないが、例えば、1.1以上としてもよい。上記平均線膨張係数(α1)、上記平均線膨張係数(α2)の測定は、例えば、熱機械分析装置(セイコーインスツル社製、TMA100)を用いることができる。
本実施形態の封止用樹脂組成物を200℃、120秒の条件で硬化させた後、250℃、4時間の条件で後硬化させた硬化物の、室温における曲げ弾性率の下限値は、例えば、5GPa以上であり、好ましくは7GPa以上であり、より好ましくは9GPa以上である
。これにより、上記硬化物の強度を高めることができる。また、上記曲げ弾性率の上限値は、特に限定されないが、例えば、20GPa以下であり、好ましくは15GPa以下であり、より好ましくは10GPa以下である。これにより、応力緩和に優れた硬化物を実現できる。上記室温における曲げ弾性率は、例えばJIS K 6911に準拠して測定できる。
【0066】
本実施形態の封止用樹脂組成物は、一般的な半導体素子やパワー半導体などの半導体素子封止用樹脂組成物、ウェハ封止用樹脂組成物、疑似ウェハ形成用樹脂組成物、車載用電子制御ユニット形成用封止用樹脂組成物、配線基板形成用封止用樹脂組成物、ローター固定部材用封止用樹脂組成物などの各種の用途に用いることができる。
【0067】
次に、半導体装置について説明する。
【0068】
図1は、本実施形態に係る半導体装置100の一例を示す断面図である。本実施形態に係る半導体装置100は、基板30上に搭載された半導体素子20と、半導体素子20を封止する封止材50と、を備えている。半導体素子20は、例えば、SiC、GaN、Ga、またはダイヤモンドにより形成されたパワー半導体素子である。また、封止材50は、本実施形態に係る封止用樹脂組成物を硬化して得られる硬化物により構成されている。
【0069】
本実施形態に係る半導体装置100において、半導体素子20は、上述したようにSiC、GaN、Ga、またはダイヤモンドにより形成されたパワー半導体素子であり、200℃以上という高温で動作することができる。このような高温環境での長時間使用においても、本実施形態に係る封止用樹脂組成物を用いて形成した封止材50は、十分な密着性を示すことができる。このため、半導体装置100の信頼性を向上させることが可能となる。なお、半導体素子20は、例えば入力電力が1.7W以上であるパワー半導体素子とすることができる。
【0070】
図1においては、基板30が回路基板である場合が例示されている。この場合、図1に示すように、基板30のうちの半導体素子20を搭載する一面とは反対側の他面には、例えば複数の半田ボール60が形成される。半導体素子20は、例えば基板30上に搭載され、かつワイヤ40を介して基板30と電気的に接続される。一方で、半導体素子20は、基板30に対してフリップチップ実装されていてもよい。
【0071】
ここで、ワイヤ40は、例えば銅で構成される。
【0072】
封止材50は、例えば半導体素子20のうちの基板30と対向する一面とは反対側の他面を覆うように半導体素子20を封止する。図1に示す例においては、半導体素子20の上記他面と側面を覆うように封止材50が形成されている。封止材50は、例えば封止用樹脂組成物をトランスファー成形法または圧縮成形法等の公知の方法を用いて封止成形することにより形成することができる。
【0073】
図2は、本実施形態に係る半導体装置100の一例を示す断面図であって、図1とは異なる例を示すものである。図2に示す半導体装置100は、基板30としてリードフレームを使用している。この場合、半導体素子20は、例えば基板30のうちのダイパッド32上に搭載され、かつワイヤ40を介してアウターリード34へ電気的に接続される。半導体素子20は、図1に示す例と同様に、SiC、GaN、Ga、またはダイヤモンドにより形成されたパワー半導体素子である。また、封止材50は、図1に示す例と同様にして、本実施形態に係る封止用樹脂組成物を用いて形成される。
【0074】
次に、車載用電子制御ユニット10の製造方法について図3に基づいて説明する。
【0075】
本実施形態に係る車載用電子制御ユニット10は、例えば以下のように作製される。まず、配線基板12の少なくとも一面上に複数の電子部品16を搭載する。次いで、複数の電子部品16を、封止用樹脂組成物を用いて封止成形する。封止用樹脂組成物としては、上記に例示したものを用いることができる。
【0076】
以下、車載用電子制御ユニット10の製造方法について詳述する。
【0077】
まず、配線基板12の少なくとも一面上に複数の電子部品16を搭載する。本実施形態においては、例えば複数の電子部品16を、配線基板12の一面と、当該一面とは反対の他面と、のそれぞれに搭載することができる。これにより、図3に示すような、配線基板12の両面に電子部品16が搭載された車載用電子制御ユニット10を形成することが可能となる。一方で、配線基板12の一面のみに電子部品16を搭載し、他面には電子部品16が搭載されなくともよい。なお、配線基板12および電子部品16としては、本技術分野において通常用いられるものを適用することができる。
【0078】
なお、図3に示すように、配線基板12は、例えば平板状の形状を有している。本実施形態においては、例えばポリイミド等の有機材料により形成された有機基板を配線基板12として採用することができる。配線基板12は、例えば配線基板12を貫通して一面と他面を接続するスルーホール120を有していてもよい。この場合、配線基板12のうちの一面に設けられた配線と、他面に設けられた配線と、がスルーホール120内に設けられた導体パターンを介して電気的に接続される。
【0079】
次に、複数の電子部品16を、封止用樹脂組成物を用いて封止成形する。これにより、電子部品16を封止する封止樹脂14が形成されることとなる。本実施形態においては、例えば電子部品16とともに配線基板12を封止するように封止用樹脂組成物の成形が行われる。図3に例示される車載用電子制御ユニット10は、例えば配線基板12の一面および他面、ならびに配線基板12に搭載された電子部品16を封止用樹脂組成物によって封止成形することにより得ることができる。また、本実施形態においては、複数の電子部品16とともに配線基板12の一部または全部が封止用樹脂組成物を用いて封止される。図3に例示される車載用電子制御ユニット10は、例えば接続端子18が露出するように、配線基板12のうちの接続端子18を封止せずに他の部分全体を封止するように封止用樹脂組成物の成形を行うことにより得られる。
【0080】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例】
【0081】
次に、本発明の実施例について説明する。
(封止用樹脂組成物の調製)
各実施例、および各比較例のそれぞれについて、以下のように封止用樹脂組成物を調製した。
表1に示す配合に従い、各成分をミキサーにより混合した。次いで、得られた混合物をロール混練した後、冷却、粉砕して粉粒体である封止用樹脂組成物を得た。表1中における各成分の詳細は下記のとおりである。また、表1中に示す各成分の配合割合は、樹脂組成物全体に対する配合割合(質量%)を示している。さらに、表1中の「(A)マレイミド樹脂の割合」は、封止用樹脂組成物全体から(C)無機充填材を除いた成分中の(A)マレイミド樹脂の割合である。表1中の「(B)熱硬化性樹脂の割合」についても同様である。
(A)マレイミド樹脂
マレイミド樹脂1:下記式に示すマレイミド基を二つ有する化合物(大和化成工業株式会社製、「BMI−4000」、軟化点:167℃)
【0082】
【化8】
【0083】
(B)熱硬化性樹脂
熱硬化性樹脂1:下記式に示すマレイミド基を二つ以上有する化合物(大和化成工業株式会社製、「BMI−2300」、軟化点:64℃)
【0084】
【化9】
【0085】
熱硬化性樹脂2:下記式に示すベンゾオキサジン化合物(四国化成株式会社製、「Pd型ベンゾオキサジン」、軟化点:75℃)
【0086】
【化10】
【0087】
熱硬化性樹脂3:トリスメタンフェノール型樹脂(明和化成株式会社製、「MEH−7500」、軟化点:61℃)
(C)無機充填材
無機充填材1:溶融球状シリカ(平均粒径:30μm)
(D)複素環化合物
複素環化合物1:2−ヒドロキシ−N−1H−1,2,4−トリアゾール−3−イルベンズアミド(株式会社ADEKA製、「CDA−1M」)
(硬化促進剤)
硬化促進剤1:2−メチルイミダゾール(四国化成株式会社製、「2MZ−H」)
(シランカップリング剤)
シランカップリング剤1:フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社製、「CF−4083」)
(離型剤)
離型剤:モンタン酸エステル(クラリアントジャパン社製、「リコルブWE−4」)
(着色剤)
着色剤:カーボンブラック(三菱化学社製、「#5」)
上記軟化点は
1484526591235_15.html
(日立ハイテクサイエンス社製、DSC7020)を用いて測定した。
【0088】
得られた封止用樹脂組成物は以下の項目に基づき、評価を行った。
(温度サイクル試験)
得られた封止用樹脂組成物を使用し、低圧トランスファー成形機(アピックヤマダ社製「MSL−06M」)を用いて、金型温度200℃、注入圧力10MPa、硬化時間120秒でTO−220(パッケージサイズは114mm×30mm、厚み1.3mm、チップは未搭載、リードフレームはCu製)を成形し、250℃で4時間硬化させることでテスト用の半導体装置を作製した。封止したテスト用半導体装置を、−40℃〜225℃でサイクル繰り返し、パッケージクラックや部材間剥離が発生しないサイクル数を計測した。
(高温長期保管特性)
トランスファー成形装置を用いて、金型温度200℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒間で、得られた封止用樹脂組成物を注入成形し、直径10mmΦ×厚さ4mmの成形品を得た。次いで、得られた成形品を250℃、4時間で後硬化した後、150℃で16時間乾燥して試験片を得て、この初期質量を測定した。次いで、250℃のオーブンに投入し、50、100、250、500、1000時間後に取り出して質量を測定した。表1における質量減少率は、初期質量に対する1000時間後の質量減少量を算出したものであり、単位は質量%である。
(平均線膨張係数、ガラス転移温度)
トランスファー成形装置を用いて、金型温度200℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒間で、得られた封止用樹脂組成物を注入成形し、15mm×4mm×4mmの成形品を得た。
【0089】
次いで、得られた成形品を250℃、4時間で後硬化して試験片を作製した。その後、得られた試験片に関し、熱機械分析装置(セイコーインスツル社製、TMA100)を用いて、測定温度範囲0℃〜400℃、昇温速度5℃/分の条件下で実施し、ガラス転移温度、50℃から70℃の範囲における平面方向(XY方向)の平均線膨張係数α1、310℃から330℃の範囲における平面方向(XY方向)の平均線膨張係数α2を算出した。ガラス転移温度の単位は℃である。平均線膨張係数α1,α2の単位は10−6/℃である。
(曲げ弾性率)
トランスファー成形装置を用いて金型温度200℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒間で、得られた封止用樹脂組成物を注入成形し、幅10mm×厚さ4mm×長さ80mmの成形品を得た。次いで、得られた成形品を250℃、4時間で後硬化して、試験片を作製した。次いで、試験片の室温における曲げ弾性率をJIS K 6911に準拠して測定した。単位はGPaである。
【0090】
結果を以下の表1にまとめる。
【0091】
【表1】
【0092】
表1に示されるように、(A)マレイミド樹脂の含有量を制御した参考例1、参考例2、実施例3の封止用樹脂組成物は、半導体装置に適用した際に、温度サイクル試験において良好な結果だった。 また、高温長期保管特性においても優れており、温度サイクル試験信頼性と高温長期保管特性を両立できた。
【0093】
一方、(A)マレイミド樹脂の割合が少ない比較例1、および(A)マレイミド樹脂を含まない比較例2は、各実施例と比較して温度サイクル試験および高温長期保管特性の結果に劣った。
【0094】
また、(A)マレイミド樹脂の割合が多い比較例3においては、ロール混練時に溶融しなかったため、封止用樹脂組成物を作製することができなかった。
【0095】
以上のことから、有機成分中の(A)マレイミド樹脂の含有量を制御した封止用樹脂組成物を得ることにより、これを適用した装置の信頼性を向上させることができた。
【符号の説明】
【0096】
10 車載用電子制御ユニット
12 配線基板
14 封止樹脂
16 電子部品
18 接続端子
20 半導体素子
30 基板
32 ダイパッド
34 アウターリード
40 ワイヤ
50 封止材
60 半田ボール
100 半導体装置
120 スルーホール

図1
図2
図3