特許第6885681号(P6885681)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885681
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】掘削ずりの最大粒度の決定方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/00 20060101AFI20210603BHJP
   E02F 7/00 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   B09B3/00 304Z
   B09B3/00 ZZAB
   E02F7/00 C
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-124008(P2016-124008)
(22)【出願日】2016年6月22日
(65)【公開番号】特開2017-225936(P2017-225936A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2019年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】天本 優作
(72)【発明者】
【氏名】松山 祐介
(72)【発明者】
【氏名】杉山 彰徳
【審査官】 齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−207698(JP,A)
【文献】 特開平10−249325(JP,A)
【文献】 特開2010−172813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B1/00−5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削ずり、または、該掘削ずりを破砕してなる掘削ずり破砕物からなる処理対象物に、マグネシウムを主成分として含む不溶化材を添加して、上記処理対象物に含まれている有害物質を不溶化する際に、上記有害物質の溶出量基準を満たす不溶化が可能であるように、上記処理対象物の最大粒度を決定するための方法であって、
上記処理対象物と同じ種類の掘削ずりからなる試料である掘削ずりを粉砕して、最大粒度が5mm以下である粒度分布を有するように粒度が調整された粒度調整ずりを得る粉砕工程と、
上記粒度調整ずりを用いて、上記不溶化材の添加量と、上記有害物質の溶出量の関係を求め、該関係に基いて、上記有害物質の溶出量基準の値に対応する上記不溶化材の添加量である不溶化材基準量を定める不溶化材基準量決定工程と、
上記不溶化材基準量以上の量の不溶化材が、上記処理対象物を構成する粒体に付着するように、処理時に上記処理対象物が有するべき最大粒度を決定する最大粒度決定工程、
を含み、
上記最大粒度決定工程が、以下の(a)〜(c)からなり、
以下の(b)における上記不溶化材の添加量が、以下の(i)〜(iii)からなる手順によって定められることを特徴とする掘削ずりの最大粒度の決定方法。
(a)上記処理対象物を複数の粒度範囲区分に分画すること
(b)上記(a)で得た複数の粒度範囲区分の各々について、上記不溶化材基準量以上の量の不溶化材が、上記粒度範囲区分を構成する粒体に付着するように、上記不溶化材の添加量を定めること
(c)上記不溶化材を上記(b)で定めた添加量で用いることを前提として、上記複数の粒度範囲区分の各々における上限値を、該粒度範囲区分における上記処理対象物の最大粒度として定めること
(i)上記粒度調整ずりにおける、上記不溶化材の添加量と上記不溶化材に含まれている上記主成分であるマグネシウムの量の関係を求めること
(ii)上記複数の粒度範囲区分の各々について、(イ)不溶化材の添加量と、(ロ)上記(イ)の添加量に対応する、上記粒度範囲区分を構成する粒体への不溶化材の付着量であって、該付着量に含まれている上記主成分であるマグネシウムの量を、上記(i)の関係に適用することによって決定される、上記(i)の関係における上記不溶化材の添加量と一致する、不溶化材の付着量、の関係を求めること
(iii)上記(ii)において、上記(ロ)の不溶化材の付着量が、上記不溶化材基準量以上の量である場合に、該不溶化材の付着量に対応する上記(イ)の不溶化材の添加量を、上記(b)における上記不溶化材の添加量として定めること
【請求項2】
掘削ずり、または、該掘削ずりを破砕してなる掘削ずり破砕物からなる処理対象物に、マグネシウムを主成分として含む不溶化材を添加して、上記処理対象物に含まれている有害物質を不溶化する際に、上記有害物質の溶出量基準を満たす不溶化が可能であるように、上記処理対象物の最大粒度を決定するための方法であって、
上記処理対象物と同じ種類の掘削ずりからなる試料である掘削ずりを粉砕して、最大粒度が5mm以下である粒度分布を有するように粒度が調整された粒度調整ずりを得る粉砕工程と、
上記粒度調整ずりを用いて、上記不溶化材の添加量と、上記有害物質の溶出量の関係を求め、該関係に基いて、上記有害物質の溶出量基準の値に対応する上記不溶化材の添加量である不溶化材基準量を定める不溶化材基準量決定工程と、
上記不溶化材基準量以上の量の不溶化材が、上記処理対象物を構成する粒体に付着するように、処理時に上記処理対象物が有するべき最大粒度を決定する最大粒度決定工程、
を含み、
上記最大粒度決定工程が、以下の(d)〜(f)からなることを特徴とする掘削ずりの最大粒度の決定方法。
(d)上記処理対象物を構成する種々の粒度範囲から、複数の粒度範囲を選択すること
(e)上記(d)で選択した上記複数の粒度範囲の各々に属する表乾状態の粒体に、上記不溶化材を、十分な量でかつ上記不溶化材からなる余分に付着した凝集物を落として付着させ、上記複数の粒度範囲と、上記不溶化材の付着量の関係を求めること
(f)上記(e)の関係において、上記不溶化材の付着量が上記不溶化材基準量と一致するときの上記粒度範囲を決定し、該決定された粒度範囲の上限値を、上記処理対象物の最大粒度として定めること
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削ずりに含まれている有害物質(重金属類等)を不溶化するに際して、不溶化の処理を効率的にかつ十分に行なうための、掘削ずりの最大粒度の決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工場、事業所、産業廃棄物処理場の跡地などにおいて、土壌が鉛、6価クロム、ヒ素等の重金属類やフッ素等(以下、「重金属類等」ともいう。)で汚染されていることが、しばしば報告されている。
汚染土壌中の重金属類等を不溶化して、これら重金属類等が土壌から溶出するのを抑制するための技術が種々提案されている。
例えば、特許文献1に、酸化マグネシウムを含んで成ることを特徴とする重金属溶出抑制固化材が提案されている。
【0003】
また、特許文献2に、以下の条件(a)〜(c)をすべて満たすマグネシウム系材料からなる粉末、を含むことを特徴とする不溶化材が提案されている。
(a)炭酸マグネシウムを主成分とする鉱物を650〜1,000℃で焼成して得た酸化マグネシウムと炭酸マグネシウムとを含む焼成物を、当該焼成物の一部が水酸化マグネシウムになるように水和したものであること
(b)カルシウムの酸化物換算の含有量が3.0質量%以下であること
(c)1,000℃における強熱減量率が6〜30質量%であること
また、特許文献3に、土壌に対してpH11以上の強アルカリ域とならない状態で使用される特定有害物質の不溶化材であって、非晶質アルミニウム化合物又はその誘導体を主成分とすることを特徴とする特定有害物質の不溶化材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−117532号公報
【特許文献2】特開2010−131517号公報
【特許文献3】特開2013−227554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
土木工事で発生する掘削ずりの中には、重金属類等を高い含有率で含むものがある。この場合、掘削ずりに含まれている重金属類等を不溶化して、重金属類等の漏出および拡散を抑制することが望まれている。
本発明の目的は、掘削ずりに含まれている有害物質(重金属類等)を不溶化するに際して、不溶化の処理を効率的にかつ十分に行なうための、掘削ずりの最大粒度の決定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、掘削ずりを粉砕して、特定の粒度分布を有するように粒度が調整された粒度調整ずりを得た後、この粒度調整ずりを用いて、不溶化材の添加量と有害物質(重金属類等)の溶出量の関係を求め、次いで、該関係に基いて、有害物質の溶出量基準の値に対応する不溶化材の添加量である不溶化材基準量を定めること、および、この不溶化材基準量以上の量の不溶化材が、処理対象物である掘削ずりまたは掘削ずり破砕物を構成する粒体に付着するように、処理対象物(掘削ずりまたは掘削ずり破砕物)の最大粒度を決定することによれば、不溶化の処理を効率的にかつ十分に行なうことができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
本発明は、以下の[1]〜[4]を提供するものである。
[1] 掘削ずり、または、該掘削ずりを破砕してなる掘削ずり破砕物からなる処理対象物に、不溶化材を添加して、上記処理対象物に含まれている有害物質を不溶化する際に、上記有害物質の溶出量基準を満たす不溶化が可能であるように、上記処理対象物の最大粒度を決定するための方法であって、掘削ずりを粉砕して、特定の粒度分布を有するように粒度が調整された粒度調整ずりを得る粉砕工程と、上記粒度調整ずりを用いて、上記不溶化材の添加量と、上記有害物質の溶出量の関係を求め、該関係に基いて、上記有害物質の溶出量基準の値に対応する上記不溶化材の添加量である不溶化材基準量を定める不溶化材基準量決定工程と、上記不溶化材基準量以上の量の不溶化材が、上記処理対象物を構成する粒体に付着するように、上記処理対象物の最大粒度を決定する最大粒度決定工程、を含むことを特徴とする掘削ずりの最大粒度の決定方法。
[2] 上記最大粒度決定工程が、以下の(a)〜(c)からなる、上記[1]に記載の掘削ずりの最大粒度の決定方法。
(a)上記処理対象物を複数の粒度範囲区分に分画すること
(b)上記(a)で得た複数の粒度範囲区分の各々について、上記不溶化材基準量以上の量の不溶化材が、上記粒度範囲区分を構成する粒体に付着するように、上記不溶化材の添加量を定めること
(c)上記不溶化材を上記(b)で定めた添加量で用いることを前提として、上記複数の粒度範囲区分の各々における上限値を、該粒度範囲区分における上記処理対象物の最大粒度として定めること
【0008】
[3] 上記(b)における上記不溶化材の添加量が、以下の(i)〜(iii)からなる手順によって定められる、上記[2]に記載の掘削ずりの最大粒径の決定方法。
(i)上記粒度調整ずりにおける、上記不溶化材の添加量と上記不溶化材に含まれている主成分の量の関係を求めること
(ii)上記複数の粒度範囲区分の各々について、(イ)不溶化材の添加量と、(ロ)上記(イ)の添加量に対応する、上記粒度範囲区分を構成する粒体への不溶化材の付着量であって、該付着量に含まれている上記主成分の量を、上記(i)の関係に適用することによって決定される、上記(i)の関係における上記不溶化材の添加量と一致する、不溶化材の付着量、の関係を求めること
(iii)上記(ii)において、上記(ロ)の不溶化材の付着量が、上記不溶化材基準量以上の量である場合に、該不溶化材の付着量に対応する上記(イ)の不溶化材の添加量を、上記(b)における上記不溶化材の添加量として定めること
[4] 上記最大粒度決定工程が、以下の(d)〜(f)からなる、上記[1]に記載の掘削ずりの最大粒径の決定方法。
(d)上記処理対象物を構成する種々の粒度範囲から、複数の粒度範囲を選択すること
(e)上記(d)で選択した上記複数の粒度範囲の各々に属する粒体に、上記不溶化材を付着させ、上記複数の粒度範囲と、上記不溶化材の付着量の関係を求めること
(f)上記(e)の関係において、上記不溶化材の付着量が上記不溶化材基準量と一致するときの上記粒度範囲を決定し、該決定された粒度範囲の上限値を、上記処理対象物の最大粒度として定めること
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、有害物質(重金属類等)の溶出基準値に対応する不溶化材の添加量である不溶化材基準量以上の量の不溶化材を用いることを前提にして、処理対象物である掘削ずりまたは掘削ずり破砕物の最大粒度を決定しているので、不溶化の処理を効率的にかつ十分に行なうことができる。
すなわち、掘削ずりを粉砕して、非常に小さな粒度(例えば、最大粒度で2mm以下)を有する掘削ずり粉砕物を得て、この掘削ずり粉砕物に不溶化材を添加する場合、不溶化材の単位質量当たりの不溶化の効果は大きくなるものの、粉砕に要する手間および時間が過大となり、不溶化の処理の効率が低下してしまう。この点、本発明では、例えば、本発明で決定された掘削ずりの最大粒度以下の最大粒度を有するように、掘削ずりを破砕すれば、目的とする不溶化の最低限の効果(重金属類等の溶出基準値を満たすこと)を確保することができるので、不溶化の処理を効率的にかつ十分に行なうことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の掘削ずりの最大粒度の決定方法は、不溶化処理の処理対象物(掘削ずりまたは掘削ずり破砕物)に不溶化材を添加して、処理対象物に含まれている有害物質(例えば、ヒ素)を不溶化する際に、上記有害物質(例えば、ヒ素)の溶出量基準(例えば、ヒ素の場合、土壌溶出量基準として、0.01mg/リットル以下)を満たす不溶化が可能であるように、処理対象物の最大粒度を決定するための方法であって、掘削ずり(具体的には、処理対象物と同じ種類の掘削ずりからなる試料)を粉砕して、特定の粒度分布(例えば、最大粒度が2mmである粒度分布)を有するように粒度が調整された粒度調整ずりを得る粉砕工程と、上記粒度調整ずりを用いて、上記不溶化材の添加量と、上記有害物質の溶出量の関係を求め、該関係に基いて、上記有害物質の溶出基準値に対応する上記不溶化材の添加量である不溶化材基準量を定める不溶化材基準量決定工程と、上記不溶化材基準量以上の量の不溶化材が、上記処理対象物を構成する粒体に付着するように、上記処理対象物(掘削ずりまたは掘削ずり破砕物)の最大粒度(例えば、9.5mm)を決定する最大粒度決定工程、を含む。
【0011】
以下、本発明の方法を詳しく説明する。
本発明の方法は、不溶化処理の処理対象物である掘削ずりまたは掘削ずり破砕物に、不溶化材を添加して、該処理対象物に含まれている有害物質(重金属類等)を不溶化する際に、この有害物質の溶出量基準を満たす不溶化が可能であるように、処理対象物の最大粒度を決定するための方法である。
本発明において、不溶化処理の処理対象物は、掘削ずりまたは掘削ずり破砕物である。
本明細書中、「掘削ずり」とは、土木工事における掘削で採掘された岩石または土壌をいう。ここで、「土木工事」とは、トンネル工事、開坑工事、探鉱作業等を包含するものである。
本発明において処理対象となる掘削ずりは、主に、自然由来の重金属類等が含まれる掘削ずりである。日本国内には、ヒ素や鉛等を含む岩石や土壌が広く分布しており、土木工事で生じる掘削ずりからの有害な重金属類等の漏出および拡散を未然に防ぐことが要請されている。そこで、本発明では、このような自然由来の重金属類等が含まれる掘削ずりを、主な処理対象物としている。
【0012】
本発明において不溶化の対象となる重金属類等としては、例えば、土壌汚染対策法(平成15年)に規定されている第二種特定有害物質が挙げられ、具体的には、カドミウム及びその化合物、六価クロム化合物、水銀及びその化合物、セレン及びその化合物、鉛及びその化合物、ひ素及びその化合物、ふっ素及びその化合物、および、ほう素及びその化合物が挙げられる。
本発明の処理対象物として掘削ずり破砕物を用いる場合、掘削ずり破砕物を構成する粒体の粒度分布は、好ましくは、40mm以下の粒度を有する粒体を、50質量%以上(好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上)の割合で含むものであり、より好ましくは、30mm以下の粒度を有する粒体を、50質量%以上(より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上)の割合で含むものであり、特に好ましくは、25mm以下の粒度を有する粒体を、50質量%以上(好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上)の割合で含むものである。このような好ましい粒度分布を有することによって、掘削ずり破砕物の単位体積当たりの不溶化材の付着量を、より大きくすることができる。
本明細書中、「粒度」とは、該粒度を有する粒体が通過しうる、ふるいの最小の目開き寸法に相当する値(例えば、目開き寸法が20mm以上であれば、通過しうる場合、粒度は20mmである。)をいう。
有害物質(重金属類等)の溶出量基準は、有害物質の種類に応じて定めることができる。例えば、ヒ素の土壌溶出量基準の値は、0.01mg/リットルである。
【0013】
本発明の方法は、粉砕工程、不溶化材基準量決定工程、および最大粒度決定工程を含む。
[粉砕工程]
本工程は、掘削ずり(具体的には、処理対象物と同じ種類の掘削ずりからなる試料)を粉砕して、特定の粒度分布を有するように粒度が調整された粒度調整ずりを得る工程である。
ここで、特定の粒度分布とは、後工程である不溶化材基準量決定工程において、粒度調整ずりに添加された不溶化材の添加量と、粒度調整ずりからの有害物質(例えば、ヒ素)の溶出量の関係を定めることができればよく、例えば、最大粒度が特定の値(好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下、特に好ましくは2mm以下)であるような粒度分布をいう。
掘削ずりの粉砕量(換言すると、粉砕工程で用いる掘削ずりの試料の量)は、後工程である不溶化材基準量決定工程において、粒度調整ずりに添加された不溶化材の添加量と、粒度調整ずりからの有害物質の溶出量の関係を定めることができる程度の量(実験室で扱いうる程度の量)でよい。
【0014】
[不溶化材基準量決定工程]
本工程は、粉砕工程で得られた粒度調整ずりを用いて、不溶化材の添加量と、有害物質(例えば、ヒ素)の溶出量の関係を求め、該関係に基いて、有害物質の溶出基準値(例えば、ヒ素の場合、土壌溶出量基準として、0.01mg/リットル)に対応する不溶化材の添加量(例えば、粒度調整ずりの単位体積当たりの不溶化材の質量)である不溶化材基準量(例えば、5kg/m)を定める工程である。
不溶化材の添加量と有害物質の溶出量の関係は、不溶化材の少なくとも2つの添加量(例えば、0kg/mと10kg/m)と、これらの添加量に対応する有害物質の少なくとも2つの溶出量とによって求めることができる。
得られた関係は、例えば、数式で表される。この数式に基いて、有害物質の溶出基準値に対応する不溶化材の添加量(不溶化材基準量)を算出することができる。
【0015】
[最大粒度決定工程]
本工程は、不溶化材基準量決定工程で定められた不溶化材基準量以上の量の不溶化材が、処理対象物(掘削ずりまたは掘削ずり破砕物)を構成する粒体に付着するように、処理対象物の最大粒度を決定する工程である。
最大粒度決定工程は、例えば、以下の2つの方法A、Bのいずれかによって行なわれる。
[最大粒度決定工程の具体的方法である方法A]
方法Aは、以下の(a)〜(c)からなる。
(a)処理対象物を複数の粒度範囲区分に分画すること
(b)上記(a)で得た複数の粒度範囲区分の各々について、不溶化材基準量決定工程で定められた不溶化材基準量以上の量の不溶化材が、粒度範囲区分を構成する粒体に付着するように、不溶化材の添加量を定めること
(c)不溶化材を上記(b)で定めた添加量で用いることを前提として、複数の粒度範囲区分の各々における上限値を、該粒度範囲区分における処理対象物の最大粒度として定めること
ここで、上記(b)における不溶化材の添加量は、以下の(i)〜(iii)からなる手順によって定めることができる。
(i)粒度調整ずりにおける、不溶化材の添加量と不溶化材に含まれている主成分の量の関係を求めること
(ii)複数の粒度範囲区分の各々について、(イ)不溶化材の添加量と、(ロ)上記(イ)の添加量に対応する、粒度範囲区分を構成する粒体への不溶化材の付着量であって、該付着量に含まれている主成分の量を、上記(i)の関係に適用することによって決定される、上記(i)の関係における上記不溶化材の添加量と一致する、不溶化材の付着量、の関係を求めること
(iii)上記(ii)において、上記(ロ)の不溶化材の付着量が、不溶化材基準量以上の量である場合に、該不溶化材の付着量に対応する上記(イ)の不溶化材の添加量を、上記(b)における不溶化材の添加量として定めること
【0016】
上記(i)における「不溶化材に含まれている主成分」とは、例えば、不溶化材が酸化マグネシウム含有物質である場合、マグネシウムである。
酸化マグネシウム含有物質の好ましい一例として、軽焼マグネシアまたはその部分水和物が挙げられる。
軽焼マグネシアは、炭酸マグネシウムと水酸化マグネシウムのいずれか一方または両方を含む固形原料を、好ましくは650〜1,200℃の温度で焼成することによって得ることができる。
ここで、固形原料の例としては、マグネサイト、ドロマイト等の鉱物の塊状物または粉粒状物や、マグネシウム塩を含む海水等に、炭酸アルカリ化合物(例えば、炭酸ナトリウム)を加えることで得られる塊状物または粉粒状物等が挙げられる。
焼成温度(加熱温度)は、好ましくは650〜1,200℃、より好ましくは750〜1,100℃、特に好ましくは800〜1,000℃である。該温度が600℃以上であると、軽焼マグネシアの生成の効率が向上する点で好ましい。該温度が1,300℃以下であると、重金属類等の不溶化の効果が向上する点で好ましい。
焼成時間(加熱時間)は、固形原料の仕込み量や粒度等によって異なるが、通常、30分間〜5時間である。
【0017】
[最大粒度決定工程の具体的方法である方法B]
方法Bは、以下の(d)〜(f)からなる。
(d)処理対象物を構成する種々の粒度範囲から、複数の粒度範囲を選択すること
(e)上記(d)で選択した複数の粒度範囲の各々に属する粒体に、不溶化材を付着させ、複数の粒度範囲と、不溶化材の付着量の関係を求めること
(f)上記(e)の関係において、不溶化材の付着量が、不溶化材基準量決定工程で定められた不溶化材基準量と一致するときの粒度範囲を決定し、該決定された粒度範囲の上限値を、処理対象物の最大粒度として定めること
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[1.使用材料]
(1)不溶化材:マグネサイト(炭酸マグネシウムの含有率:93質量%)を、1,000℃で焼成した後、得られた軽焼マグネシアを粉砕したもの(酸化マグネシウムの含有率:85質量%以上;ブレーン比表面積:6,120cm/g)
(2)掘削ずり:以下の通過質量百分率を有する掘削ずり(頁岩と砂岩の混在岩;密度:2.8g/cm;鉱物の種類:石英、イライト、バトラライト等)
0.1mm以下:9%
1mm以下:23%
2mm以下:32%
5mm以下:43%
10mm以下:51%
20mm以下:75%
30mm以下:82%
40mm以下:84%
50mm以下:96%
【0019】
[2.粉砕工程]
掘削ずりの試料を、最大粒度が2mm以下になるまで粉砕し、粒度調整ずりを得た。
[3.不溶化材基準量決定工程]
粉砕工程で得た粒度調整ずりに対し、不溶化材(粉体)を0kg/m、10kg/m、20kg/mの各量で添加し、オムニミキサで1分間混合した後、掻き落としを行ない、次いで、1分間混合した。得られた混合物(3つの試料)を20℃で材齢7日の時点まで湿空養生した。養生後の混合物の検出溶液を、平成15年3月6日環境省告示第18号(環告18号)「土壌溶出量調査に係る測定方法を定める件」に準拠して調製した。調製した検出溶液(3つの試料)中のヒ素の量を、「JIS K 0102−2013」(ICP質量分析法)に準拠して測定した。
その結果、不溶化材の量が0kg/m、10kg/m、20kg/mである場合の検出溶液におけるヒ素の溶出量は、各々、0.024mg/リットル、0.0036mg/リットル、0.001mg/リットル未満(検出限界値未満)であった。
これらの結果から、ヒ素の土壌溶出量基準である0.01mg/リットルを満たすための不溶化材の量(不溶化材基準量)は、5kg/mであることがわかった。
【0020】
[4.最大粒度決定工程の具体的方法である方法A]
粉砕工程で得た粒度調整ずりに対し、不溶化材(粉体)を0kg/m、50kg/m、100kg/mの各量で添加し、オムニミキサで1分間混合した後、掻き落としを行ない、次いで、1分間混合した。得られた混合物(3つの試料)を105μm以下になるように粉砕した後、得られた粉砕物に、1Nの塩酸溶液を液固比が10になるように添加し、次いで、2時間振とうを行なった。振とうの後の上澄み液を、孔径0.45μmのメンブレンフィルターでろ過した後、得られたろ液中のマグネシウム(Mg)濃度を、「JIS K 0102−2013」(ICP発光分光分析法)に準拠して測定した。その結果、不溶化材の添加量(x;単位:kg/m)と、不溶化材に含まれている主成分であるマグネシウムに関する上記ろ液中のマグネシウム(Mg)濃度(y;単位:mg/リットル)の関係は、式:y=26.3x+208.33、で表されることがわかった。
【0021】
次に、処理対象物である掘削ずりを複数の粒度範囲区分に分画した。
具体的には、「4.75mmを超え、9.5mm以下」(以下、「4.75〜9.5mm」と略す。)、「9.5mmを超え、37.5mm以下」(以下、「9.5〜37.5mm」と略す。)、「37.5mmを超え、75mm以下」(以下、「37.5〜75mm」と略す。)、の3つの粒度範囲区分に分画した。
次いで、これら3つの粒度範囲区分の各々について、不溶化材の添加量が30kg/m、50kg/m、100kg/mである場合の不溶化材の付着量を算出した。この算出に際し、不溶化材の付着量は、付着している不溶化材に含まれているマグネシウム(Mg)の量の測定値を、上述の関係(不溶化材の添加量(x)と、ろ液中のマグネシウム(Mg)濃度(y)の関係を表す式:y=26.3x+208.33)に適用することによって求めた。
その結果は、以下のとおりである。
[4.75〜9.5mmの粒度範囲区分]
不溶化材の添加量が30kg/mである場合の不溶化材の付着量:14kg/m
不溶化材の添加量が50kg/mである場合の不溶化材の付着量:30kg/m
不溶化材の添加量が100kg/mである場合の不溶化材の付着量:43kg/m
[9.5〜37.5mmの粒度範囲区分]
不溶化材の添加量が30kg/mである場合の不溶化材の付着量:2kg/m
不溶化材の添加量が50kg/mである場合の不溶化材の付着量:16kg/m
不溶化材の添加量が100kg/mである場合の不溶化材の付着量:18kg/m
[37.5〜75mmの粒度範囲区分]
不溶化材の添加量が30kg/mである場合の不溶化材の付着量:4kg/m
不溶化材の添加量が50kg/mである場合の不溶化材の付着量:4kg/m
不溶化材の添加量が100kg/mである場合の不溶化材の付着量:12kg/m
【0022】
以上の結果から、以下のことがわかる。
4.75〜9.5mmの粒度範囲区分では、不溶化材の添加量が30kg/mであっても、ヒ素の土壌溶出量基準(0.01mg/リットル)を満たすための不溶化材の量(5kg/m以上)を満たす付着量の値(14kg/m)を得ている。したがって、不溶化材の添加量を30kg/mに定め、かつ、処理対象物である掘削ずりの最大粒度を9.5mm以下に定めれば、ヒ素の土壌溶出量基準(0.01mg/リットル)を満たしうることがわかる。
9.5〜37.5mmの粒度範囲区分では、不溶化材の添加量が50kg/mである場合に、ヒ素の土壌溶出量基準(0.01mg/リットル)を満たすための不溶化材の量(5kg/m以上)を満たす付着量の値(16kg/m)を得ている。したがって、不溶化材の添加量を50kg/mに定め、かつ、処理対象物である掘削ずりの最大粒度を37.5mm以下に定めれば、ヒ素の土壌溶出量基準(0.01mg/リットル)を満たしうることがわかる。
37.5〜75mmの粒度範囲区分では、不溶化材の添加量が100kg/mである場合に、ヒ素の土壌溶出量基準(0.01mg/リットル)を満たすための不溶化材の量(5kg/m以上)を満たす付着量の値(12kg/m)を得ている。したがって、不溶化材の添加量を100kg/mに定め、かつ、処理対象物である掘削ずりの最大粒度を75mm以下に定めれば、ヒ素の土壌溶出量基準(0.01mg/リットル)を満たしうることがわかる。
【0023】
[5.最大粒度決定工程の具体的方法である方法B]
掘削ずりを、粒度の大きさに応じて、複数の粒度範囲(イ)〜(ホ)に分画した。
複数の粒度範囲(イ)〜(ホ)は、以下のとおりである。
(イ)平均粒度5mm(7.5mm以下の粒度を有するもの)
(ロ)平均粒度9mm(7.5mmを超え、12mm以下の粒度を有するもの)
(ハ)平均粒度15mm(12mmを超え、21mm以下の粒度を有するもの)
(ニ)平均粒度28mm(21mmを超え、45mm以下の粒度を有するもの)
(ホ)平均粒度61mm(45mmを超え、76mm以下の粒度を有するもの)
【0024】
掘削ずりの複数の粒度範囲(イ)〜(ホ)の各々について、十分に水洗し、掘削ずりを構成する粒体の表面に付着している微粒分を除去した後、20℃の水中で24時間吸水させた。吸水後の掘削ずりを水から取り出して、水を切った後、吸水性の布で粒体の表面の水膜を拭い去り、表乾状態の掘削ずり(表面水率:0%)を調製した。
複数の粒度範囲(イ)〜(ホ)の各々の表乾状態の掘削ずりについて、不溶化材の付着量を測定した。
具体的には、不溶化材を付着させる対象となる試料(表乾状態の掘削ずり)に、十分な量の不溶化材を添加して混合した後、試料(表乾状態の掘削ずり)を構成する粒体の表面に、不溶化材からなる凝集物が残らないように、目開き寸法が2mmであるふるいを用いて、試料(表乾状態の掘削ずり)に余分に付着した不溶化材(凝集物)を落とし、その後、不溶化材が付着している試料(表乾状態の掘削ずり)の質量を測定した。この質量から、不溶化材が付着する前の試料(表乾状態の掘削ずり)の質量を差し引くことによって、付着した不溶化材の質量を算出した。また、この不溶化材の質量を、不溶化材が付着する前の試料(表乾状態の掘削ずり)の体積で除することによって、不溶化材が付着する前の試料(表乾状態の掘削ずり)の単位体積(1m)当たりの不溶化材の付着量(kg)を算出した。
【0025】
結果は、以下のとおりである。
(イ)平均粒度5mmの場合の不溶化材の付着量:12kg/m
(ロ)平均粒度9mmの場合の不溶化材の付着量:8kg/m
(ハ)平均粒度15mmの場合の不溶化材の付着量:7kg/m
(ニ)平均粒度28mmの場合の不溶化材の付着量:5kg/m
(ホ)平均粒度61mmの場合の不溶化材の付着量:3kg/m
【0026】
以上の結果から、ヒ素の土壌溶出量基準(0.01mg/リットル)を満たすための不溶化材の量(5kg/m以上)を確保するためには、上記(ニ)の平均粒度28mm(平均値;21mmを超え、45mm以下の粒度を有するもの)と同等またはそれ未満の平均粒度が必要であることがわかる。この場合、不溶化材の付着量として、5kg/m以上を確保するためには、処理対象物である掘削ずりの全量が、概ね、粒度38mm程度以下であればよいと推測される。