特許第6885725号(P6885725)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6885725相変化材料に基づくディスプレイデバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885725
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】相変化材料に基づくディスプレイデバイス
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/19 20190101AFI20210603BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   G02F1/19
   G02F1/1333
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-542233(P2016-542233)
(86)(22)【出願日】2014年12月22日
(65)【公表番号】特表2017-502351(P2017-502351A)
(43)【公表日】2017年1月19日
(86)【国際出願番号】GB2014053825
(87)【国際公開番号】WO2015097468
(87)【国際公開日】20150702
【審査請求日】2017年12月15日
【審判番号】不服2020-8428(P2020-8428/J1)
【審判請求日】2020年6月17日
(31)【優先権主張番号】1322917.4
(32)【優先日】2013年12月23日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】1417974.1
(32)【優先日】2014年10月10日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】507226592
【氏名又は名称】オックスフォード ユニヴァーシティ イノヴェーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】ハリッシュ バースカラン
(72)【発明者】
【氏名】ペイマン ホセイニ
【合議体】
【審判長】 井上 博之
【審判官】 佐藤 洋允
【審判官】 瀬川 勝久
(56)【参考文献】
【文献】 特開平5−72507(JP,A)
【文献】 特開昭60−50516(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0225989(US,A1)
【文献】 特開2001−194534(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0125997(US,A1)
【文献】 特開2004−240090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスプレイデバイスであって、
複数の電極と、
固体状の材料の部分であって、前記電極への電圧の印加により可逆的に制御可能な屈折率を有する相変化材料である固体状の材料の部分と、
前記電極を介して少なくとも1つの電圧を印加して前記材料の屈折率を変化させるように構成された制御器と、を備え、
前記ディスプレイデバイスは、観察面を有しており、前記固体状の材料の部分のうち前記観察面の反対側に設けられたスペーサ層であって、光を透過するスペーサ層を更に備え、
前記ディスプレイデバイスは、リフレクタを更に備え、前記スペーサ層は、前記リフレクタと前記固体状の材料の部分との間に設けられており、
前記電極は、前記材料の屈折率を制御するために、前記材料に隣接するヒータに電流を通すように配列されている、
ディスプレイデバイス。
【請求項2】
前記材料は、前記電極の少なくとも2つに電気的に接触し、前記制御器は、前記屈折率が選択された値に変化した後に、任意の電圧を前記材料に印加することを停止するように構成されている、請求項1に記載のディスプレイデバイス。
【請求項3】
前記材料は、GeSbTe、VO、NbO、GeTe、GeSb、GaSb、AgInSbTe、InSb、InSbTe、InSe、SbTe、TeGeSbS、AgSbSe、SbSe、GeSbMnSn、AgSbTe、AuSbTe及びAlSbの組み合わせのリストから選択される元素の組み合わせに係る化合物又は合金を備える、請求項1又は2に記載のディスプレイデバイス。
【請求項4】
前記材料は、前記リストからの元素の組み合わせに係る複数の化合物又は複数の合金の混合物を備える、請求項3に記載のディスプレイデバイス。
【請求項5】
前記材料は少なくとも1つのドーパントを更に備える、請求項3又は4に記載のディスプレイデバイス。
【請求項6】
前記材料はGeSbTeを備える、請求項1〜5の何れかに記載のディスプレイデバイス。
【請求項7】
前記材料の部分は100nm未満の厚さである、請求項1〜6の何れかに記載のディスプレイデバイス。
【請求項8】
前記電極の少なくとも1つは光を透過する、請求項1〜7の何れかに記載のディスプレイデバイス。
【請求項9】
前記電極の少なくとも1つはインジウムスズ酸化物又は銀を備える、請求項1〜8の何れかに記載のディスプレイデバイス。
【請求項10】
前記スペーサ層は10nm〜250nmの範囲内の厚みを有する、請求項1〜9の何れかに記載のディスプレイデバイス。
【請求項11】
前記スペーサ層は前記電極の1つを備える、請求項1〜10の何れかに記載のディスプレイデバイス。
【請求項12】
観察面と、前記観察面の反対側において前記材料の部分を照明するように配置された光源と、を有する、請求項1〜11の何れかに記載のディスプレイデバイス。
【請求項13】
アレイ状に配列された複数の前記固体状の材料の部分を備え、前記材料の各部分の屈折率は独立して制御可能である、請求項1〜12の何れかに記載のディスプレイデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はディスプレイデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばポータブルコンピューティング及び通信デバイスの分野においては、ディスプレイ技術がかなり発展してきている。バックライト付きカラーディスプレイ等のディスプレイ技術では、比較的電力消費が大きく、また作製するのに複雑である。別の技術ではバックライト無しの白黒ディスプレイを提供するが、スイッチング速度が遅くビデオをディスプレイすることができず、しかもカラーではない。更なる技術では、高い駆動電圧が必要であり、これは発生するのが不利であり、また電力消費が大きくなりがちである。何れの技術においても、高解像度ディスプレイを製造するという課題もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上述の課題に鑑みて創作されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明は、複数の電極と、前記電極への電圧の印加により可逆的に制御可能な屈折率を有する固体状の材料の部分と、前記複数の電極を介して少なくとも1つの電圧を印加して前記材料の屈折率を変化させるように構成された制御器と、を備えるディスプレイデバイスを提供する。
【0005】
本発明の随意的な更なる特徴は従属請求項において定義される。
【0006】
本発明は、高速で動作可能なカラーのディスプレイデバイスが製造されることを可能にする。本発明は、容易に製造することができ、且つ、高解像度ディスプレイを提示することができるディスプレイデバイスを提供する。本発明の一実施形態に係るディスプレイデバイスは、容易に利用可能な他の商業的エレクトロニクス及び産業技術に適合し、フレキシブル基板を含む種々の基板上で製造することができる。
【0007】
以下、添付図面を参照して本発明の種々の実施形態を例示のみを目的として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係るディスプレイデバイスの一部の模式的な断面図である。
図2】本発明の一実施形態において用いられる相変化材料の電流‐電圧特性のグラフである。
図3(a)】本発明の一実施形態に係るディスプレイ要素の透過性スペーサ層の幾つかの異なる厚みでの波長に対する反射率のプロットであり、結晶質相の相変化材料に対する図である。
図3(b)】本発明の一実施形態に係るディスプレイ要素の透過性スペーサ層の幾つかの異なる厚みでの波長に対する反射率のプロットであり、非晶質相の相変化材料に対する図である。
図4】本発明の一実施形態に係るディスプレイデバイスのディスプレイ要素の色を示すCIE色空間のプロットであり、スペーサ層の種々の厚みの範囲に対する図であって、固体状の相変化材料の非晶質相及び結晶質相の両方に対する図である。
図5】本発明の一実施形態に係るディスプレイデバイスの要素の波長に対する光学的反射率のパーセント変化のプロットであり、スペーサ層の幾つかの厚みに対する図である。
図6】本発明の一実施形態に係るディスプレイデバイスの画素のアレイのための複数の電極の配列を平面視した模式的な図である。
図7】本発明の他の実施形態に係るディスプレイの一部の模式的な断面図である。
図8】本発明の更に他の実施形態に係るディスプレイの一部の模式的な断面図である。
図9】本発明の更なる実施形態に係るディスプレイの一部の模式的な断面図である。
図10(a)】本発明の別の実施形態に係るディスプレイのための透過性フィルタの一部の模式的な断面図である。
図10(b)】本発明の別の実施形態に係るディスプレイのための透過性フィルタの一部の模式的な断面図である。
図10(c)】本発明の別の実施形態に係るディスプレイのための透過性フィルタの一部の模式的な断面図である。
図10(d)】本発明の別の実施形態に係るディスプレイのための透過性フィルタの一部の模式的な断面図である。
図10(e)】本発明の別の実施形態に係るディスプレイのための透過性フィルタの一部の模式的な断面図である。
図11】ディスプレイの一画素のための駆動回路の一実施形態を示す図である。
図12】本発明の一実施形態に係る3Dディスプレイの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1を参照してディスプレイデバイスの一実施形態を説明する。図1は断面における層状構造を示す図である。固体状の材料10の部分は、層状に設けられている。この層の材料は、適切な電圧の印加によって永続的に、しかし可逆的に変化可能な屈折率を有する。かかる材料は、相変化材料(phase change material)(PCM)としても知られており、非晶質相及び結晶質相の間で切り替わった場合に屈折率の実部及び虚部の両方で大きな変化を受ける。好ましい実施形態では、この材料はGeSbTe(GST)である。
【0010】
材料10の部分はリフレクタ12上に設けられており、リフレクタ12は、本実施形態では白金又はアルミニウム等の金属の層である。材料10とリフレクタ12との間にはスペーサ層14が挟まれている。材料層10の上にはキャッピング層16が設けられている。この特定の実施形態においては、キャッピング層16の上面18がディスプレイデバイスの観察面(viewing surface)を構成しており、リフレクタ12は背面リフレクタである。光は、図1の矢印で示されるように、観察面18を通って入射し、観察面18を通って出ていく。しかし、材料層10の屈折率及びスペーサ14の厚みに依存する干渉効果により、反射率は、後で更に説明するように、光の波長の関数として大きく変化する。
【0011】
スペーサ14及びキャッピング層16は両方とも光学的に透過性であり、理想的には可能な限り透明である。本実施形態では、スペーサ14及びキャッピング層16は、電極にもなるという二重機能を有しており、これらの電極の間に挟まれる材料層10に電圧を印加する際に用いられる。従って、スペーサ14及びキャッピング層16は、インジウムスズ酸化物(ITO)等の透明な導電性材料で作製される。
【0012】
図1の全体構造を、半導体ウェハ、SiO等の基板(図示せず)又はポリマーフィルム等のフレキシブル基板上に設けることができる。それぞれの層はスパッタリングを用いて堆積させられ、スパッタリングは100℃という比較的低い温度で行うことができる。これらの層は、リソグラフィとして知られる従来技術、又は、例えば印刷のような他の技術を用いて、必要に応じてパターニングされてもよい。必要に応じて追加的な層がデバイスのために設けられてもよい。
【0013】
好ましい実施形態では、GSTから構成される材料層10は100nm未満の厚さであり、好ましくは10nm未満、例えば6又は7nmの厚さである。スペーサ層14は、後述するように、必要とされる色及び光学的特性に応じて、典型的には10nm〜250nmの範囲内の厚さを有するように成長させられる。キャッピング層16は、例えば20nmの厚さである。
【0014】
本実施形態ではGSTである層10の材料は、電気的に誘起される可逆的な相変化を受けることができる。層10の材料は非晶質状態で堆積させられる。この材料の膜の電気的特性を図2に示す。下側の曲線は非晶質状態に対応しており、比較的高い抵抗を伴う。印加電圧が約3.5Vのスレッショルド電圧に達すると、より大きな電流が流れることを可能にする電子的遷移が生じ、それにより熱が生じて材料が結晶化する。(図2の例では、スレッショルドイベント(threshold event)の後の電流の急増による損傷からデバイスを保護するために、最大電流が120マイクロアンペアに制限されている。)次いで、電圧が減少させられると、電流特性が上側の曲線に従う。上側の曲線の傾斜は、結晶質相の伝導度が非晶質相の伝導度の約350倍になることを示している。そして、材料は、環境条件下において結晶質相で無制限に安定となる。非晶質相に戻すためには、材料を融解する例えば5V等のより高い電圧が印加され、その電圧が十分急速に取り除かれた場合に、材料が再び非晶質相へと凝固する。
【0015】
前述したように、材料が非晶質相と結晶質相との間で切り替わると、屈折率が大きく変化する。材料は、何れかの状態で安定である。このことは、ディスプレイが定常状態にある(切り替えられていない)場合には電圧が完全に取り除かれ得るので、デバイスの電力消費が低いことを意味する。切り替えは、事実上無制限の回数だけ行うことができる。切り替え速度も極めて迅速であって、典型的には300ns未満であり、人間の目が知覚できるよりも確実に数桁は速い。
【0016】
異なる特定の屈折率を有する非晶質相及び結晶質相の間で可逆的に図1のデバイスの材料層10を切り替えるのに必要な電圧を必要な時間だけ印加するために、制御器19(模式的に図1に示されている)が設けられている。制御器は、マイクロプロセッサによって駆動される特定の電子回路を備えることができる。制御器の回路の一部又は全部は、図1の光学層と共に基板上に一体化して設けられてもよいし、専用の別の回路として設けられてもよい。
【0017】
図3(a)及び図3(b)は、図1のデバイスの光学応答を示す図である。図3(a)及び図3(b)は、スペーサ層14の特定の厚みに対して、結晶質状態と非晶質状態との間で切り替えることが入射光の波長の関数としての反射率をどのように変更するのかを示している。また、図3(a)及び図3(b)は、異なる厚さのスペーサ層14を用いることが波長の関数としての反射率のピーク及び谷の位置にどのように影響するのかを示している。
【0018】
このように、図1のデバイスを見ると、特定の色を有しているようであり、スペーサ層14の厚みを選択することによって、種々の色が容易に得られる。材料層10を非晶質状態と結晶質状態との間で切り替えることによって、デバイスの見かけ上の色を変化させることができる。
【0019】
これらの結果を提示する別の方法が図4に示される。図4では、CIE色空間の一部を示しており、2度オブザーバ(two-degree observer)及びD50照明器(D50 illuminator)に対する当該色空間におけるデバイスの見かけ上の色のxy色座標をプロットしている。スペーサ層14の各々の製造厚みは、図4の右側のキー内に記号で示されている。記号ごとに、結晶質相である材料層10(記号に隣接して#で示されている)及び非晶質相である材料層10(#のない記号)に対応する2つの点が色空間内にプロットされている。図から分かるように、スペーサ層14の選択された厚みに応じて、広範囲の色を生成することができる。また、材料層10の2つの相を切り替えることによって、ほとんどの場合において、知覚される色の大きな変化を達成することができる。
【0020】
図5は、層10の結晶質状態と非晶質状態との間での光学的反射率のパーセント変化(Rcry−Ramo)×100/Ramoを示し、Rcryは材料層10が結晶質状態にあるときのデバイスの反射率であり、Ramoは材料層10が非晶質状態にあるときのデバイスの反射率である。各プロットは、複数のスペクトルであり、スペーサ層14のいくつかの異なる厚みに対する応答を示している。図から分かるように、特定の波長域で非常に大きな反射率の変調が得られており、この変調は、スペーサ層14の厚みを選ぶことによって選択可能である。
【0021】
このように、図1のディスプレイは、ある単一色で見えるようにすることができ、次いで対比色で見えるように切り替えることができ、あるいは、反射率を変化させることによってより暗く又はより明るく見えるようにすることができる。ディスプレイデバイスの1つの形態においては、図1の構造のような多くの構造が互いに隣接するようにアレイ状に製造され、各構造は、個別的に電気的に制御可能であり、ディスプレイ全体における1つの画素を構成する。更なる変形においては、各画素は、互いに隣接する図1の構造のようないくつかの構造のクラスタを備えることができるが、クラスタ内の各構造は、異なる厚みのスペーサ層14を有している。このように、クラスタ内の各構造を異なる色の間で切り替えることができ、クラスタを備える画素が、2つの色座標間で単に切り替わるのではなく、色空間内の広い範囲にわたる種々の色で見えるようにすることができる。画素を備えるクラスタ内の種々の厚みの個別構造の数は、3つ以上であってよい。制御器には、RGB等の色座標の1つのセットと、画素を形成するクラスタ内の複数の構造の必要な切り替え状態と、の間の変換マップが設けられており、カラー画像を容易にディスプレイすることができる。
【0022】
更に改良された実施形態では、層10の材料は、完全な結晶質状態と完全な非晶質状態との間で単純に切り替えられる必要がない。例えば20%結晶質、40%結晶質等の複数相の混合物が得られてもよい。部分的な結晶化は、(例えばデバイスに接続された電極のうち1つの電極と直列の可変抵抗とを用いて)切り替え事象に際して許容される最大電流を単純に制限することによって達成される。結果としてもたらされる材料の有効屈折率は、部分的結晶化の程度に応じて、完全な結晶質と完全な非晶質との両極端の間のどこかにある。典型的には、4段階から8段階の区別可能な混合相を得ることができるが、適切な制御によって、例えば128値等の更に高度な区別可能な混合相を得ることができ、色空間内の経路のトレースに応じて連続的な屈折率値が有効に達成され得る。
【0023】
図6は、本発明の一実施形態に係るディスプレイデバイスのための複数の電極の配列を平面視した図である。基板20が設けられて、基板20内又は基板20上には、各画素に対して1つの反射器が製造される。次いで、複数の水平電極24.1,24.2,…,24.nが製造される。また、これらの電極は、スペーサ層14を構成している。固体状の相変化材料層が、堆積させられ、パターニングされる。次いで、一連の垂直電極26.1,26.2,…,26.nが製造される。反射器及び相変化材料層は、これらが水平電極及び垂直電極の交差部分の各々にのみ存在するようにパターニングされる。製造、堆積、及びパターニングの全ては、周知のリソグラフィー技術を用いて実施することができる。
【0024】
水平電極及び垂直電極の交差部分の各々は、個別に電気的に制御可能な画素を備える図1に示されるようなスタック状構造を構成する。製造に際して、スペーサ層/水平(底部)電極の厚みは、図3〜5を参照して説明したように各画素が特定の色の範囲を制御するように、(リソグラフィによって)個別に決定され得る。ある水平電極と、ある垂直電極と、の間に適切な電圧プロファイルを印加することによって、当該交差部分における画素での材料の相を所望に応じて切り替えることができる。しかしながら、アレイ内の他の画素は、その影響を受けないので、画素のアドレス指定が容易になる。
【0025】
デバイスの他の実施形態も作製可能であり、各画素に対して更なる電子要素を一体的に製造して、アクティブマトリクスとして当該分野で知られているものを提供することができる。
【0026】
次いで、図7〜9を参照して、ディスプレイデバイスの更なるいくつかの実施形態を説明する。図1の実施形態と同様の対応部分には同一の参照番号が用いられており、それらの材料組成及び機能の説明は、反復を避けるために省略する。
【0027】
図7は、透過型ディスプレイを示しており、スペーサ層14、相変化材料層10及びキャッピング層16は、透明な又は少なくとも部分的に透過性の基板30上に設けられている。適切な基板の例としては、石英(SiO)基板や、例えばマイラー等のフレキシブルポリマー基板が挙げられる。この場合、ディスプレイデバイスを透過モードで使用することができ、ディスプレイデバイスは、例えば眼鏡、ウィンドウ又は透明ディスプレイパネル等の物品上に設けられてもよい。
【0028】
図8は、図1及び図7の事実上のハイブリッドであるディスプレイデバイスの一実施形態を示す図である。このディスプレイデバイスは、通常の前面層16,10,14と、背面リフレクタ12及び透明層30と、を有している。このディスプレイデバイスは、図1の実施形態と同様に、観察面18から見たときに、バックライト無しのカラーディスプレイとして使用することができる。しかし、このディスプレイデバイスは、バックライト付きディスプレイモードでも使用することができる。この実施形態では、複数のLED等のバックライト照明光源を備える追加層32が設けられている。光源は、透明層30内に光を導入してディスプレイをバックライティングするための適切な手段があるのであれば、スタック内の層として組み込まれる必要がない。
【0029】
図9は、上述した任意の実施形態と共に用いることの可能な電極を設けるための代替的な配列を示す図である。この実施形態では、スペーサ層14及びキャッピング層16は、光に対して透過性であるが、導電性ではない。その代わりに、電極40,42の各々は、材料部分10の何れかの側に製造されており、電極40,42間への適切な電圧の印加によって切り替えがなされ得るように、相変化材料部分10と電気的に接触している。
【0030】
いくつかの実施形態では、透明電極のための好ましい材料としてITOを用いているが、これは単なる例であり、例えばカーボンナノチューブや、例えば銀等の金属の薄層等の他の適切な材料を用いることもできる。また、図9の構造等が採用される場合には、電極が透明であることは必須ではなく、この場合、電極40,42は、例えばタングステン又はチタン等の導電材料から製造され得る。
【0031】
上述した実施形態は、層10の相変化材料としてGST(GeSbTe)を参照して説明したが、このことは本発明にとって本質的ではなく、GeSbTe、GeTe、GeSb、GaSb、AgInSbTe、InSb、InSbTe、InSe、SbTe、TeGeSbS、AgSbSe、SbSe、GeSbMnSn、AgSbTe、AuSbTe及びAlSbのリストから選択される元素の組み合わせに係る化合物又は合金を含む多くの他の適切な材料が単独で又は組み合わせにおいて利用可能である。また、これらの材料の種々の化学量論的形態も可能であり、例えばGeSbTeが挙げられ、他の適切な材料は、AgInSb76Te17(AISTとしても知られる)である。更に、材料は、C又はN等の1つ以上のドーパントを備えることもできる。
【0032】
本明細書に記載された実施形態は、材料層が結晶質相及び非晶質相等の2つの状態の間で切り替え可能であることに言及したが、任意の2つの固相の間で変質してもよく、そのような例としては、限定はされないが、結晶質から他の結晶質若しくは準結晶質への変質又はその逆、非晶質から結晶質若しくは準結晶質/半秩序(semi-ordered)への変質又はその逆、及び、中間の全ての形態が挙げられる。また、実施形態は、単に2つの状態に限定されない。
【0033】
切り替えのメカニズムは、電気パルスの印加による加熱に限定されず、任意の電磁場による加熱(例えばレーザ又は他の光源からの光パルスによるもの)であってもよいし、熱による加熱(例えば相変化材料に熱接触する隣接層の電気抵抗加熱を用いるもの)であってもよい。
【0034】
光学デバイスの更なる実施形態は、前述した構造に1つ以上の追加的な相変化材料層10及びスペーサ層14を設けて多層スタックを作製するものである。この実施形態のように交互の層を繰り返すことによって、スペクトル応答ピークの幅を減少させて、より波長(色)特異的(wavelength (color) specific)なものとすることができる。しかし、より多くの層が追加されるのに従って吸収損失も増加するので、相変化材料層の最大数は、典型的には2又は3である。
【0035】
多層スタック光学デバイスにおいては、各層の厚みは、技術者が望む光学特性に対して互いに独立して選択することができる。例えば、各相変化材料層10の厚みは、スペクトルの全域で材料10の異なる状態又は異なる相の間でのコントラストを決定する。各材料層の相を独立して切り替える/選択することによって、複数の多重色の組み合わせ(複数スペクトル)を得ることができる。例えば、2層の相変化材料層の場合には、Am−Am、Cry−Am、Am−Cry及びCry−Cryの組み合わせによって、4つの異なる見かけ上の色を得ることができる(ここで、記号Amは非晶質、記号Cryは結晶質を表し、記号のペアは2層に対応する)。適切な個別の電極が設けられている場合には、多層の各々を個別に切り替えることができる。
【0036】
本発明の更なる実施形態は、透過型ディスプレイを提供するための図7に類似している。図10(a)に示すように、この透過型ディスプレイは、2層の薄い光学的透過性層52,54の間に挟まれた相変化材料の層50を備えており、二色性フィルタ又は薄膜フィルタとしても知られる透過モードの色フィルタを形成している。このフィルタは、基板(図7の基板30等)上に設けることができ、あるいは、SiO等の更なる上部層及び底部層(図示せず)の間に封入することもできる。相変化材料層50は、複数の状態間で切り替えられて、色コントラストを提供することができる。切り替えは、材料を局部的に加熱することにより熱的に行われ、加熱は、電気的又は光学的(例えばIR照明)に行うことができる。1つのバージョンにおいては、パターン化され又は画素化された複数の電極が1つ以上の層との電気的な接触を可能にすることで、加熱及び切り替えが可能である。このことは、図10(a)に示すように、上部層52及び下部層54に亘って電圧を印加して電流が層50を介して通るようにして、オーミック加熱を生じさせることにより行うことができる。代替的には、図10(b)に示すように、電流が層50を横方向に通過するようにもできる。加熱は、相変化材料層50に隣接するヒータを設けることによって行うこともできる。ヒータは、図10(c)、図10(d)及び図10(e)に示すように、層状構造の一方の面又は両面に設けられた例えばITO等の透明導電層56であってよい。図10は単に模式的なものであり、単一の切り替え可能な画素のみを示しているが、実用的なディスプレイは、数百万の画素を有していてよい。このデバイスは、色を伴う半透明ディスプレイの他に、光電子デバイス(例えばLCD)のためのチューナブルフィルタとして用いることができ、又は、スマートジュエリー若しくは例えばタイル等の装飾品や他の美術品のために用いることができる。
【0037】
図10の好ましい実施形態においては、相変化材料層50は、二酸化バナジウム(VO)、又は、より一般的にはVO(化学量論に応じて)であり、これを挟む層52,54は、銀(Ag)又は任意の透明若しくは半透明な層である。VOは、本来、単安定であり、65℃未満の温度では第1の結晶質状態(単斜晶系)にあり、65℃を超えて加熱されると第2の結晶質状態(ルチル)に遷移するが、熱源が取り除かれるとすぐに第1の状態に戻る。層の種々の厚みの範囲で2つの状態の間では大きな色コントラストを得ることができる。例えば、VOは、20〜40nm厚の範囲内であってよく、各銀層は、8〜10nm厚の範囲内であってよい。
【0038】
VOは、これらの更なる実施形態のための適切な相変化材料の一例にすぎない。任意の所謂「モットメモリスタ(Mott memristors)」(特定の温度で金属から絶縁体への遷移(metal-to-insulator transition;MIT)を受ける材料)が適しており、例えばNbOである。言うまでもなく、これらの化合物は、図1以降に本明細書で説明した上記の実施形態の何れにおいても用いることができる。
【0039】
単安定材料(上述したVO等)から構成される画素の各々の切り替えを制御するために、駆動回路が必要である。相変化は温度依存であるが、各画素に対して熱電対及び温度制御フィードバックシステムを設けることは実用的でない。一方、過熱及び不必要な電力消費を避けるためには、供給される電流を細かく制御することも重要である。駆動回路の1つの適切な形態は、図11に示すようなピアソン‐アンソン(Pearson-Anson)発振器等の自己発振回路である。この回路は、極めて少ない部品しか必要とせずに、各画素に対する受動制御を提供することができる。画素が「オン」(スイッチSWによりDC電源V1から印加される駆動電圧V1)になると、発振の時定数(抵抗R1及びキャパシタC1により設定される)は、MHzの周波数を有することができるので、人間の観察者には連続的なものとして認識される。抵抗R1の値は、発振のデューティサイクルも制御し、画素の相変化材料と直列の更なる抵抗R2とが最大電流を設定する。従って、これらの抵抗R1,R2の値を変化させることによって、切り替えられた画素で知覚される輝度及び色を容易に変化させることができ、ナノスケール画素上で有効に自己制御されたグレースケール変調を確実にすることができる。
【0040】
上述した任意の実施形態の更なる変形例は、層状ディスプレイ構造の前面又は裏面の何れかに設けられた液晶透過型ディスプレイ(図示せず)を含む。液晶ディスプレイは、ディスプレイデバイスに入射する光及び/又はディスプレイデバイスから出てゆく光の偏光に対して特別の制御を提供するために用いることができる。
【0041】
本発明を具現化するディスプレイデバイスは、消費電力が低いにもかかわらず、高解像度のカラーディスプレイを提供することができる(解像度はリソグラフィー技術によってのみ制限される)。このディスプレイデバイスは高速で切り替え可能であるので、動画を表示することができ、広い画角を有する。デバイスは、標準的な技術を用いて製造することができ、極めて薄く作製でき、必要に応じてフレキシブルにできる。
【0042】
本発明の上述した実施形態は、二次元(2D)ディスプレイを提供する。ディスプレイパネルをフレキシブルにすることができ、及び/又は、ディスプレイパネルを曲面上に設けることができるが、これでも基本的には2Dである。しかし、アイテムが三次元(3D)で視覚化され得るようなディスプレイを提供することが望ましいであろう。上述したように、図7又は図10の配列は、透過型ディスプレイを提供する。いくつかの係る透過型2Dディスプレイパネルを、互いに平行にスタック状に、好ましくは図12に示すように互いに離間して設けることによって、被写体の3D画像を描画することができる。制御ボックス60は、各2Dディスプレイパネルにアドレスし、各パネルに被写体の薄片(slice)に対する画像データを提供する。これらの画像をリアルタイムで変化させることができるので、3D動画をディスプレイすることができる。
【0043】
この実施形態の3Dディスプレイは、データが本質的には撮像中の被写体の複数の薄片として得られるので、例えば医療用撮像等で一般的なトモグラフィを用いる任意の分野での使用に特に適している。制御ボックス60は、被写体の各々の薄片に対する画像データを各2Dディスプレイパネルに提供し、ユーザは、3Dディスプレイの周りを移動して被写体を異なる角度から見ることができる。
図1
図2
図3(a)】
図3(b)】
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10(a)】
図10(b)】
図10(c)】
図10(d)】
図10(e)】
図11
図12