(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非水系溶媒中では、抗ウイルス性を有する一価銅化合物の微粒子は凝集しやすく、一価銅化合物を均一に分散させることは困難であり、分散液を抗ウイルス組成物として利用する場合や塗料と混合してコーティングされた抗ウイルス成型体として用いる場合において、一価銅化合物の微粒子が有する抗ウイルス性を効率よく発現することが困難であった。
また、上記特許文献で挙げられている粒子径の大きい一価銅化合物を用いた場合には、粒子表面積が小さくなり、ウイルスとの接触機会が減少することで抗ウイルス性が低下する。また、粒子径の大きい一価銅化合物がコーティングされた抗ウイルス成型体では、ヘイズや光透過率が悪化して透明性が損なわれるという問題がある。
更に、一価銅化合物の微粒子は粉砕することによっても得られるが、被膜剤や安定化剤がないため凝集しやすく、亜酸化銅から酸化銅(II)への酸化が起こりやすいといった問題もある。
【0006】
従って本発明の目的は、銅化合物、特に一価銅化合物の微粒子が有する抗ウイルス性を効率よく発現可能な、銅化合物の微粒子、及びこの微粒子が分散媒中に均一且つ安定的に分散する分散液、並びにこの分散液の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明よれば、非水系溶媒中に、脂肪酸で被覆された
一価銅化合物微粒子と、
サッカリン、サリチル酸、アスパラギン酸、クエン酸から選択される少なくとも1種である安定化剤とを含有することを特徴とする分散液が提供される。
本発明の分散液においては、
1
.前記一価銅化合物粒子が、更に前記脂肪酸のエステル化合物で被覆されていること、
2.前記一価銅化合物が、亜酸化銅であること、
3.前記非水系溶媒が、エステル系溶媒であること、
4.分散剤を更に含有すること、
5.前記銅化合物が、抗ウイルス性を有すること、
が好適である。
【0011】
本発明によれ
ばまた、
一価銅化合物微粒子表面に、脂肪酸及び該脂肪酸のエステル化合物が被覆されていることを特徴とする銅化合物微粒子が提供され
る。
【発明の効果】
【0012】
本発明の分散液においては、銅化合物微粒子が脂肪酸、好適には脂肪酸と該脂肪酸のエステル化合物で被覆されていることにより、非水系溶媒中に高濃度で含有されている場合にも凝集することなく均一に分散するため、銅化合物微粒子が有する優れた特性を効率よく発現することができる。特に、銅化合物が一価銅化合物であることにより、前述したとおり、エンベロープ構造を持たないウイルスに対しても抗ウイルス性を効率よく発現することが可能になる。
また本発明の分散液においては、分散液中に配合された安定化剤が、銅化合物微粒子に保護層として配位していると考えられ、これにより、安定性に劣る一価銅化合物であっても、一価の状態を安定的に維持可能であり、上記脂肪酸による被覆、更にこの脂肪酸のエステル化合物による被覆と相俟って、銅化合物微粒子が非水系溶媒中に沈降することなく均一に分散していることから、塗料組成物や樹脂組成物などの希釈溶媒として好適に使用することができ、これにより各種性能を塗膜や樹脂成形体に付与することが可能になる。
【0013】
更に本発明の分散液の製造方法においては、高沸点溶媒中に脂肪酸銅と安定化剤を配合して加熱することにより、亜酸化銅微粒子の表面に脂肪酸、好適には脂肪酸と該脂肪酸のエステル化合物が配位された亜酸化銅微粒子を形成することが可能になり、かかる亜酸化銅微粒子は、低沸点溶媒に対して優れた親和性を有することから、亜酸化銅微粒子は高沸点溶媒から簡単な操作で効率よく低沸点溶媒に抽出され、低沸点溶媒中に亜酸化銅微粒子を高濃度で存在させることが可能になる。
特に本発明の製造方法において、高沸点溶媒分散液を調製する際、水の存在下で加熱混合を行うことによって、一価銅化合物粒子を調製することが可能になり、前述したとおり、エンベロープ構造の有無にかかわらず優れた抗ウイルス性を発現可能な一価銅化合物粒子を含有する分散液を提供することが可能になる。
尚、本明細書において、抗ウイルス性とは、ウイルスを不活性化させることを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(分散液)
本発明の分散液は、上述したとおり、非水系溶媒中に脂肪酸で被覆された銅化合物微粒子、すなわち一価銅化合物粒子又は二価銅化合物粒子と、安定化剤とを含有することを特徴とするものである。
【0016】
[銅化合物微粒子]
本発明の分散液において、抗ウイルス性を示す有効成分である銅化合物は、一価銅化合物又は二価銅化合物であり、これらはいずれもウイルスを吸着してウイルスを不活性化することが可能であるが、二価銅化合物は、エンベロープ構造を有するウイルスには抗ウイルス性を有するが、一価銅化合物はウイルスのエンベロープの有無にかかわらず抗ウイルス性を発現することができる。
銅化合物としては、酸化物、酢酸化合物、塩化物、臭化物、水酸化物、シアン化物等を例示することができ、これらの中でも、亜酸化銅であることが特に好適である。
本発明において銅化合物微粒子は表面が脂肪酸で被覆されているが、特に脂肪酸と共にこの脂肪酸のエステル化合物で被覆されていることが好ましく、これにより、銅化合物微粒子の表面活性が高まることに起因する微粒子表面の酸化が防止されると共に、微粒子の凝集を抑制することが可能になる。特に一価銅化合物粒子は表面活性が高く、酸化されやすく凝集しやすいが、脂肪酸と脂肪酸のエステル化合物で被覆されていることにより、分散液中で均一に分散し、優れた抗ウイルス性を発現できる。
更に本発明の分散液に含まれる銅化合物微粒子は、抗ウイルス性の他、抗菌性、導電性、紫外線遮蔽性、防汚性などを有している。
【0017】
銅化合物微粒子表面を被覆する脂肪酸としては、ミリスチン酸,ステアリン酸,オレイン酸,パルミチン酸,n−デカン酸,パラトイル酸,コハク酸,マロン酸,酒石酸,リンゴ酸,グルタル酸,アジピン酸、酢酸等を例示することができ、これらは複数種の組み合わせであってもよいが、特にステアリン酸であることが好適である。
また上記脂肪酸のエステル化合物としては、後述する高沸点溶媒とのエステル化合物であり、例えば脂肪酸がステアリン酸、高沸点溶媒としてジエチレングリコールの場合には、ジステアリン酸ジエチレングリコールやジステアリン酸エチレングリコール等が挙げられる。前述したとおり、脂肪酸による被覆と共に、この脂肪酸のエステル化合物が被覆されていることにより、脂肪酸のみが被覆されている場合よりも、上述した作用効果を顕著に得ることができる。
【0018】
本発明において銅化合物微粒子の平均粒径は、1〜200nmの範囲にあることが好適であり、本発明の分散液中においては、銅化合物微粒子は高濃度であっても凝集することなく均一に分散していることから、銅微粒子が上記範囲にあることと相俟って、優れた抗ウイルス性能を効率よく発現することが可能になる。尚、本明細書でいう平均粒径とは、銅化合物微粒子と銅化合物微粒子との間に隙間がないものを一つの粒子とし、その平均をとったものをいう。
脂肪酸、好適には脂肪酸と該脂肪酸のエステル化合物の両方で表面が被覆された銅化合物微粒子が、分散液中に0.01〜2重量%、特に0.05〜1重量%の量で含有されていることが好ましい。上記範囲よりも銅化合物微粒子の量が少ない場合には上記範囲にある場合に比して、十分な抗ウイルス性能を発現することができず、一方上記範囲よりも銅化合物微粒子の量が多い場合には、上記範囲にある場合に比して経済性が劣るだけでなく、塗料組成物や樹脂組成物に使用した場合に塗工性や成形性等が損なわれるおそれがある。
【0019】
[安定化剤]
本発明の分散液においては、分散液中に安定化剤が含有されていることにより、銅化合物微粒子が一価又は二価の状態に安定に維持される。また銅化合物微粒子が脂肪酸で表面を被覆されて、酸化されにくくなっていることと相俟って、銅化合物微粒子を長期にわたって安定して分散液中に存在させることが可能になる。安定化剤は、用いる非水系溶媒によっては溶解している場合もあるが、銅化合物微粒子に配位していると考えられる。
このような安定化剤としては、サッカリン、サリチル酸、アスパラギン酸、クエン酸等を例示することができるが、サッカリンを好適に使用することができる。
安定化剤は、分散液中に0.01〜0.1重量%、特に0.02〜0.05重量%の量で含有されていることが好ましい。上記範囲よりも安定化剤の量が少ない場合には上記範囲にある場合に比して銅化合物微粒子の安定性が損なわれるおそれがあり、一方上記範囲よりも安定化剤の量が多くとも経済性に劣るだけで更なる効果は望めない。
【0020】
[非水系溶媒]
本発明の分散液における非水系溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の炭化水素類、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類等の低沸点溶媒を例示することができるが、エステル系溶媒が好ましく、特に酢酸ブチルが好適である。
本発明の分散液においては、非水系溶媒が上記の低沸点溶媒であることにより、疎水性の塗料組成物や樹脂組成物の希釈剤として有効に利用することが可能になる。
【0021】
[その他]
本発明の分散液には、上述した銅化合物微粒子及び安定化剤の他、分散剤を含有していることが好適である。これにより、銅化合物微粒子を高濃度で含有する場合にも、銅化合物微粒子が均一に分散された分散液とすることが可能になる。
分散剤としては、吸着基に、1級、2級、3級アミン又はその対イオンを中和したアミン塩、カルボン酸又はカルボン酸塩、水酸基のいずれか1種類以上を有し、主鎖及び側鎖に、脂肪酸、ポリエーテル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアリレートを有する高分子分散剤を使用することができる。
これらの分散剤は、吸着基を有することで上記銅化合物微粒子の表面に吸着し、主鎖又は側鎖により非水系溶媒との相溶性を向上させ、高分子鎖の立体障害による斥力が生じ、銅化合物微粒子の凝集が抑制され、非水系溶媒中に均一に分散させ、経時による凝集を解消することができる。
高分子分散剤としては、主鎖のみで構成されているタイプや側鎖を有するくし型構造タイプ、星型構造を有するタイプを使用することができる。
分散剤は、分散液中に0.01〜2重量%、特に0.1〜1重量%の量で含有されていることが好ましい。上記範囲よりも分散剤の量が少ない場合には上記範囲にある場合に比して銅化合物微粒子の分散性に更なる向上が望めず、一方上記範囲よりも分散剤の量が多くとも更なる効果の向上は望めないと共に経済性にも劣るようになる。
本発明の分散液には、従来公知の添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、染料等を従来公知の処方に従って配合することもできる。
【0022】
本発明の分散液は、繊維製品等を構成する樹脂組成物に希釈剤として含有させる、或いは繊維製品等に直接塗布或いは含浸させることにより、或いは繊維製品等にバインダー樹脂と分散液を混合したものを塗布させることにより、繊維製品等に抗ウイルス性を付与することが可能になる。
本発明の分散液を用いた繊維製品としては、マスク、エアコンフィルター、空気清浄機用フィルター、衣服、作業服、カーテン、カーペット、自動車用部材、シーツ、タオル、ワイパーなどの掃除用品などが挙げられる。
本発明の分散液は、塗料と混合して塗工することでコーティング加工により、フィルムやシート、金属基板上に含有させることができ、基材表面或いは外面に抗ウイルス性を付与することができる。
例えば、医療用具、医療用具の包装フィルム、廃棄容器、ゴミ袋、介護施設或いは病院や学校などの公共施設の壁材や床材、ワックスコート材、吐しゃ物の処理用具などが挙げられる。
【0023】
(分散液の第一の製造方法)
本発明の低沸点溶媒中に脂肪酸で被覆された酸化銅微粒子が分散された分散液の製造方法は以下の方法によって調製することができる。
(1)第一工程
脂肪酸銅と安定化剤を高沸点溶媒に添加し、これを加熱することにより、脂肪酸、好適には脂肪酸と該脂肪酸のエステル化合物の両方で表面が被覆された酸化銅微粒子が分散すると共に、安定化剤を含んで成る高沸点溶媒分散液を調製する。
この際、高沸点溶媒と共に水を含有させることによって、酸化銅微粒子を一価の亜酸化銅微粒子に調製することが可能となる。
加熱温度は、用いる脂肪酸銅の分解開始温度未満の温度であり、具体的には180〜230℃の範囲であることが好ましい。加熱混合の時間は、120〜360分であることが好適である。
脂肪酸銅の配合量は、高沸点溶媒100重量部当たり0.1〜5重量部の範囲にあることが好ましい。上記範囲よりも脂肪酸銅の量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して十分な抗ウイルス性を分散液に付与することができないおそれがある。一方上記範囲よりも脂肪酸銅の量が多い場合には上記範囲にある場合に比して、経済性が劣ると共に塗工性や成形性が損なわれるおそれがある。
また水の配合量は、高沸点溶媒100重量部当たり0.1〜5重量部の範囲にあることが好ましい。上記範囲よりも水の量が少ない場合には、亜酸化銅の生成量が低下し、その一方上記範囲よりも多いと、亜酸化銅の生成速度が速くなり、粒子径が大きくなってしまう。
また安定化剤の配合量は、高沸点溶媒100重量部当たり0.01〜0.1重量部の範囲にあることが好ましい。上記範囲よりも安定化剤の量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して酸化銅を長期にわたって安定化できないおそれがあり、一方上記範囲よりも安定化剤の量が多い場合には、上記範囲にある場合に比して酸化銅微粒子の安定性の更なる向上も得られず経済性に劣るおそれがある。
高沸点溶媒としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコール類を挙げることができ、後述する低沸点溶媒との組み合わせで適宜選択する。
【0024】
(2)第二工程
次いで、脂肪酸、好適には脂肪酸と該脂肪酸のエステル化合物で被覆された酸化銅微粒子が分散すると共に、安定化剤を含んで成る高沸点溶媒分散液と、予め分散剤を配合した低沸点溶媒とを混合し、混合液を調製する。
低沸点溶媒は、高沸点溶媒100重量部に対して10〜200重量部の量で高沸点溶媒分散液に添加することが好ましい。尚、低沸点溶媒中の分散剤の配合量は、高沸点溶媒分散液中の脂肪酸、好適には脂肪酸と該脂肪酸のエステル化合物で被覆された酸化銅微粒子の量によって異なるが、低沸点溶媒100重量部当たり0.01〜2重量部の量であることが好ましい。
低沸点溶媒としては、前述した分散液の非水系溶媒を用いることができる。低沸点溶媒は、高沸点溶媒と相溶しないことが重要であり、高沸点溶媒と低沸点溶媒の溶解度パラメータ(Sp値)の差が3以上となるように組み合わせることが好ましい。
好適には、高沸点溶媒としてジエチレングリコール(Sp値:12.6)を用いた場合には、低沸点溶媒として酢酸ブチル(Sp値:8.4)を用いることが望ましい。
【0025】
(3)第三工程
上記混合液を、0〜40℃の温度で30〜120分間静置することにより、高沸点溶媒及び低沸点溶媒を相分離させる。混合液が相分離されると、混合液中に存在していた脂肪酸、好適には脂肪酸及び該脂肪酸のエステル化合物で被覆された酸化銅微粒子が低沸点溶媒側に抽出される。特に本発明においては低沸点溶媒に分散剤が配合されていることから、分散剤の吸着基が酸化銅微粒子に配位することにより、酸化銅微粒子は低沸点溶媒へ抽出されやすくなる。
次いで、相分離された混合液から高沸点溶媒を除去することにより、低沸点溶媒中に脂肪酸、好適には脂肪酸及び該脂肪酸のエステル化合物で被覆された酸化銅微粒子が分散された分散液を得ることができる。
高沸点溶媒の除去は、単蒸留、減圧蒸留、精密蒸留、薄膜蒸留、抽出、膜分離等の、従来公知の方法によって行うことができる。
尚、前記第一工程において、高沸点溶媒に、脂肪酸銅及び安定化剤と共に、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム等を配合することにより、分散液中に分散する銅化合物微粒子を、銅のハロゲン化物微粒子とすることができる。
【0026】
(分散液の第二の製造方法)
本発明の低沸点溶媒中に脂肪酸、好適には脂肪酸と該脂肪酸のエステル化合物で被覆された銅化合物微粒子が分散された分散液の製造方法は上述した製造方法の他、以下の方法によっても調製することができる。
すなわち、上述した第一の製造方法における第一の工程において、脂肪酸銅に代えて、脂肪酸及び銅化合物の組み合わせを添加する以外は第一の製造方法と同様に行う。
これにより、例えば銅化合物として酢酸銅を使用した場合は、脂肪酸、好適には脂肪酸及び該脂肪酸のエステル化合物が被覆した酢酸銅微粒子が分散した分散液を調製することができる。
この第二の製造方法においても第一の製造方法と同様に、第一の工程で高沸点溶媒と共に水を添加することによって、脂肪酸及び該脂肪酸のエステル化合物が被覆した一価の酢酸銅微粒子を低沸点溶媒中に分散させることが可能になる。
【0027】
(分散液の第三の製造方法)
本発明においては、前述した第一及び第二の製造方法における第一の工程で得られた、高沸点溶媒であるグリコール類中に、脂肪酸、好適には脂肪酸と該脂肪酸のエステル化合物で被覆された銅化合物微粒子が分散して成る分散液をそのまま使用することもできる。
すなわち、グリコール類に、脂肪酸銅とサッカリン、或いは脂肪酸と銅化合物とサッカリン、を添加し、これを加熱混合することにより、銅化合物微粒子が分散すると共にサッカリンを含有して成るグリコール分散液を調製してもよい。
この場合においても、上述した製造方法と同様に、グリコール類と共に水を存在させることにより、銅化合物微粒子を一価の銅化合物微粒子として調製することができ、優れた抗ウイルス性を発現することが可能になる。
【0028】
(グリコール類と相溶性を有する非水系溶媒を分散媒とする分散液の製造方法)
本発明においては、グリコール類と相溶性を有する低沸点溶媒、例えばエタノールやイソプロパノール等を分散媒とする場合には、前述した第一及び第二の製造方法により調製した分散液中の低沸点溶媒を加熱除去してペースト状にした後、上記分散媒に再分散させることにより、このような分散液を調製することができる。
前述したとおり、第一及び第二の製造方法においては二相分離により低沸点溶媒に高沸点溶媒中の銅化合物微粒子を抽出させているが、この二相分離では低沸点溶媒及び高沸点溶媒の組み合わせが重要であり、高沸点溶媒に対して相溶性を有する所望の低沸点溶媒中に銅化合物微粒子を分散させることは困難であるが、上述したように、分散液中の低沸点溶媒を除去してペースト状にすることにより、種々の低沸点溶媒に脂肪酸が被覆された酸化銅微粒子が分散した分散液を提供することが可能になる。
加熱混合条件や抽出条件などは、前述した分散液の製造方法における第一工程から第三工程と同様の条件で行うことができる。
【実施例】
【0029】
(実験例1)
ジエチレングリコールに対してステアリン酸銅2.5重量%と、サッカリン0.05重量%を加え、攪拌しながら加熱した。140℃に達した時点で蒸留水1.0重量%を加え、更に加熱し、190℃に達した時点から2時間加熱した後、ジエチレングリコール分散液を60℃まで冷却した。
次いで、分散剤であるDISPERBYK−2090(ビック・ケミー社製)1.0重量%を溶かした酢酸ブチルを加えて攪拌した。1時間程静置した後に酢酸ブチル層を採取し、亜酸化銅微粒子分散液を得た。
【0030】
(実験例2)
加熱温度を210℃に変更した以外は実験例1と同様に分散液を作製した。
【0031】
(実験例3)
サッカリンの代わりにサリチル酸を添加した以外は実験例1と同様に分散液を作製した。
【0032】
(実験例4)
加熱温度を170℃に変更した以外は実験例1と同様に分散液を作製した。
【0033】
(実験例5)
ジエチレングリコールをグリセリンに変更した以外は実験例1と同様に分散液を作製した。
【0034】
(実験例6)
ジエチレングリコールを140℃まで加熱した時点で、水を加えないこと以外は実験例1と同様に分散液を作製した。
【0035】
(実験例7)
酢酸ブチルに市販の亜酸化銅粉末1.0重量%を添加し、撹拌した。
【0036】
(実験例8)
酢酸ブチルに市販のステアリン酸銅粉末1.0重量%を添加し、撹拌した。
【0037】
(ゼータ電位評価方法)
ゼータ電位は、大塚電子(株)社製ゼータ電位・粒径・分子量測定システム ELSZ−2000ZSを用いて、測定電圧300Vで測定した。ゼータ電位の絶対値が大きいほど分散安定性が高く、ゼータ電位の絶対値が30(mV)以上であれば分散性は良好である。実験例1〜8について測定した。結果を表1に示す。
【0038】
(経時安定性評価方法)
分散液作製1週間後の状態を目視で確認した。粒子の沈殿が無ければ○(経時安定性が高い)、粒子の沈殿があれば×(経時安定性が低い)とした。実験例1〜8について確認した。結果を表1に示す。
【0039】
(粒子径測定方法)
得られた粒子の粒子径は、SEM画像より画像処理ソフトを用いて測定した。分散液の場合はフィルター濾過により回収した粒子を、市販品の場合は粉末を、日立ハイテクノロジーズ(株)製走査電子顕微鏡S−4800により観察し画像を得た。その画像より(株)Mountech製画像解析式粒度分布ソフトウェアMac−viewを用いて任意の数十個の粒子の平均粒子径を算出した。結果を表1に示す。
【0040】
(溶媒中の脂肪酸エステル化合物の生成有無の確認)
実験例1の分散液において、ジエチレングリコール溶媒とステアリン酸銅から解離したステアリン酸とのエステル化合物の生成有無をIRにより確認した。結果を
図1に示す。
【0041】
(溶媒中の脂肪酸エステル化合物の同定)
実験例1の分散液において、生成したエステル化合物の同定を、島津製作所(株)製 GC−MSQP−2010により行った。結果を
図2に示す。
【0042】
(粒子組成の確認)
実験例1の分散液に関して、X線回折を用いて銅化合物粒子の組成を確認した。結果を
図3に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
<抗ウイルス性評価>
(分散液の不織布への塗布方法)
得られた分散液90重量%と、バインダー樹脂として光硬化性アクリル系樹脂9.9重量%と、光重合開始剤0.1重量%を混合し塗工液とした。塗工液に未加工の不織布を浸漬し、取り出して余分な液をローラー式絞り機で除去した後、90℃の乾燥機で2分間乾燥した。その後UV照射を10分間行い、亜酸化銅微粒子が固定化された不織布を得た。
実験例1,7,8により得られた不織布について抗ウイルス性評価を行い、実験例1,7,8により得られた不織布について活性酸素発生量を測定した。結果を表2に併せて示す。
【0045】
(不織布の抗ウイルス性評価方法)
1.宿主細胞にウイルスを感染させ、培養後、遠心分離により細胞残渣を除去したものをウイルス懸濁液とする。
2.上記1のウイルス懸濁液を滅菌蒸留水で10倍希釈したものを試験ウイルス懸濁液とする。
3.不織布の試験片0.4gに試験ウイルス懸濁液0.2mLを接種する。
4.25℃2時間放置後、SCDLP培地20mLを加え、ボルテックスミキサーで攪拌し、検体からウイルスを洗い出す。
5.プラーク測定法にてウイルス感染価を測定し、抗ウイルス活性値を算出する。
6.抗ウイルス活性値が3.0以上であれば、そのウイルスに対して十分な抗ウイルス性があると判断できる。
【0046】
(不織布の活性酸素発生量測定方法)
1.1.5mLのマイクロチューブに0.03gの不織布(1cm×15cm)を入れる。
2.蒸留水10mL、発光試薬(2−メチル−6−p−メトキシフェニルエチニルイミダゾピラジノン溶液)10μLを加え、ルミノメーター(アトー社製 AB−2270 ルミネッセンサーOcta)で発光量を測定し、活性酸素発生量とする。
【0047】
【表2】