特許第6885229号(P6885229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6885229タンディッシュ注入管のシール方法およびシール装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885229
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】タンディッシュ注入管のシール方法およびシール装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/106 20060101AFI20210531BHJP
   B22D 11/10 20060101ALI20210531BHJP
   B22D 41/58 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
   B22D11/106 B
   B22D11/10 320C
   B22D11/10 360Z
   B22D41/58
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-132133(P2017-132133)
(22)【出願日】2017年7月5日
(65)【公開番号】特開2019-13950(P2019-13950A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2020年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】特許業務法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】七辺 寛幸
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−006232(JP,A)
【文献】 特開平09−052156(JP,A)
【文献】 特開2007−319873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00〜11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造設備における取鍋とタンディッシュとの間に上方から下方へ向けて配置される陣笠、シール管およびタンディッシュ注入管により形成されるとともに、前記取鍋の下ノズルから前記タンディッシュへの溶鋼の注入流が流下する閉空間に不活性ガスを供給する、タンディッシュ注入管のシール方法であって、
前記シール管が存在する高さ位置に、前記閉空間の内部下方へ向けて水平面から所定のシールガス吹込み角度で傾斜して配置されるガス吹込み管から、前記不活性ガスを、前記閉空間での平均滞留時間が30秒間以下となるように、前記閉空間へ吹込
前記シールガス吹込み角度D(°)は、式tan−1[{(B/2)−C}/A]+90により表される角度D(°)に対してABS(D−D)≦5(°)以下を満足する、
タンディッシュ注入管のシール方法。
ただし、Aは、前記タンディッシュ注入管を前記タンディッシュに収容された溶鋼に浸漬した際の溶鋼湯面から前記ガス吹込み管の先端までの鉛直方向距離(mm)であり、Bは、前記タンディッシュ注入管の内径(mm)であり、Cは、前記タンディッシュ注入管の内壁から前記ガス吹込み管の先端までの水平方向最短距離(mm)である。
【請求項2】
連続鋳造設備における取鍋とタンディッシュとの間に上方から下方へ向けて配置されるシール管およびタンディッシュ注入管により形成される空間に不活性ガスを供給する、タンディッシュ注入管のシール方法であって、
前記シール管が存在する高さ位置に、前記空間の内部下方へ向けて水平面から所定のシールガス吹込み角度で傾斜して配置されるガス吹込み管から、前記不活性ガスを、前記空間での平均滞留時間が30秒間以下となるように、前記空間へ吹込
前記シールガス吹込み角度D(°)は、式tan−1[{(B/2)−C}/A]+90により表される角度D(°)に対してABS(D−D)≦5(°)以下を満足する、
タンディッシュ注入管のシール方法。
ただし、Aは、前記タンディッシュ注入管を前記タンディッシュに収容された溶鋼に浸漬した際の溶鋼湯面から前記ガス吹込み管の先端までの鉛直方向距離(mm)であり、Bは、前記タンディッシュ注入管の内径(mm)であり、Cは、前記タンディッシュ注入管の内壁から前記ガス吹込み管の先端までの水平方向最短距離(mm)である。
【請求項3】
耐火物製もしくはセラミックファイバー製の蓋を前記シール管の上に設置する、請求項2に記載のタンディッシュ注入管のシール方法。
【請求項4】
B/E≧0.6を満足する、請求項1から請求項3のいずれか一つに記載のタンディッシュ注入管のシール方法。
ただし、Eは、前記取鍋が設置されている場合に、前記取鍋の下ノズルが存在する位置から、前記タンディッシュ注入管を前記タンディッシュに収容された溶鋼に浸漬した際の溶鋼湯面までの距離(mm)である。
【請求項5】
連続鋳造設備における取鍋とタンディッシュとの間に上方から下方へ向けて配置される陣笠、シール管およびタンディッシュ注入管を備え、前記陣笠、前記シール管および前記タンディッシュ注入管により形成されるとともに、前記取鍋の下ノズルから前記タンディッシュへの溶鋼の注入流が流下する閉空間に不活性ガスを供給する、タンディッシュ注入管のシール装置であって、
前記シール管が存在する高さ位置に、前記閉空間の内部下方へ向けて水平面から所定のシールガス吹込み角度で傾斜して配置されて、前記不活性ガスを、前記閉空間での平均滞留時間が30秒間以下となるように、前記閉空間へ吹込むガス吹込み管を備え
前記シールガス吹込み角度D(°)は、式tan−1[{(B/2)−C}/A]+90により表される角度D(°)に対してABS(D−D)≦5(°)以下を満足する、
タンディッシュ注入管のシール装置。
ただし、Aは、前記タンディッシュ注入管を前記タンディッシュに収容された溶鋼に浸漬した際の溶鋼湯面から前記ガス吹込み管の先端までの鉛直方向距離(mm)であり、Bは、前記タンディッシュ注入管の内径(mm)であり、Cは、前記タンディッシュ注入管の内壁から前記ガス吹込み管の先端までの水平方向最短距離(mm)である。
【請求項6】
連続鋳造設備における取鍋とタンディッシュとの間に上方から下方へ向けて配置されるシール管およびタンディッシュ注入管を備え、前記シール管および前記タンディッシュ注入管により形成される空間に不活性ガスを供給する、タンディッシュ注入管のシール装置であって、
前記シール管が存在する高さ位置に、前記空間の内部下方へ向けて水平面から所定のシールガス吹込み角度で傾斜して配置されて、前記不活性ガスを、前記空間での平均滞留時間が30秒間以下となるように、前記空間へ吹込むガス吹込み管を備え
前記シールガス吹込み角度D(°)は、式tan−1[{(B/2)−C}/A]+90により表される角度D(°)に対してABS(D−D)≦5(°)以下を満足する、
タンディッシュ注入管のシール装置。
ただし、Aは、前記タンディッシュ注入管を前記タンディッシュに収容された溶鋼に浸漬した際の溶鋼湯面から前記ガス吹込み管の先端までの鉛直方向距離(mm)であり、Bは、前記タンディッシュ注入管の内径(mm)であり、Cは、前記タンディッシュ注入管の内壁から前記ガス吹込み管の先端までの水平方向最短距離(mm)である。
【請求項7】
前記シール管の上に設置される、耐火物製もしくはセラミックファイバー製の蓋を備える、請求項に記載のタンディッシュ注入管のシール装置。
【請求項8】
B/E≧0.6を満足する、請求項5から請求項7のいずれか一つに記載のタンディッシュ注入管のシール装置。
ただし、Eは、前記取鍋が設置されている場合に、前記取鍋の下ノズルが存在する位置から、前記タンディッシュ注入管を前記タンディッシュに収容された溶鋼に浸漬した際の溶鋼湯面までの距離(mm)である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンディッシュ注入管のシール方法およびシール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造においては、成品の品質悪化に繋がる溶鋼の再酸化(二次酸化)を防止する必要がある。特に、タンディッシュ注入管を用いた連続鋳造の操業では、タンディッシュへの給湯時に溶鋼の再酸化の危険性が高い。このため、タンディッシュ注入管の内部を不活性ガスで満たし、大気の侵入を防止する必要がある。
【0003】
特許文献1の「従来の技術」の欄(段落0002,0003)には、取鍋に設置されている陣笠に設置されたシールガス吹込み部から不活性ガスを吹込む注入管上部シール方法(本明細書では「タンディッシュ注入管陣笠シール方法」という)が示されている。
【0004】
図6は、タンディッシュ注入管陣笠シール方法の概要を示す説明図である。図6に示すように、タンディッシュ注入管6を介して取鍋(図示しない)の下ノズル2からの溶鋼の注入流にArガスを吹き付けるため、シールリングを用いた陣笠3からのガス吹込み部1が配設されている。
【0005】
これにより、溶鋼の注入流を確実にシールしてタンディッシュ蓋4の下方のタンディッシュへ溶鋼を注入する。注入された溶鋼は、流量調整機能を有するスライディングノズルおよび浸漬ノズルを介して鋳型へ供給される。
【0006】
しかし、図6に示す装置では、注入流がタンディッシュ内の溶鋼と叩き込み部5で衝突することにより主として発生するスプラッシュにより、タンディッシュ注入管6の内壁面に地金が付着・堆積し、正常な注入流による溶鋼の鋳込みができなくなる。
【0007】
つまり、特許文献1の段落0004にも記載されているように、(a)付着した地金が大きくなるために長時間鋳造を行うことができず、実際の連続鋳造に適用できないこと、(b)溶鋼の再酸化を防止するためにタンディッシュ注入管6の内部を全て不活性ガスによりシールする必要があるため、大量の不活性ガスを必要とし経済的でないこと、さらには(c)取鍋を次に鋳造する取鍋と交換しその際に連続して鋳造を行う連々鋳を行う際に、不活性ガスの再充填に時間を要し、溶鋼の再酸化が生じることといった問題があり、その改善が必要であった。
【0008】
これらの問題を解決するために、特許文献1には、ガス供給路を内蔵するタンディッシュ注入管を用いたシール方法(本明細書では「ガス吹きタンディッシュ注入管シール方法」という。)が開示されている。
【0009】
図7は、特許文献1により開示された、タンディッシュ13のタンディッシュ注入管14の構成を模式的に示す説明図である。図7(a)は、タンディッシュ注入管14を組み込んだ全体説明図であり、図7(b)は、タンディッシュ注入管14の外壁(周壁)の構造を示す拡大説明図である。
【0010】
図7(a)において、取鍋11の底部に設けられて取鍋11からの溶鋼の注入量を調整する役割を有するスライディングノズル12は、上部から順にスライディング上部ノズル12a、スライディング上プレート12b、スライディング下プレート12cおよびスライディング下部ノズル12dにより構成される。
【0011】
タンディッシュ13の上部に配置されて溶鋼15に浸漬されて使用されるタンディッシュ注入管14の内壁面には、スライディング下部ノズル12dから飛散するスプラッシュ15aと注入流16が溶鋼15に衝突することにより発生するスプラッシュ15bとにより地金付着が発生しようとする。
【0012】
しかし、図7(b)に示すように、タンディッシュ注入管14の内部には、軸線方向へ向けて、Arガスの供給路17が内蔵されるとともにArガスの吹出し口18が複数並んで設けられ、各吹出し口18からArガスが噴出されるため、地金付着が防止される。
【0013】
また、注入流16の溶鋼15との衝突位置である叩き込み部に効率的に不活性ガスが供給され、連々鋳時にもタンディッシュ注入管14から不活性ガスを常時吹込める構造になっているため、少量の不活性ガスで高いシール効果を得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平5−293614公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1により開示されたタンディッシュの注入管14は、タンディッシュ注入管陣笠シール方法を改善でき、注入管への地金付着ならびに溶鋼の再酸化をあらゆる場合において解消できるものである。
【0016】
しかし、特許文献1により開示された、不活性ガスを吹込める構造を有するタンディッシュ注入管14の製作コストは高く、その低減が望まれる。
【0017】
本発明は、図7(a)および図7(b)に示す、不活性ガスが吹込める構造を有するタンディッシュ注入管を用いることなく、ガス吹込み管を用いて上述の課題を解消するためになされたものである。
【0018】
本発明の目的は、連続鋳造におけるタンディッシュ注入管の内部のシール効果をガス吹きタンディッシュ注入管シール方法と同程度に維持しながら、安価でかつ、スプラッシュによる地金付着を防止できる、タンディッシュ注入管のシール方法およびシール装置を提供することである。
【0019】
すなわち、本発明は、連続鋳造におけるタンディッシュ注入管の内部のシール方法およびシール装置に関する。本発明は、タンディッシュの内部の溶鋼の再酸化・[N]ピックアップ等の溶鋼汚染防止技術としてのタンディッシュ注入管のシールにおいて、不活性ガスを溶鋼の注入流に吹込むために適用される技術に関する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は以下に列記の通りである。
(1)連続鋳造設備における取鍋とタンディッシュとの間に上方から下方へ向けて配置される陣笠、シール管およびタンディッシュ注入管により形成されるとともに、前記取鍋の下ノズルから前記タンディッシュへの溶鋼の注入流が流下する閉空間に不活性ガスを供給する、タンディッシュ注入管のシール方法であって、
前記陣笠より下方の高さ位置、具体的には前記シール管が存在する高さ位置に、前記閉空間の内部下方へ向けて水平面から所定のシールガス吹込み角度で傾斜して配置されるガス吹込み管から、前記不活性ガスを、前記閉空間での平均滞留時間が30秒間以下となるように、前記閉空間へ吹込む、タンディッシュ注入管のシール方法。
【0021】
(2)連続鋳造設備における取鍋とタンディッシュとの間に上方から下方へ向けて配置されるシール管およびタンディッシュ注入管により形成される空間に不活性ガスを供給する、タンディッシュ注入管のシール方法であって、
前記シール管が存在する高さ位置に、前記空間の内部下方へ向けて水平面から所定のシールガス吹込み角度で傾斜して配置されるガス吹込み管から、前記不活性ガスを、前記空間での平均滞留時間が30秒間以下となるように、前記空間へ吹込む、タンディッシュ注入管のシール方法。
【0022】
(3)耐火物製もしくはセラミックファイバー製の蓋を前記シール管の上に設置する、2項に記載のタンディッシュ注入管のシール方法。
【0023】
これらの本発明において「平均滞留時間」は、後述する鉛直方向距離Aおよび内径Bを用いて、平均滞留時間tm(秒)=(閉空間の体積mm)/(不活性ガスの体積流量mm/秒)=A×(B/2)×π/不活性ガス供給量として求められる。
【0024】
(4)前記シールガス吹込み角度D(°)は、式tan−1[{(B/2)−C}/A]+90により表される角度D(°)に対してABS(D−D)≦5(°)以下を満足する、1〜3項のいずれかに記載のタンディッシュ注入管のシール方法。より具体的には、角度Dは90(°)≦D≦180(°)を満たす。
【0025】
ただし、Aは、前記タンディッシュ注入管を前記タンディシュに収容された溶鋼に浸漬した際の溶鋼湯面から前記ガス吹込み管の先端までの鉛直方向距離(mm)であり、Bは、前記タンディッシュ注入管の内径(mm)であり、Cは、前記タンディッシュ注入管の内壁から前記ガス吹込み管の先端までの水平方向最短距離(mm)である。
【0026】
(5)B/E≧0.6を満足する、4項に記載のタンディッシュ注入管のシール方法。
ただし、Eは、前記下ノズルから、前記タンディッシュ注入管を前記タンディシュに収容された溶鋼に浸漬した際の溶鋼湯面までの距離(mm)である。
【0027】
(6)連続鋳造設備における取鍋とタンディッシュとの間に上方から下方へ向けて配置される陣笠、シール管およびタンディッシュ注入管を備え、前記陣笠、前記シール管および前記タンディッシュ注入管により形成されるとともに、前記取鍋の下ノズルから前記タンディッシュへの溶鋼の注入流が流下する閉空間に不活性ガスを供給する、タンディッシュ注入管のシール装置であって、
【0028】
前記陣笠より下方の高さ位置、具体的には前記シール管が存在する高さ位置に、前記閉空間の内部下方へ向けて水平面から所定のシールガス吹込み角度で傾斜して配置されて、前記不活性ガスを、前記閉空間での平均滞留時間が30秒間以下となるように、前記閉空間へ吹込むガス吹込み管を備える、タンディッシュ注入管のシール装置。
【0029】
(7)連続鋳造設備における取鍋とタンディッシュとの間に上方から下方へ向けて配置されるシール管およびタンディッシュ注入管を備え、前記シール管および前記タンディッシュ注入管により形成される空間に不活性ガスを供給する、タンディッシュ注入管のシール装置であって、
【0030】
前記シール管が存在する高さ位置に、前記空間の内部下方へ向けて水平面から所定のシールガス吹込み角度で傾斜して配置されて、前記不活性ガスを、前記空間での平均滞留時間が30秒間以下となるように、前記空間へ吹込むガス吹込み管を備える、タンディッシュ注入管のシール装置。
【0031】
(8)前記シール管の上に設置される、耐火物製もしくはセラミックファイバー製の蓋を備える、7項に記載のタンディッシュ注入管のシール装置。
【0032】
(9)前記シールガス吹込み角度D(°)は、式tan−1[{(B/2)−C}/A]+90により表される角度D(°)に対してABS(D−D)≦5(°)以下を満足する、6〜8項のいずれかに記載のタンディッシュ注入管のシール装置。より具体的には、角度Dは90(°)≦D≦180(°)を満たす。
【0033】
ただし、Aは、前記タンディッシュ注入管を前記タンディシュに収容された溶鋼に浸漬した際の溶鋼湯面から前記ガス吹込み管の先端までの鉛直方向距離(mm)であり、Bは、前記タンディッシュ注入管の内径(mm)であり、Cは、前記タンディッシュ注入管の内壁から前記ガス吹込み管の先端までの水平方向最短距離(mm)である。
【0034】
(10)B/E≧0.6を満足する、9項に記載のタンディッシュ注入管のシール装置。
【0035】
ただし、Eは、前記下ノズルから、前記タンディッシュ注入管を前記タンディシュに収容された溶鋼に浸漬した際の溶鋼湯面までの距離(mm)である。
【発明の効果】
【0036】
本発明に係るタンディッシュ注入管のシール方法およびシール装置によれば、連続鋳造におけるタンディッシュ注入管の内部のシール効果をガス吹きタンディッシュ注入管シール方法と同程度に維持しながら、安価でかつ確実に、スプラッシュによる地金付着を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、本発明に係るタンディッシュ注入管のシール装置の構成例を示す説明図である。
図2図2は、シールガス吹込み管の角度D=110°のガス吹込み管を用いたときのAr流量と[N]up量との関係を示すグラフである。
図3図3は、シールガス吹込み管の角度Dを、90,110,135°と変更した場合、およびガス吹きタンディッシュ注入管を用いた場合それぞれの[N]up量を比較して示すグラフである。
図4図4は、1CHあたりの地金切り発生回数を示すグラフである。
図5図5は、ガス吹きタンディッシュ注入管シール方法と本発明について、[N]up量が1.0ppmの条件での、1本のタンディッシュ注入管の価格を1.00としたときのArガス使用コストおよび注入管製作コストの割合を示すグラフである。
図6図6は、タンディッシュ注入管陣笠シール方法の概要を示す説明図である。
図7図7は、特許文献1により開示された、タンディッシュのタンディッシュ注入管の構成を模式的に示す説明図であり、図7(a)は、タンディッシュ注入管を組み込んだ全体説明図であり、図7(b)は、タンディッシュ注入管の外壁(周壁)の構造を示す拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
1.用語の説明
図1は、本発明に係るタンディッシュ注入管6のシール装置0の構成例を示す説明図である。図1を参照しながら本明細書で用いる用語を説明する。
【0039】
(i)取鍋
転炉、2次精練、連続鋳造等の各設備間において、溶鋼を保持搬送する機能を有する容器を意味する。「レ―ドル」とも称する。
【0040】
(ii)タンディッシュ
連続鋳造設備の溶鋼容器であり、溶鋼を取鍋から受けて1次冷却設備である鋳型内に供給するための中間保持容器を意味する。
【0041】
(iii)タンディッシュ蓋4
タンディッシュの上部を覆う蓋であり、取鍋から溶鋼を注入するための開口部を有する。「タンディッシュ蓋」は、広義には「タンディッシュ」に含まれるが、本明細書では、「タンディッシュ蓋」を特記する場合がある。
【0042】
(iv)陣笠3、シール管5およびタンディッシュ注入管6
これらを上方から下方へ向けて順次組み合わせることによって、取鍋からタンディッシュへ供給される溶鋼の注入流が流下する閉空間を形成する。本発明は、この閉空間を不活性雰囲気に保つためのものである。なお、連々鋳の取鍋交換時には、陣笠3が存在しないため、シール管5およびタンディッシュ注入管6により空間が形成される。
【0043】
(v)陣笠3
取鍋の底面部に装着される蓋状の部材であり、「フード」等とも称される。タンディッシュに溶鋼を注入するために取鍋の位置を下げた時に、シール管5の上面を覆う機能を有する。水平面の中央には開口部が設けられており、取鍋の下ノズル2を挿入できる構造を有する。
【0044】
(vi)タンディッシュ注入管6
円筒形の耐火物であり、その下端部がタンディッシュに収容された溶鋼に浸漬される。そのため、損耗による交換頻度が高くなるため(通常は、鋳造終了毎に交換される)、重量を最小限に抑え耐火物コストを減らすために高さ方向寸法(円筒の長さ)は最低限に確保することとして、その上端位置をタンディッシュ蓋4のやや上側とする。
【0045】
(vii)シール管5
円筒形の耐火物であって、上述したように、タンディッシュ注入管6を短尺とするために、タンディッシュ注入管6の上部に設置されて、タンディッシュ注入管6とともに溶鋼の注入流が流下する閉空間を形成する。シール管5の上端開放部は陣笠3により覆われている。
【0046】
(viii)連々鋳
連続鋳造の進行によって溶鋼が空になった取鍋を、連続鋳造の実施中に次の溶鋼が充填された取鍋に交換することにより、複数の取鍋の溶鋼を連続的に鋳造する操業形態である。なお、溶鋼は、取鍋1基を単位として「チャージ(CH)」と称する。1チャージは約300トン程度であり、1回の連々鋳操業は、5〜7チャージ程度の取鍋数で行われ、1回の連々鋳操業は「1トライ」や「1キャスト」と称される。
【0047】
2.本発明に係るタンディッシュ注入管6のシール装置0
次に、添付図面を参照しながら本発明を説明する。
【0048】
図1に示すように、従来と同様に、溶鋼を収納して鋳型まで輸送する取鍋の底部には、流量調整用のスライディングノズル装置(図示しない)が設けられている。スライディングノズル装置の下側には、溶鋼の注入流の径を決定する下ノズル2が設置されている。
【0049】
陣笠3は、タンディッシュ注入管6の上部の開口部の蓋の役割を果たす。陣笠3は、取鍋のフックに引っ掛けられる構造を有しており、下ノズル2の外径より数mm程度大きい内径を有するドーナツ形状を呈する。
【0050】
シール管5がタンディッシュ注入管6の上に設置されている。シール管5は、タンディッシュ注入管6と取鍋と間の空間を密閉して閉空間とするために円筒の形状を有する耐火物である。
【0051】
シール管5は、注湯口と同程度の高さに設置されているため、シール管5に溶鋼が飛散することは少なく、複数回の再使用が可能である。シール管5を用いることにより、一回で使い切りのタンディッシュ注入管6の体積を低減することができ、耐火物コストを低減できる。
【0052】
陣笠3とシール管5との隙間を低減するためにクッション性の高いセラミックファイバー8をシール管5の上に敷き、陣笠3を押し付けることによりシール管5と陣笠3と間隙を削減している。
【0053】
中間鍋としてのタンディッシュには、タンディッシュ蓋4が従来と同様に設置され、タンディッシュ蓋4の開口部からタンディッシュ注入管6が挿設されており、タンディッシュ注入管6の下端は、タンディッシュ内の溶鋼に浸漬されている。
【0054】
タンディッシュ注入管6がタンディッシュの内部に落下することを防止するため、タンディッシュ蓋4の開口部にはドーナツ形状の受け鉄板9が設置されている。
【0055】
さらに、陣笠3、シール管5およびタンディッシュ注入管6により形成される閉空間へ不活性ガスを供給するガス吹込み管1が設置されている。
【0056】
このように、通常操業時においては、シール装置0は、連続鋳造設備における取鍋とタンディッシュとの間に上方から下方へ向けて配置される陣笠3、シール管5、タンディッシュ注入管6およびガス吹込み管1を備えている。
【0057】
陣笠3、シール管5およびタンディッシュ注入管6により形成されるとともに取鍋の下ノズル2からタンディッシュへの溶鋼の注入流が流下する閉空間を、ガス吹込み管1から吹込まれる不活性ガスによりシールするための装置である。
【0058】
一方、連々鋳の取鍋交換時においては、シール装置0は、連続鋳造設備における取鍋とタンディッシュとの間に上方から下方へ向けて配置されるシール管5、タンディッシュ注入管6およびガス吹込み管1を備えている。シール管5およびタンディッシュ注入管6により形成される空間を、ガス吹込み管1から吹込まれる不活性ガスによりシールするための装置である。
【0059】
図1に示すように、タンディッシュ注入管6をタンディシュに収容された溶鋼に浸漬した際の溶鋼湯面からガス吹込み管1の先端までの鉛直方向距離をA(mm)とし、タンディッシュ注入管6の内径をB(mm)とし、タンディッシュ注入管6の内壁からガス吹込み管の先端までの水平方向最短距離をC(mm)としたときに、ガス吹込み管1は、式tan−1[{(B/2)−C}/A]+90で表される角度D(°)に対してABS(D−D)を5以下とするシールガス吹込み角度D(°)を有する。なお、角度Dは90(°)≦D≦180(°)を満たす。
【0060】
なお、「タンディッシュ注入管6の内壁からガス吹込み管の先端までの水平方向距離」には、距離Cと距離(B−C)があるが、「タンディッシュ注入管6の内壁からガス吹込み管の先端までの水平方向最短距離」は距離Cである。
【0061】
シールガス吹込み角度Dを有するガス吹込み管1を用いることにより、溶鋼の叩き込み部7にArを直接供給でき、溶鋼湯面のシールを効率よく行うことができる。
【0062】
また、スプラッシュによりタンディッシュ注入管6の内部へ地金が付着する対策として、タンディッシュ注入管6の内径Bを最適化したものを用いる。タンディッシュ注入管6への地金付着に関しては、不活性ガスの吹込み量や吹込み角度の影響は少なく、取鍋の中心軸とタンディッシュ注入管6の中心軸の位置や、下ノズル2から叩き込み部7までの距離(溶鋼の落下距離)、溶鋼の注入量の影響が大きい。
【0063】
取鍋の中心軸とタンディッシュ注入管6の中心軸の位置を一致させることは困難であり、その理由は以下の通りである。一点目は、取鍋を据える位置にずれが不可避的に生じることである。
【0064】
二点目は、スライディングノズルが流量を調整する際に左右に移動するため、取鍋の軸がタンディッシュ注入管6の中心軸と一致していたとしても溶鋼の注入流を注ぐ下ノズル2の中心軸は一致していないことである。三点目は、タンディッシュ注入管6の設置位置にずれが生じることである。
【0065】
本発明者の検討によれば、下ノズル2から叩き込み部7までの距離をE(mm)とすると、タンディッシュ注入管6の内部での溶鋼の飛散は、中心軸から、片側0.15×B/E以内の範囲で著しい。
【0066】
また、取鍋、下ノズル2の中心軸の位置やタンディッシュ注入管6の設置位置などが、中心軸と一致しない程度が、0.3×B/E程度と見込まれる。したがって、陣笠3、タンディッシュ注入管6およびシール管5により形成される閉空間について、B/Eを指標とすると、この値が、0.6(=0.15×2+0.3)より大きければ、タンディッシュ注入管への地金付着を削減することが可能であり、望ましい。
【0067】
ガス吹込み管1の素材として鋼を用いることによりガス吹込み管1を安価に製作でき、溶鋼湯面からは高い位置に設置されているためにスプラッシュによる地金付着は殆ど発生しない。もし、ガス吹込み管1への地金付着が起こった場合でも、ガス吹込み管1の交換は容易に行える。
【0068】
連々鋳操業時に取鍋を交換する際には、陣笠3がシール管5の上に載っていない状態となり、タンディッシュ注入管6の内部のシール状態が悪化する。しかし、陣笠3より下の位置、例えばシール管5の上にガス吹込み管1が設置されており、シールガス吹込みを継続することができる。このため、注入管上部シール方法(タンディッシュ注入管陣笠シール方法)に比較しても、タンディッシュ注入管6の内部のシール状態は良好である。
【0069】
さらに、陣笠3がなくなったタイミングで耐火物製もしくはセラミックファイバー製の蓋をシール管5の上に設置することにより、通常の連続鋳造時、すなわち、陣笠3がシール管5の上に載りシールガスが吹込まれている状態と同程度のシール性を保つこともできる。
【0070】
1チャージの鋳造時間は、最短で30分間程度であり、連々鋳の取鍋を交換する時には5分間程度上部が開口する。そのため、陣笠3がシール管5の上部に載っていて最もシールが良い状態を維持できるのは最大25分間となる。
【0071】
この25分間の中で良いシール状態に戻すまでの時間は短いことが望まれることは言うまでもないが、操業上の実現可能性と品質への影響許容が時間の目安としては1分間程度である。
【0072】
陣笠3、タンディッシュ注入管6およびシール管5により形成される閉空間を不活性ガスにより置換する場合、この閉空間内の流れに依って置換状況は異なるが、それを正確に予測することは困難である。そこで、最も置換し難い完全混合流れを仮定する。
【0073】
流体の平均滞留時間tm(秒)=(閉空間の体積mm)/(流体の体積流量mm/秒)として求められる。完全混合流れは、想定する閉空間内の流体は完全に混合された状態で濃度は一様であり、言換えると流体の出入に関わらず濃度分布は無い、という理想状態を仮定する。
【0074】
したがって、閉空間内の大気を不活性ガスにより置換する場合、不活性ガスは流入した瞬間から閉空間内全体を一様に少しずつ置換して、時間経過に伴い不活性ガス濃度が高くなる。しかし、閉空間内を完全に置換することはない(完全に置換するには無限の時間を要する。)というモデルである。
【0075】
このような完全混合流れの挙動を、化学工学の基礎的考え方に基づいて数式により表現する。閉空間中に、着目する流体がある時間から一定の体積流量で流入していく場合に、流体が流入開始後の経過時間をtとすると、閉空間内の流体の比率Fの時間変化は、(1)式で表される。
【0076】
F=1−exp(−t/tm) ・・・・・(1)
(t→無限大で、F→1)
【0077】
ここで、F=0.9(90%)となるのは、t/tm=2.3の時である。t=1分間(60秒間)でF=0.9とするためには、平均滞留時間tmは26秒間以下であればよい。なお、本発明の実施態様では、大気を不活性ガスである窒素もしくはArで置換する。大気には不活性ガスである窒素が含まれているので、閉空間中の不活性ガス濃度は、不活性ガスの置換比率よりも高い。
【0078】
以上が、完全混合モデルにおける平均滞留時間の考え方である。そして、本発明において「平均滞留時間tmは30秒以下」と決めた根拠は、以上に考え方に基づいて一つの目安として決定したものである。例えば、平均滞留時間tmが30秒間であれば(tm=26秒間よりは少し流量が小さい。)、1分間では、F=0.86(86%)になる。
【0079】
「目安として1分間」と決めたことから、「平均滞留時間tmは30秒間以下」で不活性ガスが流入すれば、1分間では閉空間内に2倍以上の不活性ガスが流入する。2倍の不活性ガスが流入すれば、閉空間内が置換し難い流れになる構造であったとしても90%程度の置換が見込まれ、それ以上の流量はパージ量として多量であり現実的ではない。
【0080】
以上のように、1分間で全体体積の90%が置換されるためには平均滞留時間26秒間の体積流量が必要であるので、この閉空間での平均滞留時間を30秒間以下とするようにガス吹込み管1から不活性ガスを吹込むことが望ましい。
【0081】
3.本発明に係るタンディッシュ注入管6のシール方法
本発明に係るシール方法は、連続鋳造設備における取鍋とタンディッシュとの間に上方から下方へ向けて配置される陣笠3、シール管5およびタンディッシュ注入管6により形成されるとともに、取鍋の下ノズル2からタンディッシュへの溶鋼の注入流が流下する閉空間に不活性ガスを供給することにより、タンディッシュ注入管6をシールする方法である。これは、通常操業時である。
【0082】
また、本発明に係るシール方法は、連続鋳造設備における取鍋とタンディッシュとの間に上方から下方へ向けて配置されるシール管5およびタンディッシュ注入管6により形成される空間に不活性ガスを供給することにより、タンディッシュ注入管6をシールする方法である。これは、連々鋳の取鍋交換時である。
【0083】
そして、本発明では、通常操業時または連々鋳の取鍋交換時のいずれにおいても、上述したように、陣笠3より下方の高さ位置、すなわちシール管5が存在する高さ位置に配置されたガス吹込み管1から、不活性ガスを、閉空間または空間での平均滞留時間が30秒間以下となるように、閉空間または空間へ吹込む。
【0084】
この際、シールガス吹込み角度D(°)は、式tan−1[{(B/2)−C}/A]+90で表される角度D(°)に対してABS(D−D)≦5(°)以下を満足することが望ましい。また、B/E≧0.6を満足することがさらに望ましい。
【0085】
これにより、タンディッシュ注入管6のシール効果をガス吹きタンディッシュ注入管シール方法と同程度に維持しながら、安価でかつ確実に、スプラッシュによる地金付着を防止できる。
【0086】
さらに、連々鋳の取鍋交換時には、耐火物製もしくはセラミックファイバー製の蓋をシール管5の上に設置することにより、通常の連続鋳造時と同程度のシール性を保つこともできる。
【実施例】
【0087】
タンディッシュの内部に注湯する図1に示す設備を用いて連続鋳造を行い、シールガスをArとし、ガス吹込み管1のシールガス吹込み角度Dを変更して、タンディッシュ内溶鋼中の[N]と連続鋳造の前処理であるRH真空脱ガス処理後の取鍋内溶鋼中の[N]との差を比較してシール状況の評価を行った。ここでは、タンディッシュ内溶鋼中の[N]からRH真空脱ガス処理後の取鍋内溶鋼中の[N]を減算した値を[N]up量とする。
【0088】
今回の試験では、タンディッシュ注入管6をタンディシュに収容された溶鋼に浸漬した際の溶鋼湯面からガス吹込み管1の先端までの鉛直方向距離A=752mm、タンディッシュ注入管6の内径B=580mm、タンディッシュ注入管6の内壁からガス吹込み管1の先端までの水平方向最短距離C=20mm、下ノズル2からタンディッシュ注入管6をタンディシュに収容された溶鋼に浸漬した際の溶鋼湯面までの距離E=910mmの条件において、ガス吹込み管1のシールガス吹込み角度Dは、90°,110°,135°のものを用いた。角度D=110°の条件が式tan−1[{(B/2)−C}/A]+90を満たすものである。
【0089】
試験実施時には、内径12mm、外径18mm、先端からR部までの長さ170mmの鋼製のガス吹込み管1を使用した。また、アルミナシリカを主成分とした、タンディッシュ注入管6およびシール管5、セラミックファイバーを使用した。
【0090】
図2は、シールガス吹込み管の角度D=110°のガス吹込み管1を用いたときのAr流量と[N]up量との関係を示すグラフであり、タンディッシュ注入管の内径B=580mmの場合である。
【0091】
シールガスが流れていない場合には[N]up量が非常に大きくなるため、タンディッシュ注入管6の内部は常にシールガスで満たしておく必要がある。また、Ar流量を増加するほど[N]up量は低くなるため、鋳造する鋼の特性に合わせて流量を設定することが求められ、1000L/min程度で[N]up量は下限に近付く。
【0092】
[N]up量が10ppm程度を許容する鋼種も多く存在し、この鋼種を鋳造する場合はAr流量を600L/min以上とすることが望ましい。また、[N]up量が4ppm程度を許容する鋼種であれば、Ar流量は1000L/min程度必要である。
【0093】
図3は、シールガス吹込み管1のシールガス吹込み角度Dを、90,110,135°と変更した場合、およびガス吹きタンディッシュ注入管を用いた場合それぞれの[N]up量を比較して示すグラフである。
【0094】
[N]up量が10ppm程度を許容する鋼種であれば、特にシールガス吹込み角度Dを規定する必要はなく、陣笠3の下部にガス吹込み管1を設置する請求項1に係る本発明を用いることができる。
【0095】
本発明で提案している式tan−1[{(B/2)−C}/A]+90で表される角度D(°)でのシールガス吹込みを行った場合は、その他の角度で吹込んだ場合より[N]up量が低位であり、[N]up量が4ppm程度を許容する鋼種の場合は、請求項2の発明を用いることが有効である。
【0096】
式tan−1[{(B/2)−C}/A]+90で表される角度D(°)でのシールガス吹込みが効果的である理由は、溶鋼の叩き込み部7へ効率良くArが供給されているためである。また、ガス吹きタンディッシュ注入管を使用した時と、式tan−1[{(B/2)−C}/A]+90で表される角度D(°)のシールガス吹込み管1を用いた時を比較した場合[N]ピックアップ量は同程度であり、どちらの方法でも溶鋼の叩き込み部7へArが供給されていることが分かる。
【0097】
図4は、1チャージあたりの地金切り発生回数を示すグラフである。地金切りとは、タンディッシュ注入管6の内部に付着した地金をガス切断することであり、取鍋がタンディッシュ注入管6上にある際には行うことができないため、取鍋の交換のタイミングで行われる。
【0098】
図4のグラフから、タンディッシュ注入管6の内径を520mm(B/E=0.57)→580mm(B/E=0.64)にすることにより、1チャージあたりの地金切り発生回数は0.01回/CHとなり、限りなく少なくなる。すなわち、B/E≧0.64を満足することにより、タンディッシュ注入管6への地金付着を実質的に防止できる。
前述のように、本発明は、陣笠3の下部にガス吹込み管1を配設し、適切な角度でシールガスを吹込むことにより、以下に列記の課題A〜Dが解決される。
【0099】
(A)スプラッシュによる地金付着
特許文献1の「従来の技術」の欄に示されたタンディッシュ注入管陣笠シール方法の課題である地金付着は、特許文献1により開示されたガス吹きタンディッシュ注入管シール方法により解決されるが、本発明によっても、図4のグラフに示すように地金付着は解決される。
【0100】
(B)連々鋳を行う際のシール破れ
タンディッシュ注入管陣笠シール方法では、取鍋にシールガス吹込み部が設置されているため、連々鋳時の取鍋の交換の際には、タンディッシュ注入管の内部に不活性ガスが全く流れなくなり、シール破れが発生する。
【0101】
これに対し、ガス吹きタンディッシュ注入管シール方法では、タンディッシュ注入管から不活性ガスを吹込むため、連々鋳時の取鍋の交換の際にもシール破れは発生しない。
【0102】
本発明では、取鍋の交換の際にもシールガス吹込み管1はシール管5に設置されているため、不活性ガスを吹込み続けることができる。また、取鍋がなくなると同時に耐火物もしくはセラミックファイバーを用いてシール管5の上に蓋をすることにより定常状態に近いシール状態を維持することもできる。
【0103】
(C)シール状況の不良
タンディッシュ注入管陣笠シール方法では、溶鋼の叩き込み部への不活性ガスの供給効率が悪くシール状態は良くなかったが、ガス吹きタンディッシュ注入管シール方法ではこの問題は解決している。
【0104】
本発明では、シールガス吹込み管1のシールガス吹込み角度D(°)が、式tan−1[{(B/2)−C}/A]+90で表される角度D(°)に対してABS(D−D)≦5(°)以下を満足することにより、溶鋼の叩き込み部7への不活性ガスの供給が可能になる。これにより、溶鋼の[N]upもガス吹きタンディッシュ注入管シール方法と同程度に改善できる。具体的には、角度Dは90(°)≦D≦180(°)を満たす。
【0105】
(D)高コスト
タンディッシュ注入管陣笠シール方法の設備構成は、本発明と同程度の設備構成であり、コストは同程度である。
【0106】
図5は、ガス吹きタンディッシュ注入管シール方法と本発明について、[N]up量が1.0ppmの条件での、1本のタンディッシュ注入管6の価格を1.00としたときのArガス使用コストおよび注入管製作コストの割合を示すグラフである。
【0107】
図5のグラフに示すように、ガス吹きタンディッシュ注入管シール方法では、タンディッシュ注入管へのArガス吹込み部の設置コストが高い。
【0108】
これに対し、[N]up1.0ppm程度のシール状況を達成するために、本発明では、ガス吹きタンディッシュ注入管シール方法の2倍程度の1200L/minのArガス吹込み量が必要になる。
【0109】
しかし、タンディッシュ注入管の製作コストを考慮すると、ガス吹きタンディッシュ注入管シール方法よりも本発明の方が安価にタンディッシュ注入管6をシールすることができる。
【0110】
さらに、[N]upが10ppm以下であれば良い鋼種の場合には、Arガスの吹込み量を600L/minに減らすことができるため、本発明は、ガス吹きタンディッシュ注入管シール方法に対して、タンディッシュ注入管の製作コストが低い分有利となる。
【符号の説明】
【0111】
0 シール装置
1 ガス吹込み管
2 下ノズル
3 陣笠
4 タンディッシュ蓋
5 シール管
6 タンディッシュ注入管
7 叩き込み部
8 セラミックファイバー
9 受け鉄板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7