(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高速引張試験や高速圧縮試験においては、速度ごとの材料特性を求めるため、試験結果から目標とする速度が出ているかどうかを確認する必要がある。
図5は、高速引張試験の変位―時間グラフである。
図6は、
図5の変位の一部を拡大して示すグラフである。これらのグラフは、試験速度20m/sの条件で引張試験を実行したときの試験片に生じた変位と時間との関係を示すものである。
図5のグラフの縦2軸のうち左側は変位(mm:ミリメートル)であり、右側は試験力(kN:キロニュートン)である。また、横軸は時間(μs:マイクロ秒)である。グラフ中、試験力データを破線で示し、変位データを実線で示している。また、
図6のグラフの縦軸は変位(mm:ミリメートル)であり、横軸は時間(μs:マイクロ秒)である。
【0005】
力検出器が検出した試験力と、変位検出器としての伸び計が検出した変位を、
図5に示すように、試験結果として表示装置に同時に表示したとしても、変位の時間経過を観察するだけでは、高速引張の現実の試験で、試験条件として設定した目標速度が出ていることを確認することは困難である。また、
図6のように変位グラフの一部を拡大したとしても、小さな変位変動は確認することは難しい。
【0006】
図7は、高速引張試験の速度―時間グラフである。
図7のグラフの縦2軸のうち、左側は速度(m/s:メートル毎秒)であり、右側は試験力(kN:キロニュートン)である。そして、横軸は、時間(μs:マイクロ秒)である。また、
図7のグラフ中、試験力データを破線で示し、速度データを実線で示している。
【0007】
伸び計で検出される変位の値は外乱等により微小変動しており(
図6参照)、変位データを微分して速度に換算した速度―時間グラフでは、変位データの微小変動が拡大してしまい、
図7のグラフ中に実線で示す速度データのように、グラフ上で速度の変動が大きく表示される。このため、高速引張の現実の試験で、試験条件として設定した目標速度が出ているのかどうかを速度―時間グラフから明確に判断することが難しいことがあった。
【0008】
この発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、試験結果とともに目標とする試験速度が出ているか否かをユーザが容易に判断できる情報を提示することが可能な材料試験機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、負荷機構を駆動して試験対象に試験力を与える材料試験機であって、前記試験対象に作用する試験力を検出する力検出器と、前記試験対象に生じる変位を検出する変位検出器と、前記負荷機構を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記変位検出器により検出された変位値と予め試験条件に設定された目標変位値とから差分変位値を求める差分変位算出部と、前記差分変位算出部において算出された差分変位値の時系列データをグラフにした差分変位グラフを表示装置に表示する表示制御部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の材料試験機において、前記制御装置は、前記差分変位グラフから着目点を検出する着目点検出部と、前記差分変位グラフおける前記着目点を通る参考速度直線を計算する参考速度直線算出部と、を備え、前記表示制御部は、前記参考速度直線を前記表示装置に表示する。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の材料試験機において、前記表示制御部は、前記差分変位グラフに試験の要求範囲に応じた補助線を追加して前記表示装置に表示する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1から請求項3に記載の発明によれば、変位検出器により検出された変位値と予め試験条件に設定された目標変位値とから差分変位値を求め、その差分変位値の時系列データをグラフにした差分変位グラフを表示装置に表示することから、ユーザは、目標速度に対して、試験速度がどの程度であるかを理解するのが容易となる。また、差分変位値をグラフにすることで、グラフの数値軸の上下限値が小さくなることから、変位変動が相対的に拡大され、変位変動の観察が容易になる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、差分変位グラフから着目点を検出し、着目点を通る参考速度直線を計算して表示装置に表示することから、ユーザによる試験中の試験速度を含む各種情報の確認が、変位―時間グラフや、速度―時間グラフに比べて容易となる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、差分変位グラフに、試験の要求範囲に応じた補助線を追加して表示装置に表示することから、ユーザは、実際の試験速度が試験の要求範囲内にあるかどうかを、容易に確認することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】この発明に係る材料試験機の主要な制御系を示すブロック図である。
【
図4】
図3のグラフに補助線を追加した表示例である。
【
図6】
図5の変位の一部を拡大して示すグラフである。
【0016】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明に係る材料試験機の概要図である。
図2は、この発明に係る材料試験機の主要な制御系を示すブロック図である。
【0017】
この材料試験機は、試験片TPに急速に衝撃的な負荷を与える衝撃試験を実行するものであり、高速引張試験機とも呼称される。この材料試験機は、試験機本体10と、制御装置40を備える。試験機本体10は、テーブル11と、テーブル11に立設された一対の支柱12と、一対の支柱12に架け渡されたクロスヨーク13と、クロスヨーク13に固定された油圧シリンダ31を備える。
【0018】
油圧シリンダ31は、サーボバルブ34を介してテーブル11内に配置された油圧源(図示せず)と接続されており、この油圧源から供給される作動油によって動作する。油圧シリンダ31のピストンロッド32には、助走治具25およびジョイント26を介して上つかみ具21が接続されている。一方で、テーブル11には、力検出器であるロードセル27を介して、下つかみ具22が接続されている。このように、この試験機本体10の構成は、助走治具25により引張方向に助走区間を設け、ピストンロッド32を0.1〜20m/sの高速で引き上げることにより、試験片TPの両端部を把持する一対のつかみ具を急激に離間させる引張試験を実行するための構成となっている。引張試験を実行したときの負荷機構の変位(ストローク)、すなわち、ピストンロッド32の移動量は、ストロークセンサ33により検出され、その時の試験力はロードセル27により検出される。
【0019】
また、試験片TPには、この発明の変位検出器としての伸び計35が配設されている。伸び計35は、試験片TPの伸びを測定するために、試験片TPに直接取り付けられるものであり、例えば、特開2006−10409号公報に記載されているような、構造を有する。すなわち、試験片TPに設定されている2箇所の標線にそれぞれに固定された固定具と、一方の固定具に固着される伝導体から成るパイプと、他方の固定具に固着されるパイプ内に移動自在に挿入されるコイルとを備え、パイプに対するコイルの挿入量の変化に基づくコイルのインダクタンスの変化を検出して、試験片TPの標線間の伸びを測定している。なお、この発明の変位検出器は、ストロークセンサ33であってもよく、高速ビデオカメラなどの非接触式の伸び計であってもよい。
【0020】
制御装置40は、試験機本体10の動作を制御するための本体制御装置41と、パーソナルコンピュータ42とから構成される。本体制御装置41は、プログラムを格納するメモリ43と、各種演算を実行するMPU(micro processing unit)などの演算装置45と、パーソナルコンピュータ42との通信を行う通信部46とを備える。メモリ43、演算装置45および通信部46は、相互にバス49により接続されている。また、本体制御装置41は、機能的構成として試験制御部44を備える。試験制御部44は、試験制御プログラムとしてメモリ43に格納されている。高速引張試験を実行するときには、試験制御プログラムを実行することにより、サーボバルブ34に制御信号が供給され、油圧シリンダ31が動作する。ストロークセンサ33の出力信号、ロードセル27の出力信号、および、伸び計35の出力信号は所定の時間間隔で本体制御装置41に取り込まれる。
【0021】
パーソナルコンピュータ42は、データ解析プログラムを記憶するROM、プログラム実行時にプログラムをロードして一時的にデータを記憶するRAMなどから成るメモリ53、各種演算を実行するCPU(central processing unit)などの演算装置55、本体制御装置41などの外部接続機器との通信を行う通信部56、データを記憶する記憶装置57、試験結果が表示される表示装置51および試験条件を入力するための入力装置52を備える。メモリ53には、演算装置55を動作させて機能を実現するプログラムが格納されている。なお、記憶装置57は、ロードセル27から入力された試験力の生データである時系列データなどを記憶する記憶部であり、HDD(hard disk drive)などの大容量記憶装置から構成される。メモリ53、演算装置55、通信部56、記憶装置57、表示装置51および入力装置52は相互にバス59により接続されている。
【0022】
図2においては、パーソナルコンピュータ42にインストールされ、メモリ53に記憶されているプログラムを機能ブロックとして示している。この実施形態では、機能ブロックとして、伸び計35から入力された試験片TPの伸び(現実の変位量)と、予め入力されている目標変位値との差分である差分変位値を算出する差分変位算出部61と、差分変位値を、試験力データとともに表示装置に表示する表示制御部64と、目標に対する差分変位値の時系列データをグラフにした差分変位グラフから着目点を検出する着目点検出部62と、差分変位グラフにおける着目点を通る参考速度直線を計算する参考速度直線算出部63を備える。
【0023】
このような構成の材料試験機で高速引張試験を実行するときの、表示装置51への試験結果の表示について説明する。
図3は、試験結果グラフの表示例である。この試験結果は、試験速度20m/sの条件で引張試験を実行したときの差分変位と時間との関係を示すものであり、参考として試験力を共に表示している。グラフの縦2軸のうち右側は試験力(kN:キロニュートン)であり、左側は目標に対する差分変位値(mm:ミリメートル)である。また、横軸は時間(μs:マイクロ秒)である。グラフ中、試験力データを破線で示し、変位データを実線で示している。
【0024】
差分変位値は実際の変位値から目標の変位値を引いた値すなわち差分の変位値である。グラフに表示するという観点では、目標速度で動作した場合にグラフ上での傾きが0(ゼロ)となるように、伸び計35が検出した変位値(検出変位値)から目標変位値を差し引き、さらに、開始点が原点となるようにオフセットしたものである。差分変位値の算出および差分変位グラフの表示は、演算装置55がメモリ53の差分変位算出部61および表示制御部64から読み込んだプログラムを実行することにより実現される。差分変位値は、下記式(1)により得られる。
【0025】
差分変位値=検出変位値−目標変位値 ・・・ (1)
【0026】
ここで、目標変位値は、予め設定した目標速度と時間との積である。
【0027】
また、開始点は、試験開始時におけるこの発明の着目点である。着目点の検出は、演算装置55がメモリ53の着目点検出部62から読み込んだプログラムを実行することにより実現される。さらに、着目点を通る参考速度直線の計算は、演算装置55がメモリ53の参考速度直線算出部63から読み込んだプログラムを実行することにより実現される。なお、参考速度直線は、下記式(2)により求めることができる。
【0028】
参考速度直線=(時間−着目時間)×(参考速度−目標速度)+b ・・・ (2)
【0029】
ここで、式中のbは、着目時間における差分変位値である。また、着目時間は、グラフ中の着目点として検出したデータ点の時間である。着目点が開始点Aの参考速度直線の場合、参考速度は初期速度となり、着目点が破断点Bの参考速度直線の場合は、参考速度は破断時速度となる。そして、表示制御部64は、算出された参考速度直線をグラフ中に描画する。
【0030】
試験が開始されピストンロッド32が引き上げられると、ロードセル27は試験片TPにかかった試験力を検出する。試験片TPにかかる試験力の上昇に伴い、試験片TPが変位し、試験片TPに装着した伸び計35が検出する試験片TPの伸びが上昇することにより、表示装置51に試験結果として表示されるグラフにおいて、目標に対する差分変位値も上昇する。
図3の例では、目標速度20m/sに対して、800μsまでは、実際の試験での平均速度が20.5m/sあり、その後、試験力データが最大試験力を示した付近の時間から失速し、目標速度を下回っていることが確認できる。
【0031】
このように、目標に対する差分変位グラフと参考速度直線を表示装置51に表示することで、ユーザによる各種情報の確認が、
図5に示す変位―時間グラフや、
図7に示す速度―時間グラフに比べて容易となる。
【0032】
なお、上述した実施形態では、着目点を通る参考速度直線を表示するようにしているが、このような着目点を検出して参考速度直線を算出し、それを表示しなくても、ユーザは目標速度に対して、試験速度がどの程度であるかを、把握することは可能である。すなわち、先に説明したように、差分変位値は、目標速度の傾きが0(ゼロ)となるように、伸び計35が検出した変位値から目標変位値を差し引き、さらに、開始点が原点となるようにオフセットしたものである。このため、
図3に示す目標に対する差分変位グラフでは、目標に対する差分変位値の0(ゼロ)の目盛りの水平線が目標速度線に相当することになる。したがって、グラフに表される時系列データの変化の傾向が、目標に対する差分変位値の0(ゼロ)の目盛りの水平線に対して、上向きに傾いているか、下向きに傾いているかを見ることで、ユーザは目標速度に対して、試験速度がどの程度であるかを、把握することができる。
【0033】
また、差分変位グラフでは、データ全体の上下限値(グラフの縦軸スケール)が下がることになり、変位変動が相対的に拡大される。例えば、
図5に示す伸び計35の出力を表す変位グラフの縦軸の最小値が−20mm、最大値が60mmのグラフとなるのに対し、
図3に示す目標に対する差分変位グラフにおいては、縦軸の最小値が−3mm、最大値が1.5mmのグラフとなる。このように、差分変位グラフの表示は、変位変動が相対的に拡大された状態となるため、ユーザは、
図5、
図6に示す従来のグラフと比べて、変位変動の程度や、ノイズをグラフからより読み取りやすくなる。
【0034】
図4は、
図3のグラフに補助線を追加した表示例である。
【0035】
例えば、初期速度は目標速度20m/sに対して、10%の範囲内でなければならない、などの試験の要求範囲がある場合、その範囲を示すために、
図4のグラフ中に2点鎖線で示すように、19.5m/s、19.0m/sなどの速度補助線を追加して表示してもよい。
【0036】
なお、補助線としては、
図4に示す初期速度に関する補助線に限定されるものではない。すなわち、実際の試験中の速度は、開始点Aを着目点とする参考速度直線と破断点Bを着目点とする参考速度直線とでは傾きが異なるように、時間によって速度は変動する。従って、着目点を起点とする補助線に代えて、例えば、時系列データに沿うように速度計算の基となる差分変位の許容範囲などを帯状に示してもよい。
【0037】
上述した実施形態では、高速引張試験について説明したが、圧縮荷重をコンクリートなどの試験体に与える高速圧縮試験など、試験において目標とする速度が出ていることを確認するために、この発明を適用することが可能である。また、とくに高速とは言えない速度範囲の引張試験などにこの発明を適用することも可能である。