特許第6885887号(P6885887)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885887
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/00 20060101AFI20210603BHJP
   H01G 9/012 20060101ALI20210603BHJP
   H01G 9/052 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   H01G9/00 290E
   H01G9/00 290D
   H01G9/012 303
   H01G9/052 500
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-28432(P2018-28432)
(22)【出願日】2018年2月21日
(65)【公開番号】特開2019-145669(P2019-145669A)
(43)【公開日】2019年8月29日
【審査請求日】2020年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100117341
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 拓哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148840
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 健志
(74)【代理人】
【識別番号】100191673
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 久典
(72)【発明者】
【氏名】松原 茂隆
(72)【発明者】
【氏名】松井 英樹
(72)【発明者】
【氏名】松川 和誠
(72)【発明者】
【氏名】中田 裕士
【審査官】 鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−080266(JP,A)
【文献】 特開昭61−110417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00−9/012
H01G 9/04−9/18
H01G 9/21−9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁作用金属粉末を仮プレスして第1プレス体及び第2プレス体を夫々形成するとともに所定方向において前記第1プレス体と前記第2プレス体との間に空隙を設けるようにして前記第1プレス体と前記第2プレス体とを配置する、仮プレス工程と、
前記第1プレス体と前記第2プレス体との間の前記空隙に陽極リードの埋設部を挿入する、挿入工程と、
前記所定方向において前記陽極リードの前記埋設部を前記第1プレス体と前記第2プレス体とで挟み込みつつ前記第1プレス体と前記第2プレス体とをまとめてプレスして成形体を形成する、本プレス工程と、
前記成形体を焼結して陽極体を形成する、焼結工程と、
前記陽極体上に誘電体層を形成する、誘電体形成工程と、
前記誘電体層上に固体電解質層を形成する、固体電解質形成工程とを備える
固体電解コンデンサの製造方法であって、
前記弁作用金属粉末とバインダーとの混合物を、仕切り板と2つの加圧パンチとを有する構造物であって前記仕切り板が前記所定方向において前記2つの加圧パンチの間に位置している構造物における前記仕切り板と前記加圧パンチとの間に位置する2つの隙間に流し込む、混合物充填工程を更に備えており、
前記仮プレス工程は、前記隙間に流し込まれた前記混合物を、前記所定方向において前記加圧パンチを前記仕切り板に近づける方向に前記加圧パンチを加圧して、前記第1プレス体及び前記第2プレス体を形成し、その後、前記加圧パンチを前記所定方向において前記仕切り板から遠ざかる方向に移動させたうえで、前記仕切り板を移動させて、前記第1プレス体と前記第2プレス体とを前記所定方向において前記空隙を介在させて対向させる工程を含む
固体電解コンデンサの製造方法
【請求項2】
請求項1記載の固体電解コンデンサの製造方法であって、
前記仮プレス工程において、前記陽極リードの前記埋設部は、前記所定方向において前記仕切り板に形成されている孔内に位置している
固体電解コンデンサの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電子機器に使用される固体電解コンデンサ及び固体電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このタイプの固体電解コンデンサに用いられる陽極部は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
図7及び図8を参照して、特許文献1の陽極部900は、焼結された弁作用金属粉末からなる陽極体902と、陽極リード950とを備えている。陽極リード950は、一端に埋設部952を有している。陽極リード950の埋設部952は、陽極体902内において弁作用金属粉末に融着されている。陽極部900は、成形体素子905を乾燥してバインダー樹脂を除去した後、焼結を施すことにより得られるものである。成形体素子905は、2つの成形体910,920と、陽極リード950とを備えている。成形体910,920は、シート状の形状を有している。陽極リード950の埋設部952は、2つの成形体910,920の間に挟まれ保持されている。成形体素子905は、以下のように作製される。まず、弁作用金属粉末とバインダー樹脂と溶剤とを混合して金属粉末分散液を調製し、表面に剥離層を有する剥離性基体上に金属粉末分散液を塗布する。次に、基体上の金属粉末分散液を乾燥させて溶剤を揮散させ、基体上に残存した乾燥塗膜を剥離して成形体910,920を得る。その後、Y方向において、成形体910,920の間に陽極リード950の埋設部952が挟まるように、成形体910,920の剥離面912,922同士を重ね合わせて、成形体素子905を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−299184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の陽極部900は、成形体910,920の樹脂リッチな剥離面912,922を陽極リード950の埋設部952と接するように重ね合わせて成形された成形体素子905を元に作製されている。よって、陽極体902に含まれる弁作用金属粉末の密度は、陽極リード950の埋設部952の近傍において低くなっている。これにより、陽極リード950の埋設部952の陽極体902に対する固定が不十分となる可能性がある。
【0006】
そこで本発明は、陽極体に含まれる弁作用金属粉末の密度が陽極リードの埋設部の近傍においても低下しない固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願人は、鋭意検討を重ねた結果、仮プレスした2つのプレス体で陽極リードの埋設部を挟み込んだうえで2つのプレス体をまとめてプレスする方法により陽極体を成形した場合、陽極体に含まれる弁作用金属粉末の密度が陽極リードの埋設部の近傍においても低下しないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、固体電解コンデンサとして、
陽極リードと、陽極体と、誘電体層と、固体電解質層とを備える固体電解コンデンサであって、
前記陽極リードは、埋設部を有しており、
前記陽極体は、多孔質焼結体であり、
前記陽極体は、第1区域と、第2区域と、第3区域とを有しており、
前記第1区域は、前記陽極リードの前記埋設部を保持しており、
前記第1区域は、所定方向において前記第2区域と前記第3区域とに挟まれており、
第2区域及び第3区域の夫々は、前記所定方向において前記誘電体層に接している第1区分と、前記所定方向において前記第1区域に接している第2区分とを有しており、
前記第1区域の密度をM1、前記第2区域の前記第2区分の密度をM2、前記第3区域の前記第2区分の密度をM3とするとき、M2≦M1、且つ、M3≦M1を満たし、
前記誘電体層は前記陽極体上に形成されており、
前記固体電解質層は前記誘電体層上に形成されている
固体電解コンデンサを提供する。
【0009】
また、本発明は、第2の固体電解コンデンサとして、第1の固体電解コンデンサであって、
前記陽極体は、仮プレスされた第1プレス体と、仮プレスされた第2プレス体とにより、前記陽極リードの前記埋設部を前記所定方向において挟み込んだ状態で前記第1プレス体と前記第2プレス体とをまとめてプレスして成形されている
固体電解コンデンサを提供する。
【0010】
また、本発明は、固体電解コンデンサの製造方法として、
弁作用金属粉末を仮プレスして第1プレス体及び第2プレス体を夫々形成するとともに所定方向において前記第1プレス体と前記第2プレス体との間に空隙を設けるようにして前記第1プレス体と前記第2プレス体とを配置する、仮プレス工程と、
前記第1プレス体と前記第2プレス体との間の前記空隙に陽極リードの埋設部を挿入する、挿入工程と、
前記所定方向において前記陽極リードの前記埋設部を前記第1プレス体と前記第2プレス体とで挟み込みつつ前記第1プレス体と前記第2プレス体とをまとめてプレスして成形体を形成する、本プレス工程と、
前記成形体を焼結して陽極体を形成する、焼結工程と、
前記陽極体上に誘電体層を形成する、誘電体形成工程と、
前記誘電体層上に固体電解質層を形成する、固体電解質形成工程とを備える
固体電解コンデンサの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の固体電解コンデンサの陽極体は、仮プレスされた第1プレス体と、仮プレスされた第2プレス体とにより、陽極リードの埋設部を所定方向において挟み込んだ状態で第1プレス体と第2プレス体とをまとめてプレスして成形されている。これにより、陽極体の弁作用金属粉末の密度が陽極リードの埋設部の近傍においても低下しないため、陽極リードの埋設部は陽極体に対して強固に固定される構造となっている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態による固体電解コンデンサを示す断面図である。
図2図1の固体電解コンデンサに含まれるコンデンサ素子を示す断面図である。
図3図2のコンデンサ素子に含まれる陽極部を示す斜視図である。
図4図3の陽極部を示す断面図である。
図5図3の陽極部の製造方法を模式的に示す工程図である。ここで、加圧パンチ及び仕切り板のX方向両側に位置する側部成形金型は省略されている。
図6図5(d)を拡大して示す模式図である。ここで、上部成形金型、加圧パンチ、下部成形金型及び仕切り板は省略されている。
図7】特許文献1の成形体素子を示す斜視図である。
図8図7の成形体素子を乾燥及び焼結して得られる陽極部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1を参照すると、本発明の実施の形態による固体電解コンデンサ100は、コンデンサ要素120と、外装絶縁部材590とを備えている。固体電解コンデンサ100の作製方法については、後述する。
【0014】
図1に示されるように、本実施の形態のコンデンサ要素120は、コンデンサ素子150と、陽極端子340と、陰極端子560と、導電性樹脂580とを備えている。
【0015】
図2に示されるように、コンデンサ素子150は、陽極部170と、誘電体層400と、陰極層500とを備えている。
【0016】
図3に示されるように、本実施の形態の陽極部170は、陽極リード200と、陽極体300とを備えている。
【0017】
図3および図4に示されるように、本実施の形態の陽極リード200は、Z方向の一端に埋設部250を有している。埋設部250は、所定方向(Y方向)と交差する略扁平形状を有している。本実施の形態の陽極リード200は、タンタルワイヤである。陽極リード200は、部分的に陽極体300に埋設されている。より詳しくは、陽極リード200の埋設部250のみが、陽極体300に埋設されている。
【0018】
本実施の形態の陽極体300は、焼結された弁作用金属粉末からなる多孔質焼結体である。即ち、本実施の形態の陽極体300は、焼結された弁作用金属粉末と、多数の空孔とを有している。ここで弁作用金属粉末は、タンタル粉末である。図3から図5までを参照して、本実施の形態の陽極体300は、仮プレスされた第1プレス体600と、仮プレスされた第2プレス体700とにより、陽極リード200の埋設部250を所定方向(Y方向)において挟み込んだ状態で第1プレス体600と第2プレス体700とをまとめてプレスして成形されている。上述のように、略扁平形状を有する埋設部250のみが陽極体300に埋設されていることから、所定方向(Y方向)における陽極体300のサイズを抑制しつつ、陽極体300の外部に突出した陽極リード200に一定の強度を持たせることができる。第1プレス体600及び第2プレス体700の詳細については後述する。
【0019】
図4に示されるように、本実施の形態の陽極体300は、第1区域310と、第2区域320と、第3区域330とを有している。第1区域310は、陽極リード200の埋設部250を保持している。第1区域310は、所定方向(Y方向)において第2区域320と第3区域330とに挟まれている。より詳しくは、第1区域310は、陽極リード200の埋設部250を保持する第1区分312と、第1区分312の+Z側に位置する第2区分314とを有している。第1区域310の第1区分312は、陽極リード200の埋設部250と接している。第1区域310の第2区分314は、第1区域310の第1区分312とZ方向において接しているが、陽極リード200の埋設部250と接していない。なお、埋設部250の所定方向(Y方向)におけるサイズをD1、陽極部170の断面であって第1区分312を含み且つZ方向と直交する断面(所定断面)の所定方向(Y方向)におけるサイズをD2とすると、第1区域310の第1区分312は、陽極リード200の埋設部250から(D2−D1)/6だけ所定方向(Y方向)に広がっている。
【0020】
図2及び図4から理解されるように、本実施の形態の第2区域320は、所定方向(Y方向)において誘電体層400に接している第1区分322と、所定方向(Y方向)において第1区域310に接している第2区分324とを有しており、同様に、本実施の形態の第3区域330は、所定方向(Y方向)において誘電体層400に接している第1区分332と、所定方向(Y方向)において第1区域310に接している第2区分334とを有している。ここで、第1区域310の密度をM1、第2区域320の第2区分324の密度をM2、第3区域330の第2区分334の密度をM3とするとき、M2≦M1、且つ、M3≦M1を満たす。即ち、第1区域310の弁作用金属粉末の密度M1は、第2区域320の第2区分324の弁作用金属粉末の密度M2と同じか、又はより大きくなっており、同様に、第1区域310の弁作用金属粉末の密度M1は、第3区域330の第2区分334の弁作用金属粉末の密度M3と同じか、又はより大きくなっている。なお、所定断面において、第2区域320の第1区分322と第2区分324との境界は、第1区分322の所定方向(Y方向)における端部から、(D2−D1)/6だけ内側に位置している。同様に、所定断面において、第3区域330の第1区分332と第2区分334との境界は、第1区分332の所定方向(Y方向)における端部から、(D2−D1)/6だけ内側に位置している。
【0021】
より詳しくは、第1区域310の第1区分312の弁作用金属粉末の密度をM1A、第1区域310の第2区分314の弁作用金属粉末の密度をM1Bとするとき、M2≦M1A、M2≦M1B、M3≦M1A、且つM3≦M1Bを満たす。即ち、第1区域310の第1区分312の弁作用金属粉末の密度M1Aは、第2区域320の第2区分324の弁作用金属粉末の密度M2と同じか、又はより大きくなっており、同様に、第1区域310の第1区分312の弁作用金属粉末の密度M1Aは、第3区域330の第2区分334の弁作用金属粉末の密度M3と同じか、又はより大きくなっている。また、第1区域310の第2区分314の弁作用金属粉末の密度M1Bは、第2区域320の第2区分324の弁作用金属粉末の密度M2と同じか、又はより大きくなっており、同様に、第1区域310の第2区分314の弁作用金属粉末の密度M1Bは、第3区域330の第2区分334の弁作用金属粉末の密度M3と同じか、又はより大きくなっている。
【0022】
一般的に、陽極リードの近傍付近は、陽極リードと陽極端子の溶接時に衝撃や熱応力を受けやすいため、陽極体の弁作用金属粉末でしっかりと固定されている必要がある。従来の陽極体においては、陽極リードの埋設部近傍の弁作用金属粉末の密度が周辺よりも低いため、陽極体からの陽極リードの引抜強度が低下したり、漏れ電流特性が悪化するといった問題が生じる可能性があった。しかしながら、本実施の形態の陽極体300は上述の密度構成を有しているため、従来の陽極体が有していた上記の問題は生じない。
【0023】
本実施の形態の誘電体層400は、陽極酸化皮膜、即ち酸化タンタルからなる。図2に示されるように、誘電体層400は、陽極体300上に形成されている。詳しくは、誘電体層400は、陽極体300上と陽極リード200上の一部に形成されている。
【0024】
図2に示されるように、本実施の形態の陰極層500は、誘電体層400上に形成されている。即ち、本実施の形態の陰極層500は、コンデンサ素子150の最外層である。陰極層500は、固体電解質層550と導電体層510とを備えている。即ち、本実施の形態の固体電解コンデンサ100は、陽極リード200と、陽極体300と、誘電体層400と、固体電解質層550とを備えている。なお、陰極層500は、固体電解質層550を含んでいる限り、他の構造を有していてもよい。また、本実施の形態の陰極層500はコンデンサ素子150の最外層であるが、陰極層500の表面にメッキ層を設けてもよい。
【0025】
図2に示されるように、本実施の形態の陰極層500の固体電解質層550は誘電体層400上に形成されている。本実施の形態の固体電解質層550は導電性ポリマーからなるものである。より詳しくは、本実施の形態の固体電解質層550はポリチオフェンからなるものである。
【0026】
図2に示されるように、本実施の形態の導電体層510は固体電解質層550上に形成されている。導電体層510はグラファイトペースト層からなるものである。なお、導電体層510は他の導電材料からなるものであってもよい。
【0027】
本実施の形態の陽極端子340は、42合金からなる基体に半田めっきを形成してなるものである。但し、陽極端子340は、他の金属からなるものであってもよい。図1を参照して、本実施の形態の陽極端子340は、陽極リード200に対して抵抗溶接で溶着されている。なお、陽極リード200と陽極端子340とは、他の接続手段によって接続されていてもよい。
【0028】
本実施の形態の陰極端子560は、42合金からなる基体に半田めっきを形成してなるものである。但し、陰極端子560は、他の金属からなるものであってもよい。図1を参照して、本実施の形態の陰極端子560は、導電性樹脂580を用いてコンデンサ素子150の陰極層500上に接着されている。本実施の形態による導電性樹脂580は、銀ペーストからなるものである。なお、導電性樹脂580の代わりに他の導電性接着剤を用いてもよい。また、陰極層500と陰極端子560とは、他の接続手段によって接続されていてもよい。
【0029】
図1を参照して、本実施の形態の外装絶縁部材590は、陽極端子340の一部と陰極端子560の一部を包含し且つコンデンサ素子150の全体を包むように形成されている。本実施の形態の外装絶縁部材590は、エポキシ樹脂からなるものであり、所定形状の金型を用いて射出成型を行って硬化させることにより形成されている。但し、外装絶縁部材590は、他の絶縁材料からなるものであってもよい。このようにして、コンデンサ素子150は、外装絶縁部材590によって外部から封止される。
【0030】
図5を参照して、本実施の形態の固体電解コンデンサ100は、以下のように作製される。
【0031】
本実施の形態の固体電解コンデンサ100の製造方法は、埋設部形成工程と、混合物充填工程と、仮プレス工程と、挿入工程と、本プレス工程と、焼結工程と、誘電体形成工程と、陰極層形成工程と、メッキ工程と、電極接続工程と、外装絶縁工程とを備えている。
【0032】
まず、埋設部形成工程を遂行する。この埋設部形成工程では、図5(a)を参照して、陽極リード200を上部成形金型814で保持しつつ、陽極リード200の自由端(+Z側端)及びその近傍を所定方向(Y方向)において2つの押し型810で挟み込んで押し潰し、埋設部250を形成する。ここで、陽極リード200の供給方法としては、特に限定されず、スプールから巻き出す方法であってもよい。
【0033】
次に、混合物充填工程を遂行する。この混合物充填工程では、図5(b)を参照して、シャトル811で搬送された弁作用金属粉末とバインダーとの混合物820を、仕切り板812、2つの加圧パンチ813、2つの下部成形金型815及び2つの側部成形金型(図示せず)で構成される構造物における仕切り板812と加圧パンチ813との間に位置する2つの隙間818に流し込む。ここで、仕切り板812は、所定方向(Y方向)において2つの加圧パンチ813の間に位置している。また、加圧パンチ813の所定方向(Y方向)における位置を調整することにより、2つの隙間818の容量を調整することができるようになっている。従って、2つの隙間818の容量を調整して隙間818に収容される混合物820の容量を等しくすることにより、次の仮プレス工程で形成される第1プレス体600及び第2プレス体700の容量を均等とすることができる。
【0034】
混合物充填工程の遂行後、仮プレス工程を遂行する。この仮プレス工程では、図5の(c)及び(d)を参照して、弁作用金属粉末を仮プレスして第1プレス体600及び第2プレス体700を夫々形成するとともに所定方向(Y方向)において第1プレス体600と第2プレス体700との間に空隙800を設けるようにして第1プレス体600と第2プレス体700とを配置する。
【0035】
より詳しくは、まずシャトル811を所定方向(Y方向)において陽極リード200から遠ざかる方向に移動させた後、陽極リード200を保持した上部成形金型814を加圧パンチ813の−Z端に接するように移動させて、仕切り板812、加圧パンチ813、上部成形金型814、下部成形金型815及び側部成形金型(図示せず)で隙間818を閉空間とする。このとき、陽極リード200の埋設部250は、所定方向(Y方向)において仕切り板812の−Z側端部に形成されている孔819内に位置している。次に、図5(c)を参照して、隙間818に流し込まれた混合物820を、所定方向(Y方向)において加圧パンチ813を仕切り板812に近づける方向に加圧パンチ813を加圧力Pで加圧し、第1プレス体600及び第2プレス体700を形成する。その後、図5(d)を参照して、加圧パンチ813を所定方向(Y方向)において仕切り板812から遠ざかる方向に移動させたうえで、仕切り板812を+Z方向に移動させて、第1プレス体600のY側内面と第2プレス体700のY側内面とをY方向において空隙800を介在させて対向させる。
【0036】
また、上述の仮プレス工程と併せて、挿入工程を遂行する。この挿入工程では、図5(d)を参照して、第1プレス体600と第2プレス体700との間の空隙800に陽極リード200の埋設部250を挿入する。具体的には、上述の仮プレス工程において仕切り板812を+Z方向に移動させた際、陽極リード200の埋設部250は、空隙800内に位置することとなり、第1プレス体600と第2プレス体700との間の空隙800に陽極リード200の埋設部250が挿入されることとなる。
【0037】
このとき、図5(d)及び図6を参照して、第1プレス体600は、第1領域601、第2領域602及び第3領域603を有している。第1領域601、第2領域602及び第3領域603は、この順に−Y方向に並んでいる。第2領域602は、Y方向において第1領域601と第3領域603との間に挟まれている。第3領域603は、Y方向において陽極リード200の埋設部250と対向している。ここで、第2領域602は、第1領域601及び第3領域603と比較して弁作用金属粉末の密度が低くなっている。なお、第1プレス体600の更なる薄型化に伴い、第2領域602が、第1領域601及び第3領域603と比較して、弁作用金属粉末の密度が同等となる場合もある。
【0038】
また同様に、図5(d)及び図6を参照して、第2プレス体700は、第1領域701、第2領域702及び第3領域703を有している。第1領域701、第2領域702及び第3領域703は、この順に+Y方向に並んでいる。第2領域702は、Y方向において第1領域701と第3領域703との間に挟まれている。第3領域703は、Y方向において陽極リード200の埋設部250と対向している。ここで、第2領域702は、第1領域701及び第3領域703と比較して弁作用金属粉末の密度が低くなっている。なお、第2プレス体700の更なる薄型化に伴い、第2領域702が、第1領域701及び第3領域703と比較して、弁作用金属粉末の密度が同等となる場合もある。
【0039】
その後、図5(e)及び(f)を参照して、本プレス工程を遂行する。この本プレス工程では、所定方向(Y方向)において陽極リード200の埋設部250を第1プレス体600と第2プレス体700とで挟み込みつつ第1プレス体600と第2プレス体700とをまとめてプレスして成形体750を形成する。より具体的には、所定方向(Y方向)において加圧パンチ813を陽極リード200の埋設部250に近づける方向に加圧パンチ813を加圧力Pで加圧し、第1プレス体600の第3領域603と第2プレス体700の第3領域703とで陽極リード200の埋設部250を所定方向(Y方向)において挟み込こみつつ第1プレス体600と第2プレス体700とをまとめてプレスして単一の成形体750を形成する。このとき、加圧力Pは、仮プレス工程での加圧力Pよりも大きい。即ち、P>Pである。その後、ワイヤーカット刃817で陽極リード200を所定の長さを残して切断したうえで、上部成形金型814を−Z方向に移動させ、成形体素子760を得る。
【0040】
上述のように、本製造工程においては、第1プレス体600及び第2プレス体700で陽極リード200の埋設部250を挟みこむ直前に、埋設部形成工程において陽極リード200の埋設部250を形成することができるようになっている。これにより、陽極リードを連続的に薄く圧延して製造工程に供給する従来の固体電解コンデンサの製造方法と比較して、陽極リード200のハンドリングが容易となっている。
【0041】
また、上述のように、挿入工程において、陽極リード200の埋設部250は、第1プレス体600と第2プレス体700との間の空隙800に挿入される。これにより、弁作用金属粉末とバインダーとの混合物に対して陽極リードの埋設部を直接挿入する従来の固体電解コンデンサの製造方法と比較して、陽極リード200の埋設部250を負荷なく挿入することができ、陽極リード200の埋設部250が強度を有しない場合においても埋設部250の捻じれ等の変形を避けることができる。また、本プレス工程における成形体750の形成時に、陽極リード200の埋設部250の成形体750に対する位置が偏在することを避けることもできる。
【0042】
加えて、上述のように、挿入工程において、第1プレス体600の第3領域603の弁作用金属粉末の密度は、第2領域602の弁作用金属粉末の密度よりも高くなっており、且つ、第2プレス体700の第3領域703の弁作用金属粉末の密度は、第2領域702の弁作用金属粉末の密度よりも高くなっている。これらのことから、本プレス工程において、第1プレス体600と第2プレス体700とをまとめてプレスして成形体750を形成した際に、第1プレス体600の第3領域603と、第2プレス体700の第3領域703とは、陽極リード200の埋設部250と強固に密着することとなる。即ち、成形体750における弁作用金属粉末の密度は、陽極リード200の埋設部250の近傍においても低下せず、陽極リード200の埋設部250は成形体750に対して強固に保持される。
【0043】
本プレス工程の遂行後、焼結工程を遂行する。この焼結工程では、上述の本プレス工程で成形された成形体750を焼結して陽極体300を形成する。これにより、バインダーが揮散して焼結された弁作用金属粉末のみで構成された陽極体300を有する陽極部170が得られる。
【0044】
焼結工程の遂行後、誘電体形成工程を遂行する。この誘電体形成工程では、陽極部170の陽極体300上に誘電体層400を形成する。より詳しくは、図2を参照して、陽極部170をリン酸水溶液中に浸して陽極化成を施し、陽極体300上に誘電体層400を形成する。なお、この陽極化成には、リン酸水溶液以外の溶液を用いることとしてもよい。
【0045】
誘電体形成工程の遂行後、陰極層形成工程を遂行する。この陰極層形成工程は、固体電解質形成工程と、導電体層形成工程とを備えている。
【0046】
固体電解質形成工程では、誘電体層400上に固体電解質層550を形成する。具体的には、図2を参照して、誘電体層400をチオフェンと酸化剤に交互に浸漬させて化学重合を繰り返すことにより、誘電体層400上にポリチオフェンからなる固体電解質層550を形成する。この化学重合に使用される酸化剤は、パラトルエンスルホン酸第二鉄の30%メタノール溶液である。なお、酸化剤は他の溶液からなるものであってもよい。また、ポリチオフェンからなる固体電解質層550は、導電性高分子スラリを用いた含侵工程及び乾燥工程を繰り返して形成してもよい。
【0047】
また、導電体層形成工程では、上述の固体電解質形成工程で形成された固体電解質層550上に導電体層510を形成する。具体的には、固体電解質層550上にグラファイトペーストを塗布し、温風で乾燥させて導電体層510を形成する。これにより、コンデンサ素子150が得られる。なお、この導電体層形成工程の後に、陰極層500の表面にメッキ層を設けるメッキ工程を挿入してもよい。
【0048】
陰極層形成工程を遂行後、電極接続工程を遂行する。この電極接続工程では、図1を参照して、陽極端子340を陽極リード200に対して抵抗溶接で溶着し、また、陰極端子560を陰極層500の導電体層510上に導電性樹脂580を用いて接着する。これにより、コンデンサ要素120が得られる。
【0049】
電極接続工程の遂行後、外装絶縁工程を遂行する。この外装絶縁工程では、図1を参照して、上述の電極接続工程で得られたコンデンサ要素120を所定形状の金型内に配置し、エポキシ樹脂を金型内に射出成型して硬化させ、外装絶縁部材590を形成する。その後、陽極端子340と陰極端子560とを外装絶縁部材590の底部側にコの字状に折り込む。このようにして、本実施の形態の固体電解コンデンサ100が得られる。
【0050】
上述のように、本実施の形態の固体電解コンデンサ100の陽極体300は、本プレス工程において第1プレス体600の第3領域603と第2プレス体700の第3領域703とを陽極リード200の埋設部250に対して強固に密着させて成形体750を形成し、この成形体750を焼結工程において焼結して形成している。これにより、陽極体300の弁作用金属粉末の密度が陽極リード200の埋設部250の近傍においても低下しないため、陽極リード200の埋設部250は陽極体300に対して強固に固定される構造となっている。
【0051】
より具体的には、図4及び図6を参照して、第1プレス体600の第3領域603と第2プレス体700の第3領域703が、陽極体300の第1区域310となる。また、第1プレス体600の第2領域602が、陽極体300の第2区域320の第2区分324となり、第2プレス体700の第2領域702が、陽極体300の第3区域330の第2区分334となる。同様に、第1プレス体600の第1領域601が、陽極体300の第2区域320の第1区分322となり、第2プレス体700の第1領域701が、陽極体300の第3区域330の第1区分332となる。ここで、前述のように、第1プレス体600において、第1領域601及び第3領域603の弁作用金属粉末の密度は、第2領域602の弁作用金属粉末の密度と比較して同等以上となっている。同様に、前述のように、第2プレス体700において、第1領域701及び第3領域703の弁作用金属粉末の密度は、第2領域702の弁作用金属粉末の密度と比較して同等以上となっている。これらのことから、第1プレス体600の第3領域603と第2プレス体700の第3領域703から形成された陽極体300の第1区域310の密度M1は、第1プレス体600の第2領域602から形成された陽極体300の第2区域320の第2区分324の密度M2以上となり、且つ、第2プレス体700の第2領域702から形成された陽極体300の第3区域330の第2区分334の密度M3以上となる。
【0052】
以上、本発明について、実施の形態を掲げて具体的に説明してきたが、本発明はこれに限定されるわけではなく、種々の変形が可能である。
【0053】
上述した実施の形態の陽極リード200は略扁平形状の埋設部250を有していたが、本発明はこれに限定されない。即ち、埋設部250はその他の形状を有していてもよい。また、埋設部250は押し潰されていなくてもよい。即ち、固体電解コンデンサ100の製造方法において、埋設部形成工程を有さなくてもよい。
【0054】
上述した実施の形態の固体電解質層550はポリチオフェンからなるものであったが、本発明はこれに限定されない。即ち、固体電解質層550は、他の導電性ポリマーからなるものであってもよいし、二酸化マンガンからなるものであってもよい。
【0055】
上述した実施の形態の導電体層510は、固体電解質層550上にグラファイトペーストを塗布及び乾燥することにより形成されていたが、本発明はこれに限定されない。即ち、固体電解質層550上に導電体層510を化学重合により形成することとしてもよい。
【0056】
本実施の形態の固体電解コンデンサ100の製造方法は、埋設部形成工程と、混合物充填工程と、仮プレス工程と、挿入工程と、本プレス工程と、焼結工程と、誘電体形成工程と、陰極層形成工程と、メッキ工程と、電極接続工程と、外装絶縁工程とを備えていたが、本発明はこれに限定されない。即ち、固体電解コンデンサ100の製造方法は、仮プレス工程と、挿入工程と、本プレス工程と、焼結工程と、誘電体形成工程と、固体電解質形成工程とを備えていればよい。
【符号の説明】
【0057】
100 固体電解コンデンサ
120 コンデンサ要素
150 コンデンサ素子
170 陽極部
200 陽極リード
250 埋設部
300 陽極体
310 第1区域
312 第1区分
314 第2区分
320 第2区域
322 第1区分
324 第2区分
330 第3区域
332 第1区分
334 第2区分
340 陽極端子
400 誘電体層
500 陰極層
510 導電体層
550 固体電解質層
560 陰極端子
580 導電性樹脂
590 外装絶縁部材
600 第1プレス体
601 第1領域
602 第2領域
603 第3領域
700 第2プレス体
701 第1領域
702 第2領域
703 第3領域
750 成形体
760 成形体素子
800 空隙
810 押し型
811 シャトル
812 仕切り板
813 加圧パンチ
814 上部成形金型
815 下部成形金型
817 ワイヤーカット刃
818 隙間
819 孔
820 混合物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8