(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
乗りかごのかごドアの係合部と乗り場ドアの係合部を係合させることで、前記かごドアの開閉動作と連動して前記乗り場ドアを開閉するエレベータのドア制御システムであって、
前記かごドアに設置され、加速度および磁気値を計測する計測装置と、
該計測装置が計測した加速度および磁気値に基づいて前記かごドアの開閉を制御するドア制御装置と、を有しており、
前記ドア制御装置は、前記乗りかごの停止中に異常振動の発生を検出した場合、前記かごドアの係合部と前記乗り場ドアの係合部の係合の脱落を検出した後の前記かごドアの閉動作を、前記かごドアの係合部と前記乗り場ドアの係合部が接触する前に停止することを特徴とするドア制御システム。
【背景技術】
【0002】
一般的なエレベータには、乗りかご側のかごドアと、各階の乗り場側の乗り場ドアの、二種類のドアが設けられている。これらのうち、かごドアは、乗りかごに搭載したモーターなどの駆動部によって開閉される。一方、乗り場ドアは、モーターなどの駆動部を備えておらず、ばねの弾性力によって常に閉方向の力が加わっている。
【0003】
駆動部を持たない乗り場ドアを開閉するため、双方のドアには係合部が設けられており、両係合部を係合させることで、かごドアの開閉動作に乗り場ドアを連動させる。これにより、かごドアと乗り場ドアを同時に開くことができ、乗客の乗降が可能となる。
【0004】
しかし、乗りかごの乗り場停止中に、地震や乗客の暴れ等により乗りかごが大きく振動すると、かごドアと乗り場ドアの係合が外れてしまう場合もあり、かごドアを開動作させても乗り場ドアが開かず、乗客が乗りかご内に閉じ込められた状態となることがある。
【0005】
そこで、係合外れが起きた場合に、係合外れの検出と係合外れの復旧を試みるドア制御装置が従来から提案されている。例えば、特許文献1の要約書では、「効率よくかご戸係合外れを自動復旧する」という課題と、「エレベータのかごに設けられたかご戸が各階の乗場の乗場戸に対向した状態でこのかご戸を開閉すると、このかご戸に取付られているかご戸係合板に係合している乗場戸が連動して開閉する。さらに、かご戸が乗場戸に対向した状態で、かご戸係合板が乗場戸に対する係合状態が外れたこと検出するかご戸係合外れ検出器29と、係合状態が外れた状態を係合状態に復旧する係合外れ復旧機構32とを備えている。そして、地震計が規定レベル以上の地震発生を検出したとき自動実施される地震管制運転の運転状況に応じて、かご戸係合外れ検出器29におけるかご戸係合外れの検出、及びかご戸係合外れが検出されていたときに、係合外れ復旧を実施させる。」という解決手段が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施例のドア制御システム100を説明する。
【0013】
図1は、ドア制御システム100を設置したエレベータの概略側面図であり、乗りかご9が昇降路12内を昇降するために必要な構成を例示するものである。一般的に、エレベータは、主ロープ8の両端に乗りかご9とつり合いおもり10を連結し、この主ロープ8を巻き掛けた巻き上げ機7を図示しないエレベータ制御装置の制御により駆動することで、乗りかご9とつり合いおもり10をつるべ式に昇降させて、乗りかご9を所望の乗り場に移動させるものである。
【0014】
このエレベータに設置される本実施例のドア制御システム100は、乗りかご9のかごドア5に設置される計測装置1と、乗りかご9の上部に設置されるドア制御装置2と、昇降路12の下部に設置される外部通報装置3と、で構成されるシステムである。これらのうち外部通報装置3は、テールコード11を介して乗りかご9と接続され、また、公衆回線4を介して外部に接続されている。なお、
図1に示すように、以下では、乗りかご9の左右方向(紙面表裏方向)をX軸、上下方向をY軸、前後方向(紙面左右方向)をZ軸とする。
【0015】
次に、
図2のブロック図を用いて、本実施例のドア制御システム100を構成する、計測装置1、ドア制御装置2、外部通報装置3の各々を詳細に説明する。
【0016】
計測装置1は、乗りかご9の加速度と磁気値を検出し、加速度データと磁気データを送信するものであり、X軸、Y軸、Z軸の三方向の加速度(A
X,A
Y,A
Z)を計測する加速度計測部1aと、Z軸方向の磁気値(M
Z)を計測する磁気値計測部1bと、検出したデータをドア制御装置2に送信する通信部1cを備えている。
【0017】
ドア制御装置2は、計測装置1から受信したデータに基づいて、乗りかご9とドアの状態を検出するとともに、検出した状態に応じてかごドア5の開閉を制御するものであり、計測装置1から受信したデータを記憶する記憶部2aと、記憶部2aに記憶したデータに基づいてドア異常を検出するドア異常検出部2bと、ドア状態に応じてかごドア5の開閉を制御するドア制御部2cと、計測装置1および外部通報装置3と通信する通信部2dを備えている。なお、ドア制御装置2は、実際には、CPU等の演算装置、半導体メモリ等の主記憶装置、ハードディスク等の補助記憶装置などのハードウェアを備えた計算機である。そして、補助記憶装置に記録されたデータベースを参照しながら、主記憶装置にロードされたプログラムを演算装置が実行することで、ドア異常検出部2bやドア制御部2c等の各機能を実現するが、以下では、このような周知技術を適宜省略しながら説明する。
【0018】
ここで、ドア制御装置2による乗りかご9の状態の判断には、乗りかご9が停止中であるかの判断と、乗りかご9に異常振動が発生したかの判断がある。前者の判断は、上下方向の加速度A
Yを積分した昇降速度V
Yが規定値±V
THの範囲内である場合に、乗りかご9が停止中であると判断するものである。また、後者の判断は、加速度A
X,A
Y,A
Zの何れか、または、それらを合成した加速度Aが規定値A
TH以上となった場合に、地震や乗客の暴れ等が発生したと判断するものである。
【0019】
また、ドア制御装置2によるドア状態の判断は、前後方向の磁気値M
Zが規定値M
TH未満である場合に計測装置1が乗り場ドア6を検出しており、磁気値M
Zが規定値M
TH以上である場合に計測装置1が乗り場ドア6を検出していないと判断するものである。
【0020】
外部通報装置3は、ドア制御装置2から受信したデータを、必要に応じて公衆回線4を介して遠隔の管理センタ101に通報するものであり、通報内容決定部3aと、通信部3bと、を備えている。
【0021】
管理センタ101は、外部通報装置3から送信された通報内容を担当営業所102に送信する。その結果、係合部の脱落の発生したエレベータには、通報を受けた担当営業所102からの保守員が出動し、所定の復旧作業を実行することができる。
【0022】
次に、
図3から
図5を用いて、計測装置1が検出する磁気値M
Zとドア状態の関係をより詳細に説明する。
【0023】
図3は、乗りかご9が乗り場に停止しており、かごドア5と乗り場ドア6が正常に係合した状態を示す上面図である。なお、ここに示すように、本実施例のかごドア5と乗り場ドア6は、中心から左右に分かれて開閉するセンターオープン式のドアであり、双方のドアの左ドア側に係合部5aと係合部6aが対向配置され、かごドア5の右ドア側に計測装置1が設置されている。この場合、かごドア5の開閉動作に乗り場ドア6が連動するので、かごドア5に設置された計測装置1は常に乗り場ドア6と対向することになり、検出される磁気値M
Zは常に規定値M
TH未満となる。
【0024】
図4は、乗りかご9が乗り場に停止しており、かごドア5と乗り場ドア6の係合が脱落した状態を示す第一の上面図である。このような状況が生じるのは、乗りかご9の停止中に地震等の大きな振動が発生し、係合部5aと係合部6aの係合が外れた後、開動作を開始した結果、かごドア5は開状態となる一方、乗り場ドア6は閉状態を維持している場合などである。この場合、係合部は脱落しているものの、計測装置1は乗り場ドア6に対向しているため、検出される磁気値M
Zは規定値M
TH未満の値となる。
【0025】
図5は、乗りかご9が乗り場に停止しており、かごドア5と乗り場ドア6の係合が脱落した状態を示す第二の上面図である。このような状況が生じるのは、
図4のかごドア5が開動作を継続し、全開となった場合などである。
図5の状態では、計測装置1の正面に乗り場ドア6が存在しないため、検出される磁気値M
Zは規定値M
TH以上の値となる。
【0026】
なお、
図4と
図5の比較から分かるように、計測装置1の設置位置は、脱落したかごドア5を、全開状態から閉動作する際に、かごドア5の係合部5aと乗り場ドア6の係合部6aが接触する前に乗り場ドア6を検出できる、
図4に例示するようなかごドア5上の位置である。
【0027】
次に、
図6に示す磁気値M
Zの時間変化に基づいて、ドア制御装置2のドア異常検出部2bが、かごドア5と乗り場ドア6の係合外れ(脱落)を検出する方法を説明する。なお、同図において、実線で示す磁気値M
1は
図3のようにかごドア5と乗り場ドア6の係合が正常である場合に検出される磁気値であり、一点鎖線で示す磁気値M
2は
図4、
図5のようにかごドア5と乗り場ドア6の係合が脱落した場合に検出される磁気値である。また、時間T
0は、乗り場に停止した乗りかご9がかごドア5の開動作を開始する時間であり、時間T
1は、かごドア5の開動作を完了し、かごドア5が全開となった時間である。
【0028】
実線の磁気値M
1のように、かごドア5の開動作の開始から完了に至る期間(時間T
0〜T
1)内に規定値M
TH以上の磁気値M
Zを検出しない場合は、
図3のように、かごドア5と乗り場ドア6が連動していると考えられるため、ドア異常検出部2bは、係合外れ(脱落)は発生していないと判断する。
【0029】
一方、一点鎖線の磁気値M
2のように、かごドア5の開動作の開始から完了に至る期間(時間T
0〜T
1)内に規定値M
TH未満から規定値M
TH以上に変化する磁気値M
Zを検出した場合は、
図4、
図5のように、かごドア5と乗り場ドア6が連動していないと考えられるため、ドア異常検出部2bは、係合外れ(脱落)が発生していると判断する。
【0030】
ドア異常検出部2bが脱落の有無を判断すると、ドア制御部2cはその判断結果に応じて、かごドア5の開閉動作を制御する。すなわち、脱落がない場合は、乗客の戸閉操作に従って、或いは、所定の待機時間の経過後にかごドア5の戸閉動作を完遂させる。一方、脱落が発生している場合は、規定値M
TH以上の磁気値M
Zが検出される位置から、かごドア5の閉動作を開始し、規定値M
TH未満の磁気値M
Zが検出された時点でかごドア5の閉動作を停止する。すなわち、
図4に示すように、計測装置1が乗り場ドア6の端部を検出した位置でかごドア5の閉動作を停止する。これにより、係合部同士の接触を防止しつつ、乗りかご9の開口をある程度狭めることができるので、係合部の破損の回避と、乗りかご9内の乗客の転落の抑制の双方を実現することができる。
【0031】
以上の構成を備える本実施例のドア制御システム100が実行する処理の一例を、
図7のフローチャートに従い説明する。
【0032】
ステップS1では、ドア制御装置2は、乗りかご9が停止中であるかを判断する。具体的には、ドア制御装置2は、計測装置1が計測した乗りかご9の上下方向の加速度A
Yを積分することで昇降速度V
Yを求め、これが規定値±V
THの範囲内であれば乗りかご9が停止中であると判断し、ステップS2に進む。一方、昇降速度V
Yが規定値±V
THの範囲外であれば乗りかご9が移動中であると判断し、ステップS1を繰り返す。
【0033】
ステップS2では、ドア制御装置2は、乗りかご9に異常振動が発生したかを判断する。具体的には、ドア制御装置2は、計測装置1が計測した乗りかご9の加速度A
X,A
Y,A
Zが規定値±A
THの範囲外であれば、地震や乗客の暴れ等の異常振動が発生したと判断し、ステップS3に進む。一方、加速度A
X,A
Y,A
Zが規定値±A
THの範囲内であれば異常振動が発生していないと判断し、ステップS1に戻る。
【0034】
ステップS3では、ドア制御装置2は、ステップS1と同様の方法により、乗りかご9が停止中であるかを判断する。そして、乗りかご9が停止中であればステップS4に進み、移動中であればステップS1に戻る。すなわち、ステップS1〜S3により、乗りかご9が停止中である場合は、常に異常振動の有無が判定されることになる。
【0035】
ステップS4では、ドア制御装置2は、かごドア5と乗り場ドア6の係合部の脱落が発生したかを判断する。具体的には、ドア制御装置2は、計測装置1が計測した乗りかご9の前後方向の磁気値M
Zが、かごドア5の開動作を開始してから所定時間以内に規定値M
TH以上となれば脱落が発生したと判断し、ステップS5に進む。一方、磁気値M
Zが規定値M
TH以上とならなければ脱落は発生していないと判断し、ステップS3に戻る。
【0036】
ステップS5では、外部通報部3は、係合部の脱落の発生(および乗客の閉じ込め)を管理センタ101に通報する。通報を受けた管理センタ101は、担当営業所102の保守員にエレベータの復旧作業や乗客の救出を指示する。
【0037】
ステップS6では、ドア制御装置2は、係合部の損傷を防止するためのかごドア5の制御を実行する。具体的には、ドア制御装置2は、規定値M
THを超える磁気値M
Zが計測されるかごドア5の位置から、通常よりも低速で閉動作を開始し、規定値M
TH未満の磁気値M
Zが計測された時点で閉動作を停止する。これにより、
図4のように、かごドア5の係合部5aと乗り場ドア6の係合部6aが接触する直前でかごドア5を停止させることができ、両係合部の接触による破損を防止することができる。なお、このステップでの閉動作を通常より低速としたのは、かごドア5に停止指令を出した後に慣性によりかごドア5が更に移動した結果、係合部同士が衝突する事故を防止するためである。
【0038】
以上で説明したように、本実施例のドア制御システム100によれば、かごドアと乗り場ドアの係合部同士の係合外れが発生した場合に、かごドアの現在位置を確認しながら、かごドアの閉動作を実行することで、かごドアと乗り場ドアの係合部同士の接触や損傷を抑制することができる。