特許第6885794号(P6885794)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6885794圃場管理システム、圃場管理方法、プログラムおよび記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885794
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】圃場管理システム、圃場管理方法、プログラムおよび記録媒体
(51)【国際特許分類】
   A01G 22/22 20180101AFI20210603BHJP
   G06Q 50/02 20120101ALI20210603BHJP
【FI】
   A01G22/22 Z
   G06Q50/02
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-111871(P2017-111871)
(22)【出願日】2017年6月6日
(65)【公開番号】特開2018-201428(P2018-201428A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 生吹樹
(72)【発明者】
【氏名】谷口 輝行
【審査官】 大谷 純
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−064650(JP,A)
【文献】 特開平08−275684(JP,A)
【文献】 特開平09−065776(JP,A)
【文献】 特開2001−161192(JP,A)
【文献】 特開2017−042071(JP,A)
【文献】 特開平10−178941(JP,A)
【文献】 特開平11−009123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 22/22、25/00
G06Q 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場に存在する水の温度を測定する水温測定装置と、
前記水温測定装置によって測定された温度のデータを処理する情報処理装置と、を備えた圃場管理システムであって、
前記情報処理装置は、前記温度の上昇速度を演算する上昇速度演算部と、
前記温度が第一閾値以上であり、かつ、前記上昇速度が所定の基準値以上である場合に、前記圃場の管理者への報知を行う報知部と、
を備えることを特徴とする圃場管理システム。
【請求項2】
前記圃場への水の供給を制御する給水制御装置をさらに備え、
前記情報処理装置は、前記温度が前記第一閾値よりも高い第二閾値以上である場合に、前記給水制御装置に前記圃場への水の供給を指示する給水指示部をさらに備えることを特徴とする請求項に記載の圃場管理システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の前記情報処理装置の各部としてコンピュータを機能させるための圃場管理プログラム。
【請求項4】
請求項に記載の圃場管理プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項5】
圃場に存在する水の温度を測定する水温測定ステップと、
前記温度の上昇速度を演算する上昇速度演算ステップと、
前記温度が第一閾値以上であり、かつ、前記上昇速度が所定の基準値以上である場合に、前記圃場の管理者への報知を行う報知ステップと、
を備えることを特徴とする圃場管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場に存在する水の温度を管理する圃場管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
圃場の農作物に与えられる水の温度は、農作物の品質に大きな影響を与える。例えば、ある品種の稲は、水田の水温が28℃を超えると、品質が大幅に悪化することが知られている。これに対し、下記の特許文献1では、水田の水温等を測定し、測定結果に基づいて水温が適切な値になるように、水田への給水を制御するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2929257号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に水田の水量は多いため、特に、水温の上昇速度が大きい場合、水田への給水を行っても、すぐには水温を下げることはできない。そのため、例えば、水温が28℃を超えた場合に給水を行うように給水制御したとしても、稲を長時間、高温に晒すことになり、品質が悪化しやすくなる。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、圃場に存在する水の温度を適切に管理できる圃場管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、圃場の水の温度の上昇速度に基づいて、圃場の管理者への報知を行うことで、水の温度を適切に管理できることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
圃場に存在する水の温度を測定する水温測定装置と、
前記水温測定装置によって測定された温度のデータを処理する情報処理装置と、を備えた圃場管理システムであって、
前記情報処理装置は、前記温度の上昇速度を演算する上昇速度演算部と、
前記上昇速度が所定の基準値以上である場合に、前記圃場の管理者への報知を行う報知部を備えることを特徴とする圃場管理システム。
項2.
前記報知部は、前記温度が第一閾値以上であり、かつ、前記温度の上昇速度が前記所定の基準値以上である場合に、前記報知を行うことを特徴とする項1に記載の圃場管理システム。
項3.
前記圃場への水の供給を制御する給水制御装置をさらに備え、
前記情報処理装置は、前記温度が前記第一閾値よりも高い第二閾値以上である場合に、前記給水制御装置に前記圃場への水の供給を指示する給水指示部をさらに備えることを特徴とする項2に記載の圃場管理システム。
項4.
項1〜3のいずれか1項に記載の前記情報処理装置の各部としてコンピュータを機能させるための圃場管理プログラム。
項5.
項4に記載の圃場管理プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
項6.
圃場に存在する水の温度を測定する水温測定ステップと、
前記温度の上昇速度を演算する上昇速度演算ステップと、
前記上昇速度が所定の基準値以上である場合に、前記圃場の管理者への報知を行う報知ステップと、
を備えることを特徴とする圃場管理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、圃場に存在する水の温度を適切に管理できる圃場管理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る圃場管理システムの全体構成を示すブロック図である。
図2】温度の上昇速度の定義を説明するためのグラフである。
図3】水田の水温の変化の一例を示すグラフである。
図4】水田の水温の変化の他の例を示すグラフである。
図5】水田の水温の変化のさらに他の例を示すグラフである。
図6】本発明の一実施形態に係る温度管理方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
(圃場管理システムの全体構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る圃場管理システム1の全体構成を示すブロック図である。圃場管理システム1は、水温測定装置2と、情報処理装置3と、携帯端末4と、給水制御装置5と、水門6と、を主に備えている。
【0012】
水温測定装置2は、圃場に存在する水の温度を測定するものであり、例えば水温計で構成される。本実施形態では、圃場が水田である場合を想定しており、水温測定装置2は、少なくとも温度検知するセンサ部分が水面下に位置するように設けられる。
【0013】
情報処理装置3は、水温測定装置2と有線または無線で接続されており、水温測定装置2によって測定された温度のデータを処理するものである。情報処理装置3は、例えば、汎用のパーソナルコンピュータ、または専用のマイクロコンピュータによって構成することができる。情報処理装置3が汎用のパーソナルコンピュータである場合、情報処理装置3は、例えば水田近傍の建物内に設置される。情報処理装置3が小型のマイクロコンピュータである場合は、情報処理装置3は、水田内に設置された保護ケース内に水温測定装置2とともに収容されてもよい。情報処理装置3の詳細な構成は、後述する。
【0014】
携帯端末4は、圃場(水田)の管理者が携帯するスマートフォンや携帯電話などの端末装置である。インターネットNを介して、少なくとも情報処理装置3から携帯端末4への通信が可能となっており、情報処理装置3は電子メール等の電文を携帯端末4に送信することができる。
【0015】
給水制御装置5は、水田と用水路との間に設けられた水門6の開閉を制御するものである。給水制御装置5は、例えば水門6の近傍に設置され、情報処理装置3と有線または無線によって通信可能となっている。後述するように、給水制御装置5は、情報処理装置3から給水指示の信号を受信すると、水門6を開く制御を行う。
【0016】
(情報処理装置の構成)
情報処理装置3は、ハードウェア構成として、CPU(図示せず)、メモリ(図示せず)、補助記憶装置30などを備えており、CPUが各種プログラムをメモリに読み出して実行することにより、各種演算処理を実行する。情報処理装置3が汎用のパーソナルコンピュータで構成される場合、情報処理装置3には、液晶ディスプレイ等の表示装置(図示せず)、および、キーボードまたはタッチパネル等の入力装置(図示せず)が接続されてもよい。また、補助記憶装置30は、例えばハードディスクドライブ(HDD)やソリッドステートドライブ(SSD)で構成することができる。補助記憶装置30は、情報処理装置3に内蔵されてもよいし、情報処理装置3とは別体の装置としてもよい。
【0017】
情報処理装置3は、機能ブロックとして、水温データ受信部31と、上昇速度演算部32と、報知部33と、給水指示部34と、を有している。これらの機能ブロックは、情報処理装置3のCPUが本実施形態に係る圃場管理プログラムを実行することによって実現される。本実施形態に係る圃場管理プログラムは、CD−ROMなどの非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよく、当該記録媒体を情報処理装置3に読み取らせることにより、圃場管理プログラムが補助記憶装置30に格納される。あるいは、インターネットNを介して圃場管理プログラムのプログラムコードを情報処理装置3にダウンロードしてもよい。
【0018】
水温データ受信部31は、水温測定装置2が測定した温度のデータ(以下、水温データと称する)を受信する機能ブロックである。水温データ受信部31は、常時、水温測定装置2から水温データを受信するように構成してもよいし、所定時間毎(例えば1分毎)に水温データを受信するように構成してもよい。水温データ受信部31は、受信した水温データを随時、補助記憶装置30に水温履歴H1として記録する。また、水温データ受信部31は、報知部33または給水指示部34からの指示に応じて、指示を受けた時点の温度Tを報知部33または給水指示部34にそれぞれ入力する。
【0019】
補助記憶装置30には、水温履歴H1の他、基準値R1、第一閾値T1および第二閾値T2が格納されている。基準値R1は、後述する上昇速度演算部32によって演算された上昇速度と比較するためのデータであり、第一閾値T1および第二閾値T2は、水温測定装置2が測定した温度Tと比較するためのデータである。本実施形態では、基準値R1は4.0(℃/時間)に設定されており、第一閾値T1および第二閾値T2はそれぞれ、20(℃)および28(℃)に設定されている。
【0020】
上昇速度演算部32は、水温データ受信部31が受信した温度Tの上昇速度を演算する機能ブロックである。上昇速度とは、あるにおける微小時間あたりの温度上昇値を意味する。図2に示すように、時間tにおける上昇速度は、理論的には、時間tにおける温度変化曲線L1の接線L2の傾きに対応するが、接線L2の傾きに近似した値であってもよい。
【0021】
上昇速度を演算する具体的な態様は特に限定されない。本実施形態では、上昇速度演算部32は、水温履歴H1を参照して、演算時点の温度T、および、演算時点から所定時間前の温度Tを取得する。所定時間を△tとすると、下記式1によって、上昇速度Rが算出される。
R=(T−T)/△t …(式1)
本実施形態において、△tは例えば0.1(時間)であるが、水温測定装置2の測定精度や、水温データ受信部31によるデータ受信間隔などに応じて、適宜変更可能である。本実施形態では、上昇速度演算部32は、報知部33からの指示に応じて上昇速度Rの演算を行い、算出した上昇速度Rを報知部33に入力する。
【0022】
報知部33は、温度Tが第一閾値T1以上であり、かつ、温度の上昇速度Rが所定の基準値R1以上である場合に、圃場の管理者への報知を行う機能ブロックである。本実施形態では、報知部33は、所定時間毎(例えば30分毎)に水温データ受信部31から温度Tを取得して、温度Tと第一閾値T1とを比較する。第一閾値T1は、稲の発育に悪影響を与える温度よりも所定温度だけ低い値に設定され、本実施形態では例えば20(℃)である。温度Tが第一閾値T1以上である場合、報知部33は、上昇速度演算部32に温度Tの上昇速度Rの演算を指示し、上昇速度演算部32から上昇速度Rを受け取る。さらに、報知部33は、上昇速度演算部32から入力された上昇速度Rを、補助記憶装置30に格納された基準値R1と比較する。基準値R1は、本実施形態では例えば4.0(℃/時間)である。
【0023】
上昇速度Rが基準値R1以上である場合、報知部33は、インターネットNを介して、電子メールを送信することにより、管理者への報知を行う。電子メールの具体的な内容は、現時点で水田の水温が第一閾値T1以上(20℃以上)であり、かつ、水温の上昇速度が大きいことを示すものであれば、特に限定されない。
【0024】
図3は、水田の水温の変化の一例を示すグラフである。上述のように、上昇速度演算部32は、30分毎(8時00分、8時30分、9時00分、9時30分、…)に水温の上昇速度の演算を行う。9時00分における上昇速度Rは、基準値R1を超えているが、当該時間における水温が第一閾値T1である20℃未満であるため、報知部33は管理者への報知を行わない。その後、水温が20℃以上になるが、9時30分、10時00分および10時30分における上昇速度は基準値R1未満であるため、報知部33は管理者への報知を行わない。その後、11時00分における上昇速度が基準値R1以上であり、かつ、当該時間における水温が20℃以上であるため、報知部33は携帯端末4へ電子メールを送信することにより、管理者へ報知を行う。管理者は、電子メールを確認することにより、短時間のうちに水温が稲の生育に悪影響を与えるほど高くなる可能性があることを認識でき、必要に応じて、水門6を開いて水田への給水を行い、水温を下げる措置を講ずることができる。これにより、稲を高温状態に晒すことを防止して、水の温度を適切に管理することができる。図3に示す例では、管理者が報知部33から報知に応じて水田への給水を行ったことで、水温は、稲の発育に悪影響を与える28℃に達していない。
【0025】
なお、管理者は、報知部33からの報知を受けた場合であっても、水田への給水を行うことは必須ではない。例えば、乾季による水不足、あるいは、用水路が近隣農家との共有であるといった事情により、水田への給水が制限されることがある。また、水温の上昇速度が急激であったとしても、その後の天候が曇り又は雨になることが予想される場合もある。そういった場合、管理者は、稲が高温状態に晒されるリスクと、他の事情とを総合的に勘案して、水田への給水を行わない判断を下すこともできる。
【0026】
また、上昇速度Rが基準値R1以上である場合は、水温にかかわらず管理者への報知を行うようにしてもよい。例えば、図3では、9時00分における水温は第一閾値T1未満であるが、上昇速度Rが基準値R1を超えていることに応じて、報知部33による報知を行ってもよい。
【0027】
ただし、あまりに水温が低い場合は、上昇速度Rが大きくても、水温が稲の発育に悪影響を与えるほど高くなる可能性は非常に低い。そのため、本実施形態のように、上昇速度Rが大きい場合、短時間のうちに稲の発育に悪影響を与える水温に達するおそれがある温度を第一閾値T1として設定し、管理者への報知を行う条件として、水温が第一閾値T1以上であるという条件を加えることが好ましい。これにより、水温が低い状況下で、実質的に不要な報知が行われることを防止できる。
【0028】
再び図1を参照する。図1に示す給水指示部34は、温度Tが第一閾値T1よりも高い第二閾値T2以上である場合に、給水制御装置5に水田への水の供給を指示する機能ブロックである。給水指示部34は、所定時間毎(例えば30分毎)に水温測定装置2が測定した温度Tを補助記憶装置30に格納された第二閾値T2と比較する。第二閾値T2は、稲の発育に悪影響を与える温度に設定され、本実施形態では28(℃)である。比較の結果、温度Tが28(℃)以上である場合、給水指示部34は、給水制御装置5に水門6を開くように指示する信号を送信する。これにより、水温が稲の発育に悪影響を与える温度に達した場合に、自動的に水田への給水が行われ、水温を下げることができる。
【0029】
上述のように、水田の管理者は、報知部33からの報知を受けた場合であっても、水田への給水を行わない判断を下すことができる。また、報知部33が携帯端末4に電子メールを送ったとしても、通信状態が悪く携帯端末4が電子メールを受信できない、携帯端末4が電子メールを受信しても管理者が電子メールの確認を怠る、管理者が水田から遠方に滞在しており水田への給水を行うことができない、といった可能性もある。そのような場合に、水温が稲の発育に悪影響を与える温度に達したとしても、本実施形態では、給水指示部34によって自動的に水田への給水を行うことにより、稲が長時間高温状態に晒される不利益を回避することができる。
【0030】
図4は、水田の水温の変化の他の例を示すグラフである。このグラフにおける水温の変化は、11時00分までは、図3に示すグラフと同一である。図4では、11時00分において、報知部33から管理者への報知が行われたにもかかわらず、水田への給水が行われなかったため、そのまま水温が上昇し続けている。その後、11時30分において、給水指示部34による温度Tと第二閾値T2(28℃)との比較が行われ、その結果、温度Tが28℃以上となっているため、水田への給水指示が行われる。これにより、水温が下がり、稲が28℃以上の高温に晒される時間を抑制することができる。
【0031】
図5は、水田の水温の変化のさらに他の例を示すグラフである。このグラフでは、8時00分から11時30分まで、徐々に水温が上昇し続けているが、温度の上昇速度Rが基準値R1未満であるため、報知部33による管理者への報知が行われることはない。そして、11時30分において、温度Tが28℃以上となっているため、給水指示部34による水田への給水指示が行われる。なおこのとき、給水指示とともに、管理者への報知を行ってもよい。
【0032】
(フローチャート)
図6は、本実施形態に係る圃場管理方法の手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態に係る圃場管理方法は、図1に示す圃場管理システム1によって実施される。以下では、図1および図6を参照して説明する。
【0033】
ステップS1では、水温データ受信部31が、常時または所定時間毎(例えば1分毎)に、水温測定装置2から水温データを受信する。
【0034】
ステップS2では、上昇速度演算部32、報知部33および給水指示部34による演算処理が所定時間毎(例えば30分毎)に行われる。具体的には、ステップS3において、報知部33が水温データ受信部31から温度Tを取得して、温度Tと第一閾値T1とを比較する。その結果、温度Tが第一閾値T1未満である場合、(ステップS3においてNO)、ステップS2は終了し、ステップS9に移行する。一方、温度Tが第一閾値T1以上である場合(ステップS3においてYES)、ステップS4に移行する。
【0035】
ステップS4では、報知部33が上昇速度演算部32から上昇速度Rを受け取り、上昇速度Rを基準値R1と比較する。その結果、上昇速度Rが基準値R1未満である場合(ステップS4においてNO)、ステップS5に移行し、上昇速度Rが基準値R1以上である場合(ステップS4においてYES)、ステップS8に移行する。ステップS5およびステップS8では、いずれも、給水指示部34が水温データ受信部31から温度Tを取得して、温度Tと第二閾値T2とを比較する。
【0036】
ステップS5において、温度Tが第二閾値T2以上である場合(ステップS5においてYES)、給水指示部34は給水制御装置5に給水を指示するとともに(ステップS6)、報知部33が管理者への報知を行う(ステップS7)。同様に、ステップS8において、温度Tが第二閾値T2以上である場合(ステップS8においてYES)も、ステップS6およびステップS7の処理を行う。このとき、ステップS6およびステップS7は、同時に行ってもよいし、ステップS7をステップS6の前に行ってもよい。
【0037】
一方、ステップS5において、温度Tが第二閾値T2未満である場合(ステップS5においてNO)、ステップS2は終了し、ステップS9に移行する。また、テップS8において、温度Tが第二閾値T2未満である場合(ステップS8においてNO)は、報知部33が管理者への報知を行う(ステップS7)。
【0038】
ステップS2とその処理結果を要約すると、温度Tが第一閾値T1未満である場合、給水指示および管理者への報知のいずれも行われない。温度Tが第一閾値T1以上第二閾値T2未満である場合、温度の上昇速度Rが基準値R1以上であれば、管理者への報知のみが行われる。温度Tが第二閾値T2以上であれば、温度の上昇速度Rに関わらず、給水指示および管理者への報知の両方が行われる。
【0039】
ステップS2〜S8の一連の処理が終了し、ステップS9に移行すると、所定時間(例えば30分)経過後に、再度、ステップS2に戻り、一連の処理を繰り返す。なお、ステップS9における所定時間、すなわち、ステップS2の演算処理を行う間隔は特に限定されない。しかし、当該所定時間をあまり長く設定すると、管理者への報知が行われずにステップS9に移行した後、急激に水温が高温に達して稲の生育に悪影響を与える可能性が高くなる。反対に、当該所定時間をあまり短く設定すると、管理者への報知が非常に頻繁に行われる可能性がある。なお、ステップS2〜S8の処理は、夕刻から明け方の時間帯には行わず、気温が上昇する時間帯のみ行うようにしてもよい。
【0040】
(付記事項)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0041】
上記実施形態では、報知部33による報知を電子メールによって行っているが、管理者への報知の具体的態様は、特に限定されない。例えば、電子メールを送信する代わりに、携帯端末4に自動音声による着信を入れるといった形態や、スピーカーを水田または管理者の居所に設置し、スピーカーから音声を流すといった形態を採用することができる。
【0042】
また、上記実施形態では、温度Tが第二閾値T2以上であれば、図1に示す給水指示部34によって水田への給水指示が行われるが、この制御は本発明に必須ではない。すなわち、給水指示部34および給水制御装置5を省略してもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、基準値R1を4.0(℃/時間)に設定し、第一閾値T1および第二閾値T2をそれぞれ、20(℃)および28(℃)に設定していたが、これらの具体的な数値は、水田で管理している稲の発育状況や稲の品種などに合わせて、適宜設定されるものであり、情報処理装置3のユーザ(例えば管理者)によって変更可能である。
【0044】
また、上記実施形態では、情報処理装置3は水田近傍の建物内、または水田内に設置された保護ケース内に設けられていたが、情報処理装置3を設ける場所は特に限定されず、例えば、情報処理装置3をクラウド上に設けてもよい。この場合、情報処理装置3は、水温測定装置2および給水制御装置5とインターネット等の通信ネットワークを介して接続される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る圃場管理システムは、水田の他、作物を育てるための水が存在するあらゆる圃場に適用できる。
【符号の説明】
【0046】
1 圃場管理システム
2 水温測定装置
3 情報処理装置
4 携帯端末
5 給水制御装置
6 水門
30 補助記憶装置
31 水温データ受信部
32 上昇速度演算部
33 報知部
34 給水指示部
R 上昇速度
R1 基準値
T 温度
T1 第一閾値
T2 第二閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6