(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルの含有量が、前記ボールペン用インキ組成物の総質量を基準として、0.01質量%〜10質量%である、請求項1に記載のボールペン用インキ組成物。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準である。
【0009】
<<ボールペン用インキ組成物>>
本発明によるボールペン用インキ組成物(以下、場合により、インキ組成物と表す。)は、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルと、着色剤と、溶媒と、を含んでなることを第一の特徴とする。以下、本発明によるインキ組成物を構成する各成分について説明する。
【0010】
<ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステル>
本発明のインキ組成物は、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルを含んでなる。
前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルとは、下記式(1)で示されるリン酸エステルである。
【0012】
式(1)中のC
2H
4Oはエチレンオキシド基、C
3H
6Oはプロピレンオキシド基を表す。尚、プロピレンオキシド基は、−(CH
2)
3−、−CH
2CH(CH
3)−のいずれでも良い。また、式(1)中のxは1〜3である。式(1)中のy、zはそれぞれ、エチレンオキシド付加モル数、プロピレンオキシド付加モル数を表し、y≧1、z≧0である。
R
2は、OHまたはR
1であり、R
2=OHの場合にはモノエステル、R
2=R
1の場合にはジエステルを表す。本発明においては、モノエステル、ジエステルの混合物を用いても構わない。
【0013】
尚、y≧1かつz≧1である場合には、エチレンオキシド基とプロピレンオキシド基が結合する順番は任意であり、ランダム状でもブロック状に結合していても構わない。
【0014】
前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルは、インキ組成物に添加されると潤滑剤として働き、滑らかな書き味をもたらし、ボール座の摩耗を抑制し、良好な筆跡もたらすことができる。
これは、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルは、リン酸基を有することから、金属に対する吸着力が高い。このため、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルを含んでなる本発明のインキ組成物は、ボールとボール座に吸着され、ボールとボール座の間で潤滑油のように働くことができる。このため、ボールの滑らかな回転を維持することができ、ボールとボール座の摩耗を抑制することができることから、滑らかな書き味とともに良好な筆跡をもたらすことができると推測できる。さらに、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルは、エチレンオキシド基を含んでなるアルキレンオキシド基と、スチリルフェニル基を構造中に含む。スチリルフェニル基は芳香環を複数有することから嵩高く大きな立体障害効果が期待できる。さらにスチリルフェニル基は芳香環以外にもエチレン二重結合を有する。このため、複数の芳香環とエチレン二重結合の両構造から平面相互作用によるスタッキング効果が期待できることから、他の芳香族基と比較してより安定な分子膜を形成する優れた効果を得ることができる。よって、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルはスチリルフェニル基の相互作用によって、安定で強固な分子膜を形成するとともに、ボールとボール座に吸着されたインキ組成物の表面に十分な膜厚をもって安定に存在することができる。このため、ボールとボール座の間の潤滑性は優れ経時的にも安定に保持されると考えられる。
以上より、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルを含んでなる本発明のインキ組成物は、潤滑性に優れたものとなり、ボール座の摩耗を効果的に抑制し、初期はもちろんのこと経時的にも滑らかな書き味と良好な筆跡を得ることが可能である。
【0015】
さらに、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルは、分散剤としての効果を併せもつ。このため、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルを含んでなる本発明のインキ組成物は、顔料、無機粒子、樹脂粒子など溶媒に不溶な状態となり得る成分を用いた場合、該成分は均一に分散され、凝集沈降が生じ難い優れた分散安定性を有するものとなる。
これは、理由は定かではないが、下記のように推測する。前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルは、前述の通り、エチレンオキシド基を含んでなるアルキレンオキシド基と、二重結合をもつスチリルフェニル基を有し、一つの分子内に親水性部位と疎水性部位を有するものである。前記界面活性剤のスチリルフェニル基は複数の芳香環を有する疎水性部位として、顔料、無機粒子、樹脂粒子などの表面に吸着し、アルキレンオキシド基、リン酸基などの親水性部位は溶媒側へ配向することで安定し、顔料などの分散効果も得られる。さらには、スチリルフェニル基には芳香環以外にもエチレン二重結合を有しており、該エチレン二重結合は、単結合と比べて吸着力に優れるため、スチリルフェニル基を疎水性部位として有する前記界面活性剤は、顔料などをより安定に分散できると考えられる。特に、顔料や樹脂粒子に芳香環を構造中に有する場合、前記界面活性剤との間により強い相互作用が生じるため、更に良好な分散安定性が得られると考えられるため、好ましい。
【0016】
以上より、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルを含んでなる本発明のインキ組成物は、ボールとボール座の潤滑性が高く、ボール座の摩耗を効果的に抑制できるとともに、分散安定性も協奏する優れた効果を呈することから、初期、経時においても良好な書き味と良好な筆跡を得ることができる。
【0017】
尚、本発明において、潤滑性の向上による摩耗の抑制と、書き味の向上、さらに分散安定性の向上を考慮すると、式(1)中のxが2または3である前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルを含んでなることが好ましい。これは、分子内にスチリルフェニル基を複数もつため、より嵩高く大きな立体障害効果が得られやすく、ボールとボール座の間の潤滑性が向上することができるため好ましい。
【0018】
また、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルは、式(1)中においてz=0である、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルを選択して用いることが好ましい。
【0019】
また、本発明において、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルは、インキ組成物の経時安定性を考慮すると、塩基で中和された、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステル塩として用いることが好ましい。前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステル塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩などが例示できるが、金属イオンによる析出など、インキ組成物の安定性を考慮すると、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルアミン塩を用いることが好ましく、さらに考慮すると、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルアミン塩を用いることが最も好ましい。
【0020】
前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルを含んでなる市販品の一例としては、ニューカルゲンシリーズ(竹本油脂(株)製)、ニューコールシリーズ(日本乳化剤(株)製)等が挙げられる。
【0021】
本発明において、書き味および潤滑性の更なる向上を考慮すると、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルのHLB値は7以上であることが好ましく、7〜16であることがより好ましい。前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルのHLB値が上記数値範囲内であれば、溶媒中で安定に存在して、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルがもたらす潤滑効果を十分に得ることができるため好ましい。更に、潤滑性の向上を考慮すると、8〜14であることがさらに好ましく、10〜13であることが最も好ましい。
尚、本発明における前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルのHLB値は、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルを示す前記式(1)中のR
1が示すHLB値であり、グリフィン法から算出される値である。尚、グリフィン法は、下記式によって算出される値である。
HLB値=20×(親水基の質量%)=20×(親水基の式量の総和/分子量)から求めることができる。
【0022】
本発明のインキ組成物における、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルの含有量は、インキ組成物の総質量を基準として、0.01〜10質量%であることが好ましい。 前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルの含有量が上記数値範囲内であれば、潤滑剤としての効果を十分に得ることができ、さらには、分散剤としての効果も十分に得ることができる。さらに、滑らかな書き味とボール座の摩耗抑制、さらには、良好な筆跡を得ることを考慮すると、0.1〜5質量%であることがより好ましい。尚、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルは、1種類又は、2種類以上の混合物として使用することが可能である。
【0023】
<着色剤>
本発明で用いる着色剤は、特に限定されないが、ボールペン用インキ組成物に用いられる顔料、染料などを使用することができる。
【0024】
顔料としては、特に制限されるものではなく、例えば、無機、有機、加工顔料などが挙げられる。具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、キノフタロン系顔料、スレン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサジン系顔料、さらには、アルミ顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料などが挙げられる。その他、色材を媒体中に分散させてなる着色体を公知のマイクロカプセル化法などにより樹脂壁膜形成物質からなる殻体に内包又は固溶化させたマイクロカプセル顔料、さらには、樹脂粒子を顔料もしくは染料で着色したような着色樹脂粒子なども顔料として用いても構わない。尚、顔料は、予め顔料分散剤を用いて媒体に分散された水分散顔料製品などを用いてもよい。染料としては、特に制限されるものではなく、例えば、直接染料、酸性染料、塩基性染料、油溶性染料、含金染料、及び各種造塩タイプ染料などを用いることが可能である。
これらの顔料および染料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0025】
本発明において、発色良好で、耐水性、耐光性に優れた筆跡を得ることを考慮すると、顔料を用いることが好ましい。しかしながら、顔料は染料とは異なり溶媒に不溶であるため、インキ分散安定性も大きな課題となる。
前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエ−テルリン酸エステルは、前述の通り、ボールとボール座の潤滑性を向上させることができるとともに、インキ分散性も向上させることができるため、本発明において、顔料とポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルを併用することは、発色良好で耐水性、耐光性に優れた良好な筆跡をもたらしながらも、滑らかな書き味で優れた分散安定性をもつインキ組成物を実現することが可能となるため、効果的である。
【0026】
本発明のインキ組成物における着色剤の含有量は、インキ組成物の総質量を基準として、0.1〜30質量%であることが好ましい。
【0027】
<溶媒>
本発明に用いる溶媒は、従来の筆記具用水性インキ組成物や筆記具用油性インキ組成物に用いられる溶媒を使用することができる。
具体的には水が挙げられ、水としては特に制限なく、例えば、水道水、イオン交換水、限外ろ過水または蒸溜水などが挙げられる。
また、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール等の多価アルコール溶剤や、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコールエーテル溶剤、さらには、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール溶剤なども挙げられる。
これらを1種または2種以上を用いることが可能である。
【0028】
中でも、本発明においては、水または、水と水に溶解可能な有機溶剤(水溶性有機溶剤)からなる混合溶媒を用いることが好ましく、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルの溶解安定性を考慮すると、本発明のインキ組成物は、筆記具用水性インキ組成物として調整することが好ましい。
また、前記水溶性有機溶剤においては、多価アルコール溶剤を選択して用いることが好ましい。
【0029】
また、本発明のインキ組成物は、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステル以外の潤滑剤を含んでなることが好ましい。更なる潤滑剤を添加することで、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルとの併用による相乗効果が得られ、書き味とボール座の摩耗抑制を向上できる。
本発明においては、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステル以外の潤滑剤としては、リン酸エステル系界面活性剤(ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルを除く)、脂肪酸塩、などが挙げられる。
【0030】
前記リン酸エステル系界面活性剤としては、疎水性部位としてトリデシル基、ラウリル基などを有する脂肪族系のリン酸エステル系界面活性剤や、スチレン化フェニル基、ノニルフェニル基、オクチルフェニル基、フェニル基などを有する芳香族系のリン酸エステル系界面活性剤などが挙げられる。この中でも、脂肪族系のリン酸エステル系界面活性剤は、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルと併用した場合において、嵩高いスチリルフェニル基の相互作用を阻害せず、自由度を有する直鎖のアルキル基が補間してボールとボール座間に作用することでより安定に作用し、相乗効果を得られやすいため、併用して用いることは好ましい。
前記脂肪酸塩としては、ラウリル酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩などが挙げられる。また、脂肪酸塩の炭素数は10〜30であることが好ましい。脂肪酸塩の炭素数が上記数値範囲内であれば、脂肪酸塩の潤滑効果を安定的に得ることができる。
【0031】
前記リン酸エステル系界面活性剤の具体例としては、プライサーフシリーズ(第一工業製薬(株)製)の中から、プライサーフA212C、同A208B、同A213B、同A208F、同A215C、同A219B、同A208N、同AL等が挙げられる。
また、前記脂肪酸の具体例としては、OSソープ、NSソープ、FR−14、FR−25(花王(株)製)等が挙げられる。
これらの前記リン酸エステル系界面活性剤、脂肪酸塩は、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0032】
また、本発明のインキ組成物は、樹脂粒子を含んでなることが好ましい。これは、前記樹脂粒子は、ボールとボール座の間に入り、クッション効果により書き味を向上させたり、ボール座の摩耗を抑制できるためであり、さらには、ペン先からのインキ漏れ抑制効果も付与できるためである。
また、本発明に用いる前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルは、疎水基であるスチリルフェニル基を有し、該スチリルフェニル基は樹脂粒子の表面との間に相互作用が生じやすく、良好な分散性が得られやすいことから、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルは、樹脂粒子の分散性にも優れている。このため、上記の目的で樹脂粒子を添加した場合でも、インキ組成物の分散安定性は維持されることから、インキ流動性が低下したりせず、良好な筆跡と良好な書き味を得ることができる。
前記樹脂粒子としては、オレフィン系樹脂粒子、アクリル系樹脂粒子、ウレタン系樹脂粒子、スチレン−ブタジエン系樹脂粒子、スチレン−アクリロニトリル系樹脂粒子、ポリエステル系樹脂粒子、酢酸ビニル系樹脂粒子などが挙げられる。中でも、本発明においては、オレフィン系樹脂粒子を用いることが好ましい。
これは、前記オレフィン系樹脂粒子は溶融温度が高いため、高温環境下であっても安定して存在しやすく、高圧環境に合った場合でも、変形しやすく変性しにくいという特徴をもつ。このため、ボールとボール座の間に挟まれても安定しており、オレフィン系樹脂粒子によるクッション効果が得られやすく、書き味をさらに向上できるとともに、ボール座の摩耗も抑制することができるためである。さらには、オレフィン系樹脂粒子は書き味を損なうことなく、ペン先からのインキ漏れを効果的に抑制することができる。
よって、本発明において、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルと、オレフィン系樹脂粒子とを併用することは、書き味とボール座の摩耗抑制をさらに向上し、さらにはペン先からのインキ漏れを抑制することができるため、効果的である。
【0033】
また、本発明のインキ組成物は、インキ物性や機能を向上させる目的で、インキ粘度調整剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、キレート剤、保湿剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0034】
本発明のインキ組成物は、ボールペンに充填して用いられるための所望のインキ粘度に調整する必要がある。このため、インキ粘度調整剤を用いることが好ましい。良好な書き味を得ること、特に顔料を用いた場合のインキ経時安定性と良好な筆跡を得ることを考慮すると、剪断減粘性付与剤を用いることが好ましい。前記剪断減粘性付与剤としては、架橋型アクリル酸重合体や、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、グアーガム、ローカストビーンガム、λ−カラギーナン、セルロース誘導体、ダイユータンガムなどの多糖類や、会合型増粘剤が挙げられる。
尚、前記会合型増粘剤としては、会合性疎水性基によってポリエステル系、ポリエーテル系、ウレタン変性ポリエーテル系、ポリアミノプラスト系などの会合型増粘剤や、アルカリ膨潤会合型増粘剤、ノニオン会合型増粘剤などが挙げられる。
これらの剪断減粘性付与剤は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0035】
本発明のインキ組成物のインキ粘度は、20℃環境下、剪断速度1.92sec
−1で、10〜5000mPa・sであることが好ましく、さらには300〜3000mPa・sであることが好ましい。インキ粘度が上記数値範囲内であれば、ボールペンに充填して用いた場合、書き味が良好であり、良好な筆跡を得ることができる。
【0036】
pH調整剤としては、アンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどの塩基性無機化合物、酢酸ナトリウム、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの塩基性有機化合物、乳酸およびクエン酸などが挙げられる。インキ組成物の経時安定性を考慮すれば、塩基性有機化合物を用いることが好ましく、より考慮すれば、不揮発性で化学的に安定なトリエタノールアミンを用いることが好ましい。これらのpH調整剤は単独又は2種以上混合して使用してもかまわない。
【0037】
防錆剤としては、ベンゾトリアゾールおよびその誘導体、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、チオ硫酸ナトリウム、サポニン、またはジアルキルチオ尿素などが挙げられる。
【0038】
防腐剤としては、フェノール、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルフォニル)ピリジン、2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウム、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オンなどが挙げられる。
【0039】
キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)及びそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩又はアミン塩などが挙げられる。
【0040】
保湿剤としては、前記多価アルコール溶剤の他に、尿素、またはソルビット、また、トリメチルグリシン、トリエチルグリシン、トリプロピルグリシンなどのN,N,N−トリアルキルアミノ酸などがあげられる。
【0041】
<インキ組成物の製造方法>
本発明によるインキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、プロペラ攪拌、ホモディスパー、またはホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
【0042】
<<ボールペン>>
本発明のインキ組成物は、インキ収容筒の先端部にボールを回転自在に抱持したボールペンチップを有したボールペンに好適に用いることができる。
前記ボールの素材は、特に限定させるものではなく、超硬合金、炭化珪素、アルミナ、ジルコニア、ルビー、窒化珪素、樹脂などが挙げられる。特に、超硬合金は、タングステンカーバイドを主成分とし、Fe、Co、Niなどの鉄系金属を焼結したものであり、リン酸基が吸着しやすい。このため、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルの潤滑効果がより一層得られやすい、ボールの素材として超硬合金を用いたボールペンに、本発明のインキ組成物は好適に用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
<実施例1>
下記の配合組成および方法により、ボールペン用インキ組成物を得た。
・ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステル 5.0質量%
・着色剤 (カーボンブラック、固形分20%) 30.0質量%
・インキ粘度調整剤 (キサンタンガム(剪断減粘性付与剤)) 0.5質量%
・デキストリン (重量平均分子量:100000) 1.0質量%
・pH調整剤 (トリエタノールアミン) 2.0質量%
・防腐剤 (1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン) 0.1質量%
・防錆剤 (ベンゾトリアゾール) 0.5質量%
・水溶性有機溶剤 (エチレングリコール) 5.0質量%
・水 残部
【0045】
ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、着色剤、デキストリン、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、水溶性有機溶剤、水をマグネットホットスターラーで加温撹拌などして、ベースインキを作製した。
その後、上記作製したベースインキを加温しながら、インキ粘度調整剤を投入してホモジナイザー攪拌機を用いて均一な状態となるまで充分に混合撹拌した後、濾紙を用いて濾過を行い、実施例1のボールペン用インキ組成物を得た。
尚、得られたボールペン用インキ組成物の粘度をE型回転粘度計(機種:DV−II+Pro、ローター:CPE−42、ブルックフィールド社製)により、20℃環境下にて剪断速度1.92sec
−1(回転数0.5rpm)の条件にてインキ粘度を測定したところ、2300mPa・sであった。
【0046】
<実施例2〜実施例6>
実施例2〜実施例6は、インキ組成物に含まれる成分の種類や配合量を表1において表される組成に変更した以外は、実施例1と同じ方法でボールペン用インキ組成物を得た。
【0047】
<比較例1〜比較例3>
比較例1〜比較例3は、インキ組成物に含まれる成分の種類や配合量を表2において表される組成に変更した以外は、実施例1と同じ方法でボールペン用インキ組成物を得た。
【0048】
<試験用ボールペンの作製>
実施例1〜実施例6および比較例1〜比較例3で作製したボールペン用インキ組成物(1.0g)を、直径0.38mmの超硬合金製ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを先端に有するインキ収容体の内部に充填させたレフィルを作製、このレフィルを(株)パイロットコーポレーション製のゲルインキボールペン(商品名:G−2)に装着し、ボールペンを得た。これらのボールペンを試験用ボールペンとし、以下の試験および評価を行った。尚、筆記性能試験は、筆記試験用紙としてJIS P3201 筆記用紙Aを用いた。
【0049】
<筆記性能試験>
試験用ボールペンで、筆記試験用紙上に螺旋状の丸を連続筆記し、その時の書き味を官能試験により、また、得られた筆跡の状態を目視にて確認し、筆記性能を下記基準に従って評価した。得られた評価結果を表1〜表2にまとめた。
(書き味)
◎:極めて滑らかな書き味であった。
○:滑らかな書き味であった。
△:僅かに書き味が重く感じたが、実用上問題のないレベルであった。
×:重く、滑りが悪い書き味であった。
(筆跡)
◎:筆跡に線トビがなく良好な筆跡が得られた。
○:筆跡にわずかに線トビが見られるが、良好な筆跡が得られた。
△:筆跡に一部線トビが確認されるが、実用上問題のないレベルであった。
×:筆跡に線トビが多数確認され、連続筆記が不能能であった。
【0050】
<耐摩耗性能試験>
試験用ボールペンで、筆記試験用紙上に荷重100gf、筆記角度65°、4m/minの条件で、走行試験機にて機械筆記した後、ボール座の摩耗を測定し、耐摩耗性を下記基準に 従って評価した。得られた評価結果を表1〜表2にまとめた。
◎:ボール座の摩耗が25μm未満であった。
○:ボール座の摩耗が30μm未満であった。
△:ボール座の摩耗が35μm未満であった。
×:ボール座の摩耗が35μmを以上であった。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
表1の結果より、実施例1〜実施例6のインキ組成物は、筆記性能、耐摩耗性能ともに良好レベルの性能が得られた。また、耐摩耗性能試験後、実施例1〜実施例6のインキ組成物を用いた試験用ボールペンで筆記したところ良好な筆跡が得られた。
【0054】
一方、表2より、比較例1〜比較例3のインキ組成物は、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルを用いていないことから、書き味および得られる筆跡は満足できるものではなく、ボール座の摩耗も大きかった。また、耐摩耗試験後、比較例1〜比較例3のインキ組成物を用いた試験用ボールペンで筆記したところ、筆記不良または筆記不能になるものが多くみられた。
【0055】
さらに、試験用ボールペンの軸筒部分に40gの重りを付けて、ボールペンチップを吐出させて下向きにし、ボールペンチップのボールがボールペン用陳列ケースの底部に当接させた状態を保ち、20℃、65%RHの環境下に1日放置し、ボールペンチップ先端からのインキ漏れ量を測定してインキ漏れ試験を行ったところ、樹脂粒子を含んでなる実施例3のインキ組成物を用いたボールペンは、樹脂粒子を含んでいないインキ組成物を用いたボールペンに比べ、インキ漏れ量は少なく、実施例3のインキ組成物を用いたボールペンは、筆記性能、耐摩耗性能に優れ、さらにはペン先からのインキ漏れをも抑制できる優れたボールペンであることがわかった。
【0056】
以上より、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルと、着色剤と、溶媒と、を含んでなるボールペン用インキ組成物は、滑らかな書き味であり、良好な筆跡が得られるとともに、ボール座の摩耗を抑制することができることがわかった。よって、本発明のボールペン用インキ組成物は、筆記性能、耐摩耗性能に優れ、前記インキ組成物を用いたボールペンは、ボールペンとして優れたものであることがわかった。