特許第6885719号(P6885719)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6885719-摺動部材およびコンプレッサー用ブシュ 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885719
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】摺動部材およびコンプレッサー用ブシュ
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/20 20060101AFI20210603BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20210603BHJP
   F04B 39/00 20060101ALI20210603BHJP
   F25B 1/02 20060101ALI20210603BHJP
   F25B 1/04 20060101ALI20210603BHJP
   F16F 15/08 20060101ALN20210603BHJP
【FI】
   F16C33/20 A
   F16C17/02 Z
   F04B39/00 103J
   F25B1/02 Z
   F25B1/04 A
   F25B1/04 Y
   !F16F15/08 Y
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-252784(P2016-252784)
(22)【出願日】2016年12月27日
(65)【公開番号】特開2018-105422(P2018-105422A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100147810
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 浩
(72)【発明者】
【氏名】渡部 祐輔
【審査官】 倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−194380(JP,A)
【文献】 特開2013−052675(JP,A)
【文献】 特開2016−098879(JP,A)
【文献】 特開昭59−194128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/20
F04B 39/00
F16C 17/02
F25B 1/02
F25B 1/04
F16F 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の上に形成された金属焼結層と、
前記金属焼結層の上に形成され、添加剤を含まない樹脂層と、
前記樹脂層の上に形成され、バインダー樹脂および添加剤を含む複合層と
を有し、
前記樹脂層は、ポリアミドイミドおよびポリイミドから構成される
摺動部材。
【請求項2】
基材と、
前記基材の上に形成された金属焼結層と、
前記金属焼結層の上に形成され、添加剤を含まない樹脂層と、
前記樹脂層の上に形成され、バインダー樹脂および添加剤を含む複合層と
を有し、
前記バインダー樹脂は、ポリアミドイミドおよびポリイミドを含み、
前記添加剤は、黒鉛およびMoS2を含む
摺動部材。
【請求項3】
前記樹脂層は、前記複合層よりも薄い
ことを特徴とする請求項1または2に記載の摺動部材。
【請求項4】
前記樹脂層の厚みが40μm以下である
ことを特徴とする請求項3に記載の摺動部材。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の摺動部材を円筒形状に成形したブシュ本体
を有するコンプレッサー用ブシュ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダー樹脂および添加剤を含む複合層を有する摺動部材およびコンプレッサー用ブシュに関する。
【背景技術】
【0002】
低フリクション化のため、バインダー樹脂に黒鉛を添加したコーティング層を有する摺動部材が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2011/126078号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コーティング層を有する摺動部材は、様々な用途に用いられる。例えば、コンプレッサーに用いられる場合、コーティング層が高圧(例えば数10MPa)の冷媒にさらされることがある。このような高圧環境下において、コーティング層が剥離してしまうという問題があった。
【0005】
これに対し本発明は、樹脂コーティング層の剥離を抑制する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基材と、前記基材の上に形成された金属焼結層と、前記金属焼結層の上に形成され、添加剤を含まない樹脂層と、前記樹脂層の上に形成され、バインダー樹脂および添加剤を含む複合層とを有する摺動部材を提供する。
【0007】
前記樹脂層は、前記複合層よりも薄くてもよい。
【0008】
前記樹脂層の厚みが40μm以下であってもよい。
【0009】
前記樹脂層は、ポリアミドイミドおよびポリイミドから構成されてもよい。
【0010】
前記バインダー樹脂は、ポリアミドイミドおよびポリイミドを含み、前記添加剤は、黒鉛およびMoS2を含んでもよい。
【0011】
また、本発明は、上記いずれかの摺動部材を円筒形状に成形したブシュ本体を有するコンプレッサー用ブシュを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、樹脂コーティング層の剥離を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態に係る摺動部材1の断面構造を示す模式図。
図2】関連技術に係る摺動部材9の断面構造を示す模式図。
図3】摺動部材9において樹脂複合層14が剥離する過程を示す図。
図4】密着性試験の結果を示す図。
図5】一実施形態に係るブシュ100の外観を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.構造
図1は、一実施形態に係る摺動部材1の断面構造を示す模式図である。この図は、摺動面に垂直な断面の構造を示している。摺動部材1は、基材11、金属焼結層12、樹脂中間層13、樹脂複合層14を有する。基材11は、用途に応じた形状および機械的な強度を摺動部材1に与えるための層である。基材11は、例えば鋼で形成される。基材11は、裏金およびライニング層を有する、いわゆるバイメタルで形成されてもよい。金属焼結層12は、基材11と樹脂複合層14(樹脂コーティング層)との密着力を向上させるアンカー効果を与えるための層である。金属焼結層12は、例えば銅合金粉を焼結した層である。金属焼結層12は、基材11の表面を全て覆い尽くす必要はなく、例えば焼結粉の粉体のサイズと同程度の広さで基材11が露出していてもよい。樹脂中間層13は、樹脂複合層14と基材11との密着力を向上させるための層である。樹脂中間層13は、添加剤を含まず、樹脂のみで形成される。樹脂複合層14は、摺動部材1の摺動面の特性を改善するための層であり、バインダー樹脂141および添加剤142を含む。バインダー樹脂141は、添加剤を保持する機能を有する。バインダー樹脂141としては、例えば熱硬化性樹脂が用いられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、およびポリイミド(PI)、エポキシ、ポリエーテルエーテルケトン、フェノール、およびエラストマーの少なくとも1種が用いられる。添加剤142は、摺動面の特性を改善する機能を有する。例えば低摩擦化のためには、添加剤として固体潤滑剤が用いられる。固体潤滑剤としては、例えば、黒鉛、MoS2、フッ素系樹脂(PTFE等)、軟質金属(Sn,Bi等)、WS2、およびh−BNの少なくとも1種が用いられる。また、耐摩耗性を向上させるため、添加剤として硬質物が用いられる。硬質物としては、例えば、クレー、ムライト、およびタルクの少なくとも1種が用いられる。
【0015】
樹脂複合層14の機能を十分に発揮させる観点から、樹脂中間層13は、樹脂複合層14よりも薄いことが好ましい。樹脂中間層13の厚さは、例えば樹脂複合層14の厚さの1/5以下であることが好ましく、1/10以下であることがより好ましい。また、本願発明者らの研究によれば、樹脂中間層13の厚さが厚くなると、金属焼結層12の金属粉と樹脂中間層13の樹脂との間に隙間が生じやすくなることが分かった。そのため、樹脂中間層13の厚さは、40μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。
【0016】
樹脂中間層13および樹脂複合層14は、例えば以下の方法により形成される。まず、樹脂中間層13および樹脂複合層14の樹脂組成物をそれぞれ溶剤に溶かした前駆体溶液が準備される。表面に金属焼結層12が形成された基材11に、樹脂中間層13の前駆体溶液が塗布される。樹脂中間層13の前駆体溶液が塗布された基材11の上に、さらに樹脂複合層14の前駆体溶液が塗布される。樹脂中間層13および樹脂複合層14の前駆体溶液は、例えば、パッドコートまたはスプレーコートもしくは同等のその他の方法により塗布される。樹脂複合層14の厚さを調整するため、樹脂複合層14の前駆体溶液が複数回、塗布されてもよい。前駆体溶液の塗布後、乾燥および焼成が行われる。さらにその後、樹脂複合層14の表面が研磨や切削加工等され、樹脂複合層14の厚みおよび表面粗さが調整される。
【0017】
図2は、関連技術に係る摺動部材9の断面構造を示す模式図であり、図3は、摺動部材9において樹脂複合層14が剥離する過程を示す図である。摺動部材1と比較すると、摺動部材9は樹脂中間層13を有しておらず、金属焼結層12の上に直接、樹脂複合層14が形成される。本願発明者らの研究によれば、このような摺動部材において樹脂コーティング層の剥離が起きるメカニズムは以下のとおりである。基材11と樹脂複合層14との界面(接着面)近傍において、添加剤142と基材11または金属焼結層12との間に高圧の冷媒Gが侵入する(図3(A)。この例では添加剤142と基材11との間に冷媒Gが進入する)。この状態で圧縮室が例えば常圧に減圧されると、侵入した冷媒が膨張する(図3(B))。膨張した冷媒により、樹脂複合層14が剥離する(図3(C))。
【0018】
本願発明者らは、上記の研究結果を踏まえ、樹脂複合層14の剥離を抑制するには、基材11と樹脂複合層14との界面近傍において、添加剤142の周辺への冷媒の侵入を抑制すればよいという着想に至った。さらに、基材11と樹脂複合層14との界面近傍において添加剤142の周辺への冷媒の侵入を抑制するには、界面近傍から添加剤142を除去すればよいという着想を得た。この着想に基づき、本願発明者らは、基材11と樹脂複合層14との間に樹脂中間層13を形成した。
【0019】
2.実施例
本願発明者らは、樹脂中間層13の効果を確認するための実験を行った。表1は、実験に用いた試料における樹脂中間層13および樹脂複合層14の組成を示す。実験例1は比較例に相当する試料であり、樹脂中間層13を有さない(図2に相当)。実験例2は実施例に相当する試料であり、樹脂中間層13を有する(図1に相当)。いずれに実験例においても、基材11としては単層の鋼が用いられ、金属焼結層12としては銅合金粉の焼結層が用いられた。
【0020】
樹脂中間層13は、PAIおよびPIを含む。PAIおよびPIは質量分率でほぼ同量含まれており、この例ではPAIおよびPIの含有量はいずれも48〜52質量%である。樹脂複合層14は、バインダー樹脂141としてPAIおよびPIを含む。PAIおよびPIは質量分率でほぼ同量含まれており、この例ではPAIおよびPIの含有量はいずれも26〜28質量%である。添加剤142は、固体潤滑剤および硬質物を含む。固体潤滑剤としては、グラファイトおよびMoS2が用いられた。グラファイトの含有量は18質量%であり、MoS2の含有量は23〜27質量%である。硬質物としてはクレーが用いられた。クレーの含有量は1〜5質量%である。実験例1および2において、樹脂中間層13は約10μmの厚さを有する。樹脂複合層14は、約100μmの厚さを有する。
【0021】
これらの試料に対し、以下の条件で密着性を評価する試験を行った。実験例1および実験例2の試料のそれぞれに対し、接着剤で治具を貼り付けた。次に、試料および治具を試験機(株式会社島津製作所製オートグラフAG−IS)にて引っ張り速度2mm/分で引っ張り、両者の破断に要した力を密着力とした。実験例1および実験例2のそれぞれについて、5個の試料を用いて密着性試験を行った。
【0022】
図4は、密着性試験の結果を示す図である。実験例1(比較例)の密着力は約21〜26MPaであり、平均約23MPaであった。実験例2(実施例)の密着力は約28〜33MPaであり、平均約30.5MPaであった。実験例1と比較して、実施例2では密着力が30%以上向上した。すなわち、摺動部材1を用いることにより、より高圧の環境下でも使用できる摺動部材を提供することができる。
【0023】
3.適用例
図5は、一実施形態に係るブシュ100の外観を例示する図である。ブシュ100は、円筒形状に成形されたブシュ本体110を有する。ブシュ本体110は、摺動部材1で形成されており、内周面(摺動面)側に樹脂複合層14が露出する。ブシュ100は、例えば、エア・コンディショナー装置のコンプレッサーの軸受として用いられる。ブシュ100によれば、高圧の環境下でも信頼性を向上させることができる。
【0024】
なお、上述の実施形態における摺動部材1の構造、基材11および金属焼結層12の材料、並びに樹脂組成物の材料、組成、および厚みは単なる例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。また、摺動部材1の用途も、図5で例示したエア・コンディショナー装置のコンプレッサー用軸受に限定されない。
【符号の説明】
【0025】
1…摺動部材
11…基材
12…金属焼結層
13…樹脂中間層
14…樹脂複合層
9…摺動部材
100…ブシュ
110…ブシュ本体
図1
図2
図3
図4
図5