特許第6885623号(P6885623)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885623
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】鏡体
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/007 20060101AFI20210603BHJP
   A61B 3/117 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   A61F9/007 200C
   A61F9/007 130Z
   A61B3/117
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-115200(P2019-115200)
(22)【出願日】2019年6月21日
(65)【公開番号】特開2021-251(P2021-251A)
(43)【公開日】2021年1月7日
【審査請求日】2019年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】519225901
【氏名又は名称】森 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】森 茂
【審査官】 寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2018/0160900(US,A1)
【文献】 国際公開第2018/049359(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0134759(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
A61B 3/117
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが0.05mm以上0.3mm以下であり、重さが0.1g以上1.0g以下であり、幅が1.5mm以上5.0mm以下であり、長さが20.0mm以上35.0mm以下の帯状に形成され、一端部側の第1の面領域と、該第1の面領域が設けられた側と同じ側に位置する第2の面領域とがなす角度を30〜60度に変形可能で、角膜に設けられた創口から前房内への挿入及び前房内からの抜去が可能な可撓性を有するシート部材と、
該シート部材の片面若しくは両面の少なくとも一部に、鏡面加工が施された、若しくは鏡面加工が施された鏡面シート部材が貼付された鏡面部とを備える
鏡体。
【請求項2】
厚さが0.05mm以上0.3mm以下であり、重さが0.1g以上1.0g以下であり、幅が1.5mm以上5.0mm以下であって長手方向を有し、一端部側の第1の面領域と、該第1の面領域と連続する面の他端部側に位置する第2の面領域とがなす角度が30〜60度であり、前記第1の面領域を含む第1のシート部と、該第1のシート部と連続して一体に設けられた前記第2の面領域を含む第2のシート部とを連設する捻り形状の捻曲部を有し、角膜に設けられた創口から前房内への挿入及び前房内からの抜去が可能な可撓性を有するシート部材と、
該シート部材の片面若しくは両面の前記第1の面領域及び/若しくは前記第2の面領域の少なくとも一部に鏡面加工が施された、若しくは鏡面加工が施された鏡面シート部材が貼付された鏡面部とを備える
鏡体。
【請求項3】
前記シート部材は、20.0〜35.0mmの長さに形成された
求項2に記載の鏡体。
【請求項4】
略円形に形成され、角膜に設けられた創口から前房内への挿入及び前房内からの抜去が可能な柔軟性を有すると共に、前房内で角膜と虹彩の間に配置されるシート部材と、
該シート部材の縁部に沿って所定の幅に形成された縁部の周辺領域の少なくとも一部に鏡面加工が施された若しくは鏡面加工が施された鏡面シート部材が貼付された鏡面部を備える
鏡体。
【請求項5】
平面視略円状に形成され、複数の屈曲部を有する枠部と、
角膜に設けられた創口から前房内への挿入及び前房内からの抜去が可能な柔軟性を有する素材で形成されると共に、前記枠部の片面から立設し、同枠部の中心に向かって所定の角度で傾斜し、外側面の少なくとも一部に鏡面加工が施された、若しくは鏡面加工が施された鏡面シート部材が貼付された鏡面領域を有する斜面部とを備える
鏡体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼球体の前房内に挿入可能な鏡体に関する。詳しくは、眼内手術中の患者の精神的・肉体的負担を軽減すると共に、眼球体の正面から隅角の表面組織の一部にある線維柱帯を観察可能な鏡体に係るものである。
【背景技術】
【0002】
眼内には毛様体で生成される房水と呼ばれる液体が循環しており、この房水により眼圧が一定に保たれて眼球の形状は維持される。房水は、排出口である網目状の線維柱帯からシュレム管を通って、眼外の静脈系の血管に排出される。
【0003】
この線維柱帯が何らかの原因で詰まってしまい、房水の排出がスムーズに行われないと、房水の生成と排出のバランスが崩れて眼内を圧迫して眼圧が上昇し、視神経に障害が生じる。これが緑内障である。
【0004】
近年、緑内障の手術は、低侵襲緑内障手術(MIGS;micro invasive gulaucoma surgery)が広まりつつある。この手術は、角膜に設けた創口から器具を挿入し、線維柱帯を切開して房水の排出路を形成するものであり、身体に負担の少ない手術である。
【0005】
ここで、線維柱帯は、角膜と虹彩が接する部分に形成される隅角の表面組織の一部であり、眼球を正面から見た場合には観察しにくい。このため、従来は、隅角鏡というレンズを角膜上に当接し、かつ患者の頭部を約40度傾けて線維柱帯を観察し、手術を行っていた。しかしながら、このような状態は不安定であり、充分な観察が行えないだけでなく、患者の精神的・肉体的負担が大きかった。
【0006】
このため、特許文献1に示すように、患者が上方を向いた状態で角膜のほぼ真上から成立像で隅角を観察することができる隅角観察鏡が提案されている。これにより、患者の頭部を傾けさせることなく、上方に顔を向けた安定した姿勢で隅角を観察することが可能となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−62325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載する隅角観察鏡は、角膜上に当接させて観察するため、手術中に使用することはできない。即ち、隅角を観察した後に手術をする場合には、隅角観察鏡を一端外す必要があり、隅角を観察しながら手術することはできず、このため正確に線維柱帯を切開することは困難であった。
【0009】
本発明は以上の点に鑑みて創案されたものであり、眼内手術中の患者の精神的・肉体的負担を軽減すると共に、眼球体の正面から隅角の表面組織の一部にある線維柱帯を観察可能な鏡体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の鏡体は、厚さが0.05mm以上0.3mm以下であり、重さが0.1g以上1.0g以下であり、幅が1.5mm以上5.0mm以下の帯状に形成され、一端部側の第1の面領域と、該第1の面領域が設けられた側と同じ側に位置する第2の面領域とがなす角度を30〜60度に変形可能で、角膜に設けられた創口から前房内への挿入及び前房内からの抜去が可能な可撓性を有するシート部材と、該シート部材の片面若しくは両面の少なくとも一部に、鏡面加工が施された、若しくは鏡面加工が施された鏡面シート部材が貼付された鏡面部とを備える。
【0011】
ここで、シート部材の厚みが、0.05〜0.3mmであることによって、鏡体を前房内に挿入する際、創口を広げすぎることなく挿入することができるので、患者の精神的・肉体的負担を軽減することができる。また、創口に鏡体を挿入した際、創口によって鏡体自体が把持されて固定されるので、鏡体が創口から離脱することを抑制することができるだけでなく、創口が鏡体によって塞がれるので、前房内の充填に用いられる粘弾性物質が創口から漏出ることを抑止することができるので、前房安定性を高く保つことができる。
【0012】
なお、シート部材の厚みが0.05mm未満の場合、強度を保つことができず、破損しやすい。また、シート部材の厚みが0.3mmを超える場合には、一定の強度を有するため、変形させることが難しいだけでなく、創口から鏡体を挿入する際、創口を広げてしまい、患者の精神的・肉体的負担を軽減することができない。
【0013】
また、シート部材の重さが0.1g〜1.0gであることによって、軽量であるため、角膜に設けられた創口に鏡体を挿入した際、手指などで支持しなくても沈み込むなどして創口を広げることがないので、患者の肉体的負担を軽減することができる。
【0014】
なお、重さが0.1g未満である場合には、鏡体全体として強度を保つことができず、破損しやすい。また、重さが1.0gを超える場合には、鏡体を前房内に挿入した際、鏡体の重みで創口が広がり、角膜に負担がかかり、患者の肉体的負担を軽減することができない。
【0015】
また、シート部材の幅が1.5〜5.0mmの幅であることによって、予め角膜に設けられる創口の幅を略同一に形成すれば鏡体を角膜内に挿入することができるので、創口を大きく形成する必要がないので、患者の精神的・肉体的負担を軽減することができる。
【0016】
なお、シート部材の幅が1.5mm未満の場合には、鏡面部に映し出される映像が狭くなってしまい、映し出された線維柱帯の映像を十分に観察することができない。また、シート部材の幅が5.0mmを超える場合には、創口の幅が広がりすぎてしまい、患者の精神的・肉体的負担を軽減することができない。
【0017】
また、シート部材が帯状に形成されることによって、角膜を少なくとも鏡体の幅方向と略同一の幅に切開して創口が形成されれば、角膜を大きく切り開くことなく創口から鏡体を眼内に挿入することができ、患者の精神的・肉体的負担を軽減することができる。
【0018】
また、シート部材が一端部側の第1の面領域と、第1の面領域が設けられた側と同じ側に位置する第2の面領域とがなす角度を30〜60度に変形可能であることによって、第1の面領域と第2の面領域を互いに異なる方向を向くように変形させることができる。即ち、施術者が操作しやすい形状、或いは隅角の表面組織の一部にある線維柱帯を観察しやすい形状になるように、帯状の鏡体を自由に変形させることができる。
【0019】
なお、第1の面領域と第2の面領域とがなす角度が30度未満である場合には、第1又は第2の面領域の向く角度がほぼ同一であるので、いずれか一方の面領域を傾斜させる場合には、他方の面領域もほぼ同様に傾斜させなければならないので、操作しにくい。また、第1の面領域と第2の面領域とがなす角度が60度を超える場合には、第1の面領域又は第2の面領域が向く角度が大きく異なるので、いずれか一方の面領域を把持して他方の面領域を適切な角度に傾けることは難しく、操作しにくい。
【0020】
そして、シート部材が、角膜に設けられた創口から前房内への挿入及び前房内からの抜去が可能な可撓性を有することによって、シート部材を前房内へ挿入及び抜去することができる。
【0021】
さらに、シート部材の片面若しくは両面の少なくとも一部に鏡面加工が施された、若しくは鏡面加工が施された鏡面シート部材が貼付された鏡面部によって、鏡体の周囲の映像を映し出すことができる。具体的には、前房内に挿入された鏡体の鏡面部に、虹彩と角膜の間の隅角の表面組織の一部にある線維柱帯の映像を映し出すことができるので、映出された映像を眼外から直接観察することができる。また、患者の頭部を傾けることなく、眼球体の正面から隅角の表面組織の一部にある線維柱帯を観察することが可能となる。
【0022】
また、上記課題を解決するために、本発明の鏡体は、厚さが0.05mm以上0.3mm以下であり、重さが0.1g以上1.0g以下であり、幅が1.5mm以上5.0mm以下であって長手方向を有し、一端部側の第1の面領域と、該第1の面領域と連続する面の他端部側に位置する第2の面領域とがなす角度が30〜60度であり、前記第1の面領域を含む第1のシート部と、該第1のシート部と連続して一体に設けられた前記第2の面領域を含む第2のシート部とを連設する捻り形状の捻曲部を有し、角膜に設けられた創口から前房内への挿入及び前房内からの抜去が可能な可撓性を有するシート部材と、該シート部材の片面若しくは両面の前記第1の面領域及び/若しくは前記第2の面領域の少なくとも一部に鏡面加工が施された、若しくは鏡面加工が施された鏡面シート部材が貼付された鏡面部とを備える。
【0023】
ここで、シート部材の厚みが、0.05〜0.3mmであることによって、鏡体を前房内に挿入する際、創口を広げすぎることなく挿入することができるので、患者の精神的・肉体的負担を軽減することができる。また、創口に挿入した際、創口によって鏡体自体が把持されて固定されるので、鏡体が創口から離脱することを抑制することができるだけでなく、創口が鏡体によって塞がれるので、前房内の充填に用いられる粘弾性物質が創口から漏出ることを抑止することができるので、前房安定性を高く保つことができる。
【0024】
なお、シート部材の厚みが0.05mm未満の場合、強度を保つことができず、破損しやすい。また、シート部材の厚みが0.3mmを超える場合には、一定の強度を有するため、変形させることが難しいだけでなく、創口から鏡体を挿入する際、創口を広げてしまい、患者の精神的・肉体的負担を軽減することができない。
【0025】
また、シート部材の重さが0.1g〜1.0gであることによって、軽量であるため、角膜に設けられた創口に鏡体を挿入した際、手指などで支持しなくても沈み込むなどして創口を広げることがないので、患者の肉体的負担を軽減することができる。
【0026】
なお、重さが0.1g未満である場合には、鏡体全体として強度を保つことができず、破損しやすい。また、重さが1.0gを超える場合には、鏡体を前房内に挿入した際、鏡体の重みで創口が広がり、角膜に負担がかかり、患者の肉体的負担を軽減することができない。
【0027】
また、シート部材の幅が1.5〜5.0mmの幅であることによって、予め角膜に設けられる創口の幅を略同一に形成すれば鏡体を角膜内に挿入することができるので、創口を大きく形成する必要がないので、患者の精神的・肉体的負担を軽減することができる。
【0028】
なお、シート部材の幅が1.5mm未満の場合には、鏡面部に映し出される映像が狭くなってしまい、映し出された線維柱帯の映像を十分に観察することができない。また、シート部材の幅が5.0mmを超える場合には、創口の幅が広がりすぎてしまい、患者の精神的・肉体的負担を軽減することができない。
【0029】
また、シート部材が長手方向を有することによって、一端側を眼内に挿入し、他端側を把持することができるので、容易に操作することができる。
【0030】
また、シート部材の、一端部側の第1の面領域と、第1の面領域と連続する面の他端部側に位置する第2の面領域とがなす角度が30〜60度であることによって、第1の面領域と第2の面領域を互いに異なる方向を向くように配置することができる。即ち、いずれか一方の面領域を傾斜させる場合であっても、他方の面領域を同じ角度に傾かせる必要はなく、異なる角度に位置することになるので、容易に操作することができる。
【0031】
なお、第1の面領域と第2の面領域とがなす角度が30度未満である場合には、第1又は第2の面領域の向く角度がほぼ同一であるので、いずれか一方の面領域を傾斜させる場合には、他方の面領域もほぼ同様に傾斜させなければならないので、操作しにくい。また、第1の面領域と第2の面領域とがなす角度が60度を超える場合には、第1の面領域又は第2の面領域が向く角度が大きく異なるので、いずれか一方の面領域を把持して他方の面領域を適切な角度に傾けることは難しく、操作しにくい。
【0032】
また、第1の面領域を含む第1のシート部と、第1のシート部と連続して一体に設けられた第2の面領域を含む第2のシート部とを連設する捻り形状の捻曲部を有することによって、前房内に挿入する際に上方に向けられた第1の面領域若しくは第2面領域を挿入して、さらに捻曲部付近まで挿入する際に、鏡体を徐々に回転させながら挿入することができる。これにより、第1の面領域と第2の面領域の向く角度が異なるにも関わらず、創口を大きく広げることを抑止しつつ鏡体を前房内に挿入することができるので、角膜への負荷を軽減することができ、患者の肉体的負担を軽減することができる。
【0033】
そして、シート部材が、角膜に設けられた創口から前房内への挿入及び前房内からの抜去が可能な可撓性を有することによって、シート部材を前房内へ挿入及び抜去することができる。
【0034】
そして、シート部材の片面若しくは両面の第1の面領域及び/若しくは第2の面領域の少なくとも一部に鏡面加工が施された、若しくは鏡面加工が施された鏡面シート部材が貼付された鏡面部によって、鏡体の周囲の映像を映し出すことができる。具体的には、前房内に挿入された鏡体の鏡面部に、虹彩と角膜の間の隅角の表面組織の一部にある線維柱帯の映像が映し出されるので、眼球体の正面から隅角の表面組織の一部にある線維柱帯を観察することが可能となる。
【0035】
シート部材の長さが20.0〜35.0mmに形成された場合には、通常約12〜13ミリの長さが前房内に挿入されるが、鏡体の長さの約半分が眼球外に露出するので、露出した部分を把持することができ、容易に鏡体を操作することができる。
【0036】
なお、シート部材の長さが20.0mm未満の場合には、眼球外に露出するのは8ミリ未満であるので把持しにくく、鏡体を容易に操作することができない。また、シート部材の長さが35.0mmを超える場合には、20.0mm以上が眼球外に露出するので、手術の際、術者の手や他の器具に触れて移動してしまうなどして、操作しにくい。
【0037】
また、上記課題を解決するために、本発明の鏡体は、略円形に形成され、角膜に設けられた創口から前房内への挿入及び前房内からの抜去が可能な柔軟性を有すると共に、前房内で角膜と虹彩の間に配置されるシート部材と、該シート部材の縁部から中心に向う方向に縁部に沿って所定の幅に形成された縁部領域の少なくとも一部に鏡面加工が施された、若しくは鏡面加工が施された鏡面シート部材が貼付された鏡面部を備える。
【0038】
ここで、シート部材が、角膜に設けられた創口から前房内への挿入及び前房内からの抜去が可能な柔軟性を有することによって、シート部材を折畳むなどして容易に前房内への挿入及び前房内からの抜去を容易に行うことができる。これにより、創口を大きく切り開く必要がないので、患者の精神的・肉体的負担を軽減することができる。
【0039】
また、シート部材が、略円形に形成され、前房内で角膜と虹彩の間に配置されるシート部材と、シート部材の縁部から中心に向う方向に縁部に沿って所定の幅に形成された縁部領域の少なくとも一部に鏡面加工が施された、若しくは鏡面加工が施された鏡面シート部材が貼付された鏡面部を備えることによって、鏡体を前房内に挿入した際、鏡面部が隅角の近くに配置されるので、鏡面部上に隅角の表面組織の一部にある線維柱帯を映し出しやすくなり、眼球体の正面から隅角の表面組織の一部にある線維柱帯を容易に観察することができる。そして、略円形に形成された鏡体の縁部の全周に鏡面加工が施されることで、眼内にシート部材が挿入された際、鏡面部の全ての箇所において隅角との距離を略等しく保つことができ、場所による映像のばらつきを防ぐことができる。即ち、線維柱帯が全周にわたって均一な精度で映出されるので、線維柱帯の全周にわたる映像を眼外から直接観察することができる。
【0040】
また、上記課題を解決するために、本発明の鏡体は、平面視略円状に形成され、複数の屈曲部を有する枠部と、角膜に設けられた創口から前房内への挿入及び前房内からの抜去が可能な柔軟性を有する素材で形成されると共に、前記枠部の片面から立設し、同枠部の中心に向かって所定の角度で傾斜し、外側面の少なくとも一部に鏡面加工が施された、若しくは鏡面加工が施された鏡面シート部材が貼付された鏡面領域を有する斜面部とを備える。
【0041】
ここで、複数の屈曲部を有する枠部によって、屈曲部が折り曲げられることで枠部の形状を変えることができる。
【0042】
また、斜面部が角膜に設けられた創口から前房内への挿入及び前房内からの抜去が可能な柔軟性を有する素材で形成されることによって、枠部の形状の変化に応じて斜面部を折畳むことができ、鏡体全体をコンパクトな形状にすることができる。
【0043】
また、斜面部が枠部の片面から立設することによって、鏡体が前房内に挿入された際、斜面部は枠部上に位置するため、斜面部が前房内で倒れる、あるいは前房内で移動してしまうことなく、安定した状態を維持することができる。
【0044】
また、平面視略円状に形成された枠部と、枠部の中心に向かって略円状に所定の角度で傾斜し、外側面の少なくとも一部に鏡面加工が施された、若しくは鏡面加工が施された鏡面シート部材が貼付された鏡面領域を有する斜面部を有することによって、斜面部の周囲の映像を鏡面領域上に映し出すことができるので、映出された映像を眼外から直接観察することができる。そして、平面視略円形に形成された斜面部の全周に鏡面加工が施されることで、眼内に鏡体が挿入された際、斜面部の全ての箇所において隅角との距離を略等しく保つことができ、場所による映像のばらつきを防ぐことができる。即ち、線維柱帯が全周にわたって均一な精度で映出されるので、線維柱帯の全周にわたる映像を眼外から直接観察することができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明に係る鏡体は、眼内手術中の患者の精神的・肉体的負担を軽減すると共に、眼球体の正面から隅角の表面組織の一部にある線維柱帯を観察可能な鏡体となっている。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1図1(a)は、本発明の第1の実施の形態に係る鏡体Aの斜視図であり、図1(b)は、鏡体Aを捻じって形成された鏡体A´の斜視図である。
図2図2(a)は、上下の瞼から露出した眼球体Eの正面図、図2(b)は眼球体Eの水平断面図である。
図3】第1の実施の形態に係る鏡体A´を前房内に挿入した際の説明図である。
図4】第1の実施の形態に係る手術の手順を表すフローチャートである。
図5図5(a)は、本発明の第2の実施の形態に係る鏡体Bの正面図であり、図5(b)は、鏡体Bを前房4内へ挿入する状態を表す説明図である。
図6図6(a)は、本発明の第3の実施の形態に係る鏡体Cの斜視図であり、図6(b)は、鏡体Cを前房4内へ挿入する状態を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の鏡体について図1ないし図6を参照しながら説明し、本発明の理解に供する。
【0048】
まず、眼球体Eの構造について簡単に説明する。なお、眼球体Eは、左側の眼球体である。
図2(a)(b)に示すように、眼球体Eは略球状であり、上下の瞼から露出する部分は角膜1で覆われている。角膜1の奥には虹彩2があり、虹彩2の略中央部には瞳孔3が位置する。角膜1と虹彩2に囲まれた領域を前房4といい、角膜1と虹彩2の間を隅角5という。また、隅角5の奥に線維柱帯6がある。そして、虹彩2の奥には水晶体7がある。なお、便宜上図2(a)の上側を上方といい、下側を下方という。
【0049】
次に、緑内障の処置について説明する。
眼球体Eの内部には房水(図示せず)が循環しており、毛様体(図示せず)で生成された房水は、線維柱帯6から排出される。線維柱帯6が何らかの原因により詰まることで房水の生成と排出のバランスが崩れて眼内が圧迫され眼圧が上昇する(緑内障の症状)。そこで、外科的手術により、線維柱帯6を切開し、房水の排出路を形成する処置が行われる。
以下に説明する鏡体は、この手術の際に用いられる器具である。
【0050】
〔第1の実施例〕
本実施例の鏡体Aは、帯状に形成され、図1(a)に示すように、長さ(L)約30mm、幅(W)約3mm、厚み(d)約0.5mmの大きさであり、重さは約0.5gである。なお、実際の手術の際には、図1(b)に示す、鏡体Aを略中央付近から捻じって形成された鏡体A´を、滅菌処理後、前房4内に挿入する。
【0051】
また、鏡体Aは、この大きさに限定されるものではなく、眼球体Eの前房4内に挿入できる大きさであれば良いが、白内障手術に連続して緑内障手術を行う場合には、図3に示すように、創口8a(幅約3mm)から鏡体A´を前房4内に挿入するため、鏡体A(A´)の幅は約3mm、若しくは創口8aよりもやや狭く形成することが望ましい。なお、白内障・緑内障同時手術の際には、創口8aは、白内障手術の際に形成された創口を利用することができる。
【0052】
ここで、鏡体A(A´)の厚みが約0.5mmの薄い形状に形成されていることから、創口8aに挿入した際、創口8aで確実に挟んで固定することが出来る。そして、鏡体A(A´)が創口8aに確実に固定されることによって、術中に創口8aから粘弾性物質が漏出ることを抑制することができるため、前房安定性を高く保つことができる。
【0053】
また、本実施例では、鏡体A(A´)は合成樹脂で形成されており、鏡体A(A´)の片面A1には全面にわたって鏡面加工が施されており、周囲の映像を片面A1上に映出すことができる。なお、鏡体A(A´)の素材は、可撓性を有するものであればよく、特に限定するものではないが、合成樹脂の素材で作られたシート以外にも、シート自体に鏡面加工が施された鏡面シート、或いは鏡面加工が施された鏡面シートを鏡体A(A‘)上に貼付することも考えられる。
【0054】
そして、本実施例において、鏡体A(A´)の他の片面A2には鏡面加工が施されていないが、片面A2にも鏡面加工を施してもよい。この場合には、例えば、一方の片面を等倍とし、他の片面の拡大率を大きくすることも考えられる。この場合には、片面A1により線維柱帯6の場所を確認し、片面A2で線維柱帯6をより詳細に観察でき、例えば、閉塞隅角であるか、開放隅角であるかの確認をしたい場合に適している。
【0055】
また、鏡体Aは可撓性を有することから、その形状を変形させることができる。本実施例においては、先述したように、手術を行う際、図1(b)に示す、鏡体Aの略中央付近を約45度捻って形成された鏡体A´を予め作製しておく。なお、鏡体Aを捻じる角度は、45度に限られるものではなく、約30〜60度とすることも可能である。
【0056】
また、この鏡体A´の略中央には、鏡体Aを捻じることで形成された捻曲部A3が設けられている。また、鏡体Aは合成樹脂であることから塑性を有し、容易に元の状態(鏡体Aの形状)に戻ることはない。
【0057】
鏡体A´を前房4内に挿入する際、まず創口8から鏡体A´の一端部A4を、他端部A5を施術者の手指若しくはピンセット等で把持しながら、前房4内に挿入する。この時、片面A1の一端部A4寄りの鏡面領域A6は、前房4内で略水平になっている。
【0058】
鏡体A´を略中央まで挿入し、さらに捻曲部A3を挿入する際には、創口8を縦方向に広げることがないように、創口8を捻曲部A3の形状に沿わせるようにして、鏡体A´を徐々に左回転させながら挿入する。
【0059】
このとき、鏡面領域A6は、図3に示すように、眼頭9側に向けて傾斜し、眼頭9側から下まぶたにかけた切開領域Rの隅角5の奥に位置する線維柱帯6の映像が鏡面領域A6上に映し出される。
【0060】
これにより、従来隅角鏡を用いて眼球体の外部からしか観察することができなかった隅角5およびその奥に位置する線維柱帯6を、眼内(前房4内)から観察することができるので、患者だけでなく施術者にとっても身体的肉体的負担が軽減される。
【0061】
具体的には、従来は、患者の頭部を約40度倒して観察しなければならなかったため、手術中の患者の精神的・肉体的負担が大きかったが、鏡体A´を用いる事で、仰向けの状態のままで手術を受けることができるので、患者の負担を軽減することができる。特に、白内障手術に連続して緑内障手術を行う際は、手術の途中で患者の姿勢を変える必要がないため、患者が不安に感じることを抑制することができる。
【0062】
また、施術者も、従来隅角鏡を用いていた際には、患者の眼内に挿入した器具を把持したまま、隅角鏡で線維柱帯6を観察するために身体を斜めにした状態に保たなければならず、施術者の側にとっても身体的負担であったが、鏡体A´を用いる事で、眼球体Eの正面から観察することができるため、施術者の負担も軽減される。
【0063】
また、鏡体A´を前房4から抜去する際には、鏡体A´を右方向に徐々に回転させながら、創口8を縦方向に広げることがないように、創口8を捻曲部A3の形状に沿わせるようにして、鏡体A´を抜去する。
【0064】
このように、鏡体A´を捻曲部A3の形状に合わせて徐々に回転させながら創口8から挿入、抜去することで、創口8をむやみに広げてしまうことを抑止することができるので、角膜への負担が軽減される。
【0065】
また、鏡体A´を徐々に回転させながら前房4に挿入・抜去することで、鏡面領域A6上に映し出される映像を徐々に変えることができ、前房4内を広く観察することができる。
【0066】
なお、本実施例では、左側の眼球体Eを手術する場合について説明したが、右側の眼球を手術する場合については、鏡体A´を前房4内に挿入する場合は、鏡体A´を右側に徐々に傾けながら挿入する。また、鏡体A´を前房4内から抜去する場合には、時鏡体A´を左側に徐々に傾けながら抜去する。
【0067】
また、本実施例では、手術を行う際に鏡体Aを捻じることで鏡体A´を作製したが、捻じられた形状の鏡体A´について商品化することも考えられる。
【0068】
ここで、本実施例の鏡体を、図4に示すように、白内障・緑内障同時手術を行う際に用いる場合において、本実施例の鏡体A´を用いた手術について説明する。なお、白内障・緑内障同時手術は、最初に白内障手術を行い、次に緑内障手術を行う。
【0069】
<創口形成工程(ST1)>
まず、白内障手術において、水晶体乳化吸引するための吸引具を挿入するための創口8a、及び水晶体7を分割するためのフック(図示せず)及びその他の器具を挿入するための2つの創口8b、8cを設ける。創口8aの幅は約3ミリであり、創口8b、8cの幅は約1mmである。
【0070】
創口8aは前房4の下方に形成され、創口8b、8cは創口8aを中心として左右に約45度離れた位置に形成する。
【0071】
<水晶体分割除去工程(ST2)>
創口8bから水晶体7の前?を切開するためのフック(図示せず)を挿入し、創口8cから水晶体7を分割するためのフックを挿入する。その後、分割された水晶体を、創口8aから挿入された吸引具で分割された水晶体を吸引する。ここまでが、白内障手術の工程である。なお、本来であれば、この後行われる人工レンズ埋設工程は、緑内障手術後に行われる。
【0072】
<線維柱帯観察工程(ST3)>
創口8aから鏡体A´を一端部A4側から挿入し始め、創口8aにおいて捻曲部A3の形状に沿って鏡体Aを回転させながら、図3に示すように、鏡体A´の略中央付近まで前房4内に挿入する。このとき、捻曲部A3が螺旋状に形成されていることから、鏡面領域A6と他端部A5寄りの鏡面領域A7とは、約45度の角度をなすため、施術者が把持している鏡面領域A7は略水平であるが、前房4内に挿入された鏡面領域A6は約45度の角度で施術者から見て左側に傾斜している。
【0073】
このような状態の鏡体A´の左側には、これから切開される線維柱帯6が位置する切開領域Rが位置している。切開領域Rは、角膜と虹彩が接する部分であって、眼頭9側から前房4の下方にわたる部分をいう。なお、房水は、線維柱帯6からシュレム管(図示せず)及び集合管(図示せず)を通って静脈系の血管(図示せず)へと排出される。集合管は前前房4の全周にわたって放射状に設けられているが、前房4の眼頭9側から下方にかけての約4分の1の領域に多いといわれているため、この部位の線維柱帯6を切開するのが一般的である。
【0074】
このとき、先行する白内障手術により水晶体7内を充填する物質は吸引されているので、水晶体7はやや凹んだ状態となっている。これにより、水晶体7を覆う虹彩2も水晶体7側に倒れるため、隅角5が広がった状態となっている。このように、白内障の手術後であれば、隅角5の広がりによりその奥にある線維柱帯6を観察しやすく、また線維柱帯6の切開を容易に行うことができる。
【0075】
また、上記のような位置関係にあることから、鏡体A´の鏡面領域A6には、切開領域R内の線維柱帯6が映し出される。このとき、施術者は眼球体Eの正面から線維柱帯6を観察することができるので、従来隅角鏡を用いて眼の外部からしか観察することができなかった隅角5およびその奥に位置する線維柱帯6を、眼内(前房4内)から観察することができる。
【0076】
具体的には、従来は、患者の頭部を約40度倒して観察しなければならなかったため、患者の精神的・肉体的負担が大きかったが、鏡体A´を用いる事で、患者を仰向けにした状態のままで観察し、手術することができるので、患者の負担を軽減することができる。特に、白内障手術に連続して緑内障手術を行う際は、手術の途中で患者の姿勢を変える必要がないため、患者が不安に感じることを抑制することができる。
【0077】
また、施術者も、従来隅角鏡を用いていた際には、患者の眼内に挿入した器具を把持したまま、隅角鏡で線維柱帯6を観察するために身体を斜めにした状態に保たなければならず、施術者の側にとっても身体的負担であったが、鏡体A´を用いる事で、眼球体Eの正面から観察することができるため、施術者の負担も軽減される。
【0078】
また、鏡体A´の重さは、約0.5gと軽量であることから、鏡体A´の重み自体によって角膜1に負荷がかかることを抑制することができる。
【0079】
また、線維柱帯6を観察することで、開放隅角であるか、閉塞隅角であるかを判断することが出来る。開放隅角の場合には、徐々に眼圧が上昇するため線維柱帯を切開する手術や、新たな房水の排出路を形成する手術を行う。一方、閉塞隅角の場合には急激に眼圧が上がるなどの急性発作を予防する処置が行われる。このように、線維柱帯6の状態に応じて、今後の治療方針を迅速に立てやすくなるので、より的確な処置を行うことができる。
【0080】
<線維柱帯切開工程(ST4)>
線維柱帯6の切開が必要と判断した場合には、鏡体A´を前房4内に挿入したまま、創口8cから切開用フック(図示せず)を挿入し、切開領域Rの線維柱帯6を切開する。このとき、鏡体A´の鏡面領域A6には、切開領域Rの線維柱帯6の映像が映し出されているので、線維柱帯6の状態を確認しながら、線維柱帯6を切開することができる。また、線維柱帯6の切開手術だけでなく、眼内ドレーン挿入術を行うこともできる。
【0081】
なお、このとき、鏡体A´は虹彩4の面よりも角膜1側に位置し、切開用フックは水晶体7側に位置するので、鏡体A´と切開用フックが接することはない。また、創口8bからは、切開用フック以外の必要な器具を前房4内に挿入することができる。
【0082】
<人工レンズ挿入工程(ST5)>
創口8aから水晶体7内に、小さく折り畳んだ人工レンズ(眼内レンズ)を挿入する。
【0083】
<創口8a、8b、8cの処置(ST6)>
創口8a、8b、8cを閉じる処置を行う。
【0084】
以上が、白内障・緑内障同時手術の手順であるが、緑内障手術を単独で行う場合にも、前房4を粘弾性物質で膨張させて行うことにより隅角5を広げることができるので、鏡体A´を用いることができる。
【0085】
即ち、緑内障手術において鏡体A及びA´を用いることにより、隅角鏡を用いることなく、眼球体Eの正面から隅角5の奥に位置する線維柱帯6を観察することができるので、患者の頭部を傾ける必要がなく、白内障手術時の姿勢を保ったまま緑内障手術を行うことができる。また、患者だけでなく、施術者にとっても楽な姿勢で線維柱帯6を観察することができるので、身体的・精神的負担が軽減される。
【0086】
〔第2の実施例〕
本実施例の鏡体Bは、図5(a)に示すように、直径約12ミリの略円形のシート状に形成されており、コラーゲンなどを含有する、生体適合性の良い素材で作られている。なお、鏡体Bは、以下に述べるように、角膜に設けられた創口から前房内への挿入及び前房内からの抜去が可能な柔軟性を有すればよく、この素材に限定されるものではない。鏡体Bは、眼内手術の際に一時的に用いるものであって、継続的に眼内に挿入しておくものではないので、生体適合性の良い素材である必要は必ずしも求められないからである。また、鏡体Bは形状記憶材料を用いて作成することも考えられ、この場合には、後述するように、前房4内に鏡体Bを挿入した場合、前房4内で鏡体Bの形状を維持できる。
【0087】
また、鏡体Bは、必ずしも円形の形状に限定されるものではなく、楕円形、多角形状以外にも不規則な形状なども考えられる。しかし、後述するように、鏡体Bは、その縁部の周辺領域に鏡面加工が施され、周囲の映像を映し出すことができ、線維柱帯6全体の映像を確認することができるものである。このため、鏡体Bの鏡面領域は、少なくとも線維柱帯6の全体を映し出すことが可能な形状(即ち略O(オー)型)とする必要がある。そして、これに伴い、鏡体Bは、略O型の鏡面領域を設けることが可能な形状とする必要がある。
【0088】
また、鏡体Bは、柔軟性を有する素材で作製されているので、滅菌処理後、角膜1上に設けられた創口8aから前房4内へ挿入及び抜去することが可能である。具体的には、図5(b)に示すように、鏡体Bを折畳んだ状態で筒状の挿入器具P内に収容し、そして挿入器具Pを創口8aから前房4内へ挿入し、鏡体Bを押出すようにして前房4内に挿入する。
【0089】
また鏡体Bを引き出す際には、ピンセットなどの器具でつまんで創口8aから引き出して抜去することが可能である。これにより、鏡体Bを前房4内に挿入するために創口を大きく広げる必要がないので、患者の精神的に・肉体的負担を軽減することができる。
【0090】
鏡体Bは、図5(a)に示すように、その縁部B1の周辺領域には鏡面加工が施され、周囲の映像を映し出すことが可能な鏡面領域B2が形成されている。また、鏡体Bは柔軟性を有することから、前房4内に鏡体Bが挿入された際には、虹彩2の形状に沿ってやや曲面状になりならが、虹彩2を被覆する。これにより、鏡面領域B2上には、角膜1と虹彩2の間の隅角5の奥に位置する線維柱帯6の映像が映し出される。これにより、患者の頭部を傾けることなく、眼球体Eの正面から線維柱帯6を確認することができる。また、手術中に患者が頭部を傾ける等の身体の位置を変える必要がないので、患者の精神的に・肉体的負担を軽減することができる。
【0091】
また、鏡面領域B2は、縁部B1の全周にわたって設けられていることから、施術者は虹彩2の周囲に位置する線維柱帯6全体を観察することができ、より詳細に線維柱帯6の状態を把握することができるので、以後の治療方針の判断を容易に行うことができる。
【0092】
また、鏡体Bはシート状であり、虹彩2上に載置されていることから、前房4内にフックなどの器具を挿入する空間が確保されているので、施術者は、鏡面領域B2上に映し出された線維柱帯6の映像を確認しながら、施術することができる。
【0093】
〔第3の実施例〕
本実施例の鏡体Cは、図6(a)に示すように、直径約12ミリの略円形の形状を有する枠部C1と、枠部C1の上面C1aから立設された斜面部C2から成る。枠部C1と斜面部C2は一体に形成されており、鏡体C全体の高さは約2mmである。枠部C1は、屈曲可能な4つの屈曲部C1bを有するため、枠部C1を略円形の形状から任意の一か所を引っ張ると棒状に折り畳まれる。また、棒状に折り畳まれた状態から力を開放すると、枠部C1は、略円形の形状に復元される。
【0094】
また、斜面部C2は柔軟性のある素材で作製されており、上面C1a上に立設した状態では、枠部の中心に向かって約60度の角度で傾斜している。枠部C1の変形に応じて折り畳まれ、枠部が略円形の形状に復元されると、これに応じて面の形状に戻る。また、斜面部C2の外側面C2aの全面にわたって鏡面加工が施されており、鏡面領域C2bが形成されている。鏡面領域C2b上には、周囲の映像が映し出される。なお、斜面部C2の傾斜角度は、60度に限定されるものではなく、隅角5の奥に位置する線維柱帯6を映し出すことが可能な角度であればよい。
【0095】
鏡体Cを前房4内に挿入するには、まず、図6(b)に示すように、筒状の挿入器具Pに滅菌処理後の鏡体Cを折り畳んだ状態で挿入し、その後挿入器具Pの先端を前房4内に挿入する。そして、挿入器具Pから鏡体Cを押し出して、鏡体Cを前房4内に挿入する。
【0096】
前房4内に挿入された鏡体Cは、鏡体Cを押さえていた力から解放されて、虹彩2上で略円形の形状に広がる。このとき、外側面C2aには鏡面領域C2bが形成されているので、周囲の映像が映し出される。具体的には、鏡面領域C2bには、隅角5の奥に位置する線維柱帯6の映像が映し出される。
【0097】
このとき、患者の頭部を傾けることなく、眼球体Eの正面から線維柱帯6を確認することができ、また、このように、手術中に看者の姿勢を変えることなく施術することができるので、患者の精神的・肉体的負担を軽減させることができる。
【0098】
また、鏡面領域C2bは、斜面部C2の全周にわたって設けられているので、施術者は虹彩2の周囲に位置する線維柱帯6全体を観察することができ、より詳細に線維柱帯6の状態を把握することができるので、以後の治療方針の判断を容易に行うことができる。
【0099】
また、鏡体Cは虹彩2上に載置されており、高さは約2mmであることから、前房4内に切開用フックなどの器具を挿入する空間が確保されているので、切開用フックと鏡体Cが前房4内で接することはない。これにより、施術者は、鏡面領域C2b上に映し出された線維柱帯6の映像を確認しながら、施術することができる。
【0100】
そして、線維柱帯6を切開した後には、前房4内に器具Pを創口8aから挿入し、鏡体Cに引込用フックC3などをかけて引っ張り込むようにして挿入器具P内に折畳みがなら収容する。このとき、鏡体Cは屈曲部C1bで折り曲げられるので、容易に折り畳まれて棒状の形状になる。最後に、挿入器具Pを創口8aから抜去する。
【0101】
このように、本発明に係る鏡体は、眼内手術中の患者の精神的・肉体的負担を軽減すると共に、眼球体の正面から隅角の表面組織の一部にある線維柱帯を観察可能な鏡体となっている。
【符号の説明】
【0102】
A A´ 鏡体
A1 A2 鏡体の片面
A3 捻曲部
A4 一端部
A6 A7 鏡面領域(鏡面部)
B 鏡体
B2 鏡面領域(鏡面部)
C 鏡体
C1 枠部
C2 斜面部
図1
図2
図3
図4
図5
図6