特許第6885669号(P6885669)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885669
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】杭基礎の構築方法及び杭基礎
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/50 20060101AFI20210603BHJP
   E02D 5/48 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   E02D5/50
   E02D5/48
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-231266(P2015-231266)
(22)【出願日】2015年11月27日
(65)【公開番号】特開2017-96038(P2017-96038A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年10月31日
【審判番号】不服2020-4345(P2020-4345/J1)
【審判請求日】2020年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】515277300
【氏名又は名称】ジャパンパイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100193286
【弁理士】
【氏名又は名称】圷 正夫
(72)【発明者】
【氏名】細田 光美
【合議体】
【審判長】 長井 真一
【審判官】 住田 秀弘
【審判官】 西田 秀彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−13372(JP,A)
【文献】 特開2015−187344(JP,A)
【文献】 特開平2−136424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/22- 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に杭孔を形成する掘削工程と、
前記杭孔に杭周固定液を充填する杭周固定液充填工程と、
前記杭孔の下端部に根固め液を充填する根固め液充填工程と、
前記杭孔に既製杭を挿入する既製杭挿入工程と、を備え、
前記掘削工程にて、前記地盤中の支持層の上側表面に到達した時点で前記杭孔の掘削を停止し、その後、前記杭孔の前記下端部の軟弱層部分のみ直径を拡大して掘削し、
前記既製杭挿入工程では、前記既製杭の下端を前記支持層の上側表面に当接させ、
前記既製杭の下端が前記支持層の上側表面に当接した状態で前記根固め液を硬化させ
前記根固め液が硬化して形成される根固め部の下端を前記支持層の上側表面に当接させ、
前記支持層は不陸を有し、
前記掘削工程にて前記地盤に複数の前記杭孔を形成し、
前記複数の杭孔の長さは前記支持層の不陸に応じて相互に異なっている
ことを特徴とする杭基礎の構築方法。
【請求項2】
前記軟弱層のN値は30未満であることを特徴とする請求項1に記載の杭基礎の構築方法。
【請求項3】
地盤に形成された杭孔と、
前記杭孔に挿入された既製杭と、
前記杭孔の下端部に設けられ、前記既製杭の下端部を囲む根固め部と、
を備え、
前記杭孔の下端は、軟弱層と支持層の境界に位置し、
前記杭孔の直径は、前記杭孔の下端部の前記軟弱層部分のみ拡大されており、
前記既製杭の下端は、前記支持層の上側表面に当接し
前記根固め部の下端は、前記支持層の上側表面に当接し、
前記支持層は不陸を有し、
前記地盤には複数の前記杭孔が形成され、
前記複数の杭孔の長さは前記支持層の不陸に応じて相互に異なっている
ことを特徴とする杭基礎。
【請求項4】
前記軟弱層のN値は30未満であることを特徴とする請求項に記載の杭基礎。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は杭基礎の構築方法及び杭基礎に関する。
【背景技術】
【0002】
既製杭を用いて杭基礎を構築する場合、一般的に杭周固定液を注入した後に根固め液を注入する。そして、既製杭の先端(下端)が根固め液内の所定の深度に到達するまで既製杭を杭孔内に沈める。この後、根固め液が硬化することにより、既製杭の先端部を囲むように円柱形状の根固め部が形成される。
根固め部内への既製杭の根入れ深さは、例えば、既製杭の直径の3倍程度に設定され、根固め部において既製杭の先端よりも深い部分の長さは、既製杭の直径の2倍程度に設定される。
【0003】
一方、特許文献1が開示する先端地盤改良杭は、既製杭と、既製杭の先端以深の支持層内に形成されたセメント柱又はモルタル柱とからなり、セメント柱又はモルタル柱は、その周面摩擦力を既製杭の支持力とみなされるように形成されている。特許文献1によれば、支持層の深さが一定でない場合、それに対応して杭孔の深さも変化するが、ソイルセメント柱の径と長さ(余掘り部の部分の長さ)を調節することにより、既製杭の長さを変えずに、既製杭の先端支持力を同等に設定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−332262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1が開示する先端地盤改良杭の設計方法では、各杭孔は、支持層の深さにかかわらずに、支持層の内部まで到達しており、杭孔形成のために支持層が掘削されている。この場合、支持層は一般的に硬いため、支持層の掘削には時間を要するという問題がある。一方、支持層をわざわざ掘削せずとも、杭の先端支持力を確保可能な場合がある。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態の目的は、支持層の掘削を回避することにより杭孔の掘削を容易にしながら、必要最低限の杭先端支持力を確実に確保可能な杭基礎の構築方法及び杭基礎を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る杭基礎の構築方法は、
地盤に杭孔を形成する掘削工程と、
前記杭孔に杭周固定液を充填する杭周固定液充填工程と、
前記杭孔の下端部に根固め液を充填する根固め液充填工程と、
前記杭孔に既製杭を挿入する既製杭挿入工程と、を備え、
前記掘削工程にて、前記地盤中の支持層の上側表面に到達した時点で前記杭孔の掘削を停止し、その後、前記杭孔の前記下端部の軟弱層部分のみ直径を拡大して掘削し、
前記既製杭挿入工程では、前記既製杭の下端を前記支持層の上側表面に当接させ、
前記既製杭の下端が前記支持層の上側表面に当接した状態で前記根固め液を硬化させ、
前記根固め液が硬化して形成される根固め部の下端を前記支持層の上側表面に当接させ、
前記支持層は不陸を有し、
前記掘削工程にて前記地盤に複数の前記杭孔を形成し、
前記複数の杭孔の長さは前記支持層の不陸に応じて相互に異なっている。
【0008】
上記構成(1)によれば、支持層に到達した時点で杭孔の掘削を停止するので、支持層を掘削する必要がなく、掘削に要する時間を短縮することができる。一方、上記構成(1)によれば、既製杭の下端を支持層に当接させるので、既製杭が支持層によって確実に支持される。このため、必要最低限の杭先端支持力を確実に確保することができる。
そして、上記構成(1)によれば、杭孔の下端部が拡大されたことにより、杭基礎の根固め部が拡大され、根固め部の周面摩擦力が増大する。これにより、より大きな杭先端支持力を確保することができる。
【0009】
(2)幾つかの実施形態では、上記構成(1)において、
前記軟弱層のN値は30未満である。
【0011】
)本発明の少なくとも一実施形態に係る杭基礎は、
地盤に形成された杭孔と、
前記杭孔の下端部に設けられ、前記杭孔に挿入された既製杭と、
前記既製杭の下端部を囲む根固め部と、
を備え、
前記杭孔の下端は、軟弱層と支持層の境界に位置し、
前記杭孔の直径は、前記杭孔の下端部の前記軟弱層部分のみ拡大されており、
前記既製杭の下端は、前記支持層の上側表面に当接し
前記根固め部の下端は、前記支持層の上側表面に当接し、
前記支持層は不陸を有し、
前記地盤には複数の前記杭孔が形成され、
前記複数の杭孔の長さは前記支持層の不陸に応じて相互に異なっている。
【0012】
上記構成()によれば、杭基礎の構築の際、支持層に到達した時点で杭孔の掘削を停止してもよいので、支持層を掘削する必要がなく、掘削に要する時間を短縮することができる。一方、上記構成()によれば、既製杭の下端が支持層に当接しているので、既製杭が支持層によって確実に支持される。このため、必要最低限の杭先端支持力を確実に確保することができる。
そして、上記構成(3)によれば、杭孔の下端部が拡大されたことにより、杭基礎の根固め部が拡大され、根固め部の周面摩擦力が増大する。これにより、より大きな杭先端支持力を確保することができる。
【0013】
)幾つかの実施形態では、上記構成()において、
前記軟弱層のN値は30未満である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、支持層の掘削を回避することにより杭孔の掘削を容易にしながら、必要最低限の杭先端支持力を確実に確保可能な杭基礎の構築方法及び杭基礎が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る杭基礎の構築方法が適用された構造体の概略的な構成を示す図である。
図2図1の領域IIの概略的な拡大図である。
図3】本発明の一実施形態に係る杭基礎の構築方法の概略的な手順を示すフローチャートである。
図4図3の杭基礎の構築方法の各工程を説明するための図である。
図5】他の実施形態に係る杭基礎の図2に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0018】
図1は、構造体1の概略的な構成を示す図である。構造体1は、本発明の一実施形態に係る杭基礎2と、杭基礎2によって支持された上部構造4とを有する。杭基礎2は、複数の既製杭6によって構成されている。
【0019】
図2は、図1中の領域IIを拡大して示す図であり、既製杭6の下端部及びその周辺を概略的に示す断面図である。例えば、既製杭6は、中空円筒形状を有し、図示しないけれども、既製杭6の両端に配置される端板と端板間に挟まれた中空円筒形状のコンクリートによって構成されている。
【0020】
既製杭6は、地盤に掘られた杭孔8に埋設されている。杭孔8の下端は、地盤中の軟弱層10と支持層12との境界、即ち支持層12の上側表面に位置している。例えば、軟弱層10とは30未満のN値を有する地層であり、支持層12とは30以上のN値を有する砂、礫又は砂礫からなる地層である。軟弱層10と支持層12との境界でのN値の変化は不連続である必要はなく、N値が連続的に変化していてもよい。
【0021】
既製杭6の下端部は、根固め部14によって囲まれている。根固め部14は例えばセメントによって構成されている。根固め部14の外形形状は円筒形状である。根固め部14よりも上方の既製杭6の部分は、杭周部16によって囲まれている。杭周部16は例えばソイルセメントによって構成されている。
なお、既製杭6が中空の場合、根固め部14及び杭周部16をそれぞれ構成するセメント及びソイルセメントは、既製杭6の内部にも充填される。
そして、既製杭6の下端は支持層12に当接している。
【0022】
図3は、本発明の一実施形態に係る杭基礎の構築方法の概略的な手順を示すフローチャートである。図4は、杭基礎の構築方法の各工程を概略的に説明するための図である。
図3に示したように、杭基礎の構築方法は、掘削工程S1、杭周固定液充填工程S2、根固め液充填工程S3、及び、既製杭挿入工程S4を有している。
掘削工程S1では、図4(a)及び図4(b)に示すように、掘削機18を用いて地盤を掘削し、地盤に杭孔8を形成する。
ここで、掘削工程S1にて、図4(b)に示したように、地盤中の支持層12に到達した時点で杭孔8の掘削を停止する。
【0023】
杭周固定液充填工程S2では、杭孔8に杭周固定液20を溜める。そのために、例えば、図4(b)に示したように地盤を掘削しながら、掘削機18の先端から掘削中の杭孔8内に杭周固定液20を注入する。掘削された土壌と杭周固定液20とが掘削機18によって混合攪拌される。
【0024】
次に、根固め液充填工程S3では、杭孔8の下端部に根固め液22を充填する。そのために、例えば図4(c)に示したように、杭周固定液20の下部に根固め液22を充填して根固め液22に置換する。この場合、掘削機18の先端から、杭孔8の下端部に根固め液22を注入する。
この後、図4(d)に示したように、掘削機18を杭孔8から引き上げ、既製杭挿入工程S4を実施する。なお、掘削機18を杭孔8から引き上げる際、掘削機18にて杭周固定液20を攪拌するとともに、更に杭周固定液20を注入してもよい。
既製杭挿入工程S4では、図4(e)及び図4(f)に示したように、例えば杭打ち機24を使って、杭孔8に既製杭6を挿入する。
【0025】
そして、既製杭挿入工程S4では、既製杭6の下端を支持層12に当接させ、既製杭6の下端が支持層12に当接した状態で根固め液22を硬化させる。根固め液22が硬化すると根固め部14を構成し、杭周固定液20が硬化すると杭周部16を構成する。
従って、支持層12が浅ければ杭孔8が浅くなって既製杭6が短くなり、支持層12が深ければ杭孔8が深くなって既製杭6が長くなる。
【0026】
上記構成によれば、支持層12に到達した時点で杭孔8の掘削を停止するので、軟弱層10に比べて硬い支持層12を掘削する必要がなく、掘削に要する時間を短縮することができる。一方、上記構成によれば、既製杭6の下端を支持層12に当接させるので、既製杭6が支持層12によって確実に支持される。このため、必要最低限の杭先端支持力を確実に確保することができる。
なお、杭孔8が支持層12に到達したか否かは、掘削機18の駆動装置(電動モータや油圧モータ)に作用する抵抗値(電動モータの電流値や油圧モータの油圧値)に基づいて判定することが可能である。
【0027】
幾つかの実施形態では、図2及び図4に示したように、杭孔8の直径は、長手方向全体に渡って一定である。
上記構成によれば、杭孔8の直径が一定であるので、杭孔8の下端部を拡大する必要がなく、より短期間で杭基礎2を構築可能である。
【0028】
最後に、本発明は上述した幾つかの実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
例えば、上述した実施形態では、杭周固定液充填工程S2の後に根固め液充填工程S3を実施する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、根固め液充填工程S3の後に杭周固定液充填工程S2を実施してもよい。つまり、杭周固定液充填工程S2及び根固め液充填工程S3の順序に拘わらずに、杭周固定液充填工程S2及び根固め液充填工程S3の後に、杭孔8の下端部に根固め液22が充填され、根固め液22よりも上方に杭周固定液20が充填されていればよい。
また例えば、図5に示したように、杭孔8の直径は下端部にて拡大されていてもよい。つまり、杭孔8の上端部や中間部の直径よりも、杭孔8の下端部の直径の方が大きくてもよい。この場合、根固め部26の直径が、杭周部16の直径よりも大きくなる。
上記構成によれば、杭孔8の下端部が拡大されたことにより、杭基礎2の根固め部26が拡大され、根固め部26の周面摩擦力が増大する。これにより、より大きな杭先端支持力を確保することができる。
なお、杭孔8の下端部を拡大する場合、真っ直ぐな杭孔8を掘った後、拡底用の掘削機を用いて杭孔8の下端部のみ直径を拡大することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 構造体
2 杭基礎
4 上部構造
6 既製杭
8 杭孔
10 軟弱層
12 支持層
14,26 根固め部
16 杭周部
18 掘削機
20 杭周固定液
22 根固め液
24 杭打ち機
図1
図2
図3
図4
図5