(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885510
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】スキマーコーン及び誘導結合プラズマ質量分析装置
(51)【国際特許分類】
H01J 49/06 20060101AFI20210603BHJP
H01J 49/24 20060101ALI20210603BHJP
H01J 49/10 20060101ALI20210603BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20210603BHJP
【FI】
H01J49/06 700
H01J49/24
H01J49/10 500
G01N27/62 G
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2020-514878(P2020-514878)
(86)(22)【出願日】2018年4月20日
(86)【国際出願番号】JP2018016232
(87)【国際公開番号】WO2019202719
(87)【国際公開日】20191024
【審査請求日】2020年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝日 伸一
【審査官】
藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】
登録実用新案第3182750(JP,U)
【文献】
特表2015−502022(JP,A)
【文献】
特開2015−195112(JP,A)
【文献】
特開2004−39313(JP,A)
【文献】
特開平8−236066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/06
G01N 27/62
H01J 49/10
H01J 49/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円錐状の先端部の少なくとも一部の外周面又は/及び内周面において、周方向に形成された溝部を有する
ことを特徴とするスキマーコーン。
【請求項2】
純度99%以上のニッケル又は銅からなる
ことを特徴とする請求項1に記載のスキマーコーン。
【請求項3】
先端部に形成されている孔の径が1.0mm以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のスキマーコーン。
【請求項4】
前記溝部がスキマーコーンの外周側に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のスキマーコーン。
【請求項5】
前記溝部の断面がL字状である
ことを特徴とする請求項1に記載のスキマーコーン。
【請求項6】
前記溝部が先端から5mm以内の位置に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のスキマーコーン。
【請求項7】
前記溝部が複数形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のスキマーコーン。
【請求項8】
a) 原料ガスから生成したプラズマによって試料をイオン化するイオン化部と、
b) 大気圧よりも低い第1圧力に維持される第1空間と、該第1圧力よりも低い第2圧力に維持され前記イオン化部で生成されたイオンを質量分離する質量分離部や該質量分離部を通過したイオンを検出する検出器とが収容される第2空間とに区画された真空チャンバと、
c) 前記第1空間と前記第2空間とを区画する隔壁の、該第1空間の側に設けられたスキマーコーンであって、円錐状の先端部の少なくとも一部の外周面又は/及び内周面において、周方向に形成された溝部を有するスキマーコーンと
を備えることを特徴とする誘導結合プラズマ質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ質量分析装置等に用いられる、円錐状の部材の頂部に孔が形成されてなるスキマーコーンと、そのようなスキマーコーンを備えた誘導結合プラズマ質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる元素を分析する装置の1つに誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS: Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometer)がある(例えば特許文献1)。誘導結合プラズマ質量分析装置は、リチウムからウランまで幅広い元素(ただし希ガス等の一部の元素を除く)をppt(parts per trillion=1兆分の1)レベルで分析できるという特長を有しており、例えば、海水、河川水などの環境試料に含まれる重金属元素を定量するために用いられている。
【0003】
図1に、誘導結合プラズマ質量分析装置100の要部構成を示す。
誘導結合プラズマ質量分析装置100は、誘導結合プラズマにより試料から原子イオンを生成するイオン化部110と、生成されたイオンを質量分離して検出する質量分析部130を有している。イオン化部110は、略大気圧であるイオン化室111に配置されたプラズマトーチ112を備えている。プラズマトーチ112は、ネブライザガスにより霧化した液体試料を流通させる試料管、該試料管の外周に形成されたプラズマガス管、及び該プラズマガス管の外周に形成された冷却ガス管から構成されている。イオン化部110では、試料管から噴霧される液体試料を、プラズマガス管から供給されるアルゴンガス等の原料ガスから生成した高温プラズマにより原子イオン化する。
【0004】
質量分析部130は、プラズマトーチ112の側から順に段階的に真空度が高められた第1真空室141、第2真空室142、及び第3真空室143を備えた多段差動排気系の構成を有する真空チャンバ131を備えている。第1真空室141の入口にはサンプリングコーン144が設けられている。また、第1真空室141と第2真空室142の間にはスキマーコーン145が設けられている。第2真空室142の内部には、イオンの飛行軌道を収束させるためのイオンレンズ146と、ヘリウムガス等の不活性ガスと衝突させることにより多原子イオン等の干渉イオンを除去するためのコリジョンセル147が配置されている。第3真空室143には、四重極マスフィルタ148(プリロッド及びメインロッド)と検出器149が配置されている。プラズマトーチ112で生成された原子イオンは、サンプリングコーン144とスキマーコーン145を通過することにより運動方向が揃えられて細径のイオンビームに成形された後、四重極マスフィルタ148により質量分離されて検出器149で検出される。
【0005】
プラズマトーチ112の先端部では、6,000〜10,000Kという高温のプラズマが放出され、その一部はサンプリングコーン144の外周面を伝わっていく。また、サンプリングコーン144に照射される高温プラズマの一部は該サンプリングコーン144の頂部に形成された孔を通過して第1真空室141に進入し、スキマーコーン145の外周面を伝わっていく。このように、サンプリングコーン144やスキマーコーン145は全体が加熱され高温になることから、内部を冷却水が流通する冷却ブロックを基部に取り付ける等の方法によりサンプリングコーン
144とスキマーコーン145を冷却し、これらが溶けるのを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−40857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
サンプリングコーン144を通過したプラズマおよび試料の一部は、超音速流となって断熱膨張する。そして、更にスキマーコーン145の頂部に形成された孔を通過して第2真空室142に入射する。サンプリングコーン144の頂部に形成される孔の大きさは例えば直径1.0mm程度である。また、スキマーコーン145の頂部に形成される孔の径は例えば直径0.5mm程度である。試料がスキマーコーン145の孔を通過する際、その孔の近傍で試料の一部がスキマーコーン145によって冷却される。これにより、イオン化された試料の一部が脱イオン化し、固体としてスキマーコーン145の表面に析出する。特に、濃度の高い試料が冷却されると、より短時間でスキマーコーン145の表面での析出量が増えていく。その結果、スキマーコーン145の頂部の孔がふさがれ、質量分析部130へのイオンの導入効率が著しく低下する。例えば、海水を希釈した溶液を元に調製した試料の場合、塩化ナトリウムやマグネシウムの塩が多く析出される。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、誘導結合プラズマ質量分析装置において、スキマーコーンの頂部に形成されている孔の近傍に塩等が析出するのを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係るスキマーコーンは、
円錐状の先端部の少なくとも一部の外周面又は/及び内周面において、周方向に形成された溝部を有する
ことを特徴とする。
【0010】
本発明に係るスキマーコーンは、誘導結合プラズマ質量分析装置において用いることを想定したものである。誘導結合プラズマ質量分析装置は、誘導結合プラズマにより試料から原子イオンを生成するプラズマトーチを有するイオン源と、生成された原子イオンを質量分離して検出する質量分離部とを備えている。イオン源は大気圧空間に設けられ、質量分離部は、隔壁によって区画され後段側に向かって段階的に真空度が高められた複数の真空室を有する真空チャンバの内部に設けられる。真空チャンバの入口側にはイオン源で生成された原子イオンを細径のイオンビームに成形するためのサンプリングコーンが設けられる。本発明に係るスキマーコーンは、サンプリングコーンの後段に位置する隔壁に設けられる。スキマーコーンの外周面には、サンプリングコーンを通り抜けた高温のプラズマが照射される。高温プラズマの熱によりスキマーコーンが溶けるのを防止するために、スキマーコーンは、基部側(隔壁側)から、内部を冷却水が流通する冷却ブロックにより冷却される。あるいは隔壁を介して真空チャンバの外部の大気により冷却(空冷)される場合もある。いずれの場合でも、高温プラズマの照射によりスキマーコーンに加えられる熱はスキマーコーンの基部側に伝えられる。
【0011】
本発明に係るスキマーコーンは、その外周面又は/及び内周面において、周方向に溝部が形成されている点に特徴を有する。この溝部は周方向の全周にわたって形成されたものであってもよく、あるいは周方向に部分的に形成されたものであっても良い。また、溝部の数は1つであってもよく、あるいは複数であってもよい。
【0012】
本発明に係るスキマーコーンでは、外周面又は/及び内周面に形成された溝部の位置において肉薄になることから、先端部から基部に向かって熱が伝えられる際に溝部の位置で熱が伝わる経路が狭くなる(断面積が小さくなる)ため、溝部が形成された位置よりも先端側(隔壁と反対側)の熱が基部側に伝わりにくくなる。これにより、サンプリングコーンの頂部に形成されている孔の近傍で試料から生成されたイオンが冷却されにくくなるため、該イオンが脱イオン化してスキマーコーンの頂部の孔の近傍に塩等が析出するのを防止することができる。
【0013】
本発明に係るスキマーコーンにおいて、前記溝部はスキマーコーンの外周面に形成されていることが好ましい。また、前記溝部の形状は特に限定されないが、該溝部の断面がL字状であることが好ましい。溝部をこのような形状とすることにより、フライス盤等を用いた加工によって溝部を容易に形成することができる。
【0014】
また、本発明に係るスキマーコーンを備えた誘導結合プラズマ質量分析装置は、
a) 原料ガスから生成したプラズマによって試料をイオン化するイオン化部と、
b) 大気圧よりも低い第1圧力に維持される第1空間と、該第1圧力よりも低い第2圧力に維持され前記イオン化部で生成されたイオンを質量分離する質量分離部や該質量分離部を通過したイオンを検出する検出器とが収容される第2空間とに区画された真空チャンバと、
c) 前記第1空間と前記第2空間とを区画する隔壁の、該第1空間の側に設けられたスキマーコーンであって、
円錐状の先端部の少なくとも一部の外周面又は/及び内周面において、周方向に形成された溝部を有するスキマーコーンと
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
誘導結合プラズマ質量分析装置において本発明に係るスキマーコーンを用いることにより、該スキマーコーンの頂部に形成されている孔の近傍に塩等が析出するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】誘導結合プラズマ質量分析装置の要部構成図。
【
図2】本発明に係る誘導結合プラズマ質量分析装置の一実施例の要部構成図。
【
図3】本実施例の誘導結合プラズマ質量分析装置の第1真空室近傍の拡大図。
【
図4】本発明に係るスキマーコーンの一実施例の先端部の拡大図。
【
図5】本発明に係るスキマーコーンの変形例の先端部の拡大図。
【
図6】本発明に係るスキマーコーンの別の変形例の先端部の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るスキマーコーン及び誘導結合プラズマ質量分析装置の一実施例について、以下、図面を参照して説明する。
【0018】
図2は本実施例の誘導結合プラズマ質量分析装置1の要部構成図である。この誘導結合プラズマ質量分析装置1は、大きく分けて、イオン化部10、質量分析部20、電源部30、及び制御部40からなる。
【0019】
イオン化部10は、略大気圧であり接地されたイオン化室11を有しており、その内部にプラズマトーチ12が配置されている。プラズマトーチ12は、ネブライザガスにより霧化した液体試料を流通させる試料管、該試料管の外周に形成されたプラズマガス管、及び該プラズマガス管の外周に形成された冷却ガス管から構成されている。また、プラズマトーチ12の試料管に液体試料を導入するオートサンプラ13、該試料管にネブライザガスを供給するネブライザガス供給源14、プラズマガス管にプラズマガス(アルゴンガス)を供給するプラズマガス供給源15、及び冷却ガス管に冷却ガスを供給する冷却ガス供給源(図示なし)を備えている。
【0020】
質量分析部20は、プラズマトーチ12の側から順に第1真空室21、第2真空室22、及び第3真空室24を備えている。第1真空室21はイオン化室11とのインターフェースである。第2真空室22には、イオンの飛行軌道を収束させるためのイオンレンズ221とコリジョンセル222が配置されている。第3真空室24には、四重極マスフィルタ241(プリロッド2411及びメインロッド2412)と検出器242が配置されている。本実施例では、真空チャンバが3つの真空室で構成されているが、真空室を区画する数は適宜に変更することができる。本実施例の第1真空室21は本発明における第1空間に相当し、第2真空室22及び第3真空室24は本発明における第2空間に相当する。第1真空室21の入口側の壁面にはサンプリングコーン211が設けられており、第1真空室21と第2真空室22の間の隔壁にはスキマーコーン224が設けられている。本実施例では四重極マスフィルタ241を備えた質量分析部20としたが、四重極マスフィルタ以外の質量分離部を用いることもできる。また、複数の質量分離部を備えた構成とすることもできる。
【0021】
制御部40は、記憶部41のほか、機能ブロックとして分析制御部42を備えている。制御部40の実体はパーソナルコンピュータであり、CPUにより所定のプログラム(質量分析用プログラム)を実行することにより分析制御部42が具現化される。また、制御部40にはキーボードやマウスといった入力部60、及び液晶ディスプレイ等の表示部70が接続されている。記憶部41には、検出器242からの出力信号のデータが順次、保存される。
【0022】
使用者が入力部60を通じて分析開始を指示すると、オートサンプラ13によってプラズマトーチ12の試料管に液体試料が導入される。試料管に導入された液体試料は、ネブライザガス供給源14から供給されるネブライザガス(例えば窒素ガス)によって霧化されてイオン化室11に噴霧される。また、これと並行してプラズマガス供給源15から供給されるプラズマガス(例えばアルゴンガス)から誘導結合プラズマが生成される。試料管から噴霧された液体試料は誘導結合プラズマによって原子イオン化される。イオン化部10のプラズマトーチ12で生成される6,000〜10,000Kという高温のプラズマは、サンプリングコーン211の外周面に沿って伝わり、これによりサンプリングコーン211の全体が加熱される。また、プラズマの一部はサンプリングコーン211の頂部の孔を通過してスキマーコーン224の外周面に沿って伝わり、これによりスキマーコーン224の全体が加熱される。このように、サンプリングコーン211やスキマーコーン224は加熱され高温になることから、これらを冷却するために後述するような冷却機構が設けられている。
【0023】
イオン化部10で生成された原子イオンは、サンプリングコーン211の頂部に形成されている孔を通って真空チャンバ内の第1真空室21に導入される。サンプリングコーン211を通過したプラズマおよび試料の一部は、超音速流となって断熱膨張しながらスキマーコーン224の頂部に形成された孔を通過して第2真空室22に入射する。試料がスキマーコーン224の孔を通過する際、孔近傍を通る試料はスキマーコーン224によって冷却される。サンプリングコーン211の孔の径は典型的には直径1.0mm程度である。また、スキマーコーン224の孔の径はサンプリングコーン211の孔よりも小さく(即ち、典型的には直径1.0mm以下)、例えば直径0.5mm程度である。
【0024】
図3に第1真空室21近傍の概略構成を示す。上述の通り、第1真空室21の入口にはサンプリングコーン211が、第1真空室21と第2真空室22の間にはスキマーコーン224が、それぞれ設けられている。また、質量分析部20を収容する真空チャンバ20aの内面にはL字状の冷却ブロック212が取り付けられている。L字の長辺にあたる部分は真空チャンバ20aの内壁面に取り付けられており、その一端(短辺にあたる部分とは反対の側)は、サンプリングコーン211の基部と接触している。また、L字の短辺にあたる部分にはスキマーコーン224の基部がねじ止めされており、スキマーコーン224は着脱可能となっている。冷却ブロック212の内部には冷却水の流路が形成されており、この冷却ブロック212によりサンプリングコーン211とスキマーコーン224が冷却される。これにより、プラズマトーチ12で発生した高温のプラズマによってサンプリングコーン211やスキマーコーン224が溶けるのを防止している。本実施例では冷却ブロック212によりサンプリングコーン211とスキマーコーン224を冷却しているが、冷却方法は任意であり、隔壁を介して真空チャンバ20aの外部の大気により冷却(空冷)する等の構成を採ることもできる。いずれの場合でも、高温プラズマの照射によりスキマーコーン224に加えられる熱はスキマーコーン224の基部側に伝えられる。なお、本実施例ではスキマーコーン224を着脱可能としたが、第1真空室21と第2真空室22の間の隔壁と一体的に構成してもよい。
【0025】
図4はスキマーコーン224の先端部の拡大図である。スキマーコーン224には、銅やニッケルからなるものが用いられる。また、質量分析において夾雑物が混入することを避けるために、99%以上の高い純度の材料からなるものが用いられる。また、本実施例のスキマーコーン224は、先端部の外周面において、それぞれが周方向に形成された3つの溝部224aを備えている。3つの溝部224aはそれぞれ、スキマーコーンの周方向の全体にわたって形成されており、その断面は角部を丸めたL字状である。溝部224aをこのような形状とすることにより、フライス盤を用いる等の加工により該溝部224aを容易に形成することができる。なお、スキマーコーン224の溝部224aと基部の間に形成されている凸部224bは、先端部に触れることなくスキマーコーン224を着脱する等の操作を行うことができるように設けられたものである。なお、この凸部224bは本発明に必須の特徴ではなく、凸部224bのないスキマーコーン224を用いてもよい。
【0026】
本実施例のスキマーコーン224は、該スキマーコーン224の外周面の周方向の全体にわたって溝部224aが形成されている点に特徴を有している。これによりスキマーコーン224が溝部224aの位置で肉薄になることから、先端部から基部に向かって熱が伝えられる際に溝部224aの位置で熱が伝わる経路が狭くなる(断面積が小さくなる)。そのため、溝部224aが形成された位置よりも先端側(隔壁と反対側)の熱が基部側に伝わりにくくなる。従って、スキマーコーン224の孔の近傍を試料が通過する際に試料がスキマーコーン224によって冷却されにくくなる。その結果、イオン化した試料が脱イオン化しにくくなるため、スキマーコーン224の頂部の孔の近傍で塩等が析出するのを防止することができる。なお、本発明では、スキマーコーン224に形成する溝部224aは、先端側から5mm以内の位置に少なくとも1つ形成し、該溝部224aの位置よりも先端側で熱を保持するように構成することが好ましい。
【0027】
従来、例えば特許文献1に記載されているように、先端に向かって徐々に肉薄になるように成型され、その断面が先端側で尖った形状(ナイフエッジ状)のスキマーコーンが用いられている。このような形状のスキマーコーンでは、熱が伝わる経路を先端に向かって徐々に狭くする(断面積を小さくする)ことにより、孔が形成されている先端部が冷却されづらくなるため、塩等の析出を防止する効果が得られる可能性はあるものの、先端側が尖った形状であるため、スキマーコーンの洗浄や交換の際に他の部品等に接触すると損傷したり変形したりしやすい。また、高温のプラズマが継続的に照射されることによって変形しやすい。これに対し、本実施例のスキマーコーン224では、先端部の厚みを適宜に調整して所要の強度を得ることができるため、損傷や変形を抑えることができる。
【0028】
上記実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。上記実施例では、スキマーコーン224の外周面において、その全周にわたって断面がL字状の溝部224aを3つ形成したが、溝部224aの形状や数は適宜に変更することができる。本発明に係るスキマーコーンは、先端部から基部に向かって、断面積が小さくなる(肉薄になる)箇所が少なくとも1箇所設けられ、それによって溝部が形成された位置よりも先端側(隔壁と反対側)の熱を基部側に伝わりにくくするという技術的思想に基づくものであり、その範囲内で適宜に変更することができる。
【0029】
図5は変形例のスキマーコーン225の先端部の拡大図である。
図5の変形例では、スキマーコーン225の先端部の内周面に、上記実施例と同様に断面がL字状である溝部225aを設けたものである。また、
図6は別の変形例のスキマーコーン226の先端部の拡大図である。
図6の変形例では、スキマーコーン226の内周面と外周面の両方において、周方向に部分的に溝部226a、226bを形成したものである。
図4及び
図5に示すような変形例のスキマーコーン225、226を用いることによっても、上記実施例と同様の効果を得ることができる。溝部には、上述したものの他、V字状の断面を持つもの、半円上の断面を持つもの等、種々のものを用いることができる。
【符号の説明】
【0030】
1…誘導結合プラズマ質量分析装置
10…イオン化部
11…イオン化室
12…プラズマトーチ
13…オートサンプラ
14…ネブライザガス供給源
15…プラズマガス供給源
20…質量分析部
20a…真空チャンバ
21…第1真空室
211…サンプリングコーン
212…冷却ブロック
22…第2真空室
221…イオンレンズ
222…コリジョンセル
223…エネルギー障壁形成電極
224、225、226…スキマーコーン
224a、225a、226a…溝部
24…第3真空室
241…四重極マスフィルタ
2411…プリロッド
2412…メインロッド
242…検出器
30…電源部
40…制御部
41…記憶部
42…分析制御部
60…入力部
70…表示部