特許第6885218号(P6885218)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6885218MgO−Cれんがの選定方法、溶融金属容器の操業方法、および溶融金属容器の内張り構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885218
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】MgO−Cれんがの選定方法、溶融金属容器の操業方法、および溶融金属容器の内張り構造
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/043 20060101AFI20210531BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20210531BHJP
   B22D 41/02 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
   C04B35/043
   F27D1/00 N
   B22D41/02 A
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-124286(P2017-124286)
(22)【出願日】2017年6月26日
(65)【公開番号】特開2019-6638(P2019-6638A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2020年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】神子 裕美
【審査官】 有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−166943(JP,A)
【文献】 特開2015−189605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
B22D 41/02
F27D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間欠操業を行う溶融金属容器の、内張り構造に用いられるMgO−Cれんがの選定方法であって、
MgO−Cれんがの試験片を1600℃まで加熱する工程、前記試験片を1600℃で3時間保持する工程、前記試験片を500℃まで徐冷する工程、および前記試験片を500℃で3時間保持する工程を、還元雰囲気下で10回繰り返した後に、前記試験片の通気率が10.0×10−15以上であるMgO−Cれんがを選定するステップと、
還元焼成後の見掛け気孔率に基づいてMgO−Cれんがを選定するステップと
を含み、還元焼成後の見掛け気孔率に基づいてMgO−Cれんがを選定するステップでは、1400℃で30時間還元焼成した後の見掛け気孔率が10%未満のMgO−Cれんがを選定する、MgO−Cれんがの選定方法。
【請求項2】
MgO−Cれんがで形成される内張り構造を有する溶融金属容器の操業方法であって、
前記溶融金属容器を用いて間欠操業を行う工程を含み、
前記MgO−Cれんがは、1600℃まで加熱する工程、1600℃で3時間保持する工程、500℃まで徐冷する工程、および500℃で3時間保持する工程を、還元雰囲気下で10回繰り返した後の通気率が10.0×10−15以上、かつ1400℃で30時間還元焼成した後の見掛け気孔率が10%未満である、溶融金属容器の操業方法。
【請求項3】
間欠操業を行う溶融金属容器の、MgO−Cれんがで形成される内張り構造であって、
前記MgO−Cれんがは、1600℃まで加熱する工程、1600℃で3時間保持する工程、500℃まで徐冷する工程、および500℃で3時間保持する工程を、還元雰囲気下で10回繰り返した後の通気率が10.0×10−15以上、かつ1400℃で30時間還元焼成した後の見掛け気孔率が10%未満である、溶融金属容器の内張り構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MgO−Cれんがの選定方法、溶融金属容器の操業方法、および溶融金属容器の内張り構造に関する。
【背景技術】
【0002】
MgO−Cれんが(マグネシアカーボンれんが)は、マグネシアおよびグラファイトを主骨材として構成されるれんがであり、耐食性および耐スポール性に優れることから転炉などの溶融金属容器の内張り構造に広く用いられている。MgO−Cれんがでは、組織を緻密化することで耐用性が向上することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、マグネシア原料の粒度構成の適正化、およびグラファイトの粒度構成の適正化により、受熱後におけるMgO−Cれんがの一層の緻密化を図り、耐用性の高いMgO−Cれんがを提供するための技術が記載されている。特許文献1によれば、MgO−Cれんがの組織を緻密化することによって、外気との通気性を低くし、スラグや溶銑、溶鋼の浸透を抑制することによって、MgO−Cれんがの耐酸化性や耐食性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−166943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば転炉の内張り構造にMgO−Cれんがを用いる場合、上記のように緻密化されたMgO−Cれんがを用いても、操業条件によっては期待されたような耐用性が得られないことがあった。具体的には、溶鋼が排出されてから次の溶銑が装入されるまでの待機時間が長く、その間に稼働面に大きな温度低下が発生する間欠操業の場合に、稼働面を構成するMgO−Cれんがに想定以上の損耗が発生することがあった。
【0006】
本発明は、MgO−Cれんがを間欠操業を行う溶融金属容器の内張り構造に用いる場合に良好な耐用性を得ることが可能な、新規かつ改良されたMgO−Cれんがの選定方法、溶融金属容器の操業方法、およびMgO−Cれんがを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある観点によれば、間欠操業を行う溶融金属容器の内張り構造に用いられるMgO−Cれんがの選定方法であって、MgO−Cれんがの試験片を1600℃まで加熱する工程、試験片を1600℃で3時間保持する工程、試験片を500℃まで徐冷する工程、および試験片を500℃で3時間保持する工程を、還元雰囲気下で10回繰り返した後に、試験片の通気率が10.0×10−15以上であるMgO−Cれんがを選定するステップと、還元焼成後の見掛け気孔率に基づいてMgO−Cれんがを選定するステップとを含む、MgO−Cれんがの選定方法が提供される。
【0008】
上記の選定方法において、還元焼成後の見掛け気孔率に基づいてMgO−Cれんがを選定するステップでは、1400℃で30時間還元焼成した後の見掛け気孔率が10%未満のMgO−Cれんがを選定してもよい。
【0009】
本発明の別の観点によれば、MgO−Cれんがで形成される内張り構造を有する溶融金属容器の操業方法であって、溶融金属容器を用いて間欠操業を行う工程を含み、MgO−Cれんがは、1600℃まで加熱する工程、1600℃で3時間保持する工程、500℃まで徐冷する工程、および500℃で3時間保持する工程を、還元雰囲気下で10回繰り返した後の通気率が10.0×10−15以上、かつ1400℃で30時間還元焼成した後の見掛け気孔率が10%未満である、溶融金属容器の操業方法が提供される。
【0010】
本発明のさらに別の観点によれば、間欠操業を行う溶融金属容器の、MgO−Cれんがで形成される内張り構造であって、MgO−Cれんがは、1600℃まで加熱する工程、1600℃で3時間保持する工程、500℃まで徐冷する工程、および500℃で3時間保持する工程を、還元雰囲気下で10回繰り返した後の通気率が10.0×10−15以上、かつ1400℃で30時間還元焼成した後の見掛け気孔率が10%未満である、溶融金属容器の内張り構造が提供される。
【発明の効果】
【0011】
以上で説明したように、本発明によれば、選定されたMgO−Cれんがを間欠操業を行う溶融金属容器の内張り構造に用いる場合に良好な耐用性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るMgO−Cれんがを内張り構造に用いた転炉の断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るMgO−Cれんがの選定方法を示すフローチャートである。
図3】熱処理の繰り返し回数と通気率との関係を示すグラフである。
図4】熱処理の繰り返し回数と通気率との関係を示すグラフである。
図5】熱処理の繰り返し回数と通気率との関係を示すグラフである。
図6】還元焼成後の見掛け気孔率と回転浸食試験(通常)での浸食量指数との関係を示すグラフである。
図7】還元焼成後の見掛け気孔率と回転浸食試験(間欠)での浸食量指数との関係を示すグラフである。
図8】繰り返し熱処理後の通気率と回転浸食試験(通常)での浸食量指数との関係を示すグラフである。
図9】繰り返し熱処理後の通気率と回転浸食試験(間欠)での浸食量指数との関係を示すグラフである。
図10】繰り返し熱処理後の通気率と還元焼成後の見掛け気孔率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係るMgO−Cれんがを内張り構造に用いた転炉の断面図である。図1を参照すると、本発明に係る溶融金属容器の例である転炉1は、MgO−Cれんがで形成された内張り構造2を有する。内張り構造2の稼働面2sの温度は、転炉1による溶銑の処理中には溶銑と同程度、具体的には例えば約1600℃〜1800℃であるが、処理後の溶鋼が排出された後、次に溶銑が装入されるまでの待機時間には上記温度よりも低下する。
【0014】
ここで、転炉1の稼働率が高く、待機時間が短い場合には温度低下は小さい。この場合、稼働面2sは例えば処理中と同程度の温度に維持される。一方、転炉1の稼働率が低く、待機時間が長い場合には温度低下が大きい。この場合、稼働面2sは上記温度を大きく下回る温度まで放冷されることになる。例えば、稼働面2sは、待機時間中に、付着したスラグの可視放射が顕著でなくなる約800℃、あるいはさらに低い約500℃といった温度まで徐冷される場合もある。
【0015】
本明細書では、このように、転炉1に溶銑または溶鋼が装入されていない間に内張り構造2の稼働面2sに発生する温度低下が所定の範囲を超えるような操業を間欠操業という。転炉1以外の溶融金属容器でも、同様に間欠操業を定義することができる。
【0016】
上述のように、間欠操業を行う転炉1では、緻密化されたMgO−Cれんがを用いた場合であっても、内張り構造2の稼働面2sを構成するMgO−Cれんがに想定以上の損耗が発生することがある。本発明者らが稼働面2sの損耗箇所を観察した結果、稼働面2sの近傍でMgO−Cれんがの内部に空隙が多く存在することが見出された。間欠操業を行う転炉1では、待機時間の後に再び溶銑が装入されたときに稼働面2sが大きな熱衝撃を受け、それによって上記の空隙を起点として稼働面2sが剥離するものと考えられる。
【0017】
一般的に、れんが内部の隙間は、高温減圧下でMgO−C反応を起こしたマグネシアおよびグラファイトが消失すること、およびMgO骨材の膨張収縮によって生じると考えられる。しかし、MgO−Cれんがの稼働面2sが緻密化された場合(より具体的には、MgO−Cれんがの稼働面にスラグが浸潤した場合)、上記のMgO−C反応や、炉内のスラグ成分とグラファイトとの反応で発生したCOガスが、炉内に放出されずに稼働面2sの緻密化された層の内側に滞留する割合が増加する。上記の損耗箇所で観察された空隙は、この滞留したCOガスの作用によってできたものと考えられる。
【0018】
MgO−Cれんがの組織を緻密化して耐酸化性や耐食性を向上させることが、MgO−Cれんがの耐用性を向上させるために有効であることは、既に述べた通りである。それゆえ、本発明者らは、このような緻密化の効果を維持しつつ、上記のような空隙の生成を原因とする稼働面2sの剥離を防止する方法を検討した。その結果、内張り構造2を形成するMgO−Cれんががある程度の通気率を有し、COガスが稼働面2sの内側に滞留せずにれんが内部に拡散されることによって、空隙の生成が防止される可能性に想到した。
【0019】
MgO−Cれんがは、製造時にはほとんど通気率を有さないが、転炉1で熱負荷を受けて上記のようなMgO−C反応が起きることによって組織に隙間が生じ、さらに間欠操業の場合にはMgO骨材が膨張収縮を繰り返すことによって隙間が拡張されて通気孔を形成し、通気率が上昇する。上述のように、稼働面2sが緻密化され、MgO−C反応によって発生するCOガスが緻密層直下に滞留して空隙を生成すると稼働面2sの剥離の原因になるが、そうではなく、MgO−Cれんがの内部で発生した隙間が、MgO骨材の膨張収縮等によって拡張されれば、通気孔としてCOガスをMgO−Cれんがの内部に拡散させる作用を有し、緻密層直下の空隙の生成を抑制しうるものと考えられる。本実施形態に係るMgO−Cれんがは、このような知見に基づき、以下で説明するような選定方法によって選定される。
【0020】
図2は、本発明の一実施形態に係るMgO−Cれんがの選定方法を示すフローチャートである。図2を参照すると、MgO−Cれんがの選定方法は、繰り返し熱処理後の通気率に基づいてMgO−Cれんがを選定するステップS1と、還元焼成後の見掛け気孔率に基づいてMgO−Cれんがを選定するステップS2とを含む。
【0021】
ステップS1は、MgO−Cれんがに対して上記のような転炉1における間欠操業を模擬した繰り返し熱処理を実施した上で通気率を測定し、その結果に基づいて内張り構造2に適したMgO−Cれんがを選定するステップである。具体的には、MgO−Cれんがの試験片を1600℃まで加熱する工程、試験片を1600℃で3時間保持する工程、試験片を500℃まで徐冷する工程、および試験片を500℃で3時間保持する工程を還元雰囲気下で10回繰り返した後に、JIS R2115に規定される方法で通気率を測定し、通気率が10.0×10−15以上であるMgO−Cれんがを使用に適したものとして選定する。
【0022】
ステップS2は、例えば特開2014−166943号公報に記載されているように、MgO−Cれんがを予め還元焼成して転炉1で内張り構造2として使用されたときの状態に近づけた上で、組織の緻密さの指標として見掛け気孔率を測定し、その結果に基づいて内張り構造2に適したMgO−Cれんがを選定するステップである。具体的には、MgO−Cれんがの試験片の還元焼成を1400℃で30時間実施した後に、JIS A1509−3に規定される方法で見掛け気孔率を測定し、見掛け気孔率が10%未満であるMgO−Cれんがを使用に適したものとして選定する。ここで、還元焼成の時間は30時間には限定されないが、MgO−Cれんがは不焼成煉瓦であるため、長時間の還元焼成を実施することによって、実機での使用中に発生する成分の揮発やMgO−C反応、金属反応による焼き締まりなどを再現することができ、実機での操業が繰り返された後の表面の開気孔の状態をより正確に評価することができる。
【0023】
図3図5は、後述する実施例における例1〜16をサンプルとして、熱処理の繰り返し回数と通気率との関係を示すグラフである。図3図5を参照すると、熱処理のサイクルが概ね10回繰り返されるまでは各例において通気率が上昇し、また各例の間で通気率の大小関係が入れ替わっていることがわかる。その一方で、熱処理のサイクルが概ね10回繰り返された後は、各例における通気率の上昇が緩やかになり、また各例の間で通気率の大小関係が入れ替わることもなくなっていることがわかる。
【0024】
これは、MgO−C反応を起こしたマグネシアおよびグラファイトが消失して隙間が生じると、残ったマグネシアとグラファイトとの間の接触部分が減るため、熱処理のサイクルが繰り返されるにつれてMgO−C反応が起こりにくくなり、れんが内部に新たな隙間が形成されなくなるためであると考えられる。また、マグネシアの熱による膨張量は有限であるため、マグネシアの熱膨張および収縮による隙間の拡張も、熱処理のサイクルが繰り返されるにつれて収束すると考えられる。
【0025】
以上の点を考慮して、本実施形態では、熱処理のサイクルを10回繰り返した後に測定した通気率をMgO−Cれんがの選定に利用することとした。なお、図3図5のグラフに示したように、各例では、熱処理のサイクルを10回繰り返したところで通気率が所定値(例1〜例6では10.0×10−15以上)に達している。また、サンプルの条件によって10回未満でも通気率がほぼ一定になるのであれば、熱処理のサイクルを2回以上繰り返した後に通気率の変化が安定したときの通気率の値を選定に利用してもよい。
【0026】
本実施形態では、上記で図2を参照して説明したステップS1およびステップS2でいずれも使用に適するものとして選定されたMgO−Cれんがを用いて転炉1の内張り構造2を形成することによって、間欠操業を行う転炉1においても、内張り構造2の稼働面2sの剥離を防止し、良好な耐用性を得ることができる。
【実施例】
【0027】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、以下で説明する実施例は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用した条件例にすぎず、本発明が以下の実施例の条件に限定されるものではない。
【0028】
以下の表に、本発明の実施例において選定の対象とされた例1〜例16に係るMgO−Cれんがの組成を示す。各例の間では、マグネシアおよびグラファイトの質量比(マグネシア87質量%、グラファイト13質量%)および金属アルミニウムの添加量(外掛けで0.5質量%)を一定としながら、マグネシアおよびグラファイトの粒度構成を変えている。各例について、上記で本発明の一実施形態として説明した選定方法に従って使用の適否を判定した上で、間欠操業を行う転炉1で内張り構造2に使用して実機試験を実施し、稼働面2sの損耗速度を測定した。また、各例について、通常操業(待機時間中の稼働面の温度低下が無視できる操業)および間欠操業の両方を模擬した回転浸食試験を実施し、それぞれの場合における浸食量指数を算出した。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
例1〜例6では、いずれも、マグネシアおよびグラファイトの全体に対して、粗大粒(粒径1mm以上)のマグネシアの比率が50質量%であり、微粉粒(粒径0.075mm未満)のマグネシアの比率が2質量%以下である。このようなマグネシアの粒度構成は、一般的な緻密化されたMgO−れんがに比べると粗大粒が多く、微粉粒が少ない構成である。本発明者らの知見によれば、粗大粒のマグネシアが多いほど、熱膨張によって粒子間に隙間ができやすく、この隙間が通気孔になることによって通気率が上昇する。また、微粉粒のマグネシアが少ないほど、マグネシアの体積に対して表面積が小さくなるために、MgO−C反応によるCOガスの発生が抑制される。
【0033】
加えて、例1〜例6では、いずれも、グラファイトの平均粒径が0.3mmを超えている。グラファイトの粒径が大きいほど、グラファイトの体積に対して表面積が小さくなるために、MgO−C反応や炉内のスラグ成分との反応によるCOガスの発生が抑制される。
【0034】
各例における通気率の測定では、JIS R2115に従い、見掛け気孔率の測定時と同じ形状のMgO―Cれんがの試験片をコークス粉末を充填したSiC質の隔壁箱に封入した上で、電気炉を用いて隔壁箱を1600℃まで加熱する工程、隔壁箱を1600℃で3時間保持する工程、隔壁箱を500℃まで徐冷する工程、および隔壁箱を500℃で3時間保持する工程を還元雰囲気下で10回以上繰り返し、1サイクル毎に室温まで徐冷した後の通気率を測定した。この結果、例1〜例6のすべてで、10回目以降の通気率は10.0×10−15以上であった。従って、例1〜例6に係るMgO−Cれんがは、図2を参照して説明した本発明の一実施形態に係る選定方法のステップS1で、使用に適したものとして選定される。
【0035】
一方、各例における見掛け気孔率の測定では、JIS A1509−3の規定に従い、MgO−Cれんがの試験片を直径50±0.5mm、高さ50±0.5mmの円柱状とし、試験片をコークス粉末を充填したSiC質の隔壁箱に封入した上で、1400℃で30時間にわたって焼成し、室温まで徐冷した後に見掛け気孔率を測定した。この結果、例1〜例6のすべてで、見掛け気孔率は10%未満であった。従って、例1〜例6に係るMgO−Cれんがは、図2を参照して説明した本発明の一実施形態に係る選定方法のステップS2でも、使用に適したものとして選定される。
【0036】
一方、例7〜例16は、図2を参照して説明した本発明の一実施形態に係る選定方法のステップのいずれかにおいて、使用に適するものとして選定されない例である。
【0037】
具体的には、例7〜例15は、還元焼成後の見掛け気孔率が10%未満であるものの、繰り返し熱処理後の通気率が10.0×10−15に満たない例である(ステップS1で不選定)。MgO−Cれんがの組成についていえば、例7、例8および例15では、微粉粒(粒径0.075mm未満)のマグネシアの比率が2質量%を超えている。また、例9、例13および例14では、グラファイトの平均粒径が0.3mm未満である。例10〜例12、例14および例15では、粗大粒(粒径1mm以上)のマグネシアの比率が50質量%未満である。
【0038】
一方、例16は、繰り返し熱処理後の通気率が10.0×10−15を超えるものの、還元焼成後の見掛け気孔率が10%を超える例である(ステップS2で不選定)。例16では、微粉粒のマグネシアの比率が2質量%を超えており、かつグラファイトの平均粒径が0.3mm未満である。
【0039】
上記のような各例における、転炉1を用いた実機試験の結果について説明する。実機として用いられた転炉1は容量300tであり、間欠操業を行っている。具体的には、転炉1では、溶鋼を排出した後、次に溶銑が装入されるまでの待機時間に、稼働面2sの温度が約500℃まで低下する。実機試験では、転炉1で、各例に係るMgO−Cれんがで形成した内張り構造2の初期厚みと1000チャージ(ch)の溶銑を処理した後の厚み(最も損耗が大きい部位)とを測定し、その差分をチャージの数で除することによって損耗速度(mm/ch)を算出した。
【0040】
本発明者らの観察によれば、上記のような間欠操業を行う転炉1では、平均すると6chに1回の割合で稼働面2sの剥離が発生する。また、1回に剥離する稼働面2sの層の厚みは平均すると約3mmである。このような観察結果から、転炉1の間欠操業によって稼働面2sの剥離が発生している部位では、損耗速度が平均して0.50mm/ch(=3mm/6ch)になると仮定した。一方、稼働面2sの剥離が発生しなかった部位では主に溶損によって稼働面2sが損耗するが、この部位における損耗速度は平均して0.25mm/chであった。
【0041】
上記のような本発明者らの観察および考察の結果によれば、例1〜例6では損耗速度が0.25mm/ch〜0.34mm/chであったため、いずれの例でも稼働面2sの剥離は発生しなかったものと考えられる。一方、例7〜例16では損耗速度が0.39mm/ch〜0.88mm/chであり、大半の例で稼働面2sの剥離が発生したものと考えられる。
【0042】
次に、回転浸食試験の結果について説明する。回転浸食試験は、各例に係るMgO−Cれんがが、通常操業の場合と間欠操業の場合とのそれぞれで示す耐用性を比較するために実施した。つまり、回転浸食試験の結果から、各例に係るMgO−Cれんがが、通常操業にも間欠操業にも適するのか、通常操業には適するが間欠操業には適さないのか、通常操業にも間欠操業にも適さないのかを判断することができる。
【0043】
回転浸食試験は、水平方向の回転軸を有する円筒の内面をMgO−Cれんがでライニングした上で酸素−プロパンバーナで加熱し、スラグを投入してれんが表面を浸食させる試験である。投入時のスラグ温度は1700℃であり、スラグは30分毎に入れ替えられる。スラグ組成はCaO/SiO=3.2、FeO=24.8%、MgO=3.5%とし、試験終了後に各れんが中央部の寸法を測定することによって浸食量を算出した。
【0044】
通常操業を模擬した回転浸食試験では、上記の試験を5時間にわたって実施した。また、間欠操業を模擬した回転浸食試験では、上記の試験を5時間にわたって実施した後、スラグを排出した上で容器を徐冷し(約15時間)、稼働面の温度が500℃まで低下したことを確認してから再度5時間にわたって上記の試験を実施した。
【0045】
それぞれの回転浸食試験の結果(浸食量)は、例1〜例6の中で最も実機試験での損耗速度が大きかった例4での浸食量を100とする指数で表されている(指数が大きいほど浸食量が大きい)。従って、例1〜3,5,6ではいずれも指数が100を下回っている。一方、例7〜例13では、通常操業を模擬した回転浸食試験での浸食量については例1〜例6と同程度(指数85〜104)であるものの、間欠操業を模擬した回転浸食試験での浸食量は例1〜例6を大きく上回っている(指数115〜184)。従って、これらの例に係るMgO−Cれんがは、通常操業には適するが間欠操業には適さないといえる。また、例14〜例16では、通常操業を模擬した試験での浸食量(指数128〜166)および間欠操業を模擬した試験での浸食量(指数139〜194)とも、例1〜例6を大きく上回っている。従って、これらの例に係るMgO−Cれんがは、通常操業にも間欠操業にも適さない例であるといえる。
【0046】
図6は、上記の各例における還元焼成後の見掛け気孔率と回転浸食試験(通常)での浸食量指数との関係を示すグラフである。図6に示されるように、還元焼成後の見掛け気孔率と回転浸食試験(通常)での浸食量指数との間には正の相関が認められる。ここで、転炉1の通常操業の場合に稼働面2sの損耗の主な原因となる溶損は、間欠操業の場合にも同様に発生する(間欠操業では、溶損に加えて上述のような剥離が発生する可能性がある)。この結果から、通常操業に対しては、還元焼成後の見掛け気孔率に基づく選定によって、稼働面2sの溶損が効果的に抑制されるMgO−Cれんがが選定されていたといえる。
【0047】
これに対し、図7は、上記の各例における還元焼成後の見掛け気孔率と回転浸食試験(間欠)での浸食量指数との関係を示すグラフである。図7に示されるように、還元焼成後の見掛け気孔率と回転浸食試験(間欠)での浸食量指数との間には明確な相関は認められない。この結果から、間欠操業に対しては、還元焼成後の見掛け気孔率に基づく選定だけで、稼働面2sの剥離が効果的に抑制されるMgO−Cれんがを選定することは困難であることがわかる。
【0048】
そこで本発明者らは、繰り返し熱処理後の通気率に基づく選定を実施した。図8は、上記の各例における繰り返し熱処理後の通気率と回転浸食試験(通常)での浸食量指数との関係を示すグラフである。ところが図8に示されるように、繰り返し熱処理後の通気率と回転浸食試験(通常)での浸食量指数との間には明確な相関は認められない。
【0049】
一方、図9は、上記の各例における繰り返し熱処理後の通気率と回転浸食試験(間欠)での浸食量指数との関係を示すグラフである。図9に明確に示されるように、繰り返し熱処理後の通気率と回転浸食試験(間欠)での浸食量指数との間には負の相関が認められる。通常の操業においては通気率が高いれんがは耐食性に劣ると予想されるが、驚くべきことに間欠操業の場合には、逆に通気率が高いれんが程、耐用性に優れることが分かった。この結果から、繰り返し熱処理後の通気率は、間欠操業に適したMgO−Cれんがの選定に有効であることが分かる。
【0050】
図10は、上記の各例における繰り返し熱処理後の通気率と還元焼成後の見掛け気孔率との関係を示すグラフである。上記の図6図9から類推されることではあるが、図10にも示されるように、繰り返し熱処理後の通気率と還元焼成後の見掛け気孔率との間には明確な相関は認められない。この結果から、間欠操業に対しては、従来の見掛け気孔率に基づく選定では好適な選定ができなかったが、還元焼成後の見掛け気孔率に基づく選定と、繰り返し熱処理後の通気率に基づく選定を実施することが適切であったといえる。更に、還元焼成後の見掛け気孔率に基づく選定を付加することで、より的確に間欠操業に適したMgO−Cれんがの選定が行えるといえる。
【0051】
以上のような結果によって、本発明に係る選定方法は、間欠操業を行う溶融金属容器(転炉1)に適したMgO−Cれんがを効果的に選定できるものであり、当該方法によって選定されたMgO−Cれんがは間欠操業を行う溶融金属容器(転炉1)の内張り構造に用いられた場合に良好な耐用性を示すことが確認された。
【0052】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0053】
1…転炉、2…内張り構造、2s…稼働面。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10