特許第6885931号(P6885931)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885931
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】有機ELデバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20210603BHJP
【FI】
   H05B33/22 A
   H05B33/22 B
   H05B33/14 B
【請求項の数】9
【全頁数】63
(21)【出願番号】特願2018-515966(P2018-515966)
(86)(22)【出願日】2016年9月27日
(65)【公表番号】特表2018-534768(P2018-534768A)
(43)【公表日】2018年11月22日
(86)【国際出願番号】EP2016072955
(87)【国際公開番号】WO2017055264
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2019年9月3日
(31)【優先権主張番号】15187146.4
(32)【優先日】2015年9月28日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】16185999.6
(32)【優先日】2016年8月26日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503180100
【氏名又は名称】ノヴァレッド ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】パヴィチッチ,ドマゴイ
(72)【発明者】
【氏名】ローテ,カルステン
(72)【発明者】
【氏名】ヤンクス,ヴィギンタス
(72)【発明者】
【氏名】ルシュティネッツ,レギーナ
(72)【発明者】
【氏名】ガニエ,ジェロム
【審査官】 岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/111848(WO,A1)
【文献】 特開2013−065878(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/097232(WO,A1)
【文献】 特表2011−501463(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0197289(US,A1)
【文献】 特表2014−519189(JP,A)
【文献】 特開2012−001514(JP,A)
【文献】 特開2003−338377(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0197601(US,A1)
【文献】 特表2013−534047(JP,A)
【文献】 特表2012−514324(JP,A)
【文献】 特開2015−027986(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/105316(WO,A1)
【文献】 特開平10−189247(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/046839(WO,A1)
【文献】 特開2001−131174(JP,A)
【文献】 特開2005−302667(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0332789(US,A1)
【文献】 国際公開第2005/062675(WO,A1)
【文献】 特開2005−317314(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2016−0019764(KR,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0322568(US,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2010−0101578(KR,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2013−0037186(KR,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2015−0064442(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードと、カソードと、発光層と、
第1マトリクス化合物を含んでいる、ドープされていない電子輸送層と、
(i)第2マトリクス化合物、ならびに(ii)有機アルカリ金属複合体および/またはアルカリ金属ハロゲン化物、を含んでいる電子注入層と、
を備えている有機ELデバイスであって、
上記ドープされていない電子輸送層および上記電子注入層は、上記発光層および上記カソードの間に配置されており、
上記第1マトリクス化合物の還元電位は、9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセンの還元電位よりも正であり、かつ、4,4’−ビス(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)ビフェニルの還元電位よりも負であり、
(ここで、上記還元電位は、いずれの場合も、テトラヒドロフラン中でFc/Fcに対して測定される)
上記第1マトリクス化合物の双極子モーメントは、0デバイ以上、2.5デバイ以下から選択され、
上記第2マトリクス化合物の双極子モーメントは、3デバイ超、5デバイ未満から選択され、
上記第1マトリクス化合物は、下記式(I)のトリアリールボラン化合物を含んでおり、
【化1】
(式中、
、RおよびRは、独立に、H、D、C〜C16アルキルおよびC〜C16アルコキシからなる群より選択され、
、R、RおよびRは、独立に、H、D、C〜C16アルキル、C〜C16アルコキシおよびC〜C20アリールからなる群から選択され、
Arは、置換または未置換のC〜C20アリールから選択され(Arが置換されている場合、置換基は、独立に、D、C〜C12アルキル、C〜C16アルコキシおよびC〜C20アリールからなる群より選択される)、
Arは、置換または未置換のC〜C20アリーレンから選択され(Arが置換されている場合、置換基は、独立に、D、C〜C12アルキル、C〜C16アルコキシおよびC〜C20アリールからなる群より選択される)、
Arは、H、D、置換または未置換のC〜C40アリールおよびC〜C40ヘテロアリールからなる群より選択される)、
上記第2マトリクス化合物は、C〜C40アリール基、C〜C40ヘテロアリール基および/またはC〜C12アルキル基で置換されている、ホスフィンオキシド化合物を含んでおり、
N個の原子を有する分子の双極子モーメントは、下記式で与えられ、
【数1】
部分電荷および原子の位置は、下記のいずれかをプログラム・パッケージTURBOMOLE V6.5で実行することによって得る:
(i)Becke-Perdew(BP)のDFT関数をdef-SV(P) basisで実行する;
(ii)B3LYP混成汎関数をdef2-TZVP basisで実行する;
ここで、1つ以上の配座が実行可能である場合は、総エネルギーが最も低い配座を選択して、双極子モーメントを決定する、
有機ELデバイス。
【請求項2】
アノードと、カソードと、発光層と、
第1マトリクス化合物を含んでいる、ドープされていない電子輸送層と、
(i)第2マトリクス化合物、ならびに(ii)有機アルカリ金属複合体および/またはアルカリ金属ハロゲン化物、を含んでいる電子注入層と、
を備えている有機ELデバイスであって、
上記ドープされていない電子輸送層および上記電子注入層は、上記発光層および上記カソードの間に配置されており、
上記第1マトリクス化合物の還元電位は、9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセンの還元電位よりも正であり、かつ、4,4’−ビス(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)ビフェニルの還元電位よりも負であり、
(ここで、上記還元電位は、いずれの場合も、テトラヒドロフラン中でFc/Fcに対して測定される)
上記第1マトリクス化合物の双極子モーメントは、0デバイ以上、2.5デバイ以下から選択され、
上記第2マトリクス化合物の双極子モーメントは、3デバイ超、5デバイ未満未満から選択され、
上記第1マトリクス化合物は、下記式(II)のジベンゾ[c,h]アクリジン化合物、および/または、下記式(III)のジベンゾ[a,j]アクリジン化合物、および/または、下記式(IV)のベンゾ[c]アクリジン化合物を含んでおり、
【化2】
(式中、
Arは、独立に、C〜C20アリーレンから選択され、
Arは、独立に、未置換または置換のC〜C40アリールから選択され、
Arが置換されている場合、1つ以上の置換基は、独立に、C〜C12アルキルおよびC〜C12ヘテロアルキルからなる群より選択されてもよい)、
上記第2マトリクス化合物は、C〜C40アリール基、C〜C40ヘテロアリール基および/またはC〜C12アルキル基で置換されている、ホスフィンオキシド化合物を含んでおり、
N個の原子を有する分子の双極子モーメントは、下記式で与えられ、
【数2】
部分電荷および原子の位置は、下記のいずれかをプログラム・パッケージTURBOMOLE V6.5で実行することによって得る:
(i)Becke-Perdew(BP)のDFT関数をdef-SV(P) basisで実行する;
(ii)B3LYP混成汎関数をdef2-TZVP basisで実行する;
ここで、1つ以上の配座が実行可能である場合は、総エネルギーが最も低い配座を選択して、双極子モーメントを決定する、
有機ELデバイス。
【請求項3】
アノードと、カソードと、発光層と、
第1マトリクス化合物を含んでいる、ドープされていない電子輸送層と、
(i)第2マトリクス化合物、ならびに(ii)有機アルカリ金属複合体および/またはアルカリ金属ハロゲン化物、を含んでいる電子注入層と、
を備えている有機ELデバイスであって、
上記ドープされていない電子輸送層および上記電子注入層は、上記発光層および上記カソードの間に配置されており、
上記第1マトリクス化合物の還元電位は、9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセンの還元電位よりも正であり、かつ、4,4’−ビス(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)ビフェニルの還元電位よりも負であり、
(ここで、上記還元電位は、いずれの場合も、テトラヒドロフラン中でFc/Fcに対して測定される)
上記第1マトリクス化合物の双極子モーメントは、0デバイ以上、2.5デバイ以下から選択され、
上記第2マトリクス化合物の双極子モーメントは、3デバイ超、5デバイ未満から選択され、
上記第1マトリクス化合物は、下記式(V)のトリアジン化合物を含んでおり、
【化3】
(式中、
Arは、独立に、未置換または置換のC〜C20アリールまたはAr5.1−Ar5.2から選択され、
Ar5.1は、未置換または置換のC〜C20アリーレンから選択され、
Ar5.2は、未置換もしくは置換のC〜C20アリール、または、未置換もしくは置換のC〜C20ヘテロアリールから選択され、
Arは、未置換または置換のC〜C20アリーレンから選択され、
Arは、独立に、置換または未置換のアリール、置換または未置換のヘテロアリール(当該アリールおよび当該ヘテロアリールの環を構成する原子は6〜40個である)からなる群より選択され、
xは、1または2から選択され、
Arが置換されている場合、1つ以上の置換基は、独立に、C〜C12アルキルおよびC〜C12ヘテロアルキルからなる群より選択されてもよく、
Arが置換されている場合、1つ以上の置換基は、独立に、C〜C12アルキルおよびC〜C12ヘテロアルキル、ならびにC〜C20アリールからなる群より選択されてもよい)、
上記第2マトリクス化合物は、C〜C40アリール基、C〜C40ヘテロアリール基および/またはC〜C12アルキル基で置換されている、ホスフィンオキシド化合物を含んでおり、
N個の原子を有する分子の双極子モーメントは、下記式で与えられ、
【数3】
部分電荷および原子の位置は、下記のいずれかをプログラム・パッケージTURBOMOLE V6.5で実行することによって得る:
(i)Becke-Perdew(BP)のDFT関数をdef-SV(P) basisで実行する;
(ii)B3LYP混成汎関数をdef2-TZVP basisで実行する;
ここで、1つ以上の配座が実行可能である場合は、総エネルギーが最も低い配座を選択して、双極子モーメントを決定する、
有機ELデバイス。
【請求項4】
下記(i)および(ii)の少なくとも一方を満たす、請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機ELデバイス:
(i)上記有機アルカリ金属複合体は、有機リチウム複合体である
(ii)上記アルカリ金属ハロゲン化物は、ハロゲン化リチウムである。
【請求項5】
上記有機アルカリ金属複合体は、下記式(VII)の化合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機ELデバイス:
【化4】
(式中、
Mはアルカリ金属イオンであり、
〜Aのそれぞれは、独立に、置換もしくは未置換のC〜C20アリールまたは置換もしくは未置換のC〜C20ヘテロアリールから選択される)。
【請求項6】
上記ドープされていない電子輸送層の厚さが、上記電子注入層の厚さの2倍以上ある、請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機ELデバイス。
【請求項7】
上記発光層は、青色蛍光体を含んでいる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機ELデバイス。
【請求項8】
青色蛍光デバイスである、請求項に記載の有機ELデバイス。
【請求項9】
上記発光層は、C〜C40アリール基、C〜C40ヘテロアリール基および/またはC〜C12アルキル基で置換されているアントラセンマトリクス化合物をさらに含んでいる、請求項に記載の有機ELデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
自発光型デバイスである有機発光ダイオード(organic light-emitting diode;OLED)は、視野角が広く、コントラストが良好で、応答が速く、高輝度であり、駆動電圧特性に優れ、色再現性がある。通常、OLEDは、アノード、正孔輸送層(hole transport layer;HTL)、発光層(emission layer;EML)、電子輸送層(electron transport layer;ETL)およびカソードを備えており、これらが基板上に順番に積層されている。この点に関して、HTL、EMLおよびETLは、有機化合物および/または有機金属化合物から形成される薄膜である。
【0003】
アノードおよびカソードに電圧を印加すると、アノードから注入された正孔は、HTLを経由して、EMLに移動する。また、カソードから注入された電子は、ETLを経由して、EMLに移動する。正孔と電子とはEML中で再結合して、励起子を生成させる。励起子が励起状態から基底状態に落ちるとき、光が放射される。正孔および電子の注入および流動は、釣り合いがとれていなければならない。それゆえ、上述の構造を有しているOLEDは、優れた効率を有するのである。
【0004】
JP2003−338377は、(i)非極性の電子輸送層(ETL)(例えば、アントラセン誘導体)、および(ii)ドープされていない極性の電子注入層(EIL)(例えば、フェナントロリン)の利点を開示している。極性は、双極子モーメントによって特徴づけられている(ETLは2デバイ未満、EILは2デバイ超)。
【0005】
電子注入能をさらに改良するために、有機リチウム複合体でドープされたEILが開発された。具体的には、LiQでドープされたベンゾイミダゾール系マトリクス化合物、LiQでドープされたフェナントロリン系マトリクス化合物、または有機リチウム複合体でドープされたホスフィンオキシド系マトリクス化合物である。
【0006】
US2007252521は、発光層とETLとの間におけるLUMOのオフセットを、可能な限り小さくなるよう選択するべきである旨、教示している。理想的には、EMLとETLとの間において、LUMOのオフセットは存在すべきでない。
【0007】
しかしながら、有機ELデバイスの出力効率には、依然として改良の余地が残されていた。人間の目に対する反応を考慮したとき、出力効率は商品にとって特に重要である。出力効率が高くなるほど、電力を人間の目に見える光出力へと、より効率的に変換するようになる。
【発明の概要】
【0008】
したがって、本発明の目的は、従来技術の短所を克服した有機ELデバイスを提供することにある。具体的には、ワット当たりルーメン(lm/W)で計算した出力効率を向上させたことを特徴とする、有機ELデバイス(特に、OLEDなどの青色蛍光デバイス)を提供することにある。
【0009】
一態様によると、アノードと、カソードと、発光層と、
第1マトリクス化合物を含んでいる、ドープされていない電子輸送層と、
(i)第2マトリクス化合物、ならびに(ii)有機アルカリ金属複合体および/またはアルカリ金属ハロゲン化物、を含んでいる電子注入層と、
を備えている有機ELデバイスであって、
上記ドープされていない電子輸送層および上記電子注入層は、上記発光層および上記カソードの間に配置されており、
上記第1マトリクス化合物の還元電位は、9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン(CAS 122648-99-1)の還元電位よりも正であり、かつ、4,4’−ビス(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)ビフェニル(CAS 266349-83-1)の還元電位よりも負であり、
(ここで、上記還元電位は、いずれの場合も、テトラヒドロフラン中でFc/Fcに対して測定される)
上記第1マトリクス化合物の双極子モーメントは、0デバイ以上、2.5デバイ以下から選択され、
上記第2マトリクス化合物の双極子モーメントは、2.5デバイ超、10デバイ未満から選択される、有機ELデバイスが提供される。
【0010】
好ましい実施形態において、上記ドープされていない電子輸送層は上記発光層に隣接しており、上記電子注入層は上記ドープされていない電子輸送層に隣接しており、上記カソードは上記電子注入層に隣接している。
【0011】
さらなる実施形態においては、アノードと、カソードと、発光層と、
第1マトリクス化合物を含んでいる、ドープされていない電子輸送層と、
(i)第2マトリクス化合物、ならびに(ii)有機アルカリ金属複合体および/またはアルカリ金属ハロゲン化物、を含んでいる電子注入層と、
を備えている有機ELデバイスであって、
上記ドープされていない電子輸送層および上記電子注入層は、上記発光層および上記カソードの間に配置されており、
上記第1マトリクス化合物の還元電位は、9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセンの還元電位よりも正であり、かつ、4,4’−ビス(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)ビフェニルの還元電位よりも負であり、
(ここで、上記還元電位は、いずれの場合も、テトラヒドロフラン中でFc/Fcに対して測定される)
上記第1マトリクス化合物の双極子モーメントは、0デバイ以上、2.5デバイ以下から選択され、
上記第2マトリクス化合物の双極子モーメントは、2.5デバイ超、10デバイ未満から選択され、
上記発光層は、上記ドープされていない電子輸送層と直接接触しており、
上記発光層はEMLホストを含んでおり、
上記EMLホストの還元電位と上記第1マトリクス化合物の還元電位との間のオフセットは、0.05V以上、0.35V以下から選択され、好ましくは0.1V以上、0.3V以下である、有機ELデバイスが提供される。
【0012】
EMLホストは、発光層中に含まれているホスト物質であり、「発光層ホスト」「エミッタ・ホスト」または「ホスト」とも呼ばれる。EMLホストは、基本的に非発光性の化合物である。
【0013】
本明細書に関して、用語「基本的に非発光性」とは、デバイスから放射される可視光スペクトルに対する化合物または層の寄与が、当該可視光スペクトルを基準として10%未満、好ましくは5%未満であることを意味する。可視光スペクトルとは、波長が約380nm以上、約780nm以下の発光スペクトルのことである。
【0014】
好ましくは、上記発光層は、青色蛍光体をさらに含んでいる。
【0015】
還元電位のオフセットは、第1マトリクス化合物の還元電位から、EMLホストの還元電位を引いて算出する。EMLホストの還元電位が、第1マトリクス化合物の還元電位よりも負である場合、オフセットは0を超える。大規模な研究の後、驚くべきことに、以下の2点が判明した。(a)発光層(EML)とETLとの間におけるLUMO準位のオフセットが小さいと、lm/W効率に有利に働く。(b)外部量子効率(external quantum efficiency;EQE)の顕著な低下に起因してlm/W効率が急落するので、オフセットが大きすぎる事態は避けるべきである。
【0016】
本発明を典型的に示すために、図1を参照されたい。図1は、本発明に係る物質および従来技術に係る物質を、いくつか表している。同図では、以下の2つに対する出力効率(lm/W)が表されている。(a)発光層(EML)ホストと第1マトリクス化合物(ETLマトリクス)の間における還元電位のオフセット(第1のx軸)。(b)テトラヒドロフラン中でFc/Fcに対して測定した、第1マトリクス化合物の還元電位(第2のx軸)。
【0017】
さらなる実施形態においては、アノードと、カソードと、発光層と、
第1マトリクス化合物を含んでいる、ドープされていない電子輸送層と、
(i)第2マトリクス化合物、ならびに(ii)有機アルカリ金属複合体および/またはアルカリ金属ハロゲン化物、を含んでいる電子注入層と、
を備えている有機ELデバイスであって、
上記ドープされていない電子輸送層および上記電子注入層は、上記発光層および上記カソードの間に配置されており、
上記第1マトリクス化合物の還元電位は、9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセンの還元電位よりも正であり、かつ、4,4’−ビス(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)ビフェニルの還元電位よりも負であり、
(ここで、上記還元電位は、いずれの場合も、テトラヒドロフラン中でFc/Fcに対して測定される)
上記第1マトリクス化合物の双極子モーメントは、0デバイ以上、2.5デバイ以下から選択され、
上記第2マトリクス化合物の双極子モーメントは、2.5デバイ超、10デバイ未満から選択され、
上記発光層は、上記ドープされていない電子輸送層と直接接触しており、
上記発光層はEMLホストを含んでおり、
同じ条件で測定した場合、上記第1マトリクス化合物の還元電位は、上記EMLホストの還元電位よりも0.05〜0.35V正であるように選択される、有機ELデバイスが提供される。
【0018】
上記EMLホストの還元電位をこの範囲から選択するならば、特によい性能を得ることができる。
【0019】
さらなる実施形態においては、アノードと、カソードと、発光層と、
第1マトリクス化合物を含んでいる、ドープされていない電子輸送層と、
(i)第2マトリクス化合物、ならびに(ii)有機アルカリ金属複合体および/またはアルカリ金属ハロゲン化物、を含んでいる電子注入層と、
を備えている有機ELデバイスであって、
上記ドープされていない電子輸送層および上記電子注入層は、上記発光層および上記カソードの間に配置されており、
同じ条件でLUMOを測定した場合に、上記第1マトリクス化合物のLUMOは、9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセンのLUMOよりも負であり、かつ、4,4’−ビス(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)ビフェニルのLUMOよりも正であり、
上記第1マトリクス化合物の双極子モーメントは、0デバイ以上、2.5デバイ以下から選択され、
上記第2マトリクス化合物の双極子モーメントは、2.5デバイ超、10デバイ未満から選択され、
上記発光層は、上記ドープされていない電子輸送層と直接接触しており、
上記発光層はEMLホストを含んでおり、
同じ条件で測定した場合、上記第1マトリクス化合物のLUMOは、上記EMLホストのLUMOよりも0.02〜0.4eV負であるように選択される、有機ELデバイスが提供される。
【0020】
上記第1マトリクス化合物のLUMOをこの範囲から選択するならば、特によい性能を得ることができる。
【0021】
上記ドープされていない電子輸送層(ETL)は、第1マトリクス化合物を含んでいる。第1マトリクス化合物のことを、「ETLマトリクス化合物」とも表記する。第1マトリクス化合物は、基本的に非発光性の化合物である。
【0022】
上記ドープされていないETLは、有機アルカリ金属複合体またはアルカリ金属ハロゲン化物を実質的に含んでいない。
【0023】
これに関して、「実質的に含んでいない」とは、ドープされていないETL中には、不可避的不純物を除いて、有機アルカリ金属複合体またはアルカリ金属ハロゲン化物が存在しないことを意味する。不可避的不純物とは、本発明のデバイスを慎重に作製する場合においても、当業者にとって不可避である不純物である。例えば、電子デバイスを製造、保存または利用する際に、拡散または類似の過程によって、ある層に含まれている化合物が隣接する層に入り込むことがよく知られている。この結果、不可避的不純物が生じる。
【0024】
〔第1マトリクス化合物〕
第1マトリクス化合物の双極子モーメントは、0デバイ以上、2.5デバイ以下から選択され;好ましくは0デバイ以上、2.3デバイ未満であり;より好ましくは0デバイ以上、2デバイ未満である。
【0025】
第1マトリクス化合物の双極子モーメントを0デバイ以上、2.5デバイ以下から選択する場合には、当該第1マトリクス化合物を「非極性マトリクス化合物」とも表記する。
【0026】
N個の原子を有する分子の双極子モーメントは、下記式で与えられる。
【0027】
【数1】
【0028】
双極子モーメントは、半経験的分子軌道法によって決定される。
【0029】
表4、5に記載の値は、以下に説明する方法を用いて算出したものである。
【0030】
部分電荷および原子の位置は、下記のいずれかをプログラム・パッケージTURBOMOLE V6.5で実行することによって得る。(i)Becke-Perdew(BP)のDFT関数をdef-SV(P) basisで実行する。あるいは、(ii)B3LYP混成汎関数をdef2-TZVP basisで実行する。1つ以上の配座が実行可能である場合は、総エネルギーが最も低い配座を選択して、双極子モーメントを決定する。
【0031】
マトリクス化合物の双極子モーメントが0〜2.5デバイである場合、当該マトリクス化合物は、反転中心I、水平鏡面、1つ以上のC軸(n>1)、および/またはCに垂直なnCを有していてもよい。
【0032】
マトリクス化合物の双極子モーメントが0〜2.5デバイである場合、当該マトリクス化合物は、ジベンゾ[c,h]アクリジン基、ジベンゾ[a,j]アクリジン基、ベンゾ[c]アクリジン基、トリアリールボラン基、2−(ベンゾ[d]オキサゾール−2−イル)フェノキシ金属複合体、2−(ベンゾ[d]チアゾール−2−イル)フェノキシ金属複合体、トリアジン基、ベンゾチエノピリミジン基、またはベンゾ[k]フルオランテン基を有していてもよい。
【0033】
マトリクス化合物の双極子モーメントが0〜2.5デバイである場合、当該マトリクス化合物は、イミダゾール基、フェナントロリン基、ホスフィンオキシド基、オキサジアゾール基、トリアゾール基、ピリミジン基、キナゾリン基、ベンゾ[h]キナゾリン基、またはピリド[3,2−h]キナゾリン基を有していない。
【0034】
他の態様によると、アノードと、カソードと、発光層と、
第1マトリクス化合物を含んでいる、ドープされていない電子輸送層と、
(i)第2マトリクス化合物、ならびに(ii)有機アルカリ金属複合体および/またはアルカリ金属ハロゲン化物、を含んでいる電子注入層と、
を備えている有機ELデバイスであって、
上記ドープされていない電子輸送層および上記電子注入層は、上記発光層および上記カソードの間に配置されており、
上記第1マトリクス化合物の還元電位は、−2.44Vよりも正であり、−2.03Vよりも負であり、(いずれの場合も、還元電位はテトラヒドロフラン中でFc/Fcに対して測定される)
上記第1マトリクス化合物の双極子モーメントは、0デバイ以上、2.5デバイ以下から選択され、
上記第2マトリクス化合物の双極子モーメントは、2.5デバイ超、10デバイ未満から選択される、有機ELデバイスが提供される。
【0035】
上記第1マトリクス化合物の還元電位は、−2.4〜−2.1Vから選択されることが好ましく、−2.34〜−2.14Vから選択されることがより一層好ましい。
【0036】
還元電位は、定電位装置Metrohm PGSTAT30およびソフトウェアMetrohm Autolab GPESを用いて、室温でのサイクリックボルタンメトリーによって測定する。特定の化合物の酸化還元電位は、試験物質のTHF(0.1M;アルゴンにより脱気し、乾燥させてある)溶液中で、アルゴン雰囲気下にて測定した。支持電解質として、テトラブチルアンモニウム・ヘキサフルオロホスフェート(0.1M)を使用した。白金製作用電極間にて、塩化銀で被覆されている銀ワイヤーからなるAg/AgCl疑似基準電極(Metrohm銀製棒電極)を用いて測定した。測定溶液に直接浸漬し、スキャン速度は100mV/sとした。1回目の測定は、作用電極間に最も大きな範囲の電位を設定し、その後の測定に際して、当該範囲を適宜調整した。最後の3回の測定は、標準としてフェロセンを添加して行った(濃度:0.1M)。試験化合物の陰極ピークおよび陽極ピークに対応する電位の平均は、Fc/Fc標準酸化還元対について測定した陰極電位および陽極電位の平均を差し引いた後で、最終的な値を得た(上述)。試験した全ての化合物および記載の比較化合物は、明確に可逆的な電子化学的ふるまいを示した。
【0037】
このような条件下で、9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセンの酸化還元電位は−2.44Vであり、4,4’−ビス(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)ビフェニルの還元電位は−2.03Vである。
【0038】
他の実施形態において、第1マトリクス化合物の還元電位は、−2.03Vよりも負であるであり、−2.44Vよりも正である。好ましくは、−2.1Vよりも負であり、−2.4Vよりも正である。より一層好ましくは、−2.15Vよりも負であり、−2.35Vよりも正である。
【0039】
酸化還元電位を電子親和力およびイオン化ポテンシャルに変換するための、簡単な規則が頻繁に使用されている。すなわち、それぞれ、
IP(eV)=4.84eV+eox(Eoxは、V vs. フェロセニウム/フェロセン(Fc/Fc)で与えられる)
EA(eV)=4.84eV+ered(Eredは、V vs. Fc/Fcで与えられる)
である([B.W. D’Andrade, Org. Electron. 6, 11-20 (2005)]を参照)。なお、eは電気素量)。完全に正しい訳ではないが、イオン化エネルギーおよび電子親和力の同義語として、用語「HOMOのエネルギー(E(HOMO))」および「LUMOのエネルギー(E(LUMO))」を、それぞれ用いるのが一般的である(Koopmans Theorem)。
【0040】
他の態様によると、アノードと、カソードと、発光層と、
第1マトリクス化合物を含んでいる、ドープされていない電子輸送層と、
(i)第2マトリクス化合物、ならびに(ii)有機アルカリ金属複合体および/またはアルカリ金属ハロゲン化物、を含んでいる電子注入層と、
を備えている有機ELデバイスであって、
上記ドープされていない電子輸送層および上記電子注入層は、上記発光層および上記カソードの間に配置されており、
同じ条件で決定する場合、上記第1マトリクス化合物のLUMO準位は、9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン(CAS 122648-99-1)のLUMO準位よりも負であり、かつ、4,4’−ビス(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)ビフェニル(CAS 266349-83-1)のLUMOよりも正であり、
上記第1マトリクス化合物の双極子モーメントは、0デバイ以上、2.5デバイ以下から選択され、
上記第2マトリクス化合物の双極子モーメントは、2.5デバイ超、10デバイ未満から選択される、有機ELデバイスが提供される。
【0041】
Koopmans Theoremを適用して、9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセンのLUMO準位は−2.36eV、4,4’−ビス(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)ビフェニルのLUMO準位は−2.77eVと算出した。
【0042】
他の実施形態において、上記第1マトリクス化合物のLUMO準位は、−2.36eVよりも負であり、−2.77eVよりも正である。好ましくは、−2.4eVよりも負であり、−2.7eVよりも正である。より一層好ましくは、−2.35eVよりも負であり、−2.65eVよりも正である。また好ましくは、−2.4eVよりも負であり、−2.65eVよりも正である。
【0043】
好ましい実施形態において、上記第1マトリクス化合物は、以下の化合物またはその誘導体から選択される:
ジベンゾ[c,h]アクリジン、ジベンゾ[a,j]アクリジン、ベンゾ[c]アクリジン、トリアリールボラン化合物、2−(ベンゾ[d]オキサゾール−2−イル)フェノキシ金属複合体、2−(ベンゾ[d]チアゾール−2−イル)フェノキシ金属複合体、トリアジン、ベンゾチエノピリミジン、ベンゾ[k]フルオランテン、ペリレン、またはその混合物。
【0044】
さらに好ましくは、上記第1マトリクス化合物は、下記式(I)のトリアリールボラン化合物を含んでいてもよい。
【0045】
【化1】
【0046】
式中、
、RおよびRは、独立に、H、D、C〜C16アルキルおよびC〜C16アルコキシからなる群より選択され、
、R、RおよびRは、独立に、H、D、C〜C16アルキル、C〜C16アルコキシおよびC〜C20アリールからなる群から選択され、
Arは、置換または未置換のC〜C20アリールから選択され(Arが置換されている場合、置換基は、独立に、D、C〜C12アルキル、C〜C16アルコキシおよびC〜C20アリールからなる群より選択される)、
Arは、置換または未置換のC〜C20アリーレンから選択され(Arが置換されている場合、置換基は、独立に、D、C〜C12アルキル、C〜C16アルコキシおよびC〜C20アリールからなる群より選択される)、
Arは、H、D、置換または未置換のC〜C40アリールおよびC〜C40ヘテロアリールからなる群より選択される。
【0047】
好ましくは、Arは、置換または未置換のフェニルまたはナフチルから選択される。Arが置換されている場合、置換基は、独立に、D、C〜C12アルキル、C〜C16アルコキシおよびC〜C20アリールからなる群より選択される。
【0048】
さらに好ましくは、上記第1マトリクス化合物は、下記式(Ia)のトリアリールボラン化合物を含んでいてもよい。
【0049】
【化2】
【0050】
式中、
、RおよびRは、独立に、H、D、C〜C16アルキルおよびC〜C16アルコキシからなる群より選択され、
、R、RおよびRは、独立に、H、D、C〜C16アルキル、C〜C16アルコキシおよびC〜C20アリールからなる群より選択され、
Arは、置換または未置換のC〜C20アリーレンから選択され(Arが置換されている場合、置換基は、独立に、D、C〜C12アルキル、C〜C16アルコキシおよびC〜C20アリールからなる群より選択される)、
Arは、H、D、置換または未置換のC〜C40アリール、および下記式(IIa)〜(IIh)からなる群より選択される(式中、*印は、各々のAr基について、ArがAr基に結合している箇所を表す)。
【0051】
【化3】
【0052】
Arが置換されている場合、置換基は、独立に、D、ハロゲン原子、C〜C16アルキル、C〜C16アルコキシおよびC〜C20アリールからなる群より選択され;好ましくは、ナフチル、9−フルオレニル、2−フルオレニル、3−フルオレニルおよび4−フルオレニルからなる群より選択され(ここで、C〜C40アリールは、未置換であってもよいし、C〜C16アルキル、C〜C16ヘテロアルキルおよびC〜C40アリールで置換されていてもよい)、
ArとArとは、メチレン部分(−CR−)またはオキシ部分(−O−)を介して結合し、フルオレン構造またはジベンゾフラン構造を形成していてもよい(RおよびRは、独立に、H、C〜C16アルキル、C〜C16アルコキシおよびC〜C20アリールから選択されてもよい)。
【0053】
他の態様において、Arは、フェニル、ナフチル、アントラニル、フェナントリル、ピレニル、9−フルオレニル、2−フルオレニル、3−フルオレニル、4−フルオレニル、5−フルオレニル、および上記式(IIa)〜(IIh)からなる群より選択される。
【0054】
他の態様において、Rは、好ましくはC〜C12アルキルであり、より好ましくはメチルである。あるいは、Rは、好ましくはC〜C12アルコキシであり、より好ましくはメトキシである。R〜Rは、いずれもHである。
【0055】
他の態様において、Arは、好ましくは、フェニル、ビフェニル、ナフチル、フェナントリルまたはアントラニルである。
【0056】
従前、式(Ia)のトリアリールボラン化合物に関しては、本発明における用途のような、ELデバイスにおける使用は記載されていなかった。
【0057】
さらに好ましい実施形態において、上記第1マトリクス化合物は、下記式(II)のジベンゾ[c,h]アクリジン化合物、および/または、下記式(III)のジベンゾ[a,j]アクリジン化合物、および/または、下記式(IV)のベンゾ[c]アクリジン化合物を含んでいる。
【0058】
【化4】
【0059】
式中、
Arは、独立に、C〜C20アリーレン(好ましくは、フェニレン、ビフェニレンまたはフルオレニレン)から選択され、
Arは、独立に、未置換または置換のC〜C40アリール(好ましくは、フェニル、ナフチル、アントラニル、ピレニルまたはフェナントリル)から選択され、
Arが置換されている場合、1つ以上の置換基は、独立に、C〜C12アルキルおよびC〜C12ヘテロアルキル(好ましくはC〜Cアルキル)からなる群より選択されてもよい。
【0060】
好適なジベンゾ[c,h]アクリジン化合物は、EP2395571に開示されている(参照により組み込まれる)。好適なジベンゾ[a,j]アクリジンは、EP2312663に開示されている(参照により組み込まれる)。好適なベンゾ[c]アクリジン化合物は、WO2015/083948に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0061】
さらなる実施形態において、上記第1マトリクス化合物は、C〜C40アリール基、C〜C40ヘテロアリール基および/またはC〜C12アルキル基で置換されている、ジベンゾ[c,h]アクリジン化合物を含んでいることが好ましい。好ましくは、上記ジベンゾ[c,h]アクリジン化合物は、7−(ナフタレン−2−イル)ジベンゾ[c,h]アクリジン、7−(3−(ピレン−1−イル)フェニル)ジベンゾ[c,h]アクリジン、7−(3−(ピリジン−4−イル)フェニル)ジベンゾ[c,h]アクリジンである。
【0062】
さらなる実施形態において、上記第1マトリクス化合物は、C〜C40アリール基、C〜C40ヘテロアリール基および/またはC〜C12アルキル基で置換されている、ジベンゾ[a,j]アクリジン化合物を含んでいることが好ましい。好ましくは、上記ジベンゾ[a,j]アクリジン化合物は、14−(3−(ピレン−1−イル)フェニル)ジベンゾ[a,j]アクリジンである。
【0063】
さらなる実施形態において、上記第1マトリクス化合物は、C〜C40アリール基、C〜C40ヘテロアリール基および/またはC〜C12アルキル基で置換されている、ベンゾ[c]アクリジン化合物を含んでいることが好ましい。好ましくは、上記ベンゾ[c]アクリジン化合物は、7−(3−(ピレン−1−イル)フェニル)ベンゾ[c]アクリジンである。
【0064】
上記第1マトリクス化合物は、下記式(V)のトリアジン化合物を含んでいることがさらに好ましい。
【0065】
【化5】
【0066】
式中、
Arは、独立に、未置換または置換のC〜C20アリールまたはAr5.1−Ar5.2から選択され、
Ar5.1は、未置換または置換のC〜C20アリーレンから選択され、
Ar5.2は、未置換もしくは置換のC〜C20アリール、または、未置換もしくは置換のC〜C20ヘテロアリールから選択され、
Arは、未置換または置換のC〜C20アリーレン(好ましくは、フェニレン、ビフェニレン、テルフェニレンまたはフルオレニレン)から選択され、
Arは、独立に、置換または未置換のアリール、置換または未置換のヘテロアリール(当該アリールおよび当該ヘテロアリールの環を構成する原子は6〜40個であり、好ましくは、フェニル、ナフチル、フェナントリル、フルオレニル、テルフェニル、ピリジル、キノリル、ピリミジル、トリアジニル、ベンゾ[h]キノリニル、またはベンゾ[4,5]チエノ[3,2−d]ピリミジンである)からなる群より選択され、
xは、1または2から選択され、
Arが置換されている場合、1つ以上の置換基は、独立に、C〜C12アルキルおよびC〜C12ヘテロアルキル(好ましくはC〜Cアルキル)からなる群より選択されてもよく、
Arが置換されている場合、1つ以上の置換基は、独立に、C〜C12アルキルおよびC〜C12ヘテロアルキル(好ましくはC〜Cアルキル)、ならびにC〜C20アリールからなる群より選択されてもよい)。
【0067】
好適なトリアジン化合物は、US2011/284832、WO2014/171541、WO2015/008866、WO2015/105313、JP2015−074649AおよびJP2015−126140、KR2015/0088712に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0068】
また、上記第1マトリクス化合物は、C〜C40アリール基、C〜C40ヘテロアリール基および/またはC〜C12アルキル基で置換されている、トリアジン化合物を含んでいることが好ましい。好ましくは、上記トリアジン化合物は、3−[4−(4,6−ジ−2−ナフタレニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)フェニル]キノロン、2−[3−(6’−メチル[2,2’−ビピリジン]−5−イル)−5−(9−フェナントレニル)フェニル]−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン、2−(3−(フェナントレン−9−イル)−5−(ピリジン−2−イル)フェニル)−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(5'''−フェニル−[1,1’:3’,1'':3'',1''':3''',1''''−キンクエフェニル]−3−イル)−1,3,5−トリアジン、2−([1,1’−ビフェニル]−3−イル)−4−(3’−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−[1,1’−ビフェニル]−3−イル)−6−フェニル−1,3,5−トリアジン、および/または、2−(3’−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−[1,1’−ビフェニル]−3−イル)−4−フェニルベンゾ[4,5]チエノ[3,2−d]ピリミジンである。
【0069】
さらに好ましい実施形態において、上記第1マトリクス化合物は、下記式(VI)の2−(ベンゾ[d]オキサゾール−2−イル)フェノキシ金属複合体、または、2−(ベンゾ[d]チアゾール−2−イル)フェノキシ金属複合体を含んでいる。
【0070】
【化6】
【0071】
式中、
Mは、Al、ZrまたはScから選択される金属であり、
Xは、OまたはSから選択され、
nは3または4から選択される。
【0072】
好適な2−(ベンゾ[d]オキサゾール−2−イル)フェノキシ金属複合体または2−(ベンゾ[d]チアゾール−2−イル)フェノキシ金属複合体は、WO2010/020352に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0073】
好ましい実施形態において、2−(ベンゾ[d]オキサゾール−2−イル)フェノキシ金属複合体は、トリス(2−(ベンゾ[d]オキサゾール−2−イル)フェノキシ)アルミニウムおよびテトラ(2−(ベンゾ[d]オキサゾール−2−イル)フェノキシ)ジルコニウムから選択される。
【0074】
好ましい実施形態において、2−(ベンゾ[d]チアゾール−2−イル)フェノキシ金属複合体は、トリス(2−(ベンゾ[d]チアゾール−2−イル)フェノキシ)アルミニウムおよびテトラ(2−(ベンゾ[d]オキサゾール−2−イル)フェノキシ)ジルコニウムから選択される。
【0075】
さらに好ましい実施形態において、上記第1マトリクス化合物は、C〜C40アリール基、C〜C40ヘテロアリール基および/またはC〜C12アルキル基で置換されている、ベンゾチエノピリミジン化合物を含んでいる。好ましくは、上記ベンゾチエノピリミジン化合物は、2−フェニル−4−(4’,5’,6’−トリフェニル−[1,1’:2’,1'':3'',1'''−クアテルフェニル]−3'''−イル)ベンゾ[4,5]チエノ[3,2−d]ピリミジンである。
【0076】
好適なベンゾチエノピリミジン化合物は、WO2015/0105316に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0077】
さらに好ましい実施形態において、上記第1マトリクス化合物は、C〜C40アリール基、C〜C40ヘテロアリール基および/またはC〜C12アルキル基で置換されている、ベンゾ[k]フルオランテン化合物を含んでいる。好ましくは、上記ベンゾ[k]フルオランテン化合物は、7,12−ジフェニルベンゾ[k]フルオランテンである。
【0078】
好適なベンゾ[k]フルオランテン化合物は、JP10189247A2に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0079】
さらに好ましい実施形態において、上記第1マトリクス化合物は、C〜C40アリール基、C〜C40ヘテロアリール基および/またはC〜C12アルキル基で置換されている、ペリレン化合物を含んでいる。好ましくは、上記ペリレン化合物は、3,9−ビス([1,1’−ビフェニル]−2−イル)ペリレン、3,9−ジ(ナフタレン−2−イル)ペリレンまたは3,10−ジ(ナフタレン−2−イル)ペリレンである。
【0080】
好適なペリレン化合物は、US2007202354に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0081】
好ましくは、上記第1マトリクス化合物は、下記表1に記載の化合物の1つから選択されてもよい。
【0082】
【表1】
【0083】
〔第2マトリクス化合物〕
電子注入層(EIL)は、(i)第2マトリクス化合物、ならびに(ii)有機アルカリ金属複合体および/またはアルカリ金属ハロゲン化物、を含んでいる。
【0084】
第2マトリクス化合物のことを、EILマトリクス化合物とも表記する。この物質は、基本的に非発光性の化合物である。
【0085】
第2マトリクス化合物の双極子モーメントは、2.5デバイ超、10デバイ未満から選択され;好ましくは、3デバイ超、5デバイ未満であり;より一層好ましくは、2.5デバイ超、4デバイ未満である。
【0086】
第2マトリクス化合物の双極子モーメントが2.5デバイ超、10デバイ未満から選択される場合には、当該第2マトリクス化合物を「極性マトリクス化合物」とも表記する。
【0087】
双極子モーメントは、第1マトリクス化合物に関して説明した方法を用いて算出する。
【0088】
マトリクス化合物の双極子モーメントが2.5デバイ超、10デバイ未満である場合、当該マトリクス化合物の対称性は、C、C、CnvまたはCの対称群うちの1つであってもよい。
【0089】
マトリクス化合物の双極子モーメントが2.5デバイ超、10デバイ未満である場合、当該マトリクス化合物は、イミダゾール基、フェナントロリン基、ホスフィンオキシド基、オキサジアゾール基、トリアゾール基、ピリミジン基、キナゾリン基、ベンゾ[h]キナゾリン基またはピリド[3,2−h]キナゾリン基を有していてもよい。
【0090】
さらに好ましい実施形態において、上記第2マトリクス化合物は、以下の化合物またはその誘導体から選択される:
ホスフィンオキシド、ベンゾイミダゾール、フェナントロリン、キナゾリン、ベンゾ[h]キナゾリン、およびピリド[3,2−h]キナゾリン、またはその混合物。
【0091】
上記第2マトリクス化合物は、C〜C40アリール基、C〜C40ヘテロアリール基および/またはC〜C12アルキル基で置換されている、ホスフィンオキシド化合物を含んでいることが好ましい。好ましくは、上記ホスフィンオキシド化合物は、(3−(ジベンゾ[c,h]アクリジン−7−イル)フェニル)ジフェニルホスフィンオキシド、3−フェニル−3H−ベンゾ[b]ジナフト[2,1−d:1’,2’−f]ホスフェピン−3−オキシド、フェニルジ(ピレン−1−イル)ホスフィンオキシド、ビス(4−(アントラセン−9−イル)フェニル)(フェニル)ホスフィンオキシド、(3−(9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン−2−イル)フェニル)ジフェニルホスフィンオキシド、フェニルジ(ピレン−1−イル)ホスフィンオキシド、ジフェニル(5−(ピレン−1−イル)ピリジン−2−イル)ホスフィンオキシド、ジフェニル(4’−(ピレン−1−イル)−[1,1’−ビフェニル]−3−イル)ホスフィンオキシド、ジフェニル(4’−(ピレン−1−イル)−[1,1’−ビフェニル]−3−イル)ホスフィンオキシド、(3’−(ジベンゾ[c,h]アクリジン−7−イル)−[1,1’−ビフェニル]−4−イル)ジフェニルホスフィンオキシドおよび/またはフェニルビス(3−(ピレン−1−イル)フェニル)ホスフィンオキシドである。
【0092】
上記第2マトリクス化合物は、ホスフェピン環を有しているホスフィンオキシド化合物を含んでいることがさらに好ましい。好ましくは、上記ホスフィンオキシド化合物は、3−フェニル−3H−ベンゾ[b]ジナフト[2,1−d:1’,2’−f]ホスフェピン−3−オキシドである。
【0093】
第2マトリクス材料として用いられうるジフェニルホスフィンオキシド化合物は、EP2395571A1、WO2013079217A1、EP13187905、EP13199361およびJP2002063989A1に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0094】
上記第2マトリクス化合物は、C〜C40アリール基、C〜C40ヘテロアリール基および/またはC〜C12アルキル基で置換されている、ベンゾイミダゾール化合物を含んでいることがさらに好ましい。好ましくは、上記ベンゾイミダゾール化合物は、2−(4−(9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン−2−イル)フェニル)−1−フェニル−1H−ベンゾ[d]イミダゾール、1−(4−(10−([1,1’−ビフェニル]−4−イル)アントラセン−9−イル)フェニル)−2−エチル−1H−ベンゾ[d]イミダゾールおよび/または1,3,5−トリス(1−フェニル−1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)ベンゼンである。
【0095】
第2マトリクス材料として用いられうるベンゾイミダゾール化合物は、US6878469およびWO2010134352に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0096】
上記第2マトリクス化合物は、C〜C40アリール基、C〜C40ヘテロアリール基および/またはC〜C12アルキル基で置換されている、フェナントロリン化合物を含んでいることが好ましい。好ましくは、上記フェナントロリン化合物は、2,4,7,9−テトラフェニル−1,10−フェナントロリン、4,7−ジフェニル−2,9−ジ−p−トリル−1,10−フェナントロリン、2,9−ジ(ビフェニル−4−イル)−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンおよび/または3,8−ビス(6−フェニル−2−ピリジニル)−1,10−フェナントロリンである。
【0097】
第2マトリクス材料として用いられうるフェナントロリン化合物は、EP1786050A1およびCN102372708に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0098】
使用されうる他の好適な第2マトリクス化合物に、アリール基またはヘテロアリール基で置換されている、キナゾリン化合物がある。好ましくは、上記キナゾリン化合物は、9−フェニル−9’−(4−フェニル−2−キナゾリニル)−3,3’−ビ−9H−カルバゾールである。
【0099】
上記第2マトリクス化合物は、C〜C40アリール基、C〜C40ヘテロアリール基および/またはC〜C12アルキル基で置換されている、キナゾリン化合物を含んでいることがさらに好ましい。好ましくは、上記キナゾリン化合物は、9−フェニル−9’−(4−フェニル−2−キナゾリニル)−3,3’−ビ−9H−カルバゾールである。
【0100】
第2マトリクス材料として用いられうるキナゾリン化合物は、KR2012102374に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0101】
上記第2マトリクス化合物は、C〜C40アリール基、C〜C40ヘテロアリール基および/またはC〜C12アルキル基で置換されている、ベンゾ[h]キナゾリン化合物を含んでいることがさらに好ましい。好ましくは、上記ベンゾ[h]キナゾリン化合物は、4−(2−ナフタレニル)−2−[4−(3−キノリニル)フェニル]−ベンゾ[h]キナゾリンである。
【0102】
第2マトリクス材料として用いられうるベンゾ[h]キナゾリン化合物は、KR2014076522に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0103】
上記第2マトリクス化合物は、C〜C40アリール基、C〜C40ヘテロアリール基および/またはC〜C12アルキル基で置換されている、ピリド[3,2−h]キナゾリン化合物を含んでいることもまた好ましい。好ましくは、上記ピリド[3,2−h]キナゾリン化合物は、4−(ナフタレン−1−イル)−2,7,9−トリフェニルピリド[3,2−h]キナゾリンである。
【0104】
第2マトリクス材料として用いられうるピリド[3,2−h]キナゾリン化合物は、EP1970371に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0105】
特段に好ましい第2マトリクス化合物は、下記表2に記載の構造を有する化合物である。
【0106】
【表2】
【0107】
〔有機アルカリ金属複合体およびアルカリ金属ハロゲン化物〕
種々の態様によると、ハロゲン化リチウムは、LiF、LiCl、LiBrまたはLiIからなる群より選択することができる。好ましくは、LiFである。
【0108】
種々の態様によると、上記有機アルカリ金属複合体は、有機リチウム複合体であってもよい。好ましくは、上記有機リチウム複合体は、リチウムキノラート、リチウムボラート、リチウムフェノラート、リチウムピリジノラートまたはリチウムSchiff塩基、ならびにリチウムフッ化物からなる群より選択することができ;好ましくは、リチウム2−(ジフェニルホスホリル)−フェノラート、リチウムテトラ(1H−ピラゾール−1−イル)ボラート、式(III)のリチウムキノラート、リチウム2−(ピリジン−2−イル)フェノラートおよびLiFから選択され;より好ましくは、リチウム2−(ジフェニルホスホリル)−フェノラート、リチウムテトラ(1H−ピラゾール−1−イル)ボラート、式(III)のリチウムキノラートおよびリチウム2−(ピリジン−2−イル)フェノラートからなる群より選択される。有機アルカリ金属複合体は、基本的に非発光性の化合物である。
【0109】
より好ましくは、(i)上記有機アルカリ金属複合体は、有機リチウム複合体である、および/または、(ii)上記アルカリ金属ハロゲン化物は、ハロゲン化リチウムである。
【0110】
本発明の有機ELデバイスの種々の実施形態によると、上記有機リチウム複合体の有機リガンドは、ボラート系有機リガンドでありうる。好ましくは、上記有機リチウム複合体は、下記式(VII)の化合物である。
【0111】
【化7】
【0112】
式中、
Mはアルカリ金属イオンであり、
〜Aのそれぞれは、独立に、置換もしくは未置換のC〜C20アリールまたは置換もしくは未置換のC〜C20ヘテロアリールから選択される。
【0113】
好ましくは、上記有機アルカリ金属複合体は、式(VIII)の複合体である。
【0114】
【化8】
【0115】
式中、A〜Aのそれぞれは、独立に、置換もしくは未置換のC〜C20アリールまたは置換もしくは未置換のC〜C20ヘテロアリールから選択される。
【0116】
好ましくは、上記有機リチウム複合体は、リチウムテトラ(1H−ピラゾール−1−イル)ボラートである。好適に用いられうるボラート系有機リガンドは、WO2013079676A1に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0117】
本発明の有機ELデバイスの種々の実施形態によると、上記有機リチウム複合体の有機リガンドは、フェノラート系リガンドでありうる。
【0118】
本発明の有機ELデバイスの種々の実施形態によると、上記有機リチウム複合体の有機リガンドは、ホスホリルフェノラートリガンドでありうる。
【0119】
好ましくは、上記有機リチウム複合体は、式(IX)のホスホリルフェノラート化合物である。
【0120】
【化9】
【0121】
式中、
は、C〜C20アリーレンであり、
〜Aのそれぞれは、独立に、C〜C20アリールから選択され、
、AおよびAは、(i)未置換であってもよく、(ii)CおよびHを有する基で置換されていてもよく、(iii)さらにLiO基で置換されていてもよい(ただし、アリール基またはアリーレン基中の所与のC数には、当該アリール基またはアリーレン基上に存在する全ての置換基のCも含まれる)。
【0122】
好ましくは、上記有機リチウム複合体は、リチウム2−(ジフェニルホスホリル)フェノラートである。好適に用いられうるフェノラートリガンドは、WO2013079678A1に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0123】
また、フェノラートリガンドは、ピリジノラートを含む群から選択されてもよく、好ましくは2−(ジフェニルホスホリル)ピリジン−3−オラートである。好適に用いられうるピリジンフェノラートリガンドは、JP2008195623に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0124】
さらに、フェノラートリガンドは、イミダゾールフェノラートを含む群から選択されてもよく、好ましくは2−(1−フェニル−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−2−イル)フェノラートである。好適に用いられうるイミダゾールフェノラートリガンドは、JP2001291593に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0125】
同様に、フェノラートリガンドは、オキサゾールフェノラートを含む群から選択されてもよく、好ましくは2−(ベンゾ[d]オキサゾール−2−イル)フェノラートである。好適に用いられうるオキサゾールフェノラートリガンドは、US20030165711に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0126】
本発明の有機ELデバイスの種々の実施形態によると、上記有機リチウム複合体の有機リガンドは、ホスホリルヘテロアリーロラートリガンドでありうる。
【0127】
好ましくは、上記有機リチウム複合体は、式(X)のホスホリルヘテロアリーロラート化合物である。
【0128】
【化10】
【0129】
式中、
、AおよびA10は、独立に、C〜C30アルキル、C〜C30シクロアルキル、C〜C30ヘテロアルキル、C〜C30アリール、C〜C30ヘテロアリール、C〜C30アルコキシ、C〜C30シクロアルキロキシ、C〜C30アリーロキシから選択され;一般式E−Z−で表される構造ユニットを形成しており、
Zは、孤立電子対を有する3価の窒素原子を含んでいる、スペーサーユニットであり;当該スペーサーユニットの構造は、金属カチオンとの間に、5員、6員または7員のキレート環を形成しうるものであり;当該キレート環には、(i)ホスフィンオキシド基の酸素原子と、(ii)上記金属カチオンに配位している、上記スペーサーユニットの3価の窒素原子と、が含まれており;Eは、10個以上の非局在化電子を有する共役系を含んでいる、電子輸送ユニットであり、
、AおよびA10から選択される少なくとも1つの基は、一般式E−Z−で表される。
【0130】
好ましくは、上記有機リチウム複合体は、リチウム2−(ジフェニルホスホリル)ピリジン−3−オラートである。好適に用いられうるヘテロアリーロラートリガンドは、EP2724388に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0131】
本発明の有機ELデバイスの種々の実施形態によると、上記有機アルカリ金属複合体の有機リガンドは、ボラートリガンド、ホスホリルフェノラートリガンドおよびヘテロアリーロラートリガンドから選択されうる。好ましくは、上記有機アルカリ金属複合体の有機リガンドは、ボラートリガンドおよびホスホリルフェノラートリガンドから選択される。
【0132】
より好ましくは、上記有機リチウム複合体は、リチウムキノラート、リチウムボラート、リチウムフェノラート、リチウムピリジノラートまたはリチウムSchiff塩基を含む群から選択され、
好ましくは、上記有機リチウム複合体は、リチウムキノラート、リチウムボラート、リチウムフェノラート、リチウムピリジノラートまたはリチウムSchiff塩基を含む群から選択される。
【0133】
好ましくは、上記リチウムキノラートの構造は、式(XI)、(XII)または(XIII)である。
【0134】
【化11】
【0135】
式中、
〜Aは、CH、CR、N、Oのいずれかであるか、または、この群から独立に選択され、
Rは、水素、ハロゲン、炭素数1〜20のアルキル、アリールまたはヘテロアリールのいずれかであるか、または、この群から独立に選択され、
より好ましくは、A〜Aは、CHである。
【0136】
好ましくは、上記リチウムボラートは、リチウムテトラ(1H−ピラゾール−1−イル)ボラートである。
【0137】
好ましくは、上記リチウムフェノラートは、リチウム2−(ピリジン−2−イル)フェノラート、リチウム2−(ジフェニルホスホリル)フェノラート、リチウムイミダゾールフェノラートまたはリチウム2−(ピリジン−2−イル)フェノラートであり;より好ましくはリチウム2−(1−フェニル−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−2−イル)フェノラートまたはリチウム2−(ベンゾ[d]オキサゾール−2−イル)フェノラートである。
【0138】
好ましくは、上記リチウムピリジノラートは、リチウム2−(ジフェニルホスホリル)ピリジン−3−オラートである。
【0139】
好ましくは、上記リチウムSchiff塩基の構造は、下記100、101、102または103である。
【0140】
【化12】
【0141】
好適に用いられうるキノラートは、WO2013079217A1に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0142】
本発明の有機ELデバイスの種々の実施形態によると、上記有機リチウム複合体の有機リガンドは、フェノラートリガンドでありうる。好ましくは、上記有機リチウム複合体は、リチウム2−(ジフェニルホスホリル)フェノラートである。好適に用いられうるフェノラートリガンドは、WO2013079678A1に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0143】
また、フェノラートリガンドは、ピリジノラートを含む群から選択されてもよく、好ましくは2−(ジフェニルホスホリル)ピリジン−3−オラートである。好適に用いられうるピリジンフェノラートリガンドは、JP2008195623に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0144】
さらに、フェノラートリガンドは、イミダゾールフェノラートを含む群から選択されてもよく、好ましくは2−(1−フェニル−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−2−イル)フェノラートである。好適に用いられうるイミダゾールフェノラートリガンドは、JP2001291593に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0145】
同様に、フェノラートリガンドは、オキサゾールフェノラートを含む群から選択されてもよく、好ましくは2−(ベンゾ[d]オキサゾール−2−イル)フェノラートである。好適に用いられうるオキサゾールフェノラートリガンドは、US20030165711に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0146】
リチウムSchiff塩基有機複合体を用いることもできる。好適に用いられうるリチウムSchiff塩基有機複合体の構造は、下記100、101、102または103である。
【0147】
【化13】
【0148】
電子注入層に用いることができる、有機リチウム複合体を形成するために好適な有機リガンドは、例えば、US2014/0048792および[Kathirgamanathan, Poopathy; Arkley, Vincent; Surendrakumar, Sivagnanasundram; Chan, Yun F.; Ravichandran, Seenivasagam; Ganeshamurugan, Subramaniam; Kumaraverl, Muttulingam; Antipan-Lara, Juan; Paramaswara, Gnanamolly; Reddy, Vanga R., Digest of Technical Papers - Society for Information Display International Symposium (2010), 41(Bk. 1), 465-468]に開示されている(参照により組み込まれる)。
【0149】
本発明に用いることができる特段に好ましい有機リチウム複合体を、下記表3にまとめる。
【0150】
【表3】
【0151】
本発明に係る有機ELデバイスは、有機発光ダイオード(OLED)であることが好ましい。
【0152】
有機発光ダイオード(OLED)は、ボトム・エミッション型ダイオードまたはトップ・エミッション型ダイオードであってもよい。
【0153】
好ましい実施形態において、ドープされていない電子輸送層の厚さは、電子注入層の厚さの2倍以上である。好ましくは、ドープされていない電子輸送層の厚さは、電子注入層の厚さの3倍以上である。より一層好ましくは、ドープされていない電子輸送層の厚さは、電子注入層の厚さの4倍以上である。また好ましくは、ドープされていない電子輸送層の厚さは、電子注入層の厚さの8倍以上である。ドープされていない電子注入層の厚さの最大値は、200nmである。
【0154】
より好ましくは、発光層は、青色蛍光体を含んでいる。
【0155】
最も好ましくは、有機ELデバイスは、青色蛍光デバイスである。
【0156】
最終的には、発光層が、C〜C40アリール基、C〜C40ヘテロアリール基および/またはC〜C12アルキル基で置換されたアントラセンマトリクス化合物をさらに含んでいることが好ましい。
【0157】
他の態様によると、本発明に係る有機ELデバイスは、2つ以上の発光層を備えていてよく、好ましくは2または3つの発光層を備えている。
【0158】
他の態様によると、有機ELデバイスは、電荷発生層(CGL)を備えている。
【0159】
本発明において、下記に定義された用語は、特許請求の範囲または本明細書中の他の箇所において異なる定義が与えられていない限り、これらの定義が適用されねばならない。
【0160】
本明細書に関して、マトリクス材料に関連して用いられる用語「異なっている(different)」または「異なる(differs)」は、マトリクス材料が構造式において異なっていることを意味する。
【0161】
本明細書に関して、リチウム化合物に関連して用いられる用語「異なっている(different)」または「異なる(differs)」は、リチウム化合物が構造式において異なっていることを意味する。
【0162】
外部量子効率(EQEとも称する)は、パーセント(%)で測定する。
【0163】
出力効率(PEffとも称する)は、ワット当たりルーメン(lm/W)で測定する。
【0164】
最初の光度から最初の光度の97%までの間の寿命(LTとも称する)は、時間(h)で測定する。
【0165】
電圧(Vとも称する)は、ボルト(V)で測定する。ボトム・エミッション型デバイスでは平方センチメートル当たり10ミリアンペア(10mA/cm)にて測定し、トップ・エミッション型デバイスでは15mA/cmにて測定する。
【0166】
色空間は、CIE−xおよびCIE−yの座標によって記述する(国際照明委員会1931)。青色光に関しては、CIE−yが特に重要である。CIE−yが小さいほど、青色が濃くなる。
【0167】
最高被占軌道(HOMOとも称する)および最低空軌道(LUMOとも称する)は、電子ボルト(eV)で測定する。
【0168】
用語「OLED」および「有機発光ダイオード」は併用され、同じ意味を有する。
【0169】
本明細書中で用いられるとき、用語「電子輸送層積層体」は、少なくとも2つの電子輸送層または少なくとも3つの電子輸送層を備えている。
【0170】
マトリクス化合物に関連して用いられるとき、用語「異なる化合物」は、当該マトリクス化合物が他のマトリクス化合物と化学式において異なっていることを意味する。
【0171】
本明細書中で用いられるとき、「重量パーセント("weight percent," "wt.-%," "percent by weight," "% by weight")」およびそれらの変化形は、組成、成分、物質または薬品に関して、各電子輸送層における当該組成、成分、物質または薬品の重量を、当該各電子輸送層自体の総重量で除し、100を乗じものを表す。各電子輸送層における、全ての成分、物質および薬品の重量パーセントの値の合計は、100重量%を超過しないように選択されることがわかる。
【0172】
本明細書において、全ての数値は、明示的であるか否かにかかわらず、用語「約」によって修飾されていると見做される。本明細書中で用いられるとき、用語「約」は、数量に生じうる変差を表す。用語「約」による修飾の有無にかかわらず、特許請求の範囲には量的な均等物が包含される。
【0173】
本明細書および添付の特許請求の範囲においては、明白にそうでない場合を除いて、単数形("a," "an," "the")には複数の対象も包含されることに注意されたい。
【0174】
用語「〜を含んでいない("free of," "does not contain," "does not comprise")」は、不純物を除外するものではない。本発明によって達成される目的に関して、不純物は何らの技術的影響を与えない。
【0175】
「ドープされていない電子輸送層は、ドーパント、アルカリ金属ハロゲン化物および/または有機アルカリ金属複合体を含んでいない」ということ関連して、用語「含んでいない」とは、いわゆる「含んでいない」ドープされていない電子輸送層が、約5重量%以下のドーパント、アルカリ金属ハロゲン化物および/または有機アルカリ金属複合体を含んでいてもよいことを意味する。この場合、ドーパント、アルカリ金属ハロゲン化物および/または有機アルカリ金属複合体の含有量は、好ましくは約0.5重量%以下であり、より好ましくは約0.05重量%以下であり、より一層好ましくは約0.005重量%以下であり、最も好ましくはドーパント、アルカリ金属ハロゲン化物および/または有機アルカリ金属複合体を含んでいない。
【0176】
本明細書において用いられるとき、用語「アルキル」には、直鎖アルキルおよび分枝アルキルが包含されていなくてはならない。例えば、Cアルキルは、n−プロピルおよびイソプロピルから選択されうる。同様に、Cアルキルには、n−ブチル、sec−ブチルおよびt−ブチルが含まれる。
【0177】
本明細書において用いられるとき、用語「アルコキシ」には、直鎖アルコキシおよび分枝アルコキシが包含されていなくてはならない。例えば、Cアルコキシには、n−プロピロキシおよびイソプロピロキシが含まれる。
【0178】
「C」において下添えされている数「n」は、各アルキル基、アルコキシ基、アリール基またはヘテロアリール基中の、炭素原子の総数を指している。
【0179】
本明細書において用いられるとき、用語「アリール」には、フェニル(Cアリール)、縮合芳香族(ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセンなど)が包含されていなくてはならない。ビフェニル、またはオリゴフェニルもしくはポリフェニル(テルフェニルなど)もまた、包含されている。任意の芳香族炭化水素の置換基(フルオレニルなど)もまた、包含されていなくてはならない。
【0180】
本明細書において用いられるとき、用語「ヘテロアリール」には、上記に定義した任意のアリール化合物の芳香環系に含まれている1つ以上の炭素原子が、ヘテロ原子(好ましくはN、OまたはS)に置換されている化合物が包含されていなくてはならない。
【0181】
本明細書において用いられるとき、アリール部分に結合している基の数によっては、用語「アリール」は「アリーレン」の同義語でありうる。例えば、ArがC〜C20アリールである場合、2つの部分(BおよびAr)がArに結合していることから、「アリール」が「アリーレン」になっていることは明白である。
【0182】
アリール基が置換されている場合には、当該アリール基は、1つ以上の置換基を有していてよい。
【0183】
メチレン部分およびオキシ部分を表している式において、「−」は、隣接する部分との化学結合である。
【0184】
上述した有機ELデバイスは、基板、アノード、正孔注入層、発光層、正孔遮断層およびカソードから選択される1つ以上の要素を備えていてもよい(後述)。
【0185】
[基板]
基板は、有機発光ダイオードの製造において通常使用される任意の基板であってよい。光が基板を通して放射される場合、当該基板は、機械強度に優れ、温度安定性があり、透明で、表面が滑らかで、扱いが容易で、耐水性がある透明材料であってよい(例えば、ガラス基板または透明プラスチック基板)。光がトップ側の表面から放射される場合、基板は透明材料であってもよいし、不透明材料であってもよい(例えば、ガラス基板、プラスチック基板、金属基板またはシリコン基板)。
【0186】
[アノード]
アノードは、当該アノードの形成に使用する化合物を、堆積させるか、あるいはスパッタリングすることによって形成してもよい。アノードの形成に使用する化合物は、仕事関数の大きい化合物であってよい。これによって、正孔の注入が促進される。また、アノードの材料は、仕事関数の小さい物質から選択してもよい(例えばアルミニウム)。アノードは、透明電極であっても反射電極であってもよい。透明導電性物質(酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、二酸化スズ(SnO)および酸化亜鉛(ZnO)など)を用いて、アノード120を形成してもよい。アノード120は、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、アルミニウム−リチウム(Al−Li)、カルシウム(Ca)、マグネシウム−インジウム(Mg−In)、マグネシウム−銀(Mg−Ag)、銀(Ag)、金(Au)などを用いて形成してもよい。
【0187】
[正孔注入層]
真空蒸着、スピンコーティング、印刷、キャスティング、スロットダイコーティング、Langmuir-Blodgett(LB)堆積などによって、正孔注入層(HIL)130をアノード120上に形成してもよい。HIL130を真空蒸着によって形成する場合、蒸着条件は、HIL130の形成に用いる化合物、ならびにHIL130の所望の構造および熱特性によって異なりうる。しかし、一般的には、真空蒸着の条件としては、例えば、堆積温度:100℃〜500℃、圧力:10−8〜10−3Torr(1Torrは133.322Paに相当)、堆積速度:0.1〜10nm/秒でありうる。
【0188】
HIL130をスピンコーティング、印刷によって形成する場合、塗工条件は、HIL130の形成に用いる化合物、ならびにHIL130の所望の構造および熱特性によって異なりうる。塗工条件としては、例えば、塗工速度:約2000rpm〜約5000rpm、熱処理温度:約80℃〜約200℃でありうる。塗工後の熱処理によって、溶媒が除去される。
【0189】
HIL130は、HILの形成において通常使用される任意の化合物によって形成することができる。HIL130の形成に用いられうる化合物の例としては、以下が挙げられる:フタロシアニン化合物(銅フタロシアニン(CuPc)など)、4,4’,4''−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、TDATA、2T−NATA、ポリアニリン/ドデシルベンゼンスルホン酸(Pani/DBSA)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4−スチレンスルホナート)(PEDOT/PSS)、ポリアニリン/カンファースルホン酸(Pani/CSA)、およびポリアニリン/ポリ(4−スチレンスルホナート)(PANI/PSS)。
【0190】
HIL130は、純粋なp型ドーパントの層であってもよいし、p型ドーパントでドープされている正孔輸送マトリクス化合物から選択されてもよい。公知の酸化還元ドープされている正孔輸送材料の典型例としては、以下が挙げられる:テトラフルオロ−テトラシアノキノンジメタン(F4TCNQ;LUMO準位:約−5.2eV)でドープされている、銅フタロシアニン(CuPc;HOMO準位:約−5.2eV);F4TCNQでドープされている、亜鉛フタロシアニン(ZnPc;HOMO=−5.2eV);F4TCNQでドープされている、α−NPD(N,N’−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ビス(フェニル)−ベンジジン);2,2’−(ペルフルオロナフタレン−2,6−ジイリデン)ジマロノニトリル(PD1)でドープされている、α−NPD;2,2’,2''−(シクロプロパン−1,2,3−トリイリデン)トリス(2−(p−シアノテトラフルオロフェニル)アセトニトリル)(PD2)でドープされている、α−NPD。ドーパント濃度は、1重量%〜20重量%から選択でき、より好ましくは3重量%〜10重量%である。
【0191】
HIL130の厚さは、約1nm〜約100nmの範囲であってもよい(例えば、約1nm〜約25nmであってもよい)。HIL130の厚さが上記範囲にある場合、HIL130は、駆動電圧を実質的に増加させることなく、優れた正孔注入特性を発揮しうる。
【0192】
[正孔輸送層]
真空蒸着、スピンコーティング、スロットダイコーティング、印刷、キャスティング、Langmuir-Blodgett(LB)堆積などによって、正孔輸送層(HTL)140をHIL130の上に形成してもよい。HTL140を真空蒸着またはスピンコーティングによって形成する場合、蒸着条件および塗工条件は、HIL130を形成するための条件と類似していてもよい。しかし、真空蒸着または溶液堆積の条件は、HTL140の形成に用いる材料によって異なりうる。
【0193】
HTL140は、HTLの形成に通常使用される任意の化合物から形成されうる。好適に用いられる化合物は、例えば、[Yasuhiko Shirota and Hiroshi Kageyama, Chem. Rev. 2007, 107, 953-1010]に開示されている(参照により組み込まれる)。HTL140の形成に用いることのできる化合物の例としては、以下が挙げられる:カルバゾール誘導体(N−フェニルカルバゾールまたはポリビニルカルバゾールなど);芳香縮合環を有するアミン誘導体(N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(TPD)、またはN,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(α−NPD)など);および、トリフェニルアミン系化合物(4,4’,4''−トリス(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン(TCTA)など)。これらの化合物の中でもTCTAは、正孔を輸送することができ、さらに励起子のEML中への拡散を防止できる。
【0194】
HTL140の厚さは、約5nm〜約250nmの範囲であってよく、好ましくは約10nm〜約200nmであり、さらに好ましくは約20nm〜約190nmであり、さらに好ましくは約40nm〜約180nmであり、さらに好ましくは約60nm〜約170nmであり、さらに好ましくは約80nm〜約160nmであり、さらに好ましくは約100nm〜約160nmであり、さらに好ましくは約120nm〜約140nmである。HTL140の好適な厚さは、170nm〜200nmでありうる。
【0195】
HTL140の厚さが上記の範囲であるならば、当該HTL140は、駆動電圧を実質的に増加させることなく、優れた正孔輸送特性を発揮しうる。
【0196】
[発光層(EML)]
EML150は、真空蒸着、スピンコーティング、スロットダイコーティング、印刷、キャスティング、LBなどによって、HTLの上に形成されてもよい。EMLを真空蒸着またはスピンコーティングによって形成する場合、蒸着条件および塗工条件は、HILを形成するための条件と類似していてもよい。しかし、蒸着条件または塗工条件は、EMLの形成に用いる材料によって異なりうる。
【0197】
発光層(EML)は、ホストとドーパントとの組み合わせによって形成されていてもよい。ホストの例としては、以下が挙げられる:Alq3、4,4’−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)、ポリ(n−ビニルカルバゾール)(PVK)、9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン(ADN)、4,4’,4''−トリス(カルバゾール−9−イル)−トリフェニルアミン(TCTA)、1,3,5−トリス(N−フェニルベンゾイミダゾール−2−イル)ベンゼン(TPBI)、3−tert−ブチル−9,10−ジ−2−ナフチルアントラセン(TBADN)、ジスチリルアリーレン(DSA)、ビス(2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラート)亜鉛(Zn(BTZ)2)、下記E3、ADN、下記化合物1および下記化合物2。
【0198】
【化14】
【0199】
特に好ましいのは、下記式400で表されるアントラセンマトリクス化合物である。
【0200】
【化15】
【0201】
式400中、
Ar111およびAr112は、それぞれ独立に、置換または未置換のC〜C60アリーレン基であってもよく、
Ar113〜Ar116は、それぞれ独立に、置換もしくは未置換のC〜C10アルキル基または置換もしくは未置換のC〜C60アリール基であってもよく、
g、h、iおよびjは、それぞれ独立に、0〜4の整数であってもよい。
【0202】
いくつかの実施形態において、式400中のAr111およびAr112は、下記(a)または(b)のいずれかの群から、それぞれ独立に選択される1つであってもよい:
(a)フェニレン基、ナフチレン基、フェナントレニレン基またはピレニレン基;
(b)フェニレン基、ナフチレン基、フェナントレニレン基、フルオレニル基またはピレニレン基(いずれも、フェニル基、ナフチル基またはアントリル基の1つ以上によって置換されている)。
【0203】
式400中、g、h、iおよびjは、それぞれ独立に、整数0、1または2であってもよい。
【0204】
式400中、Ar113〜Ar116は、下記(a)〜(d)のいずれかの群から、それぞれ独立に選択される1つであってもよい:
(a)フェニル基、ナフチル基またはアントリル基の1つ以上で置換されている、C〜C10アルキル基;
(b)フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、フェナントレニル基またはフルオレニル基;
(c)フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、フェナントレニル基またはフルオレニル基(いずれも、重水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、アミジノ基、ヒドラジン基、ヒドラゾン基、カルボキシ基もしくはその塩、スルホン酸基もしくはその塩、リン酸基もしくはその塩、C〜C60アルキル基、C〜C60アルケニル基、C〜C60アルキニル基、C〜C60アルコキシ基、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、フェナントレニル基またはフルオレニル基の1つ以上で置換されている);
(d)下記化合物、または式(2)もしくは(3)の化合物。
【0205】
【化16】
【0206】
式(2)および(3)中、Xは、酸素原子および硫黄原子から選択される。しかし、本発明の実施形態はこれに制限されない。
【0207】
式(2)中、R11〜R14のいずれか1つは、Ar111との結合に用いられている。(i)R11〜R14のうちAr111との結合に用いられていないもの、および(ii)R15〜R20については、R〜Rと同様である。
【0208】
式(3)中、R21〜R24のいずれか1つは、Ar111との結合に用いられている。(i)R21〜R24のうちAr111との結合に用いられていないもの、および(ii)R25〜R30については、R〜Rと同様である。
【0209】
さらなる実施形態においては、アノードと、カソードと、発光層と、
第1マトリクス化合物を含んでいる、ドープされていない電子輸送層と、
(i)第2マトリクス化合物、ならびに(ii)有機アルカリ金属複合体および/またはアルカリ金属ハロゲン化物、を含んでいる電子注入層と、
を備えている有機ELデバイスであって、
上記ドープされていない電子輸送層および上記電子注入層は、上記発光層および上記カソードの間に配置されており、
上記第1マトリクス化合物の還元電位は、9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセンの還元電位よりも正であり、かつ、4,4’−ビス(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)ビフェニルの還元電位よりも負であり、
(ここで、上記還元電位は、いずれの場合も、テトラヒドロフラン中でFc/Fcに対して測定される)
上記第1マトリクス化合物の双極子モーメントは、0デバイ以上、2.5デバイ以下から選択され、
上記第2マトリクス化合物の双極子モーメントは、2.5デバイ超、10デバイ未満から選択され、
上記EMLホストの還元電位と上記第1マトリクス化合物の還元電位との間のオフセットは、0.05V以上、0.35V以下から選択され;好ましくは0.1V以上、0.3以下であり、
上記発光層は、上記ドープされていない電子輸送層に直接接触しており、
上記発光層は、EMLホストを含んでおり、
上記EMLホストは、上述の式400によって表されるアントラセンマトリクス化合物から選択される、有機ELデバイスが提供される。
【0210】
さらなる実施形態においては、アノードと、カソードと、発光層と、
第1マトリクス化合物を含んでいる、ドープされていない電子輸送層と、
(i)第2マトリクス化合物、ならびに(ii)有機アルカリ金属複合体および/またはアルカリ金属ハロゲン化物、を含んでいる電子注入層と、
を備えている有機ELデバイスであって、
上記ドープされていない電子輸送層および上記電子注入層は、上記発光層および上記カソードの間に配置されており、
上記第1マトリクス化合物の還元電位は、9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセンの還元電位よりも正であり、かつ、4,4’−ビス(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)ビフェニルの還元電位よりも負であり、
(ここで、上記還元電位は、いずれの場合も、テトラヒドロフラン中でFc/Fcに対して測定される)
上記第1マトリクス化合物の双極子モーメントは、0デバイ以上、2.5デバイ以下から選択され、
上記第2マトリクス化合物の双極子モーメントは、2.5デバイ超、10デバイ未満から選択され、
上記発光層は、上記ドープされていない電子輸送層に直接接触しており、
上記発光層は、EMLホストを含んでおり、
上記EMLホストの還元電位と上記第1マトリクス化合物の還元電位との間のオフセットは、0.05V以上、0.35V以下から選択され;好ましくは0.1V以上、0.3以下であり、
上記EMLホストの双極子モーメントは、0.2デバイ以上、1.45デバイ以下から選択され;好ましくは0.4デバイ以上、1.2デバイ以下であり;また好ましくは0.6デバイ以上、1.1デバイ以下である、有機ELデバイスが提供される。
【0211】
好ましくは、EMLホストは、N、OまたはSからなる群より選択される、1〜3個のヘテロ原子を有している。より好ましくは、EMLホストは、SまたはOから選択される1個のヘテロ原子を有している。
【0212】
EMLホストが上記の範囲から選択される場合、好適な双極子モーメントが得られ、非常に良い性能が得られる。
【0213】
双極子モーメントは、プログラム・パッケージTURBOMOLE V6.5で、B3LYP混成関数を6-31G* basisで実行することによって、最適化を用いて計算する。1つ以上の配座が実行可能である場合は、総エネルギーが最も低い配座を選択して、分子の双極子モーメントを決定する。この方法を用いると、2−(10−フェニル−9−アントラセニル)−ベンゾ[b]ナフト[2,3−d]フラン(CAS 1627916-48-6)の双極子モーメントは0.88デバイであり;2−(6−(10−フェニルアントラセン−9−イル)ナフタレン−2−イル)ジベンゾ[b,d]チオフェン(CAS 1838604-62-8)は0.89デバイであり;2−(6−(10−フェニルアントラセン−9−イル)ナフタレン−2−イル)ジベンゾ[b,d]フラン(CAS 1842354-89-5)は0.69デバイであり;2−(7−(フェナントレン−9−イル)テトラフェン−12−イル)ジベンゾ[b,d]フラン(CAS 1965338-95-7)は0.64デバイであり;4−(4−(7−(ナフタレン−1−イル)テトラフェン−12−イル)フェニル)ジベンゾ[b,d]フラン(CAS 1965338-96-8)は1.01デバイである。
【0214】
ドーパントは、燐光性発光体であっても蛍光性発光体であってもよい。効率がより高いので、燐光性発光体の方が好ましい。
【0215】
赤色ドーパントの例としては、PtOEP、Ir(piq)およびBtplr(acac)が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。これらの化合物は燐光性発光体であるが、蛍光性赤色ドーパントを用いることもできる。
【0216】
【化17】
【0217】
燐光性緑色ドーパントの例としては、Ir(ppy)、Ir(ppy)(acac)、Ir(mpyp)が挙げられる(下記参照。ppyはフェニルピリジン)。蛍光性緑色発光体の例としては、化合物3がある(構造は下記参照)。
【0218】
【化18】
【0219】
燐光性青色ドーパントの例としては、FIrpic、(Fppy)Ir(tmd)およびIr(dfppz)、ter−フルオレンが挙げられる(構造は下記参照)。蛍光性青色ドーパントの例としては、4,4’−ビス(4−ジフェニルアミノスチリル)ビフェニル(DPAVBi)、2,5,8,11−テトラ−tert−ブチルペリレン(TBPe)および下記化合物4がある。
【0220】
【化19】
【0221】
ドーパントの量は、ホストを100重量部として、約0.01〜50重量部の範囲であってもよい。EMLの厚さは、約10nm〜約100nmであってもよい(例えば、約20nm〜約60nm)。EMLの厚さが上記の範囲内ならば、当該EMLは、駆動電圧を実質的に上昇させることなく、発光に優れうる。
【0222】
発光層は、蛍光または燐光を放射する発光性高分子によって形成されていてもよい。発光性高分子は、アレーン基を含む共役骨格を有していてもよいし、非共役骨格を有していてもよい。好ましくは、共役骨格は、フルオレン基、フェナントレン基および/またはトリアリールアミン基を有している。発光性高分子が三重項状態から発光する場合、当該高分子は、骨格中に燐光性金属複合体を有していてもよいし、骨格に結合している燐光性金属複合体を有していてもよい。
【0223】
[正孔遮断層(HBL)]
EMLが燐光性ドーパントを含んでいる場合、真空蒸着、スピンコーティング、スロットダイコーティング、印刷、キャスティング、LB堆積などによって、正孔遮断層(HBL)をEMLの上に形成してもよい。この層によって、三重項励起子または正孔がETL内へと拡散することが防止できる。
【0224】
HBLを真空蒸着またはスピンコーティングによって形成する場合、蒸着条件および塗工条件は、HILを形成するための条件と類似していてもよい。しかし、真空蒸着または溶液堆積の条件は、HBLの形成に用いる材料によって異なりうる。HBLの形成に通常使用される、任意の化合物を用いてよい。HBLの形成に用いられる化合物の例としては、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体およびフェナントロリン誘導体が挙げられる。
【0225】
HBLの厚さは、約5nm〜約100nmである(例えば、約10nm〜約30nm)。HBLの厚さが上記の範囲であるならば、当該HBLは、駆動電圧を実質的に増加させることなく、優れた正孔遮断特性を発揮しうる。
【0226】
[カソード]
カソードは、EILの上に形成される。カソードは、電子注入電極であるカソードであってもよい。カソードは、金属、合金、導電性化合物、またはこれらの混合物から形成されていてもよい。カソードの仕事関数は、小さくてもよい。例えば、カソードは、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、アルミニウム(Al)−リチウム(Li)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、イッテルビウム(Yb)、マグネシウム(Mg)−インジウム(In)、マグネシウム(Mg)−銀(Ag)などから形成されていてもよい。また、カソードは、透明導電性材料(ITOまたはIZOなど)から形成されていてもよい。
【0227】
カソードの厚さは、5nm〜1000nmの範囲であってもよい(例えば、10nm〜100nm)。カソードが5nm〜50nmの範囲にあるならば、金属または合金を用いていたとしても、電極は透明である。
【0228】
カソードは、電子注入層または電子輸送層とは異なる。
【0229】
複数のETL層のエネルギー準位は類似または同一であるので、電子の注入および輸送は制御されていてもよく、正孔は効果的に遮断されていてもよい。このようにすれば、OLEDは長寿命を得ることができる。
【0230】
[有機ELデバイス]
本発明の他の態様によると、基板、上記基板の上に形成されているアノード、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、ドープされていない電子輸送層、電子注入層を備えている有機ELデバイスが提供される。
【0231】
本発明の他の態様によると、基板、上記基板の上に形成されているアノード、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔遮断層、ドープされていない電子輸送層、電子注入層を備えている有機ELデバイスが提供される。
【0232】
本発明の他の態様によると、下記(a)〜(c)の少なくとも1つを用いる、有機ELデバイスの製造方法が提供される。
(a)1つ以上の堆積源、好ましくは2つの堆積源、より好ましくは3つ以上の堆積源;
(b)真空熱蒸着による堆積
(c)溶液処理(好ましくは塗工、印刷、キャスティングおよび/またはスロットダイコーティングから選択される)による堆積。
【0233】
驚くべきことに、本発明の有機ELデバイスは、特に出力効率の点において公知の有機ELデバイスよりも優れており、これによって本発明に潜在する問題を解決することが判明した。本発明者らが見出したところによると、驚くべきことに、本発明の有機ELデバイスを青色蛍光デバイスとして使用する場合に、特によい性能が得られる。本明細書において「好ましい」と言及した具体的な構成は、特に有利な効果を奏することが判明した。
【0234】
下記の例示的実施形態の記載および添付の図面によれば、本発明の上述の態様および/または他の態様、ならびに本発明の利点が明白となり、また容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0235】
図1図1は、(a)EMLホストおよび第1マトリクス化合物の間の還元電位のオフセット(単位:V、第1のx軸)、および、(b)テトラヒドロフラン中でFc/Fcに対して測定した第1マトリクス化合物の還元電位(単位:V、第2のx軸)に対して、出力効率(lm/W)をプロットしたグラフである。
図2図2は、本発明の例示的実施形態に係る有機ELデバイスの、模式断面図である。
図3図3は、本発明の他の例示的実施形態に係る有機ELデバイスの、模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0236】
これから、本発明の例示的実施形態(添付の図面に図示されている実施例)ついて詳細に言及する。同図面中、類似した参照番号は類似した要素を表している。本発明の態様を説明するために、図を参照しながら、以下に例示的実施形態を記載する。
【0237】
ここで、「第1の要素は第2の要素の『上に』形成または堆積されている」と表現されている場合、第1の要素が第2の要素の上に直接堆積されていてもよいし、その間に1つ以上の他の要素が堆積されていてもよい。「第1の要素は第2の要素の『上に直接』形成または堆積されている」と表現されている場合、その間に他の要素が堆積されていることはない。
【0238】
図1は、(a)EMLホストの還元電位と第1マトリクス化合物の還元電位との間のオフセット(単位:V、第1のx軸)、および、(b)テトラヒドロフラン中でFc/Fcに対して測定した第1マトリクス化合物の還元電位(単位:V、第2のx軸)に対して、出力効率(lm/W)をプロットしたグラフである。EMLホストおよび第1マトリクス化合物の還元電位のオフセットが小さいと、出力効率が低下することが明白に判る。また、EMLホストおよび第1マトリクス化合物の還元電位の間のオフセットが非常に大きくても、出力効率は低下する。さらに、第1マトリクス化合物が極性化合物であっても、性能は低下する。驚くべきことに、(i)EMLホストおよび第1マトリクス化合物の間の還元電位のオフセットが小さく、かつ(ii)第1マトリクス化合物が極性化合物である場合に、出力効率が顕著に増加することが判明した。
【0239】
図2は、本発明の例示的実施形態に係る有機ELデバイス(OLED)100の、模式断面図である。OLED100は、基板110、第1電極120、正孔注入層(HIL)130、正孔輸送層(HTL)140、発光層(EML)150、ドープされていない電子輸送層(ETL)161を備えている。ドープされていない電子輸送層(ETL)161は、EML150の上に直接形成されている。電子注入層(EIL)180は、ETLの上に直接形成されている。カソード190は、電子注入層180の上に堆積されている。
【0240】
図3は、本発明の他の例示的実施形態に係るOLED100の、模式断面図である。図3のOLED100は正孔遮断層(HBL)155を備えている点において、図3図2と異なっている。
【0241】
本明細書で上述した本発明のOLEDの製造方法は、基板110の上にアノード120を形成することから始まり、アノード120の上に、正孔注入層130、正孔輸送層140、発光層150、任意構成の正孔遮断層155、1つ以上の電子輸送層161、1つ以上の電子注入層180、およびカソード190を、この順に形成する(あるいは、逆順に形成する)。
【0242】
図2および図3に図示されてはいないが、OLED100を封止するために、カソード190の上に封止層をさらに形成してもよい。さらに、種々の他の変更を適用してもよい。
【0243】
この先、本発明の1つ以上の例示的実施形態を、以下の実施例を参照しながら詳細に記載する。しかし、これらの実施例は、本発明の1つ以上の例示的実施形態の目的および範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0244】
第1マトリクス化合物の例示的実施例の、種々の双極子モーメントおよび還元電位を測定した。その結果を下記表4にまとめる。
【0245】
【表4】
【0246】
第2マトリクス化合物の例示的実施例の、種々の双極子モーメントを算出した。その結果を下記表5にまとめる。
【0247】
【表5】
【0248】
〔合成手法〕
化合物ETM−3([1,1’:4’,1''−テルフェニル]−3−イルビス(2−メチルナフタレン−1−イル)ボラン)の合成
【0249】
【化20】
【0250】
1.テトラキス(3−ブロモフェニル)スタンナン (段階1)
Sn(m−CBr):1,3−ジブロモベンゼン(5.89g、24.97mmol)を、60mLのエーテルに溶解させ、−50℃に冷却した。次に、nBuLiのヘキサン溶液(1.6M)を16.2mL(26.00mmol)滴下した。120分間攪拌した後、反応混合物を−78℃に冷却した。そして、0.73mL(6.25mmol)のSnClを滴下した。混合物を室温にて12時間攪拌した後、20mLのHCl(1M)を加えた。そして、生成物をエーテルで抽出した(3×70mL)。有機層をHOで洗浄し、MgSOで乾燥させた。減圧下で溶媒を除去した後、得られた油分に30mLの冷却したMeOHを加え、0〜5℃にて混合物を攪拌した。沈殿物を濾別して、冷却したMeOHで洗浄した(1×3mL)。減圧下で乾燥させた後、無色結晶の粉末であるSn(m−CBr)を得た(3.70g、5.00mmol、収率:80%)。
M.p.119-120℃
IR (ATR): ν = 1553, 1456, 1382, 1188, 1081, 996, 771, 715, 681, 643 cm-1
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 7.64-7.62 (m, 4H), 7.61-7.56 (m, 4H), 7.44 (d, 3J(H-H) = 7.3 Hz, 4H), 7.32 (t, 3J(H-H) = 7.6 Hz, 4H) ppm
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ = 139.1 (2J(119Sn-C) = 41.8 Hz, CH), 138.8 (1J(119Sn-C) = 528.2 Hz, Sn-C), 135.2 (2J(119Sn-C) = 35.2 Hz, CH), 133.0 (4J(119Sn-C) = 11.0 Hz, CH), 130.7 (3J(119Sn-C) = 55.0 Hz, CH), 124.2 (Br-C) ppm
MS: [M]+ (0.1%) 739.7, [M-Br]+ (0.1%) 660.8, [M-C6H4Br]+ (20%) 584.8, [M-2C6H4Br]+(7%) 429.8, [M-3C6H4Br]+(27%) 274.9, PhSn (100) 196.9。
【0251】
2.(3−ブロモフェニル)ジクロロボラン (段階2)
BClのヘキサン溶液50mL(1M、50.00mmol)に、−78℃にて、7.43g(10.00mmol)のSn(m−CBr)を加えた。得られた混合物を、−78℃にて1時間攪拌し、さらに室温にて2日間攪拌した。ダイアフラムポンプで揮発成分(ヘキサン、SnClおよび過剰量のBCl)を除去した(70〜75℃の油浴、40mbar)。その後、残渣を減圧下で蒸留して(105〜110℃の油浴/0.2mbar)、7.06g(29.70mmol、75%)の(3−ブロモフェニル)ジクロロボランを得た。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 7.37 (t, J = 7.8 Hz, 1H), 7.77 (ddd, J = 7.8, 2.1, 1.1 Hz, 1H), 8.06 (ddd, J = 7.8, 2.1, 1.1 Hz, 1H), 8.24 (dd, J = 2.1, 1.1 Hz, 1H) ppm
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ = 139.3 (CH), 137.8 (CH), 137.6 (B-C), 135.2 (CH), 129.9 (CH), 122.9 (Br-C) ppm. 11B NMR (192 MHz, CDCl3) δ = 54.9 ppm。
【0252】
3.(3−ブロモフェニル)ビス(2−メチルナフタレン−1−イル)ボラン (段階3)
1-ブロモ-2-メチルナフタレン(90%、純化合物:3.60g、16.00mmol)4.00gをジエチルエーテル(80mL)に溶解させた溶液に、1.6MのnBuLiを11mL(17.6mmol)、−78℃にて15分間かけて滴下した。−78℃にて1時間攪拌し、さらに0℃にて2時間攪拌した後、得られた混合物を−78℃に冷却した。そしてこの混合物に、2.02g(8.50mmol)の(3−ブロモフェニル)ジクロロボランを、激しく攪拌しながら5分間かけて加えた。−78℃にて1時間攪拌した後、冷浴から取り出し、反応混合物を室温にて一晩さらに攪拌した。次に、反応混合物を5℃まで冷却し、5滴の濃塩酸でクエンチした。減圧下でエーテルを除去し、残留物を水(100mL)と混合し、CHClで抽出した(3×70mL)。そして、有機層を水で洗浄し、塩化カルシウムで乾燥させた。段階3のボランを、石油エーテルを溶離液とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、明黄色の固体を得た(1.65g、3.67mmol、45%)。
M.p. 157-158℃
IR (ATR): ν= 1592, 1505, 1421, 1389, 1225, 1192, 808, 743, 604, 510, 503 cm-1
1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ = 7.86-7.79 (m, 4H), 7.61-7.53 (m, 4H), 7.37-7.28 (m, 5H), 7.18-7.11 (m, 3H), 2.24 (s, 6H, Me) ppm
13C NMR (150 MHz, CDCl3): δ =148.4 (br s, B-CPhenyl), 141.9 (br s, 2C, B-CNaphthyl), 139.6 (2Cq), 139.2 (CH), 135.9 (2Cq), 135.6 (CH), 135.3 (CH), 131.8 (Cq), 131.7 (Cq), 130.1 (CH), 130.0 (CH), 129.9 (CH), 129.5 (CH), 129.4 (CH), 129.1 (CH), 129.0 (CH), 128.5 (CH), 128.4 (CH), 125.5 (2CH), 124.5 (2CH), 122.9 (C-Br), 23.8 (Me), 23.6 (Me) ppm
11B NMR (192 MHz, CDCl3) δ = 74.3 ppm
MS: [M]+ (12%) 448; [M - (1-メチルナフタレン)]+ (17%) 306; [M - (1-メチルナフタレン) - Br]+ (12%) 227; [1-メチルナフタレン)]+(28%) 142。
【0253】
4.[1,1’:4’,1''−テルフェニル]−3−イルビス(2−メチルナフタレン−1−イル)ボラン (化合物ETM−3)
段階3のボラン、(90mg、0.20mmol)、Pd(PPh(12mg、5mol%、0.01mmol)、1,1’−[ビフェニル]−4−イルホウ酸(48mg、0.24mmol)、NaCO(64mg、0.60mmol)、および1mLの水を加えたトルエン(15mL)の混合物を、15分間Nバブリングして脱気した。次に、反応混合物を105〜110℃に加熱して、反応完了までTLCでモニタリングした(通常は8〜12時間)。溶媒を除去した後、残留物を10mLの水で稀釈し、3滴の濃塩酸で酸性条件にし、CHClで抽出した(3×20mL)。そして、有機層を水で洗浄し、塩化カルシウムで乾燥させた。化合物ETM−3を、石油エーテルを溶離液とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、白色の固体を得た(51mg、0.098mmol、49%)。
M.p. 180-181℃
Tg 87℃
IR (ATR): ν= 1591, 1506, 1420, 1384, 1224, 1189, 811, 740, 606, 512, 505 cm-1
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ =7.85 (d, J = 8.3 Hz, 4H), 7.79-7.65 (m, 5H), 7.60-7.53 (m, 4H), 7.49-7.39 (m, 5H), 7.38-7.31 (m, 5H), 7.18 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 7.14 (d, J = 7.5 Hz, 1H), 2.31 (s, 3H, Me), 2.30 (s, 3H, Me) ppm
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ =146.2 (br s, B-Cフェニル), 142.5 (br s, 2C, B-Cナフチル), 140.6 (Cq), 140.1 (Cq), 140.0 (Cq), 139.9 (Cq), 139.5 (2Cq), 136.6 (CH), 136.2 (Cq), 136.1 (Cq), 136.0 (CH), 131.8 (Cq), 131.7 (Cq), 131.3 (CH), 129.9 (CH), 129.8 (2CH), 129.7 (CH), 129.2 (2CH), 128.8 (2CH), 128.6 (CH), 128.5 (CH), 128.4 (CH), 127.5 (2CH), 127.4 (2CH), 127.3 (CH), 127.0 (2CH), 125.3 (2CH), 124.4 (2CH), 23.9 (Me), 23.7 (Me) ppm
MS: [M]+ (35%) 522; [M - (1-メチルナフタレン)]+ (98%) 380; [M - (1-メチルナフタレン) - Ph + 2H]+ (100%) 306; [1-メチルナフタレン)]+(72%) 142。
【0254】
化合物ETM−7(ビス(2−メチルナフタレン−1−イル)(3−(フェナントレン−9−イル)フェニル)ボラン)の合成
【0255】
【化21】
【0256】
(3−ブロモフェニル)ビス(2−メチルナフタレン−1−イル)ボラン(段階3、2.00g、4.45mmol)、Pd(PPh(0.26mg、5mol%、0.22mmol)、フェナントレン−9−イルホウ酸(1.19g、5.36mmol)、NaCO(1.40g、13.21mmol)、および22mLの水を加えたトルエン(306mL)の混合物を、1時間Nバブリングして脱気した。次に、反応混合物を110℃に加熱して、反応完了までTLCでモニタリングした(29時間)。室温まで冷却した後、2層を分離させ、有機層を水で洗浄した(4×200mL)。さらに、有機層をNaDTCと共に2回攪拌して(2×15分間)、パラジウム残留物を除去した。水でもう1回洗浄した後、有機層を塩化カルシウムで乾燥させた。ヘキサン/酢酸エチル(98:2)を溶離液とするカラムクロマトグラフィーによって粗生成物を精製し、白色固体を得た(950mg、1.74mmol、40%)。
HPLC-MS 97 %, GC-MS 99.6 % (m/z 546), Tg 102℃ (DSC 10 K/minで測定), 融点測定されず
1H NMR (500 MHz, CD2Cl2) δ = 8.78 (d, 1H), 8.68 (d, 1H), 7.93-7.82 (m, 6H), 7.82-7.76 (d, 1H), 7.76-7.70 (m, 1H), 7.68 (s, 1H), 7.66-7.55 (m, 6H), 7.55-7.48 (m, 1H), 7.48-7.39 (m, 2H), 7.39-7.33 (m, 2H), 7.33-7.22 (m, 3H), 2.38 (s,3H, Me), 2.35 (s, 3H, Me) ppm
13C NMR (125 MHz, CD2Cl2): δ = 146.5 (br, s B-Cフェニル), 143.1 (br, s, B-Cナフチル), 141.0, 140.2 (d, J = 7.3Hz), 139.6, 139.0, 136.8 (d, J = 11.4Hz), 134.9, 132.6 (d, J = 3.8Hz), 132.0, 131.3, 131.0, 130.6, 130.4, 129.7, 129.1, 129.0, 128.1, 127.4, 127.2 (d, J = 8.0Hz), 127.0, 126.9, 125.9 (d, J = 6.2Hz), 125.1 (d, J = 1.7Hz), 123.4, 123.0, 24.2 (CH3), 23.9 (CH3) ppm。
【0257】
本明細書で言及した他の化合物は、既報に従って調製した。それぞれの化合物を調製するにあたって、各化合物を調製するための具体的な反応条件に、当業者の一般常識に基づいて若干の変更を加えうることを理解されたい。
【0258】
〔OLED作製の一般的手法〕
ボトム・エミッション型デバイスに関して(実施例1〜5、比較例1〜4)は、100nmのITOを備えている15Ω/cmのガラス基板(Corning Co.より入手)を、50mm×50mm×0.7mmに切断した。イソプロピルアルコールで5分間、次いで純水で5分間超音波洗浄し、UVオゾンで30分間さらに洗浄した。このようにして、第1電極を作製した。
【0259】
次に、(i)8重量%だけドープされている92重量%の正孔輸送マトリクス、および(ii)8重量%の2,2’,2''−(シクロプロパン−1,2,3−トリイリデン)トリス(2−(p−シアノテトラフルオロフェニル)アセトニトリル)を、ITO電極の上に真空蒸着させて、厚さ10nmのHILを形成させた。次に、正孔輸送マトリクスをHILの上に真空蒸着させて、厚さ120nmのHTLを形成させた。実施例1〜3および比較例1〜4では、ビフェニル−4−イル(9,9−ジフェニル−9H−フルオレン−2−イル)−[4−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)フェニル]−アミン(CAS 1242056-42-3)を正孔輸送マトリクスに用いた。実施例4、5では、N4,N4''−ジ(ナフタレン−1−イル)−N4,N4''−ジフェニル−[1,1’:4’,1''−テルフェニル]−4,4''−ジアミン(CAS 139255-16-6)を正孔輸送マトリクスに用いた。
【0260】
次に、EMLホストである97重量%のABH113(Sun Fine Chemicals)および3重量%の青色ドーパントを、HTLの上に堆積させて、厚さ20nmの青色発光EMLを形成させた。実施例1〜3および比較例1〜4では、NUBD370(Sun Fine Chemicals)を青色ドーパントとして用いた。実施例4、5では、NUBD005(Sun Fine Chemicals)を青色ドーパントとして用いた。
【0261】
次に、実施例1〜5および比較例1〜4に係るマトリクス化合物(表6を参照)を堆積させることによって、ドープされていない電子輸送層(ETL)を形成させた。次に、電子注入層(EIL)を形成させた。具体的には、(i)比較例1では、30重量%のLiQでドープされている、2−(4−(9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン−2−イル)フェニル)−1−フェニル−1H−ベンゾ[d]イミダゾール(CAS 561064-11-7)を、(ii)実施例1〜5および比較例2〜4では、30重量%のリチウムテトラ(1H−ピラゾール−1−イル)ボラート(Li−1)でドープされている、3−フェニル−3H−ベンゾ[b]ジナフト[2,1−d:1’,2’−f]ホスフェピン−3−オキシド(EIM−11)を、それぞれ堆積させて、表6に記載の層を形成させた。カソードは、10−7mbarの超高真空で蒸着させた。すなわち、1または複数種類の金属を、速度0.1〜10nm/s(0.01〜1Å/s)での熱共蒸着を1回行って、厚さ5〜1000nmの均一なカソードを形成させた。100nmのアルミニウムによってカソードを形成した。
【0262】
デバイスをガラススライドに封入することによって、OLED積層体を環境条件から保護した。これに関しては、窪みを設けて、さらなる保護のためにゲッター材料も中に入れた。
【0263】
従来技術と比較した本発明の実施例の性能を評価するために、環境条件下(20℃)にて電流効率を測定した。電流電圧の測定にはKeithley 2400ソースメータを用い、単位:Vで記録した。ボトム・エミッション型では10mA/cm、トップ・エミッション型では15mA/cmにて測定した。較正済の分光光度計CAS140(Instrument Systems製)を用いて、CIE座標および光度(カンデラ)を測定した。デバイスの寿命(LT)は、環境条件(20℃)、15mA/cmにて、Keithley 2400ソースメータを用いて測定し、単位:時間で記録した。デバイスの光度は、較正済のフォトダイオードを用いて測定した。寿命(LT)は、「デバイスの光度が初期値の97%に減少するまでの時間」と定義した。
【0264】
外部効率(EQE)および出力効率(lm/W効率)にて光出力を測定した。測定は、ボトム・エミッション型デバイスでは10mA/cmで、トップ・エミッション型デバイスでは15mA/cmで、行った。
【0265】
効率(EQE、単位:%)を決定するために、較正済のフォトダイオードを用いてデバイスの光出力を測定した。
【0266】
出力効率(単位:lm/W)は、以下の工程により決定した:
(第1工程)Deutsche Akkreditierungsstelle(DAkkS)による較正を受けたアレイ分光光度計CAS140 CT(Instrument Systems製)を用いて、輝度(単位:平方メートル当たりカンデラ(cd/m))を測定した。
(第2工程)測定した輝度にπを乗じ、電圧および電流密度で除した。
【0267】
ボトム・エミッション型デバイスにおいては、発光は主としてLambertianであり、外部量子効率(EQE、単位:%)および出力効率(単位:lm/W)で定量化する。
【0268】
トップ・エミッション型デバイスにおいては、発光は前方方向に放射され、非Lambertianであり、微小な空洞からも大きく影響を受ける。そのため、外部量子効率(EQE)および出力効率(単位:lm/W)は、ボトム・エミッション型デバイスと比較して高くなる。
【0269】
〔本発明の技術的効果〕
(ボトム・エミッション型デバイス)
ボトム・エミッション型デバイスの性能における本発明の有利な効果は、表6から見て取れる。
【0270】
【表6】
【0271】
表6の比較例1では、アントラセン化合物であるADN(9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン、CAS 122648-99-1)を第1マトリクス化合物として試験している。
【0272】
【化22】
【0273】
テトラヒドロフラン中でのFc/Fcに対する還元電位は−2.44Vであり、双極子モーメントは0.01デバイである。第1マトリクス化合物の還元電位およびLUMO準位は、EMLホストのものと同じである。EILは、ベンゾイミダゾール化合物EIM−1および有機リチウム複合体LiQを含んでいる。出力効率は3.2lm/Wであった(表6)。
【0274】
比較例2では、第1マトリクス化合物であるADNを、ホスフィンオキシド化合物EIM−11および有機リチウム複合体Li−1を含んでいるEILと共に試験した。出力効率は4.1lm/Wに向上した。
【0275】
比較例3では、第1マトリクス化合物として、式(A)のトリアジン化合物4,4’−ビス(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)ビフェニル(CAS 266349-83-1)を試験した。
【0276】
【化23】
【0277】
テトラヒドロフラン中でのFc/Fcに対する還元電位は−2.03Vであり、双極子モーメントは0.03デバイであった。EILの組成は、比較例2と同じになるように選択した。出力効率は2lm/Wに低下した。EMLホストの還元電位およびLUMOを、ETLマトリクスの還元電位およびLUMOと比較したときのオフセットが非常に大きいと、出力効率に不利な影響が及ぼされることは明らかである。
【0278】
比較例4では、ETLマトリクスとして、ホスフィンオキシド化合物EIM−9を試験した。この化合物の、テトラヒドロフラン中でのFc/Fcに対する還元電位は−2.2Vであり、双極子モーメントは4デバイであった。したがってこの化合物は、本発明の意味における「極性化合物」である。EILの組成は、比較例2と同じになるように選択した。比較例2と比較すると、出力効率は比較例2の4.1Vから2.4Vに低下した(表6)。EMLマトリクスおよびETLマトリクス間の還元電位のオフセットが望ましい範囲であったとしても、ETLマトリクス化合物の双極子モーメントが高いと、出力効率は低下する。
【0279】
実施例1(表6)では、トリアリールボラン化合物ETM−3を、比較例2と同じEIL組成物と共に試験した。ETM−3の、テトラヒドロフラン中でのFc/Fcに対する還元電位は−2.33Vであり、双極子モーメントは2.5デバイ未満であった。出力効率は、4.1lm/Wから4.85lm/Wへと向上した。
【0280】
実施例2では、実施例1よりもLUMOが深いトリアリールボラン化合物を試験した。ETM−1の、テトラヒドロフラン中でのFc/Fcに対する還元電位は−2.31Vであり、双極子モーメントは0.14デバイであった。出力効率は、4.85lm/Wから6.1lm/Wへとさらに向上した。
【0281】
実施例3では、トリアジン化合物ETM−28を、比較例2と同じEIL組成物と共に試験した。テトラヒドロフラン中でのFc/Fcに対する還元電位は−2.17Vであり、双極子モーメントは1.76デバイであった。出力効率は、比較例2の4.1lm/Wから実施例3の5.3lm/Wへと向上した。
【0282】
実施例5では、ジベンゾ[c,h]アクリジン化合物ETM−15を、比較例2と同じEIL組成物と共に試験した。テトラヒドロフラン中でのFc/Fcに対する還元電位は−2.26Vであり、双極子モーメントは1.5〜2デバイであった。出力効率は、比較例2の4.1lm/Wから実施例5の5.7lm/Wへと向上した。
【0283】
実施例6では、トリス(2−(ベンゾ[d]チアゾール−2−イル)フェノキシ)アルミニウム金属複合体ETM−34を、比較例2と同じEIL組成物と共に試験した。テトラヒドロフラン中でのFc/Fcに対する還元電位は−2.21Vであり、双極子モーメントは2.5デバイ以下であった。出力効率は、比較例2の4.1lm/Wから実施例6の4.9lm/Wへと向上した。
【0284】
要約すると、(i)9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン(CAS 122648-99-1)の還元電位よりも正であり、4,4’−ビス(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)ビフェニル(CAS 266349-83-1)の還元電位よりも負であるような還元電位を有しており、(ii)双極子モーメントが0デバイ以上、2.5デバイ以下であるような、広範な第1マトリクス化合物類に関して、出力効率(lm/W効率)の著しい向上が達成された。
【0285】
他の態様は、2つ以上の発光層150を備えている有機発光ダイオード(OLED)に向けられている。例えば、2つ、3つまたは4つの発光層が存在していてもよい。2つ以上の発光層を備えている有機発光ダイオード(OLED)を、「タンデムOLED」または「積層OLED」とも表記する。
【0286】
他の態様は、1つ以上の有機発光ダイオード(OLED)を備えているデバイスに向けられている。有機発光ダイオード(OLED)を備えているデバイスとしては、例えば、ディスプレイまたはライティング・パネルが挙げられる。
【0287】
上記の明細書、特許請求の範囲および添付の図面に開示されている特徴点は、単独または任意の組み合わせのいずれであっても、本発明を種々の形態で実現する上で本質的でありうる。
図1
図2
図3