特許第6885405号(P6885405)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885405
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】蛍光体及びそれを含む樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/64 20060101AFI20210603BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20210603BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20210603BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20210603BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20210603BHJP
   C08L 31/04 20060101ALI20210603BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20210603BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20210603BHJP
   H01L 31/055 20140101ALI20210603BHJP
【FI】
   C09K11/64
   C08L101/00
   C08K3/013
   C08L23/08
   C08L23/04
   C08L31/04 S
   C08K3/36
   C08K3/08
   H01L31/04 622
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-535590(P2018-535590)
(86)(22)【出願日】2017年8月8日
(86)【国際出願番号】JP2017028796
(87)【国際公開番号】WO2018037914
(87)【国際公開日】20180301
【審査請求日】2020年2月25日
(31)【優先権主張番号】特願2016-163741(P2016-163741)
(32)【優先日】2016年8月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻田 寛
(72)【発明者】
【氏名】内藤 潤
(72)【発明者】
【氏名】倉田 奈生子
(72)【発明者】
【氏名】小林 恵太
(72)【発明者】
【氏名】植村 啓宏
【審査官】 黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】 韓国公開特許第10−2006−0106196(KR,A)
【文献】 特開2006−274263(JP,A)
【文献】 特開2016−141780(JP,A)
【文献】 特開2016−141781(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/108096(WO,A1)
【文献】 特開2014−197683(JP,A)
【文献】 特開2001−270733(JP,A)
【文献】 特開2005−132640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/64
C08J 5/18
C08K 3/00
C08L 23/06
C08L 31/04
C08L 101/00
C09K 11/02
C09K 11/08
H01L 31/055
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカを母体とする蛍光体であって、
アルミニウムとユーロピウムとを含み、
該アルミニウム及びユーロピウムの含有量は、該シリカ100モルに対し、金属元素換算で、それぞれ0.5〜25モル及び0.01〜15モルであり、
該シリカは、主な結晶相がクリストバライト相である
ことを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
CuKαのX線源を用いたX線回折装置において回折角2θが35〜37度の範囲に観察されるピークの半価幅が0.43以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の蛍光体と熱可塑性樹脂とを含む
ことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項4】
前記蛍光体の含有量は、前記熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.05〜15質量部である
ことを特徴とする請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂として、エチレン−酢酸ビニル共重合体及び/又はポリエチレン樹脂を含む
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載の樹脂組成物を用いてなる
ことを特徴とする樹脂成形体。
【請求項7】
板状、フィルム状又はシート状である
ことを特徴とする請求項に記載の樹脂成形体。
【請求項8】
前記樹脂成形体は、1mm厚での全光線透過率が85%以上であり、かつヘイズが30%以下である
ことを特徴とする請求項に記載の樹脂成形体。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載の樹脂成形体を備える
ことを特徴とする太陽電池用波長変換材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体及びそれを含む樹脂組成物に関する。より詳しくは、蛍光体及びそれを含む樹脂組成物の他、その成形体(樹脂成形体)及び太陽電池用波長変換材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題や資源問題等の観点から、再生可能エネルギーとして太陽光発電が着目されており、太陽電池の開発が進んでいる。太陽電池の中でも、現在は、半導体材料にシリコン(Si)系材料を使用し、太陽光を吸収して電気に変換する結晶シリコン太陽電池が主流となっている。だが、結晶シリコン太陽電池は、紫外光の波長域において分光感度が低いため、蛍光材料を利用して紫外光を分光感度の高い可視光へ波長変換させる技術が種々検討されている(非特許文献1参照)。
【0003】
ところで、従来の蛍光材料として、例えば、多孔質ガラスにユーロピウム等をドープさせ、焼成して得られる蛍光ガラスが開発されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−18460号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】磯部徹彦著、「ドープ型YVO4蛍光ナノ粒子波長変換膜の結晶シリコン太陽電池への応用」、公益財団法人村田学術振興財団、2012年、第26号、p.306−308
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、蛍光材料を利用して紫外光を分光感度の高い可視光へ波長変換させる技術が種々検討されている。だが、非特許文献1にも記載の通り、蛍光有機色素や希土類錯体では耐光性が低く、無機系蛍光体はミクロンサイズであるため可視光が散乱し、膜中を通過できず、いずれも太陽電池の波長変換材料用途には適さない。そこで、非特許文献1では、YVO:Bi3+,Eu3+蛍光ナノ粒子材料が提案されている。しかしながら、この蛍光ナノ粒子材料を得るためにはイットリウム等の高価な原料を主原料として使用し、ソルボサーマル法等の特殊な低温液相合成が必要となるため、製造コスト面で課題がある。そこで、本願発明者はシリカを母体とする蛍光体について検討を進めたところ、シリカは屈折率が比較的小さいことから、太陽電池の封止樹脂として一般的に採用されている樹脂(例えばエチレン−酢酸ビニル系共重合体等)の屈折率に近づけることができ、それゆえナノ粒子でなくとも可視光透過性を有し、かつ紫外光を可視光へ波長変換することができるうえ、低コストで製造できることを見いだした。だが、この蛍光体は、紫外光に対する耐性(耐UV性、耐光性又は耐候性とも称す)が低いという課題があることを新たに見いだした。
【0007】
特許文献1には、シリカを用いた蛍光ガラスが開示されている。だが、ガラスは樹脂への分散性が悪く、またガラス単独で使用する場合においても加工性や柔軟性、取扱性等に課題がある。特に太陽電池の波長変換材料用途により有用なものとすべく、樹脂と配合可能な蛍光体粉末や蛍光体を含む樹脂組成物の開発が望まれる。なお、特許文献1には、蛍光ガラスを太陽電池の波長変換材料として使用することの開示や示唆は一切ない。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、樹脂と配合した際にその樹脂の可視光透過性を維持させることが可能で、紫外光から可視光への変換効率が高く、かつ耐UV性に特に優れる蛍光体及びこれを含む樹脂組成物を提供することを目的とする。本発明はまた、このような樹脂組成物を用いた樹脂成形体及び太陽電池用波長変換材料を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述のとおりシリカを母体とする蛍光体について検討を進めたところ、シリカは屈折率が比較的小さいうえ、ユーロピウムとアルミニウムとを含むものとすると、アルミニウムは、ユーロピウムによる発光を阻害することなく、シリカの屈折率を変化させないことを見いだした。そして、この蛍光体は従来の蛍光体材料と比較して屈折率が低いため、樹脂と配合した際の可視光透過性を維持させることが可能で、かつ紫外光を可視光に波長変換することができることを見いだしたが、その一方で、紫外光に対する耐性が不充分であるという課題があることが判明した。更に検討を進め、耐UV性が低い原因が母体シリカの結晶構造にあることを見いだした。そこで、シリカを母体とする蛍光体であって、アルミニウムとユーロピウムとを含み、該シリカの主な結晶相がクリストバライト相である構成の蛍光体とすれば、耐UV性が著しく改善され、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。なお、従来、シリカを母体とする蛍光体は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂に分散させ、主に屋内で使用するLEDの発光素子としての利用が検討されていたため、屋外で使用する太陽電池に求められる耐UV性は問題とはならなかった。つまり、太陽電池に汎用される熱可塑性樹脂に分散させて屋外で使用する用途への検討がなされておらず、耐UV性を改良する必要性が認識されていなかった。本発明者は、このような従来の技術常識に反し、上述の耐UV性に優れる蛍光体が、熱可塑性樹脂に対する相溶性又は分散性が良好であることを新たに見いだし、上述の蛍光体と熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物とすることで、紫外光から可視光への変換効率が高く、かつ高い透明性及び耐UV性を有するため、太陽電池用波長変換材料用途に特に有用な樹脂組成物となることを見いだし、本発明を完成するに至った。なお、本発明の樹脂組成物及び樹脂成形体は、特許文献1に記載された蛍光ガラスでは発揮できない軽量性や柔軟性、取扱性にも優れている。
【0010】
すなわち本発明は、シリカを母体とする蛍光体であって、アルミニウムとユーロピウムとを含み、該シリカは、主な結晶相がクリストバライト相である蛍光体である。
上記蛍光体は、CuKαのX線源を用いたX線回折装置において回折角2θが35〜37度の範囲に観察されるピークの半価幅が0.43以下であることが好ましい。
上記アルミニウム及びユーロピウムの含有量は、上記シリカ100モルに対し、金属元素換算で、それぞれ0.5〜25モル及び0.01〜15モルであることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、上記蛍光体と熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物でもある。
上記蛍光体の含有量は、上記熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.05〜15質量部であることが好ましい。
上記樹脂組成物は、熱可塑性樹脂として、エチレン−酢酸ビニル共重合体及び/又はポリエチレン樹脂を含むことが好ましい。
【0012】
本発明は更に、上記樹脂組成物を用いてなる樹脂成形体でもある。
上記樹脂成形体は、板状、フィルム状又はシート状であることが好ましい。
上記樹脂成形体は、1mm厚での全光線透過率が85%以上であり、かつヘイズが30%以下であることが好ましい。
【0013】
本発明はそして、上記樹脂成形体を備える太陽電池用波長変換材料でもある。
【発明の効果】
【0014】
本発明の蛍光体は、従来の蛍光体と比較して屈折率が低く、紫外光から可視光への変換効率が高く、かつ耐UV性に特に優れるものである。それゆえ、この蛍光体と熱可塑性樹脂脂とを含む樹脂組成物は、蛍光体と熱可塑性樹脂(特に封止樹脂等)との屈折率差を低減できるため、可視光に対して高い透明性を有し、太陽電池用波長変換材料用途に特に有用である。また、母体のシリカは耐光性の高い素材であって、汎用素材であり、希土類を母体に用いていないため、コスト競争力のある材料となり得る。更に、本発明の蛍光体や樹脂組成物は、耐光性に加え、耐熱性、耐湿性等にも優れることから、本発明の樹脂組成物を用いた太陽電池用波長変換材料は、太陽光発電技術に多大な貢献をなすものである。なお、本発明の蛍光体は、青色蛍光体だけでなく、緑色蛍光体、黄色蛍光体、赤色蛍光体など可視光を発する蛍光体や赤外蛍光体の実用化も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】蛍光体1のXRDチャートである。
図2】蛍光体2のXRDチャートである。
図3】蛍光体2のXRDチャートである(図2の縦軸を3倍に拡大した図)。
図4】蛍光体3のXRDチャートである。
図5】蛍光体4のXRDチャートである。
図6】蛍光体(粉体)1〜4のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0017】
1、蛍光体
まず本発明の蛍光体について説明する。
本発明の蛍光体は、主な結晶相がクリストバライト相であるシリカを母体とするものであり、アルミニウムとユーロピウムとを含む。更に必要に応じて他の成分を1種又は2種以上含んでいてもよい。
【0018】
蛍光体の母体となるシリカは、主な結晶相がクリストバライト相である。
シリカのクリストバライト相は、CuKαのX線源を用いたX線回折装置において回折角2θが21〜23度、35〜37度、30〜32度の範囲にピークが観察されるが、本願でいう「主な結晶相がクリストバライト相である」とは、例えば図1〜3に示すように、回折角2θが21〜23度の範囲に最も強いピークが観察され、回折角2θが35〜37度の範囲にもピークが観察されていて、かつ回折角2θが35〜37度の範囲に観察されるピークの半価幅が0.45以下であることを意味する。回折角2θが35〜37度である範囲に観察されるピークの半価幅は、好ましくは0.43以下である。
本明細書中、上記半価幅の詳細な測定方法は、後述の実施例に記載するとおりである。
【0019】
上記蛍光体は、アルミニウムを含む。アルミニウムの含有量は特に限定されないが、上記シリカ100モルに対し、金属元素換算で、0.5〜25モルであることが好ましい。これにより、蛍光強度(発光強度とも称す)をより充分に発揮することができる。なお、アルミニウムが多すぎても発光強度は飽和する一方で、蛍光体母体の結晶構造変化による発光強度の低下等が生じることがある。より好ましくは1.5〜20モル、更に好ましくは5〜15モルである。
【0020】
上記蛍光体は、ユーロピウムを含む。ユーロピウムの含有量は特に限定されないが、上記シリカ100モルに対し、金属元素換算で、0.01〜15モルであることが好ましい。これにより、蛍光強度(発光強度とも称す)をより充分に発揮することができる。なお、ユーロピウムが多すぎても発光強度は飽和する一方で、濃度消光による発光強度の低下等が生じることがある。より好ましくは0.1〜10モル、更に好ましくは0.5〜5モルである。
【0021】
ここで、蛍光体中のアルミニウム及びユーロピウムそれぞれの含有量は、各種分析方法で測定可能である。例えば、以下のようにして測定することができる。また、後述する蛍光体の好適な製造方法では、原料由来のアルミニウム元素とユーロピウム元素はシリカに全て含まれるため、蛍光体に含まれるアルミニウムとユーロピウム含有量は、原料の仕込み量から算出することもできる(後述の実施例では、原料の仕込み量から算出した)。
<測定方法>
蛍光体0.2g、融剤として四ホウ酸リチウム1.0g、剥離剤として25%臭化カリウム20μLを白金坩堝に投入し、高周波自動熔融装置を用い1050℃でアルカリ熔融させる。得られたガラスビードを塩酸に溶かし100mLの試料溶液を作成する。この試料溶液を、誘導結合型プラズマ発光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、SPS 3100 24HV)にて検量線法で定量する。
【0022】
上記蛍光体はまた、ユーロピウム以外の共賦活剤を更に含んでもよい。共賦活剤としては、特に限定されないが、ユーロピウム以外の希土類元素の化合物又はイオンが挙げられる。ユーロピウム以外の希土類元素の例としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等からなる群から選択される少なくとも1種以上の元素が挙げられ、希土類元素の化合物としては、これら元素の炭酸塩、酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩等が挙げられる。
【0023】
上記蛍光体は、表面に被覆層を1又は2層以上有していてもよい。被覆層を形成することにより、熱可塑性樹脂への分散性を改良することができる。それにより蛍光体と熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物が更に各種物性に優れるものとなる。また、耐湿性、耐水性も向上する。
【0024】
被覆層を与える表面被覆剤は特に限定されないが、有機化合物の1種又は2種以上を使用することが好ましい。有機化合物としては特に限定されないが、例えば、シリコーンオイル、アルキルシラン、ポリオレフィン、ポリエステル、アミノ酸、アミノ酸塩等の他、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等のカップリング剤が挙げられる。中でも、アミノ基含有シランカップリング剤(アミノプロピルシラン等)が好適である。
【0025】
上記蛍光体は、波長365nmの光で励起したときの極大発光波長が400〜1500nmであることが好ましい。これにより、紫外光から可視光への変換効率が更に高まる。上記極大発光波長は、より好ましくは430〜1100nmである。
極大発光波長の測定は、分光蛍光光度計(例えば、日本分光社製のFP−6500)を用いて行うことができる。蛍光積分球にはISF−513型を使用し、光電子倍増管(PMT)の電圧の設定値を400として、波長365nmの光で励起した時の極大発光波長を測定する。
【0026】
上記蛍光体の形状は特に限定されないが、略球状であることが好ましい。
なお、形状は、走査型電子顕微鏡等によって観察することができる。
【0027】
上記蛍光体の粒子径(D50)は特に限定されず、例えば、10nm〜20μmであることが好ましい。より好ましくは0.5〜10μmである。粒子径が20μmを超えると、蛍光体を含むフィルムやシートを製造する際にピンホール等の不良がでる恐れがある。
本明細書中、D50は、マイクロトラック(レーザー回折・散乱法)による体積基準粒度分布曲線において、積算値が50%となるときの粒径値であり、具体的には、後述の実施例に記載した方法により求めることができる。
【0028】
上記蛍光体は、屈折率が1.3〜1.7であることが好ましい。これにより、熱可塑性樹脂に分散させて樹脂組成物とした際に、透明性により優れる樹脂組成物となる。屈折率は、より好ましくは1.4〜1.6である。
本明細書中、屈折率の詳細な測定方法は、後述の実施例に記載するとおりである。
【0029】
2、蛍光体の製造方法
続いて本発明の蛍光体を得るための製造方法について説明する。
本発明の蛍光体の製造方法としては特に限定されないが、例えば、シリカ化合物に、アルミニウム化合物とユーロピウム化合物とを混合する工程(1)と、該工程(1)で得た原料混合物を焼成する焼成工程(2)とを含み、該焼成工程(2)は、酸素含有雰囲気下で焼成する工程と、還元雰囲気下で1100℃を超える温度で焼成する工程とを含むという製造方法を採用することが好適である。これにより、低コストで、容易かつ簡便に本発明の蛍光体を製造することができる。なお、通常の蛍光体の製造時に採用される1又は2以上のその他の工程を更に含んでもよく、その他の工程は特に限定されない。
以下、各工程について更に説明する。
【0030】
1)工程(1)
工程(1)は、シリカ化合物に、アルミニウム化合物とユーロピウム化合物とを混合する工程である。必要に応じて、これら以外の原料を更に混合してもよく、各原料はそれぞれ1種又は2種以上を使用することができる。原料についてまず説明する。
【0031】
原料の混合方法は特に限定されず、乾式法、湿式法のいずれも好適に採用できる。湿式混合では、水等の溶媒を用いてビーズミル等で投入した原料の解砕をしながら混合をすることが好適である。また、乾式混合では、原料を袋の中に入れて震盪や揉みほぐし等の手法で混合してもよいし、ボールミルやブレンダー等を使用してもよい。
【0032】
シリカ化合物は特に限定されず、天然のシリカ(SiO)を用いてもよいし、合成品のシリカ(SiO)を使用してもよい。これらのいずれであっても、コスト低減や入手容易性等を考慮すると、工程(1)の原料としては非晶質(アモルファス)シリカを用いることが好適である。合成品としては、例えば、多孔質シリカが好適である他、多孔質シリカ以外の湿式シリカ、乾式シリカ等が挙げられる。合成方法は特に限定されないが、例えば多孔質シリカであれば、ゾル−ゲル法で得ることが好ましい。合成品として、市販品を使用してもよい。市販品としては、堺化学工業社製シリカ(製品名:Sciqas)、アドマテックス社製シリカ(製品名:SO−E1、SO−E2、SO−E4、SO−E5、SO−E6、SO−C1、SO−C2、SO−C4、SO−C5、SO−C6)、Denka社製シリカ(品名:FB−5D)、扶桑化学工業社製シリカ(製品名:SP03B)、DLS.ジャパン社製シリカ(製品名:カープレックス#67、カープレックス#80、カープレックス#1120、カープレックスFPS−1、カープレックスFPS−2、カープレックスCS−5)、Oriental Silicas Corporation社製シリカ(製品名:トクシールU)、水澤化学工業社製シリカ(製品名:ミズカシルP−801、ミズカシルP−802、ミズカシルP−526、ミズカシルP−527、ミズカシルP−603、ミズカシルP−604、ミズカシルP−554A、ミズカシルP−73、ミズカシルP−78A、ミズカシルP−78D、ミズカシルP−78F、ミズカシルP−707、ミズカシルP−740、ミズカシルP−752、ミズカシルP−50)等が挙げられる。
【0033】
アルミニウム化合物は、アルミニウム原子を含む化合物であればよく、例えば、炭酸アルミニウム、酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム等が挙げられる。中でも、原料の混合を乾式法により行う場合は、より均一に混合する観点から、水溶性化合物を溶解させた水溶液を用いることが好ましい。水溶液を用いた場合は、混合物を焼成する前に加熱乾燥等の操作で水分を取り除くことが好ましい。原料の混合を湿式法により行う場合は、水溶性化合物であっても水不溶性化合物であってもよい。
【0034】
ユーロピウム化合物は、ユーロピウム原子を含む化合物であればよく、例えば、炭酸ユーロピウム、酸化ユーロピウム、塩化ユーロピウム、硫酸ユーロピウム、硝酸ユーロピウム、酢酸ユーロピウム等が挙げられる。中でも、原料の混合を乾式法により行う場合は、より均一に混合する観点から、水溶性化合物を溶解させた水溶液を用いることが好ましい。水溶液を用いた場合は、混合物を焼成する前に加熱乾燥等の操作で水分を取り除くことが好ましい。原料の混合を湿式法により行う場合は、水溶性化合物であっても水不溶性化合物であってもよい。
【0035】
シリカ化合物、アルミニウム化合物及びユーロピウム化合物の混合量比は特に限定されないが、例えば、アルミニウム化合物の含有量は、シリカ化合物100モルに対し、金属元素換算で0.5〜25モルとすることが好適である。より好ましくは1.5〜20モル、更に好ましくは5〜15モルである。また、ユーロピウム化合物の含有量は、シリカ化合物100モルに対し、金属元素換算で0.01〜15モル使用することが好適である。より好ましくは0.1〜10モル、更に好ましくは0.5〜5モルである。
【0036】
上記工程(1)ではまた、ユーロピウム以外の共賦活剤を更に混合してもよい。共賦活剤については上述したとおりである。
【0037】
2)工程(2)
工程(2)は、上記工程(1)で得た原料混合物を焼成する工程であり、この工程では、酸素含有雰囲気下で焼成する工程(酸素含有焼成とも称する)と、還元雰囲気下で1100℃を超える温度で焼成する工程(高温還元焼成とも称す)とを少なくとも行う。酸素含有焼成及び高温還元焼成のいずれも、それぞれ1回又は2回以上行ってもよい。なお、各焼成での焼成方法は特に限定されず、流動床焼成法であってもよいし、固定床焼成法であってもよい。また、各焼成では、焼成むら低減のため、均一な温度分布になるように焼成を行うことが好適である。
【0038】
−酸素含有焼成−
酸素含有焼成における酸素含有雰囲気は、酸素を含む雰囲気であれば特に限定されない。好ましくは酸素を1体積%以上含む雰囲気、より好ましくは酸素を10体積%以上含む雰囲気、更に好ましくは大気雰囲気である。
【0039】
酸素含有焼成は、例えば、焼成温度300〜1000℃で行うことが好ましい。これにより、より充分な発光強度を確保することができる。
【0040】
本明細書中、「焼成温度」とは、焼成時の最高到達温度を意味する。「焼成時間」とは、その最高到達温度での最高温度の保持時間を意味し、最高温度に達するまでの昇温時間は含まない。
【0041】
酸素含有焼成における焼成時間は特に限定されないが、例えば、0.5〜12時間とすることが好ましい。12時間を超えても、それに見合う効果が得られず、より生産性を高めることができないことがある。より好ましくは0.5〜5時間である。
なお、酸素含有焼成を複数回繰り返して行う場合、その合計の焼成時間が、上述した好ましい焼成時間の範囲内になることが好適である。
【0042】
−高温還元焼成−
高温還元焼成における還元雰囲気は特に限定されず、例えば、水素と窒素との混合ガス雰囲気、一酸化炭素と窒素との混合ガス雰囲気等が挙げられる。中でも、安全性やコスト面から、水素と窒素との混合ガス雰囲気が好ましく、この場合、混合ガス中の水素の割合を0.1〜20体積%とすることが好ましい。より好ましくは0.5〜10体積%である。
【0043】
高温還元焼成は、1100℃を超える温度で行う。これにより、主な結晶相がクリストバライト相であるシリカを容易に与えることが可能になる。焼成温度は、好ましくは1150℃以上、より好ましくは1200℃以上である。また上限温度は特に限定されないが、焼成品の焼結による凝集やネッキングを抑制するためには、1400℃以下とすることが好ましい。
【0044】
高温還元焼成における焼成時間は特に限定されないが、例えば、0.5〜12時間とすることが好ましい。12時間を超えても、それに見合う効果が得られず、より生産性を高めることができないことがある。より好ましくは0.5〜5時間である。
なお、高温還元焼成を複数回繰り返して行う場合、その合計の焼成時間が、上述した好ましい焼成時間の範囲内になることが好適である。
【0045】
−その他の焼成−
本発明ではまた、還元雰囲気下、1100℃以下での焼成工程(低温還元焼成とも称す)を行ってもよい。この低温還元焼成を行う段階は特に限定されないが、酸素含有焼成と高温還元焼成との間に行うことが好ましい。特に、分散性の良い蛍光体粒子を好適に得るためには、酸素含有焼成、低温還元焼成、高温還元焼成の順に行うことが好適である。
【0046】
低温還元焼成における還元雰囲気の好ましい形態等は、高温還元焼成と同様である。
低温還元焼成は1100℃以下で行う。焼成温度は、好ましくは500℃以上、より好ましくは700℃以上、更に好ましくは900℃以上である。また、焼成時間は特に限定されないが、例えば、0.5〜12時間とすることが好ましい。より好ましくは0.5〜5時間である。
なお、低温還元焼成を複数回繰り返して行う場合、その合計の焼成時間が、上述した好ましい焼成時間の範囲内になることが好適である。
【0047】
3)粉砕工程
本発明では、必要に応じ、焼成工程(2)の前後やその間に粉砕や分級を行ってもよい。特に、高温還元焼成の後に粉砕を行うことが好適である。粉砕は、湿式粉砕、乾式粉砕のいずれでもよいが、湿式粉砕により行うことが好ましい。湿式粉砕では、必要に応じて遊星ミル、ビーズミル、及び振動ミル等の粉砕媒体撹拌型粉砕機を用いてもよい。
【0048】
4)後処理工程
本発明では、必要に応じ、上記焼成工程(2)で得られた焼成物について、リパルプ(例えばスラリー化後、撹拌)、ろ過、水洗、粉砕、乾燥等の後処理を行ってもよい。また、必要に応じて篩による分級を行ってもよい。篩による分級は、湿式分級や乾式分級が挙げられる。
【0049】
5)表面処理工程
本発明では、上述のとおり蛍光体が表面に被覆層を有していてもよい。すなわち上記製造方法は、更に表面被覆工程を含んでもよい。表面被覆工程は、上記焼成工程の後(その後に後処理工程等を行う場合は、これらの後)に行うことが好適である。
【0050】
表面被覆方法は特に限定されず、従来知られている様々な表面処理を行えばよい。例えば、表面被覆対象物(例えば、上記焼成工程で得られた焼成物や、更に後処理工程を行う場合はその処理物等)の水分散体(スラリーともいう)に、必要に応じて加水分解させる等して水溶性とした無機化合物、あるいは有機化合物の表面被覆剤を添加して混合した後、必要に応じて粉砕、ろ過、加熱することで被覆することができる。水溶性ではない有機化合物を使用する場合は、有機化合物を乾式にて添加して混合した後、必要に応じて粉砕、加熱する方法が挙げられる。
【0051】
表面被覆剤(表面処理剤とも称す)については上述したとおりである。その使用量は特に限定されないが、例えば、最終的に得られる蛍光体100質量部に対し、表面被覆剤による被覆量が0.1〜30質量部の範囲となるように使用量を調節することが好ましい。0.1質量部以上とすることで、表面処理による機能性向上効果を発現することができ、30質量部以下とすることで、本来の発光特性を損なわず処理することができ、また経済的な観点で有利である。より好ましくは0.1〜20質量部の範囲である。
【0052】
本発明の蛍光体は、従来の蛍光体と比較して屈折率が低く、紫外光から可視光への変換効率が高く、かつ耐UV性に特に優れるものである。それゆえ、この蛍光体と熱可塑性樹脂脂とを含む樹脂組成物は、蛍光体と熱可塑性樹脂(特に封止樹脂等)との屈折率差を低減できるため、可視光に対して高い透明性を有し、太陽電池用波長変換材料用途に特に有用である。このように本発明の蛍光体は、樹脂との併用系で特に優れた効果を奏するため、樹脂への添加用途に好適に使用される。すなわち樹脂添加用蛍光体であることが好ましい。より好ましくは、熱可塑性樹脂添加用蛍光体である。以下では、蛍光体と熱可塑性樹脂とを含む本発明の樹脂組成物について詳述する。
【0053】
3、樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、上述した本発明の蛍光体と熱可塑性樹脂とを含む。更に必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。各含有成分は、それぞれ1種又は2種以上を使用することができる。
【0054】
蛍光体としては、上述した本発明の蛍光体を用いる。中でも、回折角2θが35〜37度である範囲に観察されるピークの半価幅が、0.43以下であるものが好ましく、0.41以下であるものがより好ましい。これにより、樹脂組成物の耐UV性がより発揮され、樹脂組成物の紫外光照射後の蛍光強度維持率をより高めることが可能になる。上記半価幅は、更に好ましくは0.40以下である。
【0055】
熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン等のポリエチレン(ポリエチレン樹脂とも称す)、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)等のスチレン(共)重合体、6−ナイロン、66−ナイロン、12−ナイロン等のポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリウレタン、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、アルケニル芳香族樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル、ビスフェノールA系ポリカーボネート等のポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンスルフィド、ポリメチルペンテン、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリアクリロニトリル等のポリアクリル酸、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、ポリアリレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン、ポリケトン、液晶ポリマーエチレンとプロピレンとの共重合体、エチレン又はプロピレンと他のα−オレフィン(ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1等)との共重合体、エチレンと他のエチレン性不飽和単量体(酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、ビニルアルコール等)との共重合体等が挙げられる。なお、熱可塑性樹脂が共重合体である場合、ランダム共重合体、ブロック共重合体等のいずれの形態の共重合体であってもよい。
【0056】
上記の中でも、太陽電池の封止樹脂用により有用なものとする観点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体及び/又はポリエチレン樹脂を用いることが好ましい。すなわち上記樹脂組成物は、熱可塑性樹脂として、エチレン−酢酸ビニル系共重合体及び/又はポリエチレン樹脂を含むことが好適である。なお、本発明の蛍光体は、これら樹脂との屈折率の差が充分に小さいため、上記樹脂組成物は高い透明性を発揮することができる。
【0057】
上記樹脂組成物において、蛍光体の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.05〜15質量部であることが好ましい。これにより、樹脂組成物の蛍光強度及び透明性の両方の特性をより充分に発揮することができる。蛍光体の含有量は、より好ましくは0.5〜5質量部、更に好ましくは1〜3質量部である。
【0058】
上記樹脂組成物はまた、必要に応じて、顔料、染料、可塑剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、難燃剤、殺菌剤、抗菌剤、硬化用触媒、光重合開始剤等の1種又は2種以上を含んでもよい。その際は透明性を阻害しないものがより好ましい。
【0059】
上記樹脂組成物は、蛍光体と、熱可塑性樹脂と、必要に応じて更に含まれる他の成分とを、通常の手法によって混合又は混練することで、調製することができる。その際、例えば、ニーダー、押出機、バンバリミキサー、三本ロール等の混合機を用いてもよい。
【0060】
4、樹脂成形体
本発明の樹脂成形体は、上述した本発明の樹脂組成物を用いてなる樹脂成形体である。すなわち上記樹脂組成物の成形体である。樹脂成形体の形状は特に限定されず、板状、フィルム状、シート状、膜状等の平面形状の他、棒状、繊維状、針状、球状、ひも状、ペレット状、管状、箔状、粒子状、砂状、鱗片状、シート状、液状、ゲル状、ゾル状、懸濁液、集合体、カプセル型等の任意の形状が挙げられる。中でも、取扱性等の観点から、板状、フィルム状又はシート状であることが好適である。
【0061】
上記樹脂成形体(特に、板状、フィルム状又はシート状の樹脂成形体)は、1mm厚での全光線透過率が85%以上であることが好適である。これにより、太陽電池用波長変換材料用途により一層有用なものとなる。85%以上であると、可視光透過性が向上することで、変換効率がより向上する。より好ましくは90%以上である。
【0062】
上記樹脂成形体(特に、板状、フィルム状又はシート状の樹脂成形体)はまた、1mm厚でのヘイズが30%以下であることが好ましい。これにより、太陽電池用波長変換材料用途により一層有用なものとなる。より好ましくは20%以下、更に好ましくは15%以下、特に好ましくは10%以下、最も好ましくは8%以下である。
本明細書中、全光線透過率及びヘイズは、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0063】
5、太陽電池用波長変換材料
本発明の太陽電池用波長変換材料は、上述した本発明の樹脂成形体(すなわち、上記樹脂組成物の成形体)を備える。このような太陽電池用波長変換材料は、紫外光から可視光への変換効率が高く、かつ耐UV性に優れるため、結晶シリコン太陽電池に特に有用である。このような本発明の太陽電池用波長変換材料を備える結晶シリコン太陽電池は、本発明の好適な実施形態の一つである。
【実施例】
【0064】
本発明を詳細に説明するために以下に具体例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「部」とは「重量部(質量部)」を意味し、「wt%」とは「重量%(質量%)」を意味する。
【0065】
1、各種物性の測定・評価方法
(1)SEM観察
走査型電子顕微鏡(日本電子社製、JSM−840F、JSM−7000F)により各粉体の一次粒子径やその表面等を観察した。蛍光体1〜4の顕微鏡写真(SEM写真)を図6に示す。
【0066】
(2)半価幅
以下の条件により粉末X線回折パターン(単にX線回折(XRD)パターンともいう)を測定し、回折角2θが35〜37度の範囲に観察されるピークの半価幅を算出した。半価幅は、測定したチャートから算出することが可能であるが、本願では粉末X線回折パターン総合解析ソフトウェア(MDI JADE7)を用いて算出した。具体的にはソフト上で34〜37度に領域指定をして、ピークの平滑化処理、バックグラウンド補正処理後にピーク分離処理をすることにより半価幅を算出させた。測定結果を図1〜5に示す。
−分析条件−
使用機:リガク社製、RINT−TTRIII
線源:CuKα
電圧:50kV
電流:300mA
試料回転速度:60rpm
発散スリット:1.00mm
発散縦制限スリット:10mm
長尺スリット:200mm、開口角度0.057度
散乱スリット:開放
受光スリット:開放
走査モード:連続
スキャンスピード:1
計数単位:Counts
ステップ幅:0.0100度
操作軸:2θ/θ
走査範囲:10.0000〜70.0000度
【0067】
(3)屈折率
スライドガラス上に、粉体(蛍光体)を接触液(屈折液、米国カーギル研究所製)に浸した試料を載せて、その試料の透明性を目視で確認した。1.45〜1.54までの屈折率の異なる接触液を使用して確認を行い、最も透明性が高い試料に用いた接触液の屈折率を粉体の屈折率として評価を行った。結果を表1に示す。
なお、後述の試験例で使用したEVA樹脂の屈折率は、1.48〜1.49であった。
【0068】
(4)粒子径(D50)
各粉体(蛍光体)の粒子径(D50)は、以下のようにして測定した。
レーザー回折型粒度分布測定装置(日機装社製、マイクロトラックMT3000)により粒度分布を測定し、粒度分布曲線を得た。この測定ではまず、測定対象の粉末(粉体)を、透過率が0.7〜0.99になるように投入し、流速60%にて、超音波分散及び循環させながら測定を行った。測定時の装置循環水は水とした。そして、この体積基準粒度分布曲線において積算値が50%のときの粒径値を、平均粒子径D50(μm)とした。測定したD50を表1に示す。
【0069】
(5)蛍光強度
各粉体(蛍光体)と各シートの発光物性(発光強度及び主波長)を、蛍光分光光度計(日本分光社製、FP−6500)を用いて測定した。蛍光積分球にはISF−513型を使用し、光電子倍増管(PMT)の電圧の設定値を400として、波長365nmの光で励起したときの極大発光波長(主波長)及び発光強度を測定した。測定範囲は380〜720nmとし、蛍光スペクトルを測定したところ、450nm付近で強い発光を示した。粉体の測定結果を表1に、シートの測定結果を表2に示す。
【0070】
(6)全光線透過率及びヘイズ
シートの透明性評価として、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH4000)を用いて行い、ヘイズ(曇り度)と全光線透過率を測定した。結果を表2に示す。
【0071】
(7)粉体の耐光性
各作製例で得た蛍光体0.3gを無色透明なスクリュー管(マルエム社製、No.3)に入れてナイロンメッシュ(400メッシュ)で蓋をした。その状態で、超促進耐候性試験機(ダイプラ・ウィンデス社製、ダイプラ・メタルウェザー、KU−R5N−A)を用い、各試料に温度60℃、湿度60%の条件下、放射照度80mW/cmの紫外光を5時間照射した(これを耐光性試験と称す)後の蛍光強度維持率を評価した。その際、耐光性試験前の蛍光強度を100%とした。結果を表1に示す。
【0072】
(8)シートの耐光性
まず各試験例で得たシートから、25mm×30mm、厚み1mmの各試験片を用意した。超促進耐候性試験機(ダイプラ・ウィンデス社製、ダイプラ・メタルウェザー、KU−R5N−A)を用い、各試験片に温度60℃、湿度60%の条件下、放射照度80mW/cmの紫外光を25時間照射した(これを耐光性試験と称す)後の蛍光強度維持率を評価した。その際、耐光性試験前の蛍光強度を100%とした。また、耐光性試験後の各試験片について、全光線透過率及びヘイズも測定した。結果を表2に示す。
【0073】
2、蛍光体の作製及び評価
作製例1(蛍光体1)
(i)シリカの合成
ドデシルアミン(キシダ化学社製、14.9g)をイオン交換水(800g)と工業用アルコール製剤(甘糟化学産業社製、アルコゾールP−5、1200g)の混合溶液に溶解させ、溶液温度を26℃とした。その溶液に正珪酸四エチル(多摩化学社製、72.9g)を添加し、90rpmにて攪拌すると5分程度で加水分解が進行し、溶液がスラリー化した。その後、スラリーを濾過、水洗をしてケーキを得てから蒸発皿へ移し、130℃で一晩乾燥し、水分を除去した。乾燥後の粉末を乳鉢で解砕し、アルミナ製坩堝に20g充填して、大気雰囲気中で200℃/時で650℃まで昇温し、そのまま4時間保持後、200℃/時で室温まで降温した。こうして得られた焼成物を乳鉢で解砕し、シリカ粉末を得た。得られたシリカ粉末は多孔質であった。
【0074】
(ii)含浸液の調製
酸化ユーロピウム(信越化学工業社製)を60%硝酸(和光純薬工業社製)で溶解し、イオン交換水を加えて1mol/Lの硝酸ユーロピウム水溶液を調製した。また、硝酸アルミニウム・九水和物(和光純薬工業社製)をイオン交換水に溶解させて1mol/Lの硝酸塩水溶液を調製した。
【0075】
(iii)蛍光体1の作製(工程(1)及び工程(2))
上記(i)で得た多孔質シリカ(120g:シリカとして1.997モル)に、1mol/Lの硝酸アルミニウム水溶液及び1mol/Lの硝酸ユーロピウム水溶液を、それぞれシリカ100モルに対して10モル(199.7mL)、1.5モル(29.95mL)添加し、袋中で揉みながら混合した。混合後の湿った粉体を蒸発皿へ移し、130℃で一晩乾燥し、水分を除去した。
乾燥後の粉末を乳鉢で解砕し、アルミナ製坩堝に充填して、大気雰囲気中で200℃/時で450℃まで昇温し、そのまま1時間保持後、200℃/時で室温まで降温した。
こうして得られた焼成物を乳鉢で解砕し、アルミナ製坩堝に120g充填して、還元雰囲気(1%水素含有窒素)中で200℃/時で1100℃まで昇温し、そのまま2時間保持後、200℃/時で室温まで降温した。
こうして得られた焼成物を乳鉢で解砕し、アルミナ製坩堝に30g充填して、還元雰囲気(1%水素含有窒素)中で200℃/時で1200℃まで昇温し、そのまま1時間保持後、200℃/時で室温まで降温した。
こうして得られた焼成物を、遊星ボールミルを用いて水中で粉砕して整粒し、濾過・乾燥してアルミニウムとユーロピウムを含有するシリカ蛍光体粉末を得た。
【0076】
(iv)表面処理
上記(iii)で得たアルミニウムとユーロピウムを含有するシリカ蛍光体粉末(10g)をイオン交換水でスラリー化した(これを「シリカ蛍光体スラリー」と称す)。
別途、シランカップリング処理剤として、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製、KBE−903)を、重量比(水/KBE−903=10/0.27)で混合して常温で30分間撹拌することにより加水分解液を得た。
上記懸濁液を、シリカ蛍光体スラリー中のシリカ蛍光体粉末100重量部に対してシランカップリング剤の重量が2.7重量部になる量を容器に計量し、シリカ蛍光体スラリーに添加して常温で90分間撹拌することにより、シリカ蛍光体表面にシランカップリング剤を被覆させた。
処理後のスラリーを濾過し、得られたケーキを130℃で3時間乾燥させることで、表面処理されたシリカ蛍光体1(蛍光体1)を得た。
【0077】
作製例2(蛍光体2)
上述の作製例1(i)で得た多孔質シリカ(120g:シリカとして1.997モル)に、1mol/Lの硝酸アルミニウム水溶液及び1mol/Lの硝酸ユーロピウム水溶液を、それぞれシリカ100モルに対して10モル(199.7mL)、1.5モル(29.95mL)添加し、袋中で揉みながら混合した。混合後の湿った粉体を蒸発皿へ移し、130℃で一晩乾燥し、水分を除去した。
乾燥後の粉末を乳鉢で解砕し、アルミナ製坩堝に充填して、大気雰囲気中で200℃/時で450℃まで昇温し、そのまま1時間保持後、200℃/時で室温まで降温した。
こうして得られた焼成物を乳鉢で解砕し、アルミナ製坩堝に30g充填して、還元雰囲気(1%水素含有窒素)中で200℃/時で1200℃まで昇温し、そのまま2時間保持後、200℃/時で室温まで降温した。
こうして得られた焼成物を、遊星ボールミルを用いて水中で粉砕して整粒し、濾過・乾燥してアルミニウムとユーロピウムを含有するシリカ蛍光体粉末を得た。
その後の表面処理は、作製例1と同様の方法で実施し、表面処理されたシリカ蛍光体2(蛍光体2)を得た。
【0078】
作製例3(蛍光体3)
上述の作製例1(iii)における最終の還元雰囲気焼成の温度1200℃を1250℃に変更したこと以外は、作製例1と同様の操作により、表面処理されたシリカ蛍光体3(蛍光体3)を得た。
【0079】
作製例4(蛍光体4)
作製例2の還元雰囲気焼成の温度を1200℃から1100℃に変更したこと以外は、作製例2と同様の操作により表面処理されたシリカ蛍光体4(蛍光体4)を得た。
【0080】
作製例5(蛍光体5)
上述の作製例1(iii)における、1mol/Lの硝酸アルミニウム水溶液及び1mol/Lの硝酸ユーロピウム水溶液の添加量を、それぞれシリカ100モルに対して5モル(99.9mL)、0.5モル(9.99mL)に変更したこと以外は作製例1と同様の操作により、表面処理されたシリカ蛍光体5(蛍光体5)を得た。
【0081】
作製例6(蛍光体6)
上述の作製例1(iii)における、1mol/Lの硝酸アルミニウム水溶液及び1mol/Lの硝酸ユーロピウム水溶液の添加量を、それぞれシリカ100モルに対して15モル(299.6mL)、5モル(99.9mL)に変更したこと以外は作製例1と同様の操作により、表面処理されたシリカ蛍光体6(蛍光体6)を得た。
【0082】
蛍光体1〜6の各物性値を表1に、蛍光体1〜4のXRDチャートを図1〜5に、SEM写真を図6にそれぞれ示す。表1中、波長450nmでの蛍光強度比は、蛍光体1(耐光性試験前)の波長450nmでの蛍光強度を100%としたときの相対値である。また、耐光性試験後の450nmでの蛍光強度比も、蛍光体1の耐光性試験前の450nmでの蛍光強度を100%としたときの相対値である。
【0083】
【表1】
【0084】
3、樹脂成形体(シート)の作製及び評価
試験例1
エチレン−酢酸ビニル系共重合体(三井・デュポンポリケミカル社製、エバフレックス(R)EV360、以下「EVA樹脂」と称す)49.5gに蛍光体1を0.5g添加し、樹脂混練機(東洋精機社製、ラボプラストミル)に投入し、温度90℃、ローター回転数60rpmの条件下で20分間混練することで、樹脂組成物1を得た。この樹脂組成物1を、プレス機(東洋精機社製、Mini Test Press MP−WNH)を用い、温度:130℃、加圧条件:0.6MPa×5分、2MPa×3分、5MPa×2分(この順に)にてプレスした後、室温まで冷却することで、1mm厚のシートを得た。
【0085】
試験例2〜11
蛍光体の種類、並びに、蛍光体の使用量の比率を、表2に示す通りに変更したこと以外は、試験例1と同様にして、シート2〜11をそれぞれ作製した。なお、樹脂混練試験機に投入する量はいずれも総計50gである。
【0086】
試験例1〜11で得たシートにつき、波長450nmでの蛍光強度比、全光線透過率及びヘイズ、並びに、耐光性試験(25時間)後の蛍光強度維持率、全光線透過率及びヘイズを表2に示す。表2中、波長450nmでの蛍光強度比は、試験例1で得られたシート(耐光性試験前)の波長450nmでの蛍光強度を100%としたときの相対値である。また、耐光性試験後の450nmでの蛍光強度比も、試験例1で得られたシートの耐光性試験前の450nmでの蛍光強度を100%としたときの相対値である。
【0087】
【表2】
【0088】
蛍光体1〜3は、CuKαのX線源を用いたX線回折装置において図1〜4に示すように回折角2θが21〜23度の範囲に最も強いピークが観察され、かつ回折角2θが35〜37度の範囲に観察されるピークの半価幅が0.45以下であることから、母体シリカの主な結晶相がクリストバライト相であるといえ、かつアルミニウム及びユーロピウムを含む。すなわち本発明の蛍光体に該当する。蛍光体5、6のXRDチャートは示していないものの、XRDチャートから母体シリカの主な結晶相がクリストバライト相であると判断でき、かつアルミニウム及びユーロピウムを含むため、本発明の蛍光体に該当する。これに対し、蛍光体4は、回折角2θが21〜23度、30〜32度、35〜37度の範囲にはピークが確認できなかったため、クリストバライト相の結晶相は有さないと判断できる(図5参照)。蛍光体1〜3、5、6と蛍光体4とはこの点で相違するが、粉体として、耐光性試験(5時間)後の蛍光強度維持率を比較すると、蛍光体1〜3、5、6は、蛍光体4に比べ、蛍光強度維持率が著しく大きい(表1参照)。また、樹脂成形体(シート)とし、耐光性試験25時間経過後の蛍光強度維持率を比較すると、蛍光体1〜3、5、6を含むシートは、蛍光体4を含むシートに比べ、蛍光強度維持率が著しく大きい(表2参照)。このことから、本発明の蛍光体は、耐UV性に特に優れるものであることが分かった。このとき、回折角2θが35〜37度の範囲に観察されるピークの半価幅が小さくなるほど耐光性が向上することが示唆されているが、これは予想できないことであった。試験例1〜3で得られたシートはまた、全光線透過率及びヘイズのいずれも耐光性試験前後で変化は殆どなく、可視光透過性に優れることも分かった(表2参照)。
【0089】
上記の蛍光強度維持率の差は、おそらく2価のEuを発光中心とした公知の蛍光体の劣化機構に似ていることが推測され、粒子内に存在している水、特にアモルファスのシリカに含まれるOH基が関与することに起因すると考えられる。つまり蛍光体4は、このOH基が多く含まれることに起因して発光強度が低下した可能性が考えられる。これらの推測より、アモルファス蛍光シリカをクリストバライト結晶構造が形成する段階まで焼成し、Si−OH基を少なくすれば、紫外光に対して劣化は抑えられ、更には高温高湿度環境下に対する劣化を抑制できる可能性がある。
【0090】
蛍光体1〜3、5、6は、励起波長365nmの光で励起したときの極大発光波長(測定条件は上述の通り)が430〜480nmであった(表1参照)。また、市販の50mm試験用太陽電池セルを、耐光性試験前の蛍光体1〜3を用いて得た各シートで封止し、ソーラーシミュレーターを用いて光電変換効率を測定したところ、蛍光体を使用していないシート(EVA樹脂からなるシート)の紫外光から可視光への変換効率が18.7%程度であったのに対し、18.8〜19%へと向上した。蛍光体の含有量を異ならせた検討も行ったところ、光電変換効率は、蛍光体の分散性も影響していることが分かった。分散性を高めることで光電変換効率の向上の余地があると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の蛍光体及び蛍光体を含む樹脂組成物は、耐光性に優れるため長期間屋外で使用しても発光強度の低下が少ないことから、例えば、セキュリティフィルム、交通標識、電飾看板、液晶バックライト、照明ディスプレイ等、屋外で長期間使用される用途に応用できることが期待される。
図1
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図4
図5
図6