特許第6885197号(P6885197)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6885197-片円環型樹脂保持器の製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885197
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】片円環型樹脂保持器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/27 20060101AFI20210531BHJP
   F16C 33/49 20060101ALI20210531BHJP
   F16C 33/56 20060101ALI20210531BHJP
   B29L 31/04 20060101ALN20210531BHJP
【FI】
   B29C45/27
   F16C33/49
   F16C33/56
   B29L31:04
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-99276(P2017-99276)
(22)【出願日】2017年5月18日
(65)【公開番号】特開2018-192723(P2018-192723A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2020年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211695
【氏名又は名称】中西金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】高際 晋也
【審査官】 田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−106572(JP,A)
【文献】 特開2016−151346(JP,A)
【文献】 特開2001−187922(JP,A)
【文献】 特開2009−041756(JP,A)
【文献】 特開2012−106419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00− 45/84
B29C 33/00− 33/76
F16C 33/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状基部と前記基部の軸方向一側面から軸方向へ突出する複数の片持ち片とを備え、
周方向に隣り合う前記片持ち片間のポケットに転動体を保持する、繊維強化合成樹脂製の片円環型保持器を射出成形により製造する片円環型樹脂保持器の製造方法であって、
前記繊維強化合成樹脂は、固化が速い樹脂材料に繊維強化材を添加したものであり、
射出成形用金型の固定側金型及び可動側金型により形成されるキャビティへ、円盤状のランナーが繋がる、前記円環状基部となる部分の内径側に備えたディスクゲートから、前記繊維強化合成樹脂を加熱溶融させた溶融樹脂材料を注入して固化させる射出成形工程を含み、
前記射出成形用金型において、
前記ディスクゲートの軸方向長さは、隅Rを除いた前記円環状基部の内径側の軸方向長さの1/2以上、隅Rを除いた前記円環状基部の内径側の軸方向長さ以下であり、
前記ランナーの軸方向長さは、前記ディスクゲートの軸方向長さの1.5倍以上2.5倍以下であることを特徴とする、
片円環型樹脂保持器の製造方法。
【請求項2】
前記固化が速い樹脂材料は、ポリエーテルエーテルケトン又は液晶ポリマーであり、
前記繊維強化材は、炭素繊維又はガラス繊維である、
請求項1記載の片円環型樹脂保持器の製造方法。
【請求項3】
前記片円環型樹脂保持器は、2つの保持器を背面合わせで使用する複列円筒ころ軸受用の櫛型樹脂保持器である、
請求項1又は2に記載の片円環型樹脂保持器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受の転動体が互いに接触しないように転動体を等間隔に分離した状態を保持する、合成樹脂製の片円環型保持器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受の転動体が互いに接触しないように転動体を等間隔に分離した状態を保持する片円環型樹脂保持器として、円筒ころ軸受用櫛型樹脂保持器(例えば、特許文献1参照)、及び玉軸受用冠型樹脂保持器(例えば、特許文献2参照)等がある。
これらの片円環型樹脂保持器は、潤滑剤の供給が良好で軽量かつ低騒音であるため広く使用されており、円環状の基部と、前記基部の軸方向の一側面から軸方向へ突出する複数の片持ち片(柱部又は弾性片)とを備え、射出成形により一体成形される。
【0003】
工作物を所望の形状及び寸法に加工する工作機械において、加工効率を向上するために主軸の高速回転化が進んでおり、主軸用転がり軸受には優れた高速回転性が要求される。
このような高速回転及び急加減速下で使用される転がり軸受に用いられる片円環型樹脂保持器には、高い真円度が必要であるとともに、軽量化及び高剛性化(遠心力に対する寸法安定性)並びに耐熱性等の厳しい特性が要求される。
このような厳しい要求特性を満たすための合成樹脂材料としてポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等を用いるとともに、保持器全体の強度向上を狙って炭素繊維等の繊維強化材を添加した繊維強化樹脂保持器が使用されることが多い(例えば、特許文献1の段落[0019]参照)。
ここで、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は、卓越した機械特性と耐熱性を有するが、成形性が悪く、固化が速い材料である。
【0004】
特許文献1の円筒ころ軸受用櫛型樹脂保持器の製造方法は、強度が低下するウェルド部を柱部の中央に位置させて強度を確保するために、柱部の1本おきにトンネルゲート(サブマリンゲート)を設けている。
特許文献2の玉軸受用冠型樹脂保持器の製造方法は、強度が低下するウェルド部を無くすために、製品用キャビティの内壁全周にダミー用キャビティの外周を繋げ、ダミー用キャビティの内周にトンネルゲート(サブマリンゲート)を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−078118号公報
【特許文献2】特開2013−223936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の前記樹脂保持器の製造方法では、強度が低下するウェルド部を無くすことができない。
それに対して特許文献2の前記樹脂保持器の製造方法では、強度が低下するウェルド部を無くすことはできる。
しかしながら、特許文献2の前記樹脂保持器の製造方法で、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の固化の速い材料に繊維強化材を添加した繊維強化合成樹脂を射出成形する場合、溶融樹脂がランナーよりトンネルゲートを経てダミー用キャビティに到達し、トンネルゲートでの圧力降下が大きいことから製品用キャビティ内の前記繊維強化合成樹脂に保圧が十分にかからないので、柱部の倒れやヒケが発生しやすく成形品である保持器の寸法精度が悪化する。
ヒケが発生した場合、保持器背面の平面度が悪化するため、2つの保持器を背面合わせで使用する複列円筒ころ軸受用の櫛型樹脂保持器である場合(例えば、特許文献1の図1参照)には、致命的な問題となる。
【0007】
そこで本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、固化の速い材料に繊維強化材を添加した繊維強化合成樹脂を射出成形して片円環型樹脂保持器を製造する際に、強度が低下するウェルド部を無くせるとともに、片持ち片の倒れやヒケを抑制することにより保持器の寸法精度を高くできる、片円環型樹脂保持器の製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る片円環型樹脂保持器の製造方法は、前記課題解決のために、円環状基部と前記基部の軸方向一側面から軸方向へ突出する複数の片持ち片とを備え、
周方向に隣り合う前記片持ち片間のポケットに転動体を保持する、繊維強化合成樹脂製の片円環型保持器を射出成形により製造する片円環型樹脂保持器の製造方法であって、
前記繊維強化合成樹脂は、固化が速い樹脂材料に繊維強化材を添加したものであり、
射出成形用金型の固定側金型及び可動側金型により形成されるキャビティへ、円盤状のランナーが繋がる、前記円環状基部となる部分の内径側に備えたディスクゲートから、前記繊維強化合成樹脂を加熱溶融させた溶融樹脂材料を注入して固化させる射出成形工程を含み、
前記射出成形用金型において、
前記ディスクゲートの軸方向長さは、隅Rを除いた前記円環状基部の内径側の軸方向長さの1/2以上、隅Rを除いた前記円環状基部の内径側の軸方向長さ以下であり、
前記ランナーの軸方向長さは、前記ディスクゲートの軸方向長さの1.5倍以上2.5倍以下であることを特徴とする。
【0009】
このような製造方法によれば、スプルーからランナーを経てディスクゲートからキャビティ内に充填される溶融樹脂材料の流路で圧力降下が少ないので、固化が速い樹脂材料に繊維強化材を添加した繊維強化合成樹脂を加熱溶融させた溶融樹脂材料であっても、キャビティ内の前記溶融樹脂材料に保圧を十分にかけることができる。
よって、成形品である片円環型樹脂保持器の片持ち片の倒れやヒケを抑制できるので、保持器の寸法精度を高くできるとともに、片円環型樹脂保持器全体の外観が滑らかになる。
その上、円環状基部となる部分の内径側に備えたディスクゲートから溶融樹脂材料をキャビティに注入することから、円環状基部となる部分の内径側の全周から溶融樹脂材料が注入されるので、溶融樹脂材料の合流部であるウェルド部を無くすことができる。
よって、ウェルド部がある成形品のように強度が低下することがない。
その上、ディスクゲートの軸方向長さを、隅Rを除いた前記円環状基部の内径側の軸方向長さの1/2以上、隅Rを除いた前記円環状基部の内径側の軸方向長さ以下の範囲とし、ランナーの軸方向長さを、ディスクゲートの軸方向長さの1.5倍以上2.5倍以下の範囲とすることにより、溶融樹脂材料の流路で圧力降下を少なくする効果を確実に奏するようにしながら、射出成形で無駄になるランナーで固化する材料を低減できるとともに、成形のサイクルタイムが上昇して製造コストが増大することがない。
【0010】
ここで、前記固化が速い樹脂材料は、ポリエーテルエーテルケトン又は液晶ポリマーであり、
前記繊維強化材は、炭素繊維又はガラス繊維であるのが、好ましい実施態様である。
【0011】
このような製造方法によれば、固化が速い樹脂材料を、卓越した機械特性と耐熱性を有するポリエーテルエーテルケトン又は液晶ポリマーとし、繊維強化材を炭素繊維又はガラス繊維としてさらに強度向上を図ることにより、寸法精度及び機械特性、並びに耐熱性が要求される転がり軸受の用途に好適な片円環型樹脂保持器を製造できる。
【0014】
さらに、前記片円環型樹脂保持器は、2つの保持器を背面合わせで使用する複列円筒ころ軸受用の櫛型樹脂保持器であるのが、より一層好ましい実施態様である。
【0015】
このような製造方法によれば、ヒケを抑制できることから寸法精度が向上し、それにより円環状基部の背面の平面度が向上するので、櫛型樹脂保持器を背面合わせで使用する複列円筒ころ軸受用として好適な櫛型樹脂保持器を製造できる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明に係る片円環型樹脂保持器の製造方法によれば、主に以下に示すような効果を奏する。
(1)スプルーからランナーを経てディスクゲートからキャビティ内に充填される溶融樹脂材料の流路で圧力降下が少ないので、固化が速い樹脂材料に繊維強化材を添加した繊維強化合成樹脂を加熱溶融させた溶融樹脂材料であっても、キャビティ内の前記溶融樹脂材料に保圧を十分にかけることができる。よって、成形品である片円環型樹脂保持器の片持ち片の倒れやヒケを抑制できるので、保持器の寸法精度を高くできるとともに、片円環型樹脂保持器全体の外観が滑らかになる。
(2)円環状基部となる部分の内径側に備えたディスクゲートから溶融樹脂材料をキャビティに注入することから、円環状基部となる部分の内径側の全周から溶融樹脂材料が注入されるので、溶融樹脂材料の合流部であるウェルド部を無くすことができる。よって、ウェルド部がある成形品のように強度が低下することがない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態に係る片円環型樹脂保持器の製造方法により製造した円筒ころ軸受用櫛型樹脂保持器の斜視図である。
図2】本発明の実施の形態に係る片円環型樹脂保持器の製造方法で用いる射出成形用金型の一部を示す概略縦断面図である。
図3】同じく要部拡大概略縦断面図であり、キャビティ内に溶融樹脂材料を充填した状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明の実施の形態を添付図面に基づき詳細に説明するが、本発明は、添付図面に示された形態に限定されず特許請求の範囲に記載の要件を満たす実施形態の全てを含むものである。
なお、以下において、本発明の実施の形態に係る片円環型樹脂保持器を転がり軸受に装着した状態で、転がり軸受の回転軸の方向を「軸方向」、軸方向に直交する方向を「径方向」という。
【0019】
<片円環型樹脂保持器である円筒ころ軸受用櫛型樹脂保持器>
図1の斜視図に示すように、本発明の実施の形態に係る片円環型樹脂保持器の製造方法により製造した片円環型樹脂保持器である円筒ころ軸受用櫛型樹脂保持器1は、円環状基部2と基部2の軸方向一側面から軸方向へ突出する複数の片持ち片である柱部3,3,…とを備える。周方向に隣り合う柱部3,3間のポケットPに、図示しない転動体である円筒ころを保持する。
櫛型樹脂保持器1は、固化が速い樹脂材料に繊維強化材を添加した繊維強化合成樹脂製である。例えば、前記固化が速い樹脂材料はポリエーテルエーテルケトン(PEEK)で、前記繊維強化材は炭素繊維である。また、前記繊維強化合成樹脂における繊維強化材の比率は例えば20〜30重量%程度である。
【0020】
<射出成形用金型>
図2の概略縦断面図に示すように、本発明の実施の形態に係る片円環型樹脂保持器の製造方法で用いる射出成形用金型4は、固定側金型5及び可動側金型6等を備える。
固定側金型5及び可動側金型6内には、スプルー7、ランナー8、ディスクゲート9、及びキャビティ10が形成される。ランナー8は、円盤状(ディスク状)であり、ディスクゲート9に繋がる。ディスクゲート9は、キャビティ10への注入口であり、円環状基部2となる部分の内径側に備えている。
ここで、図3の要部拡大概略縦断面図に示すディスクゲート9の軸方向長さT1の最大値は、隅Rを除いた円環状基部2の内径側の軸方向長さ(厚み)であり、前記T1の最小値は、隅Rを除いた円環状基部2の内径側の軸方向長さの1/2である。すなわち、ディスクゲート9の軸方向長さT1は、隅Rを除いた円環状基部2の内径側の軸方向長さの1/2以上、隅Rを除いた円環状基部2の内径側の軸方向長さ以下である。
ディスクゲート9の軸方向長さT1は、例えば1.5mm以上2.5mm以下に設定する。
また、図3の要部拡大概略縦断面図に示すランナー8の軸方向長さT2の最大値は、ディスクゲート9の軸方向長さT1の2.5倍、前記T2の最小値は、前記T1の1.5倍である。すなわち、ランナー8の軸方向長さT2は、ディスクゲート9の軸方向長さT1の1.5倍以上2.5倍以下(T1×1.5≦T2≦T1×2.5)である。
【0021】
<成形材料>
本発明の成形材料は、固化が速い樹脂材料に繊維強化材を添加した繊維強化合成樹脂である。前記固化が速い樹脂材料は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)又は液晶ポリマー(LCP)等であり、前記繊維強化材は、炭素繊維又はガラス繊維である。
【0022】
<射出成形工程>
図2に示す射出成形用金型4を型締めした状態で、前記繊維強化合成樹脂を加熱溶融させた溶融樹脂材料MR(図3参照)を射出成形機から射出し、スプルー7に注入する。
溶融樹脂材料MRは、スプルー7内を軸方向へ流れ、スプルー7からランナー8に入って径方向外方へ流れ、ディスクゲート9から径方向外方へキャビティ10内に充填される。
溶融樹脂材料MRを冷却・固化させた後、パーティングラインPLから可動側金型6を開き、エジェクタピン11,11,…により突き出すことにより、ゲートカット前の成形品を取り出す。
次に、ゲートカット処理を行い、成形品である円筒ころ軸受用櫛型樹脂保持器1をゲートから切り離す。
【0023】
<片円環型樹脂保持器の製造方法の作用効果>
以上のような片円環型樹脂保持器の製造方法によれば、スプルー7からランナー8を経てディスクゲート9からキャビティ10内に充填される溶融樹脂材料の流路で圧力降下が少ないので、固化が速い樹脂材料に繊維強化材を添加した繊維強化合成樹脂を加熱溶融させた溶融樹脂材料MRであっても、キャビティ10内の溶融樹脂材料MRに保圧を十分にかけることができる。
よって、成形品である櫛型樹脂保持器1の柱部3の倒れやヒケを抑制できるので、保持器1の寸法精度を高くできるとともに、櫛型樹脂保持器1全体の外観が滑らかになる。
その上、円環状基部2となる部分の内径側に備えたディスクゲート9から溶融樹脂材料MRをキャビティ10に注入することから、円環状基部2となる部分の内径側の全周から溶融樹脂材料MRが注入されるので、溶融樹脂材料MRの合流部であるウェルド部を無くすことができる。
よって、ウェルド部がある成形品のように強度が低下することがない。
【0024】
その上さらに、ヒケを抑制できることから寸法精度が向上し、それにより円環状基部2の背面の平面度が向上するので、2つの櫛型樹脂保持器1,1を背面合わせで使用する複列円筒ころ軸受用として好適な櫛型樹脂保持器1を製造できる。
その上、射出成形用金型4において、ディスクゲート9の軸方向長さT1を、隅Rを除いた円環状基部2の内径側の軸方向長さの1/2以上、隅Rを除いた円環状基部2の内径側の軸方向長さ以下の範囲とし、ランナー8の軸方向長さT2を、ディスクゲート9の軸方向長さT1の1.5倍以上2.5倍以下の範囲とすることにより、溶融樹脂材料MRの流路で圧力降下を少なくする効果を確実に奏するようにしながら、射出成形で無駄になるランナー8で固化する材料を低減できるとともに、成形のサイクルタイムが上昇して製造コストが増大することがない。
その上さらに、固化が速い樹脂材料を、卓越した機械特性と耐熱性を有するポリエーテルエーテルケトン(PEEK)又は液晶ポリマー(LCP)とし、繊維強化材を炭素繊維又はガラス繊維としてさらに強度向上を図ることにより、寸法精度及び機械特性、並びに耐熱性が要求される転がり軸受の用途に好適な片円環型樹脂保持器を製造できる。
【0025】
<片円環型樹脂保持器のバリエーション>
以上の実施形態の説明においては、片円環型樹脂保持器の例として円筒ころ軸受用櫛型樹脂保持器を示したが、片円環型樹脂保持器は玉軸受用冠型樹脂保持器等であってもよい。
玉軸受用冠型樹脂保持器の場合、基部の軸方向一側面から軸方向へ突出する複数の片持ち片は弾性片であり、周方向に隣り合う弾性片間のポケットに転動体であるボールを保持する。
片円環型樹脂保持器が玉軸受用冠型樹脂保持器であっても、本発明の片円環型樹脂保持器の製造方法により製造することにより、固化が速い樹脂材料に繊維強化材を添加した繊維強化合成樹脂を加熱溶融させた溶融樹脂材料であっても、キャビティ内の前記溶融樹脂材料に保圧を十分にかけることができるので、成形品である玉軸受用冠型樹脂保持器の弾性片の倒れやヒケを抑制できるので、保持器の寸法精度を高くできるとともに、玉軸受用冠型樹脂保持器全体の外観が滑らかになる。
その上、溶融樹脂材料の合流部であるウェルド部を無くすことができるので、ウェルド部がある成形品のように強度が低下することがない。
【符号の説明】
【0026】
1 円筒ころ軸受用櫛型樹脂保持器(片円環型樹脂保持器)
2 円環状基部
3 柱部(片持ち片)
4 射出成形用金型
5 固定側金型
6 可動側金型
7 スプルー
8 ランナー
9 ディスクゲート
10 キャビティ
11 エジェクタピン
MR 溶融樹脂材料
P ポケット
PL パーティングライン
T1 ディスクゲートの軸方向長さ
T2 ランナーの軸方向長さ
図1
図2
図3