【実施例1】
【0026】
図1は本発明の金属管の凹溝加工装置の一実施例を示すもので、(イ)は凹溝加工装置10の側面図、(ロ)は(イ)における後述する枠体32及び形状ガイドホルダー52を外して示した正面図(但し、後述する中子30の符号は省略)である。
図2(イ)は
図1(ロ)における要部のみを拡大して示した拡大図である。
図3(イ)は
図1(イ)における要部の拡大図、(ロ)は
図1(ロ)における要部の拡大図である。
この実施例では四角形の角形鋼管8(以下、四角形の角形鋼管の場合は単に角形鋼管と呼ぶ)の両端部に十字形断面部を形成する場合である。
この凹溝加工装置10は、ハウジング7に、加工対象の角形鋼管8の4つの角部に対
応させて4つの凹溝形成機構1を備えている。
各凹溝形成機構1は、管外面を押す態様で設けられて凹溝を形成するソロバン玉状回転体2を備え、このソロバン玉状回転体2を回転可能に保持する回転体ホルダー3を備え、この回転体ホルダー3を装置中心方向に移動調節して前記ソロバン玉状回転体2の圧下を調整する圧下調整機構11を備えている。
前記ソロバン玉状回転体2は、中心軸線側(中心軸線mの側)では幅厚で半径方向先端に向かってテーパー状に幅狭になりその先端面に幅の狭いフラット面2aを持つ断面形状であり、前記の通り回転体ホルダー3に回転自在に保持されている。なお、
図2(ハ)に示すように、先端面に幅の狭い凹面2a’を持つ断面形状としてもよい。
なお、ソロバン玉状回転体2は回転軸を持たず、回転体ホルダー3は、前記ソロバン玉状回転体2に作用する荷重をオイレスメタルで直接受けるようになっている(原稿注1:形状ガイドが存在するため、回転体ホルダー3の蓋でソロバン玉状回転体の抜け出しを防ぐように図示(作図)するのは困難なので、詳細説明は省きました(NS2905の原稿図面における
図3(イ)の図面は省略)。
【0027】
前記ハウジング7は、4つの回転体ホルダー3を摺動可能に収容するハウジング本体7aと、外側の蓋体7bと、内側の蓋体を兼ねるベース部7a’とからなる。
前記圧下調整機構11は、前記回転体ホルダー3の上面に回転可能に連結された圧下ネジ11a、この圧下ネジ11aに螺合する調整ナット(図示はダブルナット)11b、この調整ナット11bを回転のみ可能にハウジング本体7aに固定するナット保持部11cとからなる。前記調整ナット11bを回して回転体ホルダー3の位置(ソロバン玉状回転体2の位置)を調整して圧下を調整することができる。但し、本発明における圧下調整機構としては、実施例の圧下調整機構11に限らず、種々の機構を採用することができる。例えば、スクロールチャック方式などでも採用できる。この場合、複数の回転体ホルダーの圧下調整同時に行うことができる。
ハウジング7の前記ハウジング本体7aは、前記内側の蓋体を兼ねるベース部7a’と一体であり、前記の通り4つの回転体ホルダー3を摺動可能に収容している。このハウジング本体7aに外側の蓋体7bがボルトで固定されている。なお、
図1(イ)ではベース部7a’と蓋体7bの上下の部分を断面にて示しているが、回転体ホルダー3を摺動可能に保持している構造の図示は省略している。
前記ハウジング本体7aの前記ベース部7a’は、詳細は省略するが、2点鎖線で示す装置スタンド12に回転調節可能に取り付けられた回転面板13に固定され、また、このベース部7a’に、加工対象の金属管8を案内する金属管ガイド14が固定されている。なお、図示例では、金属管ガイド14は
図1の紙面と直交する両側において前記ベース部7a’に固定されている。
【0028】
本発明では、周方向に隣接する2つのソロバン玉状回転体2で押し込まれて金属管8に形成された隣接する2つの凹溝部8aの間に形成される突状部8bに接触してその膨出を押さえる形状ガイド51を備えている。
十字形断面部8cを形成するこの実施例では形状ガイド51を4つ設けており、各形状ガイド51は
図1(ロ)、
図2、
図3(ロ)、
図7(ロ)、
図8の各図にも示すように、4つのソロバン玉状回転体2がそれぞれ、隣接するソロバン玉状回転体2間に配置されている。
4つの形状ガイド51は、ハウジング7のハウジング本体7aの前後面にそれぞれ取り付けられた形状ガイドホルダー52に例えばボルト53で固定されている。なお、形状ガイドホルダー52側に形状ガイド51の端部の断面形状に合わせた凹部(座)を形成し、形状ガイド51の端部をこの凹部(実施例では三角形状の凹部)に印籠形式で固定してもよい。
【0029】
実施例の各形状ガイド51は、
図5、
図6、
図8等にも示すように、直角三角形柱状体の2つの三角形底角部51cにそれぞれ、ソロバン玉状回転体2のテーパー状先端側部分の表面に概ね沿う形状の凹面51aが形成され、両側の凹面51aの間に、三角形底辺部の中央に幅の狭い三角形底辺面(図示例では鼓断面状の面)51bが残る態様で形成した外形をなしている。
前記突状部の膨出を抑える形状ガイドの膨出押さえ面には大きな荷重が作用するが、 隣接する2つのソロバン玉状回転体間の狭い空間に位置し、突条部に接触してその膨出を抑える形状ガイドにおける膨出押さえ面の近傍は幅の狭い断面となるので、剛性を確保しにくいが、請求項4のような外形の形状ガイドであれば、膨出押さえ面51bの近傍が幅の広い断面(肉厚となるような断面)となっているので、大きな荷重に耐える十分な剛性を確保することができる。
なお、実施例の形状ガイド51は直角三角形柱状体をベースにしているが、直角三角形柱状体に限らず、他の二等辺三角形柱状体としてもよく、隣接する2つのソロバン玉状回転体2間に配置し、隣接する2つの凹溝部8aの間に形成される突状部8bに接触してその膨出を押さえることが可能な形状であればよい。
【0030】
この実施例の凹溝加工装置10は、
図1〜
図3に示すように、金属管外面の周方向に配される4つのソロバン玉状回転体2の周方向配置中心位置に、管長手方向に延びる短尺棒状の中子30を配置している。すなわち、金属管の外面を外側から押し込む前述のソロバン玉状回転体2だけでなく、加工時に金属管の前記ソロバン玉状回転体2で押し込まれた部分を受ける中子30が金属管内に位置するように配置されている。
【0031】
この中子30は、
図4に斜視図でも示すように、前記各ソロバン玉状回転体2の半径方向先端側部分にそれぞれ対向する4つの凹み部30aを持ち、隣接する凹み部30a間に突出部30bを有して十字断面をしている。すなわち、長手方向の全体が十字断面をなしている。
この中子30のように、全体が均一断面の中子をストレートカリバー中子と称する。
なお、
図4では十字断面の中子30の横部と縦部とを水平、垂直になる姿勢で示している。
前記中子30は前述の
図1に示すように枠体32を介してハウジング本体7aに取り付けられている。すなわち、中子30の端面に中子長手方向から見て例えば矩形板状の中子ベース31を一体に固定し、この中子ベース31をハウジング7におけるハウジング本体7aの前面に取り付けた前記枠体32にボルトで固定することで、水平な状態でハウジング本体7aに固定している。
なお、この実施例におけるハウジング本体7aの蓋体7bは上下の端部を切り欠いて長さを短くしており、前記枠体32の上下部をハウジング本体7aの上下部に固定している。
【0032】
上記の凹溝加工装置10により、例えば角形鋼管8の端部に十字形断面部を形成する場合、
図1(イ)において、図示略の例えば油圧シリンダ等による押込み装置により矢印のように左方から角形鋼管8を凹溝加工装置10の4つのソロバン玉状回転体2で囲まれた空間に押し込むと、電縫鋼管製造ラインにおけるサイジング(成形)工程的な作用(ないし冷間ロール成形的な作用)により、
図3(イ)、(ロ)、(ハ)に示すように4つのソロバン玉状回転体2で角形鋼管の4つの角部が潰されて形成された凹溝部(凹溝)8a、及び、角形鋼管の面部が潰されずに突出状態で残った突状部8bが形成されて、周方向に交互に凹溝部8aと突状部8bとを持つ周方向凹凸断面部(この実施例では十字形断面部(十字管部))8cが形成される。端部に周方向凹凸断面部(十字管部)8cが形成された角形鋼管8を
図9に斜視図で示す。
周方向凹凸断面部8cが形成される際、隣接する2つのソロバン玉状回転体2間に配置されている形状ガイド51は、隣接する2つの凹溝部8aの間に形成される突状部8bに接触してその膨出を押さえるので、突状部8bが必要以上に膨出することを防止できる。
図10は形状ガイド51を用いなかった場合における
図3(ロ)に対応する図であるが、図示のように、4つのソロバン玉状回転体2で角形鋼管の4つの角部が潰されると、角形鋼管の面部が潰されずに突出状態で残って突状部が形成されるが、その突状部は原管(加工前の金属管)の輪郭から突出するような突状部8b’となる。
図11は
図3(ロ)と
図10との差異を対比説明する図であり、(イ)、(ロ)は形状ガイド51を用いた上記実施例の場合、(ハ)、(ニ)は形状ガイド51を用いなかった場合の角形鋼管を示し、(イ)、(ハ)はそれぞれ側面図、(ロ)、(ニ)はそれぞれ周方向凹凸断面部8cの断面図、(ホ)は(ロ)、(ニ)の断面形状(突出状態)の差異を説明する図である。
上述の通りであり、形状ガイド51を設けることで、金属管の端部に形成される周方向凹凸断面部の外面に原管(加工前の金属管)の輪郭から突出した出っ張り部のない良好な周方向凹凸断面形状(この実施例では十字形断面部)8cを確保することができる。
なお、形状ガイド51は、必ずしも原管の輪郭から突出した出っ張り部をなくす場合に限らず、原管の輪郭より引っ込んだ突出部を得る場合にも使用できる。
【0033】
上述の実施例では、固定的に設置された凹溝加工装置10に対して角形鋼管8の端部を押し込んで周方向凹凸断面部を形成しているが、角形鋼管を固定し、凹溝加工装置10を固定の角形鋼管の端部側に押し込み駆動して、角形鋼管の端部に凹溝を形成することも可能である。要するに相対的に対向方向に接近駆動させることができればよい。
【0034】
角形鋼管の外面に十字形断面となるような深い凹溝を形成する場合、電縫鋼管製造ラインにおける一般的なサイジング工程的な発想では、サイジングロールとして半径方向先端に向かってテーパー状に幅狭になり先端面が円弧面となるようなロールプロフィルを採用するが、本発明では先端面に幅の狭いフラット面2a又は凹面2a’を持つ形状としている。これは、次のような実験の結果として採用した形状である。
図12(ロ)のように、角形鋼管の角部を先端面が円弧凸面のロールMで矢印のように押し込んだ実験では、角部に割れが発生する場合が少なからずあった。そこで、種々の原因を考察した上で、
図12(イ)のように、先端面をフラット面(あるいは凹面)にしたロールKで角部を矢印のように押し込む実験をしたところ、割れが発生することはなくなった。
角部を先端面が円弧凸面であるロールで押し込んだ時に割れが発生する理由として、次のようなことが考えられた。
電縫鋼管製造ラインのサイジング工程で丸鋼管を角形鋼管に成形する際、角形鋼管の角部(
図12(ハ)のハッチング部)には大きな塑性変形が生じ全塑性域となっており、顕著な加工硬化が生じている。したがって、
図12(ロ)のように、先端円弧凸面のロールMで押し込んだ場合、角部の狭い範囲の凸R部分が押し込まれることで、その角部の狭い範囲の加工硬化した凸R部分が逆向きの凹R形状に曲げ変形するという過酷な変形が生じるために割れが発生し易い。
一方、
図12(イ)のように、角部を先端面がフラット面(あるいは凹面)であるロールKで押し込んだ場合、角部の狭い範囲の凸R部分が逆向きの凹R形状に曲げ変形するのではなく、狭い範囲の凸R部分の凸形状をある程度保ったままその両側の部分も含めた若干広い部分が押し込まれて変形した。このため、狭い範囲の加工硬化した凸R部分の変形は軽減され割れが発生しない。
なお、
図12(イ)、(ロ)において、円弧凸面ロールMについてはM1、M2、M3の順に曲げ変形した後押し込まれ、先端フラット面のロールKについてはK1、K2、K3の順に押し込まれることを示している。K1、M1は角部に接触した時点、実線で示したK2、M2は角部が凹み始めて両者の変形挙動の違いが特徴的に表われる時点を示している。
【0035】
上述の凹溝加工装置10で金属管の両端に十字形断面部を持つ両端十字形断面部金属管を製造する場合、2台の凹溝加工装置10を設置して製造すると、生産能率が高い。その場合、
図13又は
図14の方式を採用すると能率的である。
図13は2台の凹溝加工装置10A、10Bを金属管8を挟む反対側に並列方式で設置(対向させるのではなくずらせて設置)して製造する場合を示す。この場合、それぞれに対向させて例えば油圧シリンダ等による押込み装置20A、20Bを配置する。
同図(イ)において、押込み装置20Aで金属管8を凹溝加工装置10A側に押し込むことで、(ロ)のように一端に十字形断面部8cが形成される。
その金属管を(ハ)のように凹溝加工装置10Bと押込み装置20Bとの間に搬送し、押込み装置20Bで凹溝加工装置10B側に押し込み駆動すると、(ニ)のように他端に十字形断面部8cが形成され、これにより両端に十字形断面部8cが形成された金属管8が得られる。
【0036】
図14は2台の凹溝加工装置10A、10Bを金属管8を挟む対向位置に設置する直列方式で製造する場合を示す。この場合、それぞれの凹溝加工装置10の背後に押込み装置20A、20Bを配置する。
図14[I]の(イ)において、凹溝加工装置10Aのソロバン玉状回転体2を開放状態にしておき、押込み装置20Aの押し込部を、開放状態の凹溝加工装置10Aを通過させ金属管8を凹溝加工装置10B側に押し込むことで、(ロ)のように一端に十字形断面部8cが形成される。
次いで、
図14[II]の(ハ)に示すように、凹溝加工装置10Bのソロバン玉状回転体2を開放状態にしておき、押込み装置20Bの押し込部を、開放状態の凹溝加工装置10Bを通過させ金属管8を凹溝加工装置10A側に押し込むことで、(ニ)のように他端に十字形断面部8cが形成され、これにより両端に十字形断面部8cが形成された金属管8が得られる。
なお、
図14の直列方式の場合、金属管8を固定し押込み装置20で凹溝加工装置10を金属管側に押し込む構成とすることもできる。その場合は、十字形断面部8cが形成されるのは、当然、
図14に示された十字形断面部8cと反対側の端部(押し込まれた凹溝加工装置10側の端部)になる。
【0037】
両端部に十字形断面部8cを形成した角形鋼管を建築構造物の柱材として用いる場合、角形鋼管柱材8の端面に梁材とのボルト接合用の取付プレートを溶接固定する。
図15は柱材の下部についてのみ示したもので、角形鋼管柱材8の十字形断面部8cの下端面に例えば縦横寸法が角形鋼管と同サイズの四角形の取付プレート16を溶接固定し、図示例では下部のH形鋼梁17の上に載せ、取付プレート16とH形鋼梁17のフランジとをボルト18で接合する。
十字形断面部8cの四方にスペースがあるので、その四方のスペースにおいて、ボルト18で固定することができ、角形鋼管の辺と梁のフランジとが平行な状態で梁と接合できる。
上部の梁との接合も同様である。但し、下部のみ又は上部のみに十字形断面部を形成する場合も当然ある。
このように接合された柱は、柱としての美観にも優れるので、建築構造物の柱材として好適である。
なお、角形鋼管の辺を押し潰して管端に十字形断面部を形成した場合、突状部が角形鋼管のコーナー部となり、十字形断面部の前記四方にスペースのうちの2つのスペースはH形鋼梁17のウエブの位置にくることになり、柱としての美観にも優れるようにH形鋼梁17とボルト接合することができなくなる。したがって、建築構造物の柱材として用いる場合でかつ梁がH形鋼の場合は特に、実施例のように角形鋼管の角部を押し込んで(押し潰して)十字形断面部を形成することが必要となる。
しかし、上記のように建築構造物の柱材として用いる場合でかつ梁がH形鋼の場合を除けば、角形鋼管の辺部を押し込んで(押し潰して)十字形断面部を形成してもよい。例えば、例えば土木用の杭材、あるいはフェンス用の杭材、その他種々の用途に適用でき、特に土木用の杭材、あるいはフェンス用の杭材等に好適である。
【0038】
上述の実施例では四角形金属管について説明したが、五角形、六角形等の多角形金属管を対象とする場合にも適用できる。
その場合は、上述の凹溝加工装置10における、4つのソロバン玉状回転体2・形状ガイド51・回転体ホルダー3及び圧下調整機構11に代えて、角部の数に対応した数のソロバン玉状回転体2・形状ガイド51・回転体ホルダー3及び圧下調整機構11を設けることで、多角形金属管の端部に角部の数に応じた凹溝を形成することができる。なお、金属管ガイド14は多角形金属管の断面形状に合わせたものとなる。
また、上述の実施例では、中子が金属管内に位置するように配置された例を説明したが、必ずしも中子がなくても実施は可能であり、中子を用いない凹溝加工装置、又は凹溝加工方法も本願発明に含まれる。