【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、次世代構造部材創製・加工技術開発、産業技術力強化法19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記繊維構造体は、前記第1の糸からなる第1糸層と、前記第2の糸からなる第2糸層と、を有するとともに、前記第1糸層と前記第2糸層とが積み重なり、前記第1糸層と前記第2糸層とが積み重なった方向に前記第1糸層及び前記第2糸層が拘束糸によって拘束された多層織物である請求項1に記載の繊維構造体。
前記第1の糸の撚り数を、前記径方向に沿って前記内縁部から前記外縁部に向かうに従い1本ずつ順番に多くしている請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の繊維構造体。
繊維構造体を強化基材とし、該強化基材がマトリックス中に複合化された繊維強化複合材であって、前記繊維構造体が請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載の繊維構造体であることを特徴とする繊維強化複合材。
【背景技術】
【0002】
軽量、高強度の材料として繊維強化複合材が使用されている。繊維強化複合材は、強化繊維(強化基材)が樹脂、セラミックス等のマトリックス中に複合化されることにより、マトリックス自体に比べて力学的特性(機械的特性)が向上するため、構造部品として好ましい。
【0003】
また、繊維強化複合材として、平面視円弧状や平面視円環状といった湾曲形状のものがある。このような繊維強化複合材の強化基材を構成する繊維構造体としては、例えば、強化繊維の繊維束(第1の糸)が、その糸主軸方向が湾曲形状の周方向に延びる状態に配置されるとともに、強化繊維の繊維束(第2の糸)が、その糸主軸方向が周方向に交差する径方向に延びる状態に配置されているものがある。
【0004】
しかし、湾曲形状の繊維構造体では、周方向に隣り合う第2の糸の糸主軸同士の間隔が湾曲形状の外側(外縁部側)ほど広くなる。このため、湾曲形状の外側ほど、単位体積当たりの強化繊維の量(以下、単に繊維密度という)が小さくなる。このように繊維構造体の繊維密度が均一ではなく、他の箇所より繊維密度の小さな部分が存在すると、繊維構造体が強化基材としてマトリックス中に複合された繊維強化複合材においては、マトリックスのリッチ部が大きく発生してしまう。その結果として、繊維強化複合材の成形時にクラックの発生を引き起こし、製造された繊維強化複合材の使用時にもマトリックスのリッチ部においてクラックが発生する。
【0005】
そこで、湾曲形状の繊維構造体において、その繊維密度のバラツキを小さくするため、例えば、特許文献1では、糸主軸方向が、周方向に延びる繊維束と交差する繊維束(第2の糸)について、その強化繊維の本数(繊維本数)を、円弧の曲率中心に近い側(内縁部側)に比べて曲率中心に遠い側(外縁部側)の方が多くなるようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1においては、繊維束の繊維本数を多くするために、連続繊維束に対し、別体の接合繊維束を接合した特殊な糸を用いる必要があり、強化基材の生産性が低い。
【0008】
本発明の目的は、生産性を高めつつ、繊維密度のバラツキを抑制できる繊維構造体及び繊維強化複合材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点を解決するための繊維構造体は、強化繊維の繊維束からなる第1の糸と、強化繊維の繊維束からなり、前記第1の糸と交差する第2の糸とを有し、平面視が円弧状の板状であり、円弧状に延びる内縁部を有するとともに、前記内縁部より外側において円弧状に延びる外縁部を有する、又は、平面視が円環状の板状であり、円形状に延びる内縁部を有するとともに、前記内縁部より外側において円形状に延びる外縁部を有し、前記内縁部と前記外縁部を最短距離で結ぶ直線の延びる方向を径方向とし、前記内縁部及び外縁部の延びる方向を周方向とする繊維構造体において、前記第1の糸は、前記周方向に延びるとともに、前記第2の糸は前記径方向に延び、前記内縁部に位置する前記第1の糸の撚り数は、前記外縁部に位置する前記第1の糸の撚り数より少なく、かつ前記径方向に隣り合う第1の糸同士は同じ撚り数、又は前記外縁部寄りの第1の糸の方が撚り数が多いことを要旨とする。
【0010】
これによれば、繊維構造体においては、外縁部の長さが内縁部の長さより長いことから、周方向に隣り合う第2の糸同士の間隔は、内縁部側よりも外縁部側の方が広くなる。しかし、内縁部の第1の糸よりも外縁部の第1の糸の撚り数を多くし、しかも、径方向に隣り合う第1の糸同士において、撚り数を多くする、又は外縁部寄りの第1の糸の方の撚り数を多くした。撚り数が多いほど、第1の糸において、単位長さ当たりに存在する強化繊維の量が多くなり、第2の糸同士の間隔が広がる外縁部側であっても、単位体積当たりの強化繊維の量を増やすことができる。その結果、繊維構造体全体で見た場合、繊維構造体の単位体積当たりの強化繊維の量である繊維密度のバラツキを、繊維構造体の径方向において小さくできる。そして、第1の糸の撚り数を調整するだけで繊維密度のバラツキを小さくでき、特殊な糸を用いる必要がないため、特殊な糸を用いる場合と比べると、生産性を高めることができる。
【0011】
また、繊維構造体について、前記繊維構造体は、前記第1の糸からなる第1糸層と、前記第2の糸からなる第2糸層と、を有するとともに、前記第1糸層と前記第2糸層とが積み重なり、前記第1糸層と前記第2糸層とが積み重なった方向に前記第1糸層及び前記第2糸層が拘束糸によって拘束された多層織物であってもよい。
【0012】
これによれば、繊維構造体を多層織物とすることで、第1糸層及び第2糸層を積み重ねた方向に繊維構造体を拘束でき、繊維構造体の層間剥離を抑制できる。
また、繊維構造体について、前記繊維構造体は螺旋織物であってもよい。
【0013】
これによれば、螺旋織物は、公知の織機で製織できる。このため、第1の糸の撚り数を変えるだけで、繊維密度のバラツキを小さくした繊維構造体を簡単に製造できる。
また、繊維構造体について、前記第1の糸の撚り数を、前記径方向に沿って前記内縁部から前記外縁部に向かうに従い1本ずつ順番に多くしてもよい。
【0014】
これによれば、繊維構造体の径方向の全体に亘って繊維密度のバラツキを小さくできる。
上記問題点を解決するための繊維強化複合材は、繊維構造体を強化基材とし、該強化基材がマトリックス中に複合化された繊維強化複合材であって、前記繊維構造体が請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載の繊維構造体であることを要旨とする。
【0015】
これによれば、繊維構造体においては、外縁部の長さが内縁部の長さより長いことから、周方向に隣り合う第2の糸同士の間隔は、内縁部側よりも外縁部側の方が広くなる。しかし、内縁部の第1の糸よりも外縁部の第1の糸の撚り数を多くし、しかも、径方向に隣り合う第1の糸同士において、撚り数を多くする、又は外縁部寄りの第1の糸の方の撚り数を多くした。撚り数が多いほど、第1の糸において、単位長さ当たりに存在する強化繊維の量が多くなり、第2の糸同士の間隔が広がる外縁部側であっても、単位体積当たりの強化繊維の量を増やすことができる。その結果、繊維構造体全体で見た場合、繊維構造体の単位体積当たりの強化繊維の量である繊維密度のバラツキを、繊維構造体の径方向において小さくできる。そして、第1の糸の撚り数を調整するだけで繊維密度のバラツキを小さくでき、特殊な糸を用いる必要がないため、特殊な糸を用いる場合と比べると、生産性を高めることができる。そして、このような繊維構造体を強化基材とした繊維強化複合材においては、繊維密度の低い箇所をなくして、マトリックスのリッチ部が大きく発生することを抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、生産性を高めつつ、繊維密度のバラツキを抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、繊維構造体及び繊維強化複合材を、螺旋織物、及び螺旋織物を強化基材とした繊維強化複合材に具体化した一実施形態を
図1〜
図6にしたがって説明する。
図1に示すように、繊維強化複合材10は、マトリックス11中に、繊維構造体としての螺旋織物12を強化基材として複合化して形成されている。本実施形態では、マトリックス11として樹脂が用いられている。なお、マトリックス11としては、樹脂以外に金属やセラミックスを用いてもよい。
【0019】
繊維強化複合材10は、平面視円環状の板状である。なお、平面視とは、繊維強化複合材10の中心軸線Lに沿って、繊維強化複合材10を外側から見ることである。また、繊維強化複合材10において、中心軸線Lの延びる方向を厚み方向とする。
【0020】
次に、螺旋織物12について説明する。なお、螺旋織物12は、
図2に示すように、螺旋をなすように織製されるが、繊維強化複合材10の強化基材として使用される螺旋織物12は、螺旋状に連続する螺旋織物12を所定の厚さに切断して形成されたものである。
【0021】
平面視円環状の板状である螺旋織物12において、内周縁に沿って延びる内縁部12aは、平面視円形状であり、螺旋織物12の外周縁に沿って延びる外縁部12bは、平面視円形状である。内縁部12aの円周の長さは、外縁部12bの円周の長さより短い。螺旋織物12において、内縁部12a及び外縁部12bの延びる方向を周方向Xとし、内縁部12aと外縁部12bを最短距離で結ぶ直線の延びる方向を径方向Yとする。外縁部12bは、内縁部12aよりも径方向Yに沿った外側(外径側)に位置する。
【0022】
図3又は
図4に示すように、螺旋織物12は多層織物である。なお、
図4では、螺旋織物12の周方向Xに沿った一部を示すとともに、平面視における上側の2層のみを示す。螺旋織物12は、糸主軸方向L1が、円弧状に延びる状態で互いに平行に配列された複数の第1の糸としての経糸13と、糸主軸方向L2が、経糸13と交差する方向に延びる状態で配列された複数の第2の糸としての緯糸14とを有する織物である。経糸13の糸主軸方向L1は、螺旋織物12の周方向Xに延び、緯糸14の糸主軸方向L2は、螺旋織物12の径方向Yに延びる。なお、
図4では経糸13と緯糸14との位置関係を分かり易くするため、隣り合う経糸13同士や緯糸14同士が離れた状態に図示しているが、実際は隣り合う経糸13の幅方向の端部同士や緯糸14の幅方向の端部同士が重なった状態に配列されている。
【0023】
螺旋織物12の平面視では、周方向Xに隣り合う緯糸14同士の間隔は、径方向Yに沿って外縁部12bに向かうに従い徐々に広くなっている。また、螺旋織物12の平面視では、径方向Yに隣り合う経糸13同士の間隔は一定である。このため、螺旋織物12の平面視において、一定の面積を有する領域を基準領域Kとすると、基準領域Kに存在する経糸13及び緯糸14の量は、螺旋織物12の外縁部12b寄りほど少なくなっている。
【0024】
なお、経糸13及び緯糸14は、強化繊維を束ねて形成された繊維束である。強化繊維としては有機繊維や無機繊維を使用してもよいし、異なる種類の有機繊維、異なる種類の無機繊維、又は有機繊維と無機繊維を混繊した混繊繊維を使用してもよい。有機繊維の種類としては、アラミド繊維、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等が挙げられ、無機繊維の種類としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維等が挙げられる。
【0025】
図3に示すように、螺旋織物12は、複数の繊維層が積層されて構成されている。なお、繊維層が積み重なった方向を螺旋織物12の積層方向Zとする。積層方向Zは、繊維強化複合材10の厚み方向と一致する。
【0026】
具体的には、螺旋織物12は、複数本の経糸13が並んで形成された経糸層を複数有する。経糸層としては、第1経糸層21と、積層方向Zにおいて、第1経糸層21より下方に配置された第2経糸層22と、を有する。第1経糸層21及び第2経糸層22は、第1糸層を構成する。
【0027】
また、螺旋織物12は、複数本の緯糸14が並んで形成された緯糸層を複数有する。緯糸層としては、第1緯糸層31と、積層方向Zにおける第1緯糸層31より下方に配置された第2緯糸層32と、積層方向Zにおける第2緯糸層32より下方に配置された第3緯糸層33と、を有する。第1緯糸層31、第2緯糸層32、及び第3緯糸層33は第2糸層を構成する。
【0028】
螺旋織物12は、積層方向Zの一端から他端(上から下)へ第1緯糸層31、第1経糸層21、第2緯糸層32、第2経糸層22、及び第3緯糸層33の順番で積層されている。これら第1緯糸層31、第1経糸層21、第2緯糸層32、第2経糸層22、及び第3緯糸層33は、複数の拘束糸15により積層方向Zに拘束されている。なお、
図4の模式図では、拘束糸15の図示を省略している。
【0029】
複数の拘束糸15は、径方向Yに並んでいる。各拘束糸15は、螺旋織物12の形状保持用であり、強化繊維の繊維束である。強化繊維としては有機繊維や無機繊維を使用してもよいし、異なる種類の有機繊維、異なる種類の無機繊維、又は有機繊維と無機繊維を混繊した混繊繊維を使用してもよい。複数本の拘束糸15は、各経糸13と略平行に配列されるとともに、螺旋織物12を構成する最上層の第1緯糸層31の緯糸14の外面を通って折り返すように配置されている。また、各拘束糸15は、螺旋織物12を積層方向Zに貫通し、最下層の第3緯糸層33の緯糸14の外面を通って折り返すように配置されている。よって、拘束糸15は、積層方向Z両端の第1緯糸層31及び第3緯糸層33の緯糸14に係合している。
【0030】
径方向Yに隣り合う拘束糸15同士は、第1緯糸層31又は第3緯糸層33で折り返される緯糸14の位置が周方向Xにずれている。そして、拘束糸15が各緯糸14に係合することで、第1〜第3緯糸層31〜33が積層方向Zに拘束され、積層方向Zに隣り合う第1緯糸層31と第2緯糸層32の間に第1経糸層21が拘束され、第2緯糸層32と第3緯糸層33の間に第2経糸層22が拘束されている。
【0031】
上記構成の螺旋織物12の平面視において、上記基準領域Kに存在する経糸13及び緯糸14の量は、螺旋織物12の外縁部12b寄りほど少なくなっている。このような螺旋織物12において、基準領域Kに存在する強化繊維の量を螺旋織物12全体で均一化し、螺旋織物12全体で繊維密度のバラツキを小さくするために、経糸13の撚り数を異ならせている。
【0032】
図4又は
図5に示すように、第1経糸層21及び第2経糸層22の経糸13として、強化繊維を撚って形成された撚糸を用いている。撚りのない経糸13は断面扁平状であるが、撚りを加えた経糸13は断面円形状に近い形状である。
【0033】
撚りを加えた経糸13において、単位長さ当たりでの撚り数が異なると、その単位長さに存在する強化繊維の量が異なる。単位長さ当たりでの撚り数が多くなるほど、糸主軸方向L1に対する各強化繊維の傾きが大きくなり、単位長さ当たりに存在する強化繊維の量が多くなる。一方、単位長さ当たりでの撚り数が少なくなるほど、糸主軸方向L1に対する各強化繊維の傾きが小さくなり、単位長さ当たりに存在する強化繊維の量が少なくなる。
【0034】
第1経糸層21及び第2経糸層22を構成する複数の経糸13において、経糸13同士で強化繊維の本数は、同じ又は僅かに異なるだけである。このため、撚り数が多くなると、単位長さ当たりの強化繊維の量が多くなり、その結果として、単位体積当たりの強化繊維の量(以下、単に繊維密度と記載する)は高くなる。一方、撚り数が少なくなると、単位長さ当たりの強化繊維の量が少なくなる結果、繊維密度は低くなる。
【0035】
本実施形態では、螺旋織物12の内縁部12aに沿って延びる経糸13の撚り数が最も少なく、螺旋織物12の外縁部12bに沿って延びる経糸13の撚り数が最も多い。そして、螺旋織物12の径方向Yに沿って、内縁部12aの経糸13から外縁部12bの経糸13に向けて1本ずつ順番に撚り数を多くしている。したがって、径方向Yに隣り合う経糸13同士では、外縁部12b寄りの経糸13の方が撚り数が多くなっている。
【0036】
螺旋織物12において、緯糸14の繊維密度は全ての緯糸14で同じである一方で、経糸13の繊維密度を外縁部12b側ほど高くしている。このため、基準領域Kに存在する経糸13及び緯糸14の量が異なっていても、経糸13の繊維密度を異ならせることで、螺旋織物12の場所毎での繊維密度のバラツキを小さくし、繊維密度を均一化している。よって、螺旋織物12の平面視では、いずれの場所であっても、繊維密度はほぼ一定であり、繊維密度のバラツキが小さい。
【0037】
次に螺旋織物12の製織方法を説明する。
図6に示すように、螺旋織物12は、複数対(
図6では一対のみ図示)の綜絖枠41、筬42、緯入れ機構43、送り機構44及び巻き取り機構(図示せず)を備えた公知の織機により製織される。対をなす綜絖枠41は、それぞれ、各経糸13に対応するヘルドを備え、図示しない綜絖枠駆動機構を介して交互に上下動されることにより、経糸13を開口させる。複数の経糸13は、螺旋織物12の内径側から外径側に向けて徐々に撚り数が多くなるように配列された状態で、綜絖枠41のヘルドに通されている。経糸13は、それぞれ、所定の張力を加えながら、図示しないクリールまたはビームから引き出される。
【0038】
筬42は、綜絖枠41と送り機構44との中間に配設されている。筬42は、各筬羽を各経糸13が通過し、経糸13に沿って、緯入れ機構43より後方に後退する後退位置と、緯入れ機構43によって緯入れされる緯糸14を織前Fに打ち込む前進位置との間を前後動する。但し、織前Fは、経糸13に直交し、しかも、螺旋の中心Aを通る半径に一致させるか、この半径に極近い位置に設定されている。
【0039】
緯入れ機構43は、緯糸供給ボビン46から供給される緯糸14を、後退位置に後退した筬42と織前Fとの間において、開口された経糸13間に緯入れする。緯入れ機構43としては、レピア機構が使用され、その前面には、カッタ43aが配設されている。カッタ43aは、緯入れごとに、緯入れされた緯糸14の後端部を切断する。
【0040】
送り機構44は、織前Fの直近前方に配設されており、図示しない一対の枠状の保持部材と、保持部材に収納するようにして配設する一対の駆動部材とからなり、織前Fからの経糸13をそれぞれ所定の曲率に湾曲させて緯糸14を放射状に配列させ、外半径R1、内半径R2の螺旋織物12を形成して前方に送り出すようになっている。なお、送り機構44で放射状に配列された緯糸14は、螺旋織物12からはみ出した余分な部分が図示しないカッタにより切断除去される。
【0041】
巻取機構は、送り機構44の下方に配設され、螺旋の中心Aを中心にして間欠的に水平回転する水平円板である。巻取機構の回転運動は、送り機構44の駆動部材の前進運動と同期しており、その回転方向と回転量とは、駆動部材の前進方向と前進移動量とに一致するようになっている。
【0042】
そして、緯糸供給ボビン46から緯入れされた緯糸14は、送り機構44により織前Fからの経糸13がそれぞれ所定の曲率に湾曲されて緯糸14が放射状に配列される際に、螺旋織物12の外周側ほど拡げられた状態になる。なお、図示しないが拘束糸15も織機によって織り込まれる。
図2に示すように、製造された螺旋織物12は、螺旋状に積み重ねられていく。
【0043】
前記のように構成された螺旋織物12は、螺旋織物12を強化基材とし、樹脂をマトリックス11とした円環状の繊維強化複合材10に形成され、円環状部品として使用される。
【0044】
繊維強化複合材10を製造する場合は、
図1に示すように、螺旋織物12を所定の厚さに切断する。螺旋織物12は、経糸13が円周方向に連続して同心円の螺旋状に積層配列されているため、自然と厚み方向に重なり合って円環状の板となる。切断後の螺旋織物12は、マトリックス11が含浸されて繊維強化複合材10となる。
【0045】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)周方向Xに隣り合う緯糸14同士の間隔が外縁部12b側ほど広がる螺旋織物12において、経糸13の撚り数を外縁部12b側ほど多くし、螺旋織物12の外縁部12b側ほど経糸13の繊維密度を高くした。このため、螺旋織物12において、経糸13の単位体積当たりの強化繊維の本数を外縁部12b側ほど増やすことができる。その結果、螺旋織物12全体で繊維密度を均一化して繊維密度のバラツキを小さくすることができる。したがって、螺旋織物12の繊維密度を均一化するために、特殊な糸を用いる必要がない。よって、螺旋織物12によれば、生産性を高めつつ、繊維密度のバラツキを抑制できるとともに、生産コストが嵩むこともない。
【0046】
(2)螺旋織物12を強化基材とし、マトリックス11中に複合化した繊維強化複合材10を製造した場合、繊維密度が均一化されていることから、樹脂リッチ部が大きく発生することはない。
【0047】
(3)螺旋織物12は、公知の織機によって製織できる。このため、経糸13の撚り数を調整するだけの簡単な方法で、螺旋織物12の繊維密度を螺旋織物12全体で均一化することができる。
【0048】
(4)内縁部12aに沿って延びる経糸13の撚り数を最小とし、外縁部12bに向けて経糸13の撚り数を1本ずつ順番に多くした。このため、螺旋織物12の全体に亘って繊維密度のバラツキを抑制できる。
【0049】
(5)螺旋織物12は、公知の織機を用いて製造する際、経糸13を湾曲させることで製織できるため、簡単に製造でき、生産性が高い。
(6)螺旋織物12は、第1経糸層21及び第2経糸層22と、第1緯糸層31、第2緯糸層32、及び第3緯糸層33とを有する多層織物である。そして、拘束糸15により、第1〜第3緯糸層31〜33が積層方向Zに拘束され、積層方向Zに隣り合う第1緯糸層31と第2緯糸層32の間に第1経糸層21が拘束されるとともに、第2緯糸層32と第3緯糸層33の間に第2経糸層22が拘束されている。よって、螺旋織物12において、螺旋織物12の製造時や、使用時の層間剥離を抑制でき、扱いやすい。
【0050】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○
図7に示すように、螺旋織物12は、経糸13と緯糸14を平織りした織物を複数積層して構成されていてもよい。なお、図示しないが、螺旋織物12は、平織りの他に綾織りや繻子織りした織物を積層して構成されていてもよい。
【0051】
○
図8に示すように、螺旋織物12は、撚り数の同じ経糸13を径方向Yに沿って2本ずつ配置しつつ、径方向Yに沿って経糸13の撚り数を外縁部12bに向けて徐々に多くしてもよい。この場合であっても、内縁部12aに沿って延びる経糸13の撚り数は、外縁部12bに沿って延びる経糸13の撚り数より少ない。また、径方向Yに隣り合う経糸13同士では、撚り数が同じ場所と、撚り数が外縁部12b寄りの経糸13の方が多い場所とが混在する。なお、径方向Yに沿って同じ撚り数となる経糸13の本数は2本以外でもよい。
【0052】
○
図9に示すように、繊維構造体40は、内縁部40aが平面視円弧状であり、外縁部40bが、内縁部40aより長い平面視円弧状をなす、平面視円弧状の板状であってもよい。この場合、内縁部40aに位置する経糸13の撚り数は、外縁部40bに位置する経糸13の撚り数より少なくするとともに、径方向Yに隣り合う経糸13同士は同じ撚り数、又は外縁部40b寄りの経糸13の撚り数を多くする。
【0053】
○ 第1の糸を緯糸14とし、第2の糸を経糸13としてもよい。
○ 第1の糸には、撚りを加えていない経糸13又は緯糸14が含まれていてもよい。この場合、撚りの加えていない経糸13又は緯糸14の撚り数はゼロとなる。例えば、繊維構造体の内縁部に位置する経糸13又は緯糸14の撚り数がゼロであっても、内縁部に位置する経糸13又は緯糸14の撚り数は、外縁部に位置する経糸13又は緯糸14の撚り数より少なくなる。そして、繊維構造体の径方向に隣り合う経糸13同士又は緯糸14同士を同じ撚り数、又は外縁部寄りの経糸13又は緯糸14の撚り数が多くなるようにする。