(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記窓用インフレーターが、作動開始タイミングを、前記前方用エアバッグの前記乗員の受け止め開始時の−17ms〜−10msの範囲内に、設定されていることを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
前記前方用エアバッグが、運転席の前方に配置されるステアリングホイール内に折り畳まれて収納されるステアリングホイール用エアバッグであることを特徴とする請求項1または2に記載の乗員保護装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
具体的には、この従来の乗員保護装置では、車両の微小ラップ衝突時に、窓用エアバッグに膨張用ガスを供給する窓用インフレーターを、助手席用エアバッグに膨張用ガスを供給する助手席用インフレーターの作動後、50〜150ms経過後に、作動させる構成であった。この従来の乗員保護装置では、車両の微小ラップ衝突時に、まず、斜め前方に向かって移動する乗員を、膨張を完了させた助手席用エアバッグによって、拘束し、その後、窓側斜め後方に向かうようにリバウンドする乗員の頭部を、助手席用エアバッグよりも遅れて膨張する窓用エアバッグによって、受け止める構成とされていた。
【0005】
すなわち、この従来の乗員保護装置では、乗員が斜め前方に向かって移動する際には、窓用エアバッグは膨張しておらず、斜め前方に向かって移動する乗員の頭部を、助手席用エアバッグと窓用エアバッグとによって拘束するものではなかった。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、斜め前方に向かって移動する乗員を、乗員の前側で膨張する前方用エアバッグと、乗員の側方において窓の車内側を覆うように膨張する窓用エアバッグと、によって、的確に保護可能な乗員保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る乗員保護装置は、車両の斜め衝突時若しくはオフセット衝突時において、前席に着座して車外側斜め前方に向かって移動する乗員を保護可能な乗員保護装置であって、
前席の前方に折り畳まれて収納されるとともに、作動時に、前席に着座した乗員の上半身の前方を覆うように、内部に膨張用ガスを流入させて膨張する前方用エアバッグと、
作動時に、前方用エアバッグに膨張用ガスを供給する前方用インフレーターと、
乗員の側方に配置される窓の上縁側に折り畳まれて収納されるとともに、作動時に、窓の車内側を覆うように、内部に膨張用ガスを流入させて膨張する窓用エアバッグと、
作動時に、窓用エアバッグに前記膨張用ガスを供給する窓用インフレーターと、
を備える構成とされ、
窓用エアバッグが、
窓と乗員の頭部との間に進入するように膨張する構成とされるとともに、展開時に、前方用エアバッグに受け止められた状態の
頭部の側方を覆うバッグ隣接膨張部を、備える構成とされ、
窓用インフレーターが、作動開始タイミングを、膨張を完了させた前方用エアバッグの乗員の受け止め開始時の−20ms〜−5msの範囲内に、設定されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の乗員保護装置では、窓用エアバッグに膨張用ガスを供給する窓用インフレーターが、作動開始タイミングを、前方用エアバッグに膨張用ガスを供給する前方用インフレーターの作動開始よりも遅らせて、前方用エアバッグの乗員の受止開始時の−20ms〜−5msの範囲内で、作動を開始して、窓用エアバッグを膨張させる構成である。窓用インフレーターの作動開始が、前方用エアバッグによる乗員の受止開始時よりも20ms以上前の場合には、作動開始タイミングが早すぎて、前方用エアバッグの乗員の受止開始時には、すでに、窓用エアバッが膨張を完了させた状態で窓を覆うこととなり、膨張した窓用エアバッグにおいて、前方用エアバッグに受け止められた状態の乗員の頭部の側方を覆うバッグ隣接膨張部が、斜め衝突若しくはオフセット衝突して回転する車両によって生じる慣性により、乗員から離れるように車外側(窓側)に向かって動いてしまう場合があり、前方用エアバッグにより受け止められつつ斜め前方に向かって移動する乗員の頭部を、バッグ隣接膨張部によって、円滑に拘束することができない場合がある。また、窓用インフレーターの作動開始が、前方用エアバッグによる乗員の受止開始時よりも前であっても、5ms未満である場合には、逆に、作動開始タイミングが遅すぎて、前方用エアバッグが乗員を受け止めた際に、窓用エアバッグは窓の車内側を覆うように展開しておらず、前方用エアバッグにより受け止められつつ斜め前方に向かって移動する乗員の頭部を、バッグ隣接膨張部によって、円滑に拘束することができない場合がある。
【0009】
本発明の乗員保護装置では、窓用エアバッグに膨張用ガスを供給する窓用インフレーターが、作動開始タイミングを、前方用エアバッグの乗員の受止開始時の−20ms〜−5msの範囲内に設定されていることから、前方用エアバッグが斜め前方に向かって移動する乗員を受け止めた際には、窓用エアバッグのバッグ隣接膨張部は、窓の車内側を覆うように展開膨張しているものの、膨張完了状態には至っていない。すなわち、バッグ隣接膨張部は、前方側エアバッグによる乗員の受止時には、窓と乗員の頭部との間の隙間に進入するように展開して、前方用エアバッグによって受け止められた状態の乗員の頭部の側方を覆い、かつ、ある程度の厚さを有した膨張状態で配置されることとなる。そのため、本発明の乗員保護装置では、斜め前方に向かって移動する乗員の頭部が、前方用エアバッグに受け止められた際に、窓の車内側を覆うように展開しているバッグ隣接膨張部と接触することとなり、この展開した状態(膨張完了前の状態)のバッグ隣接膨張部との接触により生ずる摩擦抵抗により、乗員の頭部は、左右方向側への回転を規制されることとなることから、乗員の頭部を、回転を抑制して、前方用エアバッグによって、的確に拘束することができる。そして、その後、窓用エアバッグ(バッグ隣接膨張部)は、さらに、内部に膨張用ガスを流入させて膨張することから、膨張した窓用エアバッグのバッグ隣接膨張部と前方用エアバッグとによって、斜め前方に向かって移動する乗員の頭部を、左右両側から拘束することができて、乗員の頭部を、さらなる斜め前方への移動を規制して、的確に拘束することができる。
【0010】
したがって、本発明の乗員保護装置では、斜め前方に向かって移動する乗員を、乗員の前側で膨張する前方用エアバッグと、乗員の側方において窓の車内側を覆うように膨張する窓用エアバッグと、によって、的確に保護することができる。
【0011】
さらに詳細には、窓用インフレーターの作動開始タイミングは、前方用エアバッグの乗員の受け止め開始時の−17ms〜−10msの範囲内に、設定することが好ましく、また、前方用エアバッグとしては、運転席の前方に配置されるステアリングホイール内に折り畳まれて収納されるステアリングホイール用エアバッグを例示することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、実施形態において、前後・上下・左右の方向は、特に断らない限り、車両Vの前後・上下・左右の方向と一致するものである。
【0014】
実施形態の乗員保護装置Mは、前席と後席とを有した二列シートタイプの車両Vに搭載されるもので、前席としての運転席DSに着座した運転者(乗員)MDを保護するためのものである。乗員保護装置Mは、
図1に示すように、運転席DSの前方に配置される前方用エアバッグ装置A1と、運転席DSの車外側O(車幅方向における車外側)に配置される窓用エアバッグ装置A2と、を備えて構成されている。
【0015】
前方用エアバッグ装置A1は、実施形態の場合、
図1,2に示すように、運転席DSの前方のステアリングホイールSWに搭載されている。この前方用エアバッグ装置A1は、車両Vの前面衝突時において前方用エアバッグ25を膨張させた際に、運転席DSに着座した乗員(運転者)MDを保護するためのステアリングホイール用のエアバッグ装置から、構成されている。前方用エアバッグ装置A1は、
図2に示すように、ステアリングホイールSWの略中央のボス部Bに配置されるもので、折り畳まれて収納される前方用エアバッグ25と、前方用エアバッグ25に膨張用ガスを供給する前方用インフレーター16と、前方用エアバッグ25と前方用インフレーター16とを収納して保持するケース17と、折り畳まれた前方用エアバッグ25を覆うエアバッグカバー19と、前方用エアバッグ25と前方用インフレーター16とをケース17に取り付けるためのリテーナ15と、を備えて構成されている。
【0016】
前方用インフレーター16は、
図2に示すように、複数のガス吐出口16bを有した略円柱状の本体部16aと、前方用インフレーター16をケース17に取り付けるためのフランジ部16cと、を備えて構成されている。フランジ部16cには、リテーナ15の図示しない各ボルトを貫通させるための図示しない貫通孔が、形成されている。この前方用インフレーター16は、図示しない制御装置と電気的に接続されて、制御装置による車両Vの前面衝突と、斜め衝突と、オフセット衝突と、の検知時に、それぞれ、作動するように構成されている。前方用インフレーター16は、実施形態の場合、制御装置によって、車両Vの衝突検知(衝突検知センサの着火信号発信)から5ms経過後に、作動を開始するように、制御されている。
【0017】
ケース17は、板金製として、
図2に示すように、前方用インフレーター16を下方から挿入させて取り付ける略長方形板状の底壁部17aと、底壁部17aの外周縁から上下に延びる周壁部17bと、を備えて構成されている。周壁部17bの上端には、外方へ延びる図示しない取付片が、配設され、この取付片には、図示しないホーンスイッチ機構の取付基板が取り付けられている。そして、この図示しない取付基板を利用して、ケース17がステアリングホイールSWの芯金10に取付固定され、前方用エアバッグ装置A1が、ステアリングホイールSWのボス部Bの上部に搭載される構成である。また、ケース17の周壁部17bには、リベット20等を利用して、エアバッグカバー19の側壁部19cが、取り付けられている(
図2参照)。実施形態の場合、前方用エアバッグ25と前方用インフレーター16とは、前方用エアバッグ25内に配置させたリテーナ15の図示しないボルトを取付手段として、この図示しないボルトを、前方用エアバッグ25における流入用開口(図符号省略)の周縁、ケース17の底壁部17a、及び、前方用インフレーター16のフランジ部16cを、貫通させて、図示しないナット止めすることにより、ケース17の底壁部17aに取り付けられている。
【0018】
エアバッグカバー19は、合成樹脂製として、ケース17に収納された前方用エアバッグ25の上方を覆う天井壁部19aと、天井壁部19aの外周縁付近から下方に延びる略四角筒形状の側壁部19cと、を備えて構成されている。天井壁部19aには、膨張する前方用エアバッグ25に押されて前後に開く2枚の扉部19b,19bが、形成されている。
【0019】
前方用エアバッグ25は、実施形態の場合、ポリエステル糸やポリアミド糸を織成して形成される可撓性を有した織布であって、外表面側にコーティング剤を塗布させていないノンコート布から、形成される可撓性を有した袋状とされている。詳細には、前方用エアバッグ25は、外形形状をともに円形として、膨張完了時に運転者MD(乗員)側に配置される乗員側壁部25bと、膨張完了時にステアリングホイールSW側に配置される車体側壁部25aと、の外周縁相互を結合させることにより、膨張完了時の外形形状を、
図2の二点鎖線及び
図5〜8に示すように、上方から見て円形として、側方から見て球状に近い略楕円球状とするように構成されて、ステアリングホイールSWのリング部Rの後面(ステアリングホイールSWを組み付けるステアリングシャフトSSの軸方向に沿った上面)を略全面にわたって覆うように構成されている。前方用エアバッグ25は、膨張完了時に、乗員側壁部25bによって、前方若しくは斜め前方に向かって移動する運転者MDの上半身を受け止めることとなる。
【0020】
この前方用エアバッグ25は、車両Vの衝突検知(衝突検知センサの着火信号発信)から5ms程度経過後に前方用インフレーター16を作動させることにより、内部に膨張用ガスを流入させて膨張することとなる。また、実施形態の前方用エアバッグ装置A1では、前方用エアバッグ25として、容積を、50〜60L程度に設定されるものが、使用されている。
【0021】
窓用エアバッグ装置A2は、
図1に示すように、運転席DSの側方(車幅方向における車外側)に配置される窓W1,W2の上縁側における車内側に、配置されている。この窓用エアバッグ装置A2は、車両Vの側面衝突時において窓用エアバッグ40を膨張させた際に、運転席DSに着座した乗員としての運転者MDの頭部Hと、運転席DSの後方の座席に着座した乗員の頭部と、を保護するための頭部保護用のエアバッグ装置から、構成されている。
【0022】
窓用エアバッグ装置A2は、
図1に示すように、窓用エアバッグ40と、窓用インフレーター35と、取付ブラケット32,37と、エアバッグカバー30と、を備えて構成されている。窓用エアバッグ40は、
図1に示すように、車両Vの車内側における窓W1,W2の上縁側において、フロントピラー部FPの下縁側から、ルーフサイドレール部RRの下縁側を経て、リヤピラー部RPの上方の領域まで、折り畳まれて収納され、膨張用ガスの流入時に、窓W1,W2の車内側を覆うように、窓W1,W2の上縁側から下方へ展開膨張する構成である。
【0023】
エアバッグカバー30は、
図1,5〜8に示すように、フロントピラー部FPに配置されるフロントピラーガーニッシュ4と、ルーフサイドレール部RRに配置されるルーフヘッドライニング5と、のそれぞれの下縁から、構成されている。フロントピラーガーニッシュ4とルーフヘッドライニング5とは、合成樹脂製として、それぞれ、ボディ(車体)1側のインナパネル2における車内側に、取付固定されている。このエアバッグカバー30は、折り畳まれて収納される窓用エアバッグ40の車内側を覆って、展開膨張時の窓用エアバッグ40を車内側下方へ突出可能とするために、窓用エアバッグ40に押されて車内側に開き可能に、構成されている。
【0024】
窓用インフレーター35は、窓用エアバッグ40に膨張用ガスを供給するもので、
図1に示すように、略円柱状のシリンダタイプとして、先端側に、膨張用ガスを吐出可能な図示しないガス吐出口を、配設させている。窓用インフレーター35は、ガス吐出口付近を含めた先端側を、窓用エアバッグ40の後述するガス流入口部45に挿入させ、ガス流入口部45の外周側に配置されるクランプ36を用いて、窓用エアバッグ40に対して連結されている。また、窓用インフレーター35は、窓用インフレーター35を保持する取付ブラケット37と、取付ブラケット37をボディ1側のインナパネル2に固定するためのボルト38と、を利用して、インナパネル2において窓W2の上方となる位置に、取り付けられている(
図1参照)。窓用インフレーター35は、図示しないリード線を介して、図示しない制御装置と電気的に接続されており、制御装置による車両Vの側面衝突と、斜め衝突と、オフセット衝突と、の検知時に、それぞれ、作動するように構成されている。窓用インフレーター35は、実施形態の場合、制御装置により車両Vの斜め衝突若しくはオフセット衝突が検知された際には、前方用エアバッグ25の運転者MDの受け止め開始よりも−20ms〜−5msの範囲内(望ましくは、−17ms〜−10msの範囲内)で、作動を開始するように、制御されている。窓用インフレーター35の作動開始が、前方用エアバッグ25の運転者MDの受止開始よりも20ms以上前では、作動開始タイミングが早すぎて、前方用エアバッグ25の運転者MDの受止開始前には、すでに、窓用エアバッグ40が膨張を完了させた状態で窓W1を覆うように配置されることとなり、膨張した窓用エアバッグ40が、斜め衝突若しくはオフセット衝突して回転する車両Vによって生じる慣性により、運転者MDから離れた車外側(窓W1側)に向かって動いてしまう場合があり、前方用エアバッグ25により受け止められつつ斜め前方に向かって移動する運転者MDの頭部Hを、窓用エアバッグ40によって、円滑に拘束することができない虞れがあるためである。また、窓用インフレーター35の作動開始が、前方用エアバッグ25による運転者MDの受止開始時よりも前であっても、5ms未満では、作動開始タイミングが遅すぎて、前方用エアバッグ25が運転者MDを受け止めた際に、窓用エアバッグ40は窓W1の車内側を覆うように展開しておらず、前方用エアバッグ25により受け止められつつ斜め前方に向かって移動する運転者MDの頭部Hを、窓用エアバッグ40によって、円滑に拘束することができない虞れがあるためである。
【0025】
各取付ブラケット32は、2枚の板金製のプレートから構成されるもので、窓用エアバッグ40の後述する各取付部62,71を、表裏から挟むようにして、各取付部62,71に取り付けられ、ボルト33を利用して、各取付部62,71を、ボディ1側のインナパネル2に取付固定している(
図1,2参照)。
【0026】
窓用エアバッグ40は、
図4に示すように、窓用インフレーター35からの膨張用ガスを内部に流入させて、折畳状態から展開して、窓W1,W2や、センターピラー部CP及びリヤピラー部RPのピラーガーニッシュ6,7の車内側を覆うように展開膨張する構成とされている。具体的には、窓用エアバッグ40は、膨張完了時の外形形状を、窓W1からセンターピラー部CP,窓W2を経て、リヤピラー部RPの前側にかけての車内側を覆い可能に、長手方向を前後方向に略沿わせた略長方形板状とされるもので、実施形態の場合、膨張完了時の下縁40bを、窓W1,W2の下縁から構成されるベルトラインBLより下方に位置させるように、構成されている(
図4参照)。また、窓用エアバッグ40は、膨張完了時に、前端40c側の部位を、窓W1と、ステアリングホイールSWの後面側を全面にわたって覆うように膨張している前方用エアバッグ25と、の間に、配置させるように、構成されている。すなわち、窓用エアバッグ40は、展開時に、
窓W1と乗員としての運転者MDの頭部MHとの間に進入するように膨張して、前方用エアバッグ25に受け止められた状態の運転者MDの頭部Hの側方を覆うように構成されている。この窓用エアバッグ40は、後述する車内側壁部41aと車外側壁部41bとを重ねるように平らに展開した状態から、下縁40b側を上縁40a側に接近させるように折り畳まれた状態で、窓W1,W2の上縁側に収納される構成である。
【0027】
窓用エアバッグ40は、実施形態の場合、後述する連結ベルト70を除いて、ポリアミド糸やポリエステル糸等を使用した袋織りによって、一体的に製造されており、外表面側に、ガス漏れ防止用のシリコーン樹脂からなるコーティング剤を塗布させている。窓用エアバッグ40は、
図3に示すように、膨張完了時に車内側に位置する車内側壁部41aと車外側に位置する車外側壁部41bとを離隔させるように、内部に膨張用ガスを流入させて膨張するガス流入部41と、膨張用ガスを流入させない非流入部60と、を備えている。
【0028】
ガス流入部41は、実施形態の場合、窓用インフレーター35から吐出される膨張用ガスを流入させて膨張する主膨張部43(一次膨張部)と、主膨張部43と連通されて主膨張部43を経て内部に膨張用ガスを流入させて膨張する副膨張部としての前側副膨張部50,中央側副膨張部51,後側副膨張部52(二次膨張部)と、主膨張部43と前側副膨張部50,中央側副膨張部51,後側副膨張部52とをそれぞれ連通させる連通部54,55,56,57と、を備えている。実施形態の場合、窓用エアバッグ40は、主膨張部43,前側副膨張部50,中央側副膨張部51,後側副膨張部52を区画する区画部63,64,65,66,67,68の僅かな領域を除いて、略全面にわたって膨張用ガスを流入させて膨張するように、構成されている。
【0029】
主膨張部43は、ガス案内流路44、ガス流入口部45、前席用保護部46、及び、後席用保護部47を、備えている。
【0030】
ガス案内流路44は、窓用エアバッグ40の上縁40a側において、前後方向に略沿って延びるように、主膨張部43の領域の前後の略全域にわたって配設されている。ガス案内流路44は、窓用エアバッグ40の膨張初期において、窓用インフレーター35から吐出される膨張用ガスを、ガス案内流路44の下方に配置される前席用保護部46,後席用保護部47に案内する構成である。ガス流入口部45は、ガス案内流路44における前後の中央付近において、上方に突出するように、配置されている。実施形態の場合、ガス流入口部45は、ガス案内流路44に対して後上がりに傾斜して形成されて、後端45a側を、窓用インフレーター35を挿入可能に開口させている。そして、ガス流入口部45は、窓用インフレーター35を内部に挿入させた状態で、外周側にクランプ36を嵌めることにより、窓用インフレーター35に連結されることとなる。
【0031】
前席用保護部46は、車両Vの側面衝突時やロールオーバー時に、運転席DSに着座した乗員MDの頭部Hを保護可能に構成されるもので、窓用エアバッグ40の膨張完了時に、運転席DSに着座した乗員MDの頭部Hの側方において、窓W1の後半分程度の領域(フロントピラー部FPの配置される領域よりも後方の領域)の車内側を覆うように、配置される部位である。後席用保護部47は、運転席DSの後方に配置される後席に着座した乗員の頭部を保護するためのもので、膨張完了時に窓W2の車内側を覆うように、後席の側方に配置される部位である。
【0032】
前側副膨張部50は、主膨張部43(前席用保護部46)の前側に隣接するように、窓用エアバッグ40の前端40c側に配置されるもので、膨張完了時に、窓W1の前半分程度の領域(フロントピラー部FPの下方の領域)の車内側を覆うように、配置される部位である。前側副膨張部50は、後上端側に開口される連通部54と、後下端側に開口される連通部55と、により、前席用保護部46と連通されている。これらの連通部54,55は、開口幅寸法を小さく設定されて、前側副膨張部50内への膨張用ガスの流入開始を、前席用保護部46よりも遅らせるように、構成されている。
【0033】
実施形態の乗員保護装置Mでは、この前側副膨張部50と、前席用保護部46における前端側部位46aと、が、窓用エアバッグ40の膨張完了時に、フロントピラー部FPの配置領域となる窓W1の前端側において、窓W1と、ステアリングホイールSWの後面側を全面にわたって覆うように膨張している前方用エアバッグ25と、の間に、配置される部位である(
図4,8参照)。そして、この前側副膨張部50と、前席用保護部46における前端側部位46aと、が、車両Vの斜突時若しくはオフセット衝突時に、車外側斜め前方に向かって移動する運転者MDの頭部Hを受け止める部位である。すなわち、実施形態では、窓用エアバッグ40において、前方用エアバッグ25に受け止められた状態の運転者MDの頭部Hの側方を覆うバッグ隣接膨張部53は、前側副膨張部50と、前席用保護部46における前端側部位46aと、から、構成されている。
【0034】
中央側副膨張部51は、主膨張部43における前席用保護部46の後側であって、ガス案内流路44の下側の領域に配置されるもので、前席用保護部46の後端側に開口される連通部56により、前席用保護部46と連通されている。この連通部56も、開口幅寸法を小さく設定されて、中央側副膨張部51内への膨張用ガスの流入開始を、前席用保護部46よりも遅らせるように、構成されている。後側副膨張部52は、中央側副膨張部51と後席用保護部47との間となるガス案内流路44の下側の領域を埋めるように配置されるもので、後席用保護部47の前端側に開口される連通部57により、後席用保護部47と連通されている。この連通部57も、開口幅寸法を小さく設定されて、後側副膨張部52内への膨張用ガスの流入開始を、後席用保護部47よりも遅らせるように、構成されている。
【0035】
非流入部60は、ガス流入部41の外周縁を構成する周縁部61と、取付部62と、ガス流入部41の領域内に配置される区画部63,64,65,66,67,68と、を備えて構成されている。
【0036】
周縁部61は、ガス流入口部45の後端45a側を除いて、ガス流入部41の周囲を全周にわたって囲むように、配置されている。取付部62は、窓用エアバッグ40の上縁40a側をボディ1側のインナパネル2に取り付けるための部位であり、窓用エアバッグ40の上縁40a側となる周縁部61の上縁側の部位から上方に突出するようにして、前後方向に沿って複数個(実施形態の場合、4個)配置されている。各取付部62には、取付ボルト33を挿通可能な取付孔(図符号省略)が、形成されている。区画部63,64,65,66,67,68は、ガス流入部41の領域内を、ガス案内流路44、前席用保護部46、後席用保護部47、前側副膨張部50、中央側副膨張部51、及び、後側副膨張部52に、区画するように、配置されている。そして、実施形態の窓用エアバッグ40では、区画部63の上端と周縁部61との間の隙間が連通部54を構成し、区画部63の下端と周縁部61との間の隙間が連通部55を構成し、区画部65,66間の隙間が連通部56を構成し、区画部66,68間の隙間が連通部57を、構成している。
【0037】
また、実施形態の窓用エアバッグ40には、
図3に示すように、窓用エアバッグ40と別体の布材から構成される連結ベルト70が、配置されている。この連結ベルト70は、窓用エアバッグ40の前端40c側をボディ1側に連結させるためのもので、後端70b側を、窓用エアバッグ40の車外側壁部41b側において、区画部63に連結させ、前後方向に略沿って前方に延びるように、構成されている。連結ベルト70の前端70a側には、フロントピラー部FPの部位においてボディ1側のインナパネル2に固定される取付部71が、形成されている。この取付部71は、取付部62と同様に、取付ブラケット32と取付ボルト33とを用いて、インナパネル2に固定される構成であり、取付ボルト33を挿通可能な取付孔(図符号省略)を、備えている。
【0038】
実施形態の窓用エアバッグ40は、容積を、50L程度に設定されており、実施形態では、窓用インフレーター35の作動開始から、20ms程度経過後に、主膨張部43の膨張を略完了させ、50ms程度経過後に、前側副膨張部50,中央側副膨張部51,後側副膨張部52を含めた全体の膨張を略完了させることとなる。
【0039】
実施形態の乗員保護装置Mでは、車両Vの右斜め前方からの斜突時若しくはオフセット衝突時に、図示しない制御装置からの作動信号を受けて、前方用エアバッグ装置A1及び窓用エアバッグ装置A2の各前方用インフレーター16,窓用インフレーター35が、作動されることとなる。そして、前方用エアバッグ25が、内部に膨張用ガスを流入させて膨張し、エアバッグカバー19の扉部19b,19bを押し開き、ケース17から突出して、
図4〜8に示すように、ステアリングホイールSWの後面(上面)を略全面にわたって覆うように、膨張を完了させることとなる。窓用エアバッグ40は、内部に膨張用ガスを流入させて膨張し、フロントピラーガーニッシュ4とルーフヘッドライニング5との下縁から構成されるエアバッグカバー30を押し開いて、下方へ突出しつつ、運転席DSの車外側(右側)において、窓W1,W2、センターピラー部CP、及び、リヤピラー部RPの一部の車内側を覆うように、膨張を完了させることとなる(
図4,5,8参照)。
【0040】
そして、実施形態の乗員保護装置Mでは、窓用エアバッグ40に膨張用ガスを供給する窓用インフレーター35が、作動開始タイミングを、前方用エアバッグ25に膨張用ガスを供給する前方用インフレーター16の作動開始よりも遅らせて、前方用エアバッグ25の乗員としての運転者MDの受止開始時の−20ms〜−5msの範囲内で、作動を開始して、窓用エアバッグ40を膨張させる構成である。窓用インフレーター35の作動開始が、前方用エアバッグ25による運転者MDの受止開始時よりも20ms以上前の場合には、作動開始タイミングが早すぎて、前方用エアバッグ25の運転者MDの受止開始時には、すでに、窓用エアバッグ40が膨張を完了させた状態で窓W1を覆うこととなり、膨張した窓用エアバッグ40(バッグ隣接膨張部53)が、斜め衝突若しくはオフセット衝突して回転する車両Vによって生じる慣性により、運転者MDから離れるように車外側(窓W1側)に向かって動いてしまう場合があり(
図6のA参照)、前方用エアバッグ25により受け止められつつ斜め前方に向かって移動する運転者MDの頭部Hを、窓用エアバッグ40によって、円滑に拘束することができない場合がある。また、窓用インフレーター35の作動開始が、前方用エアバッグ25による運転者MDの受止開始時よりも前であっても、5ms未満である場合には、逆に、作動開始タイミングが遅すぎて、前方用エアバッグ25が運転者MDを受け止めた際に、
図6のBに示すように、窓用エアバッグ40は窓W1の車内側を覆うように展開しておらず、前方用エアバッグ25により受け止められつつ斜め前方に向かって移動する運転者MDの頭部Hを、窓用エアバッグ40によって、円滑に拘束することができない場合がある。
【0041】
実施形態の乗員保護装置Mでは、窓用エアバッグ40に膨張用ガスを供給する窓用インフレーター35が、作動開始タイミングを、前方用エアバッグ25の運転者MDの受止開始時の−20ms〜−5msの範囲内に設定されていることから、前方用エアバッグ25が斜め前方に向かって移動する運転者MDを受け止めた際には、窓用エアバッグ40のバッグ隣接膨張部53は、
図5の二点鎖線及び
図7に示すように、窓W1の車内側Iを覆うように展開膨張しているものの、膨張完了状態には至っていない。すなわち、バッグ隣接膨張部53は、窓W1と運転者MDの頭部Hとの間の隙間に進入するように展開して、前方用エアバッグ25によって受け止められた状態の運転者MDの頭部Hの側方(車外側O)を覆い、かつ、ある程度の厚さを有した膨張状態で配置されることとなる。そのため、実施形態の乗員保護装置Mでは、斜め前方に向かって移動する運転者MDの頭部Hが、前方用エアバッグ25に受け止められた際に、
図6に示すように、窓W1の車内側を覆うように展開している窓用エアバッグ40のバッグ隣接膨張部53と接触することとなり、この展開した状態(膨張完了前の状態)のバッグ隣接膨張部53との接触により生ずる摩擦抵抗により、運転者MDの頭部Hは、左右方向側への回転を規制されることとなることから、運転者MDの頭部H部を、回転を抑制して、前方用エアバッグ25によって、的確に拘束することができる。そして、その後、窓用エアバッグ40(バッグ隣接膨張部53)は、
図8に示すように、さらに内部に膨張用ガスを流入させて膨張することから、膨張した窓用エアバッグ40のバッグ隣接膨張部53と、前方用エアバッグ25と、によって、斜め前方に向かって移動する運転者MDの頭部Hを、左右両側から拘束することができて、運転者MDの頭部Hを、さらなる斜め前方への移動を規制して、的確に拘束することができる。
【0042】
したがって、実施形態の乗員保護装置Mでは、斜め前方に向かって移動する乗員としての運転者MDを、運転者MDの前側で膨張する前方用エアバッグ25と、運転者MDの側方において窓W1の車内側を覆うように膨張する窓用エアバッグ40と、によって、的確に保護することができる。
【0043】
実施形態の乗員保護装置Mでは、窓用インフレーター35の作動開始タイミングが、膨張を完了させた前方用エアバッグ25による乗員(運転者MD)の受止開始を基準として設定されていることから、搭載する車種に応じて、車両の内装形状や、前方用エアバッグの容量が異なる構成であっても、窓用エアバッグを適切に膨張させることができて、斜め前方に向かって移動する乗員を、膨張した前方用エアバッグと窓用エアバッグとによって、的確に拘束することができる。
【0044】
また、実施形態の乗員保護装置Mでは、窓用エアバッグ40において、前方用エアバッグ25に受け止められた状態の運転者MDの頭部Hの側方を覆うバッグ隣接膨張部53は、主膨張部43である前席用保護部46の前端側部位46aと、主膨張部43よりも膨張用ガスの開始を遅らせて構成される前側副膨張部50と、から構成されており、前端側部位46aの上側には、区画部63から延びるように前後方向に略沿って配置される区画部64が配設されていることから、バッグ隣接膨張部53を、内部に膨張用ガスを流入させつつ下方に向かって展開膨張する主膨張部43(前席用保護部46)の膨張に伴って、内部への膨張用ガスの流入量を少なくした薄い状態で、展開させることができ、ステアリングホイールSWを覆っている前方用エアバッグ25と窓W1との間の隙間が狭くとも、この狭い隙間に、窓用エアバッグ40の前端40c側(前側副膨張部50)を、円滑に進入させることができる。
【0045】
また、実施形態の乗員保護装置Mでは、前方用エアバッグ25として、運転席DSの前方に配置されるステアリングホイールSW内に折り畳まれて収納されるステアリングホイール用のエアバッグが、使用されているが、前方用エアバッグは、実施形態に限られるものではなく、前方用エアバッグとして、助手席の前方に配置される助手席用エアバッグ装置のエアバッグを、使用して、助手席に着座した助手席搭載者(乗員)を保護する構成としてもよい。この場合、助手席の側方に配置される窓の車内側を覆うように配置される窓用エアバッグに膨張用ガスを供給する窓用インフレーターの作動開始タイミングを、膨張を完了させた助手席用のエアバッグの助手席搭載者の受け止め開始時の−20ms〜−5msの範囲内に、設定することにより、助手席用のエアバッグと窓用エアバッグとによって車外側斜め前方に向かって移動する助手席搭載者を保護することができる。