特許第6885720号(P6885720)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6885720インゴットスライス台およびインゴットスライス台の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885720
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】インゴットスライス台およびインゴットスライス台の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 283/01 20060101AFI20210603BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20210603BHJP
   B28D 7/04 20060101ALI20210603BHJP
   B28D 5/04 20060101ALN20210603BHJP
【FI】
   C08F283/01
   H01L21/304 611W
   B28D7/04
   !B28D5/04 C
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-253381(P2016-253381)
(22)【出願日】2016年12月27日
(65)【公開番号】特開2018-104585(P2018-104585A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】藤田 秀和
(72)【発明者】
【氏名】石内 隆仁
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−049016(JP,A)
【文献】 特開平05−043671(JP,A)
【文献】 特開平05−285911(JP,A)
【文献】 特開平07−274763(JP,A)
【文献】 特開平07−278423(JP,A)
【文献】 特開2002−231661(JP,A)
【文献】 特許第3853039(JP,B2)
【文献】 特開2010−067712(JP,A)
【文献】 特開2014−019850(JP,A)
【文献】 特開2014−205803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 283/01
C08F 290/00 − 290/14
C08F 299/00 − 299/08
B28D 1/00 − 7/04
H01L 21/304,21/463
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)不飽和ポリエステル樹脂と、(B)重合性不飽和化合物と、(C)無機充填材とを含み、熱可塑性樹脂および無機繊維を含まず、
前記(A)不飽和ポリエステル100質量部に対して、前記(B)重合性不飽和化合物を55〜75質量部含み、前記(C)無機充填材を450〜750質量部含む樹脂組成物の硬化物であることを特徴とするインゴットスライス台。
【請求項2】
前記樹脂組成物の前記(A)不飽和ポリエステル樹脂が、多価アルコールと不飽和多塩基酸との重縮合体であり、
前記多価アルコールが、ネオペンチルグリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールから選択される少なくとも1つである請求項1に記載のインゴットスライス台。
【請求項3】
前記樹脂組成物の前記(A)不飽和ポリエステル樹脂が、多価アルコールと不飽和多塩基酸との重縮合体であり、
前記不飽和多塩基酸が、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸から選択される少なくとも1つである請求項1または請求項2に記載のインゴットスライス台。
【請求項4】
前記(A)不飽和ポリエステル樹脂の重量平均分子量が6,000〜35,000であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のインゴットスライス台。
【請求項5】
前記(C)無機充填材が、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、タルクから選ばれる少なくとも1種類以上であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のインゴットスライス台。
【請求項6】
前記(C)無機充填材が、水酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のインゴットスライス台。
【請求項7】
前記(B)重合性不飽和化合物が、スチレン、メタクリル酸メチル、ビニルトルエン、ビニルベンゼン、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種のモノマー、および前記モノマーが複数個結合したオリゴマーから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載のインゴットスライス台。
【請求項8】
前記(B)重合性不飽和化合物が、スチレンとメタクリル酸メチルのいずれか一方または両方であることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載のインゴットスライス台。
【請求項9】
(A)不飽和ポリエステル樹脂と、(B)重合性不飽和化合物と、(C)無機充填材とを含み、熱可塑性樹脂および無機繊維を含まず、
前記(A)不飽和ポリエステル100質量部に対して、前記(B)重合性不飽和化合物を55〜75質量部含み、前記(C)無機充填材を450〜750質量部含む樹脂組成物を成形して硬化させることによりインゴットスライス台を形成する工程を有するインゴットスライス台の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インゴットスライス台およびインゴットスライス台の製造方法、樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池や半導体に使用されているウエハーは、シリコンなどのインゴットを、接着剤などでインゴットスライス台に固定し、ワイヤーソーによって所定の厚さに切断する方法により製造されている。インゴットを切断する際に使用するインゴットスライス台は、インゴットと共に切断される。
【0003】
インゴットスライス台の材料としては、従来、カーボンが使用されている。
また、近年、インゴットスライス台の材料として、樹脂組成物を用いることが提案されている。例えば、特許文献1には、シリコンスライス台の材料として、アクリル樹脂または不飽和ポリエステル樹脂に、無機フィラーを配合した成形材料が記載されている。また、特許文献2には、インゴットスライス台の材料として、不飽和ポリエステル樹脂、無機充填材及び熱可塑性樹脂を含む不飽和ポリエステル樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3853039号公報
【特許文献2】特開2014−205803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カーボンからなるインゴットスライス台は、切断に使用するワイヤーに対するストレス(ワイヤーストレス)が大きい。このため、インゴットの切断枚数を増加していくことに起因するウエハー外観の劣化が生じやすい。したがって、カーボンからなるインゴットスライス台を用いた場合には、切断に使用するワイヤーを頻繁に交換して、ウエハーの外観劣化を防止する必要があった。
【0006】
また、従来、インゴットスライス台の材料として使用されている樹脂組成物は、成形性が不十分であるため、成形時にクラックが発生しやすかった。このため、大型のインゴットスライス台を製造することは困難であった。
さらに、従来の熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を用いて形成したインゴットスライス台は、成形性は改善できるが機械的強度が不十分であるため、インゴットの切断時にインゴットスライス台の端部が欠けやすいという不都合があった。このため、従来の樹脂組成物を用いて形成したインゴットスライス台を大型化しても、インゴットの切断効率を向上させることは困難であった。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、ワイヤーストレスが少なく、成形時におけるクラックの発生が抑制され、良好な機械的強度を有するインゴットスライス台およびその製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、良好な成形性を有し、硬化させることにより良好な機械的強度を有する硬化物が得られ、インゴットスライス台の材料として好適に用いることができる樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。
その結果、インゴットスライス台の材料として、不飽和ポリエステル樹脂と重合性不飽和化合物とを含み、熱可塑性樹脂および無機繊維を含まず、不飽和ポリエステルに対して特定の含有量で無機充填材を含む樹脂組成物を用いればよいことを見出し、本発明を想到した。
【0009】
なお、本明細書および特許請求の範囲において「熱可塑性樹脂を含まず」とは、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の含有量が0.1質量%以下であることを意味し、不純物等の他の成分と共に混入するものまでを排除するものではない。同様に「無機繊維を含まず」とは、樹脂組成物中の無機繊維の含有量が0.1質量%以下であることを意味し、不純物等の他の成分と共に混入するものまでを排除するものではない。
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0010】
[1] (A)不飽和ポリエステル樹脂と、(B)重合性不飽和化合物と、(C)無機充填材とを含み、熱可塑性樹脂および無機繊維を含まず、
前記(A)不飽和ポリエステル100質量部に対して、前記(C)無機充填材を450〜750質量部含む樹脂組成物の硬化物であることを特徴とするインゴットスライス台。
【0011】
[2] 前記樹脂組成物が前記(A)不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、前記(B)重合性不飽和化合物を55〜75質量部含むことを特徴とする[1]に記載のインゴットスライス台。
[3] 前記樹脂組成物の前記(A)不飽和ポリエステル樹脂が、多価アルコールと不飽和多塩基酸との重縮合体であり、
前記多価アルコールが、ネオペンチルグリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールから選択される少なくとも1つである[1]または[2]に記載のインゴットスライス台。
[4] 前記樹脂組成物の前記(A)不飽和ポリエステル樹脂が、多価アルコールと不飽和多塩基酸との重縮合体であり、
前記不飽和多塩基酸が、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸から選択される少なくとも1つである[1]〜[3]のいずれかに記載のインゴットスライス台。
【0012】
[5] 前記(A)不飽和ポリエステル樹脂の重量平均分子量が6,000〜35,000であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載のインゴットスライス台。
[6] 前記(C)無機充填材が、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、タルクから選ばれる少なくとも1種類以上であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載のインゴットスライス台。
[7] 前記(C)無機充填材が、水酸化アルミニウムであることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載のインゴットスライス台。
【0013】
[8] 前記(B)重合性不飽和化合物が、スチレン、メタクリル酸メチル、ビニルトルエン、ビニルベンゼン、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種のモノマー、および前記モノマーが複数個結合したオリゴマーから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載のインゴットスライス台。
[9] 前記(B)重合性不飽和化合物が、スチレンとメタクリル酸メチルのいずれか一方または両方であることを特徴とする[1]〜[8]のいずれかに記載のインゴットスライス台。
【0014】
[10] (A)不飽和ポリエステル樹脂と、(B)重合性不飽和化合物と、(C)無機充填材とを含み、熱可塑性樹脂および無機繊維を含まず、
前記(A)不飽和ポリエステル100質量部に対して、前記(C)無機充填材を450〜750質量部含むことを特徴とする樹脂組成物。
[11] [10]に記載の樹脂組成物を成形して硬化させることによりインゴットスライス台を形成する工程を有するインゴットスライス台の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のインゴットスライス台は、不飽和ポリエステル樹脂と重合性不飽和化合物と無機充填材とを含み、熱可塑性樹脂および無機繊維を含まず、不飽和ポリエステル100質量部に対して、無機充填材を450〜750質量部含む樹脂組成物の硬化物である。本発明のインゴットスライス台は、良好な成形性を有する樹脂組成物を材料として用いているため、成形時におけるクラックの発生が抑制されている。したがって、大型化が可能である。また、本発明のインゴットスライス台は、良好な機械的強度を有するため、インゴットの切断時におけるインゴットスライス台の端部の欠けを防止できる。したがって、本発明のインゴットスライス台は、これを大型化することで、インゴットの切断効率を向上させることができる。
また、本発明のインゴットスライス台は、ワイヤーストレスが少ないため、ワイヤー寿命が向上するとともに、切断したウエハーの外観が良好となる。
【0016】
本発明の樹脂組成物は、不飽和ポリエステル樹脂と重合性不飽和化合物と無機充填材とを含み、熱可塑性樹脂および無機繊維を含まず、不飽和ポリエステル100質量部に対して、無機充填材を450〜750質量部含む。このため、良好な成形性を有し、硬化させることにより良好な機械的強度を有する硬化物が得られ、インゴットスライス台の材料として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のインゴットスライス台およびインゴットスライス台の製造方法、樹脂組成物について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
【0018】
(樹脂組成物)
[(A)不飽和ポリエステル樹脂]
本実施形態で用いる(A)不飽和ポリエステル樹脂は、多価アルコールと不飽和多塩基酸との重縮合体、または多価アルコールと不飽和多塩基酸と飽和多塩基酸との重縮合体であり、その種類は特に限定されない。(A)不飽和ポリエステル樹脂は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。本実施形態で使用される(A)不飽和ポリエステル樹脂は、公知の合成方法により合成できる。
【0019】
(A)不飽和ポリエステル樹脂の原料として用いられる多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールA、グリセリン等が挙げられる。これらの多価アルコールは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの多価アルコールの中でも特に、ネオペンチルグリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールから選択される少なくとも1つであると、工業生産に適したコストとなるため、好ましい。
【0020】
(A)不飽和ポリエステル樹脂の原料として用いられる不飽和多塩基酸としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等が挙げられる。これらの不飽和多塩基酸は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの不飽和多塩基酸の中でも特に、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸から選択される少なくとも1つであると工業生産に適したコストとなるため、好ましい。
【0021】
多価アルコールと不飽和多塩基酸との好ましい組み合わせとしては、例えばフマル酸とネオペンチルグリコール、マレイン酸とジプロピレングリコール、フマル酸とプロピレングリコール等が挙げられる。これらの中でも特に、フマル酸とプロピレングリコールとの組み合わせは、低コストで生産可能なため好ましい。
【0022】
(A)不飽和ポリエステル樹脂の原料として用いられる飽和多塩基酸としては、例えば、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘット酸、テトラクロロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等が挙げられる。
【0023】
(A)不飽和ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、6,000〜35,000が好ましく、より好ましくは6,000〜20,000であり、さらに好ましくは8,000〜15,000である。分子量が6,000〜35,000であると、成形性がより一層良好となる。重量平均分子量はGPCを用いて測定が可能である。
【0024】
(A)不飽和ポリエステル樹脂の不飽和度は50〜100モル%であることが好ましく、60〜100モル%であることがより好ましく、70〜100モル%であることがさらに好ましい。不飽和度が上記範囲であると、樹脂組成物の成形性が向上するため、好ましい。
(A)不飽和ポリエステル樹脂の不飽和度は、原料として用いた不飽和多塩基酸および飽和多塩基酸のモル数を用いて、以下の式により算出可能である。
不飽和度(モル%)={(不飽和多塩基酸のモル数)/(不飽和多塩基酸のモル数+飽和多塩基酸のモル数)}×100
【0025】
(A)不飽和ポリエステル樹脂の含有量は、樹脂組成物全体に対して、好ましくは10〜16質量%、より好ましくは10〜15質量%、さらに好ましくは10〜14質量%である。(A)不飽和ポリエステル樹脂の含有量が10質量%以上であると、硬化物の機械的強度がより一層良好となる。また、(A)不飽和ポリエステル樹脂の含有量が16質量%以下であると、取り扱いに適した粘度となる。
本実施形態の樹脂組成物における樹脂成分は、(A)不飽和ポリエステル樹脂のみであることが好ましい。
【0026】
[(B)重合性不飽和化合物]
本実施形態で用いる(B)重合性不飽和化合物は、重合性不飽和基(エチレン性炭素・炭素二重結合)を有する化合物である。(B)重合性不飽和化合物としては、(A)不飽和ポリエステルと共重合可能な二重結合を有するものであれば、特に制限されることなく使用できる。
【0027】
(B)重合性不飽和化合物としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、ビニルベンゼンなどの芳香族系モノマー、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、メタクリル酸メチルなどのアクリル系モノマー、および上記モノマーが複数個結合したオリゴマー等が挙げられる。上記の(B)重合性不飽和化合物の中でも、(A)不飽和ポリエステル樹脂との反応性の観点から、スチレンおよび/またはメタクリル酸メチルが好ましく、特にスチレンが好ましい。上記の(B)重合性不飽和化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
(B)重合性不飽和化合物の含有量は、(A)不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して55〜75質量部であることが好ましく、より好ましくは60〜70質量部であり、さらに好ましくは65〜70質量部である。(B)重合性不飽和化合物の含有量が、(A)不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して55質量部以上であると、取り扱いに適した粘度となり好ましい。また、(B)重合性不飽和化合物の含有量が(A)不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して75質量部以下であると、より一層良好な機械的強度を有する樹脂組成物の硬化物が得られる。
【0029】
[(C)無機充填材]
本実施形態で用いる(C)無機充填材は、樹脂組成物を取り扱いに適した粘度に調整し、樹脂組成物の成形性を向上させる機能を有する。
(C)無機充填材としては、公知の無機充填材を用いることができ、例えば、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、タルク、カオリン、硫酸カルシウム、炭酸カルシウムなどが挙げられる。これらの中でも、ウエハー製造工程での酸処理に対する耐性が良好であるため、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、タルクが好ましく、より好ましくは水酸化アルミニウムである。これらの(C)無機充填材は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
(C)無機充填材は、樹脂組成物の硬化物を成形する際における樹脂組成物の粘度の観点から、平均粒子径が1〜100μmのものであることが好ましく、1〜60μmのものであることがより好ましく、1〜50μmのものであることがさらに好ましい。(C)無機充填材の平均粒子径が60μm以下であると、無機充填材を高充填させることができる。また、(C)無機充填材の平均粒子径が1μm以上であると、無機充填材の凝集を抑制できる。
(C)無機充填材の平均粒子径は、電子顕微鏡あるいは光学顕微鏡でn=10で粒子径を測定することで決定できる。
【0031】
(C)無機充填材の形状は、球状でもよいし、扁平状などでもよく、好ましくは球状である。(C)無機充填材が球状の粒子であると、(C)無機充填材の表面積が小さいため、樹脂組成物の硬化物を成形する際における樹脂組成物の粘度を効果的に下げることができ、硬化物に未充填部分が生じることを効果的に防止できる。
【0032】
(C)無機充填材の含有量は(A)不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、450〜750質量部であり、好ましくは500〜725質量部であり、より好ましくは550〜700質量部である。(C)無機充填材の上記含有量が、(A)不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して450質量部以上であると、取り扱いに適した粘度となり、成形性が良好となる。また、(C)無機充填材の上記含有量が、(A)不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して750質量部以下である場合、樹脂組成物中の(A)不飽和ポリエステル樹脂の含有量を確保できるため、硬化物の機械的強度が良好となる。
【0033】
[添加剤]
本実施形態の樹脂組成物は、上記(A)(B)(C)の各成分に加えて、離型剤、硬化剤、増粘剤、着色剤、重合禁止剤等の添加剤を必要に応じて含有していてもよい。これらの添加剤は、それぞれの目的に応じて本発明の効果を妨げない範囲で含有できる。
【0034】
硬化剤としては、例えばt−ブチルパーオキシオクトエート、ベンゾイルパーオキサイド、1,1ジ−t−ブチルパーオキシ3,3,5トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の過酸化物が挙げられる。これらの硬化剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
硬化剤は、(A)不飽和ポリエステル樹脂、及び(B)重合性不飽和化合物の合計100質量部に対して、0.5〜2.0質量部の範囲で添加することが好ましく、0.8〜1.5質量部がより好ましい。
【0035】
離型剤としては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、シリコンオイル、合成ワックス等が挙げられる。これらの離型剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
離型剤は、(A)不飽和ポリエステル樹脂、及び(B)重合性不飽和化合物の合計100質量部に対して、3.0〜8.0質量部の範囲で添加することが好ましく、5.0〜7.0質量部がより好ましい。
【0036】
増粘剤としては、イソシアネート化合物などが例示される。増粘剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、一般的な無機化合物からなる増粘剤は本発明では(C)無機充填材として扱う。
【0037】
着色剤は、成形品を着色する必要のある場合に用いるものであり、バルクモールディングコンパウンドにおいて通常使用されている各種の無機顔料や有機顔料を使用することができる。着色剤は、成形品の着色度合いによって適宜その使用量を調整できる。
重合禁止剤は、樹脂組成物のゲル化を抑制するものである。重合禁止剤としては、ハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、p−ベンゾキノン、ナフトキノン、t−ブチルハイドロキノン、カテコール、p−t−ブチルカテコール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール等が挙げられる。
【0038】
[無機繊維]
本実施形態の樹脂組成物は、無機繊維を含まない。無機繊維とは、ガラス、炭素等の無機物質からなる繊維長3〜25mmの繊維である。樹脂組成物中に無機繊維が含まれていると、例えば、樹脂組成物をインゴットスライス台の材料として使用した場合、インゴットを切断する際のワイヤー摩耗量が大きいインゴットスライス台となる。
【0039】
[熱可塑性樹脂]
本実施形態の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含まない。熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸メチル、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリル−スチレン共重合体、スチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。樹脂組成物中に熱可塑性樹脂が含まれていると、例えば、樹脂組成物をインゴットスライス台の材料として使用した場合、表面硬度の低いインゴットスライス台となり、インゴットを切断する際にインゴットスライス台の端部に欠けが発生しやすくなる。
【0040】
[樹脂組成物の製造方法]
本実施形態の樹脂組成物は、例えば、上記(A)(B)(C)の各成分と必要に応じて含有される添加剤とを、混練する方法より製造できる。混練方法としては特に制限はなく、例えば、双腕式ニーダー、加圧式ニーダー、プラネタリーミキサー等を用いることができる。混練温度は、20℃〜50℃が好ましく、より好ましくは30〜50℃である。混練温度が20℃以上であると、混練性が向上する。混練温度が50℃以下であると、樹脂組成物の重合反応を抑制できる。
【0041】
本実施形態の樹脂組成物を製造する際において、材料を混練する順番については特に制限はない。例えば、(A)不飽和ポリエステル樹脂と(B)重合性不飽和化合物の一部または全部とを混合してから、他の材料を混合すると、均一に混合された樹脂組成物が得られやすいため好ましい。
【0042】
(インゴットスライス台)
本実施形態のインゴットスライス台は、本実施形態の樹脂組成物の硬化物である。
本実施形態のインゴットスライス台は、本実施形態の樹脂組成物を成形して硬化させることにより形成できる。樹脂組成物の成形・硬化方法としては、特に制限されないが、鋳型内に樹脂組成物を仕込んでプレス成形する方法を用いることが好ましい。成形条件は、使用する硬化剤(有機過酸化物)の種類などにもよるが、例えば温度130〜160℃、圧力4〜20MPa、1〜8min./mmの条件とすることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0044】
<不飽和ポリエステル樹脂A1の調製>
温度計、攪拌機、不活性ガス導入口および還流冷却器を備えた四口フラスコに、フマル酸100モルとプロピレングリコール100モルとを仕込んだ。そして、窒素ガス気流下で加熱撹拌しながら200℃まで昇温してエステル化反応を行ない、不飽和ポリエステル樹脂A1を得た。
得られた不飽和ポリエステル樹脂A1は、不飽和度100モル%、重量平均分子量12,000であった。
【0045】
<不飽和ポリエステル樹脂A2の調製>
温度計、攪拌機、不活性ガス導入口および還流冷却器を備えた四口フラスコに、フマル酸100モルとプロピレングリコール80モルと、水素化ビスフェノールA20モルとを仕込んだ。そして、窒素気流下で加熱撹拌しながら210℃まで昇温してエステル化反応を行ない、不飽和ポリエステル樹脂A2を得た。
得られた不飽和ポリエステル樹脂A2は、不飽和度100モル%、重量平均分子量10,000であった。
【0046】
不飽和ポリエステル樹脂A1、A2の重量平均分子量は、以下の条件でゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー:商品名「Shodex GPC−101」(昭和電工株式会社製、「Shodex」は登録商標である。)を用いて測定したポリスチレン換算の分子量である。
カラム:KF−802(昭和電工株式会社製)
カラムの温度:40℃
試料:0.2質量%テトラヒドロフラン溶液
流量:1ml/min
溶離液:テトラヒドロフラン
【0047】
「実施例1〜6、比較例1〜4」
上記の不飽和ポリエステル樹脂A1、A2をそれぞれ100質量部用意し、それぞれに重合禁止剤であるハイドロキノンを0.015質量部添加し、(B)重合性不飽和化合物であるスチレンを67質量部溶解させ、不飽和ポリエステル樹脂A1、A2の固形分が60質量%である、上記A1またはA2と(B)とを含む混合物をそれぞれ調製した。
その後、双腕式ニーダーを用いて表1および表2に示す組成(比率)となるように、上記A1またはA2と(B)とを含む混合物と、表1および表2に示す各成分とを30℃の温度条件下で混練し、実施例1〜6、比較例1〜4の樹脂組成物を得た。
【0048】
表1および表2に示す(B)重合性不飽和化合物、(C)無機充填材、硬化剤、離型剤、熱可塑性樹脂および無機繊維としては、以下のものを用いた。
(B)重合性不飽和化合物:スチレン(旭化成ケミカルズ製)またはメタクリル酸メチル(旭化成ケミカルズ製)
(C)無機充填材:水酸化アルミニウム(昭和電工製、平均粒子径7μm)またはタルク(日本タルク製、平均粒子径7μm)
硬化剤:t−ブチルパーオキシベンゾエート(日本油脂製)
離型剤:ステアリン酸カルシウム(淡南化学製)
熱可塑性樹脂:スタイロン679(PSジャパン製)
無機繊維:チョップドストランドガラス繊維 CS6PE−908(日東紡製)
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
実施例1〜6、比較例1〜4の樹脂組成物の硬化物について、それぞれ以下に示す方法により、線膨張係数、成形性(ピンホールの有無・クラックの有無)、反り、曲げ強さ、曲げ弾性率、バーコール硬度、カット性(欠け発生の有無)及び切断工具耐摩耗性を評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0052】
「線膨張係数」
樹脂組成物を、サイズ(680mm×奥行10mm×厚み4mm)の金型に入れ、金型温度150℃、硬化時間180秒、プレス圧力15MPaの条件で成形して硬化させ、硬化物を得た。得られた硬化物を20mm×4mm×厚み4mmの大きさに切り出し、試験体を得た。
その後、熱機械分析装置であるTMA8310(株式会社リガク製)を用い、試験体を25℃から昇温速度3K/min.の条件で160℃まで昇温し、線膨張係数を測定した。
【0053】
「成形性(ピンホールの有無・クラックの有無)」
樹脂組成物を、サイズ(幅320mm×奥行220mm×厚み15mm)の金型に入れ、金型温度150℃、硬化時間180秒、プレス圧力15MPaの条件で成形して硬化させ、評価用サンプルを得た。
得られた評価用サンプルについて、表面のピンホールの有無を目視で確認し、ピンホールなし○、ピンホールあり×と評価した。
また、評価用サンプルについて、クラックの有無を目視で確認し、クラックなし○、クラックあり×と評価した。
【0054】
「反り」
成形性の評価に用いた評価用サンプルを、表面が平らな測定台上におき、測定台とサンプルとの隙間の距離を、隙間ゲージを用いて測定した。
【0055】
「曲げ強さ・曲げ弾性率」
樹脂組成物を、サイズ(幅80mm×奥行10mm×厚み4mm)の金型に入れ、金型温度150℃、硬化時間180秒、プレス圧力15MPaの条件で成形して硬化させ、評価用サンプルを得た。
得られた評価用サンプルを用いて、JIS K 6911−1995に準拠して、曲げ強さ及び曲げ弾性率を測定した。
【0056】
「バーコール硬度」
成形性の評価に用いた評価用サンプルのバーコール硬度をJIS K 6911−1995に準拠して測定した。
【0057】
「カット性」
成形性の評価に用いた評価用サンプル(幅320mm×奥行220mm×厚み15mm)を、切断工具(ダイヤモンドカッター)にて切断し、幅4mm、縦220mmの試験片を5個得た。得られた試験片全てについて、目視で切断面を囲む縁部全体、特に角部を観察した。そして、全ての試験片について切断面を囲む縁部全体に欠けが生じなかった場合を○、欠けが生じた場合を×と評価した。
【0058】
「切断工具耐摩耗性評価」
細いピアノ線にダイヤモンドの砥粒を固定したワイヤーの材料の切断に伴う耐摩耗性は、ダイヤモンドチップを用いて同じ材料を切断した場合におけるダイヤモンドチップの摩耗しやすさおよび剥がれの発生しやすさと対応している。このため、樹脂組成物の硬化物を切断する場合におけるワイヤーの耐摩耗性を、以下に示す方法により、ダイヤモンドチップを用いて樹脂組成物の硬化物を切断した場合におけるダイヤモンドチップの摩耗および剥がれを観察することにより評価した。
成形性の評価に用いた評価用サンプル(幅320mm×奥行220mm×厚み15mm)を、切断工具(ダイヤモンドチップ)を用いて切断することにより、幅4mm、縦220mmの試験片を3個切り出した。切断後の切断工具を目視で観察し、切断工具の摩耗および/または剥がれが見られない場合を○、摩耗および/または剥がれが見られる場合を×と評価した。
【0059】
表1および表2に示すように、実施例1〜6の樹脂組成物の硬化物は、ピンホールがなく、樹脂組成物の成形性が良好であることが確認できた。また、実施例1〜6の樹脂組成物の硬化物は、クラックがなく、機械的強度が良好であった。また、実施例1〜6の樹脂組成物の硬化物は、切断工具耐摩耗性評価が○であり、ワイヤーストレスが少ないものであった。
【0060】
これに対し、(A)不飽和ポリエステル100質量部に対する(C)無機充填材の含有量が少ない比較例1の樹脂組成物の硬化物は、ピンホールがあり、樹脂組成物の成形性が不十分であることが分かった。また、比較例1の樹脂組成物の硬化物は、クラックがあり、機械的強度が不十分であった。比較例1の樹脂組成物の硬化物は、曲げ弾性率が低く、カット性も劣っていた。
【0061】
また、(A)不飽和ポリエステル100質量部に対する(C)無機充填材の含有量が多い比較例2の樹脂組成物の硬化物は、ピンホールがあり、樹脂組成物の成形性が不十分であることが分かった。また、比較例2の硬化物は、クラックがあり、機械的強度が不十分であった。また、比較例2の樹脂組成物の硬化物は、曲げ強さが低く、カット性も劣っていた。
【0062】
また、熱可塑性樹脂を含む比較例3の樹脂組成物の硬化物は、バーコール硬度が低く、カット性が劣っていた。
また、無機繊維を含む比較例4の樹脂組成物の硬化物は、切断工具耐摩耗性評価が×であり、ワイヤーストレスが大きいものであった。