(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885670
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】建物構造
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20210603BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
E04H9/02 331E
F16F15/02 Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-249451(P2015-249451)
(22)【出願日】2015年12月22日
(65)【公開番号】特開2017-115343(P2017-115343A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年12月6日
【審判番号】不服2020-9086(P2020-9086/J1)
【審判請求日】2020年6月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】303046244
【氏名又は名称】旭化成ホームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100133307
【弁理士】
【氏名又は名称】西本 博之
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛
(72)【発明者】
【氏名】小山 雅人
【合議体】
【審判長】
住田 秀弘
【審判官】
袴田 知弘
【審判官】
西田 秀彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−50693(JP,A)
【文献】
特開2008−156945(JP,A)
【文献】
特開平9−242382(JP,A)
【文献】
特開2008−248673(JP,A)
【文献】
特開2005−105747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00-9/16, F16L 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎と、
前記基礎上に建てられる上部構造体と、
前記基礎と前記上部構造体とを連結するトリガーと、
を備え、
前記トリガーの破断強度は、前記上部構造体に水平荷重が加わった場合における、建物に必要な強度が規定されている設計規準に基づいて設計した場合の前記上部構造体の設計上の降伏耐力よりも大きく、前記上部構造体に水平荷重が加わった場合における、前記上部構造体の真の降伏耐力よりも小さい、建物構造。
【請求項2】
前記基礎上において前記上部構造体を水平移動可能に支持する滑り支承と、
前記基礎に対する前記上部構造体の水平移動を抑制するダンパーと、を更に備える、請求項1に記載の建物構造。
【請求項3】
前記滑り支承は、滑り板と、前記滑り板の上面又は下面に対して滑動可能に当接する本体部と、を備え、
前記滑り板と前記本体部との摩擦係数は、0.1以上0.2以下である、請求項2に記載の建物構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一側面は、建物構造に関する。
【背景技術】
【0002】
地震に備えた建物の構造として、例えば、免震構造の建物がある。免震構造の建物には、基礎と、基礎上に建てられた上部構造体との間に免震装置が備えられている。免震装置は、上部構造体に加わる荷重を低減する機能を有している。このような免震装置を備える建物が、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−100929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、免震装置を備える建物には、風や小さな振動等によって上部構造体が揺れないように、上部構造体と基礎とをつなぐトリガーが設けられている。このトリガーは、風や小さな振動等による上部構造体の揺れを防止することを目的としている。このため、地震による揺れが発生した場合にはトリガーが破断し、建物の免震機能が発揮される。すなわち、地震が発生した場合には積極的にトリガーを破断させて免震機能を発揮させる構成であるため、地震が発生した場合においてトリガーが破断する頻度が高い。しかしながら、トリガーが破断すると、基礎と上部構造体とが相対的に移動するため、配管設備等の破損が生じることがある。
【0005】
そこで、本発明の一側面は、免震構造の建物において配管設備等の破損の頻度を抑制することができる建物構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る建物構造は、基礎と、基礎上に建てられる上部構造体と、基礎と上部構造体とを連結するトリガーと、を備え、トリガーの破断強度は、上部構造体に水平荷重が加わった場合における上部構造体の設計上の降伏耐力よりも大きく、上部構造体に水平荷重が加わった場合における上部構造体の真の降伏耐力よりも小さい。
【0007】
この建物構造において、トリガーの破断強度は、上部構造体に水平荷重が加わった場合における上部構造体の設計上の降伏耐力よりも大きい。このため、従来のトリガーでは破断するような規模の地震が生じても、本発明のトリガーは破断しない。すなわち、地震が生じたとしても、従来に比べてトリガーの破断の頻度を低くすることができる。トリガーの破断の頻度を低くすることができるため、配管設備等の破損の頻度を抑制することができる。また、上部構造体の真の降伏耐力を超えるような地震が発生した場合には、トリガーが破断して基礎と上部構造体との連結が解除されるため、上部構造体は免震状態となる。これにより、免震機能が発揮され、上部構造体の破損を防止できる。上部構造体の真の降伏耐力を超えるような地震が発生したことによってトリガーが破断すると、免震機能が発揮されて上部構造体が移動することにより、配管設備等が破損することがある。しかしながら、大きな地震が発生した場合には、水道やガス等のインフラ設備自体がそもそも機能していないことが考えられる。従って、このような場合には、トリガーの機能を維持させて配管設備等の破損を防ぐよりも、トリガーを破断させて免震機能によって上部構造体の損傷を抑制する方が好適である。
【0008】
本発明の他の側面に係る建物構造は、基礎と、基礎上に建てられる上部構造体と、基礎と上部構造体とを連結するトリガーと、を備え、トリガーの破断強度は、上部構造体に水平荷重が加わった場合における上部構造体の設計上の降伏耐力を1.05倍した値よりも大きい。
【0009】
この建物構造において、トリガーの破断強度が上部構造体の設計上の降伏耐力を1.05倍した値よりも大きいため、従来のトリガーでは破断するような規模の地震が生じても、本発明のトリガーは破断しない。すなわち、地震が生じたとしても、従来に比べてトリガーの破断の頻度を低くすることができる。トリガーの破断の頻度を低くすることができるため、配管設備等の破損の頻度を抑制することができる。
【0010】
建物構造は、基礎上において上部構造体を水平移動可能に支持する滑り支承と、基礎に対する上部構造体の水平移動を抑制するダンパーと、を更に備えていてもよい。トリガーが破断した場合、滑り支承とダンパーとによって上部構造体は免震状態に移行することができる。従って、設計規準によって規定された水平荷重を超える水平荷重が上部構造体に加わった場合であっても、上部構造体を適切に免震状態とすることができる。
【0011】
滑り支承は、滑り板と、滑り板の上面又は下面に対して滑動可能に当接する本体部と、を備え、滑り板と本体部との摩擦係数は、0.1以上0.2以下であってもよい。これにより、トリガーが破断するような大きな水平荷重が上部構造体に加わった場合であっても、免震状態に移行した上部構造体の滑動変位量を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の種々の側面によれば、免震構造の建物において配管設備等の破損の頻度を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る建物の概略構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の建物構造を適用した建物の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1に示すように、建物1は、例えば、二階建て或いは三階建て等の住宅である。建物1は、上部構造体10、免震装置20、及び基礎30を有している。基礎30は、地盤G上に設置され、上部構造体10等を支持する。
【0016】
上部構造体10は、基礎30上に建てられており、内部に居室等の室内空間を有している。上部構造体10は、予め定められた設計規準に基づいて設計及び構築されている。ここで、予め定められた設計規準とは、日本における建築基準法、又は外国における建物に関する法律等、建物が満たすべき強度に関する基準を含む種々の法令又は定め等であってもよい。上部構造体10は、設計規準に示された強度に関する基準を満たし、耐震構造(制振構造)を実現できる構造であれば、種々の構造を採用できる。
【0017】
ここで、水平方向に荷重が加わった場合における上部構造体10の降伏耐力として、設計上の降伏耐力と、真の降伏耐力とがある。設計上の降伏耐力とは、設計規準に基づいて設計した場合の設計上の降伏耐力である。なお、設計規準では、建物に必要な強度(耐えることのできる水平荷重)が規定されている。このため、設計規準に基づいて建物を設計することとは、設計規準に規定された建物に必要な強度を満たすように設計することをいう。すなわち、設計上の降伏耐力は、設計規準によって要求される強度を満たしている。設計上の降伏耐力とは、例えば、非構造部材の耐力を除外して、構造部材の耐力に基づいて算出されていてもよい。或いは、設計上の降伏耐力とは、例えば、上部構造体10を構成する各部材のばらつきを考慮して算出されていてもよい。
【0018】
図2において、建物1に加わる水平荷重と上部構造体10の層間変形との設計規準に基づく設計上の関係を、グラフA1で示す。グラフA1に示すように、建物1の上部構造体10に加わる水平荷重の増加に伴って、上部構造体10の層間変形が進行する。水平荷重がある荷重に達すると、水平荷重が一定のまま層間変形のみが進行する(すなわち、グラフA1が水平になる状態)。このときの水平荷重が、設計上の降伏耐力Aとなる。
【0019】
真の降伏耐力とは、上部構造体10の実際の降伏耐力である。実際の降伏耐力とは、非構造部材の耐力も考慮して算出されていてもよい。真の降伏耐力は、計算によって算出されてもよく、建物に実際に水平荷重を加えることによって測定されてもよい。
【0020】
図2において、建物1に加わる水平荷重と層間変形との実際の関係を、グラフB1で示す。グラフB1に示すように、建物1の上部構造体10に加わる水平荷重の増加に伴って、上部構造体10の層間変形が進行する。水平荷重がある荷重に達すると、水平荷重が一定のまま層間変形のみが進行する(すなわち、グラフB1が水平になる状態)。このときの水平荷重が、真の降伏耐力Bとなる。真の降伏耐力Bは、設計上の降伏耐力Aよりも大きい。
【0021】
免震装置20は、基礎30と上部構造体10との間に設置される。免震装置20は、滑り支承21、ダンパー22、及びトリガー23を有している。
【0022】
滑り支承21は、上部構造体10の重量を基礎に伝達する。更に、滑り支承21は、上部構造体10を基礎30上で水平方向に移動させる。具体的には、滑り支承21は、滑り板21a、及び本体部21bを有している。滑り板21aは、基礎30の上面に固定されている。本体部21bは、上部構造体10を支持すると共に上部構造体10の下部に固定されている。本体部21bは、滑り板21aの上面に当接し、滑り板21aの上面で滑動することができる。滑り板21aと本体部21bとの摩擦係数は、0.1以上0.2以下とすることができる。滑り支承21は、上部構造体10が滑動可能であれば種々の構造の滑り支承を用いることができる。例えば、滑り板21aが上部構造体10の下部に固定され、本体部21bが基礎30の上面に固定されていてもよい。この場合、滑り板21aの下面が滑り板21aの上面に滑動可能に当接することによって、滑り板21aは、本体部21bの上面で滑動する。
【0023】
ダンパー22は、滑り支承21によって水平移動する上部構造体10の移動を制限する。ダンパー22による上部構造体10の移動の制限とは、上部構造体10の移動速度の抑制、及び移動範囲の制限を含んでいてもよい。ダンパー22として、例えば、オイルダンパー、鋼材ダンパー等、種々のダンパーを用いることができる。ダンパー22は、滑り支承21によって水平方向に活動する上部構造体10の移動範囲を、一例として約350mm以下に制限してもよい。
【0024】
トリガー23は、上部構造体10と基礎30とを連結する。トリガー23は、上部構造体10と基礎30とを連結した状態において、滑り支承21による上部構造体10の水平移動を規制する。また、トリガー23は、所定の水平荷重が上部構造体10に加わった場合に破断する。トリガー23の破断強度Cは、
図2に示すように、水平荷重が加わった場合における上部構造体10の設計上の降伏耐力Aよりも大きく、水平荷重が加わった場合における上部構造体10の真の降伏耐力Bよりも小さい。トリガー23は、一例として、破断可能な金属製の部材等を用いることができる。なお、トリガー23として、破断式以外のトリガーを用いてもよい。例えば、トリガー23として、上部構造体10と基礎30との結合が機械的に解除されるトリガーを用いてもよい。
【0025】
次に、上部構造体10に水平荷重が加わった場合の各部の状態について説明する。上部構造体10に加わる水平荷重がトリガー23の破断強度を超えるまでは、トリガー23によって上部構造体10と基礎30とが連結されている。すなわち、設計規準に基づいて設計された上部構造体10の構成によって、上部構造体10は耐震構造(制振構造)として修復性を発揮する。このように、設計規準で規定された地震(極めて稀に起きる地震)までは、建物1は耐震構造(制振構造)として損傷を抑制する。
【0026】
一方、上部構造体10に対してトリガー23の破断強度を超える水平荷重が加わった場合、トリガー23が破断する。この場合、上部構造体10は、ダンパー22によって移動が制限されつつ、滑り支承21によって水平移動する。すなわち、上部構造体10は免震状態として修復性を発揮する。このように、設計規準で規定された地震を超える地震(極めて大きな地震)が生じた場合、建物1は免震状態として損傷を抑制する。
【0027】
なお、滑り支承21及びダンパー22が動作する場合とは、設計規準で規定された地震を超える地震が生じた場合である。このため、設計規準で定められた免震構造において用いられる滑り支承の摩擦係数(滑り板と本体部との摩擦係数)よりも、本実施形態における滑り支承21の摩擦係数(滑り板21aと本体部21bとの摩擦係数)の方が大きい。また、免震構造において用いられるダンパーの抵抗力よりも、本実施形態におけるダンパー22の抵抗力の方が大きい。これらにより、設計規準で規定された地震を超える地震が生じ、トリガー23が破断した場合であっても、免震状態に移行した上部構造体10の水平移動を抑制できる。
【0028】
ここで、トリガー23が破断した場合における上部構造体10の水平移動を、ワイヤー等で引っ張って強制的に止めることが考えられる。しかしながら、上部構造体10が水平移動したことによってワイヤーが弛んだ状態から張った状態になると、ワイヤーが張った状態になったときに上部構造体10に大きな衝撃力が加わる。この衝撃力によって、上部構造体10が損傷することが考えられる。また、水平移動を強制的に止めるワイヤー等を有していない場合、上部構造体10の水平方向の移動量が、滑り支承21が許容する移動量を超えてしまうことがある。この場合、滑り支承21の本体部21bが滑り板21aから外れる等により、上部構造体10を元の位置に戻すことができなくなることが考えられる。或いは、上部構造体10の水平方向の移動量が大きいために、上部構造体10が隣地の建物等に衝突してしまうことも考えられる。このため、本実施形態の建物1は、上述した構成の滑り支承21及びダンパー22を用いて上部構造体10の水平移動を抑制することで、通常の免震構造の建物よりも上部構造体10の損傷を抑制することができる。
【0029】
本実施形態は以上のように構成され、トリガー23の破断強度は、上部構造体10に水平荷重が加わった場合における上部構造体10の設計上の降伏耐力よりも大きい。このため、従来のトリガーでは破断するような規模の地震が生じても、本実施形態のトリガー23は破断しない。すなわち、地震が生じたとしても、従来に比べてトリガーの破断の頻度を低くすることができる。トリガー23の破断の頻度を低くすることができるため、配管設備等の破損の頻度を抑制することができる。また、上部構造体10の真の降伏耐力を超えるような地震が発生した場合には、トリガー23が破断して基礎30と上部構造体10との連結が解除されるため、上部構造体10は免震状態となる。これにより、免震機能が発揮され、上部構造体10の破損を防止できる。上部構造体10の真の降伏耐力を超えるような地震が発生したことによってトリガー23が破断すると、免震機能が発揮されて上部構造体10が移動することにより、配管設備等が破損することがある。しかしながら、大きな地震が発生した場合には、水道やガス等のインフラ設備自体がそもそも機能していないことが考えられる。従って、このような場合には、トリガー23の機能を維持させて配管設備等の破損を防ぐよりも、トリガー23を破断させて免震機能によって上部構造体10の損傷を抑制する方が好適である。
【0030】
また、トリガー23は、上部構造体10の設計上の降伏耐力よりも大きな水平荷重が上部構造体10に加わった場合に破断する。すなわち、トリガー23が破断する前の状態においては、設計規準に基づいて設計された上部構造体10の構成によって、上部構造体10は耐震構造(制振構造)として修復性を発揮する。一方、トリガー23が破断した状態においては、基礎30と上部構造体10との連結が解除されるため、上部構造体10は免震状態として修復性を発揮する。このように、建物1は、トリガー23の破断前、すなわち設計規準によって規定された水平荷重の範囲内においては、制限の少ない耐震構造(制振構造)として機能する。言い換えると、建物1は、設計規準によって規定された強度を耐震構造(制振構造)として満たしているため、設計規準における免震構造に関する種々の制限を受けない。また、設計規準上は、耐震構造(制振構造)の建物1となるため、種々の制限を受ける免震構造の建物の場合と比べて、建物1が所定条件を満たしているか等の確認のための申請が容易となる。以上のように、建物1の建物構造によれば、免震構造の思想を取り入れつつ、仕様の制限を受けることを抑制することができる。
【0031】
また、トリガー23は、上部構造体10に加わる水平荷重が上部構造体10の真の降伏耐力を超える前に破断する。すなわち上部構造体10の層間変形が大きく進行する前にトリガー23が破断する。これにより、設計規準によって規定された水平荷重を超える水平荷重が上部構造体10に加わった場合であっても、上部構造体10は免震状態として修復性を発揮することができる。
【0032】
免震装置20は、滑り支承21と、ダンパー22とを有している。これにより、トリガー23が破断した場合、滑り支承21とダンパー22とによって上部構造体10は免震状態に移行することができる。従って、設計規準によって規定された水平荷重を超える水平荷重が上部構造体10に加わった場合であっても、上部構造体10を適切に免震状態とすることができる。
【0033】
滑り板21aと本体部21bとの摩擦係数は、0.1以上0.2以下とする。この場合、トリガー23が破断するような大きな水平荷重が上部構造体10に加わった場合であっても、免震状態に移行した上部構造体10の滑動変位量を抑制することができる。
【0034】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、トリガー23の破断強度は、設計上の降伏耐力Aのみに基づいて設定されていてもよい。具体的には、トリガー23の破断強度は、水平荷重が加わった場合における上部構造体10の設計上の降伏耐力Aを1.05倍した値よりも大きい値に設定する。この場合であっても、上記実施形態と同様に、トリガー23の破断強度が上部構造体10の設計上の降伏耐力を1.05倍した値よりも大きいため、従来のトリガーでは破断するような規模の地震が生じても、本実施形態のトリガー23は破断しない。すなわち、地震が生じたとしても、従来に比べてトリガーの破断の頻度を低くすることができる。トリガー23の破断の頻度を低くすることができるため、配管設備等の破損の頻度を抑制することができる。また、上記実施形態と同様に、建物は、設計規準によって規定された強度を耐震構造(制振構造)として満たしているため、設計規準における免震構造に関する種々の制限を受けない。従って、この建物の建物構造によれば、免震構造の思想を取り入れつつ、仕様の制限を受けることを抑制することができる。なお、上部構造体10の真の降伏耐力Bが、設計上の降伏耐力Aに対して余裕がある(十分に大きい)場合がある。この場合、トリガー23として、上部構造体10の設計上の降伏耐力Aを1.25倍した値よりも大きい破断強度を有するトリガー、或いは、1.5倍した値よりも大きい破断強度を有するトリガーを用いることができる。
【0035】
なお、上部構造体10を免震状態とするために、滑り支承21とダンパー22とを用いることは必須ではなく、他の免震装置を用いてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1…建物、10…上部構造体、20…免震装置、21…滑り支承、21a…滑り板、21b…本体部、22…ダンパー、23…トリガー、30…基礎、A…設計上の降伏耐力、B…真の降伏耐力、C…破断強度。