【実施例】
【0027】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、以下で説明する実施例は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用した条件例にすぎず、本発明が以下の実施例の条件に限定されるものではない。
【0028】
以下の表に、本発明の実施例において選定の対象とされた例1〜例16に係るMgO−Cれんがの組成を示す。各例の間では、マグネシアおよびグラファイトの質量比(マグネシア87質量%、グラファイト13質量%)および金属アルミニウムの添加量(外掛けで0.5質量%)を一定としながら、マグネシアおよびグラファイトの粒度構成を変えている。各例について、上記で本発明の一実施形態として説明した選定方法に従って使用の適否を判定した上で、間欠操業を行う転炉1で内張り構造2に使用して実機試験を実施し、稼働面2sの損耗速度を測定した。また、各例について、通常操業(待機時間中の稼働面の温度低下が無視できる操業)および間欠操業の両方を模擬した回転浸食試験を実施し、それぞれの場合における浸食量指数を算出した。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
例1〜例6では、いずれも、マグネシアおよびグラファイトの全体に対して、粗大粒(粒径1mm以上)のマグネシアの比率が50質量%であり、微粉粒(粒径0.075mm未満)のマグネシアの比率が2質量%以下である。このようなマグネシアの粒度構成は、一般的な緻密化されたMgO−れんがに比べると粗大粒が多く、微粉粒が少ない構成である。本発明者らの知見によれば、粗大粒のマグネシアが多いほど、熱膨張によって粒子間に隙間ができやすく、この隙間が通気孔になることによって通気率が上昇する。また、微粉粒のマグネシアが少ないほど、マグネシアの体積に対して表面積が小さくなるために、MgO−C反応によるCOガスの発生が抑制される。
【0033】
加えて、例1〜例6では、いずれも、グラファイトの平均粒径が0.3mmを超えている。グラファイトの粒径が大きいほど、グラファイトの体積に対して表面積が小さくなるために、MgO−C反応や炉内のスラグ成分との反応によるCOガスの発生が抑制される。
【0034】
各例における通気率の測定では、JIS R2115に従い、見掛け気孔率の測定時と同じ形状のMgO―Cれんがの試験片をコークス粉末を充填したSiC質の隔壁箱に封入した上で、電気炉を用いて隔壁箱を1600℃まで加熱する工程、隔壁箱を1600℃で3時間保持する工程、隔壁箱を500℃まで徐冷する工程、および隔壁箱を500℃で3時間保持する工程を還元雰囲気下で10回以上繰り返し、1サイクル毎に室温まで徐冷した後の通気率を測定した。この結果、例1〜例6のすべてで、10回目以降の通気率は10.0×10
−15m
2以上であった。従って、例1〜例6に係るMgO−Cれんがは、
図2を参照して説明した本発明の一実施形態に係る選定方法のステップS1で、使用に適したものとして選定される。
【0035】
一方、各例における見掛け気孔率の測定では、JIS A1509−3の規定に従い、MgO−Cれんがの試験片を直径50±0.5mm、高さ50±0.5mmの円柱状とし、試験片をコークス粉末を充填したSiC質の隔壁箱に封入した上で、1400℃で30時間にわたって焼成し、室温まで徐冷した後に見掛け気孔率を測定した。この結果、例1〜例6のすべてで、見掛け気孔率は10%未満であった。従って、例1〜例6に係るMgO−Cれんがは、
図2を参照して説明した本発明の一実施形態に係る選定方法のステップS2でも、使用に適したものとして選定される。
【0036】
一方、例7〜例16は、
図2を参照して説明した本発明の一実施形態に係る選定方法のステップのいずれかにおいて、使用に適するものとして選定されない例である。
【0037】
具体的には、例7〜例15は、還元焼成後の見掛け気孔率が10%未満であるものの、繰り返し熱処理後の通気率が10.0×10
−15m
2に満たない例である(ステップS1で不選定)。MgO−Cれんがの組成についていえば、例7、例8および例15では、微粉粒(粒径0.075mm未満)のマグネシアの比率が2質量%を超えている。また、例9、例13および例14では、グラファイトの平均粒径が0.3mm未満である。例10〜例12、例14および例15では、粗大粒(粒径1mm以上)のマグネシアの比率が50質量%未満である。
【0038】
一方、例16は、繰り返し熱処理後の通気率が10.0×10
−15m
2を超えるものの、還元焼成後の見掛け気孔率が10%を超える例である(ステップS2で不選定)。例16では、微粉粒のマグネシアの比率が2質量%を超えており、かつグラファイトの平均粒径が0.3mm未満である。
【0039】
上記のような各例における、転炉1を用いた実機試験の結果について説明する。実機として用いられた転炉1は容量300tであり、間欠操業を行っている。具体的には、転炉1では、溶鋼を排出した後、次に溶銑が装入されるまでの待機時間に、稼働面2sの温度が約500℃まで低下する。実機試験では、転炉1で、各例に係るMgO−Cれんがで形成した内張り構造2の初期厚みと1000チャージ(ch)の溶銑を処理した後の厚み(最も損耗が大きい部位)とを測定し、その差分をチャージの数で除することによって損耗速度(mm/ch)を算出した。
【0040】
本発明者らの観察によれば、上記のような間欠操業を行う転炉1では、平均すると6chに1回の割合で稼働面2sの剥離が発生する。また、1回に剥離する稼働面2sの層の厚みは平均すると約3mmである。このような観察結果から、転炉1の間欠操業によって稼働面2sの剥離が発生している部位では、損耗速度が平均して0.50mm/ch(=3mm/6ch)になると仮定した。一方、稼働面2sの剥離が発生しなかった部位では主に溶損によって稼働面2sが損耗するが、この部位における損耗速度は平均して0.25mm/chであった。
【0041】
上記のような本発明者らの観察および考察の結果によれば、例1〜例6では損耗速度が0.25mm/ch〜0.34mm/chであったため、いずれの例でも稼働面2sの剥離は発生しなかったものと考えられる。一方、例7〜例16では損耗速度が0.39mm/ch〜0.88mm/chであり、大半の例で稼働面2sの剥離が発生したものと考えられる。
【0042】
次に、回転浸食試験の結果について説明する。回転浸食試験は、各例に係るMgO−Cれんがが、通常操業の場合と間欠操業の場合とのそれぞれで示す耐用性を比較するために実施した。つまり、回転浸食試験の結果から、各例に係るMgO−Cれんがが、通常操業にも間欠操業にも適するのか、通常操業には適するが間欠操業には適さないのか、通常操業にも間欠操業にも適さないのかを判断することができる。
【0043】
回転浸食試験は、水平方向の回転軸を有する円筒の内面をMgO−Cれんがでライニングした上で酸素−プロパンバーナで加熱し、スラグを投入してれんが表面を浸食させる試験である。投入時のスラグ温度は1700℃であり、スラグは30分毎に入れ替えられる。スラグ組成はCaO/SiO
2=3.2、FeO=24.8%、MgO=3.5%とし、試験終了後に各れんが中央部の寸法を測定することによって浸食量を算出した。
【0044】
通常操業を模擬した回転浸食試験では、上記の試験を5時間にわたって実施した。また、間欠操業を模擬した回転浸食試験では、上記の試験を5時間にわたって実施した後、スラグを排出した上で容器を徐冷し(約15時間)、稼働面の温度が500℃まで低下したことを確認してから再度5時間にわたって上記の試験を実施した。
【0045】
それぞれの回転浸食試験の結果(浸食量)は、例1〜例6の中で最も実機試験での損耗速度が大きかった例4での浸食量を100とする指数で表されている(指数が大きいほど浸食量が大きい)。従って、例1〜3,5,6ではいずれも指数が100を下回っている。一方、例7〜例13では、通常操業を模擬した回転浸食試験での浸食量については例1〜例6と同程度(指数85〜104)であるものの、間欠操業を模擬した回転浸食試験での浸食量は例1〜例6を大きく上回っている(指数115〜184)。従って、これらの例に係るMgO−Cれんがは、通常操業には適するが間欠操業には適さないといえる。また、例14〜例16では、通常操業を模擬した試験での浸食量(指数128〜166)および間欠操業を模擬した試験での浸食量(指数139〜194)とも、例1〜例6を大きく上回っている。従って、これらの例に係るMgO−Cれんがは、通常操業にも間欠操業にも適さない例であるといえる。
【0046】
図6は、上記の各例における還元焼成後の見掛け気孔率と回転浸食試験(通常)での浸食量指数との関係を示すグラフである。
図6に示されるように、還元焼成後の見掛け気孔率と回転浸食試験(通常)での浸食量指数との間には正の相関が認められる。ここで、転炉1の通常操業の場合に稼働面2sの損耗の主な原因となる溶損は、間欠操業の場合にも同様に発生する(間欠操業では、溶損に加えて上述のような剥離が発生する可能性がある)。この結果から、通常操業に対しては、還元焼成後の見掛け気孔率に基づく選定によって、稼働面2sの溶損が効果的に抑制されるMgO−Cれんがが選定されていたといえる。
【0047】
これに対し、
図7は、上記の各例における還元焼成後の見掛け気孔率と回転浸食試験(間欠)での浸食量指数との関係を示すグラフである。
図7に示されるように、還元焼成後の見掛け気孔率と回転浸食試験(間欠)での浸食量指数との間には明確な相関は認められない。この結果から、間欠操業に対しては、還元焼成後の見掛け気孔率に基づく選定だけで、稼働面2sの剥離が効果的に抑制されるMgO−Cれんがを選定することは困難であることがわかる。
【0048】
そこで本発明者らは、繰り返し熱処理後の通気率に基づく選定を実施した。
図8は、上記の各例における繰り返し熱処理後の通気率と回転浸食試験(通常)での浸食量指数との関係を示すグラフである。ところが
図8に示されるように、繰り返し熱処理後の通気率と回転浸食試験(通常)での浸食量指数との間には明確な相関は認められない。
【0049】
一方、
図9は、上記の各例における繰り返し熱処理後の通気率と回転浸食試験(間欠)での浸食量指数との関係を示すグラフである。
図9に明確に示されるように、繰り返し熱処理後の通気率と回転浸食試験(間欠)での浸食量指数との間には負の相関が認められる。通常の操業においては通気率が高いれんがは耐食性に劣ると予想されるが、驚くべきことに間欠操業の場合には、逆に通気率が高いれんが程、耐用性に優れることが分かった。この結果から、繰り返し熱処理後の通気率は、間欠操業に適したMgO−Cれんがの選定に有効であることが分かる。
【0050】
図10は、上記の各例における繰り返し熱処理後の通気率と還元焼成後の見掛け気孔率との関係を示すグラフである。上記の
図6〜
図9から類推されることではあるが、
図10にも示されるように、繰り返し熱処理後の通気率と還元焼成後の見掛け気孔率との間には明確な相関は認められない。この結果から、間欠操業に対しては、従来の見掛け気孔率に基づく選定では好適な選定ができなかったが、還元焼成後の見掛け気孔率に基づく選定と、繰り返し熱処理後の通気率に基づく選定を実施することが適切であったといえる。更に、還元焼成後の見掛け気孔率に基づく選定を付加することで、より的確に間欠操業に適したMgO−Cれんがの選定が行えるといえる。
【0051】
以上のような結果によって、本発明に係る選定方法は、間欠操業を行う溶融金属容器(転炉1)に適したMgO−Cれんがを効果的に選定できるものであり、当該方法によって選定されたMgO−Cれんがは間欠操業を行う溶融金属容器(転炉1)の内張り構造に用いられた場合に良好な耐用性を示すことが確認された。
【0052】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。